有機金属錯体、3次元構造体、およびそれらの製造方法
【課題】サイズや形状が制御され基材上に形成された有機金属錯体および3次元構造体、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】有機金属錯体を製造するための本発明の方法では、金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子12を含む第1の液体に基材11の表面を接触させる第1の工程と、金属イオンおよび金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質13を含む第2の液体に基材11の表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルが繰り返される。これによって、基材11の表面に対して平行に延びる有機金属錯体20が基材11上に形成される。有機金属錯体20は、複数の金属イオン含有物質13と複数の有機分子12とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。
【解決手段】有機金属錯体を製造するための本発明の方法では、金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子12を含む第1の液体に基材11の表面を接触させる第1の工程と、金属イオンおよび金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質13を含む第2の液体に基材11の表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルが繰り返される。これによって、基材11の表面に対して平行に延びる有機金属錯体20が基材11上に形成される。有機金属錯体20は、複数の金属イオン含有物質13と複数の有機分子12とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体、3次元構造体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配位高分子や有機金属錯体は、光学的、磁気的、電気化学的に興味深い特性を示すため、従来から研究されている。たとえば、有機金属錯体や配位高分子からなる構造体が提案されている(たとえば特許文献1および2)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−255651号公報
【特許文献2】特開2007−63448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来技術では、構造体を構成する材料を溶液中で混合することによって構造体が形成されるため、そのサイズや位置を制御することは難しかった。また、これらの構造体をデバイスに応用する場合には構造体を基板上に形成することが重要となるが、上記従来の方法では、構造体が基板上に形成されることはなかった。
【0005】
このような状況において、本発明は、サイズや形状が制御され基材上に形成された有機金属錯体および3次元構造体、およびそれらの製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、有機金属錯体を製造するための本発明の方法は、基材上に形成された有機金属錯体の製造方法であって、金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子を含む第1の液体に前記基材の表面を接触させる第1の工程と、前記金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体を前記基材上に形成する工程を含む。前記有機金属錯体は、複数の前記金属イオン含有物質と複数の前記有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。
【0007】
また、本発明の有機金属錯体は、基材の表面上に形成され、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体であって、前記有機金属錯体は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含む。
【0008】
また、3次元構造体を製造するための本発明の方法は、基材の表面上に形成された3次元構造体の製造方法であって、
(I)第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に前記基材の前記表面を接触させる工程と、前記第1の金属イオンおよび前記第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を前記表面上に形成する工程と、
(II)所定の化合物を含む第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、
(III)第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記第2の金属イオンおよび前記第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行うことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を前記第1の有機金属錯体の上方に形成する工程と、をこの順に含む。前記所定の化合物は、前記第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に前記所定の化合物が配置されることによって、前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に隙間が形成されている。
【0009】
また、本発明の3次元構造体は、基材の表面上に形成された3次元構造体であって、前記表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含み、複数の前記2次元構造体は、前記表面に対して垂直な方向に積層されており、前記2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含み、隣接する2つの前記2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように前記所定の化合物が隣接する2つの前記2次元構造体の間に配置されることによって、隣接する2つの前記2次元構造体の間に隙間が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サイズや形状が制御された状態で基板上に形成された、有機金属錯体および3次元構造体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。なお、以下の図面では配位結合によって電荷が中和された金属イオンを原子として示す場合がある。
【0012】
[有機金属錯体]
本発明の有機金属錯体は、基材の表面上に形成され、その表面に対して平行に延びる有機金属錯体である。以下、本発明の有機金属錯体を「有機金属錯体(1)」という場合がある。有機金属錯体(1)は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。以下、有機金属錯体(1)を構成する有機分子(有機配位子)を、「有機分子(OM)」という場合がある。金属イオン含有物質は、金属イオンおよび金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種(通常はいずれか一方)である。以下、金属イオン含有物質に含まれる金属イオンを、「金属イオン(MI)」という場合がある。金属イオン(MI)の配位数は2以上(たとえば、2、3または4)である。有機分子(OM)は、金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つ以上(たとえば、2つ、3つまたは4つ)含む。
【0013】
有機分子(OM)が金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つだけ含み、金属イオン(MI)の配位数が2である場合、図1(a)に示すように、線状(たとえば直線状)に延びる有機金属錯体(1)が得られる。図1において、矢印は配位結合する部位を示し、四角はその部位が結合している原子団を示し、“M”は、金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質を示す。また、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって、図1(b)に示すように、線状に延びる有機金属錯体を得ることが可能である。
【0014】
本発明では、有機分子(OM)は、金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上(たとえば3つや4つ)含有し、有機金属錯体(1)が2次元状に広がっている錯体であってもよい。この場合、有機金属錯体(1)は、基材の表面と平行に且つ2次元状に広がる。そのような有機金属錯体(1)を形成するためには、有機分子(OM)の中の、金属イオン(MI)に配位結合する複数の部位は、実質的に同一平面上に存在する必要がある。なお、それらの部位が厳密に同一平面上に存在しなくても、2次元状に広がる有機金属錯体(1)を形成できる。一例では、それらの部位は、1つの平面からの距離が2nm以内(たとえば1nm以内や0.5nm以内)の範囲に存在する。
【0015】
2次元状に広がる有機金属錯体(1)の例を、図1(c)〜(e)に模式的に示す。図1(c)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。図1(d)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が4である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。図1(e)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。
【0016】
図1(b)、(c)および(e)の有機金属錯体(1)は、結合に関与する数(配位結合する部位の数および金属イオン(MI)の配位数)が同じであっても、有機分子(OM)と金属イオン含有物質との配列が異なっている。このように、有機金属錯体(1)における有機分子(OM)と金属イオン含有物質との配列は、配位結合の角度、配位結合する部位の位置、および分子の形状によって変化する場合がある。
【0017】
図1に示すように、適切な有機分子(OM)と適切な金属イオン含有物質とを選択することによって、有機金属錯体(1)の形状を制御することが可能である。
【0018】
有機金属錯体(1)を構成できる限り、有機分子(OM)は2種類以上の有機分子を含んでもよいが、通常は1種の有機分子からなる。また、有機金属錯体(1)を構成できる限り、金属イオン含有物質は2種類以上の化合物を含んでもよいが、通常は1種類の化合物からなる。
【0019】
有機分子(OM)は、環状構造と、環状構造に結合された複数の原子団であって金属イオン(MI)に配位結合する原子団とを含んでもよく、さらに、配位結合によって環状構造の中央に配置された金属イオンを含んでもよい。環状構造の一例は、ポルフィン環である。
【0020】
有機分子(OM)の一例は、ポルフィリンである。このポルフィリンは、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオンといった金属イオンが中心に存在するポルフィリン金属錯体であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0021】
有機分子(OM)に含まれる、金属イオン(MI)に結合する部位の例には、カルボキシル基、アミノ基(第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンに含まれるアミノ基であり、たとえばピリジル基に含まれる“−N=”)、“−CO−COH−”、“−CN”、“−NC”、ジチオ酢酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、チオシアナト基、ホスフィンスルフィド基、トルフェニルホスフィンの基、フェナントロリンの基、エチレンジアミンの基、ホスファンオキシドの基、といった原子団が含まれる。好ましい原子団の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。
【0022】
有機分子(OM)は、導電性を有する分子であってもよい。たとえば、有機分子(OM)は、π共役鎖を含んでもよく、芳香族化合物(複素芳香族化合物を含む)であってもよい。
【0023】
有機分子(OM)の一例を、図2(a)〜(e)に示す。図2(a)に示す分子は、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン(5,10,15,20-Tetra(4-pyridyl)-21H,23H-porphine)である。以下、図2(a)に示す分子を、「TPyP」という場合がある。図2(a)に示す分子のピリジル基を、図2(b)に示す置換基に変更してもよい。そのような分子は、4,4’,4”,4”−(ポルフィン−5,10,15,20−テトライル)テトラキス(ベンゾイックアシッド)(4,4',4",4"-(Porphine-5,10,15,20-tetrayl)tetrakis(benzoic acid))である。以下、図2(b)に示す分子を、「TCPP」という場合がある。また、TCPPのポルフィリン環の中央に亜鉛イオンが配位した分子を「ZnTCPP」といい、コバルトイオンが配位した分子を「CoTCPP」といい、鉄イオンが配位した分子を「FeTCPP」といい、ルテニウムイオンが配位した分子を「RuTCPP」という場合がある。図2(c)に示す分子は、図2(a)の分子のポルフィン環の中央に亜鉛イオンが配位結合することによって得られる。図2(c)に示す分子は、ジンク5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン(Zinc 5,10,15,20-Tetra(4-pyridyl)-21H,23H-porphine)である。以下、図2(c)に示す分子を、「ZnTPyP」という場合がある。ZnTPyPの中心の亜鉛イオンは、他の金属イオン(たとえばコバルトイオン、鉄イオン、銅イオン)などであってもよい。ZnTPyPのZnをCoに置き換えた分子を、「CoTPyP」という場合がある。また、TPyPのポルフィリン環の中央に鉄イオンが配位した分子を「FeTPyP」といい、ルテニウムイオンが配位した分子を「RuTPyP」という場合がある。図2(a)〜(c)に示した有機分子(OM)では、配位結合可能な4つの部位が、分子の中心から90°ずつずれた方向に配置されている。
【0024】
図2(d)に示す分子は、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン(2,5-Dihydroxy-1,4-benzoquinone)である。以下、図2(d)に示す分子を、「DHBQ」という場合がある。図2(e)に示す分子は、ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシリックアシッド(Benzene-1,3,5-tricarboxylic acid)である。以下、図2(e)に示す分子を、「BTC」という場合がある。
【0025】
