説明

有機EL素子の評価方法、および製造方法

【課題】有機EL素子の発光効率を正確に測定することが可能な評価方法を提供すること。
【解決手段】有機EL素子は、発光層を含む複数の有機機能層からなる積層体を陽極と陰極とで挟持した構成となっている。本願の評価方法によれば、透明基板上に積層体を形成した状態で、分光学的手法を用いて蛍光スペクトルを測定し、発光量子収率を求める。この方法によれば、有機EL素子の発光効率の指標となる発光量子収率を積層体の状態で測定するため、正確な測定および評価を行うことができる。よって、有機EL素子の発光効率を正確に測定することが可能な評価方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)素子の評価方法、および当該評価方法を用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自発光デバイスである有機EL素子を用いた有機ELディスプレイは、バックライトなどの外部光源を必要とする液晶ディスプレイよりも、薄型化、および低消費電力化という面で有利であると言われており、商品としての完成度を高めるために、これらの長所をより高めることが期待されている。
特に、低消費電力という観点からすると、正孔と電子との結合効率を示す電流効率が高い有機EL素子が求められている。換言すれば、駆動電流当たりの発光効率が高い、エネルギー変換効率に優れた有機EL素子が求められていた。
従来、有機EL素子の発光効率は、陽極電極、および陰極電極を取り付けた状態の有機EL素子、つまり、完成状態の有機EL素子に通電し、発光させて測定する方法が一般的であったが、完成状態まで作り込まなければならないため、効率が悪かった。このため、この点に鑑みて、より効率的な方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発光層単層の状態で、発光層の蛍光スペクトル、または光吸収スペクトルを測定して、有機EL素子の発光効率の指標とする方法が開示されている。当該方法によれば、有機EL素子の製造工程において、発光層(単層)が形成された段階で、装置内に設置された光源から最大蛍光強度を示す波長の光を発光層に照射し、照射された光に応じて発光層が放出する光の蛍光スペクトルを測定するとしている。また、この方法によれば、有機EL素子を完成状態とする必要がないため、効率良く発光効率を測定することができるとしている。
つまり、当該評価方法では、分光学的手法を用いて、単層の発光層における発光量子収率を測定することにより、有機EL素子の発光効率を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3992582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単層の発光層における発光量子収率から、有機EL素子の正確な発光効率を推定することは困難であった。詳しくは、有機EL素子は、発光層に加えて、正孔注入層や、電子輸送層などの複数の有機機能層を含んだ多層構造を取ることが一般的であるため、発光層のみの発光量子収率から、多層構造の有機EL素子の発光効率を推定することは困難であった。特に、多層構造の場合、発光層を構成する発光材料以外の材料が用いられていることに加えて、各有機機能層間に界面が形成されるため、この界面の状態も、有機EL素子の発光特性に影響を及ぼしていた。例えば、界面にラフネス(歪み)があった場合、ラフネスが消光の原因となって、有機EL素子の発光効率が低下してしまうことがあった。また、例えば、発光層と接する機能層の界面では、エキシマーの生成による消光(電場消光)により、発光効率が低下してしまうことがあった。
つまり、従来の評価方法では、有機EL素子の発光効率を正確に測定することが困難であるという課題があった。換言すれば、有機EL素子の発光効率を正確、かつ効率的に測定することが可能な評価方法が知られていないという課題があった。よって、適切な評価方法を用いて発光効率の優れた有機EL素子を製造することも困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例又は形態として実現することが可能である。
【0007】
(適用例)
(a)透明基板上に、少なくとも発光層を含む複数の有機機能層を形成する工程と、(b)前記複数の有機機能層からなる積層体に、所定の波長の光を照射する工程と、(c)前記照射された光に応じて前記積層体が放出する蛍光の蛍光スペクトルを測定して、前記積層体の発光量子収率を導出する工程と、を含むことを特徴とする有機EL素子の評価方法。
【0008】
この評価方法によれば、有機EL素子を積層体の状態で評価するため、単層の発光層で評価していた従来の評価方法よりも、正確な評価を行うことができる。換言すれば、実際の素子構成と同じ積層体の状態で発光量子収率を測定することにより、正確な発光効率を求めることができる。
よって、有機EL素子の発光効率を正確に測定することが可能な評価方法を提供することができる。さらに、透明基板上に複数の有機機能層を積層した状態で評価を行うため、陰極および陽極電極を形成する必要がなく、効率的に評価を行うことができる。
従って、有機EL素子の発光効率を正確、かつ効率的に測定することが可能な評価方法を提供することができる。
【0009】
