説明

有機酸オリゴマーの製造方法

【課題】有機酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 有機酸オリゴマーの製造方法を、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとを含む反応溶媒を用いて、有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する工程、を備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸オリゴマーの製造方法及び脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸である乳酸の重合体であるポリ乳酸は手術用糸などの医療用材料、食器・食品容器・包装材、フィルムへの応用から発展し,近年では家電から自動車用材料まで幅広い分野へとその適用が広がってきている。
【0003】
近年、ポリ乳酸はトウモロコシ、サトウキビなどのバイオマス資源より得られるグルコースを原料にして乳酸菌や酵母などの微生物を用いて乳酸発酵し、乳酸を精製したのち、重合法により製造されるようになってきている。乳酸を乳酸発酵液から抽出分離する方法としては、(1)溶媒抽出・逆抽出法による回収、(2)アンモニア中和発酵・エステル蒸留法、(3)乳酸カルシウム沈殿法・溶媒抽出法及び(4)溶媒抽出発酵法が報告されている。
【0004】
(1)の溶媒抽出・逆抽出法は、乳酸を非水性相(第三級アミン)中に優先的に抽出し、次いでその非水性相中の乳酸を縮合させてオリゴマーを生成させて分離し、乳酸を含有する非水性相から乳酸を蒸留および他の溶媒中へ逆抽出して分離する方法である(特許文献1)。また、(2)のアンモニア中和発酵・エステル蒸留法は、アンモニアで中和しながら乳酸発酵を行い、該発酵により得られた乳酸アンモニウムを加熱濃縮し、n−ブチルアルコールなどのアルコールを添加して加熱することにより乳酸ブチルとし、酸触媒存在下で加熱加水分解して乳酸を得る方法である(特許文献2)。また、(3)の乳酸カルシウム沈殿法・溶媒抽出法は、炭酸カルシウムなどの塩基存在下で乳酸発酵して得られた乳酸カルシウムを硫酸で酸性化して乳酸と硫酸カルシウムとし、該乳酸をアミン抽出剤で溶媒するか又は乳酸含有溶媒の逆抽出により乳酸を精製する方法である(特許文献3,4)。さらに、(4)の溶媒抽出発酵法は、固定化乳酸菌を用いて乳酸発酵させ、発酵液の一部を取り出してオレイルアルコールで希釈したAlamine336(第三級アミン)と接触させて乳酸を抽出し、乳酸抽出後の発酵液を発酵層に返送するという溶媒抽出発酵法である(非特許文献1)。
【特許文献1】特表2001−519178号
【特許文献2】特開平6−311886号
【特許文献3】特表2003−511360号
【特許文献4】特表2003−518476号
【非特許文献1】YabannavarVM,Wang DI.,1987.Bioreactor system with solvent extraction for organic acid production.AnnN.Y. Acad Sci. 506:523−35.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(1)の方法では、第三級アミンを主成分とした抽出溶媒を用いるため、乳酸の抽出効率が低かった。また、上記(2)の方法では、多量の熱エネルギーを必要とするだけでなく、工程が煩雑で乳酸の回収率が低くなってしまっていた。さらに、上記(3)の方法では、硫酸の回収再利用が困難であり、廃棄物として硫酸カルシウムが発生してしまう。また、上記(4)の方法では、乳酸の抽出効率は高いが、抽出溶媒中で乳酸の重合反応を行うと、乳酸とオレイルアルコールがエステル交換し、乳酸オレイルエステル(乳酸アルキルエステル)が生成するために乳酸の重合化が阻害され、抽出溶媒から乳酸を重合体として分離回収することができなかった。
【0006】
上記(1)〜(3)によれば、抽出効率、エネルギーコスト等の観点から問題があった。また、上記(1)〜(4)のいずれも、乳酸の抽出分離を主目的としており、次工程であるポリ乳酸の合成のための乳酸オリゴマーの合成工程が考慮されていなかった。このため、乳酸の抽出から乳酸オリゴマーの合成までの工程を通じて観た場合、工程数の多さや操作の煩雑さは否めなかった。
【0007】
このように、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを効率的かつ低コストで製造するためには、乳酸発酵液などの有機酸発酵液から有機酸を効率的に分離回収し、かつ分離回収した有機酸から効率的に有機酸オリゴマーを合成する方法は見出されていなかった。
【0008】
本発明は、有機酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供することを一つの目的とする。また、有機酸オリゴマーの製造に適した有機酸の抽出方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、脂肪族ポリエステルの効率的な製造方法を提供することを他の一つの目的とする。また、本発明は、こうした有機酸のオリゴマーの製造用の反応媒体を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、乳酸などの有機酸の抽出分離及びオリゴマー化の効率化について種々検討したところ、有機酸の抽出分離及び有機酸オリゴマーの合成及び分離のいずれにも適した反応媒体を見出した。さらに、この媒体は、乳酸発酵液からの溶媒抽出発酵が可能な程度に毒性も低いことを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0010】
本発明によれば、有機酸オリゴマーの製造方法であって、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールを含む反応溶媒中で有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する合成工程、を備える製造方法が提供される。本発明は、前記有機酸が乳酸である、方法とすることができる。
【0011】
本発明の製造方法は、前記第三級飽和脂肪族アルコールは以下の式(1)で表される製造方法とすることができる。
【化4】

(ただし、式中、Aは、CmH2m+1(mは9以上16以下の整数)の直鎖又は分枝アルキル鎖を表し、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、CnH2n+1(nは1以上5以下の整数)の直鎖アルキル基を表すか、又はR同士が連結した環状構造を表す。)
【0012】
また、本発明の製造方法は、式(1)において、Rは、nが1以上3以下である方法とすることもできる。
【0013】
さらに、本発明の製造方法は、式(1)において、OH以外の部分は以下の式(2)で表されるテルペノイド骨格を構成する、製造方法であってもよい。
【化5】

(ただし、pは2以上4以下の整数を表す。)
【0014】
本発明の製造方法は、以下の式(3)で表される第三級飽和脂肪族アルコールを用いる方法とすることもできる。
【化6】

【0015】
さらに、本発明は、前記有機酸抽出剤は、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択される1種又は2種以上とする方法とすることもできる。
【0016】
本発明は、前記反応溶媒が、前記有機酸抽出剤と前記第三級飽和脂肪族アルコールとの総体積において25vol%以上75vol%以下の前記第三級飽和脂肪族アルコールを含有する方法とすることもできる。
【0017】
本発明は、また、前記有機酸オリゴマーを前記反応溶媒から分離する工程を備える方法とすることもできるし、前記合成工程に先だって、前記有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて前記有機酸を前記反応溶媒に抽出する抽出工程を備える方法とすることもできる。この態様において、前記抽出工程における前記有機酸含有水性溶液は有機酸生産微生物による有機酸発酵液を含有する方法であってもよい。さらに、前記有機酸発酵液は、有機酸を発酵生産中の培養液であってもよく、前記抽出工程は、前記培養液と前記反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する培養工程を含んでいてもよい。さらにまた、前記培養工程は、前記有機酸生産微生物が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程であってもよい。
【0018】
本発明によれば、有機酸の抽出方法であって、有機酸含有水性溶液に、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールとを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法が提供される。
【0019】
