説明

有機ELディスプレイ及び有機ELディスプレイの製造方法

【課題】封止膜とシール剤との接着強度を向上し、封止膜とシール剤との剥離を防止する。
【解決手段】有機ELディスプレイ1は、素子基板11と、素子基板11の上に形成された有機EL素子12と、有機EL素子12を素子基板11との間に封止するように形成された封止膜13と、封止膜13の上にシール剤14を介して接着された封止部材15とを備える。封止膜13は、少なくともシール剤14との界面を形成する領域(界面形成領域)IRにおいて、水素プラズマを接触させる水素処理により、表面13aの水素含有量が内部13bよりも多くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイ及び有機ELディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイは、消費電力、応答性及び視野角等の点で液晶ディスプレイより優れているため、次世代のフラットパネルディスプレイの本命として期待されている。
【0003】
しかし、有機ELディスプレイには、ダークスポットと呼ばれる非発光点が時間の経過とともに拡大してゆくという問題を有している。このようなダークスポットの拡大は、有機ELディスプレイの発光部である有機EL素子の電極が、外部からの酸素や水蒸気の侵入により劣化することに起因している。
【0004】
このため、有機ELディスプレイでは、有機EL素子を封止し、有機EL素子への酸素や水蒸気の侵入を防止する必要がある。
【0005】
有機EL素子の封止には、有機EL素子が形成された素子基板にシール剤を介して封止部材を接着する方法(例えば、特許文献1参照)や、素子基板の上に形成された有機EL素子の上に封止膜を形成する方法(例えば、特許文献2参照)が従来より採用されている。
【0006】
あるいは、図2の有機ELディスプレイ9の断面図に示すように、素子基板91の上に形成された有機EL素子92を封止膜93で封止し、封止膜93の上にシール剤94を介して封止部材95を接着することも考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−71639号公報
【特許文献2】特開2005−100815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2の断面図で示す有機ELディスプレイ9では、封止膜93とシール剤94とが界面で剥離し、封止部材95の脱落や封止効果の低下を引き起こす場合があった。
【0009】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、素子基板の上に形成された有機EL素子を封止膜で封止し、当該封止膜の上にシール剤を介して封止部材を接着した有機EL素子において、封止膜とシール剤との接着強度を向上し、封止膜とシール剤との剥離を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、有機ELディスプレイであって、素子基板と、前記素子基板上に形成された有機EL素子と、前記有機EL素子を封止するように形成された封止膜と、前記封止膜上にシール剤を介して接着された封止部材とを備え、前記封止膜は、少なくとも前記シール剤との界面を形成する領域において、表面の水素含有量が内部よりも多くなっている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の有機ELディスプレイにおいて、前記封止膜が窒化ケイ素を主成分とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の有機ELディスプレイにおいて、前記シール剤がエポキシ樹脂を主成分とする。
【0013】
請求項4の発明は、有機ELディスプレイの製造方法であって、素子基板上に形成された有機EL素子を封止する封止膜を形成する封止膜形成工程と、前記封止膜の表面の、少なくとも後記シール剤との界面を形成する領域に水素プラズマを接触させる水素処理工程と、前記封止膜上にシール剤を介して封止部材を接着する封止部材接着工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、封止膜とシール剤との接着強度が向上するので、封止膜とシール剤とが剥離することを防止可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ1の断面構造を示す断面図である。なお、本発明は、素子基板11の側から光を取り出すボトムエミッション型の有機ELディスプレイ及び封止部材15の側から光を取り出すトップエミッション型の有機ELディスプレイのいずれにも適用可能であるが、以下では、ボトムエミッション型の有機ELディスプレイに本発明を適用した場合について説明する。
