説明

有機電界発光素子の製造方法

【課題】溶媒などの残存の虞がなく、高品質で高微細パターンを有する電界発光素子を得る。
【解決手段】有機電界発光素子の製造方法は、透明基板、ITO層、感光性樹脂層の順で積層された基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、一種の揮発性物質を気化させ、感光性樹脂層に付着させ内部に浸透・分散させ、一種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、感光性樹脂層を露光させ、互いに非相溶な露光部分からなる相と未露光部分からなる相が相分離構造を形成する工程と、一種の揮発性物質が浸透・分散した感光性樹脂層を有する基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、他種の揮発性物質を気化させ、感光性樹脂層の未露光部分又は露光部分に揮発性物質を付着させ内部に浸透・分散させ、他種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、各分散相に電極を設ける工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機電界発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の組成から成る光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用したものが古くから知られている。そして近年では、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスおよびオプトロニクスの分野において、用途面では光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、現象面では光非線形効果ないし光電気効果の応用のため、従来とは異なる高い機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】
このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材、その組成として注目されているものに有機系光学材料がある。有機系材料を用いると、合成プロセスで作成可能であり、大量生産が容易であるために一般的に安価になるという点が特長である。また、基板にプラスチックシートなどを用いると、フレキシブルな素子が形成できる。更に材料選択の幅が広がるという利点もある。
【0004】
表示素子においても、近年次世代のフラットディスプレイとして有機化合物を用いた液晶ディスプレイ(LCD)や電界発光(EL)ディスプレイなどの研究が盛んに行われている。
【0005】
LCDディスプレイには、非特許文献1に見られるように、主に液晶材料の他に偏光板、位相差フィルム、カラーフィルター、バックライト、透明電極から成り、ディスプレイの高画素化には、カラーフィルターを高精細にパターニングすることが必要である。
【0006】
また、バックライトや平面ディスプレイとして、有機蛍光色素を発光層とし、該発光層と有機電荷輸送化合物とを積層した二層構造を有する素子(例えば、特許文献1)や、高分子を蛍光体として用いた素子(例えば、特許文献2、特許文献3)が報告されている。これらの有機蛍光体を用いた電界発光素子は、低電圧直流動作が可能であり、高輝度に加えて多色の発光が容易に得られるという特徴がある。これらの有機電界発光素子のディスプレイ化にも、特許文献4、非特許文献2に見られるように、発光画素の高微細化が必要である。
【0007】
これらの画素の高精細パターン形成法としては、まず特許文献5に見られるように、基板の上に下部電極を蒸着により形成し、更にその上に発光素子形成部分が開口部となるようパタ−ニングした層間絶縁膜を形成する。次に下部電極取り出し位置を確保するため、蒸着マスクを開口部分およびその周辺を除いた下部電極上にかけて、発光層を含む有機多層部を蒸着により形成する。続いて、同一の蒸着マスクを設置したまま発光層を含む有機多層部の上に対向電極を蒸着することにより、EL素子が製造される。このようにして発光素子部分がパタ−ン精度良く形成される。この方法では、半導体フォトリソグラフィー法を用いた絶縁体微細パターン形成技術と、蒸着用マスクを用いた微細塗り分け技術と、いずれも半導体プロセスを用いた微細パターニング技術が用いられている。しかし、これらのパターニング技術を用いると、大型マスクを基板に密着させることが困難で高微細化や大面積化が困難な上、プロセスが煩雑となって高コストであり、量産性に限界がある。さらに、レジスト剥離時に素子にダメージが入ったり、剥離したレジストの残渣やマスク上に堆積した有機化合物などにより、素子自体が製造途中で汚染されるという問題があった。
【0008】
他方、特許文献6に見られるように、有機EL材料をインクジェット方式により形成および配列することで、赤、緑、青の発光色を備える有機発光層を画素毎に任意にパターニングすることが可能となり、フルカラー表示の有機EL表示体が作成できる。インクジェット法だと、基板の大面積化が容易でマスクレスであり、フォトリソグラフィー法に比べて製造プロセスが短くなるなどの長所がある。しかし、インクジェット法だと、非特許文献2に見られるように、高精度の位置決めが困難である。形成薄膜中には溶媒が残って素子の信頼性を低下させるだけでなく、乾燥途中に凝集しない材料を選ばなければならない。また、吐出液体の信頼性を確保して安定的に生産することが困難である。さらに、インクジェットヘッドには耐溶剤性部品や特殊な撥インク部品を組み込む必要があり、生産装置には、インクの吐出制御のみならず、クリーニングなどのメンテナンス機構が必要である。
【0009】
従って、これらの問題を解決する新規微細パターン形成技術が有機光表示素子形成技術には必要である。
【0010】
なお、有機化合物を用いた光機能素子製造方法について、本願出願人等は、以下のように、揮発性物質分子特有の機能を保持しながら、揮発性物質分子と親和性のある特定のポリマー中に揮発性物質を高濃度に分散する光機能素子の製造方法を提案している。
【0011】
有機化合物の薄膜の加工に関して、特許文献7には、樹脂成型物の表面へ前記樹脂と親和性があり、かつ、昇華性の有機化合物を、均一に浸透・分散させるため、樹脂成形物、および、前記樹脂と親和性があり、かつ昇華性の有機化合物とを密閉式容器に入れ、内部の圧力および温度を調節して前記有機化合物の飽和昇華圧状態に置くことによって、前記有機化合物蒸気が前記樹脂成形物表面に均一に付着し、更に、内部に浸透・分散していくようにすることができると記載されている。
【0012】
特許文献8には、樹脂成形物の表面へ前記樹脂と親和性があり、かつ昇華性の有機化合物を均一に浸透・分散させ、樹脂表面層の改質および/または着色を行うため、樹脂成形物、および、前記樹脂と親和性があり、かつ昇華性の有機化合物とを密閉式容器に入れ、内部の圧力および温度を調節して前記有機化合物の飽和昇華圧状態に置くことによって、前記有機化合物蒸気が前記樹脂成形物表面に均一に付着し、更に、内部に浸透・分散していくようにし、樹脂表面層の改質および/または着色を行う方法が記載されている。
