説明

有機薄膜太陽電池およびその製造方法(2)

【課題】 有機薄膜太陽電池のドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みを厚くすることによって変換効率を向上させ、また、より多く光発生電荷を発生させる。
【解決手段】 有機薄膜太陽電池がドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の表面がナノスケールの幅の微細な溝に囲まれた多数の島状構造に形成され、該微細な溝に電極が形成された構造を有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、有機薄膜太陽電池の変換効率向上などに適用できる発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、有機薄膜太陽電池は、2次元的な平面の接合では接合面積が不足し、光電変換効率が低いことが知られている。そこで、有機薄膜太陽電池の変換効率を向上させる発明として、非特許文献1や非特許文献2のようにドナーとアクセプターの混合物の相分離によるバルクヘテロ接合が形成された層構造を形成し、ドナーとアクセプターの接合界面を増やす工夫により有機薄膜太陽電池の光発生電荷を増加させる試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】C.J.Brabecら、Advanced Functional Materials,第11巻、15頁
【非特許文献2】J.Xue,S.Uchida,B.P.Land,S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.,85, p.5757(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようにドナーとアクセプターの混合物の相分離によるバルクへテロ接合が形成された層構造を膜内に形成し多数の光発生電荷を生じさせたとしても、光発生電荷が消失せずに移動できる距離はせいぜい100nm程度までであるため、ドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みが100nmを超えると、電極まで達する前に光発生電荷が消失してしまう傾向にあった。したがって、厚みを100nm以上に厚くすると変換効率が低下し、ドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みを厚くすることによる変換効率の向上はできない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の表面がナノスケールの幅の微細な溝に囲まれた多数の島状構造に形成され、該微細な溝に電極が形成された構造を有することを特徴とする有機薄膜太陽電池である。また上記の発明において、前記微細な溝の幅が1〜500nmであり、該微細な溝に囲まれた多数の島状構造の一個あたりの平均面積が10〜10000nmであってもよい。
【0006】
また本発明は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成することにより前記有機薄膜太陽電池を形成することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法である。また上記の発明において、前記島状構造の金属膜がスズ、インジウム、ビスマス、鉛およびそれらの合金のいずれかからなるものであってもよい。
【0007】
また上記の発明において、離型性を有する基体シート上にドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層を形成し、該バルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の貫通する微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成した後、前記各層を基材に転写し離型性を有する基体シートを剥離し、転写後の最表面にドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層のいずれかを形成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機薄膜太陽電池は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の表面がナノスケールの幅の微細な溝に囲まれた多数の島状構造に形成され、該微細な溝に電極が形成された構造を有することを特徴とする。したがって、バルクへテロ接合が形成された層に電極がくいこむ構造になるため、ドナーとアクセプターの界面で発生した光発生電荷が容易に電極に到達できるため、ドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みを厚くすることによる変換効率の向上が図れる効果がある。また、溝に形成された電極自体が斜めから入射された太陽光を反射させ膜内に閉じ込める機能を果たすため、より多く光発生電荷を発生させることができる効果がある。
