説明

有機EL素子の機能層の製造装置および製造方法

【課題】有機ELパネルにおいて、基板上に塗付液を充填し乾燥させて有機EL素子の機能層を形成するときに、形成される膜形状が基板面内でばらつくのを抑えることによって、基板全体に亘って均一的な形状の機能層を形成する。
【解決手段】乾燥室21の内部には、インクが充填された基板1を載置する支持台23が設けられ、当該支持台23の上を覆うように拡散調整板24が設けられている。
支持台23の上面には、基板1の温度を調整するためのヒータ25a,25bが設けられている。乾燥装置20には、拡散調整板24を昇降させるための昇降ピン26及び拡散調整板用昇降機構27が設置されている。基板1上に充填されたインクを乾燥する時に、拡散調整板24を基板1の近くに位置させて溶剤の拡散を抑えながら乾燥を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイをはじめとする有機ELパネルにおいて、その有機EL素子の機能層を製造する製造装置および製造方法に関し、特に、塗付液を乾燥して機能層を形成するときに用いる製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、研究・開発が進んでいる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と記載する。)は、有機材料の電界発光現象を利用した発光素子であって、第1電極(陽極)と第2電極(陰極)との間に発光層が介挿された構造を有している。そして、このような有機EL素子がマトリックス状に配列されて有機ELディスプレイの画素が構成されている。
【0003】
有機ELディスプレイにおいて、一般に発光層は、画素ごとに絶縁材料からなるバンクで仕切られていて、このバンクによって発光層の形状が規定されている。また、第1電極と発光層との間には、例えば、必要に応じてホール注入層、ホール輸送層またはホール注入兼輸送層が介挿され、第2電極と発光層との間には、必要に応じて電子注入層、電子輸送層または電子注入兼輸送層が介挿される(以下、ホール注入層、ホール輸送層、ホール注入兼輸送層、電子注入層、電子輸送層、および電子注入兼輸送層を総称して「電荷注入輸送層」と記載する)。
【0004】
このような有機ELディスプレイを作製する際に、基板上に、発光層あるいは電荷注入輸送層といった機能層を形成する工程がある。この機能層形成工程において、低分子材料を真空プロセスで成膜する方式以外に、機能層を形成するための材料を溶剤に溶解させたインク(塗布液)を、インクジェット法などでバンク間に充填して、充填されたインクを乾燥するウェット方式も多く用いられている。
【0005】
ところで、有機ELディスプレイの輝度特性は、機能層(発光層や電荷注入輸送層)の膜厚に敏感であるため、機能層を形成する際に、各画素予定部位に一定量のインクを充填すること、並びにその機能層の形状をできるだけ一定にすることが要求される。
そこで、基板上に複数の画素の機能層を形成する際に、各画素予定部位に対してインクが均等量充填されるように、溶剤として比較的沸点の高い溶剤が用いられている。そして、充填されたインクを乾燥する時には、その沸点の高い溶剤を蒸発させるために、インクを充填した基板を乾燥器内で減圧乾燥している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−330136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように基板上にインクを充填し乾燥する方法で機能層を形成すると、基板中央部と基板端部とではインク乾燥時の雰囲気が異なる。一般に、基板端部の画素予定部位に充填されたインクの液溜まりでは、基板端寄りの方が基板中央寄りと比べて溶剤が蒸発しやすいので、充填されたインクの液溜まりの中でインク液が基板端側に流動し、偏った状態で乾燥が進む。それによって、形成される機能層は基板端側の方が塗膜の膜厚が大きくなりやすい。その結果、基板中央部に形成される画素の機能層と基板端部に形成される画素の機能層とは形状が互いに異なる傾向がある。
【0008】
このように、基板中央部の画素と基板端部の画素とで機能層の形状が異なると、各機能層の特性も互いに異なるため、有機ELディスプレイにおいては画質の低下につながる。
このような課題に対して、特許文献1には、有機ELパネルにおける機能層の膜形状を均一に形成するために、基板面内各部位における液状膜の乾燥速度に応じて、各部位ごとに加熱温度を調整できる乾燥装置が開示されている。このように乾燥時に基板の面内温度分布を調整することは、形成される塗膜の膜厚を基板全体で均一化するのに有効ではあるが、この方法では十分に均一化することは難しい。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、基板上のバンクに塗付液を充填し乾燥させて有機EL素子の機能層を形成するときに、形成される膜形状が基板面内でばらつくのを抑えることによって、基板全体に亘って均一的な形状の機能層を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様である、基板上のバンクによって挟まれた画素形成予定領域に塗付液を充填し、塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることにより乾燥させて有機EL素子の機能層を形成する製造装置において、基板を支持する支持部と、支持部に支持された基板と間隙をおいて塗付液を覆うように配置され、塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑える拡散調整板とを設けた。
【0011】
また、有機EL素子の機能層を形成する製造方法において、乾燥時に、基板を支持するとともに、支持された基板と間隙をおいて塗付液を覆うように配して、塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑えながら乾燥を行うこととした。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明によれば、有機EL素子の機能層の膜形状を基板面内で均一化できる。
