説明

有機電界発光素子、表示装置および照明装置

【課題】蛍光性青色発光材料をそのT1エネルギーに関わらず使用することができ、高い発光効率を得られる有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、互いに離間して配置された陽極12および陰極17からなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、ホスト材料および蛍光性青色発光材料を含む前記陽極側に位置する青色発光層14aと、ホスト材料ならびに燐光性緑色発光材料および/または燐光性赤色発光材料を含む前記陰極側に位置する緑および赤色発光層14bとを含む発光層14とを具備する有機電界発光素子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機電界発光素子ならびにそれを使用した表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
白色有機電界発光素子(以下、白色OLEDまたは白色有機ELとも称する)は、照明やディスプレイのバックライトへの応用のための開発が進められている。発光ドーパントとして蛍光性発光材料を使用した場合、励起一重項(S1)からのみの発光となるため、スピン統計上25%の内部量子効率しか期待できない。それに対して、イリジウム錯体などの燐光性発光材料を使用した場合、励起三重項(T1)からの発光となるため、内部量子効率100%が期待できる。従って、燐光性発光材料の白色OLEDへの利用が期待されている。しかしながら、白色を形成するのに必須である青色発光を示す燐光性発光材料は、素子寿命が短いものが多く、実用性の面で課題がある。そこで、燐光性青色発光材料と比較して発光寿命が長い蛍光性青色発光材料を利用し、高効率の白色OLEDを作成する試みが行われている。
【0003】
従来の蛍光性青色発光材料を利用した白色OLEDにおいては、T1エネルギーの高い蛍光性青色発光材料を使用する必要があった。しかし、T1エネルギーの高い蛍光性青色発光材料は数が少ないため、蛍光性青色発光材料をそのT1エネルギーにかかわらず使用できる素子構成が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. E. Kondakova, et al., Journal of Applied Physics, 107, 014515 (2010)
【非特許文献2】G. Schwartz, et al., Advanced Materials, 19, 3672 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、蛍光性青色発光材料をそのT1エネルギーに関わらず使用することができ、高い発光効率を得られる白色有機電界発光素子ならびにそれを使用した表示装置および照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、ホスト材料および蛍光性青色発光材料を含む前記陽極側に位置する青色発光層と、ホスト材料ならびに燐光性緑色発光材料および/または燐光性赤色発光材料を含む前記陰極側に位置する緑および赤色発光層とを含む発光層とを具備する有機電界発光素子が提供される。前記蛍光性青色発光材料の励起三重項エネルギーは、前記燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料の少なくともいずれか一方の励起三重項エネルギーよりも低い。前記青色発光層に含まれるホスト材料の励起三重項エネルギーは、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料の励起三重項エネルギーよりも高い。前記青色発光層に含まれるホスト材料のHOMO(最高被占軌道)は、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のHOMOと比較してより浅いエネルギー準位にあり、前記青色発光層に含まれるホスト材料のLUMO(最低空軌道)は、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のLUMOと比較してより浅いエネルギー準位にあることにより、前記青色発光層と前記緑および赤色発光層との界面で励起子が生成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、実施形態に係る有機電界発光素子を示す断面図である。
【図2】図2は、従来の素子における発光層の一例を示す概念図である。
【図3】図3は、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜について測定した蛍光スペクトルである。
【図4】図4は、図3に示した混合膜に含まれる各成分からなる単一成分膜について測定した蛍光スペクトルである。
【図5】図5は、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜およびOXD−7の単一成分膜について測定した燐光スペクトルである。
【図6】図6は、励起子とOXD−7のエネルギー関係を示す図である。
【図7】図7は、実施形態に係る有機電界発光素子の発光層を示す概念図である。
【図8】図8は、実施形態に係る有機電界発光素子における発光材料とホスト材料のHOMO−LUMO関係を示す図である。
【図9】図9は、実施形態に係る有機電界発光素子の第1の変形例を示す図である。
【図10】図10は、実施形態に係る有機電界発光素子の第2の変形例を示す図である。
【図11】図11は、実施形態に係る有機電界発光素子の第3の変形例を示す図である。