【0013】
特許文献9には、被覆対象物の表面層組成物をそれと相互作用を起こす昇華性物質によって改質し、均一な膜厚および組成の機能性薄膜を得るため、被覆対象物の表面層組成物と相互作用を起こす昇華性物質を、閉じられた空間内に置き、更にこの空間内を前記昇華性物質の飽和昇華圧状態にし、前記昇華性物質蒸気を前記被覆対象物表面の前記表面層組成物に付着させ、付着した前記昇華性物質を更に前記表面層組成物の表面から表面層内部に浸透・分散させ、前記表面層組成物と相互作用させる表面層改質方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】WO9013148号公開明細書
【特許文献3】特開平3−244630号公報
【特許文献4】特開平9−306666号公報
【特許文献5】特許第2734464号
【特許文献6】特開平10−153967号公報
【特許文献7】特開2000−256877号公報
【特許文献8】特開2000−281821号公報
【特許文献9】特開2001−026884号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「光機能材料マニュアル」、オプトロニクス社、1997年、p.324
【非特許文献2】「有機EL材料とディスプレイ」、シー エム シー社、2001年、p.345−369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これまで微細パターンを形成するには、前記フォトリソグラフィーとマスクを用いた微細パターニング方法とインクジェット法を用いる方法に大別できる。フォトリソグラフィー法を用いる方法では、工程が煩雑であるうえに、大型マスクを基板に密着させることが困難で高微細化や大面積化が困難である。さらに、レジスト剥離時やマスク上に堆積した有機化合物によって素子形成途中でダメージが入る可能性が大きい。他方、インクジェット法では大面積化は容易で製造プロセスも簡略化されるが、高精度の位置決めが困難であり、また形成薄膜中には溶媒が残って素子の信頼性を低下させるだけでなく、乾燥途中に凝集しない材料を選択しなければならないという問題がある。インクとインクジェットノズルの材料も前記のように制限される。昇華性もしくは揮発性物質を用い、これらを気体分子として感光性樹脂の露光相または未露光相に浸透させて、前記感光性樹脂の露光相または未露光相のいずれかの相に含有させることにより、製造工程が簡潔で位置制御性が良く、溶媒を含まない高品質かつ高微細パターンを有する有機表示素子およびこれらの有機表示素子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
【0018】
(1)透明基板にITO層が設ける工程と、電子輸送材料とホール輸送材料を含み、光、電子線、もしくは放射線に感光する感光性樹脂層からなる感光性樹脂層をITO層に設ける工程と、透明基板、ITO層、感光性樹脂層の順で積層されてなる基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、発光材料である色素からなる一種の揮発性物質を気化させ、密閉容器内に揮発性物質の蒸気を充満させ、かつ一種の揮発性物質の蒸気を冷却せずに加熱状態を保った状態で、一種の揮発性物質を感光性樹脂層に付着させ、さらに一種の揮発性物質を内部に浸透・分散させて、一種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、前記感光性樹脂層を露光させ、互いに非相溶な露光部分からなる相と未露光部分からなる相が相分離構造を形成する工程と、一種の揮発性物質が浸透・分散している感光性樹脂層を有する基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、発光材料である色素からなる他種の揮発性物質を気化させ、密閉容器内に揮発性物質の蒸気を充満させ、かつ他種の揮発性物質の蒸気を冷却せずに加熱状態を保った状態で、他種の揮発性物質を、感光性樹脂層の未露光部分又は露光部分に揮発性物質を付着させ、さらに他種の揮発性物質を内部に浸透・分散させて、他種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、一種の揮発性物質が分散した第1の分散相と、一種の揮発性物質と他種の揮発性物質の2種類の揮発性物質が分散した第2の分散相のそれぞれに電極を設ける工程と、を有する有機電界発光素子の製造方法である。
【0019】
露光することで互いに非相溶な露光部分からなる相と未露光部分からなる相が相分離している構造を有する感光性樹脂を用い、該感光性樹脂に揮発性物質を選択的に浸透・分散させるので、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子などに適用させることができる。さらに、分散相の位置決め精度が高く、さらに溶媒などの残存の虞もなく、高品質で高微細パターンを有する素子を得ることができる。
【0020】
(2)上記(1)に記載の有機電界発光素子の製造方法において、前記揮発性物質は、紫外〜可視光線〜近赤外線の波長帯域において光吸収を示し、昇華性かつ結晶性の有機化合物である有機電界発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の有機表示素子は、リソグラフィー、マスクやインクジェット法を用いて形成したパターンを用いたものではなく、昇華性もしくは揮発性物質を用い、これらを気体分子として感光性樹脂の露光相または未露光相に浸透させて、前記感光性樹脂の露光相または未露光相のいずれかの相に含有させるため、前記露光相または未露光相に溶媒や不純物を含む虞がない。また、リソグラフィーやマスクを用いた工程に比べて簡便であり、位置制御性も良いため、高品質で高精細な高精細パターンを効率よく作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】参考例1の有機表示素子作成方法の1段階の真空引きまでにおける有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図2】参考例1の有機表示素子作成方法の1段階の封管までにおける有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図3】参考例1の有機表示素子作成方法の1段階の封管後における有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図4】参考例1の有機表示素子作成方法の1段階の加熱時における有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図5】参考例1において、ソルベントブルー59(SB59)蒸気を未露光および露光部分を有するフォトレジストに浸透させた後のレジスト薄膜の写真である。
