説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】大気中の水分・酸素から有機ELを保護し、かつ長期にわたりダークスポット等の欠陥が抑制される有機EL素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも一方が透明な2つの電極層とそれらの電極層で狭持された有機EL層とを有する薄膜状の有機EL構造体、および有機EL構造体の外表面の片面または両面を覆う封止層とを有する有機EL素子において、封止層の材料が含フッ素エラストマーからなることを特徴とする有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラットディスプレイや平面光源などに使用される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略称する。)に関し、詳しくは安定性に優れた有機EL素子およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の情報通信分野における急速な技術開発の進展に伴い、CRTに代わるフラットディスプレイに大きな期待が寄せられている。なかでも有機EL素子は、高速応答性、視認性、輝度などの点に優れるため盛んに研究が行われている。
1987年に米国コダック社のTangらによって発表された有機EL素子は、有機薄膜の2層積層構造を有し、発光層にトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下「Alq」と略称する)を使用し、10V以下の低電圧駆動で、1000cd/mという高輝度が得られた(Appl.Phys.Lett.,51,913(1987))。 これ以降急速に実用化に向けた研究が進められ、正孔注入電極と電子注入電極に挟まれた有機層が1層〜10層程度様々に積層された積層型有機EL素子が開発されてきている。材料に関しても、多岐に渡る低分子化合物を真空蒸着法等により薄膜形成する方法のみならず、高分子系化合物をスピンコート法、インクジェット、ダイコート、フレキソ印刷といった方法で薄膜形成して有機EL素子を作成する方法が提案されている。
【0003】
また、CRTに代わる発光素子として、RGBの3色を発光させるため、RGBの3色の発光素子を1つの基板上に独立に蒸着により形成する方法、白色発光の有機EL素子をカラーフィルター上に形成する方法、青色発光や紫外発光の有機EL素子を色変換フィルター上に形成する方法等が提案されており、さらに輝度向上のために、これまで一般的とされてきた透明正孔注入電極からの光取り出しの代わりに、電子注入側を透明化して光を取り出す方法、また、高精細・消費電力低下を目的として、TFT基板上に有機EL素子を形成する方法などが提案されてきている。
以上に示した有機EL素子は、一般的に効率よく電子注入を行うためにアルカリ金属・アルカリ土類金属・希土類金属などの仕事関数の低い金属および/またはその酸化物・ハロゲン化物を単体あるいはアルミニウムや銀などの金属と合金化したものを使用する。また電極間に有機化合物を使用することから、有機EL素子は大気中の酸素・水分により容易に電極および/または有機化合物層が酸化を受けたり、層間剥離することにより一般にダークスポットと呼ばれる素子発光面内に発光しない部分(欠陥)が生じる。従って有機EL素子の安定性を向上させ信頼性を高めるために、素子を大気中の水分・酸素等の活性ガスから保護する封止方法が必要不可欠である。
【0004】
このため、有機EL素子上に真空蒸着法等により高分子膜や無機酸化物・窒化物等の保護膜を形成した後樹脂層やガラス板等のシールド層を接着剤等を介して設ける方法(特開平4―267097号公報、特開平5−36475号公報、特開平5−182759号公報)が提案されている。しかしこれらの方法においては、有機EL素子上に積層される層の応力により有機EL素子の例えば電子注入層−有機層界面等の剥離や、素子そのものの破壊が発生するという問題点があり、積層する保護層に大幅な制約があった。
またこの問題を解決するために、有機EL素子上に柔軟なゴム層を形成するという提案がなされている(特開平8−236271号公報、特開平9−274990号公報)があるが、これらのゴム層を形成する際の溶媒や不純物の影響、ゴム層の硬化反応時副成物、また長期使用時(特に高温使用時)にゴム層が劣化し発生する分解物等のために、有機EL素子に発生するダークスポットを完全に抑制するまでには至っていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、大気中の水分・酸素から有機ELを保護し、かつ長期にわたりダークスポット等の欠陥が抑制される有機EL素子を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決された。
