説明

有機無機複合体及びその製造方法

【課題】 有機無機複合体において、有機成分への無機成分の複合化を設計的に行うことにより、有機ポリマー層と無機化合物層とが2次元層構造を形成した、異方性が高い新規な有機無機複合体の提供、及びその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有する無機化合物層とが、2次元層構造を有する有機無機複合体。及び、ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、反応させる有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有する無機化合物層とが2次元層構造を有している有機無機複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、無機物質が持つ諸特性(寸法安定性、耐熱性、耐摩耗性、表面硬度、ガスバリア性)等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に複合化する技術が広く検討されている。このとき有機無機複合体中の無機物質の分散状態の形態(モルフォロジー)を制御することができれば、上記の各機能をさらに強化した複合体を提供することができる。特に有機無機複合体中の無機物質の複合化状態を2次元層構造にすることができると、単に無機物質が有機材料中にランダムに分散した材料と比較して、上記無機材料の特性の内、水平方向への寸法安定性やガスバリア性に加え、無機層が表面に露出している場合には、耐摩耗性、表面硬度を極めて高めた材料とすることができる。
【0003】
更に、その際の無機微粒子の粒径を極力小さく、無機充填率を高くすることでさらに無機材料の複合化効果を高めることができる。なぜなら無機粒子の粒径が小さいと無機粒子の重量当たりの表面積が大きくなり有機材料と無機材料との界面領域が広くなることで高い補強効果が得られ(面積効果)、また、無機微粒子の充填率が高くなると、当然複合化の効果が大きくなるからである(体積効果)。さらに、層構造を構成する無機粒子が層と同一方向に長い形状(例えば板状、針状)を有していると、前記の無機の複合効果をさらに高くすることができる。
【0004】
従来より、有機無機複合体を容易に作製する方法の一つとして、溶融混練法が行われてきた。本方法は微粒子状の無機物を溶融した有機成分中に分散器を用いて強制的に混合するものであるが、本方法では、その製法から推測できるとおり無機粒子がランダムに有機成分中に分散されるのみであり、分散状態を制御することは不可能である。加えて、本方法では表面エネルギーの高い無機微粒子同士の親和性、有機材料と無機材料の非親和性により無機粒子の凝集が混練処理中に進行するため、サブミクロンからナノメートルオーダーの微粒子を高い含有率で分散させることも極めて困難である。
【0005】
例えば水熱合成により合成した粒径0.5〜15μm、アスペクト比が10〜100の板状のベーマイト等を溶融混練法により各種樹脂に分散させることで複合化する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。本方法では、板状の無機微粒子を複合化することにより、球状の無機微粒子を等質量複合化した場合よりも各種強度特性を向上させていることを特徴としているが、無機成分の有機成分中での分散状態を制御することは不可能である。更に、複合化処理の際に無機粒子同士が凝集することにより、十分な無機複合化効果が出にくいことが不具合として挙げられる。また、所望のベーマイト等の含アルミニウム化合物を合成するためには、オートクレーブを用いて高温で長時間の反応を必要とし(例えば150℃、4時間以上)製造方法が煩雑である欠点がある。
【0006】
また、平均層厚み0.5〜10nm、平均アスペクト比10〜500の層状珪酸塩と非繊維状無機充填剤とがポリアミド樹脂中に均一に分散しているポリアミド樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかし本文献の樹脂組成物も、上記の無機充填剤を溶融混練により分散させたものであるため、無機充填剤の分散形状を例えば層構造を作製するように制御すること不可能である。また、層状珪酸塩の最大の平均長さも5μm(10nm×500)以下と、材料全体に渡って無機成分が層構造を形成するような材料とはなりえないため、無機充填剤による補強効果も限定されたものとなる。
【0007】
一方、モノマー(ジアミン、ジカルボン酸)と水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物原料を水に分散させた状態で、加熱、加圧を行うことで、ポリアミドの重合反応と板状アルミニウム化合物の水熱合成を同時に行うことで、ポリアミド中にナノメートルオーダーの板状アルミニウム化合物を分散させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。本方法は前記の溶融混練法とはことなるが、本方法においても、無機成分の分散状態を制御して層構造とすることも、ナノオーダーの微粒子を高い含有率で含有させることも以下の理由で困難である。
【0008】
