説明

有機EL素子、及びその有機EL素子の製造方法

【課題】低分子有機発光材料を含有するインクが印刷法を用いて発光層を形成される有機EL素子及び有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板2上に陽極3を形成し、陽極3上に電圧を印加することで発光する有機発光媒体層5を形成し、同有機発光媒体層5上に陰極6を形成する有機EL素子を対象とする。有機発光層8は、繰り返し構造を持たない低分子有機発光材料と正孔輸送層7に用いている材料と同一の繰り返し構造を持つ高分子有機正孔輸送材料を含む機能性材料を含有するインクを用いて印刷することによって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス(以下、ELと省略する。)現象を利用した有機EL素子及び有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、導電性の有機発光層を間に挟んで、透明電極層と対向電極層とが対向配置されて構成され、例えば、透光性の基板上に透明電極層、有機発光層、対向電極層の順に積層して形成することで製造される。そして、有機発光層に電圧を印加して電子及び正孔を注入して再結合させ、この結合の際に有機発光層を発光させる。
ここで、有機発光層による発光効率を増大させるなどのために、陽極である透明電極層と有機発光層との間に正孔輸送層を設けたり、陰極である対向電極層と有機発光層との間に電子輸送層を設けたりすることがある。
【0003】
一般に、これら有機発光層、正孔輸送層及び電子輸送層は、分子量が高く溶媒に溶解しやすい高分子材料によって構成された機能性材料によって形成されている。これらの各層の形成は、大気圧下におけるスピンコート法などのウェットコーティング法や、凸版印刷法や凸版反転オフセット印刷法(例えば、特許文献1参照)、インクジェット印刷法(例えば、特許文献2参照)などの印刷法を用いて形成することができ、製造設備のコストを削減や生産性の向上が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−17248号公報
【特許文献2】特許第3541625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の有機EL素子の製造方法には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来の有機EL素子の製造方法では、低分子材料を溶媒に溶解させたインクでは印刷法を用いて発光層を形成することができないという問題がある。その理由は、印刷法を適応するのに必要な粘度を低分子材料によって構成された溶解液では満たすことが出来ないことに起因している。
【0006】
このため、印刷法を用いて製造を行う場合、溶媒に粘度の高い高沸点溶媒を用いる必要がある。この結果、使用できる溶媒の幅が狭まり機能性材料の溶解度の面で不利である。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、使用する溶媒の制限を低減して、印刷による製造可能な有機EL素子の製造、及びその有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、基板上に形成した第1の電極の上に、少なくとも正孔輸送層及びその正孔輸送層に接して形成される有機発光層を有する有機発光媒体層を形成し、上記有機発光媒体層の上側に第2の電極を形成する有機EL素子の製造方法において、
上記正孔輸送層を、少なくとも1種類の繰り返し構造を持つ高分子材料から形成し、
上記有機発光層を、少なくとも1種類の繰り返し構造を持たない低分子有機発光材料と、上記正孔輸送層を構成する材料と同一の高分子材料とを含むインクを塗布することで形成することを特徴とするものである。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記有機発光層を形成するインク中に含まれる上記高分子材料の濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記第1の電極は、隔壁によって画素ごとに区画され、且つ、上記高分子材料からなる正孔輸送層は、隔壁の表面にも形成されることを特徴とするものである。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載した構成に対し、架橋性の高分子材料を含むインクを上記第1の電極上に塗布し架橋させて上記正孔輸送層を形成した後に、有機発光層を形成する上記インクを塗布することを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載した構成に対し、 上記有機発光層は、凸版印刷法を用いた転写によって、上記インクを塗布することで形成されることを特徴とするものである。
【0010】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記有機発光層は、凸版反転オフセット印刷法を用いた転写によって、上記インクを塗布することで形成されることを特徴とするものである。
次に、請求項7に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記有機発光層は、上記インクの微小液滴を噴射及び定着させて形成されることを特徴とするものである。
