説明

有機溶剤系顔料分散インク組成物

【課題】新規で分散安定性の優れた有機溶剤系顔料分散インク組成物、とくに低臭性でインクジェット印刷用インクに適した液状インク組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明は、イソパラフィンを分散媒体とし、これに分散剤として従来公知で該媒体に溶解性の高分子分散剤を用い、カーボンや有機顔料の微細粒子である着色剤を該媒体中に分散させたインク組成物を製造するにあたり、分散とその安定性を改善するために分散助剤として(a)N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートと(b)N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−F)、またはN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−PS)である(a)と(b)の両者を併用することを特徴とする、インクジェット印刷用インクに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機溶剤系顔料分散インク組成物、とくにインクジェット印刷用インクに適した液状インク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤系のインク、とくにインクジェット印刷用インク(以下ジェットインクと略称する)に適したインクとして、すでに特開昭49−50935号公報において有機溶剤を媒体とし、粘度が10cps以下で比抵抗が1×10〜1×1011である組成が公知になっている。そこでは有機溶剤としてトルエン、メチルエチルケトン、エチルアルコールの使用や、着色剤として油溶性染料の使用が例示されているが、前記のインク粘度と比抵抗の規定があるのみで、媒体の有機溶剤や着色剤に関する特定の規定はない。また難溶性着色剤、例えば、顔料の安定な均一分散に関する有益な記述は見あたらない。
【0003】
特開昭54−121808号公報では脂肪族ケトンおよびグリコールからなる有機溶媒を媒体とし、着色剤として該溶媒に可溶性の染料、記録対象材料へのインクの密着性を確保するための溶媒可溶性皮膜形成性樹脂を主成分とするジェットインクが開示されている。そこでは印刷時のインクの飛翔制御のためにチオシアン酸塩の添加が必須要件とされていて、媒体の有機溶媒が極性溶媒であることが前提になっている。溶媒可溶性皮膜形成性樹脂としてエポキシ樹脂、ケトン樹脂、アクリレート樹脂、ポリ塩化ビニール、ポリビニールアルコール、ロジン等が例示されているが、これらも該媒体に可溶性であるとの前提が規定になっている。溶剤不溶の顔料使用の場合に関する、まして顔料の安定な均一分散に関する有益な記述は見あたらない。
【0004】
特開昭56−147863号公報では水と水溶性有機溶剤の均一混合液である水系媒体に、親水性構造部分と疎水性構造部分を有する重合体を分散剤として、顔料を分散してなるインクを用い、インクジェット記録を行う方法が開示されている。そこでは媒体として水を必須成分とし、水とエチレングリコールおよびジメチルアミノエタノールからなるなる水系媒体等を例示している。分散剤重合体では、スチレン・アクリロニトリル・メタクリル酸・ヒドロキシエチルメタクリレートからの共重合体や素散れとと無水マレイン酸の共重合体等を例示している。着色剤はカーボンブラックやその他各種顔料を挙げていて、特定の顔料に限定することはない。なお、上記ジメチルアミノエタノールは分散剤重合体を水系媒体に溶解させるために用いた塩基性物質であり、分散剤重合体の種類によっては不要となる。特開昭56−147863号公報は水系媒体における分散剤の有用な知見を与えているが、非水系媒体での顔料の安定で均一な分散に関する有益な知見は見あたらない。
【0005】
特開昭56−155260号公報では、顔料と高分子分散剤を含有する水系記録液における顔料の分散とその安定性を確保するために、記録液にさらに顔料と同色の特定水溶性染料を含有させることが開示されている。しかし、顔料の水系媒体への分散に関することと、顔料と同色の水溶性染料の組合せ使用に限られたものであって、有機溶剤系での顔料の安定分散に広く役立つ知見とは言い難い。
【0006】
近年、印刷物の耐候性・耐光性等の耐久性から顔料を着色剤とするジェットインクへの要望は一段と増してきている。しかし、従来技術としては水系媒体を用いる例が圧倒的に多い。水系以外すなわち有機溶剤系では極性溶剤を用いる例が多く、炭化水素系などは前記特開昭49−50935号公報にみられるようにジェットインクの可能性は示唆されているものの、微細顔料の安定な分散の難しさから具体的な提案は見あたらない。本発明者らは従来公知の分散剤で炭化水素系溶剤に溶解性の物質を用い、従来公知の湿式分散技術で分散液調製を試みた。調製直後には一時的に顔料の微細分散が可能であったが、時間の経過とともに顔料が凝集・沈殿してしまい、インク組成物のとして必須の分散安定性が確保出来ないことが判明した。本発明者らの考察によると、分岐脂肪族飽和炭化水素を分散媒体にすると、インクの低粘度・揮発性から高速の印刷が可能になると期待できるうえに、芳香族系炭化水素によくある人体有害性の心配が回避できるのであるが、前述同様に実用上満足すべき微細顔料の安定な分散ができなかった。しかし、本発明者らは分岐脂肪族飽和炭化水素系での期待を実現すべく本発明の完成に挑戦した。
【0007】