また、透明基板は、石英基板であり、(b)および(c)工程は、所定の波長の光を放射する光源部と、積層体が放出する蛍光を感知する受光部とを備えた積分球の中で行われ、所定の波長は、あらかじめ測定された、発光層が放出する蛍光が最大の蛍光強度となる最大蛍光強度における波長であることが好ましい。
また、評価判定の基準となる有機EL素子における積層体である基準積層体と、評価対象となる有機EL素子における積層体である評価積層体とのそれぞれにおいて、(a)〜(c)工程を行い、(d)評価積層体における発光量子収率と、基準積層体における発光量子収率とを比較する工程を、さらに含むことが好ましい。
【0010】
上記記載の評価方法において、評価積層体における発光量子収率と、基準積層体における発光量子収率との比率が≧1.0を満たすように、評価積層体を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る有機ELパネルの斜視図。
【図2】(a)〜(d)積層体(有機EL素子)の基本構成を示す断面図。
【図3】発光量子収率の測定装置の概要図。
【図4】(a),(b)評価事例における積層体の一態様を示す図。
【図5】積層体(有機EL素子)の評価方法の流れを示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならしめてある。
【0013】
(実施形態)
「有機ELパネルの概要」
図1は、本実施形態に係る有機ELパネルの概略構成を示した斜視図である。
まず、本発明の実施形態に係る有機EL素子を用いた有機ELディスプレイとしての有機ELパネル100の概要構成について説明する。
【0014】
有機ELパネル100は、素子基板1と対向基板30との間に、有機EL素子を挟持して構成されている。素子基板1と対向基板30とは、その周縁部がシール材25により接着されており、内部の有機EL素子を密閉した構成となっている。また、平面的に、シール材25に囲まれた領域内が表示領域Vとなっている。
表示領域Vには、それぞれが有機EL素子からなる複数の画素Pがマトリックス状に配置されている。詳しくは、赤色、緑色、青色の3色の画素Pが周期的に配列されている。
有機ELパネル100は、これらの画素Pが放つ表示光を対向基板30側から出射するトップエミッション型の有機ELパネルである。
また、素子基板1には、その一辺が対向基板30の外形から張出した張出し領域が形成されている。張出し領域には、画像信号を含む各種信号を外部から入力するための端子部13や、各画素Pを駆動するための駆動回路(図示せず)が形成されている。
【0015】
ここで、各画素Pを構成する有機EL素子は、素子基板1側に形成されている。詳しくは、素子基板1側から、陽極(画素電極)、積層体、陰極(共通電極)の順番で積層されており、透明電極からなる陰極側から光を出射する構成となっている。
なお、本明細書においては、発光層を含む複数の有機機能層からなる多層構造のことを「積層体」とし、積層体に陰極および陽極を取り付けた完成状態の素子のことを「有機EL素子」と定義している。
また、赤色の画素Pにおける積層体には、赤色の色光を発する発光層が形成されている。同様に、緑色の画素Pの積層体には緑色の色光を発する発光層が形成されており、青色の画素Pの積層体には青色の色光を発する発光層が形成されている。
なお、各発光層が赤色、緑色、青色の異なる色光を発する3色方式に限定するものではなく、例えば、発光層は白色の単色で、画素ごとに赤色、緑色、青色のカラーフィルターを備えたカラーフィルター方式であっても良い。
また、陰極側から光を取り出すトップエミッション型に限定するものではなく、陽極側から、素子基板1を介して光を出射するボトムエミッション型であっても良い。ボトムエミッション型の方が、トップエミッション型よりも構成がシンプルであるため、製造効率が高く、歩留りを向上させることができる。
【0016】
「有機EL素子(積層体)の構成」
図2(a)〜(d)は、本実施形態に係る積層体(有機EL素子)の基本構成を示す断面図である。
本発明に係る評価方法によれば、図2(a)〜(d)に示すような、様々な構成の積層体の評価を行うことができる。
図2(a)に示された積層体L1は、有機機能層としての正孔注入層3と、発光層5との2層の積層構造となっている。なお、詳細は後述するが、発光効率の評価に伴う発光量子収率を測定する際には、積層体L1を石英基板上に形成する。詳しくは、石英基板上に、正孔注入層3と発光層5とを、この順番に積層した状態で発光量子収率を測定することになる。
また、点線で示すように、積層体L1を挟持するように陽極、および陰極を形成することにより、積層体L1を備えた有機EL素子が形成される。換言すれば、陽極と、正孔注入層3と、発光層5と、陰極とを、この順番に積層することにより、積層体L1を備えた有機EL素子が形成される。
【0017】
図2(b)に示された積層体L2は、図2(a)の積層体L1の構成に加えて、有機機能層としての正孔輸送層4を備えている。詳しくは、積層体L2は、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5とを、この順番に積層した3層構造となっている。
積層体L2によれば、正孔輸送層4を備えたことにより、電荷輸送機能と発光機能とが概ね分離されるため、発光層5内における電子と正孔とをより効率的に再結合させることが可能となる。なお、積層体L1と同様に、発光量子収率を測定する際には、積層体L2を石英基板上に形成する。
