説明

有機EL素子の製造方法

【課題】有機EL素子の品質を低下させることなく、安定した封止操作を行うことが可能なロールツーロール方式による有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】洗浄工程110、有機EL構造体形成工程120、被覆処理工程130、からなり、ロール状に巻き取られた可撓性の基材を繰り出して、洗浄工程110における基材の洗浄、有機EL構造体形成工程120における第1電極、有機層、第2電極からなる有機EL構造体の形成、および、被覆処理工程130における保護膜の被覆処理をインラインで行って、基材をロール状に巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法に関し、特に、可撓性を有する長尺基材を用いる有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が注目されている。有機EL素子は、ガラス等の基板上に有機化合物の発光層を電極で挟持した構成の有機EL構造体を配置し、電極間に電流を供給することにより発光を行う素子である。最近では、有機EL素子の用途の拡大等により、樹脂フィルム等の可撓性基材を用いた有機EL素子も登場しており、このような可撓性基材を用いることにより、ロールツーロール方式の有機EL素子の製造も行われるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。ここで、ロールツーロール方式の有機EL素子の製造方法とは、ロール状に巻かれた基材を繰り出して基材上に有機EL構造体を形成し、構造体を形成した基材を再度ロールに巻き取って有機EL素子を作製する製造方法を称する。ロールツーロール方式による製造は、連続生産が可能なので生産効率を向上させることができるというメリットを有する。
【0003】
ところで、有機EL素子の製造では、有機EL構造体への水分や酸素による影響を回避し、高品質と高信頼性を維持するために、封止と呼ばれる外気の影響を完全にシャットアウトするための保護膜を形成する操作が行われている。有機EL素子の封止技術としては、例えば、窒化物や窒化酸化物等の薄膜を電子ビーム法やスパッタリング法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等により有機EL構造体上に被覆する方法、具体的には、対向ターゲット式のスパッタ装置を用いた封止技術(例えば、特許文献2参照)や、シート状の封止部材を有機EL構造体に貼り合わせて封止を行う技術(例えば、特許文献3参照)等が挙げられる。
【0004】
蒸着法等による有機EL構造体の形成は、ほぼ真空に近い環境下でなされるので、ロールツーロール方式では、ほぼ真空に近い環境下で基材をロールから繰り出し、有機EL構造体の形成を実施した後に再びロールに巻き取り、巻き取ったロールを水分や酸素による有機EL構造体の劣化から防止するために不活性ガスを充填した容器に収容して、別ラインの封止工程に投入する方法が採られてきた。
【0005】
しかしながら、巻き取ったロールを別ラインの封止工程に投入することは工程が煩雑となり、また、ロール搬送用の不活性ガスを充填した容器は、有機EL構造体を形成した環境を維持することが困難で、収容された基材の有機EL構造体が容器内に残存する水分や酸素による影響を受け、製品の品質低下や寿命に影響を与えることがあった。
【特許文献1】国際公開第01/005194号パンフレット
【特許文献2】特開2002−332567号公報
【特許文献3】特開2005−4063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、有機EL素子の品質を低下させることなく、安定した封止操作を行うことが可能なロールツーロール方式による有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は以下の手段により達成される。
【0008】
1.ロールツーロール方式により可撓性の長尺基材の上に少なくとも有機EL構造体を形成する工程を有し、
該有機EL構造体を形成する工程の前後に、該長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【0009】
2.前記有機EL構造体を形成する工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-4Pa以下であることを特徴とする1に記載の有機EL素子の製造方法。
【0010】
3.前記有機EL構造体を形成する工程の前に、前記長尺基材にプラズマ処理を施す工程を有し、