【図12】図12は、実施形態に係る表示装置を示す回路図である。
【図13】図13は、実施形態に係る照明装置を示す断面図である。
【図14】図14は、実施例1に係る有機EL素子のELスペクトルを示す図である。
【図15】図15は、実施例1に係る有機EL素子の外部量子効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、実施形態に係る有機電界発光素子を示す断面図である。
有機電界発光素子10は、基板11上に、陽極12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16および陰極17を順次形成した構造を有する。正孔輸送層13、電子輸送層15および電子注入層16は、必要に応じて形成される。発光層14は、陽極側に位置する青色発光層14aと、陰極側に位置する緑および赤色発光層14bとを具備する。
【0010】
発光層14は、有機材料からなるホスト材料中に、発光性金属錯体(以下、発光材料と称する)をドープした構成をとる。青色発光層14aは、ホスト材料中に蛍光性青色発光材料をドープした構成であり、緑および赤色発光層14bは、ホスト材料中に燐光性緑色発光材料または燐光性赤色発光材料のいずれか一方あるいはその両方をドープした構成である。青色発光層14aには、正孔輸送性のホスト材料が含まれる。緑および赤色発光層14bには、電子輸送性のホスト材料またはバイポーラ性のホスト材料が含まれる。バイポーラ性のホスト材料とは、正孔輸送性および電子輸送性の両方の性質を兼ね備えたホスト材料を意味する。電子と正孔の衝突に伴って生成する励起子は、青色発光層14aと緑および赤色発光層14bとの界面に生成され、この励起子から放出されるエネルギーを利用して発光を得る。前記励起子は、正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料が励起状態で錯体を形成することにより生成するエキサイプレックスであってもよい。
【0011】
上記のような発光層の構成に至った経緯について、以下に説明する。
図2は、従来の素子における発光層の一例を示す概念図である。
図2に示す発光層は、陽極側と陰極側の2層に分かれており、陽極側には蛍光性青色発光材料が含まれ、陰極側には燐光性緑色発光材料および/または燐光性赤色発光材料が含まれる。まず、陽極側の発光層に電子および正孔を移動させて励起子を発生させ、青色発光材料を励起する。その結果、励起一重項(S1)からの発光である青色蛍光が得られる。蛍光性発光材料は、励起三重項(T1)エネルギーを利用することができないため、青色発光材料はT1エネルギーを放散する。放散されたT1エネルギーを、陰極側の発光層中に含まれる緑色発光材料および赤色発光材料が吸収し、緑色および赤色の燐光が得られる。
【0012】
このような従来の構成によると、青色発光材料におけるT1エネルギーの熱失活がなくなるため、原理上、内部量子効率が100%となる。青色発光材料から放散されたT1エネルギーにより緑色発光材料および赤色発光材料を励起させるためには、青色発光材料のT1が緑色発光材料および赤色発光材料のT1よりもエネルギー的に高い必要がある。しかし、この条件を満たすような高いT1エネルギーを持つ蛍光性青色発光材料は少ない。また、分子設計により蛍光性青色発光材料のT1エネルギーを高くすると、S1エネルギーも同時に高くなり、青色蛍光が紫外光化してしまうという問題も生じる。
【0013】
このような問題点を解決することができる発光層の構成を、本発明者らは以下に示すように見出した。
【0014】
まず、種々の正孔輸送性材料と電子輸送性材料である1,3−ビス(2−(4−ターシャリーブチルフェニル)−1,3,4−オキシジアゾル−5−イル)ベンゼン[以下、OXD−7と称する]との混合膜を作製し、その発光スペクトルを蛍光および燐光のそれぞれについて測定した。また、混合膜に含まれる各成分からなる単一成分膜についても、蛍光スペクトルおよび燐光スペクトルを測定した。
【0015】
図3は、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜について測定した蛍光スペクトルである。図4は、図3に示した混合膜に含まれる各成分からなる単一成分膜について測定した蛍光スペクトルである。
【0016】
図3と図4を比較すると、図3に示した混合膜のスペクトルは全て、図4に示した単一成分膜のスペクトルとは異なる発光波長を示している。このことから、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜においては、エキサイプレックスからの発光が得られていることが分かる。
【0017】
一方、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜について燐光スペクトルを測定したところ、各混合膜の発光波長は、OXD−7単独の発光波長とほぼ一致した。その結果を図5に示す。また、以下の表1に示すように、OXD−7の単一成分膜の燐光発光寿命と、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜の燐光発光寿命がほぼ一致した。
【表1】

【0018】
これらのことから、混合膜において得られた燐光は、OXD−7に由来するものであることが分かった。すなわち、励起子から放出されるT1エネルギーが、選択的にOXD−7に移動したことになる。この実験により、本発明者らは、所定の要件を満たす材料を使用することにより、励起子から放出されるT1エネルギーをある材料に選択的に移動できることを見出した。従って、上記事実を利用すれば、OXD−7のような電子輸送性ホスト材料とキャリアバランスをとるための正孔輸送性材料とを含む発光層において、電子輸送性ホスト材料に選択的にT1エネルギーを移動させることができる。