【0011】
次に、請求項8に記載した発明は、基板上に少なくとも、第1の電極、少なくとも正孔輸送層及びその正孔輸送層に接して積層される有機発光層を備える有機発光媒体層、及び第2の電極を、この順番に積層して形成される有機EL素子において、
上記正孔輸送層は、少なくとも1種類の繰り返し構造を持つ高分子材料によって形成され、
上記有機発光層は、少なくとも1種類の繰り返し構造を持たない低分子発光材料と、正孔輸送層を構成する材料と同一の高分子材料とを含む機能性材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
次に、請求項9に記載した発明は、請求項8に記載した構成に対し、上記第1の電極は隔壁によって画素ごとに区画され、且つ上記正孔輸送層は、隔壁の表面にも形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL素子及び有機EL素子の製造方法によれば、有機発光層の機能性材料を低分子材料と高分子材料で構成するため、発光材料の濃度を変えずに容易に、有機発光層を形成するためのインクの粘度を調整することが出来る。この結果、製造工程において最適な粘度で有機EL素子の有機発光層を製造することができる。
【0014】
また、正孔輸送層に接して形成された有機発光層に、正孔輸送層を構成する材料と同一の高分子材料が含まれているため、バインド効果により、有機発光層がより定着しやすくなるという効果も奏する。
【0015】
また、請求項5に係る発明によれば、低分子材料以外の機能性材料によって増大したインクの粘性により、塗布対象の表面に凸版印刷法を用いてインクが液垂れを起こすことなく転写され、塗布対象の表面に低分子材料を含む機能性層を印刷することができる。
また、請求項6に係る発明によれば、凸版反転オフセット印刷法を用いて低分子材料を含む機能性層を印刷で形成する。ここで、インクが低分子材料によって構成されており、上述の様に粘度を調整することができるので、印刷用のブランケット表面に塗布されたインクの切れ性が向上し、パターン通りの形状を形成することができる。
【0016】
また、請求項7に係る発明によれば、いわゆるインクジェット印刷法を用いてインクを定着させることで機能性層を印刷する。ここで、インクが低分子材料を含んで構成されており、濃度が上昇しても粘度を調整することができるので、インクの微小液滴を噴射する噴出口が詰まることを低減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る有機EL素子を示す断面図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る有機EL素子の製造工程の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る凸版印刷装置を示す該略図である。
【図4】本発明に基づく第2実施形態に係る凸版反転オフセット印刷装置を示す該略図である。
【図5】本発明に基づく第3実施形態に係るインクジェット印刷装置を示す該略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「実施形態1」
以下、本発明に係る実施形態の有機EL素子を、図1を参照しながら説明する。
(構成)
本実施形態による有機EL素子1は、いわゆるパッシブマトリックス構造を有する有機EL素子の例である。その有機EL素子1は、基板2と、その基板2の一方の面上に複数形成された陽極3(画素電極の層)と、各陽極3の間を区画する隔壁4と、陽極3上に積層された有機発光媒体層5と、有機発光媒体層5上に積層されて陽極3と対向配置された陰極6(対向電極層)とを備えている。
【0019】
上記基板2は、陽極3や有機発光媒体層5、陰極6を支持する基板であって、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートによって構成されている。プラスチック製のフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートを用いることができる。なお、基板2の陽極3が形成されない他方の面(図1では下面)に、セラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物などの他のガスバリア性フィルムを積層してもよい。ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、透光性基板を用いる必要があるが、トップエミッション型の有機EL素子の場合、透光性基板に限られない。
【0020】
上記陽極3は第1の電極を構成する。その陽極3は、透光性基板2上に短冊状に一定の間隔を開けて形成されており、層厚が0.05μm以上0.2μm以下となっている。また、陽極3は、ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、ITO(Indium TinOxide:酸化インジウムスズ)のように可視光領域において透光性を有する導電性材料によって形成されている。この陽極3は、基板2の一面上に蒸着またはスパッタリング法によって成膜した後、所定の開口形状を有するマスクを用いたエッチングによって形成される。なお、陽極3として、ITOの他に、IZO(Indium ZincOxide:酸化インジウム亜鉛)や亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物、酸化スズ(SnO2)や、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In23)などを用いることができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板2上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法などによって形成してもよい。