【図6】参考例1において、ソルベントブルー59(SB59)蒸気を未露光および露光部分を有するフォトレジストに浸透させたときの未露光部分または露光部分の吸収スペクトルを示す図である。
【図7】比較例1の有機表示素子作成方法の1段階の真空引きまでにおける有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図8】比較例1の有機表示素子作成方法の1段階の封管後における有機光表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図9】比較例1の有機表示素子作成方法の1段階の加熱時における有機表示素子作成装置の概略を示す断面図である。
【図10】参考例2の有機表示素子作製装置の概略構成を示す断面図である。
【図11】参考例3の有機表示素子作成装置を用いて作成した有機EL素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明でフィルターとしての光吸収層もしくは発光層として用いられる光感光性樹脂(フォトポリマー)は、光の照射により化学反応を起こす樹脂であり、写真製版印刷材料、凸版印刷材料、ホログラム材料、レジスト材料、封止材料など様々な分野で利用されている。光の照射により、架橋、分解、着色などをおこすものや、単量体からの重合を起こすものなどがある。樹脂単独でこのような作用を行う場合以外に、増感剤、重合開始剤、単量体などを添加した系が多い。光による架橋を起こす感光性基としては、光二量化を起こすケイ皮酸基、光分解によりラジカルを形成するジアゾ基、光により活性なニトレンに変換するアジド基などがある。アルキル、アリールケトン、スルホンを含む樹脂は光により分解反応が起こる。o−キノンジアジド化合物は光照射により窒素分子の脱離に続いてカルボキシル基が生じる。この官能基を含む樹脂は光照射によりアルカリ水溶液に可溶となり、フォトレジストとして用いられる。これらの光機能性樹脂の中でも、マスク露光技術、レーザーの走査や干渉露光などによる光パターニング法を用いて、これらの光機能性樹脂上に数μm、好ましくは数100μmの分解能で、100ナノメートルから100マイクロメートルの、好ましくは100ナノメートルから10マイクロメートルのパターンを自在に描画できるものを、特に好適に使用することができる。露光した上記光機能性樹脂を薄膜化し、未露光部分と露光部分の、樹脂の密度や疎水性などの物理・化学的性質の違いを利用して揮発性物質を選択的に侵入させることにより、効率よく表示素子層を作ることができる。
【0024】
本発明における光機能性樹脂主成分としては、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート共重合体、フェニルビニルケトン-スチレン共重合体、ポリケイ皮酸ビニル、β−ヒドロキシエチルシンナマート、シンナモイル基含有樹脂、スチリルキノリニウム基含有樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリイソプレン−アジド系樹脂、ポリビニールフェノール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、リグノフェノール系樹脂、ポリイミド、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ジアリールフタレートポリマー、ウレタンアクリレート樹脂、イソプロピルチオキサントン/アミン系樹脂、エポキシ樹脂、有機ポリシランなどを具体例として挙げることができる。また、光の代わりに電子線や放射線(例えば、X線、α線、β線、γ線など)やイオンビームに感光する感光性樹脂も好適に使用することができる。露光範囲10nmから1600nm、好ましくは70nmから600nmである。
【0025】
我々は上記露光パターンを有する光機能性樹脂に揮発性物質の蒸気を作用させることによって、第nの揮発性物質の蒸気に曝露された上記露光パターンを有する光機能性樹脂の未露光部分(または露光部分)にのみ高い選択性で第nの揮発性物質を侵入できることを見いだした(nは1以上20以下の整数)。露光部分には、極性の高い揮発性物質が、未露光部分には、極性の低い揮発性物質が選択的に侵入する傾向がある。
【0026】
例えば、ジアゾナフトキノン含有ノボラック樹脂をスピンコート法で3μmの厚さで塗布したガラス板をガラス管に入れ、朱色蛍光色素である4−(ジシアノメチル)−2−メチル−6−(4−ジメチルアミノスチリル)−4−H−ピラン(DCM)を同一の管に設置し、真空排気後封管してアンプル状にし、前記アンプルを熱処理してDCMの蒸気を蒸気樹脂表面に作用させることによってDCMを浸透させた樹脂層からなる薄膜が得られることを見出した。一方、上記ジアゾナフトキノン含有ノボラック樹脂にUV−A紫外線を170mJ/cm照射して露光した後に同様にガラス管に入れ、DCMを同一の管に設置し、真空排気後封管してアンプル状にし、前記アンプルを熱処理したが、DCMは露光した樹脂中には全く浸透しなかった。この結果より、上記ノボラック樹脂にマスク露光機を用いてパターンを形成後、上記方法によりDCMの蒸気を樹脂表面に作用させることによって、未露光部分にのみ選択的にDCMを浸透させることが可能であることが判る。猶、露光した上記樹脂に浸透し、未露光の上記樹脂には浸透しない揮発性物質を用いても良い。
【0027】
上記ジアゾナフトキノン含有ノボラック樹脂の未露光部分のみに選択的にDCMが浸透するメカニズムの詳細はわかっていないが、ジアゾナフトキノン含有ノボラック樹脂は、露光前はノボラック樹脂と感光剤であるジアゾナフトキノンの間に強い水素結合が働いており、アルカリ現像液に対する溶解性が低くなっている。一方、露光されるとジアゾナフトキノンはケテン中間体を経てインデンカルボン酸に変化するため、アルカリ現像液に溶解するようになる。以下に、ジアゾナフトキノン含有ノボラック樹脂の光化学反応を示す化学式を示す。
【0028】
【化1】

【0029】
ノボラック樹脂は、露光前と露光後のアルカリ溶液に対する溶解度の差が非常に大きく、最大約400倍になることが知られている[A.Furuta et al.,J. Photopolym. Sci. Technol., 2巻,383頁(1989)]。このことから、未露光ノボラック樹脂に対するDCMの親和性が露光後のノボラック樹脂に対するものより非常に大きいために、上記ノボラック樹脂の未露光部分のみへDCMが選択的に浸透することが可能になると考えられる。
【0030】
揮発性物質を液体状で直接作用させると、光機能性樹脂薄膜の均一性を損ねる、露光部分または未露光部分のみに選択的に侵入させるのが困難などの問題が生じる。すなわち、揮発性物質は大気圧下または減圧下で揮発させて気体とした後、上記露光パターンを有する光機能性樹脂表面に作用させることが好ましい。また、上記露光パターンを有する光機能性樹脂表面を昇温させることによって選択性、侵入速度をともに上げることができる。
