説明

有機EL素子及びその製造方法、並びに有機ELディスプレイ

【課題】 発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能な長寿命の有機EL素子及び有機ELディスプレイを提供すること。
【解決手段】 有機EL素子1において、一対の電極12、18間に配置された発光層20に、アントラセン構造を有するビニルポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有せしめる。これにより、発光層20におけるホール及び電子の双方の移動度が高められ、両者が効率よく再結合するようにキャリアバランス良好な状態に保つことができるようになるため、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス、電界発光)素子及びその製造方法、並びに有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
コダック社による低分子化合物を用いた真空蒸着法により有機層を形成した積層型有機EL素子の発表以来、有機ELディスプレイの開発が盛んに行われ現在実用化されつつある。
【0003】
その一方で、熱安定性に優れる等の観点から、有機層の構成材料として高分子化合物を用いた有機EL素子の開発が盛んに行われている。有機層に高分子化合物を用いた場合、熱安定性に優れるほか、有機層が主として塗布溶液を用いた塗布法により形成されることから、製造プロセスの簡略化が可能となる利点もある。さらに、真空蒸着法を用いて形成された有機層は、その層の一部が形成されず、欠陥が生じることも多いのに対し、塗布法により有機層を形成すると欠陥が極めて生じ難く、比較的高い信頼性が得られるという利点もある。
【0004】
有機EL素子に用いられる高分子化合物は、一般的には、π共役系ポリマー(例えば、特許文献1参照)と、非π共役系ポリマー(例えば、特許文献2)とに大別される。このうち、非π共役系ポリマーは、分子設計の自由度が高く、例えば低分子色素と同様の構造(アントラセン構造、フルオランテン構造等)を側鎖基としてポリマー鎖に導入することにより、所定の特性を付与することができる。また、非π共役系ポリマーをホスト材料とし、これに所定のドーパントを添加して発光層を形成することで、目的の色を高い色純度で得ることができるという利点を有している。
【特許文献1】特開2003−338375号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters, vol.51, pp913 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近時、有機EL素子の素子特性の更なる向上が求められており、上記従来の有機EL素子であっても、かかる要求に応えるためには未だ改善の余地がある。特に、非π共役系ポリマーを用いた従来の有機EL素子の場合、その寿命は十分とは言えず、発光輝度、発光効率などの素子特性が比較的短時間で低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能な長寿命の有機EL素子及びその製造方法、並びに有機ELディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、非π共役系ポリマーを用いた従来の有機EL素子の場合、発光層におけるキャリア移動度がホールと電子との間で大きく異なるために両者の均衡(キャリアバランス)が崩れやすく、特に、ホール数に対して電子が少なくなる傾向にある。そのため、発光層中でホールと電子との再結合が起こりにくくなり、発光輝度、発光効率等の素子特性が低下するものと考えられる。
【0008】
そこで本発明者らは、かかる知見に基づき更に研究を重ねた結果、特定構造を有するポリマーとガラス転移温度が特定条件を満たすホール輸送材料とを発光層に含有せしめることで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の有機EL素子は、互いに対向して配置された一対の電極と、該電極間に配置され、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の有機EL素子によれば、上記構成を有することにより、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することができるようになり、長寿命の有機EL素子が有効に実現可能となる。なお、本発明の有機EL素子によりこのような効果が得られる理由については必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0011】
すなわち、本発明の有機EL素子が備える発光層においては、アントラセン構造を有するポリマー中にホール輸送性化合物が保持されることで、ホール移動度と電子移動度との差が増大することなく各キャリア移動度が高められるものと考えられる。そのため、両者が効率よく再結合するようにキャリアバランス良好な状態に保つことができるようになり、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能になると考えられる。
【0012】
また、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を発光層に含有せしめることで、発光層の耐電特性、耐熱性、耐酸化性などの特性が十分に高められるため、素子の駆動を長期間又は繰り返し行った場合であっても、上記2成分の併用によるキャリアバランスの改善効果を得ることができるものと考えられる。
【0013】
本発明の有機EL素子においては、発光層が、上記のポリマー及びホール輸送性化合物を含む塗布液を用いて塗布法により形成されたものであることが好ましく、アニール処理が施されたものであることが更に好ましい。なお、有機EL素子の製造工程において、塗布法により形成した発光層を加熱処理(アニール処理)することは長寿命化の点で有効であるが、従来の有機EL素子の発光層は必ずしも良好な耐熱性を有していないため、アニール処理をすることで発光しなくなったり寿命が短くなったりすることがある。これに対して本発明の有機EL素子の場合、上述のように発光層が十分な耐熱性を有しているため、アニール処理による寿命向上効果を高水準で得ることができるようになる。
【0014】
本発明においては、発光層に含まれる上記ポリマーが、下記一般式(1)〜(4)で表される構造単位のうちの少なくとも1種を有することが好ましい。かかる構造単位を有するポリマーを用いることで、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能な長寿命の有機EL素子が有効に実現可能となる。
【0015】
【化1】

[式中、X、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ機、水酸基又はアミノ基を表し、a、b、cは及びdはそれぞれ0〜4の整数を表し、eは0〜5の整数を表し、pは0又は1を表し、qは1〜3の整数を表す。]
【0016】
【化2】

[式中、Lは2価の有機基を表し、Lは炭素数1〜4の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜13の(r+2)価の芳香族基、又はイミノ基を表し、Y、X及びXはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、fは0〜8の整数を表し、gは0〜9の整数を表し、rは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。]
【0017】
【化3】

[式中、L及びLは、それぞれ2価の有機基を示し、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、hは0〜8の整数を示し、k及びmはそれぞれ0又は1を示し、かつ(k+m)は1以上であり、nは1以上の整数を示す。]
【0018】
【化4】