また、点線で示すように、積層体L2を挟持するように陽極、および陰極を形成することにより、積層体L2を備えた有機EL素子が形成される。換言すれば、陽極と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、陰極とを、この順番に積層することにより、積層体L2を備えた有機EL素子が形成される。
【0018】
図2(c)に示された積層体L3は、図2(a)の積層体L1の構成に加えて、有機機能層としての電子輸送層7を備えている。詳しくは、積層体L3は、正孔注入層3と、発光層5と、電子輸送層7とを、この順番に積層した3層構造となっている。
積層体L3によれば、電子輸送層7を備えたことにより、電荷輸送機能と発光機能とが概ね分離されるため、発光層5内における電子と正孔とをより効率的に再結合させることが可能となる。なお、積層体L1と同様に、発光量子収率を測定する際には、積層体L3を石英基板上に形成する。
また、点線で示すように、積層体L3を挟持するように陽極、および陰極を形成することにより、積層体L3を備えた有機EL素子が形成される。換言すれば、陽極と、正孔注入層3と、発光層5と、電子輸送層7と、陰極とを、この順番に積層することにより、積層体L3を備えた有機EL素子が形成される。
【0019】
図2(d)に示された積層体L4は、図2(c)の積層体L3の構成に加えて、有機機能層としての正孔阻止層6を備えている。詳しくは、積層体L4は、正孔注入層3と、発光層5と、正孔阻止層6と、電子輸送層7とを、この順番に積層した4層構造となっている。
正孔阻止層6は、発光層5から移動してくる正孔が陰極に到達するのを阻止する役割と、注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する機能を担う有機機能層である。この正孔阻止層6を備えた積層体L4によれば、発光層5内における電子と正孔とをより効率的に再結合させることが可能となる。なお、積層体L1と同様に、発光量子収率を測定する際には、積層体L4を石英基板上に形成する。
また、点線で示すように、積層体L4を挟持するように陽極、および陰極を形成することにより、積層体L4を備えた有機EL素子が形成される。換言すれば、陽極と、正孔注入層3と、発光層5と、正孔阻止層6と、電子輸送層7と、陰極とを、この順番に積層することにより、積層体L4を備えた有機EL素子が形成される。
【0020】
また、積層体の構成は、上述した積層体L1〜L4に限定するものではなく、これらを組み合せた構成や、さらに他の機能層を追加した構成であっても良い。換言すれば、少なくとも発光層を含み、複数の有機機能層が積層された多層構造の積層体であれば良い。例えば、図2(c)の積層体L3において、正孔注入層3と発光層5との間に、図2(b)の正孔輸送層4を追加した構成であっても良い。
また、以降の説明において、積層体L1〜L4の総称を「積層体L」ともいう。
【0021】
「有機機能層の材料」
上述した積層体Lを構成する各有機機能層の材料は、多層構造を形成可能な材料であれば良く、低分子材料であっても良いし、高分子材料であっても良い。なお、低分子材料を用いる場合には、例えば、真空蒸着法などの蒸着法を用いて各有機機能層を形成することが好ましい。また、レーザー転写法を用いても良い。
本実施形態では、高分子材料を用いて積層体を形成した。詳しくは、高分子材料(溶質)を溶媒に溶かした溶液をインクとして用いたインクジェット法によって、積層体を形成している。なお、溶液の塗布は、インクジェット法に限定するものではなく、溶液を塗布可能な方法であれば良い。例えば、ジェットディスペンサー法や、ニードルディスペンサー法などのディスペンサー法を用いることもできる。または、キャスティング法、スピンコート法であっても良い。
【0022】
以下、各有機機能層の材料としての高分子材料の好適例を列挙する。
まず、溶液の溶媒について説明する。
溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラリン、3-フェノキシトルエン、シクロへキシルベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、などの芳香族系溶媒を用いることができる。また、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒や、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶媒であっても良い。また、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、N-メチル-2-ピロリジノン、メチルエチルケトン、テトラロン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒であっても良い。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリルなどの二トリル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物溶媒、および水であっても良い。
また、これらの溶媒を2種類以上混ぜ合わせた溶液を溶媒として用いても良い。
【0023】
続いて、正孔注入層3の材料について説明する。
