説明

有機EL発光体配向制御用組成物、有機EL発光体配向制御膜、有機EL素子及びその製造方法

【課題】高耐熱性を有し、有機EL発光体の異方的配向による高い偏光発光効率を示す有機EL発光体配向制御膜を形成するための、配向制御用組成物を提供。
【解決手段】[A]桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物を含有するポリオルガノシロキサン化合物であることが好ましい。下記式(1)および(2)で表される化合物に由来する基からなる群より選択される少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光体の配向を制御可能な膜の形成に好適な有機EL発光体配向制御用組成物、これにより形成される有機EL発光体配向制御膜、この有機EL発光体配向制御膜を有する有機EL素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
素子自体が発光するデバイスとして、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、無機EL素子、半導体LED、プラズマディスプレイ等が開発されている。それぞれの発光素子の特徴を活かした表示デバイスの開発が進められているところ、中でも発光性有機化合物である有機EL発光体を用いた有機EL素子は、薄型化が容易であり、消費電力が低く、輝度や動画表示機能が優れているという点で注目を浴びている。
【0003】
こうした有機EL素子の応用例の一つとして、液晶表示素子のバックライトとして用いようとする試みがなされている。液晶はそれ自体が発光するわけではなく、ブロードな波長を含む自然光を発するバックライトを利用することで画像情報を表示している。液晶表示素子の画像表示機能を向上させつつ全体としての消費電力を抑制するには、バックライトからの光を有効利用することが求められる。
【0004】
液晶表示素子は、液晶セルへの電圧制御により偏光板を透過する光を調節して画像情報を表示している。偏光板は所定の方向の偏光のみを通す性質を有するのに対し、通常のバックライトから放射される光は無偏光であるので、バックライトから放射される光の一部がバックライト側の偏光板で遮られてしまう。このような状況ではバックライトからの光が有効に利用されているといえず、結果的に液晶表示素子の消費電力が高くなる原因の一つとなっている。一般的に有機EL素子では、陰極からの電子と陽極からの正孔との発光層における結合により発光するところ、これにより取り出される光は無偏光であることから、有機EL素子をそのまま用いたのではバックライト光としてより効率的な利用を図ることはできない。
【0005】
そこで、一方向に偏光した光をバックライト自体から発するようにすることで、偏光板で遮られる光の割合を低減し、多くの光を有効に利用する技術が提案されている。このような考えに基づき、有機EL素子を上述のような偏光発光バックライトに応用した例として、発光体層を一軸配向させて、発光の段階から偏光を発するという有機EL素子が開発されている。
【0006】
従来の発光体層の配向技術によると、配向膜上に発光体層を形成することにより、発光体層を構成する化合物を一軸配向している。具体的にはラビング処理を施した膜を配向膜として用い、この配向膜上に発光体層を形成することで発光体を一軸配向させている(例えば、特開平11−204261号公報参照)。このような偏光発光する有機EL素子を光源に用いることで上述のような偏光板による光の損失を低減している。しかしながら、ラビング処理を施す際には膜表面を物理的に削ることになるので、膜及び他の層に損傷を与えるおそれがある。さらにラビング処理を行うと微小な粉塵が生じ、この粉塵に起因して短絡が生じるおそれがある。以上の点からラビング処理法では信頼性の高い有機EL素子を製造するには限界がある。
【0007】
そこで、ラビング処理に代わり、発光体層を自発的に配向させる技術として、発光体層が光を照射することで少なくとも一部が一軸配向する光配向性化合物と、発光する有機化合物とを含んで構成される有機EL素子が提案されている(例えば、特開2009−239180号公報参照)。この有機EL素子では上述したラビング処理を行う場合の問題は生じないものの、ラビング処理を施した配向膜を用いた場合に比べると光照射による発光層の配向が容易ではなく、発光体層の配向には相当の光照射量が必要である。また、製造時や使用時における熱負荷に対しては、熱負荷前と比較して発光効率が低下してしまう。
【0008】
このような状況に鑑み、高耐熱性による発光効率安定性を有すると共に、有機EL発光体の異方的配向を高レベルで誘起して偏光の発光効率(以下、単に「偏光発光効率」ともいう)を高めることが可能な有機EL発光体配向制御膜、及びこれを形成し得る光配向感度が良好な有機EL発光体配向制御用組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−204261号公報
【特許文献2】特開2009−239180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、光配向の感度が良好であり、高耐熱性による発光効率安定性を有すると共に、有機EL発光体の異方的配向を高レベルで誘起して偏光の発光効率を高めることが可能な有機EL発光体配向制御膜、及びこれを形成し得る有機EL発光体配向制御用組成物、上記有機EL発光体配向制御膜を備える有機EL素子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた発明は、
[A]桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物(以下、「[A]化合物」又は「光配向性化合物」ともいう。)を含有する有機EL発光体配向制御用組成物である。
【0012】
当該有機EL発光体配向制御用組成物は、[A]桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物を含有しているため、これを用いて有機EL発光体配向制御膜を形成する場合、良好な光配向感度によって光配向性基の配向に必要な光照射量を低減させることができ、これにより、有機EL素子の生産効率を高めることができる。また、当該有機EL発光体配向制御用組成物を用いて形成された有機EL発光体配向制御膜において異方的に配向した[A]化合物により、有機EL発光体の高レベルでの異方的配向を可能とし、その結果、有機EL素子における優れた偏光発光効率を達成することができる。
【0013】
[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物であることが好ましい。当該有機EL発光体配向制御用組成物によれば、[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物である、すなわち主鎖構造としてポリオルガノシロキサンを採用していることで、得られる配向制御膜の熱的安定性や化学的安定性が高く、高耐熱性を示し、これにより熱負荷後においても当初の発光効率を長期間高い割合で維持することができる。
【0014】
当該有機EL発光体配向制御用組成物では、上記桂皮酸構造を含む光配向性基が、下記式(1)で表される化合物に由来する基及び(2)で表される化合物に由来する基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい(以下、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物の一方又は両方を、単に「特定桂皮酸誘導体」ともいう)。
【化1】

(式(1)中、Rは、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10のアルキル基、置換基としてフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、−CH=CH−、−NH−又は−COO−である。aは、0〜3の整数であり、aが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rはフッ素原子又はシアノ基であり、bは0〜4の整数である。
式(2)中、Rは、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルキル基、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子又は−NH−である。cは、1〜3の整数であり、cが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、フッ素原子又はシアノ基であり、dは0〜4の整数である。Rは、酸素原子、−COO−*又は−OCO−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がRと結合する)である。Rは、2価の芳香族基、2価の脂環式基、2価の複素環式基又は2価の縮合環式基である。Rは、単結合、−OCO−(CH−*又は−O(CH−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がカルボキシル基と結合する)である。f及びgはそれぞれ1〜10の整数であり、eは0〜3の整数である。)
【0015】
上記桂皮酸構造を含む光配向性基として上記特定桂皮酸誘導体に由来する基を用いることにより、有機EL発光体に対する異方性付与性能、すなわち配向性能がさらに高くなり、有機EL発光体の一軸配向(異方的配向)の規定が容易となって、有機EL発光体層の偏光発光効率をさらに向上させることができる。
【0016】
当該有機EL発光体配向制御用組成物においては、[A]化合物が、エポキシ基を有する1価の有機基を含むポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に「エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン」ともいう)と、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種との反応生成物であることが好ましい。当該有機EL発光体配向制御用組成物において、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと特定桂皮酸誘導体との間の反応性を利用することにより、主鎖としてのポリオルガノシロキサンに光配向性を有する特定桂皮酸誘導体に由来する側鎖基を容易に導入することができる。
【0017】
当該有機EL発光体配向制御用組成物では、上記エポキシ基を有する1価の有機基が、下記式(X−1)又は(X−2)で表されることが好ましい。
【化2】

【化3】

(式(X−1)中、Aは酸素原子又は単結合である。hは1〜3の整数であり、iは0〜6の整数である。ただし、iが0の場合、Aは単結合である。
式(X−2)中、jは1〜6の整数である。
式(X−1)及び(X−2)中、「*」は、それぞれ結合手であることを示す。)
【0018】
上記エポキシ基を有する1価の有機基として上記式(X−1)又は(X−2)で表される構造を採用することにより、当該有機EL発光体配向制御用組成物のポリオルガノシロキサンに、上記特定桂皮酸誘導体に由来する側鎖基を導入しやすくなる。
【0019】
当該有機EL発光体配向制御用組成物は、[B]カルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造、カルボン酸の1−アルキルシクロアルキルエステル構造及びカルボン酸のt−ブチルエステル構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を2個以上有する化合物(以下、「[B]化合物」又は「エステル構造含有化合物」ともいう。)をさらに含有することが好ましい。このような[B]化合物を当該有機EL発光体配向制御用組成物が含有することにより、偏光照射前の焼成工程(以下、「ポストベーク」ともいう)において酸が発生し、発生した酸によって[A]化合物の架橋を促進させることができ、その結果、得られる有機EL発光体配向制御膜の耐熱性を向上させることができる。
【0020】
本発明の有機EL発光体配向制御膜は、当該有機EL発光体配向制御用組成物により形成される。その結果、当該有機EL発光体配向制御膜は、熱負荷後でも高耐熱性による優れた発光効率安定性を示すとともに、光配向性基によって有機EL発光体の一軸配向の規定が容易となり、有機EL発光体層における優れた偏光発光効率を発現させることができる。
【0021】
本発明の有機EL素子は、基板上に形成されたアノード電極と、上記アノード電極を覆うように形成された当該有機EL発光体配向制御膜と、上記有機EL発光体配向制御膜上に形成された有機EL発光体層と、上記有機EL発光体層上に形成されたカソード電極とを備える。当該有機EL素子は、有機EL発光体層用の配向制御膜として当該有機EL発光体配向制御膜を採用しているので、優れた光配向感度を発揮して配向制御膜の形成のための光照射量を低減することができるとともに、有機EL発光体層における偏光発光効率を向上させることができる。また、当該有機EL発光体配向制御膜の耐熱性が高いことから、熱負荷後においても当初の発光効率を長期間にわたって維持することができる。
【0022】
本発明の有機EL素子の製造方法は、基板上に形成されたアノード電極を覆うように、当該有機EL発光体配向制御用組成物を用いて塗膜を形成する工程、上記塗膜に直線偏光を照射して有機EL発光体配向制御膜を形成する工程、上記有機EL発光体配向制御膜上に有機EL発光体層を形成する工程、及び、上記有機EL発光体層上にカソード電極を形成する工程を有する。当該有機EL素子の製造方法を採用することにより、当該有機EL素子を効率的にかつ簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物、有機EL発光体配向制御膜、有機EL素子及びその製造方法によれば、良好な光配向感度を達成することができ、高耐熱性による発光効率安定性を実現しつつ、有機EL発光体を高いレベルで異方的に配向させて優れた偏光発光効率を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、[A]桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物を含有することから、高感度の光配向性により配向に必要な光照射量を低減させることができる。また、当該有機EL発光体配向制御用組成物を用いることにより、得られる有機EL発光体配向制御膜が高耐熱性を示し、これにより熱負荷後における高発光効率安定性を発揮することができる。加えて、この有機EL発光体配向制御膜は優れた光配向性を有するので、有機EL発光体層における高レベルでの異方的配向を発現させることができ、有機EL素子の偏光発光効率を向上させることができる。
【0026】
当該有機EL発光体配向制御用組成物は、[A]化合物を含有していると共に、好適成分として[B]化合物(エステル構造含有化合物)を含有していてもよく、その他の任意成分として、[A]化合物以外の重合体(以下、単に「他の重合体」ともいう)、硬化剤、硬化触媒、硬化促進剤、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、単に「エポキシ化合物」ともいう)、官能性シラン化合物、界面活性剤、光増感性化合物等を含んでいてもよい。以下、当該有機EL発光体配向制御用組成物について説明する。
【0027】
<[A]成分:桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物>
[A]化合物は光配向性基を有する。当該有機EL発光体配向制御用組成物で有機EL発光体配向制御膜を形成した際、この光配向性基に偏光等の異方性を有する光を照射すると、その有機EL発光体配向制御膜内での分子の再配列や異方性を伴った化学反応等を誘起する。この異方性を伴った配向制御膜分子構造の変化により、有機EL発光体に異方性を付与することになる。
【0028】
上記光配向性基は、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格とする桂皮酸構造を含む。上記光配向性基が桂皮酸構造を含むことで、二量化型の異方性発現を呈し、高い配向能を発揮できると共に、光配向性基の導入が容易となる。なお、桂皮酸又はその誘導体は、光照射により二量化可能であれば、シス型・トランス型を問わない。
【0029】
桂皮酸構造を含む光配向性基の構造は、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含有していれば特に限定されないが、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物(すなわち、特定桂皮酸誘導体)のうちの少なくとも1種に由来する基であることが好ましい。なお、上記式(1)中、Rは、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10のアルキル基、置換基としてフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、−CH=CH−、−NH−又は−COO−である。aは、0〜3の整数であり、aが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rはフッ素原子又はシアノ基であり、bは0〜4の整数である。
【0030】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、下記のものを挙げることができる。
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
これらのうちRとしては、無置換のフェニレン基、又はフッ素原子若しくは炭素数1〜3のアルキル基で置換されたフェニレン基が好ましく、Rは単結合、酸素原子又は−CH=CH−であるものが好ましい。bは0〜1が好ましく、aが1〜3のときはbが0であることが特に好ましい。
【0045】
上記式(2)中、Rは、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルキル基、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子又は−NH−である。cは、1〜3の整数であり、cが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、フッ素原子又はシアノ基であり、dは0〜4の整数である。Rは、酸素原子、−COO−*又は−OCO−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がRと結合する)である。Rは、2価の芳香族基、2価の脂環式基、2価の複素環式基又は2価の縮合環式基である。Rは、単結合、−OCO−(CH−*又は−O(CH−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がカルボキシル基と結合する)である。f及びgは、それぞれ1〜10の整数であり、eは0〜3の整数である。
【0046】
上記式(2)で表される化合物としては、例えば、下記式(2−1)〜(2−4)で表される化合物を挙げることができる。
【0047】
【化17】

