説明

有機物質及び生化学物質を同定する方法

本発明は、少なくとも2つの電極で構成されるナノギャップセンサーを用いた、流体媒質(Fm)中の、有機物質又は生体物質を同定し、及びそれらの濃度を決定する方法に関する。本発明は、異なる材料からなる複数の電極を有するナノギャップセンサー(100)を使用し、各プローブ分子A(3)、B(4)がそのセンサーの2つの電極(1,2)の各表面に結合しており、そのプローブ分子が、前記流体媒質中の目的の物質又は分析物分子と特異的に結合する少なくとも1つの結合可能基を有し、少なくとも2つの結合部位(c53、c54)を有する前記分析物分子が、それを含有する流体媒質から選択的に排出され、前記プローブ分子の自由末端に結合し、それらが前記電極間に架橋(Bm)を形成し、そして、インピーダンスを変化させることを特徴とする。流体媒質中の物質の濃度は、前記変化の結果として決定することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
核酸の同定には、例えば、病原性生物の同定、遺伝子検査及び法医学的技術等、多くの用途が存在する。数千もの特徴的な核酸配列の同時スクリーニングの自動化において、重要な進歩が成し遂げられた。即ち、遺伝子チップ、あるいはマイクロアレイ技術において、多くの異なるDNAサンプルがガラス又はシリコンチップ上に正確に配置され、固定される。検査されるべきサンプルは、このチップと接触し、そのサンプル中に相補的な核酸が存在する場合のみ、チップ上のプローブDNAとハイブリダイズする。続いて蛍光検出が使用され、核酸二重鎖の形成が検出される。この系の長所は、数百〜数千の配列を自動の系により試験することが出来、更に各系が市販されている点にある。
【0002】
従って、蛍光色素を使用するハイブリダイゼーション検出は、本質的に、核酸を特異的に検出する強力な方法である。しかしながら、この系を用いて検出可能かつ信頼できるシグナルを取得するには、検出において、第一に、サンプル中の標的分子をPCRを使用して選択的に増幅する必要があり;加えて、蛍光マーカーによるマーキングを要する。よって、評価において、この技術は、蛍光を検出することが出来る系も必要とする。これらの要因により、従来のこの系は非常に複雑であり、そのため、より単純かつより直接的な手法が求められ、望まれている。
【0003】
この問題を解決するための提案として、本明細書中に記載の発明は、生体分子、好ましくは核酸の検出における、電気的ナノバイオセンサーの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
電気的ナノギャップセンサーの意義
バイオセンサーは、その表面に生体成分、即ちプローブ分子が固定化されたセンサーであり、それらの分子がセンサー素子として分析物と再び相互作用し、それらの反応を変換器に伝達することが出来る。従って、実際の検出は、電極の表面上で直接行われる。この方法において一定程度障害となるものは、電気的二重層容量(electrical double-layer capacity)、即ち電極の分極であり、これは電極表面に近接するイオンの蓄積により決定される。従って、前記定義によるバイオセンサー中の、センサー表面に固定化された生体分子の性状の測定が困難となる。そのため、この減少は、特に低周波の場合に、分析物の検出においても負の影響をもたらす。
【0005】
一方で、小さなナノギャップのサイズ又は寸法(dimension)は、電極の分極作用を最小化し、即ち周波数に依存している。ナノギャップが電気的二重層の厚みより小さくなるように選択すれば、イオン強度からのナノギャップ容量の依存性は消失する。これは、検出プロセスの過程に、例えば洗浄工程等のイオン強度の変更がある場合に、特に重要である。
【0006】
ナノギャップセンサーの種類
目下公知となっているナノギャップセンサーは、溶液中の単鎖若しくは二重鎖DNAを互いに区別するための誘電効果の測定、又は個々の電極間で(多かれ少なかれ)誘電接続を作り出すためのDNA鎖の使用のいずれかを基礎とする。
【0007】
誘電センサーの場合、容量又は他のインピーダンスに基づくデータの変化は、標的分子の存在又はその立体構造等の指標として選択される。
【0008】
他のアプローチによると、例えば、2つの電極が核酸で連結される。これらの2つの電極間の伝導性の増大が測定される。よって、電気的に伝導性の生体分子が必要となる。DNA鎖の金属化(metallization)により、伝導性が顕著に増大する(Braun et al.)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明
全く新たな手段として本明細書中で主張される新規アプローチは、先述の2つのアプローチにおける長所を併せ持つ。交流測定を含む架橋反応が使用される。特定の配置にあっては、架橋反応の効率が増大し、そのため検出の限界は、顕著に低下する。
【0010】
本発明は、請求項1の前文にあるように、物質、特に分子、分子配列、分子部分等を同定し、更に、流体中の、即ち、液体又はガス、媒体(medium)中のそれらの各質量又は濃度を決定する方法であり、ナノギャップセンサーが使用され、該センサーが、少なくとも2つの電極を含むものに関し、請求項1の特徴部分に記載された特徴を有する。
【0011】
新規アプローチ又は発明のより詳細な説明
異なる材料からなる2つの電極により定義されるナノギャップは、分析物若しくは分析物分子、又は補助分子と、異なる2つのプローブ若しくはプローブ分子との結合により架橋される。様々なプローブが様々な電極上に固定化され、各電極上には、1種類のプローブのみが存在する。各分析物又は補助分子は、異なる材料からなる電極と結合して固定化した、2つの異なるプローブの2つの親和性結合部位に対する、2つの異なる露出した結合部位を有する。この連結の検出は、結合イベント前後の電極間の交流電流を使用して、又はリアルタイムでのオンライン記録に対応する、継時的記録装置(continuous temporal recording)を用いて行われる。
【0012】
発明に従い使用されるアプローチの背景
より効率的な連結
この新規アプローチにおいて、電極は、例えばDNA鎖等により互いに連結され得て、それにより、分析物の検出が達成され得る。電極を効果的に連結するためには、競合反応が生じないことが重要である。目下公知となっているナノギャップセンサー構造では、通常はそうではなかった。DNA鎖が僅かに共通するだけでナノギャップが架橋され、それらの殆どが他の反応において反応し、例えば「内部電極ループ(inner electrode loop)」を構成するものであった。
【0013】
シグナル測定に寄与する反応の明確な改善は、本発明の実質的な構成要素を表す。
【0014】
