説明

有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置

【課題】 オーバーコート層表面上の異物や突起などの微細な凹凸を低減することで、パッシベーション層のカバレッジ不良が改善され、有機EL層への残留ガスや水分の拡散に起因する表示欠陥などの発生を防ぐことができる有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 透明な基板13上に色変換フィルター層11、12を形成し、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層14を形成した後、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤20の蒸気雰囲気中に、このオーバーコート層の表面を暴露して表面の平坦化を行い、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成することで、有機ELディスプレイを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換フィルター層を備えた多色発光の有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、色変換フィルター層を備えた有機ELディスプレイの一例を概略的に示す断面図である。有機ELディスプレイの色変換フィルター層11R、11G、12R、12G、12Bは、色変換フィルター層に用いる蛍光色素の濃度を高くすると濃度消光を起こすため、厚さが10〜15μm必要である。そのため各色の色変換フィルター層の間を埋めて平坦化するためのオーバーコート層14が必要である。
【0003】
オーバーコート層14の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂(特開平1−229203号公報)、アクリレート系またはメタクリレート系の反応性ビニル基を有する光硬化型または熱硬化型の有機高分子樹脂もしくはフォトレジスト(特開平6−300910号公報、特開平7−128519号公報、特開平8−279394号公報)、イミド変性シリコーン樹脂(特開平5−134112号公報、特開平7−218717号公報、特開平7−306311号公報)、紫外線硬化型樹脂としてエポキシ変性アクリレート樹脂(特開平7−48424号公報)、フッ素系樹脂(特開平5−36475号公報、特開平9−330793号公報)を用いることが提案されている。また、ストレートシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂を用いてオーバーコート層14自体をハードコート層として機械的信頼性や耐熱性を向上する改良が提案されている(特開2000−182780号公報、特開2000−91070号公報)。
【0004】
一方、特開2004−281251号公報には、有機EL装置の寿命を長くするために、有機EL層18の表面を有機溶剤に暴露することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−279394号公報
【特許文献2】特開2000−182780号公報
【特許文献3】特開2004−281251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色変換フィルター層11、12は、色素分子やマトリクス材料の耐熱性が低く、熱により色変換特性が低下するため、オーバーコート層14のベイク温度を200℃以下にする必要がある。そのため、200℃を越える高温で硬化するようなポリイミドをはじめとする高温硬化型樹脂の使用は問題がある。一方、(メタ)アクリレート系やシリコーン系などの熱硬化型樹脂では、200℃以下のベイク温度でも硬化が可能であるが、このような低温で硬化させた場合、オーバーコート層14中に有機溶剤ガスや水分が残留する。この残留ガスや水分が有機EL層18に拡散すると、アモルファス状の構成膜に結晶化が起こり、非発光部分が生じて劣化や表示欠陥の原因になるという問題がある。この問題は光硬化型樹脂を用いた場合でも同様である。
【0006】
そこで、オーバーコート層14上にパッシベーション層16を形成することで、有機EL層18への残留ガスや水分の拡散を遮断している。パッシベーション層16は、シリコン酸化物や酸窒化物をスパッタや低温CVD法により薄膜化して形成するため、残留ガスや水分に対するバリア性が高い(特開2003−229271号公報にはパッシベーション層を真空中で行うことが開示されている)。ところが、オーバーコート層14の表面上にパーティクルや現像残渣などの異物、微細な凹凸、特に突起があると、パッシベーション層16でこれらの微細な凹凸等をカバーすることができず、カバレッジ不良が発生してガスバリア性が低下し、有機EL層18中に残留ガスや水分の拡散が進行し、劣化や表示欠陥などの不具合が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、オーバーコート層表面上の異物や突起などの微細な凹凸を低減することで、パッシベーション層のカバレッジ不良が改善され、有機EL層への残留ガスや水分の拡散に起因する表示欠陥などの発生を防ぐことができる有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る有機ELディスプレイの製造方法は、透明な基板上に色変換フィルター層を形成する工程と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する工程と、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中に、このオーバーコート層の表面を暴露して表面の平坦化を行う工程と、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