(式中、Qは、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルキル基、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基であり、fは式(2)と同義である。)
【0048】
<特定桂皮酸誘導体の合成>
特定桂皮酸誘導体の合成手順は特に限定されず、従来公知の方法を組み合わせて行うことができる。代表的な合成手順としては、例えば、(1)塩基性条件下、ハロゲン原子で置換されたベンゼン環骨格を有する化合物と、アクリル酸とを遷移金属触媒存在下で反応させて特定桂皮酸誘導体を得る方法、(2)塩基性条件下、ベンゼン環の水素原子がハロゲン原子で置換された桂皮酸と、ハロゲン原子で置換されたベンゼン環骨格を有する化合物とを遷移金属触媒存在下で反応させて特定桂皮酸誘導体とする方法等が例示される。ただし、特定桂皮酸誘導体の合成手順はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[A]化合物は、桂皮酸構造を含む光配向性基を有する限り特に限定されないが、側鎖に桂皮酸構造を含む光配向性基を有するポリマーであることが好ましく、ポリオルガノシロキサン、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリ(スチレン‐フェニルマレイミド)誘導体、セルロース誘導体、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン誘導体及びポリアミック酸エステルを主鎖構造とするものが電気特性の面からより好ましく、耐光性の面からポリオルガノシロキサンを主鎖構造とするものがさらに好ましい。
【0050】
[A]化合物がポリオルガノシロキサンを主鎖構造とする化合物(ポリオルガノシロキサン化合物)は、主鎖としてのポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種に由来する部分に、側鎖として上記光配向性基が導入された構造を有する。[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物である場合、光配向性基とポリオルガノシロキサン化合物とにより、光配向の感度が良好となり、低光照射量を実現することができる。同時に、主鎖としてポリオルガノシロキサンを採用しているので、当該有機EL発光体配向制御用組成物で形成された有機EL発光体配向制御膜は、優れた化学的安定性・熱的安定性を有し、高耐熱性を発揮することから、熱負荷後においても発光効率を長期間にわたり維持することができる。
【0051】
<ポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種に由来する部分>
[A]化合物が、ポリオルガノシロキサン化合物である場合、この主鎖として含まれるポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種に由来する部分としては、それ自体に上記光配向性基を導入し得る構造に由来した部分を有する限り特に限定されない。ポリオルガノシロキサン化合物である[A]化合物は、このようなポリオルガノシロキサン、その加水分解物、その加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種に由来する部分と、上記光配向性を示す化合物に由来する基とを有する。
【0052】
上記光配向性基を導入し得る構造としては、例えば水酸基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、エステル基、アミド基等が挙げられる。この中でも、導入及び調製の容易性を考慮すると、エポキシ基が好ましい。
【0053】
[A]化合物は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと、上記式(1)及び/又は(2)で表される化合物との反応生成物であることが好ましい。当該有機EL発光体配向制御用組成物において、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと特定桂皮酸誘導体との間の反応性を利用することにより、主鎖としてのポリオルガノシロキサンに光配向性を有する特定桂皮酸誘導体に由来する基を容易に導入することができる。
【0054】
<エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン>
当該有機EL発光体配向制御用組成物で用いられるエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンは、ポリオルガノシロキサンに側鎖としてエポキシ基を有する1価の有機基が導入されていれば特に限定されない。上記エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンとしては、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
【化18】

(式(3)中、Xはエポキシ基を有する1価の有機基であり、Yは水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。)
【0056】
なお、上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリオルガノシロキサンの加水分解物又はその縮合物は、そのポリオルガノシロキサン同士の加水分解縮合物だけでなく、上記式(3)で表される繰り返し単位の加水分解縮合によりポリオルガノシロキサンが生成される過程において、主鎖の枝分かれや架橋等が生じて得られるポリオルガノシロキサンが上記式(3)で表される繰り返し単位を有する場合の加水分解物又はその縮合物をも含む概念である。
【0057】
上記式(3)におけるXは、エポキシ基を有する1価の有機基であれば特に限定されず、例えば、グリシジル基、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基を含む基等が挙げられる。上記エポキシ基を有する1価の有機基(すなわち、X)としては、上記式(X−1)又は(X−2)で表されることが好ましい。さらに上記式(X−1)又は(X−2)で表される基のうち、下記式(X−1−1)又は(X−2−1)
【0058】
【化19】