金属イオン(MI)を含有する金属イオン含有物質の例には、配位数が2以上の金属イオンや、配位数が2以上の金属イオンを含む錯体分子が含まれる。配位数が2以上の金属イオンの例には、Ag+,Cu+,Cu2+,Cd2+,Mn2+,Fe2+,Fe3+,Ni2+,Co2+,Zn2+,Cd2+,Pd2+,Pt2+が含まれる。配位数が2以上の金属イオンを含む錯体分子の一例を、図3に示す。図3の分子は、トランス−ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(II)(trans-Bis(benzonitrile)dichloropalladium(II))である。以下、図3の分子を、「PdCl2(CNPh)2」という場合がある。
【0026】
有機分子(OM)と金属イオン含有物質との好ましい組み合わせの例には、たとえば、ZnTPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、CoTPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、TPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、ZnTPyPとCu(NO3)2との組み合わせ、TPyPとCu(NO3)2との組み合わせ、ZnTPyPとAgNO3との組み合わせ、TPyPとAgNO3との組み合わせ、ZnTPyPとK2PtCl4との組み合わせ、TPyPとK2PtCl4との組み合わせ、DHBQとCu(NO3)2との組み合わせ、DHBQとNi(NO3)2との組み合わせ、DHBQとFeNO3)2との組み合わせ、BTCとCu(NO3)2との組み合わせ、BTCとNi(NO3)2との組み合わせ、BTCとFeNO3)2との組み合わせが挙げられる。
【0027】
有機金属錯体(1)を形成できる限り、基材に特に限定はない。基材の表面は、通常、平坦な面である。後述するように、基材の表面を構成する材料は、有機分子(OM)との相互作用を考慮して選択することが好ましい。基材の例には、金属基板、石英基板、ガラス基板、サファイヤ基板、樹脂基板、樹脂フィルム、グラファイト(HOPG)基板が含まれる。基材の表面に、表面の特性を変化させるための表面処理を施したり、金属膜を形成したりしてもよい。また、基材の表面に、自己組織化膜(SAM)を形成してもよい。基材表面の材料と有機分子(OM)との組み合わせの例には、たとえば、石英/ポルフィリン(たとえばZnTPyPやCoTPyP)、石英/SAM/ポルフィリン、金/ポルフィリン、金/SAM/ポルフィリン、HOPG/ポルフィリン、Cu/ポルフィリン、Pt/ポルフィリン、サファイヤ/ポルフィリンが挙げられる。
【0028】
[有機金属錯体の製造方法]
以下に、有機金属錯体を製造するための本発明の方法について説明する。この製造方法によれば、本発明の有機金属錯体(1)を製造できる。この製造方法で製造された有機金属錯体は、本発明の有機金属錯体(1)の一例である。なお、有機金属錯体(1)について説明した事項についてはこの製造方法に適用できる。たとえば、基材、有機分子(OM)および金属イオン含有物質については、上述したため、重複する説明を省略する場合がある。また、この製造方法について説明した事項については、本発明の有機金属錯体(1)に適用できる。
【0029】
本発明の製造方法は、第1の工程と第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、基材の表面に対して平行に延びる有機金属錯体(1)を基材上に形成する工程を含む。
【0030】
第1の工程では、金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子(OM)を含む第1の液体に基材の表面を接触させる。典型的な一例では、第1の液体は、有機分子(OM)が溶解している溶液である。第1の液体の溶媒は、有機分子(OM)に応じて選択される。基材の表面を第1の液体に接触させる方法としては、たとえば、第1の液体に基材を浸漬する方法が挙げられる。なお、基材は、表面を洗浄してから用いることが好ましい。たとえば、有機溶媒を用いた超音波洗浄によって、基材の表面を洗浄してもよい。
【0031】
第2の工程では、金属イオン含有物質を含む第2の液体に、基材の表面を接触させる。金属イオン含有物質は、金属イオン(MI)および金属イオン(MI)を含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種(通常はいずれか一方)である。
【0032】
有機金属錯体(1)を形成できる限り、第1および第2の液体の濃度に限定はない。第1の液体における有機分子の濃度は、10μM〜100mMの範囲にあってもよく、1mM以下であってもよい。また、第2の液体における金属イオン含有物質の濃度は、10μM〜100mMの範囲にあってもよく、1mM以下であってもよい。両者の液体の濃度を1mM以下とすることによって、基材表面に最初に付着する核分子の数を少なくすることができ、その結果、有機金属錯体(1)のドメインサイズを大きくすることが可能である。
【0033】
第1の工程は、(i−a)第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、(i−b)有機分子(OM)を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。また、第2の工程は、(ii−a)第2の液体に基材の表面を接触させる工程と、(ii−b)金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。なお、工程(ii−b)で用いられる溶媒は、有機分子(OM)と金属イオン含有物質の両方を溶解させることが可能であってもよい。また、工程(ii−a)の後であって工程(ii−b)の前または後に、(ii−c)有機分子(OM)を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程をさらに行ってもよい。
【0034】
有機金属錯体を製造するための本発明の方法は、第2の工程の後に、基材を熱処理する工程をさらに含んでもよい。熱処理を行うことによって、基材表面に存在する分子やイオンの再配列を促進させることができ、それらをより規則的に結合させることが可能となる。発明の効果が損なわれない限り、熱処理の温度および時間に限定はない。たとえば、60℃〜120℃の範囲にある温度で5分間〜60分間の範囲にある時間、熱処理を行ってもよい。熱処理は、不活性ガス(たとえば希ガスや窒素ガス)の雰囲気下において行ってもよい。
【0035】
以下に、製造工程の一例について、図4を参照しながら説明する。この例では、金属イオン(MI)に配位可能な部位を4つ含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質が用いられている。
【0036】
まず、有機分子(OM)が溶解している第1の溶液に基材を浸漬する。次に、第1の溶液から基材を取り出し、基材の表面を洗浄液で洗浄する。洗浄液には、有機分子(OM)が溶解する溶媒が用いられる。この洗浄によって、基材の表面に密着していない有機分子(OM)が除去される。その結果、図4(a)に示すように、基材11の表面には、有機分子12がランダムに配置される。
【0037】
基材と有機分子(OM)との相互作用が小さい場合、すなわち両者が引き合う力が小さい場合には、基材の表面に付着する有機分子(OM)は少なく、また、基材の表面において有機分子(OM)は比較的自由に移動することが可能である。基材と有機分子(OM)との相互作用が大きい場合には、基材の表面に付着する有機分子(OM)は多く、また、基材の表面において有機分子(OM)はあまり移動しない。基材と有機分子(OM)との相互作用に影響を与える因子としては、ファンデルワールス力、クーロン力、親水性の度合い(疎水性の度合い)などが挙げられる。基材と有機分子(OM)とが反発しあうような場合には基材の表面に有機分子(OM)を配置することが困難になる場合がある。そのため、基材と有機分子(OM)とは、両者がある程度引き合うような組み合わせとなるように選択することが好ましい。
【0038】
次に、金属イオン含有物質が溶解している第2の溶液に基材を浸漬する。有機分子(OM)の所定の部位には、金属イオン含有物質に含まれる金属イオン(MI)が配位結合する。その結果、図4(b)に示すように、有機分子12と金属イオン含有物質13の金属イオンとが配位結合によって規則的に連結された有機金属錯体20が形成される。次に、第2の溶液から基材を取り出し、基材の表面を洗浄液で洗浄する。洗浄液には、有機分子12の溶解性が高い溶媒が用いられる。この洗浄によって、図4(c)に示すように、有機金属錯体20に含まれない有機分子12が除去される。
【0039】
上記工程を繰り返すことによって、図4(d)に示すように、有機金属錯体20のサイズを大きくすることができる。また、溶液に浸漬する時間や、溶液の濃度を変化させることによっても、有機金属錯体(1)のサイズを変化させることができる。
【0040】
また、基材の表面のうち、一部のみに有機分子(OM)との親和性が高い部分を形成することによって、基材の表面の一部のみに有機金属錯体(1)を形成することが可能である。このような選択的な形成は、有機金属錯体をデバイスの一部に用いる場合には特に重要である。
【0041】
従来から、蒸着法や溶液浸漬法によって、固体表面に分子を配列させる方法が提案されているが、従来の方法ではドメインサイズの制御が困難であった。また、異なる2種類の溶液に交互に基板を浸漬させることによって3次元構造体を形成する方法(Layer-by-Layerや交互吸着法と呼ばれる方法)も提案されている。しかし、この方法では基板表面に対して垂直な方向における厚さを制御することは可能であるが、基板表面に対して平行な方向における配列を制御することは困難であった。これに対し、本発明によれば、サイズが制御された1次元状または2次元状の有機金属錯体を得ることが可能である。
【0042】
本発明の有機金属錯体およびその製造方法について、例を挙げて以下に説明する。
【0043】
[実施例1]
実施例1では、基材として石英基板を用い、有機分子(OM)としてZnTPyPを用い、金属イオン含有物質としてPdCl2(CNPh)2を用いた。
【0044】
まず、クロロホルムを用いた超音波洗浄によって基板(石英基板)を10分間洗浄した。次に、有機分子(OM)を含む第1の液体に基板を浸漬した(工程(i−a))。第1の液体には、クロロホルムとメタノールとを体積比が3:1の割合で混合した溶媒にZnTPyPを溶解することによって得られた溶液(濃度:10μM)を用いた。浸漬時間は5秒間とした。次に、基板を、第1の洗浄液によって洗浄した(工程(i−b))。第1の洗浄液には、クロロホルムを用いた。洗浄時間は10秒間とした。
【0045】
次に、金属イオン含有物質を含む第2の液体に基板を浸漬した(工程(ii−a))。第2の液体には、クロロホルムにPdCl2(CNPh)2を溶解することによって得られた溶液(濃度:10μM)を用いた。浸漬時間は1分間とした。次に、石英基板を、第2の洗浄液によって洗浄した(工程(ii−b))。第2の洗浄液にはクロロホルムを用いた。洗浄時間は10秒間とした。
【0046】
工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、および工程(ii−b)を1サイクルとして、このサイクルを10回繰り返した。そして、サイクルを繰り返すごとに、サンプルの吸収スペクトルを測定した。サイクル数の増加に伴う吸収スペクトルの変化を、図5に示す。
【0047】
図5に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍に存在する吸収ピークが高くなっている。この吸収ピークは、ZnTPyPに由来する吸収ピークである。そのため、吸収ピークの高さの変化は、サイクル数が増えるに従って、基板上に存在するZnTPyPの数が増えたことを示している。
【0048】
また、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍に存在する吸収ピークのピーク波長が長波長側にシフトしている。図5では、参考のために、5サイクルのときの吸収スペクトルのピーク波長が存在する位置に、補助線を付している。このピーク波長のシフトは、ZnTPyPと金属イオン含有物質とが規則的に配列して有機金属錯体(1)を構成することによって生じると考えられる。そのため、サイクル数を繰り返すごとに、ZnTPyPと金属イオン含有物質とが規則的に配列する度合いが高まっていると考えられる。
【0049】
[比較例1]
比較例1では、上述した工程(i−a)および工程(i−b)を1サイクルとして、これらの工程を繰り返し行った。基材、ならびに工程(i−a)および工程(i−b)の条件は、実施例1と同じとした。サイクル数が1、2、3および10回のときの吸収スペクトルを図6に示す。図6に示すように、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行わない比較例1では、430〜440nm近傍のピークはブロードであった。また、サイクル数が増えてもピークの高さは変わらなかった。
【0050】
実施例1および比較例1について、サイクル数とピーク波長における吸光度との関係を図7に示す。なお、図7の実施例1に関しては、20サイクルまでの結果を示した。図7に示すように、実施例1では、サイクル数が増えるにつれて吸収ピークが高くなった。
【0051】
[実施例2]
実施例2では、基材が異なることを除いて、実施例1と同様の条件で工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行った。実施例2では、基材として、ガラス基板上に、ITO(酸化インジウム・スズ)の層(厚さ:300nm)、Cr層(厚さ:5〜10nm)、およびAu層(厚さ:10nm)をこの順に積層した基板を用いた。
【0052】
サイクル数が1、2、3、4および6サイクルのときの吸収スペクトルを図8に実線で示す。また、それぞれのサイクルにおける、工程(i−b)の後で工程(ii−a)の前の時点での吸収スペクトルを図8に点線で示す。
【0053】
図8に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。また、図8に示すように、1〜4サイクルでは、金属イオン含有物質を含む第2の液体による処理を行うことによって、ピーク波長が長波長側にシフトした。
【0054】
[実施例3]
実施例3では、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)の一部の条件を実施例1の条件とは変え、さらに工程(ii−c)を加えて、有機金属錯体を作製した。基材には、実施例1と同様に、クロロホルムで10秒間超音波洗浄した石英基板を用いた。実施例3で採用した条件を、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例3の工程(ii)では、メタノールによる洗浄ののち、クロロホルム/メタノール混合液による洗浄を行った。
【0057】
サイクル数が2、4、6、8、9、10および11サイクルのときの吸収スペクトルを図9に実線で示す。また、それぞれのサイクルにおける、工程(i−b)の後で工程(ii−a)の前の時点での吸収スペクトルを図9に点線で示す。
【0058】
図9に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。また、図9に示すように、金属イオン含有物質を含む第2の液体による処理を行うことによって、ピーク波長が長波長側にシフトした。
【0059】
[実施例4]
実施例4では、基材が異なることを除き、実施例3と同じ条件で工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行うことによって有機金属錯体を作製した。基材には、実施例2の基板と同じ基板を用いた。基板は、エタノールで10秒間超音波洗浄してから用いた。
【0060】
サイクル数が2〜7サイクルのときの吸収スペクトルを図10に示す。図10に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。