【0016】
図1に示すように、有機ELディスプレイ1は、素子基板11と、素子基板11の上に形成された有機EL素子12と、有機EL素子12を素子基板11との間に封止するように形成された封止膜13と、封止膜13の上にシール剤14を介して接着された封止部材15とを備える。
【0017】
素子基板11は、有機EL素子12を支持する矩形形状のガラス板である。素子基板11の材質としては、典型的には、絶縁性及び光透過性を有するガラスが採用されるが、プラスチック等を用いることも妨げられない。
【0018】
素子基板11の上の発光領域ERには、有機ELディスプレイ1の発光部となる有機EL素子12が形成される。有機EL素子12は、陽極、有機EL膜及び陰極を順次形成することにより得ることができる。
【0019】
陽極は、例えば、導電性及び光透過性を有するインジウムスズ酸化物(ITO;Indium Tin Oxide)を、素子基板11の上にスパッタ蒸着により形成することにより得られる。なお、素子基板11の上には、陽極とともに、有機EL素子12の各画素への電流の供給を制御するスイッチング用の薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)等が形成される(不図示)。
【0020】
有機EL膜は、発光層のみからなる単層型であってもよいし、発光層以外のホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等の機能層をも含む多層型であってもよい。この有機EL膜は、例えば、真空蒸着により形成される。有機EL膜の発光層としては、例えば、低分子系では、Alq3等のアルミニウム錯体を用いることができ、高分子系では、PPV等のπ共役ポリマーやPVK等の低分子色素含有ポリマーを用いることができる。
【0021】
陰極は、例えば、導電性を有するアルミニウム等の金属の真空蒸着により形成される。封止膜13、シール剤14及び封止部材15は、有機EL素子12への酸素や水蒸気の侵入を防止する。
【0022】
封止膜13は、有機EL素子12が形成される発光領域(素子基板11の中央部)ERと、有機EL素子12が形成されない非発光領域(素子基板11の端部)NERとにわたって有機EL素子12を覆うように形成された薄膜である。封止膜13の材質としては、望ましくは、ケイ素やアルミニウムの酸化物や窒化物に代表される無機物質が採用され、特に望ましくは、窒化ケイ素SiNxを主成分とする無機物質が採用される。封止膜13は、望ましくは、プラズマCVD法や熱CVD法等の化学的気相成長法又は真空蒸着やスパッタ蒸着法等の物理的気相成長法により成膜され、特に望ましくは、有機EL素子12が形成された素子基板11の温度を大幅に上昇させることがないプラズマCVD法により成膜される。
【0023】
この封止膜13は、少なくともシール剤14との界面を形成する領域(以下では、「界面形成領域」とも称する)IRにおいて、水素プラズマを接触させる水素処理により、表面13aの水素含有量が内部13bよりも多くなっている。ただし、このことは、界面形成領域IRのみならず、封止膜13の全面に対して水素処理を施すことを妨げるものではない。なお、封止膜13の形成をプラズマCVD法により行った場合、封止膜13の形成と水素処理とをプラズマCVD装置のチャンバーの中で連続して実行することができる。
【0024】
封止部材15は、素子基板11と略同一の大きさの矩形形状の部材である。封止部材15の材質としては、典型的には、ガラスや金属が用いられる。封止部材15として、凹凸を有する封止缶を用いてもよい。また、封止部材15に乾燥剤を塗布すれば、有機EL素子12への酸素や水蒸気の侵入をさらに有効に防止可能である。
【0025】
封止膜13と封止部材15とは、非発光領域NERにおいて、シール剤14を介して接着され、略平行に対向させられた状態となっている。シール剤14の材質としては、紫外線の照射により硬化する樹脂、望ましくは、エポキシ樹脂を主成分とするものを採用可能である。
【0026】
これらの封止膜13と封止部材15との間の間隙には、窒素ガスや希ガス等の不活性ガスが封入される。
【実施例】
【0027】
以下では、本発明の実施形態に係る実施例と、本発明の範囲外の比較例1〜比較例3とについて説明する。
【0028】
[実施例]
実施例では、シランガス(SiH4)及びアンモニアガス(NH3)を原料ガスとして用いたプラズマCVD法により、有機EL素子12が形成された素子基板11に窒化ケイ素SiNxの封止膜13を形成し、有機EL素子12を素子基板11との間に封止した。
【0029】