[式中、Ar及びArは同一でも異なっていてもよく、それぞれ置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基を示し、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、sは1又は2を示し、tは0又は1を示し、iは0〜7の整数を示し、nは1以上の整数を示す。]
また、発光層に含まれる上記ホール輸送性化合物はトリフェニルアミン構造を有するものであることが好ましい。これにより、発光層におけるキャリアバランスの改善効果を一層高水準で得ることができるようになるため、一層長寿命の有機EL素子が実現可能となる。
【0019】
また、本発明においては、発光層が、一対の電極のうち電子注入電極に近い側の表面付近に、イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する改質部を有することが好ましい。これにより、発光効率及び寿命を更に向上させることが可能となる。なお、本発明でいう「ホールブロック性化合物」とは、ホールに対するブロッキング能を有する化合物を意味する。また、本発明者らは、上記構成とすることによる作用は以下の通りと推察するが、作用はこれに限定されない。
【0020】
すなわち、発光層の電子注入電極に近い側の表面付近に上記改質部を設けることで、改質部付近にエネルギー障壁が生じ、該改質部がホールに対するブロッキング層として機能するため、発光層のホールと電子との再結合が起こる主要な領域においては両者のキャリアバランスを良好な状態に保ちつつ、ホールが発光層から改質部を経て電子注入電極層方向に移動することを十分に抑制できるものと考えている。その結果、その発光層の改質部付近にホールが蓄積することになり、その改質部付近における電子注入障壁(電子を発光層に注入するのに必要なエネルギー障壁)が低下するのと考えられる。これらのことにより、発光層における電子とホールとの注入バランスを取ることができ、ホールと電子との再結合の確率が上昇するため、より高水準の発光効率及び寿命を有する有機EL素子を得ることができると考えられる。
【0021】
また、通常、高分子発光層は非極性材料を含んで構成されることが多く、そのため、無機化合物等で構成される極薄膜である電子注入電極に対する密着性が不十分となりやすい。これに対して、上記改質部は極性を有する高分子を含んで構成されるため、発光層の改質部側の面を電子注入電極に対してより均一に密着させることができ、高い発光効率及び寿命を達成することが一層容易となる。
【0022】
また、電子注入電極が金属、合金又はそれらの混合物で構成される場合、酸化劣化や解離したイオンのホール注入電極までの拡散などによって素子劣化が起こりやすい。これに対して、上記改質部はこのような金属又は金属化合物を安定的に保持することができるため、より安定な素子駆動を実現することができる。
【0023】
また、改質部を有さない発光層と電子注入層とが直接接すると、エネルギー移動による励起状態の失活が起こるおそれがあるが、上記改質部を設けることによりかかる失活を抑制することができる。
【0024】
ここで、発光層の「表面付近」とは、発光層の表面から、大きくとも該発光層の厚さ方向中心部までの間の体積領域をいう。また、「イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する改質部」とは、発光層の厚さ方向において、イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物と、改質部以外の部分の発光層を構成する材料の一部又は全部とが混在する層部分をいい、イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物が存在しない層部分は改質部に該当しない。
【0025】
また、発光層の改質部は、イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する溶液の塗布により好適に形成することができる。このように有機EL素子の発光層表面付近の改質方法として塗布法を採用することにより、改質部は濃度勾配を有すると考えられる。より具体的には、改質部の電子注入電極層側はイオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物の濃度が高くなり、改質部のホール注入電極層側に向かうにつれて、徐々にビニルポリマー及びホール輸送性化合物の濃度が高くなっていると考えられる。このような濃度勾配を有することにより、該改質部は、ある程度大きな膜厚範囲を有し、階層的なブロッキング層として効果的にホールを蓄積することができるので、発光層におけるホールと電子との再結合に有効に寄与することができるものと推察される。
【0026】
なお、従来の有機EL素子においても、発光層と電子注入電極との間にホールブロッキング層を設ける技術が知られているが、この場合は本発明に係る改質部による効果と同様の効果を得ることができない。つまり、従来の有機EL素子の場合、ホールブロッキング層の構成材料は発光層の構成材料とは異なる。
【0027】
本発明において用いられる上記ホールブロック性化合物は、バンドギャップ4.0eV以上の高分子化合物又は有機金属化合物であることが好ましい。かかるホールブロック性化合物を用いることで、発光効率及び寿命の更なる向上を有効に達成することができる。
【0028】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、互いに対向して配置された一対の電極と、該電極間に配置され、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層と、を備える有機EL素子の製造方法であって、上記のポリマー及びホール輸送性化合物を含む塗布液を用いて塗布法により発光層を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0029】
本発明の製造方法によれば、上記本発明の有機EL素子を容易に且つ確実に得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法は、塗布法により形成された発光層にアニール処理を施す工程を更に備えることが好ましい。発光層にアニール処理を施すことによって、得られる有機EL素子の寿命をより高めることができるようになる。
【0031】
また、本発明の有機ELディスプレイは、互いに対向して配置された一対の電極、並びに該電極間に配置され、アントラセン構造を有するビニルポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層を有する有機EL素子が複数配列された表示部と、一対の電極それぞれに電気的に接続されており、該電極に電圧又は電流を供給する電力供給部と、有機EL素子それぞれを点灯又は消灯するスイッチング部と、を備えることを特徴とする。
【0032】
このように、表示部において上記本発明の有機EL素子を配列し、さらに電力供給部及びスイッチング部により当該表示部を駆動することによって、発光輝度や色表示機能に優れ、さらには、耐熱性が高く長寿命の有機ELディスプレイが実現可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、発光輝度、発光効率などの素子特性を長期間にわたって高水準に維持することが可能な長寿命の有機EL素子及びその製造方法、並びに有機ELディスプレイが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0035】
図1は本発明の有機EL素子の好適な一実施形態を示す模式断面図である。図1に示した有機EL素子1は、基板10と、基板10の一側に形成された第一の電極層(ホール注入電極層)12と、ホール注入電極層12上に形成された発光層20と、発光層20上に形成された第二の電極層(電子注入電極層)18とを備える。そして、発光層20は、後述するように、アントラセン構造を含むビニルポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する有機層である。また、発光層20は、電子注入電極層18側の表面付近に形成されたイオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する改質部16と、それ以外の部分14とで構成されている。
【0036】
(基板)
基板10としては、非晶質基板(例えばガラス、石英など)、結晶基板(例えば、Si、GaAs、ZnSe、ZnS、GaP、InPなど)が挙げられ、またこれらの結晶基板に結晶質、非晶質あるいは金属のバッファ層を形成した基板も用いることができる。また金属基板としては、Mo、Al、Pt、Ir、Au、Pdなどを用いることができる。さらには、樹脂フィルム基板(例えば、ポリエチレンテレフタレートなど)も用いることができる。
【0037】
基板10が光取り出し側となる場合、ガラスや石英などの透明基板を用いることが好ましく、特に、安価なガラスの透明基板を用いることが好ましい。透明基板には、発色光の調整のために、色フィルター膜や蛍光物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜などを設けてもよい。
【0038】
(ホール注入電極層)
ホール注入電極(陽極)層12に用いる材料は、発光層へホールを効率よく注入することのできるものが好ましく、仕事関数4.5eV〜5.5eVの物質が好ましい。具体的には、透明導電膜である錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)および酸化亜鉛(ZnO)のいずれかを主組成としたものが好ましい。
【0039】
これらの酸化物は、その化学量論組成から多少偏倚していてもよい。ITOでのInに対するSnOの混合比は、1〜20質量%であると好ましく、5〜12質量%であるとより好ましい。また、IZOでのInに対するZnOの混合比は、通常、12〜32質量%程度である。ホール注入電極層12は、仕事関数を調整するため、シリカ(SiO)を含有していてもよい。SiOの含有量は、ITOに対して0.5〜10モル%程度が好ましい。SiOを含有することにより、ITOの仕事関数が増大する傾向にある。
【0040】
光を取り出す側の電極層は、ホール注入電極層に限らず、有機EL素子の発光波長領域である400〜700nmにおける透過率、特にRGB各色の波長における透過率は50%以上であると好ましく、80%以上であるとより好ましく、90%以上であるとさらに好ましい。光透過率が50%未満であると、発光層からの発光自体が減衰され、発光素子として必要な輝度を得難くなる傾向にある。
【0041】
ホール注入電極層12の膜厚は、光を取り出す側の電極層となるので、上述の光透過率を考慮して決定することが好ましい。例えば酸化物の透明導電膜を用いる場合、その膜厚は、50〜500nmであると好ましく、50〜300nmであるとより好ましい。ホール注入電極層12の膜厚が500nmを超えると、光透過率が不十分となると共に、基板10からのホール注入電極層12の剥離が発生する傾向にある。また、膜厚の減少に伴い光透過性は向上するが、膜厚が50nm未満の場合、発光層20へのホール注入効率が低下すると共に膜の強度が低下する傾向にある。
【0042】
(電子注入電極層)
電子注入電極(陰極)層18に用いる材料は、後述する発光層20の改質部16の効果により、比較的低い仕事関数を有している必要がないため、特に限定されることはない。したがって、比較的低い仕事関数を有するLi、Na、K若しくはCsなどのアルカリ金属、Mg、Ca、Sr若しくはBaなどのアルカリ土類金属、LiF若しくはCsIなどのアルカリハロゲン化物、LiOなどの酸化物、La、Ce、Sn、Zn若しくはZrなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属と特性が近い金属を用いることができ、さらには、比較的高い仕事関数を有するAl,Ag,In,Ti,Cu,Au,Mo,W,Pt,Pd若しくはNi、又は、これらの金属の合金、或いはこれらの金属と他の金属との合金をも用いることが可能である。また、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
上記材料の中でも、後述する発光層20の機能を有効に発揮させる観点から、LiFを電子注入電極層18に用いることが好ましい。発光層に高分子化合物を用いた従来の有機EL素子において電子注入電極層にLiFを用いると、十分な発光効率及び寿命を得ることが困難であったが、本実施形態では、発光層20に混合部16を設けることにより、電子注入電極層18にLiFを用いても優れた発光効率および寿命を達成することができる傾向にある。
【0044】
なお、発光層20が改質部16を有さない場合には、上述材料のうち比較的低い仕事関数を有する材料を用いることが好ましい。
【0045】
電子注入電極層18の膜厚は、発光層20への電子注入が可能であれば特に制限されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いる場合は、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは1.0〜50nmである。また、アルカリハロゲン化物もしくはLiOなどの酸化物を用いる場合の膜厚は、発光層20への電子注入能力の点からできるだけ薄い方が好ましく、具体的には、10nm以下であると好ましく、1nm以下であるとより好ましい。
【0046】
(発光層)
発光層20は、前述の通り、アントラセン構造を有するビニルポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する有機層である。また、発光層20は、電子注入電極層18側の表面付近に形成されたイオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する改質部16と、それ以外の部分14とで構成されている。
【0047】
発光層20に用いられる上記ビニルポリマーは、アントラセン構造を含む側鎖基を有するものであれば特に制限されない。当該側鎖基は、アントラセン構造の他に、ベンゼン構造、ナフタレン構造、ジフェニルナフタセン構造、ピレン構造、フェナントレン構造、フェナントロリン構造、フルオランテン構造、フルオレン構造、あるいはこれらの2種以上が組み合わせられた構造を有していてもよい。また、当該ビニルポリマーは、アントラセン構造を含む側鎖基の他に、アントラセン構造を含まない側鎖基を有していてもよい。アントラセン構造を有さない側鎖基としては、ベンゼン構造、ナフタレン構造、ジフェニルナフタセン構造、ピレン構造、フェナントレン構造、フェナントロリン構造、フルオランテン構造、フルオレン構造、あるいはこれらの2種以上が組み合わせられた構造を含む側鎖基が挙げられる。
【0048】
アントラセン構造を含む側鎖基を有するビニルポリマーは、アントラセン又はアントラセン誘導体にビニル基が導入されたビニルモノマーを含む重合性モノマーを重合させて得ることができる。ビニル基の導入の際には、鈴木反応、グリニャール反応等を用いることにより、ビニル基に影響を与えることなく目的の化合物を得ることができる。また、重合方法は特に制限されず、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオン重合法などにより容易に重合可能である。
【0049】
アントラセン構造を有するビニルポリマーとしては、下記一般式(1)〜(4)で表される構造単位の少なくとも1種を有するビニルポリマーが好ましい。
【0050】
まず、下記一般式で表される構造単位について説明する。
【0051】
【化5】

