説明

有機電界発光素子

【課題】 高輝度で欠陥の発生が少く長寿命な有機EL素子を提供する。
【解決手段】 一対の陽極及び陰極からなる電極間に挾持された有機化合物層が、発光層およびバッファ層を含む2以上の層からなり、有機化合物層が下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルからなり、バッファ層が、陽極と接して設けられ、1種以上の電荷注入材料を含有する。


〔一般式(I−1)および(I−2)中、Arは1価の芳香族基を表し、Xは2価の芳香族基を表し、Tは2価の炭化水素基を表し、m、kはそれぞれ独立に0または1を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と称す場合がある)に関し、詳しくは、特定の電荷輸送性ポリマーを用いた有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子(以下、「EL素子」と記述する)は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機螢光体を用いたものが主流であるが、200V以上の交流電圧が駆動に必要なため製造コストが高く、また輝度が不十分等の問題点を有している。
【0003】
これに対し、有機化合物を用いたEL素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、単結晶の場合、膜厚が1mm程度と厚く100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため蒸着法による薄膜化が試みられている(非特許文献1参照)。
しかしながら、この方法で得られた薄膜は、駆動電圧が30Vと未だ高く、また、膜中における電子・正孔キャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られなかった。
【0004】
ところが近年、正孔輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ螢光性有機低分子化合物の薄膜を真空蒸着法により順次積層した機能分離型のEL素子において、10V程度の低電圧で1000cd/m2以上の高輝度が得られるものが報告されている(非特許文献2参照)。この研究報告以来、積層型のEL素子の研究・開発が活発に行われている。
これら積層型の素子は、電極から電荷輸送性の有機化合物からなる電荷輸送層を介して正孔と電子のキャリアバランスを保ちながら螢光性有機化合物からなる発光層に注入され、発光層中に閉じ込められた正孔と電子が再結合することにより高輝度の発光を実現している。
【0005】
しかしながら、このタイプのEL素子では実用化に向けて下記に示す課題が示されている。
(1)数mA/cm2という高い電流密度で駆動されるため、大量のジュール熱を発生する。このため、蒸着によってアモルファスガラス状態で成膜された正孔輸送性低分子化合物や螢光性有機低分子化合物が次第に結晶化して最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多く見られ、その結果素子の寿命が低下するという問題を有している。
(2)低分子有機化合物を複数の蒸着工程において0.1μm以下の薄膜を形成していくため、ピンホールを生じ易く、十分な性能を得るためには厳しく管理された条件下で膜厚の制御を行うことが必要である。従って、生産性が低くかつ大面積化が困難である。
【0006】
(1)に示す課題の解決のためには、正孔輸送材料として安定なアモルファスガラス状態が得られるスターバーストアミンを用いたり(例えば、非特許文献3等参照)、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーを用いたり(非特許文献4参照)したEL素子が報告されている。
しかし、これら単独では正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルに起因するエネルギー障壁が存在するため、陽極からの正孔注入性或いは発光層への正孔注入性を満足するものではない。また、前者のスターバーストアミンの場合、溶解性が小さいために精製が難しく純度を上げることが困難であることや、後者のポリマーの場合、高い電流密度が得られず十分な輝度が得られてない等の問題も存在する。
【0007】
次に、(2)に示す課題の解決のためには、工程を短縮できる単層構造の有機EL素子について研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子を用いた素子(例えば、非特許文献5等参照)や、正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と螢光色素を混入した(非特許文献6参照)素子が提案されているが、未だ輝度、発光効率等が有機低分子化合物を用いた積層型有機EL素子には及ばない。
【0008】
さらに、作製法という観点から、製造の簡略化、加工性、大面積化、コスト等の観点から湿式による塗布方式が検討されており、キャスティング法によっても素子が得られることが報告されている(非特許文献7,8参照)。しかし、電荷輸送材料の溶剤や樹脂に対する溶解性や相溶性が悪いため結晶化しやすく、製造上あるいは特性上に問題があった。
【0009】
また、有機EL素子を用いた表示デバイスは、液晶等の他の表示デバイスと比較するとより小型化・薄型化に適しているため、内部電源で駆動する携帯型デバイスへの利用が期待されている。このような携帯型デバイスを実現する上では、より少ない消費電力で長時間駆動できることが重要である。
一方、有機EL素子の基本的な層構成は、ITOからなる透明電極(陽極)上に正孔輸送層(あるいは電荷輸送能を有する発光層)が設けられ、更に他の層が必要に応じて設けられた構成を有する。ここで、上述したような用途への対応や、より一層の省エネ化を図る方法としては、透明電極と正孔輸送層(あるいは電荷輸送能を有する発光層)との間にバッファ層を設け、正孔輸送層(あるいは電荷輸送能を有する発光層)への電荷注入効率を向上させる方法が知られており、これにより駆動電圧を下げることができる。このバッファ層を構成する代表的な材料としては、例えば、PEDOT(ポリエチレン・ジオキシチオフェン)、スターバーストアミン、CuPc(銅フタロシアニン)等が知られている。
【非特許文献1】ThIn SolId FIlms, Vol.94, 171 (1982)
【非特許文献2】ApplIed PhysIcs Letter, Vol.51,913(1987)
【非特許文献3】第40回応用物理学関係連合講演会予稿集30a−SZK−14(1993)
【非特許文献4】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【非特許文献5】Nature, Vol.357, 477(1992)
【非特許文献6】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−g−12(1991)
【非特許文献7】第50回応用物理学会学術講演予稿集,29p−ZP−5(1989)
【非特許文献8】第51回応用物理学会学術講演予稿集,28a−PB−7(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、バッファ層を設けた場合、確かに駆動電圧を下げることはできる。しかし、バッファ層を設けた有機EL素子の製造や、この素子を用いたデバイスを長期に渡って使用する場合のように実用化を前提とした場合、歩留まり低下の原因となる製造上の各種の欠陥や、素子性能の経時的劣化が発生し、実用に耐えない場合があることがわかった。
【0011】
従って、本発明は従来技術の上記問題点に鑑みてなされた発明であって、その目的は、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、大面積化が可能で製造容易な上に、更に製造上の欠陥の発生が少なく且つ素子性能の経時的劣化が小さい有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために、バッファ層を設けた有機EL素子を作製した場合に、製造上の各種欠陥が発生したり素子性能の経時的劣化が起こる原因について鋭意検討した。
【0013】
まず、本発明者らは、陽極上に形成されたバッファ層表面に、高分子系の電荷輸送性材料を用いて正孔輸送層あるいは電荷輸送能を有する発光層(以下、バッファ層上に直接あるいは他の層を介して間接的に形成される層を「隣接層」と略す場合がある)を形成しようとした場合の問題点について調査した。その結果、使用する電荷輸送性高分子がビニル系骨格(例えば、PTPDMA(高分子論文集,Vol.52,216(1995)参照)等)やポリカーボネート系骨格(例えば、Et−TPAPEK(第43回応用物理学関係連合講演会予稿集27a−SY−19,pp.1126(1996)参照))等の場合ものでは、バッファ層と隣接層との密着性が不充分となり剥離欠陥が発生したり、また、ピンホールが生成したり凝集が発生する場合があることを確認した。このような欠陥の原因としては、バッファ層と隣接層との界面でのなじみの悪さや、隣接層を構成する高分子の柔軟性の欠如が考えられる。
【0014】
従って、本発明者らは、これらの成膜上の欠陥防止という観点では、隣接層の形成に使用する電荷輸送性高分子としては、柔軟性の高い分子構造を有する材料を使用したり、あるいは、上述した柔軟性が低い分子構造を有する材料であっても分子自体のサイズを小さくする(分子量を小さくする)ことによって、分子の柔軟性を向上させたり、隣接層中での分子間の再配列を容易にすることで対応できると考えた。
【0015】
また、本発明者らは、素子性能の経時的劣化が発生する原因についても調査した。その結果、使用する電荷輸送性高分子が上述した場合と同様にビニル系骨格やポリカーボネート系骨格の場合、時間と共に駆動電圧が上昇し消費電力を増加させ、更には発光特性自体の低下を招いてしまう場合があることがわかった。
【0016】
この原因について調査したところ、バッファ層に含まれる低分子成分(例えば、スターバーストアミンやCuPc、あるいは、PEDOTと併用されるイオン性物質の対イオン)が、素子への電界印加時に生じるジュール熱によって時間と共に隣接層へとブリード(染み出し)すことにより、隣接層本来の機能が発揮できなくなっていることがわかった。また、このようなブリードの発生は、バッファ層中の低分子成分がビニル系骨格やポリカーボネート系骨格の電荷輸送性高分子を用いて形成された隣接層内へと浸透し易いこと、言い換えれば、隣接層中の電荷輸送性高分子間の隙間が大きい/容易に形成されやすいことを意味している。
【0017】
それゆえ、本発明者らは、ブリードを抑制するためには、低分子成分の隣接層へのブリードが防止できるように、緻密で耐熱性の高い隣接層を形成することが重要であると考えた。この場合、低分子成分のブリードを促進する分子間の隙間を隣接層の形成に隙間無く埋められること、および、一旦形成された隣接層内において、熱により分子間の相対的な移動が発生し分子間の隙間を発生させないことがブリードの防止には重要である。
【0018】
従って、ブリード抑制の観点から、隣接層を形成する電荷輸送性高分子としては、耐熱性(ガラス転移温度)が高く、柔軟性の高い分子構造を有する材料を用いることが必要である。しかし、この条件は、成膜上の欠陥を抑制する選択肢のひとつである柔軟性が低い分子構造を有する分子量の小さい電荷輸送性高分子の利用と相反する関係にある。
【0019】
また、抜本的なブリード抑制の為には、バッファ層に用いる電荷注入材料やその併用成分として、ブリードの原因となる低分子成分を含まない材料を利用することも考えられる。
【0020】
加えて、電荷輸送性高分子は、有機EL素子の最も重要な発光特性を左右する電荷移動度を確保するために、分子中に電荷移動を担うホッピングサイトをある一定数以上有している必要がある。すなわち、言い換えれば、必然的にある程度以上の分子サイズ(分子量)が必要である。しかし、この条件も、ブリード抑制の場合と同様に、成膜上の欠陥を抑制する選択肢のひとつである柔軟性が低い分子構造を有する分子量の小さい電荷輸送性高分子の利用と相反する関係にある。
【0021】
すなわち、分子構造の柔軟性に欠ける電荷輸送性高分子では、本質的にブリードを抑制するために緻密な隣接層を形成することが困難な一方、ブリードを抑制するために、分子量を小さくすると耐熱性の低下によるブリードの促進や、素子の基本的特性に係わる電荷移動度自体の低下を招くという根本的に解決し難いジレンマを抱えている。
【0022】
それゆえ、本発明者らは、バッファ層を設けた有機EL素子を得る上で発光特性という基本的特性の確保に加えて製造性や長期の使用に耐えうる実用性をも考慮した場合には、隣接層の形成に用いる電荷輸送性高分子としては、バッファ層としてブリードの原因となる材料を用いる場合には、十分な電荷移動度を有しているのみならず、柔軟性の高い分子構造および高い耐熱性をも兼ね備えた材料を用いることが重要であると考えた。更に、抜本的にブリードを抑制するためには、バッファ層をブリードの原因となる低分子成分の利用が基本的に必要の無い成分を用いて形成することが必要であると考えた。
【0023】
このため、発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造より選択された少なくとも1種を部分構造として含む電荷輸送性ポリエーテルが、有機EL素子として好適な電荷移動度、薄膜形成能を有することを見出し、さらに電極層(陽極)に接するように少なくとも1層のバッファ層を設けることで、より電荷注入性が向上し、高効率、高輝度で、かつ耐久性を有する有機EL素子として機能できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下のとおりである。
【0024】
<1>少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間に挾持された有機化合物層より構成され、前記有機化合物層が、発光層およびバッファ層を少なくとも含む2以上の層からなり、
前記有機化合物層の少なくとも一層が少なくとも1種の前記電荷輸送性ポリエーテルを含有し、前記電荷輸送性ポリエーテルが下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有してなり、
前記バッファ層が、前記陽極と接して設けられ、且つ、1種以上の電荷注入材料を含有することを特徴とする有機電界発光素子である。
【0025】
【化1】