該プラズマ処理を施す工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-3Pa以上大気圧以下であることを特徴とする1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【0011】
4.前記長尺基材にプラズマ処理を施す工程の前に、前記長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする3に記載の有機EL素子の製造方法。
【0012】
5.前記有機EL構造体を形成する工程の後に、前記有機EL構造体に被覆処理を施す工程を有し、
該被覆処理を施す工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-3Pa以上大気圧以下であることを特徴とする1〜4のいずれか1項に記載の有機EL素子の製造方法。
【0013】
6.前記有機EL構造体に被覆処理を施す工程の後に、前記長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする5に記載の有機EL素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、2に記載の発明により、有機EL構造体を形成する工程の前後の工程をインラインで実施可能なロールツーロール方式による有機EL素子の製造方法を提供できる。
【0015】
請求項1〜4に記載の発明により、有機EL素子を形成する前にプラズマ処理をインラインで実施可能なロールツーロール方式による有機EL素子の製造方法を提供できる。
【0016】
請求項1、2および5、6に記載の発明により、有機EL構造体を形成する工程の後に、被覆処理をインラインで実施可能なロールツーロール方式による有機EL素子の製造方法を提供できる。
【0017】
すなわち、本発明により、ロールツーロール方式により可撓性を有する基材上に有機EL素子を形成する有機EL素子の製造において、基材の洗浄および汚染除去、有機EL素子の形成、有機EL素子へのバリア膜の形成までをインラインで行う有機EL素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明におけるロールツーロール方式とは、ロール状に巻いた可撓性を有する長尺の基材、例えばフィルムを繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら該基材上に有機EL構造体を形成し、再びロールに巻き取る方式である。
【0020】
有機EL構造体の形成工程に前後して、素子駆動のための回路パターンの形成や、有機EL構造体を覆う保護フィルムを貼り合わせてからロールに巻き取らせてもよい。
【0021】
個別に切り離された基材を工程毎に搬送する枚葉方式とロールツーロール方式を比較すると、枚葉方式では、それぞれの工程に基材の搬入部、搬出部を設ける必要があり、工程毎の装置規模が大きくなりやすいが、ロールツーロール方式では、基材は各工程間を間欠或いは連続的に流れるため各工程を互いに連結でき、基材搬送に伴う作業の削減や装置の小型化が可能となる。
【0022】
本発明におけるロールツーロール方式においてインラインとは、ロール状に巻かれた基材が、有機EL構造体が形成される工程に繰り出されてから再びロールに巻き取られるまでの工程内であることであり、オフラインとは、有機EL構造体が形成された基材が一旦ロール状上に巻き取られた後に、別の工程に投入されることを言う。
【0023】
また、本発明における真空条件下とは、100Pa以下の圧力環境下にあることであり、水分や酸素の残留が少なく、有機EL構造体の劣化が低減される環境である。また、大気圧環境下とは、1万Pa〜20万Paの圧力環境下にあることであり、真空環境下に比べて水分や酸素の残留が多い環境である。
【0024】
(発明の実施の形態)
本発明に係わる実施の形態について、その一例を以下、図面に基づいて説明する。
【0025】
先ず、有機EL素子について以下に説明する。図1は、有機EL素子10の模式図である。図1において、有機EL素子10は、基材11上に、第1電極12、有機層13、第2電極14からなる有機EL構造体を積層した素子である。
【0026】
第1電極12は、陽極であって、透明にする場合はインジウムチンオキサイド(ITO)、インジウムジンクオキサイド(IZO)、金、酸化錫、酸化亜鉛等の仕事関数が4eV以上で透過率が40%以上の導電性材料による電極である。
【0027】
有機層13は、発光層を含む数nm〜数μmの有機化合物又は錯体等の有機材料からなる単層、または複数の層であり、例えば、陽極と接する正孔輸送層、発光材料を備える発光層、陰極と接する電子輸送層の3層等からなり、フッ化リチウム層や無機金属塩の層、またはそれらを含有する層などが任意の位置に配置されていてもよい。
【0028】
第2電極14は、陰極であって、反射電極とする場合はアルミニウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、銀、カルシウム等の仕事関数が4eV未満で、反射率が60%以上の金属材料からなる電極である。
【0029】
基材11は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等の可撓性を有する素材から形成される。
【0030】
本発明における有機EL素子は、第1電極(陽極)12、第2電極(陰極)14を介して、外部から供給された電流により、有機層13において電子および正孔が結合し、結合により生じた励起エネルギーを利用した発光を行う素子で、有機層13からの光は第1電極(陽極)12を通して取り出される。励起エネルギーを利用する発光としては、1重項励起エネルギーを発光に利用する蛍光、或いは、3重項励起エネルギーを発光に利用する燐光が挙げられる。特に、燐光は、3重項励起子が発光に寄与するため、蛍光に比べ高い発光効率が得られるので、光源として望ましい発光である。
【0031】
有機EL素子10の発光層からの発光は、第1電極12、基材11を透過して取り出されるが、第2電極(陰極)を、薄膜の陰極材料と透過率の高い陽極材料を積層して構成し、実質的に透明として、陰極から光を取り出す、所謂トップエミッションの構成にしてもよい。
【0032】
本発明は、長尺基材への有機EL構造体の形成と、形成された有機EL構造体にガスバアリア性の保護膜による被覆処理を、ロールツーロール方式のインラインで実施する製造方法を提供するものである。
【0033】
次に、本発明による有機EL素子を形成する製造プロセスを説明する。
【0034】
図2は、有機EL素子の製造プロセスのブロック図である。本発明による有機EL素子の製造方法は、洗浄工程110、有機EL構造体形成工程120、被覆処理工程130、からなり、ロール状に巻き取られた可撓性の基材を繰り出して、洗浄工程110における基材の洗浄、有機EL構造体形成工程120における第1電極12、有機層13、第2電極14からなる有機EL構造体の形成、および、被覆処理工程130における保護膜の被覆処理をインラインで行って、基材をロール状に巻き取るロールツーロールの有機EL素子の製造方法である。ロール状に巻き取られた有機EL構造体が形成された基材は、オフラインによる切断工程140にて所定の寸法に切断されて単体の有機EL素子が形成される。
【0035】
基材は、あらかじめ第1電極(陽極)がパターニングされている。電極形成のパターンニングをインラインで行っても良いが、電極の形成時の金属粉の飛散等による有機EL素子の電極間でのショートの懸念があり、このときは金属粉の有機EL構造体形成工程への遮断対策が必要である。
【0036】
第1電極(陽極)のパターンは、照明用途のときは、面上に電極がパターニングされたもの、ディスプレイ用途のときは、TFTがあらかじめマトリクス状に配置されたアクティブタイプ、或いは、配線がマトリクス状にパターニングされたパッシブタイプでもよい。
【0037】
洗浄工程110は、ロール状に巻かれた基材を繰り出して、超音波洗浄槽に浸漬させて洗浄する等の湿式洗浄とプラズマ洗浄等の乾式洗浄を組み合わせた工程により基材の洗浄を行う工程である。
【0038】
有機EL構造体形成工程120は、蒸着法、インクジェット法、印刷法、塗布法等の周知の技術により基材上に有機EL構造体が形成される工程である。
【0039】
被覆処理工程130は、有機EL構造体形成の後に、電子ビーム法、スパッタリング法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等の薄膜作製法により有機EL構造体を保護膜で被覆する工程である。
【0040】
有機EL構造体の表面が保護膜で被覆された基材は、再びロールに巻き取られる。
【0041】
この様に、ロールツーロールにて有機EL構造体表面に保護膜で被覆した後に、ロールに巻き取られた基材は、オフラインの切断工程140により所定の大きさに切断され、有機EL素子が形成される。
【0042】
次に、本発明の有機EL素子の具体的な製造プロセスの詳細を以下に説明する。
【0043】
図3は、本発明の有機EL素子の製造プロセスの模式図である。ロール状に巻かれた基材11は、洗浄工程110に繰り出されて、超音波洗浄槽111に浸して超音波洗浄を行った後、リンス槽112で純水により洗浄液のリンス、シャワーヘッド113ですすぎを行い、乾燥ゾーン114で乾燥される。
【0044】
その後、バッファゾーン115により後続工程との搬送速度の差が吸収され、第1緩衝チャンバー116aを経由して、プラズマ槽116に移送される。プラズマ槽116にては、圧力が1×10-3Pa以上大気圧以下の環境にて、基材11を酸素プラズマによるプラズマ処理、すなわち、プラズマ洗浄を行う。実施の形態におけるプラズマ槽116の圧力は100Paである。
【0045】
第1緩衝チャンバー116aは隔壁により分離された3つの圧力調整室116a1、116a2、116a3からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、およびプラズマ槽116への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基材表面、特に有機EL構造体形成側となる表面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、基材11は、シールロール117の間隙を通過してプラズマ槽116に移送される。圧力調整室116a1、116a2、116a3は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて、各圧力調整室の圧力は、圧力調整室116a1の入口側の大気圧から、順次圧力調整室116a3の出口側のプラズマ槽116の圧力に至るように調整される。
【0046】
プラズマ槽116におけるプラズマ洗浄処理を行う工程の前に、第1緩衝チャンバー116aによる基材11に加わる圧力を調整する工程を設けることにより、基材11は大気圧環境にあるバッファゾーン115から真空環境にあるプラズマ槽116へ連続的に搬送でき、また、プラズマ槽116は所定の真空環境を保持できる。なお、実施の形態に示した第1緩衝チャンバー116aの圧力調整室の数は3つであるが、3つに限定されものではなく、プラズマ槽116の真空条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0047】
プラズマ槽116にて酸素プラズマによる洗浄が行われた後、基材11は第2緩衝チャンバー121aを経由して、有機EL構造体形成工程120に搬送される。有機EL構造体形成工程120における有機EL構造体の形成が行われる蒸着槽121は、圧力が1×10-4Pa以下であり、真空度がプラズマ槽116よりもさらに高度の真空環境である。
【0048】
第2緩衝チャンバー121aは隔壁により分離された2つの圧力調整室121a1、121a2からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、蒸着槽121への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基材表面、特に有機EL構造体形成側となる表面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、基材11は、シールロール117の間隙を通過してプラズマ槽116から蒸着槽121に移送される。
【0049】
圧力調整室121a1、121a2は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて、各圧力調整室の圧力は、圧力調整室121a1の入口側のプラズマ槽116の圧力から、順次圧力調整室121a2の出口側の蒸着槽121の圧力に至るように調整される。
【0050】
蒸着槽121における有機EL構造体を形成する工程の前に第2緩衝チャンバー121aによる基材11に加わる圧力を調整する工程を設けることにより、基材11は前工程のプラズマ槽116からより高度の真空環境にある蒸着槽121へ連続的に搬送でき、また、プラズマ槽116および蒸着槽121は所定の圧力環境を保持できる。また、プラズマ槽からの排ガスが蒸着槽121内に混入することを防止できる。なお、実施の形態に示した第2緩衝チャンバー121aにおける圧力調整室は2つであるが、2つに限定されものではなく、プラズマ槽116および蒸着槽121の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0051】
有機EL構造体形成工程120では、基材11への第1電極(陽極)のパターンニング位置に対応して基材11の端部に設けられたマーキング孔15が蒸着槽内の所定の位置に到達すると搬送が停止、あるいは搬送速度を制御して蒸着槽121において蒸着が行われる。有機EL構造体形成工程120における蒸着時の基材11の搬送速度と洗浄工程111〜114間の搬送速度との速度差は、前記バッファゾーン115により吸収される。
【0052】
蒸着槽121にては、1×10-4Pa以下の圧力の真空環境下で、基材11にパターンニングされた第1電極(陽極)上に、蒸着源122から有機材料或いは金属材料が昇華されて、マスク123により所定のパターンで、有機層、陰極が積層されて、有機EL構造体が形成される。
【0053】
有機EL構造体は、例えば、陽極/正孔輸送層/発光層/陰極の構成からなる場合、陽極が形成された基材上に、正孔輸送層(α−NPD);500Å、発光層(Alq3);600Åの厚さで順次形成した後、その上に陰極(アルミニウム)を2000Åの膜厚で蒸着形成する。
【0054】
蒸着槽121にて有機EL構造体が形成された基材11は、第3緩衝チャンバー121bを経由して、被覆処理工程130に搬送される。
【0055】
被覆処理工程130のスパッタ槽131では、10-3Pa以上大気圧以下の環境条件にて、対向ターゲット132内に発生させたスパッタガスプラズマによりターゲット132がスパッタされて基材11上に形成された有機EL構造体を被覆する。
【0056】
第3緩衝チャンバー121bは、隔壁により分離された2つの圧力調整室121b1、121b2からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、スパッタ槽131への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基板表面、特に有機EL構造体が形成された面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、有機EL構造体が形成された基材11は、シールロール117の間隙を通過して蒸着槽121からスパッタ槽131に移送される。
【0057】
圧力調整室121b1、121b2は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて、各圧力調整室の圧力は、圧力調整室121b1の入口側の蒸着槽121の圧力から、順次圧力調整室121b2の出口側のスパッタ槽131の圧力に至るように調整される。
【0058】
蒸着槽121における有機EL構造体を形成する工程の後に、第3緩衝チャンバー121bによる基材11に加わる圧力を調整する工程を設けることにより、基材11は蒸着槽121からスパッタ槽131へ連続的に搬送でき、また、蒸着槽121およびスパッタ槽131は所定の圧力環境を保持できる。なお、実施の形態に示した第3緩衝チャンバー121bの圧力調整室は2つであるが、2つに限定されものではなく、蒸着槽121およびスパッタ槽131の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0059】
有機EL構造体を被覆する保護膜は、金属の酸化膜、酸化窒化膜、窒化膜、金属薄膜、ダイヤモンドライクカーボン膜を少なくとも1種以上含んでいる膜である。好ましい金属としては珪素、アルミニウム等の金属であり、例えば、好ましい保護膜材料として酸化窒化珪素、窒化珪素が挙げられる。本実施の形態においては、保護膜を、例えばRFマグネトロンスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成しているが、CVDやイオンプレーティング等の薄膜形成法を用いて形成しても良い。
【0060】
スパッタ槽131では、有機EL構造体形成工程120と同様に基材11の端部に設けられたマーキング孔15の所定の位置で搬送が停止して所定の位置にスパッタが行われる。そして、スパッタ槽131では、対向ターゲット132内に発生させたスパッタガスプラズマによりターゲット132がスパッタされて、蒸着槽121にて基材11上に形成された有機EL構造体を覆うように保護膜が形成される。
【0061】
ターゲット132は、有機EL構造体に形成させる保護膜の構成材料と同一材料、あるいは、スパッタガスとの反応により構成材料と同一となる材料で構成されている。例えば、スパッタガスとしては、例えば酸素5体積%を含むアルゴンを用い、ターゲットとしてSi34を用い、酸化窒化珪素膜を形成する。
【0062】
こうして、有機EL構造体および保護膜がインラインで形成された基材11は、スパッタ槽131から第4緩衝チャンバー131bを経由して、大気圧環境下へ移送され、ロール状に巻き取られる。
【0063】
第4緩衝チャンバー131bは隔壁により分離された3つの圧力調整室131b1、131b3からなり、各圧力調整室の入り口、圧力調整室間、大気圧環境下への出口の隔壁には、フィルム状の基材11を通過させるシールロール117が備えられている。シールロール117は基板表面、特に有機EL構造体が形成された面が無接触で丁度通り抜けるだけの間隙を有しており、有機EL構造体および保護膜が形成された基材11は、シールロール117の間隙を通過して大気圧環境下に移送される。
【0064】
圧力調整室131b1、131b2、131b3は、それぞれに備える真空ポンプ(非図示)により排気されて、各圧力調整室の圧力は、圧力調整室131b1の入口側のスパッタ槽131の圧力から、順次圧力調整室116cの出口側の大気圧に至るように調整される。
【0065】
スパッタ槽131による有機EL構造体に被覆処理を施す工程の後に、第4緩衝チャンバー131bによる基材11に加わる圧力を調整する工程を設けることにより、有機EL構造体および保護膜が形成された基材11はスパッタ槽131から大気圧環境へ連続的に搬送でき、また、スパッタ槽131は所定の圧力条件を保持できる。なお、実施の形態に示した第4緩衝チャンバー131bの圧力調整室は3つであるが、3つに限定されものではなく、スパッタ槽131の圧力条件、真空ポンプの能力条件により適宜定めて良い。
【0066】
ロール状に巻き取られた有機EL構造体および保護膜が形成された基材11は、オフラインの切断工程140(非図示)に投入されて、所定の大きさに切断され、有機ELパネルが形成される。切断工程140に投入される基材11は、有機EL構造体が保護膜により被覆されているので、切断工程140は大気圧環境下に設置可能である。
【0067】
以上、本発明による、ロールツーロール方式により、基材11の洗浄および汚染除去、有機EL構造体の形成、保護膜の形成をインラインで行う有機EL素子の製造方法について、好ましい実施の態様を示した。
【0068】
本発明により、ロールツーロール方式により可撓性を有する基材上に有機EL構造体を形成する有機EL素子の製造方法において、基材の洗浄および汚染除去、有機EL構造体の形成、有機EL構造体への保護膜の形成までをインラインで行える有機EL素子の製造方法を提供できる。本発明による製造方法では、基材への有機EL構造体の形成、保護膜の形成をインラインで行うので、水分や酸素による有機EL構造体への影響を回避でき、高品質と高信頼性の有機EL素子を製造できる。また、異なる条件の真空環境や大気圧環境にて実施される工程をロールツーロール方式のインラインで実施することが可能で、それぞれの工程をオフラインで実施する製造方法と比べると、工程が単純化し、作業効率の向上や工程停止時間の短縮がはかれる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】有機EL素子10の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子の製造プロセスのブロック図である。
【図3】本発明の有機EL素子の製造プロセスの模式図である。
【符号の説明】
【0070】
10 有機EL素子
11 基材
12 陽極
13 有機層
14 陰極
110 洗浄工程
116 プラズマ槽
116a 第1緩衝チャンバー
120 有機EL構造体形成工程
121 蒸着槽
121a 第2緩衝チャンバー
121b 第3緩衝チャンバー
130 被覆処理工程工程
131 スパッタ槽
131b 第4緩衝チャンバー
140 切断工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロール方式により可撓性の長尺基材の上に少なくとも有機EL構造体を形成する工程を有し、
該有機EL構造体を形成する工程の前後に、該長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記有機EL構造体を形成する工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-4Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記有機EL構造体を形成する工程の前に、前記長尺基材にプラズマ処理を施す工程を有し、
該プラズマ処理を施す工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-3Pa以上大気圧以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記長尺基材にプラズマ処理を施す工程の前に、前記長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機EL構造体を形成する工程の後に、前記有機EL構造体に被覆処理を施す工程を有し、
該被覆処理を施す工程で、前記長尺基材に加わる圧力が1×10-3Pa以上大気圧以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記有機EL構造体に被覆処理を施す工程の後に、前記長尺基材に加わる圧力を調整する工程を有することを特徴とする請求項5に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−149482(P2007−149482A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341638(P2005−341638)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】