例えば、米国特許出願US 2006/0019273 A1、特にその図12を考慮すると、固定化されたスカベンジャー分子がループを形成することにより、競合反応が生じ得るが、このことは前記米国特許出願では考慮されていない。即ち、検出されるべき核酸配列の両端が同じ側の電極に結合し、そのために両電極間に架橋が形成されず、またシグナル検出に実質的に寄与しない場合がある。立体的な状況から、そのようなループ形成が、ナノギャップの架橋と比較してなおも生じ得て、故に検出可能なイベントが主として起こっている結合イベントと対応しないことは明白である。
【0015】
Hashioka et al.においても、DNAはなおも一方の電極にのみ結合するので、DNAによるナノギャップの架橋は、恐らく有効ではない。
【0016】
米国特許出願US 2002/0172963 A1は、DNAと支持ウエハー(support wafer)とを接触させず、その上でナノギャップ電極を適用することの重要性を言及している。これは、結合イベントの効率の増大を達成するための1つの工程を表しているが、他の生じ得る副反応の防止について何も言及していない。測定されるDNAの最適の位置についての考えも、そこには示されていない。
【0017】
分析的核酸化学用のセンサーのもう一つの極めて重要な特性は、選択性である。点突然変異、即ち個々の塩基の変化の検出は、更に一層重要性を増している。点突然変異をいかにして検出するかの方法は、本質的に、例えばSambrook et al., Molecular Cloning等の文献中に十分に記載されている。相同的核酸配列は、主に選択的ハイブリダイゼーションにより検出される。選択性を向上させるために、例えば低イオン強度及び高温等、いわゆるストリンジェントな条件が使用される。
【0018】
選択性の増大におけるもう一つの考え方は、2つのプローブの同時使用である。これは、例えばサンドイッチハイブリダイゼーション及びリアルタイムPCR等において見出されている。その場合、2つの異なるプローブは、結合イベントの検出を可能とするため、同時に結合しなければならない。架橋反応は、本質的に、そのようなプローブ系においてつきものであるが、なおも、例えばHashioka et al.及びUS 2006/0019273 A1は、それらを無視している。
【0019】
これらの例から、架橋又は競合副反応の各効率が、ナノギャップセンサーの有用性のために所望される選択性に応じて、検出限界の低下に重要な役割を果たすという事実が生じる。
【0020】
本発明の観点によれば、架橋すべき2つの電極を、それぞれ1種類のプローブ分子で選択的に埋め尽くして、「内部電極ループ」を形成できなくすることが提案される。よって、発生する全ての結合イベントがナノギャップを架橋させられ、そして検出器シグナルに寄与させられる。
【0021】
固定化-問題点
しかし、ナノスケールの電極を使用するとき、マイクロアレイ技術等において使用される指向的選択的固定化方法は適用することが出来ない。なぜなら、古典的なスポットサイズは、直径約100μm、隣接スポット間の距離が100〜400μmであり、即ち大きさが不適切だからである。同様に、ナノスケールの電極においても、古典的なリソグラフィー(lithography)技術は既に限界に達している。従って、他のアプローチが所望される。
【0022】
加えて、また、必要な選択性を達成するための温度上昇の工程についても、生体分子とセンサー表面との安定な結合を保証する必要性を更に含む。電極系に通常使用されるチオール-金結合は、擬似的な共有結合(quasi-covalent)に過ぎず、真の共有結合ではない。このことは、関与している結合エネルギーから明らかである。よって、通常ストリンジェント条件に必要な温度では、金-チオール結合はもはや熱的に不安定である。
【0023】
しかし、ナノギャップを架橋するというセンサーの概念のため、チオール結合を介して結合するDNAのほんの一部の損失であってもそれは著しい逸失となり、これは発生したハイブリダイゼーションのシグナルを無効化し得る。
【0024】
そのため、一般的なチオール-金システムは、「著しく逸脱した(stronger deviating)」配列の場合の検出には適切であり得るが、点突然変異の場合はそうではない。この場合、電極により強力に結合する他のシステムが見出され、使用されなければならない。加えて、将来の製品においては、半導体技術の確立された手順の範囲内で、生産鎖(production chain)を遂行出来なければならない。
【0025】
同様に、nmの寸法の電極系の場合、電極と生物成分との間に中間層が必要であれば、それは当然可能な限り薄く、即ち、nmの範囲内でなければならず、最適の場合、中間層を全く必要としないことが望ましい。しかしながら、場合によっては、所望の中間層は十分に明確でなければならず、これでは、現実には、チオールを用いて電極を作製することが出来ない(単層ではなく多層では殆ど制御できない)。よって、基本的により熱に安定で、そのため使用され得る長鎖チオールを同様に使用することも出来ない。従って、実際には、センサー表面への直接結合のみが考慮の対象となる。
【0026】
固定化-問題となる溶液
ナノのレベルにおける選択的な固定化は、本発明に従い、ナノギャップを定義する2つの電極が、最初から異なる材料で形成されているという事実により、効率的に達成される。なぜなら、異なる材料は、化学成分及び物理的性状も異なるからである。生体分子が前記異なる表面に結合するのに使用される化学反応は、特定の1つの異なる材料表面が、選択的に特定の生体分子と連結するように設計され得る。よって、単純な方法により、特定の、小さな、ナノスケールの領域上に、プローブ分子を選択的に配置することが出来る。
【0027】
目下公知となっている選択的固定化のアプローチは、本発明において提供される有効なアプローチ、即ち非対称な電極の性状を利用するアプローチについて言及していなかった。
【0028】
米国特許出願US 2002/0022223 A1は、電極上での個別の固定化について言及しているが、実際に実施可能な程度に詳細な説明はしておらず、この文献中にされている方法は、nm規模での局所的固定化を可能とするものではない。そこで、選択的固定化における静電気的及び/又は化学的相異は、電極の支持材料上での固定化(電極自体では固定化を起こさない)を最小限とすることが意図されている。
【0029】
同様に、米国特許出願US 2004/012161 A1は、特定のプローブの選択的な固定化を介した、特定の電極の有効な連結の重要性について言及している。これは、ニッケル電極及び毒性青酸イオン化物を用いた電気金めっきを用いた複雑なプロセスを介して行われる。これは、この出願中に明示されているように、nmの範囲での最小量での機械的打ち込みはもはや不可能だからである。しかしながら、主に、全ての電極は、それぞれが同一の材料で出来ている。目下公知となっているこれらのアプローチは、主としてそれらの目標を達成するが、それらは、安価な大量生産に利用出来ない。
