説明

有機発光ダイオード用の発光体としてカルベンリガンドを有する遷移金属錯体

本発明は、少なくとも1つのカルベンリガンドを含有する遷移金属錯体の有機発光ダイオード(OLEDs)における使用、これらの遷移金属錯体を含有している発光層、電子または励起子のブロック層またはホールのブロック層、前記遷移金属錯体を含有しているOLEDs、本発明によるOLEDが含有されている装置ならびに少なくとも2個のカルベンリガンドを含有している特殊な遷移金属錯体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのカルベンリガンドを含有する遷移金属錯体の有機発光ダイオード(OLEDs)における使用、これらの遷移金属錯体を含有している発光層、電子または励起子のブロック層またはホールのブロック層、前記遷移金属錯体を含有しているOLEDs、本発明によるOLEDが含有されている装置ならびに少なくとも2個のカルベンリガンドを含有している特殊な遷移金属錯体に関する。
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)では、電流により励起されるときに発光する材料の特性を利用している。OLEDsは、陰極線管ならびに薄型VDUsを製造するための液晶ディスプレーの代用物として特に興味深い。その極めてコンパクトな構造と、本質的に低い消費電力ゆえに、OLEDsを有する装置は例えば携帯電話、ラプトップなどのモバイル用途に特に有効である。
【0003】
電流で励起する際に発光する多くの材料が提唱されている。
【0004】
WO02/15645は、リン光性遷移金属化合物を含有している発光層を有するOLEDに関する。遷移金属化合物は、特に可視電磁スペクトルの青色領域で電子リン光を示す。しかし、WO 02/15645で開示されている錯体から発光される青色の色座標は改善の余地がある。
【0005】
WO01/41512は、一般式LMX(式中、Mはイリジウムであるのが特に有利であり、
Lは、2−(1−ナフチル)ベンズオキサゾール、2−フェニルベンズオキサゾール、2−フェニルベンゾチアゾール、7,8−ベンゾキノリン、クマリン、チエニルピリジン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3−メトキシ−2−フェニルピリジンおよびトリルピリジンから成るグループから選択され、かつ
Xは、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、ピコリネートおよび8−ヒドロキシキノリネート)の分子を含有する発光層を有するOLEDsに関する。
【0006】
WO00/70655は、発光物質としてリン光有機金属イリジウム化合物またはオスミウム化合物を有する発光層に関する。トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムが発光化合物として有利に使用される。
【0007】
電磁スペクトルの青色、赤色および緑色領域でELを示す化合物が既に公知であるにもかかわらず、工業的に使用可能である効果的な化合物の提供が望ましい。ELとは、電子蛍光とも電子リン光とも解釈される。更に、電子、励起子またはホールブロック材料として使用される更なる化合物の提供が興味深い。
【0008】
従って、本発明の課題は電磁スペクトルの青色、赤色および緑色領域でのELに適切である化合物クラスを提供し、これによりフルカラーディスプレーの製造を可能にすることである。本発明のもう1つの課題は、電子、励起子またはホールブロック材料として使用するための化合物の提供である。
【0009】
これらの課題は、少なくとも1つのカルベンリガンドを含有している一般式I
【0010】
【化1】

[式中、記号は次の意味を有する:
は、Co、Rh、Ir、Nb、Pd、Pt、Fe、Ru、Os、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Cu、AgおよびAuから成るグループから選択される金属原子であり、相応の金属原子はどの酸化状態であってもよい;
carbenは、中性またはモノアニオン性および単座、二座または三座であることができるカルベンリガンドであり、この場合にカルベンリガンドは、ビスカルベンリガンドまたはトリスカルベンリガンドであることができる;
Lは、モノアニオン性またはジアニオン性、有利には単座または二座であることができるモノアニオン性リガンドであり;
Kは、ホスフィン、有利にはトリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィンまたはアルキルアリールホスフィン、特に有利にはPAr(式中、Arは置換または非置換のアリール基であり、かつPAr中の3個のアリール基は同じまたは異なっていることができる)、特に有利であるのはPPh、PEt、PnBu、PEtPh、PMePh、PnBuPhであり;ホスホネートおよびそれらの誘導体、ヒ酸塩およびそれらの誘導体、ホスフィット、CO;ピリジン、この場合に、ピリジンはアルキル基またはアリール基で置換されていてよい;ニトリルおよびMとπ錯体を形成するジエン、有利には、η−ジフェニル−1,3−ブタジエン、η−1,3−ペンタジエン、η−1−フェニル−1,3‐ペンタジエン、η−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン、η−2,4−ヘキサジエン、η−3−メチル−1,3−ペンタジエン、η−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン、η−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエンおよびη−またはη−シクロオクタジエン(それぞれ1,3および1,5)、特に有利には1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、ブタジエン、η−シクロオクテン、η−1,3−シクロオクタジエンおよびη−1,5−シクロオクタジエンから成るグループから選択される中性の単座または二座リガンドを表す;
nは、カルベンリガンドの数であり、その際、nは少なくとも1であり、かつ式Iの錯体中のカルベンリガンドは、n>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
mは、リガンドLの数であり、その際、mは0または≧1であることができ、かつリガンドLはm>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
oは、リガンドKの数であり、その際、oは、0または≧1であることができ、かつリガンドKはo>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
その際に、n+m+oの合計は、使用した金属原子の酸化状態と配位数およびリガンドであるカルベン、LおよびKの配座数ならびにリガンドであるカルベンおよびLの電荷に依存するが、但し、nは少なくとも1である]の中性遷移金属化合物の有機発光ダイオード(OLEDs)における使用により解決された。
【0011】
式Iの遷移金属錯体は、OLEDsの任意の層で使用することができ、その際、所望の金属錯体の特性に適応するために、リガンド骨格または中央の金属を変化させることができる。例えば、式Iの遷移金属錯体を電子のブロック層、励起子のブロック層、ホールのブロック層またはOLEDsの発光層で使用することができる。式Iの化合物をOLEDsにおいて発光分子として使用するのが有利である。
【0012】
二座リガンドとは、2カ所で遷移金属原子Mに配位しているリガンドであると解釈される。本発明の意味する範囲内では、“ニ配位”という用語は“二座”という用語と同義語で使用される。
【0013】
単座リガンドとは、1カ所で遷移金属原子Mに配位しているリガンドであると解釈される。使用される金属Mの配位数と使用されるリガンドL、Kおよびカルベンの性質と数に応じて、同じ金属Mおよび同じ性質と数のリガンドK、Lおよびカルベンが使用される場合に、相応の金属錯体の種々の異性体が存在できる。例えば、配位数6を有する金属Mの錯体(八面体型錯体とも称される)の場合には、例えば、Ir(III)−錯体では、この錯体が一般組成物MABである場合にはシス/トランス−異性体のどちらでも可能であり、錯体が一般組成物MABである場合にはfac/mer-異性体(フェイシャル型/メリジオナル型の異性体とも称される)が可能である。配位数4を有する金属Mの平面正方形錯体の場合には、例えば、Pt(II)−錯体は、該錯体が一般組成物MABである場合にシス/トランス−異性体であることができる。記号AとBは、リガンドの結合部位であり、その際、単座リガンドだけではなく、二座リガンドも存在することができる。上記の一般組成物によれば、非対称の二座リガンドは1つの基Aと基Bを有する。
【0014】
当業者には、シス/トランスもしくはfac/mer異性体が何を表すか理解できる。八面体型錯体では、2つの基Aが八面体の隣り合う角を占める場合に、組成物MABの錯体の場合にシス異性体が存在するのに対して、トランス異性体では2つの基Aは八面体の対角を占める。組成物MABの錯体の場合には、同じ種類の3つの基は、八面体表面の1つの面の角を占める(フェイシャル型異性体)か、またはメリジアンを占める。すなわち、3つのリガンド結合部位のうち2つは互に対してトランスの状態である(メリジオナル型異性体)。八面体型金属錯体におけるシス/トランス−異性体もしくはfac-mer異性体の定義に関しては、例えばJ. Huheey, E. Keiter, R. Keiter, Anorganische Chemie: Prinzipien von Struktur and Reaktivitaet, 第2改訂版、translated and expanded by Ralf Stendel, Berlin; New York: de Gruyter, 1995, 575〜576頁を参照のこと。
【0015】
平面正方形錯体では、シス異性体とは組成物MABの錯体で2つの基Aと2つの基Bが正方形の隣り合う角を占める場合を表すのに対して、トランス異性体では、2つの基Aと2つの基Bの両方が正方形の対角線上に向かい合う2つの角を占めている。平面正方形金属錯体におけるシス/トランス−異性体の定義に関しては、例えばJ. Huheey, E. Keiter, R. Keiter, Anorganische Chemie: Prinzipien von Struktur and Reaktivitaet, 第2改訂版、translated and expanded by Ralf Stendel, Berlin; New York: de Gruyter, 1995, 557〜559頁を参照のこと。
【0016】
一般に、式Iの金属錯体の種々の異性体は当業者に公知の方法により、例えば、クロマトグラフィー、昇華または結晶化により分離することができる。
【0017】
従って、本発明は式Iの遷移金属錯体の個々の異性体ならびに任意の混合比の種々の異性体の混合物に関する。
【0018】
カルベンリガンドを含有している遷移金属錯体は、従来技術から公知である。従って、Gruendemann et al., J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 10473〜10481およびDanapoulus et al,m J. Chem. Soc., Dalton Trans., 2002 3090〜3091は次の構造単位:
【0019】
【化2】

を有するカルベンリガンドを有するイリジウム錯体に関する。Hitchcock et al. J. Organomet. Chem., 1982, 239, C26-C30には、3個のモノアニオン性カルベンリガンドを有するイリジウム(III)錯体が開示されており、次の構造式:
【0020】
【化3】

を有する。
【0021】
しかし、上記の文献には発光特性、特にEL特性、開示化合物もしくはそれらのOLEDsにおける使用が開示されていない。
【0022】
Yam et al., Chem. Commun. 1989, 2261〜2262およびYam et al., J. Chem. Soc. Dalton Trans., 2001, 1911〜1919には、カルベンリガンドを有するルテニウム錯体が開示されている。これらのカルベン錯体の光物理的特性、特に錯体のフォトルミネセンスは、上記の文献で調査されていた。しかし、これらの錯体の使用に関しては何の記述もされておらず、文献には、調査した化合物のELに関する記述がない。
【0023】
Che et al., Organometallics 1998, 17, 1622〜1630は、次の構造単位:
【0024】
【化4】

を有するカルベンリガンドを有するカチオン性Re−錯体に関する。
【0025】
この錯体は、フォトルミネセンスを示す。しかしRe−錯体の使用ならびに錯体のEL挙動の試験は開示されていない。
【0026】
US6160267およびUS6338977は、取り囲まれている蒸気によりその色が変化する分子発光ダイオードに関する。これらの電極は中性の白金錯体を含有するセンサーエミッター層を有し、その際、白金はCN、NO、NCO、NCS、Cl、Br、Iおよびオキサレートから成るグループから選択される2個の負に帯電したリガンドにより錯化され、かつ更なる2個のリガンドは少なくとも1つ、最大でも2個のアリールイソニトリル基および式=C(Y)−NH−C−アルキル(式中、YはO−アルキル、NH−アルキルまたはN(アルキル)である)を有する1個のフィッシャーカルベン錯体から選択される。US6160267およびUS6338977に開示されているPt−錯体の必然的な特徴は、少なくとも1つのアリールイソニトリル基の存在である。
【0027】
式Iによるこれらの構造タイプの物質は、電磁スペクトルの赤、緑および青色領域でのELに適切ではあるが、少なくとも1つのカルベンリガンドを有する本発明による式Iの遷移金属錯体のOLEDsにおける発光物質としての適性は、前記の文献には何も言及されていない。
【0028】
ゆえに、本明細書の式Iの遷移金属錯体は、フルカラーディスプレーを製造するためのOLEDsにおける発光物質として適切であることが見いだされた。
【0029】
特に有利には、本発明により使用される一般式Iの遷移金属錯体は、Os、Rh、Ir、Ru、PdおよびPtから成るグループから選択される金属原子Mを有し、その際、Os(IV)、Rh(III)、Ir(I)、Ir(III)、Ru(III)、Ru(IV)、Pd(II)およびPt(II)が有利である。特に有利に使用される金属原子は、Ru、Rh、IrおよびPtであり、有利には、Ru(III)、Ru(IV)、Rh(III)、Ir(I)、Ir(III)およびPt(II)である。極めて有利には、金属原子MとしてIrまたはPtを使用し、有利にはIr(III)またはPt(II)、極めて有利にはIr(III)を使用する。
【0030】
適切なモノアニオン性リガンドLまたはジアニオン性リガンドL、有利には単座または二座であることができるモノアニオン性リガンドLが、単座または二座のモノアニオン性またはジアニオン性リガンドとして使用される通常のリガンドである。
【0031】
適切なモノアニオン性単座リガンドは、例えば、ハロゲン化物、特にClおよびBr、擬ハロゲン化物、特にCN、シクロペンタジエニル(Cp)、遷移金属Mとシグマ結合により結合するアルキル基、例えば、CH、遷移金属Mとシグマ結合により結合するアルキルアリール基、例えばベンジルである。
【0032】
適切なモノアニオン性二座リガンドは、例えばアセチルアセトネートおよびそれらの誘導体、ピコリネート、シッフ塩基、アミノ酸ならびにWO02/15645に挙げられている二座モノアニオン性リガンドであり、その際、アセチルアセトネートとピコリネートが有利である。
【0033】
適切な中性単座または二座リガンドは、既に挙げてある。有利な中性単座リガンドは、PPh、P(OPh) 、AsPh、CO、ピリジン、ニトリルおよびそれらの誘導体から成るグループから選択される。適切な中性単座もしくは二座リガンドは、有利に1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、η−シクロオクタジエンおよびη−シクロオクタジエン(それぞれ1,3と1,5)である。
【0034】
中性遷移金属錯体(その際、該遷移金属原子Ir(III)は配位数6を有する)中のカルベンリガンドの数nは、1〜3、有利には2または3、特に有利には3を有する。n>1の場合には、カルベンリガンドは同じまたは異なっていることができ、同じであるのが有利である。
【0035】
遷移金属錯体(その際、該遷移金属原子Pt(III)は配位数4を有する)中のカルベンリガンドの数nは、1または2、有利には2を有する。n>1の場合には、カルベンリガンドは同じまたは異なっていることができる。
【0036】
モノアニオン性リガンドLの数mは、前記の場合には0〜2、有利には0または1であり、特に有利には0である。m>1の場合には、リガンドLは同じまたは異なっていることができ、同じであるのが有利である。
【0037】
中性リガンドKの数oは、Ir(III)の配位数6またはPt(II)の4がカルベンリガンドとリガンドLにより既に達成されたかどうかにより左右される。Ir(III)が使用される場合には、nは3であり、かつ3個のモノアニオン性二座カルベンリガンドが使用されるので、oは前記の場合に0である。Pt(III)が使用される場合には、nは2であり、かつ2個のモノアニオン性二座カルベンリガンドが使用されるので、この場合にoは同様に0である。
【0038】
1つの実施態様では、本発明は式IA
【0039】
【化5】

