有機無機複合分散液及びその製造方法、有機無機複合膜及びその製造方法、並びに部材
【課題】親水性に優れ、かつ親油性にも優れる有機無機複合膜及びその製造方法を提供する。また、前記有機無機複合膜を製造可能な有機無機複合分散液及びその製造方法を提供する。さらには、前記有機無機複合膜を用いた部材を提供する。
【解決手段】微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液である。前記有機無機複合分散液は、表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜の製造に好適である。
【解決手段】微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液である。前記有機無機複合分散液は、表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜の製造に好適である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合分散液及びその製造方法、有機無機複合膜及びその製造方法、並びに部材に関する。
【背景技術】
【0002】
物の表面が曇ることを防止したり、汚れが付着すること抑制するために、物を撥水加工することにより水を弾き易くしたり、反対に親水親油加工することにより水や油を物表面に付着しにくくすることが試みられている。また、実用上の便宜のため、上記のような撥水加工や親水親油加工がされた機能性膜を基材に積層することで、物表面の撥水性や親水親油性を発現することが一般的である。
【0003】
物表面を撥水加工した膜としては、基材上に、金属アルコキシドと、一次粒子径100nm以下のゾルと、所定の溶媒中でこれらと分相し且つ室温から700℃までの温度で除去される特性を有する物質と、が溶剤に添加された溶液もしくはエマルションからなる高硬度高滑水性膜形成用の塗布剤を塗布することで高硬度高滑水性膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、物表面を親水親油加工した膜としては、フィルムの透明性を維持し、超親水性を持ち、更に、実用強度に耐える表面強度を併せ持った低コストな親水親油性フィルムを提供することを目的として、プラスチックフィルムと前記プラスチックフィルム上の少なくとも片面に微小な凹凸を形成した無機硬質膜と前記無機硬質膜上の微小な凹凸上にシロキサン結合を介して形成させた化学吸着単分子膜とからなる親水親油性フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、表面を親水親油加工するにあたり、光触媒である酸化チタンを用いて両親媒性(親水親油性)を発現する方法も開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。例えば、特許文献4においては、表面の局所を光照射することにより、親水部と親油部がモザイク状に分散形成され、親水親油性を呈することが示されている。
【特許文献1】特開2001−207123号公報
【特許文献2】特開平7−82397号公報
【特許文献3】特開平10−166495号公報
【特許文献4】特開平11−337294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、親水親油性の膜を得るに際し、上記方法では親水親油加工が簡便でない。
上記事情に鑑み、本発明は、親水性に優れ、かつ親油性にも優れる有機無機複合膜及びその製造方法を提供することを目的とする。また、前記有機無機複合膜を製造可能な有機無機複合分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。さらには、前記有機無機複合膜を用いた部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液である。
【0008】
<2> 前記金属ヒドロキシドが水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上である前記<1>に記載の有機無機複合分散液である。
【0009】
<3> 前記金属ヒドロキシドが、水酸化ケイ素である前記<1>又は前記<2>に記載の有機無機複合分散液である。
【0010】
<4> 前記アニオン性基が、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である前記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液である。
【0011】
<5> 前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂がポリウレタン樹脂を含有する前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液である。
【0012】
<6> 表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜である。
【0013】
<7> 複合膜表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する前記<6>に記載の有機無機複合膜である。
【0014】
<8> 前記金属酸化物(A2)の微粒子の粒子径が、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%である前記<6>又は前記<7>に記載の有機無機複合膜である。
【0015】
<9> 前記非水溶性樹脂(b)の粒子が、粒径0.05μm〜1μmのアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子である前記<6>〜<8>のいずれか1つに記載の有機無機複合膜である。
【0016】
<10> 金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、
前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、
前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する有機無機複合分散液の製造方法である。
【0017】
<11> 前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する有機無機複合膜の製造方法である。
【0018】
<12> 前記<6>〜<9>のいずれか1つに記載の有機無機複合膜を、基材表面に積層した部材である。
【0019】
<13> 防曇フィルムである前記<12>に記載の部材である。
【0020】
<14> 帯電防止フィルムである前記<12>に記載の部材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、親水性に優れ、かつ親油性にも優れる有機無機複合膜及びその製造方法を提供することができる。また、前記有機無機複合膜を製造可能な有機無機複合分散液及びその製造方法を提供することができる。さらには、前記有機無機複合膜を用いた部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<有機無機複合分散液及びその製造方法>
本発明の有機無機複合分散液は、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である。
本発明の有機無機複合分散液は、支持体に塗布し、乾燥することにより親水性と親油性とを同時に発現可能な有機無機複合膜を製造することを可能にするものである。
まず、本発明の有機無機複合分散液の必須の構成成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子について説明する。以下、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を『(A1)成分』、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)を『(B)成分』と称することがある。
【0023】
〔金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)〕
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を構成する金属は、例えば、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi、希土類金属等が挙げられる。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を構成する金属は、単独でも2種以上から構成されてもよい。
上記の中でもSi、Al、Zr、Tiなどが好ましく用いられる。中でも珪素化合物は、比較的安価で入手しやすく、反応が緩やかに進行するため、工業的な利用価値が高い。
【0024】
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)は、例えば、金属アルコキシド(a)にアルコールや水を加えて加水分解反応することにより金属ヒドロキシドを生成し、さらに金属ヒドロキシドと金属ヒドロキシドとから脱水して縮合する反応により生成することができる。
【0025】
本発明の有機無機複合分散液は、金属アルコキシド(a)など、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成する化合物の未反応化合物や反応進行中の化合物を含有していてもよい。
【0026】
本発明の有機無機複合分散液を構成する成分である(A1)成分の金属ヒドロキシドは、水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、水酸化ケイ素であることがより好ましい。
【0027】
本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布し、乾燥することにより得られる有機無機複合膜が親水性と親油性とを同時に発現可能となることの詳細は後述するが、有機無機複合分散液中に金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を多く含有することで、親水性と親油性とを同時に発現可能な有機無機複合膜が製造することができる。
【0028】
〔アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子〕
本発明の有機無機複合分散液は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する。
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子は、水および水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系媒体)に不溶であるが、それらの媒体中で分散可能なアニオン性基を有する非水溶性樹脂を含有する粒子であり、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などのモノマーから樹脂粒子を合成する手法、および乳化分散法などのように樹脂や樹脂溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される粒子の存在下でモノマーの重合を行なって粒子の改質を行なったものなどのアニオン性基を有する非水溶性樹脂の粒子が含まれる。
【0029】
ここで、前記アニオン性基とは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である。その塩とは、具体的には、カルボキシ基のアミン塩やカルボキシ基のアンモニウム塩が挙げられる。前記アニオン性基は、(B)成分中に1種または2種以上含まれていてもよい。
非水溶性樹脂がアニオン性基を有しないと、分散安定性の良好な有機無機複合分散液を得ることができない。
アニオン性基は、カルボキシ基、スルホン酸基、カルボキシ基のアミン塩、カルボキシ基のアンモニウム塩、スルホン酸基のアミン塩、スルホン酸基のアンモニウム塩、スルホン酸基のナトリウム塩、スルホン酸基のカリウム塩が好ましく、カルボキシ基、カルボキシ基のアミン塩、カルボキシ基のアンモニウム塩がより好ましい。
【0030】
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の酸価は、特に限定されないが、有機無機複合分散液の保存安定性の観点から、1mgKOH/g〜100mgKOH/gであることが好ましく、5mgKOH/g〜50mgKOH/gであることがより好ましく、10mgKOH/g〜40mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0031】
アニオン性基を有する非水溶性樹脂は、水および水と水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系の媒体)に不溶である高分子、すなわち水中でも粒子状に分散化(エマルション化)できる高分子であり、疎水性のモノマーを重合してなる重合体や共重合体、さらには親水性のモノマーとの共重合体であってもよい。このような粒子は、たとえば光散乱法で粒径を測定できるものである。
【0032】
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂としては、水系媒体に分散可能な粒子になるものであればよく、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、AS樹脂、ABS樹脂、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートなどが例示される。アニオン性基を有する非水溶性樹脂はそれぞれ単独でも、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0033】
上記の中でも、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエンから選ばれる非水溶性樹脂が好ましく、その中でも特にポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデンが親水親油性のうち親油性の機能に優れるため好ましい。
【0034】
アニオン性基を有する非水溶性樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などの分散状態のモノマーから樹脂粒子を合成する手法、および乳化分散法などのようにポリマー化した樹脂粒子や樹脂粒子溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される粒子の存在下でモノマーの重合を行なうことにより得られ、このときアニオン性基を有する非水溶性樹脂が粒子化され水性分散液を得ることができる。
【0035】
乳化重合法は、非水溶性モノマー、乳化剤、水、重合開始剤から構成される原料を用いて非水溶性モノマーを重合する方法である。乳化剤は、連続相となる水中で粒子生成の場となるミセルを形成するとともに、生成する非水溶性樹脂粒子を安定に分散する役割を持ち、イオン性乳化剤または非イオン性乳化剤またはその両者が使用される。重合開始剤は水溶性過酸化物または水溶性アゾ系化合物が用いられるほか、アスコルビン酸―過酸化水素などのレドックス開始剤系が用いられる。
【0036】
懸濁重合法は非水溶性の重合開始剤を非水溶性のモノマーに溶かし、これを水中に機械的攪拌により懸濁させて加温することにより、モノマー液滴中で重合が進行し、非水溶性樹脂粒子の分散溶液を得る方法である。モノマー液滴の粒子化には、高速せん断を伴う攪拌が不可欠であり、また分散安定剤の選定により微小液滴を安定化させることができる。
【0037】
ミニエマルション重合法は、超音波発振器などで強いせん断力をかけることでモノマー液滴をサブミクロンサイズまで微細化して、重合を行なう方法であり、微細化されたモノマー油滴を安定化するためにハイドロホーブという難水溶性物質が添加される。前述の乳化重合法に比べて重合中モノマーが水相を拡散する必要がなく、理想的にはモノマー油滴が重合して各非水溶性樹脂粒子に変わる。
【0038】
分散重合法は、モノマーは水に可溶であるが、重合後に水に不溶になる非水溶性樹脂の場合に用いられる方法で、系には非水溶性樹脂の分散安定剤が添加される。
【0039】
乳化分散法は、乳化重合や懸濁重合など、ラジカル重合ではできないポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリブテン、エポキシ樹脂等の非水溶性樹脂の分散液を作製する方法であり、強制乳化法、自己乳化法、転送乳化法などがある。
【0040】
強制乳化法は、ポリマー溶液、あるいは熱で溶融したポリマーを、分散安定剤を含む水分散媒中に高圧ホモジナイザー、高圧ホモミキサー、押出混練機、オートクレーブ等で分散化する方法、高圧で噴射粉砕する方法、細孔より噴霧させる方法が挙げられる。
【0041】
自己乳化法は、非水溶性樹脂自身が有するアニオン性基の乳化能力により、水との混合で容易に乳化分散させる方法である。分散安定剤を用いずに樹脂を重合することができるため、本発明で好適に使用される方法である。
【0042】
転相乳化法は、非水溶性樹脂溶液中に乳化剤を溶解して水を徐々に添加するか、または樹脂溶液中に乳化剤水溶液を徐々に添加して攪拌混合により相反転を行わせて水が連続相である分散液(C)を作る方法である。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0043】
前記分散液(C)の調製にあたっては、異物などを除去する目的で、工程中に濾過工程を設けてもよい。このような場合には、たとえば、300メッシュ程度のステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)をおこなえばよい。
【0044】
分散液(C)を調製する場合における水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを使用可能であるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。また、上記方法における水と親和性を有する有機溶媒は、該他の分散質が可溶なものであれば特に限定されないが、例えばイソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、該他の分散質を含有した分散系を調製した後、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0045】
以下、アニオン性を有する非水溶性樹脂のとして好適な樹脂を用いた非水溶性樹脂の分散液として、ポリウレタン樹脂粒子分散液、およびポリスチレンおよびポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液、ならびにポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液について詳細に記述する。
【0046】
[ポリウレタン樹脂粒子分散液]
[ポリウレタン樹脂(i)]
本発明において好ましく用いられるポリウレタン系の非水溶性樹脂(i)は、アニオン性自己乳化型ポリウレタン樹脂を構成しており、ウレタン基およびウレア基の合計濃度が高く、かつアニオン性基を有する。前記ポリウレタン樹脂は、少なくとも、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)との反応により得ることができる。前記ポリウレタン樹脂は、さらに他の成分との反応により得られた共重合体であってもよく、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を30重量%以上含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)と、ポリオール成分(iv)及び鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一方の成分との反応により得ることもできる。前記(ii)ポリイソシアネート化合物は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。また、ポリオール成分(iv)は、炭素数2〜8のポリオールを90重量%以上含むポリオール化合物であってもよく、前記鎖伸長剤成分(v)は、例えば、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種である。
【0047】
ポリウレタン樹脂のウレタン基およびウレア基(尿素基)の合計濃度は、25〜60重量%(例えば、30〜55重量%)、好ましくは35〜55重量%(特に35〜50重量%)程度である。なお、ウレタン基濃度及びウレア基濃度とは、ウレタン基の分子量〔59g/当量〕又はウレア基の分子量〔一級アミノ基(アミノ基):58g/当量、二級アミノ基(イミノ基):57g/当量〕を、繰り返し構成単位構造の分子量で除した値を意味する。なお、混合物を用いる場合、ウレタン基およびウレア基の濃度は、反応成分の仕込みベース、すなわち、各成分の使用割合をベースとして算出できる。
【0048】
ポリウレタン樹脂のアニオン性基としては、上述したように、カルボキシル基、スルホン酸基などの酸基が例示できる。アニオン性基は、ポリウレタン樹脂の末端又は側鎖(特に少なくとも側鎖)に位置していてもよい。このアニオン性基は、酸基が中和剤(塩基)により中和された形態であってもよく、酸基が塩基と塩を形成している形態でよい。
【0049】
中和剤としては、慣用の塩基、例えば、有機塩基〔例えば、第3級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1−4アルキルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン、モルホリンなどの複素環式アミンなど)〕、無機塩基〔アンモニア、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)〕が挙げられる。これらの塩基は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。親油性の観点からは、揮発性塩基、例えば、トリエチルアミンなどのトリC1−3アルキルアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アンモニアが好ましい。
【0050】
なお、中和剤による中和度は、例えば、30〜100%、好ましくは50〜100%、特に75〜100%程度であってもよい。
【0051】
ポリウレタン樹脂(i)の数平均分子量は、800〜1,000,000、好ましくは800〜200,000、さらに好ましくは800〜100,000程度の範囲から選択できる。
【0052】
このようなポリウレタン樹脂(i)は、少なくともポリイソシアネート化合物(ii)(特にジイソシアネート化合物)とポリヒドロキシ酸(iii)(例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、特にジヒドロキシ酸)との反応により得ることができる。ポリウレタン樹脂(i)は、前記(ii)成分及び(iii)成分に加えて、ポリオール成分(iv)(特にアルキレングリコールなどのジオール成分)及び鎖伸長剤(v)(特に二官能性鎖伸長剤)から選択された少なくとも一種の成分との反応により得ることもできる。
【0053】
[ポリイソシアネート化合物(ii)]
ポリイソシアネート化合物(ii)には、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートなどが含まれる。ポリイソシアネート化合物としては、通常、ジイソシアネート化合物が使用される。
【0054】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(MDI)、4,4’−トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが例示できる。
【0055】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ω,ω′−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼンなどが例示できる。
【0056】
脂環族ジイソシアネートとしては、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロジイソシアネート、IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI(H12MDI),ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)などを挙げることができる。
【0057】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプエートなどを挙げることができる。
【0058】
ポリイソシアネート化合物(特にジイソシアネート化合物)(ii)としては、炭化水素環を有する化合物を含むポリイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。このような化合物としては、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネート(特にジイソシアネート)などが挙げられる。より具体的には、親油性の観点からは、芳香族ジイソシアネート(TDI、MDI、NDIなど)、芳香脂肪族ジイソシアネート(XDI、TMXDIなど)および脂環族ジイソシアネート(IPDI、水添XDI、水添MDIなど)が好ましく、特に、MDI、XDI、水添XDI、水添MDIなどが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートから選択された少なくとも一種のポリイソシアネート化合物の含有量は、ポリイソシアネート化合物(ii)全体に対して、30重量%以上(30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%)である。
【0060】
ポリイソシアネート化合物(ii)は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含むのが好ましい。キシリレンジイソシアネート及び/又は水添キシリレンジイソシアネートの割合は、通常、ポリイソシアネート化合物全体に対して20重量%以上(20〜100重量%)、好ましくは25〜100重量%、さらに好ましくは30〜100重量%である。
【0061】
これらのジイソシアネート成分は単独でまたは2種以上組み合わせて使用でき、さらに必要に応じて3官能以上のポリイソシアネートを併用することもできる。