正孔注入層3の材料としては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)を用いることができる。また、これらの物質をエチレングリコールやジエチレングリコールなどのグリコール系溶媒に溶解した溶液として用いる。好適例としては、エーテル系溶媒にPEDOT/PSSを溶解して用いる。
また、銅フタロシアニンTAPC、(1,1-ビス[4-(ジ-p-トリル)アミ.ノフェニル]シクロヘキサン))TPD N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-(3-メチルフェニル)-1,1’ビフェニル-4,4’-ジアミン、α−NPDN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-(1-ナフチル)-1,1’ビフェニル-4,4’-ジアミン、m−MTDATA、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N, N−(2−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミンTCTA、Tris-(4-carbazoyl-9-yl-phenyl)-amineスピローTAD、(DTP)DPPD、HTM1、Tri-p-tolylamineHTM2,1,1-bis[(di-4-tolylamino) phenyl]cyclohexaneTPT1、1,3,5-tris(4-pyridyl)-2,4,6-triazinTPTE、Triphenylamine-tetramerなども用いることができる。
【0024】
次に、正孔輸送層4の材料について説明する。
正孔輸送層4の材料としては、ポリフルオレン誘導体(PF)やポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)を含むポリシラン系などの高分子有機材料を用いることができる。また、正孔注入層で用いた材料、例えば、TAPC、TPD、α−NPD、m−MTDATA、2−TNATA、TCTA、スピローTAD、(DTP)DPPD、HTM1、TPTEなどの材料を用いても良い。
【0025】
次に、発光層5の材料について説明する。
まず、高分子系の蛍光発光材料としては、ポリフルオレン誘導体、ポリフェニリン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体を用いることができる。好適例としては、アメリカンダイソース社製のADS109GE、ADS111RE、ADS136BE(いずれも商標)が挙げられる。
また、低分子系の材料を用いる場合、発光層5は、ホスト材料とゲスト材料とから構成される。
ホスト材料としては、CBP(4,4’-bis(9-dicarbazolyl)-2,2’-biphenyl)、BAlq(Bis-(2-methyl-8-quinolinolate)-4-(phenylphenolate)aluminium)、mCP(N,N-dicarbazolyl-3,5-benzene:CBP誘導体)、CDBP(4,4'-bis(9-carbazolyl)-2,2'-dimethyl-biphenyl)、DCB(N,N’-Dicarbazolyl-1,4-dimethene-benzene)、P06(2,7-bis(diphenylphosphine oxide)-9,9-dimethylfluorene)、SimCP(3,5-bis(9-carbazolyl)tetraphenylsilane)、UGH3(W-bis(triphenylsilyl)benzene)などを用いることができる。
ゲスト材料における燐光材料としては、Ir(ppy)3(Fac-tris(2-phenypyridine)iridium)、Ppy2Ir(acac)(Bis(2-phenyl-pyridinato-N,C2)iridium(acetylacetone)、Bt2Ir(acac)(Bis(2-phenylbenxothiozolato-N,C2’)iridium(III)(acetylacetonate))、Btp2Ir(acac)(Bis(2-2'-benzothienyl)-pyridinato-N,C3)Iridium(acetylacetonate)、FIrpic(Iridium-bis(4,6difluorophenyl-pyridinato-N,C.2.)-picolinate)、Ir(pmb)3(Iridium-tris(1-phenyl-3-methylbenzimidazolin-2-ylidene-C,C(2)')、FIrN4(((Iridium (III)bis(4,6-difluorophenylpyridinato)(5-(pyridin-2-yl)-tetrazolate)、Firtaz((Iridium(III)bis(4,6-difluorophenylpyridinato)(5-(pyridine-2-yl)-1,2,4-triazo-late)、PtOEP(2,3,7,8,12,13,17,18-Octaethyl-21H,23H-porphine,platinum(II)などを用いることができる。
【0026】
ゲスト材料における蛍光材料としては、Alq3(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム,ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドンなどを用いることができる。
