説明

有機EL発光装置

【課題】裁断することで寸法を変更可能で、薄型化が可能な有機EL発光装置を提供すること。
【解決手段】隣り合う一方の有機ELセル10の陽極層13と、隣り合う他方の有機ELセル10の陽極層13とを架橋する陽極補助電極41と、隣り合う一方の有機ELセル10の陰極層11と、隣り合う他方の有機ELセル10の陰極層11とを架橋する陰極補助電極42とが備えられる。陽極補助電極41及び陰極補助電極42は、光透過フィルム20の陽極層13側と反対側から見て、互いに重ならないように配置される。従って、有機EL発光装置1が裁断されても、陽極補助電極41と陰極補助電極42とは短絡しない。さらに、陽極補助電極41と陰極補助電極42とを、間に絶縁層を挟んで積層する必要がなく、有機EL発光装置1の薄型化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器の表示部やバックライト等として使用される有機ELを含むセルを複数配置した有機EL発光装置に関するものであり、特に裁断することで寸法を変更可能な有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、はさみ等によって裁断可能な、薄型のElectro―Luminescence(EL)発光装置が提案されている。はさみ等で裁断することで、使用者がEL発光装置の寸法を簡単に変更できるので、様々な用途に合わせてEL発光装置を利用できるようになる。例えば、特許文献1に記載のEL発光装置では、背面電極層上に、背面電極電圧降下防止帯及びその連結部が形成された後、この連結部に積層して背面電極層を縦横に区分する絶縁帯が形成される。そして、絶縁帯上には、絶縁帯と共に背面電極層を縦横に十字状(格子状)に区分する補助透明電極電圧降下防止帯が形成される。つまり、特許文献1に記載のEL発光装置では、背面電極層上に、背面電極電圧降下防止帯が形成され、その連結部に積層して絶縁帯が形成され、さらにその絶縁帯の上に補助透明電極電圧降下防止帯が形成される。前記補助透明電極電圧降下防止帯が互いに残るように、特許文献1に記載のEL発光装置を格子状に区分された領域に裁断することで、絶縁帯の下に位置する、背面電極電圧降下防止帯の連結部が裁断面に残る。従って、裁断面に残った連結部を用いて、駆動回路等と接続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−92469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EL発光装置に用いられる発光素子は、無機ELと有機ELとに大別できる。有機ELを用いた発光装置は、発光層の厚さが100nm程度と非常に薄いため、無機ELを用いた発光装置と比較して発光装置の薄型化が可能という利点がある。
【0005】
特許文献1に開示のEL発光装置は、蛍光物質である硫化亜鉛に銅をドープしてなる発光体を発光層に利用した、無機EL発光装置である。この発光装置の薄型化のためには、無機ELを用いた発光層を、有機ELを用いた発光層に置き換える方法が考えられる。しかし、特許文献1に開示のEL発光装置は、背面電極層上に背面電極電圧降下防止帯が形成され、その連結部に積層して絶縁帯が形成され、さらにその上に補助透明電極電圧降下防止帯が形成されるため、構造上どうしても厚くなる。特に、裁断時に生じるダレによって補助透明電極電圧降下防止帯と背面電極電圧降下防止帯とが短絡すること防止するためには、絶縁帯は数mmオーダーの厚さが必要となり、特許文献1に開示のEL発光装置の構造では、薄型化が困難である。
【0006】
本発明は、裁断することで寸法を変更可能で、薄型化が可能な有機EL発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、有機ELからなる平板状の発光層と、前記発光層の一方の面に設けられる第1電極層と、前記発光層の他方の面に設けられる第2電極層と、を含む有機ELセルと、一列に配置された複数の前記有機ELセルの、前記第1電極層側の面に接触する基材と、隣り合う一方の前記有機ELセルと、隣り合う他方の前記有機ELセルとの間に設けられる絶縁帯と、隣り合う一方の前記有機ELセルの前記第1電極層と、隣り合う他方の前記有機ELセルの前記第1電極層とを架橋する第1補助電極と、隣り合う一方の前記有機ELセルの前記第2電極層と、隣り合う他方の前記有機ELセルの