本発明によれば、有機酸の製造方法であって、有機酸を発酵生産する有機酸生産工程と、前記有機酸発酵生産工程で得られる有機酸を含有する有機酸発酵液に、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールとを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する抽出工程と、を備える、方法が提供される。
【0020】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルの製造方法であって、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとを含む反応溶媒中で有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する合成工程と、該乳酸オリゴマーを用いて脂肪族ポリエステルを合成する工程と、を備える、製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールとを含む反応溶媒中で有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する合成工程を備える有機オリゴマーの製造に関する。本発明の有機酸オリゴマーの製造方法によれば、上記反応溶媒中で有機酸のオリゴマー化反応を実施でき、しかも、有機酸オリゴマーを不溶化させることができるため、有機酸オリゴマーを効率的に合成及び分離回収できる。また、上記反応溶媒によれば、優れた有機酸オリゴマーの分離回収率を提供するとともに、有機酸抽出剤に対する第三級アルコールの比率によってオリゴマーの回収効率が変動しにくい。有機酸を高効率で抽出可能であってしかも有機酸オリゴマーを高効率で回収できるように第三級アルコールの比率を最適化することができるため、有機酸の抽出と有機酸オリゴマー化分離の双方を効率的に実現できる。
【0022】
したがって、有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて有機酸を抽出する抽出工程を備える場合において、有機酸の抽出からオリゴマー合成までを効率的に実施できる。この結果、高効率で有機酸オリゴマーを製造できる。
【0023】
また、第三級アルコールは、有機酸生産微生物に対して低毒性である。このため、有機酸生産微生物を含む有機酸含有水性溶液に対して第三級アルコールの比率を高めた反応溶媒を接触させることで前記微生物に対する毒性の低減や微生物による効率的な有機酸生産を図って、効率的な有機酸抽出と有機酸オリゴマーの分離回収とを同時に達成することができる。
【0024】
したがって、有機酸生産微生物による有機酸発酵液に前記反応溶媒を接触させて有機酸を抽出する抽出工程を備える場合において、前記微生物への毒性を抑制して、有機酸の生産から有機酸オリゴマー合成までを効率的に実施できる。特に、溶媒抽出しつつ有機酸発酵させるのに適している。
【0025】
本発明は、また、有機酸含有水性溶液に、上記反応溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程を備える、有機酸の抽出方法に関する。この抽出方法によれば、有機酸含有水性溶液から有機酸を容易に抽出できるとともに、有機酸を含有する上記反応溶媒中においてそのまま有機酸オリゴマーの合成工程を実施できる。このため、オリゴマー合成ひいてはポリマー合成に好ましい有機酸の抽出方法となっている。
【0026】
本発明によれば、こうしたオリゴマー合成工程や有機酸抽出工程を備える脂肪族ポリエステルの製造方法が提供される。本製造方法によれば、効率的にポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを製造できる。
【0027】
さらに、本発明は、第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールを含む有機酸オリゴマー製造用溶剤及び有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとを含む、有機酸オリゴマー製造用反応媒体に関する。本発明の溶剤及び反応媒体によれば、第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールを含んでいるため、有機酸の抽出性、有機酸オリゴマーの合成、有機酸オリゴマーの分離回収及び有機酸生産微生物に対する毒性において有機酸オリゴマーの製造に適した特性を備えている。したがって、効率的に有機酸の発酵生産、有機酸の抽出、有機酸オリゴマーの合成及び有機酸のオリゴマーの分離回収のいずれにおいても有用である。特に、前記第三級飽和脂肪族アルコールは有機酸オリゴマーの良好な分離回収率に寄与するとともに、有機酸抽出剤に対する配合比率の広い範囲で良好な有機酸オリゴマーの回収効率を提供することができる。このため、配合比率を目的に応じて最適化して、有機酸生産、有機酸抽出、有機酸オリゴマー合成及び分離回収の効率を容易に高めることができる。
【0028】
以下、本発明の実施形態である、有機酸オリゴマーの製造方法、有機酸の抽出方法、有機酸の製造方法及び脂肪族ポリエステルの製造方法等について適宜図面を参照しながら順次説明する。
【0029】
(有機酸)
本発明において「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であるが、有機酸が備える酸性基としては好ましくはカルボン酸基である。また、「有機酸」には、遊離の酸の他、有機酸塩を含む。このような有機酸として、具体的には、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸が挙げられる。なかでも、乳酸、ポリグリコール酸等のα−ヒドロキシ酸が好ましい。特に好ましくは、乳酸である。乳酸には、L−乳酸、D−乳酸、及びDL−乳酸があるが、これらのいずれをも含む。
【0030】
(有機酸オリゴマー)
有機酸オリゴマーとしては、上記各種有機酸のオリゴマーを意味する。有機酸オリゴマーは、水酸基とカルボキシル基とを備える有機酸のオリゴマーであればよいが、好ましくはα−ヒドロキシ酸のオリゴマーである。こうした有機酸オリゴマーとしては、例えば、乳酸オリゴマー、グリコール酸オリゴマー、3−ヒドロキシ酪酸オリゴマー、4−ヒドロキシ酪酸オリゴマー、4−ヒドロキシ吉草酸オリゴマーなどが挙げられる。なかでも、工業的に利用されているポリ乳酸の前駆体である乳酸オリゴマーやグリコール酸オリゴマーが挙げられる。なお、ここでオリゴマーとは、単量体ユニットとしての上記有機酸が2個以上30個以下重合したものを含んでいる。有機酸オリゴマーは、通常有機酸が10個以上30個以下の範囲の重合体であることが多い。
【0031】
(脂肪族ポリエステル)
なお、本発明における脂肪族ポリエステルとしては、上記有機酸由来のモノマー単位を有するポリマーが挙げられる。例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)などである。なかでも、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリ(α−ヒドロキシ酸)が好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。
【0032】
(有機酸オリゴマーの反応溶媒)
本発明の有機酸オリゴマーの製造方法において用いる反応溶媒は、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールとを含むことが好ましい。反応溶媒は、これら以外の成分を含むことができる。例えば、第三級飽和脂肪アルコールやエステル基を含有しない非アルコール類などのその他の成分を含んでいてもよい。好ましくは、含有することが不可避である不純物以外は有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとからなる。
【0033】
(有機酸抽出剤)
有機酸抽出剤は、特に有機酸を捕捉して反応溶媒側に分配させるためのキャリアである。有機酸抽出剤としては、オリゴマー化しようとする有機溶媒に対してこうしたキャリア機能を発揮できるものを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。こうした有機酸抽出剤としては、有機溶媒に可溶な第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンを用いることができる。毒性等の観点からは、第三級アミンを好ましく用いることができる。また、である。こうした有機酸抽出剤としては、フェニルアミン、シクロヘキシルアミンなどを含む第一級アミン、ジ−n−オクチルアミン、ジ−n−デシルアミンなどを含む第二級アミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン(例えば、Alamine336(商品名、コグニス社製))、トリラウリルアミン(例えば、Alamine304(商品名、コグニス社製))などを含む第三級アミンが挙げられる。また、Amberlite LA−1(各アルキル連鎖に12個の炭素原子を有するジアルキルアミンの混合物)等の第二級アミンも挙げられる。また、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイド等の有機リン化合物も挙げられる。
