説明

有機電子素子及びその製造方法

【課題】均一な積層構造を有する有機電子素子を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上に形成された第1電極12と、第1電極12上に形成され、電荷注入層18と有機機能層20とが積層された素子部と、素子部上に形成された第2電極22と、を備え、第1電極12と第2電極22との絶縁を確保するために第1絶縁層14と、第1絶縁層14上に積層されるように形成され、第1絶縁層14より親水性が低い第2絶縁層16とが積層されている有機電子素子100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機層が積層された有機電子素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無機材料からなる下層絶縁膜及び有機材料からなる上層絶縁膜が積層され、バンク形状に区画された領域内に液状の材料を塗布することにより有機半導体素子を形成する方法が開示されている。ここで、有機材料からなる上層絶縁膜は親水性であり、塗布液は撥水性である。また、特許文献2には、組成が共通でインク溶媒に対する接触角が異なる樹脂層が積層されたバンク構造を有し、バンク形状に区画された領域内に液状の材料を塗布することにより有機半導体素子を形成する方法が開示されている。また、特許文献3には、撥水性のある単層の絶縁層をパターニングし、水系の溶媒を用いた機能液を供給することによって膜パターンを形成する技術が開示されている。また、特許文献4には、絶縁層上に撥水性を有する感光性絶縁材料からなる第2の絶縁層と、さらに撥液性を有する第3の絶縁層を形成し、第2及び第3の絶縁層のバンク構造内に単一のパターン形成材料を供給してパターンを形成する技術が開示されている。
【0003】
このような技術を利用して、2層以上の有機層を積層させることによって電気的特性を向上させた有機電子素子が用いられている。このような有機電子素子を形成する方法として、有機物を水や有機溶媒の溶液として塗布して有機層を形成する塗布法が採用される。塗布法を用いて2層以上の有機層を形成するためには、上部の有機層を塗布する際に下部の有機層が溶解されないように、2つの有機層で異なる種類の有機溶媒や水を用いた塗布液を用いる方法が採用されている。
【0004】
特に、有機EL素子や有機薄膜太陽電池の形成方法として、下部の有機層にPEDOT:PSS(poly(3,4−ethylenedioxythiophene)−poly(styrenesulfonate))等の水溶液を用いて電荷注入層を塗布形成し、その上に有機溶媒を用いた塗布液により有機機能層を塗布形成する方法が採用されている。
【0005】
塗布法には、インクジェット法、スピンコート法、ノズルコート法、印刷法等の様々な手法が提案されている。なかでも、インクジェット法は材料の使用効率が高く、オンデマンド形成が可能である等の利点から注目されている。
【0006】
インクジェット法で素子を形成する場合、図3に示すように、滴下されたインクが所望の領域から拡散しないようにインク溜まりとして電極分離用の絶縁層30にバンク形状を有する開口部Bを備えた構造体が用いられる。
【0007】
絶縁層30の開口部Bに上述の電荷注入層32を構成する塗布水溶液と有機機能層34を構成する塗布有機溶媒溶液を用いてインクジェット法で積層膜を形成した場合、図4に示すように、第1電極36の領域のみならずバンク側壁部にまで電荷注入層32が形成されてしまうため、開口部Bの縁部において電荷注入層32と第2電極38の近傍における短絡や漏れ電流が増大してしまうという問題が生じていた。
【0008】
この問題に対してフッ素原子含有ガスを用いたプラズマ処理手段が提案されている。すなわち、第1電極36とバンク形状を有する開口部を備えた絶縁層30が形成された基板40を準備し、その基板40にフッ素原子含有ガスとしてCFガスを用いたプラズマ処理を適切に行うことで、絶縁層30の表面及びバンク側壁部を撥水化しつつ親油性を保持させ、かつ第1電極36の表面は親水性を保持させる。これにより、図5に示すように、電荷注入層32及び有機機能層34を積層した構造を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−146388号公報
【特許文献2】特開2006−162882号公報
【特許文献3】特開2006−317567号公報
