説明

有機薄膜太陽電池

【課題】有機薄膜太陽電池の光電変換層で発生したキャリアがこの光電変換層内で再結合することを防止して光電変換効率を高め、しかも価格が高騰しているInを原料とする透明電極を不要にし、透明電極による入射光の減衰を防ぐようにする。
【解決手段】透明基板11上に、電子ドナー層12Aと電子アクセプター層12Bとが交互に積層してなる光電変換層12が直接設けられ、光が透明基板を透過して直接光電変換層に入射される。前記光電変換層内に第1貫通電極13・・と第2貫通電極14・・とをそれぞれ1以上埋設し、これら貫通電極が光電変換層を分断するように配する。電子ドナー層と電子アクセプター層との間のビルトインポテンシャルが小さい場合には、前記第1貫通電極をなす導電材料と第2貫通電極をなす導電材料とは、その仕事関数が異なるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機薄膜太陽電池に関し、光電変換効率を高め、かつ透明電極を不要としたものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の1種として有機薄膜太陽電池が知られている。
図3は、従来の有機薄膜太陽電池の典型的な例を示すものである。図中符号1は透明基板を示す。この透明基板1は、ガラス板などの透明材料からもので、その一方の表面にはITO(酸化インジウム・スズ)などからなる透明電極2が形成されている。
この透明電極2上には、光電変換層3が形成されている。この光電変換層3は、電子ドナー層31と電子アクセプター層32とが交互にそれぞれ複数層積層されたものである。
【0003】
前記電子ドナー層31は、例えばポリフィリン金属錯体からなる薄膜で構成され、電子アクセプター層32は、例えばフラーレンからなる薄膜で構成されたものである。
この光電変換層3上にはアルミニウムなどの導電材料からなる背面電極4が設けられている。
【0004】
このような構成の有機薄膜太陽電池にあっては、透明基板1および透明電極2を透過して光電変換層3に太陽光などの光を照射すると、電子ドナー層31で発生した励起子(電子と正孔との対)が電子ドナー層31と電子アクセプター層32の界面で電子と正孔とに分離した結果、電子ドナー層31では正孔(ホール、h)が生成し、電子アクセプター層32では電子(e)が生成し、正孔が透明電極2に、電子が背面電極4に移動することで光発電が行われるようになっている。
【0005】
しかしながら、このような構造の有機薄膜太陽電池では、電子ドナー層31で生成した正孔および電子アクセプター層32で生成した電子(以下、正孔または電子もしくは両者を併せてキャリアと言うことがある。)の電極2(4)への移動の際に、キャリアが電子ドナー層31と電子アクセプター層32を横断する状態となり、その界面を通過する際にキャリアの再結合が生じ、両電極2(4)に到達するキャリアの数が減少して、結果的に光電変換効率を高めることができない不具合があった。
【0006】
また、透明電極2を構成するITOは、レアメタルであるインジウムを主原料とするものであるが、近時インジウムの消費量が世界的に増加して、調達が困難になって、その価格が急騰しており、ITOの製造コストが高くなってきている。
さらに、入射光が透明電極2を透過して光電変換層3に入射されるので、透明電極2での光の減衰があり、これによっても光電変換効率が低下することにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−103939号公報
【特許文献2】特開2005−236278号公報
【特許文献3】特開2006−351721号公報
【特許文献4】特開2007−288161号公報
【特許文献5】特開2007− 59457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、この発明における課題は、有機薄膜太陽電池の光電変換層で発生したキャリアがこの光電変換層内で再結合して減少することを防止して光電変換効率を高めることができ、しかも価格が高騰しているインジウムを原料とする透明電極を不要にして製造コストを低減でき、透明電極による入射光の減衰を防ぐようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、透明基板上に、電子ドナー層と電子アクセプター層とが交互に積層されてなる光電変換層が直接設けられ、光が透明基板を透過して直接光電変換層に入射される有機薄膜太陽電池であって、