【0031】
上記露光パターンを有する光機能性樹脂表面を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、揮発性物質の蒸気を作用させる場合、温度の上限は該組成物の融点であり、この温度以下で容器内の圧力は揮発性物質の飽和蒸気圧以下とする必要がある。
【0032】
揮発性物質の上記露光パターンを有する光機能性樹脂表面からの侵入程度は揮発性物質気体への曝露時間、温度および圧力によって制御可能であり、表示素子として用いる場合は1〜10000nmの侵入深さが必要であり、好ましくは10〜1000nmである。また、本表示素子製造方法は、文献[T. Hiraga et al., Mol. Cryst. Liq. Cryst.,344巻, 211頁]、特開2000−256877号公報、特開2000−281821号公報、特開2001−026884号公報に記載されているように、揮発性物質分子特有の機能を保持しながら、揮発性物質分子と親和性のある特定のポリマー中に揮発性物質を高濃度に分散できる点も特長である。
【0033】
本発明における揮発性物質の一例として、紫外〜可視光線〜近赤外線の波長帯域において光吸収を示し、昇華性かつ結晶性の有機化合物が挙げられる。具体例として、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド系色素などを挙げることができる。
【0034】
さらに詳細に説明すると、紫外〜可視光線〜近赤外線の波長帯域において光吸収を示し、昇華性の有機化合物(有機色素)の具体例として、アゾ色素、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、トリフェニルメタン系色素、ナフトキノン色素、アントラキノン色素、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド色素、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド色素、オリゴフェニレン系色素、オキサゾール系色素、クマリン系色素、フタレイン系色素、ジシアノメチレン系色素、キナクリドン系色素、ペリレン系、キノフタロン系色素、オキサジン系色素、ポリメチン系色素、有機金属錯体系色素、フォトクロミック色素、アントラセン、ルブレン、ジフェニルテトラセン、ジフェニルアントラセンなどを挙げることができる。これらの色素を用いることで、樹脂成形物表面樹脂層の着色を行うことができる。また、これらの色素が蛍光および燐光を呈する場合、樹脂成形物の表面層に蛍光および燐光を呈する機能を付与することができる。
【0035】
昇華性アゾ色素の具体例としては、例えば、アゾベンゼン、4−ジメチルアミノアゾベンゼン、4−ジメチルアミノ−3’−ニトロアゾベンゼン、4−ジメチルアミノ−4’−ニトロアゾベンゼン、4−ジメチルアミノ−3−メチル−3’−ニトロアゾベンゼン、4−ジメチルアミノ−3−メチル−4’−ニトロアゾベンゼン、4−ニトロアゾベンゼンなどを挙げることができる。
【0036】
ポルフィリン色素の具体例としては、例えば、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリンなどを挙げることができる。
【0037】
フタロシアニン色素の具体例としては、例えば、フタロシアニン、銅フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニンなどを挙げることができる。
【0038】
トリフェニルメタン系色素の具体例としては、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルアミノフルオランなどを挙げることができる。
【0039】
ナフトキノン色素の具体例としては、例えば、1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、5−アミノ−2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、8−フェニルアミノー5−アミノ−2,3−ジシアノ−1,4−ナフトキノンなどを挙げることができる。
【0040】
アントラキノン色素の具体例としては、例えば、アントラキノン、1−アミノアントラキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノンなどを挙げることができる。
【0041】
ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド色素の具体例としては、例えば、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ジメチル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドなどを挙げることができる。
【0042】
ペリレンテトラカルボン酸ジイミド色素の具体例としては、例えば、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ジ−tert−ブチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミドなどを挙げることができる。
【0043】
オリゴフェニレン系色素の具体例としては、biphenyl、p−terphenyl、p−quarterphenylなどを挙げることができる。
【0044】
オキサゾール系色素の具体例としては、1,4−bis(5‘−phenyloxazol−2’−yl)benzene、1,4−bis(4‘−methyl−5’−phenyloxazole−2‘−yl)benzeneなどを挙げることができる。
【0045】
クマリン系色素の具体例としては、1,2-benzopyrone、 2,3,5,6-1H,4H-Tetrahydro-9-carbethoxyquinolizino-[9,9a,1-gh]coumarin、3-(2-benzothiazolyl)-N,N-diethylumbelliferylamineなどを挙げることができる。
【0046】
フタレイン系色素の具体例としては、ローダミンB、ローダミン6Gなどを挙げることができる。
【0047】
ジシアノメチレン系色素の具体例としては、4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(4-dimethylaminostyryl)-4H-pyran(DCM1)、4-dicyanomethylene- 2-methyl-6-[2-(2,3,6,7-tetrahydro-1H,5H-benzo[ij]quinolizin-8-yl)vinyl]-4H-pyran(DCM2)、4,48-bis(2,28-diphenylvinyl)-1,18-biphenyl (DPVBi)などを挙げることができる。
