説明

有機電界発光素子、画像表示装置、及び有機電界発光素子の製造方法

【課題】バンク及び複数の有機薄膜層を有する有機電界発光素子であって、各有機薄膜層に膜厚ムラや欠陥等がなく、高品質な表示が可能な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】第1の電極、及び該第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、該第1の電極及び該第2の電極の間に、
電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子であって、
前記第2電荷輸送層がドープ材料を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバンクを有する有機電界発光素子とその製造方法、及びその有機電界発光素子を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1987年に、コダック社のTangらによる真空蒸着法を用いた積層型の有機電界発光(electroluminescence:以下「EL」と略称する場合がある。)素子が報告されて以来(非特許文献1参照)、有機ELディスプレイの開発が盛んに行なわれている。現在では有機電界発光素子を表示ディスプレイとして使用したカーオーディオやデジタルカメラ、携帯電話などが次々に製品化されている。
【0003】
このような積層型有機電界発光素子では、通常、陽極と陰極との間に複数の有機薄膜層(発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層等)が積層して設けられる。これらの有機薄膜層の形成は、多くの場合、低分子量色素等、有機薄膜層の材料を真空蒸着することにより行なわれていた。
しかしながら、正孔注入層等の有機薄膜層は真空蒸着法により所望の膜厚で形成することが難しい場合があった。これは、有機薄膜層の材料を蒸着させる場合、下地となる電極の表面に異物や突起、窪み等があるとその影響を受けやすいことによる。また、このように膜厚ムラのある有機薄膜層(例えば正孔注入層等)の上にさらに有機薄膜層として発光層を積層した場合、発光層の膜厚ムラがより大きいものとなりやすく、画像表示装置とした際に表示ムラが生じてしまうことがあった。
そこで、積層型有機電界発光素子における上記有機薄膜層を、湿式成膜法によって形成する技術も報告されている。例えば、特許文献1には、高分子正孔輸送性化合物を含有するインクを塗布することにより正孔注入層を形成した後、上記正孔注入層上に低分子発光材料を含有するインクを塗布し、発光層を形成した有機電界発光素子等が記載されている。
【0004】
特に、このような湿式成膜法を用いて各層を形成する場合の積層型有機電界発光素子では、例えば特許文献2に開示されているように、上記有機薄膜層上に形成する陰極配線を分離配置することや発光層のRGBの塗りわけ等を目的として、陽極上にバンク(隔壁)を設けることがある。このようなバンクを有する有機電界発光素子は、陽極上にバンクを形成した後、正孔注入層や発光層等の複数の有機薄膜層及び陰極配線を、湿式成膜法や蒸着法等により順次形成することにより得られる。
しかしながら、陽極上にバンクを形成する方法においては、有機薄膜層を形成する際にすでにバンクが形成されていることから、例えば正孔注入層等の有機薄膜層を湿式成膜法で形成した場合には、塗布された溶液がバンクに沿って広がってしまうこと等によって、正孔注入層等の有機薄膜層を所望の厚みとすることが難しく、特にバンク近傍での膜厚ムラが大きくなることがあった。また上記正孔注入層等の上にさらに有機薄膜層として発光層を積層した場合、上記と同様により大きなムラが生じやすく、表示ムラが生じたり、得られる有機電界発光素子のバンク近傍の領域、すなわち発光領域と非発光領域との境界が曖昧となること等があった。特に 上記正孔注入層等の上にさらに湿式成膜法により異なる層を積層した場合、既にバンク近傍での膜厚ムラが大きい状態の層の上に別の層を塗布することになり、膜厚が均一で欠陥等がない層とすることが著しく困難になる場合があった。
そこで、特許文献3〜4では、膜厚のばらつきをなくすために、正孔注入層上に、バンクを形成する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、正孔注入層上に、フォトリソグラフィーなど溶剤を使用する製造方法でバンク形成するため、正孔注入層の種類等によっては、フォトレジストに用いられる溶剤により正孔注入層の一部または全部が溶解し、有機電界発光素子の特性が低下してしまったり、また当該溶解の程度が温度などの環境条件によって変動し、製品製造時に有機電界発光素子の特性が一定せずばらついてしまうこと等があった。特に、正孔注入層上に、バンクを形成する技術においては、発光ムラが生じたり、電圧上昇、低発光効率となるなどの課題があった。
【0005】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 第51巻 913ページ
【特許文献1】国際公開第2006/095539号パンフレット
【特許文献2】特開2001−351779号公報
【特許文献3】特開2004−235128号公報
【特許文献4】特開2007−242272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、バンク及び複数の有機薄膜層を有する有機電界発光素子であって、各有機薄膜層に膜厚ムラや欠陥等がなく、さらに発光ムラもなく、また電圧上昇や低発光効率等の課題が解決された、高品質な表示が可能な有機電界発光素子等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、バンクを、第1電荷輸送層および第2電荷輸送層の2層以上積層された層上に形成し、バンクが直接形成される第2電荷輸送層をドープ材料を含まない層とすることにより、上記課題が解決されることがわかり本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の要旨は、第1の電極、及び前記第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に、電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子であって、前記第2電荷輸送層がドープ材料を含まない層であることを特徴とする有機電界発光素子に存する(請求項1)。
【0009】
またこの際、前記第1電荷輸送層がドープ材料を含む層であることが好ましい(請求項2)。
また、前記機能性層が発光層を含む層であることが好ましい(請求項3)。
前記バンクはフォトレジストを用いて形成されていてもよい(請求項4)。
また前記バンクが、前記第1の電極及び第1電荷輸送層に接していないことが好ましい(請求項5)。
【0010】
本発明の第2の要旨は、上述したいずれかの有機電界発光素子を用いたことを特徴とする画像表示装置に存する(請求項6)。
【0011】
また本発明の第3の要旨は、第1の電極、及び前記第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に、電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子の製造方法であって、前記第1の電極、及び前記第1電荷輸送層を形成した後、前記第2電荷輸送層をドープ材料を含まない組成物を成膜して形成する第2電荷輸送層形成工程と、前記第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成するバンク形成工程と、前記第2電荷輸送層上の前記バンクにより区画された領域内に、前記機能性層を形成する機能性層形成工程とを行なうことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法に存する(請求項7)。
また、この際、前記第1電荷輸送層を、ドープ材料を含む組成物を成膜して形成することが好ましい(請求項8)。
また、前記バンク形成工程が、露点0℃未満の乾燥空気中、不活性雰囲気中、または圧力100Pa未満の減圧下での加熱工程を有していてもよい(請求項9)。
【発明の効果】
【0012】
電荷輸送層上にバンクを有する有機電界発光素子において、発光ムラや欠陥等がなく、低駆動電圧で、高発光効率の、高品質な画像表示が可能な有機電界発光素子を安定して製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
本発明は、バンクを有する有機電界発光素子とその製造方法、及びその有機電界発光素子を用いた画像表示装置に関する。以下、それぞれについて説明する。
【0014】
A.有機電界発光素子
まず、本発明の有機電界発光素子について説明する。本発明の有機電界発光素子は、第1の電極、及び前記第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に、電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子であって、前記第2電荷輸送層がドープ材料を含まない層であることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層が積層された上に、バンクが配置される。したがって、従来の、陽極上にバンクが形成された有機電界発光素子とは異なり、第1電荷輸送層や第2電荷輸送層の形成時に、バンクの影響を受けることがなく、これらの層が所望の膜厚及び形状に形成されたものとすることができる。
ここで、画素毎に異なる発光色、例えばRGBを有するフルカラー表示素子において、発光層ではない第1電荷輸送層や第2電荷輸送層は各色で共通とできることが多い。このような場合、第1電荷輸送層や第2電荷輸送層は複数の画素間にまたがって成膜してもよい。特にこのような場合において、第1電荷輸送層や第2電荷輸送層を成膜してからバンクを形成することにより、第1電荷輸送層や第2電荷輸送層の膜厚ムラを少なくすることができ、この上に積層される機能性層についても、所望の膜厚や形状に形成されたものとすることができる。また、上記バンクの形状を利用して、バンクにより区画された領域に高精細に機能性層が形成されているものとすることができるという利点も有する。
【0016】
以上のことから、本発明によれば、色ムラが少なく、また発光領域と非発光領域との境界が明瞭な有機電界発光素子とすることが可能である。
また、特に、第2電荷輸送層をドープ材料を含まない層とすることにより、駆動電圧の上昇や発光効率の低下を防ぐことができる。
また、第2電荷輸送層に例えば架橋性の化合物を使用する、若しくは含有させることにより、バンク形成に使用する溶剤によって下地層が溶解し、有機電界発光素子の特性を低下させたり、下地層の溶解の程度が温度などの環境因子によって変動し、得られた有機電界発光素子の特性がばらつくこと等を抑制できる。
【0017】
なお、通常、第1電荷輸送層、第2電荷輸送層、及び機能性層のうち、本発明においては特に、上記機能性層が発光層を含む層であることが好ましい。特に、機能性層のうち、第2電荷輸送層と隣接する層が発光層であることが好ましい。この場合、上記バンクを利用して、混色なく発光層が形成されたものとすることができる。但し、機能性層は必ずしも発光層を含む必要はない。
【0018】
ここで、本発明の有機電界発光素子における第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層は、電荷を輸送する性能を有する層であれば、本発明の効果を著しく逸脱しない限りその種類に制限はない。ただし、第2電荷輸送層はドープ材料を含まない層とする。第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層はそれぞれ、電子を輸送する性能を有する層であってもよく、また正孔を輸送する性能を有する層であってもよい。また正孔及び電子を輸送する性能を有する層、例えば発光層等であってもよい。このような第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、発光層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層等が挙げられる。
【0019】
また、上記機能性層は、上記バンクにより区画された領域、すなわち第2電荷輸送層のうち、上記バンクが形成されていない領域に形成されてその機能を果たすことが可能な層であり、通常、有機電界発光素子の2つの電極間に形成される層の1層または2層以上を積層したものである。有機電界発光素子の2つの電極間に形成される層としては、特に限定されるものではないが、例としては正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、発光層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層等が挙げられる。機能性層は、これらのうちの1層のみからなるものであってもよく、また2層以上が積層されたものであってもよい。
【0020】
また上記機能性層の形状としては上記バンクにより区画された領域のみに形成されているものであってもよく、また例えば上記バンクにより区画された領域及び上記バンク上、すなわちバンクにより区画された領域及びバンクを覆うように形成されているものであってもよい。ただし、発光層は、バンクにより区画された領域のみに形成されていることが好ましい。また上記機能性層の形成方法に制限はなく、通常機能性層の種類に応じて適宜選択される。例えば上記機能性層は真空蒸着法等の乾式成膜法により形成された層であってもよく、またインクジェット法等の湿式成膜法により形成された層であってもよい。なお、上記バンクの形状を利用して機能性層を形成する場合、すなわちバンクにより隔てられた領域にそれぞれ異なる種類の機能性層を形成する場合や、機能性層をバンクによって分離したい場合等には、湿式成膜法で機能性層形成用組成物を塗布して機能性層を形成することが好ましい。
【0021】
また第1の電極及び第2の電極は、何れかが陽極であり、他方が陰極である。
以下、本発明の有機電界発光素子について、第1の電極が陽極、第2の電極が陰極であり、第1電荷輸送層が正孔注入層、第2電荷輸送層が正孔輸送層、さらに機能性層が発光層である場合を例に説明する。図1は、上記実施形態における有機電界発光素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示す有機電界発光素子10aは、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3(第1電荷輸送層)、正孔輸送層4(第2電荷輸送層)、パターン状に形成されたバンク5、上記バンク5により区画された領域に少なくとも形成された発光層6(機能性層)、及び陰極7を有する。以下、上記各部材について説明する。
【0022】
<1.基板>
基板1は有機電界発光素子10aの支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板等、汎用材料からなる透明基板を用いることが好ましい。
【0023】
基板1の材料の例としては、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2などの各種ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤガラス、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス、TFTが形成されたガラス、高分子材料としては、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレートなどのアクリル樹脂、ピスフェノールAポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィンなどの非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などの合成樹脂、等が挙げられる。また、これらのうち2種以上の積層体であってもよい。目的と用途に応じて、これらの基板の上に反射防止フィルム、円偏光フィルム、位相差フィルムなどの光学フィルムを形成、若しくは貼り合わせてもよい。
【0024】
ただし、合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意することが好ましい。基板1のガスバリア性が小さすぎると、基板1を通過した外気により有機電界発光素子10aが劣化する可能性があるからである。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0025】
<2.陽極>
本実施の形態において、第1の電極は陽極とする。
基板1上には、例えば陽極2が設けられる。陽極2は、発光層6側への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/またはスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。なお、陽極2の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0026】
陽極2の形成方法に制限は無いが、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダ樹脂溶液にそれらを分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
また、陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0027】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、中でも80%以上とすることが好ましく、この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常1000nm以下、中でも500nm以下が好ましい。一方、陽極2が不透明でよい場合、陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。さらに、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0028】
また、陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極2の表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
さらに、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、正孔注入層3の陽極2への付着力を改善させる目的で、正孔注入層3と陽極2との間に公知の陽極バッファ層を挿入してもよい。
【0029】
<3.正孔注入層>
本実施の形態においては、第1電荷輸送層は正孔注入層3とする。
ここで、第1電荷輸送層は、特にドープ材料を含む層であることが好ましい。本発明において、ドープ材料とは、正孔輸送性化合物及び電子受容性化合物を含む材料、または、電子輸送性化合物及び電子供与性化合物を含む材料をいう。すなわち、第1電荷輸送層にドープ材料を含むとは、第1電荷輸送層に正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むこと、または、電子輸送性化合物と電子供与性化合物とを含むことを意味する。もちろん、第1電荷輸送層中において、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物、または、電子輸送性化合物と電子供与性化合物とが反応して生成される化合物が含まれている状態であってもよい。
このような第1電荷輸送層として、本発明では正孔注入層が特に好ましい。正孔注入層3は、陽極2から発光層6側へ正孔を輸送する層である。
以下、まず正孔注入層3に含有される成分を説明し、次に正孔注入層3の形成方法について説明する。
【0030】
〔3−1.正孔注入層の材料〕
正孔注入層3の材料は、正孔を注入可能なものであれば特に制限はなく、正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合は、正孔注入層用の塗布用組成物(以下、適宜「正孔注入層形成用組成物」ということがある)に、正孔注入層の材料が含有される。この正孔注入層の材料は、正孔注入層3を形成しうるものであれば特に制限は無い。通常は、正孔注入層3の材料として、正孔輸送性化合物を用いる。さらに、正孔注入層3の材料として、それ以外の成分を用いてもよい。以下、これらの正孔注入層3の材料について説明する。
【0031】
(3−1−1.正孔輸送性化合物)
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。なお、イオン化ポテンシャルは物質のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、光電子分光法で直接測定されるか、電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正して求められる。後者の方法の場合は、例えば、飽和甘コウ電極(SCE)を基準電極として用いたとき、下記式で表される(”Molecular Semiconductors”, Springer−Verlag, 1985年, pp.98)。
イオン化ポテンシャル = 酸化電位(vs.SCE)+4.3eV
【0032】
正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0033】
なお、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのものおよび芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0034】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、正孔注入層形成用組成物や正孔注入層に、このような化合物のうち何れか1種が単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
以下、重合体(以下、ポリマーともいう。)の正孔輸送性化合物、及び低分子量の正孔輸送性化合物について、それぞれ説明する。
【0035】
(3−1−1−1.ポリマー)
正孔注入層3の材料として用いられるポリマーの種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、その中でも、正孔輸送性を有するポリマー(高分子量の正孔輸送性化合物(以下適宜、「正孔輸送性ポリマー」という。)が好ましく、この観点から、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物であることが好ましい。
【0036】
前記正孔輸送性ポリマーの例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも、非晶質性、溶剤への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン誘導体が好ましい。また、ポリチオフェンの誘導体である3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)をもまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0037】
芳香族アミン誘導体の中でも、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、ここでいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、100万以下の高分子化合物が更に好ましい。
【0038】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【化1】