すなわち、有機ELパネルを製造する際に、基板上のバンクで挟まれた画素形成予定領域に塗付液を充填し、塗布液に含まれる溶剤を蒸発させる乾燥工程において、基板と間隙をおいて、塗付液を覆うように拡散調整板を配置すると、拡散調整板が溶剤の蒸発を抑制すると共に、基板端近くで蒸気が外方に拡散するのも抑制され、蒸気溶剤蒸気の面内濃度分布が均一化されるので、塗付液からの蒸発速度の面内分布も均一化される。従って、乾燥中に塗付液の液溜まりの中で塗付液が流動するのが抑えられる。
【0013】
その結果、形成される有機EL素子の機能層の膜厚は基板面内で均一化される。また、基板面に沿って複数の画素を形成する場合も、基板全体に亘って均一的な形状の機能層をを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態にかかる有機ELディスプレイの一部断面を模式的に示す断面図である。
【図2】上記有機ELディスプレイの製造方法を説明する工程図である。
【図3】有機ELディスプレイを製造するのに用いる乾燥装置の概略構成を示す図である。
【図4】基板上に拡散調整板を設けることなくインクを乾燥する様子を示す図である。
【図5】基板中央領域、基板左端領域、基板右端領域の各画素において形成される発光層の画素内での膜厚分布を示す図である。
【図6】(a)は基板上に拡散調整板を設けた状態でインクを乾燥する様子を示す図、(b),(c)は、基板右端領域に形成された発光層の画素内での膜厚分布を比較する図である。
【図7】乾燥装置において、基板上のインクを乾燥させる一連の動作及び乾燥室内の圧力を示すタイミングチャートである。
【図8】図7に示す各時期の動作を説明する図である。
【図9】拡散調整板の位置制御及びヒータの温度制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様である有機EL素子の機能層を形成する製造装置においては、基板を支持する支持部と、支持部に支持された基板と間隙をおいて塗付液を覆うように配置され、塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑える拡散調整板とを設けた。また、有機EL素子の機能層を形成する製造方法において、乾燥時に、基板を支持するとともに、支持された基板と間隙をおいて塗付液を覆うように配して、塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑えながら乾燥を行うこととした。
【0016】
本態様により、拡散調整板が溶剤の蒸発を抑制すると共に、基板端近くで蒸気が外方に拡散するのも抑制され、蒸気溶剤蒸気の面内濃度分布が均一化されるので、塗付液からの蒸発速度の面内分布も均一化される。従って、乾燥中に塗付液の液溜まりの中で塗付液が流動するのが抑えられ、その結果、形成される有機EL素子の機能層の膜厚は基板面内で均一化される。
【0017】
特に、拡散調整板の大きさを、基板上の塗付液を充填する全体領域よりも大きく設定すれば、その効果は大きい。
上記態様において、乾燥時に基板面の近くに拡散調整板を設置すると、塗付液からの溶剤蒸発速度が遅くなるので、乾燥に要する時間は長くなるが、拡散調整板を、基板面との間隙を変更可能に支持し、基板と拡散調整板との間隙内における中央部と外周部との溶剤蒸気濃度差を検出するセンサと、センサで測定した溶剤蒸気濃度差に基づいて、拡散調整板と基板との間隙を制御する間隙制御部とを設ければ、蒸気濃度差が大きい時には、拡散調整板と基板との間隙を狭めて溶剤蒸気の面内濃度分布を均一化し、蒸気濃度差が小さいときには、拡散調整板と基板との間隙を広げて、蒸発速度を速めることができる。従って、乾燥にそれほど長時間を要することなく、有機EL素子の機能層の塗膜形状を基板面内で均一化することができる。
【0018】
ここで、上記間隙制御部は、溶剤蒸気の濃度差が基準濃度差より大きいときには、拡散調整板と基板との間隙を狭め、溶剤蒸気の濃度差が基準濃度差より小さいときには、拡散調整板と基板との間隙を広げるように制御する。
間隙制御部は、センサで検出する溶剤蒸気濃度が基準濃度より小さくなるまで間隙制御を行い、その後は、拡散調整板と基板との間隙を広げた状態で溶剤の蒸発乾燥を行うようにしてもよい。
【0019】
上記態様において、さらに、センサで測定した溶剤蒸気濃度差に基づいて、基板の中央部及び外周部の面内温度分布を調整する温度分布調整部を設け、溶剤蒸気濃度差が大きいときに、基板の外周部温度に対する中央部の温度を相対的に高めるよう制御すれば、溶剤蒸気の蒸発速度を基板面内で均一化する効果が向上する。
また、上記態様において、さらに、支持部及び拡散調整板を収納する乾燥室と、当該乾燥室から排気するポンプとを設ければ、基板上に充填された塗布液に含まれる溶剤を蒸発乾燥させる乾燥工程を減圧下で行うことができるので、低い乾燥温度でも乾燥を実施することができる。
【0020】
[実施例]
本実施例では、有機ELディスプレイの発光層を形成する工程において本発明を適用する。
まず、製造しようとする有機ELディスプレイの概略構成を述べ、次にその製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0021】
<有機ELディスプレイの概略構成>
図1は、有機ELディスプレイの一部断面を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、有機ELディスプレイ100は、RGB各色の発光層を具備するトップエミッション型の有機EL素子10a,10b,10cがマトリックス状に配列されてなる有機ELディスプレイである。
【0022】
TFT基板1(以下、「基板1」と記載する)上には、陽極である第1電極2がマトリックス状に形成されており、第1電極2上に、ITO(酸化インジウムスズ)層3及び、ホール注入層4がその順で積層されている。なお、ITO層3が第1電極2上にのみ積層されているのに対し、ホール注入層4は第1電極2上だけでなく基板1の上面全体に亘って形成されている。
【0023】
第1電極2の周辺上部にはホール注入層4を介してバンク5が形成されており、バンク5で挟まれた領域内に発光層6が積層されている。さらに、発光層6の上には、電子注入層7、陰極である第2電極8、及び封止層9が、各バンク5で規定された領域を超えて、隣接する有機EL素子10a,10b,10cのものと連続するように形成されている。
基板1は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベース材料として形成される。