【0048】
キナクリドン系色素の具体例としては、キナクリドン、N,N‘−ジメチルキナクリドンなどを挙げることができる。
【0049】
ペリレン系色素の具体例としては、dibenz(de,kl)anthracene (perylene)、trans-1,3-Pentadiene (trans-Piperylene)、1,12-benzoperylene、1,7-dibromo-peryleneなどを挙げることができる。
【0050】
キノフタロン系色素の具体例としては、キノフタロン、5−(5−methylbenzoxazolyl)−3‘−hydroxyquinophthaloneなどを挙げることができる。
【0051】
オキサジン系色素の具体例としては、3−nitrophenoxazine、3,7−dinitrophenoxazineなどが挙げられる。
【0052】
ポリメチン系色素の具体例としては、3-ethyl-2-[5-(3-ethyl-2-benzoxazolinylidene)-1,3-pentadienyl]benzoxazolium iodide(DODCI)、1,1‘−diethyl−4,4’−quinotricarbocyanine iodideなどを挙げることができる。
【0053】
有機金属錯体系色素の具体例としては、フェロセン、ルテノセン、バナジノセン、クロモセン、マンガノセン、コバルトセン、ニッケロセンなどのメタロセン、有機EL材料として用いられる、tris(8−quinolinolato)−Aluminum(Alq)、tris(2−phenylpyridine)iridium (Ir(ppy))、Platinum octaethyl porphine(PtOEP)、bis(10-hydroxybenzo[h]-quinolinate) beryllium (Bebq2)などを挙げることができる。
【0054】
フォトクロミック現象を起こし、昇華性かつ結晶性の有機化合物として、6−ブロモ−1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチル−8−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、5−クロロ−1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、5−クロロ−1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[9,10−b][1,4]オキサジン]、6,8−ジブロモ−1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチルスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’,3’−ジヒドロ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’,3’−ジヒドロ−5’−メトキシ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1’,3’−ジヒドロ−8−メトキシ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]フェナンスロ[9,10−b][1,4]オキサジン]、1,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b]ピラン]、1,3−ジヒドロ−5−メトキシー1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b]ピラン]などのスピロピラン類;2,5−ジメチル−3−フリルエチリデンコハク酸無水物、2,5−ジメチル−3−フリルイロプロピリデンコハク酸無水物などのフルギド類;2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイン酸無水物、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、cis−1,2−ジシアノ−1,2−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)エテンなどのジアリールエテン類などを挙げることができる。これらのフォトクロミック色素を用いて樹脂表面層を改質することによって、樹脂成形物の表面層にフォトクロミック特性を付与することができる。
【0055】
本発明の上記方法により、ガラスや金属、プラスチック、ITO等の基板上に製膜された光機能性樹脂の未露光部分(または露光部分)のみに選択的に揮発性のある光吸収色素を浸透させることで、基板面全体に対して平滑な光吸収体パターンを形成することができ、液晶パネル内などに内蔵されている微細光吸収フィルターとして使用できる。また、蛍光性色素を上記光機能性樹脂の未露光部分(または露光部分)のみに選択的に浸透させることで、基板面全体に対して平滑な蛍光体パターンを形成することができ、蛍光マークや、微小蛍光スケールなどの微細蛍光表示素子として使用できる。さらに、2種類以上の揮発性物質の少なくとも1種類の揮発性物質を、未露光部分(または露光部分)にのみ選択的に浸透させることで、2種類以上の吸収または発光パターンを有する吸収フィルターや蛍光表示素子を作製することができる。前記光吸収体または蛍光体パターンのみでも微細光吸収フィルターまたは微細蛍光表示素子として使用できるが、前記光機能性樹脂中に電子輸送材料とホール輸送材料を混入して、ITO上に製膜した後に、上記方法を用いて蛍光パターンを形成し、さらに前記パターン上面に電極を形成することで2種類以上の微細発光パターンを持つ有機電界発光(エレクトロルミネッセンス:EL)素子を作成することもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[参考例1]
図1に示すように、一端を閉じたガラス管10(例えば外径15mm、内径12mm、長さ350mm)内に、揮発性物質20として例えば青色色素として1,4−ビス(エチルアミノ)−9,10−アントラキノン(「ソルベントブルー59」(商品名))100mgを端部に設置した。次に、基板30として厚さ1.2mm、縦30mmおよび横12mmのガラスを用い、基板30上にスピンコート法(3000RPM、60s)で厚さ3.5μmのフォトレジスト層(JSR製i線レジスト PFR IX305H)31を形成し、大気下、オーブンにて、105℃で70分間、前記基板30/フォトレジスト31をプリベークした。フォトレジスト上に「AIST」という文字の周囲をくりぬいたマスク(図示せず)を置き、Xe光源ユニットを用いてUV−A紫外線(366nmで、13.5mW/cm)を5分間上記フォトレジストに照射した。大気下、オーブンにて、110℃で70分間、前記基板30/フォトレジスト31をポストエクスポージャーベークした。これらをガラス管10の中心部に設置した。次いで、このガラス管10の開放端を図2に示すように真空排気装置50に接続して真空排気を行った。その後、真空排気装置50に接続されたガラス管10の開放端に近い部分をガラス管封管用のバーナー60にて溶融封管して、図3に示すように、前記有機化合物20および前記基板30/フォトレジスト31をガラス封管11に密閉した。密閉の後、ガラス封管11を図4に示すように恒温槽70の内部に置き、恒温槽70に3時間、内部温度130℃で維持し、その後室温まで1時間を要し徐冷した。徐冷後、ガラス管11を切断して有機化合物20が浸透・分散した前記基板30/フォトレジスト31を取り出した。
