説明

有機薄膜及びそれを用いた光記録媒体

【課題】ナノメータサイズの機能性材料分散構造がポリマー中に構築され固定化された新規な有機薄膜の提供、及び、この有機薄膜を光記録媒体の記録層に応用することにより、従来の光ディスクでは実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な光記録媒体の提供。
【解決手段】(1)互いに非相溶である2種類以上のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一つの分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、該空孔壁と2ヶ所以上で結合できる官能基を持つ色素が導入されている有機薄膜。
(2)前記有機薄膜を記録層として用いた光記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータサイズの機能性材料分散構造がポリマー中に構築され固定化された新規な有機薄膜、及び、該有機薄膜を記録層に用いた光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに非相溶なポリマー鎖を持つブロック共重合体のミクロ相分離構造を機能材料として利用することは公知である。また、ナノメータサイズの機能性材料を高分子内に導入して複合化することは、電子的性質、導電的性質、光学的性質、磁気的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料を得るのに重要な技術であり、従来、機能性材料として金属微粒子(金属ナノクラスター)を用いた金属−有機複合材料の研究開発が進められている。また、無限の材料自由度と機能性が期待できるナノメータサイズの色素材料と高分子との複合材料の研究開発も進められている(特許文献1〜3など)。しかしながら、高分子を用いた機能性複合材料では、ガラス転移点や軟化点が低く、作製されたナノメータサイズのパターンが崩れてしまうことがあることが分かった。
一方、光メモリ分野では、基板上に反射層を有する光記録媒体であって、CD規格、DVD規格に対応した記録可能なCD−R、DVD−R、DVD+Rが商品化されている。このような光記録媒体においては更なる記録容量の増大と記録ピットの小型化が望まれており、これを実現するための更なる記録密度の向上が求められている。
現行システムでの記録容量向上のための要素技術としては、記録ピットの微小化技術、MPEG2に代表される画像圧縮技術がある。記録ピットの微小化技術としては、記録再生光の短波長化や回折限界の向上を図るための光学系の開口数NAの増大が検討されているが、その回折限界を越える記録再生は不可能である。
そこで回折限界を越える記録再生が可能な超解像技術や近接場光を利用した光メモリシステムが、有力な手段として注目されているが、技術的なハードルの高さから未だ実用化には至っていない。
【0003】
【特許文献1】特開2003−89269号公報
【特許文献2】特開2003−94825号公報
【特許文献3】特開2004−347978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノメータサイズの機能性材料分散構造がポリマー中に構築され固定化された新規な有機薄膜を提供すること、及び、この有機薄膜を光記録媒体の記録層に応用することにより、従来の光ディスクでは実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は次の1)〜7)の発明によって解決される。
1) 互いに非相溶である2種類以上のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一つの分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、該空孔壁と2ヶ所以上で結合できる官能基を持つ色素が導入されていることを特徴とする有機薄膜。
2) 前記脱離可能な置換基が、酸触媒の作用により脱離する置換基であることを特徴とする1)に記載の有機薄膜。
3) 前記脱離可能な置換基を脱離させる際に必要な加熱温度が、前記ブロック共重合体のガラス転移点(Tg)以下であることを特徴とする1)又は2)に記載の有機薄膜。
4) 前記ミクロ相分離構造が球状、柱状、交互ラメラ状、又は該各形状に類似の構造であることを特徴とする1)〜3)の何れかに記載の有機薄膜。
5) 1)〜4)の何れかに記載の有機薄膜を記録層として用いたことを特徴とする光記録媒体。
6) 前記ミクロ相分離構造の球状、柱状、交互ラメラ状、又は該各形状に類似の構造の断面の径が、記録再生光のスポットより小さいことを特徴とする5)に記載の光記録媒体。
7) 溝を設けた基板を有し、該基板上に1)〜4)の何れかに記載の有機薄膜が記録層として形成されていることを特徴とする5)又は6)に記載の光記録媒体。