【0026】
〔一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基又は炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、m、kはそれぞれ独立に0または1を表す。〕
【0027】
<2> 前記電荷注入材料の少なくとも1種のイオン化ポテンシャルが、5.2eV以下であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0028】
<3> 前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位から選択される少なくとも1種を有する電荷輸送性高分子であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0029】
【化2】

【0030】
(一般式(II−1)〜(II−4)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、m、lはそれぞれ独立に0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【0031】
<4> 前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(III)で示される構造単位を有する電荷輸送性高分子であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0032】
【化3】

【0033】
(一般式(III)中、nは100〜10000の範囲内の整数を表す。)
【0034】
<5> 前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(IV)で示される電荷輸送性材料であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0035】
【化4】

【0036】
(一般式(IV)中、Arは置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の1−ナフチル基、又は、置換もしくは未置換の2−ナフチル基を表す。)
【0037】
<6> 前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記構造式(V)で示される電荷輸送性材料であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0038】
【化5】

【0039】
<7> 前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、および、電子輸送層から構成され、
前記発光層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記発光層との間に、前記バッファ層を設けたことを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0040】
<8> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<7>に記載の有機電界発光素子。
【0041】
<9> 前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、正孔輸送層、及び、電子輸送層から構成され、
前記正孔輸送層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記正孔輸送層との間に、前記バッファ層を設けたことを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0042】
<10> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<9>に記載の有機電界発光素子。
【0043】
<11> 前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、および、正孔輸送層から構成され、
前記正孔輸送層及び前記発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記正孔輸送層との間に、バッファ層を設けたことを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0044】
<12> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<11>に記載の有機電界発光素子。
【0045】
<13> 前記有機化合物層が、前記発光層および前記バッファ層のみから構成され、前記発光層が電荷輸送能を有する発光層であり、
前記電荷輸送能を有する発光層が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記電荷輸送能を有する発光層との間に、バッファ層を設けたことを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0046】
<14> 前記電荷輸送能を有する発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<13>に記載の有機電界発光素子。
【0047】
<15> 前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルが、下記一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルであることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
【0048】
【化6】

