説明

有機EL素子及びこれを備える画像表示装置

【課題】 高い逆バイアス耐圧電圧を有する有機EL素子及びこれを備える画像表示装置を提供する。
【解決手段】 有機EL素子1は、基板2と、陽極3と、有機層4と、陰極5とを備えている。陰極5は、第1の陰極物51と、第2の陰極物52とを備え、第1の陰極物51上に第2の陰極物52が積層されるように形成されている。陰極5は、その厚さ(第1の陰極物51の厚さと第2の陰極物52の厚さとの和)が少なくとも50nmとなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子及びこれを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置には、基板上に陽極、有機層、陰極を順次形成してなる有機EL素子を備えるものがある。このような有機EL素子では、陰極と陽極との間で局所的に電界が集中し、両電極間に電圧が印加された場合に過電流が流れる現象(リーク)が発生することがある。このため、例えば、有機EL素子完成前に、その素子要素を0.1%〜20%の酸素雰囲気に曝したり、この酸素雰囲気にて素子要素に通電処理を施して、リークが発生した場所の陰極あるいは有機層を選択的に酸化させ、リーク箇所を絶縁化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、リーク箇所が絶縁化されているので、両電極間に電圧が印加された場合にも過電流が流れないようになる。
【0003】
また、陽極表面を研磨して、陽極表面の凹凸を平滑化することで、両電極間の有機層が薄くなる場所を低減することにより、陰極と陽極との間の局所的な電界集中を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−312580号公報
【特許文献2】特開平9−245965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機EL素子の陰極の材料としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)などの金属が広く用いられている。Alなどからなる金属電極は、一般に、膜厚を厚くすると表面性が悪化してしまう。特に、電極表面の起伏が大きくなった場合、あるいは、金属膜全体の応力が大きくなり金属膜全体の応力が緩和される挙動を金属電極が行う(すなわち、金属電極が動く、あるいは、金属が有機層中に拡散する)場合、逆バイアス耐圧電圧(両電極間に逆バイアス電圧を印加した場合に両電極間に過電流が流れない電圧)の低下を促すため、デバイスとして要求される電極抵抗値に足る金属電極を形成する事は困難である。
【0005】
このため、例えば、マトリックス状に形成された有機EL素子を使用した画像表示装置を順次駆動する場合において、逆バイアス電圧を上げることができない。結果として、順バイアス印加時に電極間に流せる電流値には限界が生じてしまい、高精細で高輝度、高品位な有機EL素子および有機EL素子を使用した画像表示装置を実現することの制約となっている。また、金属電極を陰極として使用し、走査電極としている場合には抵抗の値が大きいとその分発熱が大きくなるので、金属電極の抵抗値は低い方が望ましい。
【0006】
特に、有機EL素子とカラーフィルター及び/又は蛍光変換を使用したカラー画像表示装置を実現させる場合、高精細で高輝度、高品位な画像品位を実現するには、金属電極の抵抗値は低い方が望ましい。また、表示装置が所望の輝度を得る為にはカラーフィルター及び/又は蛍光変換を使用することにより光の透過率が下がってしまうので、有機EL素子の輝度を上げる必要があり、そのため発熱を抑えるには金属電極の抵抗値を下げる必要がある。しかし、陰極に使用するAlの膜厚が厚くなると有機EL素子にかかる逆バイアス耐圧電圧が低下するという問題が顕著になる。つまり、逆バイアス耐圧電圧が低下すると、マトリックス状に形成された有機EL素子を使用した画像表示装置を駆動するに当たり、逆バイアス電圧が印加された有機EL素子にリーク電流が流れることになり、十分な画像品質が得られないという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、十分な画像品質を実現することができる有機EL素子及びこれを備える画像表示装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、高い逆バイアス耐圧電圧を有する有機EL素子及びこれを備える画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる有機EL素子は、
基板上に、少なくとも1つの陽極と有機層と陰極とを有する有機EL素子であって、