【0062】
[ポリヒドロキシ酸(iii)]
ポリヒドロキシ酸(iii)には、カルボン酸やスルホン酸、特に、ポリヒドロキシカルボン酸及びポリヒドロキシスルホン酸から選択された少なくとも一種の有機酸が使用できる。
【0063】
ポリヒドロキシカルボン酸(特にジヒドロキシカルボン酸)としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸などのジヒドロキシC2−10アルカン−カルボン酸、ジオキシマレイン酸などのジヒドロキシC4−10アルカン−ポリカルボン酸又はジヒドロキシC4−10アルケン−ポリカルボン酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸などのジヒドロキシC6−10アレーン−カルボン酸などが例示できる。これらのポリヒドロキシ酸は単独または2種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリヒドロキシ酸は、ポリヒドロキシアルカンカルボン酸、特にジヒドロキシアルカン酸、例えば、ジヒドロキシC2−8アルカン−カルボン酸である。
【0064】
なお、前記ポリヒドロキシ酸は、塩の形態で使用してもよい。ポリヒドロキシ酸の塩としては、例えば、アンモニウム塩、アミン塩(トリアルキルアミン塩など)、金属塩(ナトリウム塩など)などが例示できる。
【0065】
ポリウレタン樹脂(i)は、少なくとも(ii)成分及び(iii)成分との反応により得ることができるが、ポリオール成分(iv)及び/又は鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一種と組み合わせて反応させる場合が多い。なお、ポリウレタン樹脂(i)の酸価は、前記ポリヒドロキシ酸(iii)の使用量により調整できる。
【0066】
[ポリオール成分(iv)]
ポリオール成分(特にジオール成分)(iv)としては、親油性の観点から、通常、低分子量グリコール、例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘプタンジオール、オクタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレングリコール)、(ポリ)オキシC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)などが使用される。好ましいグリコール成分は、C2−8ポリオール成分[例えば、C2−8アルキレングリコール(特に、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール)など]、ジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)であり、特に好ましいジオール成分はC2−8アルキレングリコール(特にC2−6アルキレングリコール)である。
【0067】
これらのジオール成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。さらに必要に応じて、芳香族ジオール、脂環族ジオールなどの低分子量ジオール成分を併用してもよい。さらに、必要により、3官能以上のポリオール成分を併用することもできる。
【0068】
ポリオール成分は、少なくともC2−8ポリオール成分(特に、C2−6アルキレングリコール)及び/又はジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコール成分を含むのが好ましい。ポリオール成分全体に対するC2−8ポリオール成分(特に、C2−6アルキレングリコール)及びジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコールの割合は、通常、90重量%以上(90重量%〜100重量%)である。
【0069】
[鎖伸長剤(v)]
鎖伸長剤には、活性水素原子を有する窒素含有化合物、特に、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種が使用される。鎖伸長剤としてのジアミン成分としては、例えば、脂肪族アミン(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどのC2−10アルキレンジアミンなど)、芳香族アミン(例えば、m−又はp−フェニレンジアミン、1,3−または1,4−キシリレンジアミンもしくはその混合物など)、脂環族アミン(例えば、水添キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなど)、ヒドロキシル基含有ジアミン[2−[(2’−アミノエチル)アミノ]エタノール、2−アミノエチルアミノプロパノール、2−(3’−アミノプロピル)アミノエタノール(3−(2’−ヒドロキシエチル)アミノプロピルアミン)などのアミノC2−6アルキルアミノC2−3アルキルアルコールなど]などが挙げられる。
【0070】
ヒドラジン、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン、ヒドロキシル基含有ヒドラジン(2−ヒドラジノエタノールなどのヒドラジノC2−3アルキルアルコールなど)、ジカルボン酸ヒドラジド[脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド(コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどのC4−20アルカン−ジカルボン酸ジヒドラジド)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(イソフタル酸ジヒドラジドなどのC6−10アレーン−ジカルボン酸ヒドラジドなど)など]などが挙げられる。これらの鎖伸長剤成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
これら鎖伸長剤のうち、親油性の観点から、通常、炭素数8以下(C2−8、特にC2−6)の低分子量の鎖伸長剤、例えば、ジアミン(例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−6アルキレンジアミン、2−アミノエチルアミノエタノール、キシリレンジアミンなど)、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体(例えば、2−ヒドラジノエタノール、アジピン酸ジヒドラジドなど)が使用される。なお、鎖伸長剤は、必要に応じて3官能以上のポリアミン成分(ポリアミン、ポリヒドラジドなど)を併用することができる。
【0072】
なお、必要であれば、ポリウレタン樹脂の調製において、イソシアネート基に対して反応性を有する化合物(例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールなど)を反応させてもよい。
【0073】
[ポリウレタン樹脂粒子分散液の調製方法]
ポリウレタン樹脂(i)の製造法は特に限定されないが、通常の自己乳化法を利用して調製できる。また、ウレタン化反応では必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒などウレタン化触媒を使用してもよい。より具体的には、不活性有機溶媒(特に、親水性又は水溶性有機溶媒)中、ポリイソシアネート化合物(ii)とポリヒドロキシ酸(iii)と必要によりポリオール成分(iv)とを反応させ、末端イソシアネート基を有するプレポリマーを生成させ、必要に応じてポリウレタン樹脂の酸基を中和剤で中和して水性媒体に分散した後、必要により鎖伸長剤成分(v)を添加して反応させ、有機溶媒を除去することによりポリウレタン樹脂分散液を調製できる。ポリウレタン樹脂分散体の体積平均粒径は、造膜性、親油性の面から、0.01μm〜1μmであることが好ましい。
【0074】
なお、活性水素原子を有する各成分[ポリヒドロキシ酸(iii)、ポリオール成分(iv)および鎖伸長剤成分(v)]の総量割合は、ポリイソシアネート化合物(ii)のイソシアネート基1モルに対して、各成分(iii)、(iv)及び(v)活性水素原子の(又は活性水素原子を有する有機基)の総量として0.5モル〜1.5モル、好ましくは0.7モル〜1.3モル、さらに好ましくは0.8モル〜1.2モル程度である。
【0075】
[ポリスチレン及びポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液]
ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液は、スチレン、アクリル酸エステルとビニル単量体を乳化重合して得られ、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル粒子分散体の体積平均粒径は、0.01μm〜1μmであり、造膜性、親油性の面から、0.01μm〜0.5μmが好ましい。なお、体積平均粒子径はマイクロトラックUPA(ハネウェル社製)を用いて測定された値である。
【0076】
本発明に使用されるビニル単量体は、特に制限されるものではないが、具体例としては、例えば、ラジカル重合に通常使用される単量体を挙げることができ、メチル−、エチル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、n−アミル−、イソアミル−、n−ヘキシル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−、デシル−、ドデシル−、オクタデシル−、シクロヘキシル−、フェニル−、ベンジル−等のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等;α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基を有する類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ誘導体;N−メチルアミノエチルアクリレート、N−メチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルアミノエステル類;ビニルピリジン等のモノビニルピリジン類;ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアルキルアミノ基を有するビニルエーテル類;N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等のアルキルアミノ基を有するアミド類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有する類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類、スチレンスルホン酸ナトリウム等の不飽和スルホン酸塩類;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート等のジアクリル酸エステルまたはジメタクリル酸エステル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;その他エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルアミド、クロロプレン等がある。これらのビニル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0077】
これらのビニル単量体の中でも、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類、アミド基含有類、水酸基含有類の中から選択するのがより好ましく、アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類の組み合わせが最も好ましい。
【0078】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液の製造は、通常の乳化重合法により行われる。用いられる界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンプロペニルアルキルフェニル硫酸アンモニウム等のアニオン系界面活性剤;脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、シュガー脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルセルロース等のノニオン系界面活性剤;アルキルアンモニウムクロライド、トリメチルアルキルアンモニウムブロマイド、アルキルピリジニウムクロライド、およびカゼイン等の両性界面活性剤;水溶性多価金属塩類などが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0079】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用されているものであればよく、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過酸化塩類、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等である。必要に応じて還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することもできる。
【0080】
エマルションを製造するには通常、前記の界面活性剤、重合開始剤の存在下に、ビニル単量体を一括、分割、あるいは連続的に添加して重合を行う。
【0081】
エマルションの粒径は、界面活性剤及び重合開始剤の使用量により制御される。界面活性剤の使用量を増加させれば粒径は小さくなり、また、重合開始剤の使用量を減少させれば粒径は小さくなる。
また、重量平均分子量は、連鎖移動剤の量により制御され、連鎖移動剤の量を増加させれば重量平均分子量は小さくなる。
【0082】
上記のようにして得られるエマルションの中和に用いる塩基性物質としては、前述の中和剤を挙げることができる。
【0083】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液には、必要に応じて、架橋剤を加えてもよい。架橋剤としては、例えば、多価金属イオンや、多価金属イオンのアンモニア及びアミン錯体(特にNH3を配位したもの)等が挙げられる。上記多価金属イオンとしては、水中に少なくとも1重量%程度の顕著な溶解性を有する酸化物、水酸化物または塩基性塩、酸性塩または中性塩の形態で組成物に添加することができる、ベリリウム、カドミウム、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、ビスマス、アンチモン、鉛、コバルト、鉄、ニッケル、または他の多価金属イオンが挙げられる。上記多価金属イオンのアンモニア錯体及びアミン錯体の形成が可能なアミンとしては、例えば、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、及びエチレンジアミン等が挙げられる。また、アルカリ性pH範囲で可溶化可能な有機酸の多価金属錯体塩も用いることができる。また、酢酸イオン、グルタミン酸イオン、ギ酸イオン、炭酸イオン、サリチル酸イオン、グルコール酸イオン、オクトン酸イオン、安息香酸イオン、グルコン酸イオン、蓚酸イオン及び乳酸イオン等の陰イオンも用いられる。また配位子がグリシンまたはアラニン等の二座アミノ酸である多価金属キレートも用いられる。また、その他の架橋剤として、アルキル化メラミン等の尿素樹脂系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤等及びこれら架橋剤を水性化したもの等が挙げられる。
【0084】
[ポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液]
本発明で使用されるポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液は、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルおよびこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から特開平11−35763に記載されている方法に従って製造することができる。好ましい塩化ビニリデンの使用範囲は89重量%〜93重量%、望ましくは90重量%〜92重量%であり、メタクリロニトリルは2重量%〜8重量%、望ましくは4重量%〜6重量%であり、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルは0.5重量%〜3重量%、望ましくは1重量%〜2重量%および0重量%〜3重量%のこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から、乳化重合によって得られる。
【0085】
ポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液の重合に用いる乳化剤、重合開始剤、界面活性剤等々の種類は特に限定しないが、その使用量は可能な限り少量であることが好ましく、乳化重合に引き続き、透析処理を施すことで可能な限り除去するのが、さらに望ましい。また、低分子量では熱、光に対する安定性が劣ることが知られており、耐変色性はこれら安定性と平行する関係が認められているので分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定された重量平均分子量にて10万以上であることが望ましい。
【0086】
ここで、本発明の有機無機複合分散液における微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子との分散態様を、図1〜図3を用いて説明する。
【0087】
図1は、本発明の有機無機複合分散液の分散態様の一例を示す模式図である。前記図1は、本発明の有機無機複合分散液を縦に割ったと仮定した場合の断面図である。
本発明の有機無機複合分散液は、図1に示すように、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4が、有機無機複合分散液中にエマルション粒子となって存在するアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2を被覆するように付着して有機無機複合分散液中に含有される。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子は、その全部がアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2に付着していてもよく、一部が付着していてもよい。
【0088】
前記図1で説明される本発明の有機無機複合分散液の分散態様は、TEM写真により観察することができる。
図2は、本発明の有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。図3は、有機無機複合分散液製造方法における加熱工程を経ずに調製した有機無機複合分散液(以下、「非加熱複合分散液」ともいう)を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【0089】
本発明の有機無機複合分散液の分散状態を示す図2には、大粒のアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の周辺に、小粒の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子が付着した状態の粒子6が確認される。また、該粒子6の周辺には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子4が散在する。前記粒子6は、黒く、濃く現されていることから、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に多くの金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子が被覆していることがわかる。
一方、非加熱複合分散液の分散状態を示す図3には、大粒のアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2が確認されるのみで、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)はほとんど存在していないことが確認される。図3のTEM像にて金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子がわずかに確認されるのは、非加熱複合分散液をTEM観察用支持膜上に展開し、TEMで電子線を当てる等して分散媒が濃縮していく過程の中で、非加熱複合分散液中ではリニア状であった金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が凝集するためと考えられる。
【0090】
このように、本発明の有機無機複合分散液には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子が確認されるが、非加熱複合分散液には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子が確認されない。
【0091】
〔液性(pH)〕
金属アルコキシドないし金属ヒドロキシドと非水溶性樹脂とを含有する組成物は、一般に分散安定性が悪く増粘し易いが、本発明の有機無機複合分散液は、非水溶性樹脂がアニオン性基を含有することで分散液の分散安定性を良好にし、分散液の液性をpH1〜pH5とすることで粘度を低く保つことができる。
【0092】
本発明の有機無機複合分散液の液性は、分散液の増粘を抑制する観点から、pH2〜pH4であることが好ましく、pH2.5〜pH3.5であることがより好ましい。
【0093】
〔(A1)成分と(B)成分との量比〕
本発明の有機無機複合分散液中の(A1)成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、(B)成分であるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、A1:Bが99:1〜1:99であることが好ましく、95:5〜5:95であることがより好ましく、90:10〜10:90であることがさらに好ましい。
【0094】
〔有機無機複合分散液の分散媒〕
本発明の有機無機複合分散液において、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)とを分散させるための分散媒は、水が中心であるが、水性の溶媒又はアルコールを用いることもできる。
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール等を用いることができる。前記水性の溶媒としては、水、又は、水と水に溶解するアルコール、酸、塩基等とを混合した液体を用いることができる。
アルコール、酸、及び塩基等は、有機無機複合分散液の分散安定性が不安定にならないように添加することが好ましい。
【0095】
〔粒子径〕
本発明の有機無機複合分散液において、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の各粒子径は、前述した図2、図3のような、有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像から実測した粒子径(最大径)として求めた大きさをいう。
【0096】
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子は、本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布・乾燥して得られる有機無機複合膜の親水性と親油性とを向上するため、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であることが好ましい。
また、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径は0.05μm〜1μmであることが好ましく、0.06μm〜0.5μmであることがより好ましい。
【0097】
〔粘度〕
本発明の有機無機複合分散液の粘度は、有機無機複合膜の製造、より具体的には有機無機複合分散液の支持体上への塗布の観点から、0.1mPa・s〜100mPa・sであることが必要である。
本発明の有機無機複合分散液の粘度は、0.5mPa・s〜50mPa・sであることが好ましく、1mPa・s〜10mPa・sであることがより好ましい。
【0098】
〔有機無機複合分散液の製造方法〕
本発明の有機無機複合分散液の製造方法は、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する。加熱温度は35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。
【0099】
前記第1混合液調製工程では、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(以下、「分散液d」ともいう)を混合してpH7〜pH9の第1混合液を調製する。
【0100】
−金属アルコキシド(a)−
本発明において、前記金属アルコキシド(a)は、下記式(1)で表される化合物である。以下、「金属アルコキシド(a)」を『(a)成分』とも称する。
【0101】
(R1)xM(OR2)y (1)
【0102】
前記式(1)中、R1は、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基など)、炭素−炭素二重結合含有有機基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、又はハロゲン含有基(例えば、クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)などを表す。
R2は、炭素数が1以上6以下、好ましくは炭素数が1以上4以下の低級アルキル基を表す。
xおよびyは、x+y=4かつ、x≦2となる整数を表す。
【0103】
Mは、金属アルコキシド(a)を構成する金属であり、前記金属ヒドロキシドを構成する金属と同じ金属を挙げることができる。金属アルコキシド(a)を構成する金属は、単独でも2種以上から構成されてもよい。
中でもSi、Al、Zr、Tiなどが好ましく用いられる。中でも珪素化合物は、比較的安価で入手しやすく、反応が緩やかに進行するため、工業的な利用価値が高い。
【0104】