再表00/071627号公報では、飽和炭化水素系溶剤と植物油とを100:(10〜100)の重量比率で含む有機溶剤、顔料および分散剤より構成されるインクジェット記録用油性インクにより、印字環境の温度変化に左右されずに、良好な吐出安定性と保存安定性を有し、さらにコックリングの発生の少ないインキを得ている。
【0008】
特開平10−60348号公報では、有機珪素化合物の添加により、印字画像にじみがなく画像濃度の高い高画質で且つ定着性の良好な印字画像形成することができる。
【0009】
特開2002−69347号公報では、顔料、ポリアミン化合物と12−ヒドロキシステアリン酸自己縮合物との反応物からなる分散剤、流動パラフィンを主成分とする飽和炭化水素系溶剤により、初期および長期保存においても良好な顔料分散性を有し、印字環境の温度変化に左右されずに、吐出安定性に優れた油性インクジェット記録用インクを得ている。
【0010】
特開2003−277660号公報では、炭化水素溶媒及び/又はパラフィン系炭化水素溶媒と、顔料分散剤とを含有する混合液を分散させてなる油性インクジェット記録用インク組成物で、インク組成物の顔料分散性、流動性、再溶解性を良好とし、その結果、経時安定性、吐出安定性、発色性やフェザリング等の印字品質を良好とすることができる油性インクジェット記録用インク組成物の製造方法及び油性インクッジェット記録用インク組成物を提供している。
【0011】
特開2004−250502号公報では、主溶媒として(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物またはジアルキルエステル化合物を、全溶媒中、50〜100重量%含有し、引火点が70℃以上であることを特徴とするインク組成物、とくに上記主溶媒の引火点が70℃以上、沸点が150℃以上、20℃における蒸気圧が5mmHg以下である、顔料、カチオン性基またはアニオン性基を有する顔料分散剤、アニオン性樹脂および溶媒を少なくとも含むインク組成物で、定着性、耐水性、印字性および保存性にすぐれ、かつ普通紙に対してコックリングなく印字可能で、しかも安全性の高い油性顔料インク組成物、とくにインクジェット記録用の顔料インク組成物を提供している。
【0012】
特開2005−23163号公報では、顔料、特定の炭化水素系有機溶媒顔料分散剤、特定のカルボジイミド化合物を含んだ油性インクジェット記録用インク組成物において、顔料分散剤の少ない使用量において、顔料を微細に分散しても、初期及び長期保存においても良好な顔料分散性を有し、印字環境の温度変化に左右されずに、吐出安定性に優れる新規な油性インクジェット記録用インク組成物を提供している。
【0013】
特開2006−63188号公報では、オクチル酸アルミニウム、パラフィン系溶媒および分鎖状脂肪族アルコールから形成されることを特徴とする平均粒子径1μm以下のゲル粒子、非水溶性有機溶媒と顔料と分散剤を含有するインクジェット用油性インク組成物により、連続吐出安定性および長時間放置後吐出安定性に優れ、滲みや裏抜けのない高品質な画像を普通紙に印刷可能なを提供している。
【0014】
本発明者らは従来公知の分散剤で常温液状の炭化水素系溶剤に溶解性の物質を用い、従来公知の湿式分散技術で分散液調製を試みた。調製直後には一時的に顔料の微細分散が可能な場合があったが、時間の経過とともに顔料が凝集・沈殿してしまい、インク組成物のとして必須の分散安定性が確保出来ないことが判明した。本発明者らの考察によると、常温液状の脂肪族炭化水素を分散媒体にすると、インクの低粘度・揮発性から高速の印刷が可能になることや疎水性表面へ親和性から精細美麗な印刷と期待できるうえに、芳香族系炭化水素によくある人体有害性の心配が回避できるので好ましいが、前述のように実用上満足すべき微細顔料の安定な分散ができなかった。しかし、本発明者らは常温液状の脂肪族炭化水素系での期待を実現すべく本発明の完成に挑戦した。
【特許文献1】特開昭49−50935号公報
【特許文献2】特開昭54−121808号公報
【特許文献3】特開昭56−147863号公報
【特許文献4】特開昭56−155260号公報
【特許文献5】再表00/071627号公報
【特許文献6】特開平10−60348号公報
【特許文献7】特開2002−69347号公報
【特許文献8】2003−277660号公報
【特許文献9】2004−250502号公報
【特許文献10】2005−23163号公報
【特許文献11】2006−63188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
分岐脂肪族飽和炭化水素媒体系で顔料の微細・安定な分散液組成を見出し、液体インクとくにジェットインクとして使用可能な組成物を完成することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
分岐脂肪族飽和炭化水素媒体系で顔料の微細・安定な分散液組成物を実現するために、従来公知の高分子分散剤を用い、分散とくに分散の安定性を改善する分散助剤を探求し見出すことを課題解決の手段とした。種々検討の結果、分散助剤として(a)N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートと(b)N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−F)またはN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−PS)である(a)と(b)の両者を併用することで目的を達成することが可能であることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0017】