【0021】
上記隔壁4は、各陽極3上に形成された有機発光媒体層5が互いに混合することを防止するために、隣り合う陽極3の間に位置する透光性基板2上に形成されており、その高さは例えば2μmとなっている。また、隔壁4は、陽極3の周縁部から離間するように形成されている。そして、この隔壁4は、ポジ型またはネガ型の感光性樹脂によって構成されており、透光性基板2上にスピンコータやバーコータ、ロールコータ、ダイコータ、グラビアコータなどの塗布方法を用いて感光性樹脂を塗布した後、フォトリソグラフィ技術を用いて所定の形状にパターニングされることによって形成される。ここで、隔壁4として適用可能な感光性樹脂としては、ポリイミド系やアクリル樹脂系、ノボラック樹脂系などが挙げられる。
【0022】
本実施形態の有機発光媒体層5は、陽極3の上面に少なくとも形成された正孔輸送層7と、正孔輸送層7の上面に形成された有機発光層8とを積層した構成となっている。その他の有機発光媒体層としては、陽極3と正孔輸送層7との間に正孔注入層を設けても良く、有機発光層と陰極との間に電子注入層や電子輸送層を適宜設けても良い。
【0023】
上記正孔輸送層7は、画素電極である陽極3から注入された正孔を対向電極である陰極6の方向へ進め、正孔を通しながらも電子が陽極3の方向へ進行することを防止する機能を有している。そして、正孔輸送層7は、正孔輸送層7の機能性材料である正孔輸送材料の溶解液または分散液をスピンコートやバーコート、ワイヤーコート、スリットコートなどのウェットコーティング法を用いて陽極3上に付着させることによって形成される。なお、正孔輸送層7の膜厚は、0.01μm以上0.2μm以下の範囲であればよく、0.02μm以上0.15μm以下であることがより好ましい。本実施形態では、層厚を例えば0.05μmとする。
【0024】
ここで、正孔輸送層7として適用可能な正孔輸送材料としては、ポリアリーレン誘導体、ポリオキサゾール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体などの高分子材料を例示することが出来る。また、正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのうち、いずれかまたはこれらの混合液を例示することが出来る。なお、上記した正孔輸送材料の溶解液または分散液には、必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤などを添加してもよい。ここで、粘度調整剤としては、例えばポリスチレン、ポリビニルカルバゾールなどを用いることができる。
【0025】
また、上記正孔輸送材料は架橋性の材料であっても良い。架橋性の材料を用いることによって、有機発光層形成前に正孔輸送層を加熱して、乾燥及び焼成による架橋により不溶化する。この結果、有機発光層を形成するインクによって正孔輸送層を溶解させることなく、有機発光層を形成することができる。
【0026】
正孔輸送層7は、画素毎に少なくとも隔壁4で区切られた画素領域を覆うように形成する。このとき、図2のように、隔壁4の表面にも正孔輸送層7を形成して、表示領域全面を正孔輸送層7で覆うようにしても良い。隔壁4の表面を正孔輸送層7で覆った場合には、隔壁4での有機発光層8のはじきを低減し、隔壁4近辺の有機発光層8の平坦性を向上させることができる。
【0027】
上記有機発光層8は、電圧を印加することによって赤色、緑色または青色の色のいずれかに発光する機能性材料からなる。この有機発光層8は、少なくとも1種類の繰り返し構造を持たない低分子有機発光材料、及び正孔輸送層7に用いている繰り返し構造を持つ高分子正孔輸送材料を含む溶解液または分散液を、正孔輸送層7上に付着させることによって形成される。
【0028】
有機発光層8は、例えば、凸版印刷法やオフセット印刷法、インクジェット印刷法、反転オフセット印刷法を用いて、正孔輸送層7上に上記溶解液または分散液である有機発光のインクを付着させ、その後乾燥させることで形成される。なお、膜厚は、0.01μm以上0.1μm以下の範囲であればよく、0.03μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。本実施形態では、例えば陽極3の表面からの層厚を0.05μmとする。
【0029】
上記有機発光層8に用いられる低分子有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレンなどが使用できる。
【0030】