本文献での板状アルミニウム化合物の水熱合成と、ジアミン、ジカルボン酸からのポリアミド合成とは、いずれも水の生成を伴うため互いの反応の進行を阻害しあう関係にある。そのため、ポリアミドの生成に伴い板状化合物が生成するような制御された反応とはなりえないため、板状アルミニウム化合物が層構造を構成する等のモルフォロジー制御は不可能である。更に、本文献でアルミニウム化合物原料として用いられている水酸化アルミニウムは水に殆ど溶解しないため、用いる原料水酸化アルミニウムの粒径以下の微粒子を複合化できない。また、複合化させる酸化アルミニウム化合物の量を増大させるためには、水酸化アルミニウムを水に分散させる量を増加させなければならない。しかし、その場合には、水中でも水酸化アルミニウム粒子同士が凝集し、複合化の際に粗大粒子化しやすくなる。アルミニウム板状化合物の板平面同士が凝集することにより、球形に近づく可能性が高いため、無機材料の含有量を高くしても補強効果を必ずしも高くできない恐れがある。
【0009】
【特許文献1】特開2001−261979号公報
【特許文献2】特開平11−343409号公報
【特許文献3】特開2003−192890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、有機無機複合体において、有機成分への無機成分の複合化を設計的に行うことにより、有機ポリマー層と無機化合物層とが2次元層構造を形成した、異方性が高い新規な有機無機複合体を提供することにある。また、本発明では該有機無機複合体を常圧室温下の短時間の反応で容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解させた有機溶液と、アルミン酸アルカリと、ジアミンとを溶解させた水溶液とを接触させることで重縮合反応を行い、1.アルミニウムが三価の価数を有するため酸化アルミニウムが平面構造で析出しやすく、2.本製造方法により合成されるポリアミドが、モノマー同士の反応性が高いことで容易
に分子量が高い膜状物が得られやすいこと、
により有機ポリマー層と無機化合物層とが2次元層状構造を有する有機無機複合体が簡便に得られることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有する無機化合物層とが、2次元層構造を有する有機無機複合体を提供する。
【0013】
また本発明は、ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し反応させる、有機無機複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によりポリアミドと酸化アルミニウムとがナノメートルオーダーで2次元層構造を有する有機無機複合体を提供できる。
【0015】
加えて、本発明の製造方法により、前記特徴を有する有機無機複合体を常圧室温で、30分間以下の短い攪拌操作1ステップのみの反応で容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の有機無機複合体について詳述する。
本発明の、ポリアミドと酸化アルミニウムとが2次元層構造を有する有機無機複合体は、ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリと、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し反応させることにより得ることができる。
【0017】
(水溶液(B)の成分)
本発明の有機無機複合体の合成に用いられる水溶液(B)は水と、無機原料であるアルミン酸アルカリと、ジアミンとから構成される。
【0018】
(アルミン酸アルカリ)
本発明での水溶液(B)に使用するアルミン酸アルカリは、XAlO(メタアルミン酸アルカリ)やXAlO(オルトアルミン酸アルカリ)およびこれらの共溶物であり、Xがアルカリ金属であるものが挙げられる。これらの例として、アルミン酸ナトリウム(ソーダ)、アルミン酸カリウム、アルミン酸リチウム等が例示できる。特にアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムは水溶性が高いため特に好ましく用いられる。また、これらは水に溶解させて用いるため、液体であっても水和物であっても好適に用いることができる。加えてアルミン酸ナトリウムは土壌改良剤、セメント添加剤等として大量に用いられている極めて安価な材料であり、このような材料を原料として用いることも本発明の特徴のひとつである。
【0019】
(アルミン酸アルカリの複合体合成に与える作用)
アルミン酸アルカリに含まれるアルカリ金属は、ジアミンとジカルボン酸ハロゲン化物との重合によりポリアミドが生成する際に発生する酸の除去剤として作用することで、ポリアミドの重合反応をさらに促進する。アルカリ金属が除去されたアルミン酸はアルミノール基を経由し、脱水縮合しつつ相互に結合しナノサイズの酸化アルミニウム微粒子を形成する。このとき、モノマーからポリアミドへの重合とアルミン酸アルカリから酸化アルミニウムへの化学変化が並行、且つ相補的に進行するため、片方の生成物が優先的に析出することを抑制し、ナノ微分散構造が形成される。その際、アルミニウムイオンが3価であることに起因し、析出反応が二次元方向に優先的に進行し、二次元構造すなわち板状の酸化アルミニウムが生成すると推定される。加えて本発明では、無機微粒子の含有率を高くできるため、板状の無機微粒子が新たに生成するサイトがすでに生成した無機微粒子の末端部分となる確率が高くなることが推測される。