【0039】
(式(I)中、Ar1及びAr2は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Ar3〜Ar5は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。Xは、下記の連結基群X1の中から選ばれる連結基を表わす。)
【0040】
・連結基群X1:
【化2】

【0041】
(式中、Ar11〜Ar28は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。R1及びR2は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
【0042】
前記式(I)において、Ar1〜Ar5及びAr11〜Ar28としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環由来の、1価又は2価の基が適用可能である。即ち、Ar1、Ar2、Ar16、Ar21及びAr26は、それぞれ1価の基が適用可能であり、Ar3〜Ar5、Ar11〜Ar15、Ar17〜Ar20、Ar22〜Ar25、Ar27及びAr28は、それぞれ2価の基が適用可能である。これらは各々同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、任意の置換基を有していてもよい。
【0043】
前記の芳香族炭化水素環としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などが挙げられる。
【0044】
前記の芳香族複素環としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などが挙げられる。
【0045】
また、Ar3〜Ar5、Ar11〜Ar15、Ar17〜Ar20、Ar22〜Ar25、Ar27、Ar28としては、上に例示した1種類又は2種類以上の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の2価の基を2つ以上連結して用いることもできる。
【0046】
さらに、Ar1〜Ar5及びAr11〜Ar28の芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環由来の基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、下記の置換基群Wから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なお、置換基は、1個が単独で置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0047】
[置換基群W]
メチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは8以下のアルキル基;ビニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルケニル基;エチニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上、通常20以下、好ましくは12以下のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、通常30以下、好ましくは22以下のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常25以下、好ましくは17以下のアリールアルキルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアシル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは4以下のハロアルキル基;メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシロキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下の芳香族炭化水素環基;チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常28以下、好ましくは17以下の芳香族複素環基。
【0048】
上述したものの中でも、Ar1及びAr2としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の1価の基が好ましく、フェニル基、ナフチル基が更に好ましい。
【0049】
また、上述したものの中でも、Ar3〜Ar5としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環由来の2価の基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基が更に好ましい。
【0050】
前記式(I)において、R1及びR2としては、水素原子又は任意の置換基が適用可能である。これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されないが、適用可能な置換基を例示するならば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。これらの具体例としては、先に置換基群Wにおいて例示した各基が挙げられる。
【0051】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性ポリマーの重量平均分子量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1000以上、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、また、通常50万以下、好ましくは20万以下、より好ましくは10万以下である。
【0052】
正孔注入層3中のポリマーの割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、正孔注入層3全体に対する重量比の値で、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、また、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。なお、2種以上のポリマーを併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにすることが好ましい。
【0053】
(3−1−1−2.低分子量の正孔輸送性化合物)
また、正孔注入層3の材料としては、必要に応じて低分子量の正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。
低分子量の正孔輸送性化合物は、従来、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の薄膜形成材料として利用されてきた各種の化合物の中から、適宜選択することが可能である。中でも、溶剤溶解性の高いものが好ましい。
【0054】
低分子量の正孔輸送性化合物の好ましい例としては、芳香族アミン化合物が挙げられる。中でも、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。
【0055】
なお、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下の範囲である。分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる傾向がある一方で、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難となる傾向がある。
【0056】
なお、低分子量の正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
(3−1−2.電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層3の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。 電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層3の材料として用いられる電子受容性化合物の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、電子受容性化合物としては酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。 その例としては、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオンが挙げられる。上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物が好ましく、種々の溶剤に可溶である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物が好ましい。さらに、強い酸化力と高い溶解性とを両立する点から、有機基の置換したオニウム塩が特に好ましく、下記式(II−1)〜(II−3)で表わされる化合物であることが特に好ましい。
【0058】
【化3】

【0059】
(上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わす。R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していてもよい。A1〜A3は何れも長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第3周期以降の元素であって、A1は周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は周期表の第16族に属する元素を表わし、A3は周期表の第15族に属する元素を表わす。Z1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。n1〜n3は、各々独立に、対アニオンのイオン価を表わす。)
【0060】
上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A1〜A3と炭素原子で結合する有機基を表わす。したがって、R11、R21及びR31としては、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に反しない限り、その種類は特に制限されない。
【0061】
11、R21及びR31の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
11、R21及びR31の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0062】
アルキル基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0063】
アルケニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0064】
アルキニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
【0065】
芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0066】
芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0067】
上記式(II−1)〜(II−3)中、R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の置換基を表わす。したがって、R12、R22、R23及びR32〜R34の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。
12、R22、R23及びR32〜R34の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0068】
12、R22、R23及びR32〜R34の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。中でも、R11、R21及びR31と同様、電子受容性が大きい点から、A1〜A3との結合部分に炭素原子を有する有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0069】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11、R21及びR31について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0070】
以上、R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。なお、前記の更に置換する置換基は、1個のみで置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0071】
また、上記式(II−1)〜(II−3)中、R11〜R34のうち隣接する2以上の基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0072】
式(II−1)〜(II−3)中、A1〜A3は、何れも周期表第3周期以降(第3〜第6周期)の元素であって、A1は、長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、A2は、第16族に属する元素を表わし、A3は、第15族に属する元素を表わす。
【0073】
中でも、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、A1としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れ
かが好ましく、A2としてはテルル原子、セレン原子、硫黄原子のうち何れかが好ましく、A3としてはアンチモン原子、ヒ素原子、リン原子のうち何れかが好ましい。
【0074】
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(II−1)におけるA1が臭素原子又はヨウ素原子である化合物、又は、式(II−2)におけるA2がセレン原子又は硫黄原子である化合物が好ましく、中でも、式(II−1)におけるA1がヨウ素原子である化合物が特に好ましい。
【0075】
式(II−1)〜(II−3)中、Z1n1-〜Z3n3-は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
【0076】
式(II−1)〜(II−3)中、n1〜n3は、各々独立に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-のイオン価に相当する任意の正の整数である。n1〜n3の値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0077】
1n1-〜Z3n3-の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられる。
【0078】
特に、対アニオンZ1n1-〜Z3n3-としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、下記式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンが好ましく、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、下記式(II−6)で表わされる錯イオンが更に好ましい。
【0079】
【化4】