金属アルコキシド(a)は、具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、これらに対応するアルコキシアルミニウム、アルコキシジルコニウム、アルコキシチタンが挙げられる。
【0105】
本発明において、金属アルコキシド(a)としては、上記式(1)において、Mがシリコン(Si)であるアルコキシシラン、Mがジルコニウム(Zr)であるアルコキシジルコニウム、Mがアルミニウム(Al)であるアルコキシアルミニウムおよびMがチタン(Ti)であるアルコキシチタンが好ましく、特にMがシリコン(Si)であるアルコキシシランが好ましい。
【0106】
前記金属アルコキシド(a)は、本発明の有機無機複合分散液の構成成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成可能な他の化合物に代えてもよいが、保存安定性、ハンドリング性、反応速度等の観点から金属アルコキシド(a)を用いることが最も好ましい。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成可能な他の化合物としては、金属ハライド、金属ジケトネート、金属酢酸塩、金属カルボン酸塩等を挙げることができる。
【0107】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法における前記第1混合液調製工程では、前記金属アルコキシドをアルコール溶液または水性溶液として用いる。金属アルコキシドの加水分解反応を促進するためである。
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール等を用いることができる。水性溶液を調製するための水性の溶媒としては、水、又は、水と水に溶解するアルコール、酸、塩基等とを混合した液体を用いることができる。
アルコール、酸、塩基等は、前記第1混合液の分散安定性が不安定にならないように添加することが好ましい。
【0108】
前記第1混合液調製工程において、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液を用いるとき、金属アルコキシド(a)は、前記アルコール100重量部に対し、1重量部〜1000重量部添加することが好ましく、10重量部〜500重量部添加することがより好ましい。
また、金属アルコキシド(a)の水性溶液を用いるとき、金属アルコキシド(a)は、前記水性の溶媒100重量部に対し、1重量部〜1000重量部添加することが好ましく、10重量部〜500重量部添加することがより好ましい。
【0109】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法における前記第1混合液調製工程では、上述のようにして得られる金属アルコキシド(a)を含有するアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(d)を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する。
金属アルコキシド(a)を含有するアルコール溶液または水性溶液と分散液(d)との混合は、第1混合液の分散安定性が不安定にならないように、室温で攪拌しながら静かに混合することが好ましい。
なお、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(d)は、既述のように樹脂粒子のエマルションとして調製することができる。
【0110】
ここで、金属アルコキシド(a)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、a:Bが重量基準で、99.9:0.1〜0.1:99.9であることが好ましく、99.5:0.5〜0.5:99.5であることがより好ましく、99:1〜1:99であることがさらに好ましい。
【0111】
また、第1混合液の液性をpH7〜pH10とするには、公知の酸(例えば、塩酸水溶液)と公知の塩基(例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等)を適宜用いて、液性を調整することができる。液性調整のため酸と塩基を第1混合液に添加するときは、室温で攪拌しながら行うことが好ましい。
第1混合液の液性はpH7.5〜pH9が好ましく、pH7.8〜pH8.5がより好ましい。
【0112】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、第2混合液調製工程では、前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する。
前記第1混合液に酸触媒を添加することで、金属アルコキシド(a)の加水分解・縮合反応における反応を促進させるものである。
第2混合液調製工程において、第1混合液に酸触媒を添加しないと、第1混合液は増粘してゲル化するため、目的の有機無機複合分散液を製造することができず、有機無機複合膜を製造することもできない。
【0113】
金属アルコキシド(a)の酸触媒として使用されるものは、「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」(平島碩著、株式会社総合技術センター、29頁)や「ゾル−ゲル法の科学」(作花済夫著、アグネ承風社、154頁)等に記載されている一般的なゾル−ゲル反応で用いられる酸触媒である。
【0114】
具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、トルエンスルホン酸等の無機および有機酸類などが挙げられる。
【0115】
第2混合液の液性は、pH2〜pH4とすることが好ましく、pH2.5〜pH3.5とすることがより好ましい。
【0116】
反応性の観点から、比較的穏やかに反応が進行する塩酸、硝酸等を使用することが好ましい。酸触媒の使用量は、前記金属アルコキシド(a)1モルに対して0.001モル〜0.05モルとすることが好ましく、0.001モル〜0.04モルとすることがより好ましく、0.001モル〜0.03モルとすることがさらに好ましい。
【0117】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、加熱工程では、第2混合液調製工程で得られた第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する。
第2混合液を、30℃〜90℃に加熱することで、金属アルコキシド(a)の加水分解と脱水縮合反応を進み易くすることができ、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が生成し易くなる。
【0118】
第2混合液の加熱温度は、金属アルコキシド(a)の加水分解と脱水縮合反応の反応速度の観点から、35℃〜80℃であることが好ましく、38℃〜75℃であることがより好ましい。
また、第2混合液の加熱時間は、加熱温度との関係から適宜調整されるものであるが、1分〜240分であることが好ましく、5分〜180分であることがより好ましい。
好ましい加熱温度と加熱時間の組み合わせは、35℃〜80℃で1分〜240分間の加熱が好ましく、38℃〜75℃で5分〜180分間の加熱がより好ましい。
【0119】
本発明の有機無機複合分散液は、本発明の効果を損なわない限度において、無機粒子、水溶性ポリマー等他の成分を含有していてもよい。
無機粒子としては、シリカ、ジルコニウム、チタニア、アルミナ、タルク等があり、有機無機複合分散液の全質量に対して0.1重量部〜100重量部含有することができる。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマーがあり、有機無機複合分散液の全質量に対して0.1重量部〜100重量部含有することができる。無機粒子または水溶性ポリマーは、液性の安定性のため、本発明の加熱工程の後で添加することが好ましい。
【0120】
<有機無機複合膜>
本発明の有機無機複合膜は、表面が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である。
【0121】
本発明の有機無機複合膜は、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面が、金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された構造を有することで、親水性と親油性の両方を同時に発現し、水に対する接触角が20°以下となり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下となるものと考えられる。非水溶性樹脂(b)の粒子の表面が、金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された構造及び本発明の有機無機複合膜が親水性と親油性を同時に発現することの関係を、まず、図4〜6を用いて説明する。
ここで、図4および図5は、本発明の有機無機複合分散液を用いて製造した本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図であり、図6は、本発明の有機無機複合分散液製造方法における加熱工程を経ずに調製した有機無機複合分散液(非加熱複合分散液)を用いて製造した有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【0122】
本発明の有機無機複合膜は、所定の方法により金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合した混合液(第2混合液)をさらに加熱混合することにより得られる本発明の有機無機複合分散液を、支持体に塗布し、乾燥することに得ることができる。
前記第2混合液を加熱することなく、支持体に塗布し、乾燥して有機無機複合膜を得た場合、すなわち、非加熱複合分散液を支持体に塗布し、乾燥して有機無機複合膜を得た場合(このときの有機無機複合膜を「非加熱複合膜」とも称する)の、有機無機複合膜中の非水溶性樹脂(b)と、金属アルコキシド(a)とは、図6に示すような態様で存在すると考えられる。
非加熱複合分散液中の非水溶性樹脂(b)は、金属アルコキシド(a)に比べ表面自由エネルギーが小さいことから、図6に示すように、非水溶性樹脂の粒子2bと金属アルコキシド8とを含有する非加熱複合膜の表面には、一般に、親油性の非水溶性樹脂の粒子2bが露出し易い。したがって、非加熱複合膜は、もっぱら親油性を呈するものと思われる。
【0123】
しかし、金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合して得た本発明における第2混合液を、さらに加熱混合することにより、金属アルコキシド(a)の加水分解反応と脱水縮合反応が、室温での反応時に比べ進み易く、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成し易い。このとき、前述の図1に示すように、該金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4が、非水溶性樹脂(b)であるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2に付着して、前記図2に示すような微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)で被覆されたアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子得られるものと考えられる。
金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合して得た混合液の液性を整え、さらに加熱混合することにより金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有する本発明の有機無機複合分散液が得られる。
【0124】
さらに、本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布し乾燥することにより、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)はさらに脱水して金属酸化物(A2)を生成する。このようにして、親油性の非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を親水性の金属酸化物(A2)が被覆した構造を有する膜が得られるものと思われる。
【0125】
非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する膜は、図4に示すように、非水溶性樹脂(b)の粒子2bの表面を、非水溶性樹脂(b)の粒子よりも粒径が小さい金属酸化物(A2)の微粒子10が、フラクタル状に被覆しているものと思われる。このような構造形態をとることで、前記膜は、図5に示すように、金属酸化物(A2)の微粒子10と金属酸化物(A2)の微粒子10との間に隙間が生じ、非水溶性樹脂(b)の粒子2bが完全に覆われることなく被覆されるものと思われる。このように隙間があることで、油性の溶媒が本発明の有機無機複合膜の表面に接触したときは、前記隙間を通じて親油性の非水溶性樹脂が作用するものと推察される。
したがって、本発明の有機無機複合膜は、膜表面に存在する親水性の金属酸化物(A2)により親水性を呈すると同時に、隙間を通じて作用する親油性の非水溶性樹脂により親油性をも呈するものと考えられる。
【0126】
図5に示すような構造は、図7に示すような有機無機複合膜表面をAFMで観察することにより確認することができる。
図7は、本発明の有機無機複合膜の表面の一例を示すAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。具体的には、図7の(A)から、大粒に示される非水溶性樹脂(b)の粒子2bの周辺に、小粒の金属酸化物(A2)の微粒子10が散在していることが確認される。
【0127】
上記構造により、有機無機複合膜表面に水が接触したときには、親水性の金属酸化物(A2)の作用により有機無機複合膜表面はぬれ易く(水に対する接触角が小さい)、有機無機複合膜表面にn−ヘキサデカン等の油が接触したときには、親油性の非水溶性樹脂(b)の粒子の作用により有機無機複合膜表面はぬれ易く(n−ヘキサデカンに対する接触角が小さい)なるものと考えられる。
ここで、本発明の有機無機複合膜表面に対する水及びにn−ヘキサデカンに対する接触角は、23℃、RH50%において協和界面化学(株)製接触角計「CA−XE型」を用いて測定された値をいう。
水に対する接触角は23℃、RH50%において、20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。また、n−ヘキサデカンに対する接触角は、23℃、RH50%において、20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
【0128】
本発明の有機無機複合膜において、金属酸化物(A2)と非水溶性樹脂(b)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、A2:bが、99:1〜1:99であることが好ましく、95:5〜5:95であることがより好ましく、90:10〜10:90であることがさらに好ましい。
【0129】
本発明の有機無機複合膜において、非水溶性樹脂(b)の粒子は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であっても、アニオン性基を有さない非水溶性樹脂の粒子であってもよく、水および水と水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系の媒体)に不溶である高分子であれば特に制限されない。
【0130】
ただし、本発明の有機無機複合膜を、支持体上に有機無機複合分散液を塗布して製造するときには、有機無機複合分散液が、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有し、pH1〜pH5であること、すなわち、本発明の有機無機複合分散液を用いることが重要である。本発明の有機無機複合分散液を用いれば、分散液の粘度が低いため(1mPa・s〜10mPa・s)支持体に有機無機複合分散液を塗布し易く、有機無機複合分散液の分散安定性がよいため、支持体上に均一に微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を塗布することができる。
【0131】
このように、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有し、低粘度で分散安定性のよい有機無機複合分散液を得るためには、非水溶性樹脂(b)の粒子は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であることが必要である。従って、本発明の有機無機複合膜を、支持体上に有機無機複合分散液を塗布して製造するときには、本発明の有機無機複合分散液を用いることが必要である。
【0132】
本発明の有機無機複合膜は、有機無機複合膜の表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)が被覆した構造を有することが好ましい。表面が凹凸であることにより金属ヒドロキシドの脱水縮合物の微粒子の付着量を増やすことができ、それによって親水性を高めることができるからである。当該構造を図7〜図10を用いて説明する。
【0133】
前述したように、図7は、本発明の有機無機複合膜の表面をAFM(原子間力顕微鏡)により表面構造観察したAFM像である。(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。図8は、非加熱複合分散液を用いて得た有機無機複合膜の表面をAFMにより表面構造観察したAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
高さ像は膜表面の凹凸を観察したものであり、白く明るく示されている箇所は高く凸状であることを示し、暗く示されている箇所は低く凹状であることを示す。位相像は膜表面の硬さを観察したものである。
【0134】
図9の(A)は本発明の有機無機複合分散液の製造方法における加熱工程(第2混合液を50℃で攪拌)を経て得られた有機無機複合分散液を用いて製造した本発明の有機無機複合膜の断面をTEMで観察したTEM像であり、(B)は膜の表面を拡大した拡大図である。
図10の(A)は本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、加熱工程を経ていない(第2混合液を25℃で攪拌)分散液(非加熱分散液)を用いて製造した有機無機複合膜(非加熱複合膜)の断面をTEMで観察したTEM像であり、(B)は非加熱複合膜の表面を拡大した拡大図である。
【0135】
図7(A)には、大粒の非水溶性樹脂(b)の粒子2bと、金属酸化物(A2)の微粒子10とが、それぞれ白く示されているのがわかる。つまり、本発明の有機無機複合膜の表面は、非水溶性樹脂(b)の粒子2bにより形成された凹凸表面と金属酸化物(A2)の微粒子10により形成された凹凸表面とで構成されていることがわかる。
また、図7(B)に示す位相像は、像の色の濃淡が一様であることから、本発明の有機無機複合膜の表面は硬さが一面に亘って同程度であることがわかる。これにより非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面の上に金属酸化物(A2)が被覆しているものと考えられる。
【0136】
さらに図9に示すTEM像には、支持体14上に有機無機複合分散液を塗布して乾燥させた層であるコーティング層12が設けられて形成された有機無機複合膜が示されている。図9に示す有機無機複合膜は、有機無機複合分散液として加熱工程(50℃)を経て製造された本発明の有機無機複合分散液を用いて製造されており、本発明の有機無機複合膜である。
【0137】
有機無機複合分散液を支持体に塗布し、乾燥することにより、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)がさらに脱水して金属酸化物(A2)を形成し、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を、親水性の金属酸化物(A2)が被覆した構造を有する膜が得られるプロセスについては前述のとおりである。
有機無機複合分散液として本発明の有機無機複合分散液を用いた場合、表面に金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が被覆した非水溶性樹脂(b)の粒子が得られると推測される。このような本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布して乾燥することで、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面に金属酸化物(A2)が被覆する構造を有する有機無機複合膜が形成されると考えられる。
その有機無機複合膜の表面の構造が図9の(B)に示されている。すなわち、白い塊として示される非水溶性樹脂(b)の粒子2bを被覆するように、膜表面に金属酸化物(A2)の微粒子の群18が存在している。
【0138】
一方、本発明の有機無機複合分散液の製造方法における第2混合液を加熱せずに25℃で攪拌して得た分散液(非加熱分散液)を用いて製造した非加熱複合膜は、金属アルコキシド(a)の加水分解・脱水縮合反応が進みにくく、図6の模式図に示されるように、非加熱複合膜の表面には非水溶性樹脂(b)の粒子2bが露出しているものと考えられる。
図8(A)に示すAFMの高さ像には、主として非水溶性樹脂(b)の粒子2bが確認され、金属酸化物(A2)の微粒子は確認しにくい。また、図8(B)に示す位相像にも主として大粒の非水溶性樹脂(b)の粒子2bが確認され、非水溶性樹脂(b)の粒子2bが表面に露出して、膜表面の硬さも一様でないことがわかる。
【0139】
さらに、図10の(B)に示されるTEM像からは、非加熱複合膜の表面に非水溶性樹脂(b)の粒子2bが露出して存在していることがわかる。
図10に示すTEM像は、支持体14上に非加熱分散液を塗布して乾燥させた層であるコーティング層20が設けられて形成された非加熱複合膜が示されている。
【0140】
なお、図9及び図10に示される保護層16は、本発明の有機無機複合膜及び非加熱複合膜をTEMで測定するときに、各複合膜を損傷しないように覆い被せた膜である。
【0141】
金属酸化物(A2)の微粒子は、非水溶性樹脂(b)の粒子よりも小さい粒径であることで、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面に配置され易く、有機無機複合膜を形成したときに親水性と親油性を同時に発現可能な作用を発揮することができるものと考えられる。
そのため、金属酸化物(A2)の微粒子は、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であることが好ましく、1%〜50%であることがより好ましい。
ここで、金属酸化物(A2)の微粒子と非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径は、有機無機複合膜の断面をTEMで観察したTEM像の観察結果により得られる最大径をいい、「金属酸化物(A2)の微粒子が非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であること」は、TEM像の図中の金属酸化物(A2)の微粒子径と非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径を実測し、その比から算出して得た値である。
【0142】
本発明の有機無機複合膜を、有機無機複合分散液の支持体上への塗布により製造する観点から、非水溶性樹脂(b)の粒子はアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であることが好ましい。アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径は0.05μm〜1μmであることが好ましく、0.06μm〜0.5μmであることがより好ましい。
【0143】
本発明の有機無機複合膜の製造方法は、既述の本発明の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する。
より具体的には、支持体上に、本発明の有機無機複合分散液を塗布して形成されるコーティング層を設け、コーティング層を加熱・乾燥することにより行なう。本発明の有機無機複合膜の効果を損なわない限度において、コーティング層と支持体との間に中間層を形成してもよい。
【0144】
コーティング層の加熱温度は、金属ヒドロキシドの脱水縮合物の更なる脱水を進める観点から、100℃〜200℃で行うことが好ましく、105℃〜150℃で行うことがより好ましい。
また、コーティング層の加熱時間は、金属ヒドロキシドの脱水縮合物の更なる脱水を進める観点から、1分〜360分で行うことが好ましく、3分〜150分で行うことがより好ましい。
【0145】
このコーティング層の層厚(加熱・乾燥後の層厚)は、0.05μm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜10μmであることがより好ましい。
【0146】
〔支持体〕
本発明の有機無機複合膜の製造に用いる支持体は、ガラス板、金属板やプラスチック基材など、特に制限されないが、加工の便宜性の観点からプラスチック基材を好ましく用いることができる。
【0147】
プラスチック基材に用いられる樹脂の種類として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンコポリマーなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、AB樹脂、ABS樹脂、PEEK樹脂、PEK樹脂、PES樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂の混合物、またはこれらの樹脂の積層体であってもよい。これらの樹脂がフィルムの場合には未延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。
更に、プラスチック基材の表面をコロナ処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、アルカリ処理等の表面改質を行い、コーティング層の密着性を向上させることも可能である。
【0148】
前記中間層としては、コーティング層と支持体との密着性を向上するため、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、変性アクリレート系接着剤などを用いた接着剤層や、公知の粘着材を用いた粘着剤層を挙げることができる。