【0061】
実施例4の方法において、工程(ii−b)が終わるごとに、熱処理を行ってもよい。すなわち、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、工程(ii−b)および熱処理を1サイクルとして、このサイクルを繰り返してもよい。熱処理は、たとえば、アルゴン雰囲気中において、基材を80℃で10分間加熱することによって行うことができる。
【0062】
実施例1〜4について、サイクル数とピーク波長における吸光度との関係を図11に示す。実施例1と実施例2、および、実施例3と実施例4とは、基板が異なることを除いて同じ条件で有機金属錯体を作製している。しかし、図11に示すように、各実施例のピーク波長における吸光度には差が見られた。
【0063】
[実施例5]
実施例5では、実施可能な一例について説明する。基材には石英基板が用いられる。基板は、エタノールを用いた超音波洗浄を10分間行ってから用いられる。実施例5で採用される条件を、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示す工程を繰り返すことによって有機金属錯体が作製される。実施例5の方法において、工程(ii−b)が終わるごとに、熱処理を行ってもよい。すなわち、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、工程(ii−b)および熱処理を1サイクルとして、このサイクルを繰り返してもよい。熱処理は、たとえば、アルゴン雰囲気中において、基材を100℃で10分間加熱することによって行うことができる。
【0066】
[3次元構造体]
以下、本発明の3次元構造体について説明する。この3次元構造体は、2次元状に広がる有機金属錯体を含み、全体が有機金属錯体であってもよい。
【0067】
本発明の3次元構造体は、基材の表面上に形成されている。この3次元構造体は、基材の表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含む。以下、その所定の化合物を、「ピラー分子」という場合がある。2次元構造体には、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる有機金属錯体を用いることができる。また、基材には、本発明の有機金属錯体(1)に関する記載において説明された基材を用いることができる。3次元構造体に含まれる2次元構造体の数に限定はないが、たとえば2〜10の範囲にあってもよい。
【0068】
複数の2次元構造体は、基材の表面に対して垂直な方向に積層されている。2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子(OM)とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。金属イオン含有物質は、金属イオン(MI)および金属イオン(MI)を含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種である。2次元構造体には、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる有機金属錯体を用いることができる。金属イオン含有物質および有機分子(OM)については上述したため、重複する説明を省略する。ただし、2次元構造体を構成する有機分子(OM)は、金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含む。
【0069】
複数の2次元構造体は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。たとえば、基材上に最初に形成される1層目の2次元構造体と、その上に形成される2層目以降の2次元構造体とで、有機分子(OM)および/または金属イオン含有物質が異なってもよい。
【0070】
ピラー分子は、隣接する2つの2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように隣接する2つの2次元構造体の間に配置される。隣接する2つの2次元構造体の間にピラー分子が配置されることによって、隣接する2つの2次元構造体の間に隙間が形成される。以下、隣接する2つの2次元構造体の間の隙間を、「隙間(G)」という場合がある。
【0071】
ピラー分子は、2次元構造体中の金属イオンに配位結合する複数の部位を含んでもよい。ピラー分子が配位結合する金属イオンは、有機分子(OM)が配位する金属イオン(MI)であってもよいし、それ以外の金属イオンであってもよい。たとえば、有機分子(OM)が、環状構造と、配位結合によって環状構造の中央に配置された金属イオン(MC)とを含む場合、ピラー分子は金属イオン(MC)に配位結合してもよい。金属イオン(MC)には、ポルフィリン金属錯体の中心に存在する金属イオンが含まれる。
【0072】
2次元構造体中の金属イオンに配位結合する部位の例には、カルボキシル基、アミノ基(第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンに含まれるアミノ基であり、たとえばピリジル基に含まれる“−N=”)、“−CO−COH−”といった原子団が含まれる。好ましい原子団の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。
【0073】
ピラー分子は、導電性を有する分子であってもよい。たとえば、ピラー分子は、π共役鎖を含んでもよく、芳香族化合物(複素芳香族化合物を含む)であってもよい。ピラー分子の例には、ピラジン、4,4’−ビピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane、以下、「DABCO」という場合がある)、1,4−ジシアノベンゼン、1,2,4,5−テトラジン、4,4’−ビフェニルカルボニトリルが含まれる。
【0074】
有機分子(OM)/金属イオン含有物質/ピラー分子の組み合わせの例としては、たとえば、ZnTPyP/PdCl2(CNPh)2/DABCOが挙げられる。この組み合わせにおいて、一部の2次元構造体を構成する有機分子(OM)にZnTPyPを用い、他の2次元構造体を構成する有機分子(OM)にCoTPyPを用いてもよい。また、有機分子(OM)/金属イオン含有物質/ピラー分子の組み合わせの例には、ZnTPyP/AgNO3/DABCO、ZnTCPP/Cu(NO3)2/DABCO、CoTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、CoTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、CoTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、RuTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、RuTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、RuTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、FeTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、FeTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、FeTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、といった組み合わせが含まれる。また、本発明の3次元構造体は、上記組み合わせから選ばれる1つの組み合わせのみで構成されてもよいし、上記組み合わせから選ばれる複数の組み合わせで構成されてもよい。たとえば、基材側の第1の2次元構造体(第1の有機金属錯体)を構成する有機分子(OM)/金属イオン含有物質の組み合わせと、第1の2次元構造体の上方に形成される第2の2次元構造体(第2の有機金属錯体)を構成する有機分子(OM)/金属イオン含有物質の組み合わせとは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0075】
本発明の3次元構造体では、隣接する2つの2次元構造体の間の隙間(G)に金属微粒子が配置されていてもよい。後述するように、金属微粒子のサイズおよび位置を制御することが可能である。金属微粒子のサイズは、たとえば1nm〜50nmの範囲にあってもよい。金属微粒子を構成する金属元素は、用途に応じて選択される。金属微粒子を構成する金属の例には、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、それら以外の遷移金属、またはこれらの合金が含まれる。触媒として機能する金属微粒子を隙間(G)に配置することによって、効率がよい触媒を形成することが可能となる。
【0076】
[3次元構造体の製造方法]
以下、基材の上に形成された3次元構造体を製造するための本発明の製造方法について説明する。この製造方法によれば、本発明の3次元構造体を製造できる。この製造方法で製造された3次元構造体は、本発明の3次元構造体の一例である。なお、本発明の3次元構造体について説明した事項についてはこの製造方法に適用できる。また、この製造方法について説明した事項については、本発明の3次元構造体に適用できる。
【0077】
3次元構造体を製造するための本発明の方法は、以下の工程(I)、(II)および(III)を含む。
【0078】
工程(I)では、第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、第1の金属イオンおよび第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に基材の表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返す。この繰り返しによって、基材の表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を基材の表面上に形成する。
【0079】
工程(I)で形成される第1の有機金属錯体は、本発明の3次元構造体に含まれる2次元構造体であり、すなわち、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる錯体である。工程(I)には、有機金属錯体(1)の製造方法を適用できるため、重複する説明を省略する。第1の金属イオンには金属イオン(MI)を適用できる。第1の有機分子には、有機分子(OM)のうち、金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上含有するものを適用できる。
【0080】
有機金属錯体(1)の製造方法で説明したように、工程(I)は、(I−a)第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、(I−b)第1の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程と、(I−c)第2の液体に基材の表面を接触させる工程と、(I−d)第1の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、第1の有機金属錯体を形成する工程であってもよい。工程(I−a)、工程(I−b)、工程(I−c)および工程(I−d)は、それぞれ、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)に相当する。工程(I)は、工程(I−c)の後であって工程(I−d)の前または後に、工程(ii−c)に相当する工程(I−e)をさらに含んでもよい。
【0081】
工程(II)では、所定の化合物を含む第3の液体に基材の上記表面側(第1の有機金属錯体が形成されている側)を接触させる。工程(II)で用いられる化合物は、上述したピラー分子であり、工程(I)で形成される第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、工程(III)で形成される第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。なお、ピラー分子は、有機金属錯体と結合する部位を3つ以上含んでもよい。3次元構造体を形成できる限り、第3の液体におけるピラー分子の濃度について限定はない。第3の液体におけるピラー分子の濃度は、たとえば10μM〜100mMの範囲にあってもよい。
【0082】
工程(II)は、(II−a)第3の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(II−b)ピラー分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。工程(II−b)によって、第1の有機金属錯体に結合していないピラー分子を除去できる。
【0083】
工程(III)では、第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、第2の金属イオンおよび第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に基材の上記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行う。このサイクルによって、基材の表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を、工程(I)で形成された第1の有機金属錯体の上方に形成する。
【0084】
工程(III)は、(III−a)第4の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(III−b)第2の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程と、(III−c)第5の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(III−d)第2の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。工程(III−a)、工程(III−b)、工程(III−c)および工程(III−d)は、それぞれ、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)に相当する。工程(III)は、工程(III−c)の後であって工程(III−d)の前または後に、工程(ii−c)に相当する工程(III−e)をさらに含んでもよい。
【0085】
工程(III)で形成される2次元状の有機金属錯体は、本発明の3次元構造体に含まれる2次元構造体であり、すなわち、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる錯体である。工程(III)には、有機金属錯体(1)の製造方法を適用できるため、重複する説明を省略する。ただし、工程(III)では、有機金属錯体(1)の製造方法の第1および第2の工程からなるサイクルを行う回数が1回だけでもよい。
【0086】
第2の金属イオンには金属イオン(MI)を適用できる。第2の有機分子には、有機分子(OM)のうち金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上含有するものを適用できる。工程(I)で用いられる有機分子(OM)および金属イオン含有物質と、工程(III)で用いられる有機分子(OM)および金属イオン含有物質とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0087】