【特許文献4】特開2008−210968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような構造では、開口部Bの縁部における電荷注入層32と第2電極38の近接による短絡や漏れ電流の増大を防止することができるが、開口部Bの縁部周辺で電荷注入層32の薄膜化が生じ、電荷注入性の低下及び面内均一性の低下が起こり、有機機能層34と第1電極36との近接によって漏れ電流の増加が起こる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、基板と、前記基板上に形成された導電性の第1電極と、前記第1電極上に形成され、少なくとも2層の有機層の積層構造からなる素子部と、前記素子部上に形成された導電性の第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との絶縁を確保するための絶縁層と、を備え、前記絶縁層は、前記第1電極上に形成された第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に積層され、前記第1絶縁層より親水性が低い第2絶縁層と、の積層構造を含むことを特徴とする有機電子素子である。
【0012】
ここで、前記第1絶縁層は、プラズマ重合膜又は絶縁性無機膜からなることが好適である。
【0013】
また、前記第2絶縁層は、プラズマ重合膜又はフォトレジスト膜からなることが好適である。
【0014】
また、前記第1絶縁層は、膜中の酸素(O)原子又は窒素(N)原子の濃度が1原子%以上20原子%以下のプラズマ重合膜であることが好適である。
【0015】
また、前記第2絶縁層は、膜中のフッ素(F)原子の濃度が0.0001原子%以上10原子%以下のプラズマ重合膜であることが好適である。
【0016】
ここで、有機電子素子は、有機電界発光素子、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ、有機センサ、有機メモリーのいずれか1つとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、周辺部分まで均一な積層構造を有する有機電子素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における有機電子素子の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における有機電子素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】従来の有機電子素子を構成する絶縁層のバンク構造を示す断面図である。
【図4】従来の有機電子素子の構成を示す断面図である。
【図5】従来の有機電子素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<構造>
本発明の実施形態における有機電子素子100は、図1の断面図に示すように、基板10、第1電極12、第1絶縁層14、第2絶縁層16、電荷注入層18、有機機能層20及び第2電極22を含んで構成される。
【0020】
基板10は、有機電子素子100の構造的な支持体となる部材である。基板10は、これらに限定されるものではないが、ガラス、バリア膜付きの樹脂基板、金属基板等の様々な材料とすることができる。
【0021】
第1電極12は、基板10上に形成され、電荷注入層18との電気的な接続を行うために設けられる。第1電極12は、任意の導電性物質とすることができる。具体的には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウム、酸化チタンニオブ等の酸化物を使用することができる。特に、酸化インジウム錫(ITO)は、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性に優れていること等の利点を有する好適な材料である。さらに、アルミニウム、金、銀等の金属材料や、ポリアニリン等の有機半導体を用いる方法もある。第1電極12は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等を用いて形成することができる。第1電極12に対しては、必要に応じてUV処理やプラズマ処理等により表面の活性化を行ってもよい。
【0022】
第1絶縁層14は、第1電極12と第2電極との間に挟まれ、電気的な絶縁体として機能する。第1絶縁層14は、親水性を有する絶縁材料とする。第1絶縁層14は、プラズマ重合膜又は絶縁性無機膜で構成することが好適である。
【0023】
親水性のプラズマ重合膜は、酸素(O)原子又は窒素(N)原子を含むガスを原料にしたプラズマ重合法で形成することができる。酸素(O)原子又は窒素(N)原子を含むガスは気体でもよいし、液体材料を気化させてもよい。酸素(O)原子又は窒素(N)原子を含むガスは、これに限定されるものではないが、例えば、酸素、窒素、アンモニア、亜酸化窒素、フランやピロール等のヘテロ5員環化合物、ビニルアルコール化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。さらに、これらのガスにメタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等のガスを添加して原料ガスとしてもよい。