ここで、赤色に発光する有機発光層8に用いられる低分子有機発光材料としては例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3 )と、ピラン系化合物のドープ材であるDCM(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−メチル−4H−ピラン)と、DCJTB(4−ジシアノメチレン−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−2−(t−ブチル)−4H−ピラン)とをそれぞれドーピング濃度が2%となるように添加したものが挙げられる。そして、この低分子有機発光材料を溶剤に溶解し、溶解液を形成する。なお、溶解液中の低分子有機発光材料の濃度は、例えば1.5質量%となっている。なお、濃度は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であればよく、0.3質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。このように、濃度を0.1質量%以上10質量%以下とすることで印刷時の膜厚が大きくなりすぎず、印刷によるパターン精度を維持することができる。
【0031】
また、緑色に発光する有機発光層8に用いられる低分子有機発光材料としては、例えばAlq3が挙げられる。そして、ここの低分子有機発光材料を溶剤に溶解し、溶解液を形成する。なお、溶解液中の低分子有機発光材料の濃度は、例えば2質量%となっている。なお、濃度は、上記と同様に、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であればよく、0.3質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。また、青色に発光する有機発光層8に用いられる低分子有機発光材料として、Alq3と、ドープ材であるDPVBi(4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル)と、Zn(BOX)2(2−(O−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール亜鉛錯体)とをドーピング濃度が2%となるように添加したものが挙げられる。そして、この低分子有機発光材料を溶剤に溶解し、溶解液を形成している。なお、溶解液中の低分子有機発光材料の濃度は、例えば2質量%となっている。なお、濃度は、上記と同様に、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であればよく、0.3質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、混合する高分子正孔輸送材料には正孔輸送層と同じ材料を用いる。そして、溶媒に上記と同様に0.1質量%以上10質量%以下の範囲で低分子有機発光材料を溶解した溶解液にここの高分子正孔輸送材料を溶解し、溶解液を形成する。なお、溶解液中の高分子正孔輸送材料の濃度は、例えば0.5質量%となっている。なお、濃度は、上記と同様に、0.05質量%以上3.0質量%以下の範囲であればよく、0.3質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。正孔輸送層と同じ高分子正孔輸送材料を発光材料溶解液に混合することで、正孔輸送層との親和性が高まり、塗工時のムラやはじきの発生を低減することができる。
【0033】
有機発光層を形成するインク(有機発光層形成インク)に含まれる高分子正孔輸送層材料は、上記濃度の範囲内において量を加減することにより、インクの粘度を調整することができる。すなわち有機発光層形成インクの粘度を上げる場合には高分子正孔輸送層材料の濃度を増加させ、粘度を下げる場合には高分子正孔輸送層材料の濃度を減らす。具体的な粘度としては、塗工方法によっても異なるが、1mPa・s以上100mPa・s以下が好ましく、より具体的にはインクジェット法を用いる場合3mPa・s以上10mPa・s以下、凸版反転オフセット法を用いる場合10mPa・s以上60mPa・s以下、凸版印刷法を用いる場合40mPa・s以上80mPa・s以下であることが、塗工適性の上で好ましい。
【0034】
有機発光層を形成するインクに用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、テトラリン、CHB(シクロヘキシルベンゼン)、メチルナフタレンなどのうち、いずれかまたはこれらの混合液が挙げられる。
【0035】
上記陰極6は、陽極3と同様に、有機発光層8上にその長手方向が陽極3の長手方向と平面視で直交する方向で短冊状に一定の間隔をあけて形成されており、層厚が0.01μm〜0.5μmとなっている。陰極6としては、発光層の発光特性に合わせて、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金または多層体が用いられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。これらの材料は、通常の抵抗加熱、EB加熱などの真空蒸着やスパッタリング法などによって形成される。
【0036】
ここで、基板2側に陽極を配置する場合で説明したが、基板2側に第1の電極として陰極を配置する構成となっていても良い。
【0037】
(製造方法)
次に、以上のような構成の有機EL素子1の製造方法を説明する。