前記光電変換層内に第1貫通電極と第2貫通電極とをそれぞれ1以上埋設し、これら貫通電極が光電変換層を分断するように配されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、前記第1貫通電極をなす導電材料と第2貫通電極をなす導電材料とは、その仕事関数が異なるものであることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜太陽電池である。
【0011】
請求項3にかかる発明は、前記第1および第2貫通電極は、導電部と絶縁部とを交互に直列に連結したものであって、その導電部と絶縁部との界面が光電変換層の電子ドナー層と電子アクセプター層との界面に一致するように構成され、第1貫通電極の導電部と第2貫通電極の導電部とが同一材料から構成されていることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜太陽電池である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、光電変換層において発生したキャリアが電極に向けて移動する際に、キャリアが光電変換層を横断することがなくなる。このため、キャリアの光電変換層での再結合の頻度が大幅に減少し、電極に到達するキャリアが減少することがない。
また、透明電極が不要になるので、製造コストの高騰を抑えることができ、透明電極による入射光の減衰もなくなる。さらに、光電変換層内を移動するキャリアの移動距離が短縮され、これによってもキャリアの減少が抑えられる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、光電変換層で生じたキャリアの電極への駆動力が小さい場合でも、各貫通電極を構成する材料の仕事関数を違えることで、キャリアの各貫通電極への駆動力が向上する。
請求項3の発明によれば、光電変換層で生じたキャリアの電極への駆動力が大きい場合には、第1貫通電極の導電部と第2貫通電極の導電部とを同一材料で構成でき、構造が比較的複雑な各貫通電極の製造を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機薄膜太陽電池の第1の例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の有機薄膜太陽電池の第2の例を示す概略構成図である。
【図3】従来の有機薄膜太陽電池を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、この発明の有機薄膜太陽電池の第1の例を示すものである。図1中、符号11は、ガラス板、透明高分子フィルムなどの透明材料からなる透明基板を示す。
この透明基板11の一方の表面には、直接光電変換層12が設けられている。すなわち、透明基板11の表面に光電変換層12が直接、密着した状態で形成され、透明電極が存在しない。この光電変換層12は、電子ドナー層12Aと電子アクセプター層12Bとが交互にそれぞれ1〜10層程度積層されて構成されている。
この例では、透明基板11の表面に直接接している層は、電子ドナー層12Aであるが、電子アクセプター層12Bであってもよい。
【0016】
電子ドナー層12Aは、光の入射により正孔(h)を発生する層であって、例えばsyn型オクタエチルポルフィリン金属錯体などのポルフィリン金属錯体等からなる厚さ0.5〜100nmの薄膜である。
電子アクセプター層12Bは、光の入射により電子(e)を発生する層であって、例えばフラーレン重合体などのフラーレン誘導体等からなる厚さ1〜100nmの薄膜で構成されている。
【0017】
光電変換層12をなす電子ドナー層12Aおよび電子アクセプター層12Bの成膜方法は、これらの層12A、12Bを構成する材料に応じて適切な方法が用いられるが、例えば真空蒸着法、ラングミュア・ブロジェット法(LB法)、スピンコート法、インクジェット法、印刷法などが用いられ、純度の高い薄膜が得られる真空蒸着法が好ましい。
【0018】
