有機酸の製造方法、有機酸、生分解性プラスチック、融雪剤、及び再利用システム
【課題】 松枯れ被害木からの有機酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 植物体のセルロースを希硫酸で熱水処理を行って糖化した加水分解物を、酸化カルシウムによってpH6.0〜7.0になるまで中和し、乳酸発酵細菌を25℃〜45℃・暗所で静置培養する。この酸化カルシウムは貝殻の炭酸カルシウムから製造され、植物体は松枯れ被害木又は草本系廃棄物である。この発酵方法により製造された有機酸から、生分解性プラスチック又は融雪剤を製造することが可能である。
【解決手段】 植物体のセルロースを希硫酸で熱水処理を行って糖化した加水分解物を、酸化カルシウムによってpH6.0〜7.0になるまで中和し、乳酸発酵細菌を25℃〜45℃・暗所で静置培養する。この酸化カルシウムは貝殻の炭酸カルシウムから製造され、植物体は松枯れ被害木又は草本系廃棄物である。この発酵方法により製造された有機酸から、生分解性プラスチック又は融雪剤を製造することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に有機酸の製造方法、有機酸、生分解性プラスチック、融雪剤、及び再利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Hubbertらのシミュレーションにより(例えば、http://www.hubbertpeak.com/hubbert/1956/1956.pdfを参照)2006年から世界の石油生産量が頭打ちとなり、以後石油生産量は減少し続けるという報告がなされている。従って、石油に依存してきた従来のエネルギーや資材の生産構造を見直さなければならない局面にある。この背景のもと、石油資源への依存度を低減できる新たな技術開発が求められている。
【0003】
石油は燃料としての用途と、高分子化合物であるプラスチックの原料として有用である。しかし、石油から作られる従来のプラスチックは、微生物によって分解されないため、環境中に半永久的に残存する。また、熱量が高いため、燃焼させると焼却炉内を傷めたり、有毒ガスを発生したりするため、焼却処分等も困難であり、埋め立て処分等を行っていた。
【0004】
そこで、この石油代替製品開発の一環として、生分解性プラスチックの市場規模が拡大している。
現在、一般的に使われつつある生分解性プラスチックの一種が、ポリ乳酸である。現在のポリ乳酸は、農産物中のデンプンをアミラーゼによってグルコースに分解するか、廃蜜などの糖分を還元してグルコースに分解し、これらのグルコースを栄養源に微生物による乳酸発酵を行い、その乳酸を各企業独自の技術によってポリ乳酸へと重合する製造方法により製造されている(例えば、http://www.mitsui-chem.co.jp/info/lacea/nature.htmlを参照)。
【0005】
ポリ乳酸は、重合度の改良などにより、従来のプラスチックであるポリエチレンなどと同等の強度を持つのに加えて、熱量が低く、自然環境で微生物により分解される。このため、石油資源の代替となるだけでなく、環境負荷が低いという特徴がある。
【0006】
このポリ乳酸の原料となる、乳酸発酵のためのデンプンとしては、トウモロコシの粉(スターチ)や、ジャガイモのデンプンが使われている。また、特許文献1を参照すると、近年、ココヤシのデンプンを使用するポリ乳酸発酵についての技術(以下、従来技術1とする。)も開発されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−85240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術1を始めとする従来のポリ乳酸製造方法では、本来は食料となる可食部であるデンプンやショ糖等を原料とするため、必ずしも望ましい農産物の利用方法ではなかった。
そこで、稲藁や松材線虫病(以下、略称の「松枯れ病」と呼ぶ。)で枯損した松のように、ヒトや家畜の食料としては利用できない産業廃棄物を、乳酸等の有機酸の発酵原料とする方法の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機酸の製造方法は、植物体を酸溶液と共に熱水処理して得た糖化液を中和処理し、前記中和処理した糖化液に乳酸発酵菌を添加し、所定の温度で所定の時間培養することを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記植物体は草本系又は木本系廃棄物であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記酸溶液有機酸の製造方法は、希硫酸を含む水溶液であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記糖化液を中和処理するための中和剤は、貝殻の炭酸カルシウムを含むことを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記草本系廃棄物は稲藁であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記木本系廃棄物は枯損した松であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記熱水処理は、前記稲藁10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸90質量%と混合し、オートクレーブにて120℃〜200℃で180分間、加圧・加熱することを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記熱水処理は、前記枯損した松10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸50%〜90質量%と混合し、400℃で複数回加熱することを特徴とする。
本発明の有機酸は、前記有機酸の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の生分解性プラスチックは、前記有機酸を含有することを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記有機酸を含むものから製造されることを特徴とする。
本発明の農林業廃棄物の再利用システムは、廃棄物である植物体を原料とした再利用システムであって、稲藁を希硫酸で熱水処理を行って糖化処理をする糖化処理手段と、糖化した加水分解物を酸化カルシウムによって中和する中和処理手段と、中和した溶液から硫酸カルシウムを汚水防止剤として抽出する濁水防止剤製造手段と、前記中和した溶液を含む培養液により、乳酸発酵細菌を暗所で静置培養する有機酸発酵手段と、糖化した際の残渣、又は前記残渣と枯損した松とを乾留して木ガスと木酢とを抽出する木酢・木ガス抽出手段と、前記抽出した木酢と木ガスとから融雪剤を製造する融雪剤製造手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、産業廃棄物である枯損した松の分解物を原料に用いることにより、低コストで有機酸発酵をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の培養期間中における培養液のpH変動を示すグラフである。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の構成成分を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1(マツ木質部)の糖化液(培養0日目)のクロマトグラムである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2(稲藁)の糖化液(培養0日目)のクロマトグラムである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1(マツ木質部)の培養液(培養15日目)のクロマトグラムである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2(稲藁)の培養液(培養15日目)のクロマトグラムである。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る標準液より各酸のピークを示すためのクロマトグラムである。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1の培養期間中における有機酸の変動を示すグラフである。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2の培養期間中における有機酸の変動を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る糖化液を中和した際の副産物である硫酸カルシウムによる水質浄化実験を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る松枯れ被害木から融雪剤と生分解製プラスチックを製造する工程に関する概念図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システム構成図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システムに関する反応の流れを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態で、部とは重量部を示し、%は重量%であることを示すが、各化合物の組成については、適宜本発明の趣旨を逸脱しない限り変更することができる。