前記第2電極層とを架橋する第2補助電極と、を備え、前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、前記基材の前記第1電極層側と反対側から見て、互いに重ならないように配置される、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、互いに平行になるように配置される、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記第1電極層は、前記第1電極層の外周の一端に設けられ、前記第1補助電極を覆う第1覆設部を有し、前記第2電極層は、前記第2電極層の外周の一端であって前記第1覆設部とは反対側の位置に設けられ、前記第2補助電極を覆う第2覆設部を有し、前記第1補助電極は、前記第1覆設部の前記第2電極層に対向する面に接続され、前記第2補助電極は、前記第2覆設部の前記第1電極層に対向する面に接続される、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の発明において、前記有機ELセルと、前記基材と、前記第1補助電極と、前記第2補助電極と、前記絶縁帯と、を封止する封止部材をさらに備え、前記封止部材は、前記有機ELセルと前記絶縁帯とを独立に封止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明では、隣り合う一方の有機ELセルの第1電極層と、隣り合う他方の有機ELセルの前記第1電極層とを架橋する第1補助電極と、隣り合う一方の有機ELセルの第2電極層と、隣り合う他方の有機ELセルの第2電極層とを架橋する第2補助電極とが備えられる。第1補助電極及び第2補助電極は、基材の第1電極層側と反対側から見て、互いに重ならないように配置される。従って、有機EL発光装置が裁断されても、第1補助電極と第2補助電極とは短絡しない。さらに、特許文献1のように、第1補助電極と第2補助電極とを、間に絶縁層を挟んで積層する必要がなく、有機EL発光装置の薄型化が可能になる。
【0012】
また、第1電極層と第2電極層との間には、有機ELからなる発光層が存在する。有機ELからなる発光層は薄型化が可能であるが、有機EL発光装置が裁断された際に、第1電極層と第2電極層とが短絡する可能性がある。請求項1の発明では、隣り合う一方の有機ELセルと、隣り合う他方の有機ELセルとの間に絶縁帯が設けられるので、この絶縁帯の位置で裁断されることで、第1電極層と第2電極層との短絡が防止できる。さらに、第1補助電極及び第2補助電極によって隣接する有機ELセル同士は電気的に接続されるため、絶縁帯の位置で裁断されても、裁断面に露出する第1補助電極及び第2補助電極を用いて、第1の電極層及び第2の電極層に電気的接続が可能になる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、第1補助電極と第2補助電極とが、互いに平行になる様に配置される。第1補助電極と第2補助電極とが互いに平行でない場合、基材の第1電極層が接触する側と反対側から見て、第1補助電極と第2補助電極とが互いに重ならないように配置されるためには、第1補助電極と第2補助電極とが十分に離間される必要があるので、第1補助電極と第2補助電極とが配置される位置が制限される。しかし、第1補助電極と第2補助電極とが互いに平行であれば、第1補助電極と第2補助電極とが十分に離間されていなくても、基材の第1電極層側と反対側から見て、第1補助電極と第2補助電極とが互いに重ならないように配置することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、第1補助電極が、第1電極層の外周の一端に設けられる第1覆設部の、第2電極層に対向する面に接続される。そして、第2補助電極が、第2電極層の外周の一端であって第1覆設部とは反対側の位置に設けられる第2覆設部の、第1電極層に対向する面に接続される。従って、有機EL発光装置の更なる薄型化が可能になる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、有機ELセルと絶縁帯とが封止部材によって独立に封止される。従って、絶縁帯の位置で有機EL発光装置が裁断されても、個々のセルは封止状態に保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】有機EL発光装置1の構成を示す斜視図。