[式中、記号は次の意味を有する:
Doは、C、N、O、PおよびSから成るグループから選択されるドナー原子であり、有利にはN、O、PおよびS、特に有利にはNであり;
rは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
、Yは、それぞれ相互に独立に水素またはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアルケニル基から成るグループから選択される炭素原子含有基であり、有利にはアルキル基およびアリール基であり;または
とYは、一緒になってドナー原子Doと窒素原子Nの間に1つの架橋を形成し、前記架橋は少なくとも2つの原子、有利には2〜3子の原子、特に有利には2個の原子を有し、そのうちの少なくとも1つは炭素原子であり、かつその他の原子は有利には窒素原子または炭素原子であり、その際、架橋は飽和または不飽和、有利には不飽和であることができ、かつ架橋の少なくとも2個の原子は置換または非置換であることができ、
とYは、それぞれ相互に独立に水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニル基であり、有利には水素、アルキル、ヘテロアリールまたはアリール基であり、その際、Y、Y、YおよびYは、同時に水素であってはならない]
の遷移金属錯体の使用に関する。
【0040】
記号M、L、Kならびにn、mおよびoは、既に説明してある。
【0041】
基YとYに関しては、本明細書が意味する範囲内にて、次のことが当てはまる:
基YとYの置換基は、一緒になって全部で3〜5、有利には4個の原子を有する架橋を形成でき、この原子のうち1個または2個の原子はヘテロ原子であり、有利にはNであることができ、かつ残りの原子は炭素原子であることができるので、YとYは、この架橋と一緒に5員環〜7員環、有利には6員環を形成し、前記環は場合により2個の二重結合を有し、または6員環または7員環の場合には3個の二重結合を有することができ、かつ場合によってはヘテロ原子、有利にはNを有していてよいアルキル基またはアリール基により置換されていてよく、その際、アルキルまたはアリール基により置換されているか、または非置換の6員芳香環が有利であり、または有利な6員芳香環は更なる環、場合により少なくとも1つのヘテロ原子、有利にはNを有していてよい6員芳香環と縮合する。
【0042】
本明細書の範囲内で、アリールラジカルまたはアリール基、ヘテロアリールラジカルまたはヘテロアリール基、アルキルラジカルまたはアルキル基およびアルケニルラジカルまたはアルケニル基は次の意味を有する:
アリールラジカル(または基)は、6〜30個の炭素原子、有利には6〜18個の炭素原子の基本骨格を有する基であると解釈され、芳香族環または複数の縮合芳香環から形成されている。適切な基本骨格は、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニルまたはフェナントレニルである。これらの基本骨格は、非置換であることができる(すなわち、置換可能な全ての炭素原子が水素原子を有する)、または1つ、複数または全ての置換可能な基本骨格の箇所で置換することができる。適切な置換基は、例えば、アルキル基、有利には1〜8個の炭素原子を有するアルキル基であり、特に有利にはメチル、エチルまたはi−プロピル、アリール基、有利には更に置換または非置換であってよいC−アリール基、ヘテロアリール基、有利には少なくとも1つの窒素原子を含有するヘテロアリール基、特に有利にはピリジル基、アルケニル基、有利には1個の二重結合を有するアルケニル基、特に有利には1個の二重結合と1〜8個の炭素原子を有するアルケニル基、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である。ドナー作用を有する基は、+l作用および/または+M作用を有する基であると解釈される。アクセプター作用を有する基とは、−l作用および/または−M作用を有する基であると解釈される。ドナー作用またはアクセプター作用を有する適切な基は、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはF、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF−基、CN−基、チオ基またはSNC−基である。極めて有利には、アリール基はメチル、F、Cl、アリールオキシおよびアルコキシから成るグループから選択される置換基を有する。アリールラジカルまたはアリール基は、C〜C18−アリール基、特に有利には場合により少なくとも1つの前記の置換基で置換されているC−アリール基である。上記の置換基の1個または2個を有するC〜C18−アリール基、有利にはC−アリール基では、C−アリール基の場合に、1個の置換基は、アリール基の更なる結合部位に対してオルト位、メタ位またはパラ位に位置し、2個の置換基の場合には、これらはアリール基の更なる結合部位に対してメタ位またはオルト位に位置するか、または1個の基がオルト位に位置し、もう1個の基がメタ位に位置するか、または1個の基がオルトもしくはメタ位に位置し、かつもう1つの基がパラ位に位置する。
【0043】
ヘテロアリールラジカルまたはヘテロアリール基は、アリール基の基本骨格の少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子により置換されている点において上記のアリール基とは異なる基であると解釈される。有利なヘテロ原子は、N、OおよびSである。アリール基の基本骨格の1個または2個の炭素原子がヘテロ原子で置換されているのが極めて有利である。ピリジルのような電子に富む系およびピロール、フランのような五員環のヘテロ芳香族から選択される基本骨格が特に有利である。この基本骨格は、1個、多数または全ての基本骨格の置換可能な位置で置換できる。適切な置換基は、すでにアリール基に関して挙げたものと同じである。
【0044】
アルキルラジカルまたはアルキル基とは、1〜20個、有利には1〜10個の炭素原子、特に有利には1〜8個の炭素原子を有する基であると解釈される。このアルキル基は、分枝または非分枝であることができ、場合により1個または複数のヘテロ原子、有利にはSi、N、OまたはS、特に有利にはN、OまたはSで中断されている。更に、このアルキル基は、アリール基に関して挙げた1個または複数の置換基で置換することができる。同様に、アルキル基は1個または複数のアリール基を有することができる。この場合に、前記で挙げたアリール基の全てが適切である。メチルおよびイソプロピルから成るグループから選択されるアルキル基が有利である。
【0045】
アルケニルラジカルまたはアルケニル基とは、少なくとも2個の炭素原子を有する上記のアルキル基に相応する基であると解釈されるが、アルキル基の少なくとも1つのC−C−単結合がC−C−二重結合で置換されている点が異なる。このアルケニル基が1個または2個の二重結合を有するのが有利である。
【0046】
少なくとも2個の原子を有し、そのうちの1つは炭素原子であり、その他の原子は窒素原子または炭素原子である架橋は、有利には以下の基を有すると解釈され、その際、架橋は飽和または有利には不飽和であることができ、かつ架橋の少なくとも2個の原子は置換または非置換であることができる:
− 2個の炭素原子または1個の炭素原子と1個の窒素原子を有する架橋、その際、炭素原子または1個の炭素原子と1個の窒素原子は、1個の二重結合により相互に結合するので、該架橋は以下の式のうち1つの架橋を有し、架橋は2個の炭素原子を有するのが有利である:
【0047】
【化6】

【0048】
13とR14は、相互に独立に水素、アルキルまたはアリールを表す、または
13とR14は、一緒になって3〜5個、有利には4個の原子を有する1つの架橋を形成し、前記の原子のうち、場合により1個または2個の原子はヘテロ原子、有利にはNであることができ、かつ残りの原子は炭素原子であることができるので、これらの基は5〜7員環、有利には6員環を形成し、この環は場合により、既に存在する二重結合の他に1個の二重結合を有することができ、または6員環もしくは7員環の場合には、2個の更なる二重結合を有することができ、かつ場合によりアルキル基もしくはアリール基で置換することができる。この場合に、6員芳香環が有利である。これらは、アルキル基またはアリール基で置換するか、または非置換であることができる。更に、これらの有利な6員芳香環に1個以上の更なる芳香環が縮合することもできる。この場合に、その都度考えられるだけの縮合が可能である。
【0049】
これらの縮合基は更に置換することができ、有利にはアリール基の一般の定義で挙げた基で置換される。
− 2個の炭素原子を有する架橋、その際、炭素原子は単結合により相互に結合されるので、架橋は以下の式を有する:
【0050】
【化7】

[式中、R、R、RおよびRは、相互に独立に水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニル基、有利には水素、アルキルまたはアリールを表す]
式IAの遷移金属錯体中のMがIr(III)であるのがとりわけ有利である。基
【0051】
【化8】

は、次のもの
【0052】
【化9】

[式中、記号は次の意味を有する:
、R、R、R、R、RおよびR11は、それぞれ水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基であり、かつ有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択され、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基であり、
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、有利にはアルキル、ヘテロアリールまたはアリールであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成し、有利にはそれぞれ2個の基R10は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し、
vは、0〜4、有利には0、1または2、とりわけ有利には0であり、その際、vが0である場合には式c中のアリール基の4個の全ての置換基は水素である]
から成るグループから選択されるのが特に有利である。
【0053】
基YとYは、すでに前記に定義されている。
【0054】
本発明のもう1つの有利な実施態様では、一般式Iの中性遷移金属錯体中の少なくとも1つのカルベンリガンドは、二座および/またはモノアニオン性カルベンリガンドである。少なくとも1つのカルベンリガンドは、モノアニオン性二座のカルベンリガンドであるのがとりわけ有利である。
【0055】
とりわけ有利には、式Iの中性遷移金属錯体中の少なくとも1つのカルベンリガンドは、次の式(II)
【0056】
【化10】

[式中、記号は次の意味を有する:
Doは、C、P、N、OおよびSから成るグループから選択されるドナー原子、有利にはP、N、OおよびS、特に有利にはNであり;
Doは、C、P、N、OおよびSから成るグループから選択されるドナー原子であり:
rは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
sは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
Xは、シリレン、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレンまたはアルケニレンから成るグループから選択されるスペーサーであり、有利にはアルキレンまたはアリーレン、特に有利にはC〜C−アルキレンまたはC−1,4−アリーレンであり、その際、場合により4個のその他の炭素原子の少なくとも1つは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基で、またはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択されるドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF、CHF、CF、CN基、チオ基およびSCN基で置換することができる;とりわけ有利にはメチレン、エチレンまたは1,4−フェニレンであり;
pは0または1、有利には0であり;
qは0または1、有利には0であり;
、Yは、それぞれ相互に独立に水素またはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアルケニル基から成るグループから選択される炭素原子含有基;有利にはアルキル基、ヘテロアリール基およびアリール基;または
とYは、一緒になってドナー原子Doと窒素原子Nの間に1つの架橋を形成し、前記架橋は少なくとも2つの原子、有利には2〜3個の原子、特に有利には2個の原子を有し、そのうちの1つは炭素原子であり、その際、少なくとももう1つの原子は窒素原子であり、その際、架橋は飽和または不飽和、有利には不飽和であることができ、かつ架橋の少なくとも2個の原子は置換または非置換であることができる;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基または
【0057】
【化11】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、独立にDo、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を有する)であり;
とRは、相互に独立に水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基であるか、または
とRは、一緒になって全部で3個〜5個、有利には4個の原子を有する1つの架橋を形成し、そのうち1個または2個の原子はヘテロ原子、有利にはNであることができ、かつ残りの原子は炭素原子であるので、基
【0058】
【化12】

は、5〜7員環、有利には6員環を形成し、これは場合により、既に存在する二重結合の他に1個の二重結合を有することができ、または6員環もしくは7員環の場合には、2個の更なる二重結合を有することができ、かつ場合によりアルキル基もしくはアリール基で置換することができ、かつ場合によりヘテロ原子、有利にはNを含有することができ、この場合に、アルキル基またはアリール基で置換された、または非置換であることができる6員芳香環が有利であり、またはこの6員芳香環に場合により少なくとも1つのヘテロ原子、有利にはNを含有することができる更なる環、有利には6員芳香環が縮合することもできる;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基である]
を有する。
【0059】
pおよび/またはqが0である式IIのリガンドが有利である。すなわち、式IIのリガンド中にスペーサーXおよび/またはドナー原子Doは存在しない。
【0060】

【0061】
【化13】

は、次のもの
【0062】
【化14】

[式中、記号は次の意味を有する:
、R、R、R、R、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、有利にはFから選択される置換基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基であり、有利には水素、アルキル、ヘテロアリールまたはアリールである;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、有利にはアルキルまたはアリールであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成する、有利にはそれぞれ2個の基R10は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基を表し;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表す;
vは、0〜4、有利には0、1または2、とりわけ有利には0であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する;
は、既に定義されている]
から成るグループから選択されるのが有利である。
【0063】
式IIのカルベンリガンドの基
【0064】
【化15】