【0006】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明者は、種々検討した結果、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用し、一つの相に脱離可能な成分を含有させ、その成分が脱離した後の空孔に色素を導入することにより、目的とする有機薄膜を得た。また、該有機薄膜を光記録媒体の記録層に応用することにより、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度での記録再生を可能とした。
本発明の有機薄膜は、互いに非相溶の2種類以上のポリマー鎖が結合したブロック共重合体を主成分とし、該共重合体により形成されたミクロ相分離構造の一つの相に脱離可能な置換基を有し、該置換基が脱離した後の空孔内に、該空孔壁と2ヶ所以上で結合できる官能基を持つ色素(色素部位を持つ架橋剤)を導入して、色素部位とブロック共重合体を固定化することにより得られる。
この有機薄膜の特長は、ミクロ相分離構造によりナノメートルオーダーのパターンを構築し、そのパターンを利用して規則性の高い色素のナノ構造体を形成できることにある。また、その色素は、ブロック共重合体の一つの相と2ヶ所以上で結合することにより構造体中に固定されるので、構造体の安定性も増すことになる。
なお、本発明の有機薄膜では、製膜後に架橋反応を進行させるので、最初の製膜はブロック共重合体の溶液から行うことができる。そのため、スピンコート法、キャスト法、ブレード塗布法等の簡便な方法を用いて製膜することができ、色素の規則性の高いナノ構造体を形成する際に、エッチング等の煩雑でコストのかかる手法を用いなくても良いので好ましい。
【0007】
ミクロ相分離構造としては、図1に模式的に示すような、(a)球状構造、(b)柱状構造、(c)交互ラメラ状構造又はこれらの各形状に類似の構造が好ましい。脱離する置換基は、その球状部、柱状部、ラメラを形成する一方の層又はその類似構造部分に含まれていることが好ましい。
ブロック共重合体として2種類の成分からなるジブロック共重合体を用いた場合には、球状構造、柱状構造、交互ラメラ状構造の3種類のミクロ相分離構造を作るが、3種類以上の成分からなるブロック共重合体を用いた場合には、構造の種類は図1(d)のブロック共重合体を構成する3種のポリマー部分が規則的に配列されている構造、図1(e)の2種の球状部分を有する構造を始めとしてほぼ無限に広がる。
なお、これらの構造を制御するために、他のポリマー(ブロック共重合体等を含む)や低分子化合物を混合しても良い。
上記ミクロ相分離の一つの相において、脱離した置換基の後に色素が埋め込まれており、かつ、色素はブロック共重合体と結合・架橋した状態になっている。
【0008】
本発明の有機薄膜における、ミクロ相分離構造の一つの分離相を形成するポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基は、酸触媒等の作用により脱離し、その後、容易に取り除けるものであれば良い。またミクロ相分離構造を形成した後に脱離反応(例えば酸触媒反応)を進行させるため必要に応じて加熱するが、その際、ミクロ相分離構造を崩さないためにはブロック共重合体のTg以下で(短時間)加熱することが好ましい。その後、脱離可能な置換基が構造体から取り除かれることにより、ミクロ相分離したブロック共重合体中に空孔ができ、その空孔内に色素を効率よく導入することができる。
ここで、本発明におけるブロック共重合体は、互いに非相溶である2種以上のポリマーを組み合わせて合成することができる。
【0009】
本発明で用いるブロック共重合体は、例えば、スチレン、イソプレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、2−ビニルピリジン、アミノスチレン、4−ビニルピリジン、メタクリレート類、ε−カプロラクトン、ブタジエン、ビニルメチルエーテル、1,3−シクロヘキサンジエン、エチレンオキシド、酸触媒により脱離可能な置換基で保護されたビニルフェノール、アクリル酸、メタクリル酸等の各種モノマーを重合して得られるポリマーを用い、互いに非相溶のポリマー鎖の末端から重合するリビング重合法(アニオン重合、ラジカル重合)、鎖の中央から合成するリビング重合法(アニオン重合)、又は末端官能性ポリマーの末端を結合させる合成法(アニオン重合、リビングラジカル重合等)などの重合方法によって合成することができる。例えば、リビングラジカル重合法によって、酸触媒により脱離する置換基を有するポリスチレンと、ポリメチルメタクリレートとのブロック共重合体、又は、ポリスチレンと、酸触媒により脱離する置換基を有するポリメタクリル酸とのブロック共重合体が合成できる。
【0010】
本発明で用いることができる酸触媒としては、所望のポリマー鎖に結合した置換基を脱離させることができ、空孔形成を阻害せず、またミクロ相分離構造を壊さないものであれば特に制約はない。その例としては、酸化合物、あるいは光照射又は加熱により酸化合物を発生する化合物(光酸発生剤、熱酸発生剤)が挙げられる。
酸化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸等の公知の化合物を用いることができる。また、酸化合物を発生する化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウムトリフレート等のスルホニウム化合物、ジフェニルヨードニウムトリフレート等のヨードニウム化合物、ニトロベンジルエステル化合物等の公知の化合物を用いることができる。