また、電子アクセプター層12Bの形成方法としては、この電子アクセプター層12Bがフラーレン重合体からなるものでは、フラーレンからなる薄膜を形成したのち、光照射、電子線照射などを行ってフラーレンを重合して、フラーレン重合体とする方法が好ましい。
【0019】
この光電変換層12には、図示のように、複数の第1貫通電極13・・・と複数の第2貫通電極14・・・とが光電変換層12内に埋設された状態で設けられている。個々の第1および第2貫通電極13、14は、透明基板11上に直接基板11に対して垂直に立てられた状態となっており、個々の貫通電極13・・、14・・・によって、光電変換層12が分断された状態となっている。
【0020】
また、光電変換層12を上方から眺めたときに、第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・との平面的な配列は、両者が交互に並んだ縞模様状になっている。そして、隣り合う貫通電極13、14の間の間隔は 1〜4mm程度となっており、この間隔は狭いほど、キャリアの移動途中での再結合頻度が減少して好ましいが、製造が面倒となる。
第1および第2貫通電極13、14は、その幅(厚さ)が、10nm〜75μmとされた膜状のもので、その幅(厚さ)方向が光電変換層12の厚さ方向と直交するように、換言すれば透明基板11上に直接基板11に対して垂直に立てられた状態で設けられている。
【0021】
さらに、第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・の上方の端部は、光電変換層12から露出しており、この露出部分において、図示しない銅などの第1集電電極にすべての第1電極13・・・が接続され、図示しない銅などの第2集電電極にすべての第2電極14・・・が接続されている。
【0022】
さらに、光電変換層12および第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・の上には、図示しない保護層が設けられ、外気からこれら構成物を遮断するようになっている。
【0023】
この例において、光電変換層12のビルトインポテンシャルが小さい場合には、第1貫通電極13と第2貫通電極14とは互いに仕事関数が異なる材料で構成されている。
光電変換層12のビルトインポテンシャルとは、電子ドナー層31と電子アクセプター層32とをそれぞれ構成する材料の仕事関数の差に相当する電位差を言い、拡散電位とも呼ばれる。
【0024】
例えば、フラーレンC60の仕事関数は6.6eVであり、オクタエチルポリフィリン亜鉛錯体の仕事関数は5.03eVであるので、この組み合わせからなる光電変換層12のビルトインポテンシャルは1.57eV相当となる。
オクタエチルポリフィリン銅錯体の仕事関数は6.6eVであるので、これとフラーレンC60とを組み合わせた光電変換層12のビルトインポテンシャルは0eV相当となる。
【0025】
このビルトインポテンシャルが小さい場合には、発生したキャリアの貫通電極への移動のための駆動力が比較的低いことになり、第1貫通電極13と第2貫通電極14の材料として互いに仕事関数の異なる材料を用いることでキャリアの移動が高められる。
逆に、光電変換層12のビルトインポテンシャルが高い場合には、第1貫通電極13と第2貫通電極14とを同じ材料で構成しても、キャリアの移動が抑えられる程度は小さい。
【0026】
この例では、前記ビルトインポテンシャルが小さい場合には、第1貫通電極13・・・は、第2貫通電極14・・・よりも仕事関数が高い導電材料から構成されている。例えば、第1電極13には、金(仕事関数4.6eV)、白金(仕事関数5.3eV)などが、第2電極14には、アルミニウム(仕事関数3.5eV)、銅(仕事関数4.4eV)などが用いられる。
【0027】
このため、電子ドナー層12Aで発生した正孔は、仕事関数が低い導電材料から構成されている第2貫通電極14・・・に向けて移動し、電子アクセプター層12Bで発生した電子は、仕事関数が高い導電材料から構成されている第1貫通電極13・・・に向けて移動することになり、貫通電極に正孔と電子との選択性を持たせることができ、これによってもキャリアの再結合が抑えられるようになっている。
【0028】
次に、この例の有機薄膜太陽電池の製造方法の一例について説明する。
ここでは、電子ドナー層12Aがポルフィリン金属錯体からなり、電子アクセプター層12Bがフラーレン重合体からなるものについて説明する。