【0049】
〔一般式(VI)中、Aは上記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、pは3〜5000の整数を表す。〕
【発明の効果】
【0050】
以上に説明したように本発明によれば、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、大面積化が可能で製造容易な上に、更に製造上の欠陥の発生が少なく且つ素子性能の経時的劣化が小さい有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間に挾持された有機化合物層より構成され、前記有機化合物層が、発光層およびバッファ層を少なくとも含む2以上の層からなり、前記有機化合物層の少なくとも一層が少なくとも1種の前記電荷輸送性ポリエーテルを含有し、前記電荷輸送性ポリエーテルが下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有してなり、前記バッファ層が、前記陽極と接して設けられ、且つ、1種以上の電荷注入材料を含有することを特徴としている。
【0052】
【化7】

【0053】
〔一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基又は炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、m、kはそれぞれ独立に0または1を表す。〕
【0054】
本発明の有機EL素子は、有機化合物層の少なくとも1層が一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテル(以下、単に「電荷輸送性ポリエーテル」と称す場合がある)を含み、更に、陽極と接して、1種以上の電荷注入材料を含有するバッファ層が設けられているために十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れると共に、駆動電圧を低くし、従来よりも消費電力を抑制することができる。
【0055】
また、この電荷輸送性ポリエーテルは、エーテル結合部位の可動性が高いため、分子構造の柔軟性が高く、また、耐熱性を確保するために分子量を大きくしても分子構造の柔軟性が失われにくい。
このため、バッファ層がブリードの原因となる低分子成分を含んでいたとしても、この電荷輸送性ポリエーテルを用いて隣接層を形成した場合、電荷輸送材料として求められる十分な電荷移動度を確保した上で、更に、ピンホールや凝集等の欠陥が少ない上にバッファ層との密着性に優れ、長期に渡って使用した場合でもブリードを抑制することができる。
【0056】
また、本発明の有機EL素子は、電荷輸送性ポリエーテルを用いて作製されるため、大面積化可能であり、容易に製造可能である。また、電荷輸送性ポリエーテルは、後述するように、その分子構造を適宜選択することで、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができる。このため、目的に応じて正孔輸送層、発光層、電荷輸送層等のいずれの層にも用いることができる。
【0057】
一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルについて詳細に説明する。
【0058】
一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。具体的には、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の1価の縮合環芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環、又は、少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。
【0059】
ここで、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素を構成する芳香環数は特に限定されないが、芳香環数が2〜5のものが好ましく、縮合環芳香族炭化水素においては、全縮合環芳香族炭化水素が好ましい。なお、当該多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
即ち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、炭素‐炭素の単結合によって結合している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
また、「縮合環芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、一対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン等が挙げられる。
【0060】
また、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環は、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。その環骨格を構成する原子数(Nr)は、Nr=5及び/又は6が好ましく用いられる。また環骨格を構成するC以外の元素(異種元素)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、S、N、O等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上及び/又は2個以上の異種原子が含まれていてもよい。特に5員環構造を持つ複素環としては、チオフェン、チオフィン及びフランもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環、ピロールもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環が好ましく用いられ、6員環構造をもつ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。
【0061】
さらに、一般式(I−1)および(I−2)中において、Arを表す構造の一つとして選択される芳香族複素環を含む芳香族基は、骨格を構成する原子団中に、少なくとも1種の前記芳香族複素環を含む結合基を表す。これらは、すべてが共役系で構成されたもの、或いは一部が非共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、すべてが共役系で構成されたものが好ましい。
【0062】
Arを表す構造として選択されるベンゼン環、多核芳香族炭化水素、縮合環芳香族炭化水素、芳香族複素環又は芳香族複素環を含む芳香族基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0063】
一般式(I−1)および(I−2)中、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表す。具体的には、置換もしくは未置換のフェニレン基、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の2価の多核芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の芳香族数2〜10の2価の縮合環芳香族炭化水素、又は置換もしくは未置換の2価の芳香族複素環、又は少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表す。
ここで、「多核芳香族炭化水素」「縮合環芳香族炭化水素」「芳香族複素環」「芳香族複素環を含む芳香族基」については前述に示す通りである。
【0064】
一般式(I−1)および(I−2)中、m、kはそれぞれ独立に0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素、または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を示し、好ましくは炭素数が2〜6の2価の直鎖状炭化水素基、及び炭素数3〜7の2価の分枝鎖状炭化水素より選択される。Tの具体的な構造を以下に示す。
【0065】
【化8】

【0066】
一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリエーテルとしては、下記一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルが好適に使用される。
【0067】
【化9】

【0068】
〔一般式(VI)中、Aは上記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、pは3〜5000の整数を表す。〕
【0069】
一般式(VI)中、Aは上記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、1つのポリマー中に2種類以上の構造Aが含まれてもよい。
【0070】
一般式(VI)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、置換アリール基、置換アラルキル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0071】
一般式(VI)中、重合度を表わすpは3〜5,000の範囲であるが、好ましくは10〜1,000の範囲である。また、本発明の電荷輸送性ポリエーテルの重量平均分子量Mwは5,000〜1,000,000の範囲であるが、10,000〜300,000の範囲にあるのが好ましい。
【0072】
本発明の電荷輸送性ポリエーテルは、下記構造式(VII−1)および(VII−2)で示される2個のヒドロキシアルキル基を有する電荷輸送性モノマーを、以下の方法で重合することによって合成することができる。なお、構造式(VII−1)または(VII−2)中、Ar、X、T、m、kは、前記一般式(I−1)または(I−2)におけるAr、X、T、m、kと同様である。
【0073】
【化10】