特定の分散助剤を用いることで、分岐脂肪族炭化水素を媒体とする安定な顔料分散インク組成物が実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物において、着色剤として用いる顔料はカーボンまたは有機顔料である。金属酸化物等の無機顔料は、本発明の分散系をもってしても微細で安定な分散液とするには不適当である。したがって本発明で実施可能な顔料はインクの着色剤として従来公知のカーボンブラックや各種の有機顔料である。カーボンブラックはその製法によって表面特性が異なるが、酸性カーボンやアルカリ性カーボン等の種類を問わず実施可能である。ただし、概して言えば酸性カーボンは分散剤と分散助剤の使用量が比較的に少なくても微細で安定な分散液とすることができるので好適である。有機顔料としては当業界で著明な顔料便覧に記載されている従来公知の顔料が実施可能である。このように多種多様の顔料で微細で安定な分散液が実現可能になったのは、ひとえに本発明の分散剤系、とくに分散助剤の選択によるものである。
【0020】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物において、分散媒体は分岐構造の脂肪族飽和炭化水素であり、一般的にイソパラフィンと呼ばれる常温で液体の物質である。石油化学工業の精留品として市販されているので容易に入手可能である。イソパラフィンは分岐構造や分子量の異なる分子の混合物であり、蒸留温度範囲で特徴付けられる。インク組成物の媒体としては蒸発温度が70℃以上350℃以下の留分が使用可能である。蒸発温度が70℃以下の留分が多いとインクとして低粘度で好ましいが揮発性が高過ぎて取り扱いに不便であり、インクジェット印刷では印刷機のノズル面での蒸発でノズル詰まりのトラブルを起こしやすく不適当である。蒸発温度が高い、とりわけ300℃以上の留分が多いと上記の難点はないものの、インクの粘度が高く印刷後のインクの印刷面での浸透あるいは乾燥固化の速度が遅いので不適当であり、とくにインクジェット印刷では高速印刷ができないので不適当である。このような観点から50%留出温度が100℃以上250℃以下の範囲内にある留分混合物が好ましい。本発明で好適な分散媒体として市場で入手可能な商品の例を挙げると、出光石油化学社製の「IPソルベント」やエクソンモービル社製の「アイソパー」があり、粘度や蒸発温度等の観点からIPソルベント1016、同1620や同2028、アイソパーE、同G、同H、同L、同M等である。とくにインクジェット印刷では、使用する印刷機の種類や診察条件によって異なるが、その一例を示すと常圧沸点が約165℃以上210℃以下の分留成分の混合物で、かつ、50%留出沸点が約178℃、90%留出沸点が約185℃程度であるイソパラフィンが最適である。これにはIPソルベント1620やアイソパーHが該当する。
【0021】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物において用いる分散剤は、従来公知の分散剤で脂肪族飽和炭化水素系溶剤に溶解性の重合体であって、従来公知の湿式分散技術で分散液調製して調製直後には一時的に本発明で使用する顔料の微細分散が可能な重合体である。より具体的には調製後1時間から12時間の静置で目視観察で顔料の凝集沈殿が認められない重合体である。すなわち、調製後1時間の静置で凝集沈殿の認められない分散重合体は後述の分散助剤を併用して長期の分散安定性が確保できるのである。反対に調製後1時間以内に凝集が認められる重合体では後述の分散助剤を併用しても長期の分散安定性が確保できず、また使用量を本発明の好適範囲を越えて過大にすると長期の安定性が確保できてもそのための別の難点が発現して不適当である。かかる分散剤重合体は当該技術分野の技術者は実験により容易に選択することができる。本発明で使用可能な分散剤重合体の例は、ルーブリゾール社製ソルスパース11200、ビックケミー社製デスパピック101やISP社製アンタロンV−516等である。
【0022】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物において、もっとも重要な役割を担う分散助剤は、(a)N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートと、(b)N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−F)またはN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミド(略称:ナフトールAS−PS)である(a)と(b)の両者の併用である。本発明の分散助剤を前記分散剤重合体と比較的少量併用することで顔料の長期微細安定な脂肪族飽和炭化水素を媒体に用いる溶剤系顔料分散インク組成物が実現することは驚くべきことであった。因みに分散剤重合体を用いることなくこの分散助剤ナフトールAS−FやナフトールAS−PSのみ、あるいはナフトールAS−FとナフトールAS−PSの両者併用のみでは、目的とする溶剤系顔料分散インク組成物は実現しない。