(上記式中、「*」は結合手であることを示す。)
で表される基が好ましい。
【0059】
上記式(3)中のYにおいて、炭素数1〜10のアルコキシ基として、例えばメトキシ基、エトキシ基等;炭素数1〜20のアルキル基として、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ラウリル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等;炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基等をそれぞれ挙げることができる。
【0060】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量が、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましく、さらに1,000〜5,000であることが好ましい。
【0061】
このようなエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンは、好ましくはエポキシ基を有するシラン化合物、あるいはエポキシ基を有するシラン化合物と他のシラン化合物の混合物を、好ましくは適当な有機溶媒、水及び触媒の存在下において加水分解又は加水分解・縮合することにより合成することができる。
【0062】
上記エポキシ基を有するシラン化合物としては、例えば3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
上記他のシラン化合物として、例えばテトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、トリクロロシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリ−i−プロポキシシラン、トリ−n−ブトキシシラン、トリ−sec−ブトキシシラン、フルオロトリクロロシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、フルオロトリ−n−プロポキシシラン、フルオロトリ−i−プロポキシシラン、フルオロトリ−n−ブトキシシラン、フルオロトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−i−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリクロロシラン、
2−(トリフルオロメチル)エチルトリメトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリエトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(トリフルオロメチル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリクロロシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−ヘキシル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリクロロシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリメトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリエトキシシラン、
【0064】
2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−n−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−i−プロポキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−n−ブトキシシラン、2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチルトリ−sec−ブトキシシラン、ヒドロキシメチルトリクロロシラン、ヒドロキシメチルトリメトキシシラン、ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−n−プロポキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−i−プロポキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−n−ブトキシシラン、ヒドロキシメチルトリ−sec−ブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリクロロシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−i−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリクロロシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−i−プロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−n−ブトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリ−sec−ブトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、
【0065】
メルカプトメチルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−プロポキシシラン、ビニルトリ−i−プロポキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリ−sec−ブトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリ−n−プロポキシシラン、アリルトリ−i−プロポキシシラン、アリルトリ−n−ブトキシシラン、アリルトリ−sec−ブトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−i−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルジクロロシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジ−n−プロポキシシラン、メチルジ−i−プロポキシシラン、メチルジ−n−ブトキシシラン、メチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−i−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、
【0066】
(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジクロロシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジメトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジエメトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−n−ブトキシシラン、(メチル)〔2−(パーフルオロ−n−オクチル)エチル〕ジ−sec−ブトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジクロロシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジメトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジエトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−n−ブトキシシラン、(メチル)(3−メルカプトプロピル)ジ−sec−ブトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジクロロシラン、(メチル)(ビニル)ジメトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジエトキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−n−プロポキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−i−プロポキシシラン、(メチル)(ビニル)ジ−n−ブトキシシラン、
【0067】
(メチル)(ビニル)ジ−sec−ブトキシシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジビニルジ−n−プロポキシシラン、ジビニルジ−i−プロポキシシラン、ジビニルジ−n−ブトキシシラン、ジビニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジ−i−プロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、クロロジメチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、クロロトリメチルシラン、ブロモトリメチルシラン、ヨードトリメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、n−プロポキシトリメチルシラン、i−プロポキシトリメチルシラン、n−ブトキシトリメチルシラン、sec−ブトキシトリメチルシラン、t−ブトキシトリメチルシラン、(クロロ)(ビニル)ジメチルシラン、(メトキシ)(ビニル)ジメチルシラン、(エトキシ)(ビニル)ジメチルシラン、(クロロ)(メチル)ジフェニルシラン、(メトキシ)(メチル)ジフェニルシラン、(エトキシ)(メチル)ジフェニルシラン等のケイ素原子を1個有するシラン化合物のほか、
【0068】
商品名で、例えばKC−89、KC−89S、X−21−3153、X−21−5841、X−21−5842、X−21−5843、X−21−5844、X−21−5845、X−21−5846、X−21−5847、X−21−5848、X−22−160AS、X−22−170B、X−22−170BX、X−22−170D、X−22−170DX、X−22−176B、X−22−176D、X−22−176DX、X−22−176F、X−40−2308、X−40−2651、X−40−2655A、X−40−2671、X−40−2672、X−40−9220、X−40−9225、X−40−9227、X−40−9246、X−40−9247、X−40−9250、X−40−9323、X−41−1053、X−41−1056、X−41−1805、X−41−1810、KF6001、KF6002、KF6003、KR212、KR−213、KR−217、KR220L、KR242A、KR271、KR282、KR300、KR311、KR401N、KR500、KR510、KR5206、KR5230、KR5235、KR9218、KR9706(以上、信越化学工業(株)製);グラスレジン(昭和電工(株)製);SH804、SH805、SH806A、SH840、SR2400、SR2402、SR2405、SR2406、SR2410、SR2411、SR2416、SR2420(以上、東レ・ダウコーニング(株)製);FZ3711、FZ3722(以上、日本ユニカー(株)製);DMS−S12、DMS−S15、DMS−S21、DMS−S27、DMS−S31、DMS−S32、DMS−S33、DMS−S35、DMS−S38、DMS−S42、DMS−S45、DMS−S51、DMS−227、PSD−0332、PDS−1615、PDS−9931、XMS−5025(以上、チッソ(株)製);メチルシリケートMS51、メチルシリケートMS56(以上、三菱化学(株)製);エチルシリケート28、エチルシリケート40、エチルシリケート48(以上、コルコート(株)製);GR100、GR650、GR908、GR950(以上、昭和電工(株)製)等の部分縮合物を挙げることができる。
【0069】
これらの他のシラン化合物のうち、得られる有機EL発光体配向制御膜の配向性及び化学的安定性の観点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン又はジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0070】
本発明に用いられるエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンは、光配向性を有する側鎖を充分な量で導入しつつ、エポキシ基の導入量が過剰となることによる意図しない副反応等を抑制するために、そのエポキシ当量が100〜10,000g/モルであることが好ましく、150〜1,000g/モルであることがより好ましい。したがって、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを合成するにあたっては、エポキシ基を有するシラン化合物と他のシラン化合物との使用割合を、得られるポリオルガノシロキサンエポキシ当量が上記の範囲になるように調製して設定することが好ましい。
【0071】
具体的には、このような他のシラン化合物は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと他のシラン化合物との合計に対して0〜50質量%用いることが好ましく、5〜30質量%用いることがより好ましい。
【0072】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを合成するにあたって使用することのできる有機溶媒としては、例えば炭化水素化合物、ケトン化合物、エステル化合物、エーテル化合物、アルコール化合物等を挙げることができる。
【0073】
上記炭化水素化合物としては、例えば、トルエン、キシレン等;上記ケトン化合物として、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等;上記エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、乳酸エチル等;上記エーテル化合物としては、例えばエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等;上記アルコール化合物としては、例えば1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等を、それぞれ挙げることができる。これらのうち非水溶性のものが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0074】
有機溶媒の使用量は、全シラン化合物100質量部に対して、好ましくは10〜10,000質量部、より好ましくは50〜1,000質量部である。また、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを製造する際の水の使用量は、全シラン化合物に対して、好ましくは0.5〜100倍モル、より好ましくは1〜30倍モルである。
【0075】
上記触媒としては例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物等を用いることができる。
【0076】
上記アルカリ金属化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等を挙げることができる。
【0077】
上記有機塩基としては、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、ピロールの如き1〜2級有機アミン;トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンの如き3級の有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アンモニウム塩等を、それぞれ挙げることができる。これらの有機塩基のうち、反応が穏やかに進行する点を考慮して、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンの如き3級の有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アンモニウム塩が好ましい。
【0078】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを製造する際の触媒としては、アルカリ金属化合物又は有機塩基が好ましい。アルカリ金属化合物又は有機塩基を触媒として用いることにより、エポキシ基の開環等の副反応を生じることなく、高い加水分解・縮合速度で目的とするポリオルガノシロキサンを得ることができることになり、生産安定性に優れることとなって好ましい。また、触媒としてアルカリ金属化合物又は有機塩基を用いて合成されたエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと特定桂皮酸誘導体との反応生成物を含有する本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、保存安定性が極めて優れるため好都合である。
【0079】
その理由は、Chemical Reviews、95巻、p1409(1995年)に指摘されているように、加水分解、縮合反応において触媒としてアルカリ金属化合物又は有機塩基を用いると、ランダム構造、はしご型構造又はかご型構造が形成され、シラノール基の含有割合が少ないポリオルガノシロキサンが得られるためではないかと推察される。シラノール基の含有割合が少ないため、シラノール基同士の縮合反応が抑えられ、さらに、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が後述の他の重合体を含有するものである場合には、シラノール基と他の重合体との縮合反応が抑えられるため、保存安定性に優れる結果になるものと推察される。
【0080】
触媒としては、特に有機塩基が好ましい。有機塩基の使用量は、有機塩基の種類、温度等の反応条件等により異なり、適宜に設定することができる。有機塩基の具体的な使用量としては、例えば全シラン化合物に対して、好ましくは0.01〜3倍モルであり、より好ましくは0.05〜1倍モルである。
【0081】
エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを製造する際の加水分解又は加水分解・縮合反応は、エポキシ基を有するシラン化合物と必要に応じて他のシラン化合物とを有機溶媒に溶解し、この溶液を有機塩基及び水と混合して、例えば油浴等により加熱することにより実施することが好ましい。
【0082】
加水分解・縮合反応時には、油浴の加熱温度を好ましくは130℃以下、より好ましくは40〜100℃として、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは1〜8時間加熱するのが望ましい。加熱中は、混合液を撹拌してもよいし、還流下に置いてもよい。
【0083】
反応終了後、反応液から分取した有機溶媒層を水で洗浄することが好ましい。この洗浄に際しては、洗浄操作が容易になる点で、少量の塩を含む水、例えば0.2質量%程度の硝酸アンモニウム水溶液等で洗浄することが好ましい。洗浄は洗浄後の水層が中性になるまで行い、その後有機溶媒層を、必要に応じて無水硫酸カルシウム、モレキュラーシーブス等の乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを得ることができる。
【0084】
本発明においては、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンとして市販されているものを用いてもよい。このような市販品としては、例えばDMS−E01,DMS−E12、DMS−E21,EMS−32(以上、チッソ(株)製)等を挙げることができる。
【0085】
[A]化合物は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン自体が加水分解されて生じる加水分解物に由来する部分や、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン同士が加水分解縮合した加水分解縮合物に由来する部分を含んでいてもよい。当該部分の構成材料であるこれらの加水分解物や加水分解縮合物もエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンの加水分解ないし縮合条件と同様に調製することができる。
【0086】
<[A]化合物の合成>
本発明で使用される[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物である場合、例えば上記の如きエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと上記式(1)及び/又は(2)で表される化合物(すなわち、特定桂皮酸誘導体)とを、好ましくは触媒の存在下に反応させることにより合成することができる。
【0087】
ここで特定桂皮酸誘導体は、ポリオルガノシロキサンの有するエポキシ基1モルに対して好ましくは0.001〜10モル、より好ましくは0.01〜5モル、さらに好ましくは0.05〜2モル使用される。
【0088】
上記触媒としては、有機塩基、又はエポキシ化合物と酸無水物との反応を促進するいわゆる硬化促進剤として公知の化合物を用いることができる。
【0089】
上記有機塩基としては、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、ピロールの如き1〜2級有機アミン;
トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンの如き3級の有機アミン;
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アミン等を挙げることができる。
これらの有機塩基のうち、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンの如き3級の有機アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの如き4級の有機アンモニウム塩が好ましい。
【0090】
上記硬化促進剤としては、例えばベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエタノールアミンの如き3級アミン;
2−メチルイミダゾール、2−n−ヘプチルイミダゾール、2−n−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジ(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−フェニル−4,5−ジ〔(2’−シアノエトキシ)メチル〕イミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−n−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−n−ウンデシルイミダゾリル)エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジン、2−メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、及び2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンのイソシアヌル酸付加物の如きイミダゾール化合物;
ジフェニルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルの如き有機リン化合物;
【0091】
ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムブロマイド、メチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、n−ブチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド、テトラフェニルフォスフォニウムブロマイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムヨーダイド、エチルトリフェニルフォスフォニウムアセテート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムo,o−ジエチルフォスフォロジチオネート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムベンゾトリアゾレート、テトラフェニルフォスフォニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフルオロボレート、テトラ−n−ブチルフォスフォニウムテトラフェニルボレートの如き4級フォスフォニウム塩;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩の如きジアザビシクロアルケン;
オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体の如き有機金属化合物;
テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドの如き4級アンモニウム塩;
三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニルの如きホウ素化合物;
塩化亜鉛、塩化第二錫の如き金属ハロゲン化合物;
ジシアンジアミドやアミンとエポキシ樹脂との付加物等のアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性硬化促進剤;
上記イミダゾール化合物、有機リン化合物や4級フォスフォニウム塩等の硬化促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;
アミン塩型潜在性硬化促進剤;
ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等の潜在性硬化促進剤等を挙げることができる。
【0092】
これらの触媒の中でも、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドの如き4級アンモニウム塩が好ましい。
【0093】
触媒は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン100質量部に対して好ましくは100質量部以下、より好ましくは0.01〜100質量部、さらに好ましくは0.1〜20質量部の量で使用される。
【0094】
反応温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは50〜150℃である。反応時間は、好ましくは0.1〜50時間、より好ましくは0.5〜20時間である。
【0095】
[A]化合物は、必要に応じて有機溶剤の存在下に合成することができる。かかる有機溶媒としては、例えば、炭化水素化合物、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物、アミド化合物、アルコール化合物等を挙げることができる。これらのうち、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物が、原料及び生成物の溶解性ならびに生成物の精製のし易さの観点から好ましい。溶媒は、固形分濃度(反応溶液中の溶媒以外の成分の質量が溶液の全質量に占める割合)が、好ましくは0.1質量%以上70質量%以下、より好ましくは5質量%以上50質量%以下となる量で使用される。
【0096】
本発明の[A]化合物は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンに、特定桂皮酸誘導体のカルボキシル基のエポキシへの開環付加により特定桂皮酸誘導体に由来する構造を導入することで得ることができる。この製造方法は簡便であり、しかも特定桂皮酸誘導体に由来する構造の導入率を高くすることができる点で極めて好適な方法である。
【0097】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で上記特定桂皮酸誘導体の一部を下記式(4)で表される化合物で置き換えて使用してもよい。この場合、[A]化合物の合成は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと、特定桂皮酸誘導体及び下記式(4)で表される化合物の混合物とを反応させることにより行われる。
【0098】
【化20】

【0099】
上記式(4)におけるR10は、水素原子の一部又は全部がフッ素で置換されていてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基であり、好ましくは、炭素数8〜20のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数4〜21のフルオロアルキル基若しくはフルオロアルコキシ基である。R11は、単結合、シクロアルキレン基又はアリーレン基であり、好ましくは、単結合、1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基である。また、R12は、有機酸基であり、好ましくは、カルボキシル基である。
【0100】
上記式(4)で表される化合物の好ましい例として、例えば下記式(4−1)〜(4−3)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【0101】
【化21】

【0102】
上記式(4)で表される化合物は、[A]化合物の活性部位を失活させて当該有機EL発光体配向制御用組成物の安定性向上に寄与し得る。本発明において、特定桂皮酸誘導体と共に上記式(4)で表される化合物を使用する場合、特定桂皮酸誘導体及び上記式(4)で表される化合物の合計の使用割合は、ポリオルガノシロキサンの有するエポキシ基1モルに対して、好ましくは0.001〜1.5モル、より好ましくは0.01〜1モル、さらに好ましくは0.05〜0.9モルである。この場合、上記式(4)で表される化合物は、特定桂皮酸誘導体との合計に対して好ましくは50モル%以下、より好ましくは25モル%以下の範囲で使用される。上記式(4)で表される化合物の使用割合が50モル%を超えると、有機EL発光体配向制御膜における配向性が低下する不具合を生じるおそれがある。
【0103】
なお、[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物以外のポリマーである場合の製造方法としては、光配向性基を導入し得る構造を有する公知のポリマーと、桂皮酸や桂皮酸誘導体(上記特定桂皮酸誘導体や、桂皮酸塩化物等)とを反応させる方法を挙げることができる。上記光配向性基を導入し得る構造としては、例えば水酸基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、エステル基、アミド基等が挙げられる。
【0104】
このようにして得られた[A]化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるスチレン換算での質量平均分子量は特に限定されないが、1,000〜20,000であることが好ましく、3,000〜15,000であることがより好ましい。このような分子量範囲にあることで、有機EL発光体配向制御膜の良好な配向性及び熱的安定性を確保することができる。
【0105】
<[B]成分:エステル構造含有化合物>
当該有機EL発光体配向制御用組成物は[B]エステル構造含有化合物を含むことにより、耐熱性及び耐光性に優れる有機EL発光体配向制御膜を形成し得ると共に、当該有機EL発光体配向制御用組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0106】
[B]エステル構造含有化合物は、分子内にカルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造、カルボン酸の1−アルキルシクロアルキルエステル構造及びカルボン酸のt−ブチルエステル構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を2個以上有する化合物である。[B]エステル構造含有化合物は、これらの構造のうちの同じ種類の構造を2個以上有する化合物であってもよく、これらの構造のうちの異なる種類の構造を合わせて2個以上有する化合物であってもよい。上記カルボン酸のアセタールエステル構造を含む基としては、下記式(B−1)及び(B−2)のそれぞれで表される基を挙げることができる。
【0107】
【化22】