【0029】
まず、石英ガラス、硬質ガラスなどからなる厚さ2〜3mmの透明基板11を用意する。この透明基板11の表面を清浄化したのち、真空蒸着法などによりポルフィリン金属錯体を厚さ0.5〜100nmに成膜し、この上にフラーレン誘導体を真空蒸着法などにより1〜100nmの厚さに蒸着する。この蒸着を所要回数繰り返して、積層膜を作成し、光電変換層12とする。
【0030】
ついで、この積層膜に光あるいは電子線を照射して、フラーレン誘導体を重合して、フラーレン重合体に変化させる。光照射する場合、隣接する電子ドナー層12Aのポルフィリン金属錯体の光劣化を防止する必要があり、波長300〜400nmの紫外線を用いることが好ましい。フラーレン重合体からなる電子アクセプター層12Bでは、キャリアの移動速度がフラーレンからなるものに比較して速くなり好ましい。
初めから、電子アクセプター層12Bとして、フラーレン重合体を積層することも可能である。
【0031】
ついで、集束イオンビーム装置を用い、光電変換層12の第1貫通電極13・・・および第2貫通電極14・・・が設けられる部分にガリウムなどの金属イオンを照射し、光電変換層12をエッチング除去して幅10μm程度の溝(トレンチ)を複数個形成する。
【0032】
さらに、この複数の溝に集束イオンビーム装置を用いて、例えばアルミニウムと例えば金とを蒸着し溝に充填して、第1貫通電極13・・・、第2貫通電極14・・・を形成する。この時、1つおきの溝に同じの金属を充填することは言うまでもない。
つぎに、第1電極13・・・の端部に銅テープなどからなる第1集電電極を、第2電極14・・・の端部に銅テープなどからなる第2集電電極を貼り付ける。
【0033】
これ以外の製造方法として、透明基板11としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの高分子透明フィルムを用い、これに真空蒸着法などにより光電変換層12を成膜する。ついで、例えば外径20〜50μmの金や白金およびアルミニウムや銅からなる2種のボンディングワイヤを用意し、このボンディングワイヤを光電変換層12上に交互に平行に並べたのち、機械的にボンディングワイヤを光電変換層12に押し込み、ボンディングワイヤからなる第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・を形成する方法もある。この製造方法では、製造が簡単になり製造効率が高いものとなる。また、光電変換層12を印刷法により形成することも可能である。
【0034】
この例の有機薄膜太陽電池にあっては、第1電極13・・・および第2電極14・・・とキャリアの生成位置との距離が短くなって、キャリアの移動距離が短縮されて移動途中でのキャリアの再結合が抑えられる。また、生成した正孔はすべて仕事関数の小さい材料からなる第2貫通電極14・・・に移動し、生成した電子はすべて仕事関数が大きい第1貫通電極13・・・に移動するので、これによってもキャリアの再結合が抑えられる。
さらに、ITOからなる透明電極が不要であり、調達が困難なインジウムを使用する必要がなく、透明電極による入射光の減衰もない。
【0035】
図2は、この発明の有機薄膜太陽電池の第2の例を示すものである。
この例においても、第1の例と同様に、複数の第1貫通電極13・・・と複数の第2貫通電極14・・・とが光電変換層12内に交互に埋設された状態で設けられている。個々の第1および第2電極13、14は、第1の例と同様に、透明基板11上に直接基板11に対して垂直に立てられた状態となっており、個々の貫通電極13、14によって、光電変換層12が、分断された状態となっている。
【0036】
また、光電変換層12を上方から眺めたときに、第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・との平面的な配列は、両者が交互に並んだ縞模様状になっている。そして、隣り合う貫通電極13、14の間の間隔は1〜4mm程度となっている。
【0037】
さらに、この例では、第1貫通電極13・・・および第2貫通電極14・・・は、いずれも導電部A・・・と絶縁部B・・・とが交互に複数層密着して積層された形態となっている。この導電部Aと絶縁部Bとの各界面は、光電変換層12の電子ドナー層12Aと電子アクセプター層12Bとの界面とほぼ一致するように構成されている。