【0034】
これらの有機酸抽出剤は、アルキルアミンとしては、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミンが好ましく、また、有機リン化合物としては、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドが好ましい。より好ましくは、トリ−n−デシルアミン及びトリ−n−C8〜C10アルキルアミン(例えば、Alamine336(商品名、コグニス社製))である。なお、トリ−n−C8〜C10アルキルアミンは、アルキル基として、オクチル基、ノニル基及びデシル基から選択される1種又は2種以上のアルキル基を全体として3個備えることができる。また、オクチル基及び/またはデシル基のみを備えることもできる。トリ−n−デシルアミンを用いることも好ましい。なお、Alamine336は、トリ−n−オクチルアミン(29%(25〜30%程度))、ジ−n−オクチル−モノ−n−デシル−アミン(42%(40〜48%程度))及びジ−n−デシル−モノ−n−ドデシルアミン(26%(20〜26%程度))、トリ−n−ドデシルアミン(3%(2〜6%程度))のアミン組成を有している。
【0035】
(第三級飽和脂肪族アルコール)
この反応溶媒において、第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸を溶解し抽出するのを補足するとともに、有機酸含有水性溶液が有機酸生産性菌体を培養液である場合には、こうした菌体に対するアルキルアミンの毒性を低減するための希釈剤として機能することができる。反応溶媒に用いる第三級飽和脂肪族アルコールは、こうした機能を発揮できる範囲で1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸抽出剤と組み合わせて、有機酸の溶解能と分離回収能とに優れる有機酸オリゴマーの優れた合成媒体を構築できるとともに、有機酸生産微生物に対して低毒性を有する優れた抽出媒体も構築できる。通常、第三級不飽和アルコールなどの場合、有機酸抽出剤に対する配合比率を高めると有機酸生産微生物に対する毒性は低下するが、有機酸の抽出能や有機酸オリゴマーの分離回収能が低下する傾向にあった。これに対して、第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸抽出剤に対して高い比率で反応媒体(抽出媒体)に含んだ媒体として、有機酸生産微生物に対する媒体の毒性を一層低減できるとともに、その際に有機酸抽出効率と有機酸オリゴマー合成能を維持することができる。こうしたメリット、すなわち、第三級飽和脂肪族アルコールはやこの有機酸抽出剤に対して多量に含んでいても、抽出媒体としての抽出効率及び分離回収効率を維持できるというメリットは、例えば、第三級不飽和脂肪族アルコールであるイソフィトールにはない特性である。また、第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸オリゴマーの合成と分離を阻害しにくいというメリットも有している。
【0037】
第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸生産微生物に対する毒性、有機酸の溶解性、有機酸オリゴマーの合成、有機酸オリゴマーの分離回収等を考慮して適宜選択して用いることができる。
【0038】
第三級飽和脂肪族アルコールとしては、直鎖又は分枝した(非環式)鎖状飽和炭化水素鎖を有する第三級非環式飽和脂肪族アルコールであってもよいし、環式飽和炭化水素基を有する第三級環式飽和脂肪族アルコールであってもよい。また、これらのアルコールは、2価以上のアルコールであってもよいし、ヒドロキシル基以外の他の官能基を有することもできる。
【0039】
第三級非環式飽和脂肪族アルコールとしては、テトラヒドロリナロール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタール、リナロール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、2,6−ジメチル−2−ヘプタノール、2,3,4−トリメチルペンタノール、2,4−ジメチルノナノール、5,5−ジメチル−3−エチル−3−ヘキサノール、3−エチル−3−オクタノール、3,6−ジメチル−3−オクタノール等が挙げられる。また、第三級非環式飽和脂肪族アルコールとしては、イソフィトール、ゲラニルリナロール、リナロール、ネロリドール、オシメノール、エチルリナロール、1,2−ジヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール及び3,7−ジメチル−1,5,7−オクタトリエン−3−オールなどの第三級不飽和アルコールの水素添加物が挙げられる。
【0040】
第三級環式飽和脂肪族アルコールとしては、2,5−ジヒドロキシ−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、スクラレオール、β―カリオフィレンアルコール、セドロール、ピリジフロロール、4−ツヤノール等が挙げられる。また、第三級環式飽和脂肪族アルコールとしては、テルピネオール、α−ビサボロール、1−テルピネオール、4−テルピネオール、2,8−p−メンタジエン−1−オール、1,8−p−メンタジエン−4−オールなどの第三級環式不飽和脂肪族アルコールの水素添加物が挙げられる。
【0041】
また、第三級飽和脂肪族アルコールは、好ましくは式(1)で表される。式(1)中、Aは、C2m+1(mは9以上16以下の整数)の直鎖又は分枝アルキル鎖を表す。
【0042】
式(1)において、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、C2n+1(nは1以上5以下の整数)の直鎖アルキル基を表すことができるが、好ましくはnは1以上3以下であり、より好ましくは1又は2である。また、RとRとが連結されて環状構造を形成してもよい。その場合、環状体の環状骨格は、Rが連結された炭素を含めて炭素数が3以上11以下のシクロアルカン骨格を有することが好ましい。例えば、1−(4,8,12−トリメチルトリデシル)シクロプロパノール、1−(4,8,12−トリメチルトリデシル)シクロブタノール、1−(4,8,12−トリメチルトリデシル)シクロペンタノール、1−(4,8,12−トリメチルトリデシル)シクロヘキサノール等が挙げられる。また、好ましくは、式(1)においてOH以外の部分は式(2)で表されるテルペノイド骨格を構成している。式(2)においてpは2以上4以下とすることができるが、好ましくはpは3であり、より好ましくは4である。
【0043】
第三級飽和脂肪族アルコールとして、好ましくは、式(3)で表される第三級飽和脂肪族アルコール(3,7,11,15−テトラメチル−3−ヘキサデカノール)が挙げられる。当該アルコールは、イソフィトール(3,7,11,15−テトラメチル−1−ヘキサデセン−3−オール)又はゲラニルリナロールの水素添加物であることが好ましい。
【0044】
なお、反応溶媒に含めることのできる他の第三アルコールとしては、テルピネオール、イソフィトール、ゲラニルリナロール、リナロール、テトラヒドロリナロール、ネロリドール、ヒドロキシシトロネラールジエチルアセタール、ヒドロキシシトロネラールジメチルアセタール、4−ツヤノール、オシメノール、スクラレオール、p−メンタン−8−オール、ピリジフロロール、エチルリナロール及びアンブリノール等が挙げられる。
【0045】
また、エステル基を含有しない非アルコール類としては、ヘプタン、ヘキサン、ケロシン、ドデカン、イソオクタン、ヘキサデカン、トルエン、キシレン及びパラフィンオイル等が挙げられる。
【0046】
反応溶媒においては、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとの総体積において第三級飽和脂肪族アルコールを90vol%以下含有することが好ましい。90vol%以下であれば、良好な合成反応及び分離回収効率を得ることができる。オリゴマー化分離効率の観点からは、より好ましくは75vol%以下であり、さらに好ましくは50vol%以下であり、一層好ましくは25vol%以下である。一方、反応溶媒を有機酸含有水性溶液からの有機酸の抽出溶媒として用いることを考慮すると、第三級飽和脂肪族アルコールは、10vol%以上90vol%以下であることが好ましく、より好ましくは25vol%以上75vol%以下である。したがって、オリゴマー化分離効率と有機酸抽出効率とを考慮すると、第三級飽和脂肪族アルコールを25vol%以上75vol%以下を含む反応溶媒を好ましく用いることができる。さらに、第三級飽和脂肪族アルコールをこの範囲で含むことで、高い分離回収率を確保することができるとともに、有機酸生産微生物への毒性を低く維持することもできる。
【0047】