工程(I)で形成された第1の有機金属錯体(1層目の2次元構造体)には、工程(II)のピラー分子が結合している。そのため、工程(III)で形成される第2の有機金属錯体(2層目の2次元構造体)は、ピラー分子上に形成される。第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間にピラー分子が配置されることによって、第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間に隙間(G)が形成される。隙間(G)は、ピラー分子に含まれる第1の部位と第2の部位との距離が長いほど大きくなる。
【0088】
本発明の製造方法では、有機分子(OM)の種類、金属イオン含有物質の種類、ピラー分子の種類、液体の濃度、工程の繰り返し回数などを調整することによって、3次元構造体の形状やサイズを制御することが可能である。
【0089】
本発明の製造方法では、工程(II’)と上記工程(III)とを、この順に繰り返すことによって、複数の第2の有機金属錯体を積層する工程をさらに含んでもよい。工程(II’)では、第2の所定の化合物(第2のピラー化合物)を含む第6の液体に基材の上記表面側を接触させる。第2のピラー化合物は、基材上に形成された第1および第2の有機金属錯体のうち最表面に存在する有機金属錯体と結合する第1の部位と、工程(II’)の次の工程(III)で形成される前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。工程(II’)は、工程(II)と同様の方法で行うことができる。第2のピラー化合物には、工程(II)の説明において述べたピラー化合物を用いることができる。なお、繰り返し行われる工程(II’)および工程(III)のサイクルで用いられる、ピラー分子である分子、第2の有機分子である分子、および第2の金属イオン含有物質である化合物は、すべてのサイクルで同じであってもよいし、サイクルごとに異なってもよい。
【0090】
本発明の製造方法は、工程(III)の後に、第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間の隙間(G)に第3の金属イオンが配置された状態で第3の金属イオンを還元することによって、隙間(G)に配置された金属微粒子を形成する工程(IV)をさらに含んでもよい。金属微粒子を構成する金属イオンとしては、本発明の3次元構造体で説明した金属微粒子を構成する金属のイオンを用いることができる。なお、3次元構造体が3つ以上の有機金属錯体を含む場合には、3次元構造体を形成した後に、すべての隙間(G)に第3の金属イオン配置した状態で第3の金属イオンを還元することによって、すべての隙間(G)金属微粒子を配置することができる。
【0091】
工程(IV)の一例を以下に説明する。この一例では、導電性の基材を用いるか、基材の表面に導電性の膜(たとえば金属膜)が形成された基材を用いる。まず、3次元構造体が形成された基材を、第3の金属イオンが溶解している溶液に浸漬する。次に、基材がカソードとなるように基材と対極との間に直流電圧を印加する。その結果、隙間(G)に存在する第3の金属イオンが還元され、隙間(G)の中に金属微粒子が形成される。この方法では、金属微粒子のサイズおよび位置が、隙間(G)によって制御される。そのため、サイズおよび位置が制御された金属微粒子を形成できる。
【0092】
本発明の製造方法では、工程(i)で用いられる第1の有機分子、および工程(ii)で用いられる第2の有機分子がポルフィリンであってもよい。
【0093】
現在、水素はクリーンなエネルギー源として注目されている。水素を燃料として利用する燃料電池は、電気自動車に搭載されるなど、すでに実用化の段階に達しているが、その普及は遅れている。普及の遅れの原因の1つは、高価な白金が電極に用いられていることである。実用化されている燃料電池の電極は、導電性を有する多孔質炭素材料に、触媒として機能する白金ナノ粒子を担持させることによって形成されている。この電極は、反応点が少ないために効率が低いという問題、また、ナノメートルオーダーでの精密な設計および作製が困難であるという問題を有していた。これに対し、本発明の3次元構造体は、骨格および空間の精密な設計を行うことができ、反応に対して最適な構造を構築することが可能である。また、反応が生じる場所を面(骨格表面および金属微粒子表面)とすることができるため、高い効率が期待される。
【0094】
以下、本発明の3次元構造体を製造することが可能な例について説明する。
【0095】
[実施例1]
実施例1では、基材として金からなる基板を用いる。まず、基板をエタノール中で10分間超音波洗浄する。
【0096】
次に、本発明の有機金属錯体に関する実施例3で説明したサイクルを7回繰り返し、第1の有機金属錯体を形成する(工程(I))。次に、ピラー分子を含む第3の液体に、基材を30分間浸漬する(工程(II))。第3の液体には、DABCOのエタノール溶液(濃度:100μM)を用いる。次に、以下の5つの工程からなる工程(III)を行うことによって第2の有機金属錯体を形成する。
【0097】
【表3】
【0098】
工程(II)および工程(III)からなるサイクルを1回だけ行うと、2つの2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。また、工程(II)および工程(III)からなるサイクルを2回行うと、3つの2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。工程(II)および工程(III)からなるサイクルをn回行うと、[n+1]個の2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。
【0099】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の方法で作製できる3次元構造体の隙間(G)に、金属微粒子を形成する方法について説明する。
【0100】
まず、実施例1の方法によって、3次元構造体を金基板上に形成する。次に、その金基板と対極とを、H2PdCl2の水溶液(濃度:2mM)に浸漬する。H2PdCl2の水溶液は、塩化パラジウム(PdCl2)を希塩酸に溶解させることによって調製できる。次に、金基板がカソードとなるように、金基板と対極との間に直流電圧を印加する。この電圧印加によって、パラジウムイオンが電解還元され、隙間(G)にパラジウムの微粒子が形成される。
【0101】
なお、H2PdCl2の水溶液の代わりに、H2PtCl6の水溶液(濃度:2mM)を用いることによって、隙間(G)に白金の微粒子を形成できる。H2PtCl6の水溶液は、塩化白金(VI)酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)を超純水に溶解させることによって調製できる。
【0102】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によって得られる有機金属錯体および3次元構造体は、有機デバイス、触媒、電極などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の有機金属錯体の例を示す模式図である。
【図2】本発明で用いられる有機分子の例を示す図である。
【図3】本発明で用いられる金属イオン含有物質の例を示す図である。
【図4】有機金属錯体を製造するための本発明の方法について、工程を模式的に示す図である。
【図5】実施例1で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】比較例1で作製したサンプルの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1および比較例1で作製したサンプルについて、ピーク波長における吸光度の変化を示すグラフである。
【図8】実施例2で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例3で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例4で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図11】実施例1〜4で作製した有機金属錯体について、ピーク波長における吸光度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0105】
11 基材
12 有機分子
13 金属イオン含有物質
20 有機金属錯体
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体、3次元構造体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配位高分子や有機金属錯体は、光学的、磁気的、電気化学的に興味深い特性を示すため、従来から研究されている。たとえば、有機金属錯体や配位高分子からなる構造体が提案されている(たとえば特許文献1および2)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−255651号公報
【特許文献2】特開2007−63448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来技術では、構造体を構成する材料を溶液中で混合することによって構造体が形成されるため、そのサイズや位置を制御することは難しかった。また、これらの構造体をデバイスに応用する場合には構造体を基板上に形成することが重要となるが、上記従来の方法では、構造体が基板上に形成されることはなかった。
【0005】
このような状況において、本発明は、サイズや形状が制御され基材上に形成された有機金属錯体および3次元構造体、およびそれらの製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、有機金属錯体を製造するための本発明の方法は、基材上に形成された有機金属錯体の製造方法であって、金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子を含む第1の液体に前記基材の表面を接触させる第1の工程と、前記金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体を前記基材上に形成する工程を含む。前記有機金属錯体は、複数の前記金属イオン含有物質と複数の前記有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。
【0007】
また、本発明の有機金属錯体は、基材の表面上に形成され、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体であって、前記有機金属錯体は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含む。
【0008】
また、3次元構造体を製造するための本発明の方法は、基材の表面上に形成された3次元構造体の製造方法であって、
(I)第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に前記基材の前記表面を接触させる工程と、前記第1の金属イオンおよび前記第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を前記表面上に形成する工程と、
(II)所定の化合物を含む第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、
(III)第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記第2の金属イオンおよび前記第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行うことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を前記第1の有機金属錯体の上方に形成する工程と、をこの順に含む。前記所定の化合物は、前記第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に前記所定の化合物が配置されることによって、前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に隙間が形成されている。
【0009】
また、本発明の3次元構造体は、基材の表面上に形成された3次元構造体であって、前記表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含み、複数の前記2次元構造体は、前記表面に対して垂直な方向に積層されており、前記2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含み、隣接する2つの前記2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように前記所定の化合物が隣接する2つの前記2次元構造体の間に配置されることによって、隣接する2つの前記2次元構造体の間に隙間が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サイズや形状が制御された状態で基板上に形成された、有機金属錯体および3次元構造体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。なお、以下の図面では配位結合によって電荷が中和された金属イオンを原子として示す場合がある。
【0012】
[有機金属錯体]
本発明の有機金属錯体は、基材の表面上に形成され、その表面に対して平行に延びる有機金属錯体である。以下、本発明の有機金属錯体を「有機金属錯体(1)」という場合がある。有機金属錯体(1)は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。以下、有機金属錯体(1)を構成する有機分子(有機配位子)を、「有機分子(OM)」という場合がある。金属イオン含有物質は、金属イオンおよび金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種(通常はいずれか一方)である。以下、金属イオン含有物質に含まれる金属イオンを、「金属イオン(MI)」という場合がある。金属イオン(MI)の配位数は2以上(たとえば、2、3または4)である。有機分子(OM)は、金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つ以上(たとえば、2つ、3つまたは4つ)含む。
【0013】
有機分子(OM)が金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つだけ含み、金属イオン(MI)の配位数が2である場合、図1(a)に示すように、線状(たとえば直線状)に延びる有機金属錯体(1)が得られる。図1において、矢印は配位結合する部位を示し、四角はその部位が結合している原子団を示し、“M”は、金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質を示す。また、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって、図1(b)に示すように、線状に延びる有機金属錯体を得ることが可能である。
【0014】
本発明では、有機分子(OM)は、金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上(たとえば3つや4つ)含有し、有機金属錯体(1)が2次元状に広がっている錯体であってもよい。この場合、有機金属錯体(1)は、基材の表面と平行に且つ2次元状に広がる。そのような有機金属錯体(1)を形成するためには、有機分子(OM)の中の、金属イオン(MI)に配位結合する複数の部位は、実質的に同一平面上に存在する必要がある。なお、それらの部位が厳密に同一平面上に存在しなくても、2次元状に広がる有機金属錯体(1)を形成できる。一例では、それらの部位は、1つの平面からの距離が2nm以内(たとえば1nm以内や0.5nm以内)の範囲に存在する。