【図2】有機ELセル10の構成を示す斜視図。
【図3】有機EL発光装置1の構成を示す平面図。
【図4】有機EL発光装置1の、有機ELセル10の部分における断面図。
【図5】有機EL発光装置1の、絶縁帯30の部分における断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳述する。
【0018】
<第1の実施形態>
[有機EL発光装置1の構造]
図1は、有機EL発光装置1の斜視図である。有機EL発光装置1は、複数の有機ELセル10と、光透過フィルム20と、絶縁帯30と、陽極補助電極41と、陰極補助電極42と、封止フィルム60とを含んで構成される。本実施形態において、封止フィルム60を構成する上部封止部材61と下部封止部材62とは接着されるが、図1では有機EL発光装置1の個々の構成要素を示すために、上部封止部材61と下部封止部材62とが離間して示される。図1において、左右方向がX軸、奥行き方向がY軸、上下方向がZ軸と、それぞれ定義される。ここで、複数の有機ELセル10は、Y軸に平行に配列される。X軸,Y軸,Z軸の正方向は、それぞれ右方向,奥方向,上方向である。以下、個々の構成要素と構成要素間の関係を説明する。尚、前記した有機ELセル10,光透過フィルム20,絶縁帯30,陽極補助電極41,陰極補助電極42,封止フィルム60が、それぞれ本発明における有機ELセル,基材,絶縁帯,第1補助電極,第2補助電極,封止部材の一例である。
【0019】
有機EL発光装置1の全体を説明する前に、先ず図2を用いて、有機EL発光装置1を構成する要素の一つである有機ELセル10について説明を行う。図2は、有機EL発光装置1の有機ELセル10周囲を、封止フィルム60を省略して拡大した斜視図である。図2において、X軸,Y軸,Z軸が、図1と同様に定義される。有機ELセル10は、有機ELからなる平板状の発光層12と、発光層12のZ軸正方向側に設けられる陰極層11と、発光層12のZ軸負方向側に設けられる陽極層13とを含んで構成される。本実施形態において、発光層12、陰極層11及び陽極層13は互いに接するが、図2では有機ELセル10の個々の構成要素を示すために、発光層12、陰極層11及び陽極層13は互いに離間して示される。有機ELセル10は、Z軸負方向側、即ち陽極層13の側で、後記する光透過フィルム20に接触する。尚、前記した陰極層11,発光層12,陽極層13が、本発明における第2電極層,発光層,第1電極層の一例である。
【0020】
発光層12は、有機ELを含む矩形平板状の層であり、陰極層11と陽極層13との間に電圧が印加されることで発光する。発光層12に含まれる有機ELとしては、例えばポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン誘導体等の高分子発光材料、及び、テトラフェニルブタジエン(TPB)、ペリレン、クマリン、ルブレン、ナイルレッド、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−ジメチルアミノスチリル−4−ピラン(DCM)、4−ジシアノメチレン−6−シーピージュロリジノスチリル−2−ターシャルブチル−4H−ピラン(DCJTB)、スクアリリウム、アルミニウム錯体(例えばAlQ3)等の低分子系材料が用いられる。発光層12のZ軸正方向側の面、即ち陰極層11に接する面には、図示されない電子注入層が設けられる。電子注入層は、オキサジゾール誘導体、トリアゾール系、及びアルミニウム錯体のいずれかが用いられる。発光層12の厚さは、30〜150nmが望ましい。
【0021】
陰極層11は、発光層12のZ軸正方向側の面に接触する、矩形状の電極層である。陰極層11は、例えばアルミニウム(Al),フッ化リチウム(LiF),AlとCaとの積層,AlとLiFとの積層及びAlとBaとの積層等で構成される。陰極層11の厚さの一例は、AlとLiFとの積層が陰極層11として用いられる場合、Al層が100nm、Li層が1nmである。陰極層11は、発光層12及び陽極層13に対してX軸正方向に延出する陰極覆設部11aを有する。陰極層11は、陰極層11と陽極層13との間に電圧が印加されることで、前記した電子注入層を介して発光層12に電子を注入する。尚、前記陰極覆設部11aが、本発明における第2覆設部の一例である。
【0022】