本発明方法で用いる反応溶媒は、特に、二相系溶媒抽出乳酸発酵に適したものとなっている。この反応溶媒は、本発明の有機酸オリゴマー合成用の反応媒体でもある。本発明の反応媒体は、「低毒性」かつ「高乳酸抽出」であることの他「高効率でオリゴマー化分離が可能」であることの3点を備えることができる。本発明の反応媒体は、有機酸抽出剤に対する第三級飽和脂肪族アルコールの配合比率の広い範囲で高い有機酸オリゴマー化分離回収率と有機酸抽出率を確保できるため、その配合比率を高めて、反応媒体が接触する有機酸発酵液中の微生物に対する毒性を効果的に緩和することができる。すなわち、良好な有機酸抽出媒体でもある。
【0048】
後述する実施例によれば、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとの総体積において、10〜90vol%の第三級飽和脂肪族アルコールを添加すると乳酸抽出度は20%以上となり、25〜75vol%の同アルコールでは50%以上、75vol%の同アルコールでは60%弱であることがわかった。これにより、前記総体積における同アルコールの配合比率は10vol%以上90vol%以下、好ましくは25vol%%以上75vol%以下、さらに好ましくは約75vol%である。また、同様に後述する実施例によれば、25vol%以上75vol%の第三級飽和脂肪族アルコールではオリゴマー画分の収率が75%以上であることがわかった。以上の結果より、二相系溶媒抽出乳酸発酵・オリゴマー化分離法において乳酸オリゴマー効率よく生産するためには、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとの総体積における同アルコールの比率は10vol%以上90vol%以下、好ましくは25vol%以上75vol%以下、さらに好ましく約75vol%である。
【0049】
また、以上のことから、第三級飽和脂肪族アルコールは、有機酸抽出、有機酸抽出発酵、有機酸オリゴマー化分離、ひいては脂肪族ポリエステルの合成に適した溶剤であるといえ、当該用途に有用である。
【0050】
(有機酸オリゴマーの合成)
反応溶媒中で有機酸から有機酸オリゴマーを合成するには、反応溶媒を加熱すればよい。加熱により有機酸が脱水して縮合し有機酸オリゴマーが生成する。加熱温度は、有機酸からオリゴマーが生成できる範囲であれば特に限定しないが、好ましくは130℃以上200℃以下である。この範囲であると第三級アルコールからの第一級アルコールの生成を防止でき、第一級アルコールによって有機酸オリゴマーの合成が阻害されにくいからである。
【0051】
(有機酸オリゴマーの分離)
有機酸オリゴマーは、この反応溶媒への溶解性が高くないため、反応の進行に伴い、反応溶媒中に沈殿する。したがって、反応後、ろ過、遠心分離等の通常の固液分離工程を実施すれば、容易に有機酸オリゴマーを分離回収することができる。なお、合成反応終了後には、有機酸オリゴマーの反応溶媒への溶解性を調節するため適宜反応溶媒組成を調製したり、温度を調整したりすることもできる。
【0052】
(脂肪族ポリエステルの製造)
こうして得られた有機酸オリゴマーを用いて所定の方法で重合工程を実施することで、ポリ乳酸を始めとする脂肪族ポリエステルを製造することができる。本発明の有機酸オリゴマーの製造方法によれば、有機酸オリゴマーが効率的に得られるため、結果として、脂肪族ポリエステルも効率的に製造できる。
【0053】
(有機酸の抽出)
以上説明した有機酸オリゴマーの合成に先立って、有機酸含有水性溶液から前記反応溶媒を用いて有機酸を抽出することができる。前記反応溶媒は、有機酸の抽出工程においては、有機酸の抽出溶媒として機能する。前記反応溶媒は、有機酸含有水性溶液からの有機酸の抽出にも適しているため都合がよい。また、有機酸オリゴマー合成工程に、本反応溶媒による有機酸抽出工程を実施することにより、有機酸オリゴマー合成後に不要となった本反応溶媒成分を有機酸の抽出工程で還流させて用いることで、溶媒の排出量の低減と炭素化合物の循環使用により地球環境に適した系を構築できる。
【0054】
なお、有機酸の抽出工程に用いる反応溶媒と有機酸オリゴマーの合成工程に用いる反応溶媒の組成は、上記した本発明の反応溶媒に包含されるものであれば同一であってもよいが異なっていてもよい。これらの工程で同一組成の反応溶媒を用いることは組成の調整を簡略化できる点において好ましいが、本発明の反応溶媒に包含される範囲内であれば、それぞれの工程の必要に応じて適宜変更を加えることができる。好ましくは、成分を同一としてこれらの組成を変更する範囲とする。例えば、同一の有機酸抽出剤及び同一の第三級飽和脂肪族アルコールを用いるが、抽出工程における抽出効率や微生物への影響及び合成工程における合成効率や分離効率等を考慮して、それぞれの工程においてそれぞれ比率を変更することができる。
【0055】
(有機酸含有水性溶液)
有機酸含有水性溶液は、有機酸を溶解して含有する水性溶液であれば、特に限定されない。pHも特に限定されないし、また、有機酸は塩の形態であってもよい。媒体は、水を含んだ水性媒体であればよく、特に限定されない。
【0056】
有機酸含有水性溶液は、他の材料から取得した乳酸の溶液であってもよいし、また、微生物により発酵生産された発酵液からの乳酸抽出液であってもよい。好ましくは、有機酸生産微生物が発酵によって有機酸を生成した有機酸発酵液である。有機酸発酵液から直接有機酸を抽出することで、一層、有機酸オリゴマーを効率的に合成することができる。有機酸発酵液は、発酵終了後において菌体等を除去した発酵上清であってもよいし、菌体等を含んだままのものであってもよい。こうした発酵終了後の発酵液から有機酸を抽出する場合には、抽出溶媒として用いる反応溶媒の有機酸生産微生物に対する毒性を考慮する必要がない点において効率的な有機酸抽出と有機酸オリゴマー合成が可能となる。
【0057】
こうした有機酸抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの一例を図1に例示する。図1に示す形態においては、有機酸発酵工程における有機酸発酵液を連続式、半連続式又はバッチ式で取り出して、反応溶媒と接触させて、有機酸抽出工程を実施する。図1に示すように、オリゴマー合成及び分離後の反応溶媒の少なくとも一部を有機酸抽出工程に還流させることにより、反応溶媒を有効利用できる。また、図1には、発酵液に残存した炭素源などの発酵原料を分離して発酵原料として再利用する形態も含まれている。
【0058】
また、有機酸含有水性溶液としての有機酸発酵液は、有機酸生産微生物が炭素源から有機酸を発酵している最中の有機酸生産微生物の培養液であってもよい。こうした培養液を対象とすることで、培養液中の乳酸濃度の調整が可能となるとともに、連続的に乳酸を抽出し、ひいては連続的にオリゴマー化も可能となる点において好ましい。
【0059】
発酵中の培養液に反応溶媒(抽出溶媒)を接触させて、発酵生産物を抽出しつつ発酵させる溶媒抽出発酵の場合、反応溶媒は、培養液を構成する培地と二相分離可能である溶媒を選択する。培地との二相分離状態をおおよそ維持して発酵させることにより、発酵用微生物への細胞毒性を抑制して微生物の増殖活性を維持しつつ、同時に効率的な有機酸抽出が可能となり、さらに、発酵後に抽出溶媒の分離を容易に実現できる。なお、こうした抽出溶媒を構成する有機溶媒としては、有機酸生産酵母が耐性のある有機溶媒であることが好ましいが、本反応溶媒として用いることができる第三級アルコール及び非アルコール類のうち、既に例示したものをいずれも用いることができる。
【0060】
図2及び図3には、こうした抽出形態と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせを例示する。図2には、本反応溶媒を用いて溶媒抽出発酵する工程を実施するとともに、培養液と接触する反応溶媒を連続式、半連続式又はバッチ式で有機酸オリゴマー合成工程に送液し、送液された反応溶媒中で有機酸オリゴマーを合成する形態である。この形態において、反応溶媒を培養液と分離するには、例えば、特開2004−217725号に記載の疎水性多孔質膜を発酵槽に設置した溶媒分離器を用いることができる。この形態においては、オリゴマー合成及びオリゴマー分離後の反応溶媒を溶媒抽出発酵工程に還流することで、反応溶媒を有効利用できる。
【0061】
また、図3には、本反応溶媒を用いて溶媒抽出発酵する工程から、反応溶媒と培養液との混合液を連続式、半連続式又はバッチ式で溶媒分離工程に送液し、培養液と反応溶媒とを分離して、この分離した反応溶媒について有機酸オリゴマー合成工程を実施する形態である。この形態においても、オリゴマー分離後の反応溶媒や溶媒分離後の培養液を溶媒抽出発酵工程に還流させることができる。
【0062】
本発明における溶媒抽出発酵では、培地と反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する工程とすることが好ましい。既に説明したように、反応溶媒として培地と二相分離可能なものを用いるが、こうした混合液の攪拌混合程度によって二相分離状態を維持して培養することもできるし、懸濁状態で培養することもできる。細胞毒性をできるだけ低減する観点からは、おおよそ上下に二相分離状態を維持して培養することが好ましい。こうした培養状態は、下相に培地、上相に抽出溶媒を有する二相液体を静置培養するか、緩やかに旋回培養、攪拌培養又は回転培養することにより得ることができる。なお、こうした二相分離状態を維持した培養工程に対して、培地と反応溶媒とを振とうなどにより強く攪拌して二相分離しない状態とする培養工程を組み合わせることもできる。
