説明

有機発光ダイオード、有機発光ダイオード駆動装置、および有機発光ダイオードの評価装置

【課題】有機発光ダイオードの各有機機能層のうち、特に陰極に接する電子注入・輸送層または有機発光層を、デバイス駆動前だけでなく駆動後にも、電子注入・輸送層または有機発光層を破壊することなく容易に露出させることができる有機発光ダイオードと、この有機発光ダイオードを安定に駆動させることができ、かつ駆動中の発光特性の評価が可能な有機発光ダイオード駆動装置と、さらに駆動劣化後の有機電子輸送層または有機発光層の膜質や電子物性と劣化した発光特性とを一対一に対応させながら評価できる有機発光ダイオードの評価装置とを提供する。
【解決手段】陽極16と陰極27との間に有機機能層18を挟持してなる有機発光ダイオード11である。陰極27は低融点の金属あるいは合金からなるとともに、有機機能層18を覆いかつ露出した状態で設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオードの任意の駆動時間までに生じる発光特性の劣化と有機機能層の膜質や電子物性の変化とを、一対一に関連付けて評価することができる有機発光ダイオードと、これを駆動させる有機発光ダイオード駆動装置、およびこの有機発光ダイオード駆動装置を備えた有機発光ダイオードの評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオードは次世代フラットパネルディスプレイの本命として期待されており、様々な機関やメーカーで精力的な開発が行われ、種々の技術が提案されている。例えば、有機発光ダイオードの低閾値化や発光効率を向上させるための方法として、特許文献1では、ドナー(電子供与性)ドーパントとして機能するアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む電子輸送層を、陰極と有機発光層との間に設ける方法が提案されている。
【0003】
アルカリ金属やアルカリ土類金属は、雰囲気中の酸素や水分に対して反応性が強く、酸化されやすい性質を有している。雰囲気中の酸素や水分の侵入を受けると電子輸送層に含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属は酸化され電子輸送層は変質する。変質が生じると電子輸送層の品質が劣化し、有機発光ダイオードの不良が発生する。
そこで、特許文献1に示すように有機発光ダイオードをシールド層で覆い、大気中の酸素や水分の有機発光ダイオード中への侵入を防ぐ方法や、特許文献2に示すように乾燥剤を内部に保有する気密性容器中に配置する技術が知られている。
しかしながら、特許文献1および特許文献2に示すように電子輸送層から酸素や水分の侵入を抑える構造を用いた場合でも、例えば気密不良などによって雰囲気から酸素や水分が侵入する場合がある。また、雰囲気からの酸素や水分の侵入が抑えられている場合でも、経時変化や電圧の印加によるストレスなどにより、有機発光ダイオードは徐々に劣化する。
【0004】
すなわち、有機発光ダイオードの実用化の最大の課題としては、前記したような劣化に起因して発光寿命が短いことが挙げられる。例えば、携帯電話などに搭載されている有機発光ダイオードディスプレイ(有機ELデスプレイ)の寿命は一万時間弱にとどまっており、寿命六万時間の液晶ディスプレイに後れをとっている。
有機発光ダイオードの発光寿命を左右する因子としては、非晶質有機膜の凝集や結晶化、自己発光による光酸化、有機機能層間の相互拡散、有機材料の電気化学的分解など、有機発光ダイオードを構成する各有機機能層、すなわち電子注入・輸送層、発光層、正孔注入・輸送層などの層が駆動中に変質する現象が挙げられる。
【0005】
したがって、有機発光ダイオードの発光寿命の向上を図るためには、長時間駆動させた有機発光ダイオードの各有機機能層の、駆動前後の結晶性、化学状態、膜組成などの膜質や、電子軌道状態、イオン化ポテンシャルなどの電子物性を実験的に評価し、比較することが重要である。
駆動前の有機発光ダイオードを構成する各有機機能層の膜質や電子物性を実験的に評価するためには、目的とする有機機能層を適用しようとする評価方法に適合させた任意の形態、多くは目的の有機機能層を露出させた形態で作製した試料を用意し、これを測定することで目的を達成することができる。つまり、駆動前の有機発光ダイオードにおける各有機機能層の膜質や電子物性は、実際のデバイス形態に収めなくても本質的には変化しないと考えられる。
【0006】
一方、駆動後の有機発光ダイオードを構成する各有機機能層の膜質や電子物性を実験的に評価するためには、有機発光ダイオードデバイスを実際に形成し、駆動させる必要がある。しかし、このように有機発光ダイオードデバイスを実際に形成した場合、目的とする各有機機能層は有機発光ダイオードデバイスの内部に埋もれたままとなることから、必要な評価手法に適合した試料形態とすることが難しく、したがって評価を行うのが非常に困難である。
【0007】
従来、駆動後の有機発光ダイドードの各有機機能層を実験的に評価するためには、例えば下記のような方法がある。
(1)有機発光ダイオードデバイスを分解し、露出した有機機能層の表面を実験評価する。
(2)集束イオンビーム(FIB)を用いて有機発光ダイオードデバイスに切削等の加工を施し、目的とする有機機能層断面を露出させることにより、実験評価する。
(3)透過能の高いX線を用いて有機発光ダイオードデバイスをそのまま評価し、実験評価する。
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【特許文献2】特開平9−148066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の各方法には、それぞれ以下に述べる不都合がある。
(1)の方法では、確率論的に露出するデバイス構造が試料となるため、所望の有機機能層表面を露出させることが難しく、したがって目的とする有機機能層の評価を行うのが困難である。
(2)の方法は、所望の有機機能層の断面を露出させることが可能であるが、加工に用いる高エネルギーイオンビームによって有機機能層を構成する分子が破壊されてしまうので、目的とする有機機能層の、本来有していた膜質や電子物性を評価することができない。