分散助剤の作用機構は明確ではないが、顔料と類似の化学構造を有するナフトールAS−FやナフトールAS−PSとN,N−ジアルキルアミノエチルアクリレート)が酸塩基の複合体として協同して初めて望ましい分散作用を発現しているものと判断している。因みに、ナフトールAS−FやナフトールAS−PSは分散媒体である脂肪族飽和炭化水素に不溶性である一方、N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートには易溶性であり、その溶液は脂肪族飽和炭化水素と相溶性である。ただし、ナフトールAS−FやナフトールAS−PSと類似の染顔料中間体をN,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートと併用しても好ましい結果が得られいないので、作用機構の詳細は依然として不明のままである。
【0023】
本発明の分散助剤の一方であるN,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートの窒素の置換基であるアルキル基は炭素数8以下の直鎖または分岐状のアルキルである。顔料を分散する能力からメチル基やエチル基の場合が最適である。置換基の炭素数が大きくなると分散の安定性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0024】
本発明においてはインクの固体成分の印刷面への密着性を高めるために、インク組成物中に皮膜形成剤として石油系樹脂あるいは水添石油系樹脂を添加しておくことが可能である。これら樹脂は分散媒体に溶解性であり、しかも顔料の分散とその安定性を阻害しないことを条件に選定したものである。
この使用により、印刷物が擦過や水濡れにより損傷することから保護されるのである。本発明で好適に使用される皮膜形成剤としては以下の物質が例示できる。水添脂環族炭化水素樹脂、例えば、エクソンモービル社製エスコレッツ5300や同変性品、脂肪族・芳香族炭化水素樹脂、例えば、日本ゼオン社製クイントンD−200等が好適に使用可能である。
【0025】
本発明の分散インク組成物における顔料の分散は、前項に述べた分散剤と分散助剤を溶解して含有する分散媒体と顔料を湿式分散することで達成される。効率よく分散するために濃厚分散液を調製し、これを分散媒体で希釈して所望濃度の分散液組成物とすることも可能である。湿式分散は当業界で従来公知の分散技術を適用して実施可能である。
【0026】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物における配合割合は、インク組成物の全量中着色剤の含有量が1.0wt%以上15.0wt%以下、高分子分散剤が前記着色剤の0.1重量倍以上2.0重量倍以下、一方の分散助剤N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートが前記着色剤の0.05重量倍以上0.80重量倍以下、他方の分散助剤ナフトールAS−FまたはナフトールAS−PSが前記着色剤の0.01重量倍以上0.50重量倍以下、皮膜形成剤樹脂を用いる場合にはさらに皮膜形成剤樹脂が前記着色剤の0.20重量倍以上5.0重量倍以下である各範囲から選ばれた値であって、残余がイソパラフィンである場合がインクとして好ましい。上記の範囲をいくらか逸脱しても本発明は実施可能であるが、インクとしての性能が低いか過剰品質となるので好ましくない。
【0027】
本発明の溶剤系顔料分散インク組成物において、保管中あるいは印刷中にインクに含まれるN,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートの変質が心配される場合には、従来公知の酸化防止剤から当該インク組成物に可溶性の酸化防止剤を選んで、その少量を追加配合することが可能である。その例としては、2,6-ジブチル-4-メチルフェノールが挙げられる。
【0028】
本発明のインク組成物において気泡が発生して使用に困難をきたす場合があれば、少量の消泡剤を追加配合して前記困難を回避することができる。ビックケミー社製のBYK−088はその好適例である。本発明のインク組成物の使用に当たって、インクが使用に適した流動性を持つように粘性を調整するには、前記皮膜形成剤の配合割合を皮膜形成剤本来の目的を損なわない範囲で変えることによって実施可能である。また本発明のインク組成物における媒体の蒸発速度を調整するには、用いるイソバラフインの留分組成を変更すれば良いので、例えば、市販のイソパラフィンを混合することで容易に目的を達成することが可能である。また、本発明以外のインク組成物でしばしば認められる防腐剤や界面活性剤の併用は、本発明のインク組成物では使用原料の特性からその必要性はない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明実施の態様例を具体的に示す。なお、実施例や比較例における部は重量部である。
【0030】
実施例1
分散助剤(a)N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート(興人製)に併用分散助剤(b)ナフトールAS−Fを溶解した液を調製した。この液をイソバラフインで希釈し、分散助剤(a)0.030部、分散助剤(b)0.118部およびイソパラフィン(出光石油化学製:IPソルベント1620)37.5部からなる分散助剤液とした。これに、高分子分散剤ソルスパース−11200(ルーグノゾル社製:純分40.0wt%)1.852部、カーボンブラック(デグサ社製:スペシャルブラック5)3.0部、皮膜形成用石油樹脂(日本ゼオン社製:クイントンD−200)7.5部を混合し、ビーズミルで分散させた。えられた濃厚分散液をイソパラフィン(IPソルベント1620)50.0部で希釈し、目的とする溶剤系顔料分散インク組成物がえられた。粘度は2.1(mPa)、顔料の平均粒径は120(nm)であった。インクの一部を2個のガラス容器に移して密栓し、一方は50℃の恒温室に10日間、他方は室温で2ケ月間静置した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙やブラスチックフィルム等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0031】