【0063】
なお、本発明における有機酸発酵では、反応溶媒を培養液に添加する時期は特に限定されない。例えば、培養工程の全体を通じて反応溶媒を添加して抽出培養することもできるし、培養工程の一部においてのみ反応溶媒を添加して二相系を構成して反応溶媒を実施することができる。後者の例としては、培養工程の途中までは、反応溶媒を添加せずに培養し、その後反応溶媒を添加して培養する、培養工程を実施することもできる。
【0064】
培養工程は、有機酸生産微生物が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程とすることが好ましい。こうすることで、培地中で炭素源を枯渇させることなく有機酸発酵を継続させることができる。この場合、生産物である有機酸による阻害がないため、効率的に有機酸を連続的に発酵させることができる。なお、制限基質である炭素源のほか、各種の栄養成分も適宜添加することができる。こうした有機酸発酵は、例えば、バイオプロセスシステムエンジニアリング、清水浩、シーエムシー出版、P115−125に記載の流加培養法を参照することができる。
【0065】
培地のpHは5.0以下であることが好ましい。pHが5.0以下であると、上記キャリアによる有機酸の抽出溶媒側への分配効率が確保されるからである。好ましくは、pHは、乳酸のpKaである4.8以下であり、より好ましくは4.5以下である。
【0066】
本発明における有機酸発酵における各種の培養条件は適宜設定することができる。例えば、温度は、25℃〜35℃程度とすることができる。培養時間は、おおよそ24〜72時間程度とすることができる。
【0067】
なお、こうした有機酸の発酵生産には有機酸発酵用微生物を用い、用いる微生物に適した培地を用いることによって行うことができる。こうした微生物としては、有機酸生産が活性化された酵母を用いることが好ましい。こうした酵母は、自然界からのスクリーニング、人工突然変異及び遺伝子工学的改変などのいずれの手法によって得られた酵母であってもよい。好ましくは、遺伝子工学的に改変された酵母である。有機酸の生産が促進されるよう遺伝子工学的に改変された酵母としては、好ましくは、酵母染色体上において有機酸合成酵素が導入された組換え酵母であることが好ましい。こうした組換え酵母の宿主酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces
pombe)などのサッカロマイセス属酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア属酵母、クルイベロマイセス属酵母、キャンディダ属酵母などの酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエなどのサッカロマイセス属酵母が好ましい。例えば、サッカロマイセス・セレビシエIFO2260株を例示できる。
【0068】
遺伝子組換え酵母においては適当なプロモーターの制御下に有機酸合成酵素をコードするコード領域を発現可能に保持している。高効率で有機酸を生産するには、例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素1(PDC1)遺伝子プロモーター、ADH1遺伝子プロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7遺伝子)プロモーター、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素2遺伝子(TDH2遺伝子)プロモーター、熱ショックタンパク質30遺伝子(HSP30遺伝子)プロモーター、ヘキソース輸送タンパク質7遺伝子(HXT7遺伝子)プロモーター、チオレドキシンペルオキシダーゼ1遺伝子(AHP1遺伝子)プロモーター、膜タンパク質1関連遺伝子(MRH1遺伝子)プロモーター、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素3(TDH3)遺伝子プロモーター、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素1遺伝子(TDH1遺伝子)プロモーター、トリオースリン酸イソメラーゼ1遺伝子(TPI1遺伝子)プロモーター及び細胞壁関連タンパク質12遺伝子(CCW12遺伝子)及びリボゾーマルプロテインS31遺伝子(RSP31遺伝子)プロモーターなどが挙げられる。なお、これらはいずれも酵母における内在性プロモーターであり、本発明の形質転換酵母において好ましく用いられる。こうしたプロモーター群から選択されるプロモーターとしては、少なくともPDC1遺伝子プロモーターを含むことが好ましい。PDC1プロモーターの制御下で有機酸を合成する酵素を発現させることにより、高効率で有機酸を発酵することが期待でき、こうした酵母が本発明の微生物として有効だからである。
【0069】
有機酸合成酵素としては、乳酸生産の場合には、L−乳酸脱水素酵素、D−乳酸脱水素酵素等の酵素等が挙げられる。例えば、乳酸脱水素酵素(LDH)としては、生物の種類に応じてあるいは生体内においても各種同族体が存在する。本発明において使用する乳酸脱水素酵素としては、天然由来のLDHの他、化学合成的あるいは遺伝子工学的に人工的に合成されたLDHも包含している。LDHとしては、好ましくは、乳酸菌などの原核生物もしくはカビなどの真核微生物由来であり、より好ましくは、植物、動物、昆虫などの高等真核生物由来であり、さらに好ましくは、ウシを始めとする哺乳類を含む高等真核生物由来である。L−LDHとしては、ウシ由来のLDH(L−LDH)である。さらに、本発明におけるLDHは、これらのLDHのホモログも包含している。LDHホモログは、天然由来のLDHのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸でありかつLDH活性を有しているタンパク質、および、天然由来のLDHとアミノ配列の相同性が少なくとも70%、好ましくは80%以上を有しかつLDH活性を有しているタンパク質を含んでいる。また、D−LDHとしては、大腸菌、タコ及び乳酸菌由来のものなどが挙げられる。好ましくは乳酸菌由来のD−LDHである。なお、有機酸合成酵素をコードするコード領域は、酵母において複数コピー導入されていることが好ましい。
【0070】
このような有機酸生産酵母としては、例えば、特開2003−93060、特開2003−259878、特開2003−334092、特開2004−187643、特開2005−139270、特開2006−75133に記載の乳酸生産酵母等を好ましく用いることができる。
【0071】
なお、以上説明した有機酸の抽出及び有機酸発酵液からの有機酸の抽出は、必ずしも有機酸オリゴマーの製造方法と連続して行う必要はなく、有機酸の抽出方法及び有機酸発酵生産工程を伴う有機酸の製造方法として実施することができる。さらには、こうした有機酸オリゴマー合成工程のほか、必要に応じて、有機酸抽出工程や有機酸の発酵生産工程を伴う脂肪族ポリエステルの製造方法としても実施できる。
【0072】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。
【実施例1】
【0073】
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン[東京化成株式会社製、以下同じ。]70ml(55.62g)、式(3)に示すイソフィトール水添物の溶液[クラレ製イソフィトール溶液に水素ガスを添加して合成したもの]27ml(22.30g)及び90%L−乳酸溶液[和光純薬株式会社製、以下同じ。] (12.20g) を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む25%イソフィトール水添物/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した。常圧下で45分間かけて40℃から200℃で昇温した後、直ちに64℃まで自然冷却した。冷却後、圧力を4kPaにセットし、30分かけて64℃から200℃まで昇温し、200℃で6時間オリゴマー化反応を行った。反応後、常圧に戻し、室温まで冷却した。冷却後、反応液は下層画分(オリゴマー画分)と上層画分(抽出溶媒画分)の二相に分離され、下層画分(オリゴマー画分、以下、一次沈殿画分)3.81gを得た。上層画分には浮遊物が確認されたため、上層画分を遠心(10000rpm、30min、4℃)したところ、上層画分(抽出溶媒画分)と沈殿画分(オリゴマー画分、以下、二次沈殿画分)に分離され、二次沈殿画分4.43gを得た。一次沈殿画分、二次沈殿画分及び上層画分(抽出溶媒画分)をそれぞれエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)で直接分析したところ、一次沈殿画分から2〜20量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図4)、二次沈殿画分から2〜20量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図5)。上層画分から2〜12量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜10量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図6)。反応前の無水乳酸の重量(12.20g×0.9)を100とすると、オリゴマー画分(一次沈殿画分+二次沈殿画分)の収率は93.8%であることがわかった。