【0019】
この状態は、図6のように表すことができる。図6は、正孔輸送性材料とOXD−7の混合膜におけるエネルギー状態を示す図である。図6は、混合膜を励起させると、T1エネルギーがOXD−7に移動し、OXD−7から燐光が得られることを示している。一方、S1エネルギーによる蛍光は、正孔輸送性材料とOXD−7の両方から得られる。
【0020】
本発明者らは、上記事実を見出したことから、図7に示すような発光層の構成を考案した。
【0021】
図7(a)は、実施形態に係る有機電界発光素子の発光層における電子および正孔の移動を示す図である。陽極側の青色発光層14aには、正孔輸送性ホスト材料(図中のTCTA)および蛍光性青色発光材料が含まれる。一方、陰極側の緑および赤色発光層14bには、電子輸送性またはバイポーラ性のホスト材料(図中のOXD−7)と、燐光性緑色発光材料または燐光性赤色発光材料のいずれか一方あるいはその両方とが含まれる。図7においては、燐光性緑色発光材料と燐光性赤色発光材料の両方が含まれる場合について説明する。発光層内の正孔と電子とのキャリアバランスをとるために、緑および赤色発光層には、さらに正孔輸送性材料(図中のmCP)が含まれてもよい。陽極側から青色発光層に入った正孔と陰極側から緑および赤色発光層に入った電子が、青色発光層と緑および赤色発光層の界面に移動し、その界面に励起子が生成する。
【0022】
図7(b)は、実施形態に係る有機電界発光素子の発光層におけるエネルギーの移動を示す図である。青色発光層14aと緑および赤色発光層14bの界面に生成した励起子から放出される励起一重項(S1)エネルギーは、青色発光層と緑および赤色発光層の両層に移動する。一方、上述したように、所定の要件を満たす材料を使用することにより励起子から放出されるT1エネルギーをある材料に選択的に移動できることを利用して、T1エネルギーが緑および赤色発光層のみに移動するようにホスト材料を選択する。例えば、図7(b)に示すように青色発光層に含まれるホスト材料としてTCTAを使用し、緑および赤色発光層に含まれるホスト材料としてOXD−7を使用した場合、励起子から放出されるT1エネルギーは、選択的にOXD−7に移動する。その結果、蛍光性青色発光材料はS1エネルギーを受け取り、燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料はS1エネルギーおよびT1エネルギーを受け取ることになり、それぞれ蛍光および燐光を発光する。
【0023】
図7(b)に示すように、励起子から放出されるT1エネルギーを緑および赤色発光層に選択的に移動させるためには、青色発光層に含まれるホスト材料のT1エネルギーが緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のT1エネルギーよりも高い必要がある。また、緑および赤色発光層に含まれるホスト材料から放出されるT1エネルギーを効率的に緑色発光材料および赤色発光材料に移動させるためには、緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のT1エネルギーが緑色発光材料および赤色発光材料のT1エネルギーよりも高い必要がある。
【0024】
上記のようなメカニズムによると、燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料は、青色発光材料からではなく励起子から放出されるT1エネルギーを利用するため、T1エネルギーの高い青色発光材料を使用する必要がなくなる。すなわち、青色発光材料のT1エネルギーが緑色発光材料および赤色発光材料のT1エネルギーより低くても問題ない。そのため、蛍光性青色発光材料をそのT1エネルギーに関わらず使用することができ、材料選択の幅が広がる。また、分子設計により蛍光性青色発光材料のT1エネルギーを高くする必要もなくなるため、青色蛍光が紫外光化してしまうという問題も生じなくなる。さらに、上記のようなメカニズムによると、蛍光性青色発光材料はT1エネルギーを受け取らない。従って、青色発光材料におけるT1エネルギーの熱失活がなく、原理上、内部量子効率が100%の有機電界発光素子が得られる。
【0025】
図8は、実施形態に係る有機電界発光素子における発光材料とホスト材料のHOMO−LUMO関係を示す図である。図8(a)は、青色発光層と緑および赤色発光層の界面で励起子が効率的に生成する好ましい例である。
【0026】
青色発光層と緑および赤色発光層の界面で励起子を発生させるためには、図8(a)に示すように、青色発光層に含まれるホスト材料のHOMOは、緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のHOMOと比較してより浅いエネルギー準位にある必要がある。さらに、青色発光層に含まれるホスト材料のLUMOは、緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のLUMOと比較してより浅いエネルギー準位にある必要がある。このようなエネルギー関係のホスト材料を使用することにより、正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料の間に電子および正孔に対する障壁ができる。その結果、青色発光層と緑および赤色発光層の界面に電子および正孔が蓄積され、そこで励起子が生成する。
【0027】