まず、透光性基板2上に第1の電極である陽極3を形成する。これは、透光性基板2上の全面にスパッタリング法を用いてITO膜を形成し、さらにフォトリソグラフィ技術による露光、現像を行って、陽極3として残存させる要部をフォトレジストで被覆すると共に、不要部を酸溶液でエッチングしてITO膜を除去する。このようにして、所定の間隔をあけて配置された短冊状の陽極3が形成される。
【0038】
次に、各陽極3の間に隔壁4を形成する。これは、透光性基板2あるいは陽極3上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術による露光、現像を行って、各陽極3の間にフォトレジストを残存させる。その後、ベーキングを行うことでフォトレジストを硬化させる。
次に、正孔輸送層7を形成する。これは、正孔輸送材料の分散液を透光性基板2上あるいは陽極3上にスピンコート法によって塗布することで形成する。
【0039】
その後、図3に示す凸版印刷装置10を用いて、上述のような有機発光材料の溶解液である有機発光インクを印刷することで有機発光層8を形成する。
この凸版印刷装置10は、有機発光インクが収容されるインクタンク11と、インクが供給されるインクチャンバ12と、アニックスロール13と、表面に凸版14が設けられた版胴15とを備えている。
【0040】
そして、赤色に発光する有機発光インクが収容されたインクタンク11からインクチャンバ12にインクを供給し、アニックスロール13の表面にインクを塗布する。次に、凸版14にアニックスロール13の表面に塗布されたインクを転移し、このインクを正孔輸送層7上に転写する。赤色に発光する有機発光インクの場合と同様に、緑色、青色に発光する有機発光インクを順次印刷する。
【0041】
続いて、陰極6を形成する。これは、短冊状の開口が形成されたマスクを有機発光層8上に配置し、抵抗加熱蒸着法によって蒸着して形成する。ここで、マスクは、その開口の長手方向が陽極3の長手方向と平面視で直交するように配置する。このようにして、有機発光層8上にその長手方向が陽極3の長手方向と平面視で直交する方向で短冊状に一定の間隔をあけて形成する。
【0042】
最後に、これら陽極3、有機発光媒体層5及び陰極6を空気中の酸素や水分から保護するために封止層で封止する。封止層は、図1のように、封止基板11を樹脂層10を介して張り合わせて構成することができる。不活性ガスを封入し、ガラスキャップで封止することで封止層を構成しても良い。
以上のようにして、有機EL素子1が製造される。
【0043】
(作用効果)
以上のように構成された有機EL素子1及び有機EL素子1の製造方法によれば、有機発光層8を低分子有機発光材料と高分子正孔輸送材料で形成する。すなわち、高分子正孔輸送材料の濃度調整によって、発光材料の濃度を変えずにインクの粘度を調整することが出来る。この結果、製造工程において最適な粘度で有機発光層8を形成することが可能となる。
【0044】
また、正孔輸送層7に接して形成された有機発光層8に、正孔輸送層7を構成する材料と同一の高分子材料が含まれるため、バインド効果により、有機発光層8がより定着しやすくなる。
また、低分子材料以外の機能性材料により増大したインクの粘性により、塗布対象の表面に凸版印刷法を用いてインクが液垂れを起こすことなく転写され、塗布対象の表面に低分子材料を含む機能性層を印刷することができる。すなわち、印刷法を適応するのに必要な粘度を得ることができ、印刷による有機EL素子の製造が可能となる。これにより、粘度の面で使用する溶媒の制限を受けずに済むようになるため、溶解性および乾燥工程の面で幅広い選択肢の中から溶媒を選定することができるようになる。
【0045】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態について、図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態と同様な構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
第2実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。ただし、本実施形態では、凸版反転オフセット印刷法によって有機発光層8を形成する点が異なる。
すなわち、本実施形態における有機EL素子の製造方法は、正孔輸送層7を形成した後、図4に示すような凸版反転オフセット印刷装置20を用いて有機発光層8を印刷する。
この凸版反転オフセット印刷装置20は、有機発光インクが収容されるインクタンク11と、表面にシリコーンゴム層を有するブランケット21を備える回転胴22と、インクをブランケット21に塗布するキャップコータ23と、凸型24とを備えている。
【0047】
そして、キャップコータ23でインクをブランケット21に塗布し(図4(a))、凸型24をブランケット21に接触させて正孔輸送層7に転写しない不要部を凸型24に転写して除去する(図4(b))。この除去は、ブランケット21の表面に設けられたシリコーンゴムが有する剥離作用により生じるものである。また、凸型24の凸部は、形成すべき有機発光層8のパターンとは逆のパターンが加工されている。ここで、インクが低分子材料で構成された有機発光材料を含有しているので、インクの切れ性が向上し、パターン通りにインクが除去される。
【0048】
その後、ブランケット21に残存しているインクを正孔輸送層7に転写する(図4(c))。転写されたインクは、隔壁4で区切られた領域内で平均化する。そして、緑色、青色に発光する有機発光インクをそれぞれ個別に転写し、転写されたインクを乾燥する。
