説明

有機EL発光素子およびその製造方法

【課題】隣接画素間での混色が無く、画素上下端部の発光ムラの無い有機EL発光素子を容易にそして安価に提供する
【解決手段】少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、画素(R,G,B)がストライプ状に形成され、両電極から有機発光層に電流を流すことにより前記有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子において、前記隔壁のうちRGBストライプ方向に平行な隔壁の高さ0.5μmから 5.0μmで、RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さ0.1μmから 2.0μmであって、且つ、RGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁の高さを平行な隔壁に対して低くかつ高さの比を5:1〜5:4とした事を特徴とする有機EL発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光デバイスは、二つの対向する電極の間に少なくとも正孔輸送材料からなる正孔輸送層及び有機発光材料からなる有機発光層が形成される。 なお、本明細書ではこれらの層を合わせて有機発光媒体層と称する。有機発光デバイスはこれらの有機発光媒体層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには有機発光層の膜厚が重要であり、100nm程度の薄膜にする必要がある。 さらに、これをディスプレイパネル化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料が有り、一般に低分子材料は真空蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。 また、真空中で成膜するためにスループットが悪いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では高分子材料や低分子材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。 薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、スリットコート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするめには、これらのウェットコーティング法では難しく、塗りわけ・パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0005】
しかしこれらの高分子の有機発光材料を溶媒に溶解または分散させて有機発光インキとした場合、有機発光材料の溶解性から濃度を1%前後とする必要があった。 この有機発光インキを印刷する方法としては、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法(特許文献1)や同じく弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法(特許文献2)、さらにはインクジェット法(特許文献3)などが提案されている。
【0006】
オフセット印刷法は画線が形成されている版にインキを付け、そのインキを弾性を持つ平滑なブランケットに転移させ、さらにブランケットから被印刷基板にインキを転写することで印刷する方式であるが、被印刷基板に印刷する前のブランケット上にあるインキは半乾燥状態にあり、半乾燥状態のインキパターンが被印刷基板に転写印刷される。 ただし、オフセット印刷用に用いられるブランケットは有機発光インキに用いられる芳香族有機溶剤に対して膨潤や変形を起こしやすいという問題がある。
【0007】
これに対し、凸版印刷法やインクジェット法にて被印刷基板上に有機発光層を形成する場合、濃度が1%前後の有機発光インキがそのままの状態で被印刷基板に転写される。 したがって、有機発光インキをRGB三色に塗りわけする場合、有機発光インキが隣の画素まで広がってしまい、混色が生じてしまう。 したがって、インキの広がりを抑えるために隔壁を設けること、隔壁によって仕切られた画素電極内に有機発光インキを印刷することが提案されている。
【0008】
凸版印刷法とは広義には画線部が凸形状をしている版すなわち凸版を用いるすべての印刷法をいうが、本発明で述べる凸版印刷法とはゴム版または樹脂版からなる凸版を用いる印刷法を示すこととする。 また印刷業界ではゴム凸版を用いるものをフレキソ印刷とい
い、樹脂凸版を用いるものを樹脂凸版印刷と区別して呼んでいるが、本発明では両者を特に区別せず凸版印刷法と呼ぶこととする。凸版印刷法で用いられるゴム版や樹脂版は、現在は感光性のゴム版や樹脂版が主に用いられるが、凸版の材質も多様化し、感光性ゴム版と感光性樹脂版の区別も不明確になってきており、本発明ではこの区別も特に設けず、両者とも感光性樹脂凸版と呼ぶこととする。
【0009】
感光性樹脂凸版とは、画線部にのみ光が透過するマスクを利用して感光性樹脂を露光し画線部を硬化させ、未硬化部分を洗剤等で洗い流すことで凸版を形成された凸版であるが、主に溶剤で洗い出す溶剤現像タイプと水で洗い出す水現像タイプのものがあり、それぞれ版材が疎水性成分を主成分とするか、親水性成分を主成分とするかで異なる。主成分が疎水性成分である溶剤現像タイプの感光性樹脂凸版は有機発光インキ溶剤として用いられるトルエンやキシレン等の芳香族系の有機溶剤に対する耐性がなく、有機EL印刷用の版材としては不適切である。 しかし、親水性成分である水現像タイプの感光性樹脂凸版は、芳香族系の有機溶剤に対する耐性が高い。