【0149】
[有機無機複合膜の用途]
本発明の有機無機複合膜は、基材に積層して種々の部材として用いることができる。
基材としては、前記支持体と同等の基板、フィルム等を用いることができる。また、前記ブラスチック基材を基材フィルムとして用い、基材フィルムに本発明の有機無機複合膜を積層して防曇フィルムあるいは、帯電防止フィルムとして用いることができる。
【0150】
また、本発明の有機無機複合膜が水系溶媒及び油性溶媒のいずれにも濡れ易い機能を有することを利用して、水性又は油性の塗料を塗布等するためのプライマーとして本発明の有機無機複合膜を用いることもできる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は重量基準である。
【0152】
[実施例1]
(有機無機複合分散液の調製)
−第1混合液調製工程−
(B)成分であるアニオン性の非水溶性樹脂の粒子として、三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション(製品名 WPB−6601/自己乳化型、カルボン酸・アミン塩含有タイプ、固形分25重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P1を調製した。
以下、有機無機複合分散液を単に「複合分散液」と記す場合がある。
次に、(a)成分である金属アルコキシドとして、テトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌し、TMOS溶液M1を得た。
得られたTMOS溶液M1に5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−1を得た。
【0153】
−第2混合液調製工程−
その後、酸触媒である0.1N−塩酸13.5重量部を第1混合液K1−1中に徐々に滴下し、pHを3として第2混合液K2−1を得た。
【0154】
−加熱工程−
その後、第2混合液K2−1を50℃で1時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D1を得た。
【0155】
(有機無機複合膜の作製)
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D1を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D1は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C1を形成した。
その後、コーティング層C1を110℃で1.5時間加熱し、実施例1の有機無機複合膜を得た。
【0156】
[実施例2]
(a)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部に蒸留水15重量部を添加し室温で攪拌してTMOS溶液M2を得た。
得られたTMOS溶液M2に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−2を得た。
その後、第1混合液K1−2に0.1N−塩酸13.5重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−2を得た後、第2混合液K2−2を40℃で10分攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D2を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D2を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D2は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C2を形成した。
その後、コーティング層C2を110℃で1.5時間加熱し、実施例2の有機無機複合膜を得た。
【0157】
[実施例3]
(A)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)11.5重量部に蒸留水15重量部を添加し室温で攪拌してTMOS溶液M3を得た。
得られたTMOS溶液M3に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(32.5重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−3を得た。
その後、第1混合液K1−3に0.1N−塩酸15重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−3を得た後、第2混合液K2−3を70℃で2時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D3を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D3を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D3は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C3を形成した。
その後、コーティング層C3を110℃で1.5時間加熱し、実施例3の有機無機複合膜を得た。
【0158】
[実施例4]
(B)成分として、三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB363/自己乳化型、カルボン酸・アンモニウム塩含有タイプ、固形分25重量%〕を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P2を調製した。
実施例2で調製したTMOS溶液M2に、5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P2(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−4を得た。
その後、第1混合液K1−4に0.1N−塩酸21重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−4を得た後、第2混合液K2−4を50℃で2時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D4を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D4を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D2は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C4を形成した。
その後、コーティング層C4を110℃で1.5時間加熱し、実施例4の有機無機複合膜を得た。
【0159】
[実施例5〜実施例9]
実施例1〜実施例3と同様にして、表1に示す条件で有機無機複合分散液D5〜D9を調製した。厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、表1に示す成分・量で調製した有機無機複合分散液D5〜D9を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.3μmとなるように塗布した。その後、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0160】
[比較例1]
実施例1で調製したTMOS溶液M1に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−1を得た。
その後、酸触媒を添加しない状態で10分間放置したところ、急激に液が増粘しゲル化を起こしたため、有機無機複合膜を得ることができなかった。
【0161】
[比較例2]
実施例1と同様にして第2混合液K2−1を得た後、直ちに厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した第2混合液K2−1を、バーコーターを用いて塗布した。第2混合液K2−1は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C102を形成した。
その後、コーティング層C102を110℃で1.5時間加熱し、比較例2の有機無機複合膜を得た。
【0162】
[比較例3]
実施例3と同様にして第2混合液K2−3を得た後、直ちに厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した第2混合液K2−3を、バーコーターを用いて塗布した。第2混合液K2−3は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C103を形成した。
その後、コーティング層C103を110℃で1.5時間加熱し、比較例3の有機無機複合膜を得た。
【0163】
[比較例4]
(B)成分として、三井化学ポリウレタン(株)製ノニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 W−635/PEG含有タイプ、固形分35重量%〕を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P3を調製した。
実施例1で調製したTMOS溶液M1に、(B)成分として5重量%ポリウレタンエマルションP3(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを6.8として、第1混合液K1−101を得た。
その後、第1混合液K1−101に0.1N−塩酸13.5重量部を徐々に滴下しpHを2として第2混合液K2−101を得た後、第2混合液K2−101を50℃で10分攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D101を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D101を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D101は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C104を形成した。
その後、コーティング層C104を110℃で1.5時間加熱し、比較例4の有機無機複合膜を得た。
【0164】
[比較例5]
三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB−6601〕を、直接、厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、バーコーターを用いて塗布した。
アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB−6601〕は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C105を形成した。
その後、コーティング層C105を、110℃で1.5時間加熱し、比較例5の有機無機複合膜を得た。
【0165】
なお、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例4の有機無機複合膜中に占めるシリカの含有の割合(含有率)を以下の方法で算出し、下記表1に示した。
【0166】
−シリカ(SiO2)含有率の算出方法−
有機無機複合膜中のシリカ含有率は、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例4における(A)成分であるTMOSが100%反応し、SiO2になったと仮定して算出した。
すなわち、TMOSの分子量(Mw)を152、SiO2の分子量(Mw)を60としたとき、SiO2/TMOS=60/152=0.395である。
つまり、TMOSの添加量に0.395を掛けた値が、有機無機複合膜中のSiO2含有量となる。これより、シリカ(SiO2)含有率は、以下の式(2)を用いて計算した。
【0167】
シリカ(SiO2)含有率
=[TMOS]×0.395/([B]+([TMOS]×0.395)) (2)
【0168】
上記式(2)において、[B]は、(B)成分であるウレタン樹脂を含有するウレタンエマルションP1〜P3の各重量部を示し、[TMOS]は、TMOSの重量部を示す。
たとえば、実施例1の有機無機複合分散液の場合、シリカ(SiO2)含有率は、
複合分散液中のシリカ(SiO2)含有量=(10×0.395)=3.95、
複合分散液中のエマルション粒子含有量=(65×0.05)=3.25、
シリカ(SiO2)含有率(%)=3.95/(3.25+3.95)×100=55
である。
【0169】
なお、pHは、メトラー社製pHメーター「MP225」を用いて測定し、粘度は、東機産業(株)社製E型粘度計「TV−22形」を用いて測定した。
【0170】
(有機無機複合分散液等中のA1微粒子の有無の評価)
実施例1〜実施例9で得た有機無機複合分散液D1〜D9、比較例1で得たゲル状物、及び比較例2で得た第2混合液K2−2、比較例3で得た第2混合液K2−3、及び比較例4で得た有機無機複合分散液D101中の、A1微粒子、すなわち、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の有無を、TEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いた目視観察により調べた。
評価結果を下記表1に示す。評価基準は、次のとおりである。
−評価基準−
○:ウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察された。
×:ウレタン樹脂粒子表面にシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察されない。
【0171】
実施例3で得た有機無機複合分散液D3については、前記図2として示すTEM像が得られ、比較例3で得た第2混合液K2−3については、前記図3として示すTEM像が得られた。
なお、有機無機複合分散液D3及び第2混合液K2−3のTEM像は、D3及びK2−3を、それぞれ水で希釈し、TEM観察用支持膜上に展開し、乾燥させたサンプルについてTEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察することにより得た。
【0172】
図2からわかるように、実施例3のD3においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度の微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)によって被覆された特徴的な構造が観察された。
一方、比較例3のK2−3においては、図3からわかるように、エマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面に特徴的な構造は観察されなかった。
なお、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0173】
【表1】
【0174】
前記表1中、シリカ含有率の単位は〔重量%〕であり、A1成分、希釈溶媒、B成分および酸触媒の量の単位は〔重量部〕である。
【0175】
[有機無機複合膜の評価]
以上により得られた実施例1〜実施例9及び比較例2〜比較例5の有機無機複合膜について、以下の評価を行った。
【0176】
(1.接触角)
協和界面化学(株)製接触角計「CA−XE型」を使用し、有機無機複合膜表面上に滴下した液滴の接触角を液滴法により測定した。液体は、蒸留水およびn−ヘキサデカン(n−C16H34)を用いた。実施例1〜実施例9及び比較例2〜比較例5の有機無機複合膜について評価した結果を表2に示す。
【0177】
【表2】
【0178】
(2.表面凹凸)
Vecco社製原子間力顕微鏡(AFM)ナノスコープIIIAを用いて、実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜の表面凹凸を評価した。測定は、タッピングモードで行った。
実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜のAFM像を、図11〜13に示す(実施例1;図11、比較例2;図12、比較例5;図13)。
【0179】
実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜のいずれも、エマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子の粒径を反映した50から100nm程度の凹凸形状が見られた。さらに、両親媒性を示す実施例1においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が粒径(最大径)5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な凹凸構造が観察された。一方、比較例2、及び比較例5ではシリカ粒子による凹凸構造は観察されなかった。
【0180】
(3.膜断面の形状観察)
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜を用い、Al2O3蒸着PET基板(東セロ(株)製、TL−PET)にコートしたサンプルを収束イオンビーム(FIB)加工によって切片を切り出した。続いて、この膜断面の形状をTEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察した。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のTEM像を、図14の(A)(実施例1)及び図15の(A)(比較例2)に示す。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のいずれも粒径50nm〜100nm程度のエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子が観察された。なお、ウレタン樹脂粒子の粒径は、TEM像の図中のウレタン粒子の粒子径(最大径)を実測した。
【0181】
さらにEELS(電子エネルギー損失分光-マッピング法)により、有機無機複合膜の詳細を調べた。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のEELS像を、図14の(B)〜(D)(実施例1)及び図15の(B)〜(D)(比較例2)に示す。
両親媒性を示す実施例1の有機無機複合膜においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察された。なお、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0182】
(4.膜表面の組成分析)
VG社製ESCALAB220iXL(X線源AlKα)により、コートしたサンプル表面の元素の組成率を測定した。すなわちサンプルのワイドスペクトルより検出された元素についてさらにナロースペクトルを測定し、そのピーク面積より組成率を計算した。
実施例2、実施例3、及び比較例2の有機無機複合膜の表面の組成比を求めた結果を表3に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
表面凹凸、膜断面の形状観察から、両親媒性を示すコーティング膜においてはエマルション粒子に由来する粒径(最大径)50nm〜100nm程度のウレタン樹脂粒子表面に、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子により被覆された様子が観察され、この特徴的な構造が両親媒性を示す要因の一つとして判断される。また、両親媒性を示すコーティング膜表面では、両親媒性を示さない膜に比べてSi元素の比率が高い。このことは、有機無機複合分散液中のエマルション粒子の表面をシリカ粒子が被覆しているためであると推察される。
なお、ウレタン樹脂粒子の粒径は、TEM像の図中のウレタン粒子の粒子径(最大径)を実測し、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0185】
(5.防曇性)
実施例1、実施例2、及び比較例4の有機無機複合膜を、それぞれPETフィルムに積層して防曇フィルム1〜3を作成した。防曇フィルム1〜3に1分間水蒸気を当て、水蒸気から離した後、25℃、RH10%の環境下に配置し、曇り具合及びその変化を下記基準により三段階で官能評価した。
評価結果を表4に示す。表4では防曇フィルム1〜3を「フィルム1」等と略記する。
−評価基準−
○:曇りが観察されない
△:曇っているが、10秒以内に回復し、曇りが見られなくなる
×:曇っており、曇りが10秒経過しても回復しない
【0186】
(6.帯電防止性)
実施例1、実施例2、及び比較例4の有機無機複合膜を、それぞれPETフィルムに積層して帯電防止フィルム1〜3を作成した。
上記で得られた帯電防止フィルム1〜3の表面抵抗率を、25℃10RH%の雰囲気下で絶縁抵抗測定器(VE−30型;川口電気(株)製)を用いて測定した。
評価の結果を表4に示す。表4では帯電防止フィルム1〜3を「フィルム1」等と略記する。
【0187】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】本発明の有機無機複合分散液の分散態様の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【図3】非加熱複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【図4】本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図6】非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機無機複合膜の表面の一例を示すAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
【図8】非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の表面の一例を示AFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
【図9】(A)は本発明の有機無機複合膜の断面の一例を示すTEM像であり、(B)は、(A)に示す断面のうち膜表面を拡大した拡大図である。
【図10】(A)は非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の断面の一例を示すTEM像であり、(B)は、(A)に示す断面のうち膜表面を拡大した拡大図である。
【図11】実施例1の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図12】比較例2の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図13】比較例5の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図14】(A)は、実施例1の有機無機複合膜の断面を示すTEM像であり、(B)は炭素原子の存在を示すEELS像であり、(C)は酸素原子の存在を示すEELS像であり、(D)はケイ素原子の存在を示すEELS像である。
【図15】(A)は、比較例2の有機無機複合膜の断面を示すTEM像であり、(B)は炭素原子の存在を示すEELS像であり、(C)は酸素原子の存在を示すEELS像であり、(D)はケイ素原子の存在を示すEELS像である。
【符号の説明】
【0189】
2 アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子
4 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)
6 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が付着したアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子
8 金属アルコキシド(a)
10 金属酸化物(A2)の微粒子
12 本発明の有機無機複合分散液を用いて形成されたコーティング層
14 支持体
16 保護層
18 金属酸化物(A2)の微粒子群
20 非加熱複合分散液を用いて形成されたコーティング層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合分散液及びその製造方法、有機無機複合膜及びその製造方法、並びに部材に関する。
【背景技術】
【0002】
物の表面が曇ることを防止したり、汚れが付着すること抑制するために、物を撥水加工することにより水を弾き易くしたり、反対に親水親油加工することにより水や油を物表面に付着しにくくすることが試みられている。また、実用上の便宜のため、上記のような撥水加工や親水親油加工がされた機能性膜を基材に積層することで、物表面の撥水性や親水親油性を発現することが一般的である。
【0003】
物表面を撥水加工した膜としては、基材上に、金属アルコキシドと、一次粒子径100nm以下のゾルと、所定の溶媒中でこれらと分相し且つ室温から700℃までの温度で除去される特性を有する物質と、が溶剤に添加された溶液もしくはエマルションからなる高硬度高滑水性膜形成用の塗布剤を塗布することで高硬度高滑水性膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、物表面を親水親油加工した膜としては、フィルムの透明性を維持し、超親水性を持ち、更に、実用強度に耐える表面強度を併せ持った低コストな親水親油性フィルムを提供することを目的として、プラスチックフィルムと前記プラスチックフィルム上の少なくとも片面に微小な凹凸を形成した無機硬質膜と前記無機硬質膜上の微小な凹凸上にシロキサン結合を介して形成させた化学吸着単分子膜とからなる親水親油性フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、表面を親水親油加工するにあたり、光触媒である酸化チタンを用いて両親媒性(親水親油性)を発現する方法も開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。例えば、特許文献4においては、表面の局所を光照射することにより、親水部と親油部がモザイク状に分散形成され、親水親油性を呈することが示されている。
【特許文献1】特開2001−207123号公報
【特許文献2】特開平7−82397号公報
【特許文献3】特開平10−166495号公報
【特許文献4】特開平11−337294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、親水親油性の膜を得るに際し、上記方法では親水親油加工が簡便でない。
上記事情に鑑み、本発明は、親水性に優れ、かつ親油性にも優れる有機無機複合膜及びその製造方法を提供することを目的とする。また、前記有機無機複合膜を製造可能な有機無機複合分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。さらには、前記有機無機複合膜を用いた部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液である。
【0008】
<2> 前記金属ヒドロキシドが水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上である前記<1>に記載の有機無機複合分散液である。
【0009】
<3> 前記金属ヒドロキシドが、水酸化ケイ素である前記<1>又は前記<2>に記載の有機無機複合分散液である。
【0010】
<4> 前記アニオン性基が、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である前記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液である。
【0011】
<5> 前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂がポリウレタン樹脂を含有する前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液である。
【0012】
<6> 表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜である。
【0013】
<7> 複合膜表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する前記<6>に記載の有機無機複合膜である。
【0014】
<8> 前記金属酸化物(A2)の微粒子の粒子径が、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%である前記<6>又は前記<7>に記載の有機無機複合膜である。
【0015】
<9> 前記非水溶性樹脂(b)の粒子が、粒径0.05μm〜1μmのアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子である前記<6>〜<8>のいずれか1つに記載の有機無機複合膜である。
【0016】
<10> 金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、
前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、
前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する有機無機複合分散液の製造方法である。
【0017】
<11> 前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する有機無機複合膜の製造方法である。
【0018】
<12> 前記<6>〜<9>のいずれか1つに記載の有機無機複合膜を、基材表面に積層した部材である。
【0019】
<13> 防曇フィルムである前記<12>に記載の部材である。
【0020】
<14> 帯電防止フィルムである前記<12>に記載の部材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、親水性に優れ、かつ親油性にも優れる有機無機複合膜及びその製造方法を提供することができる。また、前記有機無機複合膜を製造可能な有機無機複合分散液及びその製造方法を提供することができる。さらには、前記有機無機複合膜を用いた部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<有機無機複合分散液及びその製造方法>
本発明の有機無機複合分散液は、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である。
本発明の有機無機複合分散液は、支持体に塗布し、乾燥することにより親水性と親油性とを同時に発現可能な有機無機複合膜を製造することを可能にするものである。
まず、本発明の有機無機複合分散液の必須の構成成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子について説明する。以下、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を『(A1)成分』、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)を『(B)成分』と称することがある。
【0023】
〔金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)〕
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を構成する金属は、例えば、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi、希土類金属等が挙げられる。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を構成する金属は、単独でも2種以上から構成されてもよい。
上記の中でもSi、Al、Zr、Tiなどが好ましく用いられる。中でも珪素化合物は、比較的安価で入手しやすく、反応が緩やかに進行するため、工業的な利用価値が高い。
【0024】
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)は、例えば、金属アルコキシド(a)にアルコールや水を加えて加水分解反応することにより金属ヒドロキシドを生成し、さらに金属ヒドロキシドと金属ヒドロキシドとから脱水して縮合する反応により生成することができる。
【0025】
本発明の有機無機複合分散液は、金属アルコキシド(a)など、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成する化合物の未反応化合物や反応進行中の化合物を含有していてもよい。
【0026】
本発明の有機無機複合分散液を構成する成分である(A1)成分の金属ヒドロキシドは、水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、水酸化ケイ素であることがより好ましい。
【0027】
本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布し、乾燥することにより得られる有機無機複合膜が親水性と親油性とを同時に発現可能となることの詳細は後述するが、有機無機複合分散液中に金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を多く含有することで、親水性と親油性とを同時に発現可能な有機無機複合膜が製造することができる。
【0028】
〔アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子〕
本発明の有機無機複合分散液は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する。
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子は、水および水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系媒体)に不溶であるが、それらの媒体中で分散可能なアニオン性基を有する非水溶性樹脂を含有する粒子であり、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などのモノマーから樹脂粒子を合成する手法、および乳化分散法などのように樹脂や樹脂溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される粒子の存在下でモノマーの重合を行なって粒子の改質を行なったものなどのアニオン性基を有する非水溶性樹脂の粒子が含まれる。
【0029】
ここで、前記アニオン性基とは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である。その塩とは、具体的には、カルボキシ基のアミン塩やカルボキシ基のアンモニウム塩が挙げられる。前記アニオン性基は、(B)成分中に1種または2種以上含まれていてもよい。
非水溶性樹脂がアニオン性基を有しないと、分散安定性の良好な有機無機複合分散液を得ることができない。
アニオン性基は、カルボキシ基、スルホン酸基、カルボキシ基のアミン塩、カルボキシ基のアンモニウム塩、スルホン酸基のアミン塩、スルホン酸基のアンモニウム塩、スルホン酸基のナトリウム塩、スルホン酸基のカリウム塩が好ましく、カルボキシ基、カルボキシ基のアミン塩、カルボキシ基のアンモニウム塩がより好ましい。
【0030】
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の酸価は、特に限定されないが、有機無機複合分散液の保存安定性の観点から、1mgKOH/g〜100mgKOH/gであることが好ましく、5mgKOH/g〜50mgKOH/gであることがより好ましく、10mgKOH/g〜40mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0031】
アニオン性基を有する非水溶性樹脂は、水および水と水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系の媒体)に不溶である高分子、すなわち水中でも粒子状に分散化(エマルション化)できる高分子であり、疎水性のモノマーを重合してなる重合体や共重合体、さらには親水性のモノマーとの共重合体であってもよい。このような粒子は、たとえば光散乱法で粒径を測定できるものである。
【0032】
本発明におけるアニオン性基を有する非水溶性樹脂としては、水系媒体に分散可能な粒子になるものであればよく、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリアミド、AS樹脂、ABS樹脂、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートなどが例示される。アニオン性基を有する非水溶性樹脂はそれぞれ単独でも、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0033】
上記の中でも、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエンから選ばれる非水溶性樹脂が好ましく、その中でも特にポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデンが親水親油性のうち親油性の機能に優れるため好ましい。
【0034】
アニオン性基を有する非水溶性樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法などの分散状態のモノマーから樹脂粒子を合成する手法、および乳化分散法などのようにポリマー化した樹脂粒子や樹脂粒子溶液を乳化して合成する手法、さらにはシード重合と呼称される粒子の存在下でモノマーの重合を行なうことにより得られ、このときアニオン性基を有する非水溶性樹脂が粒子化され水性分散液を得ることができる。
【0035】
乳化重合法は、非水溶性モノマー、乳化剤、水、重合開始剤から構成される原料を用いて非水溶性モノマーを重合する方法である。乳化剤は、連続相となる水中で粒子生成の場となるミセルを形成するとともに、生成する非水溶性樹脂粒子を安定に分散する役割を持ち、イオン性乳化剤または非イオン性乳化剤またはその両者が使用される。重合開始剤は水溶性過酸化物または水溶性アゾ系化合物が用いられるほか、アスコルビン酸―過酸化水素などのレドックス開始剤系が用いられる。
【0036】
懸濁重合法は非水溶性の重合開始剤を非水溶性のモノマーに溶かし、これを水中に機械的攪拌により懸濁させて加温することにより、モノマー液滴中で重合が進行し、非水溶性樹脂粒子の分散溶液を得る方法である。モノマー液滴の粒子化には、高速せん断を伴う攪拌が不可欠であり、また分散安定剤の選定により微小液滴を安定化させることができる。
【0037】
ミニエマルション重合法は、超音波発振器などで強いせん断力をかけることでモノマー液滴をサブミクロンサイズまで微細化して、重合を行なう方法であり、微細化されたモノマー油滴を安定化するためにハイドロホーブという難水溶性物質が添加される。前述の乳化重合法に比べて重合中モノマーが水相を拡散する必要がなく、理想的にはモノマー油滴が重合して各非水溶性樹脂粒子に変わる。
【0038】
分散重合法は、モノマーは水に可溶であるが、重合後に水に不溶になる非水溶性樹脂の場合に用いられる方法で、系には非水溶性樹脂の分散安定剤が添加される。
【0039】
乳化分散法は、乳化重合や懸濁重合など、ラジカル重合ではできないポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリブテン、エポキシ樹脂等の非水溶性樹脂の分散液を作製する方法であり、強制乳化法、自己乳化法、転送乳化法などがある。
【0040】
強制乳化法は、ポリマー溶液、あるいは熱で溶融したポリマーを、分散安定剤を含む水分散媒中に高圧ホモジナイザー、高圧ホモミキサー、押出混練機、オートクレーブ等で分散化する方法、高圧で噴射粉砕する方法、細孔より噴霧させる方法が挙げられる。
【0041】
自己乳化法は、非水溶性樹脂自身が有するアニオン性基の乳化能力により、水との混合で容易に乳化分散させる方法である。分散安定剤を用いずに樹脂を重合することができるため、本発明で好適に使用される方法である。
【0042】
転相乳化法は、非水溶性樹脂溶液中に乳化剤を溶解して水を徐々に添加するか、または樹脂溶液中に乳化剤水溶液を徐々に添加して攪拌混合により相反転を行わせて水が連続相である分散液(C)を作る方法である。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0043】
前記分散液(C)の調製にあたっては、異物などを除去する目的で、工程中に濾過工程を設けてもよい。このような場合には、たとえば、300メッシュ程度のステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)をおこなえばよい。
【0044】
分散液(C)を調製する場合における水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを使用可能であるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。また、上記方法における水と親和性を有する有機溶媒は、該他の分散質が可溶なものであれば特に限定されないが、例えばイソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。分散液中への有機溶媒の混入が好ましくない場合には、該他の分散質を含有した分散系を調製した後、蒸留等により、前記有機溶媒を除去することが可能である。
【0045】
以下、アニオン性を有する非水溶性樹脂のとして好適な樹脂を用いた非水溶性樹脂の分散液として、ポリウレタン樹脂粒子分散液、およびポリスチレンおよびポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液、ならびにポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液について詳細に記述する。
【0046】
[ポリウレタン樹脂粒子分散液]
[ポリウレタン樹脂(i)]
本発明において好ましく用いられるポリウレタン系の非水溶性樹脂(i)は、アニオン性自己乳化型ポリウレタン樹脂を構成しており、ウレタン基およびウレア基の合計濃度が高く、かつアニオン性基を有する。前記ポリウレタン樹脂は、少なくとも、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)との反応により得ることができる。前記ポリウレタン樹脂は、さらに他の成分との反応により得られた共重合体であってもよく、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートの群から選択された少なくとも一種を30重量%以上含むポリイソシアネート化合物(ii)と、ポリヒドロキシ酸(iii)と、ポリオール成分(iv)及び鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一方の成分との反応により得ることもできる。前記(ii)ポリイソシアネート化合物は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。また、ポリオール成分(iv)は、炭素数2〜8のポリオールを90重量%以上含むポリオール化合物であってもよく、前記鎖伸長剤成分(v)は、例えば、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種である。
【0047】
ポリウレタン樹脂のウレタン基およびウレア基(尿素基)の合計濃度は、25〜60重量%(例えば、30〜55重量%)、好ましくは35〜55重量%(特に35〜50重量%)程度である。なお、ウレタン基濃度及びウレア基濃度とは、ウレタン基の分子量〔59g/当量〕又はウレア基の分子量〔一級アミノ基(アミノ基):58g/当量、二級アミノ基(イミノ基):57g/当量〕を、繰り返し構成単位構造の分子量で除した値を意味する。なお、混合物を用いる場合、ウレタン基およびウレア基の濃度は、反応成分の仕込みベース、すなわち、各成分の使用割合をベースとして算出できる。
【0048】
ポリウレタン樹脂のアニオン性基としては、上述したように、カルボキシル基、スルホン酸基などの酸基が例示できる。アニオン性基は、ポリウレタン樹脂の末端又は側鎖(特に少なくとも側鎖)に位置していてもよい。このアニオン性基は、酸基が中和剤(塩基)により中和された形態であってもよく、酸基が塩基と塩を形成している形態でよい。
【0049】
中和剤としては、慣用の塩基、例えば、有機塩基〔例えば、第3級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1−4アルキルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン、モルホリンなどの複素環式アミンなど)〕、無機塩基〔アンモニア、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)〕が挙げられる。これらの塩基は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。親油性の観点からは、揮発性塩基、例えば、トリエチルアミンなどのトリC1−3アルキルアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アンモニアが好ましい。
【0050】
なお、中和剤による中和度は、例えば、30〜100%、好ましくは50〜100%、特に75〜100%程度であってもよい。
【0051】
ポリウレタン樹脂(i)の数平均分子量は、800〜1,000,000、好ましくは800〜200,000、さらに好ましくは800〜100,000程度の範囲から選択できる。
【0052】
このようなポリウレタン樹脂(i)は、少なくともポリイソシアネート化合物(ii)(特にジイソシアネート化合物)とポリヒドロキシ酸(iii)(例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、特にジヒドロキシ酸)との反応により得ることができる。ポリウレタン樹脂(i)は、前記(ii)成分及び(iii)成分に加えて、ポリオール成分(iv)(特にアルキレングリコールなどのジオール成分)及び鎖伸長剤(v)(特に二官能性鎖伸長剤)から選択された少なくとも一種の成分との反応により得ることもできる。
【0053】
[ポリイソシアネート化合物(ii)]
ポリイソシアネート化合物(ii)には、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートなどが含まれる。ポリイソシアネート化合物としては、通常、ジイソシアネート化合物が使用される。
【0054】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(MDI)、4,4’−トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが例示できる。
【0055】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ω,ω′−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼンなどが例示できる。
【0056】
脂環族ジイソシアネートとしては、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロジイソシアネート、IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI(H12MDI),ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)などを挙げることができる。
【0057】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプエートなどを挙げることができる。
【0058】
ポリイソシアネート化合物(特にジイソシアネート化合物)(ii)としては、炭化水素環を有する化合物を含むポリイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。このような化合物としては、例えば、芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネート(特にジイソシアネート)などが挙げられる。より具体的には、親油性の観点からは、芳香族ジイソシアネート(TDI、MDI、NDIなど)、芳香脂肪族ジイソシアネート(XDI、TMXDIなど)および脂環族ジイソシアネート(IPDI、水添XDI、水添MDIなど)が好ましく、特に、MDI、XDI、水添XDI、水添MDIなどが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
芳香族、芳香脂肪族および脂環族ポリイソシアネートから選択された少なくとも一種のポリイソシアネート化合物の含有量は、ポリイソシアネート化合物(ii)全体に対して、30重量%以上(30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%)である。
【0060】
ポリイソシアネート化合物(ii)は、キシリレンジイソシアネートおよび水添キシリレンジイソシアネートから選択された少なくとも一種を含むのが好ましい。キシリレンジイソシアネート及び/又は水添キシリレンジイソシアネートの割合は、通常、ポリイソシアネート化合物全体に対して20重量%以上(20〜100重量%)、好ましくは25〜100重量%、さらに好ましくは30〜100重量%である。
【0061】
これらのジイソシアネート成分は単独でまたは2種以上組み合わせて使用でき、さらに必要に応じて3官能以上のポリイソシアネートを併用することもできる。
【0062】
[ポリヒドロキシ酸(iii)]
ポリヒドロキシ酸(iii)には、カルボン酸やスルホン酸、特に、ポリヒドロキシカルボン酸及びポリヒドロキシスルホン酸から選択された少なくとも一種の有機酸が使用できる。
【0063】
ポリヒドロキシカルボン酸(特にジヒドロキシカルボン酸)としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸などのジヒドロキシC2−10アルカン−カルボン酸、ジオキシマレイン酸などのジヒドロキシC4−10アルカン−ポリカルボン酸又はジヒドロキシC4−10アルケン−ポリカルボン酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸などのジヒドロキシC6−10アレーン−カルボン酸などが例示できる。これらのポリヒドロキシ酸は単独または2種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリヒドロキシ酸は、ポリヒドロキシアルカンカルボン酸、特にジヒドロキシアルカン酸、例えば、ジヒドロキシC2−8アルカン−カルボン酸である。
【0064】
なお、前記ポリヒドロキシ酸は、塩の形態で使用してもよい。ポリヒドロキシ酸の塩としては、例えば、アンモニウム塩、アミン塩(トリアルキルアミン塩など)、金属塩(ナトリウム塩など)などが例示できる。
【0065】
ポリウレタン樹脂(i)は、少なくとも(ii)成分及び(iii)成分との反応により得ることができるが、ポリオール成分(iv)及び/又は鎖伸長剤成分(v)から選択された少なくとも一種と組み合わせて反応させる場合が多い。なお、ポリウレタン樹脂(i)の酸価は、前記ポリヒドロキシ酸(iii)の使用量により調整できる。
【0066】
[ポリオール成分(iv)]
ポリオール成分(特にジオール成分)(iv)としては、親油性の観点から、通常、低分子量グリコール、例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘプタンジオール、オクタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレングリコール)、(ポリ)オキシC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)などが使用される。好ましいグリコール成分は、C2−8ポリオール成分[例えば、C2−8アルキレングリコール(特に、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール)など]、ジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなど)であり、特に好ましいジオール成分はC2−8アルキレングリコール(特にC2−6アルキレングリコール)である。
【0067】
これらのジオール成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。さらに必要に応じて、芳香族ジオール、脂環族ジオールなどの低分子量ジオール成分を併用してもよい。さらに、必要により、3官能以上のポリオール成分を併用することもできる。
【0068】
ポリオール成分は、少なくともC2−8ポリオール成分(特に、C2−6アルキレングリコール)及び/又はジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコール成分を含むのが好ましい。ポリオール成分全体に対するC2−8ポリオール成分(特に、C2−6アルキレングリコール)及びジ又はトリオキシC2−3アルキレングリコールの割合は、通常、90重量%以上(90重量%〜100重量%)である。
【0069】
[鎖伸長剤(v)]
鎖伸長剤には、活性水素原子を有する窒素含有化合物、特に、ジアミン、ヒドラジン及びヒドラジン誘導体から選択された少なくとも一種が使用される。鎖伸長剤としてのジアミン成分としては、例えば、脂肪族アミン(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどのC2−10アルキレンジアミンなど)、芳香族アミン(例えば、m−又はp−フェニレンジアミン、1,3−または1,4−キシリレンジアミンもしくはその混合物など)、脂環族アミン(例えば、水添キシリレンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなど)、ヒドロキシル基含有ジアミン[2−[(2’−アミノエチル)アミノ]エタノール、2−アミノエチルアミノプロパノール、2−(3’−アミノプロピル)アミノエタノール(3−(2’−ヒドロキシエチル)アミノプロピルアミン)などのアミノC2−6アルキルアミノC2−3アルキルアルコールなど]などが挙げられる。
【0070】
ヒドラジン、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン、ヒドロキシル基含有ヒドラジン(2−ヒドラジノエタノールなどのヒドラジノC2−3アルキルアルコールなど)、ジカルボン酸ヒドラジド[脂肪族ジカルボン酸ヒドラジド(コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどのC4−20アルカン−ジカルボン酸ジヒドラジド)、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド(イソフタル酸ジヒドラジドなどのC6−10アレーン−ジカルボン酸ヒドラジドなど)など]などが挙げられる。これらの鎖伸長剤成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
これら鎖伸長剤のうち、親油性の観点から、通常、炭素数8以下(C2−8、特にC2−6)の低分子量の鎖伸長剤、例えば、ジアミン(例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−6アルキレンジアミン、2−アミノエチルアミノエタノール、キシリレンジアミンなど)、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体(例えば、2−ヒドラジノエタノール、アジピン酸ジヒドラジドなど)が使用される。なお、鎖伸長剤は、必要に応じて3官能以上のポリアミン成分(ポリアミン、ポリヒドラジドなど)を併用することができる。
【0072】
なお、必要であれば、ポリウレタン樹脂の調製において、イソシアネート基に対して反応性を有する化合物(例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールなど)を反応させてもよい。
【0073】
[ポリウレタン樹脂粒子分散液の調製方法]
ポリウレタン樹脂(i)の製造法は特に限定されないが、通常の自己乳化法を利用して調製できる。また、ウレタン化反応では必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒などウレタン化触媒を使用してもよい。より具体的には、不活性有機溶媒(特に、親水性又は水溶性有機溶媒)中、ポリイソシアネート化合物(ii)とポリヒドロキシ酸(iii)と必要によりポリオール成分(iv)とを反応させ、末端イソシアネート基を有するプレポリマーを生成させ、必要に応じてポリウレタン樹脂の酸基を中和剤で中和して水性媒体に分散した後、必要により鎖伸長剤成分(v)を添加して反応させ、有機溶媒を除去することによりポリウレタン樹脂分散液を調製できる。ポリウレタン樹脂分散体の体積平均粒径は、造膜性、親油性の面から、0.01μm〜1μmであることが好ましい。
【0074】
なお、活性水素原子を有する各成分[ポリヒドロキシ酸(iii)、ポリオール成分(iv)および鎖伸長剤成分(v)]の総量割合は、ポリイソシアネート化合物(ii)のイソシアネート基1モルに対して、各成分(iii)、(iv)及び(v)活性水素原子の(又は活性水素原子を有する有機基)の総量として0.5モル〜1.5モル、好ましくは0.7モル〜1.3モル、さらに好ましくは0.8モル〜1.2モル程度である。
【0075】
[ポリスチレン及びポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液]
ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂粒子分散液は、スチレン、アクリル酸エステルとビニル単量体を乳化重合して得られ、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル粒子分散体の体積平均粒径は、0.01μm〜1μmであり、造膜性、親油性の面から、0.01μm〜0.5μmが好ましい。なお、体積平均粒子径はマイクロトラックUPA(ハネウェル社製)を用いて測定された値である。
【0076】
本発明に使用されるビニル単量体は、特に制限されるものではないが、具体例としては、例えば、ラジカル重合に通常使用される単量体を挙げることができ、メチル−、エチル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、n−アミル−、イソアミル−、n−ヘキシル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−、デシル−、ドデシル−、オクタデシル−、シクロヘキシル−、フェニル−、ベンジル−等のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等;α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基を有する類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ誘導体;N−メチルアミノエチルアクリレート、N−メチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルアミノエステル類;ビニルピリジン等のモノビニルピリジン類;ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアルキルアミノ基を有するビニルエーテル類;N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等のアルキルアミノ基を有するアミド類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有する類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル類、スチレンスルホン酸ナトリウム等の不飽和スルホン酸塩類;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート等のジアクリル酸エステルまたはジメタクリル酸エステル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;その他エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルアミド、クロロプレン等がある。これらのビニル単量体は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0077】
これらのビニル単量体の中でも、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類、アミド基含有類、水酸基含有類の中から選択するのがより好ましく、アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有類の組み合わせが最も好ましい。
【0078】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液の製造は、通常の乳化重合法により行われる。用いられる界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンプロペニルアルキルフェニル硫酸アンモニウム等のアニオン系界面活性剤;脂肪酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、シュガー脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミン、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルセルロース等のノニオン系界面活性剤;アルキルアンモニウムクロライド、トリメチルアルキルアンモニウムブロマイド、アルキルピリジニウムクロライド、およびカゼイン等の両性界面活性剤;水溶性多価金属塩類などが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0079】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用されているものであればよく、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過酸化塩類、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等である。必要に応じて還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することもできる。
【0080】
エマルションを製造するには通常、前記の界面活性剤、重合開始剤の存在下に、ビニル単量体を一括、分割、あるいは連続的に添加して重合を行う。
【0081】
エマルションの粒径は、界面活性剤及び重合開始剤の使用量により制御される。界面活性剤の使用量を増加させれば粒径は小さくなり、また、重合開始剤の使用量を減少させれば粒径は小さくなる。
また、重量平均分子量は、連鎖移動剤の量により制御され、連鎖移動剤の量を増加させれば重量平均分子量は小さくなる。
【0082】
上記のようにして得られるエマルションの中和に用いる塩基性物質としては、前述の中和剤を挙げることができる。
【0083】
本発明で使用されるポリスチレン、ポリアクリル酸エステル樹脂分散液には、必要に応じて、架橋剤を加えてもよい。架橋剤としては、例えば、多価金属イオンや、多価金属イオンのアンモニア及びアミン錯体(特にNH3を配位したもの)等が挙げられる。上記多価金属イオンとしては、水中に少なくとも1重量%程度の顕著な溶解性を有する酸化物、水酸化物または塩基性塩、酸性塩または中性塩の形態で組成物に添加することができる、ベリリウム、カドミウム、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウム、アルミニウム、ビスマス、アンチモン、鉛、コバルト、鉄、ニッケル、または他の多価金属イオンが挙げられる。上記多価金属イオンのアンモニア錯体及びアミン錯体の形成が可能なアミンとしては、例えば、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、及びエチレンジアミン等が挙げられる。また、アルカリ性pH範囲で可溶化可能な有機酸の多価金属錯体塩も用いることができる。また、酢酸イオン、グルタミン酸イオン、ギ酸イオン、炭酸イオン、サリチル酸イオン、グルコール酸イオン、オクトン酸イオン、安息香酸イオン、グルコン酸イオン、蓚酸イオン及び乳酸イオン等の陰イオンも用いられる。また配位子がグリシンまたはアラニン等の二座アミノ酸である多価金属キレートも用いられる。また、その他の架橋剤として、アルキル化メラミン等の尿素樹脂系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、ヒドラジド系架橋剤等及びこれら架橋剤を水性化したもの等が挙げられる。
【0084】
[ポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液]
本発明で使用されるポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液は、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルおよびこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から特開平11−35763に記載されている方法に従って製造することができる。好ましい塩化ビニリデンの使用範囲は89重量%〜93重量%、望ましくは90重量%〜92重量%であり、メタクリロニトリルは2重量%〜8重量%、望ましくは4重量%〜6重量%であり、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルは0.5重量%〜3重量%、望ましくは1重量%〜2重量%および0重量%〜3重量%のこれらと共重合可能な1種以上のビニル単量体から、乳化重合によって得られる。
【0085】
ポリ塩化ビニリデン樹脂粒子分散液の重合に用いる乳化剤、重合開始剤、界面活性剤等々の種類は特に限定しないが、その使用量は可能な限り少量であることが好ましく、乳化重合に引き続き、透析処理を施すことで可能な限り除去するのが、さらに望ましい。また、低分子量では熱、光に対する安定性が劣ることが知られており、耐変色性はこれら安定性と平行する関係が認められているので分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定された重量平均分子量にて10万以上であることが望ましい。
【0086】
ここで、本発明の有機無機複合分散液における微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子との分散態様を、図1〜図3を用いて説明する。
【0087】
図1は、本発明の有機無機複合分散液の分散態様の一例を示す模式図である。前記図1は、本発明の有機無機複合分散液を縦に割ったと仮定した場合の断面図である。
本発明の有機無機複合分散液は、図1に示すように、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4が、有機無機複合分散液中にエマルション粒子となって存在するアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2を被覆するように付着して有機無機複合分散液中に含有される。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子は、その全部がアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2に付着していてもよく、一部が付着していてもよい。
【0088】
前記図1で説明される本発明の有機無機複合分散液の分散態様は、TEM写真により観察することができる。
図2は、本発明の有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。図3は、有機無機複合分散液製造方法における加熱工程を経ずに調製した有機無機複合分散液(以下、「非加熱複合分散液」ともいう)を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【0089】
本発明の有機無機複合分散液の分散状態を示す図2には、大粒のアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の周辺に、小粒の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子が付着した状態の粒子6が確認される。また、該粒子6の周辺には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子4が散在する。前記粒子6は、黒く、濃く現されていることから、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に多くの金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子が被覆していることがわかる。
一方、非加熱複合分散液の分散状態を示す図3には、大粒のアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2が確認されるのみで、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)はほとんど存在していないことが確認される。図3のTEM像にて金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子がわずかに確認されるのは、非加熱複合分散液をTEM観察用支持膜上に展開し、TEMで電子線を当てる等して分散媒が濃縮していく過程の中で、非加熱複合分散液中ではリニア状であった金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が凝集するためと考えられる。
【0090】
このように、本発明の有機無機複合分散液には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子が確認されるが、非加熱複合分散液には、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4の微粒子が確認されない。
【0091】
〔液性(pH)〕
金属アルコキシドないし金属ヒドロキシドと非水溶性樹脂とを含有する組成物は、一般に分散安定性が悪く増粘し易いが、本発明の有機無機複合分散液は、非水溶性樹脂がアニオン性基を含有することで分散液の分散安定性を良好にし、分散液の液性をpH1〜pH5とすることで粘度を低く保つことができる。
【0092】
本発明の有機無機複合分散液の液性は、分散液の増粘を抑制する観点から、pH2〜pH4であることが好ましく、pH2.5〜pH3.5であることがより好ましい。
【0093】
〔(A1)成分と(B)成分との量比〕
本発明の有機無機複合分散液中の(A1)成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、(B)成分であるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、A1:Bが99:1〜1:99であることが好ましく、95:5〜5:95であることがより好ましく、90:10〜10:90であることがさらに好ましい。
【0094】
〔有機無機複合分散液の分散媒〕
本発明の有機無機複合分散液において、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)とを分散させるための分散媒は、水が中心であるが、水性の溶媒又はアルコールを用いることもできる。
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール等を用いることができる。前記水性の溶媒としては、水、又は、水と水に溶解するアルコール、酸、塩基等とを混合した液体を用いることができる。
アルコール、酸、及び塩基等は、有機無機複合分散液の分散安定性が不安定にならないように添加することが好ましい。
【0095】
〔粒子径〕
本発明の有機無機複合分散液において、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の各粒子径は、前述した図2、図3のような、有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像から実測した粒子径(最大径)として求めた大きさをいう。
【0096】
金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の微粒子は、本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布・乾燥して得られる有機無機複合膜の親水性と親油性とを向上するため、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であることが好ましい。
また、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径は0.05μm〜1μmであることが好ましく、0.06μm〜0.5μmであることがより好ましい。
【0097】
〔粘度〕
本発明の有機無機複合分散液の粘度は、有機無機複合膜の製造、より具体的には有機無機複合分散液の支持体上への塗布の観点から、0.1mPa・s〜100mPa・sであることが必要である。
本発明の有機無機複合分散液の粘度は、0.5mPa・s〜50mPa・sであることが好ましく、1mPa・s〜10mPa・sであることがより好ましい。
【0098】
〔有機無機複合分散液の製造方法〕
本発明の有機無機複合分散液の製造方法は、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する。加熱温度は35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。
【0099】
前記第1混合液調製工程では、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(以下、「分散液d」ともいう)を混合してpH7〜pH9の第1混合液を調製する。
【0100】
−金属アルコキシド(a)−
本発明において、前記金属アルコキシド(a)は、下記式(1)で表される化合物である。以下、「金属アルコキシド(a)」を『(a)成分』とも称する。
【0101】
(R1)xM(OR2)y (1)
【0102】
前記式(1)中、R1は、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基など)、炭素−炭素二重結合含有有機基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、又はハロゲン含有基(例えば、クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)などを表す。
R2は、炭素数が1以上6以下、好ましくは炭素数が1以上4以下の低級アルキル基を表す。
xおよびyは、x+y=4かつ、x≦2となる整数を表す。
【0103】
Mは、金属アルコキシド(a)を構成する金属であり、前記金属ヒドロキシドを構成する金属と同じ金属を挙げることができる。金属アルコキシド(a)を構成する金属は、単独でも2種以上から構成されてもよい。
中でもSi、Al、Zr、Tiなどが好ましく用いられる。中でも珪素化合物は、比較的安価で入手しやすく、反応が緩やかに進行するため、工業的な利用価値が高い。
【0104】
金属アルコキシド(a)は、具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、これらに対応するアルコキシアルミニウム、アルコキシジルコニウム、アルコキシチタンが挙げられる。
【0105】
本発明において、金属アルコキシド(a)としては、上記式(1)において、Mがシリコン(Si)であるアルコキシシラン、Mがジルコニウム(Zr)であるアルコキシジルコニウム、Mがアルミニウム(Al)であるアルコキシアルミニウムおよびMがチタン(Ti)であるアルコキシチタンが好ましく、特にMがシリコン(Si)であるアルコキシシランが好ましい。
【0106】
前記金属アルコキシド(a)は、本発明の有機無機複合分散液の構成成分である金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成可能な他の化合物に代えてもよいが、保存安定性、ハンドリング性、反応速度等の観点から金属アルコキシド(a)を用いることが最も好ましい。金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成可能な他の化合物としては、金属ハライド、金属ジケトネート、金属酢酸塩、金属カルボン酸塩等を挙げることができる。
【0107】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法における前記第1混合液調製工程では、前記金属アルコキシドをアルコール溶液または水性溶液として用いる。金属アルコキシドの加水分解反応を促進するためである。
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール等を用いることができる。水性溶液を調製するための水性の溶媒としては、水、又は、水と水に溶解するアルコール、酸、塩基等とを混合した液体を用いることができる。
アルコール、酸、塩基等は、前記第1混合液の分散安定性が不安定にならないように添加することが好ましい。
【0108】
前記第1混合液調製工程において、金属アルコキシド(a)のアルコール溶液を用いるとき、金属アルコキシド(a)は、前記アルコール100重量部に対し、1重量部〜1000重量部添加することが好ましく、10重量部〜500重量部添加することがより好ましい。
また、金属アルコキシド(a)の水性溶液を用いるとき、金属アルコキシド(a)は、前記水性の溶媒100重量部に対し、1重量部〜1000重量部添加することが好ましく、10重量部〜500重量部添加することがより好ましい。
【0109】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法における前記第1混合液調製工程では、上述のようにして得られる金属アルコキシド(a)を含有するアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(d)を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する。
金属アルコキシド(a)を含有するアルコール溶液または水性溶液と分散液(d)との混合は、第1混合液の分散安定性が不安定にならないように、室温で攪拌しながら静かに混合することが好ましい。
なお、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液(d)は、既述のように樹脂粒子のエマルションとして調製することができる。
【0110】