は、
【0065】
【化16】

[式中、記号を次の意味を有する:
Zは、CHまたはNであり、その際、カルベンリガンドとの基の結合部位に対してo−、m−またはp−位に位置することができ;
12は、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利にはアルキル基またはアリール基であり、またはそれぞれ2個の基R12が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成する、有利にはそれぞれ2個の基R12は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR12はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基を表し;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表す;
tは、0〜3、有利にはt>1であり、基R12は同じまたは異なっていることができ、有利にはtは0または1であり、かつtが1の場合はスペーサーXとの結合部位に対して、またはpが0の場合はカルベン炭素原子に隣り合う窒素原子との結合部位に対して基R12はo−位、m−位またはp−位に位置する]
を表すのが有利である。
【0066】
式IIのカルベンリガンドでは、Yは前記に定義した基と同じまたは異なっていることができ、かつ既に述べた次の意味を有することができる:
水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基または
【0067】
【化17】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、独立にDo、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を有する)である。
【0068】
、すなわち式の基
【0069】
【化18】

が構造
【0070】
【化19】

を表し、Y
【0071】
【化20】

を表す式IIのカルベンリガンドの他に、Y、すなわち式の基
【0072】
【化21】

が構造
【0073】
【化22】

を表し、Yが水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基を表すカルベンリガンドが適切である。
【0074】
記号の定義は、前記の定義に相当する。
【0075】
式IIの少なくとも1つのカルベンリガンドは次のもの:
【0076】
【化23】

[式中、記号は次の意味を有する:
Z,Z’は、同じまたは異なり、CHまたはNであり;
12,R12’は、同じまたは異なり、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利にはアルキル基またはアリール基であるか、またはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成する、有利にはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR12もしくはR12’はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基を表し;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF、CHF、CF、CN、チオ基およびSCN基を表し;
tとt’は、同じまたは異なり、有利には同じであり0〜3である。その際、tもしくはt’が1より大きい場合には、基R12もしくはR12’は、同じまたは異なっていることができ、tもしくはt’は0または1であるのが有利であり、かつtもしくはt’が1である場合には、R12もしくはR12’はカルベン炭素原子に隣り合う窒素原子との結合部位に対してo−位、m−位またはp−位に位置する;
、R、R、R、R、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される置換基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し、有利には水素、アルキル、ヘテロアリールまたはアリールであり、
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニル、有利にはアルキル、ヘテロアリールまたはアリール、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成し、有利にはそれぞれ2個の基R10は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し、
vは、0〜4、有利には0、1または2、とりわけ有利には0であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する]
から選択されるのが特に有利である。
【0077】
従って、使用する式(I)の遷移金属錯体は、少なくとも1つの式IIのカルベンリガンドを含有するものであり、その際、式IIのカルベンリガンドの有利な実施態様は先に説明してある。
【0078】
よって、一般式Iの特に有利な遷移金属錯体は、一般式(IB)
【0079】
【化24】

を有する。
【0080】
記号の意味は、遷移金属錯体(I)に相当し、かつカルベンリガンド(II)に関して挙げた意味を有する。有利な実施態様は、同様に先に挙げてある。
【0081】
式IBの遷移金属錯体は、配位数6を有する金属原子Mを使用する場合には、フェイシャル型またはメリジオナル型の異性体としてまたは任意の混合比のフェイシャル型とメリジオナル型の異性体から成る異性体混合物として存在する(上記のように組成物MABを有する場合)。式IBの遷移金属錯体のフェイシャル型またはメリジオナル型の異性体の特性に依存して、異性体的に純粋なフェイシャル型または異性体的に純粋なメリジオナル型の異性体、またはフェイシャル型とメリジオナル型の異性体から成る異性体混合物(異性体のうち1つが過剰に存在するか、または両方の異性が同じ量で存在する)を使用するのが有利である。例えば、nが3、かつmとoが0を表す場合に、式IBの遷移金属錯体のフェイシャル型またはメリジオナル型の異性体が可能である。式IBの遷移金属錯体が組成物MAである場合には、遷移金属錯体は既に説明したように任意の混合比のシス/トランス異性体の形で存在することができる。式IBの遷移金属錯体のシスまたはトランス異性体の特性に依存して、異性体的に純粋なシスまたは異性体的に純粋なトランス異性体、またはシス異性体とトランス異性体から成る異性体混合物(異性体のうち1つが過剰に存在するか、または両方の異性が同じ量で存在する)を使用するのが有利である。例えば、Mが配位数6を有する金属原子であり、かつnが2であり、mが2である場合に、式IBの錯体のシス/またはトランス異性体が可能であり、その際、2つの単座リガンドLは同じであり、かつoは0であるか、またはoが2の場合には2つの単座リガンドKが同じであり、かつmは0である。
【0082】
遷移金属原子が配位数6を有するIr(III)である中性遷移金属錯体に関しては、有利なモノアニオン性二座カルベンリガンドの数nは少なくとも1であり、かつ最大で3である。有利に使用されるモノアニオン性二座カルベンリガンドの数は、2または3、特に有利には3である。この場合に、n>1である場合に、カルベンリガンドは同じまたは異なっていることができる。
【0083】
平面正方形錯体を形成する配位数4を有する金属原子Mを使用する場合に、式IBの遷移金属錯体は、シス異性体またはトランス異性体として、またはこれらが組成物MAを有する場合には、既に先に説明したように任意の混合比のシス異性体とトランス異性体から成る異性体混合物として存在することができる。nが2であり、mとoが0である場合に、例えば、式IBの遷移金属錯体のシス/トランス異性体が可能である。
【0084】
遷移金属原子が配位数4を有するPt(II)である中性遷移金属錯体に関しては、有利なモノアニオン性二座カルベンリガンドの数nは、1または2、有利には2である。この場合に、カルベンリガンドはn=2である場合に同じまたは異なっていることができる。
【0085】
が配位数6を有するIr(III)である遷移金属錯体がとりわけ有利である。このIr(III)錯体では、nが3、mが0、oが0、qが0、pが0、DoがNおよびrが1である場合にきわめて有利であり、その際、残りの記号は既に説明した意味を有する。
【0086】
次のもの:
【0087】
【化25】

[式中、記号は有利なカルベンリガンドに関して既に挙げた意味を有する]
から成るグループから選択される式IBa〜dの遷移金属錯体が特に有利である。
【0088】
これらのIr(III)のうち、式b、cおよびdのものが有利である。ZとZ’がそれぞれCHであり、RとRがそれぞれHであり、t、t’およびvがそれぞれ0であり、かつ残りの基が有利なカルベンリガンドに関して既に挙げた意味を有するIr(III)錯体が特に有利である。
【0089】
上記の中性遷移金属錯体は、有機発光ダイオード(OLEDs)における発光分子として有用である。リガンドまたは中心金属の簡単なバリエーションにより、電磁スペクトルの赤色、緑色ならびに特に青色領域でELを示す遷移金属錯体を提供することができる。本発明により使用される中性遷移金属錯体は、従って工業的に使用可能なフルカラーディスプレーにおいて使用するために適切である。
【0090】
更に、前記の中性遷移金属錯体は、使用されるリガンドと使用される中心金属に依存してOLEDsにおいて電子ブロッカー、励起子ブロッカーまたはホールブロッカーとして適切である。
【0091】
本明細書のもう1つの対象は、一般式IC
【0092】
【化26】

[式中、記号は次の意味を有する:
は、Ru、Rh、Ir、Ptであり、相応の金属原子はどの酸化状態であってもよく、有利にはIrおよびPtである;
Lは、モノアニオン性またはジアニオン性リガンド、有利には単座または二座であることができるモノアニオン性リガンドであり;
Kは、中性の単座または二座リガンドであり;
nはカルベンリガンドの数であり、その際、nは少なくとも2である場合に遷移金属錯体中のカルベンリガンドは同じまたは異なっていることができる;
mは、リガンドLの数であり、その際、mは0または≧1であることができ、かつリガンドLはm>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
oは、リガンドKの数であり、その際、oは0または≧1であることができ、かつリガンドKはo>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
その際に、n+m+oの合計は、使用した金属原子の酸化状態と配位数およびリガンドの配座数ならびにリガンドの電荷に依存するが、但し、nは少なくとも2である;
Doは、C、N、P、OおよびSから成るグループから選択されるドナー原子であり;
sは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
Xは、シリレン、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレンまたはアルケニレンから成るグループから選択されるスペーサーであり、有利にはアルキレンまたはアリーレン、特に有利にはC〜C−アルキレンまたはC−1,4−アリーレンであり、その際、場合により4個のその他の炭素原子の少なくとも1つは、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基で、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF、CHF、CF、CN基、チオ基およびSCN基で置換することができる;とりわけ有利にはメチレン、エチレンまたは1,4−フェニレンであり;
pは0または1、有利には0である;
qは0または1、有利には0である;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基またはアリール基、または
【0093】
【化27】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、Do、q、s、R、R、R、Xおよびpと独立に同じ意味を有する)である;
、Rは、相互に独立に水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基であるか、または
とRは、一緒になって全部で3個〜5個、有利には4個の炭素原子を有する1つの架橋を形成し、そのうち1個または2個の原子はヘテロ原子、有利にはNであることができ、かつ残りの原子は炭素原子であるので、基
【0094】
【化28】

は、5〜7員環、有利には6員環を形成し、これは場合により、既に存在する二重結合の他に1個の二重結合を有することができ、または6員環もしくは7員環の場合には、2個の更なる二重結合を有することができ、かつ場合によりアルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基で置換することができ、かつ場合により少なくとも1つのヘテロ原子、有利にはNを含有することができ、この場合に、アルキル基またはアリール基で置換された、または非置換であることができる6員芳香環が有利であり、またはこれらの有利な6員芳香環に場合により少なくとも1つのヘテロ原子、有利にはNを含有することができる更なる環、有利には6員芳香環が縮合することもできる;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利には水素、アルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基であり;
とYは、一緒になって窒素原子Nの間に1つの架橋を形成し、前記架橋は少なくとも2つの原子を有し、そのうちの1つは炭素原子であり、その際、その他の原子は窒素原子または炭素原子であり、その際、架橋は飽和または不飽和であることができ、かつ架橋の少なくとも2個の原子は置換または非置換であることができ、その際、架橋が2個の炭素原子を有し、かつ飽和である場合には、2個の炭素原子のうち少なくとも1つは置換されており、有利には架橋は2個の原子を有し、その際この2個の原子は置換されていてもよく、かつ不飽和であることができる]
の中性遷移金属錯体である。
【0095】
式ICの本発明による遷移金属錯体中の有利かつとりわけ有利な実施態様の記号は、本発明により使用される遷移金属錯体に関して既に記載されている。
【0096】
中心金属Mの置換パターンに依存して、かつ配位数6の中心金属、例えばIr(III)を使用する場合には、八面体遷移金属錯体はフェイシャル型またはメリジオナル型異性体の形で、または任意の混合比のフェイシャル型とメリジオナル型異性体の混合物として存在することができる。フェイシャル型またはメリジオナル型異性体を製造するための前提条件は、先に説明してある。従って、fac−mer−異性体混合物の他に、本明細書の対象は使用する中心金属における置換パターンに基づき存在する場合は、本発明による遷移金属錯体ICの純粋なフェイシャル型またはメリジオナル型異性体である。式IBの遷移金属錯体のフェイシャル型またはメリジオナル型異性体の特性に依存して、異性体的に純粋なフェイシャル型または異性体的に純粋なメリジオナル型異性体またはフェイシャル型とメリジオナル型異性体の混合物(異性体のうち1つが過剰に存在するか、または両方の異性が同じ量で存在する)を使用するのが有利である。個々の異性体は、相応の異性体混合物から例えば、クロマトグラフィー、昇華または結晶化により単離することができる。異性体を分離するための相応の方法は、当業者に公知である。
【0097】
本発明による遷移金属錯体IC中の基
【0098】
【化29】

は、次のもの
【0099】
【化30】

[式中、記号は次の意味を有する:
、R、R、R、R、RおよびR11は、相互に独立に水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される置換基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基、有利には、水素、アルキルまたはアリールを表し;その際、式a中少なくとも1つの基R、R、RまたはRは水素を表さず;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、有利にはアルキルまたはアリール、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって、場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成し、有利にはそれぞれ2個の基R10は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し、
vは、0〜4、有利には0、1または2、とりわけ有利には0であり、その際、vが0である場合には場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有し;
は既に定義してある]
から選択されるのが特に有利である。
【0100】

【0101】
【化31】

は、
【0102】
【化32】

[式中、記号は次の意味を有する;
Zは、CHまたはNを表し、その際、Zはカルベンリガンドとの基の結合部位に対してo−、m−またはp−位に位置でき;
12は、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利にはアルキル基またはアリール基であり、またはそれぞれ2個の基R12が一緒になって場合により少なくとも1つのヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成する、有利にはそれぞれ2個の基R12は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR12はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基を表し;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表す;
tは、0〜3、有利にはt>1であり、基R12は同じまたは異なっていることができ、有利にはtは0または1であり、かつtが1の場合はスペーサーXとの結合部位に対して、またはpが0の場合はカルベン炭素原子に隣り合う窒素原子との結合部位に対して、基R12はo−位、m−位またはp−位に位置することができる;;
は、先に定義した基と同じまたは異なっていることができる]
を表すのが有利である。
【0103】
本発明による遷移金属錯体は、相互に独立に次のもの
【0104】
【化33】