(式(B−1)中、R13及びR14は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜10の脂環式基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数7〜10のアラルキル基であり、
式(B−2)中、n1は2〜10の整数である。)
【0108】
ここで、上記式(B−1)におけるR13について、
アルキル基としてメチル基;
脂環式基としてシクロヘキシル基;
アリール基としてフェニル基;
アラルキル基としてベンジル基が、それぞれ好ましく、
14のアルキル基として炭素数1〜6のアルキル基;
脂環式基として炭素数6〜10の脂環式基;
アリール基としてフェニル基;
アラルキル基としてベンジル基又は2−フェニルエチル基が、それぞれ好ましい。式(B−2)におけるn1としては、3又は4であることが好ましい。
【0109】
上記式(B−1)で表される基としては、例えば、1−メトキシエトキシカルボニル基、1−エトキシエトキシカルボニル基、1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−i−プロポキシエトキシカルボニル基、1−n−ブトキシエトキシカルボニル基、1−i−ブトキシエトキシカルボニル基、1−sec−ブトキシエトキシカルボニル基、1−t−ブトキシエトキシカルボニル基、1−シクロペンチルオキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、1−ノルボルニルオキシエトキシカルボニル基、1−ボルニルオキシエトキシカルボニル基、1−フェノキシエトキシカルボニル基、1−(1−ナフチルオキシ)エトキシカルボニル基、1−ベンジルオキシエトキシカルボニル基、1−フェネチルオキシエトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(メトキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(エトキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(n−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(i−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(シクロヘキシルオキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(フェノキシ)メトキシカルボニル基、(シクロヘキシル)(ベンジルオキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(メトキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(エトキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(n−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(i−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(シクロヘキシルオキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(フェノキシ)メトキシカルボニル基、(フェニル)(ベンジルオキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(メトキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(エトキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(n−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(i−プロポキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(シクロヘキシルオキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(フェノキシ)メトキシカルボニル基、(ベンジル)(ベンジルオキシ)メトキシカルボニル基等;
上記式(B−2)で表される基としては、例えば2−テトラヒドロフラニルオキシカルボニル基、2−テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基等
が挙げられる。
【0110】
これらのうち、1−エトキシエトキシカルボニル基、1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、2−テトラヒドロフラニルオキシカルボニル基、2−テトラヒドロピラニルオキシカルボニル基等が好ましい。
【0111】
上記カルボン酸のケタールエステル構造を含む基としては、例えば、下記式(B−3)〜(B−5)のそれぞれで表される基を挙げることができる。
【0112】
【化23】

(式(B−3)中、R15は炭素数1〜12のアルキル基であり、R16及びR17は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜20の脂環式基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基である。
式(B−4)中、R18は炭素数1〜12のアルキル基であり、n2は2〜8の整数である。
式(B−5)中、R19は炭素数1〜12のアルキル基であり、n3は2〜8の整数である。)
【0113】
ここで、上記式(B−3)におけるR15のアルキル基としてはメチル基が好ましく、
16についてはアルキル基としてメチル基;
脂環式基としてシクロヘキシル基;
アリール基としてフェニル基;
アラルキル基としてベンジル基が、それぞれ好ましく、
17については、アルキル基として炭素数1〜6のアルキル基;
脂環式基として炭素数6〜10の脂環式基;
アリール基としてフェニル基;
アラルキル基としてベンジル基又は2−フェニルエチル基が、それぞれ好ましく、
式(B−4)におけるR18のアルキル基としてメチル基が、n2としては3又は4であることが、それぞれ好ましく、
式(B−5)におけるR19のアルキル基としてはメチル基が、n3としては3又は4であることが、それぞれ好ましい。
【0114】
上記式(B−3)で表される基としては、例えば、1−メチル−1−メトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−エトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−i−プロポキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−n−ブトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−i−ブトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−sec−ブトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−t−ブトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−シクロペンチルオキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−ノルボルニルオキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−ボルニルオキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−フェノキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−(1−ナフチルオキシ)エトキシカルボニル基、1−メチル−1−ベンジルオキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−フェネチルオキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−メトキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−エトキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−i−プロポキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−フェノキシエトキシカルボニル基、1−シクロヘキシル−1−ベンジルオキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−メトキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−エトキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−i−プロポキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−フェノキシエトキシカルボニル基、1−フェニル−1−ベンジルオキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−メトキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−エトキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−n−プロポキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−i−プロポキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−フェノキシエトキシカルボニル基、1−ベンジル−1−ベンジルオキシエトキシカルボニル基等;
【0115】
上記式(B−4)で表される基としては、例えば2−(2−メチルテトラヒドロフラニル)オキシカルボニル基、2−(2−メチルテトラヒドロピラニル)オキシカルボニル基等;
上記式(B−5)で表される基としては、例えば1−メトキシシクロペンチルオキシカルボニル基、1−メトキシシクロヘキシルオキシカルボニル基等
をそれぞれ挙げることができる。
【0116】
これらのうち、1−メチル−1−メトキシエトキシカルボニル基、1−メチル−1−シクロヘキシルオキシエトキシカルボニル基等が好ましい。
【0117】
上記カルボン酸の1−アルキルシクロアルキルエステル構造を含む基としては、例えば下記式(B−6)で表される基を挙げることができる。
【0118】
【化24】

(式(B−6)中、R20は炭素数1〜12のアルキル基であり、n4は1〜8の整数である。)
【0119】
上記式(B−6)におけるR20のアルキル基としては炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。
【0120】
上記式(B−6)で表される基としては、例えば1−メチルシクロプロポキシカルボニル基、1−メチルシクロブトキシカルボニル基、1−メチルシクロペントキシカルボニル基、1−メチルシクロへキシロキシカルボニル基、1−メチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−メチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−メチルシクロノニロキシカルボニル基、1−メチルシクロデシロキシカルボニル基、1−エチルシクロプロポキシカルボニル基、1−エチルシクロブトキシカルボニル基、1−エチルシクロペントキシカルボニル基、1−エチルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−エチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−エチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−エチルシクロノニロキシカルボニル基、1−エチルシクロデシロキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)プロピルシクロデシロキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)ブチルシクロデシロキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)ペンチルシクロデシロキシカルボニル基、
【0121】
1−(イソ)ヘキシルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘキシルシクロデシロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)ヘプチルシクロデシロキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロプロポキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロブトキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロペントキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロヘキシロキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロヘプチロキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロオクチロキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロノニロキシカルボニル基、1−(イソ)オクチルシクロデシロキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0122】
上記カルボン酸のt−ブチルエステル構造を含む基とは、t−ブトキシカルボニル基である。
【0123】
本発明における[B]エステル構造含有化合物としては、下記式(B)で表される化合物が好ましい。
R (B)
(式(B)中、Bは上記式(B−1)〜(B−5)のいずれかで表される基若しくはt−ブトキシカルボニル基であり、nが2であってRが単結合であるか、又はnが2〜10の整数であってRが炭素数3〜10の複素環化合物から水素を除去して得られるn価の基若しくは炭素数1〜18のn価の炭化水素基である。)
nとしては、2又は3であることが好ましい。
【0124】
上記式(B)におけるRの具体例としては、nが2である場合として、単結合、メチレン基、炭素数2〜12のアルキレン基、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレニル基、5−ナトリウムスルホ−1,3−フェニレン基、5−テトラブチルホスホニウムスルホ−1,3−フェニレン基等;
【0125】
nが3である場合として、下記式
【0126】
【化25】

【0127】
で表される基、ベンゼン−1,3,5−トリイル基等
をそれぞれ挙げることができる。上記アルキレン基としては、直鎖のものが好ましい。
【0128】
上記式(B)で表される[B]エステル構造含有化合物は、有機化学の定法により、又は有機化学の定法を適宜に組み合わせることにより合成することができる。
【0129】
例えば上記式(B)における基Bが上記式(B−1)で表される基である化合物(ただし、R13がフェニル基である場合を除く。)は、好ましくはリン酸触媒の存在下で化合物R−(COOH)(ただし、R及びnは、それぞれ上記式(B)におけるのと同義である。)及び化合物R14−O−CH=R13(ただし、R14は上記式(B−1)におけるのと同義であり、R13は上記式(B−1)における基R13の一位炭素から水素原子を除去して得られる基である。)を付加することにより合成することができる。
【0130】
上記式(B)における基Bが上記式(B−2)で表される基である化合物は、好ましくはp−トルエンスルホン酸触媒の存在下で化合物R−(COOH)(ただし、R及びnは、それぞれ、上記式(B)におけるのと同義である。)及び下記式で表される化合物を付加することにより合成することができる。
【0131】
【化26】

(式中、n1は上記式(B−2)におけるのと同義である。)
【0132】
当該有機EL発光体配向制御用組成物中の[B]エステル構造含有化合物の含有量は、要求される耐熱性等を考慮して決めれば特に限定されないものの、[A]化合物100質量部に対して[B]エステル構造含有化合物0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、2〜10質量部が特に好ましい。
【0133】
<他の重合体>
上記他の重合体は、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物の溶液特性、及び得られる有機EL発光体配向制御膜の電気特性をより改善するために使用することができる。かかる他の重合体としては、例えば上記式(3)で表される繰り返し単位とは異なる構造の繰り返し単位を有するポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に「他のポリオルガノシロキサン」ともいう。)、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0134】
<他のポリオルガノシロキサン>
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、上述のように、[A]化合物以外にも他のポリオルガノシロキサンを含んでいてもよい。本発明において他のポリオルガノシロキサンを含む場合、下記式(5)で表される繰り返し単位を有するポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0135】
【化27】