【0024】
親水性のプラズマ重合膜中の酸素(O)原子又は窒素(N)原子の濃度は、膜の緻密性及び水に対する接触角を考慮して、1原子%以上20原子%以下とすることが好適である。
【0025】
親水性の絶縁性無機膜は、プラズマ化学気相(CVD)法、スパッタリング法、蒸着法、ゾルゲル法等の手法により形成することができる。親水性の絶縁性無機膜は、金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物とすることが好適である。これらに限定されるものではないが、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン酸窒化物、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、アルミニウム酸窒化物、チタン酸化物、タンタル酸化物、ゲルマニウム酸化物、マグネシウム酸化物等が挙げられる。絶縁性無機膜に対しては、必要に応じてUV処理やプラズマ処理等により表面の活性化を行ってもよい。
【0026】
第1絶縁層14は、プラズマ重合膜とすることがより好適である。なぜならば、例えば、フォトレジスト膜のような有機塗布膜とした場合、膜の緻密性が低いために、膜表面に撥水性の膜を形成する際やエッチングを施す際にフッ素含有成分が膜中に浸透・吸着することにより親水性から疎水性に変化してしまうおそれがあるからである。これに対して、プラズマ重合膜又は絶縁性無機膜は、緻密性が高く、フッ素含有成分が膜中に浸透・吸着し難いため、撥水膜形成後やエッチング後においても親水性を維持することができる。さらに、絶縁性無機膜を用いた場合には、エッチングにCF/O混合ガスプラズマ等の反応性の高いプラズマを使用する必要があり、エッチング時に第1電極12がダメージを受けてしまう可能性があり、素子特性が悪化するおそれがある。一方、プラズマ重合膜を用いた場合には、酸素ガスプラズマでエッチングが可能であり、第1電極12へのダメージは非常に小さくでき、素子特性の悪化は非常に小さく抑えることができる。
【0027】
第1絶縁層14は、後述する電荷注入層18との膜厚均一性を考慮すると、電荷注入層18と同程度の膜厚とすることが好適である。一般的には、第1絶縁層14の膜厚は、10nm以上1μm以下、より好ましくは30nm以上300nm以下とすることが好適である。
【0028】
第2絶縁層16は、第1絶縁層14上に形成される。第2絶縁層16は、第1電極12と第2電極との間に挟まれ、第1絶縁層14と共に電気的な絶縁体として機能する。第2絶縁層16は、疎水性を有する絶縁材料とする。第2絶縁層16は、プラズマ重合膜又はフォトレジスト膜で構成することが好適である。
【0029】
撥水性のプラズマ重合膜は、フッ素(F)原子を含むガスを原料にしたプラズマ重合法で形成することができる。フッ素(F)原子を含むガスは、気体でもよいし、液体を気化させてもよい。フッ素(F)原子を含むガスは、これに限定されるものではないが、例えば、フッ化メチレン化合物、フッ化エチレン化合物、フッ化ビニル化合物等が挙げられる。さらに、これらのガスにメタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等のガスを添加して原料ガスとしてもよい。
【0030】
撥水性のフォトレジスト膜は、フッ素(F)原子を導入したフォトレジスト材料を用いて構成することができる。または、通常のフォトレジスト材料にフッ素化合物を添加することで形成することもできる。
【0031】
撥水性の第2絶縁層16中のフッ素(F)原子の濃度は、フッ素化合物の偏析状態等により特性が異なるために限定することは難しいが、0.0001原子%以上10原子%以下とすることが好適である。
【0032】
第2絶縁層16の膜厚は、1μm以上10μm以下とすることが好適である。このような膜厚とすることによって、電荷注入層18及び有機機能層20を形成する際のインク溜まりとして十分な機能を発揮することができる。
【0033】
ここで、親水性を有する第1絶縁層14とは、第2絶縁層16よりも親水性が高いことを意味する。すなわち、撥水性を有する第2絶縁層16とは、第1絶縁層14よりも親水性が低いことを意味する。これに限定されるものではないが、第1絶縁層14の水に対する接触角は45°未満が好ましく、20°未満であることがより好ましい。また、これに限定されるものではないが、第2絶縁層16の水に対する接触角は60°以上が好ましく、80°以上であることがより好ましい。