[式中、記号は次の意味を有する:
Z,Z’は、同じまたは異なり、有利には同じでありCHまたはNであり;
12,R12’は、同じまたは異なり、有利には同じであり、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、有利にはアルキル基、ヘテロアリール基またはアリール基を表すか、またはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’は、一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成する、有利にはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR12もしくはR12’はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基を表し;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF、CHF、CF、CN、チオ基およびSCN基を表し;
tとt’は、同じまたは異なり、有利には同じであり0〜3である。その際、tもしくはt’が1より大きい場合には、基R12もしくはR12’は、同じまたは異なっていることができ、tもしくはt’は0または1であるのが有利であり、かつtもしくはt’が1である場合には、R12もしくはR12’はカルベン炭素原子に隣り合う窒素原子との結合部位に対してo−位、m−位またはp−位に位置する;
、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、ハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、有利にはFから選択される置換基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミン基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し、有利には水素、アルキルまたはアリールであり;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、有利にはアルキル、ヘテロアリールまたはアリール、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子、有利にはNを含有することができる1個の縮合環を形成し、有利にはそれぞれ2個の基R10は一緒になって1個の縮合芳香C−環を形成し、その際、これに有利には6員芳香環、場合により1個または複数の更なる芳香環が縮合することができ、その際、その都度考えられるだけの縮合が可能であり、かつ縮合した基は更に置換することがきる;またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する、有利にはハロゲン基、有利にはF、Cl、Brから成るグループ、特に有利にはFから選択される基;アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、CHF基、CHF基、CF基、CN基、チオ基およびSCN基を表し;
vは、0〜4、有利には0、1または2、とりわけ有利には0であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する]
から成るグループから選択される少なくとも2個のカルベンリガンドを有するのが特に有利である。
【0105】
本発明による一般式ICの遷移金属錯体は、Rh(III)、Ir(III)、Ru(III)、Ru(IV)およびPt(II)から成るグループ、有利にはPt(II)またはIr(III)から選択される金属原子Mを有するのが特に有利である。金属原子MとしてIr、有利にはIr(III)を使用するのが特に有利である。
【0106】
とりわけ有利な実施態様では、本発明による遷移金属錯体Ir(III)中のMは、Ir(III)であり、nは3、mとoは0であり、その際、3個のカルベンリガンドが同じであるのが特に有利である。
【0107】
式ICの本発明による遷移金属錯体は、当業者に公知の方法と同様に製造できる。適切な製法は、例えば、参考文献のW.A. Hermann et al., Advances in Organometallic Chemistry, Vol.48, 1〜69頁、W.A. Hermann et al., Angew. Chem. 1997, 109, 2256〜2282頁およびG. Bertrand et al., Chem. Rev. 2000, 100, 39〜91頁およびこの中に引用されている文献に記載されている。
【0108】
1実施態様では、本発明による遷移金属錯体は、相応のカルベンリガンドに相応するリガンド前駆体から脱プロトン化し、引き続き所望の金属を含有した適切な金属錯体と反応させることにより製造される。このほかに、本発明による遷移金属錯体の製造はWanzlickオレフィンを直接に使用することによって可能である。
【0109】
適切なリガンド前駆体は当業者に公知である。これはカチオン性前駆体であるのが有利である。
【0110】
有利な1実施態様では、カチオン性前駆体を脱プロトン化し、前駆体に応じて種々の中間生成物が生じ得る。反応の方法に応じて、例えば、アルコキシド誘導体、二量体のWanzlickオレフィンまたは遊離N−複素環式カルベンが生じる。アルコキシド誘導体とWanzlickオレフィンは、有利には適切な金属前駆体の存在で熱処理され、その際、アルコールの分離または二量体の解離が行われ、かつ適切な金属錯体の存在で金属カルベン化合物が形成される。中間生成物として遊離カルベンが形成される場合には、反応は冷却下に、かつ引き続き室温まで加温もしくは必要な場合には更に加熱して実施される。反応は、有利には適切な溶剤中で実施され、その際、二段階の変法の場合には、2個の部分的な工程に同じまたは異なる溶剤を使用できる。適切な溶剤は、例えば芳香族および脂肪族溶剤またはエーテル、例えば、トルエン、テトラヒドロフランである。遊離カルベンを用いて操作しない場合は、アルコールまたは塩化メチレンのような塩化炭化水素を使用できる。遊離カルベンを製造するために、液体アンモニア、場合により溶剤としてのテトラヒドロフランとの混合物中で使用できる。
【0111】
従って、本明細書のもう1つの対象は、相応のカルベンリガンドに相応するリガンド前駆体から脱プロトン化し、かつ引き続き所望の金属を含有する適切な金属錯体と反応させることによる一般式ICの本発明による遷移金属錯体の製法である。
【0112】
リガンド前駆体の脱プロトン化は、メタルアセテート、アセチルアセトネートまたはアルコキシレートのような塩基性メタレート、塩基性アニオンまたはKOBu、NaOBu、LiOBu、NaH、シリルアミド、アミドのような外部塩基ならびにホスファゼン塩基により行うことができる。
【0113】
N−複素環式カルベンリガンドを有する式ICの本発明による遷移金属錯体は、外部塩基、有利にはKOBuまたはシリルアミド、特に有利にはシリルアミド、例えば、カリウムビス(トリメチルシリル)アミドを用いて、アゾリウム塩、特にイミダゾリウム塩、ベンズイミダゾリウム塩;トリアゾリウム塩およびアゾリジニウム塩、特にイミダゾリジニウム塩から成るグループから選択される相応のカチオン性前駆体を脱プロトン化することにより反応させる。得られる中間生成物を引き続き所望の金属の錯体と反応させる。
【0114】
所望の金属の適切な錯体は当業者に公知である。使用される金属錯体中の所望の金属およびこれから製造される遷移金属錯体ICの相応の金属は、同じ酸化状態を有してはならない。
【0115】
本明細書によれば特に有利である一般式ICのイリジウム(III)錯体を製造する場合には、特に次のイリジウム(III)錯体が使用される:[(μ-Cl)Ir(η−1,5-cod)]、[(μ-Cl)Ir(η−1,5-coe) 、Ir(acac)、IrCl×nHO、(tht)IrCl式中、codはシクロオクタジエン、coeはシクロオクテン、acacはアセチルアセトネートおよびthtはテトラヒドロチオフェンを表す。
【0116】
反応を溶剤中で行うのが有利である。適切な溶剤は、有利には芳香族、脂肪族溶剤、エーテル、アルコールおよびハロゲン化炭化水素から成るグループから選択される。アルコールとハロゲン化炭化水素は、一般に反応で遊離カルベンが形成されない場合にだけ使用される。遊離カルベンを生成するために、更に液体アンモニアを溶剤として使用できる。
【0117】
アルコキシド誘導体またはWanzlickオレフィンは、相応の金属前駆体に通常室温で添加され、引き続き熱処理される。その際、アルコキシド誘導体の場合には、相応のアルコールが分離されるか、または二量体のWanzlickオレフィンが解離され、かつ金属カルベン化合物が形成される、通常は、この反応のために20〜120℃、有利には25〜110℃の温度が適切である。中間生成物として遊離カルベンが使用される(例えば、イミダゾリンー2−イリデン)場合には、これをまず冷却下に金属の前駆体に添加し、引き続き室温まで加温し(20〜25℃)、場合により引き続き更に加温を行う。従って、これらの反応のために、−78〜+120℃の温度が適切である。
【0118】
使用される金属錯体:使用されるリガンド前駆体の比は、少なくとも2個のカルベンリガンドを有する所望の錯体に依存する。金属原子がIr(III)である場合には、このことが特に有利であり、かつ所望の遷移金属錯体が3個のカルベンリガンドを含有し、これは同様に特に有利であるので、リガンド前駆体のモル量は、金属錯体中の金属のモル量の約3倍大きくなくてはならない。その際、僅かに過剰のリガンド前駆体を使用することができる。金属錯体中の金属:リガンド前駆体のモル量のモル比は、有利には1:3〜1:5、特に有利には1:3〜1:4である。
【0119】
使用される塩基のモル量は、使用されるリガンド前駆体のモル量に依存し、その際、塩基とリガンド前駆体は2:1〜1:1、有利には1.5:1〜1.2:1のモル比で使用される。
【0120】
以下に、N−複素環式カルベンリガンドを有する本発明による2個のイリジウム錯体の製造例を例示的に記載する:
【0121】
【化34】

[式中、Xは、アニオン性基、有利にはハロゲン化物、擬ハロゲン化物または他のアニオン性基、例えば、Cl、Br、BF、PF、CN、SCN、特に有利にはBF、PFを表す]
【0122】
【化35】