(1)少なくとも一方が透明な2つの電極層とそれらの電極層で狭持された有機EL層とを有する薄膜状の有機EL構造体、および有機EL構造体の外表面の片面または両面を覆う封止層とを有する有機EL素子において、封止層の材料が含フッ素エラストマーからなることを特徴とする有機EL素子、
(2)有機EL素子が、基板と、基板上に設けられた有機EL構造体と、有機EL構造体の基板に接していない表面を覆う封止層とを有する有機EL素子である、(1)に記載の有機EL素子、
(3)封止層が、有機EL構造体側の内層と外層からなり、内層の材料が含フッ素エラストマーからなり、外層の材料が含フッ素エラストマー以外の合成樹脂からなる、(1)または(2)に記載の有機EL素子、
(4)(1)、(2)または(3)に記載の有機EL素子を製造する方法において、含フッ素エラストマーの溶液または分散液を有機EL構造体表面にコーティングし乾燥して有機EL構造体表面に含フッ素エラストマーからなる封止層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法、
(5)含フッ素エラストマーの溶液または分散液における溶媒がフッ素含有量40質量%以上の含フッ素化合物からなる、(4)に記載の製造方法。
【0007】
本発明の有機EL素子は、有機EL構造体に対する外部からの物理的応力を緩和しうる材料である含フッ素エラストマーからなる封止層を有することより、従来と比較してダークスポットの発生が飛躍的に抑制される。また、含フッ素エラストマーの溶液や分散液を使用したコーティング法により封止層を形成することにより、有機EL素子の生産性を向上しうる。このコーティング法において溶媒としてフッ素含有量40%以上の含フッ素化合物を用いることにより、有機EL構造体に対する溶媒の好ましくない影響を低減させることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、図面も参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
本発明において、有機EL構造体は薄膜状の構造体であり、少なくとも一方が透明な2つの電極層とそれらの電極層で狭持された有機EL層とを有する。2つの電極層の一方が正極であり、他方が負極である。有機EL構造体の電極層間には、有機EL層以外に、適宜、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などを設けることができる。封止層は有機EL構造体の2つの外表面の内の一方の外表面に設けることができ、両方の外表面に設けることもできる。いずれの場合も、ごく薄い有機EL構造体側面は通常外表面とともに封止される。
有機EL構造体の両外表面が封止層で封止されている場合、一方の封止層は基板として機能させることもできる。例えば、透明な含フッ素エラストマーフィルム上に有機EL構造体を形成し、形成された有機EL構造体の外表面を含フッ素エラストマーで覆って有機EL素子とすることができる。
有機EL構造体は通常透明な基板上に形成され、また通常エラストマーの層は有機EL構造体が形成されていない基板表面には設けられない。本発明の有機EL素子もまたそのような構造であることが好ましい。基板としてはガラス基板やプラスチック基板などがある。有機EL構造体の基板とは反対側の面には背面板や(第2の)基板と呼ばれる板体やフィルム(以下、保護板という)が、有機EL構造体の保護や封止のために設けられることがある。本発明の有機EL素子もそのような保護板を設けることが好ましく、本発明における封止層はこの保護板と有機EL構造体の間に存在する。保護板を透明なものにして有機EL構造体から保護板側に光を透過させることもできる。
本発明における封止層は1層からなっていてもよく、内外2層または3層以上の層からなっていてもよい。この内、少なくとも1層の材料は含フッ素エラストマーからなり、特に有機EL構造体に接する層の材料が含フッ素エラストマーからなることが好ましい。他の層は含フッ素エラストマー以外の材料からなっていてもよい。
本発明の一実施態様として、有機EL素子の断面の概念図を図1及び図2に示す。図1の有機EL素子は、ガラス基板(8)と、ガラス基板(8)上に透明な正極層(2)、正孔注入層(6)、正孔輸送層(5)、有機EL層(4)、および負極層(1)をこの順で積層して形成された有機EL構造体と、含フッ素エラストマーからなる内層(10)および他の材料からなる外層(9)の2層から構成される封止層と、有機EL構造体の負極層(1)側に設けられた保護板(7)とから構成されている。図2の有機EL素子は、負極層(1)と有機EL層(4)の間に電子注入層(3)が設けられている以外は図1と同じ構成を有する有機EL構造体と、透明プラスチック基板(11)と、図1と同じ内外2層からなる封止層と、プラスチック保護板(12)から構成されている。このプラスチック基板(11)の材料は本発明における含フッ素エラストマーであってもよい。なお、正極層(2)は負極層(1)や有機EL層などの他の層に比較して水分や酸素等による影響が少ないことより、図に示すように封止層で保護されない部分を有していてもよい。