【0014】
<第1の実施の形態>
近年、松材線虫病(以下で、略称の「松枯れ病」と示す。)の被害が、日本全国で広がっている。
松枯れ病では、薬剤散布を行って松枯れ病の防除を行うことができるが、マツ林周辺にある住宅地の存在と生態系への影響を考えると望ましい方法ではない。
このため、松枯れ病の防除方法として、枯損したマツの伐採・炭化処理が行われている。
しかし、枯損した松は、木材製品として利用できないため、産業廃棄物となってしまう。
秋田県等では枯損マツの伐採後、林内に積み、くん蒸処理し、シートを被せた状態で放置している。これにより、貴重な木質バイオマスの浪費となっていた。
【0015】
このため、本発明の発明者は、貴重な木質バイオマスを有効活用する方法を鋭意研究したところ、稲藁や産業的価値の低い松枯れ病の枯損木(以下、松枯れ被害木とする。)などの植物の骨格を形作るセルロースは、糖であるグルコースのポリマーという点においてデンプンと類似した高分子であることに着目した。
【0016】
以前から、硫酸を用いることで、セルロースの急速な糖化(グルコースポリマーをモノマーであるグルコースへ分解すること)が可能となることが報告されている。
しかし、木質を単純に硫酸で糖化して製造した糖化液は、有機酸発酵細菌の培養に用いるには不適であり、松枯れ被害木を生分解性プラスチックの原料又は融雪剤の原料とする方法は、知られていなかった。
【0017】
そこで、本発明の発明者は鋭意実験を行い、松枯れ被害木を使用して、硫酸により糖化する最適な方法を発明した。さらにこの糖化液を用い、有機酸を合成する細菌を培養することで、生分解生プラスチックの原料又は融雪剤の原料を製造する最適な方法を発明した。また、原料として稲藁を用いて同様に生分解生プラスチックの原料又は融雪剤の原料を製造する方法を発明した。
さらに、本発明の発明者は、原料である松枯れ被害木を、余すことなく工業的価値のある生産物の原料とする方法を確立した。
【0018】
まず、松枯れ被害木を用いた有機酸の発酵としては、まず、原料の松枯れ被害木を粉砕した後、1%v/vの希硫酸を用いて、12l℃、180分以上、オートクレーブ(高圧圧力釜)にて蒸気薫蒸を行う。これにより、5%程度のグルコースを含んだ溶液を得ることができ、これを有機酸発酵のために必要な糖化液とすることができる。さらに、オートクレーブ時の温度と圧力を高め、反応時間を増やす、具体的には蒸気薫蒸の処理温度を約400℃で行い、この操作を繰り返すことで、セルロースが可溶化し高効率の糖化が可能であり、多量のグルコースを含んだ溶液を得ることができる。しかし、松の樹脂由来の抗菌成分や不純物も増えるため、これを後処理の工程で除去する必要が生じる。さらに、稲藁を原料にすると同様の糖化方法において、15%以上のグルコースを含む糖化液を得られるため、これを適宜、加えることができる。
また、この工程でグルコースを取得した後の松枯れ被害木(糖化残渣)は燃料として最適な特性を持つため、乾燥後に使用することができる。
【0019】
希硫酸によって松枯れ被害木又は稲藁のセルロースを糖化した後、この希硫酸は直接回収するか、またはpH調整のために酸化カルシウムを用いて、硫酸カルシウムとして沈降させ回収することができる。ここで、pH調整の為に水酸化ナトリウムを用いると、塩濃度が高く、後の有機酸発酵過程に不適な糖化液となるため、酸化カルシウムを用いるのが好適であることを、本発明の発明者は見いだした。さらに、この硫酸カルシウムは、後述する第2の実施の形態に係る汚水を抑制する浄化装置に用いることができるという効果を生じる。
さらに、糖化液を煮詰める又はフィルターで濾過する等の方法により濃縮して、グルコース濃度を高めることにより、さらに有機酸発酵に適した糖化液とすることができる。
【0020】
上述の糖化液を、有機酸発酵細菌を用いて発酵させると、例えば、蟻酸、乳酸、酢酸を含む有機酸の溶液が得られる。
この溶液から、例えば乳酸を取得して、これを従来の方法により生分解性プラスチックの原料とすることができる。
また、これらの酸を直接用いるか、又はアルカリ性金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等が最適である)と反応させて用いることで、融雪剤を製造することができる。この融雪剤は、生分解性のため環境被害が少なく、金属腐食性が低く、さらに植物の肥料ともなり植生や水質に影響を与えない。
【0021】
以下の実施例において、具体的な有機酸発酵の方法と、更に有用性のある有機酸、特に生分解性プラスチック原料となる有機酸を模索した。
まず、松枯れ被害木に希硫酸、高温加圧処理を用いて難分解性のセルロースから有機酸発酵の栄養源となるグルコースを生成し、有機酸産生菌を培養した。
さらに、pH測定、HPLCの分析を経て、培養液から有機酸発酵の確認、有機酸生産変動を求め、更に有用性のある有機酸、特に生分解性プラスチック又は融雪剤の原料となる有機酸を模索した。
【実施例】
【0022】
<実施例1、2>
(試料)
秋田県立大学秋田キャンパス構内のマツ林で得られた松枯れ被害木の木質部(以下マツ木質部とする)をチェーンソーによって木屑にし、回収した。
樹皮や枝の混入した状態のまま試料にすると結果にばらつきが生じると想定されたため、木材の大部分占める木質部のみを用いた。
マツ木質部の木屑は、ドライオーブン(ISUZU社製、SNS−220S)により24時間40℃で風乾した後、ミキサー(三洋電機社製、SM−KM37(W))によって粉砕した。これにより、松枯れ被害木の水分含有量を気にせずに、一定の条件下で原料として用いることができる。このマツ木質部を以下の糖化・培養の試料として用いたものを、実施例1とする。
また、木本類との比較のために草本類である稲藁も同様にドライオーブンにより24時間、40℃で風乾した後、ミキサーによって粉砕した。以上のように処理したマツ木質部と稲藁を試料とした。この稲藁を、以下の糖化・培養の試料として用いたものを、実施例2とする。
【0023】
(希硫酸、熱水処理による糖化)
1%v/vの希硫酸100mLを作成し、試料10gと混合した。混合物を容量200mLの三角フラスコに加え、アルミニウム箔で蓋をした後、オートクレーブ(トミー工業社製、BS−305)で12l℃、180分間、熱水処理(恒温加圧処理)を行った。
【0024】
(酸化カルシウムによる糖化物のpH調整)
糖化時に著しく低下した糖化物のpHを中性付近まで上昇させることで、有機酸発酵に適した環境にするため、pH調整を行った。
上述の希硫酸、熱水処理による糖化処理を行った後の混合物である糖化物をビーカーに移し、マグネティック・スターラー(EYELARCH−3L)による撹絆とpHメーター(東亜電波工業 HM−7J/20J)による糖化物のpH測定を同時に行った。
以上の操作を継続しながら、糖化に用いた硫酸と同等のモル数の酸化カルシウムを加え、更に糖化物がpH6・0〜7・0になるまで酸化カルシウムを加え続けた。
【0025】
酸化カルシウムを使用した理由に関して、以下で説明する。
図示しない予備実験により、酸化カルシウムを加えることにより、以下の化学反応が起こり、
CaO+H2O −> Ca2+ + 2OH- + 2H+ + SO42- −>
CaSO4↓ + 2H2O
糖化物のpH調整以外に塩濃度を低下させることで、より有機酸発酵に適した環境を得ることができることを確認した。
また、水酸化ナトリウムでは急速な糖化物の中和が可能であったが、
2Na+ + 2OH- + 2H+ + SO42- −>
2Na+ + SO42- + 2H2O
水酸化ナトリウムを加えた分、塩濃度が増加するため、有機酸発酵に不適切な糖化物となった。
炭酸カルシウムでもpH調整は可能であったが、反応が遅く発泡が起こるため、作業効率が悪かった。
よって、本発明の第1の実施の形態においては、酸化カルシウムのみによるpH調整を行った。
【0026】
(有機酸産生菌培養)
pH調整後、一般的な濾紙(5C 70mm)を敷いたビフネルロートに糖化物を加え、吸引濾過により液体(糖化液)と固体(糖化残渣)に分離した。糖化液5m1を試験管に分注し、シリコン栓、アルミニウム箔の順に蓋をし、オートクレーブにより12l℃、15分間殺菌処理を行った。
殺菌処理後、乳酸産生菌であるKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23(秋田今野商店製、醸造酵母菌)を糖化液に接種し、シリコン栓で蓋をした。
計15本培養チューブを作成し、Kluyreromyces thermotolerans AOKA0357−23を接種した糖化液(培養液)を恒温機(ISUZU社製)により25℃、暗期で計15日間静置培養し、3日毎に3本ずつ培養を終了した。培養液を回収した直後にpH測定を行った。シリンジフィルター(ミリポア社製、MILLIPORE SLLH H25 NB)により残渣を除去した培養液をHPLCの分析試料とした。
【0027】
(有機酸生産変動の分析)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC、島津製作所製、LC−6A)により上述の精製した培養液から乳酸、蟻酸、酢酸の生産量(g/kg)を求め、培養期間中の有機酸生産変動を調べた。