(式(5)中、Xは水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜20のアリール基であり、Yは水酸基又は炭素数1〜10のアルコキシ基である。)
【0136】
なお、当該有機EL発光体配向制御用組成物が、上記他のポリオルガノシロキサンを含む場合、他のポリオルガノシロキサンの大部分は、[A]化合物とは独立して存在しているもの、その一部は[A]化合物との縮合物として存在していてもよい。
【0137】
かかる他のポリオルガノシロキサンは、例えばアルコキシシラン化合物及びハロゲン化シラン化合物からなる群より選択される少なくとも1種のシラン化合物(以下、「原料シラン化合物」ともいう。)を、好ましくは適当な有機溶媒中で、水及び触媒の存在下において加水分解又は加水分解・縮合することにより合成することができる。
【0138】
ここで使用できる原料シラン化合物としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラクロロシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−i−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリ−i−プロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−sec−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。これらのうちテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン又はトリメチルエトキシシランが好ましい。
【0139】
他のポリオルガノシロキサンを合成する際に、任意的に使用することのできる有機溶媒としては、例えばアルコール化合物、ケトン化合物、アミド化合物もしくはエステル化合物又はその他の非プロトン性化合物を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0140】
上記アルコール化合物としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、ヘプタノール−3、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチルヘプタノール−4、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール化合物;
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンタンジオール−2,4、2−メチルペンタンジオール−2,4、ヘキサンジオール−2,5、ヘプタンジオール−2,4、2−エチルヘキサンジオール−1,3、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の多価アルコール化合物;
【0141】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール化合物の部分エーテル等を、それぞれ挙げることができる。これらのアルコール化合物は、1種であるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0142】
上記ケトン化合物としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、ジ−i−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェンチョン、アセトフェノン等のモノケトン化合物;
アセチルアセトン、2,4−ペンタンジオン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、2,4−オクタンジオン、3,5−オクタンジオン、2,4−ノナンジオン、3,5−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ヘプタンジオン等のβ−ジケトン化合物;
アセトニルアセトン等のγ−ジケトン化合物
等を、それぞれ挙げることができる。これらのケトン化合物は、1種であるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0143】
上記アミド化合物としては、例えばホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルモルホリン、N−アセチルピペリジン、N−アセチルピロリジン等を挙げることができる。これらアミド化合物は、1種であるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0144】
上記エステル化合物としては、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、マロン酸ジエチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等を挙げることができる。これらエステル化合物は、1種であるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0145】
上記その他の非プロトン性化合物としては、例えば、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N,N’,N’−テトラエチルスルファミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチルモルホリン、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−メチル−Δ3−ピロリン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、N−メチルイミダゾール、N−メチル−4−ピペリドン、N−メチル−2−ピペリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルテトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン等を挙げることができる。
これら溶媒のうち、多価アルコール化合物、多価アルコール化合物の部分エーテル、又はエステル化合物が特に好ましい。
【0146】
他のポリオルガノシロキサンの合成に際して使用する水の量としては、原料シラン化合物の有するアルコキシ基及びハロゲン原子の総量の1モルに対して、好ましくは0.01〜100モルであり、より好ましくは0.1〜30モルであり、さらに1〜1.5モルであることが好ましい。
【0147】
他のポリオルガノシロキサンの合成に際して使用できる触媒としては、例えば金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、アンモニア、アルカリ金属化合物等を挙げることができる。
【0148】
上記金属キレート化合物として、例えばトリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、
【0149】
トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等のチタンキレート化合物;
【0150】
トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、
【0151】
ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;
トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等が挙げられる。
【0152】
上記有機酸として、例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、アジピン酸、メチルマロン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、ミキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸等を挙げることができる。
【0153】
上記無機酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等を挙げることができる。
【0154】
上記有機塩基としては、例えばピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクラン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等を挙げることができる。
【0155】
上記アルカリ金属化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。これら触媒は、1種をあるいは2種以上を一緒に使用してもよい。
【0156】
これら触媒のうち、金属キレート化合物、有機酸又は無機酸が好ましい。金属キレート化合物としては、チタンキレート化合物が特に好ましい。
【0157】
触媒の使用量は、原料シラン化合物100質量部に対して好ましくは0.001〜10質量部であり、より好ましくは0.001〜1質量部である。
【0158】
触媒は、原料であるシラン化合物中又はシラン化合物を有機溶媒に溶解した溶液中に予め添加しておいてもよく、あるいは添加される水中に溶解又は分散させておいてもよい。
【0159】
他のポリオルガノシロキサンの合成に際して添加される水は、原料であるシラン化合物中又はシラン化合物を有機溶媒に溶解した溶液中に、断続的又は連続的に添加することができる。
【0160】
他のポリオルガノシロキサンの合成の際の反応温度としては、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは15〜80℃である。反応時間は好ましくは0.5〜24時間であり、より好ましくは1〜8時間である。
【0161】
<他の重合体の使用割合>
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が、[A]化合物と共に他の重合体を含有するものである場合、他の重合体の含有量としては、[A]化合物100質量部に対して10,000質量部以下であることが好ましい。他の重合体のより好ましい含有量は、他の重合体の種類により異なる。
【0162】
一方、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が、[A]化合物及び他のポリオルガノシロキサンを含有するものである場合における両者の好ましい使用割合は、[A]化合物100質量部に対する他のポリオルガノシロキサンの量として100〜2,000質量部である。本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が、[A]化合物とともに他の重合体を含有するものである場合、他の重合体の種類としては、他のポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【0163】
<硬化剤及び硬化触媒、並びに硬化促進剤>
上記硬化剤及び硬化触媒は、[A]化合物の架橋反応をより強固にする目的で本発明の有機EL発光体配向制御用組成物に含ませることができる。上記硬化促進剤は、硬化剤の司る硬化反応を促進する目的で本発明の有機EL発光体配向制御用組成物に含ませることができる。
【0164】
上記硬化剤としては、エポキシ基を有する硬化性化合物、又はエポキシ基を有する化合物を含有する硬化性組成物の硬化に一般に用いられている硬化剤を用いることができる。このような硬化剤としては、例えば多価アミン、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸を例示することができる。
【0165】
上記多価カルボン酸無水物としては、例えばシクロヘキサントリカルボン酸の無水物及びその他の多価カルボン酸無水物を挙げることができる。
【0166】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物の具体例としては、例えばシクロヘキサン−1,3,4−トリカルボン酸−3,4−無水物、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸−3,5−無水物、シクロヘキサン−1,2,3−トリカルボン酸−2,3−酸無水物等を挙げることができ、その他の多価カルボン酸無水物としては、例えば4−メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、下記式(6)
【0167】
【化28】

(式(6)中、pは1〜20の整数である。)
で表される化合物、及びポリアミック酸の合成に一般に用いられるテトラカルボン酸二無水物のほか、α−テルピネン、アロオシメン等の共役二重結合を有する脂環式化合物と無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応生成物及びこれらの水素添加物等を挙げることができる。
【0168】
上記硬化触媒としては、例えば6フッ化アンチモン化合物、6フッ化リン化合物、アルミニウムトリスアセチルアセトナート等を用いることができる。これらの触媒は、加熱によりエポキシ基のカチオン重合を触媒することができる。
【0169】
上記硬化促進剤としては、例えばイミダゾール化合物;
4級リン化合物;
4級アミン化合物;
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7やその有機酸塩の如きジアザビシクロアルケン;
オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、アルミニウムアセチルアセトン錯体の如き有機金属化合物;
三フッ化ホウ素、ホウ酸トリフェニルの如きホウ素化合物;
塩化亜鉛、塩化第二錫の如き金属ハロゲン化合物;
ジシアンジアミド、アミンとエポキシ樹脂との付加物の如きアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性硬化促進剤;
4級フォスフォニウム塩等の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性硬化促進剤;
アミン塩型潜在性硬化促進剤;
ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩の如き高温解離型の熱カチオン重合型潜在性硬化促進剤等を挙げることができる。
【0170】
<エポキシ化合物>
上記エポキシ化合物は、形成される有機EL発光体配向制御膜の基板又はアノード電極表面に対する接着性を向上させる観点から、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物に含ませてもよい。
【0171】
かかるエポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N,−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン等を好ましいものとして挙げることができる。
【0172】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物がエポキシ化合物を含有する場合、その含有割合としては、上記[A]化合物と任意的に使用される他の重合体との合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜40質量部以下であり、より好ましくは0.1〜30質量部である。
【0173】
なお、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物がエポキシ化合物を含有する場合、その架橋反応を効率良く起こす目的で、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等の塩基触媒を併用してもよい。
【0174】
<官能性シラン化合物>
上記官能性シラン化合物は、得られる有機EL発光体配向制御膜のアノード電極との接着性を向上する目的で使用することができる。官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、さらに特開昭63ー291922号公報に記載されている、テトラカルボン酸二無水物とアミノ基を有するシラン化合物との反応物等が挙げられる。
【0175】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が官能性シラン化合物を含有する場合、その含有割合としては、[A]化合物と任意的に使用される他の重合体との合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。
【0176】
<界面活性剤>
上記界面活性剤としては、例えばノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン界面活性剤、ポリアルキレンオキシド界面活性剤、含フッ素界面活性剤等を挙げることができる。
【0177】
当該有機EL発光体配向制御用組成物が上記界面活性剤を含む場合、その含有割合としては、有機EL発光体配向制御用組成物の全体100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。
【0178】
<光増感性化合物>
当該有機EL発光体配向制御用組成物に含有され得る光増感性化合物は、カルボキシル基、水酸基、−SH、−NCO、−NHR(ただし、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である)、−CH=CH及びSOClからなる群より選択される少なくとも1種の基並びに光増感性構造を有する化合物である。上記エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンと、特定桂皮酸誘導体及び光増感性化合物の混合物とを反応させることにより、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物に含有される[A]化合物は、特定桂皮酸誘導体に由来する感光性構造(桂皮酸構造)と光増感性化合物に由来する光増感性構造とを併有することとなる。この光増感性構造は、光の照射により励起し、この励起エネルギーを重合体内で近接する感光性構造に与える機能を有する。この励起状態は一重項であってもよく、三重項であってもよいが、長寿命や効率的なエネルギー移動に鑑み、三重項であることが好ましい。上記光増感性構造が吸収する光は、波長150〜600nmの範囲の紫外線又は可視光線であることが好ましい。波長が上記下限より短い光は、通常の光学系で取り扱うことができないため、光配向法に好適に用いることができない。一方、上記上限より波長の長い光は、エネルギーが小さく、上記光増感性構造の励起状態を誘起し難い。
【0179】
かかる光増感性構造としては、例えばアセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造、アントラキノン構造、ビフェニル構造、カルバゾール構造、ニトロアリール構造、フルオレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、アクリジン構造、インドール構造等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの光増感性構造は、それぞれ、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、ビフェニル、カルバゾール、ニトロベンゼンもしくはジニトロベンゼン、ナフタレン、フルオレン、アントラセン、アクリジン又はインドールから、1〜4個の水素原子を除去して得られる基からなる構造をいう。ここで、アセトフェノン構造、カルバゾール構造及びインドール構造のそれぞれは、アセトフェノン、カルバゾール又はインドールのベンゼン環が有する水素原子のうちの1〜4個を除去して得られる基からなる構造であることが好ましい。これらの光増感性構造のうち、アセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造、アントラキノン構造、ビフェニル構造、カルバゾール構造、ニトロアリール構造及びナフタレン構造からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、アセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造及びニトロアリール構造からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0180】
光増感性化合物としては、カルボキシル基及び光増感性構造を有する化合物であることが好ましく、さらに好ましい化合物として、例えば下記式(H−1)〜(H−10)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。
【0181】
【化29】