(3)の方法は、目的とする有機機能層の情報を選択的に得ることが可能であるが、得られる情報が重元素の化学状態のみに限られてしまう。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、有機発光ダイオードの各有機機能層のうち、特に陰極に接する電子注入・輸送層または有機発光層を、デバイス駆動前だけでなく駆動後にも、電子注入・輸送層または有機発光層を破壊することなく容易に露出させることができる有機発光ダイオードと、この有機発光ダイオードを安定に駆動させることができ、かつ駆動中の発光特性の評価が可能な有機発光ダイオード駆動装置と、さらに駆動劣化後の有機電子輸送層または有機発光層の膜質や電子物性と劣化した発光特性とを一対一に対応させながら評価できる有機発光ダイオードの評価装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機発光ダイオードは、陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなる有機発光ダイオードであって、前記陰極は低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられていることを特徴としている。
この有機発光ダイオードによれば、陰極が露出しており、しかも低融点の金属あるいは合金からなっているので、有機機能層の劣化が実質的にほとんど生じない低い温度で陰極を容易に融解し、液化することができる。したがって、有機機能層上から陰極を容易に除去できるため、駆動後の有機発光ダイオードから陰極を除去して有機機能層を露出させ、その膜質や電子物性等を評価することが可能になる。また、評価後、有機機能層を再度陰極で被覆し、有機発光ダイオードを駆動させることにより、有機機能層の膜質や電子物性等を繰り返し評価することが可能になる。
また、陰極を融解させて有機機能層上から容易に除去できるようにしたので、有機機能層の膜質や電子物性等の評価を非破壊で行うことができる。
【0011】
また、前記有機発光ダイオードにおいては、前記陰極に接して覆われた有機機能層が、有機発光層であってもよい。
このようにすれば、有機発光ダイオードの発光特性に最も大きな影響のある有機発光層について、その膜質や電子物性等を評価することができる。
また、前記陰極に接して覆われた有機機能層が、電子注入・輸送層であってもよい。
このようにすれば、有機発光層上に電子注入・輸送層を積層した構造の有機発光ダイオードについて、特に電子注入・輸送層の膜質や電子物性等を評価することにより、電子注入・輸送層の発光特性に与える影響等を評価することができる。
【0012】
また、前記有機発光ダイオードにおいては、前記陰極がアルカリ金属またはその合金からなるのが好ましい。
アルカリ金属は仕事関数が小さく、有機機能層への電子注入障壁が低いので、有機発光ダイオードを効率よく発光させることができる。また、特にRbはその融点が38.9℃、Csはその融点が28.6℃であり、これらRb、Csやこれら各元素の合金は融点が十分に低く、わずかな加熱によって融解することから、有機機能層の劣化をほとんど生じさせることなく有機機能層上から除去することが可能になる。
【0013】
また、前記陰極がGaまたはその合金からなっていてもよい。
Gaはその融点が29℃であり、その合金(例えばGa−24.5wt%Inは融点が15.7℃、Ga−25wt%In−13wt%Snは融点が5℃)も融点が低いことから、わずかな加熱によって融解し、あるいは加熱することなく融解している。したがって、有機機能層の劣化をほとんど生じさせることなく有機機能層上から除去することが可能になる。また、Gaまたはその合金は仕事関数はアルカリ金属に比べて高く、その分有機機能層への電子注入障壁は高くなるものの、特に有機機能層として電子注入・輸送層を用いることにより、その下層に配する有機発光層を良好に発光させることができる。したがって、Gaまたはその合金を用いた場合に、特に電子注入・輸送層の膜質や電子物性等を評価することが可能になる。
【0014】
本発明の有機発光ダイオード駆動装置は、陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなり、前記陰極が低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられている有機発光ダイオードと、前記有機発光ダイオードを発光駆動させる駆動手段と、を備えたことを特徴としている。
この有機発光ダイオード駆動装置によれば、有機発光ダイオードを駆動手段によって発光駆動させることができるので、発光した光の特性を例えば目視などによって評価することができる。したがって、評価後、前記したように陰極を除去して有機機能層を露出させ、その膜質や電子物性等を評価することが可能になる。
【0015】
また、前記有機発光ダイオード駆動装置においては、前記有機発光ダイオードから発光した光の特性を測定する光測定手段を備えているのが好ましい。
このようにすれば、発光した光の特性を光測定手段で測定することができる。したがって、測定後、前記したように陰極を除去して有機機能層を露出させ、その膜質や電子物性等を評価することが可能になる。よって、有機機能層の膜質や電子物性と劣化した発光特性とを一対一に対応させながら評価することが可能になる。
【0016】
また、前記有機発光ダイオード駆動装置においては、前記有機発光ダイオードを収容するグローブボックスを備えているのが好ましい。
このようにすれば、グローブボックスの外部から内部の有機発光ダイオードを直接的に処理することができ、したがって陰極の除去や再被覆を、例えばスポイトやスクレーパーなどを用いて容易にかつ随意に行うことができる。
【0017】
また、前記有機発光ダイオード駆動装置においては、前記有機発光ダイオードの発光駆動雰囲気を不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段を備えているのが好ましい。
このようにすれば、有機機能層の酸素や水分に起因する劣化を防止することができる。また、陰極の酸化等による劣化も防止し、これによって有機発光ダイオードを安定して駆動させることができる。
【0018】
また、前記有機発光ダイオード駆動装置においては、前記有機発光ダイオードの発光駆動雰囲気の温度を調整する雰囲気温度調整手段を備えているのが好ましい。
このようにすれば、発光駆動時の温度を調整することで、温度と発光特性との関係を評価することが可能になる。また、陰極を融解させ、あるいは融解している陰極を再度固化(凝固)させる際に、温度調整手段によって雰囲気温度を調整することで陰極を容易に相変化させることができる。
【0019】