【0080】
式(II−4)及び(II−6)中、E1及びE3は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
【0081】
式(II−5)中、E2は、長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。中でもリ
ン原子、ヒ素原子、アンチモン原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さ、毒性の点から、リン原子が好ましい。
【0082】
式(II−4)及び(II−5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表わし、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点からフッ素原子、塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
【0083】
式(II−6)中、Ar61〜Ar64は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11、R21及びR31について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0084】
Ar61〜Ar64として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
【0085】
Ar61〜Ar64が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0086】
中でも、Ar61〜Ar64のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar61〜Ar64の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが特に好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
なお、前記の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0087】
式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンの式量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100以上、好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下の範囲である。該錯イオンの式量が小さ過ぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下する場合があり、また、該錯イオンの式量が大き過ぎると、該化合物自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0088】
正孔注入層3の材料としては、上に説明した各種の電子受容性化合物のうち、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。2種以上の電子受容性化合物を用いる場合には、上記式(II−1)〜(II−3)のうち何れか1つの式に該当する電子受容性化合物を2種以上組み合わせてもよく、それぞれ異なる式に該当する2種以上の電子受容性化合物を組み合わせてもよい。
【0089】
正孔注入層3及び正孔注入層形成用組成物中における電子受容性化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上述の正孔輸送性化合物に対する値で、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。この値は、すなわち、正孔注入層3における、正孔輸送性化合物に対する電子受容性化合物の含有量ともいえる。電子受容性化合物の量は多い方が不溶化しやすいため好ましく、加熱時間が短時間で不溶化することができる。なお、2種以上の電子受容性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0090】
なお、正孔注入層3の形成時或いは形成後に、上記の正孔輸送性化合物、すなわち上述の正孔輸送性を有するポリマー及び/または低分子量の正孔輸送性化合物が、この電子受容性化合物と反応することにより、形成後の正孔注入層3中では、正孔輸送性化合物のカチオンラジカル及びイオン化合物が生成している場合がある。
以上、正孔輸送性化合物および電子受容性化合物について説明したが、正孔輸送性化合物および電子受容性化合物の好ましい組み合わせ、すなわち、好ましいドープ材料としては、芳香族三級アミン化合物(例えば、上記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物)と有機基の置換したオニウム塩(例えば、上記式(II-1)〜(II-3)で表される化合物)とを組み合わせたものや、3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)が好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0091】
(3−1−3.その他の成分)
正孔注入層3の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した正孔輸送性化合物(ポリマー及び低分子量の正孔輸送性化合物)、並びに電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダ樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
〔3−2.正孔注入層の形成〕
(湿式成膜法による正孔注入層の形成)
正孔注入層3の形成方法は特に限定されるものではなく、上述の材料に応じて適宜選択することができる。例えば湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製し、それを塗布及び乾燥することにより形成することができる。以下、特に湿式成膜法により正孔注入層3を形成する方法について説明する。
【0093】
正孔注入層形成用組成物に含有させる正孔注入層用溶剤としては、正孔注入層3の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述のポリマー、電子受容性化合物及び低分子量の正孔輸送性化合物のうち、少なくとも1種、中でも2種以上、特には3種全てを、溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、ポリマーを通常0.005重量%以上、中でも0.5重量%以上、特には1重量%以上溶解することが好ましく、電子受容性化合物を通常0.001重量%以上、中でも0.1重量%以上、特には0.2重量%以上溶解することが好ましい。
【0094】
また、正孔注入層用溶剤としては、ポリマー、電子受容性化合物、低分子量の正孔輸送性化合物及びそれらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させる可能性のある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まない溶剤が好ましい。
【0095】
正孔注入層用溶剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、例えば、水、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤、等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0096】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0097】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
【0098】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、等が挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0099】
ただし、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、酸化剤とポリマーを溶解する能力が低いため、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤またはエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0100】
正孔注入層形成用組成物に対する正孔注入層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、更に好ましくは99.9重量%以下の範囲である。なお、正孔注入層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0101】
正孔注入層形成用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、正孔注入層用溶剤を除去することにより、正孔注入層3が形成される。成膜の方式は、パターニングが可能な方法であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、湿式成膜法が挙げられる。なお、本発明において、湿式成膜法とは、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、ノズルプリンティング法、オフセット印刷法、エアロゾル法、エアロゾルジェット法等の成膜法をいう。
【0102】
これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、エアロゾルジェット法が好ましい。これらの成膜方法は版材を使用しないため、正孔注入層形成用組成物中の正孔注入層用溶剤に版材成分が溶解し、結果的に版材成分が膜中に混入する等の問題が起こらない利点がある。
【0103】
なお、乾燥の手法は例えば、プレート(ホットプレート)上に基板を搭載しそのプレートを介して塗布膜を加熱させるホットプレート方式、前記基板の上面側及び/又は下面側にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して、薄膜を加熱する方式、等を用いることができる。加熱手段は1つでもよく、また2つ以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0104】
なお、正孔注入層3の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0105】
(真空蒸着法による正孔注入層の形成)
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0106】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒(0.01nm/sec)以上、通常5.0Å/秒(0.5nm/sec)以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0107】
真空蒸着法により正孔注入層3を成膜した場合の膜厚については、湿式成膜法により成膜した場合と同様の範囲とすることができる。
【0108】
<4.正孔輸送層>
本実施の形態において、第2電荷輸送層は正孔輸送層とする。本発明において、第2電荷輸送層は、ドープ材料を含まない層であることを特徴とし、特に第2電荷輸送層を正孔輸送層とすることが好ましい。正孔輸送層4は、正孔注入層3側から発光層6側へ正孔を輸送する層である。
正孔輸送層4(第2電荷輸送層)がドープ材料を含有する組成物により成膜されている場合、この層に多数のイオン及び/またはラジカル種が存在することになる。この場合、これらのイオンまたはラジカル種が次に設けるバンク形成プロセスに影響を与える可能性があり、そのことによりバンク材料やプロセスの選定範囲を狭め、あるいは環境条件等によってバンクの形成が不安定になる可能性がある。このため、正孔輸送層4はドープ材料を含まない組成物により成膜することが好ましい。
【0109】
正孔輸送層4を形成する材料としては、上記正孔注入層3に混合して用いてもよい正孔輸送化合物として例示した化合物と同様のものが挙げられる。
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0110】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0111】
【化5】

(式(II)中、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0112】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0113】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0114】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0115】
ArおよびArの置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0116】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
【0117】
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)及び/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0118】
【化6】

【0119】
(式(III−1)中、Ra、Rb、RおよびRは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。tおよびsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRaまたはRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRaまたはRbどうしで環を形成していてもよい。)
【0120】
【化7】

【0121】
(式(III−2)中、RおよびRは、各々独立に、上記式(III−1)におけるRa、Rb、RまたはRと同義である。rおよびuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
【0122】
Xの具体例としては、酸素原子、置換基を有していてもよいホウ素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、置換基を有していてもよいケイ素原子、置換基を有していてもよいリン原子、置換基を有していてもよいイオウ原子、置換基を有していてもよい炭素原子またはこれらが結合してなる基である。
【0123】
また、ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単 位を有することが好ましい。
【0124】
【化8】