そのため、板状のナノ微粒子の末端同士が接続した高アスペクト比の無機微粒子が生成する。また、この酸化アルミニウムの層形成に伴ってポリアミドの合成も促進されるため、酸化アルミニウム層の上下にポリアミド層が形成されやすくなる。本発明で用いられるモノマーの組み合わせで合成を行ったポリアミドは容易に分子量を高くすることができるため層状構造を形成しやすい点も2次元層構造の形成に寄与すると考えられる。そのため本発明の複合体は、ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有した無機化合物層とが何層も重なった2次元層状構造を有する。この2次元構造が効率的に形成されるためには、無機化合物層中の酸化アルミニウムが平均アスペクト比3以上の板状であることが好ましい。
【0020】
(複合化する無機化合物含有率の制御)
本発明では、有機無機複合体に複合化する酸化アルミニウムを含有する無機化合物の比率を、用いる原料により容易に制御することができる。アルミン酸アルカリの上記化学式のAl/XOの数値が大きいもの、すなわちXに対するAlの量が大きいアルミン酸アルカリを用いることで、複合化する酸化アルミニウムの比率を高めることができる。また反対に、複合化する酸化アルミニウムの比率を低くしたい場合には、Al/XOの数値が小さいものを用いるほかに、水溶液(B)中に導入するアルミン酸アルカリ量を少なくすると同時に重縮合反応時に生じるハロゲン化水素の中和を目的として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの酸受容体を水溶液(B)に添加してもよい。
本発明では、2次元層構造を形成していることが必要なため、無機化合物含有率が低くなりすぎると無機化合物層ができにくくなる恐れがある。そのため、無機化合物含有率は複合体全質量に対して好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。無機含有率の上限には特に制限はないが、市販のアルミン酸アルカリのAl/XOの数値に上限があることや、有機成分の量が少なくなると、有機材料に起因する加工性、柔軟性等の特徴が失われるので、60質量%以下が好ましい。
【0021】
(2次元層構造の制御)
無機化合物層の2次元層構造は、複合化する無機化合物含有率により制御することが可能である。無機化合物含有量が高くなると、無機化合物層の層厚さを厚くすることができ、逆に無機含有量が低くなると無機化合物層の層厚さを薄くすることができる。
【0022】
本発明の有機無機複合体は、無機化合物層に平均粒子径が5nm〜100nmの板状の微粒子である酸化アルミニウムを含有していることが好ましい。
更には、無機化合物層が、平均粒子径5nm〜30nmの微粒子から構成され、前記複合体100質量%中の無機化合物微粒子の含有率を10〜60質量%と高くすることで、無機化合物による補強効果を極めて高くした有機無機複合体を提供することができるため好ましい。
【0023】
本発明の有機無機複合体は、酸化アルミニウムがナノメートルオーダー且つ板状で構成する無機化合物層を有する。無機化合物の含有率を高くすることで、無機材料の特性を強く発現させた有機無機複合体を提供することができる。
【0024】
一方、無機化合物の層間隔は、無機含有率が低くすることで層間隔を広くすることができる。これらの構造を制御することで、用途による複合体の設計を行うことができる。例えば、寸法安定性、表面硬度、耐摩耗性やガスバリア性を高くしたい場合は、無機含有率を高くすることが好ましく、前記の特性と柔軟性や加工性のバランスを取りたい場合は無機含有率を低く抑えることが好ましい。
【0025】
本発明の有機無機複合体は、2次元層構造を構成する酸化アルミニウム層の平均層厚さが500nm以下であり、前記層構造の平均層間隔が300nm以下であることが好ましい。
【0026】
(金属化合物第2成分の導入)
本発明では水溶液(B)中にアルミン酸アルカリと、ジアミンとに加え、少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族のアルミニウムを除く典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物(C)を一定量以下を溶解した状態で共存させることにより、無機化合物層が、該無機化合物が酸化アルミニウムである場合の2次元層構造を維持しつつ、酸化アルミニウム以外の無機化合物も無機化合物層に導入した有機無機複合体を合成することができる。
【0027】
金属化合物(C)中のアルカリ金属もまた、アルミン酸アルカリ中のアルカリ金属と同様に水溶液中に於いて重合に伴い発生する酸を除去することでジアミンの重合を促進する。そして、金属化合物(C)中のアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物(以下、金属化合物(D)と言う。)が固体へと転化することで有機無機複合体が生成する。
水溶液(B)中にアルミン酸アルカリが無く、金属化合物(C)とジアミンのみを有する原料液を用いて有機無機複合体の合成を行った場合、金属化合物(C)はポリアミドの重合により発生する酸を中和するためにアルカリ金属化合物を失うことで不溶化し、金属化合物(D)に転化することで、ポリアミドと金属化合物(D)の複合体が生成する。しかし、この複合体は通常金属化合物(D)が平均粒径が100〜500nmの独立した微粒子状でポリアミド中に分散した複合体として得られることが多く、平均粒径が100nm以下の粒子の集合体が2次元層構造を形成することは無い。