【0009】
また、本発明の有機薄膜太陽電池は、前記微細な溝の幅が1〜500nmであり、該微細な溝に囲まれた多数の島状構造の一個あたりの平均面積が10〜10000nmであることを特徴とする。したがって、ドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みが100nmを超えても、ドナーとアクセプターの接合界面から微細な溝に形成された電極までの距離はほとんど100nm未満になるため、電極まで達する前に光発生電荷が消失してしまうことはほとんどなくなる。したがって、厚みを100nm以上に厚くしても変換効率がほとんど低下しないため、ドナーとアクセプターの混合物の膜の厚みを厚くすることによって変換効率の向上を図ることができる効果がある。
【0010】
また、本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成することを特徴とする。したがって、島状構造の金属膜が生産性よく大面積で形成できるので、ナノスケール幅の微細な溝を生産性よく形成できる効果がある
【0011】
また、本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法は、離型性を有する基体シート上にドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層を形成し、該バルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の貫通する微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成した後、前記各層を基材に転写し離型性を有する基体シートを剥離し、転写後の最表面にドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層のいずれかを形成することを特徴とする。したがって、微細な溝のエッチングの精巧な制御がなくとも、電極間の距離を100nm以下でショートさせることなく形成できるので、変換効率の高い有機薄膜太陽電池を生産性よく製造できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の有機薄膜太陽電池の一実施例を示す模式断面図であり、(b)は、それに斜めから太陽光が入射され溝に形成された電極で反射して膜内に閉じ込められる様子を示す模式断面図であり、(c)は、太陽光によって発生した電荷が溝に形成された電極を通して移動する様子を示す模式断面図である。
【図2】本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法の一実施例を示す模式断面図であり、(a)は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜が形成された工程を示し、(b)は、該金属膜をマスクとしてドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層をエッチングしてナノスケール幅の微細な溝が形成された工程を示し、(c)は、該微細な溝に電極が形成された工程を示す。
【図3】本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法の一実施例を示す模式断面図であり、(a)は、離型性を有する基体シート上にドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層を形成する工程を示し、(b)は、該バルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成する工程を示し、(c)は、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の貫通する微細な溝を形成する工程を示し、(d)は、該微細な溝に電極を形成する工程を示し、(e)は、前記各層を基材に転写し離型性を有する基体シートを剥離する工程を示し、(f)は、転写後の最表面にドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層のいずれかを形成する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の有機薄膜太陽電池5は、ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層7の表面がナノスケールの幅の微細な溝1に囲まれた多数の島状構造9に形成され、該微細な溝1に光発生電荷2を効率的に採りだすための電極21が形成された構造を有することを特徴とする。そして、電極21と反対面には対極の電極20が形成されている(図1(a)参照)。そして、電極20を透明電極とし、電極21を光を反射する金属などの電極とした場合、この有機薄膜太陽電池5に斜めから太陽光などの光51が入射されると、光51が溝に形成された電極21で反射し、膜内に閉じ込められる(図1(b)参照)。これにより、電極21付近でより多くの光発生電荷2を発生させることができるため、多くの光発生電荷2を消失させずに電極21を通して移動させることができ、高い起電力を得ることができる効果もある(図1(c)参照)。