【0058】
得られた基板30/フォトレジスト31の写真を図5に示す。未露光部には「ソルベントブルー59」(商品名)が浸透して青色に着色したが、露光部には浸透せず、全く着色していないことが分かる。「ソルベントブルー59」(商品名)が浸透した上記未露光部分の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを図6の破線(a)に示す。630nm近傍にピークが存在し、吸光度は0.61(透過率 0.24)であった。吸光度から「ソルベントブルー59」(商品名)の濃度を見積もったところ、1.6wt%であった。これはフォトレジスト上に「ソルベントブルー59」(商品名)が浸透することにより、マスクと同形状のパターンを有するカラーフィルターが形成できたことを示す。
【0059】
さらに、同様に140℃で3時間「ソルベントブルー59」(商品名)を浸透させたときの、未露光部分の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを図6の実線(b)に示す。140℃の場合、「ソルベントブルー59」(商品名)の吸光度は2.8(透過率 0.0015)、濃度は7.0wt%であった。また、露光部分の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを図6の一点鎖線(c)に示す。630nm近傍には吸収が存在せず、「ソルベントブルー59」(商品名)が露光部分には存在しないことが示された。
【0060】
[比較例1]
参考例1において、1,4−ビス(エチルアミノ)−9,10−アントラキノン(「ソルベントブルー59」(商品名))の効果を確認するため、基板32/フォトレジスト33を、参考例1と全く同様の条件でプリベーク、アルミ製マスクで覆い露光、およびポストエクスポージャーベークし、前記基板32/フォトレジスト33(厚さ:1.2mm、縦:30mm、横:12mm)を加熱処理する比較実験を以下のように行った。すなわち、図7に示したように、一端を閉じたガラス管12(例えば外径15mm、内径12mm、長さ350mm)内に前記基板32/フォトレジスト33(厚さ:1.2mm、縦:30mm、横:12mm)のみを設置した。このガラス管12の開放端を真空排気装置51に接続して真空排気を行った。その後、図8に示すように、真空排気装置51に接続されたガラス管12の開放端に近い部分をガラス管封管用のバーナー61にて溶融封管して、前記フォトレジスト33をガラス封管12に密閉した。密封したガラス封管12を恒温槽71の内部に置き、図9に示す恒温槽71の内部温度を130℃で24時間維持し、その後室温まで徐冷した。徐冷後、ガラス管12を切断して、前記基板32/フォトレジスト33を取り出した。前記フォトレジスト33の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを測ったところ、露光部分、未露光部分共に630nm近傍にピークは現れなかった。
【0061】
[比較例2]
[参考例1]と同条件でフォトレジスト層を形成し、プリベークを行った。レジスト層に直接Xe光源ユニットを用いてUV−A紫外線(13.5mW/cm)を5分間上記フォトレジストに照射し、露光した。露光後、〔参考例1〕と同条件でポストエクスポージャーベークした。得られた基板34/フォトレジスト35を参考例1の場合と全く同様に封管、加熱および徐冷して処理した後、得られた基板34/フォトレジスト35には、「ソルベントブルー59」(商品名)が全く浸透していないことが示された。これらの結果から、「ソルベントブルー59」(商品名)は露光したフォトレジスト35薄膜に親和性がなく、そのため浸透・分散が起こらないことが判明した。
【0062】
[比較例3]
[参考例1]と同条件でフォトレジスト層を形成し、プリベークを行った。レジスト層を全く露光しない他は〔参考例1〕と同条件でポストエクスポージャーベークした。得られた基板36/フォトレジスト37を参考例1の場合と全く同様に封管、加熱および徐冷して処理した。得られた基板36/フォトレジスト37全面に「ソルベントブルー59」(商品名)が浸透した。これらの結果から、「ソルベントブルー59」(商品名)は未露光のフォトレジスト37薄膜に親和性があり、そのため浸透・分散が起こったことが判明した。
【0063】
以上、〔参考例1〕と〔比較例1〕と〔比較例2〕および〔比較例3〕から、減圧されたガラス封管内において加熱時、前記有機化合物が気化し、ガラス管内に蒸気が充満すること、その蒸気を冷却せずに加熱状態を保ち、そこに露光および未露光部分を有するフォトレジストを置くと、前記有機化合物と親和性がある未露光部分のみに所望の機能を発現可能な有機分子が分子分散することが分かった。
【0064】
[参考例2]
図10は本実施例で用いられる表示素子作製装置の概略構成を示す断面図である。基板300として厚さ1.2mm、縦30mmおよび横40mmのガラスを用い、基板300上にスピンコート法(3000RPM、60s)で厚さ3.5μmのフォトレジスト層(JSR製i線レジスト PFR IX305H)310を形成し、大気下、オーブンにて、105℃で70分間、前記基板300/フォトレジスト310をプリベークした。フォトレジスト310上に1辺5μmの正方形がスクエア配列をしたパターンを有するフォトマスク(図示せず)を置き、露光機で170mJ/cmで上記フォトレジスト310に照射して露光し、未露光部分311と露光部分312を上記フォトレジスト310内に形成した。大気下、オーブンにて、110℃で70分間、前記基板300/フォトレジスト310をポストエクスポージャーベークした。これらを密閉式容器110に設置した。一方、揮発性物質として25℃近傍で固体である黄色蛍光色素として2,3,5,6-1H,4H-Tetrahydro-9-carbethoxyquinolizino-[9,9a,1-gh]coumarin(「Coumarin314」(商品名))200mgを別の密閉式容器140に設置した。なお、揮発性物質が25℃近傍で液体の場合は、多孔質スポンジにしみ込ませて気化源240(ウレタンスポンジ、例えば厚さ5mm、横10mm、縦40mm)を作製し、更に別の密閉式容器120に設置できる。密閉式容器110と120は配管とバルブ195によって、密閉式容器110と140は配管とバルブ196によって接続されている。基板300が設置されている密閉式容器110の外壁はステンレスまたはアルミニウムからなり、基板の出し入れのために分割可能な構造(図示せず)とする。密閉式容器110の内部100は真空バルブ190および真空配管系130を経由して、真空排気系150に接続されており、室温下において密閉式容器110内部の圧力が1×10−4パスカル以下になるまで排気を行った後、真空バルブ190を閉じる。これによって密閉式容器110は密閉される。