【0010】
インクジェット法はインクジェットノズルから有機発光インキを被印刷部位に複数回滴下し有機発光層を形成する方式であり、ノズルと被印刷基板に距離があり、インキは自身の重量でのみ隔壁で仕切られた被印刷部位に広がる。 一方、凸版印刷法では凸版の凸部を被印刷部位に接触させるため、版による押し付けと隔壁により形成された空間を凸版が埋めることによりインキは隔壁で囲まれた画素内を横方向に広げられる。
【0011】
インクジェット法では被印刷部位の縁部である隔壁近傍において有機発光インキが印刷されずにインキハジキが発生しやすい。 インキハジキが発生した場合、有機EL表示装置とした際にショートしてしまうという問題があった。これに対し、凸版印刷法ではインキハジキが発生しにくいという長所を有する。
【0012】
ここで、インキのハジキや混色という問題が上記のインキを用いた形成方法では常に問題となっていた。つまり、混色を防止するためには隔壁表面の撥水性が必要となるが、撥水性は画素内の隔壁との境界部分でのハジキを発生しやすくする。 ハジキを防止するために隔壁の濡れ性を向上すると、隣接画素の塗液が隣接する画素へ流れ込みやすくなり混色の発生につながりやすくなる。これらの問題を解決するために、隔壁に対して様々な表面処理を行い、撥水と親水を両立するための方法が提案されている(特許文献4,5)。 しかしながら、いずれの方法においても撥水と親水性を両立させるためには多くの工程が必要となることや、プラズマ処理などの複雑な工程が必要となるため、コストや歩留まりの点で優れているとは言いがたいものであった。
【0013】
凸版印刷法の場合、直接インキを画素押し込み設置していく様な印刷形態となり、特に撥水処理しなくても混色が発生しにくいという特徴がある。 しかしながら、インキを画素に押し込みながら印刷するために、隔壁が画素毎に分断されておらず、印刷方向と平行なストライプ形状で形成されている場合、インキが版により印刷方向側に押し出されていく現象が発生し、印刷開始側と印刷終了側での膜厚が変化すると言った問題があった。
【0014】
一方隔壁形状が画素毎に区切られている格子状の隔壁形状とした場合、上記のような印刷方向での膜厚変化は見られなくなるが、版と垂直に交差することになる隔壁部では、インキが広く広がってしまい、この部分を起点に隣接画素に混色する危険が大きかった。 この様な隔壁で混色を防ぐためにインキの粘度やプロセスである程度調整することは可能であるが、そのために印刷可能な粘度範囲が狭くなり、プロセス対応範囲が狭くなるなどのデメリットが発生していた。
【0015】
ところで、正孔輸送層は有機発光インキとは異なりパターニングせずに、有機ELディ
スプレイパネルの画像形成に関わる部分全体に全面形成いわゆるベタ形成する方法が一般的であり、真空蒸着法やスパッタリング法、または塗布型の正孔輸送材料をスピンコート法やダイコート法といったコーティング法を用いて形成されてきた。 これは、正孔輸送層の膜厚は一般に100nm以下の薄膜であり、層の横方向へ流れる電流よりも厚み方向へ流れる電流のほうが圧倒的であり、よって電極がパターニングされていれば、電流の画素の外へのリークは非常に少ないと言われているためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2002−305077号公報
【特許文献4】特許第3328297号公報
【特許文献5】特開2002−6129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明では少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、両電極から有機発光層に電流を流すことにより有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子において、隣接画素間での混色が無く、画素上下端部の発光ムラの無い有機EL発光素子を容易にそして安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、格子状の隔壁形成を行うにあたり、RGBストライプ方向に平行な隔壁の高さに対して、RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さを低くする事により、印刷時に転写された有機発光インキが隔壁の低いストライプ方向に逃げ、混色の原因となる隣接画素との隔壁からのインキの広がりを押さえられ事により、有機発光層の塗布形成時に隣接画素への各色の混色を防ぐことができる。
【0019】
請求項1に記載の発明は少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、画素(R,G,B)がストライプ状に形成され、両電極から有機発光層に電流を流すことにより前記有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子において、前記隔壁が
RGBストライプ方向に平行な隔壁の高さ0.5μmから 5.0μm
RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さ0.1μmから 2.0μm であって、
且つRGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁の高さを平行な隔壁に対して低く、高さの比を5:1〜5:4とした事を特徴とする有機EL発光素子である。
【0020】