陽極層13は、発光層12のZ軸負方向側の面に接触する、矩形状の電極層である。陽極層13は、透明電極用の材料であるインジウムチタンオキサイド(ITO)又はポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)で構成される。陽極層13は、発光層12及び陰極層11に対してX軸負方向に延出する陽極覆設部13aを有する。陽極層13は、陰極層11と陽極層13との間に電圧が印加されることで、発光層12に正孔を注入する。陽極層13の厚さは、150nm程度が望ましい。尚、前記陽極覆設部13aが、本発明における第1覆設部の一例である。
【0023】
図1〜図5を用いて、再び有機EL発光装置1の全体構成を説明する。図3は、有機EL発光装置1を、上部封止部材61を取り除いた状態でZ軸正方向側から見た平面図である。図4は、図3のA−A’鎖線で示される位置における、有機EL発光装置1の断面図である。図5は、図3のB−B’鎖線で示される位置における、有機EL発光装置1の断面図である。
【0024】
有機ELセル10の陽極層13が接する光透過フィルム20は、絶縁性と可撓性とを備え、光を透過することが可能な材料で構成される。光透過フィルム20としては、例えばポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)等が用いられる。光透過フィルム20は、透明な材料で構成されるのが望ましいが、光を散乱・拡散させる半透明な材料で構成されても良い。光透過フィルム20の厚さは、5〜200μm程度が望ましい。
【0025】
絶縁帯30は、隣り合う有機ELセル10の間に設けられる。絶縁帯30が設けられることで、隣り合う有機ELセル10は電気的に絶縁される。絶縁帯30としては、例えばポリ―N―ビニルカルバゾール(PVK),PS,ナイロン,ポリアセタール,PC,PET,ポリブチレンテレフタレート,ポリフェニレンオキシド,ポリアリレート,ポリスルホン,ポリフェニレンスルフィド,ポリアミドイミド,ポリイミド,フッ素樹脂等が用いられる。
【0026】
陽極補助電極41及び陰極補助電極42は、隣り合う有機ELセル10を繋ぐ導電帯である。図1に示されるように、陽極補助電極41及び陰極補助電極42は、Y軸に沿って延びる。以下、図3〜図5を用いて、陽極補助電極41及び陰極補助電極42がどのように隣り合う有機ELセル10を繋ぐかを説明する。
【0027】
図4に示される様に、陽極補助電極41は、光透過フィルム20に接する陽極層13に設けられた陽極覆設部13aのZ軸正方向側の面、即ち陽極覆設部13aの陰極層11に対向する面に接続される。陽極覆設部13aは、発光層12及び陰極層11に対してX軸負方向に延出するので、陽極補助電極41は、発光層12及び陰極層11に接することなく、陽極覆設部13aを介して陽極層13に接続される。言い換えると、陽極覆設部13aは、陽極補助電極41をZ軸負方向側から覆う。陽極補助電極41は、隣り合う有機ELセル10に存在する夫々の陽極覆設部13aに接続されることで、隣り合う一方の有機ELセル10の陽極層13と、隣り合う他方の有機ELセル10の陽極層13とを架橋する。具体的には図3及び図5に示される様に、陽極補助電極41は、絶縁帯30からX軸負方向に離間して、隣り合う有機ELセル10に存在する夫々の陽極覆設部13aに接続される。このとき、陽極補助電極41は、光透過フィルム20に接触する。陽極補助電極41は、例えば、アルミニウム(Al),クロム(Cr)等で構成される。
【0028】
陰極補助電極42は、陽極層13からX軸正方向に離間して、光透過フィルム20上に設けられる。陽極補助電極41及び陰極補助電極42は、光透過フィルム20の陽極層13側と反対側から見て、互いに重ならないように配置される。この配置の一例として、本実施形態においては、陽極補助電極41及び陰極補助電極42は、互いに平行になるように配置される。陰極補助電極42は、陰極覆設部11aのZ軸負方向側の面、即ち陰極覆設部11aの陽極層13に対向する面に接続される。陰極覆設部11aは、発光層12及び陽極層13に対してX軸正方向に延出するので、陰極補助電極42は、発光層12及び陽極層13に接することなく、陰極覆設部11aを介して陰極層11に接続される。言い換えると、陰極覆設部11aは、陰極補助電極42をZ軸正方向側から覆う。陰極補助電極42は、隣り合う有機ELセル10に存在する夫々の陰極覆設部11aに接続されることで、隣り合う一方の有機ELセル10の陰極層11と、隣り合う他方の有機ELセル10の陰極層11とを架橋する。具体的には図3及び図5に示される様に、陰極補助電極42は、絶縁帯30からX軸正方向に離間して、隣り合う有機ELセル10に存在する夫々の陰極覆設部11aに接続される。陰極補助電極42は、例えば、Al,Cr等で構成される。