前記オーバーコート層の形成工程としては、前記オーバーコート層の主成分である硬化型樹脂と、前記溶剤とを含有する塗布液を用いて前記基板上に塗布することを含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明は、別の態様として、有機ELディスプレイであり、透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層であって、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中にその表面が暴露されることにより表面が平坦化されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含むことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、別の態様として、有機ELディスプレイの製造装置であって、透明な基板上に色変換フィルター層を形成する手段と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する手段と、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中に、このオーバーコート層の表面を暴露して表面の平坦化を行う密閉チャンバーと、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようにオーバーコート層の表面を溶剤に暴露することで、オーバーコート層の表面部が一旦溶解し、表面上のパーティクルや現像残渣などの異物、異常突起などの微小な凹凸がオーバーコート層内に埋没するか又は溶けて滑らかになる。すなわち、パッシベーション層でカバレッジできないような凹凸等がなくなることから、パッシベーション層のガスバリア性は飛躍的に向上する。したがって、下部層からの残留ガスや水分は、パッシベーション層で遮断され、有機EL層へ拡散することがないので、これに起因する劣化や表示欠陥などの不具合を解消することができる。
【0013】
なお、オーバーコート層を溶剤に暴露することで、オーバーコート層の表面と同様に、微小な異物が多いオーバーコート層の端面のテーパー部も滑らかになる。これにより、オーバーコート層上に形成されるパッシベーション層の剥離やパッシベーション層上に形成される陽極電極等の断線も防止することができる。したがって、本発明によれば、製造歩留りが高く、長期安定して駆動ができる信頼性の高い有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る有機ELディスプレイ並びにその製造方法および製造装置の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る有機ELディスプレイの構造の一例を概略的示す断面図である。
【0015】
(1.基板)
基板13としては、色変換フィルター層11、12によって変換された光に対して透明であることが必要である。また、基板13は、色変換フィルター層11、12、ブラックマスク(図示省略)、オーバーコート層14および隔壁層(図示省略)の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。基板13は、波長400〜800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。
【0016】
基板13の材料としては、ガラスの他、ポリエチレンテレフタレートやポリメチルメタクリレート等の樹脂が好ましい。ガラスの中では、ホウケイ酸ガラスや青板ガラス等が特に好ましい。
【0017】
(2.色変換フィルター層)
本明細書において、色変換フィルター層とは、蛍光変換層11および/またはカラーフィルター層12の積層体の総称である。蛍光変換層11は、有機EL層18にて発光される近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を蛍光として発光するものである。フルカラー表示を可能にするためには、少なくとも青色(B)領域、緑色(G)領域および赤色(R)領域の光を放出する独立した色変換フィルター層が設けられる。RGBそれぞれの蛍光変換層11は、少なくとも有機蛍光色素とマトリクス樹脂とを含む。
【0018】
(2−A.有機蛍光色素)
少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素を1種類以上用いることが好ましく、さらにこれと緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上とを組み合わせてもよい。これは、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL層18を用いる場合、有機EL層18からの光を単なる赤色フィルターに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまうからである。
【0019】
したがって、有機EL層18からの青色ないし青緑色領域の光を、蛍光色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0020】