【0125】
(式(III−3)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。vおよびwは、各々独立に0または1を表す。)
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、ArおよびArと同様である。
【0126】
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0127】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0128】
また正孔輸送層4は、バンク5形成時に使用する溶剤に溶解しないことが好ましい。このため、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いたり、架橋基を有する添加物を含有させ、正孔輸送層4の形成後に熱、光などの活性エネルギー線照射により不溶化させることが好ましい。架橋基を有する正孔輸送性化合物は、モノマー、オリゴマー或いはポリマーのいずれであってもよい。架橋基としては、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。架橋基を有する正孔輸送性化合物は、上記の架橋基を、1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。架橋基を有する正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組合せで用いることができる。
なお、ここで「誘導体」とは当該用語を付された化合物を排除するものではなく、例えば「トリフェニルアミン誘導体」は、トリフェニルアミンと、トリフェニルアミンから誘導して得られる化合物との両方を含むものとする。
【0129】
湿式成膜法により正孔輸送層4を形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物(以下、正孔輸送層形成用組成物という場合がある)を調製し、それを用いて成膜工程、乾燥工程を経ることにより形成する。これらの詳細は、先の〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した内容と同様である。なお、本発明においては、ドープ材料を含まない該塗布用組成物を調製する。
【0130】
正孔輸送層4を製造するための塗布用組成物に含有させる正孔輸送層用溶剤としては、正孔輸送層4の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述の正孔輸送性化合物や高分子材料を溶解することが可能なものが好ましい。また、正孔注入層3を溶解しない溶剤を用いることがより好ましい。
【0131】
正孔輸送層4を製造するための塗布用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、正孔輸送層用溶剤を除去することにより、正孔輸送層4が形成される。湿式成膜の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。
また乾燥の手法についても、〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した手法と同様であれば、他に制限はない。
【0132】
また、真空蒸着法により正孔輸送層4を形成してもよく、この場合における成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0133】
なお、正孔輸送層4の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
なお、本発明において、第1電荷輸送層と第2電荷輸送層との間には他の層が形成されていてもよいが、第1電荷輸送層と第2電荷輸送層とは、隣接して形成されていることが好ましい。
【0134】
<5.バンク>
正孔輸送層4(第2電荷輸送層)上には、パターン状にバンク5が設けられる。バンク5は、発光層6(機能性層)や、陰極7(第2の電極)を区画すること等を目的として設けられる。バンク5のパターンの形状は特に限定されるものではなく、発光層6の形状や陰極7の形状等に合わせて適宜選択される。本実施形態では機能性層が発光層6であることから、発光領域のパターンを反転させたパターン等とすることができる。陰極7を区画すること等を目的として設けられる場合、上記バンクを陰極隔壁として利用し、有機電界発光パネルにおける、陰極のストライプ状パターニングに用いることができる。
またバンクの断面形状についても特に限定されず、例えば断面形状は矩形状であってもよく、半円形状であってもよく、また逆テーパー形状の台形状やテーパー形状の台形状等であってもよい。またバンクの上面から見た形状についても特に限定されず、矩形、楕円形、または角が丸い長方形等の開口部をもつ形状、あるいは直線状の形状であってもよい。本発明においては特に、バンクが上述の第1の電極及び第1電荷輸送層(本実施の形態では電荷注入層3)に接していないことが好ましい。本発明において、バンクは第2電荷輸送層に接している。そのため、バンクが第1の電極及び/または第1電荷輸送層にも接している場合、バンクは複数の異なる層に接することになる。この場合、バンクと、上記複数の異なる層のうちいずれかの層との密着性が劣り、バンク形状が安定しない、バンクが剥離する、等の課題が生じることがある。一方、バンクが第1の電極及び第1電荷輸送層に接していない場合、すなわちバンクが第2電荷輸送層のみに接している場合は、バンクと第2電荷輸送層の密着性を確保すればよく、複数の層との密着性を確保するよりも技術的により容易に達成可能である。
【0135】
またバンク5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10nm以上、好ましくは100nm以上、また、通常100μm以下、好ましくは10μm以下の範囲である。これにより機能性層(ここでは発光層6)または機能性層以降に成膜される層の膜厚ムラを抑制することができる。なお第2電荷輸送層上に成膜される第1層目の層が発光層6である場合は特に、バンク5の膜厚が、発光層6の膜厚より大きいことが好ましい。
【0136】
またバンク5の幅についても本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、フォトレジストの解像度、バンクが設けられる層とバンクとの密着性等の面から通常1μm以上、好ましくは10μm以上である。また通常上記バンクが設けられた領域は通常、有機電界発光素子の非発光領域とされるため、有機電界発光素子の発光効率や発光面積等の面から、通常500μm以下、好ましくは100μm以下である。
【0137】
〔5−1.バンクの材料〕
バンク5の材料としては、目的とするパターン状にバンク5を形成可能な材料であれば特に限定されず、例えばバンク5が電荷輸送性を有するものとしてもよい。バンク5が電荷輸送性を有する場合、発光面内にバンク材料の残渣(剥離不良)があった場合にも、素子の発光ムラを少なくできるという利点がある。
【0138】
上記バンク5の材料としては、具体的には、スクリーン印刷レジスト材料、フォトレジストなどのレジスト材料、または上記第2電荷輸送層の形成に用いられる材料等を用いることができる。
【0139】
スクリーン印刷レジスト材料は、直接必要な部分にのみ樹脂を印刷するため、スクリーン印刷レジスト材料をバンク5の材料として用いた場合、比較的無駄が少なくまた大面積にも対応し易い。また現像工程が必要ないため、現像液等による第2電荷輸送層の特性低下がないという利点がある。またフォトレジストは汎用されていることから、フォトレジストをバンク5の材料として用いた場合、プロセス条件として既知の条件を利用することができ、微細加工精度が高く、さらにはポジ型、ネガ型等の種類を含む材料選択、露光、現像、ベーク等の条件を適切に設定することにより、逆テーパー形状の台形状やテーパー形状の台形状等の断面形状を比較的容易に作製することができるという利点がある。
【0140】
また、上記バンク5の材料として第2電荷輸送層の形成に用いられる材料を用いる利点としては、例えばパターニング後、第2電荷輸送層上に残渣が残ってしまった場合であっても、機能性層に影響を及ぼす可能性が少ない点がある。またハーフトーンマスクを用いるフォトリソグラフィー等を用いて、凹型の断面形状を持ち、第2電荷輸送層とバンクを兼用する構造を第2電荷輸送層の材料で形成し、製造工程を簡略化できるという点が挙げられる。
【0141】
上記バンク5の材料として用いられるフォトレジストとしては、ポジ型、ネガ型のいずれも使用できる。ポジ型フォトレジストの例としては、TELR−P003 PM(東京応化工業株式会社製)、MCPR i7010N(ローム・アンド・ハース社製)が挙げられる。ネガ型フォトレジストの例としては、ZPN2464(日本ゼオン株式会社製)がある。使用するフォトレジストは、バンクを形成する目的に応じて選択することが好ましい。例えば、インクジェット印刷用として形成する場合は、テーパー形状の断面を有するバンク形成に適したフォトレジストの使用が好適である。一方、バンク5をパッシブマトリクスディスプレイ等における陰極隔壁として形成する場合は、逆テーパー形状の断面を有するバンク形成に適したフォトレジストの使用が望ましい。
【0142】
また、第2電荷輸送層と同様の材料としては、上述した正孔注入層や正孔輸送層の欄で説明した材料や、後述する正孔阻止層、発光層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層等の欄で説明するいかなる材料も用いることが可能である。上記の中でも、本実施形態において異なる発光色を良好に塗り分けるためには、発光層をバンク形成直後に成膜することが望ましいという観点から、発光層に隣接する層であることが好ましい。
以下、フォトレジストの例について詳説するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0143】
(5−1−1.フォトレジスト)
フォトレジスト(バンク形成用組成物)に含有されていることが好ましい材料としては、バインダー樹脂、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、及びアミノ化合物などが挙げられる。
以下、これらについて詳述する。
【0144】
(バインダー樹脂)
本発明に用いられるフォトレジストは、バインダー樹脂を含有することが好ましい。バインダー樹脂としては、現像液で現像可能な樹脂が用いられる。現像液としては通常アルカリ現像液が好適に用いられることから、バインダー樹脂はアルカリ可溶性樹脂であることが好ましい。
【0145】
アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、アクリル酸系樹脂、カルボキシ基含有ウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂、変性ノボラック樹脂、カルド樹脂、カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物、各種エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂等が挙げられ、好ましくは、アクリル酸系樹脂、カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物、エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂、および変性ノボラック樹脂が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組合せで用いることができる。
【0146】
以下に、上記の中でも特に好適に用いられるバインダー樹脂として、アクリル酸系樹脂、カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物、エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂および変性ノボラック樹脂について、さらに詳述する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の双方を含むことを意味し、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」なども同様の意味である。また、モノマー名の前に「(ポリ)」をつけたものは、当該モノマーと、そのポリマーとの双方を含むことを意味し、「(酸)無水物」または「(無水)…酸」とは、酸とその無水物の双方を含むことを意味する。
【0147】
さらに、(共)重合体とは、重合体と共重合体の双方を含むことを意味する。
また、本発明において、「全固形分」とは、本発明のフォトレジストの構成成分のうち、溶剤を除くすべての成分を意味する。
【0148】
・アクリル酸系樹脂
本発明に用いられるフォトレジストに含有されるバインダー樹脂としては、アクリル酸系樹脂であることが好ましい。
アクリル酸系樹脂は、アルカリ可溶性が向上する点で、側鎖又は主鎖に、カルボキシ基又はフェノール性水酸基のいずれかを有する単量体を重合させて得られる(共)重合体であることが好ましい。
主鎖又は側鎖に、カルボキシ基又はフェノール性水酸基のいずれかを有する単量体としては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに酸(無水物)を付加させた単量体が挙げられる。酸(無水物)としては、(無水)コハク酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸などが挙げられる。
【0149】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに酸(無水物)を付加させた単量体としては、例えば、コハク酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、アジピン酸(2−アクリロイロキシエチル)エステル、フタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、ヘキサヒドロフタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル等が挙げられる。
【0150】
さらに、上記の単量体と共重合させることができる単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体類、桂皮酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和基含有カルボン酸類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のエステル類、(メタ)アクリル酸にε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類を付加させた化合物類等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のアクリロニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の酸ビニル類が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0151】
・カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物
本発明に用いられるフォトレジストに含有される別の好ましいバインダー樹脂としては、カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物が挙げられる。
【0152】
カルボキシ基含有ビニル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸系重合体等が挙げられ、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
またエポキシ基含有不飽和化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0153】
・エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂
本発明に用いられるフォトレジストに含有されるさらに別の好ましいバインダー樹脂としては、エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂が挙げられる。
エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂としては、2種以上の不飽和基を有する化合物と不飽和カルボン酸、および必要に応じて不飽和カルボン酸エステルとの共重合体などが挙げられる。
【0154】
2種以上の不飽和基を有する化合物としては例えば、アリル(メタ)アクリレート、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、ビニル(メタ)アクリレート、2−フェニルビニル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(エステル)、及び(メタ)アクリル酸(エステル)等が挙げられ、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0155】
・変性ノボラック樹脂
本発明におけるフォトレジストに含有されるバインダー樹脂としては、変性ノボラック樹脂であることが好ましい。
変性ノボラック樹脂は、ノボラック樹脂と不飽和基含有エポキシ化合物を反応後、得られた反応物の水酸基と(無水)多塩基酸とを付加させることで得られる樹脂である。
【0156】
ノボラック樹脂類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、安息香酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、サリチル酸、等のフェノール類の少なくとも1種を、酸触媒下、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類、又は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、の1種または2種以上を重合して得られる樹脂が挙げられる。
また、ノボラック樹脂の代わりに、レゾール樹脂を用いてもよい。
【0157】
不飽和基含有エポキシ化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、グリシジルオキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)ビニル等が挙げられる。1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0158】
(無水)多塩基酸としては、水酸基と付加する基を有する化合物であればとくに制限はなく、公知の材料を用いることができるが、例えば、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸等の二塩基性カルボン酸及びその無水物;トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、等の多塩基性カルボン酸及びその無水物、などが挙げられ、1種のみを用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0159】
・バインダー樹脂の含有量など
フォトレジスト中におけるバインダー樹脂の含有割合は、溶剤を除く全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。この下限値を下回るとバンクを形成するのに十分な硬化性が得られず、所望の形状のバンクが形成できない可能性がある。また、この上限値を上回ると塗布性や現像性が低下する可能性がある。
上記バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、異なる2種を混合して用いてもよい。
【0160】
(エチレン性不飽和化合物)
本発明に用いられるフォトレジストは、エチレン性不飽和化合物を含有することが好ましい。
エチレン性不飽和化合物としては、特に制限はないが、後述の有機電界発光素子の製造方法のバンク形成工程における現像の際、露光部と非露光部との現像液に対する溶解性の差が大きくなり、バンクのパターンが所望の形状に形成される点で、エチレン性不飽和基を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましく、また、その不飽和基は(メタ)アクリロイルオキシ基に由来することが更に好ましい。
【0161】
エチレン性不飽和基を分子内に2個以上有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類、及び、(メタ)アクリル酸又はヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられ、好ましくは、エステル(メタ)アクリレート類、又は、ウレタン(メタ)アクリレート類であり、特に好ましくはジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等、5官能以上のものである。
【0162】
フォトレジスト中の、エチレン性不飽和化合物の濃度は、溶剤を除く全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。この下限値を下回ると、バンク形成工程における露光の際、露光による硬化性が十分でなく、所望の形状のバンクが形成できない可能性があり、また、この上限値を上回ると所望の形状のバンクが形成できない可能性がある。
上記エチレン性不飽和化合物は、1種を単独で用いてもよく、異なる2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0163】
(光重合開始剤)
本発明におけるフォトレジストは、光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、活性光線によりエチレン性不飽和基を重合させる化合物であれば特に限定されるものではなく、公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0164】
フォトレジスト中の、光重合開始剤の濃度は、溶剤を除く全固形分に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。フォトレジスト中の光重合開始剤の濃度が過度に大きいとバンクを形成する第2電荷輸送層との密着性が低下する可能性があり、また濃度が小さ過ぎると形成するバンクの硬化性が低下する可能性がある。
上記光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、また異なる2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0165】
(アミノ化合物)
本発明に用いられるフォトレジストは、露光によるフォトレジストの架橋を促進する点で、アミノ化合物を含有することが好ましい。
アミノ化合物としては、公知の化合物を用いることができるが、例えば、官能基としてメチロール基、及び/またはそれを炭素数1以上8以下のアルコール縮合変性したアルコキシメチル基を少なくとも2個有するアミノ化合物が挙げられる。