前記陰極は、その厚さ方向に、少なくとも2つの陰極物を含んでおり、該陰極物の厚さの合計が少なくとも50nmであることを特徴とする。
【0009】
前記各陰極物は、同一材料を含む材料から形成されていることが好ましい。
前記陰極物間の少なくとも一部に中間物が形成されていることが好ましい。
前記中間物は、有機物を含む材料から形成されていることが好ましい。
前記中間物は、その厚さが0.4nm〜10nmであることが好ましい。
前記中間物に含まれる有機物は、前記有機層を形成する材料と同一材料を含んでいることが好ましい。
前記陰極は、その厚み方向における前記陰極物の境界で、該陰極物を構成する材料が形成する模様が不連続となる箇所を有することが好ましい。
前記陰極は、そのシート抵抗が3.7×10−1Ω以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の第2の観点にかかる画像表示装置は、本発明の第1の観点にかかる有機EL素子を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い逆バイアス耐圧電圧を有する有機EL素子及びこれを備える画像表示装置を提供することができる。また、十分な画像品質を実現することができる有機EL素子及びこれを備える画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態にかかる、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子及びこれを備える画像表示装置について図面を参照して説明する。
【0013】
図1に、本発明の実施の形態にかかる有機EL素子の一例を示す。
図1に示すように、有機EL素子1は、基板2と、陽極3と、有機層4と、陰極5とを備えている。
【0014】
基板2は、有機層4からの発光光を取り出せるように、ガラス、石英、樹脂等の透明ないし半透明な材料が用いられる。なお、基板2と反対側(図1の上側)から有機層4からの発光光を取り出す構成とすることも可能であり、この場合、基板2は不透明な材料であってもよく、アルミナ等のセラミックス、ステンレス等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0015】
陽極3は、基板2上に形成されている。陽極3は、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、SnO、ドーパントをドープしたポリピロールなどの材料を用いることが好ましく、特にITOを用いることが好ましい。
【0016】
有機層4は、陽極3上に形成され、ホールおよび電子の注入機能、付加的にそれらの輸送機能、ホールと電子の再結合により励起子を生成させる発光層としての機能を有する。有機層4には、少なくとも発光機能を有する化合物である蛍光性物質あるいはリン光性物質が含有されている。蛍光性物質としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の金属錯体色素を用いることができる。これに加え、あるいはこれに替え、キナクリドン、クマリン、ルブレン、スチリル系色素、その他テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネン、12−フタロペリノン誘導体等を用いることもできる。
【0017】
また、有機層4は、電子注入輸送層やホール注入輸送層を備えていてもよい。ホール注入輸送層は、ホール注入電極からのホールの注入を容易にする機能、ホールを安定に輸送する機能、付加的に電子の輸送を妨げる機能を有し、電子注入輸送層は、電子注入電極からの電子の注入を容易にする機能、電子を安定に輸送する機能、付加的にホールの輸送を妨げる機能を有するものであり、これらの層は、発光層へ注入されるホールや電子を増大・閉じ込めさせ、再結合領域を最適化させ、発光効率を改善する。また、有機層4は、これらの層を兼ねたものであってもよく、例えば、発光層と電子注入輸送層とを兼ねたものである場合、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等を使用することが好ましい。
【0018】
陰極5は、有機層4上に形成され、その厚さ方向に、少なくとも2つの陰極物を含んでいる。そして、少なくとも2つの陰極物の厚さの合計が少なくとも50nmとなるように形成されている。ここで、陰極物とは、陰極5を構成する部材をいい、本実施の形態では、陰極5は、第1の陰極物51と、第2の陰極物52とを備え、第1の陰極物51上に第2の陰極物52が積層されるように形成されている。このため、陰極5の厚さ(第1の陰極物51の厚さと第2の陰極物52の厚さとの和)が50nm以上となっても、その表面性が悪化しない。例えば、陰極が銀を主成分とする場合、陰極物の厚みの合計が50nm以上となっても、その表面性が悪化しない。又、陰極がAlを主成分とした場合には陰極物の厚みの合計が100nm以上となっても、その表面性が悪化しない。この結果、陰極5は逆バイアス耐圧電圧を十分高く維持することが可能になり、また、時間の経過と共に逆バイアス耐圧電圧が顕著に低下するという問題が発生しなくなる。