【0065】
加熱手段として用いられるヒーターである気化源基板ヒーター410、樹脂基板ヒーター400および真空バルブヒーター790は例えば真空仕様のシース電気発熱線を埋め込んだアルミニウムからなるものを用いることができる。伝熱性の高い材質からなるヒーターを隙間なく設置することで、密閉式容器110の内部100および真空バルブ190の部分を均一に加熱することができる。
【0066】
密閉式容器110の内部100を減圧し、前記加熱手段によって加熱を行い、全体が150℃になるように温度制御を行った。「Coumarin314」(商品名)を密閉している密閉式容器140も同様に加熱し、ガラス基板300/フォトレジスト310が設置されている密閉式容器110の設定温度よりも高温である160℃で加熱した。その後2つの密閉式容器110、140を接続しているバルブ196を開け、2時間設定温度で保持した。その後密閉式容器110、140の内部温度を25℃まで徐々に低下させた。次いで、密閉式容器内部100を大気圧に戻し、基板300/フォトレジスト310を取り出した。
【0067】
なお、揮発性物質として25℃近傍で液体である化合物を用いる場合は、前記加熱手段においてバルブ196をバルブ195に、密閉式容器140を密閉式容器120に読み替え、密閉式容器120は気化源ヒーター410によって加熱される。得られた基板300/フォトレジスト310を光学顕微鏡で観察したところ、フォトレジスト310の未露光部分311にCoumarin314はドープされていたが、露光部分312にはCoumarin314は全くドープされておらず、パターン形状に従って「Coumarin314」(商品名)を上記未露光部分311に選択的にドープできることが分かった。
【0068】
また、得られた蛍光体パターンは、表面形状プロファイラ(KLA Tencor製、P−15)を用いて表面形状測定したところ、基板面に対して平滑(ラフネス:50nm)であった。
【0069】
得られたパターンを有する蛍光表示体について、まず365nmの長波長紫外線ランプを用いて照射を行い、色彩輝度計(コニカミノルタ製、CS−100A)により、発光強度を測定したところ、最高輝度は200cd/mであった。
【0070】
[実施例1]
[参考例2]と同様に、基板300として厚さ1.2mm、縦30mm、横40mmのガラス板を用い、その上に厚さ3.5μmのフォトレジスト層(JSR製i線レジスト PFR IX305H)310をスピンコート法で形成し、大気下、オーブンにて、105℃で70分間、前記基板300/フォトレジスト310をプリベークした。これらを密閉式容器110に設置した。一方、揮発性物質として25℃近傍で固体である黄色蛍光色素として2,3,5,6-1H,4H-Tetrahydro-9-carbethoxyquinolizino-[9,9a,1-gh]coumarin(「Coumarin314」(商品名))200mgを別の密閉式容器140に設置した。密閉式容器110の内部100を[参考例2]と同様に1×10−4パスカルになるまで減圧し、前記加熱手段によって加熱を行い、全体が110℃になるように温度制御を行った。Coumarin314を密閉している密閉式容器140も[参考例2]と同様に加熱し、前記基板300/前記フォトレジスト310が設置されている密閉式容器110の設定温度よりも高温である115℃で加熱した。その後、2つの密閉式容器110,140を接続しているバルブ196を開け、5時間設定温度で保持した。その後、密閉式容器110,140の内部温度を25℃まで徐々に低下させた。最後に、密閉式容器100を大気圧に戻し、前記基板300/前記フォトレジスト310を取り出した。得られた前記基板300/前記フォトレジスト310は、全体に均一に「Coumarin314」(商品名)が侵入し、紫外・可視・赤外吸収スペクトルを測定したところ、440nm近傍にピークが現れた。また、発光ピークは490nm近傍に現れ、「Coumarin314」が浸透していることが分かった。色彩輝度計(コニカミノルタ製、CS−100A)で発光強度を測定したところ、最高輝度は50cd/mであった。
【0071】
前記フォトレジスト310上に、[参考例2]と同様のマスク(図示せず)を置き、露光機で170mJ/cmで上記フォトレジスト310に照射して露光し、未露光部分311と露光部分312を上記フォトレジスト310内に形成した。大気下、オーブンにて、110℃で70分間、前記基板300/前記フォトレジスト310をポストエクスポージャーベークした。これらを再び密閉式容器に設置し、揮発性物質として25℃近傍で固体である朱色蛍光色素として4−(ジシアノメチル)−2−メチル−6−(4−ジメチルアミノスチリル)−4−H−ピラン(以下「DCM1」という)200mgを別の密閉式容器140に設置し、上記と同様にして130℃で2時間処理して取り出した。
【0072】
得られた前記基板300/フォトレジスト層310を光学顕微鏡で観察したところ、フォトレジスト310の未露光部分311に選択的にDCM1が侵入して朱色に着色し、露光部分312には、「Coumarin314」のみが存在して黄色に着色していることが確認できた。
【0073】
得られたパターンを有する蛍光表示体について、まず365nmの長波長紫外線ランプを用いて照射を行い、上記色彩輝度計により、黄緑色、朱色それぞれの発光強度を測定したところ、黄緑の発光は露光部分312からのみ観測され、最高輝度が50cd/mであったのに対し、朱色の発光は未露光部分311からのみ観測され、最高輝度は110cd/mであった。このことから、未露光部分311にDCM1が選択的にドープされたことによって、紫外線ランプにより励起された「Coumarin314」の発光がDCM1に再吸収され、その結果DCM1が励起されてDCM特有の朱色発光を発するという、エネルギー移動が起こって微細未露光部分311の発光色を黄緑色から朱色へ変化させたことが分かった。
【0074】
[参考例3]
文献[J.Kido、et al.,Appl. Phys. Lett.,61巻、761頁(1992)]に見られるように、ポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」という)(Aldrich製、M:120,000)と、電子輸送性のtris(8−quinolinolato)−Aluminum(Alq)とホール輸送性のN,N’−diphenyl−N,N’−bis(3−methylphenyl)−1,1’−biphenyl−4,4’−diamine(TPD)混合物をPMMAに対して50wt%の濃度(Alq:TPDモル比は6:4)でクロロホルム中に分子分散させた。