フォトレジスト中の、アミノ化合物の濃度は、溶剤を除く全固形分に対して、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、また、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上である。濃度が大き過ぎると、フォトレジストの保存安定性に影響する可能性があり、また濃度が小さ過ぎると、形成したバンクの硬化性が低下する可能性がある。
上記アミノ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0166】
(その他の成分)
本発明におけるフォトレジストは、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、撥液剤、着色剤、表面改質剤、現像改良剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、エポキシ化合物、その他の樹脂、溶剤等が挙げられる。
【0167】
(撥液剤)
本発明におけるフォトレジストは、撥液剤を含有することが好ましい。
撥液剤としては、バンクに撥液性を持たせる効果があれば特に限定されないが、例えば、フッ素含有化合物やシリコン含有化合物が挙げられる。溶剤として有機溶剤を用いる場合には、フッ素含有化合物を用いることが好ましい。
フッ素含有化合物としては、特に制限されず、低分子化合物でも、高分子化合物であってもよいが、例えば、パーフルオロアルキル基やパーフルオロポリエーテル基などを含む化合物が挙げられる。
【0168】
パーフルオロアルキル基を含む化合物としては、例えば、特開平7−35916号公報、特開平11−281815号公報、国際公開第2004−042474号パンフレット、特開2005−60515号公報、特開2005−315984号公報、特開2006−171086号公報、等に記載の化合物;BYK−340(ビッグケミー社製)、モディパーF200、F600、F3035(以上、日油社製)フタージェントMシリーズ、Sシリーズ、Fシリーズ、Gシリーズ、Dシリーズ、オリゴマーシリーズ(以上、ネオス社製)、ユニダイン(ダイキン工業社製)、トリフロロプロピルトリクロロシラン(信越シリコーン社製)、サーフロンS−386(AGCセイミケミカル社製)、等のパーフルオロ基含有アクリルモノマーを成分として共重合した樹脂が挙げられる。
【0169】
さらに、撥液剤として用いられる樹脂(以下、「撥インク性樹脂」と称する)としては、例えば、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアミド樹脂、フッ素化ポリウレタン樹脂、フッ素化シロキサン樹脂及びそれらの変性樹脂などのも挙げられる。
また、撥液剤として、バンク形成工程中、例えば現像工程などで撥液剤が流出する可能性がない点で、撥インク性樹脂を用いることが好ましい。さらに、撥インク性樹脂は、側鎖として架橋性基を有する撥インク性樹脂(以下、「架橋性基含有撥インク性樹脂」と称する)を用いることが好ましい。
【0170】
架橋性基含有撥インク樹脂としては、特に制限はないが、例えば、メガファックRS−101、RS−102、RS−105、RS−401、RS−402、RS−501、RS−502(以上、DIC社製)、オプツールDAC(ダイキン工業社製)、パーフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記の撥液剤は、1種を単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0171】
上記撥液剤の濃度は、撥液剤におけるフッ素原子含有量が10重量%以上の場合は、フォトレジストの溶剤を除く全固形分に対して、通常0.001重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、また通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。
また、フッ素原子含有量が10重量%より少ない場合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0172】
この下限値を下回ると、バンクの撥インク性が不十分となり、機能性層(本実施の形態では発光層)を形成する際に、機能性層形成用組成物(発光層形成用組成物)がバンクにより区画された領域に流れ出してしまう可能性がある。また、この上限値を上回ると、後述の現像工程での現像が困難となり、所望の形状のバンクが形成されにくくなる可能性がある。
上記撥液剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0173】
(着色剤)
本発明に用いられるフォトレジストは、着色剤を含んでいてもよい。
着色剤としては、公知の着色剤を用いることができ、例えば、顔料、染料等が挙げられるが、機能性層が発光層を含む場合、バンクを黒色に着色することで、より鮮明な画素が得られる点で、黒色着色剤が好ましい。黒色着色剤としては、例えば、黒色染料や、カーボンブラック、チタンブラック、有機顔料などが挙げられる。
着色剤の濃度は、フォトレジスト中の溶剤を除く全固形分に対して、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0174】
着色剤として顔料を用いる場合は、フォトレジスト中で顔料が凝集するのを防止する点で、さらに分散剤や分散助剤を含んでいてもよい。
上記着色剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0175】
(表面改質剤、現像改良剤)
本発明に用いられるフォトレジストは、表面改質剤及び現像改良剤を含んでいてもよい。
表面改質剤及び現像改良剤としては、特に制限はなく、公知の材料をもちいることができるが、例えば、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、フッ素系、シリコン系界面活性剤などが挙げられる。
表面改質剤または現像改良剤の濃度は、フォトレジスト中の溶剤を除く全固形分に対して、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
上記表面改質剤及び現像改良剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0176】
(重合禁止剤、酸化防止剤)
本発明に用いられるフォトレジストは、フォトレジストの安定性が向上する点で、重合禁止剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキシフェノール等が挙げられる。
また酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−クレゾール(BHT)等のヒンダードフェノール系の化合物などが挙げられる。
重合開始剤および酸化防止剤の濃度は、フォトレジスト中の溶剤を除く全固形分に対して、通常5ppm以上1000ppm以下、好ましくは10ppm以上600ppm以下である。
【0177】
この濃度が小さすぎると、フォトレジストが重合したり酸化したりして、バンク形成材料として用いることが困難となる可能性がある。また、この濃度が大きすぎると、例えば、バンク形成工程における加熱の際、フォトレジストの硬化が不十分となる可能性がある。
上記重合禁止剤及び酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0178】
(シランカップリング剤)
本発明に用いられるフォトレジストは、形成したバンクと第2電荷輸送層との密着性を向上する点で、シランカップリング剤を含有していてもよい。
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系、メタクリル系、アミノ系、イミダゾール系シランカップリング剤等が挙げられ、中でもエポキシ系、及びイミダゾール系シランカップリング剤が好ましい。
シランカップリング剤の濃度は、フォトレジスト中の溶剤を除く全固形分に対して、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
上記シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0179】
(エポキシ化合物)
本発明に用いられるフォトレジストは、形成したバンクの硬化性や、形成したバンクと第2電荷輸送層との密着性を向上する点で、エポキシ化合物を含有していてもよい。
エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する繰り返し単位を含む化合物が好ましく、公知の材料を用いることができるが、例えば、ポリヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル化合物、ポリカルボン酸化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル化合物、及び、ポリアミン化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルアミン化合物、等が挙げられる。
上記エポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組合せで併用してもよい。
【0180】
エポキシ化合物の濃度は、フォトレジスト中の溶剤を除く全固形分に対して、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。濃度が大きすぎると、フォトレジストの保存安定性に影響する可能性がある。
【0181】
(溶剤)
本発明に用いられるフォトレジストは、通常溶剤を含有する。
フォトレジストに含有される溶剤としては、特に制限は無く、フォトレジスト及び各成分を溶解又は分散させるための溶剤が適宜選択されるが、例えば、水、ジイソプロピルエーテル、ミネラルスピリット、n−ペンタン、アミルエーテル、エチルカプリレート、n−ヘキサン、ジエチルエーテル、イソプレン、エチルイソブチルエーテル、ブチルステアレート、n−オクタン、バルソル#2、アプコ#18ソルベント、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、アプコシンナー、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキセン、メチルノニルケトン、プロピルエーテル、ドデカン、Socal solvent No.1およびNo.2、アミルホルメート、ジヘキシルエーテル、ジイソプロピルケトン、ソルベッソ#150、酢酸ブチル(n、sec、t)、ヘキセン、シェル TS28 ソルベント、ブチルクロライド、エチルアミルケトン、エチルベンゾネート、アミルクロライド、エチレングリコールジエチルエーテル、エチルオルソホルメート、メトキシメチルペンタノン、メチルブチルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルイソブチレート、ベンゾニトリル、エチルプロピオネート、メチルセロソルブアセテート、メチルイソアミルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピルアセテート、アミルアセテート、アミルホルメート、シクロヘキシルアセテート、ビシクロヘキシル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジペンテン、メトキシメチルペンタノール、メチルアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、プロピルプロピオネート、プロピレングリコール−t−ブチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、カルビトール、シクロヘキサノン、酢酸エチル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピオン酸、3−エトキシプロピオン酸、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、ジグライム、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールアセテート、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール−t−ブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、等が挙げられる。
【0182】
また、フォトレジストに含有される溶剤の沸点は、通常60℃以上、好ましくは70℃以上、また通常280℃以下、好ましくは260℃以下である。
上記溶剤は、フォトレジスト溶液中の全固形分の割合が、通常10重量%以上、また通常90重量%以下となるように使用される。
上記溶剤は、1種を単独で用いてもよく、また異なる2種以上を任意の比率及び組合せで混合して用いてもよい。
【0183】
〔5−2.バンクの形成〕
バンク5の形成方法は、上記材料に応じて適宜選択される。
例えばバンク5を製造するための材料が、上記フォトレジストである場合には、フォトレジストを上記第2電荷輸送層(正孔輸送層4)上に塗布し、フォトマスク等を用いて目的とするパターン状に露光・現像する方法等とすることができる。
【0184】
フォトレジストの塗布の方式は本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、ソフトリソグラフ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、等が挙げられる。
【0185】
また、上記フォトレジストの露光条件等については、上記材料の種類等に応じて適宜選択される。具体的な露光条件としては、露光波長に関しては、g線(波長436nm)、i線(波長365nm)、ブロード(g、h、i線の3波長)、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)、F2エキシマレーザー(波長157nm)等が選択可能であるが、本発明では、要求されるレジスト線幅と、取り扱い設備の簡便さから、放電ランプ等を光源に用いるg線、i線、またはブロードを用いることが好ましい。また露光量については、通常所望のバンク形状を得るために適切な条件を選択するが、露光時間の観点から、1J/cm2以下であることが好ましい。
【0186】
また現像液についても上記フォトレジストの種類により適宜選択されるが、ポジ型レジストの場合は、通常テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)の水溶液が用いられる。TMAHの濃度は2.38%が一般的である。現像液中には必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えてもよい。ネガ型レジストの場合は、有機溶剤を含む現像液が用いられ、レジストの材料に併せて複数の有機溶剤及び/または水を混合して用いたり、界面活性剤等の添加剤を加えてもよい。中でもTMAH水溶液、またはハロゲン溶剤を含まない現像液が、環境負荷低減の観点から好ましい。また現像条件も上記フォトレジストの種類により適宜選択されるが、通常室温または100℃以下に加熱した現像液に一定時間浸漬したり、現像液を基板に棒状ないしシャワー状に注いだりする方法とすることができる。この場合、現像時間を短縮し、または量産時に複数の基板をバラツキなく安定的に現像させるため、基板を揺動させたり現像液を撹拌したりしてもよい。
【0187】
現像液が必要な時間を超えて現像液等がレジスト上に付着することにより、所望の形状に形成されたレジストが、過度に現像されて望ましくない形状に変化することを防止するため、現像時間終了後に現像液を除去する目的、及び現像液に含まれる成分や、現像されたレジスト残渣がバンクまたはその下地層に付着・残留することを防ぐ目的で、通常、現像の次にリンスを行う。リンスは、リンス液中に浸漬したり、リンス液を基板に棒状ないしシャワー状に注いだりする方法で行われる。リンス液についても上記フォトレジストの種類により適宜選択されるが、現像液及びフォトレジスト残渣を良好に溶解するものが好ましい。TMAH水溶液を現像液に用いる場合は通常超純水が用いられ、有機溶剤を含む現像液を使用する場合には、その有機溶剤を良好に溶解する液が用いられる。リンス液に、有機電界発光素子の特性に影響する不純物が含まれていると、アクティブ駆動有機電界発光素子パネルにおける駆動用薄膜トランジスタ(TFT)特性に対する影響、及び/または得られた有機電界発光素子の特性、例えば素子電圧、発光効率、駆動寿命等に影響を及ぼすことがある。適当でない不純物の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、パラジウムなどの金属イオンまたはそれらの金属酸化物、金属化合物、あるいはポリマーを含む有機化合物、バクテリア、微生物及びその死骸等が挙げられる。特に適当ではない不純物の例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、アルミニウムイオン、パラジウムイオンなどの金属イオン、及び有機ハロゲン化物が挙げられる。中でも、金属イオン及び沸点が150℃以上の有機ハロゲン化物は、バンク形成工程におけるポストベークによっても除去できない可能性が高い。これらの不純物のリンス液中濃度は、通常0.1%以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは1ppm以下に低減されていることが好ましい。
【0188】
リンス工程の後には、所望の形状に形成されたバンクと第2電荷輸送層との密着性を高め、またリンス液及びリンス液に含まれる、適当でない不純物を加熱により除去するため、ポストベークが通常行われる。ポストベークの条件も上記フォトレジストの種類により適宜選択されるが、ポストベーク温度についてはバンクと第2電荷輸送層との密着性を高め、リンス液及び適当でない不純物を除去する観点から、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、高温によるバンク及び/または下地の構造変化、化学変化を防ぐ観点から、通常350℃未満、好ましくは300℃未満である。加熱手段については特に制限はなく、ホットプレート、オーブン、赤外線や電磁波などの活性エネルギー線照射等が挙げられる。加熱時の雰囲気については、ポストベーク後に水分が再吸着すること、あるいは高温時のバンクまたは下地の酸化を防ぐため、露点0℃未満の乾燥空気中、窒素などの不活性ガス中、圧力100Pa未満の減圧下で行うことが好ましい。加熱時間についても特に制限はないが、製造時間を短縮する観点から、通常3時間以内、好ましくは1時間以内で行われる。
【0189】
なお、必要に応じて、フォトレジストの塗布後、露光前にプリベーク工程を行ってもよい。プリベークの条件もフォトレジストの種類により適宜選択されるが、高温でプリベークを行うとフォトレジストを所望の形状に現像することが難しくなることから、通常ポストベークより低い温度で行われる。また現像前に、露光後ベークを施してもよい。露光後ベークは通常ネガ型のフォトレジストを使用する際、露光部を確実に不溶化させる目的で行われる。
【0190】
一方、上記バンク5の形成に第2電荷輸送層4と同様の材料を用いる場合、上記バンク5の形成は、上記フォトレジストを用いた場合と同様に、層形成後、露光・現像する方法であってもよく、ハーフトーンマスク等を用いて、凹型の断面形状を有するように露光・現像する方法であってもよく、また湿式成膜法等によってバンク5を形成する領域のみに上記材料を塗布する方法等であってもよい。
【0191】
なお、上記バンク5は1層のみから形成してもよいが、上述した材料を用い、同一種類または異なる種類の2層以上の層を積層して形成してもよい。またバンク5の表面は、例えば機能性層(本実施の形態では発光層6)の形成方法や形成材料等に合わせて適宜、親液化処理や撥液化処理等を行なってもよい。親液化処理や撥液化処理の方法としては特に制限はないが、例としては、大気圧または減圧条件で、CF4などのフッ素化物、酸素、アルゴンなどの希ガス、またはそれらの混合ガス雰囲気中でプラズマ放電を行う方法、バンク形成用材料に親液性や撥液性の材料を用いる方法、あるいはバンク形成用材料塗布液に親液性や撥液性の添加物、例えば界面活性剤を混合する方法などが挙げられる。
【0192】
<6.発光層>
本実施の形態においては、機能性層は発光層とする。
本実施の形態における有機電界発光素子では、少なくとも上記バンクにより区画された領域、すなわちバンク5が形成されていない領域の正孔輸送層4上に、発光層6が設けられる。発光層6は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3等を通じて注入された正孔と、陰極7から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0193】
〔6−1.発光層の材料〕
発光層6は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)、あるいは、正孔・電子の両方を輸送する性質を有する化合物を含有する。発光材料をドーパント材料として用い、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物をホスト材料として用いることが好ましい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層6は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、本発明においては、高分子化合物、低分子化合物のいずれも使用できるが、発光材料が低分子化合物であることが好ましい。なお、低分子化合物とは、分子量が、通常6000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは1500以下の化合物をいう。
【0194】
(6−1−1.発光材料)
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
【0195】
以下、発光材料のうち蛍光色素の例を挙げるが、蛍光色素(蛍光発光材料)は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光色素(青色蛍光色素)としては、例えば、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光色素(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光色素(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0196】
次に、発光材料のうち、燐光発光材料について説明する。燐光発光材料としては、例えば、周期表第7〜11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体が挙げられる。
【0197】
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましいもの例を挙げると、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(V)又は式(VI)で表わされる化合物が挙げられる。
【0198】
【化9】