【0014】
ドナーの材質としては、架橋型ポリチオフェン、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)やフタロシアニン誘導体などが挙げられ、アクセプターの材質としては、PCBMやPCPDTBTなどのフラーレン誘導体や酸化亜鉛などが挙げられるが、これらに限定されない。ただし、ドナーとアクセプターが相分離をし、バルクへテロ接合構造を形成し得る材料である必要がある。
【0015】
バルクへテロ接合が形成された層7の形成方法は、スピンコートなどの各種コート法、グラビア印刷などの各種印刷法などが挙げられ、電極20が形成された基材14の上に形成される。厚みは100〜700nm程度の範囲で可能で、とくに300〜500nm程度が好ましい。従来の電極がフラットな有機薄膜太陽電池では、厚みが100nm以上になると光発生電荷2が電極21に到達する前に消失してしまって変換効率が大きく低下させていたが、本発明の構造では、厚みが多少厚くなっても光発生電荷2が電極21に容易に到達することができる。したがって、厚みが厚いほど光発生電荷2が生じる界面を大きくでき変換効率が向上する。ただし、厚みが500nmを超えると電極20の側に移動する光発生電荷2の消失が多くなってくる。
【0016】
微細な溝1はその幅が1〜500nm程度にし、該微細な溝1に囲まれた多数の島状構造9のバルクへテロ接合が形成された層7の一個あたりの平均面積はであり、該微細な溝に囲まれた多数の島状構造の一個あたりの平均面積は10〜10000nm程度になるのが好ましく、その中でも島状構造9の総面積と微細な溝1の総断面積とが同程度、すなわち微細な溝1の幅が100〜300nm、島状構造9の平均面積が100〜6500nmになるようにするのが最も好ましい。
【0017】
微細な溝1の幅を1nm未満や500nmよりも大きい島状構造9は形成が困難であり、かつ1nm未満では電極21の電気抵抗が高くなり、500nmよりも大きいとバルクへテロ接合が形成された層7の割合が減り、光発生電荷2が生じる界面が少なくなって変換効率が低下する。また、島状構造9の一個あたりの平均面積を10nm未満にすることは技術的に困難であり、10000nmを超えると電極21に到達する前に光発生電荷2が消失してしまう割合が高くなる。
【0018】
このようなナノスケールの幅の微細な溝1および該微細な溝1に囲まれた多数の島状構造9を形成する方法としては、まずバルクへテロ接合が形成された層7の表面に、島状構造の金属膜3を形成した後(図2(a)参照)、該島状構造の金属膜3をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層7をエッチングしてナノスケール幅の微細な溝を形成する方法が挙げられる(図2(b)参照)。
【0019】
島状構造の金属膜3は、スズ、インジウム、ビスマス、鉛およびそれらの合金などからなる層が挙げられ、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などで形成するとよい。厚みは10〜80nm程度で形成し、光線透過率を測定すれば4%〜15%程度の値を示す厚みにすることが好ましい。上記の金属材料および適切な形成手段で、上記の光線透過率を示す値で島状構造の金属膜3を形成し、該島状構造の金属膜3をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層7をエッチングすれば、前述のナノスケールの幅の微細な溝1および該微細な溝1に囲まれた多数の島状構造9が形成される。
【0020】
エッチングは、島状構造の金属膜3よりもバルクへテロ接合が形成された層7の方がエッチングされやすい方式であればよく、とくに異方性エッチング方式が好ましい。異方性エッチングとは、膜面方向の方位に対してはエッチングが抑制される性質のエッチングのことであり、これにより細く深い(高アスペクト比の)微細な溝1を掘ることができるからである。具体的には、酸素、アルゴン、フッ素系ガスなどのプラズマを用いたドライエッチング方式などが挙げられる。
【0021】
なお、マスクの機能を果たした島状構造の金属膜3はそのまま残存させてもよいし、エッチングで若干エッチングされ得る材料の選択や厚みを薄く設定することなどで、島状構造の金属膜3も少しずつエッチングされるようにし、微細な溝1が形成されると同時に島状構造の金属膜3も消失させるよう設定してもよい。
【0022】
次いで、上記形成された微細な溝1に対して、電極21を形成する(図2(c)参照)。電極20および電極21の材質は、太陽光が入射してくる側の電極はインジウムスズ酸化物、酸化亜鉛、あるいは銀ナノワイヤやカーボンナノチュ―ブを含ませた透明導電膜で形成し、その対極の電極はアルミニウム、金、銀、銅などの金属材料やその金属材料を含むインキ等で形成するとよい。
【0023】
微細な溝1に電極21を形成する方式および電極20を形成する方式としては、前記金属材料を蒸着・スパッタリング・メッキなどの方法により形成するだけでなく、前記金属材料やそれらのナノワイヤを含むインキ等をスピンコートなどの各種コート法、グラビア印刷などの各種印刷法で充填する方式が挙げられる。電極21の形成は微細な溝1を丁度埋め尽くす程度にするのが最もよく、一部は多数の島状構造9の部分まで被覆してしまっても良い。