【0030】
他の文脈において、米国特許出願US 2002/0172963 A1は、本質的に、電極の基板における固定化に使用されるものではなく、静電効果及び迂回路を経て選択的な固定化を成し遂げるという思想を示す。しかしながら、この方法は、不必要に複雑であり、故に同様に大量生産に利用できない。
【0031】
他の公知の米国特許出願US 2002/0172963 A1は本来、電気的に制動可能な(electrically addressable)ナノチューブによる表面の拡張(surface extension)を目的としている。選択的な固定化は、正及び負の電荷、並びに金粒子により達成される。よって、選択的な固定化は、材料固有の性状により達成されない。加えて、このアプローチは、ナノギャップ構造ではなく、分極作用をなおも含むため、これらのセンサーを製造するのに、高コストの電子ビームリソグラフィーが追加的に必要となる。
【0032】
発明に係るサンプルの製造
ナノ電極を生産する単純な手法が求められている。求められるギャップ距離は、PCR生産物又は他の検出に関する分子のサイズ又は長さにより概ね決定され、典型的には、およそ50nmの範囲内である。「従来の(Conventional)」ナノ電極は、それらの製造に際し、電子ビームリソグラフィーを必要とする。しかしながら、そのコストにより、その生産物は、現在の市場では受け入れられない結果となっている。
【0033】
分子生物学とナノ電子工学との統合は、生体分子との接触に安定で、かつ微小電極の製造方法に適した表面を必要とする。加えて、プローブ分子とセンサー表面との温度的に安定な結合が必要とされる。
【0034】
ダイヤモンド表面は、生体分子で十分に官能化(functionalised)されていてもよい。ダイヤモンドは、生体適合性であり、化学的に極めて安定であり、4Vの電気化学的電位窓を有し、そして絶対的に半導体技術に適合する。実線指向型製造及びそれらの構成要素の商業化の要求を充たすように、ナノ結晶ダイヤモンド層を、シリコンウェハー上に堆積させる。なぜなら、この点で、確立されたCMOS適合型プロセスが有利だからである。また、このアプローチによれば、新たなプロジェクトの後のステージにおいて、コスト減少用に確立された方策の採用も可能となる。
【0035】
目下のところ、互いに僅か数十nmばかり離れた電極による側面(lateral)ナノギャップは、複雑な電子ビームリソグラフィーによってのみ生産され得る。しかしながら、これらの側面ナノギャップの再現性に問題がある。DNAチップの製造コストを低く抑えつつ、高い感受性を達成するためには、金属ナノギャップ電極が提案されている(Hashioka)が、現代のアプローチは、電子ビーム露出(Hwang)等の複雑な技術を必要とする。
【0036】
より低コストでDNAチップに有用なナノギャップを製造する様々な方法を使用した、別のナノ製造技術についての報告が存在する(Hashioka)。これらには、電解析出(Qing et al.)、エレクトロマイグレーション(electro-migration)(Iqbal)、電気化学的手法(He et al.、Liu et al.、Chen et al.)、及び破砕技術(fracture technique)が含まれる。しかしながら、これらの方法は全て、半導体技術における高効率手法との適合性の問題のため、適用の可能性はかなり制限される。
【0037】
本発明で意図される目的において、前記電極は、それら自体が伝導性を有し、その伝導性は、古典的な非ドープ半導体を上回らなければならない。よって、金属、高濃度ドープ半導体材料、又は高濃度ドープ可能な半導体材料が想定される。それらの非限定的な例として、Si-及びC-系材料、例えばシリコン、ダイヤモンド、又は種々の黒鉛改変物等が挙げられる。
【0038】
ナノギャップセンサーを実現するためのもう一つの可能性は、層構造に関する。また、その層構造は、ナノメートルの範囲で層の厚さを再現可能であり、製造に容易である。例えば、もし三層構造から中間層、即ち第二の層が食刻される場合、そのギャップの幅は、専ら前記第二の層の厚みにより決定される。故に、このアプローチは、絶対的に再現可能である。前記成分の最終的な構造化は、標準的なリソグラフィーを使用して遂行され得る。故に、最終的なナノギャップ要素を形成するのに、複雑かつ高価な電子ビームリソグラフィーを必要としない。
【0039】
測定-改善の問題点及びアプローチ
目下公開されているナノ電極を架橋するアプローチは、通常、DNAの伝導性が想定されていた。しかしながら、特にDNAに関しては、伝導性又は絶縁性において、文献により全く相反するデータが存在する。これは、考慮されるべき、より複雑な、現在では未だに機器又は装置に依存している、未知の種類の関連性を想定させる。
【0040】
例えば、US 2002/0172963 A1は、電気的伝導性を有する生体分子、ここではDNA又はRNA等の核酸分子等について言及している。それらは、US 2002/0172963 A1により詳細に記載され、特にそれらのリンカー依存性及び最適化について詳しい。実質的な結果として、単鎖DNAでは殆ど伝導性への寄与が認められないが、二重鎖DNAでは非常に顕著である。しかしながら、典型的なPCRフラグメントの塩基長を考慮した場合、検出されるべき配列を決定する2つのプローブ分子のみならず、「ギャップフィラー」あるいは「ヘルパーオリゴヌクレオチド」も必要となる。前記文献の図8を参照されたい。但しこれは、前記文献に直接には記載されていない。しかしながら、これは、アッセイの複雑性に関与し、どんな場合であっても検出反応の効率を低下させる。
【0041】
堅牢さと、例えば標的分子の修飾等の新たな条件に対する適応とを注意深くバランスしたシステムは、相当な努力によってのみ実現され得ることは明らかである。
【0042】
よって、本発明において提供されるとき、より制限の少ない電気的特性の測定を目的とすることは実質的により生産的である。直接的な電流曲線にとって代わる格段に高感度かつ自由度の高い電流測定を通じてのセンサーの架橋の特徴付け/検出の選択肢は、現在のところ本発明者らは把握していない。この場合、分析物の伝導特性に代えて絶縁は、もはや反応の成否に影響しない。交流測定は、測定において、流れなければならない電流は非常に僅かであるか又は不要であるという、追加的な利点を有する。故に、生体分子は、挙動において測定の影響を受けず、干渉を受けないオンラインでの結果の観察が可能となる。
【0043】