【0034】
このように、親水性の異なる第1絶縁層14と第2絶縁層16を積層した構成とすることによって、親水性の第1絶縁層14と撥水性の第2絶縁層16とで後述の電荷注入層18の塗り分けが可能となり、開口部Aの縁部まで均一な膜厚の電荷注入層18を形成することができる。これにより、電荷注入層18と有機機能層20との界面特性を向上させることができる。
【0035】
第1絶縁層14及び第2絶縁層16には、第2絶縁層16の表面から第1電極12の表面まで貫通する開口部Aが設けられる。開口部Aは、エッチングによって第1絶縁層14及び第2絶縁層16を加工することにより形成することができる。
【0036】
開口部Aの平面的にみた形状は特に限定されるものではないが、円形形状、矩形形状等とすることができる。ここで、開口部Aの直径や一辺は10μm以上300μm以下とすることが好適である。開口部Aをこのようなサイズにした場合に、開口部A内の縁部における電荷注入層18と有機機能層20との積層構造の均一性の影響が大きくなり、本実施の形態において電荷注入層18が均一に形成できる効果が顕著となる。
【0037】
プラズマ重合膜のエッチング手法としては、酸素(O)原子を含有するガスを少なくとも一種類以上含むガスを用いたプラズマエッチングを適用することができる。また、絶縁性無機膜のエッチング手法としては、フッ素(F)原子や塩素(Cl)原子を含有するガスを少なくも一種類以上含むガスをプラズマエッチングや、フッ化水素酸水や塩酸等を用いたウェットエッチングを適用することができる。また、フォトレジスト膜のエッチング手法としては、レジスト剥離剤等を用いたフォトリソグラフィ技術等を適用することができる。
【0038】
電荷注入層18は、第1絶縁層14及び第2絶縁層16の開口部A内に形成される。電荷注入層18は、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物、ポリアニリン化合物、トリフェニルアミン化合物、ポリチオフェン化合物等が挙げられる。特に、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物であるPEDOT:PSSが好適である。
【0039】
これらの材料は、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール等の単独又は混合溶液に溶解又は分散させてインクを調合し、そのインクを吐出させるインクジェット法により開口部Aに供給される。電荷注入層18の溶液成分の除去をより確実なものとするために、インクジェット法による吐出形成後に加熱処理を行い、乾燥・焼成を行うことが好適である。
【0040】
このようなインクを開口部A内に供給した場合、親水性の第1絶縁膜14の縁部までインクが行き渡り、疎水性の第2絶縁膜16の縁部にはインクが付着し難く、インクを適切な量だけ供給することによって、開口部A内の中心部から縁部に亘って電荷注入層18を均一に形成することができる。
【0041】
有機機能層20は、有機電界発光素子、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ、有機センサ、有機メモリー等の素子に用いられる機能材料から構成される。有機機能層20は、電荷注入層18と積層されて有機電子素子100の素子部を構成する。
【0042】
有機機能層20は、例えば、高分子塗布材料、低分子塗布材料が挙げられる。高分子塗布材料としては、有機ELで用いられるポリフルオレン系材料、ポリフェニレンビニレン系材料、ポリフェニレン系材料、ポリビニルカルバゾール系材料、有機太陽電池や有機トランジスタで用いられるポリチオフェン系材料が挙げられる。低分子塗布材料としては、有機ELで用いられるトリフェニルアミン系材料、有機太陽電池や有機トランジスタで用いられるフラーレン系材料等が挙げられる。
【0043】
これらの有機材料は単独又は混合して、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の単独又は混合溶液に溶解又は分散させてインクを調合し、そのインクを吐出させるインクジェット法により開口部Aに供給される。また、有機機能層20は、これらの材料からなる層を複数積層させた構造としてもよい。有機機能層20の溶液成分の除去をより確実なものとするために、インクジェット法による吐出形成後に加熱処理を行い、乾燥・焼成を行うことが好適である。
【0044】
このようなインクを開口部A内に供給した場合、第1絶縁膜14の膜厚に合わせて均一に形成された電荷注入層18上において、疎水性の第2絶縁膜16の縁部までインクが行き渡り、インクを適切な量だけ供給することによって開口部A内の中心部から縁部に亘って有機機能層20を均一に形成することができる。