請求項2に記載の発明は、少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、両電極から有機発光層に電流を流すことにより前記有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子の隔壁を、隔壁となる感光性樹脂を塗布し、パターン露光し、現像して形成する有機EL発光素子の製造方法において、前記隔壁を
RGBストライプ方向に平行な隔壁の高さ0.5μmから 5.0μm
RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さ0.1μmから 2.0μmであり
且つ、RGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁の高さを平行な隔壁に対して低く、高さの比を5:1〜5:4となる様に製造することを特徴とする有機EL発光素子の製造方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明は、前記有機発光媒体層の塗布形成が、印刷法により行なわれることを特徴とする請求項2に記載の有機EL発光素子の製造方法である。
【0022】
請求項4に記載の発明は、画素開口部に対応する部分を照射光が透過し、前記RGBストライプ方向に垂直な隔壁に対応する部分を前記画素開口部に対応する部分よりも少ない照射光が透過するように、フォトマスクを用いて露光する事を特徴とする請求項2または3に記載の有機EL発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有機発光媒体層を塗布形成する際に隔壁表面に撥水処理を特別に施すことなく、隣接画素間での混色が無く、画素上下端部の発光ムラの無い有機EL発光素子を容易にそして安価に有機EL発光素子及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の有機EL発光素子を説明するための断面図である。
【図2】本発明の有機EL発光素子における隔壁を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を、パッシブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルを作成する場合を例に説明する。 ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。 図1は、パッシブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルにおける、本発明の有機EL発光素子を説明するための断面図である。
【0026】
有機ELディスプレイパネルにおける有機EL発光素子は透光性基板1上に形成される。透光性基板1としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。 プラスチック製のフィルムを用いれば、巻取りにより高分子有機EL発光素子の製造が可能となり、安価にディスプレイパネルを提供できる。そのプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。 また、これらのフィルムは水蒸気バリア性、酸素バリア性を示す酸化ケイ素といった金属酸化物、窒化ケイ素といった酸化窒化物やポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物からなるバリア層が必要に応じて設けられる。
【0027】
透光性基板1の上には陽極としてパターニングされた画素電極2が設けられる。画素電極2の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。 なお、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOが好ましい。 ITOはスパッタ法により透光性基板上に形成されフォトリソ法によりパターニングされライン状の画素電極2となる。
【0028】
ライン状の画素電極2を形成後、隣接する画素電極2の間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィー法により隔壁3が形成される。 さらに詳しくは、感光性樹脂組成物を透光性基板1に塗布する工程と、パターン露光、現像して隔壁パターンを形成する工程を少なくとも有する。
【0029】
隔壁3を形成する感光性材料としてはポジ型レジストでもネガ型レジストでもどちらでも使用可能である。感光性レジストは市販のもので構わないが、絶縁性を有する必要がある。 隔壁3が十分な絶縁性を有さない場合には隔壁3を通じて隣り合う画素電極2に電流が流れてしまい異常発光や電流のリーク等の表示不良が発生してしまう。 上記感光性材料としては具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン樹脂系といったものが挙げられるが本発明ではこれに限定するものではない。 また、有機EL発光素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても
良い。 本発明においては、以下に述べる方法でRGBストライプ方向の隔壁高さとRGBストライプ方向に垂直な方向の隔壁高さを別々に設定することができるが、以下の方法に限定するものではない。
【0030】
隔壁3を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いて塗布される。 次に、パターン露光、現像して隔壁パターンを形成する工程では、従来公知の露光、現像方法の組み合わせや、以下に説明するような方法により隔壁部のパターンを形成できる。