また、青色発光層と緑および赤色発光層の界面で励起子を効率的に生成させるには、素子に注入された正孔および電子が発光材料によりトラップされにくい方がよい。発光材料によりキャリアがトラップされると、励起子の生成が発光材料上で優先的に起こるようになる。そのため、青色発光層と緑および赤色発光層の界面での励起子の生成が生じにくくなり、界面の励起子からエネルギーを受け取って発光材料が発光するというメカニズムになりづらくなってしまう。
【0028】
発光材料上でのキャリアのトラップを防止するためには、青色発光層において、ホスト材料のHOMOは、蛍光性青色発光材料のHOMOと比較して同じまたはより浅いエネルギー準位にあることが好ましい。また、緑および赤色発光層においては、ホスト材料のLUMOは、燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料のLUMOと比較して同じまたはより深いエネルギー準位にあることが好ましい。
【0029】
図8(a)によると、青色発光層においては、ホスト材料のHOMOが、蛍光性青色発光材料のHOMOより浅いエネルギー準位にあるため、正孔が青色発光層と緑および赤色発光層の界面にスムーズに移動する。また、緑および赤色発光層においては、ホスト材料のLUMOが燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料のLUMOより深いエネルギー準位にあるため、電子が青色発光層と緑および赤色発光層の界面にスムーズに移動する。
【0030】
図8(b)は、正孔および電子が発光材料によりトラップされ、青色発光層と緑および赤色発光層の界面以外の場所で励起子が生成しやすい例である。青色発光層において、青色発光材料のHOMOがホスト材料のHOMOより浅いエネルギー準位にあるため、発光材料上で正孔がトラップされてしまう。
【0031】
青色発光層と緑および赤色発光層の界面で生成する励起子の発光成分は、青色発光層に含まれるホスト材料および緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のいずれの発光寿命よりも長い発光寿命を有する。また、多くの場合、その長い発光寿命成分は、青色発光層に含まれるホスト材料および緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のいずれの発光波長よりも長い波長成分からなる。
【0032】
蛍光性青色発光材料としては、例えば、1−4−ジ−[4−(N,N−ジフェニル)アミノ]スチリル−ベンゼン[以下、DSA−Phと称する]、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル[以下、BCzVBiと称する]等を使用することができる。燐光性緑色発光材料としては、例えば、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)[以下、Ir(ppy)と称する]、トリス(2−(p−トリル)ピリジン)イリジウム(III)[以下、Ir(mppy)と称する]等を使用することができる。燐光性赤色発光材料としては、ビス(2−メチルジベンゾ−[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトナート)イリジウム(III) [以下、Ir(MDQ)(acac)と称する]、トリス(1−フェニルソキノリン)イリジウム(III) [以下、Ir(piq)と称する]等を使用することができる。
【0033】
青色発光層に含まれる正孔輸送性のホスト材料としては、ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン[以下、TAPCと称する]、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)−トリフェニルアミン[以下、TCTAと称する]等が挙げられる。緑および赤色発光層に含まれる電子輸送性のホスト材料としては、OXD−7、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン[以下、Bphenと称する]、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−4−(フェニルフェノラート)アルミニウム[以下、BAlqと称する]等が挙げられる。緑および赤色発光層に含まれるバイポーラ性のホスト材料としては、4,4’−ビス(9−ジカルバゾリル)−2,2’−ビフェニル[以下、CBPと称する]等が挙げられる。
【0034】
キャリアバランスをとるために緑および赤色発光層に含まれる正孔輸送性の材料としては、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン[以下、mCPと称する]、ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン[以下、TAPCと称する]、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)−トリフェニルアミン[以下、TCTAと称する]等を使用することができる。電子輸送性の強いホスト材料を使用する場合、発光層内の正孔と電子とのキャリアバランスがとれず、発光効率が低下するという問題が生じ得る。従って、緑および赤色発光層におけるホスト材料として電子輸送性ホスト材料を使用する場合、正孔輸送性材料を含ませることを考慮することが好ましい。
【0035】
青色発光層および緑および赤色発光層の成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、真空蒸着法等を使用することが可能である。発光材料およびホスト材料を含む溶液を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0036】