【実施例2】
【0074】
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン34ml(27.38g)、実施例1のイソフィトール水添物溶液43ml(35.06g)及び90%L−乳酸溶液(9.65g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v%L−乳酸を含む50%イソフィトール水添物/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、一次沈殿画分0.82gを得た。上層画分を実施例1と同様に遠心したところ、二次沈殿画分5.40gを得た。一次沈殿画分、二次沈殿画分及び上層画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、一次沈殿画分から2〜21量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図7)、二次沈殿画分から2〜21量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図8)、上層画分から2〜16量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜12量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図9)。反応前の無水乳酸の重量(9.65g×0.9)を100とすると、オリゴマー画分(一次沈殿画分+二次沈殿画分)の収率は89.5%であることがわかった。
【実施例3】
【0075】
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン15ml(12.06g)、実施例1のイソフィトール水添物溶液及び90%L−乳酸溶液(11.15g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v%L−乳酸を含む75%イソフィトール水添物/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、一次沈殿画分0.63gを得た。上層画分を実施例1と同様に遠心したところ、上層画分と二次沈殿画分5.46gを得た。一次沈殿画分と二次沈殿画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、一次沈殿画分から2〜19量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図10)、二次沈殿画分から2〜19量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図11)、上層画分から2〜16量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜12量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図12)。反応前の無水乳酸の重量(11.15g×0.9)を100とすると、オリゴマー画分(一次沈殿画分+二次沈殿画分)の収率は75.9%であることがわかった。
【0076】
(参考例1)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン75ml(55.92g)、イソフィトール(和光純薬株式会社製、以下同じ。)27ml(24.37g)及び90%L−乳酸溶液[和光純薬](12.08g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む25%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、一次沈殿画分3.27gを得た。上層画分を遠心(10000rpm、30min、4℃)したところ、上層画分と二次沈殿画分2.69gを得た。一次沈殿画分と二次沈殿画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、一次沈殿画分から2〜16量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図13)、二次沈殿画分から2〜16量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図14)、上層画分から2〜12量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜9量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図15)。反応前の無水乳酸の重量(12.08g×0.9)を100とすると、オリゴマー画分(一次沈殿画分+二次沈殿画分)の収率は68.5%であることがわかった。
【0077】
(参考例2)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン34ml(27.52g)、イソフィトール43ml(35.63g)及び90%L−乳酸溶液(9.73g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v%L−乳酸を含む50%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、反応液は白濁していたが、二相には分離されず、一次沈殿画分は得られなかった。白濁した反応液を遠心(10000rpm、30min、4℃)したところ、上層画分と二次沈殿画分0.94gを得た。二次沈殿画分をESI−MS法で分析したところ、2〜18量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜17量体の環状型乳酸オリゴマー(図16)、上層画分から2〜16量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜12量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図17)。反応前の無水乳酸の重量(9.73g×0.9)を100とすると、オリゴマー画分(二次沈殿画分)の収率は13.4%であることがわかった。
【0078】
(参考例3)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン15ml(12.10g)、イソフィトール75ml(61.58g)及び90%L−乳酸溶液(11.3g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む75%イソフィトール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、反応液は透明のままであり、反応液を遠心(10000rpm、30min、4℃)しても、沈殿画分は得られなかったため、オリゴマー画分(二次沈殿画分)の収率は0%であった。上層画分から2〜15量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜12量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図18)。ほとんどのオリゴマーは上層画分に残存していることがわかった。
【0079】
実施例1〜3及び参考例1〜3のオリゴマー画分の回収スキーム並びにオリゴマー画分の収率及びオリゴマーの重合度(n数)を図19に示す。希釈剤としてイソフィトールを用いた場合、イソフィトール濃度の増加に伴って、オリゴマー画分の収率が著しく低下し、75vol%のイソフィトールでは、オリゴマーが全く分離されてこないことがわかる。これに対し、イソフィトール水添物では濃度の増加に伴って、オリゴマーの収率が若干低下するものの、25〜75容量%のイソフィトール水添物ではオリゴマー画分が75%以上の収率で得られることがわかる。
【0080】
以下の実施例4及び参考例4〜6は、有機酸抽出剤としてn−デシルアミンに加えてAlamine336について各種の希釈剤を用いてオリゴマーを回収した例である。
【実施例4】
【0081】