【0074】
特に、一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルは、例えば≪1≫、≪2≫またはおよび≪3≫に示す合成法により得ることができる。
【0075】
≪1≫一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルは、上記2個のヒドロキシアルキル基を有する電荷輸送性化合物(電荷輸送性モノマー)を加熱脱水縮合する方法によって合成することができる。この場合、無溶剤で電荷輸送性モノマーを加熱溶融し、水の脱水による重合反応促進させるために減圧下で反応させることが望ましい。また、溶媒を使用する場合は、水の除去のため、水と共沸する溶媒、例えばトリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、電荷輸送性モノマー1当量に対して、1〜100当量、好ましくは2〜50当量の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶媒の沸点で反応させるのが好ましい。重合が進まない場合には、反応系から溶媒を除去し、粘ちょう状態で加熱攪拌してもよい。
【0076】
≪2≫また、一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルは、酸触媒として、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸等のプロトン酸、或いは、塩化亜鉛等のルイス酸を用い脱水縮合する方法によって合成することもできる。この場合、電荷輸送性モノマー1当量に対して、酸触媒を1/10000〜1/10当量、好ましくは1/1000〜1/50当量の範囲で用いる。重合中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いるのが好ましい。溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、電荷輸送性モノマー1当量に対して、1〜100当量、好ましくは2〜50当量の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶媒の沸点で反応させるのが好ましい。
【0077】
≪3≫また、一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルは、イソシアン化シクロヘキシル等のイソシアン化アルキル、シアン酸p−トリルや2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパン等のシアン酸エステル、ジクロロヘキシルカルボジイミド(DCC)、トリクロロアセトニトリル等の縮合剤を用いる方法によっても合成することができる。この場合、縮合剤は、電荷輸送性モノマー1当量に対して、1/2〜10当量、好ましくは、1〜3当量の範囲で用いられる。溶媒として、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、電荷輸送性モノマー1当量に対して、1〜100当量、好ましくは2〜50当量の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、室温から溶剤の沸点で反応させるのが好ましい。
【0078】
上記≪1≫、≪2≫ および≪3≫の合成法のうち、異性化や副反応が起こりにくいことから、合成法≪1≫または≪3≫が好ましい。特に合成法≪3≫は反応条件が穏和なことからより好ましい。反応終了後、溶剤を用いなかった場合は溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、そのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等の電荷輸送性ポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、電荷輸送性ポリマーを析出させ、電荷輸送性ポリマーを分離した後、水や有機溶剤で十分に洗浄し、乾燥させる。さらに必要であれば、適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、電荷輸送性ポリマーを析出させる再沈澱処理を繰り返してもよい。再沈澱処理の際には、メカニカルスターラー等で効率よく攪拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際に、電荷輸送性ポリマーを溶解させる溶剤は、電荷輸送性ポリマー1当量に対して、1〜100当量、好ましくは2〜50当量の範囲で用いられる。また、貧溶剤は電荷輸送性ポリマー1当量に対して、1〜1000当量、好ましくは10〜500当量の範囲で用いられる。さらに上記反応において、電荷輸送性モノマーを2種以上、好ましくは2〜5種、さらに好ましくは2〜3種用いることにより、共重合ポリマーの合成も可能である。異種の電荷輸送性モノマーを共重合することによって、電気特性、成膜性、溶解性を制御することができる。電荷輸送性ポリマーの重合度pは低すぎると成膜性に劣り、強固な膜が得られにくく、また、高すぎると溶剤への溶解度が低くなり、加工性が悪くなるため、3〜5000の範囲に設定され、好ましくは、10〜3000、より好ましくは15〜1000の範囲に設定される。電荷輸送性ポリマーの末端基は、電荷輸送性モノマーと同様に、ヒドロキシル基、すなわちRが水素原子であってよいが、溶解性、成膜性、モビリティー等のポリマー物性に影響を及ぼす場合には、末端基Rを修飾し物性を制御することができる。例えば、末端のヒドロキシル基を、硫酸アルキル、ヨウ化アルキル等でアルキルエーテル化することができる。具体的な試薬としては、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル等から任意に選ぶことができ、末端のヒドロキシル基に対して、1〜3当量、好ましくは、1〜2当量の範囲で用いる。その際、塩基触媒を用いることができるが、塩基触媒として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウム金属等から任意に選ぶことができ、末端のヒドロキシル基に対し、0.9〜3当量、好ましくは、1〜2当量の範囲で用いられる。反応温度は、0℃から使用する溶剤の沸点で行うことができる。
【0079】
また、その際用いる溶剤として、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の不活性溶剤から選んだ単独溶剤、あるいは2〜3種の混合溶剤が使用できる。また、反応によっては、相間移動触媒としてテトラ−n−ブチルアンモニウムアイオダイド等の第4級アンモニウム塩を使用することもできる。また、末端のヒドロキシル基を酸ハロゲン化物を用いてアシル化し、基Rをアシル基にすることもできる。酸ハロゲン化物は特に限定するものではないが、例えば、アクリロイルクロリド、クロトノイルクロリド、メタクリロイルクロリド、n−ブチルクロリド、2−フロイルクロリド、ベンゾイルクロリド、シクロヘキサンカルボニルクロライド、エナンチルクロリド、フェニルアセチルクロリド、o−トルオイルクロリド、m−トルオイルクロリド、p−トルオイルクロリド等が挙げられ、末端のヒドロキシル基に対して、1〜3当量、好ましくは、1〜2当量の範囲で用いる。
【0080】
その際、塩基触媒を用いることができるが、塩基触媒をしては、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等から任意に選ぶことができ、酸クロリドに対し1〜3当量、好ましくは1〜2当量の範囲で用いる。その際用いる溶剤として、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等が挙げられる。反応は、0℃から使用する溶剤の沸点で行うことができる。好ましくは、0℃から30℃の範囲で用いる。さらに、無水酢酸等の酸無水物を用いてもアシル化することができる。溶剤を用いる場合は、具体的には、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン等の不活性溶剤を使用することができる。反応は、0℃から溶剤の沸点で行うことができる。好ましくは、50℃から溶剤の沸点で行えばよい。そのほか、モノイソシアネートを用い、末端にウレタン残基(−CONH−R')を導入することができる。具体的なモノイソシアネートとしてはイソシアン酸ベンジルエステル、イソシアン酸n−ブチルエステル、イソシアン酸t−ブチルエステル、イソシアン酸シクロヘキシルエステル、イソシアン酸2,6−ジメチルエステル、イソシアン酸エチルエステル、イソシアン酸イソプロピルエステル、イソシアン酸2−メトキシフェニルエステル、イソシアン酸4−メトキシフェニルエステル、イソシアン酸n−オクタデシルエステル、イソシアン酸フェニルエステル、イソシアン酸イソプロピルエステル、イソシアン酸m−トリルエステル、イソシアン酸p−トリルエステル、イソシアン酸1−ナフチルエステル等から任意に選ぶことができ、末端のヒドロキシル基に対し、1〜3当量、好ましくは1〜2当量の範囲で用いる。その際用いる溶剤として、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができる。反応温度は、0℃から使用溶剤の沸点で行うことができる。反応が進みにくい場合は、ジラウリン酸ジブチルスズ(II)、オクチルスズ(II)、ナフテン酸鉛等の金属化合物、あるいは、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の3級アミンを触媒として添加することもできる。
【0081】
次に、本発明の有機EL素子の層構成について詳記する。
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極と、この一対の陽極及び陰極からなる電極間に挾持された発光層とバッファ層とを含む2以上の層を含む有機化合物層とを含む層構成を有する。
ここで、バッファ層は1種以上の電荷注入材料を含み、陽極と接して設けられる。また、有機化合物層の少なくとも一層が、少なくとも1種の前記電荷輸送性ポリエーテルおよび発光性高分子を含む。
【0082】
本発明の有機EL素子においては、有機化合物層がバッファ層および発光層のみから構成される場合には、この発光層は電荷輸送能を有する発光層を意味し、この電荷輸送能を有する発光層が前記電荷輸送性ポリエーテルを含有してなる。
また、有機化合物層が、バッファ層および発光層に加え、更に1層以上の他の層を有する場合(3層以上の機能分離型の場合)は、バッファ層および発光層を除くその他の層は、キャリア輸送層、すなわち、正孔輸送層、電子輸送層、又は、正孔輸送層及び電子輸送層よりなるものを意味し、これらの少なくとも一層に前記電荷輸送性ポリエーテルが含まれる。
【0083】
具体的には、有機化合物層は、例えば、少なくともバッファ層、発光層及び電子輸送層を含む構成、少なくともバッファ層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層を含む構成、或いは、少なくともバッファ層、正孔輸送層及び発光層を含む構成からなるものであってもよい。この場合、これらの少なくとも一層(正孔輸送層、電荷輸送層、発光層)に前記電荷輸送性ポリエーテルが含まれていることが好ましい。さらに、本発明の有機EL素子においては、発光層が、電荷輸送性材料(前記電荷輸送性ポリエーテル以外の正孔輸送性材料、電子輸送性材料)を含有してもよく、このような電荷輸送性材料の詳細については後述する。
【0084】
以下、図面を参照しつつ、本発明の有機EL素子についてより詳細に説明するが、これらに限定されるわけではない。
【0085】
図1〜図4は、本発明の有機EL素子の層構成を説明するための模式断面図であって、図1、図2、図3の場合は、有機化合物層が3層または4層構成の場合の一例であり、図4の場合は、有機化合物層が2層構成の場合の例を示す。なお、図1〜図4において、同様の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0086】
図1に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、バッファ層3、発光層5、電子輸送層6及び背面電極8を順次積層してなる。図2に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、バッファ層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6及び背面電極8を順次積層してなる。図3に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、バッファ層3、正孔輸送層4、発光層5及び背面電極8を順次積層してなる。図4に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、バッファ層3、電荷輸送能を有する発光層7及び背面電極8を順次積層してなる。
なお、図1〜4中、透明電極2が陽極を意味し、背面電極8が陰極を意味する。以下、各々を詳しく説明する。
【0087】
本発明に用いられる前記電荷輸送性ポリエーテルが含まれる有機化合物層は、その構造によっては、図1に示される有機EL素子の層構成の場合、発光層5、電子輸送層6としていずれも作用することができるし、また、図2に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3、発光層5、電子輸送層6としていずれも作用することができ、図3に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3、電荷輸送能を有する発光層7としていずれも作用することができ、図4に示される有機EL素子の層構成の場合、電荷輸送能を有する発光層7として作用することができる。
【0088】
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられるがこれに限られるものではない。また、透明電極2は、透明絶縁体基板と同様に発光を取り出すため透明であって、かつ正孔の注入を行うため仕事関数(イオン化ポテンシャル)の大きなものが好ましく、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、および蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられるがこれに限られるものではない。
【0089】
またバッファ層3は陽極(図1〜4に示す透明電極2)と接して形成され、1種以上の電荷注入材料を含有する。この電荷注入材料は、バッファ層3の陽極が設けられた側と反対側の面に接して設けられる層(すなわち、図1では発光層5、図2および3では正孔輸送層4、図4では電荷輸送能を有する発光層7)への電荷の注入性を向上させるため、その仕事関数(イオン化ポテンシャル)は5.2eV以下の電荷注入材料を含有させることが好ましく、より好ましくは5.1eV以下の電荷注入材料を含有させる場合である。バッファ層を構成する層数は特に限定はないが、1層もしくは2層が好ましい。
【0090】
このような電荷注入材料としては、下記一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位の少なくとも1種を有する電荷輸送性高分子、一般式(III)で示される構造単位を有する電荷輸送性高分子、一般式(IV)で示される電荷輸送性化合物、または、構造式(V)で示される電荷輸送性化合物を挙げることができる。
バッファ層3を構成する材料は、これらの電荷注入材料のいずれか1種のみであってもよいが、2種以上を混合した材料を用いることもでき、さらにバインダー樹脂等、他の電荷注入性を有さない材料も必要に応じて用いることができる。
【0091】
【化11】