青色発光層の厚さは、10〜100nmであることが好ましく、緑および赤色発光層の厚さは、10〜100nmであることが好ましい。発光層における電子輸送性材料、正孔輸送性材料および発光材料の割合は、本発明の効果を損なわない限り任意である。
【0037】
図1を参照して、実施形態に係る有機電界発光素子の他の部材について詳細に説明する。
【0038】
基板11は、他の部材を支持するためのものである。この基板11は、熱や有機溶剤によって変質しないものが好ましい。基板11の材料としては、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム、およびステンレス鋼(SUS)、シリコン等の金属基板が挙げられる。発光を取り出すため、ガラス、合成樹脂等からなる透明な基板を用いることが好ましい。基板11の形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、用途、目的等に応じて適宜選択することができる。基板11の厚さは、その他の部材を支持するために十分な強度があれば、特に限定されない。
【0039】
陽極12は、基板11の上に積層される。陽極12は、正孔輸送層13または発光層14に正孔を注入する。陽極12の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。通常は、透明または半透明の導電性を有する材料を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。例えば、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等を陽極12として使用することができる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム亜鉛酸化物等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜(NESA等)や、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、ITOからなる透明電極であることが好ましい。また、電極材料として、有機系の導電性ポリマーであるポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体等を用いてもよい。陽極12の膜厚は、ITOの場合、30〜300nmであることが好ましい。30nmより薄くすると、導電性が低下して抵抗が高くなり、発光効率低下の原因となる。300nmよりも厚くすると、ITOに可撓性がなくなり、応力が作用するとひび割れが生じる。陽極12は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料からなる層を積層したものであってもよい。
【0040】
正孔輸送層13は、陽極12と発光層14との間に任意に配置される。正孔輸送層13は、陽極12から正孔を受け取り、発光層側へ輸送する機能を有する層である。正孔輸送層13の材料としては、例えば、導電性インクであるポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレン・スルホン酸)[以下、PEDOT:PSSと記す]のようなポリチオフェン系ポリマーを使用することができるが、これに限定されない。正孔輸送層13の成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えばスピンコート法を使用することが可能である。正孔輸送層13の溶液を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0041】
電子輸送層15は、任意に、発光層14の上に積層される。電子輸送層13は、電子注入層16から電子を受け取り、発光層14へ輸送する機能を有する層である。電子輸送層15の材料としては、例えば、トリス[3−(3−ピリジル)−メシチル]ボラン[以下、3TPYMBと記す]、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)、バソフェナントロリン(BPhen)等を使用することができるが、これらに限定されない。電子輸送層15は、真空蒸着法、塗布法等で成膜する。
【0042】
電子注入層16は、任意に、電子輸送層15の上に積層される。電子注入層16は、陰極17から電子を受け取り、電子輸送層15または発光層14へ注入する機能を有する層である。電子注入層16の材料としては、例えば、CsF、LiF等を使用することができるが、これらに限定されない。電子注入層16は、真空蒸着法、塗布法等で成膜する。
【0043】
陰極17は、発光層14(または電子輸送層15もしくは電子注入層16)の上に積層される。陰極17は、発光層14(または電子輸送層15もしくは電子注入層16)に電子を注入する。通常、透明または半透明の導電性を有する材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、金属薄膜等が挙げられる。陽極12を仕事関数の高い材料を用いて形成した場合、陰極17には仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。仕事関数の低い材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、Li、In、Al、Ca、Mg、Na、K、Yb、Cs等を挙げることができる。
【0044】
陰極17は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層したものであってもよい。また、2種以上の金属の合金を使用してもよい。合金の例としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0045】