発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)等のクマリン系色素、もしくはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、またはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0021】
青色領域の光に関しては、有機EL層18からの発光を単なる青色フィルター12Bに通して出力させることが可能である。
【0022】
なお、有機蛍光色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機蛍光顔料としてもよい(本明細書では、このように顔料化したものも有機蛍光色素と総称する)。また、これらの有機蛍光色素は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
蛍光変換層11は、蛍光変換層11の重量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%の有機蛍光色素を含有する。この範囲の含有量で有機蛍光色素を用いることにより、濃度消光などの硬化による色変換効率を伴うことなしに、充分な波長変換を行うことが可能となる。
【0024】
(2−B.マトリクス樹脂)
マトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を、光および/または熱処理してラジカル種またはイオン種を発生させ、重合または架橋して不溶不融化したものである。また、蛍光変換層11のパターニングを行うために、この光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0025】
具体的には、マトリクス樹脂は、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を光または熱処理してナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどを含む。特に、(1)のアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと光または熱重合開始剤とからなる組成物を重合させたものが好ましい。なぜなら、この組成物は高精細なパターニングが可能であり、および重合した後は耐溶剤性、耐熱性等の信頼性が高いからである。
【0026】
本発明で用いることができる光重合開始剤、増感剤および酸発生剤は、含まれる蛍光変換色素が吸収しない波長の光によって重合を開始させるものであることが好ましい。蛍光変換層11において、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂中の樹脂自身が光または熱により重合することが可能である場合には、光重合開始剤および熱重合開始剤を添加しないことも可能である。
【0027】
(2−C.構成および形状)
蛍光変換層11は、有機蛍光色素、マトリクス樹脂および添加剤を含有する溶液または分散液を基板13上に塗布して樹脂の層を形成し、そして所望される部分の樹脂を露光することにより重合して形成する。所望の部分に露光を行って樹脂を不溶化させた後に、パターニングを行う。パターニングは、未露光部分の樹脂を溶解または分散する有機溶媒またはアルカリ溶液を用いて、未露光部分の樹脂を除去するなどの慣用の方法によって実施することができる。
【0028】
赤色領域に関しては、蛍光変換層11Rのみで形成してもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1に示すように、蛍光変換層11Rとカラーフィルター層12Rとの積層体としてもよい。カラーフィルター層12Rを併用する場合、カラーフィルター層12Rの厚さは1〜1.5μmであることが好ましい。
【0029】
緑色領域に関しても、蛍光変換層11Gのみで形成してもよいし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1に示すように、蛍光変換層11Gとカラーフィルター層12Gとの積層体としてもよい。カラーフィルター層12Gを併用する場合、カラーフィルター層12Gの厚さは1〜1.5μmであることが好ましい。あるいはまた、有機EL層18の発光が緑色領域の光を充分に含む場合には、カラーフィルター層12Gのみとしてもよい。カラーフィルター層12Gのみを用いる場合、その厚さは0.5〜10μmであることが好ましい。
【0030】
一方、青色領域に関しては、図1に示すように、カラーフィルター層12Bのみとすることができる。カラーフィルター層12Bのみを用いる場合、その厚さは0.5〜10μmであることが好ましい。カラーフィルター層12については各色、公知のカラーフィルターを使用することができる。
【0031】
なお、本発明は蛍光変換層11を具備しないカラーフィルター層12のみを適用した場合にも適用可能である。また、色変換フィルター層の形状は、よく知られているように各色ごとに分離したストライプパターンとしてもよいし、各画素のサブピクセルごとに分離させた構造を有してもよい。
【0032】
(3.オーバーコート層)
オーバーコート層14としては、可視域における透明性が高く(400〜700nmの範囲で透過率50%以上)、Tgが100℃以上で、表面硬度が鉛筆硬度で2H以上あり、色変換フィルター上にμmオーダーで塗膜を形成でき、色変換フィルターの機能を低下させないことが要求される。
【0033】