上記一般式(1)中、X、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ機、水酸基又はアミノ基を表し、これらの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。また、a、b、cは及びdはそれぞれ0〜4の整数を表し、eは0〜5の整数を表し、pは0又は1を表し、qは1〜3の整数を表す。
【0052】
〜Xがアルキル基である場合、アルキル基は直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。また、アルキル基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルキル基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。
【0053】
〜Xがアルコキシ基である場合、アルコキシ基を構成するアルキル基は直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。また、アルコキシ基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルコキシ基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられる。
【0054】
〜Xがアリール基である場合、アリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリール基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、ビフェニリル基などが挙げられる。
【0055】
〜Xがアリールオキシ基である場合、アリールオキシ基を構成するアリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリールオキシ基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、o−トリルオキシ基、m−トリルオキシ基、p−トリルオキシ基などが挙げられる。
【0056】
〜Xが複素環基である場合、複素環基は5員環基又は6員環基であることが好ましい。複素環基は縮合環を有していてもよく、また、置換基を有していてもよい。また、複素環基は芳香族性を有していても芳香族性を有していなくてもよい。好ましい複素環基としては、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、チエニル基、フリル基などが挙げられる。
【0057】
〜Xがハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0058】
〜Xがアミノ基である場合、アミノ基は置換又は未置換のいずれであってもよく、例えば上述のアルキル基やアリール基を有するものであってもよい。アミノ基の総炭素数は0〜20が好ましい。好ましいアミノ基としては、狭義のアミノ基(−NH)、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
【0059】
一般式(1)で表される構造単位を有するビニルポリマーの場合、対応するビニルモノマーが有するベンゼン環及びアントラセン環の数と、X〜Xの種類及び数と、を適宜選定することにより、得られるポリマーのガラス転移温度を調整してその耐熱性を向上させるとともに蛍光量子効率及びバイポーラーを改善することができ、したがって、有機EL素子の発光効率及び寿命をさらに向上させることができる。
【0060】
上記一般式(1)で表される構造単位の好ましい例としては、具体的には、下記表1〜4に示す構造単位(1−1)〜(1−32)が挙げられる。なお、各構造単位を表す式中、nは1以上の整数を示す。本発明にかかるポリマーは、下記構造単位のうちの1種からなる単独重合体、あるいは下記構造単位の2種以上からなる共重合体のいずれであってもよく、更には上記一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。また、ポリマーが共重合体である場合は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

一般式(1)で表される構造単位を有するポリマーは、その構造単位に対応するビニルモノマーの1種の単独重合、あるいは2種以上のビニルモノマーの共重合により得ることができる。かかるビニルモノマーの好ましい例としては、下記一般式(1−a)、(1−b)、(1−c)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

上記一般式(1−a)、(1−b)、(1−c)中、Rは炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルコキシ基、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基を表す。Rで表されるアルキル基及びアルコキシ基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。アルキル基の好ましい例としては、n−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ウンデシル基、イソウンデシル基、n−ドデシル基、イソドデシル基などが挙げられる。また、アルコキシ基の好ましい例としては、ブチロキシ基、ヘキシロキシ基、エチルヘキシロキシ基、オクチロキシ基、ドデシロキシ基、ヘキサデシロキシ基、アイコロキシ基などが挙げられる。
【0068】
また、式中のxは置換基Rの数を表し、1〜5の整数である。Rの置換位置は特に制限されないが、p−位にRが結合した化合物を用いることが好ましい。
【0069】
一般式(1−a)、(1−b)、(1−c)で表されるビニルモノマーを用いる場合、当該ビニルモノマーが有するアルキル基Rの種類を適宜選定することにより、ビニルポリマーのガラス転移温度を任意に調整することができる。
【0070】
次に、下記一般式(2)で表される構造単位について説明する。
【0071】
【化9】

一般式(2)中、Lは2価の有機基を表し、Lは炭素数1〜4の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜13の(r+2)価の芳香族基、又はイミノ基を表し、Y、X及びXはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、fは0〜8の整数を表し、gは0〜9の整数を表し、rは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。
【0072】
としては、2価の有機基の中でも、2価の炭化水素基が好ましく、2価の芳香族炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜13の2価の芳香族炭化水素基がさらに好ましい。
【0073】
また、Lとしては、上述した2価の基の中でも、炭素数6〜13の(p+2)価の芳香族基が好ましい。かかる芳香族基の炭素数が13を超えると、分子構造が剛直化し、ビニルポリマーが結晶化しやすくなり、更に発光色の波長範囲がシフトし発光色が変化する。また、かかる芳香族基は、炭化水素系でも複素環系でもよいが、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、フルオレニレン基又はカルバゾリレン基であることがより好ましく、フェニレン基又はナフチレン基であることがさらに好ましく、フェニレン基であることが特に好ましい。
【0074】
また、Lがイミノ基(−NH−)の場合、pが0のときLはイミノ基(−NH−)であり、pが1のときLは−NY−で表される2価の基である。
【0075】
なお、上記式(I)で表される構造単位においては、L及びLがアントラセン骨格における9位及び10位にそれぞれ結合していることから、分子構造の安定性に優れる。
【0076】
また、Yとしては、炭化水素基が好ましく、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基がさらに好ましい。また、芳香族炭化水素基としては、フェニル基又はナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。また、L−(Y)で表される2価の基においては、rが0であることがより好ましい。
【0077】
また、X及びXとしては、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基であることが好ましく、これらの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0078】
及びXがアルキル基である場合、アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。また、アルキル基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルキル基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。
【0079】
及びXがアルコキシ基である場合、アルコキシ基を構成するアルキル基は直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。また、アルコキシ基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルコキシ基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられる。
【0080】
及びXがアリール基である場合、アリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリール基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、ビフェニリル基などが挙げられる。
【0081】
及びXがアリールオキシ基である場合、アリールオキシ基を構成するアリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリールオキシ基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、o−トリルオキシ基、m−トリルオキシ基、p−トリルオキシ基などが挙げられる。
【0082】
及びXが複素環基である場合、複素環基は5員環基又は6員環基であることが好ましい。複素環基は縮合環を有していてもよく、また、置換基を有していてもよい。また、複素環基は芳香族性を有していても芳香族性を有していなくてもよい。好ましい複素環基としては、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、チエニル基、フリル基などが挙げられる。
【0083】
及びXがハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0084】
及びXがアミノ基である場合、アミノ基は置換又は未置換のいずれであってもよく、例えば上述のアルキル基やアリール基を有するものであってもよい。アミノ基の総炭素数は0〜20が好ましい。好ましいアミノ基としては、狭義のアミノ基(−NH)、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
【0085】
また、上記一般式(2)で表される構造単位においては、Xが少なくとも1つ存在し、アントラセン骨格の10位に結合していること、すなわち、下記式(2−a)で表される構造単位であることが好ましい。
【0086】
【化10】