[式中、X-は既に定義してある。]
本発明により使用される遷移金属カルベン錯体は、発光物質として適切である。それというのも、これは電磁スペクトルの可視範囲内で発光(EL)を有するからである。本発明により使用される遷移金属カルベン錯体を発光物質として用いることで、電磁スペクトルの赤色、緑色ならびに青色領域内でELを有する化合物を提供できる。従って、本発明により使用される遷移金属錯体を発光物質として用いて、工業的に使用可能なフルカラーディスプレーを提供することができる。
【0123】
様々に置換されたカルベンリガンドならびに種々の遷移金属を自由に利用することにより、電磁スペクトルの種々の領域内で発光する発光物質を製造できる。この場合に、量子収率は高く、かつ装置内の遷移金属カルベン錯体、特にN−複素環式カルベンリガンドを有するものは安定性が高い。
【0124】
更に、上記の中性遷移金属錯体は、使用されるリガンドと使用される中心金属に依存してOLEDsにおいて電子ブロッカー、励起子ブロッカーまたはホールブロッカーとして適切である。
【0125】
有機発光ダイオードは原則的に複数の層から形成される(図1参照)。
1.アノード
2.ホール輸送層
3.発光層
4.電子輸送層
5.カソード。
【0126】
しかし、OLEDは上記の全ての層を有さなくてもよい。例えば、層(1)(アノード)、(3)(発光層)および(5)(カソード)を有するOLEDも同様に適切であり、その際、層(2)(ホール輸送層)と(4)(電子輸送層)の機能は、境界をなす層により引き継がれる。層(1)、(2)、(3)および(5)もしくは、層(1)、(3)、(4)および(5)を有するOLEDsも同様に適切である。
【0127】
本明細書による遷移金属錯体は、OLEDsの種々の層で使用できる。従って、本発明のもう1つの対象は、本明細書による少なくとも1つの遷移金属カルベン錯体を含有するOLEDである。この遷移金属カルベン錯体は、有利には発光層内で発光分子として使用される。従って、本発明のもう1つの対象は、少なくとも1つの遷移金属カルベン錯体を発光分子として含有する発光層である。有利な遷移金属カルベン錯体、特にN−複素環式カルベンリガンドを有する遷移金属カルベン錯体は、既に挙げてある。
【0128】
本発明による、もしくは本発明により使用される遷移金属カルベン錯体は、物質中(更に添加なし)、発光層または他のOLEDs層中、有利には発光層中に存在する。しかし、本発明により使用される遷移金属カルベン錯体の他に、更なる化合物が本明細書による少なくとも1つの遷移金属カルベン錯体を含有する層中、有利には発光層中に存在することもできる。発光分子として使用される遷移金属カルベン錯体の発光色を変えるために、例えば、発光層中に蛍光染料が存在することができる。更に、希釈材料を使用することができる。この希釈材料は、ポリマー、例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)またはポリシランであることができる。しかし、希釈材料は低分子、例えば4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CDP=CBP)または第三芳香族アミンであることもできる。希釈材料が使用される場合には、本発明により使用される遷移金属カルベン錯体の発光層中での割合は、一般に30質量%未満、有利には20質量%未満、特に有利には3〜10質量%未満である。
【0129】
また、上記のOLEDsの各層は、2つ以上の層から構成されることができる。例えば、ホール輸送層は電極からホールが注入される層と、ホール注入層のホールから発光層へ輸送する層から構成できる。電子輸送層は、同様に複数の層から成ることができる。例えば、電子が電極により注入される層と、電子注入層から電子を得て、これを発光層へ輸送する層から成る。上記の層はエネルギーレベル、耐熱性および電荷担体移動度ならびに上記の層と有機相または金属電極とのエネルギー差のような要因により、それぞれ選択される。当業者は、これが発光物質として使用される本発明による遷移金属カルベン錯体に最適に合うようにOLEDsの構成を選択できる。
【0130】
特に効果的なOLEDsを得るために、ホール輸送層のHOMO(最高被占分子軌道)をアノードの仕事関数を合わせ、かつ電子輸送層のLUMO(最低空分子軌道)をカソードの仕事関数と合わせるべきである。
【0131】
本明細書のもう1つの対象は、少なくとも1つの本発明による発光層を含有するOLEDである。OLED中のさらなる層は、通常このような層で使用され、かつ当業者に公知である任意の材料から構成することができる。
【0132】
アノード(1)は、正の電荷担体を提供する電極である。これらは、例えば、金属、種々の金属の混合物、金属合金、酸化金属または種々の酸化金属の混合物を含有する材料から構成することができる。二者択一的に、アノードは伝導性ポリマーであることができる。適切な金属には、元素の周期系の11、4、5および6族ならびに8〜10族の遷移金属が含まれる。アノードが導電性であるべき場合には、一般に、元素の周期系の12、13および14族の混合金属酸化物、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)を使用する。同様に、アノード(1)は、例えばNature, 第357巻、477〜479頁(11. June 1992)に記載されているようなポリアニリン含有の有機材料であることもできる。形成された光を放つために、アノードまたはカソードの少なくともどちらかは、少なくとも部分的に透明であるべきである。
【0133】
本発明によるOLEDsの層(2)に適切なホール輸送材料は、例えば、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technologie 第4版、18巻、837〜860頁、 1996に開示されている。ホール輸送分子もポリマーもホール輸送材料として使用できる。通常使用されるホール輸送分子は、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)−フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD)、テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA)、α−フェニル−4−N,N’−ジフェニルアミノスチレン(TPS)、p−(ジエチルアミノ)−ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH)、トリフェニルアミン(TPA)、ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)(4−メチル−フェニル)メタン(MPMP)、1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP)、1,2−トランス−ビス(9H―カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB)、N,N,N',N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB)、4,4',4''‐トリス(N,N‐ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDTA)およびポリフィリン化合物ならびに銅フタロシアニンのようなフタロシアニンから成るグループから選択される。通常使用されるホール輸送ポリマーは、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、有利にはPSS(ポリスチレンスルホネート)でドーピングされたPEDOTおよびポリアニリンから成るグループから選択される。同様に、ホール輸送ポリマーをドーピングにより、ポリスチレンやポリカーボネートのようなポリマー中のホール輸送分子を得ることもできる。適切なホール輸送分子は、すでに挙げた分子である。
【0134】
本発明によるOLEDsの層(4)に適切な電子輸送材料には、トリス(8−ヒドロキシキノレート)アルミニウム(Alq)のようなオキシノイド化合物でキレート化された金属、2,9−ジメチル、4,7−ジフェニル−1、10−フェナントロリン(DDPA=BCP)または4,7−ジフェニル−1、10−フェナントロリン(DPA)のようなフェナントロリンベースの化合物、および2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)および3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)のようなアゾ化合物が含まれる。この場合に、層(4)は、電子輸送を容易にするために使用しても、OLEDs層の境界面での励起子のクエンチを回避するために、バッファ層またはブロック層として使用することもできる。層(4)は、電子の可動性を改善し、励起子のクエンチを減らす。
【0135】
上記のホール輸送材料と電子輸送材料として挙げた材料のうちの幾つかは複数の機能を満たすことができる。例えば、これが低いHOMOを有する場合には電子を通す材料の幾つかは同時にホールブロック材料である。
【0136】
一方では層厚を十分に多くするため(ピンホール/短絡の回避)、もう一方では装置の作業電圧を最小化するために電荷輸送層を電気的にドーピングして使用材料の輸送特性を改善できる。例えば、ホール輸送材料を電子受容体でドーピングすることができる。例えば、フタロシアニンもしくはアリールアミン、例えばTPDまたはTDTAをテトラフルオロ−テトラシアノ−キノジメタン(F4-TCNQ)でドーピングすることができる。電子輸送材料は、例えばアルカリ金属でドーピングすることができる。例えば、Alqをリチウムでドーピングすることができる。電気的ドーピングは、当業者に公知であり、かつ例えば、W. Gao, A. Kahn, J. Appl. Phys., Vol.94, No.1,1 July 2003(p-doped organic layers); A. G. Werner, F. Li, K. Harada, M. Pfeiffer, T. Fritz, K. Leo,Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No. 25, 23 June 2003およびPfeiffer et al., Organic Electronics 2003, 4, 89-103に開示されている。
【0137】
カソード(5)は、電子または負の電荷担体を導入するために使用する電極である。カソードは、アノードよりも少ない仕事関数を有する金属または非金属であることができる。カソードに適切な材料は、希土類金属、ランタニドおよびアクチノイドを含めた元素の周期系の1族のアルカリ金属、例えば、Li、Cs、2族のアルカリ土類金属、12族の金属から成るグループから選択される。更に、アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウム、サマリウム、マグネシウムならびにこれらの組合せのような金属を使用することができる。更に、作業電圧を減らすために、リチウム含有の有機金属化合物またはLiFを有機層とカソードの間に設置することができる。
本発明によるOLEDは、当業者に公知の層を更に含有することができる。例えば、層(2)と発光層(3)の間に、正の電荷の輸送を容易にし、かつ/または層のバンドギャップを相互に調節する層を設置できる。二者択一的に、これらの層は更に保護層として使用することができる。同様に、負の電荷の輸送を容易にし、かつ/または層の間のバンドギャップを相互に調節するために、発光層(3)と層(4)の間に付加的な層が存在することもできる。二者択一的に、これらの層を保護層として使用することができる。
【0138】
有利な1実施態様では、本発明によるOLEDは、層(1)〜(5)の他に、以下に挙げる少なくとも1つの更なる層を含有することができる:
− アノード(1)とホール輸送層(2)の間のホール注入層;
− ホール輸送層(2)と発光層(3)の間の電子および/または励起子のブロック層;
− 発光層(3)と電子輸送層(4)の間のホールおよび/または励起子のブロック層;
− 電子輸送層(4)とカソード(5)の間の電子注入層。
【0139】
しかし、OLEDは上記の層(1)〜(5)の全てを有さないこともできる。例えば、層(1)(アノード)、(3)(発光層)および(5)(カソード)を有するOLEDが同様に適切であり、その際、層(2)(ホール輸送層)と層(4)(電子輸送層)の機能は、隣接する層により受け継がれる。層(1)、(2)、(3)および(5)もしくは層(1)、(3)、(4)および(5)を有するOLEDも同様に適切である。
【0140】
(例えば、電気化学的試験に基づいて)適切な材料を選択しなくてはならないことは当業者に周知である。各層に適切な材料は、当業者に公知であり、例えば、WO00/70655に開示されている。
【0141】
更に本発明によるOLEDの前記各層は、2つ以上の層から構成することができる。更にまた、層(1)、(2)、(3)、(4)および(5)の幾つかまたは全てを、電荷担体輸送の効率を高めるために表面処理することもできる。前記各層の材料の選択は、高い効果を有するOLEDが得られるように決定するのが有利である。
【0142】
本発明によるOLEDの製造は、当業者に公知の方法により行うことができる。一般に、OLEDは適切な基材上に個々の層を連続的に蒸着することにより製造される。適切な基材は、例えばガラスまたはポリマーフィルムである。蒸着のために、熱蒸発、化学蒸着などのような通常の技術を使用できる。二者択一的な方法では、溶液または分散液から有機層を適切な溶媒中で被覆することができ、その際、当業者に公知の被覆法が用いられる。少なくとも1つの本発明による遷移金属カルベン錯体の他に、ポリマー材料をOLEDの層のうち1つの中、有利には発光層中に有する組成物は、一般に溶液処理法により層として被覆される。
【0143】
一般に、種々の層は次の厚さを有する:アノード(2)500〜5000Å、有利には1000〜2000Å;ホール輸送層(3)50〜1000Å、有利には200〜800Å、発光層(4)10〜1000Å、有利には100〜800Å、電子輸送層(5)50〜1000Å、有利には200〜800Å、カソード(7)200〜10000Å、有利には300〜5000Å。本発明によるOLED中のホールと電子の再結合領域の位置、ひいてはOLEDの発光スペクトルは、各層の相対的な厚さにより影響させることができる。このことは、電子/ホール再結合領域が発光層中にあるように電子輸送層の厚さを選択するのが有利であることを意味する。OLED中の各層の層厚の割合は、使用される材料に依存する。場合により使用される付加的な層の層厚は、当業者に公知である。
【0144】
本発明により使用される遷移金属錯体を、本発明のOLEDの少なくとも1つの層中で利用することにより、有利には本発明のOLEDの発光層中の発光分子として利用することにより、高効率を有するOLEDsを得ることができる。本発明によるOLEDの効率は、更に他の層の最適化により改善することができる。例えば、Ca、BaまたはLiFのような高効率のカソードを使用することができる。作動電圧の減少または量子収率の上昇を生じる成形基材および新規ホール輸送材料も本発明によるOLEDsにおいて使用可能である。更に、種々の層のエネルギーレベルを調節し、かつELを容易にするために、付加的な層がOLEDs中に存在することができる。
【0145】
本発明によるOLEDsは、ELが有用である全ての装置で使用できる。適切な装置は、有利には静止および可動ディスプレーから選択される。静止ディスプレーは、例えば、コンピューター、テレビのディスプレー、プリンター、台所道具ならびに宣伝広告板、照明、案内標識板中のディスプレーである。可動ディスプレーは、例えば、携帯電話、ラップトップ、デジタルカメラ、乗り物ならびにバスおよび鉄道の行き先表示板中のディスプレーである。
【0146】
更に、逆の構造を有するOLEDsにおいて本発明により使用される遷移金属カルベン錯体を使用できる。この逆の OLEDsでは遷移金属錯体を更に発光層において使用するのが有利である。逆OLEDsの構造および通常この中で使用される材料は当業者に公知である。
【0147】
上記の本発明によるまたは本発明により使用される遷移金属錯体は、OLEDsで使用する他に、光で照射する場合に電磁スペクトルの可視領域内で発光する着色剤として使用できる(フォトルミネセンス)。このような着色剤は有利にはポリマー材料中の着色剤として使用される。
【0148】
従って、本明細書のもう1つの対象は、本発明の上記遷移金属錯体の使用、またはポリマー材料を着色するための本発明により使用される遷移金属錯体の使用である。
【0149】
適切なポリマー材料は、ポリビニルクロリド、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、メラミン樹脂、シリコーン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリルニトリル、ポリブタジエン、ポリクロロブタジエン、ポリイソプレンもしくは列挙したモノマーのコポリマーである。
【0150】
更に、上記の本発明による遷移金属錯体または本発明により使用される遷移金属錯体は、次の用途で用いることができる:
− 例えば、紙、材木、わら、革、毛皮のような天然物質、または綿、ウール、シルク、ジュート、サイザル、大麻、亜麻のような天然繊維材料、または動物の毛(例えば、馬毛)ならびにそれらの変換生成物、例えば、ビスコース繊維、ニトレートシルクまたは銅レーヨン(Rayon)を着色するためのバット染料としてまたはバット染料中の遷移金属錯体の使用。
【0151】
− 例えば、塗料、ラッカーおよびその他の表面コーティング剤、紙色、印刷インク、インクおよび作図や筆記目的用の他の塗料を着色するための染料としての遷移金属錯体の使用。
【0152】
− 例えば、塗料、ラッカーおよびその他の表面コーティング剤、紙色、印刷インク、インクおよび作図や筆記目的用の他の塗料を着色するための染料としての遷移金属錯体の使用。
【0153】
− 電子写真における顔料としての遷移金属錯体の使用;例えば、ドライコピー系(ゼロックス法)およびレーザープリンター用。
【0154】
− 高度な化学安定性と光化学安定性および場合により物質の発光が重要である安全マーキングを目的とする遷移金属錯体の使用。これは、小切手、クレジットカード、金銭証券、文書、証明書類および特に明白な色の印象が達成されるべきこのようなものに好ましい。
【0155】
− 特定の色のニュアンス、特に輝く色調が達成されるべき他の着色剤への添加剤としての遷移金属錯体の使用。
【0156】
− 物品をマーキングするための、例えば、発光によりこれらの物品を機器認識するための、有利には分類目的用の物品を機器認識するための、例えば、プラスチックをリサイクルするための遷移金属錯体の使用。
【0157】
− 機械読取り可能なマーキング、有利には、英数字プリントまたはバーコード用の蛍光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0158】
− 周波数変換するための、例えば、短波長の光を長波長の可視光に変換するための遷移金属錯体の使用。
【0159】
− 種々のディスプレー、案内およびマーキングを目的とする、例えば、パッシブディスプレイ素子、案内標識および交通標識、例えば、信号における遷移金属錯体の使用。
【0160】
− インクジェットプリンターにおける、有利には均一な溶液中での発光インクとしての遷移金属錯体の使用。
【0161】
− 超伝導有機材料用の出発材料としての遷移金属錯体の使用。
【0162】
− 固形の発光マーキング用の遷移金属錯体の使用。
【0163】
− 装飾目的用の遷移金属錯体の使用。
【0164】
− トレーサー目的用、例えば、生化学、医薬品、工業技術および自然科学における遷移金属錯体の使用。ここで、染料は共有結合により基材に結合するか、または水素架橋結合または疎水性相互作用(吸収)のような副原子価を介して結合する。
【0165】
− 高感受性の検出法における発光染料としての遷移金属錯体の使用(C. Aubert, J. Fuenfschilling, I. Zschocke-Graenacher and H. Langhals, Z. Analyt. Chem. 320(1985)361参照)。
【0166】
− シンチレーターにおける発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0167】
− 光回収システムにおける染料もしくは発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0168】
− 発光太陽熱収集器における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用(Langhals, Nachr. Chem. Tech. Lab. 28(1980) 716参照)。
【0169】
− ルミネセンス活性化ディスプレーにおける染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用(W. Greubal and G. Baur, Elektronik 26(1977)6参照)。
【0170】
− 合成物質を製造するための光誘導重合用の冷光源における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0171】
− 材料試験用の、例えば、半導体回路の製造における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0172】
− 集積回路部材のミクロ構造を検査するための染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0173】
− 光伝導体における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0174】
− 写真プロセスにおける染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0175】
− 励起が電子、イオンまたはUV照射により生じるディスプレー、イルミネーションまたは画像変換系、例えば、発光ディスプレー、ブラウン管または蛍光灯における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0176】
− 集積回路の一部としての染料または発光染料としての遷移金属錯体の、染料それ自体としてまたは他の半導体と組み合わせた形、例えば、エピタキシーの形での使用。
【0177】
− 化学発光系、例えば、化学発光イルミネーションロッド、発光免疫アッセイまたは他の発光検出法における染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用。
【0178】
− シグナルカラーとしての染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用、有利には作図や筆記または他のグラフィック製品を光学的に強調するための使用、特に光学的色の印象が達成されるべき掲示板ならびにその他の物品を特徴づけるための使用、
− 色素レーザーにおける染料または発光染料としての遷移金属錯体の使用、例えば、レーザービームを発生するための発光染料としての使用。
【0179】
− 非線形光学用の活性物質としての、例えば、レーザー光の周波数ダブリングおよび周波数トリプリング用の遷移金属錯体の使用。
【0180】
− レオロジー向上剤としての遷移金属錯体の使用。
【0181】
− 電磁放射線を電気エネルギーに変換するための光起電装置における染料としての遷移金属錯体の使用。
【0182】
以下の実施例は本発明を付加的に説明するものである。
実施例
1.リガンドの製造:
重要なリガンド前駆体を文献の規定に倣って製造した:
a)化合物(1)
【0183】
【化36】