ここで、金属アルコキシド(a)とアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、a:Bが重量基準で、99.9:0.1〜0.1:99.9であることが好ましく、99.5:0.5〜0.5:99.5であることがより好ましく、99:1〜1:99であることがさらに好ましい。
【0111】
また、第1混合液の液性をpH7〜pH10とするには、公知の酸(例えば、塩酸水溶液)と公知の塩基(例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等)を適宜用いて、液性を調整することができる。液性調整のため酸と塩基を第1混合液に添加するときは、室温で攪拌しながら行うことが好ましい。
第1混合液の液性はpH7.5〜pH9が好ましく、pH7.8〜pH8.5がより好ましい。
【0112】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、第2混合液調製工程では、前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する。
前記第1混合液に酸触媒を添加することで、金属アルコキシド(a)の加水分解・縮合反応における反応を促進させるものである。
第2混合液調製工程において、第1混合液に酸触媒を添加しないと、第1混合液は増粘してゲル化するため、目的の有機無機複合分散液を製造することができず、有機無機複合膜を製造することもできない。
【0113】
金属アルコキシド(a)の酸触媒として使用されるものは、「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」(平島碩著、株式会社総合技術センター、29頁)や「ゾル−ゲル法の科学」(作花済夫著、アグネ承風社、154頁)等に記載されている一般的なゾル−ゲル反応で用いられる酸触媒である。
【0114】
具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、トルエンスルホン酸等の無機および有機酸類などが挙げられる。
【0115】
第2混合液の液性は、pH2〜pH4とすることが好ましく、pH2.5〜pH3.5とすることがより好ましい。
【0116】
反応性の観点から、比較的穏やかに反応が進行する塩酸、硝酸等を使用することが好ましい。酸触媒の使用量は、前記金属アルコキシド(a)1モルに対して0.001モル〜0.05モルとすることが好ましく、0.001モル〜0.04モルとすることがより好ましく、0.001モル〜0.03モルとすることがさらに好ましい。
【0117】
本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、加熱工程では、第2混合液調製工程で得られた第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する。
第2混合液を、30℃〜90℃に加熱することで、金属アルコキシド(a)の加水分解と脱水縮合反応を進み易くすることができ、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が生成し易くなる。
【0118】
第2混合液の加熱温度は、金属アルコキシド(a)の加水分解と脱水縮合反応の反応速度の観点から、35℃〜80℃であることが好ましく、38℃〜75℃であることがより好ましい。
また、第2混合液の加熱時間は、加熱温度との関係から適宜調整されるものであるが、1分〜240分であることが好ましく、5分〜180分であることがより好ましい。
好ましい加熱温度と加熱時間の組み合わせは、35℃〜80℃で1分〜240分間の加熱が好ましく、38℃〜75℃で5分〜180分間の加熱がより好ましい。
【0119】
本発明の有機無機複合分散液は、本発明の効果を損なわない限度において、無機粒子、水溶性ポリマー等他の成分を含有していてもよい。
無機粒子としては、シリカ、ジルコニウム、チタニア、アルミナ、タルク等があり、有機無機複合分散液の全質量に対して0.1重量部〜100重量部含有することができる。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマーがあり、有機無機複合分散液の全質量に対して0.1重量部〜100重量部含有することができる。無機粒子または水溶性ポリマーは、液性の安定性のため、本発明の加熱工程の後で添加することが好ましい。
【0120】
<有機無機複合膜>
本発明の有機無機複合膜は、表面が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である。
【0121】
本発明の有機無機複合膜は、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面が、金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された構造を有することで、親水性と親油性の両方を同時に発現し、水に対する接触角が20°以下となり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下となるものと考えられる。非水溶性樹脂(b)の粒子の表面が、金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された構造及び本発明の有機無機複合膜が親水性と親油性を同時に発現することの関係を、まず、図4〜6を用いて説明する。
ここで、図4および図5は、本発明の有機無機複合分散液を用いて製造した本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図であり、図6は、本発明の有機無機複合分散液製造方法における加熱工程を経ずに調製した有機無機複合分散液(非加熱複合分散液)を用いて製造した有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【0122】
本発明の有機無機複合膜は、所定の方法により金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合した混合液(第2混合液)をさらに加熱混合することにより得られる本発明の有機無機複合分散液を、支持体に塗布し、乾燥することに得ることができる。
前記第2混合液を加熱することなく、支持体に塗布し、乾燥して有機無機複合膜を得た場合、すなわち、非加熱複合分散液を支持体に塗布し、乾燥して有機無機複合膜を得た場合(このときの有機無機複合膜を「非加熱複合膜」とも称する)の、有機無機複合膜中の非水溶性樹脂(b)と、金属アルコキシド(a)とは、図6に示すような態様で存在すると考えられる。
非加熱複合分散液中の非水溶性樹脂(b)は、金属アルコキシド(a)に比べ表面自由エネルギーが小さいことから、図6に示すように、非水溶性樹脂の粒子2bと金属アルコキシド8とを含有する非加熱複合膜の表面には、一般に、親油性の非水溶性樹脂の粒子2bが露出し易い。したがって、非加熱複合膜は、もっぱら親油性を呈するものと思われる。
【0123】
しかし、金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合して得た本発明における第2混合液を、さらに加熱混合することにより、金属アルコキシド(a)の加水分解反応と脱水縮合反応が、室温での反応時に比べ進み易く、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を生成し易い。このとき、前述の図1に示すように、該金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)4が、非水溶性樹脂(b)であるアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子2に付着して、前記図2に示すような微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)で被覆されたアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子得られるものと考えられる。
金属アルコキシド(a)と、非水溶性樹脂(b)の粒子とを混合して得た混合液の液性を整え、さらに加熱混合することにより金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有する本発明の有機無機複合分散液が得られる。
【0124】
さらに、本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布し乾燥することにより、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)はさらに脱水して金属酸化物(A2)を生成する。このようにして、親油性の非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を親水性の金属酸化物(A2)が被覆した構造を有する膜が得られるものと思われる。
【0125】
非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する膜は、図4に示すように、非水溶性樹脂(b)の粒子2bの表面を、非水溶性樹脂(b)の粒子よりも粒径が小さい金属酸化物(A2)の微粒子10が、フラクタル状に被覆しているものと思われる。このような構造形態をとることで、前記膜は、図5に示すように、金属酸化物(A2)の微粒子10と金属酸化物(A2)の微粒子10との間に隙間が生じ、非水溶性樹脂(b)の粒子2bが完全に覆われることなく被覆されるものと思われる。このように隙間があることで、油性の溶媒が本発明の有機無機複合膜の表面に接触したときは、前記隙間を通じて親油性の非水溶性樹脂が作用するものと推察される。
したがって、本発明の有機無機複合膜は、膜表面に存在する親水性の金属酸化物(A2)により親水性を呈すると同時に、隙間を通じて作用する親油性の非水溶性樹脂により親油性をも呈するものと考えられる。
【0126】
図5に示すような構造は、図7に示すような有機無機複合膜表面をAFMで観察することにより確認することができる。
図7は、本発明の有機無機複合膜の表面の一例を示すAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。具体的には、図7の(A)から、大粒に示される非水溶性樹脂(b)の粒子2bの周辺に、小粒の金属酸化物(A2)の微粒子10が散在していることが確認される。
【0127】
上記構造により、有機無機複合膜表面に水が接触したときには、親水性の金属酸化物(A2)の作用により有機無機複合膜表面はぬれ易く(水に対する接触角が小さい)、有機無機複合膜表面にn−ヘキサデカン等の油が接触したときには、親油性の非水溶性樹脂(b)の粒子の作用により有機無機複合膜表面はぬれ易く(n−ヘキサデカンに対する接触角が小さい)なるものと考えられる。
ここで、本発明の有機無機複合膜表面に対する水及びにn−ヘキサデカンに対する接触角は、23℃、RH50%において協和界面化学(株)製接触角計「CA−XE型」を用いて測定された値をいう。
水に対する接触角は23℃、RH50%において、20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。また、n−ヘキサデカンに対する接触角は、23℃、RH50%において、20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
【0128】
本発明の有機無機複合膜において、金属酸化物(A2)と非水溶性樹脂(b)との量比(重量基準)は、水およびn−ヘキサデカンに対する接触角等の観点から、A2:bが、99:1〜1:99であることが好ましく、95:5〜5:95であることがより好ましく、90:10〜10:90であることがさらに好ましい。
【0129】
本発明の有機無機複合膜において、非水溶性樹脂(b)の粒子は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であっても、アニオン性基を有さない非水溶性樹脂の粒子であってもよく、水および水と水に親和性を有する有機溶媒の混合溶媒(水系の媒体)に不溶である高分子であれば特に制限されない。
【0130】
ただし、本発明の有機無機複合膜を、支持体上に有機無機複合分散液を塗布して製造するときには、有機無機複合分散液が、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有し、pH1〜pH5であること、すなわち、本発明の有機無機複合分散液を用いることが重要である。本発明の有機無機複合分散液を用いれば、分散液の粘度が低いため(1mPa・s〜10mPa・s)支持体に有機無機複合分散液を塗布し易く、有機無機複合分散液の分散安定性がよいため、支持体上に均一に微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を塗布することができる。
【0131】
このように、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)を含有し、低粘度で分散安定性のよい有機無機複合分散液を得るためには、非水溶性樹脂(b)の粒子は、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であることが必要である。従って、本発明の有機無機複合膜を、支持体上に有機無機複合分散液を塗布して製造するときには、本発明の有機無機複合分散液を用いることが必要である。
【0132】
本発明の有機無機複合膜は、有機無機複合膜の表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)が被覆した構造を有することが好ましい。表面が凹凸であることにより金属ヒドロキシドの脱水縮合物の微粒子の付着量を増やすことができ、それによって親水性を高めることができるからである。当該構造を図7〜図10を用いて説明する。
【0133】
前述したように、図7は、本発明の有機無機複合膜の表面をAFM(原子間力顕微鏡)により表面構造観察したAFM像である。(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。図8は、非加熱複合分散液を用いて得た有機無機複合膜の表面をAFMにより表面構造観察したAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
高さ像は膜表面の凹凸を観察したものであり、白く明るく示されている箇所は高く凸状であることを示し、暗く示されている箇所は低く凹状であることを示す。位相像は膜表面の硬さを観察したものである。
【0134】
図9の(A)は本発明の有機無機複合分散液の製造方法における加熱工程(第2混合液を50℃で攪拌)を経て得られた有機無機複合分散液を用いて製造した本発明の有機無機複合膜の断面をTEMで観察したTEM像であり、(B)は膜の表面を拡大した拡大図である。
図10の(A)は本発明の有機無機複合分散液の製造方法において、加熱工程を経ていない(第2混合液を25℃で攪拌)分散液(非加熱分散液)を用いて製造した有機無機複合膜(非加熱複合膜)の断面をTEMで観察したTEM像であり、(B)は非加熱複合膜の表面を拡大した拡大図である。
【0135】
図7(A)には、大粒の非水溶性樹脂(b)の粒子2bと、金属酸化物(A2)の微粒子10とが、それぞれ白く示されているのがわかる。つまり、本発明の有機無機複合膜の表面は、非水溶性樹脂(b)の粒子2bにより形成された凹凸表面と金属酸化物(A2)の微粒子10により形成された凹凸表面とで構成されていることがわかる。
また、図7(B)に示す位相像は、像の色の濃淡が一様であることから、本発明の有機無機複合膜の表面は硬さが一面に亘って同程度であることがわかる。これにより非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面の上に金属酸化物(A2)が被覆しているものと考えられる。
【0136】
さらに図9に示すTEM像には、支持体14上に有機無機複合分散液を塗布して乾燥させた層であるコーティング層12が設けられて形成された有機無機複合膜が示されている。図9に示す有機無機複合膜は、有機無機複合分散液として加熱工程(50℃)を経て製造された本発明の有機無機複合分散液を用いて製造されており、本発明の有機無機複合膜である。
【0137】
有機無機複合分散液を支持体に塗布し、乾燥することにより、金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)がさらに脱水して金属酸化物(A2)を形成し、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面を、親水性の金属酸化物(A2)が被覆した構造を有する膜が得られるプロセスについては前述のとおりである。
有機無機複合分散液として本発明の有機無機複合分散液を用いた場合、表面に金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が被覆した非水溶性樹脂(b)の粒子が得られると推測される。このような本発明の有機無機複合分散液を支持体に塗布して乾燥することで、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面に金属酸化物(A2)が被覆する構造を有する有機無機複合膜が形成されると考えられる。
その有機無機複合膜の表面の構造が図9の(B)に示されている。すなわち、白い塊として示される非水溶性樹脂(b)の粒子2bを被覆するように、膜表面に金属酸化物(A2)の微粒子の群18が存在している。
【0138】
一方、本発明の有機無機複合分散液の製造方法における第2混合液を加熱せずに25℃で攪拌して得た分散液(非加熱分散液)を用いて製造した非加熱複合膜は、金属アルコキシド(a)の加水分解・脱水縮合反応が進みにくく、図6の模式図に示されるように、非加熱複合膜の表面には非水溶性樹脂(b)の粒子2bが露出しているものと考えられる。
図8(A)に示すAFMの高さ像には、主として非水溶性樹脂(b)の粒子2bが確認され、金属酸化物(A2)の微粒子は確認しにくい。また、図8(B)に示す位相像にも主として大粒の非水溶性樹脂(b)の粒子2bが確認され、非水溶性樹脂(b)の粒子2bが表面に露出して、膜表面の硬さも一様でないことがわかる。
【0139】
さらに、図10の(B)に示されるTEM像からは、非加熱複合膜の表面に非水溶性樹脂(b)の粒子2bが露出して存在していることがわかる。
図10に示すTEM像は、支持体14上に非加熱分散液を塗布して乾燥させた層であるコーティング層20が設けられて形成された非加熱複合膜が示されている。
【0140】
なお、図9及び図10に示される保護層16は、本発明の有機無機複合膜及び非加熱複合膜をTEMで測定するときに、各複合膜を損傷しないように覆い被せた膜である。
【0141】
金属酸化物(A2)の微粒子は、非水溶性樹脂(b)の粒子よりも小さい粒径であることで、非水溶性樹脂(b)の粒子の表面に配置され易く、有機無機複合膜を形成したときに親水性と親油性を同時に発現可能な作用を発揮することができるものと考えられる。
そのため、金属酸化物(A2)の微粒子は、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であることが好ましく、1%〜50%であることがより好ましい。
ここで、金属酸化物(A2)の微粒子と非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径は、有機無機複合膜の断面をTEMで観察したTEM像の観察結果により得られる最大径をいい、「金属酸化物(A2)の微粒子が非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%であること」は、TEM像の図中の金属酸化物(A2)の微粒子径と非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径を実測し、その比から算出して得た値である。
【0142】
本発明の有機無機複合膜を、有機無機複合分散液の支持体上への塗布により製造する観点から、非水溶性樹脂(b)の粒子はアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子であることが好ましい。アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子の粒子径は0.05μm〜1μmであることが好ましく、0.06μm〜0.5μmであることがより好ましい。
【0143】
本発明の有機無機複合膜の製造方法は、既述の本発明の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する。
より具体的には、支持体上に、本発明の有機無機複合分散液を塗布して形成されるコーティング層を設け、コーティング層を加熱・乾燥することにより行なう。本発明の有機無機複合膜の効果を損なわない限度において、コーティング層と支持体との間に中間層を形成してもよい。
【0144】
コーティング層の加熱温度は、金属ヒドロキシドの脱水縮合物の更なる脱水を進める観点から、100℃〜200℃で行うことが好ましく、105℃〜150℃で行うことがより好ましい。
また、コーティング層の加熱時間は、金属ヒドロキシドの脱水縮合物の更なる脱水を進める観点から、1分〜360分で行うことが好ましく、3分〜150分で行うことがより好ましい。
【0145】
このコーティング層の層厚(加熱・乾燥後の層厚)は、0.05μm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜10μmであることがより好ましい。
【0146】
〔支持体〕
本発明の有機無機複合膜の製造に用いる支持体は、ガラス板、金属板やプラスチック基材など、特に制限されないが、加工の便宜性の観点からプラスチック基材を好ましく用いることができる。
【0147】
プラスチック基材に用いられる樹脂の種類として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンコポリマーなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、AB樹脂、ABS樹脂、PEEK樹脂、PEK樹脂、PES樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂の混合物、またはこれらの樹脂の積層体であってもよい。これらの樹脂がフィルムの場合には未延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。
更に、プラスチック基材の表面をコロナ処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、アルカリ処理等の表面改質を行い、コーティング層の密着性を向上させることも可能である。
【0148】
前記中間層としては、コーティング層と支持体との密着性を向上するため、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、変性アクリレート系接着剤などを用いた接着剤層や、公知の粘着材を用いた粘着剤層を挙げることができる。
【0149】
[有機無機複合膜の用途]
本発明の有機無機複合膜は、基材に積層して種々の部材として用いることができる。
基材としては、前記支持体と同等の基板、フィルム等を用いることができる。また、前記ブラスチック基材を基材フィルムとして用い、基材フィルムに本発明の有機無機複合膜を積層して防曇フィルムあるいは、帯電防止フィルムとして用いることができる。
【0150】
また、本発明の有機無機複合膜が水系溶媒及び油性溶媒のいずれにも濡れ易い機能を有することを利用して、水性又は油性の塗料を塗布等するためのプライマーとして本発明の有機無機複合膜を用いることもできる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は重量基準である。
【0152】
[実施例1]
(有機無機複合分散液の調製)
−第1混合液調製工程−
(B)成分であるアニオン性の非水溶性樹脂の粒子として、三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション(製品名 WPB−6601/自己乳化型、カルボン酸・アミン塩含有タイプ、固形分25重量%)を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P1を調製した。
以下、有機無機複合分散液を単に「複合分散液」と記す場合がある。
次に、(a)成分である金属アルコキシドとして、テトラメトキシシラン(TMOS)10重量部にメタノール15重量部を添加し室温で攪拌し、TMOS溶液M1を得た。
得られたTMOS溶液M1に5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−1を得た。
【0153】
−第2混合液調製工程−
その後、酸触媒である0.1N−塩酸13.5重量部を第1混合液K1−1中に徐々に滴下し、pHを3として第2混合液K2−1を得た。
【0154】
−加熱工程−
その後、第2混合液K2−1を50℃で1時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D1を得た。
【0155】
(有機無機複合膜の作製)
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D1を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D1は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C1を形成した。
その後、コーティング層C1を110℃で1.5時間加熱し、実施例1の有機無機複合膜を得た。
【0156】
[実施例2]
(a)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)10重量部に蒸留水15重量部を添加し室温で攪拌してTMOS溶液M2を得た。
得られたTMOS溶液M2に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−2を得た。
その後、第1混合液K1−2に0.1N−塩酸13.5重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−2を得た後、第2混合液K2−2を40℃で10分攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D2を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D2を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D2は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C2を形成した。