【0029】
陽極陽極覆設部13a及び陰極覆設部11aが設けられることで、以下の様な有利な効果がある。陽極覆設部13aが発光層12及び陽極層13に対してX軸負方向に延出するので、図4に示される様に、陽極極補助電極41のZ軸正方向側には、発光層12及び陰極層11が存在しない。仮に、陽極覆設部13aが存在しなければ、陽極極補助電極41と発光層12及び陰極層11との絶縁を確保するために、例えば陽極極補助電極41のZ軸正方向側の面に絶縁帯を設ける、陽極層13のZ軸負方向側の面に陽極極補助電極41を接続する等の構成が必要になる。その結果、Z軸方向に積み重なる層の数が増加することになり、有機EL発光装置1の薄型化が困難になる。しかし、陽極覆設部13aが設けられることにより、Z軸方向に積み重なる層の数を減らすことが可能となる。従って、有機EL発光装置1の薄型化が可能になる。同様に、陰極覆設部11aはX軸正方向に延出するので、陰極補助電極42のZ軸負方向側には発光層12及び陰極層11が存在しない。従って、陰極覆設部11aも、有機EL発光装置1の薄型化に寄与する。
【0030】
封止フィルム60は、有機ELセル10と、光透過フィルム20と、陽極補助電極41と、陰極補助電極42と、絶縁帯30とを、外気に接触させないように封止する。封止フィルム60は、Z軸正方向側に設けられる上部封止部材61と、Z軸負方向側に設けられる下部封止部材62とで構成される。具体例には、PET,PEN,PS,PES,ポリイミド等のフィルムに、SiO,AL,SiNx等の無機薄膜と柔軟性のあるアクリル樹脂薄膜などを層状に複数層重ね合わせることでガスバリア性を備えたものが、封止フィルム60として用いられる。
【0031】
上部封止部材61と下部封止部材62とは、相互の接着箇所BNDにおいて互いに接着される。接着箇所BNDは、有機ELセル10と絶縁帯30とを独立に封止するように、有機ELセル10と絶縁帯30との境目及び光透過フィルム20の外側に設けられる。図1、3の太線が接着箇所BNDの位置である。尚、接着箇所BNDは、例えば接着剤を用いての接着や、超音波を用いての融着によって設けられる。
【0032】
[有機EL発光装置1の製造方法]
有機EL発光装置1は、例えば以下に示す様な方法によって製造することができる。
【0033】
まず、光透過フィルム20上に陽極層13の材料が一様に蒸着される。ここでは、一例としてインジウムチタンオキサイド(ITO)が150nmの厚みで蒸着される。次いで、露光用のレジストがスピンコートにより塗布され、陽極層13に対応する箇所のパターンがマスク露光される。その後、濃硝酸と濃塩酸の混合液である王水を用いたエッチングにより、露光されていない部分のレジスト及びITOを取り除くことで、陽極層13が形成される。このとき、陽極層13のシート抵抗は30Ω/cmであった。
【0034】
陽極層13の形成後、陽極補助電極41及び陰極補助電極42がマスク蒸着により形成される。ここでは、一例としてAlがマスク蒸着される。陽極補助電極41は、陽極層13の陽極覆設部13a上に形成される。一方、陰極補助電極42は、陽極層13からX軸正方向に離間して、光透過フィルム20上に形成される。
【0035】
次いで、陽極層13の表面が、中性洗剤洗浄、アセトン洗浄、イソプロピルアルコール洗浄、及びUVオゾン洗浄により順次洗浄される。なお、これらの洗浄の目的は、(1)
陽極層13の表面の汚れを除去すること、(2)
陽極層13の表面の酸素欠陥を減らし、正孔注入障壁を低下させること、である。中でも、UVオゾン洗浄は、湿式洗浄ではとれない有機物の汚れを除去することができる。
【0036】
陽極層13が形成された後、光透過フィルム20の絶縁帯30が形成される部分全体に、スピンコート法,ディップ法,カーテンコート法,バーコート法,印刷法もしくはインクジェット法を用いて、絶縁帯30の材料が塗布される。ここでは、一例としてポリ―N―ビニルカルバゾール(PVK)が塗布される。
【0037】
絶縁帯30の形成後、スピンコート法、ディップ法、カーテンコート法、バーコート法、印刷法もしくはインクジェット法を用いて、発光層12が形成される。ここでは、スピンコート法を例にとって、その形成工程を説明する。