【0184】
Organic Letters, 1999, 1, 953-956;Angewandte Chemie, 2000, 112, 1672-1674に倣って、N,N−ジフェニルエタン−1,2−ジアミンから出発して合成を行った。この場合に、アンモニウムテトラフルオロボレートの存在でビスアミンをトリエチルホルメートと反応させた。エタノール中での再結晶後に、化合物が得られた。
H -NMR(400 MHz, DMSO):
δ=4.60(s, 4H, CH), 7.40(tt, 2H), 7.57(dd, 4H), 7.65(dd, 4H), 9.95(s, 1H, CH)
13C-NMR(500MHz, DMSO):
δ=48.2, 118.4, 127.0, 129.6, 136.0, 151.7。
b)化合物(2)
【0185】
【化37】

【0186】
合成は、Chem. Ber. 1971, 104, 92-109(特に106頁)に倣って、グリオキサールのビスイミンおよびアニリンもしくはp−トルイジンから製造して開始した。得られたシッフ塩基をJournal of Organometallic Chemistry 2002, 606, 49-54に倣い、ジオキサン中のp−ホルムアルデヒドの塩酸懸濁液で処理することにより相応の塩化イミダゾリチウムに変換した。
【0187】
アニリンについて:
δ=7.64(t, 2H), 7.72(t, 4H), 7.93(d, 4H), 8.60(d, 2H), 10.75(s, 1H)
MS(ESI, CAN/HO 8/2):
m/e=221.0。
【0188】
p−トルイジンについて:
H -NMR(500 MHz, DMSO):
δ=2.42(s, 6H), 7.49(d, 4H), 7.88(d, 4H), 8.61(d, 2H), 10.52(t, 1H)。
【0189】
アニオンの交換は、AgBFもしくはNaBFのどちらかで処理することにより可能である。
c)化合物(3)
【0190】
【化38】

【0191】
合成は、1,2−フェニレンジアミンから出発して行った。アミノ官能基にアセチル基を導入した後に、Synthetic Communications, 2000, 30, 3651-3668からの規定に倣って、銅接触プロトコールを用いて得られたアミドにフェニル基を導入した。精製せずに、材料を沸騰エタノール性KOH溶液中で処理した。生成物はクロマトグラフィーにより得られた。
H-NMR(CDCl, 500MHz):
δ=5.70(s, broad, 2H), 6.87(t,2H), 6.93(d, 4H), 6,97(dd, 2H), 7.22(t,4H), 7.28(dd, 2H)。
【0192】
重要なイミダゾリウム塩の製造は、アンモニウムテトラフルオロボレートの存在で、N,N'−ジフェニルベンゼン−1,2−ジアミンをオルトギ酸トリエチルエステルで処理することにより行った。結晶化により材料が得られた。
H-NMR(DMSO, 400MHz):
δ=7.74-7.84(m, 8H), 7.91-7.98(m, 6H), 10.57(s, 1H)。
d)化合物(4)
da)化合物4aの製造
【0193】
【化39】

【0194】
アルゴンで排気したフラスコ中で、アルゴン対流の形で2,3−ジアミノナフタレン(Across)3.16g(20mmol)と蒸留ブロモベンゼン(Aldrich)6.28g(40mmol)をトルエン(水不含)80ml中に装入した。フラスコに真空を当てることにより、茶色の懸濁液を脱気した。この後に、再びアルゴンで排気し、アルゴン対流の形でスパチュラの先の分量のPd(dba) 、スパチュラの先の分量の9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン(Xantphos)、ナトリウム-t-ブチレート2.70g(28mmol)および脱気した水0.36g(20mmol)を加えた。茶色の懸濁液を還流するまで加熱し、かつ還流で15時間撹拌した。このあとに、室温になるまで放置した。
【0195】
精製のために、混合物を塩化メチレンで希釈し、かつ水で2回抽出した。次に硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過後に濾液を真空中で蒸発させた。残留物をカラムクロマトグラフィーで精製した(シリカゲル、塩化メチレン1リットル当たりトリエチルアミン5mlを有する塩化メチレン)。生成物を有するフラクションを合わせ、かつ真空で溶剤を除いた。化合物(4a)2.7g(43.5%)が得られた。
H-NMR(CDCl, 400MHz):
δ=5.85(s, broad, NH), 6.97(tt, 2H, J=7.3Hz, J=1.2Hz), 7.07(dd, 4H, J=8.7Hz, J=1.1Hz), 7.28-7.32(m, 6H), 7.60(dd, 2H, J=6.1Hz, J=3.1Hz), 7.64(s, 2H)
MS(EI):
m/e=310.0, 311.0, 312.0(M)。
db)化合物(4)の製造
【0196】
【化40】

【0197】
2首フラスコを窒素で20分間排気した。次に2,3−ジ−N−フェニルアミノナフタレン7.68g(24.74mmol)を100℃でトリエチルホルメート51.34g(346.4mmol)中に溶かし、かつアンモニウムテトラフルオロボレート2.59g(24.74mmol)を窒素対流下に加えた。次に、溶液を還流するまで加熱し、かつ還流下に12時間撹拌した。次に、反応混合物を室温の状態にした。
【0198】
精製のために、反応混合物をG4−フリットを介して濾過し、かつオルトエステルで洗浄した。次に、これを真空乾燥オーブン中50℃で乾燥した。このように得られた材料(6.05g)を塩化メチレンに溶解し、かつフィルターを介して吸引濾過した。真空中で母液を蒸発し、かつ真空乾燥オーブン中50℃であらたに乾燥させた。化合物(4)5.37g(53%)が得られた。
H-NMR(0114600902, 400MHz, CDCl):
δ=7.69(dd, 2H, J 2.9 Hz, J=6.7Hz), 7,76-7.82(m, 6H), 7.91-7.95(m, 4H), 8.10(dd, 2H, J=3.3Hz, J=6.6Hz), 8.29(s, somewhat broader, 2H), 9.75(s, 1H)。
元素分析:
実験値 18.3%F 67.2%C 6.8%N 4.10%H
理論値 18.6%F 67.6%C 6.8%N 4.16%H
2.金属錯体の製造:
P. B. Hitchcock, M. F. Lappert, P. Terreros, J. Organomet. Chem. 1982, 239, C26-C30の規定に倣って、Ir(イミダゾリジン)を製造した。記載された文献の規定とは異なり、出発物質としてWanzlickオレフィンではなく、イミダゾリジニウム塩が使用された。
【0199】
金属カルベン錯体の製造(記載された全ての合成は、シュレンク法により不活性雰囲気下に無水溶剤中で実施された):
a)Ir錯体(5)の製造
【0200】
【化41】

【0201】
100mlの三つ首フラスコ中で、イミダゾリウム塩(化合物(1))3.0g(9.6mmol)をテトラヒドロフラン40ml中に懸濁させた。淡褐色の懸濁液を室温でTHF10ml中のKOBu1.11g(9.7mmol)の溶液と混合した。混合物を室温で1時間撹拌し、引き続き乾燥するまで蒸発させた。再びトルエン30ml中に取った後に、懸濁液をトルエン20ml中の[(μ-Cl)(η−1,5−cod)Ir]820mg(1.2mmol)の溶液に添加した。反応混合物を還流させながら2時間加熱し、室温で一晩撹拌し、引き続き還流させながらもう1度3.5時間加熱した。これを室温まで冷却させた。沈殿物を濾別し、トルエンで洗浄し、塩化メチレンで抽出し、かつこの塩化メチレンを真空中で除いた。残留物にカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。これにより淡黄色の粉末が得られた(240mg、15%)。
13C-NMR(CDCl, 125MHz): 200.0(NCN), 149.3, 146.5, 142.5(each C or IrC Phenyl), 134.5, 127.2, 126.5, 125.5, 120.6, 119.7, 106.8(each CH Phenyl), 53.8, 44.1(NCHCHN)。
質量分析(EI):m/e=856。
光学スペクトル分光分析:λ=533nm(粉末のメイン最大)。
b)Ir錯体(6)の製造
【0202】
【化42】

【0203】
100ml三つ首フラスコ中で、イミダゾリウム塩(化合物(2))0.92g(2.7mmol)をテトラヒドロフラン20ml中に溶解させた。−8℃で、塩基547ml(トルエン中0.5M、2.8mmol)を10分間以内に添加し、混合物を室温で1時間撹拌した。
【0204】
[(μ-Cl)(η−1,5−cod)Ir]310mg(0.460mmol)をTHF20ml中に溶解し、−78℃まで冷却し、かつこれに塩混合物を少しずつ添加した。混合物を60℃で2時間、室温で一晩、還流下に8時間撹拌し、引き続き室温で一晩撹拌した。濾過後に、乾燥するまで蒸発させ、かつ褐色の残留物にカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。白色粉末が得られた(170mg, 20%)。
H-NMR(CDCl ,500MHz):7.23(1H, CHPhenyl or NCHCHN), 7.02 (1H), 6.79(2H), 6.68 (1H), 6.30 (2H), 5.85 (2H) (each CH Phenyl or NCHCHN), 2.21 (3H, CH), 2.01(3H, CH)。
13C-NMR(CDCl, 125MHz): 174.8(NCN), 149.3, 144.2, 137.6, 135.7, 132.3(each C or IrC Phenyl), 139.6, 127.8, 125.0, 120.2, 120.0, 113.4, 109.1(CH Phenyl or NCHCHN), 20.5, 19.9(each CH)。
質量分析(EI):m/e=934.
光学スペクトル分光分析:λ=489nm(粉末のメイン最大)。
c)Ir錯体(7)の製造
合成変法I
【0205】
【化43】

【0206】
100ml三首フラスコ中で、ベンズイミダゾリウム塩(化合物(3))0.99g(2.8mmol)をTHF20ml中に懸濁させた。この淡黄色の懸濁に、THF10ml中のKOBu0.32gの溶液を室温で添加した。混合物を室温で45分間撹拌し、引き続き乾燥するまで蒸発させた。再びトルエン25ml中に取った後に、懸濁液をトルエン30ml中の[(μ-Cl)(η−1,5−cod)Ir]310mg(0.46mmol)の溶液に添加した。引き続き、混合物を室温で15分間、80℃で一晩、還流下に8時間、室温で1週間にわたり、かつ還流下に5時間撹拌した。冷却後、沈殿物を分離し、かつ濾液を蒸発させた。得られた黄色い粉末にカラムクロマトグラフィーによる精製を行った。これにより白色粉末が得られた(410mg, 43%)。
合成変法II
100ml三首フラスコ中で、ベンズイミダゾリウム塩(化合物(3))1.32g(3.7mmol)をTHF25ml中に予め装入した。室温で30分以内にカリウム−ビストリメチルシリルアミド7.5ml(トルエン中0.5M、3.7mmol)を添加し、かつ混合物を室温で30分間撹拌した。トルエン30ml中に[(μ-Cl)(η−1,5−cod)Ir]310mg(0.46mmol)を溶解し、かつ室温で塩混合物と少しずつ混合した。混合物を室温で1時間撹拌し、次に70℃で2時間、引き続き還流下に一晩撹拌した。濾過後に、乾燥するまで蒸発させ、かつ褐色の残留物にクロマトグラフィーによる精製を行った。白色粉末が得られた(0.75g、82%)。
【0207】
力学的に有利なメリジオナル型(mer)異性体と熱力学的に有利なフェイシャル型(fac)異性体から成る混合物としてIr−錯体(7)が形成された。
H-NMR(fac/mer isomer mixture, data for the main isomer (fac isomer), CDCl ,500MHz):8.03(d, 1H), 7.85 (d, 1H), 7.21(m, 2H), 7.01 (m, 1H), 6.93 (m, 1H), 6.65 (m, 1H), 6.61(m, 1H), 6.53(m, 1H), 6.47(m, 1H), 6.35(d, 1H), 6.20(m, 1H), 6.11(m, 1H) each( CH aryl or NCHCHN)。
13C-NMR(fac/mer isomer mixture, data for the main isomer (fac isomer), CDCl, MHz): 187.8(NCN), 148.8, 147.8, 137.2, 136.9, 131.7(each C or IrC Phenyl), 135.9, 127.8, 127.3, 127.0, 126.6, 126.4, 123.6, 121.9, 120.8, 120.3, 111.6, 109.9, 109.5(CH aryl
質量分析(fac/mer −異性体混合物、EI):m/e=1000.0。
元素分析(fac/mer −異性体混合物、IrC54H39N ・3/4CHCl):C65.2%、H3.8%、N7.9%、Cl5.0;実測値:C64.8%、H4.0%、N8.1%、Cl4.9。
光学スペクトル分光分析:λ=467nm(fac/mer −異性体混合物、粉末のメイン最大)。
DTA(fac/mer −異性体混合物):空気中で測定した場合に、頻繁な分解が約350℃で生じた。試料の分解は、不活性ガス下に約380℃で開始した(測定条件:空気中:28.0/5.0(K/min)/750.0、不活性ガス下:30.0/5.00(K/min)/710)。
d)式(7)のIr錯体のfac/mer −異性体混合物のクロマトグラフィー、分離
TLC(溶出液:トルエン)は、2つのスポットを示した。その際、fac異性体はR=0.5で流れ、mer 異性体は約R=0.35で流れた。
【0208】
僅かな量のCHClを添加しながら、かつ約30〜40℃に加熱しながら、分離すべき材料の0.46gをトルエン中に溶解した。引き続き、トルエンを溶出液として用いて、2つの異性体をシリカゲル(0.063〜0.200mm J.T.Baker)上で細かく分別しながらクロマトグラフィーにより分離した(カラムの寸法:長さ:30cm、直径:6cm)。
得られたfac異性体の量:0.2886g
H-NMR(CDCl ,500MHz)(fac):
δ=8.10(d, 3H), 7.94(d,3H), 7.28(m, 6H), 7.06(m, 3H), 7.02(m, 3H), 6.74(m, 3H), 6.68(m, 3H), 6.60(d, 3H), 6.56(d, 3H), 6.42(d, 3H), 6.29(m, 3H), 6.18(d, 3H)。
得られたmer異性体の量:0.0364g
H-NMR(CDCl ,500MHz, -20℃)(mer):
δ=8.30(d, 1H), 7.89(m,2H), 7.73(d, 1H), 7.56(d, 1H), 7.31(d, 1H), 7.28-7.16(m. 5H), 7.08-7.01(m, 3H), 6.98(m, 1H), 6.93(m, 1H), 6.85-6.20(m, 21H), 5.78(d, 1H), 5.64(d, 1H)。
e)Ir錯体(8)の製造
【0209】
【化44】