本発明の有機発光ダイオードの評価装置は、有機発光ダイオードと、前記有機発光ダイオードを発光駆動させる駆動手段と、前記有機発光ダイオードから発光した光の特性を測定する光測定手段と、前記有機発光ダイオードを収容するグローブボックスと、前記グローブボックス内にエアロックを介して連通する高真空容器と、前記グローブボックス内およびエアロック内を真空雰囲気または不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段と、前記高真空容器に設けられた、光電効果に起因して放出される電子を検出する分析装置と、を備えたことを特徴としている。また、前記有機発光ダイオードが、陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなり、前記陰極が低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられていてものよい。
この有機発光ダイオードの評価装置によれば、有機発光ダイオードを駆動手段によって発光駆動させ、発光した光の特性を光測定手段で測定することができるので、測定後、前記したように陰極を除去して有機機能層を露出させ、その膜質や電子物性等を、高真空容器内にて分析装置で評価することが可能になる。よって、有機機能層の膜質や電子物性と劣化した発光特性とを一対一に対応させながら評価することが可能になる。
【0020】
また、前記有機発光ダイオードの評価装置においては、前記グローブボックス内の温度を調整するボックス内温度調整手段を備えているのが好ましい。
このようにすれば、グローブボックス内にて陰極を融解させ、あるいは融解している陰極を再度固化(凝固)させる際に、ボックス内温度調整手段によってグローブボックス内の温度を調整することで陰極を容易に相変化させることができる。
【0021】
また、前記有機発光ダイオードの評価装置においては、前記エアロック内に配置された有機発光ダイオードを、高真空容器内の真空雰囲気を保持した状態で高真空容器内に移送する移送機構を備えているのでが好ましい。
このようにすれば、グローブボックス内で陰極を除去して有機機能層を露出させた有機発光ダイオードを、エアロック内に移動させた後、さらに移送機構によって高真空容器内の真空雰囲気を保持した状態で高真空容器内に移送することができる。したがって、分析装置により、光電効果に起因して放出される電子の検出を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図面を参照して詳しく説明する。なお、本実施形態では、参照する各図面における各層や各部材については、図面上で認識可能な程度の大きさとするため、それぞれ縮尺を異ならせて記載している。
(有機発光ダイオード)
まず、本発明の有機発光ダイオードの一実施形態について説明する。
図1は本発明の有機発光ダイオードの一実施形態の概略構成を示す側断面図であり、図1中符号11は有機発光ダイオード、12は有機発光ダイオード11を複数備えた有機発光ダイオードデバイスである。有機発光ダイオード11は、図1に示すように基板13上に形成されたもので、特に本実施形態では、基板13上に複数の有機発光ダイオード11が形成されて、有機発光ダイオードデバイス12が構成されている。
【0023】
これら有機発光ダイオード11は、基板13上にパターニングされた陽極16と、該陽極16上に堆積された有機機能層18と、有機機能層18上に設けられた陰極27とから構成されている。本実施形態では、有機機能層18は正孔注入・輸送層19と有機発光層21と電子注入輸送層24とが、陽極16上にこの順で積層されたことによって構成されている。このような構成のもとに有機発光ダイオード11は、陽極16と陰極27との間に有機機能層18を挟持したものとなっており、陰極27は、有機機能層18を覆いかつ露出した状態で配設されたものとなっている。なお、本実施形態では、有機発光ダイオード11はボトムエミッション型となっている。
【0024】
基板13は、ガラス、石英、樹脂等の透明な基板によって形成されている。なお、有機発光ダイオード11をトップエミッション型とした場合には、アルミナ等のセラミックス、樹脂等の不透明な基板を用いることもできる。
陽極16は、ITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料によって形成されている。なお、有機発光ダイオード11をトップエミッション型とした場合には、Pt、Ir、Ni、Pd等の不透明な導電材料を用いることもできる。
【0025】
正孔注入・輸送層19の形成材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルフォン酸との混合物、具体的には、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸[PEDOT/PSS]の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオシチオフェンを分散させ、さらにこれを水等に分散させた分散液などが用いられる。また、トリフェニルジアミン誘導体なども使用可能である。
【0026】
有機発光層21の形成材料(発光材料)としては、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料が用いられる。
また、これらの高分子系材料に、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン、トリス(2−フェニルピリジン)イリジムなどのイリジウム錯体等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0027】
電子注入・輸送層24の形成材料としては、アルカリ土類金属を添加したバソクプロインキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルミニウムキノリン錯体などの電子輸送性有機材料や、この電子輸送性有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープしたものなどが用いられる。
なお、本実施形態では有機機能層18を構成する層として、陰極27から有機発光層21への電子注入効率を向上させるため、電子注入・輸送層24を備えているが、これを設けることなく、有機発光層21を直接陰極27で覆うようにしてもよい。このように有機発光層21を直接陰極27で覆った場合には、後述するように陰極27を除去した際、有機発光層21が露出することから、この有機発光層21の膜質や電子物性を調べることができる。また、本実施形態のように電子注入・輸送層24を備えている場合には、陰極27を除去した際に電子注入・輸送層24が露出することから、この電子注入・輸送層24の膜質や電子物性を調べることができる。
【0028】