【0045】
電荷注入層18及び有機機能層20の形成方法は、インクジェット法に限定されるものではなく、第1絶縁層14及び第2絶縁層16の開口部Aに電荷注入層18及び有機機能層20の構成材料を供給できるものであればよい。例えば、ノズルコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法等を用いてもよい。
【0046】
第2電極22は、有機機能層20との電気的な接続を実現し、第1電極12と共に電荷注入層18及び有機機能層20へ電圧を印加するために設けられる導電性部材である。第2電極22は、低仕事関数の材料とすることが好適である。
【0047】
第2電極22は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とアルミニウム等の金属電極との積層体、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化合物又は酸化物とアルミニウム等の金属電極との積層体等とすることが好適である。より具体的には、例えば、Al/Ca,Al/Ba,Al/Li,Al/LiF,Al/NaF,Al/KF,Al/CsF,Al/Ca/LiF,Al/Ca/NaF,Al/Ca/KF,Al/BaO等が挙げられる。また、酸化インジウム錫(ITO)等の導電性酸化物、アルミニウム、金、銀等の金属材料、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT:PSS等の導電性高分子材料等で構成してもよい。さらに、上記の材料を積層した構造としてもよい。第2電極22は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等を用いて形成することができる。
【0048】
<製造方法>
以下、有機電子素子100の製造方法について説明する。以下の製造方法は例示であり、これに限定されるものではない。
【0049】
図2は、有機電子素子100の製造方法を示すフローチャートである。ステップS10では、基板10上に第1電極12を形成する。第1電極12は、フォトリソグラフィ等により所望のパターンに加工してもよい。ステップS12では、第1電極12上に第1絶縁層14を形成し、さらに第1電極12上に第2絶縁層16を形成する。ステップS14では、第1絶縁層14及び第2絶縁層16に開口部Aを形成する。第1絶縁層14及び第2絶縁層16上に対してフォトリソグラフィ技術を適用してレジストパターンを形成し、エッチングにより第1絶縁層14及び第2絶縁層16を加工し、さらにレジストを除去することによって所望のバンク構造を有する開口部Aを形成する。ステップS16では、開口部A内に電荷注入層18をインクジェット法により形成する。電荷注入層18の材料を含むインクは乾燥処理後に第1絶縁層14と同程度の膜厚となるように開口部A内に供給する。ステップS18では、開口部A内の電荷注入層18上に有機機能層20をインクジェット法により形成する。有機機能層20は、グローブボックス等の乾燥不活性ガス雰囲気中で形成することが好適である。ステップS20では、第2絶縁層16及び有機機能層20上に第2電極22を形成する。ステップS22では、グローブボックス等の乾燥窒素雰囲気中にて金属缶の貼り合わせによる封止を行う。
【0050】
ここで、第1絶縁層14と第2絶縁層16との組み合わせは、親水性のプラズマ重合膜と撥水性のプラズマ重合膜との組み合わせ、親水性の絶縁性無機膜と撥水性のプラズマ重合膜との組み合わせ、親水性のプラズマ重合膜と撥水性のフォトレジスト膜との組み合わせ、親水性の絶縁性無機膜と撥水性のフォトレジスト膜との組み合わせのいずれかとする。
【0051】
各工程間の搬送方法は、これに限定されるものではないが、電荷注入層18の形成以降は乾燥雰囲気中での搬送であることが好ましい。
【0052】
また、封止方法は、金属缶による封止に限定されるものではなく、ガラス又はバリア膜付樹脂フィルムの貼り合わせによる封止やシリコン窒化膜等の薄膜を直接形成する薄膜封止法等の様々な方法が適用可能である。
【0053】
<実施例1>