ここで、式(2−a)中、Lは2価の有機基を表し、Lは炭素数1〜4の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜13の(r+2)価の芳香族基、又はイミノ基を表し、Y、X及びXはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、fは0〜8(より好ましくは0〜4)の整数を表し、jは1〜9(より好ましくは1〜4)の整数を表し、rは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。すなわち、上記式(2−a)中、L、L、Y、X、X、f及びrはそれぞれ上記一般式(2)におけるL、L、Y、X、X、f及びrと同義である。アントラセン骨格の10位に結合するXとしては、アリール基が好ましく、炭素数6〜18のアリール基がより好ましい。
【0087】
上記式(2−1)で表される構造単位として、好適なものの具体例としては、下記表5〜6に示す構造単位(2−1)〜(2−13)が挙げられる。なお、各構造単位を表す式中、nは1以上の整数を示す。本発明にかかるポリマーは、下記構造単位のうちの1種からなる単独重合体、あるいは下記構造単位の2種以上からなる共重合体のいずれであってもよく、更には上記一般式(2)で表される構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。また、ポリマーが共重合体である場合は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

次に、下記一般式(3)で表される構造単位について説明する。
【0090】
【化11】

一般式(3)中、L及びLは、それぞれ2価の有機基を示し、k及びmは0又は1を示し、かつ(k+m)は1以上である。L及びLで表される2価の有機基としては、上記のポリマーを非共役系のものとする有機基であれば特に限定されない。すなわち、二つの多重結合間に単結合を含まないような2価の有機基(ただし芳香環は含んでもよい。)であればよい。L及びLとしては、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基、置換又は未置換の複素環基、オキシ基(酸素原子)、カルボニル基、イミノ基、スルホニル基、あるいはこれらのうちの1種又は2種以上の基を組み合わせた2価の有機基が挙げられる。
【0091】
また、一般式(1)中、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、hは0〜8の整数を示す。なお、hが2〜8の整数である場合、アントリレン基に置換したX同士は同一でも異なっていてもよい。
【0092】
がアルキル基である場合、アルキル基は直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。また、アルキル基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルキル基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。
【0093】
がアルコキシ基である場合、アルコキシ基を構成するアルキル基は直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。また、アルコキシ基は未置換のものが好ましいが、置換基を有していてもよい。アルコキシ基の炭素数は1〜30が好ましい。好ましいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられる。
【0094】
がアリール基である場合、アリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリール基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリール基としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、ビフェニリル基などが挙げられる。
【0095】
がアリールオキシ基である場合、アリールオキシ基を構成するアリール基は置換又は未置換のいずれであってもよいが、アリールオキシ基の総炭素数は6〜20が好ましい。好ましいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、o−トリルオキシ基、m−トリルオキシ基、p−トリルオキシ基などが挙げられる。
【0096】
が複素環基である場合、複素環基は5員環基又は6員環基であることが好ましい。複素環基は縮合環を有していてもよく、また、置換基を有していてもよい。また、複素環基は芳香族性を有していても芳香族性を有していなくてもよい。好ましい複素環基としては、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、チエニル基、フリル基などが挙げられる。
【0097】
がハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0098】
がアミノ基である場合、アミノ基は置換又は未置換のいずれであってもよく、例えば上述のアルキル基やアリール基を有するものであってもよい。アミノ基の総炭素数は0〜20が好ましい。好ましいアミノ基としては、狭義のアミノ基(−NH)、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
【0099】
また、一般式(3)中のnは1以上の整数を示し、好ましくは、非共役系ポリマーの重量平均分子量が5000〜1000000の範囲内となるような整数である。
【0100】
本発明に係る非共役系ポリマーとしては、下記一般式(3−1)で表される構造単位を有する非共役系ポリマーが更に好ましい。
【0101】
【化12】

一般式(3−1)中、L及びLはそれぞれ2価の有機基を示す。L及びLは、上述のL及びLと同様のものを用いることができる。すなわち、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基、置換又は未置換の複素環基、オキシ基(酸素原子)、カルボニル基、イミノ基、スルホニル基、あるいはこれらのうちの1種又は2種以上の基を組み合わせた2価の有機基を用いることができる。
【0102】
また、X、h及びnはそれぞれ一般式(3)中のX、h及びnと同義である。さらに、X10としては、一般式(3)におけるXと同様のものを例示することができる。vは1以上の整数であり、1であるとより好ましい。uは0〜4の整数を示すが、uが2〜4の整数である場合、フェニレン基に置換したX10同士は同一でも異なっていてもよい。
【0103】
Arは置換又は未置換の2価の芳香族基を示すが、それらの中でも、置換又は未置換のフェニレン基、ナフチレン基若しくはアントリレン基又はこれらの基の組合せが好ましく、下記一般式(3−1−1)、(3−1−2)、(3−1−3)又は(3−1−4)で表される芳香族基であるとより好ましい。
【0104】
【化13】

【0105】
【化14】

【0106】
【化15】

【0107】
【化16】

一般式(3−1−1)、(3−1−2)、(3−1−3)、(3−1−4)中、X及びX10はそれぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、具体的には上記一般式(1)におけるXと同様のものを例示できる。また、uは0〜4の整数を示し、hは0〜8の整数を示す。uが2〜4の整数である場合、フェニレン基に置換したX10はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。hが2〜8の整数である場合、アントリレン基に置換したXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0108】
一般式(3)で表される構造単位を有するポリマーの中でも、下記一般式(3−2)、(3−3)又は(3−4)で表される構造単位を有するポリマーが特に好ましい。
【0109】
【化17】

【0110】
【化18】

【0111】
【化19】

一般式(3−2)、(3−3)、(3−4)中、Lは炭素原子又はヘテロ原子を介して構成される2価の有機基を示す。Lの具体例としては、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基、置換又は未置換の複素環基、オキシ基(酸素原子)、カルボニル基、イミノ基、スルホニル基などが挙げられる。A及びAはそれぞれ、2価の炭化水素基を示し、その具体例としては、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基などが挙げられる。w及びyはそれぞれ0又は1を示し、qが0の場合には、2価の炭化水素基であるA同士が直接結合した構造となる。
【0112】
また、Ar、X、X10、h、u、n及びvは、それぞれ一般式(3−1)中のAr、X、X10、h、u、n及びvと同義である。すなわち、Arは置換又は未置換の2価の芳香族基を示し、X及びX10はそれぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、hは0〜8の整数を示し、uは0〜4の整数を示し、n及びvは1以上の整数を示す。
【0113】
一般式(3)中の−A−(L−A−としては、例えば下記式(3−5)〜(3−9)で表される基が例示される。
【0114】
【化20】

【0115】
【化21】

【0116】
【化22】

【0117】
【化23】

【0118】
【化24】

一般式(3−3)、(3−4)中の−A−(L−A−としては、例えば上記式(3−8)で表されるエチレン基及び上記式(3−9)で表されるn−ブチレン基が例示され、Aとしては、メチレン基及びエチレン基が例示される。
【0119】
一般式(3−2)、(3−3)及び(3−4)で表される構造単位を有するポリマーの具体例としては、それぞれ下記式(3−10)、(3−11)、(3−12)、(3−13)又は(3−14)で表される構造単位を有する非共役ポリマーが挙げられる。
【0120】
【化25】

【0121】
【化26】

【0122】
【化27】

【0123】
【化28】

【0124】
【化29】

上記一般式(3)で表される構造単位を有するポリマーは、対応する非共役系モノマーを含むモノマーの重合により得ることができ、重合方法としては脱酸、エステル交換反応などを採用することができる。なお、本発明にかかるポリマーは、上記構造単位のうちの1種からなる単独重合体、あるいは上記構造単位の2種以上からなる共重合体のいずれであってもよく、更には上記一般式(3)で表される構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。また、ポリマーが共重合体である場合は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0125】
次に、下記一般式(4)で表される構造単位について説明する。
【0126】
【化30】

[式中、Ar及びArは同一でも異なっていてもよく、それぞれ置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基を示し、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、sは1又は2を示し、tは0又は1を示し、iは0〜7の整数を示し、nは1以上の整数を示す。]
一般式(4)中、Ar及びArは同一でも異なっていてもよく、それぞれ置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基を示す。Ar及びArの置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基などが挙げられる。また、sは1又は2を示し、tは0又は1を示す。なお、tが0の場合には、アントラセン骨格の10位にナフチル基が直接結合した構造となる。
【0127】
また、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、iは0〜7の整数を示し、nは1以上の整数を示す。
【0128】
一般式(4)で表される構造単位の好ましい例としては、具体的には、下記表7に示す構造単位(4−1)〜(4−9)が挙げられる。なお、各構造単位を表す式中、nは1以上の整数を示す。本発明にかかるポリマーは、下記構造単位のうちの1種からなる単独重合体、あるいは下記構造単位の2種以上からなる共重合体のいずれであってもよく、更には上記一般式(4)で表される構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。また、ポリマーが共重合体である場合は、ブロック共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0129】
【表7】