【0024】
また、電極20とバルクへテロ接合が形成された層7との間にはポリスチレンスルホン酸をドーパントに用いたポリ3, 4―エチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS)、や酸化チタンなどのバッファー層を設けてもよく、これらの層の追加により変換効率がさらに向上する。また、微細な溝1に電極21を形成する前に、微細な溝1にポリスチレンスルホン酸をドーパントに用いたポリ3, 4―エチレンジオキシチオフェン(PEDOT/PSS)、や酸化チタンなどのバッファー層をごく薄く形成してもよい。
【0025】
なお、前記微細な溝1はバルクへテロ接合が形成された層7を完全に貫通させる手前1〜100nmの範囲内まで形成するようにしなければならない。微細な溝1が完全に貫通すれば電極20と電極21とがショートしてしまい、また、貫通させる手前100nmまで達しなければ、電極21に到達する前に光発生電荷2が消失してしまう割合が高くなり、変換効率が低下する。
【0026】
このような微細な溝1のエッチングの制御が難しい場合には、離型性を有する基体シート12上にバルクへテロ接合が形成された層7を形成し(図3(a)参照)、該バルクへテロ接合が形成された層7の上に島状構造の金属膜3を形成し(図3(b)参照)、エッチングによりナノスケール幅の貫通する微細な溝1を形成し(図3(c)参照)、該微細な溝1に電極21を形成し(図3(d)参照)、前記各層を基材15に転写し離型性を有する基体シート12を剥離した後(図3(e)参照)、転写後の最表面にドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層(バルクへテロ接合が形成されていても、されていなくともよい)50を形成し、その上から電極20を形成する工程(図3(f)参照)により形成してもよい。
【実施例1】
【0027】
基材として厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その表面に透明電極としてインジウムスズ酸化物膜をスパッタリング法で200nmの厚みで形成し、その上にPEDOT/PSSの水分散液をコーターで形成し、乾燥後、その上にドナー層としてポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)、アクセプター層としてフラーレン60を含む混合物をコーターで200nmの厚みで形成した。形成した層はバルクへテロ構造になっていた。
【0028】
次いで真空蒸着法を用いてスズからなる厚み30nmの多数の島状の金属膜を形成した。島状の金属膜は光線透過率が10%で、各島の一個あたりの平均面積は1200nm程度で、島と島との間には10〜40nm程度の隙間が形成されていた。次いで、上記多数の島状の金属膜をマスクとして、四フッ化炭素ガスを用いたプラズマエッチングにより微細な溝を形成し、微細な溝がバルクへテロ接合が形成された層を完全に貫通させる手前50nmの範囲内までエッチングを行った。その結果、側壁の角度がほぼ垂直で細く深いアスペクト比10の程度の微細な溝をバルクへテロ接合が形成された層に多数形成することができた。
【0029】
次いで、この形成された多数の微細な溝に電極として金膜を真空蒸着法で形成し、有機薄膜太陽電池を得た。この有機薄膜太陽電池の断面は、従来のフラットな電極構造と異なり、金電極がバルクへテロ接合が形成された層の奥深くまでくいこむ構造になっており、変換効率も格段に向上していた。また、大面積にしてもこの構造はほぼ維持されていた。
【実施例2】
【0030】
基材として厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その表面に電極としてアルミニウム膜を真空蒸着法で800nmの厚みで形成し、次いでその上にバッファー層として酸化チタンからなる膜をスパッタリング法で500nmの厚みで形成し、その上にドナー層として亜鉛ドープフタロシアニン、アクセプター層としてC70フェニルブチル酸メチルエステル(PC70BM)を含む混合物の塗布膜をコーターで150nmの厚みで形成した。形成した層はバルクへテロ構造になっていた。
【0031】
次いで真空蒸着法を用いてインジウムからなる厚み20nmの多数の島状の金属膜を形成した。島状の金属膜は光線透過率が13%で、各島の一個あたりの平均面積は500nm程度で、島と島との間には5〜25nm程度の隙間が形成されていた。
【0032】
次いで、上記多数の島状の金属膜をマスクとして酸素ガスを用いたプラズマエッチングにより微細な溝を形成し、微細な溝がバルクへテロ接合が形成された層を完全に貫通させる手前30nmの範囲内までエッチングを行った。その結果、側壁の角度がほぼ垂直で細く深いアスペクト比8の程度の微細な溝をバルクへテロ接合が形成された層に多数形成することができた。
【0033】