上記酸触媒は、適用対象物や、それに応用する有機薄膜の製造工程などに応じて適宜選択される。
【0011】
前記脱離可能な置換基が脱離した後には、ヒドロキシル基(フェノール基)、カルボキシル基等が残存することになる。そして空孔に導入する色素は、該空孔壁と2ヶ所以上で結合できる官能基を持つものであれば良く、その官能基はヒドロキシル基やカルボキシル基と容易に結合を形成するものが好ましい。具体例としては、ヒドロキシル基に対して、イソシアナート基、トリクロロ、ジクロロ、モノクロロの各シラン基、トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシの各シラン基、カルボキシル基、スルホニルクロリド基等が挙げられ、また、カルボキシル基に対して、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアナート基、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキサゾリン基、シクロカーボネート基等が挙げられる。
また、色素としては、光に対して反応するものであれば良く、シアニン色素、アゾ色素、スチリル色素、スチルベン色素等の公知の色素を用いることができる。
【0012】
次に、上記有機薄膜を記録材料(記録層)として用いた光記録媒体について説明する。
従来の光記録媒体は、連続した記録材料から構成された記録層(記録材料が存在する層)を備えており、この記録層にレーザビームを照射し、レーザビームの形状に相応した何らかの変化(光学的な変化を伴う物理的、化学的変化等)を記録材料に起させて記録するものである。したがって、最小記録ピットのサイズは、光学系の発振波長とレンズのNAで決定されるレーザビーム径に依存するため、従来の記録再生システムでは、高密度化は基本的にレーザの発振波長やレンズのNAの実用化技術力に左右されてきた。
また、ビーム形状がガウス分布した形状であることと、記録材料として熱又は光に対し、明瞭なしきい値で変化する材料は殆ど存在しないことから、形成されるピットの最外周の大きさや変化量は均一にならず、その再生信号品質にもバラツク要因が必ず存在し、高品質の信号特性を得るにも限界があった。
【0013】
これに対し、本発明の光記録媒体は、従来の光記録媒体の課題を克服した新しい構造の光記録媒体である。即ち、本発明の有機薄膜を応用した光記録媒体は、連続した層中に、高度に秩序化されて存在する記録層ドットがマトリックスを介して非連続して存在する。かつその記録層ドットのサイズが均一なナノメータサイズ(10〜500nm)で形成されている。したがって、最小記録ピットのサイズは、レーザ発振波長やレンズのNAで決定されることなく、形成する記録層ドットのみで決定され、任意の記録密度の光記録媒体が設計可能となる。更にピットの最外周のエッジも、この有機薄膜の構造体で決定されているため、この記録層ドット全体を変化させるように記録することで、ピットのバラツキの無い高品質の信号特性を得る事が可能となる。この記録層ドットの径は、記録再生光のスポット径より小さい方が、より高密度な光記録媒体が得られるので好ましい。
【0014】
本発明の光記録媒体の構成及びその必要物性について説明する。
〈記録媒体構成〉
本発明の光記録媒体は、基板上に前記有機薄膜からなる記録層を有するが、必要により、その他の構成層として、下引き層、金属反射層、保護層、基板面ハードコート層などを設けることができ、目的や要求特性に応じて構成層の形態が選ばれる。
例えば、図2(a)〜(d)や図3(a)〜(e)の概略断面図に示すような構成例が挙げられる。図2(a)〜(d)は、基板上に金属反射層を設けずに構成した例であり、図3(a)〜(e)は、金属反射層を設けて構成した例である。図2、図3中、記録層部分が本発明の有機薄膜となっている。
本発明の光記録媒体の構成としては、通常の追記型光ディスクの構造(基板上に記録層を設けたものを2枚貼り合わせたいわゆるエアーサンドイッチ構造)としてもよく、CD−R構造(基板上に記録層、反射層、保護層を設けた構造)としてもよく、CD−R構造を貼り合わせたDVD構造でもよい。なお、上記構成は実施の形態を説明するための例であって他の構成でもよい。
【0015】
本発明の光記録媒体の各構成層について説明する。
〈基板〉
基板は、基板側から記録再生を行なう場合には使用レーザに対して透明でなければならないが、記録層側(基板と反対側)から記録再生を行なう場合には使用レーザに対して透明である必要はない。
基板材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などのプラスチック、ガラス、セラミック、金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や、案内ピット、更にアドレス信号などのプリフォーマットなどが形成されていてもよい。
トラッキング用の案内溝をミクロ相分離構造の配列用として用いることもでき、その場合の模式図は図4のようになる。案内溝の幅は、構造体が一列に並ぶように調整することも出来、複数列並ぶように調整することも出来る。