上記一般式(4)で表される構造単位を有するビニルポリマーは、その原料となるビニルモノマーの重合により得ることができる。重合方法は特に制限されず、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオン重合法などにより容易に重合可能である。
【0130】
アントラセン構造を有するビニルポリマーの含有量は、有機EL素子の長寿命化の点から、発光層20の構成材料の全量を基準として、好ましくは30〜99質量%、より好ましくは50〜90質量%である。
【0131】
発光層20は、アントラセン構造を有するビニルポリマー以外のポリマーを更に含有してもよい。但し、長寿命化の点から、アントラセン構造を有するビニルポリマーとその他のポリマーとの含有量の合計を基準として、前者のポリマーの含有量が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0132】
また、発光層20は、ガラス転移温度が70℃以上(好ましくは90〜150℃)のホール輸送性化合物を含有する。当該ホール輸送性化合物の分子量は、アントラセン構造を有するビニルポリマー中に分散保持することが可能であれば特に制限されないが、好ましくは400以上である。
【0133】
かかるホール輸送性化合物としては、ガラス転移温度が上記条件を満たせば特に制限されず、トリフェニルアミン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルペン誘導体等が使用可能であり、中でもトリフェニルアミン誘導体が好ましい。
【0134】
本発明で用いられるトリフェニルアミン誘導体の好ましい例としては、下記一般式(5)で表される構造を有し且つガラス転移温度が70℃以上である低分子化合物又は高分子化合物が挙げられる。
【0135】
【化31】

式(4)中、Ar、Ar、Ar及びArは同一でも異なっていてもよく、それぞれ置換又は未置換のアリール基(フェニル基、ビフェニル基など)を表す。Ar〜Arが置換アリール基である場合、その置換基にはアルキル基、アリール基等の他にトリフェニルアミン構造を有するものも含まれる。また、kは0又は1を表し、Arは、kが0のとき置換又は未置換のアリール基を表し、kが1のとき置換又は未置換のアリーレン基を表す。
【0136】
上記一般式(5)で表される構造を有し且つガラス転移温度が70℃以上である低分子ホール輸送性化合物の具体例としては、下記表8〜11に示すトリフェニルアミン誘導体(5−1)〜(5−20)等が挙げられる。下記の表には、各ホール輸送性化合物のガラス転移温度(Tg)を併せて示す。
【0137】
【表8】

【0138】
【表9】

【0139】
【表10】

【0140】
【表11】

また、下記一般式(5)で表される構造を有し且つガラス転移温度が70℃以上である高分子化合物としては、下記一般式(5−a)又は(5−b)で表される構造単位を有するものが好ましい。
【0141】
【化32】

一般式(5−a)中、Lは2価の基を示し、pは0又は1を示し、nは1以上の整数を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びkは上記式(5)中のAr、Ar、Ar、Ar、Ar及びkと同一の定義内容を示す。Lで示される2価の基としては、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基、置換又は未置換の複素環基、オキシ基(酸素原子)、カルボニル基、イミノ基、スルホニル基、あるいはこれらのうちの1種又は2種以上の基を組み合わせた2価の有機基を用いることができる。また、pが0のときには、Arが主鎖に直接結合した構造となる。
【0142】
【化33】

一般式(5−b)中、L及びLはそれぞれ2価の基を示し、nは1以上の整数を示し、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びkは上記式(5)中のAr、Ar、Ar、Ar、Ar及びkと同一の定義内容を示す。L及びLで示される2価の基としては、例えば、置換又は未置換のアルキレン基、置換又は未置換のシクロアルキレン基、置換又は未置換のアリーレン基、置換又は未置換の複素環基、オキシ基(酸素原子)、カルボニル基、イミノ基、スルホニル基、あるいはこれらのうちの1種又は2種以上の基を組み合わせた2価の有機基を用いることができる。また、kが0のときには、ArとLとが直接結合した構造となる。
【0143】
ガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物の含有量は、有機EL素子の長寿命化の点から、発光層20の構成材料の全量を基準として、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0144】
また、アントラセン構造を含む側鎖基を有するビニルポリマーと、ガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物との含有量の割合は、有機EL素子の長寿命化の点から、質量比で、前者100部に対して後者が好ましくは5〜50部、より好ましくは10〜40部である。
【0145】
発光層20において、アントラセン構造を有するポリマーはホスト材料として機能するため、これにゲスト材料としての発光性ドーパントを添加することによって所望の発光色を得ることができる。例えば、燐光発光ドーパントとして、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))などのイリジウム錯体、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(PtOEP)などのポルフィリン環を有する白金錯体、などを用いることができる。また、青色発光ドーパントとしては、テトラフェニルブタジエン及びその誘導体、スチリルアミン誘導体、フルオランテン誘導体などを用いることができる。発光用ドーパントの割合は、重合前の重合性モノマーの全量に対して、好ましくは1〜30質量%である。
【0146】
また、発光層20の改質部16は、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であるホールブロック性化合物を含んで構成される。図2は改質部16を有する発光層20の電子注入電極層18側の表面付近の状態の一例を模式的に示す説明図である。この図2においては、改質部16の厚さ方向のいずれの位置においてもホールブロック性化合物の粒子22が存在している。一方、改質部16以外の部分14は、厚さ方向のいずれの位置においてもホールブロック性化合物の粒子22が存在していない。
【0147】
また、図2に示したように、通常、発光層20の表面は、ポリマーを含むため、ある程度の凹凸形状を有しており、このような形状を有する発光層20の表面付近にホールブロック性化合物の粒子22が、塗布法により発光層20を形成することで、言わば「染み込んだ」状態で存在することにより改質層16が形成されるものと推定される。なお、発光層20の表面が凹凸形状を有することで、ホールブロック性化合物の粒子23の表面層20に対する密着性は格段に高められるため、一旦、改質部16が形成させるとホールブロック性化合物の粒子22が容易に剥離することはない傾向にある。また、このような凹凸状の表面付近に高分子化合物を存在させることにより、改質部16に比較的容易に上述したような濃度勾配を形成することができ、有効に発光層におけるホールと電子との再結合に寄与することができると考えられる。以上のことに起因して、有機EL素子の発光効率及び寿命が向上すると推定される。
【0148】
改質部16に含まれるホールブロック性化合物としては、バンドギャップ4.0eV以上の高分子化合物及び有機金属化合物が好ましく使用される。
【0149】
バンドギャップ4.0eV以上の高分子化合物としては、極性高分子化合物が好ましく使用される。極性高分子化合物には、極性基を有するモノマーの1種からなる単独重合体、極性基を有するモノマーの2種以上からなる共重合体、極性基を有するモノマーと極性基を有さないモノマーとの共重合体、極性又は非極性の高分子の重合鎖の末端に極性基を導入したものなどが包含される。
【0150】
極性基を有する高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリアリルエーテル等の、不飽和アルコールもしくは不飽和エーテルの重合体または不飽和アルコールと不飽和エーテルとの共重合体;ポリエーテル;セルロース誘導体;アクリル酸やメタアクリル酸等の不飽和カルボン酸の重合体または共重合体;ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステルやポリフタル酸等のポリアクリルエステル等、アルコール残基中に不飽和結合を持つものの重合体または共重合体;ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、マレイン酸エステル重合体、フマル酸エステル重合体等の、酸残基中または酸残基中とアルコール残基中とに不飽和結合を持つものの重合体または共重合体;アクリルニトリル重合体、メタアクリルニトリル重合体、アクリルニトリルとメタアクリルニトリルとの共重合体、ポリシアン化ビニリデン、マロノニトリル重合体、フマロノニトリル重合体、マロノニトリルとフマロノニトリルとの共重合体;ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等、複素環式化合物の重合体または共重合体;ポリメチルメタクリレート(PMMA)などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0151】
これらのなかで、有機EL素子1の発光効率及び寿命をより高める観点から、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリプロピレングリコール、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリビニル酢酸、ポリビニルブチラ−ル、置換ポリスチレン、ポリ−N−ビニルピロリドンを用いることが好ましい。
【0152】
かかる高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、後述する濃度勾配を適切に形成できる観点などから、2000以上であることが好ましい。Mwが2000未満であると、有機EL素子1の発光効率が低下する傾向にあり、寿命が短くなる傾向にある。これは、膜質が低下し凝集などが起こりやすくなっているため、改質部16がホールに対するブロッキング層として適切に機能しなくなることに起因すると考えられる。
【0153】
また、有機金属化合物とは、有機酸、アルコール、ジアルキルアミドの水素を金属で置換したものをいい、金属と配位子との配位結合が一部存在してもよいが、配位結合が全てであるものは除外される。有機金属化合物としては、カルボン酸、フェノール等の有機酸の塩、アルコキシド、ジアルキルアミドの塩などが挙げられる。
【0154】
カルボン酸としては、脂肪族であっても芳香族であってもよい。脂肪族カルボン酸としては、総炭素数1〜24のものが好ましく、飽和脂肪族カルボン酸であっても不飽和脂肪酸カルボン酸であってもよく、カルボキシル基を2個以上有するものであってもよい。また、アリール基等の置換基を有していてもよい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、イソオクチル酸、デカン酸もしくはラウリル酸などの脂肪族カルボン酸、オレイン酸もしくはリシノール酸(リシノレン酸)などの不飽和脂肪族カルボン酸、または、クエン酸、リンゴ酸もしくはシュウ酸等のジないしトリ等の多価のカルボン酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、総炭素数7〜24のものが好ましく、置換基(炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシ基等)を有していてもよく、具体的には、安息香酸、o−(t−ブチル)安息香酸、m−(t−ブチル)安息香酸、サリチル酸、m−(ヒドロキ
シ)安息香酸もしくはp−(ヒドロキシ)安息香酸などが挙げられる。
【0155】
フェノールとしては、総炭素数6〜46のものが好ましく、置換基(炭素数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基や、フェニル基等のアリール基等)や縮合環(置換基を有していてもよいベンゼン環等の芳香環等)を有していてもよく、1価のフェノールであっても、二価以上の多価のフェノールであってもよい。具体的には、フェノール、ナフトール、4−フェニルフェノールもしくは2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)などが挙げられる。
【0156】
アルコキシドを形成するアルコールとしては、総炭素数1〜10のものが好ましく、エチルアルコール、n−プロピルアルコールもしくはn−ブチルアルコール等の第一級アルコール、イソプロピルアルコールもしくはs−ブチルアルコール等の第二級アルコール、またはt−ブチルアルコール等の第三級アルコールなどが挙げられる。また、二価以上の多価アルコールであってもよく、例えばエチレングリコールなどが挙げられる。
【0157】
ジアルキルアミドとしては、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数は2〜24であることが好ましい。具体的には、ジメチルアミド、ジエチルアミド、N−メチル−N−エチルアミド等が挙げられる。
【0158】
有機金属化合物のなかでも、アルコキシド、フェノキシドもしくは酢酸塩などが好ましい。
【0159】
有機金属化合物の具体例としては、下記式(C−1)〜(C−27)で表される化合物が挙げられる。これらは、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0160】
【化34】