陰極27は、低融点の金属あるいは合金からなるもので、これによって特に使用している有機機能層18、すなわち正孔注入・輸送層19、有機発光層21、電子注入輸送層24の各有機層を、実質的に劣化させない温度で固体から液体、および液体から固体の相変化を起こし、あるいは液体の状態を保持し得るものとなっている。つまり、本発明における低融点とは、陰極材料となる金属あるいは合金の融点が、使用している有機機能層18を実質的に劣化させない、低い温度範囲にあることを意味している。
【0029】
このような金属あるいは合金として具体的には、水銀、ガリウム(Ga)−インジウム(In)合金、ガリウム−錫合金、ガリウム−亜鉛合金、ガリウム−インジウム−錫合金、ガリウム(Ga)、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)、セシウム−ルビジウム合金などが挙げられる。特に、セシウム(融点;28.6℃)、ルビジウム(融点;38.9℃)、セシウム−ルビジウム合金等のアルカリ金属(またはその合金)は仕事関数が小さく、有機機能層18への電子注入障壁が低いので、有機発光ダイオード11を効率よく発光させることができることから、好ましい。
なお、アルカリ金属としては、Li(融点;181℃)、Na(融点;97.8℃)、K(融点;63.7℃)を挙げることもできるが、これらは比較的融点が高いので、その使用は制限される。すなわち、使用している有機機能層18の耐熱性が高く、したがって前記の各融点で有機機能層18を実質的に劣化させない場合には、使用が可能となる。
【0030】
また、前記のGaはその融点が29℃であり、その合金(例えばGa−24.5wt%Inは融点が15.7℃、Ga−25wt%In−13wt%Snは融点が5℃)も融点が低いことから、わずかな加熱によって融解し、あるいは加熱することなく融解している。このようなGaやその合金などでは、仕事関数はアルカリ金属に比べて高く、その分有機機能層18への電子注入障壁は高くなる。しかし、本実施形態のように有機機能層18として電子注入・輸送層24を用いている場合には、この電子注入・輸送層24の電子注入・輸送機能によってその下層に位置する有機発光層21を良好に発光させることができる。したがって、特に電子注入・輸送層24の膜質や電子物性等を評価する場合に、Gaまたはその合金などは陰極材料として好適に用いられるようになる。
【0031】
このような陰極27にあっては、前記したように低融点であるため、液化させた状態でピペットやスポイト、スクレーパー等を用いて有機機能層18上に容易に堆積・被覆することができ、また、有機機能層18を破壊することなくこれの上から容易に除去することができる。また、このような陰極27の被覆や除去については、有機機能層18上にて固体から液体あるいは液体から固体の相変化をなさせることにより、容易に行うことができる。
【0032】
また、陰極27は、基板13の表面に設けられた陰極コンタクト30に、電気的に接続している。陰極コンタクト30は、基板13の平面図である図2に示すように、矩形状の基板13の一辺側に設けられたもので、ITOやPt、Ir、Ni、Pd等によって形成されたものであり、本実施形態ではITOによって形成されている。ここで、前記陽極16は、陰極コンタクト30と同じく基板13の表面に形成されており、これら陽極16と陰極コンタクト30とは、同一の工程で堆積・パターニングされて形成されている。すなわち、これら陽極16および陰極コンタクト30は、金属製マスクやSi等の半導体製マスクを用いたスパッタ法でITOが基板13上に堆積させられたことにより、マスクによって規定された所定形状にパターニングされている。
【0033】
本実施形態では、図2に示すように陽極16は縦横2つずつ、計4つが形成されている。なお、これら4つの陽極16上には、図1に示したように正孔注入・輸送層19、有機発光層21、電子注入・輸送層24がこの順に積層されており、さらにその上に陰極27が積層されている。この陰極27は、図2中二点鎖線で示すように、前記4つの陽極16のほぼ全体を覆い、かつ、陰極コンタクト30上に直接載ってこれ接続したものとなっている。
また、前記陽極16および前記陰極コンタクト30には、それぞれリード金具33が接続されている。リード金具33は、基板13の周縁部にて陽極16あるいは陰極コンタクト30に接続し、基板13の外側に引き出されたもので、基板13の外側において基板13の裏面側に向けてL字状に折曲されたものである。
【0034】
(有機発光ダイオード駆動装置および有機発光ダイオードの評価装置)
次に、本発明の有機発光ダイオード駆動装置および有機発光ダイオードの評価装置の一実施形態について説明する。
図3は本発明の有機発光ダイオード駆動装置の一実施形態の概略構成を示す側面図、図4は図3に示した有機発光ダイオード駆動装置の使用形態を示す図であって、本発明の有機発光ダイオードの評価装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
図3、図4において符号51は有機発光ダイオード駆動装置であり、この有機発光ダイオード駆動装置51は、前記有機発光ダイオード11を備えてなる有機発光ダイオードデバイス12と、この有機発光ダイオードデバイス12を発光駆動させる駆動手段と、を備えてなるものである。
【0035】
この有機発光ダイオード駆動装置51において前記有機発光ダイオードデバイス12は、図3に示すように支持台40上に保持固定されている。支持台40は、基台42の四隅に支柱45を有し、これら支柱45上に上板36を固定したものである。上板36にはその中央部に開口窓37が形成されており、この開口窓37の周囲には枠状のソケット(図示せず)が設けられている。
【0036】
ソケットには、前記有機発光ダイオードデバイス12を保持固定する保持部(図示せず)が形成されており、この保持部には、有機発光ダイオードデバイス12の各リード金具33に接続する導電部(図示せず)が設けられている。導電部は、配線やワニ口クリップ等(図示せず)を介して電源(図示せず)に接続されており、これによって有機発光ダイオードデバイス12の各有機発光ダイオード11は、電源から電圧が印加されることによって発光駆動させられるようになっている。すなわち、本実施形態においては、ソケットや電源等により、有機発光ダイオードデバイス12(有機発光ダイオード11)を発光駆動させる駆動手段が構成されているのである。
【0037】
また、前記保持部は、ここに有機発光ダイオードデバイス12を保持した際、陽極16の底面側を前記開口窓37内に臨ませるようになっている。したがって、有機発光ダイオードデバイス12は発光駆動させられると、発光により生じた光を前記開口窓37内を通過して上板36の下方に出射するようになっている。
【0038】