【0210】
100ml三首フラスコ中で、トルエン40ml中のナフトイミダゾリウム塩1.51g(3.7mmol)を予め装入した。室温で30分以内にカリウムビス(トリメチルシリル)アミド7.4ml(トルエン中0.5M、3.7mmol)に添加し、かつ混合物を室温で30分間撹拌した。トルエン30ml中に[(μ-Cl)(η−1,5−cod)Ir]310mg(0.46mmol)を溶解し、かつ室温で1滴ずつ塩混合物を添加した。混合物を室温で1時間撹拌し、次に70℃で2時間、引き続き還流下に一晩撹拌した。混合物を乾燥するまで蒸発させ、褐色の残留物にクロマトグラフィーによる精製を行った。淡黄色の粉末が得られた(0.37g、35%)。
H-NMR(fac/mer isomer mixture、data for the main isomer(fac isomer):(CDCl ,500MHz):δ=8.47(s, 1H), 8.05(m, 2H), 7.57(d, 1H), 7.41(m, 1H), 7.33(d, 1H), 7.28(t, 1H), 7.09(m, 1H), 6.75(s, 1H), 6.69(d, 1H), 6.64(t, 1H), 6.57(d, 1H), 6.52(m, 1H), 6.24(m, 2H)。
13C-NMR(fac/mer isomer mixture, data for the main isomer (fac isomer), CDCl, 125MHz): δ=193.9(NCN), 146.67, 137.6, 136.9, 131.4, 129.5, 128.4, (C), 135.7, 128.2, 127.5, 127.4, 127.3, 127.0, 126.8, 126.7, 124.2, 124.0, 123.7, 120.7, 111.8, 106.2, 105.4(CH)。
質量分析(EI):m/e=1151(M-H
元素分析(fac/mer 異性体混合物、IrC69H45N ・1/2CHCl):C70.0%、H3.9%、N7.1%;実測値:C69.9%、H4.2%、N7.0%。
DTA:空気中での測定では、約360℃以上で分解が生じた(測定条件:35.0/5.0(K/min)/720.0)。
f)Ir錯体(7)のfac異性体の結晶構造分析
不活性雰囲気下にペンタンを塩化メチレン中のIr錯体(7)のfac/mer−異性体混合物の溶液にゆっくり拡散することにより、X線構造分析に適切な結晶が得られた。図2には、Ir錯体(7)のfac異性体の結晶構造が記載されている。3つのリガンドのIr−カルベン炭素結合の長さは、2.034Å、1.997Åおよび2.025Åであり、それぞれIr−C単結合に相当する。縮合フェニル環のうち1つによるIr錯体(7)の2つの分子の組合せは、はっきりと分かる。関与するフェニル環平面の平均距離は、3.6Åである。
g)Ir錯体(7)の光学分光分析
ga)異性体比による光学特性の測定
Ir錯体(7)の試料をトルエン中2mg/Lの濃度で測定した(“分光分析のグレード”)。種々のfac/mer異性体比を有する試料を試験した。
gaa)試料
種々の異性体純度を有する以下の試料をその光学特性に関して特徴付け(表1)、以下比較してある。
【0211】
【表1】

a)H−NMRによる比
b)HPLCによる比
c)昇華をp=1×10−5mbarで高真空ユニット(予備的膜板ポンプ、分子ターボポンプ)内で行った。物質の適量を受け器に満たし、装置を注意深く排気し、かつ温度を徐々に上げた。分別して昇華を実施した。
gab)トルエン中のIr錯体(7)の吸収スペクトル
トルエン中の試料1〜4の正規化吸収スペクトルを測定した。トルエン溶液中の粗Ir錯体(7)(試料1)と試料2の吸収スペクトルは区別できなかった。fac異性体(試料3)は、mer異性体(4)と比べて6nm浅色シフトしており、かつ335nmで明確なショルダーを示した。80/20の割合でのfacおよびmerスペクトルの数学的な重ね合わせは、実質的に出発試料(試料1)の吸収スペクトルと同じであった。このことは、出発混合物が2つの異性体を80/20の重量比Zfac/Zmerで有していることを証明している。
【0212】
正規化吸収スペクトルは、吸収最大での光学密度に相応して、測定した光学密度に相当する。これは濃度依存性であり、かつバンドの形だけで説明される。
【0213】
【化45】

【0214】
facとZmerの値は、光学密度により吸収最大で測定した割合を表し、かつ最大でのモル吸光係数εmaxからの生成物と濃度に依存する。これらはモル分率に等しくない。これらは、吸収最大での吸光係数εmax(facとmer)を用いて、ZfacとZmerから得ることができる。Zfac/Zmer比は、吸収最大の光学密度の比を表す。Nmerは、合計したスペクトルが1つに正規化されていることを保証する正規化因子である。
gac)トルエン中のIr錯体(7)の発光スペクトル
トルエン中の試料1〜4の正規化発光スペクトルを測定した。発光スペクトルでは、最大の形と位置に関してfac異性体とmer異性体は明らかに区別がついた。merスペクトルは、明らかに深色シフトした(発光最大395対461nm)。混合物中のmer異性体の関与は発光スペクトル中450nmでのショルダーにより示されている。fac異性体の発光バンドは著しく狭かった。ここでも、80/20の比での2つの異性体の正規化発光スペクトルの数学的な重ね合わせは、出発試料のスペクトルを示した。
【0215】
【化46】

【0216】
facとymerの値は励起波長に依存し、かつ発光強度(励起波長OD(λexc)での吸収と量子収率φから成るプロダクトに等しい)により測定した全体の発光に対する割合を示す。これらはモル分率に等しくない。これらは、吸収最大εmax(facとmer)での吸光係数と2つの異性体の量子収率により、yfacとymerから得ることができる。Nmerは、合計したスペクトルが1つに正規化されていることを保証する正規化因子を表す。
【0217】
トルエン中で測定した4つの試料のフォトルミネセンス量子収率は変化せず、空気飽和溶液中かつ窒素下である(表2)。
【0218】
【表2】

【0219】
固体マトリックス(例えば、PMMAまたはジフェニル−ジ−o−トリルシラン(UGH1))中の測定値と比べて、窒素飽和溶液中のエミッターは1オーダー小さな発光量子収率を示した。溶剤分子によるこのクエンチングの影響は、Ir錯体(7)の発光減衰時間にも反映する:トルエン中、窒素飽和では:26.5nsまたは25.8ns であるのに対して、UGH1中の10%錯体(7)では:234ns。酸素に対する低い感受性が目立った。このことは、トリプレットエミッターにとって短いトルエン中の発光減衰時間により説明できる。トルエン中の酸素の溶解性(1.97 10−3mol/l)と約26nsの減衰時間に相応して、酸素による二分子のクエンチングは有効ではない。しかし、230〜250nsの固体中の減衰時間は、トリプレットエミッターには極めて短く、かつ有効なスピン軌道カップリングを示唆する。
gad)PMMAフィルム中のIr錯体(7)の種々のfac/mer異性体比での吸収スペクトルと発光スペクトルの測定
Ir錯体(7)の試料1〜4を更に希釈固体中で特徴付けるために、相応のPMMA−フィルムを製造した。PMMAフィルムを製造するために、10%濃度(質量%)のPMMA溶液(CHCl中のPMMA)1ml当たりに、染料(Ir錯体(7), 例2cと2d)2mgを溶解させ、かつ60μmドクターブレードを用いてフィルムをスライドに塗布した。このフィルムをすぐに乾燥させた。トルエン中の測定(分光分析的グレード)を10mg/lの濃度で実施した。溶液中の酸素を除去するために、測定前に窒素(O含量<150ppm)を溶液中に5分間通し、かつ測定の間に窒素を液体表面上に通した。全ての測定は室温で行った。
吸収:
fac異性体(例2d)は、mer異性体(例2d)と比べて、著しい浅色シフトを吸収し、かつ330nmでショルダーを有した。fac/merスペクトルの80/20の重ね合わせは、出発試料の吸収スペクトルと同じであった。目立つ点は、試料2の280nmという増大した吸収である。ここで、吸収スペクトルがスペクトルの形だけを提供し、絶対的な吸収強さを提供しない正規化スペクトルであることを忘れてはならない。
発光:
試料3の発光スペクトルは、以前のようにトルエン中と粉末中で著しく狭く、かつ純粋な青である。試料4は、400〜410nmでショルダーを有する最大で460nmである。ここでも、数学的な重ね合わせは混合物(80/20)のスペクトルを提供する。
【0220】
PMMA中のスペクトルはトルエン中のスペクトルに十分に相応する。しかし、溶液スペクトルの場合には、リン光発光のクエンチングには1つの役割があり、このことは、発光スペクトルには影響しないが、しかしリン光量子収率を減らす。表3には、PMMAフィルム中の4個の試料の量子収率および色座標が示されている。
【0221】
【表3】

【0222】
試料4の量子収率は、他の3つの試料よりも著しく低い。フィルムおよびこれらの数値の場合には、量子収率の測定値の正確さは2%ポイントの範囲内である。すなわち、溶液中よりも際立って正確ではない。なぜなら、あまり均一ではないので溶液と比べてフィルムが詳しく定義されていないからである。
gae)錯体(7)の光学的特徴付けのまとめ
この研究は、Ir錯体(7)のfac異性体とmer異性体が分光分析特性に関して著しく異なることを示した。fac(7)は、固体中でmer(7)のほぼ2倍高い約20%のリン光量子収率を有する。fac(7)が純粋な青色領域で発光するのに対して、mer(7)の発光は、トルコ色の領域にまで及ぶ。発光バンドと吸収バンドの位置に基づき、fac異性体からmer異性体への発光しないエネルギー移動も可能であるべきである(実質的に全てが逆方向ではない)。従って、用途に関連するドーピングの程度または発光分子の間隔では、mer(7)によるどんな不純物も、各電荷のトラップとしてのmer異性体の作用とは独立にfac異性体の発光を部分的にクエンチングする。これから得られる付加的なmer発光は、より長い波長を有し、あまり有効ではない。この解釈は、PMMAフィルム中のIr錯体(7)の濃度に依存する測定値により支持される。よってIr錯体(7)の異性体的に純粋な化合物の使用は、装置の構築に有利である。
h)トルエンおよびPMMA中の錯体(8)の量子収率と発光特性の決定
PMMAフィルムのために、10%濃度(質量%)のPMMA溶液(CHCl中のPMMA)1ml当たりに染料(Ir錯体(8))2mgを溶解させ、かつ60μmドクターブレードを用いてスライドに塗布した。このフィルムをすぐに乾燥させた。トルエン中の測定(分光分析的グレード)を10mg/lの濃度で実施した。溶液中の酸素を除去するために、測定前に窒素(O含量<150ppm)を溶液中に5分間通し、かつ測定の間に窒素を液体表面上に通した。全ての測定は室温で行った。330nmの励起波長で、エミッターはPMMA中では10%の量子収率を生じ、トルエン中では3.6%の量子収率を生じた。トルエンとPMMA中の発光最大は、512nmである。PMMA中のCIE座標は、XRGB=0.302、YRGB=0.591である。
3.装置の構成
錯体(7)(例2c, 2d参照)と錯体(8)(例2e参照)のELは、次の層構造を有する装置中でそれぞれ試験した:
3a)錯体(7)を発光物質として含有する装置の構成
アノードとして使用されるITO基材を初めにイソプロパノールとアセトン中で沸騰させることによりきれいにした。その間に超音波で処理した。最後に、LCD製造用の市販のクレンザー(Deconex(R) 20NSおよび中和剤25ORGANACID(R))を用いて基材を食器洗い機で洗った。残りの有機残留物を除去するために、基材をオゾンの連続流に25時間さらした。この処理はITOの仕事関数が増大するのでホール注入も改善する。
【0223】
引き続き、水溶液からPEDT:PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホネート))(Baytron(R) P VPAL 4083)を試料上にスピンコーティングした。この場合に、46nmの厚さが得られた。この後に、クロロベンゼン中に溶かしたPMMA(ポリメタクリル酸メチルエステル)と発光物質(錯体(7)、例2c、例2d)から成る発光層が続いた。クロロベンゼン中のPMMAから成る2%濃度の溶液を使用した。これにドーパント(エミッター)を種々の濃度で加えた。
【0224】
スピンコーティングにより塗布した後に、28%濃度の溶液は約61nmの厚さを生じ、かつ40%濃度の溶液は77nmの厚さを生じた。この溶液に関しては、フェイシャル型異性体が主成分であるエミッターの異性体混合物(fac/mer)(例2c)を使用した。更に、異性体的に純粋なfac−エミッター(例2d)を使用して30%濃度の溶液を製造した。この溶液はスピンコーティングの後に27nmの厚さを生じた。
【0225】
電荷担体のバランスを改善するために、40nmのBCP(2,9―ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)を蒸着により塗布した。BCPは、その良好な電子の導電率ゆえに知られており、かつHOMOが低いので、ホールをブロックするが、このホールはPMMAを困難にしか放出できない。最後に、フッ化リチウム1nmとアルミニウム130nmをカソードとして析出させた。
【0226】
部材(OLED)を特徴付けるために、ELスペクトルを種々の電流もしくは電圧で記録した。更に、電流−電圧曲線を反射した発光力と組み合わせて測定した。次に、発光力を輝度計を用いてキャリブレーションにより光度パラメーターに変換できた。
【0227】
上記の部材(OLED)については、以下の電気光学データーが得られた:
【0228】
【表4】