【0161】
【化35】

【0162】
【化36】

ここで、上記式(C−18)および(C−22)は、それぞれ重量平均分子量が5000〜500000であると好ましく、20000〜300000であるとより好ましい。
【0163】
発光層20の改質部16は、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する溶液の塗布により好ましく形成することができる。かかる溶液に用いられる溶媒(溶剤)としては、ホールブロック性化合物を溶解可能のものであれば、特に限定されることなく用いることができる。塗布性および溶解性等の観点からは、極性溶媒を用いることが好ましい。なお、非極性溶媒を用いると、塗布に用いる化合物によっては、所望の改質部16を形成できなくなる傾向にある。該極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミドもしくは2−エトキシエタノールなどを挙げることができ、2−エトキシエタノールを用いるとより好ましい。
【0164】
改質部16は、そこに含まれるホールブロック性化合物の厚みが5.0×10−9〜1.0×10−6g/cmであると好ましく、2.5×10−8〜5.0×10−7g/cmであるとより好ましい。混合部16が、このような厚みを有するホールブロック性化合物を含むことにより、有機EL素子は、有効に発光効率を向上させることができ、十分に高い寿命を有することができる。そのホールブロック性化合物の厚みが1.0×10−6g/cmを超えると、電子が改質部16を通過することが困難となるので、有機EL素子1が発光し難くなる傾向にある。
【0165】
このホールブロック性化合物の厚みは、改質部16を形成するときの各種条件を適宜制御することにより調整可能である。例えば、上述した塗布により改質部16を形成する場合、塗布溶液中のホールブロック性化合物の濃度、塗布時間又は塗布溶液量などを制御することにより、厚みを調整することができる。
【0166】
上記塗布を行う方法(塗布法)としては、特に制限されないが、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法若しくは印刷法などが適用可能である。
【0167】
発光層20の膜厚は、特に制限されず、また、形成方法によっても異なるが、発光効率をさらに向上させる観点から、20〜150nmであると好ましい。
【0168】
以上、本発明の有機EL素子の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ホール注入電極層12側を光取り出し側としたが、基板から近い順に、電子注入電極層、発光層、ホール注入電極層の順序で各層を積層することによって、電子注入電極側を光取り出し側とすることができる。この場合には、電子注入電極層が、上述したホール注入電極層を光取り出し側とした場合の光学的条件及び膜厚条件を満たすことが好ましい。
【0169】
また、上記実施形態では発光層を1層としたが、本発明の有機EL素子が備える発光層は、複数の発光層を積層した多層構造を有するものであってもよい。また、発光層の他にホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層などを更に備えていてもよい。この場合、ホール注入層はホール注入電極層の発光層側に隣接して積層され、ホール輸送層は上記ホール注入層と発光層との間に積層され、電子輸送層は電子注入電極層と発光層との間に積層され得る。
【0170】
ホール輸送層に用いられるホール輸送性材料及び電子輸送層に用いられる電子輸送性材料は、例えば、上述したものを挙げることができる。また、ホール注入層に用いられるホール注入材料は、例えばポリチオフェン若しくはポリアニリンなどの公知の導電性高分子化合物を挙げることができる。
【0171】
このような塗布法により上述した有機層を形成する場合の膜厚は、有機層1種当たり好ましくは0.5〜1,000nm、より好ましくは10〜500nmである。有機層の膜厚を厚く、特に20nm以上とすることにより、リーク電流の発生を防止することができる。
【0172】
さらに、素子の有機層や電極の劣化を防ぐために、素子上を封止板等により封止すると好ましい。封止板は、湿気の浸入を防ぐために、接着性樹脂層を用いて、封止板を接着し密封する。封止ガスは、Ar、He若しくはN等の不活性ガス等であると好ましい。また、この封止ガスの水分含有量は、100質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、特には1質量ppm以下であることが好ましい。この水分含有量に下限値は特にないが、通常0.1質量ppm程度である。
【0173】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。ここでは図1に示したような構成を有する有機EL素子の製造方法について説明する。
【0174】
まず、用意した基板10上に、例えば、ITOなどのホール注入電極層12を形成する。その形成方法は、スパッタ法若しくは蒸着法などの従来用いられている方法を採用できる。
【0175】
次に、ホール注入電極層12上に発光層20を形成する。その形成方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法若しくは印刷法などの塗布法を用いることができる。
【0176】
続いて、発光層20の表面付近に改質部16を形成するために、上述したようなホールブロック性化合物を所定の溶媒(好ましくは極性溶媒)に加えた溶液を発光層20の表面に塗布する。塗布法としては、特に制限されないが、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法若しくは印刷法などを用いることができる。
【0177】
また、改質部16が所望の厚みを有するように、溶液中の非発光性高分子の濃度を調整することが好ましい。この濃度は、0.01〜1.0質量%であると好ましい。この数値範囲は、従来の有機EL素子の高分子化合物を含有する有機層を、塗布法により形成する際に用いる溶液の濃度と比較して、非常に薄い濃度であるが、このような濃度を有する溶液を塗布することにより、適度な濃度勾配を改質部16に付与することができる傾向にある。
【0178】
そして、発光層20上に電子注入電極層18を形成して、有機EL素子1が完成する。その形成方法は、蒸着法若しくはスパッタ法等の従来用いられている方法を採用することができる。
【0179】
なお、有機層が複数積層された有機EL素子を製造する場合、2つの有機層の間に界面を形成させるには、下層の塗布面を乾燥させて成膜した後、上層を塗布すればよい。この場合、必要により下層を塗布した後、加熱処理などを行ってもよい。
【0180】
また、2つの有機層の界面を形成させない場合、2つの層の境界がいわゆる傾斜組成となる様に形成することもできる。つまり、少なくとも溶媒への溶解度、溶媒、粘度、比重のいずれかが異なる材料を用いて塗布を行うことにより、2種の有機層を塗り分けたり、界面組成を傾斜状に変化させることができる。また、下層の塗布面が乾燥しないうちに、次の層を塗布することにより界面を形成しないようにすることもできる。
【0181】
次に、本発明の有機ELディスプレイについて説明する。
【0182】
図3は、本発明の有機ELディスプレイの好適な一実施形態を示すブロック図である。図3に示した有機ELディスプレイ300はパッシブ駆動方式のものであり、青色発光素子を励起光源とする色変換方式の有機ELディスプレイである。なお、色変換方式とは、三色の蛍光元素を高エネルギー線の可視光発光により励起する方法である。色変換方式の場合、有機EL素子の有機層において青色発光を生じさせ、その青色発光を励起光エネルギー線として緑色及び赤色の蛍光面を励起して緑色光及び赤色光を得ることが多い。青色が緑色及び赤色に変換されるため色変換方式と呼ばれる。
【0183】
図3中、表示部310は、基板10、基板10の一側に形成されたホール注入電極層12、ホール注入電極層12上に形成された発光層20、及び発光層20上に形成された電子注入層18で構成される複数の有機EL素子1が二次元配列されたものである。ここで、有機EL素子1のそれぞれにおいては、3個の発光領域312(例えば312a、312b、312c)に対応して、アントラセン構造を含む側鎖基を有するビニルポリマー、ガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物、及び青色発光用ドーパントを含有する3個の発光層20が形成されている。なお、3個の発光領域312a〜312cのうち、1個は青色発光領域であり、残りの2つは緑色発光領域及び赤色発光領域である。
【0184】
基板10の材料としては、例えば、ガラス、石英、樹脂などの透明又は半透明の材料が好ましい。
【0185】
基板10上には、上述のように、1個の有機EL素子に形成される3個の発光領域のうちの2つに対応する領域に蛍光変換フィルター膜が設けられ、当該蛍光変換フィルター膜により発光色のコントロールが行われて緑色発光領域及び赤色発光領域となる。蛍光変換フィルター膜が設けられない発光領域は青色発光領域である。
【0186】
蛍光変換フィルター膜は、発光層20での電界発光による光を吸収し、膜中の蛍光体から吸収光と異なる色の光を放出することで発光色の色変換を行うものであり、一般的には蛍光体、光吸収体及びバインダーを含んで構成される。蛍光変換フィルター膜の形成は、フォトリソグラフィや印刷などの手法を利用したパターニングにより行うことができる。この場合、蛍光変換フィルター膜の材料は、微細なパターニングを形成可能なものが好ましく、また、上層(ホール注入電極層12など)の形成工程でダメージを受けにくいものが好ましい。
【0187】