【0092】
一般式(II−1)〜(II−4)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、k、m、lは0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。なお、一般式(II−1)〜(II−4)中のArおよびTの具体例としては、一般式(I−1)や(I−2)に示すArおよびTの具体例と同様のものを挙げることができる。
なお、一般式(II−1)〜(II−2)で示される構造は、一般式(I−1)で示される構造のXで示される部分をビフェニルあるいはターフェニルとしたものであり、一般式(II−3)〜(II−4)で示される構造は、一般式(I−2)で示される構造のXで示される部分をビフェニルあるいはターフェニルとしたものである。
また、電荷注入材料として、一般式(II−1)〜(II−4)に示されるような電荷輸送性高分子を用いれば、バッファ層の形成に際してブリードの原因となる低分子成分を用いる必要が無いため、ブリードの発生を根本的に防止することができる。
【0093】
【化12】

【0094】
一般式(III)中、nは100〜10000の範囲内の整数を表し、好ましくは1000〜2500の整数を表す。なお、一般式(III)で示される化合物は、いわゆるPEDOT(ポリエチレン・ジオキシチオフェン)と呼ばれる材料であり、バッファ層を構成する場合、PEDOT単体では十分な導電性が確保できないため、通常は、PSS(ポリスチレンスルホン酸)等の対イオン(例えば、Naイオン等)を含むイオン性物質と共に必ず用いられるものである。
【0095】
【化13】

【0096】
一般式(IV)中、Arは置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の1−ナフチル基、又は、置換もしくは未置換の2−ナフチル基を表す。
【0097】
【化14】

【0098】
バッファ層3が、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位を少なくとも1種以上有する電荷輸送性高分子(以下、「第1の電荷輸送性高分子」と称す場合がある)を含む場合、この第1の電荷輸送性高分子は、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかのうち、少なくとも1種が高分子の一部を成す、あるいは、高分子に結合していることが好ましい。この場合において、高分子の一部を成す、あるいは、高分子に結合している構造単位の燐光発光性の部分および蛍光発光性の部分は、第1の電荷輸送性高分子の主鎖を形成していてもよく、また第1の電荷輸送性高分子の側鎖を形成していてもよい。
【0099】
但し、「高分子の一部を成す」とは、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかが、第1の電荷輸送性高分子の繰り返し単位の少なくとも一種類を構成していることを意味する。
この場合、第1の電荷輸送性高分子が2種以上の繰り返し単位から構成される共重合体であるならば、第1の電荷輸送性高分子の合成に用いられるモノマーの少なくとも一種が、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかを有することになる。また、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかが、第1の電荷輸送性高分子の主鎖を構成していてもよく、側鎖(ペンダント基等)を構成していてもよい。
【0100】
また、「高分子に結合している」とは、第1の電荷輸送性高分子が、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位を繰り返し単位として実質的に含まない高分子構造中に、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかがその程度、形態を問わず、結合していればよいことを意味する。
この場合、第1の電荷輸送性高分子は、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位のいずれかが、一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位を繰り返し単位として基本的に含まない高分子の主鎖、または、側鎖(ペンダント基を含む)含まれるが、このような形態のみに限定されるものではない。
【0101】
一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位を少なくとも1種含む第1の電荷輸送性高分子の分子構造は特に限定されないが、具体的には、例えば(1)ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン等の主鎖に前記構造単位を含む高分子及び/またはこれらの誘導体、(2)ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸等の側鎖に前記構造単位を有する高分子及び/またはこれらの誘導体、あるいは、(3)上記の(1)および(2)の構造を組み合わせた高分子等が挙げられる。
このような第1の電荷輸送性高分子の重合度は3〜5,000の範囲であることが好ましく、10〜1,000の範囲であることがより好ましい。また、重量平均分子量Mwは5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜300,000の範囲であることがより好ましい。
【0102】
バッファ層3が、一般式(III)で示される構造単位を有する電荷輸送性高分子(以下、「第2の電荷輸送性高分子」と略す場合がある)を含む場合、第2の電荷輸送性高分子は、バッファ層3の電荷注入性を向上させるためにポリスチレンスルホン酸(PSS)等のイオン性物質と混合して用いられる。
このような第2の電荷輸送性高分子とポリスチレンスルホン酸とを含む混合物としては、具体的には、バイトロン(Baytron)P(バイエル株式会社製:ポリエチレンジオキサイドチオフェンおよびポリスチレンスルホン酸を含む混合水分散液)等の公知の材料を用いることができる。
【0103】
バッファ層3が、一般式(IV)で示される電荷輸送性材料を含む場合、一般式(IV)中のArは置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の1−ナフチル基、または、置換もしくは未置換の2−ナフチル基から選択される。
この場合、置換フェニル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0104】
図1及び図2に示される有機EL素子の層構成の場合、電子輸送層6は、目的に応じて機能(電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエーテル単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、電子移動度を調節するために、電荷輸送性ポリエーテル以外の電子輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。
このような電子輸送材料としては、好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記化合物(VIII−1)〜(VIII−3)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、前記電荷輸送性ポリエーテルを用いずに電子輸送層6を形成する場合、電子輸送層6は、これら電子輸送性材料を用いて形成される。
【0105】
【化15】