HPLC分析は以下の条件で行った。
カラム: Mightysil RP−l8
GPAqua250−4.6,5μm (関東化学社製)
ガードカラム: Mightysi1、4・6/6mmカラム用 (関東化学社製)
溶離液: 20mmol/Lリン酸2水素アンモニウム水溶液
(pH2.48:pHはリン酸で調整)
流速: 1.0mL/m2n
検出: UV2l0nm
カラム温度: 25℃
注入量: 10μL
まず、蟻酸、乳酸、酢酸を混合した標準液、25ppm、50ppm、l00ppmを作成し、HPLCによる標準液のピーク高さを用いて、検量線(二次曲線)を作成した。
この検量線に、精製した培養液のHPLCの結果から各ピークの高さを代入して、培養液中の蟻酸、乳酸、酢酸の濃度をそれぞれ求めた。
【0028】
(pH変動による有機酸発酵の確認)
図1を参照して、培養期間中の培養液pH変動について説明する。
培養0日目の培養液は、Kluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23を接種する前の糖化液にあたる。
糖化液(培養0日目)のpHは、実施例1(マツ木質部)はpH6.39、実施例2(稲藁)はpH6.38となった。糖化に用いた硫酸と同モル数の酸化カルシウムを加えた時のpHは約4であったので、中和するためより多くのモル数の酸化カルシウムを加えたことになる。
実施例1(マツ木質部)の培養液は培養開始から3日目にpH5.31(±0.0208167)まで低下した後、ほぼ一定の値を示した。
実施例2(稲藁)の培養液は培養開始から6日目にpH4.68(±0.0208167)まで低下した後、緩やかに増加した。
両試料の培養液のpHは培養開始から低下じたことによって、松枯れ被害木と稲藁の糖化液を用いたKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23の有機酸発酵は可能であると確認された。
【0029】
ここで、実施例1のマツ木質部と実施例2の稲藁の培養液のpHに差が生じた要因としては、マツ木質部と稲藁の糖化液にKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23が利用可能な栄養源がどれ程含まれていたかによる。
すなわち、本発明の実施の形態に係る希硫酸、120℃、180分間の糖化処理では充分なセルロースの分解が行われていなかった可能性がある。
図2を参照して説明すると、仮に希硫酸を用いた高温加圧処理(120℃)によってセルロースの分解が不十分であるとすると、植物細胞壁の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの高分子のうち、マツ木質部の糖化液では、3つの高分子の中で分解されやすいマツのへミセルロースが栄養源になったと考えられる。この例では、マツ木質部の糖化液の栄養源としてはへミセルロース由来の5%程度の糖質が存在したと推測されるものの、稲藁糖化液の栄養源としては16.7%のグルコースが存在したことになり、この栄養源の差がpHの差に影響したと推測される。
よって、より高温・加圧条件下でセルロースの分解を行うことにより、さらに栄養源豊富な糖化液を製造することが可能になり、マツ木質部から培養液のpHを上げ、酸度を高めることが可能になる。
【0030】
(HPLCによる有機酸の確認)
次に発酵により製造された有機酸について、HPLCを使用して確認を行った。
このHPLCによって確認、分析した結果である図を参照して説明すると、図3は実施例1(マツ木質部)の糖化液(培養0日目)、図4は実施例2(稲藁)の糖化液(培養0日目)、図5は実施例1(マツ木質部)の培養液(培養15日目)、図6は実施例2(稲藁)の培養液(培養15日目)、さらに図7は上述の標準液より各酸のピークを示すためのクロマトグラムである。
これによると、実施例1、実施例2とも、両試料の糖化液(培養0日目)と培養液(培養15日目)から蟻酸のピークa、乳酸のピークb、酢酸のピークcが確認された。
培養0日目および培養15日目の培養液のクロマトグラムから、本発明の実施の形態に係る希硫酸、高温加圧処理によって糖以外にも副産物として少なくとも有機酸が生産されることが確認された。
バイオマスは多様な成分で構成されているため、糖に限定して生成することは困難であると推測される。しかし、これらの有機酸も乳酸産生菌の栄養源となるため、組成を調整することで、培養効率を高めることができる。
【0031】
(HPLCによる有機酸生産変動)
次に、図8と図9を参照して、有機酸生産量が培養期間中における有機酸生産量の変動について説明する。
実施例1(マツ木質部)の培養液に関しては、図8に示すように、乳酸、蟻酸は共に培養開始から終了までほとんど変動が見られず、酢酸は培養3日目まで増加した後、ほぼ一定の値を示した。マツ木質部の培養液での各有機酸最大生産量は乳酸が培養3日目に1.16g/kg(±0.476)、蟻酸が培養15日目に7.26g/kg(±0.199)、酢酸が培養3日目に20.67g/kg(±0.669)であった。
実施例2(稲藁)の培養液に関しては、図9に示すように、乳酸は培養3日目から6日目にかけて急激に増加し、その後は緩やかに増加する傾向が見られ、蟻酸、酢酸は培養開始から徐々に減少し続けた。最大値は乳酸が培養15日目の38.52g/kg(±9.12)、蟻酸が糖化液(培養0日目)の13.24g/kg、酢酸が糖化液(培養0日目)の24.03g/kgであった。
【0032】
実施例1のマツ木質部と実施例2の稲藁によって発酵の傾向が異なった要因として、マツ木質部と稲藁の構成成分が異なるために、希硫酸、高温加圧処理によって生成された糖化液の構成成分も異なったことでKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23の発酵に試料間で特有の影響を及ぼしたと推測できる。
実施例1のマツ木質部の糖化液では抗菌作用のある松脂の主成分ロジンが分解せずに残留し、Kluyreromyces thermotolerans AOKA0357−23にとって不安定な有機酸発酵が起こったと考えられる。このため、このロジン由来の成分を有機溶媒等により除くことで、さらに発酵効率を高めることができる。
また、図2を参照すると、実施例2の稲藁糖化液はマツ木質部に比べ、無機物(灰分)が豊富であるためにKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23にとって安定した発酵環境に至ったと推測できる。
よって、本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の溶液は、適宜混ぜ合わせて使用するのが好適である。この割合としては、マツ木質部の糖化液:稲藁の糖化液の比率が1:5程度で、稲藁の糖化液と同等な発酵をすることが可能である。
【0033】
以上の結果からマツ木質部では有機酸発酵が行われたが、乳酸の発酵が少なかったため、本発明の第1の実施の形態に係る実施例1の条件においてはマツ木質部の発酵による乳酸を少量取得した上で、残りの大量に精製される酢酸等を融雪剤の原料として使用するのが好適である。
また、実施例1の松枯れ被害木と実施例2の稲藁との比較から、生分解性プラスチック原料である乳酸を生産するには草本系バイオマスがより有用である。
しかし、乳酸生産を改善として恒温加圧処理の温度を約400℃で行い、この操作を繰り返すことで、セルロースが可溶化し高効率の糖化が可能である。
ここで、稲藁の糖化液の培養を行い、この培養液から乳酸を抽出し、この残渣から栄養塩を取り出してマツ木質部の糖化液に加えることで、マツ木質部の糖化液を使用した糖化液から乳酸の生産を大幅に増やすことが可能になる。
これにより、非常に安価な松枯れ被害木や稲藁を原料としたマツ木質部から、低コストでの生分解製プラスチック又は融雪剤の製造が可能になる。
【0034】
また、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸を用いた融雪剤としては、松枯れ被害木を用いて、糖化液から製造した有機酸を原料として用いると効果的な融雪剤を製造することができる。これは、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸は元々バイオマス資源を使用しているため、上述したように環境負荷が低いという特徴があるためである。また、不純物が多く含まれているため、通常の化学合成された融雪剤よりも、撒布面での持ちが良く、凝固点降下効果が高いためである。
さらに、融雪剤として、同様に松枯れ被害木から製造された木酢、松枯れ被害木の木ガス(不完全燃焼ガス)から製造された蟻酸カリウム等と、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸を用いた融雪剤とを、同時に用いるのが効果的である。
【0035】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態においては、上述の第1の実施の形態に係る生分解製プラスチック又は融雪剤の原料の他にも、副産物をすべて利用して環境負荷を極限まで減らし、松枯れ被害木を有用な原材料として活用するシステムについて説明する。
【0036】
(融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程において発生する副産物の用途)