以上のように、凸版反転オフセット印刷法を用いて低分子材料を含む機能性層を印刷で形成する。ここで、インクが低分子材料によって構成されており、上述の様に粘度を調整することができるので、印刷用のブランケット表面に塗布されたインクの切れ性が向上し、パターン通りの形状とすることができる。
【0049】
すなわち、以上のように構成された有機EL素子及びその製造方法においても、上記した第1の実施形態と同様の作用、効果を有する。
【0050】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態について、図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態で説明した構成要素と同様な構成には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
第3実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。但し、本実施形態ではインクジェット印刷法によって有機発光層8を形成している点が異なる。
すなわち、本実施形態における有機EL素子の製造方法では、正孔輸送層7を形成した後、図5に示すようなインクジェット印刷装置30を用いて有機発光層8を印刷する。このインクジェット印刷装置30は、有機発光インクが収容されるインクタンク11と、インクの液滴を噴射するインクジェットヘッド31とを備えている。
【0052】
そして、インクジェットヘッド31からインクの液滴を正孔輸送層7の表面に向けて噴射する。正孔輸送層7に付着したインクは、粘度が低いために隔壁4で区切られた領域内で平均化する。そして、緑色、青色に発光する有機発光インクをそれぞれ個別に印刷し、更に印刷されたインクを乾燥する。
本実施形態によれば、噴射するインクが低分子材料で構成された有機発光材料を含有しているので、インクジェットヘッド31の噴出口の詰まりが防止される。
【0053】
そして、以上のように構成された有機EL素子及びその製造方法においても、上記した第1の実施形態と同様の作用、効果を有する。
なお、本発明は上記全実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、有機発光層8の上面に電子輸送層を積層してもよい。ここで、電子輸送層として、例えばN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンをポリスチレン、ポリメチレンメタクリレート、ポリビニルカルバゾールなどの高分子材料を溶解させたものを用いることができる。また、正孔ブロック層や正孔注入層、電子注入層、電子ブロック層を形成してもよい。ここで、正孔注入層や電子ブロック層は、正孔輸送層7と同様に、画素電極である陽極3から正孔を対向電極である陰極6の方向へ進めて正孔を通しながらも、電子が陽極3の方向へ進行することを防止する機能を有している。また、正孔ブロック層や電子輸送層、電子注入層は、対向電極である陰極6から電子を画素電極である陽極3の方向へ進めて電子を通しながらも、正孔が陰極6の方向へ進行することを防止する機能を有している。
【0055】
また、フッ化リチウムなどの薄膜を、陰極6と有機発光媒体層5との間に設けてもよい。陰極6を短冊状にパターニングするには、金属膜、セラミック膜の蒸着マスクなどを用いることができる。
さらに、陰極6上に絶縁性の無機物や樹脂などによる保護層を設けてもよい。隔壁4が各陽極3間に形成されているが、陽極3の周縁部と隣接する他の陽極3の周縁部との間にわたって形成されていてもよく、隔壁4を設けない構成としてもよい。
【実施例1】
【0056】
次に、本発明にかかる有機EL素子1を実施例により具体的に説明する。
「実施例1」
まず、実施例1として、上記した第1実施形態における、有機発光層8を上述した凸版印刷法による印刷を用いて形成した有機EL素子を製造した。本実施例において、透光性基板2として厚さが0.7mm、一辺が100mm四方のガラスを用い、幅80μm、厚さ0.15μmの短冊状の陽極3を120μm間隔で形成した。
【0057】
ここで、陽極3の表面粗さRaは、200μm2 からなる任意の面内において20nmとなった。また、隔壁4は、透光性基板2と接触する下端の幅が30μm、上端の幅が15μm、高さが1μmであり、断面ほぼ台形状となっている。ここで、隔壁4は、フォトリソグラフィ技術による現像後に、約200℃、60分間のベーキングを行うことによって形成した。
【0058】
また、正孔輸送層7は、正孔輸送材料としてポリアリーレン誘導体を用いてこれをキシレンに溶解させて濃度を0.5質量%とした分散液をスピンコート法で塗布し、これを乾燥させることによって形成した。有機発光層8は、緑色に発光する画素に用いられる低分子有機発光材料として、Alq3 を用いた。
【0059】
そして、この低分子有機発光材料と上記高分子正孔輸送材料をそれぞれアニソールに溶解して溶解液としたものを有機発光インクとして用いた。ここで、低分子有機発光材料の濃度は、2質量%とした。また、高分子正孔輸送材料の濃度は、1.75質量%とし、粘度は65mPa・sとした。そして150℃、30分、不活性ガス雰囲気下で乾燥を行い、厚さ70nmの有機発光層8を得た。
【0060】