開口窓37の下方には、有機発光ダイオードデバイス12からの出射光を反射する反射鏡48が、前記基台42上に固定された状態で配設されている。この反射鏡48は、蝶つがいやボールベアリングなどの可動機構によってその反射面の角度が調整可能に構成されたもので、本実施形態では水平面(基台42の上面)に対して約45度に傾けられたことにより、有機発光ダイオードデバイス12から鉛直方向下方に出射した光を水平方向、すなわち支持台40の側面方向に反射するようになっている。
【0039】
有機発光ダイオードデバイス12から出射した光の反射方向、すなわち支持台40の側面方向には、例えば反射光(有機発光ダイオードデバイス12からの出射光)の光特性を測定するための光測定装置(光測定手段)50が配置されるようになっている。この光測定装置50は、例えば分光放射輝度計などからなっている。また、光測定装置50を配置することなく、有機発光ダイオードデバイス12からの出射光を目視で評価するようにしてもよい。
【0040】
このような構成からなる有機発光ダイオード駆動装置51は、実際の使用にあたっては、図4に示す有機発光ダイオードの評価装置100内に設けられて用いられる。
この有機発光ダイオードの評価装置100は、本発明の有機発光ダイオードの評価装置の一実施形態となるもので、前記有機発光ダイオード駆動装置51と、これを収容するグローブボックス57と、高真空容器71と、前記グローブボックス57と高真空容器71とを連通させるエアロック60と、分析装置80とを備えて構成されたものである。
【0041】
グローブボックス57は、左右一対のグローブを有し、グローブボックス57内のグローブ(図示せず)の可動範囲内に、前記有機発光ダイオード駆動装置51を収容したものである。なお、このグローブボックス57には、有機発光ダイオード駆動装置51等の出し入れを行うための出し入れ口(図示せず)が形成されており、この出し入れ口には、これを気密に閉じることができる扉(図示せず)が設けられている。また、このグローブボックス57の、前記エアロック60と反対の側には、石英からなる透明窓54が設けられている。ここで、前記有機発光ダイオード駆動装置51は、前記反射鏡48による反射光の出射方向が、透明窓54に向くように配置されている。このような構成のもとに、この有機発光ダイオードの評価装置100では、透明窓54の側方に配設された光測定装置50により、有機発光ダイオード11で発光した光の特性を測定することができるようになっている。また、もちろん透明窓54から出射する光を目視で観察することにより、有機発光ダイオード11で発光した光の特性を評価することができるようになっている。
【0042】
また、このグローブボックス57には、その内部、すなわち前記有機発光ダイオード11(有機発光ダイオードデバイス12)の発光駆動雰囲気を、不活性ガス雰囲気に調整する雰囲気調整手段88が設けられている。この雰囲気調整手段88は、例えばグローブボックス57に接続された配管86と、配管86に接続された不活性ガス源87とを有してなるもので、不活性ガス源87から窒素やアルゴン等の不活性ガスをグローブボックス57内に供給充填することにより、グローブボックス57内を不活性ガス雰囲気に調整するものである。また、この雰囲気調整手段88は、グローブボックス57内のみでなく、例えばグローブボックス57を含む有機発光ダイオードの評価装置100全体をチャンバー(図示せず)内に配置した場合に、このチャンバー内全体を不活性ガス雰囲気にすることで、グローブボックス57内も不活性ガス雰囲気に調整するものであってもよい。
【0043】
この雰囲気調整手段88によって調整される不活性ガス雰囲気としては、酸素濃度が10ppm以下、露点が−40℃以下であるのが、有機機能層18を構成する正孔注入・輸送層19、有機発光層21、電子注入・輸送層24などを変質(劣化)させることがなく、好ましい。また、酸素濃度が1ppm以下、露点が−70℃以下であれば、陰極27としてアルカリ金属を用いた場合にも、これを酸化させるおそれがないため、より好ましい。
【0044】
また、グローブボックス57内には、前記有機発光ダイオード11の発光駆動雰囲気の温度を調整するための、雰囲気温度調整手段としてのホットプレート(図示せず)が備えている。このホットプレートは、グローブボックス57内を加熱して有機発光ダイオード11の発光駆動雰囲気の温度を所望温度に調整したり、有機発光ダイオード11を直接加熱するためのものである。すなわち、後述するように陰極27を融解させる際に、グローブを用いて有機発光ダイオードデバイス12を前記支持台40から外し、ホットプレート上に置くことにより、有機発光ダイオードデバイス12を加熱して陰極27を融解させることができるようになっている。
【0045】
なお、グローブボックス57内には、有機発光ダイオードデバイス12とは別に、陰極27を構成する金属や合金を収容した容器(図示せず)と、融解した陰極材料を吸い取ったり吸い取った陰極材料を吐出したりするためのピペットやスポイト等(図示せず)が収容されており、これによってグローブを用いて有機発光ダイオードデバイス12から陰極27を除去し、あるいは再被覆するといった操作が可能になっている。また、もちろん有機発光ダイオードデバイス12を前記ソケットに保持させることにより、各有機発光ダイオード11に電圧を印加して発光駆動させる操作も、グローブを用いて随意に行えるようになっている。
【0046】
また、グローブボックス57内には、図5に示すようなホルダー90が収容されている。このホルダー90は、前記有機発光ダイオードデバイス12の発光駆動を行った後、その有機機能層18の評価を行う際に、前記支持台40から外した有機発光ダイオードデバイス12を保持するためのものである。すなわち、このホルダー90は、ステンレスやアルミニウム等の金属からなる直方体状のもので、その上面側に溝状のスロット96が二条形成され、側面にネジ穴(雌ネジ)93が形成されたものである。
【0047】
このような構成のもとにホルダー90は、有機発光ダイオードデバイス12のリード金具33の端部をスロット96に挿入することで、有機発光ダイオードデバイス12をホルダー90の上面に保持できるようになっている。また、ネジ穴93を利用することで、後述するように高真空容器71側への移動が可能になっている。
また、ホルダー90は、ステンレスやアルミニウム等の金属によって形成されていることから、穴あけ等の加工が容易であり、さらに、導電性が高いことから、後述する光電子分光装置や軟X線吸収分光装置を用いた評価に好適に用いられるようになる。
【0048】