本発明の第2の実施の形態においては、融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程において発生する副産物の用途について説明する。
まず、木本系廃棄物である松枯れ被害木を用いて乾留を行い、融雪剤の生産を行う工程では、木酢液、木タール、木灰、水素、メタン、炭酸水素ナトリウムが得られる。
粗木酢液は、乾留時、200℃程度までに発生する有機酸を含んだ水蒸気を液化して得られる無精製の木酢である。粗木酢液は農業、畜産に用途があり消臭剤、殺菌剤、堆肥促進剤などに使用可能である。
木タールは、工業的な用途があり、燃料、防腐剤、潤滑油などに用いることができる。
木灰も多様な用途があり、肥料、染色、アク抜きなどに用いることができる。これに加え、木灰は土壌から持ち出された多種多様な塩類を含んでいることから、有機酸培養工程に使用するか、場合によっては地力保持のために返還することが必要となる。
水素、メタンの高カロリーガスは、木ガスとして燃料用途に活用できる。
炭酸水素ナトリウムは、水分を蒸発させることで炭酸ナトリウムに生成され、ナトリウム化合物の材料として工業的に重要である。
【0037】
また、本発明の第1の実施の形態に係る生分解製プラスチック原料又は融雪剤の生産工程である、有機酸の発酵においては、糖化物をpH調整する際に酸化カルシウムではなく炭酸カルシウムが主成分である廃棄物の貝殻を用いる。
図10を参照すると、この貝殻の炭酸カルシウムにて糖化物を中和することで生成される硫酸カルシウム(石膏)混合物は、代掻き(しろかき)時の濁水防止としての利用が可能である。
代掻きは、水田に水を入れ、湛水状態のもとで土を砕き泥状にして、水田を水平近くにまで平らにする作業(この後に、苗代で育てた稲を植える)のことであり、この際に大量の濁水が発生する。
この濁水は、大量の有機物を含むため、流出により水田の地力を損なうことが問題となる。また、水路の富栄養化を引き起こし、終局的には海洋汚染の原因ともなる。
【0038】
これに対して、本発明の硫酸カルシウムにより、濁水中の有機成分が沈殿し、代掻きの際の水田からの濁水の発生を抑えることが可能になる。
また、水路の水質汚濁を抑えることも可能である。さらに、この硫酸カルシウムには、他にも多数の栄養塩が含まれているため、水田の環境を整え、農薬・肥料の撒布を抑えることができるという効果も有する。
さらに、元々自然の木材である松枯れ被害木に工業的に純粋な硫酸を加え、さらに自然の貝殻を加えるだけなので、環境汚染を引き起こさず、安全であるという効果を有する。
【0039】
(松枯れ被害木からの融雪剤生産過程)
松枯れ被害木は、融雪剤の原料として有用性があるため、松枯れ病防除を兼ねた融雪剤生産過程を構想した。以下、図11を参照して説明する。
流れとしては、松枯れ病防除(A)によって切り出された松枯れ被害木はガス化(B)、高温高圧処理(C)を経て融雪剤である蟻酸カリウム(D)へと合成される。
合成された融雪剤の蟻酸力リウムは金属への影響が少なく植生に低負荷であるため空港舗装面、公園などでの利用が適している。
松枯れ被害木から融雪剤を製造して発生した収益は、松枯れ病防除費や持続可能な保安林形成の経費緩和に回すことが可能である。
【0040】
以上のように本発明の第1又は第2の実施の形態に係る融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程から発生するほとんどの副産物は利用可能である。
すなわち、元々産業廃棄物である低コストな松枯れ被害木や稲藁を、資源として有用に活用でき、循環型社会の構築への一助となるという効果が得られる。また、バイオマス資源の有効活用につながるという効果が得られる。
【0041】
<第3の実施の形態>
(農林業廃棄物高効率利用システム)
本発明の第1又は第2の実施の形態では、融雪剤生産と有機酸生産を別々に述べてきたが、更に農林業廃棄物の利用効率向上を求めると、これら二つの生産技術を組み合わせた、農林業廃棄物高効率利用システムの構築が可能である。以下、図12を参照して説明する。
この農林業廃棄物高効率利用において重点とする箇所は、硫酸による糖化によって分解しきれなかった糖化残渣を利用することにある。
組み合わせた製造システムの製造工程の大きな流れとしては有機酸生産、融雪剤生産の順となる。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システムにおいては、以下の手順に従って、農林業廃棄物を使用して各種生産物の製造を行う。図12のシステム構成図と、図13の反応の流れの概念図とを参照して説明する。
まず、松枯れ被害木を始めとする木本系廃棄物は、稲藁を始めとする草本系廃棄物に比べ有機酸発酵および生分解性プラスチック原料の生産効率が劣るため、始めの有機酸生産では草本系廃棄物のみ使用する。この工程を行うために、糖化処理漕10を使用する。
糖化処理後の草本系糖化物はpH調整の前に固液分離させるで、融雪剤生産に用いる糖化残澄が得られる。糖化液は貝から製造した炭酸カルシウム(CaCo3)によるpH調整後、再度固液分離により濁水防止剤(硫酸カルシウム)と有機酸発酵用糖化液に分ける。この工程を行うために、濁水防止剤製造漕30を使用する。
さらに、得られた有機酸発酵用糖化液を用いて、有機酸の発酵を行い、これを生分解製プラスチックの原料又は融雪剤の原料とする。この工程を行うために、有機酸発酵漕40を使用する。この有機酸発酵漕40で発酵を終えた溶液は、有機酸精製漕50によって精製又は水分を除かれ、生分解性プラスチック原料や融雪剤の原料として回収される。
続いて、融雪剤生産に移りpH調整前に回収した草本系糖化残渣と木本系廃棄物を混合してガス化を行う。この工程を行うために、木ガスと木酢を抽出する木酢・木ガス抽出漕60を使用する。
これ以降の工程は、木ガスから蟻酸カリウムを製造する融雪剤生産のみの工程と変わらない。この工程を行うために、融雪剤製造装置70を使用する。
なお、これらのプラントは、制御装置100によって、各反応と生成物の移送がコントロールされ、効率的な製造が行えるようになっている。
この組み合わせた生産工程を用いることで製造プラントを単一化し高効率の農林業廃棄物利用が可能となるという効果が得られる。
【0043】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
10 … 糖化処理漕 (糖化処理手段)
20 … 中和処理漕 (中和処理手段)
30 … 濁水防止剤製造漕 (濁水防止剤製造手段)
40 … 有機酸発酵漕 (有機酸発酵手段)
50 … 有機酸精製漕
60 … 木酢・木ガス抽出漕 (木酢・木ガス抽出手段)
70 … 融雪剤製造装置 (融雪剤製造手段)
100 … 制御装置
a … 蟻酸のピーク
b … 乳酸のピーク
c … 酢酸のピーク
A … 松枯れ病防除
B … ガス化
C … 高温高圧処理
D … 融雪剤合成
X … 農林業廃棄物高効率利用製造システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に有機酸の製造方法、有機酸、生分解性プラスチック、融雪剤、及び再利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Hubbertらのシミュレーションにより(例えば、http://www.hubbertpeak.com/hubbert/1956/1956.pdfを参照)2006年から世界の石油生産量が頭打ちとなり、以後石油生産量は減少し続けるという報告がなされている。従って、石油に依存してきた従来のエネルギーや資材の生産構造を見直さなければならない局面にある。この背景のもと、石油資源への依存度を低減できる新たな技術開発が求められている。
【0003】
石油は燃料としての用途と、高分子化合物であるプラスチックの原料として有用である。しかし、石油から作られる従来のプラスチックは、微生物によって分解されないため、環境中に半永久的に残存する。また、熱量が高いため、燃焼させると焼却炉内を傷めたり、有毒ガスを発生したりするため、焼却処分等も困難であり、埋め立て処分等を行っていた。
【0004】
そこで、この石油代替製品開発の一環として、生分解性プラスチックの市場規模が拡大している。
現在、一般的に使われつつある生分解性プラスチックの一種が、ポリ乳酸である。現在のポリ乳酸は、農産物中のデンプンをアミラーゼによってグルコースに分解するか、廃蜜などの糖分を還元してグルコースに分解し、これらのグルコースを栄養源に微生物による乳酸発酵を行い、その乳酸を各企業独自の技術によってポリ乳酸へと重合する製造方法により製造されている(例えば、http://www.mitsui-chem.co.jp/info/lacea/nature.htmlを参照)。
【0005】
ポリ乳酸は、重合度の改良などにより、従来のプラスチックであるポリエチレンなどと同等の強度を持つのに加えて、熱量が低く、自然環境で微生物により分解される。このため、石油資源の代替となるだけでなく、環境負荷が低いという特徴がある。
【0006】
このポリ乳酸の原料となる、乳酸発酵のためのデンプンとしては、トウモロコシの粉(スターチ)や、ジャガイモのデンプンが使われている。また、特許文献1を参照すると、近年、ココヤシのデンプンを使用するポリ乳酸発酵についての技術(以下、従来技術1とする。)も開発されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−85240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術1を始めとする従来のポリ乳酸製造方法では、本来は食料となる可食部であるデンプンやショ糖等を原料とするため、必ずしも望ましい農産物の利用方法ではなかった。