その他、オーバーコート層14には以下の機能が要求される。(1)蛍光体層のパターン侵食や機能性の失活を起こさないこと。(2)蛍光体層の段差を埋めることができ、視野角特性を良好に保つ、できるだけ薄い膜厚(数μm程度)の製膜が可能なこと。(3)光透過性がよいこと。(4)耐熱性があること。(5)表面が平滑であること。(6)基板やパッシベーション層との密着性が良好であること。(7)耐薬品性に優れていること。(8)防湿性に優れていること。(9)残留モノマーや溶剤などの脱ガスがないこと。(10)機械的強度を備えていること。(11)パターン端部になだらかなテーパーを有すること(後工程で上部に引き出し電極が形成されるため、この引き出しの断線を防ぐためパターン端部にはなだらかなテーパーが必要である)。(12)パターニングが可能なこと。(13)表面に微細な凹凸(1μm以下)、特に突起がないこと。
【0034】
オーバーコート層14としては、アクリレート系もしくはメタクリレート系の反応性ビニル基を有する熱硬化型もしくは光硬化型樹脂(フォトレジスト)、エポキシ変性アクリレート系の紫外線硬化型樹脂、フッ素樹脂、ストレートシリコーン系もしくは変性シリコーン系の熱硬化型樹脂などを用いることが好ましい。変性シリコーン系としては、イミド変性シリコーン等が好ましい。その他、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性あるいは4官能性のアルコキシシランを含むポリマーハイブリッド等も利用することができる。また、熱硬化型樹脂は、200℃以下で硬化する特性を有するものが好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0035】
オーバーコート層14の形成法としては、例えば、乾式法(スパッタ法、蒸着法、CVD法等)や湿式法(スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、フレキソ印刷法等)等の慣用の手法により形成できる。湿式法を用いる場合は、前記の硬化型樹脂と、後述する溶媒暴露処理に用いるこの樹脂を溶解する特性を有する溶剤とを含有する塗布液を用いることが好ましい。また、オーバーコート層14は単層でも複数層でもよい。
【0036】
基板13上の封止部および/または接続部(図示省略)には、オーバーコート層14を形成しないようにする必要がある。このため、感光性材料(フォトレジスト)を用いて慣用の手法により膜を基板13全面に形成し、その後にフォトリソグラフ法にて必要な形状を形成することが、もっとも簡便かつ精度の良好な方法である。但し、この場合、有機溶剤を含んだモノマーをフォトプロセスにより薄膜化し、露光、現像してベイクする工程を経るため、200℃以下のベイクでは膜中に有機溶剤ガスや水分が特に残留する。その他、フレキソ印刷法にて必要な形状に樹脂を塗布することでオーバーコート層14を形成することもできる。
【0037】
(3−A.溶剤暴露)
上記によりオーバーコート層14を形成した後、オーバーコート層14を溶剤に暴露する処理を行なう。図2は、溶剤暴露処理を行う密閉チャンバーの一例を概略的に示す断面図である。図2に示すように、この密閉チャンバー32の底面には、基板13を支持するための基板支持ピン31が複数配置されており、また側面には、基板13の出し入れをするための基板搬入扉33が設置されている。そして、チャンバー32内の底部には溶剤30が満たされ、密閉チャンバー32内は溶剤蒸気雰囲気となっている。
【0038】
溶剤30は、オーバーコート層14を溶解する特性を有するものであり、オーバーコート層14に用いた樹脂にあわせて選択することができる。例えば、(メタ)アクリレート系の樹脂の場合は、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DG)やプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等を用いることが好ましく、シリコーン系の樹脂の場合は、メタノールやアセトン等を用いることが好ましい。また、溶剤30は、後工程における溶剤除去の観点から、なるべく沸点が低いものが望ましく、例えば、50〜150℃の範囲のものが好ましい。
【0039】
密閉チャンバー32内には、オーバーコート層14を形成した基板13ごと入れて、オーバーコート層14の最表面が溶解する程度の時間にわたって溶剤に暴露する。暴露時間は樹脂および溶剤により異なるが、例えば、10〜60秒の範囲で十分である。
【0040】
図3は、溶剤に暴露する前後のオーバーコート層14の表面を模式的に示した断面図である。暴露前のオーバーコート層14の表面は、図3(a)に示すように、フォトレジストを現像した際の現像残渣やパーティクルなどのオーバーハング形状をもった異物34や、凹凸もしくは突起35が発生している。これらは、上記の溶剤暴露処理によって、異物34は溶剤中に溶け込むか、図3(b)に示すように、一部溶解した層14の最表面に埋没34aし、また突起35は潰れて平坦35aになる。
【0041】
なお、オーバーコート層14端部のテーパー部36は、パッシベーション層の剥離や引き出し電極等の断線を防止するため、基板13との接触角をできるだけ小さくして、なだらかな形状にする必要がある。図3(a)に示すように、暴露前のテーパー部36は、基板13との接触角が大きく、形状が弧状であるが、図3(b)に示すように、暴露前のテーパー部36aは、基板13との接触角が小さく、ほぼ直線状のなだらか形状となる。
【0042】
(3−B.乾燥およびポストベイク)