【0028】
本発明によって、水溶液(B)中にアルミン酸アルカリを共存させることで、金属化合物(D)もまた酸化アルミニウムが複合化した場合と同様、2次元層構造をとりポリアミド中に複合化される。この複合化反応機構は十分解明されていないが、一般的にアルミン酸アルカリは金属化合物(C)よりも水溶時に高い塩基性を示すため、ポリアミドの重縮合反応に金属化合物(C)よりも強く関与すると考えられる。そのため、まず酸化アルミニウム特有の板状のナノ粒子が先に2次元層状構造を構成し、それを一種の鋳型として酸化アルミニウムに対して親和性が高い金属化合物(D)が複合化することで、酸化アルミニウム、金属化合物(D)ともポリアミドの有機ポリマー層間でナノ2次元層構造を構築すると考えられる。
【0029】
このように酸化アルミニウムの2次元層構造を維持しつつ、前記無機化合物成分中に酸化アルミニウム以外の、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属化合物を更に導入した有機無機複合体を提供することができる。
【0030】
(無機化合物中の酸化アルミニウムの含有率)
本発明の有機無機複合体中の無機成分である酸化アルミニウムと、金属化合物(D)などのその他の無機化合物との好ましい質量比は、金属化合物(D)などのその他の無機化合物の種類により異なる。また、所望する有機無機複合体の特性との関係から、一概に限定することはできない。しかしながら、複合化形態のみの観点からは酸化アルミニウムの比率が高いとより容易に2次元層構造をとることができるため好ましい。具体的には有機無機複合体中の無機化合物100質量%中に含まれる酸化アルミニウムの含有率は、25質量%以上であれば好ましく、特に好ましくは50質量%以上である。
【0031】
本発明で用いる金属化合物(C)としては、金属酸化物が最も好ましい。また、金属化合物(C)の例として、一般式AxMyBzとして表すことができる化合物を挙げることができる。但し、Aはアルカリ金属元素であり、Mは周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素であり、BはO、CO、OHからなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、x、y、zは、A、MとBの結合を可能とする数である。ここで言う遷移金属元素とは、銅や亜鉛を含めた周期表第11族及び第12族も含めた広義の意味での遷移金属元素を意味している。具体的には、本発明で言う周期表第3〜第12族の遷移金属元素とは、周期表の21Sc〜30Znまでと、39Y〜48Cdまでと、57La〜80Hgまでと、89Ac以上の金属元素を意味する。また、周期表第13〜16族の典型金属元素とは、周期表の13Al、31Ga、32Ge、49In、50Sn、51Sb、81Tl、82Pb、83Biおよび84Poを意味する。ただし、MがAlであるアルミン酸アルカリは除く。上記一般式AxMyBzで表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。また、金属化合物(C)中のアルカリ金属が、重合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することにより除かれた残りの金属化合物(D)が水に殆どまたは全く溶解しない金属化合物(C)が、より効率的に有機ポリマーに金属化合物を複合化することができるため好ましい。
【0032】
本発明で用いられる金属化合物(C)の内、上記一般式中のBがOである化合物としては、亜鉛酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、鉄酸カリウム、チタン酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム、アンチモン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物、セシウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0033】
上記一般式中のBがCOとOHとの双方の基を含む金属化合物(C)としては、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、および炭酸スズカリウム等を例示することができる。
【0034】
これらの金属化合物(C)は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。また、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
(ジアミン)
本発明での水溶液(B)に用いるジアミンとしては、有機溶液(A)中のジカルボン酸ハロゲン化物と反応し、ポリアミドを生成するものであれば特に制限なく用いることができ、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタンなどの脂肪族ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミン、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、またはアルキル基などで置換した芳香族ジアミンなどが例として挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン等の脂肪族ジアミンを使用すると、ポリアミドの分子量を高くできるため、2次元層構造を形成しやすいため特に好ましい。