【0038】
また、隣り合う第1貫通電極13と第2貫通電極14において、導電部Aと絶縁部Bとの積層順位が異なっており、第1貫通電極13のある導電部Aには、両隣の第2貫通電極14の絶縁部B、Bが対峙するように配置されている。換言すると、図2に示したように、この太陽電池を側面から眺めた場合に、これら貫通電極13・・・、14・・・の導電部Aと絶縁部Bとが千鳥模様を呈するようになっている。
【0039】
さらに、1個の電極13(14)において、複数の導電部A・・が電気的に相互に接続され、同種の電極間でさらに相互に接続されて、図示しない集電電極に接続されている。
前記導電部Aには金、白金などの導電性材料が用いられ、絶縁部Bには酸化アルミニウム、酸化ニッケルなどの電気絶縁材料が用いられる。
【0040】
この例において、光電変換層12のビルトインポテンシャルが大きい場合には、第1貫通電極13と第2貫通電極14とは互いに仕事関数が同じ材料で構成されている。
このビルトインポテンシャルが大きい場合には、発生したキャリアの貫通電極への移動のための駆動力が比較的高いことになり、第1貫通電極13と第2貫通電極14の導電部Aをなす材料として互いに仕事関数の同じ材料を用いてもキャリアの移動が低くなることはない。
【0041】
この例の有機薄膜太陽電池の製造は、先の例と同様に集束イオンビーム装置を用いて光電変換層12に複数の溝を形成し、この溝にやはり集束イオンビーム装置を用いて導電部Aとなる金属と絶縁部Bとなる絶縁物とを交互にその厚さを制御して充填する方法により作成することが可能である。
【0042】
このような構成の有機薄膜太陽電池にあっては、例えば第1電極13・・・の導電部A・・・には、電子ドナー層12Aで生成した正孔のみが移動し、第2電極14・・・の導電部A・・・には、電子アクセプター層12Bで生成した電子のみが移動することになる。すなわち、正孔と電子は、選択的に異なる電極に移動することになり、移動途中でのキャリアの再結合が抑えられる。
【0043】
また、第1電極13・・・および第2電極14・・・とキャリアの生成位置との距離が短くなって、キャリアの移動距離が短縮されて移動途中でのキャリアの再結合が抑えられる。
また、第1貫通電極13の導電部Aと第2貫通電極14の導電部Aとを同一材料で構成でき、構造が比較的複雑な各貫通電極の製造を簡略化できる。
さらに、第1の例の有機薄膜太陽電池と同様に、ITOからなる透明電極が不要であり、調達が困難なインジウムを使用する必要がなく、透明電極による入射光の減衰もない。
【0044】
以下、具体例を示す。
(実施例1)
図1に示す本発明の構造のセルを作製した。
透明基板として、厚さ1.1mmの硼珪酸ガラス板を用い、その表面を洗浄した。このガラス板の中央部以外をマスクして光電変換層を成膜した。真空蒸着装置のチャンバー内にガラス板を置き、電子ドナー層となる蒸着源として2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23Hポルフィン亜鉛(II)(Zn(OEP))を、電子アクセプター層となる蒸着源としてフラーレンC60を用いて、真空蒸着を交互に行った。真空度は約5×10−3Pa、時間約1分、積層はZn(OEP)、フラーレンC60の順番で繰り返して光電変換層を形成した。
【0045】
Zn(OEP)層の厚さは約100nmであり、フラーレンC60層の厚さは約100nmであった。所定回数の蒸着を行った後、マスクを取り外した。
この後、集束イオンビーム装置(FEI Company製 Quanta 200 3D)を用い、光電変換層12の第1貫通電極13・・・および第2貫通電極14・・・が設けられる部分にガリウムなどの金属イオンをビーム径10μmにて照射し、光電変換層12をエッチング除去して幅10μm程度の溝(トレンチ)を複数個形成した。
【0046】
さらに、この複数の溝に同じ集束イオンビーム装置を用いて、アルミニウムと金とを交互に溝に蒸着し充填して、第1貫通電極13・・・、第2貫通電極14・・・を形成した。ビーム径10μm、成膜レートは約20nm/秒とした。
つぎに、第1電極13・・・の端部に銅テープなどからなる第1集電電極を、第2電極14・・・の端部に銅テープなどからなる第2集電電極を貼り付けた。
【0047】