【0019】
陰極5(第1の陰極物51及び第2の陰極物52)に用いる材料としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、La、Ce等の希土類金属、Al、In、Au、Ag、Sn、Zn、Zr等が挙げられ、これらから少なくとも1種を選択すればよい。ここで、第1の陰極物51と第2の陰極物52とは、同一材料を含む材料から形成されていることが好ましく、例えば、第1の陰極物51がアルミニウム(Al)の場合には、第2の陰極物52は、AlまたはAlを含む材料から形成されていることが好ましい。このように、第1の陰極物51と第2の陰極物52とに同一材料を含ませることにより、陰極5は製造コストの上昇を抑え、簡単な製造工程で逆バイアス耐圧電圧を高く維持することができる。陰極物51,52は、抵抗加熱蒸着法、誘導加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法あるいはイオンプレーティング法のいずれの製造方法において適用が可能であり、製造方法を限定するものでは無い。
【0020】
また、本実施の形態では、陰極5は、第1の陰極物51と第2の陰極物52との間に中間物6が形成されている。中間物6は、第1の陰極物51と第2の陰極物52との間に形成される部材であり、第1の陰極物51及び第2の陰極物52とともに陰極5を構成する。中間物6は電気伝導性を有するものであることが望ましいが、絶縁性であってもよい。また、中間物6は、陰極物51,52間の少なくとも一部に形成され、有機物を含む材料から形成されていることが好ましい。さらに、中間物6の有機物は、有機層4を形成する材料と同一材料を含んでいることが好ましい。これらにより、陰極5は逆バイアス耐圧電圧を高く維持することができる。また、中間物が有機EL素子を形成する材料と同一の材料を含んでいるので、製造コストの上昇を抑え、簡単な製造工程で逆バイアス耐圧電圧を高く維持することができる。中間物6は第1の陰極物51の製造方法が適用可能であり、また第1の陰極物51の表面の少なくとも一部を酸化させたり、窒化させたり、炭化するなどの製造方法を適用することでも実現できる。
【0021】
ここで、中間物6は、その厚さを0.2nm〜50nmにすることが好ましく、0.4nm〜10nmにすることがさらに好ましい。中間物6をかかる範囲の厚さにすることにより、逆バイアス耐圧電圧を向上させることができるためである。また、中間物6の厚さが、例えば、50nmのように厚い場合、中間物6に使用する材料によっては、上下の陰極物51,52間の電気伝導性が大きく失われて、陰極5を所望の抵抗値を持つ陰極とすることはできないという問題が発生してしまうためである。また、中間物を厚くすると製造コストが上昇し、生産効率が悪くなるという問題が生じる。また、中間物が容量成分を有する場合には画像表示装置を駆動するに当たり、十分な画像品位が得られないという問題が生じる。また、中間物6の厚さが、例えば、0.2nmのように極端に薄い場合、上下に形成された陰極物51,52同士の接触面積が大きくなり、結果として陰極5の表面に凹凸が形成される、あるいは、陰極5の応力が大きくなり有機EL素子の逆バイアス印加時の耐圧を低下させる、という問題が発生してしまうためである。
【0022】
図2に、中間物6にAlqを用いた場合の中間物6の厚さと逆バイアス耐圧電圧との関係を示す。尚、この場合、中間物6の上下の陰極物(Al)51、52をそれぞれ100nm、100nmとした。図2は完成された有機EL素子表示装置を115度に維持された環境下で4時間維持し、その後、1000時間室温に放置した後の逆バイアス耐圧電圧を示している。図2に示すように、中間物6は、その厚さを0.2nm以上にすると、逆バイアス耐圧電圧を向上させることができ、特に0.4nm以上にすると、逆バイアス耐圧電圧をさらに向上させることができることが確認できた。また、中間物の厚みが1.0nm以上であれば、逆バイアス耐圧電圧が変化することはなかった。ここで、逆バイアス耐圧電圧の値は有機層の膜厚によっても変化する。また、実際に有機EL素子を使用した画像表示装置を所望の輝度で連続駆動させる場合、有機EL素子には逆バイアス電圧が印加されるので、印加される逆バイアス電圧以上の逆バイアス耐圧電圧を有していることが必要となる。本例では有機EL素子表示装置を115度に維持された環境下で4時間維持し、その後、1000時間室温に放置しているので、実使用環境下で十分な性能を有する画像表示装置を実現できる。その際、逆バイアス耐圧電圧は有機EL素子に印加される逆バイアス電圧より高ければ良く、逆バイアス耐圧電圧が変化しないことが好ましい。ただし、逆バイアス耐圧電圧が変化しても、逆バイアス耐圧電圧が印加される逆バイアス電圧より高ければ実用上問題はない。本例より、中間物6の厚みは、0.2nm以上であれば実用上問題なく、0.4nm以上であれば車載用途などの高温環境下で使用される場合であっても問題はない。