【0036】
(有機溶液(A)の成分)
本発明で有機無機複合体の合成に用いられる有機溶液(A)は、ジカルボン酸ハロゲン化物とこれを溶解させる有機溶媒より構成される。
【0037】
(有機溶液(A)に用いる有機溶媒)
有機溶液(A)に用いる有機溶媒として水に対して非相溶の有機溶剤を用いた場合、生じる重縮合反応は有機溶液(A)と水溶液(B)の界面のみで生じる界面重縮合反応となる。この場合はまず有機ポリマーが膜状に生成し分子量を容易に高くすることができるため、前述の2次元層構造を形成しやすいため特に好ましく用いられる。この場合、有機溶液(A)と水溶液(B)とが接触した段階で強いせん断力を加えることで繊維形状とすることができる。また、有機溶液(A)と水溶液(B)の界面で生じた複合体膜を引き上げつつ紡糸することで、強度の高い長繊維を得ることもできる。本発明の2次元層構造をより効率的に形成するためには、有機ポリマー層のポリアミドが、20μm以下の平均繊維径と、10以上の平均アスペクト比の繊維形状を有することが好ましい。
【0038】
一方、有機溶媒として水に対して相溶する有機溶剤を用いた場合には、有機溶媒と水とが乳化した状態で重合が生じるため、粉体形状の複合体が容易に得られる。
本発明での有機溶液(A)に用いる有機溶媒としては上記の有機溶液(A)中の各種モノマーやジアミンとは反応せず、有機溶液(A)中の各種モノマーを溶解させるものであれば特に制限なく用いることができる。このうち水と非相溶の有機溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類を挙げることができる。また、水と相溶する有機溶媒としては、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類などを代表的な例として挙げることができる。
【0039】
(ジカルボン酸ハロゲン化物)
本発明での有機溶液(A)に用いるジカルボン酸ハロゲン化物としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、およびイソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基などで置換した芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物などが例として挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、アジポイルクロライド、アゼラオイルクロライド、セバシルクロライド等の脂肪族のジカルボン酸の酸ハロゲン化物を使用すると、繊維状の有機無機複合体を容易に得ることができ、該複合体を不織布等へ加工することもできる。
【0040】
本発明での有機溶液(A)及び水溶液(B)中のモノマー濃度は、重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲が好ましく、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0041】
また、本発明では有機溶液(A)と水溶液(B)とを良好に接触させることを目的として公知慣用の界面活性剤を用いることもできる。
【0042】
(有機無機複合体の製造装置)
本発明での有機無機複合体の製造装置は、有機溶液(A)と水溶液(B)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbau Gmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるのでプロペラ状翼、マックスブレンド翼やファウドラー翼等を持つような汎用の攪拌装置を用いることができる。
【0043】
有機溶液(A)中の成分に脂肪族ジカルボン酸ハロゲン化物を、水溶液(B)中の成分に脂肪族ジアミンを用いた場合には、重合操作の際に強固なゲル状物が生成する場合がある。その場合にはゲルを破砕し反応を進行させるために高い剪断力を持つミキサーを用いることが好ましく、例としてはオスタライザー(OSTERIZER)社製ブレンダーなどが挙げられる。
【0044】
有機溶液(A)と水溶液(B)とを重縮合反応させる温度は、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。加圧、減圧も一切必要としない。また、重合反応は用いるモノマーや反応装置にもよるが通常10分程度の短時間で完結する。
【0045】
(実施例1:酸化アルミニウム、ポリアミド複合体の合成1)