そこで、稲藁や松材線虫病(以下、略称の「松枯れ病」と呼ぶ。)で枯損した松のように、ヒトや家畜の食料としては利用できない産業廃棄物を、乳酸等の有機酸の発酵原料とする方法の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機酸の製造方法は、植物体を酸溶液と共に熱水処理して得た糖化液を中和処理し、前記中和処理した糖化液に乳酸発酵菌を添加し、所定の温度で所定の時間培養することを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記植物体は草本系又は木本系廃棄物であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記酸溶液有機酸の製造方法は、希硫酸を含む水溶液であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記糖化液を中和処理するための中和剤は、貝殻の炭酸カルシウムを含むことを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記草本系廃棄物は稲藁であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記木本系廃棄物は枯損した松であることを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記熱水処理は、前記稲藁10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸90質量%と混合し、オートクレーブにて120℃〜200℃で180分間、加圧・加熱することを特徴とする。
本発明の有機酸の製造方法は、前記熱水処理は、前記枯損した松10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸50%〜90質量%と混合し、400℃で複数回加熱することを特徴とする。
本発明の有機酸は、前記有機酸の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の生分解性プラスチックは、前記有機酸を含有することを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記有機酸を含むものから製造されることを特徴とする。
本発明の農林業廃棄物の再利用システムは、廃棄物である植物体を原料とした再利用システムであって、稲藁を希硫酸で熱水処理を行って糖化処理をする糖化処理手段と、糖化した加水分解物を酸化カルシウムによって中和する中和処理手段と、中和した溶液から硫酸カルシウムを汚水防止剤として抽出する濁水防止剤製造手段と、前記中和した溶液を含む培養液により、乳酸発酵細菌を暗所で静置培養する有機酸発酵手段と、糖化した際の残渣、又は前記残渣と枯損した松とを乾留して木ガスと木酢とを抽出する木酢・木ガス抽出手段と、前記抽出した木酢と木ガスとから融雪剤を製造する融雪剤製造手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、産業廃棄物である枯損した松の分解物を原料に用いることにより、低コストで有機酸発酵をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の培養期間中における培養液のpH変動を示すグラフである。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の構成成分を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1(マツ木質部)の糖化液(培養0日目)のクロマトグラムである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2(稲藁)の糖化液(培養0日目)のクロマトグラムである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1(マツ木質部)の培養液(培養15日目)のクロマトグラムである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2(稲藁)の培養液(培養15日目)のクロマトグラムである。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る標準液より各酸のピークを示すためのクロマトグラムである。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る実施例1の培養期間中における有機酸の変動を示すグラフである。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る実施例2の培養期間中における有機酸の変動を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る糖化液を中和した際の副産物である硫酸カルシウムによる水質浄化実験を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る松枯れ被害木から融雪剤と生分解製プラスチックを製造する工程に関する概念図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システム構成図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システムに関する反応の流れを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態で、部とは重量部を示し、%は重量%であることを示すが、各化合物の組成については、適宜本発明の趣旨を逸脱しない限り変更することができる。
【0014】
<第1の実施の形態>
近年、松材線虫病(以下で、略称の「松枯れ病」と示す。)の被害が、日本全国で広がっている。
松枯れ病では、薬剤散布を行って松枯れ病の防除を行うことができるが、マツ林周辺にある住宅地の存在と生態系への影響を考えると望ましい方法ではない。
このため、松枯れ病の防除方法として、枯損したマツの伐採・炭化処理が行われている。
しかし、枯損した松は、木材製品として利用できないため、産業廃棄物となってしまう。
秋田県等では枯損マツの伐採後、林内に積み、くん蒸処理し、シートを被せた状態で放置している。これにより、貴重な木質バイオマスの浪費となっていた。
【0015】
このため、本発明の発明者は、貴重な木質バイオマスを有効活用する方法を鋭意研究したところ、稲藁や産業的価値の低い松枯れ病の枯損木(以下、松枯れ被害木とする。)などの植物の骨格を形作るセルロースは、糖であるグルコースのポリマーという点においてデンプンと類似した高分子であることに着目した。
【0016】
以前から、硫酸を用いることで、セルロースの急速な糖化(グルコースポリマーをモノマーであるグルコースへ分解すること)が可能となることが報告されている。
しかし、木質を単純に硫酸で糖化して製造した糖化液は、有機酸発酵細菌の培養に用いるには不適であり、松枯れ被害木を生分解性プラスチックの原料又は融雪剤の原料とする方法は、知られていなかった。
【0017】
そこで、本発明の発明者は鋭意実験を行い、松枯れ被害木を使用して、硫酸により糖化する最適な方法を発明した。さらにこの糖化液を用い、有機酸を合成する細菌を培養することで、生分解生プラスチックの原料又は融雪剤の原料を製造する最適な方法を発明した。また、原料として稲藁を用いて同様に生分解生プラスチックの原料又は融雪剤の原料を製造する方法を発明した。
さらに、本発明の発明者は、原料である松枯れ被害木を、余すことなく工業的価値のある生産物の原料とする方法を確立した。
【0018】
まず、松枯れ被害木を用いた有機酸の発酵としては、まず、原料の松枯れ被害木を粉砕した後、1%v/vの希硫酸を用いて、12l℃、180分以上、オートクレーブ(高圧圧力釜)にて蒸気薫蒸を行う。これにより、5%程度のグルコースを含んだ溶液を得ることができ、これを有機酸発酵のために必要な糖化液とすることができる。さらに、オートクレーブ時の温度と圧力を高め、反応時間を増やす、具体的には蒸気薫蒸の処理温度を約400℃で行い、この操作を繰り返すことで、セルロースが可溶化し高効率の糖化が可能であり、多量のグルコースを含んだ溶液を得ることができる。しかし、松の樹脂由来の抗菌成分や不純物も増えるため、これを後処理の工程で除去する必要が生じる。さらに、稲藁を原料にすると同様の糖化方法において、15%以上のグルコースを含む糖化液を得られるため、これを適宜、加えることができる。
また、この工程でグルコースを取得した後の松枯れ被害木(糖化残渣)は燃料として最適な特性を持つため、乾燥後に使用することができる。
【0019】
希硫酸によって松枯れ被害木又は稲藁のセルロースを糖化した後、この希硫酸は直接回収するか、またはpH調整のために酸化カルシウムを用いて、硫酸カルシウムとして沈降させ回収することができる。ここで、pH調整の為に水酸化ナトリウムを用いると、塩濃度が高く、後の有機酸発酵過程に不適な糖化液となるため、酸化カルシウムを用いるのが好適であることを、本発明の発明者は見いだした。さらに、この硫酸カルシウムは、後述する第2の実施の形態に係る汚水を抑制する浄化装置に用いることができるという効果を生じる。