【0024】
第1電極2は、Ag(銀)の他、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されていても良い。
ITO層3は、第1電極2及びホール注入層4の間に介在し、各層間の接合性を良好にする機能を有する。
【0025】
ホール注入層4は、金属酸化物、金属窒化物又、金属窒化物などホール注入機能を果たす材料、例えば、WOx(酸化タングステン)又はMoxWyOz(モリブデン−タングステン酸化物)で形成される。このホール注入層4は、バンク5の底面に沿って側方に延出している。
バンク5は、樹脂等の絶縁性を有する有機材料、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等で形成される。バンク5は、有機溶剤耐性を有することが好ましく、また、エッチング処理、ベーク処理等がされることがあるので、それらの処理に対して変形、変質などしにくい材料で形成することが好ましい。
【0026】
発光層6は、RGB各色の有機発光材料(蛍光物質)からなる層である。この有機発光材料として、例えば、特開平5−163488号公報に記載されたオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等が挙げられる。
【0027】
電子注入層7は、第2電極8から注入された電子を発光層6へ輸送する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、あるいはこれらの組み合わせで形成されることが好ましい。
トップエミッション型なので、第2電極8は、光透過性の材料、例えば、ITO、IZO(酸化インジウム亜鉛)等で形成されている。
【0028】
封止層9は、発光層6等が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する役割を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成されている。
なお、図1では、基板1を横方向に切断した断面形状を示しているが、バンク5は、基板1の上面に沿って縦方向(図1では紙面表裏方向)に伸長している。そして、複数本のバンク5が、基板1の上面全体に亘って配列されている(図4参照)。また、バンク5は、ストライプ状のラインバンクであって、各色発光層6も図5に示すように縦方向にストライプ状に伸長している。ただし、バンク5は、平面形状が井桁状のピクセルバンクであっても同様に実施できる。
【0029】
<有機ELディスプレイの製造方法>
図2は、有機ELディスプレイの製造方法を説明する工程図である。
図2(a)に示すように、基板1上に、第1電極2、ITO層3、ホール注入層4を順に形成し、ホール注入層4上にバンク5を形成する。
第1電極2は、例えばスパッタリングによりAg薄膜を形成し、当該Ag薄膜を例えばフォトリソグラフィでマトリックス状にパターニングすることによって形成する。なお、Ag薄膜は真空蒸着等で形成しても良い。
【0030】
ITO層3は、例えばスパッタリングによりITO薄膜を形成し、当該ITO薄膜を例えばフォトリソグラフィによりパターニングすることにより形成する。
ホール注入層4は、WOx又はMoxWyOzを含む組成物を用いて、真空蒸着、スパッタリングなどの技術で形成する。
バンク5は、ホール注入層4上にバンク材料を塗布する等によってバンク材料層を形成し、形成したバンク材料層の一部を除去することによって形成する。バンク材料層の除去は、バンク材料層上にレジストパターンを形成し、その後、エッチングすることにより行うことができる。バンク材料層の表面に、必要に応じてフッ素プラズマ等によって撥液処理を施してもよい。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、バンク5同士間の画素形成予定領域に、RGB各色のいずれかの有機発光材料を含む塗付液としてのインク6aを充填する。そして、充填したインク6aを減圧下で乾燥させることによって、図2(c)に示すように発光層6を形成する。この発光層6の形成工程については後で詳しく説明する。
次に、図2(d)に示すように、電子注入層7、第2電極8、封止層9を順次形成する。
【0032】
電子注入層7は、例えば真空蒸着によってバリウムを薄膜成形する。
第2電極8は、例えばスパッタリングによってITOを薄膜成形する。
〈発光層6の形成〉
インク準備工程:
RGB各色ごとに、発光層6を構成する有機発光材料を溶質とし、比較的沸点が高い溶剤(沸点170〜300℃)を含む溶剤に溶解してインクを製造する。
【0033】
溶剤としては、シクロヘキシルベンゼン(CHB、沸点238℃)の他に、例えば、ジエチルベンゼン(沸点183℃)、デカハイドロナフタレン(沸点190℃)、メチルベンゾエート(沸点199℃)、アセトフェノン(沸点202℃)、フェニルベンゼン(沸点202℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、テトラハイドロナフタレン(沸点207℃)、イソフォロン(沸点213℃)、n−ドデカン(沸点216℃)、ジシクロヘキシル(沸点227℃)、p−キシレングリコールジメチルエーテル(沸点235°)が挙げられる。
【0034】
これら溶剤は、単独で用いてもよいし、複数の溶剤を混合したもの、あるいは上記の高沸点溶剤と、沸点170℃未満の低沸点溶剤とを混合して用いてもよい。
インク充填工程:
基板1上の全体に亘って、複数本のバンク5どうしの間に形成された各空間(画素形成予定領域)5a内に、液滴吐出法(インクジェット法)で、RGB各色のインクを充填する。
【0035】
インクあるいは塗付液をバンク間に充填する方法として、この他に、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等を用いてもよい。
乾燥工程:
各色のインクが充填された基板1を乾燥装置20内に収納し、減圧雰囲気下でインク中の溶剤を蒸発させることによって乾燥させる。
【0036】
〈乾燥装置20の構成〉
図3は、有機ELディスプレイ100を製造する際に乾燥工程で用いる乾燥装置20の概略構成を示す断面図であり、(a)は乾燥装置20を横から見た断面を示し、(b)は乾燥装置20を上から透視したときの各構成要素の位置関係を示している。
この乾燥装置20は、乾燥室21、当該乾燥室21から排気するための排気管22、排気ポンプ31,32、バルブ33,34を備え、乾燥室21の内部には、インクが充填された基板1を支持する支持台23が設けられ、当該支持台23上の基板1を覆うように、インクから蒸発する蒸気の拡散を調整する拡散調整板24が設けられ、支持台23の上面には、基板1の温度を調整するためのヒータ25a,25bが設けられている。さらに乾燥装置20には、拡散調整板24を昇降させるための昇降ピン26及び拡散調整板用昇降機構27と、基板1を昇降させるための昇降ピン28及び基板用昇降機構29が設置されている。
【0037】
乾燥室21は、その側面に基板1を出し入れする扉(不図示)を備え、気密に密閉できるようになっている。
基板1の温度分布を調整する温度分布調整部:
図3(a),(b)に示されるように、ヒータ25aは、基板1の中央領域に相当する領域に配設され、当該中央領域の温度が、コントローラ50から指示される設定温度に合うよう発熱量が調整される。一方ヒータ25bは、基板1の外周領域に相当する領域に配設され、当該外周領域の温度が、コントローラ50から指示される設定温度に合うように発熱量が調整される。
【0038】
このように、ヒータ25aとヒータ25bとが個別に温度設定されることによって、基板1の中央領域と外周領域との温度分布を調整できるようになっている。
排気管22は、乾燥室21と、排気ポンプ31,32とに連結されている。
第1排気ポンプ31は、ドライポンプなど、大気圧から素引きできる排気ポンプであり、第2排気ポンプ32は、メカニカルブースタポンプ、ターボポンプなど、高真空領域において排気能力の高い排気ポンプであり、第1排気ポンプ31と第2排気ポンプ32は、切り替えて排気できるように排気管22に接続されている。
【0039】
また、排気管22は。その途中において、メインバルブ33が介挿された主排気管22aとスロー排気バルブ34が介挿された側排気管22bとに分岐されている。
乾燥室21には、当該乾燥室21内の圧力を測定する圧力計35が取り付けられている。
この圧力計35での測定値(圧力値)は、コントローラ50の圧力メモリ51に格納され、コントローラ50は、この測定圧力値に基づいて、バルブ33,34の制御、及び排気ポンプ31,32の駆動制御を行う。
【0040】
拡散調整板24:
拡散調整板24は、支持台23上に載置される基板1の上面におけるインクを充填する領域全体を覆うことのできる大きさを有し、溶剤蒸気の拡散を抑える機能をもつ板であって、その厚さは特に限定されない。
ここでは、拡散調整板24として基板1よりも大きいガラス平板を用いるが、拡散調整板24の形状は、平板に限らず、例えば、中央部が高く、外周部が低くなるように、山形に湾曲した曲板であってもよい。
【0041】
また、拡散調整板24は、ガラス板のように蒸気を完全に遮蔽する板であってもよいし、メッシュ板のように穴が分散して開口されていて、ある程度蒸気が通過できるものでもよい。
拡散調整板24と基板1との間隙調整部:
この拡散調整板24は、コントローラ50の指示によって、上下駆動されることによって、姿勢を水平に保ったまま上下にスライド駆動され、基板1との間隙が制御されるようになっている。
【0042】
具体的には、乾燥室21の下部には拡散調整板用昇降機構27が設けられ、この拡散調整板用昇降機構27は、水平方向に伸びる昇降アーム27aを上下にスライド可能に支持しており、ステッピングモータ27bでボールねじ27cを回転駆動することによって昇降アーム27aを上下にスライド駆動させるようになっている。そしてこの昇降アーム27a上に上記複数の昇降ピン26が立設され、当該昇降ピン26は、乾燥室21の底面板及び支持台23を貫いて、その上端に拡散調整板24が水平に固定されている。
【0043】
また、基板1表面上の中央部と外周部とに、溶剤蒸気濃度を測定するための蒸気濃度センサ41,42が配置され、各蒸気濃度センサ41,42からの出力値(蒸気濃度)がコントローラ50に入力され蒸気濃度メモリ52に格納されるようになっている。
図3(a)の例では、1つの蒸気濃度センサ41が基板1の中央に相当する位置に配設され、4つの蒸気濃度センサ42が、基板1の外周部に相当する位置に、対称的に配設されている。ただし、蒸気濃度センサの配置形態はこれに限らず、基本的に基板1の中央部と外周部の上方に配設されていればよい。
【0044】
蒸気濃度センサ41,42の具体例としては、フィガロ技研製の有機溶剤用ガスセンサTG823が挙げられる。このセンサは、酸化スズ(SnO2)半導体が用いられ、清浄空気中では電導度が低く、溶剤蒸気濃度が増加するにつれて、酸化スズ半導体の電導度が増加するので、この電導度の変化を出力信号に変換するようになっている。
そして、コントローラ50は、蒸気濃度センサ41,42から入力される蒸気濃度の差に基づいて、拡散調整板用昇降機構27のステッピングモータ27bを回転させると、その回転数に比例する距離だけ拡散調整板24が上下にスライドし、拡散調整板24と基板1との間隙が制御される。
【0045】
基板1を昇降させる昇降機構:
乾燥室21の下部には基板用昇降機構29も設けられ、この基板用昇降機構29も、拡散調整板用昇降機構27と同様に昇降アーム29aをステッピングモータ29bとボールねじ29cで上下にスライド駆動させるようになっている。そして、昇降アーム29a上に複数の昇降ピン28が設けられ、乾燥室21の底面板及び支持台23を貫いて上端が支持台23の上面から突出できるようになっている。
【0046】
このような基板用昇降機構29において、コントローラ50の指示によって、昇降ピン28を上下にスライドさせ、それに伴って、昇降ピン28上に載せた基板1も上下にスライドさせることによって、基板1を支持台23上に容易にセットしたり、取り外したりすることができるようになっている。
〈乾燥装置20によるインク乾燥工程〉
図7は、上記乾燥装置20において、基板1上のインクを乾燥させる一連の動作及び乾燥室21内の圧力を示すタイミングチャートであり、図8は、各時期の動作を説明する図である。
【0047】
乾燥工程では、図7に示す各期間T1〜T6において、以下のように操作を行う。
期間T1:
図8(a)に示すように、拡散調整板24を搬入位置(上方位置)に上げた状態で、インクを充填した基板1を、ロボットハンド60を用いて乾燥室21の側面扉から搬入し、図8(b)に示すように、昇降ピン28を上昇させて基板1を昇降ピン28で支える。
【0048】
ロボットハンド60を抜いて、昇降ピン28を下降させることによって、図8(c)に示すように、基板1を支持台23上に載置する。
ヒータ25a、25bの各温度は、初期設定温度TA,TBに設定する。この設定温度は、通常数十℃であって、インクに用いる溶剤の沸点などを考慮して設定する。また、初期設定温度TA,TBは、両者を同等の温度に設定してもよいが、乾燥時に中央領域よりも外周領域の方がインクの蒸発速度が大きくなる傾向にある点を考慮して、中央領域と外周領域のインクの蒸発速度を均一化するために、ヒータ25aの初期設定温度TAを、ヒータ25bの初期設定温度TBよりも若干高く設定することが好ましい。
【0049】
期間T2:
コントローラ50は、図8(c)に示すように拡散調整板24を初期設定位置に移動し、蒸気濃度センサ41,42で蒸気濃度を測定した結果に基づいて、拡散調整板24の位置制御及びヒータ25a,25bの温度制御を行う(図8(d)参照)。
この拡散調整板24の位置制御及びヒータ25a,25bの温度制御については、後で詳しく説明するが、基板1上に充填されたインクから溶剤が蒸発する際に、このような制御を行うことによって、基板面内における溶剤蒸発速度が均一化されるので、形成される塗膜の形状も均一化される。
【0050】
期間T3:
コントローラ50は、一定時間経過後、図8(e)に示すようにスロー排気バルブ34を開いて第1排気ポンプ31で排気を開始する。排気に伴って乾燥室21内の圧力が低下するが、スロー排気バルブ34のコンダクタンスによって乾燥室21内の圧力は定められた圧力範囲内に維持され、減圧乾燥が進行する。この期間T3においても、拡散調整板24の位置制御及びヒータ25a,25bの温度制御を継続する。
【0051】
蒸気濃度センサ41、42の測定値(例えば蒸気濃度センサ41の測定値C1と、外周部の蒸気濃度センサ42の測定値C2との平均)が、予め設定されている蒸気濃度閾値よりも下がったら、蒸気濃度に基づく拡散調整板24の位置制御を終了する。ここで、上記蒸気濃度閾値は、インク中に残存する溶剤が少なくなったと判断できるような蒸気濃度値である。
【0052】
インクの乾燥が進行すると、溶剤蒸気濃度は低下していくので、コントローラ50は、蒸気濃度センサ41,42で測定する溶剤蒸気濃度がインクの乾燥がほぼ終了したと判定できる濃度レベルまで低下したら、拡散調整板24を上方の搬入位置に位置させる。
期間T4:
コントローラ50は、ヒータ25a,25bの設定温度は継続しながら、拡散調整板24を上方位置に留めた状態で、メインバルブ33を開いて第1排気ポンプ31による乾燥室21からの排気コンダクタンスを高め、乾燥室21の圧力を低下させる。
【0053】
これによってインク中に残存している溶剤が蒸発する。
期間T5:
コントローラ50は、圧力メモリ51に入力される圧力計35の測定値(乾燥室21の圧力)が、基準圧力に到達したら、図8(f)に示すように第2排気ポンプ32を駆動させて、乾燥室21内の圧力をさらに高真空にしてインク中に残留する溶媒を蒸発させる。
【0054】
期間T6:
コントローラ50は、所定時間が経過したら、第2排気ポンプ32を停止し、ベントバルブ(不図示)から乾燥室21内に気体を導入し、塗膜の乾燥を完了する。
〈拡散調整板24を設けることによる効果〉
このような乾燥装置20において、基板1上に充填されたインクを乾燥する時に、拡散調整板24を基板1上の近くに位置させた状態で溶剤の拡散を抑えながら乾燥を行うと、形成される発光層6は、基板1の中央部と端部とで塗膜の形状が均一的なものとなる。すなわち、基板1全体に亘って均一的な形状の発光層6を形成することができる。
【0055】
以下に、(1)乾燥時に拡散調整板24を設けることなく乾燥する場合と、(2)拡散調整板24を設けた状態で乾燥する場合とに分けて対比説明する。なお、基板1上の溶剤蒸気の面内濃度分布、発光層形状のばらつきは、横方向(図1で紙面横方向)、縦方向(図1で紙面表裏方向)のいずれにも生じ得るが、ここでは、主に、バンク5に対して直交する横方向について説明する。
【0056】
(1)拡散調整板24を設けない場合:
図4は、基板1上に拡散調整板を設けることなく、基板1上に形成された複数のバンク5の間の各空間内に充填されたインクを乾燥する様子を示す図であって、基板1を横方法に切断した断面で示している。
図4(a)において、破線で表す曲線の高さは、乾燥中に基板上にける横方向の各位置においてインクから蒸発する溶剤蒸気の濃度を示している。
【0057】
また図4(b)には、発光層6を形成するときに、基板1の中央領域と、基板1の右端領域及び左端領域とで、インクから溶剤が蒸発するときに画素内で蒸発速度がどのようにばらつくかを、矢印A1〜A3,矢印B1〜B3、矢印C1〜C3で示している。
図5は、基板中央領域、基板左端領域、基板右端領域の各画素において形成される発光層6の画素内での膜厚分布(バンク5と直交する横方向に対する膜厚分布)を示す図であって、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したものである。
【0058】
図4(a)に示されるように、基板1の端部上の領域B、Cでは、基板1中央部上の領域Aと比べて溶剤蒸気濃度が低くなっており、特に基板右端及び基板左端近くで溶剤蒸気濃度の低下が顕著である。
このように基板1の端部で溶剤蒸気濃度の低下が生じる理由は、基板1の中央領域では、その両横に溶剤蒸気の発生源があるためインクから蒸発する溶剤蒸気はほぼ上方向にだけ拡散するのに対して、基板1の右端領域Bでは、その右方に溶剤蒸気の発生源がなく、溶剤蒸気圧の低い空間が広がっているので、インクから蒸発する溶剤蒸気が、上方向だけでなく右方向にも拡散され、基板1の左端領域Cでも同様にインクから蒸発する溶剤蒸気が、上方向だけでなく左方向にも拡散され、拡散力が大きいためである。
【0059】
ここで、基板1上の溶剤蒸気濃度が低い領域ほど、インク表面付近での溶剤蒸気濃度勾配が大きくなり、蒸発速度も大きくなるので、図4(b)中、基板右端領域の図に示されるように、基板1の右端領域においては、画素左端部からの蒸発速度B1と比べて、画素中央部からの蒸発速度B2の方が大きく、画素右端部からの蒸発速度B3がさらに大きくなる。
【0060】