【0106】
図2及び図3に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3は、目的に応じて機能(正孔輸送能)が付与された電荷輸送性ポリエーテル単独で形成されていてもよいが、正孔移動度を調節するために電荷輸送性ポリエーテル以外の正孔輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。
このような正孔輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等、特に好適な具体例として下記化合物(IX−1)〜(IX−6)が挙げられるが、電荷輸送性ポリエーテルとの相容性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。また、他の汎用の樹脂等との混合して用いてもよい。なお、前記電荷輸送性ポリエーテルを用いずに正孔輸送層3を形成する場合には、正孔輸送層3はこれら正孔輸送性材料を用いて形成される。
【0107】
【化16】

【0108】
一般式(IX−6)中、nは10〜100000の整数を表し、好ましくは1000〜50000の整数を表す。
【0109】
図1、図2又は図3に示されるに示される有機EL素子の層構成の場合、発光層5は、固体状態で高い蛍光量子収率を示す化合物が発光材料として用いられる。発光材料が有機低分子の場合、真空蒸着法もしくは低分子と結着樹脂を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。また、高分子の場合、それ自身を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。
【0110】
好適には、有機低分子の場合、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(X−1)〜(X−17)が用いられるが、これらに限定されるものではない。
なお、下記構造式(X−1)〜(X−17)中、Arは、一般式(I−1)および(I−2)中に示すArと同様の構造を有する一価基あるいは二価基を意味し、nおよびxは1以上の整数を、yは0または1を示す。
【0111】
【化17】

【0112】
【化18】

【0113】
また、有機EL素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を目的として、上記の発光材料中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。真空蒸着によって発光層を形成する場合、共蒸着によってドーピングを行い、溶液または分散液を塗布・乾燥することで発光層を形成する場合、溶液または分散液中に混合することでドーピングを行う。発光層中における色素化合物のドーピングの割合としては0.001重量%〜40重量%程度、好ましくは0.01重量%〜10重量%程度である。
このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはDCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(XI−1)〜(XI−4)が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
【化19】

【0115】
また、発光層5は、前記発光性材料単独で形成されていてもよいが、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に前記電荷輸送性ポリエーテルを1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成、もしくは前記発光性高分子中に前記電荷輸送性ポリエーテル以外の電荷輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。
また、前記電荷輸送性高分子が発光特性も兼ね備えたものである場合、発光材料として用いても良く、その場合、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に前記電荷輸送性ポリエーテル以外の電荷輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。
【0116】
図4に示される有機EL素子の層構成の場合、電荷輸送能を有する発光層7は、例えば、目的に応じて機能(正孔輸送能、或いは電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエーテル中に、発光材料として前記発光材料(X−1)〜(X−17)を50重量%以下分散させた材料からなるものであることが好ましい。この場合、有機EL素子に注入されるホールと電子とのバランスを調節するために前記電荷輸送性ポリエーテル以外の電荷輸送材料を10重量%〜50重量%分散させてもよい。
【0117】
このような電荷輸送材料としては、電子移動度を調節する場合、電子輸送材料として好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、上記化合物(VIII−1)〜(VIII−3)が挙げられる。また、前記電荷輸送性ポリエーテルと強い電子相互作用を示さない有機化合物が用いられることが好ましく、より好ましくは下記化合物(XII)が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0118】
【化20】

【0119】
同様に正孔移動度を調節する場合、正孔輸送材料として好適にはテトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等、特に好適な具体例として上記化合物(IX−1)〜(IX−6)が挙げられるが、電荷輸送性ポリエーテルとの相容性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。
【0120】
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、背面電極8には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が使用されるが、特に好ましくはマグネシウム、アルミニウム、銀、インジウムおよびこれらの合金、もしくフッ化リチウムや酸化リチウム等の金属ハロゲン化合物や金属酸化物である。
【0121】
また、背面電極8上には、さらに素子の水分や酸素による劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Alなどの金属、MgO、SIO2、TIO2棟の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法が適用できる。
【0122】
これら図1〜図4に示される有機EL素子の作製は、以下の手順で行われる、まず透明絶縁体基板1上に予め形成された透明電極2の上にバッファ層3を形成する。バッファ層3は、既述した材料を用いて真空蒸着法により形成したり、あるいは、この材料を有機溶媒中に溶解或いは分散させて得られた塗布液を用いて透明電極2上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて成膜することにより形成することができる。
【0123】
次に、各有機EL素子の層構成に応じて、バッファ層3上に、正孔輸送層4、発光層5、または、電荷輸送能を有する発光層7を形成する。さらに、これらの層の上に、各有機EL素子の層構成に応じて、さらに各層を順次積層する。
なお、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6および電荷輸送能を有する発光層7は、上述したようにこれら各層を構成する材料を真空蒸着法を用いて形成したり、この材料を有機溶媒中に溶解或いは分散させて得られた塗布液を用いてスピンコーティング法、ディップ法等を用いて成膜することによって形成される。
【0124】
形成される正孔輸送層4、発光層5及び電子輸送層6の膜厚は、各々0.1μm以下、特に0.03〜0.08μmの範囲であることが好ましい。また、電荷輸送能を有する発光層7の膜厚は、0.03〜0.2μm程度が好ましい。
上記各材料(前記電荷輸送性ポリエーテル、発光材料等)の分散状態は分子分散状態でも微粒子分散状態でも構わない。塗布液を用いた成膜法の場合、分子分散状態とするためには、分散溶媒は上記各材料の共通溶媒を用いる必要があり、微粒子分散状態とするために分散溶媒は上記各材料の分散性及び溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ホモジェナイザー、超音波法等が利用できる。
そして、最後に、発光層5、電子輸送層6または電荷輸送能を有する発光層7の上に背面電極8を真空蒸着法により形成することにより図1〜4に示すような有機EL素子を得ることができる。
【0125】
このような本発明の有機EL素子は、一対の陽極及び陰極からなる電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度1〜200mA/cm2の直流電圧を印加することによって発光させることができる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例によって本発明を説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
(実施例1)
バッファ層用材料として電荷輸送性高分子〔下記例示化合物(XIII)〕(イオン化ポテンシャル=5.0eV、Mw=6.98×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用いて、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した。十分に乾燥させた後、発光材料として下記例示化合物(XIV)(ポリフルオレン系)(Mw≒105)5重量%と併せて正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル〔下記例示化合物(XV)〕(Mw=8.65×104)を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、バッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した。さらに十分乾燥させた後、電子輸送性材料として、電荷輸送性ポリエーテル〔下記例示化合物(XVI)〕(Mw=7.20×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0128】
【化21】