さらに、糖化液を煮詰める又はフィルターで濾過する等の方法により濃縮して、グルコース濃度を高めることにより、さらに有機酸発酵に適した糖化液とすることができる。
【0020】
上述の糖化液を、有機酸発酵細菌を用いて発酵させると、例えば、蟻酸、乳酸、酢酸を含む有機酸の溶液が得られる。
この溶液から、例えば乳酸を取得して、これを従来の方法により生分解性プラスチックの原料とすることができる。
また、これらの酸を直接用いるか、又はアルカリ性金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等が最適である)と反応させて用いることで、融雪剤を製造することができる。この融雪剤は、生分解性のため環境被害が少なく、金属腐食性が低く、さらに植物の肥料ともなり植生や水質に影響を与えない。
【0021】
以下の実施例において、具体的な有機酸発酵の方法と、更に有用性のある有機酸、特に生分解性プラスチック原料となる有機酸を模索した。
まず、松枯れ被害木に希硫酸、高温加圧処理を用いて難分解性のセルロースから有機酸発酵の栄養源となるグルコースを生成し、有機酸産生菌を培養した。
さらに、pH測定、HPLCの分析を経て、培養液から有機酸発酵の確認、有機酸生産変動を求め、更に有用性のある有機酸、特に生分解性プラスチック又は融雪剤の原料となる有機酸を模索した。
【実施例】
【0022】
<実施例1、2>
(試料)
秋田県立大学秋田キャンパス構内のマツ林で得られた松枯れ被害木の木質部(以下マツ木質部とする)をチェーンソーによって木屑にし、回収した。
樹皮や枝の混入した状態のまま試料にすると結果にばらつきが生じると想定されたため、木材の大部分占める木質部のみを用いた。
マツ木質部の木屑は、ドライオーブン(ISUZU社製、SNS−220S)により24時間40℃で風乾した後、ミキサー(三洋電機社製、SM−KM37(W))によって粉砕した。これにより、松枯れ被害木の水分含有量を気にせずに、一定の条件下で原料として用いることができる。このマツ木質部を以下の糖化・培養の試料として用いたものを、実施例1とする。
また、木本類との比較のために草本類である稲藁も同様にドライオーブンにより24時間、40℃で風乾した後、ミキサーによって粉砕した。以上のように処理したマツ木質部と稲藁を試料とした。この稲藁を、以下の糖化・培養の試料として用いたものを、実施例2とする。
【0023】
(希硫酸、熱水処理による糖化)
1%v/vの希硫酸100mLを作成し、試料10gと混合した。混合物を容量200mLの三角フラスコに加え、アルミニウム箔で蓋をした後、オートクレーブ(トミー工業社製、BS−305)で12l℃、180分間、熱水処理(恒温加圧処理)を行った。
【0024】
(酸化カルシウムによる糖化物のpH調整)
糖化時に著しく低下した糖化物のpHを中性付近まで上昇させることで、有機酸発酵に適した環境にするため、pH調整を行った。
上述の希硫酸、熱水処理による糖化処理を行った後の混合物である糖化物をビーカーに移し、マグネティック・スターラー(EYELARCH−3L)による撹絆とpHメーター(東亜電波工業 HM−7J/20J)による糖化物のpH測定を同時に行った。
以上の操作を継続しながら、糖化に用いた硫酸と同等のモル数の酸化カルシウムを加え、更に糖化物がpH6・0〜7・0になるまで酸化カルシウムを加え続けた。
【0025】
酸化カルシウムを使用した理由に関して、以下で説明する。
図示しない予備実験により、酸化カルシウムを加えることにより、以下の化学反応が起こり、
CaO+H2O −> Ca2+ + 2OH- + 2H+ + SO42- −>
CaSO4↓ + 2H2O
糖化物のpH調整以外に塩濃度を低下させることで、より有機酸発酵に適した環境を得ることができることを確認した。
また、水酸化ナトリウムでは急速な糖化物の中和が可能であったが、
2Na+ + 2OH- + 2H+ + SO42- −>
2Na+ + SO42- + 2H2O
水酸化ナトリウムを加えた分、塩濃度が増加するため、有機酸発酵に不適切な糖化物となった。
炭酸カルシウムでもpH調整は可能であったが、反応が遅く発泡が起こるため、作業効率が悪かった。
よって、本発明の第1の実施の形態においては、酸化カルシウムのみによるpH調整を行った。
【0026】
(有機酸産生菌培養)
pH調整後、一般的な濾紙(5C 70mm)を敷いたビフネルロートに糖化物を加え、吸引濾過により液体(糖化液)と固体(糖化残渣)に分離した。糖化液5m1を試験管に分注し、シリコン栓、アルミニウム箔の順に蓋をし、オートクレーブにより12l℃、15分間殺菌処理を行った。
殺菌処理後、乳酸産生菌であるKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23(秋田今野商店製、醸造酵母菌)を糖化液に接種し、シリコン栓で蓋をした。
計15本培養チューブを作成し、Kluyreromyces thermotolerans AOKA0357−23を接種した糖化液(培養液)を恒温機(ISUZU社製)により25℃、暗期で計15日間静置培養し、3日毎に3本ずつ培養を終了した。培養液を回収した直後にpH測定を行った。シリンジフィルター(ミリポア社製、MILLIPORE SLLH H25 NB)により残渣を除去した培養液をHPLCの分析試料とした。
【0027】
(有機酸生産変動の分析)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC、島津製作所製、LC−6A)により上述の精製した培養液から乳酸、蟻酸、酢酸の生産量(g/kg)を求め、培養期間中の有機酸生産変動を調べた。
HPLC分析は以下の条件で行った。
カラム: Mightysil RP−l8
GPAqua250−4.6,5μm (関東化学社製)
ガードカラム: Mightysi1、4・6/6mmカラム用 (関東化学社製)
溶離液: 20mmol/Lリン酸2水素アンモニウム水溶液
(pH2.48:pHはリン酸で調整)
流速: 1.0mL/m2n
検出: UV2l0nm
カラム温度: 25℃
注入量: 10μL
まず、蟻酸、乳酸、酢酸を混合した標準液、25ppm、50ppm、l00ppmを作成し、HPLCによる標準液のピーク高さを用いて、検量線(二次曲線)を作成した。
この検量線に、精製した培養液のHPLCの結果から各ピークの高さを代入して、培養液中の蟻酸、乳酸、酢酸の濃度をそれぞれ求めた。
【0028】
(pH変動による有機酸発酵の確認)
図1を参照して、培養期間中の培養液pH変動について説明する。
培養0日目の培養液は、Kluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23を接種する前の糖化液にあたる。
糖化液(培養0日目)のpHは、実施例1(マツ木質部)はpH6.39、実施例2(稲藁)はpH6.38となった。糖化に用いた硫酸と同モル数の酸化カルシウムを加えた時のpHは約4であったので、中和するためより多くのモル数の酸化カルシウムを加えたことになる。
実施例1(マツ木質部)の培養液は培養開始から3日目にpH5.31(±0.0208167)まで低下した後、ほぼ一定の値を示した。
実施例2(稲藁)の培養液は培養開始から6日目にpH4.68(±0.0208167)まで低下した後、緩やかに増加した。
両試料の培養液のpHは培養開始から低下じたことによって、松枯れ被害木と稲藁の糖化液を用いたKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23の有機酸発酵は可能であると確認された。
【0029】
ここで、実施例1のマツ木質部と実施例2の稲藁の培養液のpHに差が生じた要因としては、マツ木質部と稲藁の糖化液にKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23が利用可能な栄養源がどれ程含まれていたかによる。
すなわち、本発明の実施の形態に係る希硫酸、120℃、180分間の糖化処理では充分なセルロースの分解が行われていなかった可能性がある。
図2を参照して説明すると、仮に希硫酸を用いた高温加圧処理(120℃)によってセルロースの分解が不十分であるとすると、植物細胞壁の構成成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの高分子のうち、マツ木質部の糖化液では、3つの高分子の中で分解されやすいマツのへミセルロースが栄養源になったと考えられる。この例では、マツ木質部の糖化液の栄養源としてはへミセルロース由来の5%程度の糖質が存在したと推測されるものの、稲藁糖化液の栄養源としては16.7%のグルコースが存在したことになり、この栄養源の差がpHの差に影響したと推測される。
よって、より高温・加圧条件下でセルロースの分解を行うことにより、さらに栄養源豊富な糖化液を製造することが可能になり、マツ木質部から培養液のpHを上げ、酸度を高めることが可能になる。
【0030】
(HPLCによる有機酸の確認)
次に発酵により製造された有機酸について、HPLCを使用して確認を行った。