暴露処理に用いた溶剤をオーバーコート層14から除去するために、真空乾燥を行う。真空乾燥は、樹脂および溶剤の種類によるが、温度25〜50℃で0.5〜1時間の範囲で行うことが好ましい。なお、熱硬化型樹脂は、樹脂を塗布した後にポストベイクして硬化を行う必要があるが、樹脂および溶剤の種類によっては、硬化の後に溶剤暴露処理をしても樹脂表面が溶解しない場合がある。このような場合は、樹脂を塗布した後に溶剤暴露処理を行い、その後にポストベイクして硬化を行う。暴露処理後にポストベイクを行った場合は、ポストベイクにより溶剤が除去されるため、真空乾燥を省略できる。ポストベイクは、180〜200℃が好ましく、120〜150℃がより好ましい。
【0043】
(4)パッシベーション層
パッシベーション層16は、オーバーコート層14およびその下層からの水分やガスの透過を防止し、それらによる有機EL層18の機能低下を防止する目的で形成されるものである。よって、オーバーコート層14の表面に異常突起や残渣等の異物が存在するとパッシベーション層16のカバレッジが不十分な部分から下部層の溶剤や水分が有機EL層18まで拡散し、ダークスポットの発生等のパネル性能劣化につながる原因になる。
【0044】
パッシベーション層16は、有機EL層18の発光を色変換フィルター層へと透過させるために、その発光波長域において透明であることが好ましい。パッシベーション層16は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)、電気絶縁性を有し、水分、酸素および低分子成分に対するバリア性を有し、好ましくは2H以上の膜硬度を有する材料で形成される。例えば、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等の材料を使用できる。パッシベーション層16の形成法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法、ゾル−ゲル法等の慣用の手法により形成できる。
【0045】
(5)有機発光素子
有機発光素子は、陽極17、有機EL層18および陰極19の積層体の総称である。陽極17は、正孔の注入を効率よく行うために、仕事関数が大きい材料が用いられる。特に通常の有機EL素子では、陽極を通して光が放出されるために陽極が透明であることが要求され、ITO、IZO等の導電性金属酸化物が用いられる。
【0046】
陰極19には、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物が用いられる。その下に反射率の高いメタル電極(Al、Ag、Mo、Wなど)を用いてもよく、その場合には低抵抗化および反射による有機EL層18の発光の有効利用を図ることができる。
【0047】
本発明の色変換方式の有機ELディスプレイにおいては、有機EL層18から発せられる近紫外から可視領域の光、好ましくは青色から青緑色領域の光を色変換フィルター層に入射させて、所望の色を有する可視光を放出する。有機EL層18は、少なくとも有機EL発光層を含み、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有する。具体的には、下記のような層構成からなるものが採用される。
(a)有機EL発光層
(b)正孔注入層/有機EL発光層
(c)有機EL発光層/電子注入層
(d)正孔注入層/有機EL発光層/電子注入層
(e)正孔注入層/正孔輸送層/有機EL発光層/電子注入層
なお、上記において、陽極は有機EL発光層または正孔注入層に接続され、陰極は有機EL発光層または電子注入層に接続される。
【0048】
上記各層の材料としては、公知のものが使用される。青色から青緑色の発光を得るためには、有機EL発光層中に、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
ガラス基板上に、それぞれの厚さが1.5μmである赤色、緑色および青色のカラーフィルター層、およびそれぞれの厚さが10μmである赤色および緑色の蛍光変換層を積層し、色変換フィルター層を形成した。続いて、色変換フィルター層を平坦化するためにオーバーコート層を形成した。
【0050】
オーバーコート層としてアクリル系の塗布液(商品名:NN810、東京応化工業社製)を用い、先ずこれをスピンコートにより厚さ5μmに塗布し、通常のフォトリソグラフ法で現像、パターニングした後、ホットプレートにより200℃でポストベイクして、オーバーコート層を形成した。次に、このオーバーコート層を形成した基板ごと密閉チャンバー内に入れ、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、沸点146℃)を用い、溶剤蒸気雰囲気にて温度23℃で10秒間にわたり暴露して、オーバーコート層の最表面だけを溶解した。さらに、真空乾燥炉にて180℃で30分間にわたり乾燥を行った。
【0051】
オーバーコート層の表面を基板検査機およびSEM像で観察した結果、この表面には鋭敏な異常突起やカバレッジ不可能な異物はなく、滑らかな面であることが確認された。また、オーバーコート層端部のテーパー部も接触角の小さい、なだらかな形状であることが確認された。残留溶媒に関しては、サンプルを切り出し200℃まで昇温脱離分析(TDS)を行ったが、溶剤暴露処理をする前と同様に検出されなかった。
【0052】
真空乾燥をした基板を、パッシベーション層形成のためにスパッタ装置のロードロック室に格納し、マグネトロンスパッタ法でSiOxを300nm形成した。この上に陽極(IZO)を200nm形成し、フォトリソグラフ法で100μmピッチにパターニングを行った。
【0053】
次いで、陽極を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層は銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。有機発光層は4,4−ビス(2,2′−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入層はアルミキレート(Alq)を20nm積層した。