【0038】
光透過フィルム20上に形成された陽極層13の上に、発光層12を形成するためのインクが塗布される。このインクは、表示用組成物としてポリフルオレンポリマーを2wt%、テトラリン溶媒又はシクロヘキシルベンゼン溶媒に加えることで調合される。インクが陽極層13の上に全面塗布された後、光透過フィルム20を水平に回転させる。その後、50〜60℃で30分間乾燥させることにより、インク溶液中の溶媒が蒸発する。この乾燥によって、インク溶液の不揮発成分である表示用組成物が、陽極層13と電気的接合を持った状態で固化する。この固化した表示用組成物が、発光層12である。尚、インクを陽極層13の上に全面塗布しても、発光層12を所望の領域に形成することは可能である。しかし、発光層12を所望の領域に形成するために、マスク等が用いられても良い。
【0039】
次いで、オキサジゾール誘導体、トリアゾール系、及びアルミニウム錯体のいずれかである電子注入層が、発光層12上に塗布される。この塗布は、スピンコート法、ディップ法、カーテンコート法、バーコート法、印刷法もしくはインクジェット法を用いて行われる。この塗布の際、塗布後の電子注入層において、発光層12及び絶縁帯30に接する側と反対側の面が、発光層12及び絶縁帯30からなる面より平らになるように、電子注入層が塗布される。
【0040】
次いで、予め形成された陰極層11が、ラミネート法によって発光層12上に貼り付けられる。このラミネートは、フィルムラミネーターを用いて、130℃程度の温度下において,10Pa程度の押圧力で行われる。このとき、陰極覆設部11aは、光透過フィルム20上に設けられた陰極補助電極42に貼り付けられる。ここで、陰極層11は、フィルム基板上に真空蒸着によって、Alとフッ化リチウム(LiF)との積層が形成されることで得られる。尚、連続的に積層されるAl層及びLiF層の厚みは、それぞれ、例示として100nm、1nmである。また、LiFとAlとの積層の代わりに、Al,LiF,AlとCaとの積層及びAlとBaとの積層のいずれかで陰極層11が形成されてもよい。
【0041】
次に、上部封止部材61及び下部封止部材62が、有機ELセル10と、陽極補助電極41と、陰極補助電極42と、絶縁帯30とが形成された光透過フィルム20を挟み込む。上部封止部材61及び下部封止部材62は、前記した接着箇所BNDにおいて、2液性エポキシ接着剤を用い、乾燥Nガスグローボックス中で常温1時間かけて接着される。
【0042】
[有機EL発光装置1の使用方法]
有機EL発光装置1は、陽極補助電極41と陰極補助電極42との間に、陽極補助電極41が陰極補助電極42よりも高電位になるように、直流電圧が印加されることで発光する。以下、その過程を説明する。陽極補助電極41と陽極層13との電位は等しく、陰極補助電極42と陰極層11との電位は等しい。従って、陽極補助電極41と陰極補助電極42との間の電位差、即ち印加される電圧は、陽極層13と陰極層11との電位差に等しい。陽極層13と陰極層11との間に電位差が存在すると、陽極層13から正孔が発光層12に供給され、陰極層11から電子が電子注入層を介して発光層12に供給される。そして、陽極層13から供給された正孔と、陰極層11から供給された電子とが、発光層12で再結合する。電子は伝導帯を流れ、正孔は価電子帯を流れるので、正孔と電子との再結合によって、バンドギャップに相当するエネルギーを有する光子が放出される。即ち、発光層12が発光する。発光層12からの光は、光透過フィルム20を透過して、有機EL発光装置1の外部に放出される。
【0043】
有機EL発光装置1は、鋏等を用いて裁断することで、寸法を変更可能である。具体的には、有機EL発光装置1は、絶縁帯30の位置で裁断されることで、隣り合う有機ELセル10同士を分離可能である。このとき、有機ELセル10と、絶縁帯30とは独立に封止されているので、分離された有機ELセル10は各々利用可能である。また、絶縁帯30で裁断されたときに、裁断面に露出した陽極補助電極41及び陰極補助電極42に給電することで、有機EL発光装置1を発光させることが可能となる。
【0044】
<変形例>
本発明は、今までに述べた実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形・変更が可能である。以下にその変形の一例を述べる。