【0015】
2次元状に広がる有機金属錯体(1)の例を、図1(c)〜(e)に模式的に示す。図1(c)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。図1(d)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が4である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。図1(e)の錯体は、金属イオン(MI)に配位結合する4つの部位を含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質とを用いることによって形成できる。
【0016】
図1(b)、(c)および(e)の有機金属錯体(1)は、結合に関与する数(配位結合する部位の数および金属イオン(MI)の配位数)が同じであっても、有機分子(OM)と金属イオン含有物質との配列が異なっている。このように、有機金属錯体(1)における有機分子(OM)と金属イオン含有物質との配列は、配位結合の角度、配位結合する部位の位置、および分子の形状によって変化する場合がある。
【0017】
図1に示すように、適切な有機分子(OM)と適切な金属イオン含有物質とを選択することによって、有機金属錯体(1)の形状を制御することが可能である。
【0018】
有機金属錯体(1)を構成できる限り、有機分子(OM)は2種類以上の有機分子を含んでもよいが、通常は1種の有機分子からなる。また、有機金属錯体(1)を構成できる限り、金属イオン含有物質は2種類以上の化合物を含んでもよいが、通常は1種類の化合物からなる。
【0019】
有機分子(OM)は、環状構造と、環状構造に結合された複数の原子団であって金属イオン(MI)に配位結合する原子団とを含んでもよく、さらに、配位結合によって環状構造の中央に配置された金属イオンを含んでもよい。環状構造の一例は、ポルフィン環である。
【0020】
有機分子(OM)の一例は、ポルフィリンである。このポルフィリンは、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオンといった金属イオンが中心に存在するポルフィリン金属錯体であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0021】
有機分子(OM)に含まれる、金属イオン(MI)に結合する部位の例には、カルボキシル基、アミノ基(第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンに含まれるアミノ基であり、たとえばピリジル基に含まれる“−N=”)、“−CO−COH−”、“−CN”、“−NC”、ジチオ酢酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、チオシアナト基、ホスフィンスルフィド基、トルフェニルホスフィンの基、フェナントロリンの基、エチレンジアミンの基、ホスファンオキシドの基、といった原子団が含まれる。好ましい原子団の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。
【0022】
有機分子(OM)は、導電性を有する分子であってもよい。たとえば、有機分子(OM)は、π共役鎖を含んでもよく、芳香族化合物(複素芳香族化合物を含む)であってもよい。
【0023】
有機分子(OM)の一例を、図2(a)〜(e)に示す。図2(a)に示す分子は、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン(5,10,15,20-Tetra(4-pyridyl)-21H,23H-porphine)である。以下、図2(a)に示す分子を、「TPyP」という場合がある。図2(a)に示す分子のピリジル基を、図2(b)に示す置換基に変更してもよい。そのような分子は、4,4’,4”,4”−(ポルフィン−5,10,15,20−テトライル)テトラキス(ベンゾイックアシッド)(4,4',4",4"-(Porphine-5,10,15,20-tetrayl)tetrakis(benzoic acid))である。以下、図2(b)に示す分子を、「TCPP」という場合がある。また、TCPPのポルフィリン環の中央に亜鉛イオンが配位した分子を「ZnTCPP」といい、コバルトイオンが配位した分子を「CoTCPP」といい、鉄イオンが配位した分子を「FeTCPP」といい、ルテニウムイオンが配位した分子を「RuTCPP」という場合がある。図2(c)に示す分子は、図2(a)の分子のポルフィン環の中央に亜鉛イオンが配位結合することによって得られる。図2(c)に示す分子は、ジンク5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン(Zinc 5,10,15,20-Tetra(4-pyridyl)-21H,23H-porphine)である。以下、図2(c)に示す分子を、「ZnTPyP」という場合がある。ZnTPyPの中心の亜鉛イオンは、他の金属イオン(たとえばコバルトイオン、鉄イオン、銅イオン)などであってもよい。ZnTPyPのZnをCoに置き換えた分子を、「CoTPyP」という場合がある。また、TPyPのポルフィリン環の中央に鉄イオンが配位した分子を「FeTPyP」といい、ルテニウムイオンが配位した分子を「RuTPyP」という場合がある。図2(a)〜(c)に示した有機分子(OM)では、配位結合可能な4つの部位が、分子の中心から90°ずつずれた方向に配置されている。
【0024】
図2(d)に示す分子は、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン(2,5-Dihydroxy-1,4-benzoquinone)である。以下、図2(d)に示す分子を、「DHBQ」という場合がある。図2(e)に示す分子は、ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシリックアシッド(Benzene-1,3,5-tricarboxylic acid)である。以下、図2(e)に示す分子を、「BTC」という場合がある。
【0025】
金属イオン(MI)を含有する金属イオン含有物質の例には、配位数が2以上の金属イオンや、配位数が2以上の金属イオンを含む錯体分子が含まれる。配位数が2以上の金属イオンの例には、Ag+,Cu+,Cu2+,Cd2+,Mn2+,Fe2+,Fe3+,Ni2+,Co2+,Zn2+,Cd2+,Pd2+,Pt2+が含まれる。配位数が2以上の金属イオンを含む錯体分子の一例を、図3に示す。図3の分子は、トランス−ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(II)(trans-Bis(benzonitrile)dichloropalladium(II))である。以下、図3の分子を、「PdCl2(CNPh)2」という場合がある。
【0026】
有機分子(OM)と金属イオン含有物質との好ましい組み合わせの例には、たとえば、ZnTPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、CoTPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、TPyPとPdCl2(CNPh)2との組み合わせ、ZnTPyPとCu(NO3)2との組み合わせ、TPyPとCu(NO3)2との組み合わせ、ZnTPyPとAgNO3との組み合わせ、TPyPとAgNO3との組み合わせ、ZnTPyPとK2PtCl4との組み合わせ、TPyPとK2PtCl4との組み合わせ、DHBQとCu(NO3)2との組み合わせ、DHBQとNi(NO3)2との組み合わせ、DHBQとFeNO3)2との組み合わせ、BTCとCu(NO3)2との組み合わせ、BTCとNi(NO3)2との組み合わせ、BTCとFeNO3)2との組み合わせが挙げられる。
【0027】
有機金属錯体(1)を形成できる限り、基材に特に限定はない。基材の表面は、通常、平坦な面である。後述するように、基材の表面を構成する材料は、有機分子(OM)との相互作用を考慮して選択することが好ましい。基材の例には、金属基板、石英基板、ガラス基板、サファイヤ基板、樹脂基板、樹脂フィルム、グラファイト(HOPG)基板が含まれる。基材の表面に、表面の特性を変化させるための表面処理を施したり、金属膜を形成したりしてもよい。また、基材の表面に、自己組織化膜(SAM)を形成してもよい。基材表面の材料と有機分子(OM)との組み合わせの例には、たとえば、石英/ポルフィリン(たとえばZnTPyPやCoTPyP)、石英/SAM/ポルフィリン、金/ポルフィリン、金/SAM/ポルフィリン、HOPG/ポルフィリン、Cu/ポルフィリン、Pt/ポルフィリン、サファイヤ/ポルフィリンが挙げられる。
【0028】
[有機金属錯体の製造方法]
以下に、有機金属錯体を製造するための本発明の方法について説明する。この製造方法によれば、本発明の有機金属錯体(1)を製造できる。この製造方法で製造された有機金属錯体は、本発明の有機金属錯体(1)の一例である。なお、有機金属錯体(1)について説明した事項についてはこの製造方法に適用できる。たとえば、基材、有機分子(OM)および金属イオン含有物質については、上述したため、重複する説明を省略する場合がある。また、この製造方法について説明した事項については、本発明の有機金属錯体(1)に適用できる。
【0029】
本発明の製造方法は、第1の工程と第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、基材の表面に対して平行に延びる有機金属錯体(1)を基材上に形成する工程を含む。
【0030】
第1の工程では、金属イオン(MI)に配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子(OM)を含む第1の液体に基材の表面を接触させる。典型的な一例では、第1の液体は、有機分子(OM)が溶解している溶液である。第1の液体の溶媒は、有機分子(OM)に応じて選択される。基材の表面を第1の液体に接触させる方法としては、たとえば、第1の液体に基材を浸漬する方法が挙げられる。なお、基材は、表面を洗浄してから用いることが好ましい。たとえば、有機溶媒を用いた超音波洗浄によって、基材の表面を洗浄してもよい。
【0031】
第2の工程では、金属イオン含有物質を含む第2の液体に、基材の表面を接触させる。金属イオン含有物質は、金属イオン(MI)および金属イオン(MI)を含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種(通常はいずれか一方)である。
【0032】
有機金属錯体(1)を形成できる限り、第1および第2の液体の濃度に限定はない。第1の液体における有機分子の濃度は、10μM〜100mMの範囲にあってもよく、1mM以下であってもよい。また、第2の液体における金属イオン含有物質の濃度は、10μM〜100mMの範囲にあってもよく、1mM以下であってもよい。両者の液体の濃度を1mM以下とすることによって、基材表面に最初に付着する核分子の数を少なくすることができ、その結果、有機金属錯体(1)のドメインサイズを大きくすることが可能である。
【0033】
第1の工程は、(i−a)第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、(i−b)有機分子(OM)を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。また、第2の工程は、(ii−a)第2の液体に基材の表面を接触させる工程と、(ii−b)金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。なお、工程(ii−b)で用いられる溶媒は、有機分子(OM)と金属イオン含有物質の両方を溶解させることが可能であってもよい。また、工程(ii−a)の後であって工程(ii−b)の前または後に、(ii−c)有機分子(OM)を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程をさらに行ってもよい。
【0034】
有機金属錯体を製造するための本発明の方法は、第2の工程の後に、基材を熱処理する工程をさらに含んでもよい。熱処理を行うことによって、基材表面に存在する分子やイオンの再配列を促進させることができ、それらをより規則的に結合させることが可能となる。発明の効果が損なわれない限り、熱処理の温度および時間に限定はない。たとえば、60℃〜120℃の範囲にある温度で5分間〜60分間の範囲にある時間、熱処理を行ってもよい。熱処理は、不活性ガス(たとえば希ガスや窒素ガス)の雰囲気下において行ってもよい。
【0035】
以下に、製造工程の一例について、図4を参照しながら説明する。この例では、金属イオン(MI)に配位可能な部位を4つ含む有機分子(OM)と、配位数が2である金属イオン(MI)を含む金属イオン含有物質が用いられている。
【0036】
まず、有機分子(OM)が溶解している第1の溶液に基材を浸漬する。次に、第1の溶液から基材を取り出し、基材の表面を洗浄液で洗浄する。洗浄液には、有機分子(OM)が溶解する溶媒が用いられる。この洗浄によって、基材の表面に密着していない有機分子(OM)が除去される。その結果、図4(a)に示すように、基材11の表面には、有機分子12がランダムに配置される。
【0037】
基材と有機分子(OM)との相互作用が小さい場合、すなわち両者が引き合う力が小さい場合には、基材の表面に付着する有機分子(OM)は少なく、また、基材の表面において有機分子(OM)は比較的自由に移動することが可能である。基材と有機分子(OM)との相互作用が大きい場合には、基材の表面に付着する有機分子(OM)は多く、また、基材の表面において有機分子(OM)はあまり移動しない。基材と有機分子(OM)との相互作用に影響を与える因子としては、ファンデルワールス力、クーロン力、親水性の度合い(疎水性の度合い)などが挙げられる。基材と有機分子(OM)とが反発しあうような場合には基材の表面に有機分子(OM)を配置することが困難になる場合がある。そのため、基材と有機分子(OM)とは、両者がある程度引き合うような組み合わせとなるように選択することが好ましい。
【0038】
次に、金属イオン含有物質が溶解している第2の溶液に基材を浸漬する。有機分子(OM)の所定の部位には、金属イオン含有物質に含まれる金属イオン(MI)が配位結合する。その結果、図4(b)に示すように、有機分子12と金属イオン含有物質13の金属イオンとが配位結合によって規則的に連結された有機金属錯体20が形成される。次に、第2の溶液から基材を取り出し、基材の表面を洗浄液で洗浄する。洗浄液には、有機分子12の溶解性が高い溶媒が用いられる。この洗浄によって、図4(c)に示すように、有機金属錯体20に含まれない有機分子12が除去される。
【0039】
上記工程を繰り返すことによって、図4(d)に示すように、有機金属錯体20のサイズを大きくすることができる。また、溶液に浸漬する時間や、溶液の濃度を変化させることによっても、有機金属錯体(1)のサイズを変化させることができる。
【0040】
また、基材の表面のうち、一部のみに有機分子(OM)との親和性が高い部分を形成することによって、基材の表面の一部のみに有機金属錯体(1)を形成することが可能である。このような選択的な形成は、有機金属錯体をデバイスの一部に用いる場合には特に重要である。
【0041】
従来から、蒸着法や溶液浸漬法によって、固体表面に分子を配列させる方法が提案されているが、従来の方法ではドメインサイズの制御が困難であった。また、異なる2種類の溶液に交互に基板を浸漬させることによって3次元構造体を形成する方法(Layer-by-Layerや交互吸着法と呼ばれる方法)も提案されている。しかし、この方法では基板表面に対して垂直な方向における厚さを制御することは可能であるが、基板表面に対して平行な方向における配列を制御することは困難であった。これに対し、本発明によれば、サイズが制御された1次元状または2次元状の有機金属錯体を得ることが可能である。