4口フラスコにAlamine336 [コグニス社製、以下同じ。]34ml(27.31g)、イソフィトール水添物の溶液]43ml(35.06g)、及び90%L−乳酸溶液[和光純薬](9.56g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む50%イソフィトール水添物/Alamine336溶液を調製した。実施例1と同様にしてオリゴマー合成反応を実施後、一次沈殿画分0.59gを得た。上層画分を実施例1と同様に遠心したところ、上層画分(抽出溶媒画分)と二次沈殿画分に分離され、二次沈殿画分5.49gを得た。一次沈殿画分、二次沈殿画分及び上層画分をそれぞれESI−MS法で直接分析したところ、一次沈殿画分から2〜14量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図20)、二次沈殿画分から8〜10量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図21)が検出された。上層画分(抽出溶媒画分)から2〜13量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜10量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図22)。オリゴマー画分(一次沈殿画分+二次沈殿画分)の収率を算出したところ、88.3%であることがわかった。
【0082】
(参考例4)
4口フラスコにAlamine336 34ml(27.09g)、イソフィトール43ml(35.54g)及び90%L−乳酸溶液(9.45g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む50%イソフィトール/Alamine336溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、反応液を冷却しても二相に分離されなかった。反応液を実施例1と同様に遠心したところ、上層画分と二次沈殿画分に分離され、二次沈殿画分2.56gを得た。二次沈殿画分及び上層画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、二次沈殿画分から2〜13量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図23)が検出された。上層画分(抽出溶媒画分)から2〜14量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜13量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図24)。オリゴマー画分(二次沈殿画分)の収率を算出したところ、37.6%であることがわかった。
【0083】
(参考例5)
4口フラスコにAlamine336 34ml(26.93g)、ゲラニルリナロール[クラレ社製、以下同じ。]43ml(37.18g)及び90%L−乳酸溶液(9.50g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v%L−乳酸を含む50%ゲラニルリナロール/Alamine336溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、反応液を冷却しても二相に分離されなかった。反応液を遠心(10000rpm、30min、4℃)したところ、上層画分と二次沈殿画分に分離され、二次沈殿画分0.95gを得た。二次沈殿画分及び上層画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、二次沈殿画分から2〜14量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図25)が検出された。上層画分から2〜14量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜15量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図26)。オリゴマー画分(二次沈殿画分)の収率を算出したところ、13.9%であることがわかった。
【0084】
(参考例6)
4口フラスコにトリ−n−デシルアミン34ml(29.62g)、ゲラニルリナロール43ml(37.01g)及び90%L−乳酸溶液(9.47g)を入れ、室温で5分間撹拌して10w/v% L−乳酸を含む50%ゲラニルリナロール/トリ−n−デシルアミン溶液を調製した他は、実施例1と同様にオリゴマー化反応を実施した。反応後、反応液を冷却しても二相に分離されなかった。反応液を遠心(10000rpm、30min、4℃)したところ、上層画分と二次沈殿画分に分離され、二次沈殿画分0.36gを得た。二次沈殿画分及び上層画分をそれぞれESI−MS法で分析したところ、二次沈殿画分から2〜13量体の遊離型乳酸オリゴマーと5〜15量体の環状型乳酸オリゴマー(図27)が検出された。上層画分(抽出溶媒画分)から2〜15量体の遊離型乳酸オリゴマーと6〜12量体の環状型乳酸オリゴマーが検出された(図28)。オリゴマー画分(二次沈殿画分)の収率を算出したところ、5.3%であることがわかった。
【0085】
先の実施例2及び実施例4並びに先の参考例2及び参考例4〜6のオリゴマー画分の収率を図29に示した。イソフィトール水添物は抽出剤としてAlamine336又はTDAのいずれを用いてもイソフィトールやゲラニルリナロールよりもオリゴマー画分の収率が高いことがわかった。
【0086】
以下の実施例5及び比較例1,2では、反応媒体の乳酸抽出率について検討した。
【実施例5】
【0087】
式(3)に示すイソフィトール水添物で希釈した0〜100%のトリ−n−デシルアミン水溶液の1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層し、室温で二分間振盪したのちに静置した。静置後、乳酸アナライザー(酵素法)を用いて水相中の乳酸濃度を測定し、以下の数式に従って抽出度(E)を求めた。
【数1】


[HL]o;溶媒中の乳酸濃度
[HL]init;水相中に仕込んだ乳酸濃度
[HL]AT;溶媒抽出操作後に測定した水相中の乳酸濃度
;水相の容積
Vo;溶媒相の容積
【0088】
(比較例1)
オレイルアルコールで希釈した0〜100%のトリ−n−デシルアミン(第三級アミン)溶液の1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例4と同様にして抽出度(E)を求めた。
【0089】
(比較例2)
イソフィトールで希釈した0〜100%のトリ−n−デシルアミン溶液1mlを1.2%乳酸溶液2mlに重層した他は、実施例5と同様にして抽出度(E)を求めた。
【0090】
実施例5、比較例1及び比較例2で得られた乳酸抽出結果を図30に示した。その結果、トリ−n−デシルアミン濃度が50%のとき、実施例5(イソフィトール水添物)の乳酸抽出度は、比較例1(オレイルアルコール)や比較例2(イソフィトール)よりも若干低下しているが、トリ−n−デシルアミンが25%及び75%のときは比較例1(オレイルアルコール)や比較例2(イソフィトール)の乳酸抽出度とほぼ同じであることがわかった。また、25vol%以上75vol%の範囲で約50〜60%程度の安定した抽出度が得られることもわかった。さらに、20%(100%トリ−n−デシルアミンの乳酸抽出の約2倍)以上の乳酸抽出度を確保するためには、トリ−n−デシルアミンを10vol%以上90vol%以下とし、イソフィトール水添物を10vol%以上90vol%以下とすることが必要であることがわかった。
【0091】
以下の実施例6及び比較例3並びに参考例7では、菌体に対する毒性を評価した。
【実施例6】
【0092】
乳酸生産酵母T157株(Saitoh
S, Ishida N et al., Appl Environ Microbiol. 71(5):2789-92(2005)を2%YPD培地5mlで前培養し、初発菌体濃度(O.D.660)が0.1となるように10%液糖糖蜜培地10mlに接種した。イソフィトール水添物1mlを重層し、30℃で旋回培養(120rpm)し、任意の時間に0.5mlをサンプリングした。サンプリング後、遠心(4500g、5分)し、沈殿物をリン酸緩衝液0.5mlで2回洗浄した。洗浄後、リン酸緩衝液1mlに懸濁し、吸光度(O.D.660)を測定した。
【0093】
(比較例3)
イソフィトール水添物の替わりにオレイルアルコールを重層した他は、実施例6と同様に実施した。
【0094】
(参考例7)
イソフィトール水添物の替わりにイソフィトールを重層した他は、実施例6と同様に実施した。
【0095】
実施例6並びに比較例3及び参考例7で得られた菌体毒性試験結果を図31に示した。その結果、実施例6(イソフィトール水添物)は比較例3(オレイルアルコール)や参考例7(イソフィトール)と同等の増殖曲線を示したことから、実施例6(イソフィトール水添物)の菌体毒性は比較例3(オレイルアルコール)や参考例7(イソフィトール)と同等に低毒性であることがわかった。
【0096】
以上の結果から明らかなように、イソフィトール水添物はイソフィトールよりも、「高効率でオリゴマー化分離が可能」であり、かつ「高乳酸抽出」と「低毒性」の性能を損なうことのない希釈剤であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの一例を示す図。