【0009】
本発明に使用する含フッ素エラストマーとは、フッ素原子を有する弾性ポリマーであって、有機EL素子を使用する温度範囲、具体的には20℃〜70℃、好ましくは0℃〜90℃、より好ましくは−20℃〜120℃、特に好ましくは−40℃〜120℃においてゴム弾性を有するものを意味する。具体的には、たとえば架橋フッ素ゴム、熱可塑性フッ素ゴム、軟質フッ素ゴム樹脂などと呼ばれているものを意味する。
【0010】
このような含フッ素エラストマーは、具体的には、ガラス転移温度が20℃以下、好ましくは0℃以下、特に好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−40℃以下の高分子ブロックを化学的に架橋したもの、あるいは該高分子のブロックとガラス転移温度が70℃以上、好ましくは90℃以上、特に好ましくは120℃以上の高分子ブロックとのブロック共重合体などが挙げられる。
【0011】
本発明における封止層は含フッ素エラストマーの溶液や分散液を用いて形成することが好ましい。このため、含フッ素エラストマーは溶媒に溶解または分散しうるものが好ましい。含フッ素エラストマーが溶媒に溶解または分散しうるものであるとは、含フッ素エラストマーが架橋性含フッ素ポリマー(エラストマーの前駆体)と架橋剤の反応により形成される架橋エラストマーの場合は、この架橋性含フッ素ポリマーと架橋剤との混合物が溶媒に溶解または分散しうるものであることをも意味する。この含フッ素エラストマーの溶液または分散液を使用することにより、封止層の形成が極めて容易となる。
含フッ素エラストマーを溶解または分散しうる溶媒としては、溶媒が接する有機EL構造体に悪影響を与えない溶媒であることが必要である。本発明者は、含フッ素エラストマーを溶解または分散しうるものであってかつ有機EL構造体に悪影響を与えない溶媒として含フッ素化合物からなる溶媒(以下、含フッ素溶媒という)を見出した。含フッ素溶媒としては、フッ素含有量40質量%以上の含フッ素溶媒が好ましく、特にフッ素含有量60質量%以上の含フッ素溶媒が好ましい。最も好ましい含フッ素溶媒は炭素原子に結合した水素原子のすべてがフッ素原子に置換された化合物からなる溶媒、すなわちペルフルオロ溶媒である。
【0012】
本発明の含フッ素エラストマーを有機EL素子の封止層として形成する方法は多岐にわたるが、代表的な形成方法を以下に列挙する。
(1)コーティング法
例えば含フッ素エラストマーが熱可塑性エラストマーのような場合には、これを含フッ素溶媒に溶解または分散してコーティング剤とした後、有機EL構造体の外表面にコーティングした後溶媒を除去して封止層とすることができる。溶媒を除去する方法としては、常圧又は減圧下で、必要に応じて加熱しながら、乾燥する方法が挙げられる。
(2)架橋法
架橋法により含フッ素エラストマーを形成する場合には、架橋前のエラストマー前駆体および、必要により、架橋剤、架橋触媒などを一緒に、含フッ素溶媒に溶解もしくは分散してコーティング剤とした後、これを有機EL構造体の外表面にコーティグし、溶媒の除去(乾燥)および架橋を行いエラストマーとする方法などが挙げられる。またエラストマー前駆体が常温で液状のオリゴマーである場合には、含フッ素溶媒に溶解もしくは分散しなくともコーティング可能な場合があり、このような場合には特に前記溶媒を使用しなくても良い。
(3)ラミネート法
また、予め担持フィルム上に含フッ素エラストマー層を形成した後、このフィルムを有機EL構造体の外表面にラミネートする方法がある。この場合、加熱や必要により減圧条件下のプレスにより、有機EL構造体上に含フッ素エラストマーの封止層を被覆形成することができる。
(4)蒸着法
蒸着法により含フッ素エラストマーからなる封止層を形成することも可能である。ただし、蒸着時の加熱により部分的にエラストマーの分解が起こり、これにより発生する低分子成分が有害物質として作用して有機EL構造体へダメージを与える可能性がある。
【0013】
上述の封止層形成方法の中では、コーティング法又は架橋法が好ましい。
コーティング法や含フッ素溶媒を用いる架橋法において、フッ素含量が40wt%以上の含フッ素溶媒を使用することにより、有機EL構造体への溶媒分子によるダメージを抑制した状態で、含フッ素エラストマーからなる封止層を形成することができる。特に熱可塑性の含フッ素エラストマーは、架橋剤などの低分子化合物を使用しないことにより、封止後未反応の低分子化合物が有機EL構造体に悪影響を与えるおそれがない。
【0014】