陰極17の膜厚は、10〜150nmであることが好ましい。膜厚が上記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなりすぎる。膜厚が厚い場合には、陰極17の成膜に長時間を要し、隣接する層にダメージを与えて性能が劣化する。
【0046】
以上、基板の上に陽極を積層し、基板と反対側に陰極を配置した構成の有機電界発光素子について説明したが、陰極側に基板を配置してもよい。
【0047】
次に、上記で説明した実施形態に係る有機電界発光素子の変形例について説明する。図9は、実施形態に係る有機電界発光素子の第1の変形例を示す図である。
【0048】
第1の変形例において、緑および赤色発光層は、電子輸送性ホスト材料、燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料を含む陰極側の領域14cと、電子輸送性ホスト材料を含み発光材料を含まない陽極側の領域14dとを含む。燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料は、そのいずれか一方または両方が含まれてよい。陰極側の領域14cに含まれる電子輸送性ホスト材料と陽極側の領域14dに含まれる電子輸送性ホスト材料は、同一であることが好ましい。陰極側の領域14cに含まれる材料、その作製方法等は、上記実施形態において示した緑および赤色発光層と同様である。陽極側の領域14dは、材料を変えて陰極側の領域14cと同様に作製することができる。青色発光層14aについては、上記実施形態において説明した通りである。
【0049】
図10は、実施形態に係る有機電界発光素子の第2の変形例を示す図である。
第2の変形例において、青色発光層は、正孔輸送性ホスト材料および青色発光材料を含む陽極側の領域14eと、正孔輸送性ホスト材料を含み発光材料を含まない陰極側の領域14fとを含む。陽極側の領域14eに含まれる正孔輸送性ホスト材料と陰極側の領域14fに含まれる正孔輸送性ホスト材料は、同一であることが好ましい。陽極側の領域14eに含まれる材料、その作製方法等は、上記実施形態において示した青色発光層と同様である。陰極側の領域14fは、材料を変えて陽極側の領域14eと同様に作製することができる。緑および赤色発光層14bは、上記実施形態において説明した通りである。
【0050】
図11は、実施形態に係る有機電界発光素子の第3の変形例を示す図である。
第3の変形例において、青色発光層は、正孔輸送性ホスト材料および青色発光材料を含む陽極側の領域14eと、正孔輸送性ホスト材料を含み発光材料を含まない陰極側の領域14fとを含む。また、緑および赤色発光層は、電子輸送性ホスト材料、燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料を含む陰極側の領域14cと、電子輸送性ホスト材料を含み発光材料を含まない陽極側の領域14dとを含む。各層に含まれる材料および各層の作製方法は、上記第1および第2の変形例に記載した通りである。
【0051】
上記第1〜第3の変形例のような素子構成とすることにより、蛍光性青色発光材料と燐光性緑色発光材料および/または燐光性赤色発光材料との接触に伴うエネルギー失活を防止することが出来、更なる発光効率の向上が期待できる。
【0052】
上記に説明した有機電界発光素子の用途の一例として、表示装置および照明装置が挙げられる。図12は、実施形態に係る表示装置を示す回路図である。
図12に示す表示装置20は、横方向の制御線(CL)と縦方向の信号線(DL)がマトリックス状に配置された回路の中に、それぞれ画素21を配置した構成をとる。画素21には、発光素子25および発光素子25に接続された薄膜トランジスタ(TFT)26が含まれる。TFT26の一方の端子は制御線に接続され、他方の端子は信号線に接続される。信号線は、信号線駆動回路22に接続されている。また、制御線は、制御線駆動回路23に接続されている。信号線駆動回路22および制御線駆動回路23は、コントローラ24により制御される。
【0053】
図13は、実施形態に係る照明装置を示す断面図である。
照明装置100は、ガラス基板101上に、陽極107、有機EL層106、および陰極105を順次積層した構成をとる。封止ガラス102は、陰極105を覆うように配置され、UV接着剤104を用いて固定される。封止ガラス102の陰極105側の面には、乾燥剤103が設置される。
【実施例】
【0054】
<実施例1>
ガラス基板上に、ITO(インジウム錫酸化物)からなる厚さ100nmの透明電極を真空蒸着により形成し、陽極とした。正孔輸送層の材料として、PEDOT:PSS[ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸]の水溶液を使用した。この水溶液をスピンコートによって陽極上に塗布し、200℃で5分間加熱して乾燥することにより、厚さ80nmの正孔輸送層を形成した。青色発光層の材料としては、正孔輸送性ホスト材料としてTCTA、蛍光性青色発光材料としてDSA−Phを使用した。これらを重量比でTCTA:DSA−Ph=95:5となる条件において、真空蒸着装置を用いて正孔輸送層上に共蒸着し、厚さ40nmの青色発光層とした。赤色発光層の材料としては、電子輸送性ホスト材料としてOXD−7、正孔輸送性材料としてTCTA、燐光性赤色発光材料としてIr(MDQ)(acac)を使用した。これらを重量比でOXD−7:TCTA:Ir(MDQ)(acac)=30:60:10となる条件において、真空蒸着装置を用いて青色発光層上に共蒸着し、厚さ40nmの赤色発光層を形成した。その後、フッ化セシウムを赤色発光層上に真空蒸着することにより、厚さ1nmの電子注入および輸送層を形成した。さらに、アルミニウムを電子注入および輸送層上に真空蒸着することにより、厚さ50nmの陰極を形成した。