(式中、qは1〜6の整数である。)
【0182】
本発明で使用される[A]化合物は、上記の如きエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン及び特定桂皮酸誘導体に加え、光増感性化合物を合わせて、好ましくは触媒の存在下において、好ましくは有機溶媒中で反応させることにより合成してもよい。この場合、特定桂皮酸誘導体は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンのケイ素原子1モルに対して、好ましくは0.001〜1モル、より好ましくは0.1〜1モル、さらに好ましくは0.2〜0.9モルの範囲で使用される。光増感性化合物は、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンのケイ素原子1モルに対して、好ましくは0.0001〜0.5モル、より好ましくは0.0005〜0.2モル、さらに好ましくは0.001〜0.1モルの範囲で使用される。
【0183】
<有機EL発光体配向制御用組成物の調製>
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、上述の通り、[A]化合物を必須成分として含有し、その他に必要に応じて他の成分を含有するものであるが、好ましくは各成分が有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。なお、光配向性化合物と他の含有成分(例えば、ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体や他のポリオルガノシロキサン等)とは、有機EL発光体配向制御用組成物及び有機EL発光体配向制御膜のいずれの状態においても、互いに一部結合していてもよい。
【0184】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物を調製するために使用することのできる有機溶媒としては、[A]化合物、及び使用される他の成分を溶解し、これらと反応しないものが好ましい。本発明の有機EL発光体配向制御用組成物に好ましく使用することのできる有機溶媒は、任意的に添加される他の重合体の種類により異なる。
【0185】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物において、[A]化合物に対する好ましい有機溶剤としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして上記に例示した有機溶媒を挙げることができる。このとき、本発明のポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した貧溶媒を併用してもよい。これら有機溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0186】
一方、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物が、重合体として[A]化合物及び他のポリオルガノシロキサンを含有する場合における好ましい有機溶剤としては、例えば、1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレンブリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸n−ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸オクチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル等が挙げられる。この中で好ましくは、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル等を挙げることができる。
【0187】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物の調製に用いられる好ましい溶媒は、他の重合体の使用の有無及びその種類に従い、上記した有機溶媒の1種又は2種以上を組み合わせて得ることができる。このような溶媒は、下記の好ましい固形分濃度において有機EL発光体配向制御用組成物に含有される各成分が析出せず、且つ有機EL発光体配向制御用組成物の表面張力が25〜40mN/mの範囲となるものである。
【0188】
当該有機EL発光体配向制御用組成物の固形分濃度、すなわち有機EL発光体配向制御用組成物中の溶媒以外の全成分の質量が有機EL発光体配向制御用組成物の全質量に占める割合は、粘性、揮発性等を考慮して選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、基板又はアノード電極上に塗布されて、有機EL発光体配向制御膜となる塗膜を形成するが、固形分濃度が1質量%以上である場合には、この塗膜の膜厚が過小となりにくくなって良好な有機EL発光体配向制御膜を得ることができる。一方、固形分濃度が10質量%以下の場合には、塗膜の膜厚が過大となることを抑制して良好な有機EL発光体配向制御膜を得ることができ、また、有機EL発光体配向制御用組成物の粘性が増大することを防止して塗布特性を良好にすることができる。特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板又はアノード電極に有機EL発光体配向制御用組成物を塗布する際に採用する方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には1.5〜4.5質量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9質量%の範囲とし、それによって溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とするのが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5質量%の範囲とし、それによって溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とするのが特に好ましい。
【0189】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物を調製する際の温度は、好ましくは0℃〜200℃、より好ましくは0℃〜40℃である。
【0190】
<有機EL発光体配向制御膜>
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、光配向法により有機EL発光体層に異方性を付与する配向制御膜を形成するために好適に使用することができる。
【0191】
有機EL発光体配向制御膜を形成する方法としては、例えば、基板上にアノード電極を形成し、このアノード電極を覆うように当該有機EL発光体配向制御用組成物による塗膜を形成し、次いで該塗膜に異方性を有する偏光等を照射する光配向法により有機EL発光体配向能を付与する方法を挙げることができる。
【0192】
まず、本発明の有機EL発光体配向制御用組成物を、例えば、ロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法等の適宜の塗布方法により塗布する。そして、該塗布面を、予備加熱(プレベーク)し、次いで焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40〜120℃において0.1〜5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120〜300℃、より好ましくは150〜250℃において、好ましくは5〜200分、より好ましくは10〜100分である。ポストベーク後の塗膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0193】
次いで、上記塗膜に直線偏光若しくは部分偏光された光又は無偏光の光を照射することにより、有機EL発光体配向能を付与する。ここで、光としては、例えば150nm〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300nm〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。用いる光が直線偏光又は部分偏光している場合には、照射は基板面に垂直の方向から行っても、斜め方向から行ってもよく、また、これらを組み合わせて行ってもよい。無偏光の光を照射する場合には、照射の方向は斜め方向である必要がある。
【0194】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等を使用することができる。上記の好ましい波長領域の紫外線は、上記光源を、例えばフィルターや回折格子等と併用する手段等により得ることができる。
【0195】
光の照射量としては特に限定されないが、好ましくは1J/m以上10,000J/m未満であり、より好ましくは10〜3,000J/mである。なお、従来知られている有機EL発光体配向制御用組成物から形成された塗膜に対し、光配向法により有機EL発光体配向能を付与する場合、10,000J/m以上の光照射量が必要であった。しかし本発明の有機EL発光体配向制御用組成物を用いると、光配向法の際の放射線照射量が3,000J/m以下、さらに1,000J/m以下であっても良好な有機EL発光体配向能を付与することができ、有機EL素子の生産性向上と製造コストの削減に資する。
【0196】
有機EL発光体配向制御用組成物の塗布に際しては、基板やアノード電極との接着性をさらに良好なものにするために、基板やアノード電極上に、予め官能性シラン化合物、チタネート等を塗布しておいてもよい。
【0197】
<有機EL素子及びその製造方法>
本発明の有機EL素子について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す模式的断面図である。有機EL素子1は、基板2上に形成されたアノード電極3と、アノード電極3を覆うように形成された有機EL発光体配向制御膜4と、有機EL発光体配向制御膜4上に形成された有機EL発光体層5と、有機EL発光体層5上に形成されたカソード電極6とを備える。
【0198】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、基板上に形成されたアノード電極を覆うように、当該有機EL発光体配向制御用組成物を用いて塗膜を形成する工程、上記塗膜に直線偏光を照射して有機EL発光体配向制御膜を形成する工程、上記有機EL発光体配向制御膜上に有機EL発光体層を形成する工程、及び上記有機EL発光体層上にカソード電極を形成する工程
を有する。以下、各要素について説明する。
【0199】
<基板>
基板2は、可視光領域の光の透過率が高く、また有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好適に用いられ、リジッド板でも、フレキシブル板でもよく、例えばガラス板、プラスチック板、高分子フィルム及びシリコン板、並びにこれらを積層した積層板等が好適に用いられる。
【0200】
プラスチック板や高分子フィルムを構成する樹脂としては、例えば有機EL発光体層5及び後述する正孔注入層等を塗布法で成膜する際に使用される塗布液に溶解しないものが好ましい。具体的には、低密度又は高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミド等のアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル等のスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース等の疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体等の水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂等のエンジニアリングプラスチック系樹脂等が挙げられる。
【0201】
基板には作製プロセスでの耐熱性が求められるので、上述の樹脂の中でもガラス転移点Tgが、150℃以上の樹脂が好ましく、180℃以上の樹脂がより好ましく、200℃以上の樹脂がさらに好ましい。
【0202】
なお、トップエミッション型の有機EL素子では、基板から光が取出されないので透明の基板である必要がなく、透光性の基板でも不透光性の基板でもよい。
【0203】
<アノード電極>
アノード電極3は、透光性及び導電性を示す薄膜によって実現され、例えば金属酸化物膜及び金属薄膜等によって構成される。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅等の薄膜を挙げることができ、ITO、IZO、酸化スズ等の薄膜が好ましい。またアノード電極3として、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。アノード電極3の厚みは、光透過性と導電性とを考慮して適宜設定することができ、一般的には10nm〜10μm程度であり、好ましくは20nm〜1μm、さらに好ましくは50nm〜500nmである。なお、アノード電極側から光を取出さない場合には、アノード電極は不透明な陽極で形成してもよい。
【0204】
アノード電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0205】
<有機EL発光体配向制御膜>
有機EL素子1を構成する有機EL発光体配向制御膜4としては、上述の本発明の有機EL発光体配向制御膜を用いる。有機EL発光体配向制御膜4の構成や製造方法は上述の説明の通りであるので、ここでは省略する。
【0206】
<有機EL発光体層>
有機EL発光体層5は、有機EL発光体である発光性有機化合物を含んでおり、この発光する有機化合物(以下、単に「発光材料」ともいう)は、蛍光及び/又は燐光を発する有機物、若しくはこの有機物と、ドーパントとを含んで構成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的で付加される。発光材料は、低分子化合物又は高分子化合物のいずれでもよく、液晶性を示す材料が好ましい。有機EL発光体層を構成する発光材料としては、例えば以下のものを挙げることができる。有機EL発光体層は、白色を発光することが好ましい。
【0207】
色素系の発光材料としては、例えばシクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が挙げられる。
【0208】
金属錯体系の発光材料としては、中心金属に、Al、Zn、Be等、又はTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができ、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等を挙げることができる。
【0209】
高分子系の発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、及びポリビニルカルバゾール誘導体等、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したもの等が挙げられる。
【0210】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0211】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0212】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体等を挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が好ましい。
【0213】
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン等を挙げることができる。
【0214】
液晶性を示す発光材料の具体的な一例としては、例えば、Macromolecules2003,36、3457−3464、Appl.Phys.Lett.2006,89,121920、J.Phys.Chem.B107,4887(2003)、日本化学会春季年会3G7−40、Proc.SPIE2005,5963,59360Cに記載される液晶性発光材料が挙げられる。
【0215】
以上の発光材料のうちで配向し易い材料という観点からは、室温から50度の領域に液晶性を有するものが好ましい。なお、このような有機EL発光体層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0216】
有機EL発光体層を形成する工程では、まず例えば有機EL発光体層となる液晶性化合物(発光材料)を含む塗布液を用いた塗布法により有機EL発光体層用膜を形成する。
【0217】
有機EL発光体層用の塗布液は、溶液でも乳濁液でもよい。有機EL発光体層用の塗布液の溶媒は、液晶性化合物(発光材料)を溶解する液体であればよく、例えば正孔注入層用の塗布液の溶媒として挙げた溶媒を適宜用いることができ、また分散媒は、液晶性化合物(発光材料)を均質に分散可能な液体であればよい。
【0218】
塗布法としては、例えばスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法等のコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等を挙げられる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写等の方法によって、所望するところのみに有機EL発光体層を形成することもできる。
【0219】
このようにして形成した有機EL発光体層は、当該有機EL発光体配向制御膜上に形成されていることから、有機EL発光体が高度に一軸配向して優れた偏光発光効率を示すと共に、熱負荷後であっても高い割合で初期発光効率を維持することができる。
【0220】
<カソード電極>
カソード電極6は陰極として機能する。このようなカソード電極6の材料としては、仕事関数が小さく、有機EL発光体層5への電子注入が容易な材料が好ましく、また電気伝導度の高い材料が好ましい。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びIII−B族金属等の金属を用いることができ、さらに具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、又は上記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン及び錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、例えばマグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0221】
なお、透明な電極でカソード電極を構成する場合には、カソード電極は例えば上記の材料から成る薄膜と、導電性金属酸化物や導電性有機物等から成る薄膜とを積層した積層体で構成される。
【0222】
当該有機EL素子では、以上の構成の他、アノード電極と有機EL発光体配向制御膜との間に正孔の注入効率を改善するために必要に応じて正孔注入層を設けてもよい。
【0223】
<正孔注入層>
正孔注入材料としては、例えばフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0224】
正孔注入層を形成する工程では、まず例えば正孔注入機能を有する正孔注入材料を含む塗布液を用いた塗布法により機能層薄膜(正孔注入層用膜)を形成する。
【0225】
正孔注入層用の塗布液は、溶液でも乳濁液でもよい。正孔注入層用の塗布液の溶媒は、正孔注入材料を溶解する液体であればよく、また分散媒は、正孔注入材料を均質に分散可能な液体であればよい。溶媒としては、例えばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒、及び水を挙げることができる。
【0226】
塗布法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等を挙げることができる。
【0227】
図1の有機EL素子1では、アノード電極2とカソード電極6との間に有機EL発光体配向制御膜4及び有機EL発光体層5とが配置され、必要に応じてアノード電極2と有機EL発光体配向制御膜4との間に正孔注入層が配置される。しかし、有機EL素子1の構成は図1に示す構成に限らない。以下に有機EL素子のアノード電極とカソード電極との間の素子構成の一例について説明する。なおアノード電極及びカソード電極は、光の取出される側に配置される電極が少なくとも透明であればよく、一方を陽極、他方を陰極として用いればよいので、以下の説明では陽極及び陰極のうちのいずれか一方をアノード電極とし、他方をカソード電極として、アノード電極及びカソード電極の極性を特定せずに素子構成の一例を説明する。
【0228】
上述したように陽極と陰極との間には、少なくとも一層の有機EL発光体層が設けられていればよく、陽極と陰極との間には複数の有機EL発光体層、及び/又は有機EL発光体層とは異なる1又は複数の層を設けてもよい。
【0229】
陰極と有機EL発光体層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。陰極と有機EL発光体層との間に、電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い側に位置する層を電子注入層といい、有機EL発光体層に近い側に位置する層を電子輸送層という。
【0230】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、又は電子注入層、若しくは陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層又は電子輸送層が、正孔ブロック層を兼ねる場合がある。
【0231】
陽極と有機EL発光体層との間に設ける層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極と有機EL発光体層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極に近い側に位置する層を正孔注入層といい、有機EL発光体層に近い側に位置する層を正孔輸送層という。
【0232】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極又は正孔注入層、若しくは陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層又は正孔輸送層が、電子ブロック層を兼ねることがある。
【0233】
なお、電子注入層及び正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層及び正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。
【0234】
有機EL素子のとりうる層構成の具体的な一例を以下に示す。
a)陽極/正孔輸送層/有機EL発光体層/陰極
b)陽極/有機EL発光体層/電子輸送層/陰極
c)陽極/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/陰極
d)陽極/電荷注入層/有機EL発光体層/陰極
e)陽極/有機EL発光体層/電荷注入層/陰極
f)陽極/電荷注入層/有機EL発光体層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/有機EL発光体層/電荷注入層/陰極
i)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/有機EL発光体層/電荷輸送層/陰極
k)陽極/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
l)陽極/電荷注入層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
m)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電荷輸送層/陰極
n)陽極/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
o)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、この記号「/」を挟む2つの層が隣接して積層されることを示す。以下同じ。)
【0235】
また、有機EL素子は、2層以上の有機EL発光体層を有していてもよい。2層の有機EL発光体層を有する有機EL素子の具体例としては、
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/電極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
の層構成を有するものが挙げられる。
【0236】
また、3層以上の有機EL発光体層を有する有機EL素子としては、(電極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位とすると、
q)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/有機EL発光体層/電子輸送層/電荷注入層/繰り返し単位/繰り返し単位/・・・/陰極
のように、2つ以上の繰り返し単位を含む層構成を有するものが挙げられる。
【0237】
上記層構成p及びqにおいて、陽極、陰極、有機EL発光体層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
【0238】
基板2から光を取出すボトムエミッション型の有機EL素子では、有機EL発光体層を基準にして、基板2側に配置される層を全て透明な層で構成する。また後述するように有機EL発光体層を基準にして基板とは反対側から光を取出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子では、有機EL発光体層を基準にして、基板とは反対側に配置される層を全て透明な層で構成する。
【0239】
有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や、電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して膜厚が2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために、隣接する上記各層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0240】
以下、各層の具体的な構成について説明する。なお有機EL発光体層5及び正孔注入層については、上述したので重複する説明を省略する。また、陽極及び/又は陰極には、それぞれ上述したアノード電極又はカソード電極を適宜用いることができるので重複する説明を省略する。
【0241】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等が挙げられる。
【0242】
これらの正孔輸送材料の中で、正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子の正孔輸送材料が好ましく、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体等がさらに好ましい。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0243】
正孔輸送層の成膜方法としては、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法を挙げることができる。
【0244】
正孔輸送層を製造する工程では、まず例えば正孔輸送材料を含む塗布液を用いた塗布法により機能性薄膜(正孔輸送層用膜)を形成する。
【0245】
正孔輸送層用の塗布液は、溶液でも乳濁液でもよい。正孔輸送層用の塗布液の溶媒は、正孔輸送材料を溶解する液体であればよく、例えば正孔注入層用の塗布液の溶媒として挙げた溶媒を適宜用いることができ、また分散媒は、正孔輸送材料を均質に分散可能な液体であればよい。
【0246】
塗布法としては、上述した正孔注入層及び有機EL発光体層の形成に用いられる塗布法として挙げた塗布法を適宜用いることができる。
【0247】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等)ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0248】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0249】
<電子ブロック層>
電子ブロック層は、上述したように電子の輸送を堰き止める機能を有する層であり、例えば正孔注入層と有機EL発光体層とを有する素子構成の場合には、該正孔注入層と有機EL発光体層との間に設けられる層(通常、正孔輸送層)を意味する。
【0250】
電子ブロック層を備える有機EL素子の層構成の具体的な一例を以下のq)〜t)に示す。
q)陽極/電子ブロック層/有機EL発光体層/陰極
r)陽極/正孔輸送層/電子ブロック層/有機EL発光体層/陰極
s)陽極/電子ブロック層/有機EL発光体層/電子輸送層/陰極
t)陽極/正孔輸送層/電子ブロック層/有機EL発光体層/電子輸送層/陰極
【0251】
電子ブロックを構成する電子ブロック材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の、芳香族アミンを含むポリマーが例示される。
【0252】
電子ブロック層の成膜の方法に制限はないが、例えば高分子材料を用いる場合においては溶液からの成膜による方法が例示される。
【0253】
電子ブロック層を製造する工程では、まず例えば電子ブロック材料を含む塗布液を用いた塗布法により機能性薄膜(電子ブロック層用膜)を形成する。
【0254】
電子ブロック層用の塗布液は、溶液でも乳濁液でもよい。電子ブロック層用の塗布液の溶媒は、電子ブロック材料を溶解する液体であればよく、例えば電子ブロック層用の塗布液の溶媒として挙げた溶媒を適宜用いることができ、また分散媒は、電子ブロック材料を均質に分散可能な液体であればよい。
【0255】
塗布法としては、上述した電子ブロック層及び有機EL発光体層の形成に用いられる塗布法として挙げた塗布法を適宜用いることができる。
【0256】
また、電子ブロック層用の塗布液は、高分子バインダーとの混合溶液でもよい。混合する高分子バインダーとしては、電子ブロック機能を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0257】
電子ブロック層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、電子ブロック層の膜厚としては、例えば1nm〜500μmであり、好ましくは2nm〜200nmであり、さらに好ましくは5nm〜100nmである。
【0258】
<電子注入層>
電子注入層を構成する電子注入材料としては、有機EL発光体層の種類に応じて、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は上記金属を1種類以上含む合金、又は上記金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、又は上記物質の混合物等が挙げられる。アルカリ金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0259】
電子注入層は、2層以上を積層した積層体であってもよい。積層体の具体例としては、LiF/Ca等が挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等によって形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0260】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、例えばオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等を挙げることができる。
【0261】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0262】
上述の有機EL素子1を用いることによって、有機EL素子を備える照明装置、又は有機EL素子を複数備える表示装置を実現することができる。
【0263】
当該有機EL素子は、液晶表示装置のバックライト、照明装置、面状光源、セグメント表示装置及びドットマトリックス表示装置の光源として用いることができ、当該有機EL素子はそれ自体が直線偏光を発するので、特に液晶表示装置のバックライトとして好適に用いられる。
【0264】
当該有機EL素子を面状光源として用いる場合には、例えば面状の陽極と陰極とを積層方向の一方から見て重なり合うように配置すればよい。またセグメント表示装置の光源として所定のパターンで発光する有機EL素子を構成するには、光を通す窓が所定のパターンで形成されたマスクを上記面状光源の表面に設置する方法、消光すべき部位の有機物層を極端に厚く形成して実質的に非発光とする方法、陽極及び陰極のうちの少なくともいずれか一方の電極を所定のパターンで形成する方法がある。これらの方法で所定のパターンで発光する有機EL素子を形成するとともに、いくつかの電極に対して選択的に電圧を印加できるように配線を施すことによって、数字や文字、簡単な記号等を表示可能なセグメントタイプ表示装置を実現することができる。
【0265】
ドットマトリックス表示装置の光源とするためには、陽極と陰極とをそれぞれストライプ状に形成して、積層方向の一方からみて互いに直交するように配置すればよい。部分カラー表示、マルチカラー表示が可能等ドットマトリックス表示装置を実現するためには、発光色の異なる複数の種類の発光材料を塗り分ける方法、並びにカラーフィルター及び蛍光変換フィルター等を用いる方法を用いればよい。ドットマトリックス表示装置は、パッシブ駆動してもよく、TFT等と組み合わせてアクティブ駆動してもよい。これらの表示装置は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダー等の表示装置として用いることができる。
【0266】
さらに、上記面状光源は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト、あるいは面状の照明装置として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いることで、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【0267】
バックライトは、面状に形成した当該有機EL素子と、例えば拡散板とを積層させて構成される。また液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルに電場をかける一対の電極と、液晶セルを挟んで配置される一対の偏光板と、該一対の偏光板の一方に光を照射する上記バックライトとを含んで構成される。なお、偏光度合いの高い有機EL素子を用いる場合には、一対の偏光板のうち、バックライト側の偏光板を省略してもよい。上述したように当該有機EL素子は、所定の方向に偏光した光を発するので、バックライトから放出される光も偏光した光であり、このようなバックライトを液晶表示装置に用いると、偏光板での光の損失を低減することができる。これによって消費電力の低い液晶表示装置を実現することができる。
【実施例】
【0268】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0269】
以下の実施例において得られたエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン及び[A]化合物の質量平均分子量(Mw)は、下記仕様のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
なお、以下の実施例において用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの原料化合物及び重合体の合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0270】
<エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンの合成>
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(ECETS)100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。
次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機層を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄したのち、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンを粘稠な透明液体として得た。
【0271】
このエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンについて、H−NMR分析を行なったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にエポキシ基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。得られたエポキシ基を有するポリオルガノシロキサンのMwは2,200であり、エポキシ当量は186であった。
【0272】
<特定桂皮酸誘導体の合成>
特定桂皮酸誘導体の合成反応は全て不活性雰囲気中で行った。
[合成例2]
冷却管を備えた500mLの三口フラスコに4−ブロモジフェニルエーテル20g、酢酸パラジウム0.18g、トリス(2−トリル)ホスフィン0.98g、トリエチルアミン32.4g、ジメチルアセトアミド135mLを混合した。次にシリンジでアクリル酸を7g混合溶液に加え撹拌した。この混合溶液を更に120℃で3時間加熱撹拌した。TLCで反応の終了を確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。沈殿物をろ別した後、ろ液を1N塩酸水溶液300mLに注ぎ、沈殿物を回収した。この沈殿物を酢酸エチルとヘキサン1:1溶液で再結晶することにより下記式(K−1)で表される化合物(特定桂皮酸誘導体(K−1))を8.4g得た。
【0273】
【化30】