基板10となるガラス基板上に第1電極12としてITO電極を形成して所望のパターンに加工した後、第1絶縁層14としてメタンガスとエチレンガスと窒素ガスの混合ガスを原材料に用いたプラズマ重合膜を100nmの膜厚で形成し、その上に第2絶縁層16としてメタンガスとエチレンガスとCHFガスの混合ガスを原材料に用いたプラズマ重合膜を3μmの膜厚で形成した。さらに、フォトリソグラフィ技術によりレジストパターンを形成した上で、酸素ガスプラズマエッチングにより第1絶縁層14及び第2絶縁層16に直径100μmの円形のバンク形状を有する開口部Aを形成した。過剰なレジストを除去した後、開口部A内にPEDOT:PSS水溶液をインクジェット法により滴下した後に200℃×30分の加熱処理を大気中で行って膜厚100nmの電荷注入層18となるPEDOT:PSS薄膜を形成した。さらに、開口部A内にポリフルオレン系緑色発光高分子であるF8BT(Poly[(9,9−di−n−octylfluoreny1−2,7−diyl)−alt−(benzo[2,1,3]thiadiazol−4,8−diyl)])をメシチレンに溶解させた溶液をインクジェット法により滴下した後に120℃×1時間の加熱処理をグローブボックス内で行って、膜厚100nmの有機機能層20となるF8BT薄膜を形成した。第2電極22として、Al/Ca電極を真空蒸着法により形成し、最後にグローブボックス内で金属缶の貼り合わせによる封止を行った。このように形成された試料を実施例1とした。
【0054】
なお、第1絶縁層14の窒素(N)原子含有割合は10原子%であり、第2絶縁層16のフッ素(F)原子含有割合は3原子%であった。
【0055】
<実施例2>
第1絶縁層14としてシランガスと亜酸化窒素ガスと窒素ガスの混合ガスを原材料に用いたシリコン酸化膜(絶縁性無機膜)を形成し、そのエッチング手法としてCF/酸素混合ガスプラズマエッチングを用いたこと以外は実施例1と同様の構成とした試料を実施例2とした。
【0056】
<実施例3>
第2絶縁層16として東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003にダイキン社製フッ素添加材を0.5重量%添加したレジストを用いて、そのレジストをパターンニングしてマスクとして利用して第1絶縁層14を酸素ガスプラズマでエッチングして開口部Aを形成し、エッチング後の撥水性の第2絶縁層16の膜厚を3μmとした以外は実施例1と同様の構成とした試料を実施例3とした。なお、第1絶縁層14の窒素(N)原子含有割合は10原子%であった。
【0057】
<実施例4>
第1絶縁層14としてシランガスと亜酸化窒素ガスと窒素ガスの混合ガスを原材料に用いたシリコン酸化膜(絶縁性無機膜)を形成し、第2絶縁層16として東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003にダイキン社製フッ素添加材を0.5重量%添加したレジストを用いて、そのレジストをパターンニングしてマスクとして利用して第1絶縁層14をCF/酸素混合ガスプラズマでエッチングして開口部Aを形成し、エッチング後の撥水性の第2絶縁層16の膜厚を3μmとした以外は実施例1と同様の構成とした試料を実施例4とした。
【0058】
<比較例1>
東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003を用いてパターニングされたレジスト膜にCFプラズマ処理を行って撥水化した絶縁層を第1絶縁層14及び第2絶縁層16の代りに単層として形成した以外は実施例1と同様の構成とした試料を比較例1とした。
【0059】
<比較例2>
東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003にダイキン社製フッ素添加材を0.5重量%添加したレジストを用いてパターニングされた撥水性のレジスト膜を第1絶縁層14及び第2絶縁層16の代りに単層として形成した以外は実施例1と同様の構成とした試料を比較例2とした。
【0060】
<比較例3>
メタンガスとエチレンガスとCHFガスの混合ガスを原材料に用いた撥水性のプラズマ重合膜を第1絶縁層14及び第2絶縁層16の代りに単層として形成した以外は実施例1と同様の構成とした試料を比較例3とした。なお、絶縁層のフッ素(F)原子の含有割合は3原子%であった。
【0061】
<比較例4>
第1絶縁層14及び第2絶縁層16の代りに、東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003を用いてパターニングされたレジスト膜を一層目の絶縁膜とし、東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003にダイキン社製フッ素添加材を0.5重量%添加したレジストを用いてパターニングされた撥水性のレジスト膜を二層目の絶縁膜として形成した以外は実施例1と同様の構成とした試料を比較例4とした。
【0062】
<比較例5>
第1絶縁層14及び第2絶縁層16の代りに、東京応化製フォトレジスト材料TELR−P003を用いて形成されたレジスト膜を一層目の絶縁膜とし、メタンガスとエチレンガスとCHFガスの混合ガスを原材料に用いた撥水性のプラズマ重合膜を二層目の絶縁膜として形成した以外は実施例1と同様の構成とした試料を比較例5とした。
【0063】
<特性評価>