比較例1
実施例1における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例1の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、室温放置試験で調製翌日から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。
【0032】
実施例2
実施例1における顔料のカーボンブラックを有機マゼンタ色顔料(大日精化社製:CFR−32H)に代えて実施例1の方法を繰り返し、目的とする溶剤系顔料分散インク組成物をえた。粘度は2.9(mPa)、顔料の平均粒径は110(nm)であった。インクの一部をガラス容器に移して密栓し、50℃の恒温室に10日間、他方は2ケ月間放置した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙やブラスチックフィルム等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0033】
比較例2
実施例2における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例2の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、室温放置試験で調製3日後から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。
【0034】
実施例3
顔料を有機黄色顔料(バイエル社製:イエローピクメントE4GN)に代えて実施例1の方法を繰り返し、溶剤系顔料分散インク組成物をえた。粘度は3.0(mPa)、顔料の平均粒径は135(nm)であった。インクの一部をガラス容器に移して密栓し、50℃の高温室に11日間、他方は2ケ月間放置した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙やブラスチックフィルム等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0035】
比較例3
実施例3における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例3の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、50℃恒温静置試験2日目、室温静置試験で4日後から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。
【0036】
実施例4
顔料を有機青色顔料(東洋インキ社製:リオノールブルー7400G)に代えて実施例1の方法を繰り返し、溶剤系顔料分散インク組成物をえた。粘度は2.0(mPa)、顔料の平均粒径は98(nm)であった。インクの一部をガラス容器に移して密栓し、50℃の高温室に10日間、他方は2ケ月間放置した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0037】
比較例4
実施例4における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例4の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、50℃恒温静置試験2日目、室温静置試験で4日後から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。
【0038】
実施例5
顔料を有機赤色顔料(冨士色素社製:フジファーストレッド1010)に代え、皮膜形成用石油樹脂を用いることなく実施例1と同様の方法で、顔料3.0部、分散助剤(a)N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート0.200部、分散助剤(b)ナフトールAS−F0.050部、高分子分散剤ソルスパース1.750部、分散媒体イソパラフィン95.0部からなる溶剤系顔料分散インク組成物をえた。粘度は3.1(mPa)、顔料の平均粒径は128(nm)であった。インクの一部をガラス容器に移して密栓し、50℃の高温室に14日間、他方は2ケ月間放置した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0039】
比較例5
実施例5における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例5の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、50℃恒温静置試験2日目、室温静置試験で5日後から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。