【0274】
[合成例3]
冷却管を備えた300mLの三口フラスコに4−フルオロフェニルボロン酸6.5g、4−ブロモ桂皮酸10g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム2.7g、炭酸ナトリウム4g、テトラヒドロフラン80mL、純水39mLを混合した。引き続き反応溶液を80℃で8時間加熱撹拌し、反応終了をTLCで確認した。反応溶液を室温まで冷却後、1N−塩酸水溶液200mLに注ぎ、析出固体をろ別した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、1N−塩酸水溶液100mL、純水100mL、飽和食塩水100mLの順で分液洗浄した。次に有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた固体を真空乾燥し、下記式(K−2)で表される化合物(特定桂皮酸誘導体(K−2))を9g得た。
【0275】
【化31】

【0276】
[合成例4]
冷却管を備えた200mLの三口フラスコに、4−フルオロスチレン3.6g、4−ブロモ桂皮酸6g、酢酸パラジウム0.059g、トリス(2−トリル)ホスフィン0.32g、トリエチルアミン11g、ジメチルアセトアミド50mLを混合した。この溶液を120℃で3時間加熱撹拌し、TLCで反応の終了を確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。沈殿物をろ別した後、ろ液を1N塩酸水溶液300mLに注ぎ、沈殿物を回収した。これらの沈殿物を酢酸エチルで再結晶することにより下記式(K−3)で表される化合物(特定桂皮酸誘導体(K−3))を4.1g得た。
【0277】
【化32】

【0278】
[合成例5]
冷却管を備えた200mLの三口フラスコに4−ビニルビフェニル9.5g、4−ブロモ桂皮酸10g、酢酸パラジウム0.099g、トリス(2−トリル)ホスフィン0.54g、トリエチルアミン18g、ジメチルアセトアミド80mLを混合した。この溶液を120℃で3時間加熱撹拌し、TLCで反応の終了を確認した後、反応溶液を室温まで冷却した。沈殿物をろ別した後、ろ液を1N塩酸水溶液500mLに注ぎ、沈殿物を回収した。これらの沈殿物をジメチルアセトアミド、エタノール1:1溶液で再結晶することにより下記式(K−4)で表される化合物(特定桂皮酸誘導体(K−4))を11g得た。
【0279】
【化33】

[合成例6]
1Lのナス型フラスコに4−ヒドロキシ安息香酸メチル91.3g、炭酸カリウム182.4g及びN−メチル−2−ピロリドン320mLを仕込み、室温で1時間撹拌を行った後、1−ヨード−4,4,4−トリフロロブタン110.9gを加え100℃で5時間撹拌した。反応終了後、水で再沈殿を行った。次いで、この沈殿に水酸化ナトリウム48g及び水400mLを加えて3時間還流して加水分解反応を行った。反応終了後、塩酸で中和し、生じた沈殿をエタノールで再結晶することにより4−(4,4,4−トリフルオロブチルオキシ)安息香酸の白色結晶を102g得た。得られた4−ペンチルオキシ安息香酸のうち10.41gを反応容器中にとり、これに塩化チオニル100mL及びN,N−ジメチルホルムアミド77mLを加えて80℃で1時間撹拌した。続いて、減圧下で塩化チオニルを留去し、塩化メチレンを加えて炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮を行った後、テトラヒドロフランを加えて溶液とした。次に、上記とは別の500mL三口フラスコに4−ヒドロキシ桂皮酸7.39g、炭酸カリウム13.82g、テトラブチルアンモニウム0.48g、テトラヒドロフラン50mL及び水100mLを仕込んだ。この水溶液を氷冷し、上記テトラヒドロフラン溶液をゆっくり滴下し、さらに2時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、塩酸を加えて中和し、酢酸エチルで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮を行った後、エタノールで再結晶することにより、下記式(K−5)で表される化合物(特定桂皮酸誘導体(K−5))の白色結晶を9.2g得た。
【0280】
【化34】