これは、例えば、米国特許出願US 2002/0172963 A1の段落番号0082で言及される電圧範囲内の電圧では、生体分子に不可逆的な反応を引き起こしてしまうため、不可能である。これは、リアルタイムでの生物相互作用の観察の可能性を妨げる。
【0044】
電極間のギャップを架橋するとき、分析物、又は分析物及び補助分子も、検出に最適な形で提示及び配置される。
【0045】
アプローチ、検出配列
詳細な説明:
1.センサーの製造
2.固定化;必要に応じヘルパーオリゴ-ヌクレオチド;
配列の選択
3.試料調製、PCR;必要に応じ核酸の変性(二重鎖として存在する場合)
4.測定前/中/後;洗浄;温度
5.チップPCR
【0046】
ad 1:センサーの製造
本発明において提案されるナノセンサーは、図1aに模式的に示されている。示されている材料の組合せは、実施のための可能なバリエーションの一つを例示及び明示しているに過ぎないとみなされたい。明確化のため、単一の電極の連結のみを、断面図として表している。しかしながら、これらの連結のうち幾つかを、1枚のチップ上で接続又は非接続状態に統一してもよい(「アレイ」)ことは明白である。
【0047】
製造において、n+−にドープされたシリコンウェハーを、熱酸化する。本手法において採用されるSiO2層の厚さは、数十nmの範囲内である。究極的には、これは、ナノギャップの幅を規定する。
【0048】
次の工程として、CVDプロセスを利用して、これらのウェハーを、50〜200nmの厚さの薄いダイヤモンド層で被覆する。良好な抵抗接触を担保するために、光リソグラフィー及びリフトオフプロセスを利用して、前記ダイヤモンド層の上に、例えば金等の金属接触(Metal contact)を重層する。これらは、電気的検出単位及び評価単位との接触点として機能する。次の工程において、適切なイオンエッチング技術を用いて、ダイヤモンド層を構造化する。それから究極的には、ナノギャップを露出するため、SiO2層は、湿式化学的にアンダーカットされ、又は完全にエッチングされる。
【0049】
ad 2:固定化
選択的かつ高度に確実な固定化は、2つの電極に様々な材料を使用することにより保証される。それらの材料として、例えば、ダイヤモンド及びシリコンが挙げられる。図1において、これを模式的に示す。また、材質の多様性は、その表面の化学的性状も様々であることを意味する。これを選択的な反応の使用と組み合わせることにより、特定の表面上でのみ共有結合を起こさせる。その結果、例えばDNAフラグメントにナノギャップを架橋させることを目的として、異なる電極における化学的性質を限局させ、及びnmレベルで制御(resolution)させることが可能となる。
【0050】
いかなる意味においても限定するものではないが、一例として、ダイヤモンド-シリコンナノギャップセンサーをより詳細に記載する。ニトロフェニル基を、ダイヤモンド表面上に電気化学的に固定化する。それから、これらを、アミノフェニル基に変換し、続いてPDITC(化合物名:フェニレンジイソチオシアネート)等のクロスリンカーを使用して、市販のアミノ-オリゴをこの表面に共有結合させる。
【0051】
しかしながら、ダイヤモンドは、その形態及び電気的性状(絶縁体的挙動、p-伝導性、及び半金属的挙動等)を調整できるだけでなく、その表面終端(surface termination)をも柔軟に設計することが出来る。例えば、その終端を、水素、酸素、フッ素及び窒素とすることが出来る。また、他の化合物の適用も可能であり、そしてそれは、nmスケールでの選択的固定化を実現するための電気化学的アプローチを目的とするものに限定されない。
【0052】
次の工程で、他のプローブ分子を、シリコン表面上に選択的に固定化することが可能である。ダイヤモンド表面は、既にオリゴ-ヌクレオチドで保護されているからである。発明者らの研究(Bioelectrochemistry 2005 of Roppert et al.のポスター発表及び未公表データ)では、シラン中間層の使用を要さず、シリコン上に直接DNAを固定化することが可能である。構成要素の寸法がナノスケールであるとき、それはサイズにおいて精密に調整されていなければならず、センサーと生体分子との間の中間層が100%の精密性で調整されていなければ、そのセンサーの機能の高い確実性に大いに影響が生じることとなる。
【0053】
2つの異なるプローブ分子を、互いに離れており、ギャップにより区切られる、材質の異なる電極に選択的に適用する。配列の選択及び検出のために選択される条件により、プローブは、互いに相互作用することが出来ない。従って、US 2002/0022223 A1及びUS 2005/0287589 A1に記載の、プローブが距離に関して互いに接触してはならないという側面は、もとより本発明には関連しない。
【0054】
ad 3:サンプル調製
核酸、ペプチド、タンパク質、又は更に分析物の単離、サンプル調製、及び可能であれば精製は、当該技術分野の既知の情報に従い行われる。検出されるべき分子は、解析に先立ち、選択的に、又は非選択的に、濃縮(enrich)又は増幅(proliferate)させられる。
【0055】
特に、核酸の場合、DNAの増幅、又は増幅と同時にされるRNAからcDNAへの「転写」が必要となる場合がある。
【0056】
二重鎖核酸の発生に応じて、場合によっては、検出に際して、例えば加熱又はアルカリの作用等による、核酸の変性をしなければならない。
【0057】
しかしながら、RNAセンサーとしての使用は、特段意義深いものである。RNA検出を通じた微生物等の検出は、DNAを通じて行う場合よりも、主としてより高度の注意を払い行われ得る。なぜなら、検出の対象であるDNAよりも、rRNA分子のほうが多く存在するからである。従って、事前の増幅を行わずに直接核酸を検出したほうが、相対的に成功しやすい場合がある。これは、cDNAマイクロアレイに対して有利な差異である。この使用は、インフルエンザウイルス等のRNAウイルスの検査において広く採用される。
【0058】
ad 4:測定前/中/後
主に、測定装置との接触を接続することにより測定するために、構成要素(component)が最初に調製される。電極領域は、分析物又は分析物分子を含まない検出緩衝剤で平衡化される。そして、検出反応の条件下で、構成要素の測定が最初に行われる。初期値のみが決定された後、場合によってはその安定化の後、分析物又は分析物分子が添加される。初期値と比較した場合の変化が連続的に測定され得て、又は特定の僅かな期間後にも測定され得る。
【0059】
洗浄プロセス、及び生物学的解析で一般的な他の方法、例えば非特異的結合領域の遮蔽(blocking off)、又は温度上昇等が、このプロセスに採用され得る。
【0060】
あるいは、未だ本産業分野において使用されるに至っていない一般的な方法も、そのことにより除外されるべきではない。US 2002/0022223 A1は、例えば、低電気伝導性の非水性緩衝剤を使用することが可能であることを主張している。