【0042】
本発明の有機金属錯体およびその製造方法について、例を挙げて以下に説明する。
【0043】
[実施例1]
実施例1では、基材として石英基板を用い、有機分子(OM)としてZnTPyPを用い、金属イオン含有物質としてPdCl2(CNPh)2を用いた。
【0044】
まず、クロロホルムを用いた超音波洗浄によって基板(石英基板)を10分間洗浄した。次に、有機分子(OM)を含む第1の液体に基板を浸漬した(工程(i−a))。第1の液体には、クロロホルムとメタノールとを体積比が3:1の割合で混合した溶媒にZnTPyPを溶解することによって得られた溶液(濃度:10μM)を用いた。浸漬時間は5秒間とした。次に、基板を、第1の洗浄液によって洗浄した(工程(i−b))。第1の洗浄液には、クロロホルムを用いた。洗浄時間は10秒間とした。
【0045】
次に、金属イオン含有物質を含む第2の液体に基板を浸漬した(工程(ii−a))。第2の液体には、クロロホルムにPdCl2(CNPh)2を溶解することによって得られた溶液(濃度:10μM)を用いた。浸漬時間は1分間とした。次に、石英基板を、第2の洗浄液によって洗浄した(工程(ii−b))。第2の洗浄液にはクロロホルムを用いた。洗浄時間は10秒間とした。
【0046】
工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、および工程(ii−b)を1サイクルとして、このサイクルを10回繰り返した。そして、サイクルを繰り返すごとに、サンプルの吸収スペクトルを測定した。サイクル数の増加に伴う吸収スペクトルの変化を、図5に示す。
【0047】
図5に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍に存在する吸収ピークが高くなっている。この吸収ピークは、ZnTPyPに由来する吸収ピークである。そのため、吸収ピークの高さの変化は、サイクル数が増えるに従って、基板上に存在するZnTPyPの数が増えたことを示している。
【0048】
また、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍に存在する吸収ピークのピーク波長が長波長側にシフトしている。図5では、参考のために、5サイクルのときの吸収スペクトルのピーク波長が存在する位置に、補助線を付している。このピーク波長のシフトは、ZnTPyPと金属イオン含有物質とが規則的に配列して有機金属錯体(1)を構成することによって生じると考えられる。そのため、サイクル数を繰り返すごとに、ZnTPyPと金属イオン含有物質とが規則的に配列する度合いが高まっていると考えられる。
【0049】
[比較例1]
比較例1では、上述した工程(i−a)および工程(i−b)を1サイクルとして、これらの工程を繰り返し行った。基材、ならびに工程(i−a)および工程(i−b)の条件は、実施例1と同じとした。サイクル数が1、2、3および10回のときの吸収スペクトルを図6に示す。図6に示すように、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行わない比較例1では、430〜440nm近傍のピークはブロードであった。また、サイクル数が増えてもピークの高さは変わらなかった。
【0050】
実施例1および比較例1について、サイクル数とピーク波長における吸光度との関係を図7に示す。なお、図7の実施例1に関しては、20サイクルまでの結果を示した。図7に示すように、実施例1では、サイクル数が増えるにつれて吸収ピークが高くなった。
【0051】
[実施例2]
実施例2では、基材が異なることを除いて、実施例1と同様の条件で工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行った。実施例2では、基材として、ガラス基板上に、ITO(酸化インジウム・スズ)の層(厚さ:300nm)、Cr層(厚さ:5〜10nm)、およびAu層(厚さ:10nm)をこの順に積層した基板を用いた。
【0052】
サイクル数が1、2、3、4および6サイクルのときの吸収スペクトルを図8に実線で示す。また、それぞれのサイクルにおける、工程(i−b)の後で工程(ii−a)の前の時点での吸収スペクトルを図8に点線で示す。
【0053】
図8に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。また、図8に示すように、1〜4サイクルでは、金属イオン含有物質を含む第2の液体による処理を行うことによって、ピーク波長が長波長側にシフトした。
【0054】
[実施例3]
実施例3では、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)の一部の条件を実施例1の条件とは変え、さらに工程(ii−c)を加えて、有機金属錯体を作製した。基材には、実施例1と同様に、クロロホルムで10秒間超音波洗浄した石英基板を用いた。実施例3で採用した条件を、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、実施例3の工程(ii)では、メタノールによる洗浄ののち、クロロホルム/メタノール混合液による洗浄を行った。
【0057】
サイクル数が2、4、6、8、9、10および11サイクルのときの吸収スペクトルを図9に実線で示す。また、それぞれのサイクルにおける、工程(i−b)の後で工程(ii−a)の前の時点での吸収スペクトルを図9に点線で示す。
【0058】
図9に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。また、図9に示すように、金属イオン含有物質を含む第2の液体による処理を行うことによって、ピーク波長が長波長側にシフトした。
【0059】
[実施例4]
実施例4では、基材が異なることを除き、実施例3と同じ条件で工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)を行うことによって有機金属錯体を作製した。基材には、実施例2の基板と同じ基板を用いた。基板は、エタノールで10秒間超音波洗浄してから用いた。
【0060】
サイクル数が2〜7サイクルのときの吸収スペクトルを図10に示す。図10に示すように、サイクル数が増えるに従って、440nm近傍の吸収ピークが高くなるとともに長波長側にシフトした。
【0061】
実施例4の方法において、工程(ii−b)が終わるごとに、熱処理を行ってもよい。すなわち、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、工程(ii−b)および熱処理を1サイクルとして、このサイクルを繰り返してもよい。熱処理は、たとえば、アルゴン雰囲気中において、基材を80℃で10分間加熱することによって行うことができる。
【0062】
実施例1〜4について、サイクル数とピーク波長における吸光度との関係を図11に示す。実施例1と実施例2、および、実施例3と実施例4とは、基板が異なることを除いて同じ条件で有機金属錯体を作製している。しかし、図11に示すように、各実施例のピーク波長における吸光度には差が見られた。
【0063】
[実施例5]
実施例5では、実施可能な一例について説明する。基材には石英基板が用いられる。基板は、エタノールを用いた超音波洗浄を10分間行ってから用いられる。実施例5で採用される条件を、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示す工程を繰り返すことによって有機金属錯体が作製される。実施例5の方法において、工程(ii−b)が終わるごとに、熱処理を行ってもよい。すなわち、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)、工程(ii−b)および熱処理を1サイクルとして、このサイクルを繰り返してもよい。熱処理は、たとえば、アルゴン雰囲気中において、基材を100℃で10分間加熱することによって行うことができる。
【0066】
[3次元構造体]
以下、本発明の3次元構造体について説明する。この3次元構造体は、2次元状に広がる有機金属錯体を含み、全体が有機金属錯体であってもよい。
【0067】
本発明の3次元構造体は、基材の表面上に形成されている。この3次元構造体は、基材の表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含む。以下、その所定の化合物を、「ピラー分子」という場合がある。2次元構造体には、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる有機金属錯体を用いることができる。また、基材には、本発明の有機金属錯体(1)に関する記載において説明された基材を用いることができる。3次元構造体に含まれる2次元構造体の数に限定はないが、たとえば2〜10の範囲にあってもよい。
【0068】
複数の2次元構造体は、基材の表面に対して垂直な方向に積層されている。2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子(OM)とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている。金属イオン含有物質は、金属イオン(MI)および金属イオン(MI)を含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種である。2次元構造体には、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる有機金属錯体を用いることができる。金属イオン含有物質および有機分子(OM)については上述したため、重複する説明を省略する。ただし、2次元構造体を構成する有機分子(OM)は、金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含む。
【0069】
複数の2次元構造体は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。たとえば、基材上に最初に形成される1層目の2次元構造体と、その上に形成される2層目以降の2次元構造体とで、有機分子(OM)および/または金属イオン含有物質が異なってもよい。
【0070】
ピラー分子は、隣接する2つの2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように隣接する2つの2次元構造体の間に配置される。隣接する2つの2次元構造体の間にピラー分子が配置されることによって、隣接する2つの2次元構造体の間に隙間が形成される。以下、隣接する2つの2次元構造体の間の隙間を、「隙間(G)」という場合がある。
【0071】
ピラー分子は、2次元構造体中の金属イオンに配位結合する複数の部位を含んでもよい。ピラー分子が配位結合する金属イオンは、有機分子(OM)が配位する金属イオン(MI)であってもよいし、それ以外の金属イオンであってもよい。たとえば、有機分子(OM)が、環状構造と、配位結合によって環状構造の中央に配置された金属イオン(MC)とを含む場合、ピラー分子は金属イオン(MC)に配位結合してもよい。金属イオン(MC)には、ポルフィリン金属錯体の中心に存在する金属イオンが含まれる。
【0072】
2次元構造体中の金属イオンに配位結合する部位の例には、カルボキシル基、アミノ基(第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンに含まれるアミノ基であり、たとえばピリジル基に含まれる“−N=”)、“−CO−COH−”といった原子団が含まれる。好ましい原子団の例には、カルボキシル基およびアミノ基が含まれる。
【0073】
ピラー分子は、導電性を有する分子であってもよい。たとえば、ピラー分子は、π共役鎖を含んでもよく、芳香族化合物(複素芳香族化合物を含む)であってもよい。ピラー分子の例には、ピラジン、4,4’−ビピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane、以下、「DABCO」という場合がある)、1,4−ジシアノベンゼン、1,2,4,5−テトラジン、4,4’−ビフェニルカルボニトリルが含まれる。
【0074】
有機分子(OM)/金属イオン含有物質/ピラー分子の組み合わせの例としては、たとえば、ZnTPyP/PdCl2(CNPh)2/DABCOが挙げられる。この組み合わせにおいて、一部の2次元構造体を構成する有機分子(OM)にZnTPyPを用い、他の2次元構造体を構成する有機分子(OM)にCoTPyPを用いてもよい。また、有機分子(OM)/金属イオン含有物質/ピラー分子の組み合わせの例には、ZnTPyP/AgNO3/DABCO、ZnTCPP/Cu(NO3)2/DABCO、CoTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、CoTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、CoTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、RuTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、RuTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、RuTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、FeTPyP/PdCl2(CNPh)2/1,4−ジシアノベンゼン、FeTPyP/AgNO3/1,4−ジシアノベンゼン、FeTCPP/Cu(NO3)2/1,4−ジシアノベンゼン、といった組み合わせが含まれる。また、本発明の3次元構造体は、上記組み合わせから選ばれる1つの組み合わせのみで構成されてもよいし、上記組み合わせから選ばれる複数の組み合わせで構成されてもよい。たとえば、基材側の第1の2次元構造体(第1の有機金属錯体)を構成する有機分子(OM)/金属イオン含有物質の組み合わせと、第1の2次元構造体の上方に形成される第2の2次元構造体(第2の有機金属錯体)を構成する有機分子(OM)/金属イオン含有物質の組み合わせとは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0075】
本発明の3次元構造体では、隣接する2つの2次元構造体の間の隙間(G)に金属微粒子が配置されていてもよい。後述するように、金属微粒子のサイズおよび位置を制御することが可能である。金属微粒子のサイズは、たとえば1nm〜50nmの範囲にあってもよい。金属微粒子を構成する金属元素は、用途に応じて選択される。金属微粒子を構成する金属の例には、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、それら以外の遷移金属、またはこれらの合金が含まれる。触媒として機能する金属微粒子を隙間(G)に配置することによって、効率がよい触媒を形成することが可能となる。
【0076】
[3次元構造体の製造方法]
以下、基材の上に形成された3次元構造体を製造するための本発明の製造方法について説明する。この製造方法によれば、本発明の3次元構造体を製造できる。この製造方法で製造された3次元構造体は、本発明の3次元構造体の一例である。なお、本発明の3次元構造体について説明した事項についてはこの製造方法に適用できる。また、この製造方法について説明した事項については、本発明の3次元構造体に適用できる。
【0077】
3次元構造体を製造するための本発明の方法は、以下の工程(I)、(II)および(III)を含む。
【0078】