【0023】
また、陰極5は、第1の陰極物51と中間物6と第2の陰極物52とから構成されている。図3に、透過型電子顕微鏡(TEM)により、陰極5(第1の陰極物51、中間物6、第2の陰極物52)近傍の断面TEM像を示す。図3に示すように、陰極5は、中間物6を境に、その上下の陰極物51,52の境界で、陰極物51,52を構成する材料が形成する模様が不連続となる箇所を有している。すなわち、陰極5は、第1の陰極物51を構成する材料が形成する模様と、第2の陰極物52を構成する材料が形成する模様とが、その厚み方向の断面において、不連続となる箇所を有する。
また、このように構成された陰極5は、そのシート抵抗が3.7×10−1Ω以下であることが好ましい。
【0024】
このように構成された有機EL素子1を、例えば、不活性ガス雰囲気下で、ガラス封止基板を所定位置に重ね合わせた後、陰極5にマイナス電圧を、陽極3にプラス電圧を印加できるように電気的に接続することにより、有機EL素子1を備える画像表示装置を形成することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、陰極5は、少なくとも2つの陰極物を含み、その総厚さが50nm以上となるように形成されている。このため、陰極5の表面性が悪化せず、逆バイアス耐圧電圧を十分高く維持することが可能となり、又時間の経過と共に逆バイアス耐圧電圧が顕著に低下するという問題が発生しない。
【0026】
本実施の形態によれば、第1の陰極物51と第2の陰極物52との間に中間物6が形成されている。このため、陰極5は逆バイアス耐圧電圧をさらに高く維持することができる。
【0027】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。以下、本発明に適用可能な他の実施の形態について説明する。
【0028】
上記実施の形態では、陰極5が第1の陰極物51と中間物6と第2の陰極物52とから形成されている場合を例に本発明を説明したが、例えば、図4に示すように、さらに、第2の陰極物52上に第2の中間物61を形成するとともに、第2の中間物61上に第3の陰極物53を形成してもよい。この場合、陰極5の抵抗値をさらに下げることができる。また、本発明は陰極物の数について特に限定されるものではなく、陰極5が所望の抵抗値を得るために必要な数であれば、その数に制限は無い。
【0029】
上記実施の形態では、第1の陰極物51及び第2の陰極物52が有機層4上の全面に形成されている場合を例に本発明を説明したが、陰極5の厚さ方向に、少なくとも2つの陰極物を含むように形成されていればよく、例えば、図5に示すように、陰極5は、陰極物51a、51b、52a、52bを備えるように、有機層4上の一部に形成されている場合であってもよい。本構造は、例えば、発光素子がRGBで個別に形成される場合には有効な手段となる。
【0030】
上記実施の形態では、中間物6が第1の陰極物51と第2の陰極物52との間に形成されている場合を例に本発明を説明したが、例えば、中間物6が形成されておらず、陰極5が第1の陰極物51と第2の陰極物52とから形成されていてもよい。また、第1の陰極物51と第2の陰極物52との間の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明する。
まず、基板2としてのガラス基板上に、ITO膜(透明電極膜)をスパッタ法で100nm形成し、フォトリソグラフィー技術によりITO膜を256本の直線パターン形状に形成した。具体的には、ITO膜を形成したガラス基板上に感光レジスト膜をスピンコートにて形成し、その後、所定のパターン形状の遮光レチクルマスクを通したUV光で基板を順次照射して、基板全面の感光レジスト膜を感光させた。その後基板を現像液に所定時間浸漬させて、所定パターン形状に感光レジスト膜を除去し、その後エッチング液に浸漬させて感光レジスト膜が、ITO膜を256本の直線のパターン形状にした。
【0032】
次に、配線電極としてTi−N膜をスパッタ法で300nm形成し、フォトリソグフィー技術によりTi−N膜をITOの片側のエッジに接するように直線状のパターン形状に形成した。続いて、絶縁性のポジ型レジストを基板上に塗布し、ITO表面に256×64の開口を有するように、ITOのエッジを被覆する形の形状でパターニングした。