続いて、水素処理として、封止膜13の表面13aに水素プラズマを10秒間接触させた。しかる後に、窒素雰囲気下で、封止膜13の上にエポキシ樹脂のシール剤14を介してガラス板を封止部材15として紫外線照射により接着した。
【0030】
このようにして得られた有機ELディスプレイ1について、シール剤14の接着強度を測定したところ、4.0kgf(39.2N)であり、剥離モードはシール剤14のバルク破壊であった。
【0031】
[比較例1]
比較例1は、窒化ケイ素SiNxの封止膜13を形成することなく、窒素雰囲気下で、有機EL素子12が形成された素子基板11と封止部材15であるガラス板とをシール剤14を介して紫外線照射により接着した点が実施例と異なっている。このようにして得られた有機ELディスプレイについて、シール剤の接着強度を測定したところ、4.0kgf(39.2N)であり、剥離モードはシール剤14のバルク破壊であった。
【0032】
[比較例2]
比較例2は、封止膜13の表面13aに水素処理を行うことなく、窒素雰囲気下で、当該封止膜13の上にエポキシ樹脂のシール剤14を介してガラス板を封止部材15として紫外線照射により接着した点が実施例と異なっている。
【0033】
このようにして得られた有機ELディスプレイについて、シール剤の接着強度を測定したところ、2.5kgf(24.5N)であり、剥離モードは封止膜13とシール剤14との界面剥離であった。
【0034】
[比較例3]
比較例3は、封止膜13の表面13aに水素プラズマではなく、一酸化二窒素N2Oを10秒間接触させた点が実施例と異なっている。
【0035】
このようにして得られた有機ELディスプレイについて、シール剤14の接着強度を測定したところ、1.9kgf(13.6N)であり、剥離モードは封止膜13とシール剤14との界面剥離であった。
【0036】
実施例及び比較例1〜3から明らかなように、有機EL素子12が形成された素子基板11の上に封止膜13を形成すると、シール剤14の剥離が起こりやすくなる。特に、安定化等の目的で一酸化二窒素N2Oによる表面処理を封止膜13の表面13aに行った場合、シール剤14の剥離はさらに起こりやすくなる。これに対して、水素処理を封止膜13の表面13aに行った場合、シール剤14と封止膜13との接着強度を向上し、シール剤14と封止膜13との剥離を有効に防止可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係る有機ELディスプレイ1の断面構造を示す断面図である。
【図2】背景技術に係る有機ELディスプレイ9の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1,9 有機ELディスプレイ
11,91 素子基板
12,92 有機EL素子
13,93 封止膜
14,94 シール剤
15,95 封止部剤
IR 界面形成領域
ER 発光領域
NER 非発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ELディスプレイであって、
素子基板と、
前記素子基板上に形成された有機EL素子と、
前記有機EL素子を封止するように形成された封止膜と、
前記封止膜上にシール剤を介して接着された封止部材と、
を備え、
前記封止膜は、少なくとも前記シール剤との界面を形成する領域において、表面の水素含有量が内部よりも多くなっていることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機ELディスプレイにおいて、
前記封止膜が窒化ケイ素を主成分とすることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機ELディスプレイにおいて、
前記シール剤がエポキシ樹脂を主成分とすることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項4】
有機ELディスプレイの製造方法であって、
素子基板上に形成された有機EL素子を封止する封止膜を形成する封止膜形成工程と、
前記封止膜の表面の、少なくとも後記シール剤との界面を形成する領域に水素プラズマを接触させる水素処理工程と、
前記封止膜上にシール剤を介して封止部材を接着する封止部材接着工程と、
を備えることを特徴とする有機ELディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−59094(P2007−59094A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240125(P2005−240125)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】