なお、ホスト材料にゲスト材料をドーピングする方式に限定するものではなく、これらの材料単一で発光層として用いてもよい。
【0027】
次に、正孔阻止層6の材料について説明する。
正孔阻止層6としては、BALq、OXD-1 1,3,5-トリ(5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、BCP(Bathocuproine)、PBD(2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-オキサジアゾール、TAZ(3-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール、DPVBi4,4’-ビス(1,1-ジフェニルエテニル)ビフェニル、BND 2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール、DTVBi 4,4’-ビス(1,1-ビス(4-メチルフェニル)エテニル)ビフェニル、BBD 2,5-ビス(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾールなどを用いることができる。また、オキサジアゾール系高分子化合物や、トリアゾール系高分子化合物であっても良い。
【0028】
次に、電子輸送層7の材料について説明する。
電子輸送層7としては、Alq3(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ヒドロキシキノリン誘導体などを用いることができる。また、前述した正孔阻止層6の材料も、電子輸送層7の材料として用いることができる。
【0029】
続いて、各積層体を有機EL素子とする場合に必要となる陽極、および陰極の材料について説明する。
陽極としては、ITO(Indium Tin Oxide)や、ZnO(酸化亜鉛)などの透明電極を用いることができる。
陰極としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、銅、銀、金などの単体、またはこれらの合金を用いることができる。また、炭酸セシウム(Cs2CO3)、またはフッ化リチウム(LiF)からなる層に、アルミニウム(Al)を積層した多層体や、マグネシウム銀(MgAg)などの合金を用いても良い。なお、トップエミッション型の場合、陰極側から光が出射されるため、前述したMgAgなどの合金を光が透過できる程度にごく薄く成膜したハーフミラー状の金属薄膜を陰極として用いる。
【0030】
「発光量子収率の測定方法」
図3は、発光量子収率の測定装置の概要図である。
ここでは、図2で説明した積層体の発光量子収率の測定方法について説明する。
【0031】
図3に示すように、積層体Lの発光量子収率は、積分球110を備えた測定装置200を用いて測定される。
測定装置200は、積分球110、光源装置120、照射光分光器130、分光検出器140、解析用コンピューター150などから構成されており、分光学的手法を用いて蛍光スペクトルを測定し、当該測定結果からソフトウエア処理によって、発光量子収率を導出する測定装置である。
積分球110は、球内一面が拡散反射面とされた球体であり、光入射口111、試料搬入口112、受光部としての受光センサー113などを備えている。なお、図3では、積分球110の側断面図を示している。
光源装置120は、キセノンランプや、ハロゲンランプなどの光源と、これらの光源を点灯させる電源回路などを備えている。
照射光分光器130は、光源装置120の光源が放射する光を分光し、あらかじめ定められた所定の波長の光を所定強度の照射光として導光管135に出力する。
導光管135は、グラスファイバーなどの導光管(器)であり、照射光分光器130が生成した照射光を積分球110の光入射口111に導いている。
【0032】
積分球110の上面(天井側)には、光入射口111が設けられており、下面(底面)には、試料搬入口112が形成されている。また、受光センサー113は、CCD(Charge Coupled Device)などの光センサーからなり、積分球110の側面における中程に配置されている。
試料搬入口112の内側には、透明基板としての石英基板10上に形成された積層体Lがセットされており、積層体Lには、対向して配置された導光管135の端部(光源部)から照射光(白抜き矢印)が照射される。なお、透明基板としては、石英基板10に限定するものではなく、透明な基板であれば良く、例えば、無機ガラスであっても良い。積層体Lは、照射光によって励起され、照射光の波長および強度に応じた蛍光を放射する。そして、放射された蛍光は、受光センサー113の設置部位を含む積分球110内部において略均一な強度部分布となり、受光センサー113によって感知(検知)される。なお、蛍光を放射する積層体Lに限定するものではなく、リン光を放射する積層体Lであっても良い。換言すれば、積層体Lはリン光を放射しても良い。
また、積分球110内には、照射光が受光センサー113に直接入射しないように、光入射口111と受光センサー113とを結ぶ直線上に、遮光板114が形成されている。
【0033】
受光センサー113が感知した蛍光の感知データは、分光検出器140に入力され、蛍光のスペクトルが測定される。そして、蛍光スペクトルの測定データは、解析用コンピューター150に送信される。
解析用コンピューター150には、発光量子収率を導出するためのプログラムがインストールされている。解析用コンピューター150は、当該プログラムを起動し、照射光の波長、および強度や、分光検出器140からの蛍光スペクトルの測定データを入力して、発光量子収率を導出する。
なお、本実施形態において、発光量子収率とは、積層体Lにおいて、吸収した光子に対する放出光子数の比率として定義している。また、導出された発光量子収率は、発光効率を示す指標であり、0〜1.0以内の数値で表され、数値が大きい程、発光効率が高いことを示す。
【0034】
「積層体の評価方法、および有機EL素子の製造方法」
図4(a),(b)は、評価事例における積層体の一態様を示す図であり、図2(b)に対応している。図5は、積層体(有機EL素子)の評価方法の流れを示すフローチャートである。
まず、図4(a),(b)を用いて、評価事例における積層体の構成について説明する。
【0035】
本実施形態に係る評価方法では、評価判定の基準となる基準積層体と、評価したい評価対象の評価積層体とを用いて、それぞれの発光量子収率を求めてから比較評価を行う流れのため、評価方法の説明に先立って、図2(b)で説明した積層体L2に基づく、評価事例における積層体の構成について説明する。
図4(a)の基準積層体L2aは、図2(b)の積層体L2と同一であるが、ここでは、説明の都合上、基準積層体L2aと称する。また、図4(b)の評価積層体L2bは、正孔輸送層の構成のみが基準積層体L2aと異なる。詳しくは、評価積層体L2bの正孔輸送層4bには、発光層5を構成する発光材料が添加されている。換言すれば、正孔輸送層4bは、本来の正孔輸送層を構成する材料に、発光材料を加えた混合材料から構成されている。この点以外の評価積層体L2bの構成は、基準積層体L2aと同様である。
【0036】
続いて、図5を用いて、評価方法の流れを説明する。
ステップS1では、基準積層体L2aを図3の測定装置200の積分球110にセットする。
ステップS2では、基準積層体L2aに照明光を照射して、発光量子収率を測定する。ここで、所定の波長としての照明光の波長は、基準積層体L2aにおける単層の発光層5が発する色光に応じてあらかじめ最適な波長が定められている。これは、例えば、ベンダーが提供している発光層5の吸収スペクトルに基づいて定めても良いし、測定装置200を用いて、発光層5のみの吸収スペクトルを測定して決定しても良い。なお、好適には、単層の発光層5が放出する蛍光において最大の蛍光強度を示す波長を用いる。
【0037】
ステップS3では、評価積層体L2bを図3の測定装置200の積分球110にセットする。
ステップS4では、評価積層体L2bに照明光を照射して、発光量子収率を測定する。なお、照明光は、ステップS2で説明した照明光と同一である。換言すれば、ステップS2における照射光と同じ波長で、同じ強度の照射光を照射する。
ステップS5では、評価積層体L2bにおける発光量子収率と、基準積層体L2aにおける発光量子収率とを比較する。詳しくは、評価積層体L2bにおける発光量子収率と、基準積層体L2aにおける発光量子収率との比率が≧1.0を満たしている場合(S5:Yes)は、評価を終了する。比率が1.0に満たない場合(S5:No)は、ステップS6へ進む。換言すれば、両者の発光量子収率の相関関係が下記の数式(1)を満たした場合に評価ステップを終了する。
評価積層体L2bの発光量子収率/基準積層体L2aの発光量子収率≧1.0…(1)
【0038】
ステップS6では、評価積層体L2bをあらかじめ作成しておいた別の試料と交換するか、または、新たな評価積層体L2bを作成して、ステップS3に戻る。
別の試料とは、最初に評価した評価積層体L2bとは構成、または製法が異なるサンプルのことである。例えば、正孔輸送層4bにおける発光材料の添加量が異なるサンプルであっても良いし、当該層が同じ材料であっても、異なる製造方法で製造されたサンプルであっても良い。
また、新たに作成する場合も、発光材料の添加量を異ならせたり、正孔輸送層4bと発光層5との間の界面状態を製法によって整えるなど、最初に評価した評価積層体L2bとは構成、および製法が異なる試料とする。
【0039】
また、上記評価ステップにおいて、ステップS5の発光量子収率の比較までが、本実施形態における評価方法に相当する。そして、ステップS5における数式(1)、およびステップS6を含む分岐ルーチンは、本実施形態における製造方法に相当する。
また、上記説明においては、評価事例として図2(b)の積層体L2に基づく構成を用いて説明したが、これに限定するものではなく、図2のいずれの積層体Lに基づく構成であっても良い。また、例えば、積層体L1と積層体L4のように、異なる積層体L間において評価を行うこともできる。
【0040】
上述した通り、本実施形態に係る評価方法、および製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
この評価方法によれば、有機EL素子の発光効率の指標となる発光量子収率を積層体Lの状態で測定するため、発光層単層の状態で測定していた従来の方法よりも、正確な測定および評価を行うことができる。換言すれば、実際の素子構成と同じ積層体Lの状態で発光量子収率を測定することにより、正確な発光効率を求めることができる。