【0061】
それ自体が複数の帯からなるものであり得る各センサーは、チップ上のいわゆるアレイ内で、同一又は異なるプローブ又はプローブ分子と組み合わせられ得る。この配列は、1つのサンプル中の、複数の〜大量の異なる構成成分を検出することにより、1つのサンプル全体、又は(例えばUS 2005/0287589 A1に記載の、点突然変異又は汚染物キャリーオーバーの検出用であり得る)様々なコントロール配列の代表的な断面図(cross-section)を収得するのに特に適している。
【0062】
これら全てのアプローチは、制御された条件下での各液体の供給を保証するために、それぞれの微小流体工学に組み入れられ、及び/又は一体化させられ得る。
【0063】
同様に、逆のアプローチが可能である。その場合、既に存在している架橋が、検出イベントにより破壊される。これは、「補助分子」として作用する架橋分子が、それをセンサーに付着させているプローブ分子に対するよりも、分析物に対して高い親和性を有しているという事実により達成される。
【0064】
核酸の場合、例えば、架橋分子内に点突然変異を導入すること等によりこれが達成され、そしてタンパク質であれば、正確に合致しない/非特異的抗体を導入すること等によりこれが達成され得る。
【0065】
リガンド置換アッセイ(LDA)も、前記接続が重要である。ここで、既に結合している、構造的観点では分析物と同等であり得る分析物の類似体を、「本当の」分析物で置換する。よって、陽性のサンプルの場合、分析物と分析物の類似体とは、互いに平衡GGの状態にある。試験がより確実に最適化されていくにつれ、この平衡は「本当の」分析物の結合の方にシフトし得る。故に、例えば、センサー表面から抗体等が流出すると、溶液中の、又はセンサー表面上の各シグナルが変化してしまう。故に、これは競合試験の特別なケースである。
【0066】
アプローチがより複雑になるにつれ、分析物(類似体)の結合又は流出により、より巨大な分子塊の流出が引き起こされ得て、これが、シグナル収量を更に大きく増大させ得る。更に接合(conjugate)し得る分析物(類似体)を有する「結合前(pre-bound)」状態が存在し、それが分析物により置換され、故に、小さい分析物自体が引き起こすよりも実質的に強力なシグナル変化が引き起こされる。
【0067】
具体的なケースは、図2〜4に示す。後の記載においてこれらを取り上げ、そこでより詳細に説明する。
【0068】
全ての場合、M-DNA技術は、架橋状態と非架橋状態との間のシグナルの差異を改善する助けとなり得る。
【0069】
同様に、持続的な二重鎖状態をもたらす、いわゆる「ヘルパーオリゴヌクレオチド」は、全てのケースで利用され得る。
【0070】
上記全ての測定方法として、インピーダンス法が考慮されている。様々な周波数が使用され得て、又は全ての波長が追跡され得る。これらは、DCオフセットを用いて提供され得て、又はOCP(開路電位)若しくは浮遊電位法を用いた測定が存在し得る。同様に、外部参照電極が使用され得て、又はそのようなものがチップに組み込まれている。四点測定も、同様に使用される。これらの手順は、当該技術分野における主張に対応した測定方法であるが、いかなる場合も他の方法を除外するものではない。
【0071】
ad 5:チップPCR
本方法は、オンチップPCRにも適している。ここでは、主に2つの方法、即ち、選択的に固定化したプライマーを互いの類似体と連結させて、ポリメラーゼ連鎖反応を使用する「正常な」PCR反応を行う方法、又はTaqManシステムを使用する、即ち、1つのプライマーを一方の電極に固定化し、他方の電極に「サンプル」を固定化する方法のいずれかが可能である。第二のプライマーは、溶液中に浮遊している。ここで、PCR生産物が合成されると、第一に、アニール工程に置いて、ギャップが架橋され、それから、続く重合/伸長工程において、プライマー1と「サンプル」との間の架橋結合は、AmpliTaq DNAポリメラーゼの5'−3'エキソヌクレアーゼ活性により加水分解される。一方、生産物が形成されない場合は、前記反応におけるナノギャップの架橋がされないので、シグナルの変化も無い。
【0072】
請求項2〜6は、本発明の様々な好ましい態様に関する。特に、請求項2及び3は、材質が異なる電極間に、プローブ分子、及び分析物分子又は分析物類似分子で形成された、最初から存在している架橋を溶解するための様々な種類のアプローチに関する。続いて、請求項4〜6は、本発明に本質的なナノギャップセンサーの好ましい態様に関する。
【0073】
最後に、請求項7〜10は、本発明に係る、nmの範囲での、様々な種類の新しい分析技術の使用に関する。
【0074】
本発明は、図面に基づいて更に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1aは、新規なナノギャップセンサー100の電極1及び2の配置を模式的に示している。これらの電極は2つの異なる材質で構成されており、例えば、一方がカーボン系材料、例えばドープされたダイヤモンドで、他方がシリコンである場合が考えられる。これらの2つの電極1及び2は、互いが絶縁部12で隔離されており、絶縁部は両側に陥みとして形成され、両電極間に数十nmのサイズのギャップが形成される。そのような陥みは、必ずしも必要ではなく、その場合はギャップは存在し得ない。更なる可能性として、中間に絶縁体の支持が無い、自由な浮遊構造であり得る。
【0076】
少なくとも部分的に長手方向に設けられたプローブ分子(アフィニティー分子A又は3)は、直接、又はリンカーを介して、少なくとも1つのその末梢端(センサー結合末端)で電極1と結合しており、そのため、そこに固定化され、少なくとも1つの自由(=末梢)末端が、電極1から突き出している。
【0077】
同様に、(少なくとも部分的に)長手方向に設けられたプローブ分子B又は4は、直接又は間接的に、その末梢端の1つで電極2と結合しており、そのため、そこに固定化され、少なくとも1つの自由末端を電極2から突き出している。2つのプローブ分子A,3及びB,4の2つの自由末端と、分析物分子C又は5の両端とが、それぞれの末端同士で結合する。ここで、分析物分子は元々流体媒質Mfに由来し、2つのプローブ分子A,3及びB,4に触れ、そして結合し、全体で架橋Bmが形成され、nmギャップを架橋し、同時に電極1及び2を互いに接続する。
【0078】
よって、電極1及び2から突き出すプローブ分子A,3及びB,4の状態から、分析物分子C,5を含む架橋Bmへと、転移(transition)が生じ、2つの電極が相互に接続し、それにより、交流電流インピーダンスの変化による、計量的に検出可能な変化がもたらされ、流体媒質中の分析物分子C5の存在を、及び場合によってはその量を推定することも可能である。