【0054】
そしてこの上に、陽極(ITO)のラインと垂直に幅0.30mm、空隙0.03mmギャップのストライプパターンが得られるマスクを用いて、厚さ200nmのMg/Ag(10:1の重量比率)層からなる陰極を、真空を破らずに形成した。
【0055】
こうして得られた有機発光素子をグローブボックス内の乾燥窒素雰囲気下において、封止ガラスとUV硬化接着剤を用いて封止した。そして、このようにして得られた有機ELディスプレイを評価した結果、オーバーコート層起因によるパッシベーション層の欠陥から生じるダークスポット(非発光部)の発生はなかった。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様にガラス基板上に色変換フィルター層を形成した後、次の通りにオーバーコート層を形成した。オーバーコート層としてシロキサン系の塗布液(KP854、信越化学工業社製)を用い、先ずこれをフレキソ印刷によりオーバーコート層のパターンに厚さ5μmで印刷した。KP854の暴露に用いる溶剤はメタノール(沸点:64.7℃)であり、乾燥性が速く、ポストベイク後は溶剤に対して安定している。そのためポストベイク前に、溶剤蒸気雰囲気の密閉型チャンバー内に23℃で15秒間暴露し、最表面だけを溶解した。その後ホットプレートにより150℃で加熱硬化した。
【0057】
なお、本実施例で用いたKP854は、80℃以上であれば硬化可能であるが、十分な脱ガス、脱水を行うため150℃で硬化させた。本実施例の場合はポストベイク前に溶剤暴露を行ったため、ポストベイク後の真空乾燥を行わなかった。しかし、実施例1と同様に昇温脱離分析(TDS)を行ったが、残留溶媒は検出されなかった。
【0058】
また、実施例1と同様にオーバーコート層の表面を基板検査機およびSEM像で観察したところ、パッシベーション層形成の際にカバレッジ不可能な突起や異物もなく、テーパー部もなだらか形状であることが確認された。そして、このオーバーコート層の上に、実施例1と同様にパッシベーション層および有機発光素子を形成した後、封止を行い、有機ELディスプレイを製造した。本実施例の有機ELディスプレイを評価した結果、オーバーコート層起因によるパッシベーション層の欠陥から生じるダークスポット(非発光部)の発生はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】有機ELディスプレイの一構造例を模式的に示す断面図である。
【図2】オーバーコート層の溶剤暴露処理に用いる密閉チャンバーの一例を示す模式図である。
【図3】オーバーコート層の表面状態を示す模式図であって、(a)は溶剤暴露前の表面状態、(b)は溶剤暴露後の表面状態である。
【符号の説明】
【0060】
11 蛍光変換層
12 カラーフィルター
13 基板
14 オーバーコート層
16 パッシベーション層
17 陽極
18 有機EL層
19 陰極
20 溶剤
21 基板支持ピン
22 密閉チャンバー
23 基板搬入扉
34 異物
35 突起
36 テーパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板上に色変換フィルター層を形成する工程と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する工程と、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中に、このオーバーコート層の表面を暴露して表面の平坦化を行う工程と、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する工程とを含む有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項2】
前記オーバーコート層の形成工程が、前記オーバーコート層の主成分である硬化型樹脂と、前記溶剤とを含有する塗布液を用いて前記基板上に塗布することを含む請求項1に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項3】
透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層であって、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中にその表面が暴露されて平坦化されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含む有機ELディスプレイ。
【請求項4】
透明な基板上に色変換フィルター層を形成する手段と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する手段と、このオーバーコート層を溶解する特性を有した溶剤の蒸気雰囲気中に、このオーバーコート層の表面を暴露して表面の平坦化を行う密閉チャンバーと、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する手段とを含む有機ELディスプレイの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−115608(P2007−115608A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307994(P2005−307994)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】