【0045】
封止された有機ELセル10内の湿度を取り除くために、有機ELセル10が、フィルム状の調湿剤を含んで構成されても良い。この調湿剤は、例えばフィルム素材に、Ca,Ba等のアルカリ金属酸化物をペスト化したもの、もしくは調湿性の有機物を塗布乾燥することで形成される。
【0046】
前記した実施形態において、陽極層13は光透過フィルム20上に直接形成される。しかし、光透過フィルム20は、有機ELセル10の陽極層13側の面に接触すれば良く、必ずしも陽極層13と光透過フィルム20とが接触している必要はない。例えば、陽極13と光透過フィルム20との間に、水分やガスを遮蔽するガスバリア層等が設けられても良い。
【0047】
前記した実施形態において、有機EL発光装置1は、図1に示される様に、隣り合う2つの有機ELセル10を備える。しかし、有機EL発光装置1は、有機ELセル10を2つよりも多く備えても良い。要は、有機ELセル10が一列に配置されていれば良い。
【0048】
前記した実施形態において、有機EL発光装置1は絶縁帯30を備える。しかし、上部封止部材61と下部封止部材62とで個々の有機ELセル10は封止されているので、絶縁帯30が存在しなくても、隣り合う有機ELセル10は電気的に絶縁される。この場合、隣り合う有機ELセル10の間に位置する、封止された封止部材60の一部が、本発明の絶縁帯の一例となる。
【符号の説明】
【0049】
1 有機EL発光装置
10 有機ELセル
11 陰極層
11a 陰極覆設部
12 発光層
13 陽極層
13a 陽極覆設部
20 光透過フィルム
30 絶縁帯
41 陽極補助電極
42 陰極補助電極
60 封止フィルム
61 上部封止部材
62 下部封止部材
BND 接着箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ELからなる平板状の発光層と、前記発光層の一方の面に設けられる第1電極層と、前記発光層の他方の面に設けられる第2電極層と、を含む有機ELセルと、
一列に配置された複数の前記有機ELセルの、前記第1電極層側の面に接触する基材と、
隣り合う一方の前記有機ELセルと、隣り合う他方の前記有機ELセルとの間に設けられる絶縁帯と、
隣り合う一方の前記有機ELセルの前記第1電極層と、隣り合う他方の前記有機ELセルの前記第1電極層とを架橋する第1補助電極と、
隣り合う一方の前記有機ELセルの前記第2電極層と、隣り合う他方の前記有機ELセルの前記第2電極層とを架橋する第2補助電極と、
を備え、
前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、前記基材の前記第1電極層側と反対側から見て、互いに重ならないように配置される、
ことを特徴とする有機EL発光装置。
【請求項2】
前記第1補助電極及び前記第2補助電極は、互いに平行になるように配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光装置。
【請求項3】
前記第1電極層は、前記第1電極層の外周の一端に設けられ、前記第1補助電極を覆う第1覆設部を有し、
前記第2電極層は、前記第2電極層の外周の一端であって前記第1覆設部とは反対側の位置に設けられ、前記第2補助電極を覆う第2覆設部を有し、
前記第1補助電極は、前記第1覆設部の前記第2電極層に対向する面に接続され、
前記第2補助電極は、前記第2覆設部の前記第1電極層に対向する面に接続される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL発光装置。
【請求項4】
前記有機ELセルと、前記基材と、前記第1補助電極と、前記第2補助電極と、前記絶縁帯と、を封止する封止部材をさらに備え、
前記封止部材は、前記有機ELセルと前記絶縁帯とを独立に封止する、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の有機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−186609(P2010−186609A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29222(P2009−29222)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】