エアロック60は、グローブボックス57に接続し、かつこれに連通する管状のもので、グローブボックス57との接続部には、グローブボックス57内にて開閉可能なハッチ62が設けられている。このハッチ62は、前記グローブの可動範囲内に配置されたもので、閉じられた際、グローブボックス57内とエアロック60内とを気密に遮断するようになっている。
【0049】
また、このエアロック60内には、ステージ65が設けられており、このステージ65上に、前記有機発光ダイオードデバイス12を保持させたホルダー90を載置することができるようになっている。すなわち、グローブを用いてグローブボックス57内にて有機発光ダイオードデバイス12をホルダー90上に載置・保持させ、その後、このホルダー90をグローブボックス57内からエアロック60内に移動させ、前記ステージ65上に載置しここに保持させることができるようになっている。
【0050】
また、このエアロック60には、ターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)などが接続されており、これによってエアロック60内は、少なくとも低真空状態までは排気されるようになっている。また、前記ハッチ62を開いてこのエアロック60内を前記グローブボックス57内に連通させることにより、このエアロック60内を、グローブボックス57内と同じ不活性雰囲気に調整することもできるようになっている。
【0051】
高真空容器71は、エアロック60にゲートバルブ68を介して接続したもので、これによって該エアロック60を介して前記グローブボックス57に連通したものとなっている。また、この高真空容器71には、分析装置80が接続されている。この分析装置80は、光電効果に起因して放出される電子を検出するもので、具体的には、光電子分光装置あるいは軟X線吸収分光装置からなっている。
また、高真空容器71には、前記エアロック60と同様に、ターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)などが接続されており、これによって高真空容器71内、およびこれに接続する前記分析装置80内は、高真空状態、好ましくは超高真空状態にまで排気されるようになっている。
【0052】
また、高真空容器71内にはステージ74が設けられており、さらにこの高真空容器71には、該高真空容器71内の真空雰囲気を保持した状態で、前記エアロック60内のホルダー90を、該高真空容器71内に移送することのできるトランスファーロッド(移送機構)77が設けられている。トランスファーロッド77は、その先端部に雄ネジ部を有した棒状のもので、ゲートバルブ83を介して高真空容器71内に進退可能かつ回転可能に挿入されるよう構成されたものである。
【0053】
このトランスファーロッド77は、その先端部をエアロック60内にあるホルダー90のネジ穴(雌ネジ)93に螺合させてこれを保持し、その状態で高真空容器71内のステージ74上にまで移送できるようになっている。その際、トランスファーロッド77はパッキン等によって高真空容器71に対して気密な状態を保持しつつ、進退するようになっている。
【0054】
また、有機発光ダイオードデバイス12を保持したホルダー90をステージ74上に移送した後には、トランスファーロッド77を一旦高真空容器71から引き抜き、ゲートバルブ68、83を閉めた後、前記ターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)を駆動させることにより、高真空容器71内を所望の超高真空状態にまで排気できるようになっている。
前記光電子分光装置あるいは軟X線吸収分光装置からなる分析装置80は、このようにして超高真空状態にまで排気された後、ステージ74上に保持されたホルダー90上の有機発光ダイオードデバイス12の、予め露出させた有機機能層18を分析し、評価するようになっている。
【0055】
次に、このような構成からなる有機発光ダイオードの評価装置100による、有機発光ダイオードデバイス12(有機発光ダイオード11)の有機機能層18の評価方法について説明する。
まず、図1に示した有機発光ダイオードデバイス12を、図3に示したように支持台40上に保持させるとともに、図4に示したようにこれらをグローブボックス57内に収容する。
【0056】
そして、グローブボックス57内を雰囲気調整手段88によって所望の不活性ガス雰囲気に調整するともに、必要に応じて雰囲気温度調整手段で所望の温度に調整しておく。
次に、この状態で有機発光ダイオードデバイス12の各有機発光ダイオード11を所定時間発光駆動させ、発光させた光を反射鏡48で反射させて石英窓54からグローブボックス57の外に出射させる。そして、出射させた光の特性を、光測定装置50によってあるいは観察者が目視によって測定(観察)し、評価する。
【0057】
このようにして有機発光ダイオードデバイス12(有機発光ダイオード11)を所定時間発光駆動させたら、グローブを用いてこの有機発光ダイオードデバイス12を前記支持台40から外し、例えばホットプレート(雰囲気温度調整手段)上に置いてこれを加熱する。加熱温度は、有機発光ダイオードデバイス12の陰極27を融解させる温度、すなわち陰極27の融点より僅かに高い温度とする。ここで、陰極27としては、例えばセシウム(Cs)やルビジウム(Rb)などの、融点が、使用している有機機能層18を実質的に劣化させない、低い温度範囲にある材料が選択され、用いられていることから、有機機能層8は、この陰極27を融解させる熱処理によって劣化することはない。なお、陰極27が、室温、あるいは雰囲気温度調整手段で調整されたグローブボックス57内の温度で液状になっている場合には、ここでの加熱処理を省略することができる。
【0058】
そして、このような加熱処理等によって融解し液状になっている陰極27を、グローブを介して予めグローブボックス57内に用意したスポイト等を用い、有機機能層18上から除去する。除去した液状の陰極27の材料については、別に用意した容器内に入れて保存しておく。なお、この容器については、内部に保存した陰極27の材料が固化しないように、必要に応じて加熱した状態に保持しておく。このようにして陰極27を除去することにより、有機機能層18が露出する。本実施形態では、有機機能層18の最上層が電子注入・輸送層24となっているので、この電子注入・輸送層24が露出する。したがって、後述する有機機能層18の膜質や電子物性等の分析・評価については、この電子注入・輸送層24が評価対象として供されることになる。
【0059】