【0281】
<[A]光配向性化合物の合成>
[合成例7]
100mLの三口フラスコに、上記合成例1で得たエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン9.3g、メチルイソブチルケトン26g、上記合成例2で得た特定桂皮酸誘導体(K−1)3g及び商品名「UCAT 18X」(サンアプロ(株)製の4級アミン塩である。)0.10gを仕込み、80℃で12時間撹拌した。反応終了後、メタノールで再沈殿を行い、沈殿物を酢酸エチルに溶解して溶液を得、この溶液を3回水洗した後、溶剤を留去することにより、[A]光配向性化合物(S−1)を白色粉末として6.3g得た。[A]光配向性化合物(S−1)の質量平均分子量Mwは3500であった。
【0282】
[合成例8]
合成例3で得た特定桂皮酸誘導体(K−2)3gを用いたこと以外は合成例7と同様に行った。その結果、[A]光配向性化合物(S−2)の白色粉末を7.0g得た。[A]光配向性化合物(S−2)の質量平均分子量Mwは4900であった。
【0283】
[合成例9]
合成例4で得た特定桂皮酸誘導体(K−3)4gを用いたこと以外は合成例7と同様に行った。その結果、[A]光配向性化合物(S−3)の白色粉末を10g得た。[A]光配向性化合物(S−3)の質量平均分子量Mwは5000であった。
【0284】
[合成例10]
合成例5で得た特定桂皮酸誘導体(K−4)4.1gを用いたこと以外は合成例7と同様に行った。その結果、[A]光配向性化合物(S−4)の白色粉末を10g得た。[A]光配向性化合物(S−4)の質量平均分子量Mwは4200であった。
【0285】
[合成例11]
200mLの三口フラスコに、上記合成例1で得たエポキシ基を有するポリオルガノシロキサン5.0g、メチルイソブチルケトン46.4g、合成例6で得た特定桂皮酸誘導体(K−5)5.3g(エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンの有するケイ素原子に対して50モル%に相当する。)、光増感性化合物として下記式(H−1−1)
【0286】
【化35】

【0287】
で表される化合物1.08g(エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンの有するケイ素原子に対して20モル%に相当する。)及びテトラブチルアンモニウムブロミド0.10gを仕込み、80℃で12時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、メタノールで再沈殿を行い、沈殿物を酢酸エチルに溶解して溶液を得、該溶液を3回水洗した後、溶媒を留去することにより、[A]光配向性化合物(S−5)を白色粉末として2.8g得た。[A]光配向性化合物(S−5)の質量平均分子量Mwは12,500であった。
【0288】
[合成例12]
ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)13.1gをN−メチル−2−ピロリドン50mlに加熱溶解し、室温まで冷やした後、ピリジン10mlを添加した。これに塩化シンナモイル17.0gを加え、8時間攪拌した。反応混合物をN−メチル−2−ピロリドンで希釈した後メタノールに加え、沈殿を十分に水洗し乾燥することで[A]光配向性化合物(S−6)25gを得た。
【0289】
<[B]エステル構造含有化合物の合成>
下記スキームに従って、エステル構造含有化合物(B−1−1)を合成した。
【0290】
【化36】

【0291】
[合成例13]
還流管、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの三口フラスコにトリメシン酸21g、n−ブチルビニルエーテル60g及びリン酸0.09gを仕込み、50℃で30時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物にヘキサン500mLを加えて得た有機層につき、1M水酸化ナトリウム水溶液で2回及び水で3回、順次に分液洗浄した。その後、有機層から溶媒を留去することにより、エステル構造含有化合物(B−1−1)を無色透明の液体として50g得た。
【0292】
<有機EL発光体配向制御用組成物の調製>
〔実施例1〕
組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(質量比)である溶媒に、上記合成例7で得た[A]光配向性化合物(S−1)100質量部を溶解し、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより、有機EL発光体配向制御用組成物(A−1)を調製した。
【0293】
〔実施例2〜5〕
[A]光配向性化合物を変更することにより種々の有機EL発光体配向制御用組成物(A−2)〜(A−5)を実施例1と同様に調製した。なお、実施例4では、[A]化合物100質量部に対して、さらに合成例12で得られたエステル構造含有化合物(B−1−1)を5質量部添加して有機EL発光体配向制御用組成物(A−4)を調製した。これらの配合を表1に示す。
【0294】
〔実施例6〕
[A]光配向性化合物(S−6)にN−メチル−2−ピロリドン及びブチルセロソルブを加えて、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより、有機EL発光体配向制御用組成物(A−6)を調製した。
【0295】
〔比較例1〕
4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)アゾベンゼン1.00gと2、2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.01gと乾燥したベンゼン2.00gとをアンプルに入れて脱気した後、封管し、これをメタノール中に注ぎ高分子化合物の沈殿物を得た。これをろ過した後、再度、沈殿物をベンゼンに溶解しメタノールで再沈殿してろ過する操作を2回繰り返した後、乾燥させた。これにN−メチル−2−ピロリドン及びブチルセロソルブを加えて、溶媒組成がN−メチル−2−ピロリドン:ブチルセロソルブ=50:50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより、組成物(CA−1)を調製した。
【0296】
<有機EL発光体配向制御膜の形成及び有機EL素子の作成>
アノード電極であるITOをコートしたガラス基板(シート抵抗15Ω/□)をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、次いで純水で洗浄し、さらにイソプロピルアルコールでリンスしてただちに乾燥させた。このアノード電極を形成した基板上に、実施例1で調製した有機EL発光体配向制御用組成物(A−1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中にて200℃で1時間加熱(ポストベーク)して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。形成後の膜厚が0.1μmになるように、スピンナー回転数を2000回転、配向制御膜溶剤の固形分濃度を4.0質量%とした。次いで、この塗膜表面に、Hg−Xeランプ及びグレンテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む直線偏向紫外線を、基板法線から垂直に照射して有機EL発光体配向制御膜とした。このときの形成した塗膜における光配向性基の配向に必要な光照射量を測定し、光配向性の感度の指標とした。なお、光配向性基の配向は、偏光顕微鏡を用いて確認した。
【0297】
次に、配向制御膜を施した基板を真空チャンバー内の基板ホルダーに導入し、10−5Paまで真空排気を行った。蒸発セルを加熱し、有機EL発光体配向制御膜上に発光体分子として下記式(7−1)〜式(7−5)に示すスチリルスチルベン誘導体のトランス−トランス体を共蒸着して有機EL発光体層(厚さ50nm)を作製した。
【0298】
【化37】

【0299】
【化38】

【0300】
【化39】

【0301】
【化40】

【0302】
【化41】

【0303】
モル組成比式(7−1):式(7−2):式(7−3):式(7−4):式(7−5)はおよそ1:2:2:3:2とした。このとき基板温度は25℃とした。
【0304】
次に、MgとAgを共蒸着して、カソード電極(厚さ50nm、Mg:Ag=10:1重量比)を作製し、上述した図1に示す構造をもつ有機EL素子を得た。
【0305】
実施例2〜6及び比較例1で調製した組成物についても同様にして有機EL素子を作製した。これらの有機EL素子について、以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0306】
<有機EL素子の評価>
(1)初期発光効率の評価
上記手順で作製した有機EL素子を10mA/cmの直流電流により発光させ、発光体分子の配向方向に偏光板の偏光軸を平行に配置し、偏光板を通した際の発光効率(偏光発光効率)(Cd/A)を初期発光効率として測定した。
【0307】
(2)熱負荷後の発光効率の評価
当該有機EL素子を加熱条件に置き、熱負荷後の発光効率を測定して熱に対する安定性を評価した。具体的には、上記手順で作製した有機EL素子を70℃に設定したオーブン中にて500時間加熱し、その後、上記「(1)初期発光効率の評価」と同じ手順で熱負荷後の発光効率を測定した。評価結果を表1に示す。併せて、熱負荷後における発光効率の維持率についても表1に示す。
【0308】
【表1】

【0309】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜6の有機EL発光体配向制御用組成物によると、これらを用いて有機EL発光体配向制御膜を作製する際の光配向に必要な光照射量が極めて低く光配向の感度が良好であった。また、当該配向制御膜を備える当該有機EL素子では高い偏光発光効率が達成され、さらに当該有機EL素子では、熱負荷後においても当初の発光効率が高い割合で維持されており、優れた耐熱性が得られる結果となった。特に、実施例1〜5の有機EL発光体配向制御用組成物を用いて作成した配向膜は、熱付加後の発行効率の低下が極めて小さく、耐熱性が優れることがわかる。比較例1の組成物を用いて作製した配向膜では、光配向の光照射量として20000J/mも要した。また、比較例1では、偏光発光効率が実施例の有機EL素子の偏光発光効率と比較して大幅に下回る値となったことに加え、熱負荷後の発光効率も大幅に低下しており、耐熱性にも劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0310】
本発明の有機EL発光体配向制御用組成物は、桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物を含有しているので、上述のように、光配向性の感度が良好で、熱負荷後の発光効率の安定性に優れ、当該有機EL発光体配向制御膜を備える有機EL素子では、当該有機EL発光体配向制御膜表面の光配向性基により有機EL発光体の異方的配向を高いレベルで誘起することができ、その結果、優れた偏光発光効率を達成することができる。
【符号の説明】
【0311】
1 有機EL素子
2 基板
3 アノード電極
4 有機EL発光体配向制御膜
5 有機EL発光体層
6 カソード電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]桂皮酸構造を含む光配向性基を有する化合物
を含有する有機EL発光体配向制御用組成物。
【請求項2】
[A]化合物がポリオルガノシロキサン化合物である請求項1に記載の有機EL発光体配向制御用組成物。
【請求項3】
上記桂皮酸構造を含む光配向性基が、下記式(1)で表される化合物に由来する基及び(2)で表される化合物に由来する基からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の有機EL発光体配向制御用組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン、ビフェニレン基、ターフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10のアルキル基、置換基としてフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子、−CH=CH−、−NH−又は−COO−である。aは、0〜3の整数であり、aが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rはフッ素原子又はシアノ基であり、bは0〜4の整数である。
式(2)中、Rは、フェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、このフェニレン基又はシクロヘキシレン基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルキル基、炭素数1〜10の鎖状又は環状のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基で置換されてもよい。Rは、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子、硫黄原子又は−NH−である。cは、1〜3の整数であり、cが2以上の場合、R及びRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、フッ素原子又はシアノ基であり、dは0〜4の整数である。Rは、酸素原子、−COO−*又は−OCO−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がRと結合する)である。Rは、2価の芳香族基、2価の脂環式基、2価の複素環式基又は2価の縮合環式基である。Rは、単結合、−OCO−(CH−*又は−O(CH−*(ただし、以上において「*」を付した結合手がカルボキシル基と結合する)である。f及びgはそれぞれ1〜10の整数であり、eは0〜3の整数である。)
【請求項4】
[A]化合物が、
エポキシ基を有する1価の有機基を含むポリオルガノシロキサン、その加水分解物及びその加水分解物の縮合物からなる群より選択される少なくとも1種と、
上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種と
の反応生成物である請求項3に記載の有機EL発光体配向制御用組成物。
【請求項5】
上記エポキシ基を有する1価の有機基が、下記式(X−1)又は(X−2)で表される請求項4に記載の有機EL発光体配向制御用組成物。
【化2】

【化3】

(式(X−1)中、Aは酸素原子又は単結合である。hは1〜3の整数であり、iは0〜6の整数である。ただし、iが0の場合、Aは単結合である。
式(X−2)中、jは1〜6の整数である。
式(X−1)及び(X−2)中、「*」は、それぞれ結合手であることを示す。)
【請求項6】
[B]カルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造、カルボン酸の1−アルキルシクロアルキルエステル構造及びカルボン酸のt−ブチルエステル構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を2個以上有する化合物
をさらに含有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の有機EL発光体配向制御用組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有機EL発光体配向制御用組成物により形成される有機EL発光体配向制御膜。
【請求項8】
基板上に形成されたアノード電極と、
上記アノード電極を覆うように形成された請求項7に記載の有機EL発光体配向制御膜と、
上記有機EL発光体配向制御膜上に形成された有機EL発光体層と、
上記有機EL発光体層上に形成されたカソード電極と
を備える有機EL素子。
【請求項9】
基板上に形成されたアノード電極を覆うように、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有機EL発光体配向制御用組成物を用いて塗膜を形成する工程、
上記塗膜に直線偏光を照射して有機EL発光体配向制御膜を形成する工程、
上記有機EL発光体配向制御膜上に有機EL発光体層を形成する工程、及び
上記有機EL発光体層上にカソード電極を形成する工程
を有する有機EL素子の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2011−205062(P2011−205062A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6989(P2011−6989)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】