表1及び表2は、実施例1〜4及び比較例1〜5の電流密度10mA/cmのときの発光効率、第1絶縁層14及び第2絶縁層16のエッジからの非発光領域の幅、第1電極12と第2電極22との間に素子駆動方向とは逆の方向に10Vの電圧を印加したときの漏れ電流、初期輝度400cd/mにて常温定電流駆動させたときの輝度半減時間の評価結果を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例1〜4の試料では、発光効率は2cd/A以上、非発光領域の幅は1μm以下、漏れ電流は5×10−9A/mm以下、輝度半減時間は50時間以上であった。これに対して、比較例1〜5の試料では、発光効率は1.9cd/A以上であるにも関わらず、非発光領域の幅は2μm以上、漏れ電流は7×10−8A/mm以上であり、輝度半減時間は50時間未満であった。
【0067】
比較例1〜5において発光効率は実施例1〜4に近い値を示したことから、開口部Aの中心付近では電荷注入層18と有機機能層20との積層構造が均一であると考えられる。しかしながら、比較例1〜5において非発光領域の幅や漏れ電流の値は実施例1〜4に比べて大きく、輝度半減期間も短くなっていることから、開口部Aの絶縁層の縁部において電荷注入層18が薄膜化し、有機機能層20と第1電極12との近接が生じていると推考される。
【0068】
一方、実施例1〜4では、非発光領域の幅や漏れ電流の値は比較例1〜5に比べて小さく、輝度半減期間も長くなっていることから、開口部Aの絶縁層の縁部まで均一な電荷注入層18が形成されており、電荷注入層18と有機機能層20との均一な積層構造が実現されていると考えられる。すなわち、開口部Aの縁部分まで均一な積層構造を有する有機電子素子及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 基板、12 第1電極、14 第1絶縁層、16 第2絶縁層、18 電荷注入層、20 有機機能層、22 第2電極、30 絶縁層、32 電荷注入層、34 有機機能層、36 第1電極、38 第2電極、40 基板、100 有機電子素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された導電性の第1電極と、
前記第1電極上に形成され、少なくとも2層の有機層の積層構造からなる素子部と、
前記素子部上に形成された導電性の第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との絶縁を確保するための絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、前記第1電極上に形成された第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に積層され、前記第1絶縁層より親水性が低い第2絶縁層と、の積層構造を含むことを特徴とする有機電子素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機電子素子であって、
前記第1絶縁層は、プラズマ重合膜又は絶縁性無機膜からなることを特徴とする有機電子素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機電子素子であって、
前記第2絶縁層は、プラズマ重合膜又はフォトレジスト膜からなることを特徴とする有機電子素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機電子素子であって、
前記第1絶縁層は、膜中の酸素(O)原子又は窒素(N)原子の濃度が1原子%以上20原子%以下のプラズマ重合膜であることを特徴とする有機電子素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機電子素子であって、
前記第2絶縁層は、膜中のフッ素(F)原子の濃度が0.0001原子%以上10原子%以下のプラズマ重合膜であることを特徴とする有機電子素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機電子素子であって、
有機電界発光素子、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ、有機センサ、有機メモリーのいずれか1つであることを特徴とする有機電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−160373(P2012−160373A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19943(P2011−19943)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】