【0075】
[参考例2]と同様に、図11に示すように基板320として厚さ1.2mm、縦30mmおよび横40mmのガラス板上にITO層321を透明電極として堆積したもの(フルウチ化学製)を用い、前記ITO層321上にディッピング法で厚さ0.1μmの電子・ホール輸送材料含有PMMA層330を形成した。文献[S.Horiuchi、et al.,Adv. Mater.,15巻、1449頁(2003)]に従い、上記電子・ホール輸送材料含有PMMA330上に幅5mmのストライプ状パターンを有するフォトマスク(図示せず)を置き、Xe光源ユニットを用いてUV−B紫外線を1.5J/cm(波長 250nm)照射することで露光し、未露光部分331と露光部分332を上記電子・ホール輸送材料含有PMMA330内に形成した。これらを密閉式容器110に設置した。一方、揮発性物質として25℃近傍で固体である朱色蛍光色素として4−(ジシアノメチル)−2−メチル−6−(4−ジメチルアミノスチリル)−4−H−ピラン(以下「DCM1」という)200mgを別の密閉式容器140に設置した。
【0076】
密閉式容器110の内部100を[参考例2]と同様に1×10−4パスカルになるまで減圧し、前記加熱手段によって加熱を行い、全体が115℃になるように温度制御を行った。DCM1を密閉している密閉式容器140も[参考例2]と同様に加熱し、前記ガラス320/ITO層321/電子・ホール輸送材料含有PMMA330が設置されている密閉式容器110の設定温度よりも高温である120℃で加熱した。その後2つの密閉式容器110,140を接続しているバルブ196を開け、1時間設定温度で保持した。その後密閉式容器110,140の内部温度を25℃まで徐々に低下させた。最後に、密閉式容器内部100を大気圧に戻し、前記ガラス320/ITO層321/電子・ホール輸送材料含有PMMA330を取り出した。
【0077】
得られた前記ガラス320/ITO層321/電子・ホール輸送材料含有PMMA330表面を光学顕微鏡と蛍光分析装置で観察したところ、前記電子・ホール輸送材料含有PMMA330上の未露光部分331にDCMが選択的にドープされたことが分かった。
【0078】
また、得られた電子・ホール輸送材料含有PMMA330表面を、表面形状プロファイラ(KLA Tencor製、P−15)を用いて表面形状測定したところ、基板面に対して平滑(ラフネス:20nm)であった。
【0079】
上記電子・ホール輸送材料含有PMMA330表面に、マグネシウムと銀を10:1の比率で共蒸着法することで、電極335と電極336(膜厚:200nm)を形成し、図11に示す有機EL素子を試作した。
【0080】
得られた素子のITO層321と電極335間に6Vの電圧を印加したところ、朱色に発光し、色彩輝度計(コニカミノルタ製、CS−100A)で計測した最高輝度は720cd/mであった。また、ITO層321と電極336間に6Vの電圧を印加したところ、緑色に発光し、最高輝度は700cd/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
特に、有機EL素子に好適に用いることができるが、これに限るものではなく、蛍光、燐光などを利用した表示素子であればいかなる用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10,12 一端を閉じた直線ガラス管、11,13 両端を閉じたガラス管、20 揮発性物質、30,32,34 基板、31,33,35 フォトレジスト層、50,51 真空排気装置、60,61 ガラス管封管用バーナー、70,71 恒温槽、100 内部、110 密閉式容器、120 密閉式容器、130 真空配管系、140 密閉式容器、150 真空排気系、190 真空バルブ、195,196 ヒーター付真空バルブ、240 気化源、300 基板、310 フォトレジスト、311,331 未露光部分、312,332 露光部分、320 ガラス板、321 ITO層、330 PMMA層、335,336 電極、400 ヒーター、410 気化源基板ヒーター、710,790 ヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板にITO層が設ける工程と、
電子輸送材料とホール輸送材料を含み、光、電子線、もしくは放射線に感光する感光性樹脂層からなる感光性樹脂層をITO層に設ける工程と、
透明基板、ITO層、感光性樹脂層の順で積層されてなる基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、発光材料である色素からなる一種の揮発性物質を気化させ、密閉容器内に揮発性物質の蒸気を充満させ、かつ一種の揮発性物質の蒸気を冷却せずに加熱状態を保った状態で、一種の揮発性物質を感光性樹脂層に付着させ、さらに一種の揮発性物質を内部に浸透・分散させて、一種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、
前記感光性樹脂層を露光させ、互いに非相溶な露光部分からなる相と未露光部分からなる相が相分離構造を形成する工程と、
一種の揮発性物質が浸透・分散している感光性樹脂層を有する基板を圧力および温度を制御可能な密閉容器内に置き、発光材料である色素からなる他種の揮発性物質を気化させ、密閉容器内に揮発性物質の蒸気を充満させ、かつ他種の揮発性物質の蒸気を冷却せずに加熱状態を保った状態で、他種の揮発性物質を、感光性樹脂層の未露光部分又は露光部分に揮発性物質を付着させ、さらに他種の揮発性物質を内部に浸透・分散させて、他種の揮発性物質の浸透・分散した分散相を形成する工程と、
一種の揮発性物質が分散した第1の分散相と、一種の揮発性物質と他種の揮発性物質の2種類の揮発性物質が分散した第2の分散相のそれぞれに電極を設ける工程と、
を有する有機電界発光素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法において、
前記揮発性物質は、紫外〜可視光線〜近赤外線の波長帯域において光吸収を示し、昇華性かつ結晶性の有機化合物であることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−54581(P2011−54581A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278625(P2010−278625)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【分割の表示】特願2004−136115(P2004−136115)の分割
【原出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度文部科学省科学技術振興調整費 「若手任期付研究員支援 フレキシブル−光電子デバイスプロセス技術」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】