このようにして製造された有機EL素子1の陽極3及び陰極6に電圧を印加したところ、10Vで輝度が9100cd/cm2 である表示試験結果が得られた。すなわち、発光不良画素は認められなかった。
【0061】
「実施例2」
次に、第2実施形態で説明した、有機発光層8を凸版反転オフセット印刷法による印刷を用いて形成した有機EL素子を製造した。なお、本実施例においては上記した実施例1と同様の箇所の説明を省略する。
【0062】
ここで、高分子正孔輸送材料の濃度は、2.0質量%とし、粘度は45mPa・sとした。本実施例において、有機発光層8は、160℃、30分、不活性ガス雰囲気下で乾燥を行うことによって形成されており、その厚さが70nmとなっている。
このようにして製造された有機EL素子1の陽極3及び陰極6に電圧を印加したところ、10Vで輝度が7700cd/cm2 である表示試験結果が得られた。すなわち、発光不良画素は認められなかった。
【0063】
「実施例3」
次に、第3実施形態で説明した、有機発光層8をインクジェット印刷法による印刷を用いて形成した有機EL素子を製造した。なお、本実施例においては上記した実施例1と同様の箇所の説明を省略する。
【0064】
ここで、高分子材料の濃度は、1.0質量%とし、粘度は10mPa・sとした。本実施例において、有機発光層8は、150℃、30分、不活性ガス雰囲気下で乾燥を行うことによって形成されており、その厚さが70nmとなっている。
【0065】
このようにして製造された有機EL素子1の陽極3及び陰極6に電圧を印加したところ、10Vで輝度が7900cd/cm2 である表示試験結果が得られた。すなわち、発光不良画素は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、使用する溶媒の制限を受けずに、印刷による有機EL素子の製造を可能となり、産業上の利用可能性が認められる。
【符号の説明】
【0067】
1 有機EL素子
2 基板
3 陽極(画素電極、第1の電極)
4 隔壁
5 有機発光媒体層
6 陰極(対向電極、第2の電極)
7 正孔輸送層(機能性層)
8 有機発光層(機能性層)
9 隔壁
10 樹脂層
11 封止基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成した第1の電極の上に、少なくとも正孔輸送層及びその正孔輸送層に接して形成される有機発光層を有する有機発光媒体層を形成し、上記有機発光媒体層の上側に第2の電極を形成する有機EL素子の製造方法において、
上記正孔輸送層を、少なくとも1種類の繰り返し構造を持つ高分子材料から形成し、
上記有機発光層を、少なくとも1種類の繰り返し構造を持たない低分子有機発光材料と、上記正孔輸送層を構成する材料と同一の高分子材料とを含むインクを塗布することで形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
上記有機発光層を形成するインク中に含まれる上記高分子材料の濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
上記第1の電極は、隔壁によって画素ごとに区画され、且つ、上記高分子材料からなる正孔輸送層は、隔壁の表面にも形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
架橋性の高分子材料を含むインクを上記第1の電極上に塗布し架橋させて上記正孔輸送層を形成した後に、有機発光層を形成する上記インクを塗布することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
上記有機発光層は、凸版印刷法を用いた転写によって、上記インクを塗布することで形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
上記有機発光層は、凸版反転オフセット印刷法を用いた転写によって、上記インクを塗布することで形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
上記有機発光層は、上記インクの微小液滴を噴射及び定着させて形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
基板上に少なくとも、第1の電極、少なくとも正孔輸送層及びその正孔輸送層に接して積層される有機発光層を備える有機発光媒体層、及び第2の電極を、この順番に積層して形成される有機EL素子において、
上記正孔輸送層は、少なくとも1種類の繰り返し構造を持つ高分子材料によって形成され、
上記有機発光層は、少なくとも1種類の繰り返し構造を持たない低分子発光材料と、正孔輸送層を構成する材料と同一の高分子材料とを含む機能性材料によって形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項9】
上記第1の電極は隔壁によって画素ごとに区画され、且つ上記正孔輸送層は、隔壁の表面にも形成されていることを特徴とする請求項8に記載した有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−198500(P2011−198500A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61003(P2010−61003)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】