その後、コーティング層C2を110℃で1.5時間加熱し、実施例2の有機無機複合膜を得た。
【0157】
[実施例3]
(A)成分であるテトラメトキシシラン(TMOS)11.5重量部に蒸留水15重量部を添加し室温で攪拌してTMOS溶液M3を得た。
得られたTMOS溶液M3に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(32.5重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−3を得た。
その後、第1混合液K1−3に0.1N−塩酸15重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−3を得た後、第2混合液K2−3を70℃で2時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D3を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D3を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D3は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C3を形成した。
その後、コーティング層C3を110℃で1.5時間加熱し、実施例3の有機無機複合膜を得た。
【0158】
[実施例4]
(B)成分として、三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB363/自己乳化型、カルボン酸・アンモニウム塩含有タイプ、固形分25重量%〕を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P2を調製した。
実施例2で調製したTMOS溶液M2に、5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P2(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−4を得た。
その後、第1混合液K1−4に0.1N−塩酸21重量部を徐々に滴下しpHを3として、第2混合液K2−4を得た後、第2混合液K2−4を50℃で2時間攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D4を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D4を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D2は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C4を形成した。
その後、コーティング層C4を110℃で1.5時間加熱し、実施例4の有機無機複合膜を得た。
【0159】
[実施例5〜実施例9]
実施例1〜実施例3と同様にして、表1に示す条件で有機無機複合分散液D5〜D9を調製した。厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、表1に示す成分・量で調製した有機無機複合分散液D5〜D9を、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが約0.3μmとなるように塗布した。その後、110℃で1.5時間加熱し、コーティング膜を得た。
【0160】
[比較例1]
実施例1で調製したTMOS溶液M1に、実施例1で調製した5重量%ポリウレタンエマルション水分散液P1(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを8として、第1混合液K1−1を得た。
その後、酸触媒を添加しない状態で10分間放置したところ、急激に液が増粘しゲル化を起こしたため、有機無機複合膜を得ることができなかった。
【0161】
[比較例2]
実施例1と同様にして第2混合液K2−1を得た後、直ちに厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した第2混合液K2−1を、バーコーターを用いて塗布した。第2混合液K2−1は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C102を形成した。
その後、コーティング層C102を110℃で1.5時間加熱し、比較例2の有機無機複合膜を得た。
【0162】
[比較例3]
実施例3と同様にして第2混合液K2−3を得た後、直ちに厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した第2混合液K2−3を、バーコーターを用いて塗布した。第2混合液K2−3は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C103を形成した。
その後、コーティング層C103を110℃で1.5時間加熱し、比較例3の有機無機複合膜を得た。
【0163】
[比較例4]
(B)成分として、三井化学ポリウレタン(株)製ノニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 W−635/PEG含有タイプ、固形分35重量%〕を用い、蒸留水で5重量%に希釈したポリウレタンエマルション水分散液P3を調製した。
実施例1で調製したTMOS溶液M1に、(B)成分として5重量%ポリウレタンエマルションP3(65重量部)を添加し、室温で3分間攪拌し溶液のpHを6.8として、第1混合液K1−101を得た。
その後、第1混合液K1−101に0.1N−塩酸13.5重量部を徐々に滴下しpHを2として第2混合液K2−101を得た後、第2混合液K2−101を50℃で10分攪拌し、TMOSの加水分解縮合反応を行い、有機無機複合分散液D101を得た。
厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、上記の方法で調製した有機無機複合分散液D101を、バーコーターを用いて塗布した。有機無機複合分散液D101は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C104を形成した。
その後、コーティング層C104を110℃で1.5時間加熱し、比較例4の有機無機複合膜を得た。
【0164】
[比較例5]
三井化学ポリウレタン(株)製アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB−6601〕を、直接、厚さ12μmのAl2O3蒸着PETフィルム〔東セロ(株)製、TL−PET〕に、バーコーターを用いて塗布した。
アニオン性ポリウレタンエマルション〔製品名 WPB−6601〕は、乾燥後の厚みが約0.3μmとなるように塗布し、コーティング層C105を形成した。
その後、コーティング層C105を、110℃で1.5時間加熱し、比較例5の有機無機複合膜を得た。
【0165】
なお、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例4の有機無機複合膜中に占めるシリカの含有の割合(含有率)を以下の方法で算出し、下記表1に示した。
【0166】
−シリカ(SiO2)含有率の算出方法−
有機無機複合膜中のシリカ含有率は、実施例1〜実施例9及び比較例1〜比較例4における(A)成分であるTMOSが100%反応し、SiO2になったと仮定して算出した。
すなわち、TMOSの分子量(Mw)を152、SiO2の分子量(Mw)を60としたとき、SiO2/TMOS=60/152=0.395である。
つまり、TMOSの添加量に0.395を掛けた値が、有機無機複合膜中のSiO2含有量となる。これより、シリカ(SiO2)含有率は、以下の式(2)を用いて計算した。
【0167】
シリカ(SiO2)含有率
=[TMOS]×0.395/([B]+([TMOS]×0.395)) (2)
【0168】
上記式(2)において、[B]は、(B)成分であるウレタン樹脂を含有するウレタンエマルションP1〜P3の各重量部を示し、[TMOS]は、TMOSの重量部を示す。
たとえば、実施例1の有機無機複合分散液の場合、シリカ(SiO2)含有率は、
複合分散液中のシリカ(SiO2)含有量=(10×0.395)=3.95、
複合分散液中のエマルション粒子含有量=(65×0.05)=3.25、
シリカ(SiO2)含有率(%)=3.95/(3.25+3.95)×100=55
である。
【0169】
なお、pHは、メトラー社製pHメーター「MP225」を用いて測定し、粘度は、東機産業(株)社製E型粘度計「TV−22形」を用いて測定した。
【0170】
(有機無機複合分散液等中のA1微粒子の有無の評価)
実施例1〜実施例9で得た有機無機複合分散液D1〜D9、比較例1で得たゲル状物、及び比較例2で得た第2混合液K2−2、比較例3で得た第2混合液K2−3、及び比較例4で得た有機無機複合分散液D101中の、A1微粒子、すなわち、微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の有無を、TEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いた目視観察により調べた。
評価結果を下記表1に示す。評価基準は、次のとおりである。
−評価基準−
○:ウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察された。
×:ウレタン樹脂粒子表面にシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察されない。
【0171】
実施例3で得た有機無機複合分散液D3については、前記図2として示すTEM像が得られ、比較例3で得た第2混合液K2−3については、前記図3として示すTEM像が得られた。
なお、有機無機複合分散液D3及び第2混合液K2−3のTEM像は、D3及びK2−3を、それぞれ水で希釈し、TEM観察用支持膜上に展開し、乾燥させたサンプルについてTEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察することにより得た。
【0172】
図2からわかるように、実施例3のD3においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度の微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)によって被覆された特徴的な構造が観察された。
一方、比較例3のK2−3においては、図3からわかるように、エマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面に特徴的な構造は観察されなかった。
なお、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0173】
【表1】
【0174】
前記表1中、シリカ含有率の単位は〔重量%〕であり、A1成分、希釈溶媒、B成分および酸触媒の量の単位は〔重量部〕である。
【0175】
[有機無機複合膜の評価]
以上により得られた実施例1〜実施例9及び比較例2〜比較例5の有機無機複合膜について、以下の評価を行った。
【0176】
(1.接触角)
協和界面化学(株)製接触角計「CA−XE型」を使用し、有機無機複合膜表面上に滴下した液滴の接触角を液滴法により測定した。液体は、蒸留水およびn−ヘキサデカン(n−C16H34)を用いた。実施例1〜実施例9及び比較例2〜比較例5の有機無機複合膜について評価した結果を表2に示す。
【0177】
【表2】
【0178】
(2.表面凹凸)
Vecco社製原子間力顕微鏡(AFM)ナノスコープIIIAを用いて、実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜の表面凹凸を評価した。測定は、タッピングモードで行った。
実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜のAFM像を、図11〜13に示す(実施例1;図11、比較例2;図12、比較例5;図13)。
【0179】
実施例1、比較例2、及び比較例5の有機無機複合膜のいずれも、エマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子の粒径を反映した50から100nm程度の凹凸形状が見られた。さらに、両親媒性を示す実施例1においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が粒径(最大径)5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な凹凸構造が観察された。一方、比較例2、及び比較例5ではシリカ粒子による凹凸構造は観察されなかった。
【0180】
(3.膜断面の形状観察)
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜を用い、Al2O3蒸着PET基板(東セロ(株)製、TL−PET)にコートしたサンプルを収束イオンビーム(FIB)加工によって切片を切り出した。続いて、この膜断面の形状をTEM(透過型電子顕微鏡、日本電子(株)製、JEM−2200FS)を用いて観察した。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のTEM像を、図14の(A)(実施例1)及び図15の(A)(比較例2)に示す。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のいずれも粒径50nm〜100nm程度のエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子が観察された。なお、ウレタン樹脂粒子の粒径は、TEM像の図中のウレタン粒子の粒子径(最大径)を実測した。
【0181】
さらにEELS(電子エネルギー損失分光-マッピング法)により、有機無機複合膜の詳細を調べた。
実施例1及び比較例2の有機無機複合膜のEELS像を、図14の(B)〜(D)(実施例1)及び図15の(B)〜(D)(比較例2)に示す。
両親媒性を示す実施例1の有機無機複合膜においてはエマルション粒子に由来するウレタン樹脂粒子表面が、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子によって被覆された特徴的な構造が観察された。なお、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0182】
(4.膜表面の組成分析)
VG社製ESCALAB220iXL(X線源AlKα)により、コートしたサンプル表面の元素の組成率を測定した。すなわちサンプルのワイドスペクトルより検出された元素についてさらにナロースペクトルを測定し、そのピーク面積より組成率を計算した。
実施例2、実施例3、及び比較例2の有機無機複合膜の表面の組成比を求めた結果を表3に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
表面凹凸、膜断面の形状観察から、両親媒性を示すコーティング膜においてはエマルション粒子に由来する粒径(最大径)50nm〜100nm程度のウレタン樹脂粒子表面に、粒径5〜20nm程度のシリカ粒子により被覆された様子が観察され、この特徴的な構造が両親媒性を示す要因の一つとして判断される。また、両親媒性を示すコーティング膜表面では、両親媒性を示さない膜に比べてSi元素の比率が高い。このことは、有機無機複合分散液中のエマルション粒子の表面をシリカ粒子が被覆しているためであると推察される。
なお、ウレタン樹脂粒子の粒径は、TEM像の図中のウレタン粒子の粒子径(最大径)を実測し、シリカ粒子の粒径は、TEM像の図中のシリカの粒子径(最大径)を実測した。
【0185】
(5.防曇性)
実施例1、実施例2、及び比較例4の有機無機複合膜を、それぞれPETフィルムに積層して防曇フィルム1〜3を作成した。防曇フィルム1〜3に1分間水蒸気を当て、水蒸気から離した後、25℃、RH10%の環境下に配置し、曇り具合及びその変化を下記基準により三段階で官能評価した。
評価結果を表4に示す。表4では防曇フィルム1〜3を「フィルム1」等と略記する。
−評価基準−
○:曇りが観察されない
△:曇っているが、10秒以内に回復し、曇りが見られなくなる
×:曇っており、曇りが10秒経過しても回復しない
【0186】
(6.帯電防止性)
実施例1、実施例2、及び比較例4の有機無機複合膜を、それぞれPETフィルムに積層して帯電防止フィルム1〜3を作成した。
上記で得られた帯電防止フィルム1〜3の表面抵抗率を、25℃10RH%の雰囲気下で絶縁抵抗測定器(VE−30型;川口電気(株)製)を用いて測定した。
評価の結果を表4に示す。表4では帯電防止フィルム1〜3を「フィルム1」等と略記する。
【0187】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】本発明の有機無機複合分散液の分散態様の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の有機無機複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【図3】非加熱複合分散液を希釈後、TEM観察用支持膜上に展開し観察検体としたもののTEM像である。
【図4】本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の有機無機複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図6】非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の表面構造の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の有機無機複合膜の表面の一例を示すAFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
【図8】非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の表面の一例を示AFM像であり、(A)は高さ像であり、(B)は位相像である。
【図9】(A)は本発明の有機無機複合膜の断面の一例を示すTEM像であり、(B)は、(A)に示す断面のうち膜表面を拡大した拡大図である。
【図10】(A)は非加熱複合分散液を用いて製造された非加熱複合膜の断面の一例を示すTEM像であり、(B)は、(A)に示す断面のうち膜表面を拡大した拡大図である。
【図11】実施例1の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図12】比較例2の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図13】比較例5の有機無機複合膜の表面を示すAFM像(高さ像)である。
【図14】(A)は、実施例1の有機無機複合膜の断面を示すTEM像であり、(B)は炭素原子の存在を示すEELS像であり、(C)は酸素原子の存在を示すEELS像であり、(D)はケイ素原子の存在を示すEELS像である。
【図15】(A)は、比較例2の有機無機複合膜の断面を示すTEM像であり、(B)は炭素原子の存在を示すEELS像であり、(C)は酸素原子の存在を示すEELS像であり、(D)はケイ素原子の存在を示すEELS像である。
【符号の説明】
【0189】
2 アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子
4 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)
6 微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)が付着したアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子
8 金属アルコキシド(a)
10 金属酸化物(A2)の微粒子
12 本発明の有機無機複合分散液を用いて形成されたコーティング層
14 支持体
16 保護層
18 金属酸化物(A2)の微粒子群
20 非加熱複合分散液を用いて形成されたコーティング層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液。
【請求項2】
前記金属ヒドロキシドが水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の有機無機複合分散液。
【請求項3】
前記金属ヒドロキシドが、水酸化ケイ素である請求項1または請求項2に記載の有機無機複合分散液。
【請求項4】
前記アニオン性基が、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液。
【請求項5】
前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂がポリウレタン樹脂を含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液。
【請求項6】
表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜。
【請求項7】
複合膜表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する請求項6に記載の有機無機複合膜。
【請求項8】
前記金属酸化物(A2)の微粒子の粒子径が、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%である請求項6又は請求項7に記載の有機無機複合膜。
【請求項9】
前記非水溶性樹脂(b)の粒子が、粒径0.05μm〜1μmのアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子である請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の有機無機複合膜。
【請求項10】
金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、
前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、
前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する有機無機複合分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する有機無機複合膜の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の有機無機複合膜を、基材表面に積層した部材。
【請求項13】
防曇フィルムである請求項12に記載の部材。
【請求項14】
帯電防止フィルムである請求項12に記載の部材。
【請求項1】
微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)と、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子とを含有し、前記微粒子状の金属ヒドロキシドの脱水縮合物(A1)の全部または一部が前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子に付着し、液性がpH1〜pH5である有機無機複合分散液。
【請求項2】
前記金属ヒドロキシドが水酸化ケイ素、水酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載の有機無機複合分散液。
【請求項3】
前記金属ヒドロキシドが、水酸化ケイ素である請求項1または請求項2に記載の有機無機複合分散液。
【請求項4】
前記アニオン性基が、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基からなる群より選ばれる1種以上またはその塩である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液。
【請求項5】
前記アニオン性基を有する非水溶性樹脂がポリウレタン樹脂を含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液。
【請求項6】
表面の一部が金属酸化物(A2)の微粒子で被覆された非水溶性樹脂(b)の粒子を含有し、水に対する接触角が20°以下であり、かつ、n−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である有機無機複合膜。
【請求項7】
複合膜表面が、非水溶性樹脂(b)の粒子により形成される凹凸表面に、金属酸化物(A2)の微粒子が被覆した構造を有する請求項6に記載の有機無機複合膜。
【請求項8】
前記金属酸化物(A2)の微粒子の粒子径が、非水溶性樹脂(b)の粒子の粒子径の0.1%〜60%である請求項6又は請求項7に記載の有機無機複合膜。
【請求項9】
前記非水溶性樹脂(b)の粒子が、粒径0.05μm〜1μmのアニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子である請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の有機無機複合膜。
【請求項10】
金属アルコキシド(a)のアルコール溶液または水性溶液に、アニオン性基を有する非水溶性樹脂(B)の粒子を含有する分散液を混合してpH7〜pH10の第1混合液を調製する第1混合液調製工程と、
前記第1混合液に酸触媒を添加してpH1〜pH5の第2混合液を調製する第2混合液調製工程と、
前記第2混合液を、30℃〜90℃に加熱する加熱工程とを有する有機無機複合分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の有機無機複合分散液を支持体上に塗布し、乾燥する工程を有する有機無機複合膜の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の有機無機複合膜を、基材表面に積層した部材。
【請求項13】
防曇フィルムである請求項12に記載の部材。
【請求項14】
帯電防止フィルムである請求項12に記載の部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−132742(P2010−132742A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308375(P2008−308375)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】
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