【0016】
〈記録層〉
記録層はレーザ光の照射により何らかの光学的変化を生じさせ、その変化により情報を記録し再生可能なものであって、前述のようにミクロ相分離構造を有し、一つの相を空孔にした後に色素を埋め込んだ有機薄膜からなる。
色素の光学特性としては、記録再生用レーザ波長に対し、その吸収特性変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御することが好ましく、記録再生用レーザ波長に対し、その屈折率変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御することが好ましい。その際、増感剤等を用いて波長制御しても良い。
【0017】
色素としては、例えばレーザの照射エネルギーによりヒートモード(熱分解等)でその光学定数を変化させるポリメチン系、スクアリリウム系、ピリリウム系、ポルフィリン系、ポルフィラジン系、アゾ系、アゾメチン系色素等、及びその金属錯体化合物や、レーザの照射エネルギーによりフォトンモードでその光学定数を変化させるフルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スチルベン類、ジヒドロピレン類、チオインジゴ類、ビピリジン類、アジリジン類、芳香族多環類、アリチリデンアニリン類、キサンテン類等のフォトクロミック材料が挙げられ、特に記録の書き換えが可能なフォトクロミック材料は好ましい。上記の色素は単独で用いてもよいし、2種以上の組合わせにしてもよい。更に、上記色素中に、特性改良の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、紫外線吸収剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などを添加してもよい。
空孔に埋め込まれた色素からなる記録層ドット径は5〜500nm、好ましくは10〜200nmが適当である。
【0018】
〈下引き層〉
下引き層は、(1)接着性の向上、(2)水又はガスなどのバリアー、(3)記録層の保存安定性の向上、(4)反射率の向上、(5)溶剤からの基板の保護、(6)案内溝、案内ピット、プレフォーマットの形成などを目的として使用される。
(1)の目的に対しては、高分子材料、例えば、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子化合物及び、シランカップリング剤などを用いることができる。(2)又は(3)の目的に対しては、上記高分子材料の他に、SiO、MgF、SiO、TiO、ZnO、TiN、SiNなどの無機化合物や、Zn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Alなどの金属又は半金属を用いることができる。(4)の目的に対しては、Al、Au、Agなどの金属、メチン染料、キサンテン系染料などの金属光沢を有する有機薄膜を用いることができる。(5)又は(6)の目的に対しては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
下引き層の膜厚は0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
【0019】
〈金属反射層〉
金属反射層は、要求される反射率に応じて必要な場合に用いられる。
反射層には、単体で高反射率が得られる腐食されにくい金属又は半金属等が用いられ、その例としては、Au、Ag、Cr、Ni、Al、Fe、Snなどが挙げられる。これらの中で、反射率、生産性の点からAu、Ag、Alが最も好ましい。これらの金属又は半金属は、単独で使用してもよく、2種の合金としてもよい。
反射層の膜形成法は、特に限定されないが、蒸着、スッパタリングなどが挙げられる。
反射層の膜厚は50〜5000Åが好ましく、更には100〜3000Åが好ましい。
【0020】
〈保護層、基板面ハードコート層〉
保護層及び基板面ハードコート層は、(1)記録層(反射吸収層)の傷、ホコリ、汚れ等からの保護、(2)記録層(反射吸収層)の保存安定性の向上、(3)反射率の向上等を目的として使用される。これらの目的に対しては、前記下引き層に示した材料を用いることができる。
また、無機材料として、SiO、SiOなども用いることができ、有機材料としてポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。
上記材料のうち最も好ましいのは、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。
保護層又は基板面ハードコート層の膜厚は、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
上記下引き層、保護層及び基板面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナノメータサイズの機能性材料分散構造がポリマー中に構築され固定化された新規な有機薄膜を提供できる。また、この有機薄膜を光記録媒体の記録層に応用することにより、従来の光ディスクでは実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な光記録媒体を提供できる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