イオン交換水81.1部に1,4−ジアミノブタン1.21部、浅田化学(株)製アルミン酸ナトリウム粉末P−100(Al,54質量%、NaO,36質量%)2.96部を入れ、室温で15分間攪拌し、均質透明な水溶液(B)を得た。室温下でこの水溶液をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、アジポイルクロライド2.49部をトルエン44.4部に溶解させた有機溶液(A)を20秒かけて滴下した。生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作で得られたパルプ状の生成物が分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。ヌッチェ上の生成物をメタノール100部に分散させ、スターラーで30分間攪拌し減圧濾過することで洗浄処理を行った。引き続き同様な洗浄操作を蒸留水100部を用いて行い、白色パルプ状物から成る有機無機複合体ウエットケーキを得た。
【0046】
得られた有機無機複合体を、蒸留水に0.2g/dLの濃度に分散させた分散液200gを直径55mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。得られたケーキを170℃、5MPa/cm、の条件で2分間熱プレスを行い、不織布を作成した。得られた不織布は白色であった。
【0047】
また、前記の方法で得られた有機無機複合体の不織布を6枚重ね、200℃、20MPa/cmの条件で3時間熱プレスを行うことで、複合体板を得た。得られた複合体板は透明であった。
【0048】
(実施例2:酸化アルミニウム、ポリアミド複合体の合成2)
実施例1の水溶液(B)で用いたアルミン酸ナトリウムを浅田化学(株)製アルミン酸ナトリウム溶液#2019(Al,20質量%、NaO,19質量%)に、用いたジアミンを1,6−ジアミノヘキサン1.53部に、用いたイオン交換水の量を45.5部に変更した以外は実施例1に記載した方法と同様にして、白色の有機無機複合体を得た。また実施例1と同様に複合体不織布と複合体板を得た。複合体不織布は実施例1と同様に白色であったが、複合体板は透過光では赤色、反射光では紫色の干渉色を示した。
【0049】
(実施例3:酸化アルミニウム、ポリアミド複合体の合成3)
実施例2の水溶液(B)をアルミン酸ナトリウムを浅田化学製アルミン酸ナトリウム粉末P−100(Al,54質量%、NaO,36質量%)0.75部に変更し、さらに水酸化ナトリウムを0.79部を加えた以外は実施例1に記載した方法と同様にして、白色の有機無機複合体を得た。本複合体は複合体不織布、複合体板とも実施例1と同様な外観を示した。
【0050】
(実施例4:酸化アルミニウム、酸化スズ/ポリアミド複合体の合成)
イオン交換水20部にスズ酸カリウム・3水和物(KSnO・3HO)2.16部を加え25℃で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た(スズ酸カリウム溶液)。また、イオン交換水20部に実施例1で用いたのと同じアルミン酸ナトリウム1.21部を加え25℃で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た(アルミン酸ナトリウム溶液)。得られたスズ酸カリウム溶液とアルミン酸ナトリウム溶液を混合した後、1,6−ジアミノヘキサン1.58部加えて攪拌して得られた均質溶液を水溶液(B)として用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、白色の有機無機複合体を得た。本複合体も複合体不織布、複合体板とも実施例1と同様な外観を示した。
【0051】
(実施例5:酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ポリアミド複合体の合成)
水酸化ナトリウム50質量%溶液20部に酸化亜鉛4部を加え、60℃に加温しつつ1時間攪拌を行ったのち室温まで冷却し、均質透明な水溶液を得た(亜鉛酸ナトリウム溶液)。
イオン交換水40部に実施例1で用いたのと同じアルミン酸ナトリウム1.21部を加え25℃で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た(アルミン酸ナトリウム溶液)。アルミン酸ナトリウム溶液に亜鉛酸ナトリウム溶液1.88部を混合した後、1,6−ジアミノヘキサン1.58部加えて攪拌して得られた均質溶液を水溶液(B)として用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、白色の有機無機複合体を得た。本複合体も複合体不織布、複合体板とも実施例1と同様な外観を示した。
【0052】
(比較例1:溶融混練法により作成した酸化アルミニウム/ポリアミド複合体)
ポリマーとしてナイロン66ペレット80.0部と平均粒径100nmの酸化アルミニウム粉末20.0部とを、ツバコー製小型2軸押し出し機MP2015中で270℃で溶融混練することで、ペレット状の有機無機複合体を得た。混練操作に先立つ原料仕込み操作は、酸化アルミニウムの粒径が極めて小さいことによる粉体の飛散が生じやすく極めて困難であった。本複合体を200℃、100MPa/cmの条件で3時間熱プレスを行うことで、複合体板を得た。複合体板はやや黄色味を帯びた白色であった。また、本複合体からは得られた形状の関係で不織布は得られなかった。
【0053】
(参考例1:酸化スズ/ポリアミド複合体)
水溶液(B)としてイオン交換水81.8部に1,4−ジアミノブタン1.20部、スズ酸ナトリウム・3水和物(NaSnO・3HO)3.96部を入れ25℃で15分間攪拌し、均質透明な水溶液を用意した。有機溶液(A)としてセバコイルクロリド3.26部をトルエン44.4部に溶解させた有機溶液を用意した。これらの原料溶液を用いた以外は実施例1に記載した方法と同様にして、白色の有機無機複合体を得た。また、実施例1に記載した方法と同様の方法によって不織布を作成した。本複合体は複合体不織布は白色半透明で、複合体板は乳白色の外観を示した。