【0229】
3b)錯体(8)を発光物質として含有する装置の構成
アノードとして使用されるITO基材を、まず10分間イソプロパノールで超音波浴中30℃できれいにし、次にクロロホルムで同様に超音波浴中30℃で10分間きれいにした。この後に、実質的に残りの有機残留物を除去するために、基材を酸素プラズマに20分間当てた。
【0230】
この後に、ホールコンダクターとしてNPDを2×10−5mbarで、かつ0.2Å/秒 の蒸着速度で基材上に析出させ、その結果40nmの層厚が得られた。引き続き、錯体(8)(例2e)を5%濃度のドーパントとしてマトリックス材料CBPと一緒に蒸着した。この層の厚さは同じく40nmであった。続いて、BCP−ホールブロック層(6nm)と20nmの厚さを有するAlqから成る電子伝導層が続いた。最後に、1nm厚のLiF−層を塗布し、引き続きAl−電極を蒸着した。
【0231】
上記の部材(OLED)に関しては、発光最大513nmの場合に6.4cd/Aの発光効率が得られた。最大の輝度は1487cd/mであった。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】図1は、有機発光ダイオードの構成を表す図である
【図2】図2は、Ir錯体(7)のfac異性体混合物の結晶構造を表す図である
【符号の説明】
【0233】
1 アノード、 2 ホール輸送層、 3 発光層、 4 電子輸送層、 5 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカルベンリガンドを含有している一般式I
【化1】

[式中、記号は次の意味を有する:
は、Co、Rh、Ir、Nb、Pd、Pt、Fe、Ru、Os、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Cu、AgおよびAuから成るグループから選択される金属原子であり、相応の金属原子はどの酸化状態であってもよい;
carbenは、中性またはモノアニオン性および単座、二座または三座であることができるカルベンリガンドであり、この場合にカルベンリガンドは、ビスカルベンリガンドまたはトリスカルベンリガンドであることができる;
Lは、単座または二座であることができるモノアニオン性またはジアニオン性リガンドであり;
Kは、ホスフィン、ホスホネートおよびそれらの誘導体、ヒ酸塩およびそれらの誘導体、ホスフィット、CO;ピリジン;ニトリルおよびMとπ錯体を形成する共役ジエンから成るグループから選択される中性の単座または二座リガンドであり;
nは、カルベンリガンドの数であり、その際、nは少なくとも1であり、かつ式Iの錯体中のカルベンリガンドは、n>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
mは、リガンドLの数であり、その際、mは0または≧1であることができ、かつリガンドLはm>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
oは、リガンドKの数であり、その際、oは、0または≧1であることができ、かつリガンドKはo>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
その際に、n+m+oの合計は、使用した金属原子の酸化状態と配位数およびリガンドであるカルベン、LおよびKの配座数ならびにリガンドであるカルベンおよびLの電荷に依存するが、但し、nは少なくとも1である]
の中性遷移金属錯体の有機発光ダイオードにおける使用。
【請求項2】
式Iの中性遷移金属錯体は発光分子として使用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
少なくとも1つのカルベンリガンドは二座である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
少なくとも1つのカルベンリガンドはモノアニオン性である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
少なくとも1つのカルベンリガンドは、次の式II
【化2】

[式中、記号は次の意味を有する:
Doは、C、P、N、OおよびS、有利にはP、N、O、Sから成るグループから選択されるドナー原子であり;
Doは、C、P、N、OおよびSから成るグループから選択されるドナー原子であり:
rは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
sは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
Xは、シリレン、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレンまたはアルケニレンから成るグループから選択されるスペーサーであり;
pは0または1であり;
qは0または1であり;
、Yは、それぞれ相互に独立に水素またはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびアルケニル基から成るグループから選択される炭素原子含有基であるか、または
とYは、一緒になってドナー原子Doと窒素原子Nの間に1つの架橋を形成し、前記架橋は少なくとも2つの原子を有し、そのうちの少なくとも1つは炭素原子であり;
は、水素基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、または
【化3】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、独立にDo、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を有する)であり;
、Rは、相互に独立に水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基であるか、または
とRは、一緒になって全部で3個〜5個の原子を有する1つの架橋を形成し、そのうち1個または2個の原子はヘテロ原子であることができ、かつ残りの原子は炭素原子であるので、基
【化4】

は、5〜7員環を形成し、これは場合により、既に存在する二重結合の他に1個の二重結合を有することができ、または6員環もしくは7員環の場合には、2個の更なる二重結合を有することができ、かつ場合によりアルキル基もしくはアリール基で置換することができ、かつ場合により少なくとも1つのヘテロ原子を有することができる;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基である]
を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】

【化5】

は、次のもの
【化6】

[式中、記号は次の意味を有する:
、R、R、R、R、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する置換基であり、
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルケニルであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって1個の縮合環を形成する、またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
vは、0〜4であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する;
は、水素基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基:または
【化7】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、独立にDo、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を有する)である]
から成るグループから選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】

【化8】

は、構造
【化9】

[式中、記号は次の意味を有する:
Zは、CHまたはNを表し、その際、Zはカルベンリガンドとの基の結合部位に対してo−、m−またはp−位に位置することができる;;
12は、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基であるかまたは、それぞれ2個の基R12が一緒になって場合により少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、またはR12はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
tは、0〜3であり、t>1である場合には、基R12は同じまたは異なっていることができる]
を表す、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1つのカルベンリガンドは、次のもの
【化10】

[式中、記号は次の意味を有する:
Z,Z’は、同じまたは異なり、CHまたはNであり;
12,R12’は、同じまたは異なり、それぞれアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基であるか、またはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’は、一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、または基R12もしくはR12’はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基を表し;
tとt’は、同じまたは異なり、0〜3であり、その際、tもしくはt’が1より大きい場合には、基R12もしくはR12’は、同じまたは異なっていることができる;
、R、R、R、R、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成し、またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
vは、0〜4であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する]
から成るグループから選択される、請求項5から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
一般式IC
【化11】

[式中、記号は次の意味を有する:
は、Ru、Rh、Ir、Ptであり、相応の金属原子はどの酸化状態であってもよい;
Lは、単座または二座であることができるモノアニオン性またはジアニオン性リガンドであり;
Kは、中性の単座または二座リガンドであり;
nはカルベンリガンドの数であり、その際、nは少なくとも2である場合に遷移金属錯体中のカルベンリガンドは同じまたは異なっていることができる;
mは、リガンドLの数であり、その際、mは0または≧1であることができ、かつリガンドLはm>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
oは、リガンドKの数であり、その際、oは0または≧1であることができ、かつリガンドKはo>1の場合に同じまたは異なっていることができる;
その際に、n+m+oの合計は、使用した金属原子の酸化状態と配位数およびリガンドの配座数ならびにリガンドの電荷に依存するが、但し、nは少なくとも2である;
Doは、C、N、P、OおよびSから成るグループから選択されるドナー原子であり;
sは、DoがCである場合には2であり、DoがNまたはPである場合には1であり、DoがOまたはSである場合には0であり;
Xは、シリレン、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレンまたはアルケニレンから成るグループから選択されるスペーサーであり;
pは0または1であり;
qは0または1であり;
は、水素基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基、または
【化12】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’、p’は、Do、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を独立に有する)である;
、Rは、相互に独立に水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基であるか、または
とRは、一緒になって全部で3個〜5個の原子を有する1つの架橋を形成し、そのうち1個または2個の原子はヘテロ原子であることができ、かつ残りの原子は炭素原子であるので、基
【化13】

は、5〜7員環を形成し、これは場合により、既に存在する二重結合の他に1個の二重結合を有することができる、または6員環もしくは7員環の場合には、2個の更なる二重結合を有することができ、かつ場合によりアルキル基もしくはアリール基で置換することができ、かつ場合により少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができるか、またはこの環は場合により少なくとも1つのヘテロ原子を有することができる更なる環と縮合する;
は、水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基であり;
、Yは、一緒になって窒素原子Nの間に1つの架橋を形成し、前記架橋は少なくとも2つの原子を有し、そのうちの1つは炭素原子であり、その際、架橋は飽和または不飽和であることができ、かつ架橋の少なくとも2個の原子は置換もしくは非置換であることができ、ここで架橋が2個の炭素原子を有し、かつ飽和である場合には、2個の炭素原子のうち少なくとも1つは置換されている]
の中性遷移金属錯体。
【請求項10】

【化14】

は、次のもの
【化15】

[式中、記号は次の意味を有する:
、R、R、R、R、RおよびR11は、相互に独立に水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであり、その際、式a中の基R、R、RまたはRの少なくとも1つは、水素またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基ではなく;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
vは、0〜4であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する;
は、水素基またはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基またはアルケニル基であるか、または
【化16】

(式中、Do2’、q’、s’、R3’、R1’、R2’、X’およびp’は、Do、q、s、R、R、R、Xおよびpと同じ意味を独立に有する)である]
から成るグループから選択される、請求項9に記載の遷移金属錯体。
【請求項11】

【化17】

は、構造
【化18】

[式中、記号は次の意味を有する;
Zは、CHまたはNを表し、その際、Zはカルベンリガンドとの基の結合部位に対してo−、m−またはp−位に位置し;
12は、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基であるか、またはそれぞれ2個の基R12が一緒になって場合により少なくとも1つのヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、またはR12はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
tは、0〜3であり、t>1である場合には、基R12は同じまたは異なっていることができる]
を表す、請求項9または10に記載の遷移金属錯体。
【請求項12】
少なくとも2個のカルベンリガンドは、相互に独立に次のもの
【化19】

[式中、記号は次の意味を有する:
Z,Z’は、同じまたは異なり、CHまたはNであり;
12,R12’は、同じまたは異なり、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニル基であるか、またはそれぞれ2個の基R12もしくはR12’は、一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、または基R12もしくはR12’はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
tとt’は、同じまたは異なり、0〜3であり、その際、tもしくはt’が1より大きい場合には、基R12もしくはR12’は、同じまたは異なっていることができる;
、RおよびR11は、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
10は、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはアルケニルであるか、またはそれぞれ2個の基R10が一緒になって場合により少なくとも1個のヘテロ原子を含有することができる1個の縮合環を形成する、またはR10はドナー作用もしくはアクセプター作用を有する基である;
vは、0〜4であり、その際、vが0である場合には、場合によりR10で置換されている式c中のアリール基の4個の炭素原子は水素原子を有する]
から成るグループから選択される、請求項9から11までのいずれか1項に記載の遷移金属錯体。
【請求項13】
がIr(III)であり、nが3であり、oとmが0であり、その際、3つのカルベンリガンドが同じであるのが好ましい、請求項9から12までのいずれか1項に記載の遷移金属錯体。
【請求項14】
相応のカルベンリガンドに相応するリガンド前駆体を脱プロトン化し、かつ引き続き所望の金属を含有する適切な金属錯体と反応させることによる、請求項9から13までのいずれか1項に記載の遷移金属錯体の製法。
【請求項15】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の、または請求項9から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体を含有するOLED。
【請求項16】
請求項1から8までのいずれか1項で定義される、または請求項9から13までのいずれか1項に記載の少なくとも1つの遷移金属錯体を含有する発光層。
【請求項17】
請求項14に記載の発光層を含有するOLED。
【請求項18】
請求項15または17に記載のOLEDを含有している、コンピューター、テレビのディスプレー、プリンター、台所道具ならびに宣伝広告板、照明、案内標識板中のディスプレーのような静止ディスプレー、および携帯電話、ラップトップ、乗り物ならびにバスおよび鉄道の行き先表示板中のディスプレーのような可動ディスプレーから成るグループから選択される装置。
【請求項19】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の、または請求項9から13までのいずれか1項に記載の中性遷移金属錯体の、ポリマー材料を着色するための使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−533774(P2007−533774A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523602(P2006−523602)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009269
【国際公開番号】WO2005/019373
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】