工程(I)では、第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、第1の金属イオンおよび第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に基材の表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返す。この繰り返しによって、基材の表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を基材の表面上に形成する。
【0079】
工程(I)で形成される第1の有機金属錯体は、本発明の3次元構造体に含まれる2次元構造体であり、すなわち、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる錯体である。工程(I)には、有機金属錯体(1)の製造方法を適用できるため、重複する説明を省略する。第1の金属イオンには金属イオン(MI)を適用できる。第1の有機分子には、有機分子(OM)のうち、金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上含有するものを適用できる。
【0080】
有機金属錯体(1)の製造方法で説明したように、工程(I)は、(I−a)第1の液体に基材の表面を接触させる工程と、(I−b)第1の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程と、(I−c)第2の液体に基材の表面を接触させる工程と、(I−d)第1の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の表面を洗浄する工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、第1の有機金属錯体を形成する工程であってもよい。工程(I−a)、工程(I−b)、工程(I−c)および工程(I−d)は、それぞれ、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)に相当する。工程(I)は、工程(I−c)の後であって工程(I−d)の前または後に、工程(ii−c)に相当する工程(I−e)をさらに含んでもよい。
【0081】
工程(II)では、所定の化合物を含む第3の液体に基材の上記表面側(第1の有機金属錯体が形成されている側)を接触させる。工程(II)で用いられる化合物は、上述したピラー分子であり、工程(I)で形成される第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、工程(III)で形成される第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。なお、ピラー分子は、有機金属錯体と結合する部位を3つ以上含んでもよい。3次元構造体を形成できる限り、第3の液体におけるピラー分子の濃度について限定はない。第3の液体におけるピラー分子の濃度は、たとえば10μM〜100mMの範囲にあってもよい。
【0082】
工程(II)は、(II−a)第3の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(II−b)ピラー分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。工程(II−b)によって、第1の有機金属錯体に結合していないピラー分子を除去できる。
【0083】
工程(III)では、第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、第2の金属イオンおよび第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に基材の上記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行う。このサイクルによって、基材の表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を、工程(I)で形成された第1の有機金属錯体の上方に形成する。
【0084】
工程(III)は、(III−a)第4の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(III−b)第2の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程と、(III−c)第5の液体に基材の上記表面側を接触させる工程と、(III−d)第2の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって基材の上記表面側を洗浄する工程とをこの順に含んでもよい。工程(III−a)、工程(III−b)、工程(III−c)および工程(III−d)は、それぞれ、工程(i−a)、工程(i−b)、工程(ii−a)および工程(ii−b)に相当する。工程(III)は、工程(III−c)の後であって工程(III−d)の前または後に、工程(ii−c)に相当する工程(III−e)をさらに含んでもよい。
【0085】
工程(III)で形成される2次元状の有機金属錯体は、本発明の3次元構造体に含まれる2次元構造体であり、すなわち、本発明の有機金属錯体(1)のうち2次元状に広がる錯体である。工程(III)には、有機金属錯体(1)の製造方法を適用できるため、重複する説明を省略する。ただし、工程(III)では、有機金属錯体(1)の製造方法の第1および第2の工程からなるサイクルを行う回数が1回だけでもよい。
【0086】
第2の金属イオンには金属イオン(MI)を適用できる。第2の有機分子には、有機分子(OM)のうち金属イオン(MI)に配位結合する部位を3つ以上含有するものを適用できる。工程(I)で用いられる有機分子(OM)および金属イオン含有物質と、工程(III)で用いられる有機分子(OM)および金属イオン含有物質とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0087】
工程(I)で形成された第1の有機金属錯体(1層目の2次元構造体)には、工程(II)のピラー分子が結合している。そのため、工程(III)で形成される第2の有機金属錯体(2層目の2次元構造体)は、ピラー分子上に形成される。第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間にピラー分子が配置されることによって、第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間に隙間(G)が形成される。隙間(G)は、ピラー分子に含まれる第1の部位と第2の部位との距離が長いほど大きくなる。
【0088】
本発明の製造方法では、有機分子(OM)の種類、金属イオン含有物質の種類、ピラー分子の種類、液体の濃度、工程の繰り返し回数などを調整することによって、3次元構造体の形状やサイズを制御することが可能である。
【0089】
本発明の製造方法では、工程(II’)と上記工程(III)とを、この順に繰り返すことによって、複数の第2の有機金属錯体を積層する工程をさらに含んでもよい。工程(II’)では、第2の所定の化合物(第2のピラー化合物)を含む第6の液体に基材の上記表面側を接触させる。第2のピラー化合物は、基材上に形成された第1および第2の有機金属錯体のうち最表面に存在する有機金属錯体と結合する第1の部位と、工程(II’)の次の工程(III)で形成される前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む。工程(II’)は、工程(II)と同様の方法で行うことができる。第2のピラー化合物には、工程(II)の説明において述べたピラー化合物を用いることができる。なお、繰り返し行われる工程(II’)および工程(III)のサイクルで用いられる、ピラー分子である分子、第2の有機分子である分子、および第2の金属イオン含有物質である化合物は、すべてのサイクルで同じであってもよいし、サイクルごとに異なってもよい。
【0090】
本発明の製造方法は、工程(III)の後に、第1の有機金属錯体と第2の有機金属錯体との間の隙間(G)に第3の金属イオンが配置された状態で第3の金属イオンを還元することによって、隙間(G)に配置された金属微粒子を形成する工程(IV)をさらに含んでもよい。金属微粒子を構成する金属イオンとしては、本発明の3次元構造体で説明した金属微粒子を構成する金属のイオンを用いることができる。なお、3次元構造体が3つ以上の有機金属錯体を含む場合には、3次元構造体を形成した後に、すべての隙間(G)に第3の金属イオン配置した状態で第3の金属イオンを還元することによって、すべての隙間(G)金属微粒子を配置することができる。
【0091】
工程(IV)の一例を以下に説明する。この一例では、導電性の基材を用いるか、基材の表面に導電性の膜(たとえば金属膜)が形成された基材を用いる。まず、3次元構造体が形成された基材を、第3の金属イオンが溶解している溶液に浸漬する。次に、基材がカソードとなるように基材と対極との間に直流電圧を印加する。その結果、隙間(G)に存在する第3の金属イオンが還元され、隙間(G)の中に金属微粒子が形成される。この方法では、金属微粒子のサイズおよび位置が、隙間(G)によって制御される。そのため、サイズおよび位置が制御された金属微粒子を形成できる。
【0092】
本発明の製造方法では、工程(i)で用いられる第1の有機分子、および工程(ii)で用いられる第2の有機分子がポルフィリンであってもよい。
【0093】
現在、水素はクリーンなエネルギー源として注目されている。水素を燃料として利用する燃料電池は、電気自動車に搭載されるなど、すでに実用化の段階に達しているが、その普及は遅れている。普及の遅れの原因の1つは、高価な白金が電極に用いられていることである。実用化されている燃料電池の電極は、導電性を有する多孔質炭素材料に、触媒として機能する白金ナノ粒子を担持させることによって形成されている。この電極は、反応点が少ないために効率が低いという問題、また、ナノメートルオーダーでの精密な設計および作製が困難であるという問題を有していた。これに対し、本発明の3次元構造体は、骨格および空間の精密な設計を行うことができ、反応に対して最適な構造を構築することが可能である。また、反応が生じる場所を面(骨格表面および金属微粒子表面)とすることができるため、高い効率が期待される。
【0094】
以下、本発明の3次元構造体を製造することが可能な例について説明する。
【0095】
[実施例1]
実施例1では、基材として金からなる基板を用いる。まず、基板をエタノール中で10分間超音波洗浄する。
【0096】
次に、本発明の有機金属錯体に関する実施例3で説明したサイクルを7回繰り返し、第1の有機金属錯体を形成する(工程(I))。次に、ピラー分子を含む第3の液体に、基材を30分間浸漬する(工程(II))。第3の液体には、DABCOのエタノール溶液(濃度:100μM)を用いる。次に、以下の5つの工程からなる工程(III)を行うことによって第2の有機金属錯体を形成する。
【0097】
【表3】
【0098】
工程(II)および工程(III)からなるサイクルを1回だけ行うと、2つの2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。また、工程(II)および工程(III)からなるサイクルを2回行うと、3つの2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。工程(II)および工程(III)からなるサイクルをn回行うと、[n+1]個の2次元構造体を含む3次元構造体が形成される。
【0099】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の方法で作製できる3次元構造体の隙間(G)に、金属微粒子を形成する方法について説明する。
【0100】
まず、実施例1の方法によって、3次元構造体を金基板上に形成する。次に、その金基板と対極とを、H2PdCl2の水溶液(濃度:2mM)に浸漬する。H2PdCl2の水溶液は、塩化パラジウム(PdCl2)を希塩酸に溶解させることによって調製できる。次に、金基板がカソードとなるように、金基板と対極との間に直流電圧を印加する。この電圧印加によって、パラジウムイオンが電解還元され、隙間(G)にパラジウムの微粒子が形成される。
【0101】
なお、H2PdCl2の水溶液の代わりに、H2PtCl6の水溶液(濃度:2mM)を用いることによって、隙間(G)に白金の微粒子を形成できる。H2PtCl6の水溶液は、塩化白金(VI)酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)を超純水に溶解させることによって調製できる。
【0102】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によって得られる有機金属錯体および3次元構造体は、有機デバイス、触媒、電極などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の有機金属錯体の例を示す模式図である。
【図2】本発明で用いられる有機分子の例を示す図である。
【図3】本発明で用いられる金属イオン含有物質の例を示す図である。
【図4】有機金属錯体を製造するための本発明の方法について、工程を模式的に示す図である。
【図5】実施例1で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】比較例1で作製したサンプルの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1および比較例1で作製したサンプルについて、ピーク波長における吸光度の変化を示すグラフである。
【図8】実施例2で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例3で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例4で作製した有機金属錯体の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図11】実施例1〜4で作製した有機金属錯体について、ピーク波長における吸光度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0105】
11 基材
12 有機分子
13 金属イオン含有物質
20 有機金属錯体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された有機金属錯体の製造方法であって、
金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子を含む第1の液体に前記基材の表面を接触させる第1の工程と、前記金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体を前記基材上に形成する工程を含み、
前記有機金属錯体は、複数の前記金属イオン含有物質と複数の前記有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている、有機金属錯体の製造方法。
【請求項2】
前記有機分子は前記金属イオンに配位結合する前記部位を3つ以上含有し、
前記有機金属錯体は2次元状に広がっている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の液体における前記有機分子の濃度が1mM以下であり、前記第2の液体における前記金属イオン含有物質の濃度が1mM以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程は、
(i−a)前記第1の液体に前記表面を接触させる工程と、
(i−b)前記有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含み、
前記第2の工程は、
(ii−a)前記第2の液体に前記表面を接触させる工程と、