【0033】
さらに、絶縁性の樹脂膜をスピンコート法により形成して、フォトリソグフィー技術により素子分離構造体をITO電極と直交し、かつ、ポジレジスト上に65本形成した。素子分離構造体は、例えば、特開平10−223376号公報に示されているようなものを指す。こうして作製した基板をUVオゾンによりITO膜の前処理を行った後、蒸着チャンバーに投入して約9×10−5Paまで真空排気した後、真空蒸着法により有機層4を形成した。
【0034】
この有機層4は、具体的には、チャンバーに投入した基板上にホール注入層としてα−NPD(α−ナフチル・フェニル・ベンゼン)を40nm形成し、次にホール輸送層としてTPD(トリ・フェニル・ジアミン)層を40nm形成し、次に発光層としてAlq(トリス・8−キノリノラト・アルミニウム)を50nm形成した。
【0035】
このようにして有機成膜を行った基板を、引き続き陰極形成のために用意した真空チャンバーに真空を維持したまま移して、約9×10−5Paの真空にて電子注入層と陰極5を形成した。具体的には、電子注入層は酸化リチウムを真空蒸着法にて0.5nm形成し、次に第1の陰極物51としてのアルミニウム層を100nm電子ビーム蒸着法にて形成し、さらに真空蒸着にて中間物6としてのAlqを1nm形成し、さらに第2の陰極物52としてのアルミニウム膜を100nm形成した。
【0036】
最後に、不活性ガスを満たした封止チャンバーに基板を移して、ガラス封止基板を所定の位置に重ね合わせて接着剤で接着を行った。そして、陰極5(Al)にマイナス電圧を印加し、陽極3(ITO)にプラス電圧を印加することで画像表示が実現できた。また、駆動電圧15V、逆バイアス電圧20V、駆動周波数100Hzで駆動した場合、80cd/mの輝度を有する画像表示が可能となり、駆動時間1000時間でリークは発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態にかかる有機EL素子の構成図である。
【図2】中間物の厚さと逆バイアス耐圧電圧との関係を示すグラフである。
【図3】陰極近傍の断面TEM像を示す図である。
【図4】他の実施の形態にかかる有機EL素子の構成図である。
【図5】他の実施の形態にかかる有機EL素子の構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1 有機EL素子
2 基板
3 陽極
4 有機層
5 陰極
51 第1の陰極物
52 第2の陰極物
6 中間物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも1つの陽極と有機層と陰極とを有する有機EL素子であって、
前記陰極は、その厚さ方向に、少なくとも2つの陰極物を含んでおり、該陰極物の厚さの合計が少なくとも50nmであることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記各陰極物は、同一材料を含む材料から形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記陰極物間の少なくとも一部に中間物が形成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記中間物は、有機物を含む材料から形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記中間物は、その厚さが0.4nm〜10nmである、ことを特徴とする請求項3または4に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記中間物に含まれる有機物は、前記有機層を形成する材料と同一材料を含んでいる、ことを特徴とする請求項4または5に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記陰極は、その厚み方向における前記陰極物の境界で、該陰極物を構成する材料が形成する模様が不連続となる箇所を有する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記陰極は、そのシート抵抗が3.7×10−1Ω以下である、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機EL素子を備える、ことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−286401(P2006−286401A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104784(P2005−104784)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】