【0079】
図1bは、電極1と2との間の架橋Bmの形成をより明瞭に記載している(特段の記載なき場合、上記図と同一の参照番号が使用される)。
【0080】
プローブA,3は、電極1と、そのセンサー結合部位a31で結合し、そしてプローブB,4は、電極2と、そのセンサー結合部位b41で結合する。2つのプローブ分子A,3及びB,4の親和性結合部位のa32及びb42は、分析物分子C,5の実質的な末端の、露出した、結合部位c53及びc54のそれぞれと、1つ以上の結合を形成し、全体で架橋Bmが形成され、nmギャップを繋いで2つの電極1及び2を互いに接続する。
【0081】
【図2】図2は、逆プロセスを示す(特段の記載なき場合、上記図と同一の参照番号が使用される)。「結合前状態」として、既に電極1と2との間に架橋Bmが存在し、この架橋は、例えばDNA鎖等の補助分子D,6を、架橋成分として有する。D,6は、分析物分子である必要は無い。
【0082】
流体溶質中には、相補的分析物分子C5が存在し、これが鎖の断片又は補助分子D,6と結合が可能であり、これが補助分子D,6と結合し、そしてプローブ分子A,3及びB,4の親和性結合部位と補助分子D,6と間の結合が解け、それにより架橋Bmが破壊され、測定可能なインピーダンスの変化が引き起こされ、こうして、分析物分子C,5の存在、及び可能であれば量をも推定することができる。
【0083】
【図3】図3は、一般的に図2と同様のプロセスを示す(特段の記載なき場合、上記図と同一の参照番号が使用される)。ここで、補助分子D,6の末梢結合部位d63及びd64のいずれか1つのみ(本図ではd64)と結合する分子E,7が流体媒質Mf中に存在し、その結合能力は、d64と、プローブ分子B,4のb42との結合よりも強力である。
【0084】
先述の結合は分解し、分子E7が補助分子D,6の結合部位d64と結合し、それにより、当初の架橋Bmはもはや維持されず、インピーダンスの変化が観察され得る。
【0085】
【図4】図4は、電極1及び2と結合し、親和結合により、補助分子D,6の露出した結合部位と結合する、プローブ分子A,3及びB4センサーを用いた、架橋Bmを示す(特段の記載なき場合、上記図と同一の参照番号が使用される)。この架橋は、例えば、酵素E,8により、以下の3つの異なる方法;I)二重鎖領域の除去による、プローブ分子A3及びB4からの、補助分子D,6の脱離、II)補助分子D,6の単鎖領域の分解、又はIII)当初の架橋Bmを構成していた、プローブ分子A,3、B,4、及び補助分子D,6の分解により分解される。架橋Bmが分解されると共に、インピーダンスの変化が生じ、それにより、流体媒質Mf中の酵素E,8の存在、及び動的効果の測定を通じて、その濃度をも決定され得る。
【0086】
引用文献:
特許:
US 2002/0172963 A1:“DNA bridged carbon nanotube arrays”,発明者: Kelley; Fourkas; Naughton; Ren (全て米国)
US 2002/0022223 A1: “High resolution DNA detection methods and devices”, 発明者: Connolly/米国
US 2004/012161 A1: “Method for quantitative detection of nucleic acid molecules”, 発明者: Connolly/米国

US 2005/0287589 A1: “High resolution DNA detection methods and devices”, 発明者: Connolly/米国

US 2006/0019273 AV: “Detection card for analyzing a sample for a target nucleic acid molecule, and uses thereof”, 発明者: Connolly; Hainon; Murante; Grece; Tiller (全て米国)
【0087】
論文:
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Chen F., Qing Q., Ren L., Wu Z. and Liu Z. APPLIED PHYSICS LETTERS 86, 123105 s2005d
Hashioka S., Saito M., Tamiya E., Matsumura H. Appl. Phys. Lett. 85 (2004) 687
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Hwang J.S., Kong K.J., Ahn D., Lee G., Ahn D.J., Hwang S.W. Appl. Phys. Lett. 81 (2002) 1134
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Liu B., Xiang J., Tian J.-H., Zhong C., Mao B.-W., Yang F.-Z., Chen Z.-B, Wu S.-T., Tian Z.-Q. Electrochimica Acta 50 (2005) 3041-3047
Qing Q., Chen F., Li P., Tang W., Wu Z., Liu Z. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 7771-7775
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Reed M.A., Zhou C., Muller C.J., Burgin T.P., Tour J.M. 252-254 SCIENCE VOL. 278 10 OCTOBER 1997
Sambrook et al. “Molecular cloning”, 3rd Ed. , CSHL Press
【0088】
ポスター:
Roppert, K., Heer, R., Kast, M., Stepper, C., Koeck, A., Brueckl, H.: “A new approach for an interdigitated electrodes DNA-sensor”, コインブラで行われたBioelectrochemistry 2005にて発表された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電極を有するナノギャップセンサーを用いて、流体、即ち液体又は気体状の媒体中における、有機及び生化学物質、特に分子、分子配列、分子成分等を同定するとともに、その量又は濃度を決定する方法であって、