このように画素子の左端から右端にかけて蒸発速度に差が生じると、充填されたインク液の液溜まりの中で、蒸発速度の小さい画素左端部から蒸発速度の大きい画素右端部へとインク液が流れ込み、流れ込んだインク液に含まれる溶剤だけが蒸発していくので、画素右端部において発光層材料の堆積量が多くなり、その分膜厚が大きくなる。従って、基板1の右端領域の画素において形成される発光層の膜厚は、図5の基板右端領域のグラフに示されるように画素左端部よりも画素右端部の方が大きくなる。
【0061】
基板左端領域においても、同様に、画素右端部からの蒸発速度C3と比べて、画素中央部からの蒸発速度C2の方が大きく、画素左端部からの蒸発速度C1がさらに大きい。従って、インク液中において、画素右端部から画素左端部に液が流れ込み、基板1の左端領域において形成される発光層の膜厚は、図8の基板左端領域のグラフに示されるように画素右端部よりも画素左端部の方が大きくなる。
【0062】
一方、図4(b)中、基板中央領域の図に示すように、基板中央領域においては、画素内で左右の蒸気圧の差が少ないので、画素左端部と画素右端部からの蒸発速度A1、A3はほぼ同等である。ただし、画素端部においては、隣接するバンク5の上にも溶剤蒸気が拡散できるので、画素中央部と比べて画素端部では、蒸気濃度が若干小さくなり、画素中央部からの蒸発速度A2と比べて、画素端部からの蒸発速度A1、A3は若干大きくなる。
【0063】
従って基板中央領域では、充填されたインク液の液溜まりの中で、画素中央部から素子端部へとインク液が流れ込み、図8の基板中央領域のグラフに示されるように画素中央部の膜厚と比べて画素端部の膜厚が若干大きくなる。
(2)基板1上に拡散調整板24を設けた状態で乾燥する場合:
図6(a)は、基板1上に拡散調整板24を設けた状態で、基板1上のバンク5間に充填されたインクを乾燥する様子を示す図である。
【0064】
図6(a)においても、破線で表す曲線の高さは、乾燥中に基板1上の各領域における溶剤蒸気濃度を示している。
図6(a)に示すように、基板1の上面に沿って間隙を開けて拡散調整板24が存在すると、インクから蒸発する溶剤蒸気の上方への拡散は妨げられるので、全体的に蒸発速度は小さくなるが、上記図4(a)の場合と比べると、基板中央領域と、基板右端領域、基板左端領域との間で、溶剤蒸気濃度の差が小さくなる。特に、基板右端領域及び基板左端領域における溶剤蒸気濃度の低下が小さく抑えられる。
【0065】
これは、拡散調整板24が、基板右端領域及び基板左端領域よりも外方まで伸長して、基板右端領域よりも右方の空間、及び基板左端領域よりも左方の空間を覆っているため、当該空間からの溶剤蒸気の拡散が大きく抑制されることによるものと考えられる。
従って、基板1上に拡散調整板24が存在する状態で、インクの乾燥を行えば、基板右端領域及び基板左端領域において蒸気濃度分布が均一になり、基板右端領域及び基板左端領域の画素内での左右の蒸発速度差も小さく抑えられるので、インク液の流れ(対流)も小さく抑えられる。よって、形成される発光層6の画素内における左右の膜厚差も小さく抑えられる。
【0066】
図6(b),(c)は、拡散調整板24を設けることなく乾燥した場合と、拡散調整板24を設けた状態で乾燥した場合とで、基板右端領域に形成された発光層6の画素内の膜厚分布(バンク5と直交する方向)を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した結果を示すものである。
拡散調整板24無しで乾燥した場合は、図6(b)に示すように、形成された発光層は画素左端の膜厚よりも画素右端の膜厚が12nm大きいのに対して、拡散調整板24で覆いながら乾燥した場合は、図6(c)に示すように、形成された発光層は画素左端の膜厚と画素右端の膜厚の差は4nmであった。
【0067】
この結果は、拡散調整板24を設けた状態で乾燥することによって、基板1全体に亘って形状が均一的な発光層6を形成できることを裏付けている。
なお、上記従来技術で述べた温度分布を制御する方法を用いて発光層を形成しても、基板全体に亘って溶剤蒸発速度の分布を均一化でき、発光層の形状を均一化する効果もある程度期待できるが、乾燥時に溶剤蒸気濃度の分布は均一化されない。これに対して、本実施形態のように拡散調整板24を用いれば、溶剤蒸気濃度分布を均一化でき、発光層の形状を基板全体で均一化する効果もより優れる。
【0068】
〈期間T2、T3における拡散調整板24の位置制御、及びヒータ25a,25bの温度制御〉
期間T2、T3において、コントローラ50によって行われる拡散調整板24の位置制御、及びヒータ25a,25bの温度制御について説明する。
期間T2、T3では、コントローラ50は、基板1と拡散調整板24との間の空間内において、基板1面内の中央部の溶剤蒸気濃度と外周部の溶剤蒸気濃度との差を測定して、その測定結果に基づいて拡散調整板24の上下位置を制御する。
【0069】
すなわち、コントローラ50は、期間T2の初期においては、拡散調整板24を、初期設定位置にセットするが、その後、期間T3終了まで、演算部53において、蒸気濃度メモリ52から蒸気濃度センサ41、42の測定値を読み出して、それに基づいて蒸気濃度差ΔCを算出し、その蒸気濃度差ΔCが蒸気濃度差の基準範囲内に保たれるように、拡散調整板用昇降機構27に拡散調整板24の昇降を指示する。このような拡散調整板24の位置制御は、蒸気濃度差ΔCに対して適当な制御係数を掛けるなどの演算を施して求めた距離だけ、拡散調整板24を現在位置から上または下に移動させることによって行うことができる。
【0070】
ここで、上記の「蒸気濃度差の基準範囲」の上限濃度CBは、蒸気濃度差ΔCをこれ以下に保ちながらインクを乾燥すれば、基板1上に形成される発光層6の膜形状が面内で均一化されると判断される値であって、予め、拡散調整板24の上下位置をいろいろ変えて乾燥実験を行い、蒸気濃度差ΔCと基板面内に形成される膜形状の均一性との関係を調べておけば、推定することができる。また、蒸気濃度差の基準範囲の下限濃度CAは、拡散調整板24と基板1との間隙が必要以上に狭くならないよう制御するための閾値として設定する。
【0071】
以下、フローチャートに基づいて、拡散調整板24の位置制御とヒータ25a,25bの温度制御について簡単な具体例を説明する。
図9は、期間T2,T3において、コントローラ50が行う拡散調整板24の位置制御及びヒータ25a,25bの温度制御の一例を示すフローチャートであって、一定時間ごとにステップS1〜S7の処理を繰り返す。
【0072】
拡散調整板24の位置制御:
ステップS1では、中央部の蒸気濃度センサ41の測定値C1と、外周部の蒸気濃度センサ42の測定値(4つのセンサ42の平均測定値C2)との蒸気濃度差ΔC(=C1−C2)を算出する。そして、この蒸気濃度差Δが、基準範囲を超えている場合(ΔC>CBの場合)、拡散調整板24を現在の位置から下降させ(ステップS2、S3)、蒸気濃度差ΔCが基準範囲よりも小さい場合(ΔC<CAの場合)は、拡散調整板24を現在の位置から上昇させる(ステップS4,S5)。
【0073】
上記ステップS3において、拡散調整板24を上昇させる距離については、一定量としてもよいが、ΔCが大きいほど上昇量が大きくなるようにしてもよい。ステップS5で拡散調整板24を下降させる下降量についても、一定量としてもよいし、ΔCが小さいほど下降量が大きくなるようにしてもよい。
一方、蒸気濃度差ΔCが、基準範囲内にあるときは、拡散調整板24は現在の位置に保つ(ステップS2,S4)。
【0074】
以上のコントローラ50による制御によって、期間T3においてインクを減圧乾燥するときに、蒸気濃度差ΔCの大きさが基準範囲(下限濃度CA以上、上限濃度CB以下)の範囲に入るように、拡散調整板24の位置が調整される。
なお、上記の拡散調整板24の初期設定位置も、蒸気濃度差がこの基準範囲内に入るような位置に設定することが好ましい。
【0075】
拡散調整板24の位置制御による効果:
乾燥時に基板1上のインクから溶剤蒸気が蒸発する時、拡散調整板24の位置が上方にあるほど、蒸発速度(乾燥速度)が速くなるが、蒸気濃度差ΔCも大きくなり、基板1上で溶剤蒸発速度の面内バラツキも大きくなる。逆に、拡散調整板24の位置が下方にあるほど、蒸気濃度差ΔCが小さくなり、溶剤蒸発速度の面内バラツキも小さくなるが、蒸発速度は遅くなる。
【0076】
ここで、期間T3においてインクを減圧乾燥するときに、インクに溶剤が残っていて溶剤蒸気が活発に蒸発しているときには、一般的は蒸気濃度差ΔCが大きくなりやすいが、本実施例では、拡散調整板24が下方位置にコントロールされて、蒸気濃度差ΔCが基準範囲内に保たれるので、基板中央領域の発光層と基板外周領域の発光層とで、形成される塗膜形状のバラツキは抑えられる。
【0077】
一方、拡散調整板24が基板1に近い位置に長時間留まると乾燥時間が長びいてしまうが、本実施例では、乾燥が進むにつれて蒸気濃度差ΔCが小さくなると、拡散調整板24は上方に移動するので、乾燥時間が必要以上に長引くこともない。
ヒータ25a,25bの温度制御:
コントローラ50は、図9のフローチャートに示すステップS6,7の処理を繰り返すことによって、上記ステップS1で算出した蒸気濃度差ΔCに基づいて、下記数式に示すように、中央領域のヒータ25aの設定温度Taを、初期設定温度TAを変更するとともに、外周領域のヒータ25bの設定温度Tbを、初期設定温度TBから変更する。
【0078】
Ta=TA+αΔC
Tb=TB+βΔC
ここで、αは正の係数、βは負の係数である。
なお、この温度制御は、期間T2,T3だけでなく、期間T4〜T6においても引き続き実施する。
【0079】
このような温度制御を行うことによって、蒸気濃度差ΔCが小さい場合は、ヒータ25a,25bの各設定温度Ta,Tbは初期設定温度TA,TBとほとんど変わらないが、蒸気濃度差ΔCが大きくなるほど、中央領域のヒータ25aの設定温度Taが初期設定温度TAと比べて高くなるとともに、外周領域のヒータ25bの設定温度Tbが初期設定温度TBと比べて低くなるので、外周領域の温度に対する中央領域の相対温度(Ta−Tb)は高くなる。
【0080】
一般に、蒸気濃度差ΔCが大きい時には、基板中央領域に対する基板外周領域のインクの蒸発速度が大きい傾向にあるが、上記のように外周領域の温度に対する中央領域の相対温度(Ta−Tb)が高くなるよう温度制御されると、溶剤蒸発速度が均一化される。
従って、上記の拡散調整板24による発光層6の塗膜形状の均一化効果に加えて、基板1の面内温度分布制御による塗膜形状の均一化効果を得ることもできる。
【0081】
なお、上記ステップS6,S7のうち、いずれか一方だけを実施してもよい。例えば、ステップS6でヒータ25aの設定温度Taだけを変えて、ヒータ25bは初期設定温度TBのままにしてもよく、蒸気濃度差ΔCが大きくなるほど外周領域の温度に対する中央領域の相対温度(Ta−Tb)が高くなるので、同様の効果が得られる。
また、基板1の中央部と外周部とをヒータ25a,25bで別々に温度制御することは必須ではなく、基板1を一律に加熱した場合でも、上記の拡散調整板24によって塗膜形状の均一化効果を十分に得ることができる。
【0082】
〈変形例〉
以上、実施例を説明したが、本発明はこれに限られず、以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施例では、蒸気濃度センサ41、42を拡散調整板24の下面側に取り付けたが、拡散調整板24とは別の支持体を支持台23上に設定し、その支持体に蒸気濃度センサ41、42を取り付けても、同様に、拡散調整板24と基板1間の蒸気濃度を測定することができる。
【0083】
(2)上記実施例では、乾燥工程を行いながらセンサ41、42で測定した測定値に基づいて算出した蒸気濃度差ΔCに応じて、拡散調整板24の位置を制御したが、必ずしも乾燥工程中に蒸気濃度を測定しなくてもよく、予め一定の条件下で乾燥するときの蒸気濃度差の時間変化を測定しておけば、同じ条件下で乾燥するときの時間経過と蒸気濃度の関係を予測することができる(乾燥時間が経過するほど蒸気濃度差は小さくなる)。
【0084】
従って、乾燥時間が経過するごとに、予測される蒸気濃度差に基づいて、拡散調整板24を漸次上昇させるよう制御してもよく、同様の効果が得られる。
あるいは、乾燥を開始してからインクに流動性がなくなるまでに要する時間を予め予測しておいて、当該時間が経過するまでは拡散調整板24を基板1に近い一定位置に停止させておいて、一定時間経過後に拡散調整板24を上方位置に移動させてもよく、ほぼ同様の効果を奏する。
【0085】
また、拡散調整板24の位置を変動させることなく、基板1に近い位置に固定した状態で乾燥工程を行っても、基板1上に形成される塗膜形状の均一化効果を得ることができる。ただし、インクからの溶剤蒸発速度は遅い状態が続くので、乾燥工程に要する時間は長くなる。