【0031】
ここで、RGBストライプ方向と平行に形成される隔壁を隔壁3aとし、RGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁を3bとする。隔壁作製方法1については、隔壁3aと隔壁3bを別々に形成する方法である。 すなわちまず隔壁材料を基板上に塗布しパターン露光、現像からなるフォトリソグラフィー法により、まず隔壁3a部のみを形成し、ポストベークまで実施する。 その後に、再び隔壁材料を隔壁3aが形成された基板上に隔壁材料を塗布し、パターン露光、現像を行うフォトリソグラフィー法により隔壁3bのみを形成する。このとき、隔壁3a部及び隔壁3b部の膜厚を塗布時の膜厚を調整する事によりそれぞれ設定することが可能であり、所望の膜厚をもった隔壁3aおよび隔壁3bを得る事ができる。
【0032】
隔壁作製方法2については、フォトリソグラフィー法を用いる。 ここではポジ型レジストについて例を挙げるが、ネガ型レジストでも可能である。 すなわち、隔壁3を形成するフォトリソグラフィー方法において、パターン露光時に通常の格子状に遮光部があるマスクを用いて開口部のみに所定の露光をしたのち、再度ストライプ方向に対して垂直な方向に形成される隔壁部分(隔壁3b)を露光できるようなフォトマスクを介して、再度パターン露光を行うことである。 ここで、パターン開口部すなわち隔壁が形成されない部分にも露光しても良い。 ここで、隔壁3bに照射するパターン露光量としては、照射量が多すぎると隔壁3b部分も完全に感光してしまい現像時に膜が消失してしまうこととなる。 また少なすぎると隔壁3aと隔壁3bでの膜厚差が発生しない。 ここでの最適な露光量としては、レジスト材料にもよるが画素開口部に対して照射する露光量に対して、10%〜50%を照射する事が好ましい。 つまり、格子状隔壁を形成するときの最適な露光量が100mJ/cmである場合、隔壁3b部には10〜50mJ/cmの露光量を照射することが好ましい。 また、この露光量を調整することで隔壁3aと隔壁3bの膜厚差を生み出すことができ、また隔壁3bの膜厚を調整することが出来る。 この後、通常のフォトリソグラフィーと同様に現像を行い、ポストベークすることで所望の膜厚を持った隔壁3aおよび隔壁3bを得る事ができる。
【0033】
隔壁3aと隔壁3bを形成する他の方法としては、パターン露光する際のフォトマスクに工夫をする事で行う事ができる。 すなわち、隔壁3a部に対応する部分は完全遮光、画素開口部に対応する部分は完全露光、そして隔壁3b部はフォトマスクにパターン解像度限界以下である様な開口パターンを設ける事(特開2004-264717)や、ハーフトーンフォトマスクと呼ばれる照射光を半透過するような構造を持つフォトマスクを使用する (特開2007-183589、特開2004-258161)ことで、隔壁3a部と比較して画素開口部よりも少ない照射量で露光量される様工夫をすることで、半感光状態として隔壁3bを形成する方法である。 これらの方法では、フォトマスクを用意することさえ出来れば、通常のフォトリソグラフィーの工程と全く同様の工程を1回経るだけで、隔壁3aと隔壁3bの膜厚差を得る事ができる。 しかしながら、狙い通りの隔壁3b部の膜厚を設定するためには、隔壁3b部を適切に露光するための好適なフォトマスクの設計条件や露光量を慎重に調整する必要がある。
【0034】
本発明における隔壁3a部は、厚みが0.5μmから5.0μmの範囲にあり、隔壁3
b部については厚みが0.1μmから2.0μmの範囲にあり、更には隔壁3a部の高さに対して、隔壁bの高さが低く、かつ高さの比が5:1〜5:4である。 隔壁3a及び隔壁3bの隔壁高さが低すぎると隣接画素間で正孔輸送層経由でのリーク電流の発生や混色の防止効果が得られないことがあり注意が必要である。 ただし、隔壁の必要な厚さはトランジスタ構造等によっても規定されるものであり、本発明においてもこれに限定するものではない。
【0035】
また、例えばパッシブマトリックスタイプの有機ELディスプレイパネルにおいて、画素電極の間に隔壁3を設けた場合、隔壁を直行して陰極層を形成することになる。 このように隔壁をまたぐ形で陰極層を形成する場合、隔壁3が高すぎると陰極層の断線が起こってしまい表示不良となる。 隔壁3の高さが5.0μmを超えると隔壁の断面が順テーパー形状であっても陰極の断線がおきやすくなってしまうためである。
【0036】
隔壁3形成後、正孔輸送層4を形成する。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料の例としては銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン、N,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料やポリ(パラ−フェニレンビニレン)、ポリアニリン等の高分子正孔輸送材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、その他公知の正孔輸送材料の中から選ぶことができる。 正孔輸送層の形成方法としては低分子材料については真空蒸着法などの既知の方法を用いることができる。また高分子材料についてもスピンコート法、スリットコート法等公知の成膜方法を使用することができる。
【0037】
正孔輸送層4形成後、有機発光層5を形成する。有機発光層5は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層5を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’―ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系、ポリフェニレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられる。