【0129】
【化22】

【0130】
【化23】

【0131】
【化24】

【0132】
(実施例2)
バッファ層用材料として電荷輸送性高分子〔前記例示化合物(XIII)〕(イオン化ポテンシャル=5.0eV、Mw=6.98×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用いて、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した。十分に乾燥させた後、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル〔前記例示化合物(XV)〕(Mw=8.65×104)を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後、バッファ層上にスピンコート法により塗布して、膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、発光材料として昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(X−1)〕をタングステンボードに入れ、真空蒸着法により蒸着して、正孔輸送層上に膜厚0.05μmの発光層を形成した。この時の真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃であった。さらに、電子輸送性材料として、電荷輸送性ポリエーテル〔前記例示化合物(XVI)〕(Mw=7.20×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0133】
(実施例3)
バッファ層用材料として電荷輸送性高分子〔イオン化ポテンシャル=5.0eV、前記例示化合物(XIII)〕(Mw=6.98×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用いて、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した。十分に乾燥させた後、正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル〔下記例示化合物(XV)〕(Mw=8.65×104)を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後、バッファ層上にスピンコート法により塗布して、膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、発光材料として昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(X−1)〕をタングステンボードに入れ、真空蒸着法により蒸着して、正孔輸送層上に膜厚0.05μmの発光層を形成した。この時の真空度は10−5Torr、ボート温度は300℃であった。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0134】
(実施例4)
バッファ層用材料として電荷輸送性高分子〔前記例示化合物(XIII)〕(イオン化ポテンシャル=5.0eV、Mw=6.98×104)を5重量%ジクロロエタン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用いて、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した。十分に乾燥させた後、電荷輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル〔前記例示化合物(XVI)〕(Mw=8.65×104)を0.5重量部と発光性高分子として下記例示化合物(XVII)(PPV系)を0.1重量部混合し、10重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過し、バッファ層上にスピンコート法により塗布して、膜厚0.05μmの電荷輸送能を持つ発光層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0135】
【化25】

【0136】
(実施例5)
バッファ層としてバイトロン(Baytron)P(バイエル株式会社製:ポリエチレンジオキサイドチオフェン〔下記例示化合物(III)イオン化ポテンシャル=5.1〜5.2eV、〕とポリスチレンスルホン酸とのポリマー混合水分散液)を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0137】
(実施例6)
バッファ層としてバイトロン(Baytron)P(バイエル株式会社製:ポリエチレンジオキサイドチオフェン〔前記例示化合物(III)イオン化ポテンシャル=5.1〜5.2eV、〕とポリスチレンスルホン酸とのポリマー混合水分散液)を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例2と同様にして素子を作製した。
【0138】
(実施例7)
バッファ層としてバイトロン(Baytron)P(バイエル株式会社製:ポリエチレンジオキサイドチオフェン〔前記例示化合物(III)イオン化ポテンシャル=5.1〜5.2eV、〕とポリスチレンスルホン酸とのポリマー混合水分散液)を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0139】
(実施例8)
バッファ層としてバイトロン(Baytron)P(バイエル株式会社製:ポリエチレンジオキサイドチオフェン〔前記例示化合物(III)イオン化ポテンシャル=5.1〜5.2eV、〕とポリスチレンスルホン酸とのポリマー混合水分散液)を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例4と同様にして素子を作製した。
【0140】
(実施例9)
バッファ層として下記例示化合物(XVIII)〔MTDATA(4,4',4"−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、イオン化ポテンシャル=5.1eV、前記例示化合物(IV)に基づく化合物〕で示される電荷輸送性材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0141】
【化26】

【0142】
(実施例10)
バッファ層として前記例示化合物(XVIII)〔MTDATA(4,4',4"−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、イオン化ポテンシャル=5.1eV、前記例示化合物(IV)に基づく化合物〕で示される電荷輸送性材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例2と同様にして素子を作製した。
【0143】
(実施例11)
バッファ層として前記例示化合物(XVIII)〔MTDATA(4,4',4"−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、イオン化ポテンシャル=5.1eV、前記例示化合物(IV)に基づく化合物〕で示される電荷輸送性材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0144】
(実施例12)
バッファ層として前記例示化合物(XVIII)〔MTDATA(4,4',4"−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、イオン化ポテンシャル=5.1eV、前記例示化合物(IV)に基づく化合物〕で示される電荷輸送性材料を5重量%クロロベンゼン溶液として調整し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した。この溶液を用い、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコート法により塗布して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例4と同様にして素子を作製した。
【0145】
(実施例13)
バッファ層として前記例示化合物(V)で示される電荷輸送性材料(イオン化ポテンシャル=4.8eV)を、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、真空蒸着法により蒸着して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0146】
(実施例14)
バッファ層として前記例示化合物(V)で示される電荷輸送性材料(イオン化ポテンシャル=4.8eV)を、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、真空蒸着法により蒸着して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例2と同様にして素子を作製した。
【0147】
(実施例15)
バッファ層として前記例示化合物(V)で示される電荷輸送性材料(イオン化ポテンシャル=4.8eV)を、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、真空蒸着法により蒸着して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0148】
(実施例16)
バッファ層として前記例示化合物(V)で示される電荷輸送性材料(イオン化ポテンシャル=4.8eV)を、洗浄後乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、真空蒸着法により蒸着して膜厚0.05μmのバッファ層を形成した以外は、実施例4と同様にして素子を作製した。
【0149】
(比較例1)
バッファ層を形成せず、ITO電極を形成したガラス基板上に直接発光層からの形成を行った以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0150】
(比較例2)
バッファ層を形成せず、ITO電極を形成したガラス基板上に直接正孔輸送層からの形成を行った以外は、実施例2と同様にして素子を作製した。
【0151】
(比較例3)
バッファ層を形成せず、ITO電極を形成したガラス基板上に直接正孔輸送層からの形成を行った以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0152】
(比較例4)
バッファ層を形成せず、ITO電極を形成したガラス基板上に直接電荷輸送能をもつ発光層からの形成を行った以外は、実施例4と同様にして素子を作製した。
【0153】
(比較例5)
発光層中の正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]を用いたところを、下記例示化合物(XIX)のビニル骨格を有する電荷輸送性高分子〔Mw=5.46×104(スチレン換算)〕に変更し、併せて電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XVI)]の代わりに、昇華精製したオキサジアゾール誘導体[上記例示化合物(VIII−1)]を用いて、タングステンボードに入れ、真空蒸着法により蒸着して(蒸着時の真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃であった。)、発光層上に膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0154】
【化27】

【0155】
(比較例6)
正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル(XV)を用いたところを、上記例示化合物(XIX)のビニル骨格を有する電荷輸送性高分子〔Mw=5.46×104(スチレン換算)〕に変更した以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0156】
(比較例7)
正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]を用いたところを、下記例示化合物(XX)のポリカーボネート骨格を有する電荷輸送性高分子〔Mw=7.83×104(スチレン換算)〕に変更した以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0157】
【化28】