次いで、この形成された多数の微細な溝に電極とし銀ナノワイヤを含む透明導電インキをグラビア印刷法で形成し、有機薄膜太陽電池を得た。この有機薄膜太陽電池の断面は、従来のフラットな電極構造と異なり、銀ナノワイヤを含む透明導電インキの電極がバルクへテロ接合が形成された層の奥深くまでくいこむ構造になっており、変換効率も格段に向上していた。また、大面積にしてもこの構造はほぼ維持されていた。
【実施例3】
【0034】
離型性を有する基体シートとして、メラミン樹脂をコートした厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、その表面にドナーとしてポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)、アクセプターとしてC60フェニルブチル酸メチルエステル(PC60BM)が1:1の重量比で含有された塗布液をコーターで500nmの厚みで形成した。形成した層はバルクへテロ構造になっていた。
【0035】
次いで真空蒸着法を用いてスズからなる厚み50nmの多数の島状の金属膜を形成した。島状の金属膜は光線透過率が6%で、各島の一個あたりの平均面積は8000nm程度で、島と島との間には15〜60nm程度の隙間が形成されていた。
【0036】
次いで、上記多数の島状の金属膜をマスクとしてアルゴンガスを用いてプラズマエッチングをし、微細な溝がドナー層を貫通しメラミン樹脂層に達するまで、この処理を行った。その結果、側壁の角度がほぼ垂直で細く深いアスペクト比10の程度の微細な溝をバルクへテロ接合が形成された層に多数形成することができた。
【0037】
次いで、このバルクへテロ接合層の微細な溝に透明電極としてインジウムスズ酸化物膜をスパッタリング法で200nmの厚みで形成し、その上に塩化ビニル系の接着層をグラビア印刷で全面に形成し、アクリル板に載置して熱と圧力を加えて前記各層をアクリル板状に転写させた。
【0038】
次いで、離型性を有する基体シートを剥離除去し、露出した最表面にポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)とC70フェニルブチル酸メチルエステル(PC70BM)とが1:1の重量比の混合物を30nmの厚みで真空蒸着法により形成し、その上にバッファー層として酸化チタンからなる膜をスパッタリング法で200nmの厚みで形成し、その上に電極としてアルミニウム膜を真空蒸着法で800nmの厚みで形成し有機薄膜太陽電池を得た。
【0039】
この有機薄膜太陽電池の断面は、従来の不均一なバルクへテロジャンクション接合構造と異なり、インジウムスズ酸化物膜の電極がバルクへテロ接合が形成された層の奥深くまでくいこむ構造になっており、変換効率も格段に向上していた。また、大面積にしてもこの構造はほぼ維持されていた。
【符号の説明】
【0040】
1 微細な溝
2 光発生電荷
3 金属膜
5 有機薄膜太陽電池
7 バルクへテロ接合が形成された層
9 多数の島状構造
12 離型性を有する基体シート
14,15 基材
20、21 電極
50 ドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層(バルクへテロ接合が形成されていても、されていなくともよい)
51 光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の表面がナノスケールの幅の微細な溝に囲まれた多数の島状構造に形成され、該微細な溝に電極が形成された構造を有することを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記微細な溝の幅が1〜500nmであり、該微細な溝に囲まれた多数の島状構造の一個あたりの平均面積が10〜10000nmである請求項1記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
ドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成することにより請求項1または請求項2に記載の有機薄膜太陽電池を形成することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記島状構造の金属膜がスズ、インジウム、ビスマス、鉛およびそれらの合金のいずれかからなるものである請求項3記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
離型性を有する基体シート上にドナーとアクセプターによるバルクへテロ接合が形成された層を形成し、該バルクへテロ接合が形成された層の上に島状構造の金属膜を形成し、該金属膜をマスクとしてバルクへテロ接合が形成された層をエッチングすることによりナノスケール幅の貫通する微細な溝を形成し、該微細な溝に電極を形成した後、前記各層を基材に転写し離型性を有する基体シートを剥離し、転写後の最表面にドナー層、アクセプター層またはドナーとアクセプターの混合物層のいずれかを形成する請求項3または請求項4記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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