このHPLCによって確認、分析した結果である図を参照して説明すると、図3は実施例1(マツ木質部)の糖化液(培養0日目)、図4は実施例2(稲藁)の糖化液(培養0日目)、図5は実施例1(マツ木質部)の培養液(培養15日目)、図6は実施例2(稲藁)の培養液(培養15日目)、さらに図7は上述の標準液より各酸のピークを示すためのクロマトグラムである。
これによると、実施例1、実施例2とも、両試料の糖化液(培養0日目)と培養液(培養15日目)から蟻酸のピークa、乳酸のピークb、酢酸のピークcが確認された。
培養0日目および培養15日目の培養液のクロマトグラムから、本発明の実施の形態に係る希硫酸、高温加圧処理によって糖以外にも副産物として少なくとも有機酸が生産されることが確認された。
バイオマスは多様な成分で構成されているため、糖に限定して生成することは困難であると推測される。しかし、これらの有機酸も乳酸産生菌の栄養源となるため、組成を調整することで、培養効率を高めることができる。
【0031】
(HPLCによる有機酸生産変動)
次に、図8と図9を参照して、有機酸生産量が培養期間中における有機酸生産量の変動について説明する。
実施例1(マツ木質部)の培養液に関しては、図8に示すように、乳酸、蟻酸は共に培養開始から終了までほとんど変動が見られず、酢酸は培養3日目まで増加した後、ほぼ一定の値を示した。マツ木質部の培養液での各有機酸最大生産量は乳酸が培養3日目に1.16g/kg(±0.476)、蟻酸が培養15日目に7.26g/kg(±0.199)、酢酸が培養3日目に20.67g/kg(±0.669)であった。
実施例2(稲藁)の培養液に関しては、図9に示すように、乳酸は培養3日目から6日目にかけて急激に増加し、その後は緩やかに増加する傾向が見られ、蟻酸、酢酸は培養開始から徐々に減少し続けた。最大値は乳酸が培養15日目の38.52g/kg(±9.12)、蟻酸が糖化液(培養0日目)の13.24g/kg、酢酸が糖化液(培養0日目)の24.03g/kgであった。
【0032】
実施例1のマツ木質部と実施例2の稲藁によって発酵の傾向が異なった要因として、マツ木質部と稲藁の構成成分が異なるために、希硫酸、高温加圧処理によって生成された糖化液の構成成分も異なったことでKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23の発酵に試料間で特有の影響を及ぼしたと推測できる。
実施例1のマツ木質部の糖化液では抗菌作用のある松脂の主成分ロジンが分解せずに残留し、Kluyreromyces thermotolerans AOKA0357−23にとって不安定な有機酸発酵が起こったと考えられる。このため、このロジン由来の成分を有機溶媒等により除くことで、さらに発酵効率を高めることができる。
また、図2を参照すると、実施例2の稲藁糖化液はマツ木質部に比べ、無機物(灰分)が豊富であるためにKluyreromyces thermotolerans AOK A0357−23にとって安定した発酵環境に至ったと推測できる。
よって、本発明の第1の実施の形態に係る実施例1と実施例2の溶液は、適宜混ぜ合わせて使用するのが好適である。この割合としては、マツ木質部の糖化液:稲藁の糖化液の比率が1:5程度で、稲藁の糖化液と同等な発酵をすることが可能である。
【0033】
以上の結果からマツ木質部では有機酸発酵が行われたが、乳酸の発酵が少なかったため、本発明の第1の実施の形態に係る実施例1の条件においてはマツ木質部の発酵による乳酸を少量取得した上で、残りの大量に精製される酢酸等を融雪剤の原料として使用するのが好適である。
また、実施例1の松枯れ被害木と実施例2の稲藁との比較から、生分解性プラスチック原料である乳酸を生産するには草本系バイオマスがより有用である。
しかし、乳酸生産を改善として恒温加圧処理の温度を約400℃で行い、この操作を繰り返すことで、セルロースが可溶化し高効率の糖化が可能である。
ここで、稲藁の糖化液の培養を行い、この培養液から乳酸を抽出し、この残渣から栄養塩を取り出してマツ木質部の糖化液に加えることで、マツ木質部の糖化液を使用した糖化液から乳酸の生産を大幅に増やすことが可能になる。
これにより、非常に安価な松枯れ被害木や稲藁を原料としたマツ木質部から、低コストでの生分解製プラスチック又は融雪剤の製造が可能になる。
【0034】
また、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸を用いた融雪剤としては、松枯れ被害木を用いて、糖化液から製造した有機酸を原料として用いると効果的な融雪剤を製造することができる。これは、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸は元々バイオマス資源を使用しているため、上述したように環境負荷が低いという特徴があるためである。また、不純物が多く含まれているため、通常の化学合成された融雪剤よりも、撒布面での持ちが良く、凝固点降下効果が高いためである。
さらに、融雪剤として、同様に松枯れ被害木から製造された木酢、松枯れ被害木の木ガス(不完全燃焼ガス)から製造された蟻酸カリウム等と、本発明の第1の実施の形態に係る有機酸を用いた融雪剤とを、同時に用いるのが効果的である。
【0035】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態においては、上述の第1の実施の形態に係る生分解製プラスチック又は融雪剤の原料の他にも、副産物をすべて利用して環境負荷を極限まで減らし、松枯れ被害木を有用な原材料として活用するシステムについて説明する。
【0036】
(融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程において発生する副産物の用途)
本発明の第2の実施の形態においては、融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程において発生する副産物の用途について説明する。
まず、木本系廃棄物である松枯れ被害木を用いて乾留を行い、融雪剤の生産を行う工程では、木酢液、木タール、木灰、水素、メタン、炭酸水素ナトリウムが得られる。
粗木酢液は、乾留時、200℃程度までに発生する有機酸を含んだ水蒸気を液化して得られる無精製の木酢である。粗木酢液は農業、畜産に用途があり消臭剤、殺菌剤、堆肥促進剤などに使用可能である。
木タールは、工業的な用途があり、燃料、防腐剤、潤滑油などに用いることができる。
木灰も多様な用途があり、肥料、染色、アク抜きなどに用いることができる。これに加え、木灰は土壌から持ち出された多種多様な塩類を含んでいることから、有機酸培養工程に使用するか、場合によっては地力保持のために返還することが必要となる。
水素、メタンの高カロリーガスは、木ガスとして燃料用途に活用できる。
炭酸水素ナトリウムは、水分を蒸発させることで炭酸ナトリウムに生成され、ナトリウム化合物の材料として工業的に重要である。
【0037】
また、本発明の第1の実施の形態に係る生分解製プラスチック原料又は融雪剤の生産工程である、有機酸の発酵においては、糖化物をpH調整する際に酸化カルシウムではなく炭酸カルシウムが主成分である廃棄物の貝殻を用いる。
図10を参照すると、この貝殻の炭酸カルシウムにて糖化物を中和することで生成される硫酸カルシウム(石膏)混合物は、代掻き(しろかき)時の濁水防止としての利用が可能である。
代掻きは、水田に水を入れ、湛水状態のもとで土を砕き泥状にして、水田を水平近くにまで平らにする作業(この後に、苗代で育てた稲を植える)のことであり、この際に大量の濁水が発生する。
この濁水は、大量の有機物を含むため、流出により水田の地力を損なうことが問題となる。また、水路の富栄養化を引き起こし、終局的には海洋汚染の原因ともなる。
【0038】
これに対して、本発明の硫酸カルシウムにより、濁水中の有機成分が沈殿し、代掻きの際の水田からの濁水の発生を抑えることが可能になる。
また、水路の水質汚濁を抑えることも可能である。さらに、この硫酸カルシウムには、他にも多数の栄養塩が含まれているため、水田の環境を整え、農薬・肥料の撒布を抑えることができるという効果も有する。
さらに、元々自然の木材である松枯れ被害木に工業的に純粋な硫酸を加え、さらに自然の貝殻を加えるだけなので、環境汚染を引き起こさず、安全であるという効果を有する。
【0039】
(松枯れ被害木からの融雪剤生産過程)
松枯れ被害木は、融雪剤の原料として有用性があるため、松枯れ病防除を兼ねた融雪剤生産過程を構想した。以下、図11を参照して説明する。
流れとしては、松枯れ病防除(A)によって切り出された松枯れ被害木はガス化(B)、高温高圧処理(C)を経て融雪剤である蟻酸カリウム(D)へと合成される。
合成された融雪剤の蟻酸力リウムは金属への影響が少なく植生に低負荷であるため空港舗装面、公園などでの利用が適している。
松枯れ被害木から融雪剤を製造して発生した収益は、松枯れ病防除費や持続可能な保安林形成の経費緩和に回すことが可能である。
【0040】
以上のように本発明の第1又は第2の実施の形態に係る融雪剤、生分解性プラスチック原料の生産工程から発生するほとんどの副産物は利用可能である。
すなわち、元々産業廃棄物である低コストな松枯れ被害木や稲藁を、資源として有用に活用でき、循環型社会の構築への一助となるという効果が得られる。また、バイオマス資源の有効活用につながるという効果が得られる。
【0041】
<第3の実施の形態>
(農林業廃棄物高効率利用システム)