実施例1
数平均分子量約50000のポリ(p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン)(PBOCST)とポリメチルメタクリレート(PMMA)とからなり、PBOCSTの体積分率が16体積%となるブロック共重合体(Tg105℃)をリビングラジカル重合法で合成し、この共重合体をシクロヘキサノンに溶解して、石英基板上にスピンキャスト膜を形成した。
次に、このスピンキャスト膜を140℃で8時間加熱処理したところ、その相分離構造は、小角X線散乱(SAXS)測定、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、数十nm以下の球状構造(海島構造)であることが確認された。
次に、上記スピンキャスト膜をp−トルエンスルホン酸の1重量%イソプロピルアルコール溶液に浸漬させたのち引き上げ、90℃で5分間加熱処理を行ない、原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、元PBOCSTの部分がポリp−ヒドロキシスチレン(PHS)に変化し、tert−ブトキシカルボニル基が脱離した後に空孔ができていることが確認された。
次に、そのスピンキャスト膜を、下記〔化1〕で示される色素の1.0重量%エタノール溶液の中に浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPHS部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をメタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【化1】

【0024】
実施例2
〔化1〕の色素の代りに、下記〔化2〕で示される色素の0.5重量%メタノール溶液を用いた点以外は、実施例1と同様にしてスピンキャスト膜を浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPHS部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をメタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、660nmの半導体レーザ光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【化2】

【0025】
実施例3
数平均分子量約70000のポリスチレン(PSt)とポリ−tert−ブチルメタクリレート(PtBMA)とからなり、PtBMAの体積分率が28体積%となるブロック共重合体(Tg105℃)をリビングラジカル重合法で合成し、この共重合体とトリフェニルスルホニウムトリフレートとを100:3となるようにシクロヘキサノンに溶解して、石英基板上にスピンキャスト膜を形成した。
次に、このスピンキャスト膜を140℃で10時間加熱処理したところ、その相分離構造は、SAXS測定、TEM観察により、数十nm以下の柱状構造であることが確認された。
次に、この有機薄膜に光照射した後、100℃で3分間加熱し、AFMで観察したところ、元PtBMA部分がポリメタクリル酸(PMAA)に変化し、tert−ブチル基が脱離した後に空孔ができていることが確認された。
次に、そのスピンキャスト膜に、下記〔化3〕で示される色素の1.0重量%エタノール溶液を滴下し乾燥したのち、TEM観察したところ、色素はPMAA部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をエタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【化3】

【0026】
実施例4
〔化3〕の色素の代りに、下記〔化4〕で示される色素の0.5重量%メタノール/ピリジン(20/1)混合溶液を用いた点以外は、実施例3と同様にしてスピンキャスト膜を浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPMAA部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をメタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【化4】

【0027】
実施例5
〔化3〕の色素の代りに、下記〔化5〕で示される色素の1.0重量%エタノール溶液を用いた点以外は、実施例3と同様にしてスピンキャスト膜を浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPMAA部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をエタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【化5】

【0028】
比較例1