【0158】
(比較例8)
正孔輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]の代わりに、ビニル骨格を有する電荷輸送性高分子〔上記例示化合物(XIX)、Mw=5.46×104(スチレン換算)〕を用いてバッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成し、併せて電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XVI)]の代わりに、昇華精製したオキサジアゾール誘導体(上記例示化合物(VIII−1))を用いてこれをタングステンボードに入れて真空蒸着法により蒸着して(蒸着時の真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃であった。)、発光層上に膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した以外は、実施例6と同様にして素子を作製した。
【0159】
(比較例9)
正孔輸送性材料として、電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]の代わりに、ビニル骨格を有する電荷輸送性高分子〔上記例示化合物(XIX)、Mw=5.46×104(スチレン換算)〕を用いバッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成し、併せて電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]の代わりに、昇華精製したオキサジアゾール誘導体(例示化合物(VIII−1))を用いてこれをタングステンボードに入れて真空蒸着法により蒸着して(蒸着時の真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃であった。)、発光層上に膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した以外は、実施例10と同様にして素子を作製した。
【0160】
(比較例10)
正孔輸送性材料として、電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XV)]の代わりに、ポリカーボネート骨格を有する電荷輸送性高分子〔上記例示化合物(XX)、Mw=7.83×104(スチレン換算)〕を用いバッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成し、併せて電子輸送性材料として電荷輸送性ポリエーテル[上記例示化合物(XVI)]の代わりに、昇華精製したオキサジアゾール誘導体(例示化合物(VIII−1))を用いてこれをタングステンボードに入れて真空蒸着法により蒸着して(蒸着時の真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃であった。)、発光層上に膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した以外は、実施例14と同様にして素子を作製した。
【0161】
(評価)
以上のように作製した有機EL素子を、真空中(133.3×10-3Pa(10-5Torr))でITO電極側をプラス、Mg−Ag背面電極をマイナスとして直流電圧を印加して発光させた際の立ち上がり電圧、最高輝度、および、最高輝度時の駆動電流密度を評価した。それらの結果を表1に示す。
また、乾燥窒素中で有機EL素子の発光寿命の測定を行った。発光寿命の評価は、初期輝度が50cd/m2となるように電流値を設定し、定電流駆動により輝度が初期値から半減するまでの時間を素子寿命(hour)とした。この時の素子寿命も表1に示す。
【0162】
【表1】

【0163】
表1からわかるように、実施例に示す本発明の有機EL素子は、有機EL素子に好適なイオン化ポテンシャルおよび電荷移動度を持つ電荷輸送性高分子として一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し構造単位からなる電荷輸送性ポリエーテルを適用し、さらに、陽極(ITO電極)と接して電荷注入性を有するバッファ層を形成することにより電荷の注入性や電荷バランスが改善され、バッファ層を設けなかった比較例1〜4、また上記電荷輸送性ポリエーテルとは異なる電荷輸送性化合物を用いた比較例5〜6の有機EL素子よりもより安定的で高輝度、高効率な特性を示すことがわかった。
また、実施例1および3と、比較例5〜6との比較からわかるようにブリードの原因となる低分子成分を含まないバッファ層を設けた場合においても、電子輸送層や正孔輸送層として本発明に用いられる電荷輸送性ポリエーテルを用いた実施例1、3の方が、素子寿命や発光輝度が優れていることがわかった。
さらに、実施例6,10,14と、比較例7〜9とのブリードの原因となる低分子成分を含むバッファ層を設けた場合においては、バッファ層上に設けられる電子輸送層や正孔輸送層として本発明に用いられる電荷輸送性ポリエーテルを用いた実施例5,9,13の方が、より素子寿命や発光輝度が優れていることがわかった。これは、バッファ層からのブリードがバッファ層上に設けられる層に含まれる電荷輸送性ポリエーテルの存在によって抑制されたためであると考えられる。加えて、いずれの実施例においても成膜時のピンホールや剥離欠陥も発生しないことがわかった。
さらに、本発明の有機EL素子は、その作製に際してスピンコーティング法やディップ法等を用いて良好な薄膜を形成することができるため、ピンホール等の不良も少なく、大面積化容易であり、優れた耐久性と発光特性とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明における有機電界発光素子の一例を示した模式的断面図である。
【図2】本発明における有機電界発光素子の他の一例を示した模式的断面図である。
【図3】本発明における有機電界発光素子の他の一例を示した模式的断面図である。
【図4】本発明における有機電界発光素子の他の一例を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1… 透明絶縁体基板
2… 透明電極
3… バッファ層
4… 正孔輸送層
5… 発光層
6… 電子輸送層
7… キャリア輸送能を持つ発光層
8… 背面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間に挾持された有機化合物層より構成され、前記有機化合物層が、発光層およびバッファ層を少なくとも含む2以上の層からなり、
前記有機化合物層の少なくとも一層が少なくとも1種の前記電荷輸送性ポリエーテルを含有し、前記電荷輸送性ポリエーテルが下記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有してなり、
前記バッファ層が、前記陽極と接して設けられ、且つ、1種以上の電荷注入材料を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

〔一般式(I−1)および(I−2)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基又は炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、m、kはそれぞれ独立に0または1を表す。〕
【請求項2】
前記電荷注入材料の少なくとも1種のイオン化ポテンシャルが、5.2eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(II−1)〜(II−4)で示される構造単位から選択される少なくとも1種を有する電荷輸送性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】

(一般式(II−1)〜(II−4)中、Arは置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、m、lはそれぞれ独立に0または1を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素又は炭素数2〜10の分枝状炭化水素を表す。)
【請求項4】
前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(III)で示される構造単位を有する電荷輸送性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化3】

(一般式(III)中、nは100〜10000の範囲内の整数を表す。)
【請求項5】
前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記一般式(IV)で示される電荷輸送性材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化4】

(一般式(IV)中、Arは置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の1−ナフチル基、又は、置換もしくは未置換の2−ナフチル基を表す。)
【請求項6】
前記電荷注入材料の少なくとも1種が、下記構造式(V)で示される電荷輸送性材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化5】

【請求項7】
前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、および、電子輸送層から構成され、
前記発光層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記発光層との間に、前記バッファ層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、正孔輸送層、及び、電子輸送層から構成され、
前記正孔輸送層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記正孔輸送層との間に、前記バッファ層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記有機化合物層が、少なくとも前記発光層、前記バッファ層、および、正孔輸送層から構成され、
前記正孔輸送層及び前記発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記正孔輸送層との間に、バッファ層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記有機化合物層が、前記発光層および前記バッファ層のみから構成され、前記発光層が電荷輸送能を有する発光層であり、
前記電荷輸送能を有する発光層が、前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルを少なくとも1種含有し、
前記陽極と前記電荷輸送能を有する発光層との間に、バッファ層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記電荷輸送能を有する発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエーテルが、下記一般式(VI)で示される電荷輸送性ポリエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化6】

〔一般式(VI)中、Aは上記一般式(I−1)および(I−2)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、pは3〜5000の整数を表す。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−73969(P2006−73969A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259071(P2004−259071)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】