{式(V)中、Mは金属を表わし、qは上記金属の価数を表わす。また、L及びL’は二座配位子を表わす。jは0、1又は2の数を表わす。}
【0199】
【化10】

{式(VI)中、M7は金属を表わし、Tは炭素原子又は窒素原子を表わす。R92〜R95は、各々独立に置換基を表わす。但し、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。}
【0200】
以下、まず、式(V)で表わされる化合物について説明する。
式(V)中、Mは任意の金属を表わし、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
【0201】
また、式(V)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【化11】

上記Lの部分構造において、環A1”は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
【0202】
環A1”を構成する芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0203】
環A1”を構成する芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0204】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表わす。
環A2を構成する含窒素芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0205】
環A1”又は環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
なお、前記置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0206】
また、式(V)中、二座配位子L’は、以下の部分構造のうちの少なくともいずれかを有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表わす。
【化12】

【0207】
中でも、L’としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【化13】

【0208】
式(V)で表わされる化合物として、更に好ましくは、下記式(Va)、(Vb)及び(Vc)の少なくともいずれかで表わされる化合物が挙げられる。
【0209】
【化14】

【0210】
{式(Va)中、M4は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0211】
【化15】

【0212】
{式(Vb)中、M5は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0213】
【化16】

【0214】
{式(Vc)中、M6は、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、jは、0、1又は2を表わし、環A1”及び環A1’は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2及び環A2’は、各々独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0215】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A1”及び環A1’の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0216】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A2及び環A2’の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0217】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで表わされる化合物が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0218】
また、前記置換基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。また、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合、その炭素数は通常12以上28以下である。また、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
【0219】
なお、前記の置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1”が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、例えば7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0220】
上述した置換基の中でも、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。なお、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0221】
また、式(Va)、(Vb)及び(Vc)におけるM4〜M6の好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
【0222】
上記式(V)、(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで示される有機金属錯体の具体例を以下に示す。但し、下記の化合物に限定されるものではない。
【0223】
【化17】

【0224】
【化18】

【0225】
さらに、上記式(V)で表わされる有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL’として2−アリールピリジン系配位子(即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるもの)を有する化合物が好ましい。
【0226】
また、国際公開第2005/019373号パンフレット明細書に記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0227】
次に、式(VI)で表わされる化合物について説明する。
式(VI)中、M7は金属を表わす。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0228】
また、式(VI)において、R92及びR93は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表わす。なお、各R92及びR93はそれぞれ同じでもよく異なっていてもよい。
【0229】
更に、式(VI)においてTが炭素原子である場合、R94及びR95は、各々独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表わす。また、式(VI)においてTが窒素原子である場合は、R94及びR95は無い。なお、各Tは同じでもよく異なっていてもよい。
【0230】
また、式(VI)においてR92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。また、その置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
さらに、式(VI)においてR92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0231】
式(VI)で表わされる有機金属錯体の具体例(T−1〜T−7)を以下に示す。但し、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表わし、Etはエチル基を表わす。
【0232】
【化19】

【0233】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、層を形成した際の層の質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0234】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0235】
発光層6における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常35重量%以下、好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0236】
(6−1−2.正孔輸送性化合物)
また、発光層6には、構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の(3−1−1−2.低分子量の正孔輸送性化合物)の欄で例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。なお、発光層6において、正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0237】
発光層6における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常95重量%以下、好ましくは75重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0238】
(6−1−3.電子輸送性化合物)
発光層6には、構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。なお、発光層6において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0239】
発光層6における電子輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常95重量%以下、好ましくは75重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0240】
〔6−2.発光層の形成〕
上記発光層6の形成法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられる。湿式成膜法により発光層6を形成する場合、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物(発光層形成用組成物、機能性層形成用組成物)を調製し、それを上記バンク5が形成された正孔輸送層4上に塗布・成膜し、乾燥して溶剤を除去することにより形成する。この際、正孔輸送層4及びバンク5を覆うように塗布・成膜してもよく、また上記バンク5により区画された領域のみに、湿式成膜法により塗布・成膜してもよい。湿式成膜法としては、例えばインクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、エアロゾル法、エアロゾルジェット法等が好ましい。
【0241】
発光層6を製造するための塗布用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層6の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述の発光材料、正孔輸送性化合物、及び、電子輸送性化合物を溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、発光材料、正孔輸送性化合物、あるいは電子輸送性化合物を、通常0.01重量%以上、中でも0.05重量%以上、特には0.1重量%以上溶解することが好ましい。発光層用溶剤の好適な例は、上述した〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した溶剤と同様である。
【0242】
発光層6を製造するための塗布用組成物に対する発光層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1重量%以上、好ましく10重量%以上、より好ましくは50重量%以上、また、通常99.99重量%以下、好ましくは99.9重量%以下、更に好ましくは99重量%以下の範囲である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0243】
発光層6を製造するための湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、例えば上記〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。なお、乾燥の手法についても、〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した手法と同様とすることができ、他に制限はない。
【0244】
なお、発光層6は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいが、異なる材料からなる層であってもよい。
【0245】
発光層6の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層6の膜厚が、薄すぎると発光層に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると有機電界発光素子の駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0246】
<7.陰極>
本実施の形態においては、第2の電極は陰極とする。
陰極7は、発光層6側の層に電子を注入する役割を果たすものである。陰極7の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。なお、陰極7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0247】
陰極7の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極7を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ
及び比率で併用してもよい。
【0248】
<8.その他の層>
以上、図1に示す層構成の有機電界発光素子を中心に説明してきたが、本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよく、後述するいずれの層を第1電荷輸送層、第2電荷輸送層、または機能性層として用いてもよい。またさらにその性能を損なわない限り、陽極2と陰極7との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0249】
例えば図2に示すように、有機電界発光素子10bとして、発光層6と陰極7との間に電子注入層8及び電子輸送層9を有する構成等とすることもできる。なお図1と同様の構成要素については同一の符号を付して表わし、その説明は省略する。また、例えば図3に示すように、有機電界発光素子10cとして、第1電荷輸送層を正孔注入層3とし、第2電荷輸送層を電子阻止層11とした構成等も可能である。図1及び図2と同様の構成要素については同一の符号を付して表わし、その説明は省略する。
【0250】
また例えば第1の電極を陰極とし、第2の電極を陽極としてもよい。この場合、図4に示すように、有機電界発光素子10dは、基板1の上に、陰極7、電子注入層8(第1電荷輸送層)、電子輸送層9(第2電荷輸送層)、電子輸送層9上にパターン状に形成されたバンク5、上記バンク5により区画された領域に少なくとも形成された発光層6(機能性層)、及び陽極2を有する構成等とすることができる。
【0251】
〔8−1.電子輸送層〕
電子輸送層9は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極7から注入された電子を効率よく発光層6の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0252】
電子輸送層9に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極7又は後述する電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。なお、電子輸送層9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0253】
電子輸送層9の形成方法に制限はなく、例えば湿式成膜法により形成してもよいが、真空蒸着法により形成することが特に好ましい。
電子輸送層9の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0254】
〔8−2.電子阻止層〕
電子阻止層11は、発光層6から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層6内で正孔と電子との再結合確率を上げ、生成した励起子を発光層6内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層6の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は効果的である。
【0255】
電子阻止層11に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明において、発光層6を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層11に湿式成膜の適合性があることが好ましい。このような電子阻止層11に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット記載)等が挙げられる。なお、電子阻止層11の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0256】
電子阻止層11の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した方法や、その他の方法で正孔注入層3等の上に積層することにより形成することができる。
【0257】
〔8−3.電子注入層〕
電子注入層8は、陰極7から注入された電子を効率良く発光層6へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうため、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0258】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
また、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年, Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0259】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した湿式成膜法や、その他の方法で発光層6上に積層することにより形成することができる。
【0260】
〔8−4.正孔阻止層〕
また、例えば、発光層6と電子輸送層9との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層6の上に、発光層6の陰極7側の界面に接するように積層される層である。この正孔阻止層は、陽極2から移動してくる正孔が陰極7に到達するのを阻止する役割と、陰極7から注入された電子を効率よく発光層6の方向に輸送する役割とを有する。
【0261】
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0262】
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の〔3−2.正孔注入層の形成〕の欄で説明した湿式成膜法や真空蒸着法等で形成できるが、真空蒸着法で形成することが好ましい。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0263】
〔8−5.その他〕
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明の有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0264】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0265】
更には、本発明の有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0266】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0267】
B.画像表示装置
本発明の画像表示装置は、上述した有機電界発光素子を用いたことを特徴とする。上記有機電界発光素子を用いていることから、色ムラ等がなく、発光領域及び非発光領域の境界が明瞭な画像表示装置とすることができるという利点を有する。また、機能性層として発光層が形成されている場合には、上述したバンクによって発光層を形成する際に隣接する発光層が混色してしまうこと等が少ないものとすることができる。したがって、より高品質な画像表示が可能な画像表示装置とすることができるという利点も有する。
【0268】
このような有機電界発光素子を備えた画像表示装置としては、例えばパッシブマトリクス駆動有機電界発光ディスプレイ及び/またはアクティブマトリクス駆動有機電界発光ディスプレイを用いたテレビ、携帯電話用モニタ、携帯端末用モニタ、PC用モニタ、公衆向け情報表示装置等とすることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で画像表示装置を形成することができる。
【0269】
C.有機電界発光素子の製造方法
本発明の有機電界発光素子の製造方法は、第1の電極、及び該第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、該第1の電極及び該第2の電極の間に、電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子の製造方法であって、前記第1の電極、及び前記第1電荷輸送層を形成した後、前記第2電荷輸送層をドープ材料を含まない組成物を成膜して形成する第2電荷輸送層形成工程と、前記第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成するバンク形成工程と、前記第2電荷輸送層上の前記バンクにより区画された領域内に、前記機能性層を形成する機能性層形成工程とを行うことを特徴とする。本発明により製造される具体的な有機電界発光素子としては、上述した「A.有機電界発光素子」で説明したものと同様とすることができる。
【0270】
本発明においては、第1の電極、及び前記第1電荷輸送層を形成した後、前記第2電荷輸送層をドープ材料を含まない組成物を成膜して形成する第2電荷輸送層形成工程と、第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成するバンク形成工程を行ない、さらに前記第2電荷輸送層上の前記バンクにより区画された領域内に、機能性層を形成する機能性層形成工程を行うことを特徴とする。
【0271】
本発明によれば、上記第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層を形成した後、第2電荷輸送層上にバンクを形成することから、第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層の形成が簡易である。また第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層を形成する際に、バンクの存在によって第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層の膜厚ムラが生じてしまうことがない。また、第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層が所望の膜厚及び形状に形成されていることから、その上に積層される機能性層の膜厚にもムラが少ないものとすることができる。したがって、簡易な工程で第1電荷輸送層、第2電荷輸送層、及び機能性層を所望の形状及び膜厚に形成することが可能であり、高品質な表示が可能な有機電界発光素子を製造することができる。以下、上記各工程について説明する。
【0272】
<1.第2電荷輸送層形成工程>
本発明においては、第1の電極、及び第1電荷輸送層を形成した後に、ドープ材料を含まない組成物を成膜して、第2電荷輸送層を形成する。第2電荷輸送層の形成方法としては、上記正孔輸送層の形成方法として記載したものと同様である。
【0273】
<2.バンク形成工程>
本発明においては、第1電荷輸送層及び第2電荷輸送層を形成した後に、第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成する。上記第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成する方法としては、第2電荷輸送層上にバンク形成用材料を塗布・成膜し、露光・現像を行う方法や、バンクの形状にバンク形成用材料を塗布し、硬化させる方法、所望のパターン状に塗布することが可能な成膜方法を用いて第2電荷輸送層上に直接塗布する方法等があげられる。このようなバンクの形成方法については、上述した「A.有機電界発光素子」における<5.バンク>の欄で説明した方法と同様とすることができる。また形成されるバンクの形状等についても、上述したものと同様とすることができる。なお、バンクは一層のみから形成してもよく、また同一または異なる層を2層以上積層してバンクを形成してもよい。
【0274】
本発明においては、上述の「A.有機電界発光素子」における<5.バンク>の欄で説明したように、バンク形成工程において、バンクと第2電荷輸送層との密着性を高め、例えばリンス液及び適当でない不純物等を除去し、かつ水分の再吸着、あるいは高温時のバンクまたは下地の酸化を防ぐ観点から、露点0℃未満の乾燥空気中、不活性雰囲気中、または圧力100Pa未満の減圧下での加熱する工程を有することが好ましい。この際の加熱温度としては、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、高温によるバンク及び/または下地の構造変化、化学変化を防ぐ観点から、通常350℃未満、好ましくは300℃未満である。また加熱手段については特に制限はなく、ホットプレート、オーブン、赤外線や電磁波などの活性エネルギー線照射等が挙げられる。また加熱時間についても特に制限はないが、製造時間を短縮する観点から、通常3時間以内、好ましくは1時間以内で行われる。
【0275】
<3.機能性層形成工程>
本発明においては、上記第2電荷輸送層上の上記バンクにより区画された領域内に、機能性層を形成する。本発明においては、第2電荷輸送層のうち、バンクにより区画された領域、すなわちバンクが形成されておらず第2電荷輸送層が露出している領域のみに機能性層を形成してもよく、また上記バンクにより区画された領域及びバンク上に機能性層を形成してもよい。具体的には、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、エアロゾル法、エアロゾルジェット法等に代表される湿式成膜法により、上記バンクにより区画された領域のみに、機能性層を形成するための機能性層形成用組成物を塗布し、機能性層を形成する方法であってもよく、また例えば真空蒸着法や湿式成膜法等により、上記第2電荷輸送層及びバンクを覆うように成膜して機能性層を形成する方法等であってもよい。また第2電荷輸送層及びバンクを覆うように成膜した後、この層をパターニングして、必要な領域のみに機能性層を形成してもよい。なお、上記機能性層は、一層のみから形成してもよく、また同一または異なる層を2層以上積層して機能性層を形成してもよい。またさらに、バンクにより区画された領域ごとに、異なる材料を用いて複数種類の機能性層を形成してもよい。
【0276】
なお、本工程における機能性層の形成方法や、形成する機能性層の膜厚、形状等については、形成する機能性層の種類等に応じて適宜選択する。上記機能性層の材料や膜厚、形状等については、上述した「A.有機電界発光素子」における各部材の欄で説明したものと同様とする。
【0277】
<4.その他の工程>
本発明では、上記バンク形成工程を行なう前に、第1の電極、第1電荷輸送層、及び第2電荷輸送層を形成する。上記第1の電極、第1電荷輸送層、及び第2電荷輸送層の形成方法については、上記各部材の種類等にあわせて適宜選択され、上述した「A.有機電界発光素子」における各部材の形成方法で説明した方法とすることができる。
また、本発明においては、上記各工程の前後や各工程間に、必要に応じて適宜他の工程を有していてもよい。
【実施例】
【0278】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0279】
[実施例1]
(陽極(第1の電極)の形成)
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。陽極が形成された基板(ITO基板)を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0280】
(正孔注入層(第1電荷輸送層)の形成)
次に、ドープ材料を含む正孔注入層形成用組成物の調製を行った。正孔輸送性化合物として、下記式(i)の繰り返し構造を有するポリマー(重量平均分子質量29600;ガラス転移温度177℃)2重量%と、電子受容性化合物として、下記式(ii)で表される化合物0.8重量%を、溶剤として安息香酸エチルに溶解し、正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0281】
【化20】