〔化1〕の色素の代りに、下記〔化6〕で示される色素の1.0重量%エタノール溶液を用いた点以外は、実施例1と同様にしてスピンキャスト膜を浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPHS部分に偏析していることが確認された。しかし、こうして得られた有機薄膜をエタノール中でリンスしたところ、色素の大部分が洗い流されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したところ、加熱前後で構造が変化することが確認された。
【化6】

【0029】
実施例6
数平均分子量約80000のPSt、ポリ2−ビニルピリジン(P2VP)、PtBMAからなり、体積分率が、33:44:23(体積%)であるブロック共重合体(Tg=110℃)を用いた点以外は、実施例3と同様にしてスピンキャスト膜を浸漬させたのち、TEM観察したところ、色素はPMAA部分に偏析していることが確認された。また、こうして得られた有機薄膜をエタノール中でリンスしたところ、色素は溶出せず、構造は固定されていることが確認された。
次に、この色素が導入された有機薄膜を有する積層体(即ち光記録媒体)に、超高圧水銀灯の365nmの光を用いて記録を行った。結果を表1に示す。
更に、この積層体を100℃で2時間加熱処理したが構造の乱れは観察されなかった。
【0030】
【表1】

実施例1〜6の積層体は特定の波長の光を照射すると透過率、反射率が変化することが明らかになった。したがって、本発明の有機薄膜を基板上に設けた積層体は光記録媒体として利用可能である。また、フォトクロミック材料を用いれば、可逆記録媒体として用いることもできる。また、比較例1では色素成分が殆んど存在しなくなってしまったため、光照射しても透過率、屈折率を変化させることが出来なかった。
なお、本実験では、色素からなる記録層ドット径(数十nm)に比較して、何れも大きな面積の光源で記録したため、多数の記録層ドット及びドット間を一度に記録することになったが、該記録層ドット及びドット間と同程度のビーム径の光で記録すれば、各記録層ドット及びドット間を個別に記録することが可能である。
【0031】
実施例7
基板を、Siウェハ上に幅90nm、深さ30nmの溝を形成したものに変えた点以外は、実施例1と全く同様にして有機薄膜を基板上に設けた積層体を形成し、該有機薄膜の表面構造をAFMで観察したところ、溝中にミクロ相分離の島状構造がきれいに並んでいることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の有機薄膜の代表的なミクロ相分離構造を示す模式図。(a)球状構造、(b)柱状構造、(c)交互ラメラ状構造、(d)ブロック共重合体を構成する3種のポリマー部分が規則的に配列されている構造、(e)2種の球状部分を有する構造。
【図2】(a)〜(d)光記録媒体の層構成(金属反射層無し)を示す概略断面図。
【図3】(a)〜(e)光記録媒体の層構成(金属反射層有り)を示す概略断面図。
【図4】ミクロ相分離構造を溝中に配列させた光記録媒体の模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶である2種類以上のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一つの分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、該空孔壁と2ヶ所以上で結合できる官能基を持つ色素が導入されていることを特徴とする有機薄膜。
【請求項2】
前記脱離可能な置換基が、酸触媒の作用により脱離する置換基であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項3】
前記脱離可能な置換基を脱離させる際に必要な加熱温度が、前記ブロック共重合体のガラス転移点(Tg)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機薄膜。
【請求項4】
前記ミクロ相分離構造が球状、柱状、交互ラメラ状、又は該各形状に類似の構造であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有機薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の有機薄膜を記録層として用いたことを特徴とする光記録媒体。
【請求項6】
前記ミクロ相分離構造の球状、柱状、交互ラメラ状、又は該各形状に類似の構造の断面の径が、記録再生光のスポットより小さいことを特徴とする請求項5に記載の光記録媒体。
【請求項7】
溝を設けた基板を有し、該基板上に請求項1〜4の何れかに記載の有機薄膜が記録層として形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−64496(P2009−64496A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229892(P2007−229892)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】