よって、有機EL素子の発光効率を正確に測定することが可能な評価方法を提供することができる。特に、有機EL素子としての発光能力は、発光層のみで一義的に決まるものではないため、正孔注入層などの有機機能層を含めた積層体の状態で評価することにより、当該素子の発光効率の実力を見極めることができる。
さらに、透明基板上に複数の有機機能層を積層した状態で評価を行うため、陰極および陽極電極を形成する必要がなく、効率的に評価を行うことができる。また、発光量子収率の測定は、測定装置200の積分球110内に積層体Lが形成された石英基板をセットするだけで良いため、簡便に測定を行うことができる。
従って、有機EL素子の発光効率を正確、かつ効率的に測定することが可能な評価方法を提供することができる。
【0041】
また、照射光の波長を発光層5が放出する蛍光が最大の蛍光強度となる最大蛍光強度における波長とすることにより、測定される蛍光スペクトルのSN比が高くなるため、より正確な発光量子収率を求めることができる。
また、評価積層体における発光量子収率と基準積層体における発光量子収率とを比較する工程(ステップS5)を含んでいるため、評価積層体の発光効率と、基準積層体の発光効率とを比較評価することができる。
よって、評価積層体の発光効率が、基準積層体の発光効率よりも高くなるように、評価積層体を改良することが可能となる。
【0042】
また、上述した評価方法を用いた製造方法によれば、評価積層体における発光量子収率と、基準積層体における発光量子収率との比率が≧1.0(数式(1))を満たすように、評価積層体を形成している。
つまり、当該評価方法を用いて数式(1)を満たすことにより、基準積層体よりも高い発光効率の評価積層体を製造することができる。
従って、発光効率の優れた有機EL素子を製造することが可能な評価方法、および当該評価方法を用いた製造方法を提供することができる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0044】
(変形例)
図2を用いて説明する。
上記実施形態では、各積層体Lにおける発光層5は、1層構成であるものとして説明したが、複数層から構成されることであっても良い。
例えば、複数の異なる色光を放射する発光層を複数層積層した積層発光層を発光層5とする構成であっても良い。また、積層発光層における各層の境界(界面)は、明確に分かれていなくても良く、両者の材料が混じっていても良い。
例えば、低分子材料を用いる場合、発光層5を蒸着する際に、複数の蒸着源を設けて、それぞれの蒸着源に複数の異なる色光に対応した材料をセットすることにより、共蒸着により発光層5を形成することであっても良い。また、高分子材料の場合は、複数の異なる色光に対応した材料を一緒に溶解した溶液を用いて、発光層5を形成することであっても良い。
これらの構成によれば、複数の色光が混合した白色光などを放射する発光層を効率良く形成することが可能となり、また、本願の評価方法によれば、これらの発光層を備えた積層体(有機EL素子)の発光効率を正確に測定することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
「積層体の構成が異なる事例」
図4(a)の基準積層体L2aと、図4(b)の評価積層体L2bとを、以下の通り製造して、図5のフローチャートに沿って評価を行った。
基準積層体L2aにおける各有機機能層の構成材料は、下記の通りである。
正孔注入層3には、PEDOT/PSSを用いた。
正孔輸送層4には、TFBを用いた。
発光層5には、ポリフルオレン誘導体を用いた。
【0046】
また、各有機機能層の製造方法は、下記の通りである。
正孔注入層3の成膜方法。
石英基板上にポリスチレンスルフォン酸にポリチオフェン誘導体である3,4-ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させたPEDOT/PSSをスピンコート法にて成膜して、50nmの正孔注入層3を得た。
正孔輸送層4の成膜方法。
ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン−((4−メチルフェニル)イミノ)1,4−フェニレン−((4−メチルフェニル)イミノ−1,4−フェニレン)(TFB)をキシレン溶液に溶解させ、スピンコート法により正孔注入層3上に塗布し、その後、窒素雰囲気下において180℃、1時間で加熱を行い20nmの正孔輸送層4を得た。
発光層5の成膜方法。
正孔輸送層4上に、青色発光のポリフルオレン誘導体60nmをスピンコート法にて成膜した後、窒素雰囲気下において、100℃で30分加熱して、発光層5を形成した。
【0047】
評価積層体L2bにおける各有機機能層の構成材料は、下記の通りである。
正孔注入層3には、PEDOT/PSSを用いた。
正孔輸送層4bには、TFBにポリフルオレン誘導体を添加した材料を用いた。
発光層5には、ポリフルオレン誘導体を用いた。
つまり、評価積層体L2bの構成は、基準積層体L2aの構成と、正孔輸送層4bのみ異なる。
また、評価積層体L2bの製造方法は、基準積層体L2aの製造方法と、正孔輸送層4bの製造方法のみ異なる。正孔輸送層4bの製造方法を下記に示す。
正孔輸送層4bの成膜方法。
ポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−(1,4−フェニレン−((4−メチルフェニル)イミノ)1,4−フェニレン−((4−メチルフェニル)イミノ−1,4−フェニレン)(TFB)と、青色発光材料であるポリフルオレン誘導体とを、50:50重量比で混合したものをキシレン溶液に溶解させて、スピンコート法により正孔注入層3上に塗布し、その後、窒素雰囲気下において180℃、1時間で加熱を行い20nmの正孔輸送層4bを得た。
【0048】
基準積層体L2aと、評価積層体L2bとの測定、および評価結果は、下記の通りであった。なお、照明光の波長は、365nmとした。
基準積層体L2aの発光量子収率は0.70(70%)であった。
評価積層体L2bの発光量子収率は0.84(84%)であった。
この結果を数式(1)に代入すると0.84/0.70=約1.2となり、1.0以上の条件を満たしていた。
【0049】
さらに、各積層体に対して陽極、および陰極を形成して、実際に電流を流して電流効率を測定した。また、陽極には、ITOを用いて、陰極には、Ca/Alを用いた。なお、電流効率も、発光効率を表す指標の一つである。
基準積層体L2aの電流効率は3.3cd/Aであった。
評価積層体L2bの電流効率は4.3cd/Aであった。
また、評価積層体L2bの電流効率/基準積層体L2aの電流効率=4.3/3.3=1.3となり、数式(1)で求めた約1.2と略同等の比率となっていることが確認された。換言すれば、積層体による評価結果が、完成状態における評価結果と略一致することが確認された。
【0050】
(実施例2)
「積層体の製造方法が異なる事例」
実施例2においても、図4(a)の基準積層体L2aと、図4(b)の評価積層体L2bと用いて実施例1と同様に評価を行った。
実施例2では、評価積層体L2bの製造方法のみが、実施例1と異なる。詳しくは、評価積層体L2bの正孔輸送層4bを成膜した後に、当該層の表面を洗浄する洗浄工程を追加している。この点以外は、基準積層体L2aの構成および製法、評価方法を含めて実施例1と同様である。
【0051】
正孔輸送層4bの成膜後に追加された洗浄工程は、下記の通りである。
正孔輸送層4bに対して、100℃で30分ベークを行った後、不活性雰囲気下にてトルエンでリンスを行った。
そして、洗浄工程に続いて、上述した製法で発光層5を成膜した評価積層体L2bの発光量子収率の測定結果は以下の通りであった。
評価積層体L2bの発光量子収率は、0.95(95%)であった。
この結果を数式(1)に代入すると0.95/0.70=約1.36となり、1.0以上の条件を満たしていた。
【0052】
さらに、各積層体に対して陽極、および陰極を形成して、実際に電流を流して電流効率を測定した。
評価積層体L2bの電流効率は5.4cd/Aであった。
つまり、洗浄工程を追加したことによって、評価積層体L2bの電流効率が実施例1の4.3cd/Aから、5.4cd/Aに向上したことになる。これは、洗浄工程によって、正孔輸送層4bの表面の不純物が除去され、消光部分が減少したためであると考察している。
【符号の説明】
【0053】
3…正孔注入層、4…正孔輸送層、5…発光層、6…正孔阻止層、7…電子輸送層、110…積分球、113…受光部としての受光センサー、200…測定装置、L,L1〜L4…積層体、L2a…基準積層体、L2b…評価積層体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)透明基板上に、少なくとも発光層を含む複数の有機機能層を形成する工程と、
(b)前記複数の有機機能層からなる積層体に、所定の波長の光を照射する工程と、
(c)前記照射された光に応じて前記積層体が放出する蛍光の蛍光スペクトルを測定して、前記積層体の発光量子収率を導出する工程と、を含むことを特徴とする有機EL素子の評価方法。
【請求項2】
前記透明基板は、石英基板であり、
前記(b)および前記(c)工程は、前記所定の波長の光を放射する光源部と、前記積層体が放出する蛍光を感知する受光部とを備えた積分球の中で行われ、
前記所定の波長は、あらかじめ測定された、前記発光層が放出する蛍光が最大の蛍光強度となる最大蛍光強度における波長であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の評価方法。
【請求項3】
評価判定の基準となる前記有機EL素子における前記積層体である基準積層体と、評価対象となる前記有機EL素子における前記積層体である評価積層体とのそれぞれにおいて、前記(a)〜(c)工程を行い、
(d)前記評価積層体における前記発光量子収率と、前記基準積層体における前記発光量子収率とを比較する工程を、さらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子の評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の評価方法において、前記評価積層体における前記発光量子収率と、前記基準積層体における前記発光量子収率との比率が≧1.0を満たすように、前記評価積層体を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−257734(P2010−257734A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106044(P2009−106044)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】