洗浄処理したITO基板上に、上記正孔注入層形成用組成物を用いてスピンコート法にて正孔注入層を形成した。スピンコートは気温23℃、相対湿度50%の大気中で行ない、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。塗布後、ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥した後、オーブン大気中で230℃、3時間ベークし、膜厚30nmのドープ材料を含む正孔注入層を形成した。
【0282】
(正孔輸送層(第2電荷輸送層)の形成)
次に、ドープ材料を含まない正孔輸送層形成用組成物の調製を行った。下記式(iii)の繰り返し構造を有するポリマー(重量平均分子質量10000;ガラス転移温度138℃)0.4重量%を、溶剤としてトルエンに溶解し、正孔輸送層形成用組成物を調製した。トルエンは市販の脱水トルエンを用いた。
【0283】
【化21】

【0284】
正孔注入層を形成した基板を窒素グローブボックスに入れ、正孔注入層上に、上記正孔輸送層形成用組成物を用いてスピンコート法にて正孔輸送層を形成した。スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。塗布後、ホットプレート上で230℃1時間ベークし、膜厚20nmのドープ材料を含まない正孔輸送層を形成した。
正孔輸送層形成用組成物の調製、スピンコートおよびベークは、すべて酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で大気暴露せずに行った。
【0285】
(バンクの形成)
次に、正孔輸送層までを形成した基板を大気中に取り出し、紫外光をカットしたイエロールームにて、フォトレジストにてバンクの形成を行った。フォトレジストは、TELR−P003 PM10cp(東京応化製)を用いた。
まず、スピンコート法にてフォトレジストを塗布した。スピンコートは気温23℃、相対湿度50%の大気中で行ない、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。塗布後、ホットプレート上で110℃、90秒間加熱乾燥した。加熱後、フォトレジストを除去したい部分が開口部となっているクロムメッキされた石英基板のマスクを用い、ウシオ電機製露光装置UX−1000SM−ACS01にて、開口部から80mJ/cm2(365nm)のUV光を照射した。クロムメッキされた石英基板のマスクは、メッキ部幅150μm、開口部幅150μmのストライプ状、開口部が1辺500μmの正方形の形状のものを用いた。照射後、TMAHの2.38%水溶液に1分間浸漬して揺動し、その後、純水による水洗を1分間行ない、窒素ブローして乾燥させ、さらにホットプレート上で110℃、90秒間加熱乾燥した。ついで、基板を窒素グローブボックス中に移し、窒素グローブボックス中で200℃、1時間ポストベークし、正孔輸送層上にフォトレジストにてバンクを形成した。
フォトレジストにて形成したバンクは、厚み880nm、開口部が1辺500μmの長さである正方形(a)および、厚み880nm、開口部の幅が150nm、ピッチ300μmのストライプ状(b)であった。
この基板を真空蒸着装置内に配置し、装置内を真空度が1.2×10-6Torr以下になるまでスクロールポンプによる粗引きの後、クライオポンプにて排気した。基板には、所定の領域に、蒸着用マスクを配置し、真空蒸着装置内には、必要な蒸着材料をそれぞれ別の坩堝に入れて配置した。
【0286】
(発光層の形成)
本実施例において、機能性層は、発光層、正孔阻止層、電子輸送層および電子注入層がこの順に積層された層である。
ホスト材料として下記式(iv)で表される化合物と、ドーパント材料として下記式(v)で表される化合物を入れた各坩堝を同時に通電加熱して、正孔輸送層の上に共蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度1.2×10-6Torr、下記式(iv)で表される化合物の蒸着速度を0.6Å/s、下記式(v)で表される化合物の蒸着速度0.036Å/sとし、下記式(iv)で表される化合物:下記式(v)で表される化合物=100:6の膜厚30nmの発光層を形成した。
【0287】
【化22】

【0288】
(正孔阻止層の形成)
下記式(vi)で表される化合物を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、発光層の上に蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度1.2×10-6Torr、蒸着速度1.0Å/sとし、膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。
【0289】
【化23】

【0290】
(電子輸送層の形成)
下記式(vii)で表される化合物を入れたモリブデン製ボートを通電加熱し、正孔阻止層上に蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度1.2×10-6Torr、蒸着速度1.5Å/sとし、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0291】
【化24】

【0292】
(電子注入層の形成)
ここで、電子輸送層までを形成した素子を一度真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して、発光層蒸着時と同様にして装置内の真空度が2×10-6Torrになるまで排気した。先ず、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.05Å/秒、真空度2.0×10-6Torrで、0.5nmの膜厚で発光層の上に成膜した。
【0293】
(陰極(第2の電極)形成)
次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度4Å/秒、真空度5×10-6Torrで膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の様にして、正孔輸送層上のバンクによって発光領域を形成した有機電界発光素子が得られた。
【0294】
(素子評価)
(a)正孔輸送層上に四角形の開口部を有するバンクを形成した素子
1辺500μmの正方形の発光領域がムラ無く均一に発光することを確認した。
(b)正孔輸送上にストライプ上にバンクを形成した素子
幅150μmのストライプ状発光領域がムラ無く均一に発光することを確認した。
【0295】
[実施例2]
発光層を、以下に記す発光層塗布液(発光層形成用組成物)を塗布乾燥することで形成した以外は実施例1と同様にして素子を作製した。
【0296】
(発光層形成用組成物の調製)
下記式(viii)で表される化合物を50重量部、下記式(ix)で表される化合物を50重量部、及び下記式(x)で表される化合物を5重量部を、溶剤としてフェンコン5145重量部に溶解させ、0.2μmのPTFEフィルターでろ過し、発光層形成用組成物を調製した。発光層形成用組成物は、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で行った。
【0297】
【化25】