【0038】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。 中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶剤が有機発光材料の溶解性の面から好適である。又、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されても良い。
【0039】
有機発光媒体層の形成方法としては、印刷法、例えばインクジェット法、凸版印刷法、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法等によりパターン形成することが可能である。
【0040】
有機発光層5形成後、陰極層6を形成する。陰極層6の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。 また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0041】
なお、本発明の有機EL発光素子では陽極である画素電極と陰極層の間に陽極層側から正孔輸送層と有機発光層を積層した構成であるが、陽極層と陰極層の間において正孔輸送層、有機発光層以外に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層といった層を必要に応じ選択した積層構造をとることが出来る。 また、これらの層を形成する際には正孔輸送層や発光層と同様の形成方法が使用できる。
【0042】
最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ7と接着剤8を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを得ることが出来る。 また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて封止を行っても良い。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが本発明は下記例に制限されない。
【実施例1】
【0044】
対角4.6cmサイズのガラス基板の上にスパッタ法を用いてITO(インジウム-錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、画素電極を形成した。画素電極のラインパターンは、線幅50μm、スペース10μmでラインが約32mm角の中に約540ライン形成されるパターンとした。
【0045】
次に隔壁材料の準備を行った。ベースとなる隔壁材料にはポジ型感光性レジスト(東レ製フォトニース DL1000 )を用いて、陽極と平行なライン形状になる隔壁3aを以下のように形成した。画素電極を形成したガラス基板上に得られた隔壁材料を全面スピンコートした。 スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後450rpmで20秒間回転させ、隔壁材料の高さを3.0μmとした。全面に塗布した感光性材料に対し、フォトリソグラフィー法により露光、現像を行い画素電極の間にラインパターンを有する隔壁3aを形成した。通常の露光・現像条件はi線露光機で50mj/cm露光し、その後現像液としてTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)2.38%を使用し現像時間30秒とし、その後水洗することにより、パターニングが完了する。 その後、隔壁を250℃30分でオーブンにて焼成を行った。このときの隔壁3aの幅は15μm、高さは2.4μmであった。 つぎに、隔壁3bに対しても同様の作業を行った 。隔壁3bはスピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させたのち800rpmで20秒回転させ、隔壁材料の高さを1.9μmとした。その後隔壁3b部以外露光されるような設計のフォトマスクを用いた以外は同様の条件で作製を行った。 オーブンで焼成後の隔壁3bは幅15μm、高さは1.5μmであった。
【0046】
次に、赤色有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1.2%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用い、隔壁に挟まれた画素電極の真上にそのラインパターンにあわせて有機発光層を凸版印刷法によりパターン形成を行った。 また、緑色、および青色有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体をそれぞれ濃度1.4%と1.1%になる様にトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、赤色と同様に画素電極の上にパターン形成を行った。 このとき乾燥後の赤、緑、青色の有機発光層の膜厚はそれぞれ100nm、120nm、90nmとなった。
【0047】
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗加熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。 最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を作製した。