蛍光変換フィルター膜に含まれる蛍光体としては、蛍光量子収率が高いものが好ましく、また、レーザー色素のように発光素子の発光波長領域での光吸収性が高いものが好ましい。かかる蛍光体としては、例えば、ローダミン系化合物、ペリレン系化合物、シアニン系化合物、サブフタロなどを含むフタロシアニン系化合鬱、ナフタロイミド系化合物、縮合環炭化水素系化合物、縮合複素環系化合物、スチリル系化合物、クマリン系化合物などが挙げられる。なお、蛍光体自体の光吸収性が不十分である場合には光吸収体を併用することが好ましく、かかる光吸収体としては蛍光を消光しないものが好ましい。
【0188】
バインダーは、蛍光を消光しないものであれば特に制限されず、公知のバインダーの中から適宜選択して用いることができる。
【0189】
また、有機EL素子1の構成材料や蛍光変換フィルター膜が吸収し得る短波長の外交をカットするカラーフィルターを蛍光変換フィルター膜と組み合わせると、素子の耐光性や表示コントラストがさらに向上するので好ましい。
【0190】
また、表示部310においては、2個のホール注入電極層が、それぞれ有機EL素子1の3個の発光領域312a〜312cを通るように、基板1上及び蛍光変換フィルター膜上に相互に並列に形成されている。ここで、ホール注入電極層12は、発光領域31a〜31cを完全に覆わずに、発光領域312a〜312cそれぞれの一部が露出するように配置されている。また、ホール注入電極層12は複数(図3では2個)の有機EL素子の共通電極であり、各ホール注入電極層12の一端には後述する電力供給部322が電気的に接続されている。このようなストライプ状のホール注入電極層12は、例えば、蛍光変換フィルター膜がパターニングされた基板10上にITO膜を成膜した後、パターニング及びエッチング処理を行うことにより形成可能である。
【0191】
なお、詳細は図示していないが、ホール注入電極層12を形成した後、その上にSiO層やAl層などの絶縁体層を設けることが好ましい。そして、発光領域に対応する絶縁体層の領域をエッチング等により開口し、この開口部に発光層20を形成することが好ましい。
【0192】
また、表示部310においては、発光層20が、有機EL素子1の各発光領域に対応して、ホール注入電極層12を跨いで発光領域を覆うように形成されている。かかる発光層20はスピンコート法などの塗布法により好適に形成することができる。また、塗布液を加熱することにより、残留溶媒を低減して発光層20とホール注入電極層12及び電子注入電極層18それぞれとの高い密着性を達成することができる。
【0193】
また、表示部310においては、6個の電子注入電極層18が、有機EL素子1の発光領域に対応して発光層20上を通るように形成されている。電子注入電極層18それぞれは複数(図3では2個)の有機EL素子1の共通電極であり、各ホール注入電極層18の一端には後述するスイッチング部324が電気的に接続されている。
【0194】
本実施形態のようにパッシブ駆動方式の有機ELディスプレイの場合には、図2に示したようにストライプ状のホール注入電極層12とストライプ状の電子注入電極層18とを、両者の延在方向が互いに直交するように配置することが好ましい。このとき、各発光領域におけるホール注入電極層12の延在方向と電子注入電極層18との交点がディスプレイの一画素に相当する。
【0195】
表示部310の非発光領域には、有機EL素子1毎にスペーサー314が設けられている。このスペーサー314に封止板(図示せず)を接着することで、電子注入電極層18側の面が封止される。
【0196】
有機ELディスプレイ300においては、表示部310における表示をコントロールする駆動部320が、ホール注入電極層12及び電子注入電極18に電流又は電圧を供給する電力供給部322、有機EL素子1に点滅の制御信号を送るスイッチング部324及びこれらの制御論理回路326を含んで構成されている。電力供給部322はホール注入電極層12に、スイッチング部324は電子注入電極層18にそれぞれ電気的に接続されており、また、電力供給部322とスイッチング部324とは制御論理回路326を介して電気的に接続されている。表示部310における有機EL素子1の駆動方式は特に制限されず、例えば、直流駆動、パルス駆動、交流駆動などが適用可能である。駆動の際には、直流、パルス又は交流の電流又は電圧を供給することが好ましく、印加電圧としては2〜30V程度が好ましい。
【0197】
上記実施形態によれば、アントラセン構造を含む側鎖基を有するビニルポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を発光層20に含有せしめることで、発光領域において色純度の高い青色発光を高輝度且つ高効率で得ることができ、またその特性を長期にわたって安定的に維持することができる。この青色発光は、青色発光領域においてはそのまま基板1側から取り出される。また、緑色発光領域及び赤色発光領域においては、それぞれ青色発光を励起光エネルギー線として蛍光変換フィルター膜中の緑色及び赤色に対応する蛍光体を励起することによって、緑色光及び赤色光が基板1側から取り出される。従って本実施形態により、輝度や色表示機能に優れ、さらには、耐熱性が高く長寿命の有機ELディスプレイが実現可能となる。
【0198】
なお、本発明の有機ELディスプレイは上記実施形態に限定されるものではなく、想定されるディスプレイ製品に必要な輝度、寿命、消費電力、コストなどを勘案して決定することができる。例えば、図3にはいわゆるパッシブ駆動方式の有機ELディスプレイを示したが、本発明の有機ELディスプレイは、ポリシリコンTFTなどを用いたアクティブ駆動方式のフルカラーディスプレイであってもよい。
【0199】
また、本発明の有機ELディスプレイをフルカラーディスプレイとする場合、赤、緑、青(RGB)の三原色の発光素子を形成することによりフルカラー表示が実現されるが、フルカラー表示方式は、上記実施形態で示した色変換方式の他、RGB三色並置方式、白色発光方式などのいずれであってもよい。RGB三色並置方式は、RGB三色の発光素子をそれぞれ発光させる表示方式である。また、白色発光方式は、液晶表示装置などに用いられる三色カラーフィルターにより、白色発光の波長の一部をカットしてフルカラー表示する方式である。白色発光方式及び色変換方式の場合、三色の発光素子を用意する必要はなく、発光素子の形成を簡素化でき、大面積化にも容易に対応できる。
【0200】
本発明の有機ELディスプレイにおいては、有機EL素子の発光層に添加する発光用ドーパントを適宜選択することにより、上記のいずれのカラー表示方式であっても適用することができる。例えば、有機EL素子の有機層に青色発光用ドーパントを含有せしめて発光層とすることで、色変換方式を好ましく適用することができる。また、有機EL素子の発光層に燐光発光用ドーパントを含有せしめることで、燐光発光によるRGB三色並置方式を好ましく適用することができる。
【実施例】
【0201】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0202】
[実施例1]
先ず、ホール注入電極(陽極)層としてシート抵抗15Ω/□のITO膜が形成されている透明ガラス製基板を用意し、そのITO膜上にポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS、Bayer社製、バイトロンP)をスピンコート法により塗布し、50nmの膜厚を有するホール注入層を形成した。
【0203】
次に、上記表1中の構造単位(1−3)を有するビニルポリマー(単独重合体、数平均分子量:30,000)が80質量%、上記表8中の式(5−1)で表されるトリフェニルジアミン誘導体(ガラス転移温度:98℃)が15質量%、発光性ドーパントとしてのルブレンが5質量%、且つこれらの合計の濃度が2質量%となるように、各成分をトルエンに溶解した。この溶液を上記ホール注入層上にスピンコート法により塗布し、70nmの膜厚を有する発光層を形成した。
【0204】
更に、ポリ(2−ビニルピリジン)(数平均分子量300,000)を2−エトキシエタノールに溶解して0.1質量%溶液を調製し、この溶液を上記発光層上にスピンコート法により塗布し、N雰囲気中、180℃で1時間の乾燥(アニール処理)を行い、改質部を形成した。
【0205】
そして、改質部を形成した発光層上にLiFを0.2nmの膜厚を有するように蒸着させ、その上にAlを250nmの膜厚を有するように蒸着させて、電子注入電極(陰極)層を形成して、実施例1の有機EL素子を得た。
【0206】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度が半減するまでの時間(「輝度半減寿命」、以下同じ)は1500時間であった。
【0207】
[実施例2]
改質部を形成する際にアニール処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0208】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は250時間であった。
【0209】
[実施例3]
上記表8中の式(5−1)で表されるトリフェニルジアミン誘導体の代わりに、上記表8中の式(5−2)で表されるトリフェニルジアミン誘導体(ガラス転移温度:83℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0210】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は530時間であった。
【0211】
[実施例4]
上記表8中の式(5−1)で表されるトリフェニルジアミン誘導体の代わりに、下記式(6)で表されるトリフェニルジアミン構造を有するビニルポリマー(ガラス転移温度:190℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0212】
【化37】