本発明の第1又は第2の実施の形態では、融雪剤生産と有機酸生産を別々に述べてきたが、更に農林業廃棄物の利用効率向上を求めると、これら二つの生産技術を組み合わせた、農林業廃棄物高効率利用システムの構築が可能である。以下、図12を参照して説明する。
この農林業廃棄物高効率利用において重点とする箇所は、硫酸による糖化によって分解しきれなかった糖化残渣を利用することにある。
組み合わせた製造システムの製造工程の大きな流れとしては有機酸生産、融雪剤生産の順となる。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る農林業廃棄物高効率利用システムにおいては、以下の手順に従って、農林業廃棄物を使用して各種生産物の製造を行う。図12のシステム構成図と、図13の反応の流れの概念図とを参照して説明する。
まず、松枯れ被害木を始めとする木本系廃棄物は、稲藁を始めとする草本系廃棄物に比べ有機酸発酵および生分解性プラスチック原料の生産効率が劣るため、始めの有機酸生産では草本系廃棄物のみ使用する。この工程を行うために、糖化処理漕10を使用する。
糖化処理後の草本系糖化物はpH調整の前に固液分離させるで、融雪剤生産に用いる糖化残澄が得られる。糖化液は貝から製造した炭酸カルシウム(CaCo3)によるpH調整後、再度固液分離により濁水防止剤(硫酸カルシウム)と有機酸発酵用糖化液に分ける。この工程を行うために、濁水防止剤製造漕30を使用する。
さらに、得られた有機酸発酵用糖化液を用いて、有機酸の発酵を行い、これを生分解製プラスチックの原料又は融雪剤の原料とする。この工程を行うために、有機酸発酵漕40を使用する。この有機酸発酵漕40で発酵を終えた溶液は、有機酸精製漕50によって精製又は水分を除かれ、生分解性プラスチック原料や融雪剤の原料として回収される。
続いて、融雪剤生産に移りpH調整前に回収した草本系糖化残渣と木本系廃棄物を混合してガス化を行う。この工程を行うために、木ガスと木酢を抽出する木酢・木ガス抽出漕60を使用する。
これ以降の工程は、木ガスから蟻酸カリウムを製造する融雪剤生産のみの工程と変わらない。この工程を行うために、融雪剤製造装置70を使用する。
なお、これらのプラントは、制御装置100によって、各反応と生成物の移送がコントロールされ、効率的な製造が行えるようになっている。
この組み合わせた生産工程を用いることで製造プラントを単一化し高効率の農林業廃棄物利用が可能となるという効果が得られる。
【0043】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
10 … 糖化処理漕 (糖化処理手段)
20 … 中和処理漕 (中和処理手段)
30 … 濁水防止剤製造漕 (濁水防止剤製造手段)
40 … 有機酸発酵漕 (有機酸発酵手段)
50 … 有機酸精製漕
60 … 木酢・木ガス抽出漕 (木酢・木ガス抽出手段)
70 … 融雪剤製造装置 (融雪剤製造手段)
100 … 制御装置
a … 蟻酸のピーク
b … 乳酸のピーク
c … 酢酸のピーク
A … 松枯れ病防除
B … ガス化
C … 高温高圧処理
D … 融雪剤合成
X … 農林業廃棄物高効率利用製造システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体を酸溶液と共に熱水処理して得た糖化液を中和処理し、
前記中和処理した糖化液に乳酸発酵菌を添加し、所定の温度で所定の時間培養することを特徴とする有機酸の製造方法。
【請求項2】
前記植物体は草本系又は木本系廃棄物であることを特徴とする請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記酸溶液は、希硫酸を含む水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機酸の製造方法。
【請求項4】
前記糖化液を中和処理するための中和剤は、貝殻の炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項5】
前記草本系廃棄物は稲藁であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項6】
前記木本系廃棄物は枯損した松であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項7】
前記熱水処理は、前記稲藁10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸90質量%と混合し、オートクレーブにて120℃〜200℃で180分間、加圧・加熱することを特徴とする請求項5又は6に記載の有機酸の製造方法。
【請求項8】
前記熱水処理は、前記枯損した松10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸50%〜90質量%と混合し、400℃で複数回加熱することを特徴とする請求項6又は7に記載の有機酸の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法によって製造されたことを特徴とする有機酸。
【請求項10】
請求項9に記載の有機酸を含有することを特徴とする生分解性プラスチック。
【請求項11】
請求項9に記載の有機酸を含むものから製造されることを特徴とする融雪剤。
【請求項12】
廃棄物である植物体を原料とした再利用システムであって、
稲藁を希硫酸で熱水処理を行って糖化処理をする糖化処理手段と、
糖化した加水分解物を酸化カルシウムによって中和する中和処理手段と、
中和した溶液から硫酸カルシウムを汚水防止剤として抽出する濁水防止剤製造手段と、
前記中和した溶液を含む培養液により、乳酸発酵細菌を暗所で静置培養する有機酸発酵手段と、
糖化した際の残渣、又は前記残渣と枯損した松とを乾留して木ガスと木酢とを抽出する木酢・木ガス抽出手段と、
前記抽出した木酢と木ガスとから融雪剤を製造する融雪剤製造手段とを含むことを特徴とする農林業廃棄物の再利用システム。
【請求項1】
植物体を酸溶液と共に熱水処理して得た糖化液を中和処理し、
前記中和処理した糖化液に乳酸発酵菌を添加し、所定の温度で所定の時間培養することを特徴とする有機酸の製造方法。
【請求項2】
前記植物体は草本系又は木本系廃棄物であることを特徴とする請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記酸溶液は、希硫酸を含む水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機酸の製造方法。
【請求項4】
前記糖化液を中和処理するための中和剤は、貝殻の炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項5】
前記草本系廃棄物は稲藁であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項6】
前記木本系廃棄物は枯損した松であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法。
【請求項7】
前記熱水処理は、前記稲藁10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸90質量%と混合し、オートクレーブにて120℃〜200℃で180分間、加圧・加熱することを特徴とする請求項5又は6に記載の有機酸の製造方法。
【請求項8】
前記熱水処理は、前記枯損した松10〜50質量%を1質量パーセント濃度の希硫酸50%〜90質量%と混合し、400℃で複数回加熱することを特徴とする請求項6又は7に記載の有機酸の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の有機酸の製造方法によって製造されたことを特徴とする有機酸。
【請求項10】
請求項9に記載の有機酸を含有することを特徴とする生分解性プラスチック。
【請求項11】
請求項9に記載の有機酸を含むものから製造されることを特徴とする融雪剤。
【請求項12】
廃棄物である植物体を原料とした再利用システムであって、
稲藁を希硫酸で熱水処理を行って糖化処理をする糖化処理手段と、
糖化した加水分解物を酸化カルシウムによって中和する中和処理手段と、
中和した溶液から硫酸カルシウムを汚水防止剤として抽出する濁水防止剤製造手段と、
前記中和した溶液を含む培養液により、乳酸発酵細菌を暗所で静置培養する有機酸発酵手段と、
糖化した際の残渣、又は前記残渣と枯損した松とを乾留して木ガスと木酢とを抽出する木酢・木ガス抽出手段と、
前記抽出した木酢と木ガスとから融雪剤を製造する融雪剤製造手段とを含むことを特徴とする農林業廃棄物の再利用システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−205934(P2011−205934A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75545(P2010−75545)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【出願人】(509003324)株式会社 小野建設 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【出願人】(509003324)株式会社 小野建設 (2)
【Fターム(参考)】
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