次いで、陰極27を除去した有機発光ダイオードデバイス12を、グローブボックス57内にてホルダー90上に保持させる。ここで、エアロック60については、予めそのハッチ62を開いておき、これによってエアロック60内をグローブボックス57内と同じ不活性雰囲気にしておく。そして、エアロック60内のステージ65上にホルダー90を置き、エアロック60のハッチ62を閉じる。続いて、ターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)を駆動させることにより、エアロック60内を所望の真空状態にまで排気する。なお、高真空容器71内については、予めターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)を駆動させることにより、所望の真空状態にまで排気しておく。また、ゲートバルブ83については予め開いておき、トランスファーロッド77を高真空容器71内に挿入しておく。
【0060】
次いで、エアロック60側のゲートバルブ68を開き、トランスファーロッド77を前進させてその先端部をエアロック60内に入れる。そして、その先端部をホルダー90のネジ穴(雌ネジ)93に螺合させ、これによって有機発光ダイオードデバイス12を載せたホルダー90をトランスファーロッド77の先端部に保持する。
【0061】
次いで、トランスファーロッド77を後退させ、先端部に保持したホルダー90を高真空容器71内のステージ74上にまで移送する。そして、トランスファーロッド77を回転してその先端部とホルダー90のネジ穴93との螺合を解き、ホルダー90をステージ74上に載置・保持させる。続いて、トランスファーロッド77をさらに後退させ、高真空容器71から引き抜く。次いで、ゲートバルブ68、83を閉め、前記ターボ分子ポンプ(TMP)や油回転ポンプ(RP)を駆動させることにより、高真空容器71内、およびこれに接続する前記分析装置80内を、所望の超高真空状態にまで排気する。
【0062】
このようにして高真空容器71内および分析装置80内を所望の超高真空状態にしたら、分析装置80、すなわち光電子分光装置あるいは軟X線吸収分光装置により、光電効果に起因して放出される電子を検出し、これによって有機発光ダイオードデバイス12の露出した有機機能層18、本実施形態では電子注入・輸送層24を分析し、その膜質や電子物性等についての評価を行う。
【0063】
また、このようにして分析・評価を行った後には、前記したホルダー90の移送のプロセスを逆に行い、エアロック60内に再度ホルダー90を移送する。そして、さらにホルダー90をグローブボックス57内に移し、ここで有機発光ダイオードデバイス12の露出した有機機能層18(電子注入・輸送層24)上に、先に容器内に保存しておいた陰極27の材料を再度載せる。これにより、有機機能層18(電子注入・輸送層24)を陰極27の材料で再度被覆するとともに、陰極27を再度形成する。なお、この陰極27の形成に際しては、必要に応じてグローブボックス57内の温度を陰極27の材料の融点より低い温度にまで冷却し、液状の陰極材料を固化させて陰極27としてもよい。
【0064】
このようにして有機発光ダイオードデバイス12(有機発光ダイオード11)を元の状態に戻したら、これを再度支持台40上に保持させ、発光駆動させる。以下、同じプロセスを所望回数繰り返すことにより、有機発光ダイオードデバイス12(有機発光ダイオード11)の発光特性(例えばその劣化の度合い)と、有機機能層18(電子注入・輸送層24)の膜質や電子物性等について、一対一に対応させながら評価する。
【0065】
なお、前記実施形態では、有機機能層18の最上層を電子注入・輸送層24とすることにより、この電子注入・輸送層24の膜質や電子物性等を分析装置80で分析・評価するようにしたが、例えば有機機能層18の構成を正孔注入・輸送層19と有機発光層21との二層構造とし、有機発光層21上に陰極27を設けることにより、分析・評価の対象となる層を有機発光層21にすることもできる。
【0066】
前記の有機発光ダイオード11にあっては、陰極57が露出しており、しかも低融点の金属あるいは合金からなっているので、有機機能層18の劣化が実質的にほとんど生じない低い温度で陰極27を容易に融解し、液化することができる。したがって、有機機能層18上から陰極27を容易に除去できるため、発光駆動後の有機発光ダイオード11から陰極27を除去して有機機能層18を露出させ、その膜質や電子物性等を評価することができる。また、評価後、有機機能層18を再度陰極27で被覆し、有機発光ダイオード11を再度発光駆動させることにより、有機機能層18の膜質や電子物性等を繰り返し評価することができる。
また、陰極27を融解させて有機機能層18上から容易に除去できるようにしたので、有機機能層18の膜質や電子物性等の評価を非破壊で行うことができ、したがって前記したように繰り返しの分析・評価を容易に、かつ高い信頼性のもとで行うことができる。
【0067】
また、このような有機発光ダイオード11を備えてなる有機発光ダイオード駆動装置にあっては、有機発光ダイオード11を駆動手段によって発光駆動させることができるので、発光した光の特性を、例えば分光放射輝度計等の光測定手段や、目視などによって評価することができる。
【0068】
また、この有機発光ダイオード駆動装置を備えてなる評価装置100にあっては、有機発光ダイオード11を駆動手段によって発光駆動させ、発光した光の特性を光測定装置50で測定することができるので、測定後、前記したように陰極27を除去して有機機能層18を露出させ、その膜質や電子物性等を、高真空容器71内にて分析装置80で評価することができる。よって、有機機能層18の膜質や電子物性と劣化した発光特性とを一対一に対応させながら評価することができる。
【0069】
したがって、本発明によれば、従来の有機発光ダイドードの有機機能層の実験的評価に比較して、以下のような利点が得られる。
・駆動後の陰極に接する有機機能層について、駆動前と同じ表面を正確に露出させることができるので、駆動前後の有機機能層の変化を正確に評価することができる。
・有機機能層から液状の陰極を除去し、また再被覆するので、特に有機機能層を破壊することがなく、したがってこの有機機能層についての繰り返しの分析・評価を容易に、かつ高い信頼性のもとで行うことができる。
・有機機能層を露出させることができるので、この有機機能層の結晶性、化学状態、膜組成等についての膜質や、電子軌道状態、イオン化ポテンシャル等についての電子物性などを正確に評価することができる。
【0070】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、前記実施形態では、有機発光ダイオードの有機機能層を正孔注入・輸送層、有機発光層、電子注入・輸送層の三層構造、あるいは電子注入・輸送層を除いた二層構造としたが、正孔注入・輸送層や電子注入・輸送層をそれぞれ注入層と輸送層との二層構造としてもよい。また、特に正孔注入・輸送層の評価を行いたい場合には、有機発光層および電子注入・輸送層を除いて、正孔注入・輸送層のみで有機機能層を構成するようにしてもよい。
【0071】
また、前記実施形態の有機発光ダイオードの評価装置では、評価対象となる有機発光ダイオードとして、陽極と陰極との間に有機機能層を挟持し、前記陰極が低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられたものを用いたが、本発明はこれに限定されることなく、従来公知の有機発光ダイオード(有機エレクトロルミネッセンス装置[有機EL装置])を、評価対象として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の有機発光ダイオードの一実施形態の概略構成図。
【図2】図1に示した有機発光ダイオードの要部を示す平面図。
【図3】本発明の有機発光ダイオード駆動装置の一実施形態の概略構成図。
【図4】本発明の有機発光ダイオードの評価装置の一実施形態の概略構成図。
【図5】ホルダーの概略構成を示す斜視図。
【符号の説明】
【0073】
11…有機発光ダイオード、12…有機発光ダイオードデバイス、16…陽極、18…有機機能層、19…正孔注入・輸送層、21…有機発光層、24…電子注入・輸送層、27…陰極、50…光測定装置(光測定手段)、51…有機発光ダイオード駆動装置、57…グローブボックス、60…エアロック、71…高真空容器、77…トランスファーロッド(移送機構)、80…分析装置、88…雰囲気調整手段、100…有機発光ダイオードの評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなる有機発光ダイオードであって、
前記陰極は低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられていることを特徴とする有機発光ダイオード。
【請求項2】
前記陰極に接して覆われた有機機能層が、有機発光層であることを特徴とする請求項1記載の有機発光ダイオード。
【請求項3】
前記陰極に接して覆われた有機機能層が、電子注入・輸送層であることを特徴とする請求項1記載の有機発光ダイオード。
【請求項4】
前記陰極がアルカリ金属またはその合金からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード。
【請求項5】
前記陰極がRb、Csまたはこれら各元素の合金からなることを特徴とする請求項4記載の有機発光ダイオード。
【請求項6】
前記陰極がGaまたはその合金からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード。
【請求項7】
陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなり、前記陰極が低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられている有機発光ダイオードと、
前記有機発光ダイオードを発光駆動させる駆動手段と、を備えたことを特徴とする有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項8】
前記有機発光ダイオードから発光した光の特性を測定する光測定手段を備えたことを特徴とする請求項7記載の有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項9】
前記有機発光ダイオードを収容するグローブボックスを備えていることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項10】
前記有機発光ダイオードの発光駆動雰囲気を不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段を備えていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項11】
前記有機発光ダイオードの発光駆動雰囲気の温度を調整する雰囲気温度調整手段を備えていることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項12】
有機発光ダイオードと、
前記有機発光ダイオードを発光駆動させる駆動手段と、
前記有機発光ダイオードから発光した光の特性を測定する光測定手段と、
前記有機発光ダイオードを収容するグローブボックスと、
前記グローブボックス内にエアロックを介して連通する高真空容器と、
前記グローブボックス内およびエアロック内を真空雰囲気または不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段と、
前記高真空容器に設けられた、光電効果に起因して放出される電子を検出する分析装置と、を備えたことを特徴とする有機発光ダイオードの評価装置。
【請求項13】
陽極と陰極との間に有機機能層を挟持してなり、前記陰極が低融点の金属あるいは合金からなるとともに、前記有機機能層を覆いかつ露出した状態で設けられている有機発光ダイオードと、
前記有機発光ダイオードを発光駆動させる駆動手段と、
前記有機発光ダイオードから発光した光の特性を測定する光測定手段と、
前記有機発光ダイオードを収容するグローブボックスと、
前記グローブボックス内にエアロックを介して連通する高真空容器と、
前記グローブボックス内およびエアロック内を真空雰囲気または不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段と、
前記高真空容器に設けられた、光電効果に起因して放出される電子を検出する分析装置と、を備えたことを特徴とする有機発光ダイオードの評価装置。
【請求項14】
前記グローブボックス内の温度を調整するボックス内温度調整手段を備えていることを特徴とする請求項12又は13記載の有機発光ダイオード駆動装置。
【請求項15】
前記エアロック内に配置された有機発光ダイオードを、高真空容器内の真空雰囲気を保持した状態で高真空容器内に移送する移送機構を備えたことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載の有機発光ダイオードの評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−243544(P2008−243544A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81324(P2007−81324)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】