[式中、nは1以上の整数を示す。]
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は580時間であった。
【0213】
[実施例5]
上記表1中の構造単位(1−3)を有するビニルポリマーの代わりに、下記式(7)で表されるトリフェニルジアミン構造を有するポリマーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0214】
【化38】

[比較例1]
先ず、実施例1と同様にしてホール注入電極層、ホール注入層及びの形成を行った。
【0215】
次に、上記表1中の構造単位(1−3)を有するビニルポリマー(数平均分子量:30,000)95質量%、発光性ドーパントとしてのルブレンが5質量%、且つこれらの合計の濃度が2質量%となるように、各成分をトルエンに溶解した。この溶液を上記電子ブロック層上にスピンコート法により塗布し、70nmの膜厚を有する発光層を形成した。
【0216】
更に、実施例1と同様にして発光層の改質部及び電子注入電極層の形成を行い、比較例1の有機EL素子を得た。
【0217】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は130時間であった。
【0218】
[比較例2]
上記表8中の式(5−1)で表されるトリフェニルジアミン誘導体の代わりに下記式(8)で表されるトリフェニルジアミン誘導体(ガラス転移温度:66℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0219】
【化39】

得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は3時間であった。
【0220】
[比較例3]
改質部を形成する際にアニール処理を行わなかったこと以外は比較例2と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0221】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は30時間であった。
【0222】
[比較例4]
上記表1中の構造単位(1−3)を有するビニルポリマーの代わりに、下記式(9)で表されるアントラセン低分子材料を用いた以外は実施例1と同様にして、有機EL素子の作製を試みた。しかし、発光層の改質(塗布)を行う際に発光層が完全に溶解し、目的の有機EL素子が得られなかった。
【0223】
【化40】

[比較例5]
上記式(8)で表される繰り返し単位を有するビニルポリマーの代わりにポリビニルカルバゾール(PVK、数平均分子量:300,000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0224】
得られた有機EL素子を初期輝度600cd/mで定電流駆動させたところ、輝度半減寿命は10分であった。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の有機EL素子の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】有機EL素子1における発光層20の表面付近を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機ELディスプレイの好適な一実施形態を模式的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0226】
1…有機EL素子、10…基板、12…ホール注入電極(陽極)層、16…改質部、18…電子注入電極(陰極)層、20…発光層、300…有機ELディスプレイ、310…表示部、320…駆動部、322…電力供給部、324…スイッチング部、326…制御論理回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された一対の電極と、
該電極間に配置され、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層と、
を備えることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光層が、前記ポリマー及び前記ホール輸送性化合物を含む塗布液を用いて塗布法により形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記発光層は、アニール処理が施されたものであることを特徴とする、請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記ポリマーが、下記一般式(1)〜(4)で表される構造単位のうちの少なくとも1種を有することを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の有機EL素子。
【化1】

[式中、X、X、X、X及びXは同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ機、水酸基又はアミノ基を表し、a、b、cは及びdはそれぞれ0〜4の整数を表し、eは0〜5の整数を表し、pは0又は1を表し、qは1〜3の整数を表す。]
【化2】

[式中、Lは2価の有機基を表し、Lは炭素数1〜4の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜13の(r+2)価の芳香族基、又はイミノ基を表し、Y、X及びXはそれぞれ独立に1価の置換基を表し、fは0〜8の整数を表し、gは0〜9の整数を表し、rは0又は1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。]
【化3】

[式中、L及びLは、それぞれ2価の有機基を示し、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、hは0〜8の整数を示し、k及びmはそれぞれ0又は1を示し、かつ(k+m)は1以上であり、nは1以上の整数を示す。]
【化4】

[式中、Ar及びArは同一でも異なっていてもよく、それぞれ置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基を示し、Xはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基又はアミノ基を示し、sは1又は2を示し、tは0又は1を示し、iは0〜7の整数を示し、nは1以上の整数を示す。]
【請求項5】
前記ホール輸送性化合物がトリフェニルアミン構造を有するものであることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記発光層が、前記一対の電極のうち電子注入電極に近い側の表面付近に、イオン化ポテンシャル5.5eV以上のホールブロック性化合物を含有する改質部を有することを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記ホールブロック性化合物が、バンドギャップ4.0eV以上の高分子化合物又は有機金属化合物であることを特徴とする、請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項8】
互いに対向して配置された一対の電極と、該電極間に配置され、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層と、を備える有機EL素子の製造方法であって、
前記ポリマー及び前記ホール輸送性化合物を含む塗布液を用いて塗布法により前記発光層を形成する工程を備えることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
塗布法により形成された前記発光層にアニール処理を施す工程を更に備えることを特徴とする、請求項8に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
互いに対向して配置された一対の電極、並びに該電極間に配置され、アントラセン構造を有するポリマー及びガラス転移温度が70℃以上のホール輸送性化合物を含有する発光層を有する有機EL素子が複数配列された表示部と、
前記一対の電極それぞれに電気的に接続されており、該電極に電圧又は電流を供給する電力供給部と、
前記有機EL素子それぞれを点灯又は消灯するスイッチング部と、
を備えることを特徴とする有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−59879(P2006−59879A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237654(P2004−237654)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】