− 前記少なくとも2つの電極(1,2)が電気絶縁層(12)又は材料不在(non-material)ギャップ(12)により相互に隔てられ、前記電極が互いに異なる材料からなり、前記材料は伝導性及び/又は概ね半導性であるが、半導体特性と比べると高い伝導性を有する、ナノギャップセンサー(100)を用い、
− 前記センサー(100)の前記第1の電極(1)の表面に、(好ましくは少なくとも部分的に長手方向に設けられた)センサー結合領域(a31)を備えた第1のアフィニティー又はプローブ分子A(3)が、個々に又は独立に、前記第1の電極(1)の前記材料に対して、その両端の一方において、又はその両端の一方の近くにおいて、センサー結合して固定化され、ここで前記第1のプローブ分子A(3)の自由残基が、少なくとも1つの、但し好ましくは数個の、アフィニティー結合部位(a32)を有する自由結合又は結合可能基、分子配列等を有し、前記アフィニティー結合部位(a32)が、標的物質に対する、特に分析物若しくは分析物分子C(5)又は補助分子D(6)に対する、少なくとも所定の結合特異性を有し、
− 前記センサー(100)の前記第2の電極(2)の表面に、(好ましくは同様に少なくとも部分的に長手方向に設けられた、前記第1のアフィニティー又はプローブ分子A(3)とは異なる)結合領域(b41)を備えた第2のアフィニティー又はプローブ分子B(4)が、個々に又は独立に、前記第1の電極(1)の前記材料とは異なる前記第2の電極(2)の前記材料に対して、その両端の一方において、又はその両端の一方の近くにおいて、センサー結合して固定化され、ここで前記第2のプローブ分子B(4)の自由残基が、少なくとも1つの、但し好ましくは数個の、アフィニティー結合部位(b42)を有する自由結合又は結合可能基、分子配列等を有し、前記アフィニティー結合部位が同様に、標的物質に対する、特に分析物若しくは分析物分子C(5)又は補助分子D(6)に対する、少なくとも所定の結合特異性を有し、
− (通常は種々の分子、分子部分又は成分、分子配列等を含有し、前記電極(1,2)及びその間の前記絶縁部又はギャップ(12)の周囲を流動する)検査すべき流体媒質(Mf)から、標的となる、特に量及び/又は濃度の決定対象となる、既知の分子、分子部分又は成分、分子配列等によって形成される、実質的に任意の形状の、分析物分子C(5)又は補助分子D(6)であって、前記センサー結合及び固定化されたプローブ分子A(3)及びB(4)に対する、又はその自由アフィニティー結合部位(a32)及び(a42)を有する可動自由端に対する、互いに隔てられた少なくとも2つの結合部位(c53、c54;d63、d64)を有する分析物分子C(5)又は補助分子D(6)が、検出対象の前記流体媒質(Mf)から選択的に流出するとともに、その露出点に配置された、特に種々の末端又はその近傍に配置された前記露出結合部位(c53、c54;d63、d64)を用いて、前記アフィニティー結合部位(a32、b42)を有する所定の結合又は結合可能基、分子配列等に対し、異なる材料からなる前記電極(1,2)にその周縁端又は末端領域において特異的にセンサー結合した前記第1及び第2のアフィニティー又はプローブ分子A(3)及びB(4)の自由可動端において、前記センサー結合部位(a31、a41)を介して結合を形成し、或いは当該部位に固定化されることにより、(前記プローブ分子A(3)及びB(4)、並びに前記分析物分子C(5)又は補助分子D(6)の全体から形成され、最終的には異なる材料からなる前記2つの電極(1,2)を互いに結合する、架橋分子又は架橋(Bm)を形成して)異なる材料からなる前記2つの電極(1,2)の間の前記絶縁体層又はギャップ(12)を架橋し、或いは
− 既存の架橋に含まれる、(異なる材料からなる前記電極(1,2)自体に対するそのセンサー結合部位(a31,b41)にセンサー結合した)前記2つのプローブ分子A(3)及びB(4)に、そのアフィニティー結合部位(a32,b32)を介して結合した前記補助分子D(6)が、前記流体媒質(Mf)に含有される分析物分子E(7)の相互作用により、異なる材料からなる前記電極(1,2)に結合する前記プローブ分子A(3)及びB(4)の少なくとも1つから隔離され、前記分析物分子E(7)は、前記補助分子D(6)の少なくとも1つの結合部位(d63,d64)に対する結合能を有し、前記結合は、前記補助分子D(6)と前記2つのプローブ分子A(3)、B(4)の少なくとも1つとの間の前記結合基(a32d63,b42d64)の少なくとも1つよりも強く、これにより、当初存在していた架橋(Bm)が解消され、
− 前記架橋形成又は架橋解消過程の際に生じる、異なる材料からなる前記2つの電極(1,2)に印加された交流電流のインピーダンス又は周波数スペクトルの変動に基づいて、前記標的分子の存在、量又は濃度が決定され、ここで、架橋形成の場合、前記標的分析物分子C(5)が架橋分子形成前の前記電極に存在せず、そして前記架橋形成時には前記標的分析物分子C(5)が前記電極に存在していることにより、また、架橋解消の場合には、補助分子D(6)を用いて予め形成された架橋の構成要素に対する前記分析物分子C(5)の選択的な連結により、結果として前記変動が、前記分析物分子C(5)がセンサー表面と直接又は間接的な連結を形成したか否か、或いはかかる連結が前記反応後に解消されたかに拘らず生じることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
それぞれ異なる材質からなる前記2つの電極(1,2)のそれぞれに結合した前記プローブ分子A(3)及びB(4)と、それらにアフィニティー結合部位(a32、b42)、特にDNA配列鎖を介して双方向的に結合する前記補助分子D(6)とから形成される架橋が分解することを特徴とし、その分解が、特に相補的DNA配列の断片であり、本質的に前記補助分子D(6)と結合が可能で、これと強く結び付く分析物分子C(5)を、前記流体媒質(Mf)を使用して供給することにより、分析物分子D(5)が前記補助分子D(6)と結合し、特にDNA二重鎖を形成し、最終的には前記流体中に移動することで実現され、前記2つのプローブ分子A(3)及びB(4)との2つのアフィニティー結合(d63a32, d64b42)が分解し、あるいは異なる材質からなる前記電極(1,2)のセンサー結合が分解する(図2)ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