【0298】
【化26】

【0299】
【化27】

バンク形成処理した基板に、上記発光層形成用組成物を用いてスピンコート法にて発光層を形成した。スピンコートは、酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppmの窒素グローブボックス中で行ない、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。塗布後、ホットプレート上で130℃、1分間プレ乾燥した後、電極上の不要部分を拭き取り、次いで、ホットプレート上で130℃、1時間真空加熱して乾燥し、膜厚26nmの発光層を形成した。
この基板を真空蒸着装置内に配置し、装置内を真空度が1.2×10-6Torr以下になるまでスクロールポンプによる粗引きの後、クライオポンプにて排気した。基板には、所定の領域に、蒸着用マスクを配置し、真空蒸着装置内には、必要な蒸着材料をそれぞれ別の坩堝に入れて配置した。
【0300】
(素子評価)
(a)正孔輸送層上に四角形の開口部を有するバンクを形成した素子
1辺500μmの正方形の発光領域からの発光を確認した。
(b)正孔輸送層上にストライプ上にバンクを形成した素子
幅150μmのストライプ状発光領域からの発光を確認した。
【0301】
[実施例3]
ガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄し、実施例1と同様にして正孔注入層および正孔輸送層を形成した。このときの正孔注入層と正孔輸送層の合計膜厚は51.6nmであった。
正孔注入層と正孔輸送層をこの順に設けたガラス板をスピナーにセットし、正孔輸送層上に、フォトレジストに含まれる溶剤であるPGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)をスポイトで垂らし、1分間静置した後、スピナーを1500rpmの回転数で30秒間回転させてPGMEAを振り切り、その後ホットプレート上で80℃1分間加熱乾燥し、正孔注入層をPGMEA処理した。
PGMEA処理後の正孔注入層と正孔輸送層の合計膜厚は51.3nmであり、膜厚変化は誤差内であり膜厚減少は認められなかった。
【0302】
[比較例1]
正孔輸送層を形成しなかった以外は実施例3と同様にしてガラス板上に正孔注入層を形成した。このときの正孔注入層の膜厚は36.7nmであった。
この正孔注入層つきガラス板を実施例3同様にしてPGMEA処理を行った。PGMEA処理後の正孔注入層の膜厚は32.1nmであり、膜厚減少が認められた。
【0303】
以上より、正孔注入層上にフォトレジストを用いて構造物を形成する場合、下地である正孔注入層がフォトレジストに含まれる溶剤に溶解する。そのため、現像後に正孔注入層の材料とフォトレジストの混合物が残留し、有機電界発光素子の発光ムラになったり、電圧上昇、低発光効率化などの特性低下が起こる。一方、正孔輸送層上にフォトレジストを用いて構造物を形成する場合、下地である正孔輸送層は硬化しているためフォトレジストの溶剤に溶解せず、現像後に正孔輸送材料とフォトレジストとの混合物が残らないため、有機電界発光素子の発光ムラになったり、電圧上昇、低発光効率化などの特性低下は起らず、発光面はムラなく均一に発光し、特性が良好な素子やパネルを得ることが出来る。
【0304】
[合成例1]
(バインダー樹脂の製造)
フォトレジスト(バンク形成用組成物)に用いるバインダー樹脂を下記の通り合成した。
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート145重量部を窒素置換しながら攪拌し、120℃に昇温した。これに、スチレン20重量部、グリシジルメタクリレート57重量部およびトリシクロデカン骨格を有するモノアクリレート(日立化成(株)製「FA−513M」)82重量部を滴下し、更に、140℃で2時間攪拌し続けた。次に、反応容器内を空気置換し、アクリル酸27重量部にトリスジメチルアミノメチルフェノール0.7重量部およびハイドロキノン0.12重量部を投入し、120℃で6時間反応を続けた。その後、テトラヒドロ無水フタル酸(THPA)52重量部、トリエチルアミン0.7重量部を加え、120℃で3.5時間反応させ、下記式で表されるアルカリ可溶性樹脂であるバインダー樹脂を得た。この樹脂の重量平均分子量(Mw)は約8000であった。
【化28】

【0305】
[実施例4]
(陽極(第1の電極)の形成)
25mm×37.5mm×厚さ0.7mmのガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。陽極を形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった
【0306】
(正孔注入層(第1電荷輸送層)の形成)
上記洗浄された陽極を形成した基板上に、実施例1と同じ正孔注入層形成用組成物を用いて、スピンコート法にて乾燥膜厚30nmになるように、気温23℃、相対湿度50%の大気中で成膜を行なった。成膜後、ホットプレート上で80℃、1分間加熱乾燥した。次いでジクロロエタンを含ませた綿棒を用いて、有機電界発光素子の発光領域を含み、かつ正孔注入層の塗布表面の大きさが約12mm×約12mmとなるように、外周部の膜を拭き取った。拭き取り後オーブン大気中で230℃、3時間ベークし、ドープ材料を含む正孔注入層を形成した。
【0307】
(正孔輸送層(第2電荷輸送層)の形成)
次に、前記正孔注入層を形成した基板を窒素グローブボックスに入れ、正孔注入層上に、実施例1と同じ正孔輸送層形成用組成物を用いてスピンコート法にて乾燥膜厚20nmになるように、気温23℃、相対湿度50%の大気中で成膜を行なった。次いでトルエンを含ませた綿棒を用いて、上記正孔注入層の塗布面を含み、かつ正孔輸送層の塗布表面の大きさが約15mm×約15mmとなるように、外周部の膜を拭き取った。拭き取り後、ホットプレート上で230℃にて、1時間ベークし、架橋性化合物を架橋させ、ドープ材料を含まない正孔輸送層を形成した。
【0308】
(バンクの形成)
次に、正孔輸送層までを形成した基板を大気中に取り出し、紫外光をカットしたイエロールームにてフォトレジストの調製及びバンクの形成を行った。
バンクを形成するため、下記表1の成分を含有するフォトレジスト(バンク形成用組成物)を調製した。調製は、それぞれの成分を配合後混合することにより行った。
【0309】
【表1】

【0310】
【化29】

【0311】
該フォトレジストをスピンコート法により成膜した。スピンコートは、気温23℃、相対湿度50%の大気中で行なった。成膜後、常温で1分間、真空乾燥し、さらにホットプレート上で80℃、60秒間加熱乾燥させた。成膜された層の厚みは、3.1μmであった。
該フォトレジストはネガ(光が照射された領域が硬化して残る)タイプであるため、紫外光を遮光するクロムメッキが、組成物を硬化させたい領域において紫外光を透過するように除去された石英基板のマスクを用いた。該マスクのマスクパターンは、紫外光透過部幅30μmで、クロムメッキ部(1辺70μmの正方形)がマスク面内で縦横に各20個、碁盤の目のように並んだアレイパターンであった。このアレイパターンの紫外光透過領域が、2mm幅にパターン形成された陽極の辺縁からはみ出すことなく、かつ前記正孔輸送層の塗布面内に入るように位置合わせを行った。位置合わせ後、3kW高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の条件にて露光した。照射後、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)の2.38重量%およびエタノール10重量%を含む水溶液を現像液として、23℃において、水圧0.1MPaのシャワー現像を2分間行った後、純水スプレーで30秒間リンスし、圧縮空気でブローすることにより水切りを行った。ついで、基板を窒素グローブボックス中に移し、窒素グローブボックス中で、230℃、30分間ポストベークし、正孔輸送層上にバンクを形成した。形成したバンクは厚さ 3.1μm、開口部が1辺70μmの長さである略正方形となった。
【0312】
(発光層の形成)
本実施例において、機能性層は、発光層、正孔阻止層、電子輸送層および電子注入層がこの順に積層された層である。
次に、ホスト材料として、以下に示す有機化合物(C3)および(C4)、また、ドーパント材料として以下に示すイリジウム錯体(D2)を、(C3):(C4):(D2)=10:10:1(重量比)の比率で、溶剤であるCHB(シクロヘキシルベンゼン)に溶解させ、固形分濃度0.5重量%の発光層形成用組成物を調製した。
【0313】
【化30】

【0314】
この発光層形成用組成物をインクジェット装置に仕込み、正孔輸送層の上の該バンクで区画された領域(1辺70μm)1つ当たり液滴量25plで吐出し、発光層を形成した。
なお、20ノズル(発光層形成用組成物を吐出する開口が20個並んでいるノズル)を同時に使用して、20×20の区画領域にインクを吐出した。
終了後、速やかに発光層が形成された基板を減圧乾燥機に導入し、減圧下(10kPa)、130℃にて、1時間の乾燥を行った。このようにして膜厚25nmの発光層を形成した。
【0315】
(正孔阻止層〜陰極の形成)
この後、実施例1と同様にして、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を形成した。
(封止)
陰極までを形成した基板を真空蒸着装置内より、大気中に取り出して、窒素グローブボックス(酸素濃度1.0ppm、水分濃度1.0ppm)に速やかに導入し、その中で封止を行った。
まず、該基板の発光領域をすべて覆うことができる面積の窪みを有し、該基板の外形よりは小さい外形を有するガラス製キャップを用意し、水分除去のための乾燥剤を該窪みの底部に貼付した。該基板上に、該キャップのリブ(窪みの周囲にある縁取り)部と略同形状になるよう、該紫外線硬化樹脂を塗布し、該キャップをその塗布した樹脂とリブ部とが重なり合うように貼り合わせ、該キャップ側からスポット紫外線照射装置によって紫外線硬化樹脂を硬化させた。
【0316】
(発光の確認)
以上の様にして、第2電荷輸送層(正孔輸送層)上に、バンクを有する有機電界発光素子が得られた。
この素子は、1辺70μmの正方形の発光領域が均一に発光することを確認した。
【0317】
[実施例5]
発光層を以下のようにして、真空蒸着法で形成した他は、実施例4と同様にして、有機電界発光素子を作製した。この素子は、1辺70μmの正方形の発光領域が均一に発光することを確認した。
(発光層の形成)
下記式(iv)で表される化合物と、下記式(v)で表される化合物を入れた各坩堝を同時に通電加熱して、バンクが形成された正孔輸送層の上に共蒸着した。蒸着条件は、蒸着時の真空度1.2×10-6Torr(1.6×10−4Pa)、下記式(iv)で表される化合物の蒸着速度を0.6Å/秒(0.06nm/sec)、下記式(v)で表される化合物の蒸着速度0.036Å/秒(0.0036nm/sec)とし、下記式(iv)で表される化合物:下記式(v)で表される化合物=100:6(重量比)の、膜厚30nmの発光層を形成した。
【化31】

【産業上の利用可能性】
【0318】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0319】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の構造の別の例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の構造の更に別の例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子の構造の更に別の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0320】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 バンク
6 発光層
7 陰極
8 電子注入層
9 電子輸送層
10a〜10d 有機電界発光素子
11 電子阻止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、及び前記第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に、
電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子であって、
前記第2電荷輸送層がドープ材料を含まない層である
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記第1電荷輸送層がドープ材料を含む層である
ことを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記機能性層が発光層を含む層である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記バンクがフォトレジストを用いて形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記バンクが、前記第1の電極及び前記第1電荷輸送層に接していない
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項7】
第1の電極、及び前記第1の電極と対向するように形成された第2の電極を有し、前記第1の電極及び前記第2の電極の間に、電荷輸送性を有する第1電荷輸送層と、前記第1電荷輸送層上に積層され、電荷輸送性を有する第2電荷輸送層と、前記第2電荷輸送層上にパターン状に形成されたバンクと、前記バンクにより区画された領域内に形成された機能性層とを有する有機電界発光素子の製造方法であって、
前記第1の電極、及び前記第1電荷輸送層を形成した後、
前記第2電荷輸送層をドープ材料を含まない組成物を成膜して形成する第2電荷輸送層形成工程と、
前記第2電荷輸送層上にパターン状にバンクを形成するバンク形成工程と、
前記第2電荷輸送層上の前記バンクにより区画された領域内に、前記機能性層を形成する機能性層形成工程とを行なう
ことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1電荷輸送層を、ドープ材料を含む組成物を成膜して形成する
ことを特徴とする、請求項7に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記バンク形成工程が、露点0℃未満の乾燥空気中、不活性雰囲気中、または圧力100Pa未満の減圧下での加熱工程を有する
ことを特徴とする、請求項7または8に記載の有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−123696(P2009−123696A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273848(P2008−273848)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】