【0054】
上記実施例1〜5、比較例1及び参考例1で得られた有機無機複合体、および不織布について、下記の項目の測定、あるいは試験を行い、得られた結果を表1及び表2に示した。
【0055】
(1)無機化合物含有率(灰分)の測定法
有機無機複合体に含まれる無機化合物の含有率の測定法は下記の通りである。
有機無機複合体を絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、700℃で3時間焼成し有機ポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量(=無機化合物質量)とした。下式により無機化合物含有率を算出した。
無機化合物全含有率(質量%)=(灰分質量/複合体質量)×100
【0056】
(2)有機無機複合体中の金属化合物種の検証
実施例1〜5及び参考例1の不織布を3cm角に切り出し、これを開口部が直径20mmの測定用ホルダーにセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状:フィルム、化合物種:酸化物、補正成分:セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法:試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。いずれの実施例で得られた試料でも目的とする金属化合物が大量に存在していることが示された。
【0057】
尚、実施例1〜3及び参考例1の単一の金属化合物のみを含む有機無機複合体を本方法で測定したところ、目的とする金属化合物の含有率は0.5質量%の誤差範囲内で(1)で得られた無機化合物含有率の算出結果と一致した。また、実施例4及び実施例5の複数の金属化合物を含む有機無機複合体では、目的とする金属化合物2種の含有率の和(実施例4では、酸化アルミニウムと酸化スズ(IV)の和)は0.5質量%の誤差範囲内で(1)で得られた無機化合物含有率の算出結果と一致した。このことより本測定法による金属化合物の含有比率の値は、一定の誤差範囲内において適応可能であることが示された。そのため、実施例4及び実施例5では本測定により得られた値を金属化合物第2成分含有率とした。
【0058】
(3)無機化合物の無機化合物層の厚さ、層間隔、粒子径測定
各実施例、比較例及び参考例で熱プレスより得られた有機無機複合体の板を、マイクロトームを用いて厚さ約75nmの超薄切片とした。得られた切片を日本電子株式社製、透過型電子顕微鏡「JEM−200CX」にて2万5千倍と50万倍の倍率で観察し透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影した。各実施例での2万5千倍の写真では、無機化合物は暗色の像として、明るい有機ポリマー中に2次元層構造を形成しているのが観察された。また、50万倍の写真で、無機化合物よりなる暗色部を拡大観察したところ、層構造はナノメートルオーダーの板状(切片を観察しているため、写真としては線状)物の集合体より形成されているのが見られた。下記1.及び2.の項目については2万5千倍のTEM写真から、3.及び4.については50万倍のTEM写真から測定を行った。
無機化合物層平均厚さ:任意の100箇所の無機化合物層の厚さ(層伸長方向の垂直方向の長さ)を測定し、その平均値を本測定値とした。
平均層間隔:任意の100箇所の無機化合物層同士の間隔(つまり有機化合物層の厚さ)を測定し、その平均値を本測定値とした。
平均粒子径:無機化合物粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値を本測定値とした。
粒子平均アスペクト比:無機化合物粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、長軸/短軸の数値を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値を本測定値とした。
図1には、実施例1で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体の2万5千倍の透過型電子顕微鏡写真を示した。図2には実施例2で得られた有機無機複合体を用いて、図1と同様な写真を示した。図3には実施例3で得られた有機無機複合体を用いて、図1と同様な写真を示した。図4には実施例1で得られた有機無機複合体の無機成分部分を50万倍に拡大した写真を示した。
【0059】
(TEM像での元素マッピング)
また実施例4及び実施例5に示された、無機成分として、酸化アルミニウムと他の金属酸化物を複合化した材料については、TEM観察と同時にEDS元素分析による元素マッピングが可能なエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、実施例4では、Al、Sn、O及びCについて、実施例5では、Al、Zn、O及びCについて各々10万倍のTEM写真をベースにして元素マッピングを行った。実施例4及び実施例5とも酸化アルミニウムのみを無機成分として有する有機無機複合体と同様に2次元層状構造を有しているのが観察された。また実施例4ではAl、Sn、Oが、実施例5ではAl、Zn、OがTEM写真の暗色部分(つまり無機成分リッチ領域)に同一の形状にて分布しているのがEDS元素分析により観察された。一方、Cはいずれの実施例でもTEMの明色部分(つまり有機成分リッチ領域)に分布しているのが確認された。