それぞれ異なる材質からなる前記2つの電極(1,2)のそれぞれにセンサー結合した前記プローブ分子A(3)及びB(4)と、それらにアフィニティー結合部位(a32、b42)、特にDNA配列鎖を介して結合する前記補助分子D(6)とから形成される架橋が分解することを特徴とし、その分解が、前記流体媒質(Mf)中に存在し、元は、それぞれ異なる材質からなる2つの電極にセンサー結合して固定化した2つのプローブ分子A(3)及びB(4)のアフィニティー結合部位(a32,b42)又は結合基と結合していた前記補助分子D(6)の2つの露出した結合部位又は結合基(d63、d64)の1つだけと付着、結合が可能な分子基を有する分析物分子E(7)を使用して実現され、その分析物分子が、2つのセンサー結合した前記プローブ分子A(3)及びB(4)の1つを用いているアフィニティー結合(d63a32, d64b42)の1つだけを分解することにより、前記架橋(Bm)を分解し、前記補助分子D(6)の開放された2つの露出した結合部位又は結合基(d63、d64)の1つと結合する(図3)ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナノギャップセンサー(100)が使用され、そのセンサーの、異なる材質からなる2つの電極(1,2)の間の絶縁層又はギャップ(12)の間の距離又は厚さが、最大で500nm、好ましくは最大で200nm、特に20〜70nmの範囲内のサイズであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ナノギャップセンサー(100)が使用され、ここで、異なる材質からなる前記2つの電極(1,2)の間の隔たりが、固体又は液体の誘電性材料、例えばミクロ電子工学の分野における無機絶縁体材料、又は電界効果トランジスタ装置、特に酸化物、窒化物、及び/又はカルコゲニド、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化シリコーン、五酸化タンタル等、又は異なる複数の材料又は材料の組合せからなる、様々な製法の薄層フィルム、特にラングミュアー・ブロジェット(Langmuir-Blodgett;LB)フィルム、高分子電解質多層、及び自己組織化単層等、並びに様々なポリマーであり、測定する電極の伝導性が本来の導電性の3割未満になるもの、例えばKapton(登録商標)、Nafion(登録商標)等、又はその他の、当業者に公知であり、特に好ましくは現在又は将来日常的に使用され、微小系技術の範囲内で、再現可能な厚さの層を生産できる隔離材料(isolation material)、例えば、特に、SiO2及び窒化Si等で形成され、完全にナノベルトをアンダーカットした場合、その隔離層は、電解質とほぼ同視し得ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ナノギャップセンサー(100)が使用され、それらの異なる2つの材質の前記2つの電極(1,2)が、以下に列挙した、それらの性状を決定する材料:
金属、例えば、金、プラチナ、銀、水銀;ドープされた半導体、たとえは、ケイ素及びゲルマニウム;Hl-V又はM-Vl;半導体、例えば、GaAs、CdS、CdSe、CdTe;炭素系層、例えば、黒鉛、フラーレン、ナノチューブ、ダイヤモンド様炭素、様々なダイヤモンド、例えば単結晶、微小結晶、好ましくはナノ結晶又は超ナノ結晶、並びにドープを含む材料の組合せ、合金、又は更なる本来知られている電極材料、特に窒化ゲルマニウム、SiC(炭化ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、ATO又はITO等のいずれか2つの組合せで形成され、ここで、それらの組合せが、材料の群の中で、又は異なる群間で形成され、ここで、前記組合せには、2つの強力にドープされた非金属が特に好ましく、これに関連して、強力にドープされ、殆ど金属並みの導電性を有するケイ素と、強力にドープされたダイヤモンド、特にUNCD(超ナノ結晶ダイヤモンド)との組合せが特に好ましいことを特徴とする、請求項1〜5にいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記2つの電極(1,2)を架橋する、前記2つのプローブ分子A(3)と前記補助分子D(6)との前記親和性結合(d63a32又はd64b42)が分解するのではなく、前記架橋形成補助分子D(6)が、例えばDNA分解酵素又はタンパク質分解作用を有する酵素E(8)に認識される、少なくとも1つの無作為なポイントにおいて破壊される、生化学的プロセスの検証のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項8】
前記親和性又はプローブ分子A(3)及びB(4)の少なくとも1つとして異なる生体分子が機能し、それぞれが、例えば、前記分析物分子C(5)を介して、又は使用して、架橋の形成を引き起こしス抗体であり、又は、ハイブリダイゼーションにより、異なる材料からなる前記電極(1,2)の架橋を引き起こす核酸配列であり、その配列中に、異なる材料からなる前記電極(1,2)の表面と比較して、前記プローブ分子A(3)及びB(4)の可動性の増大を保証するリンカー配列及びスペーサーが含まれる場合がある、生化学的プロセスの検証のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項9】
前記親和性又はプローブ分子A(3)及びB(4)として、人工的に製造されたRNA及びLNA等の、生体分子の類似体が使用される、生化学的プロセスの検証のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項10】
異なる材料からなる2つの電極(1,2)間の、又は、最終的にこれらとセンサー結合する前記2つのプローブ分子A(3)とB(4)との間の帯(band)が、持続的な化学反応により、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により連結又は破壊され、これが検出に使用される、生化学的プロセスの検証のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−531978(P2010−531978A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513576(P2010−513576)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【国際出願番号】PCT/AT2008/000242
【国際公開番号】WO2009/003208
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004479)エルハーオー−ベスト コーティング ハルトストフベシュイッヒトゥングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】