【0048】
得られた有機ELディスプレイパネルの表示部の周辺部には各画素電極に接続されている陽極側の取り出し電極と、陰極側の取り出し電極があり、これらを電源に接続することにより、得られた有機ELディスプレイパネルの点灯表示確認を行い、混色及び表示状態のムラの確認を行った。
【実施例2】
【0049】
隔壁3bの高さを0.5μmとなるように作製した以外は、実施例1と同様に作製を行った。
【実施例3】
【0050】
実施例1と同様に隔壁材料の塗布、露光を行った。その後、隔壁3b部と画素開口部のみ露光できるようなフォトマスクを用いて、20mj/cm露光を行った。その後、再び実施例1と同様に現像、ベークを行った。得られた隔壁の高さは、隔壁3aの幅は15μm、高さは2.4μmであり、隔壁3bの幅は15μm、高さは1.0μmであった。
【実施例4】
【0051】
使用するフォトマスク以外は実施例1と同様に行った。隔壁材料を露光する際に用いるフォトマスクとしては、画素開口部は照射光が透過する部分(遮光部無し)、隔壁3a部は完全に遮光された部分、隔壁3b部は遮光部/開口部=0.2μm/0.1μmとなるようなパターンを隔壁3b部の領域となるように配置したフォトマスクを使用した。 得られた隔壁の高さは、隔壁3aの幅は15μm、高さは2.4μmであり、隔壁3bの幅は14μm、高さは1.2μmであった。
【実施例5】
【0052】
使用するフォトマスク以外は実施例1と同様に行った。隔壁材料を露光する際に用いるフォトマスクとしては、ハーフトーンフォトマスクを使用し、画素開口部は照射光が透過する部分(遮光部無し)、隔壁3a部は完全に遮光された部分、隔壁3b部は光線透過率が透過部の20%となる半遮光パターンが設けられているフォトマスクである。 得られた隔壁の高さは、隔壁3aの幅は15μm、高さは2.4μmであり、隔壁3bの幅は14μm、高さは1.9μmであった。
(比較例1)
隔壁高さを隔壁3a、隔壁3bともに同じ高さとしたこと以外は実施例1と同じ隔壁高さとなるように、有機EL発光素子を作製した。また、この隔壁の焼成後の高さは2.4μmとなった。
(比較例2)
隔壁を隔壁3aのみ形成し、隔壁3bは形成しないとした(ストライプ形状の隔壁)こと以外は実施例1と同じ隔壁高さとなるように、有機EL発光素子を作製した。また、この隔壁の焼成後の高さは2.4μmとなった。
【0053】
【表1】

結果を下記表1に示すが、隣接画素間での混色が無く、画素上下端部の発光ムラの無い有機EL発光素子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は有機EL発光素子に関するものであり、低コストで容易に表示品位に優れた有機EL発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 透光性基板
2 画素電極
3 隔壁
3a 隔壁(RGBストライプ方向と平行に形成)
3b 隔壁(RGBストライプ方向と垂直に形成)
4 正孔輸送層
5 有機発光層
6 陰極層
7 ガラスキャップ
8 接着剤
9 画素開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、画素(R,G,B)がストライプ状に形成され、両電極から有機発光層に電流を流すことにより前記有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子において、前記隔壁が
RGBストライプ方向に平行な隔壁の高さ0.5μmから 5.0μm
RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さ0.1μmから 2.0μm であって、
且つRGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁の高さを平行な隔壁に対して低く、高さの比を5:1〜5:4とした事を特徴とする有機EL発光素子。
【請求項2】
少なくとも画素電極と陰極と隔壁と有機発光層を含む有機発光媒体層と、を有し、両電極から有機発光層に電流を流すことにより前記有機発光層を発光させるフルカラー有機EL発光素子の隔壁を、隔壁となる感光性樹脂を塗布し、パターン露光し、現像して形成する有機EL発光素子の製造方法において、前記隔壁を
RGBストライプ方向に平行な隔壁の高さ0.5μmから 5.0μm
RGBストライプ方向に垂直な隔壁の高さ0.1μmから 2.0μmであり
且つ、RGBストライプ方向に垂直な方向に形成される隔壁の高さを平行な隔壁に対して低く、高さの比を5:1〜5:4となる様に製造することを特徴とする有機EL発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機発光媒体層の塗布形成が、印刷法により行なわれることを特徴とする請求項2に記載の有機EL発光素子の製造方法。
【請求項4】
画素開口部に対応する部分を照射光が透過し、前記RGBストライプ方向に垂直な隔壁に対応する部分を前記画素開口部に対応する部分よりも少ない照射光が透過するように、フォトマスクを用いて露光する事を特徴とする請求項2または3に記載の有機EL発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−108578(P2011−108578A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264967(P2009−264967)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】