(3)上記実施例では、基板1の中央部をヒータ25a、外周部をヒータ25bで加熱したが、ヒータ25a、25bの代わりにIRランプを乾燥室21内に設置して、基板1に赤外光を照射することによって加熱してもよい。
【0086】
(4)基板1上に充填したインクを乾燥する際に、上記実施例のように減圧乾燥すれば比較的低温で乾燥できて望ましいが、大気圧下で乾燥する場合にも同様に拡散調整板24を用いることによって、基板1上に形成される塗膜形状の均一化効果を得ることができる。
(5)上記実施例では、基板上に複数の画素を形成する際に、バンクどうしの間に発光層を形成する場合について示したが、バンク間にインクを充填して乾燥する方法で電荷注入輸送層を形成する場合も同様に実施することができ、同様の効果が得られる。また、インクを充填して乾燥する方法で発光層や電荷注入輸送層などの機能層を基板上全体にベタで形成する場合にも、同様に乾燥時に拡散調整板24を用いることによって、基板面上に均一的な膜厚の機能層を形成することができる。
【0087】
(6)上記実施例では、トップエミッション型有機ELディスプレイの発光層を形成する例を説明したが、ボトムエミッション型有機ELディスプレイの発光層を形成する場合にも適用可能である。また、有機EL素子の発光層以外に、有機EL素子の電荷輸送層、カラーフィルタなどの機能層を形成する際にも適用できる。
プラスマディスプレイパネルのリブなどを形成したり、フラットパネルディスプレイのオーバーコート膜、フォトリソ加工を行うためのレジスト膜、液晶パネル用配向膜などを形成する際にも、本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、有機ELディスプレイをはじめ有機EL光源など、有機ELパネルを製造するのに適用することができ、基板面内での発光特性が均一的な有機ELパネルを製造することができる。
有機ELディスプレイにおいては画像表示面内における発光特性が均一化されるので画質の向上にも寄与する。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 第1電極
3 ITO層
4 ホール注入層
5 バンク
6 発光層
6a インク
7 電子注入層
8 第2電極
9 封止層
10a,10b,10c 有機EL素子
20 乾燥装置
21 乾燥室
22 排気管
22a 主排気管
22b 側排気管
23 支持台
24 拡散調整板
25a,25b ヒータ
26 昇降ピン
27 拡散調整板用昇降機構
28 昇降ピン
29 基板用昇降機構
31 第1排気ポンプ
32 第2排気ポンプ
33 メインバルブ
34 スロー排気バルブ
35 圧力計
41,42 蒸気濃度センサ
50 コントローラ
100 有機ELディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のバンクによって挟まれた画素形成予定領域に塗付液を充填し、塗布液に含まれる溶剤を蒸発させることにより乾燥させて有機EL素子の機能層を形成する製造装置であって、
前記基板を支持する支持部と、
前記支持部に支持された基板と間隙をおいて前記基板上の塗付液を覆うように配置され、前記塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑える拡散調整板とを備えることを特徴とする有機EL素子の製造装置。
【請求項2】
前記拡散調整板の大きさは、
前記基板上における塗付液が充填された全体領域よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の有機EL素子の製造装置。
【請求項3】
前記拡散調整板は、基板との間隙を変更可能な状態で支持され、
前記基板と前記拡散調整板との間隙内における中央部及び外周部の溶剤蒸気濃度を検出するセンサと、
前記センサで測定した中央部と外周部の溶剤蒸気濃度の差に基づいて、前記拡散調整板と前記基板との間隙を制御する間隙制御部とを備えることを特徴とする請求項2記載の製造装置。
【請求項4】
前記間隙制御部は、
上記溶剤蒸気濃度の差が基準濃度差より大きいときには、前記拡散調整板と前記基板との間隙を狭め、
上記溶剤蒸気濃度の差が基準濃度差より小さいときには、前記拡散調整板と前記基板との間隙を広げることを特徴とする請求項3記載の製造装置。
【請求項5】
前記間隙制御部は、
前記センサで検出する溶剤蒸気の濃度が基準濃度より小さくなるまで溶剤蒸気濃度の差に基づく前記拡散調整板と前記基板との間隙制御を行い、
その後、前記拡散調整板と前記基板との間隙を広げた状態で前記溶剤の蒸発乾燥を行うことを特徴とする請求項3または4記載の製造装置。
【請求項6】
前記センサで測定した中央部と外周部の溶剤蒸気濃度の差に基づいて、
前記基板の中央部及び外周部の面内温度分布を調整する温度分布調整部を備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか記載の製造装置。
【請求項7】
前記温度分布調整部は、
溶剤蒸気濃度差が基準濃度差より大きいときに、前記基板の外周部温度に対する中央部の温度を相対的に高めるよう温度分布を調整することを特徴とする請求項6記載の製造装置。
【請求項8】
前記支持部及び前記拡散調整板を前記基板と共に収納する乾燥室と、
当該乾燥室から排気するポンプとを備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の製造装置。
【請求項9】
基板上のバンクによって挟まれた画素形成予定領域に塗付液を充填し、塗付液に含まれる溶剤を蒸発させることにより乾燥させて有機EL素子の機能層を形成する製造方法であって、
上記乾燥時に、
前記基板を支持するとともに、支持された基板と間隙をおいて前記画素形成予定領域を覆うように配して、塗付液から蒸発する蒸気の拡散を抑えながら乾燥を行うことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−44380(P2011−44380A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193025(P2009−193025)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】