【0060】
以上の測定によって得られた有機無機複合体の各種物性、及びTEM写真からの測定結果について表1にまとめた。また、同様な測定を行った比較例、参考例については表2にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表2で示された通り、比較例1では当然ながら複合化形状を2次元層構造等に制御することはできなかった。また、無機化合物として平均粒子径100nmの酸化アルミニウム粉末を使用したにもかかわらず、混練の工程で無機化合物の凝集が生じ、ナノメートルオーダーの複合を行うことができなかった。また、参考例1に示した通り酸化スズのみを複合化したところ、複合形状は独立粒子状となり二次層構造等に制御することはできなかった。また、粒子径も酸化アルミニウムを有する複合体より大きかった。
【0064】
一方、表1に示した実施例1〜3は、図1〜3にも見られる通り、有機化合物層と無機化合物層とがナノメートルオーダーの層厚み、層間隔で積層した2次層構造を構成した。また、該無機化合物層は、平均アスペクト比が約10の板状であり、平均粒子径が約10nmの粒子から構成されており、本複合体がいわゆる有機無機ナノコンポジットであることが示された。無機成分として酸化アルミニウムに加えて他の金属酸化物を同時に複合化した材料も、実施例4及び実施例5に示した通り、2次元層構造を有し、無機材料層がナノメートルオーダーの板状微粒子より構成されることが明らかとなった、加えて、無機化合物の含有率も20質量%以上と高くすることもできた。また上記の特徴を持つ有機無機複合体を、常温常圧下での短時間の操作で得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体の倍率2万5千倍の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体の倍率2万5千倍の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体の倍率2万5千倍の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体の酸化アルミニウム層部分の倍率50万倍の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有する無機化合物層とが、2次元層構造を有する有機無機複合体。
【請求項2】
前記無機化合物層の平均層厚さが500nm以下である請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記無機化合物層間の平均層間隔が300nm以下である請求項1または2のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記無機化合物層の酸化アルミニウムが、平均粒子径5nm〜100nmの微粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項5】
前記無機化合物層の酸化アルミニウムが平均アスペクト比3以上の板状である請求項1〜4のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項6】
前記複合体100質量%中の酸化アルミニウムの含有率が10〜60質量%である請求項1〜5のいずれか記載の有機無機複合体。
【請求項7】
前記無機化合物層が酸化アルミニウム以外の、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属化合物を更に含有する請求項1〜6のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項8】
前記有機ポリマー層中のポリアミドが、20μm以下の平均繊維径と、10以上の平均アスペクト比の繊維形状を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の有機無機複合体。
【請求項9】
ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、反応させることを特徴とする請求項1〜8に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項10】
前記水溶液(B)が、少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物であって、アルミン酸アルカリを除く金属化合物(C)を更に含有する請求項9に記載の有機無機複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−160903(P2006−160903A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355274(P2004−355274)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】