【0055】
<試験例1>
実施例1で作製した素子について、EL発光スペクトルおよび外部量子効率を測定した。図14は、実施例1に係る有機EL素子のELスペクトルを示す図である。図14より、青色蛍光と赤色燐光の両方の発光を得られることが確認された。図15は、実施例1に係る有機EL素子の外部量子効率を示す図である。図15から、実施例1に係る有機EL素子は、蛍光性有機EL素子の外部量子効率の理論上の限界値と言われる5%を越える、高い外部量子効率を示すことが確認された。
【0056】
上記試験例から、燐光性赤色発光材料のT1エネルギーよりも低いT1エネルギーを有する蛍光性青色発光材料を使用した有機電界発光素子が、優れた発光特性を示すことが確認できた。
【0057】
従って、上記実施形態または実施例によれば、蛍光性青色発光材料をそのT1エネルギーに関わらず使用することができ、高い発光効率を得られる白色有機電界発光素子を提供することができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
10…有機電界発光素子、11…基板、12…陽極、13…正孔輸送層、14…発光層、14a…青色発光層、14b…緑および赤色発光層、14c…緑および赤色発光層の陰極側の領域、14d…緑および赤色発光層の陽極側の領域、14e…青色発光層の陽極側の領域、14f…青色発光層の陰極側の領域、15…電子輸送層、16…電子注入層、17…陰極、20…表示装置、21…画素、22…信号線駆動回路、23…制御線駆動回路、24…コントローラ、25…発光素子、26…TFT、100…照明装置、101…ガラス基板、102…封止ガラス、103…乾燥剤、104…UV接着剤、105…陰極、106…有機EL層、107…陽極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、
前記一対の電極間に配置され、ホスト材料および蛍光性青色発光材料を含む前記陽極側に位置する青色発光層と、ホスト材料ならびに燐光性緑色発光材料および/または燐光性赤色発光材料を含む前記陰極側に位置する緑および赤色発光層とを含む発光層と、
を具備する有機電界発光素子であって、
前記蛍光性青色発光材料の励起三重項エネルギーは、前記燐光性緑色発光材料および燐光性赤色発光材料の少なくともいずれか一方の励起三重項エネルギーよりも低く、
前記青色発光層に含まれるホスト材料の励起三重項エネルギーは、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料の励起三重項エネルギーよりも高く、
前記青色発光層に含まれるホスト材料のHOMOは、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のHOMOと比較してより浅いエネルギー準位にあり、前記青色発光層に含まれるホスト材料のLUMOは、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料のLUMOと比較してより浅いエネルギー準位にあり、
前記青色発光層と前記緑および赤色発光層との界面で励起子が生成する
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記青色発光層に含まれるホスト材料は正孔輸送性ホスト材料であり、前記緑および赤色発光層に含まれるホスト材料はバイポーラ性のホスト材料または電子輸送性ホスト材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記励起子は、エキサイプレックスであることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記青色発光層において、前記正孔輸送性ホスト材料のHOMOは、前記蛍光性青色発光材料のHOMOと比較して同じまたはより浅いエネルギー準位にあり、前記緑および赤色発光層において、前記電子輸送性ホスト材料のLUMOは、前記燐光性緑色発光材料および前記燐光性赤色発光材料のLUMOと比較して同じまたはより深いエネルギー準位にあることを特徴とする、請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記正孔輸送性ホスト材料は、N,N’−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン、ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)フェニル]シクロヘキサンまたは4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)−トリフェニルアミンであり、前記電子輸送性ホスト材料は、1,3−ビス(2−(4−ターシャリーブチルフェニル)−1,3,4−オキシジアゾル−5−イル)ベンゼンまたはCBPであることを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記緑および赤色発光層は、さらに正孔輸送性材料を含むことを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−195517(P2012−195517A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59917(P2011−59917)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】