得られたセルについて、Zn(OEP)層、フラーレンC60層の積層回数を変化させ、その時の短絡電流密度と開放電圧を測定し、その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(従来例)
図3に示す従来の構造のセルを作製した。
基板として、厚さ1.1mmのITO膜付きソーダガラスを用い、余分の範囲のITO膜を除去し、表面洗浄した。真空蒸着装置のチャンバー内にガラス板を置き、電子ドナー層となる蒸着源として2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23Hポルフィン亜鉛(II)(Zn(OEP))を、電子アクセプター層となる蒸着源としてフラーレンC60を用いて、真空蒸着を交互に行った。真空度は約5×10−3Pa、時間約1分、積層はITO膜の上に、Zn(OEP)、フラーレンC60の順番で繰り返して光電変換層を形成した。
【0050】
Zn(OEP)層の厚さは約100nmであり、フラーレンC60層の厚さは約100nmであった。
所定回数の蒸着を行った後、光電変換層の表面にアルミニウムを蒸着して電極を形成した。真空度は約5×10−3Pa、時間約1分とした。
【0051】
得られたセルについて、同様に、Zn(OEP)層、フラーレンC60層の積層回数を変化させ、その時の短絡電流密度と開放電圧を測定し、その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表1および表2の結果から、本発明の構造の有機薄膜太陽電池では、従来のものに比較して、短絡電流密度、開放電圧が優れた値を示しており、光電変換効率が高いものであることが明らかになった。
【0054】
(実施例2)
図1に示す構造の有機薄膜太陽電池を別の方法により製作した。透明基板として厚さ0.5mmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、この表面を有機溶剤にて清拭した。このフィルムの表面に実施例1と同様にして、Zn(OEP)、フラーレンC60の順番で5回づつ交互に真空蒸着して積層し、厚さ約1μmの光電変換層12を形成した。
ついで、外径50μmの金およびアルミニウムからなる2種のボンディングワイヤを用意し、このボンディングワイヤを光電変換層12上に交互に1mm間隔で平行に並べたのち、機械的にボンディングワイヤを光電変換層12に押し込み、ボンディングワイヤからなる第1貫通電極13・・・と第2貫通電極14・・・を形成した。
【0055】
第1貫通電極13となる複数の金のボンディングワイヤをまとめて銅テープに接続し、第2貫通電極14となる複数のアルミニウムのボンディングワイヤをまとめて銅テープに接続した。
このセルの特性を測定したところ、開放電圧0.35V、短絡電流密度7.2×10−4mA/cmであった。
【符号の説明】
【0056】
11・・・透明基板、12・・・光電変換層、12A・・・電子ドナー層、12B・・・電子アクセプター層、13・・・第1貫通電極、14・・・第2貫通電極、A・・・導電部、B・・・絶縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、電子ドナー層と電子アクセプター層とが交互に積層されてなる光電変換層が直接設けられ、光が透明基板を透過して直接光電変換層に入射される有機薄膜太陽電池であって、
前記光電変換層内に第1貫通電極と第2貫通電極とをそれぞれ1以上埋設し、これら貫通電極が光電変換層を分断するように配されていることを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記第1貫通電極をなす導電材料と第2貫通電極をなす導電材料とは、その仕事関数が異なるものであることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記第1および第2貫通電極は、導電部と絶縁部とを交互に直列に連結したものであって、その導電部と絶縁部との界面が光電変換層の電子ドナー層と電子アクセプター層との界面に一致するように構成され、第1貫通電極の導電部と第2貫通電極の導電部とが同一材料から構成されていることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate