説明

有機EL用電極

【課題】 高性能な陰極をえるには絶縁性電子注入層、低仕事関数の金属、低電気抵抗金
属の3回蒸着作業することが必要であり、製造工数、製造コストの点で難しいものであっ
た。3層とすると2箇所の膜接合界面ができることで、膜接合界面で発生する電気抵抗の
増加や剥れ等の問題があった。
【解決手段】 絶縁性電子注入層を形成したのち、1回の蒸着作業で蒸着初期が仕事関数
4以下の金属が主で蒸着終期が低電気抵抗の金属が主となる組成傾斜型の複合蒸着膜を形
成し陰極とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自発光の平面型ディスプレイの作製に好適な有機ELディスプレイの
電極に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラウン管(CRT)は、輝度が高く色再現性が良いことと安価であるため、現在ディ
スプレイとして最も多く使われている。しかし、奥行きが大きく、重く、また消費電力も
大きいという問題もあるため、軽量で高効率のフラットパネルディスプレイが盛んに研究
、開発されている。既にアクティブマトリックス駆動などの液晶ディスプレイが商品化さ
れているが、視野角が狭く、また、自発光でないため周囲が暗い環境下ではバックライト
が必要であり、その消費電力が大きいことや、今後実用化が期待されている高精細度の高
速ビデオ信号に対して十分な応答性能を有していない等の問題点がある。
【0003】
これらの諸課題を解決する可能性のあるフラットパネルディスプレイとして、最近、有
機発光材料を用いた有機電界発光素子(以下、有機EL素子もしくは単に有機ELと称す
る。)が注目されている。即ち、発光材料として有機層を用いることにより、自発光で、
応答速度が速く、視野角依存性のないフラットパネルディスプレイの実現が期待される。
【0004】
有機EL素子は透明基板(例えばガラス基板)上に、ITO(Indium tin
oxide)等の透明電極(陽極)、有機EL層、低仕事関数の膜の電子注入層とアルミ
ニウムからなる陰極を例えば真空蒸着法で順次成膜したものである。そして、陽極である
透明電極と陰極との間に直流電圧を選択的に印加することによって、透明電極から注入さ
れたキャリアとしてのホールと、陰極から注入された電子が電子注入層を経て移動し、電
子とホールの再結合が生じ、ここから所定波長の発光が生じ、透明基板の側から観察でき
る。
【0005】
電子注入電極材料つまり陰極材料に求められる特性としては、電子が出易いことである
。電子の出易さを示す物理特性として仕事関数が上げられ、アルミニウムの仕事関数4.
20〜4.28eVより、小さな値の材料が求められる。仕事関数の小さな金属は、主に
アルカリ金属とアルカリ土類金属で、仕事関数は4eV以下を示している。しかし、これ
らアルカリ金属とアルカリ土類金属は、活性度が高く空気中では直ぐに酸化や窒化される
ため油中保管が必要である等、取り扱いが非常に面倒なものである。
【0006】
特許文献1に、陰極材料に低仕事関数のリチウム(Li)を用いることが開示されてい
る。Liの仕事関数は約2.9である。陰極はインジウム(In)とリチウムの合金母材
を、抵抗加熱蒸着あるいは電子ビーム法で蒸発させて膜を形成する。In−Li合金領域
中のLi濃度は、陰極膜と有機層との界面から陰極膜の厚さ0Å以上10000Å以下の
合金領域範囲内に含まれるLiの濃度を0.01wt%以上0.1wt%以下に制御する
ことが好ましいと開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5―198380号 公報
【0008】
純金属以外の陰極材料として、特許文献2に、アルカリ金属とアルカリ土類金属の酸化
物、もしくはアルカリ金属とアルカリ土類金属の弗化物で、これらの化合物は、酸化リチ
ウムと弗化リチウム、弗化サマリウム、弗化マグネシウムであることが開示されている。
また、これらの化合物は絶縁性であるため、0.5〜10nmの厚さに形成することも開
示されている。
【0009】
【特許文献2】特開2001−203080号 公報
【0010】
非常に薄いアルカリ金属とアルカリ土類金属もしくはこれらの化合物の膜と、アルミニ
ウムを順次真空蒸着して、陰極を形成することが主流である。特に、弗化リチウム(Li
F)とアルミニウムの組合せが多く用いられている。絶縁材である弗化リチウムを厚く製
膜すると電流が流れなくなるため、数nmと非常に薄くする必要がある。このとき、薄い
膜であるためトンネル効果の様な感じで電流が流れるのか、膜厚が均一ではなく膜がアイ
ランド状になって、アイランド以外の部位はアルミニウムとなっているため、アルミニウ
ムの部分で電流が流れるかのいずれかもしくは両方の現象が起こっている可能性があるが
、本当の所は判っていない。よって、本願ではこの点は論議せず、略均一な薄い弗化リチ
ウムの膜が出来ているとして、説明をおこなう。
【0011】
特許文献3は本願の発明者が出願したものであり、金属の蒸気圧の差を利用して一回の
蒸着作業で、蒸着初期は仕事関数の小さい金属で、蒸着終期が電気抵抗の低い金属になる
組成傾斜型の膜および蒸着材が開示されている。組成傾斜型であるため、蒸着終期に用い
る金属はアルミニウム以外の、銅や銀、金も用いることができるものである。
【0012】
【特許文献3】特開2004−010918号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電気部品等の電極材として用いられる材料の比抵抗(単位10−6Ω・cm)は、金が
2.2や銀1.6、銅1.7とアルミニウムの2.7より小さく電気抵抗は小さいが、仕
事関数(単位eV)は金が5.0で銀が4.4、銅が4.3とアルミニウムの4.2より
大きい。金や銅は一般に言われる金色や銅色をしているため、有機EL素子から出た光の
金色や銅色が、強調されるため使用することは好ましくない。また、金や銀はアルミニウ
ムや銅に比べ値段が高い。これらのことから、弗化リチウムとアルミニウムの組合せが多
く用いられていると考えられる。種々の文献を見ても仕事関数の値は僅かであるが異なっ
ているので、本願では平均値的な値を用いている。
【0014】
弗化リチウム等の絶縁性電子注入層を製膜した後、アルミニウムより低仕事関数の金属
を薄く製膜した後、アルミニウムや銅、金、銀のいずれかを厚く製膜することで、より高
性能な陰極材ができるが、弗化リチウム等の絶縁性電子注入層、低仕事関数の金属、アル
ミニウムや銅、金、銀のいずれかの膜の3回蒸着作業することが必要となり、製造工数、
製造コストの点で難しいものであった。また、低仕事関数の金属であるアルカリ金属やア
ルカリ土類等の金属は取り扱いが難しいと言う問題もあった。更に、3回の蒸着作業を行
うと言う事は、第1層と第2層、第2層と第3層の2箇所の膜接合界面が出来ることとな
る。膜接合界面の数が多いと、膜接合界面で発生する電気抵抗の増加や剥れ等の問題もあ
る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の有機EL用電極は、陽極と有機EL層、陰極が積層された有機ELであって、
有機EL層の上に絶縁性電子注入層Aと、1回の蒸着作業で蒸着初期が仕事関数4以下の
金属Bが主で蒸着終期が低電気抵抗の金属Cが主となる組成傾斜型の蒸着膜を形成し、陰
極とすることが好ましい。
【0016】
本発明の有機EL用陰極の、絶縁性電子注入層Aは0.5〜5nmの厚みで、少なくと
もアルカリ金属の酸化物、弗化物もしくはアルカリ土類金属の酸化物、弗化物であること
が好ましい。酸化リチウムと酸化セシウム、弗化セシウム、弗化リチウム、弗化サマリウ
ム、弗化マグネシウムから選ばれることが好ましく、弗化リチウムと酸化セシウムがより
望ましいものである。
【0017】
絶縁性電子注入層Aは0.5〜5nmの厚みと非常に薄く製作するため、膜はアイラン
ド状となっていても良いものである。有機EL層の陰極面全域に絶縁性電子注入層Aを厚
く形成すると電流が流れなくなるため、薄く形成することが重要である。そのため、絶縁
性電子注入層Aの厚みは0.5〜5nmの範囲が好ましいものである。
【0018】
本発明の有機EL用陰極の、1回の蒸着作業で蒸着初期に蒸着される金属Bは、仕事関
数が4以下で銀より高蒸気圧である、マンガン、マグネシウム、リチウム、カルシウム、
バリウム、ストロンチウム、ナトリウムから選ばれる金属であり、1回の蒸着作業で蒸着
終期に蒸着される金属Cは、銀、アルミニウム、銅、金のいずれかもしくはこれらの合金
であることが望ましい。
【0019】
種々の文献を見ても仕事関数の値は僅かであるが異なっているので、本願では平均値的
な値を用いている。銀より高蒸気圧で仕事関数が4以下の金属は、マンガン(Mn)が3
.83でマグネシウム(Mg)3.63、リチウム(Li)2.91、カルシウム(Ca
)2.75、バリウム(Ba)2.71、ストロンチウム(Sr)2.61、ナトリウム
(Na)2.34である。仕事関数がこれらより小さい金属として、セシウム(Cs)2
.02やカリウム(K)2.01、ルビジウム(Rb)2.0があげられるが、これらの
金属は融点が低く一番高いカリウムでも63.5℃しかない。このため、複合真空蒸着材
の製造で熔けてしまうことが考えられるので、使用することは難しいものである。
【0020】
同一の真空度において低温で蒸発する金属を高蒸気圧の金属と言い、高温にしなければ
蒸発しない金属を低蒸気圧の金属という。例えば銀とマグネシウムを比較した場合、同一
の真空度であればマグネシウムの方が低温で蒸発するので高蒸気圧、銀はマグネシウムよ
り高温にしないと蒸発しないので低蒸気圧と言える。つまり、同一真空度ではマグネシウ
ム、銀の順で蒸発に必要な温度が高くなると言える。
【0021】
用いる複合蒸着材は、略円筒形状の外装部と筒の中に入る軸部からなっている。外装部
は蒸着終期の主たる組成となる低電気抵抗の金属Cで、軸部は蒸着初期の主たる組成とな
る仕事関数4以下の金属Bである。軸部の金属Bは棒材でも粉末でも良いものである。軸
部に金属Bの粉末を使用した場合で、例えばアルミニウム外装部とマグネシウム粉末軸部
の組合せの様に、線引き加工で外装部と軸部の粉末が一体になる場合は、アルミニウムパ
イプにマグネシウム粉末を充填し線引き加工して製作することができる。例えばアルミニ
ウム外装部とマンガン粉末の軸部に組合せの場合は、冷間線引きしてもアルミニウムパイ
プとマンガンは一体にならない。この様な場合は、外装部に用いた金属Cの粉末とマンガ
ン粉末を混合し、混合粉をアルミニウムパイプに充填して冷間線引きすることで、外装部
と軸部が一体となった複合上蒸着材を得ることができる。本願の外装部に用いる金属は何
れも、延性や展性に富む比較的柔らかい金属であるため、混合粉末を形成することができ
るものである。
【0022】
有機EL層上に、弗化リチウム等の絶縁性電子注入層Aを0.5〜5nm厚で真空蒸着
した後、1回の蒸着作業で蒸着初期が仕事関数4以下の金属Bが主で蒸着終期が低電気抵
抗の金属Cが主となる組成傾斜型の膜を形成することで、高電流密度の陰極を製作するこ
とができる。低電気抵抗の金属Cに比べ、仕事関数4以下の金属Bの電気抵抗は大きいた
め、金属Bの膜厚はでき得る限り薄くすることが好ましい。金属Bと金属Cの比率は、原
子(%)で0.5〜2(%)が好ましい。金属Bと金属Cの重量比では、0.5〜6(%
)が目安である。
【発明の効果】
【0023】
弗化リチウム等の絶縁性電子注入層を製膜した後、一回の蒸着作業で蒸着初期面が低仕
事関数の金属が主で、蒸着終期面が低電気抵抗の金属が主となる組成傾斜膜を形成するこ
とで、蒸着作業回数を減らすことができ、低仕事関数の金属Bと低電気抵抗の金属Cの膜
接合界面を無くすことができる。また、絶縁性電子注入層を製膜した後、組成傾斜膜を形
成した陰極膜構成とすることで、発光効率の高い有機EL素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら詳細に説明する。図1に有機EL素子10の構造模式を示す
。ガラス等の透明基板6の上にITO等の陽極5、有機EL層4、絶縁性電子注入層2と
組成傾斜型複合蒸着膜3からなる陰極1の順に積層される。陽極5と陰極1の間に直流電
圧7を印加し、有機EL層4を発光させるものである。本実施例では全てこの構造を用い
ている。
【0025】
基板6は0.5mm厚のガラス、陽極5は300nm厚のITO膜、有機EL層4はA
lq(8−ヒドロキンキノリンのアルミ錯体)を40nm厚に形成した。絶縁性電子注入
層2は弗化リチウム2nm厚とし、組成傾斜型複合蒸着膜3の厚みは0.2μmとした。
陰極1の性能評価は、印加した電圧(V)と電流密度(mA/cm)の関係を用いた。
有機EL層4と絶縁性電子注入層2、組成傾斜型複合蒸着膜3は何れも真空蒸着法を用い
製膜している。
【0026】
組成傾斜型複合蒸着膜3の形成に用いた複合蒸着材20の形状を図2に示す。蒸着材2
0の軸部12を外装部13が覆う様な構造である。複合蒸着材20は所定の長さに切断さ
れて使用されるので、両端部は軸部12の低仕事関数の金属Bが見える構造になっている
。軸部12の低仕事関数の金属Bは外装部の金属Cより高蒸気圧のため、金属Bが先に蒸
発し次に金属Cが蒸発する。そうして、蒸着初期は金属Bが主で、蒸着終期は金属Cが主
の組成傾斜型複合蒸着膜ができる。図3に、Mg−Al複合蒸着膜の膜厚方向の組成分析
値を示す。図3は、Mgを6wt%含んだMg−Al複合蒸着材を用いている。ガラス板
に付けた膜をオージェで分析したので、横軸は膜厚で0μmの位置が蒸着終期を表してい
る。蒸着初期面はMgが100%であり、その後徐々にMgの比率が下がり蒸着終期面は
アルミニウム100%と、Mgからアルミニウムに組成が変化する組成傾斜型複合蒸着膜
となっている。金属Bと金属Cを種々組合わせても、図3と同じ様に蒸着初期面と蒸着終
期面では組成が異なった、組成傾斜型複合蒸着膜が得られている。
【実施例1】
【0027】
図4a)に、絶縁性電子注入層2を形成しない時、図4b)に絶縁性電子注入層2を形
成した時の電圧と電流密度の関係を示している。試料#1はアルミニウム、試料#2と#
3はMg−Al組成傾斜型複合蒸着膜である。試料#2と#3では、蒸着材に含まれるM
gの量を変えており、#2はMgが約6.0wt%、#3は約1.5wt%としている。
蒸着材に含まれるMgの量で規定しているのは、蒸着膜中のMg量を測定することが難し
いため簡易的に用いているものであり、蒸着材に含まれるMgの量が膜に含まれるMg量
と必ずしも一致していないものである。
【0028】
図4a)で、6(V)位までは電流密度は上がらないが、更に電圧を上げると電流密度
は上昇してくる。試料#1のアルミニウムを基準としてみると、試料2は特性が悪く試料
#3は特性が良いことが判る。試料#2の特性が悪いのはMgの量が多く、Mgの比抵抗
がアルミニウムの約1.6倍と大きく、電気抵抗が大きくなったためと考える。#3はM
gが入っているので、電気抵抗は#1のアルミニウムより大きいと推定されるが、Mgの
低仕事関数の効果が現われて来たため、良い特性を示したものと考えられる。図4a)か
ら、適量の低仕事関数の金属を有機EL層側に設けることで、特性が上がることが判る。
【0029】
図4b)を用い、絶縁性電子注入層2を形成した後、アルミニウムとMg−Al組成傾
斜型複合蒸着膜3を形成した陰極1の特性について述べる。絶縁性電子注入層2を形成す
ると、電流が流れ始める電圧が約2/3の約5(V)となり、流れる電流も多くなってい
る。図4a)とb)の差が、弗化リチウムの絶縁性電子注入層2の効果と言える。試料#
4のアルミニウムに比べ試料#6のMgを1.5wt%含んだMg−Al複合蒸着材で形
成した陰極は、良い特性を示すことが判った。
【実施例2】
【0030】
実施例1のMg−Al複合蒸着材に代えて、Mg−Ag複合蒸着材を用いた結果に付い
て、図5を用いて説明する。図5a)は、絶縁性電子注入層2がなく、図5b)は絶縁性
電子注入層2を形成した時の、電圧と電流密度の関係を示したものである。比較に入れて
いる試料#1のアルミニウムに比べ、Mg−Agの電流密度が高いことが判る。また、実
施例1のMg−Al膜に比べ本実施例2のMg−Ag組成傾斜型複合蒸着膜膜の方が、電
流密度が大きいことが判る。外装材に用いたアルミニウムとAgの比重が大きく異なるた
め、試料#5と#9、試料#6と#10では重量%で表すと大きく異なる様になるが、M
gの原子%で表すと試料#5と#9、試料#6と#10はほぼ同じ値となっている。
【0031】
試料#5と#9、試料#6と#10を比較することで、アルミニウムとAgの違いを明
らかにすることができる。一例として、電圧10(V)の点で電流密度を比較すると、試
料#6は約300(mA/cm)、試料#10は約360(mA/cm)と20%高
い値を示しており、Mg−Alに比べMg−Agの方が高い電流密度が得られることを表
している。この電流密度の差は、アルミニウムとAgの電気抵抗の違いによって起こるも
のと考えられる。Agはアルミニウムの60%程度の電気抵抗である。
【実施例3】
【0032】
実施例3は、Agと同程度の電気抵抗を示す銅に付いて述べる。Mgを0.5wt%含
有させたMg−Cu複合蒸着材を用いたものである。 Mg−Cu膜の特性を判り易くす
るため、図6に実施例1と2で示した試料#6と#10も一緒に記載している。試料#6
、#10、#11のMgの原子%はほぼ同じである。Mg−Al、Mg−Cu、Mg−A
gの順で特性が良くなっている。これを金属の比抵抗でみると、Al、Cu、Agの順で
比抵抗が小さくなっており、組成傾斜型複合蒸着膜の電気抵抗が、小さいほど高い電流密
度が得られることが判る。Cuに比べAgは値段が高いことは周知のことであり、安いC
uを使うことで有機EL素子のコスト低下を図ることができる。
【実施例4】
【0033】
図7にMgに代えてMnを用いた結果を示す。図7a)はMn−Al組成傾斜型複合蒸
着膜で絶縁性電子注入層がない場合、図7b)は絶縁性電子注入層がある場合を示してい
る。Mn−Al組成傾斜型複合蒸着膜を用いた場合、Alより特性が劣化している。仕事
関数はMn3.83、アルミニウム4.24から、Mnの方が電流密度は高くなると思わ
れるが逆の結果となった。これも、電気抵抗で説明できると考えられる。Mnは金属中で
最も電気抵抗が高く、アルミニウムの約16倍の比抵抗を持つためである。しかし、Mn
の光反射率はアルミニウムの約半分であるため、コントラストを得やすいと言う利点があ
る。コントラストを上げるため偏光板を使うと、輝度が半分位に低下すると言われている
。絶縁性電子注入層とアルミニウムの組合せに比べ、絶縁性電子注入層とMn−Al組成
傾斜型複合蒸着膜の組合せは、電流密度が低いため輝度が低くなるが、コントラストの点
で優位であるので、有機ELディスプレイの設計いかんでは充分使用できるものである。
【実施例5】
【0034】
弗化リチウムの絶縁性電子注入層とMg層、アルミニウム層の3層を3回の真空蒸着で
製膜し、実施例1の試料#6と比較した。電圧と電流密度の結果の図示は省略するが、ほ
ぼ同じ値が得られた。本発明の試料#6は真空蒸着の回数が1回少ないため、作業時間、
作業段取り等は全体の工程から見れば僅かであるが減らすことができた。現時点では、積
層界面の数の影響に付いては明確な差は得られていないが、電流密度のばらつきが本発明
の絶縁性電子注入層と組成傾斜型複合蒸着膜の組合せは、小さい傾向にあることは確認で
きている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】有機EL素子の構造の模式図である。
【図2】組成傾斜型複合蒸着膜の形成に用いた複合蒸着材の外観図である。
【図3】Mg−Al複合蒸着膜の膜厚方向の組成分析値を示す図である。
【図4】実施例1の電圧と電流密度の関係を示す図である。
【図5】実施例2の電圧と電流密度の関係を示す図である。
【図6】実施例3の電圧と電流密度の関係を示す図である。
【図7】実施例4の電圧と電流密度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 陰極、 2 絶縁性電子注入層、3 複合蒸着膜、4 有機EL層、5 陽極、
6 基板、7 直流電圧、10 有機EL素子、12 軸部、13 外装部、
20 複合蒸着材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と有機EL層、陰極が積層された有機EL素子であって、有機EL層の上に絶縁性
電子注入層Aと、1回の蒸着作業で蒸着初期が仕事関数4以下の金属Bが主で蒸着終期が
低電気抵抗の金属Cが主となる組成傾斜型複合蒸着膜を形成し、陰極としたことを特徴と
する有機EL用電極。
【請求項2】
絶縁性電子注入層Aは0.5〜5nmの厚みで、アルカリ金属の酸化物、弗化物もしく
はアルカリ土類金属の酸化物、弗化物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載
の有機EL用電極。
【請求項3】
1回の蒸着作業で蒸着初期に蒸着される金属Bは、仕事関数が4eV以下で銀より高蒸
気圧で、マンガン、マグネシウム、リチウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、
ナトリウムのいずれかであり、1回の蒸着作業で蒸着終期に蒸着される金属Cは、銀、ア
ルミニウム、銅、金のいずれかもしくはこれらの合金であることを特徴とする請求項1に
記載の有機EL用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−12428(P2006−12428A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183376(P2004−183376)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】