【0040】
実施例6
分散助剤(a)N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート0.20部、分散助剤(b)ナフトールAS−PS0.02部、高分子分散剤ソルスパース1.80部、皮膜形成用石油樹脂(クイントンD−200)7.0部、およびイソパラフィン(IPソルベント1620)90.08部からなる均一溶液に、カーボンブラック(デグサ社製:スペシャルブラック4)3.00部を混合した。混合液を長時間かけてビーズミルで分散し、目的とする溶剤系顔料分散インク組成物をえた。粘度は2.3(mPa)、顔料の平均粒径は115(nm)であった。その一部を用いて50℃の静置10日間と室温静置2ヶ月の分散安定性試験に供した。いずれの場合も、分散液調製直後同様に顔料の凝集や沈殿は認められなかった。この溶剤系顔料分散インク組成物は調製直後と前記放置後にインクジェット印刷試験(使用印刷機:ザール社製Xaarjet
XJ128/360/55)に供したところ、紙やプラスチックフィルム等の印刷基材に長時間にわたって順調に濃色の印刷ができた。
【0041】
比較例6
実施例6における分散助剤(a)および/または分散助剤(b)を用いることなく実施例6の操作を行ったところ、えられた溶剤系顔料分散インク組成物は顔料の分散に不安があり、50℃静置試験開始の翌日、室温静置試験3日後から顔料の凝集・沈殿が明瞭に認められるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)イソパラフィンを分散媒体とし、(2)従来公知で該媒体に溶解性の高分子分散剤を用いて、(3)カーボンや有機顔料の微細粒子である着色剤を該媒体中に分散させたインク組成物を製造するにあたり、さらに(4)分散助剤として(a)N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートと(b)N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドまたは/およびN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドである(a)と(b)の両者を併用することを特徴とする溶剤系顔料分散インク組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の溶剤系顔料分散インク組成物に、石油系樹脂あるいは水添石油系樹脂を皮膜形成剤として添加したことを特徴とする請求項1に記載の溶剤系顔料分散インク組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の溶剤系顔料分散インク組成物において、インク組成物の全量中着色剤の含有量が1.0wt%以上15.0wt%以下、高分子分散剤が前記着色剤の0.1重量倍以上2.0重量倍以下、一方の分散助剤N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートが前記着色剤の0.05重量倍以上0.80重量倍以下、他方の分散助剤N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドまたは/およびN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドナフトールが前記着色剤の0.01重量倍以上0.50重量倍以下である各範囲から選ばれた値であって、残余がイソパラフィンである配合比率を特徴とする、請求項1に記載の溶剤系顔料分散インク組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の溶剤系顔料分散インク組成物において、インク組成物の全量中着色剤の含有量が1.0wt%以上15.0wt%以下、高分子分散剤が前記着色剤の0.1重量倍以上2.0重量倍以下、一方の分散助剤N,N−ジアルキルアミノエチルアクリレートが前記着色剤の0.05重量倍以上0.80重量倍以下、他方の分散助剤N−(1'−スルホキシ−3'−メチル−5'−クロロ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドまたは/およびN−(3'−スルホキシ)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキサミドナフトールが前記着色剤の0.01重量倍以上0.50重量倍以下、皮膜形成剤樹脂が前記着色剤の0.20重量倍以上5.0重量倍以下である各範囲から選ばれた値であって、残余がイソパラフィンである配合比率を特徴とする、請求項2に記載の溶剤系顔料分散インク組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の溶剤系顔料分散インク組成物を主成分とし、分散媒体であるイソパラフィンの常圧沸点が165℃以上210℃以下の分留成分で、かつ、50%留出沸点が約178℃、90%留出沸点が約185℃であることを特徴としてなるインクジェット印刷用インク。

【公開番号】特開2008−1853(P2008−1853A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174981(P2006−174981)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(591075467)冨士色素株式会社 (24)
【Fターム(参考)】