(ii−b)前記金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程は、前記(ii−b)の工程ののちに、(ii−c)前記有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
基材の表面上に形成され、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体であって、
前記有機金属錯体は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、
前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含む、有機金属錯体。
【請求項8】
前記有機分子は前記金属イオンに配位結合する前記部位を3つ以上含有し、
前記有機金属錯体は2次元状に広がっている、請求項7に記載の有機金属錯体。
【請求項9】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項7または8に記載の有機金属錯体。
【請求項10】
基材の表面上に形成された3次元構造体の製造方法であって、
(I)第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に前記基材の前記表面を接触させる工程と、前記第1の金属イオンおよび前記第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を前記表面上に形成する工程と、
(II)所定の化合物を含む第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、
(III)第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記第2の金属イオンおよび前記第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行うことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を前記第1の有機金属錯体の上方に形成する工程と、をこの順に含み、
前記所定の化合物は、前記第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含み、
前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に前記所定の化合物が配置されることによって、前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に隙間が形成されている、3次元構造体の製造方法。
【請求項11】
前記(I)の工程は、(I−a)前記第1の液体に前記表面を接触させる工程と、(I−b)前記第1の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程と、(I−c)前記第2の液体に前記表面を接触させる工程と、(I−d)前記第1の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記第1の有機金属錯体を形成する工程であり、
前記(II)の工程は、(II−a)前記第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(II−b)前記所定の化合物を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程とをこの順に含み、
前記(III)の工程は、(III−a)前記第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(III−b)前記第2の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程と、(III−c)前記第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(III−d)前記第2の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程とをこの順に含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
(II’)第2の所定の化合物を含む第6の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記(III)の工程とを、この順に繰り返すことによって、複数の前記第2の有機金属錯体を積層する工程をさらに含み、
前記第2の所定の化合物は、前記基材上に形成された前記第1および第2の有機金属錯体のうち最表面に存在する有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記(II’)の工程の次の前記(III)の工程で形成される前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記(III)の工程の後に、
(IV)前記隙間に第3の金属イオンが配置された状態で前記第3の金属イオンを還元することによって、前記隙間に配置された金属微粒子を形成する工程をさらに含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1および第2の有機分子がポルフィリンである、請求項10〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
基材の表面上に形成された3次元構造体であって、
前記表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含み、
複数の前記2次元構造体は、前記表面に対して垂直な方向に積層されており、
前記2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、
前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含み、
隣接する2つの前記2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように前記所定の化合物が隣接する2つの前記2次元構造体の間に配置されることによって、隣接する2つの前記2次元構造体の間に隙間が形成されている、3次元構造体。
【請求項16】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項15に記載の3次元構造体。
【請求項17】
隣接する2つの前記2次元構造体の間に金属微粒子が配置されている、請求項15または16に記載の3次元構造体。
【請求項1】
基材上に形成された有機金属錯体の製造方法であって、
金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含有する有機分子を含む第1の液体に前記基材の表面を接触させる第1の工程と、前記金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる第2の工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体を前記基材上に形成する工程を含み、
前記有機金属錯体は、複数の前記金属イオン含有物質と複数の前記有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されている、有機金属錯体の製造方法。
【請求項2】
前記有機分子は前記金属イオンに配位結合する前記部位を3つ以上含有し、
前記有機金属錯体は2次元状に広がっている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の液体における前記有機分子の濃度が1mM以下であり、前記第2の液体における前記金属イオン含有物質の濃度が1mM以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程は、
(i−a)前記第1の液体に前記表面を接触させる工程と、
(i−b)前記有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含み、
前記第2の工程は、
(ii−a)前記第2の液体に前記表面を接触させる工程と、
(ii−b)前記金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程は、前記(ii−b)の工程ののちに、(ii−c)前記有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
基材の表面上に形成され、前記表面に対して平行に延びる有機金属錯体であって、
前記有機金属錯体は、複数の金属イオン含有物質と、複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、
前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を2つ以上含む、有機金属錯体。
【請求項8】
前記有機分子は前記金属イオンに配位結合する前記部位を3つ以上含有し、
前記有機金属錯体は2次元状に広がっている、請求項7に記載の有機金属錯体。
【請求項9】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項7または8に記載の有機金属錯体。
【請求項10】
基材の表面上に形成された3次元構造体の製造方法であって、
(I)第1の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第1の有機分子を含む第1の液体に前記基材の前記表面を接触させる工程と、前記第1の金属イオンおよび前記第1の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第1の金属イオン含有物質を含む第2の液体に前記表面を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第1の有機金属錯体を前記表面上に形成する工程と、
(II)所定の化合物を含む第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、
(III)第2の金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含有する第2の有機分子を含む第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記第2の金属イオンおよび前記第2の金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種の第2の金属イオン含有物質を含む第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程とをこの順に含むサイクルを1回以上行うことによって、前記表面に対して平行に広がる2次元状の第2の有機金属錯体を前記第1の有機金属錯体の上方に形成する工程と、をこの順に含み、
前記所定の化合物は、前記第1の有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含み、
前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に前記所定の化合物が配置されることによって、前記第1の有機金属錯体と前記第2の有機金属錯体との間に隙間が形成されている、3次元構造体の製造方法。
【請求項11】
前記(I)の工程は、(I−a)前記第1の液体に前記表面を接触させる工程と、(I−b)前記第1の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程と、(I−c)前記第2の液体に前記表面を接触させる工程と、(I−d)前記第1の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記表面を洗浄する工程とをこの順に含むサイクルを繰り返すことによって、前記第1の有機金属錯体を形成する工程であり、
前記(II)の工程は、(II−a)前記第3の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(II−b)前記所定の化合物を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程とをこの順に含み、
前記(III)の工程は、(III−a)前記第4の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(III−b)前記第2の有機分子を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程と、(III−c)前記第5の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、(III−d)前記第2の金属イオン含有物質を溶解させることが可能な溶媒によって前記基材の前記表面側を洗浄する工程とをこの順に含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
(II’)第2の所定の化合物を含む第6の液体に前記基材の前記表面側を接触させる工程と、前記(III)の工程とを、この順に繰り返すことによって、複数の前記第2の有機金属錯体を積層する工程をさらに含み、
前記第2の所定の化合物は、前記基材上に形成された前記第1および第2の有機金属錯体のうち最表面に存在する有機金属錯体と結合する第1の部位と、前記(II’)の工程の次の前記(III)の工程で形成される前記第2の有機金属錯体と結合する第2の部位とを含む、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記(III)の工程の後に、
(IV)前記隙間に第3の金属イオンが配置された状態で前記第3の金属イオンを還元することによって、前記隙間に配置された金属微粒子を形成する工程をさらに含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1および第2の有機分子がポルフィリンである、請求項10〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
基材の表面上に形成された3次元構造体であって、
前記表面に対して平行に広がる複数の2次元構造体と、所定の化合物とを含み、
複数の前記2次元構造体は、前記表面に対して垂直な方向に積層されており、
前記2次元構造体は、複数の金属イオン含有物質と複数の有機分子とが配位結合を介して規則的に並ぶことによって形成されており、
前記金属イオン含有物質は、金属イオンおよび前記金属イオンを含む錯体分子から選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機分子は、前記金属イオンに配位結合する部位を3つ以上含み、
隣接する2つの前記2次元構造体のうちの一方および他方のそれぞれと結合するように前記所定の化合物が隣接する2つの前記2次元構造体の間に配置されることによって、隣接する2つの前記2次元構造体の間に隙間が形成されている、3次元構造体。
【請求項16】
前記有機分子がポルフィリンである、請求項15に記載の3次元構造体。
【請求項17】
隣接する2つの前記2次元構造体の間に金属微粒子が配置されている、請求項15または16に記載の3次元構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−59111(P2010−59111A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227398(P2008−227398)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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