【図2】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの他の一例を示す図。
【図3】有機酸の抽出工程と有機酸オリゴマーの合成工程との組み合わせの他の一例を示す図。
【図4】実施例1で得られた一次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図5】実施例1で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図6】実施例1で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図7】実施例2で得られた一次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図8】実施例2で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図9】実施例2で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図10】実施例3で得られた一次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図11】実施例3で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図12】実施例3で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図13】参考例1で得られた一次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図14】参考例1で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図15】参考例1で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図16】参考例2で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図17】参考例2で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図18】参考例3で得られた二次画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図19】実施例1〜3及び参考例1〜3のオリゴマー画分の収率及びオリゴマーの重合度(n数)を示す図。
【図20】実施例4で得られた一次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図21】実施例4で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図22】実施例4で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図23】参考例4で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図24】参考例4で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図25】参考例5参考例5で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図26】参考例5で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図27】参考例6で得られた二次沈殿画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図28】参考例6で得られた上層画分中の成分のESI−MS法による分析結果を示す図。
【図29】実施例2及び実施例4並びに先の参考例2及び参考例4〜6のオリゴマー画分の収率を示す図。
【図30】実施例5、比較例1及び比較例2で得られた乳酸抽出度を示す図。
【図31】実施例6並びに比較例3及び参考例7で得られた菌体毒性試験結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸オリゴマーの製造方法であって、
有機酸抽出剤と、第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールと、を含む反応溶媒中で有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する合成工程、を備える製造方法。
【請求項2】
前記第三級飽和脂肪族アルコールは以下の式(1)で表される、請求項1に記載の製造方法。
【化1】

(ただし、式中、Aは、C2m+1(mは9以上16以下の整数)の直鎖又は分枝アルキル鎖を表し、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、C2n+1(nは1以上5以下の整数)の直鎖アルキル基を表すか、又はR同士が連結した環状構造を表す。)
【請求項3】
前記式(1)において、Rは、nが1以上3以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)において、OH以外の部分は以下の式(2)で表されるテルペノイド骨格を構成する、請求項2又は3に記載の製造方法。
【化2】

(ただし、pは2以上4以下の整数を表す。)
【請求項5】
前記第三級飽和脂肪アルコールは、以下の式(3)で表される、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【化3】

【請求項6】
前記有機酸抽出剤は、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−C8〜C10アルキルアミン、トリブチルホスフェート及びトリ−n−オクチルホスフィンオキサイドから選択される1種又は2種以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応溶媒は、前記有機酸抽出剤と前記第三級飽和脂肪族アルコールとの総体積において25vol%以上75vol%以下の前記第三級飽和脂肪族アルコールを含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記有機酸オリゴマーを前記反応溶媒から分離する工程を備える、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記合成工程に先だって、前記有機酸を含有する有機酸含有水性溶液に前記反応溶媒を接触させて前記有機酸を前記反応溶媒に抽出する抽出工程を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記抽出工程における前記有機酸含有水性溶液は有機酸生産微生物による有機酸発酵液を含有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機酸発酵液は、有機酸を発酵生産中の培養液を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記抽出工程は、前記培養液と前記反応溶媒とをおおよそ二相系を維持しながら培養する培養工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記培養工程は、前記有機酸生産微生物が代謝可能な炭素源を連続的に加えて培養する工程である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記有機酸は、乳酸である、請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
有機酸の抽出方法であって、
有機酸含有水性溶液に、有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する工程、を備える、方法。
【請求項16】
有機酸の製造方法であって、
有機酸を発酵生産する有機酸生産工程と、
前記有機酸発酵生産工程で得られる有機酸を含有する有機酸発酵液に、有機酸抽出剤と第三級非環式飽和脂肪族アルコール及び第三級環式飽和脂肪族アルコールから選択される第三級飽和脂肪族アルコールとを含む抽出溶媒を接触させて有機酸を抽出する抽出工程と、
を備える、方法。
【請求項17】
脂肪族ポリエステルの製造方法であって、
有機酸抽出剤と第三級飽和脂肪族アルコールとを含む反応溶媒中で有機酸を重合して有機酸オリゴマーを合成する合成工程と、
該乳酸オリゴマーを用いて脂肪族ポリエステルを合成する工程と、
を備える、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2008−174644(P2008−174644A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9653(P2007−9653)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】