本発明に使用できる含フッ素溶媒としては、例えば、酸素および/または部分的に水素を含んでも良いフルオロアルキル基またはフルオロアルキレン基を有する芳香族化合物が挙げられる。ここで「酸素および/または水素を部分的に含んでも良いフルオロアルキル基またはフルオロアルキレン基」とは、水素原子の50%以上、特に70%以上がフッ素原子であり、フッ素原子以外に塩素原子または水素原子を有していてもよくかつエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロアルキレン基をいう。
特に、70%以上の水素がフッ素に置換されエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルキレン基が好ましく、エーテル性酸素原子が存在する場合は炭素原子2ないし4個に対して酸素原子1個の割合であるものが好ましい。中でも特に水素が全てフッ素に置換されたものあるいは、分子末端もしくは側鎖のみCFH基が含まれる炭素数1〜12のものが好ましい。
【0015】
上記の、酸素および/または水素を部分的に含んでも良いフルオロアルキル基またはフルオロアルキレン基を有する芳香族化合物としては、具体的には、 CF(CF(nは1以上の整数)で表される(ペルフルオロアルキル)ベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−(ビストリフルオロメトキシ)ベンゼンなどの側鎖フッ素置換ベンゼン、ペルフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼンなどのポリフルオロ芳香族化合物が挙げられる。
【0016】
その他のフッ素含量が40wt%以上の溶媒としては、以下の化合物が例示できる:
ペルフルオロトリブチルアミン、ペルフルオロトリプロピルアミンなどのポリフルオロトリアルキルアミン化合物;
ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、ペルフルオロドデカン、ペルフルオロ(2,7−ジメチルオクタン)、ペルフルオロ(2,5−ジメチルヘキサン)、2H,3H−ペルフルオロペンタン、1H−ペルフルオロヘキサン、1H−ペルフルオロオクタン、1H−ペルフルオロデカン、1H,4H−ペルフルオロブタン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン、3H,4H−ペルフルオロ(2−メチルペンタン)、2H,3H−ペルフルオロ(2−メチルペンタン)、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタンなどのポリフルオロアルカン化合物;
【0017】
(ペルフルオロ−n−オクチル)エチレン、(ペルフルオロ−n−ヘキシル)エチレン、(ペルフルオロ−n−ブチル)エチレン、ヘキサフルオロプロペンの2量体、ヘキサフルオロプロペンの3量体等のポリフルオロオレフィン化合物;ペルフルオロデカリン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロ(1,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、ペルフルオロ(ジメチルシクロブタン)などのポリフルオロシクロアルカン化合物;
ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)などのポリフルオロ脂環式エーテル化合物;
【0018】
CF(CFOCH(n=3〜10の整数)、 CF(CFOCHCH(n=3〜10の整数)、 CF(CFOCHCF(n=3〜10の整数)、 CF(CFOCHFCH(n=3〜10の整数)、 CF(CFOCFCFH(n=3〜10の整数)、CHOCFCFH、CFCFHCFOCH、 iso−COCH、 iso−COCHCF、iso−COCHFCF、iso−COCFCFH、iso−COCHCH
CHOCH(CF、 CF(CFCHOCH、 CF(CFOCHCFCHF、CF(CFOCHCFCF、cyclo−C11OCHなどのヒドロフルオロエーテル類;
【0019】
CF(CF(CHOH、(CFCF(CF(CHOH、HCF(CF(CHOH (nは0以上の整数、mは1以上の整数、但し、フッ素含量は40wt%以上になる整数)、
(CFCHOH、(CFCOH等の含フッ素アルコール類;
ペルフルオロ(ジイソプロピルケトン)などのポリフルオロケトン等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0020】
本発明における含フッ素溶媒としては、フッ素含有量が40wt%以上である、フッ素以外のハロゲンを含まないポリフルオロアルカン化合物、ヒドロフルオロエーテル類、ペルフルオロアルキルベンゼン等が好ましく、中でもフッ素含量60wt%以上のそれら含フッ素化合物が好ましい。
【0021】
本発明における熱可塑性含フッ素エラストマーについて説明する。
本発明の含フッ素エラストマーは、好ましくは、フッ素含量が40wt%以上の含フッ素溶媒に、溶解もしくは分散しうる含フッ素エラストマーである。その化学的構造は特に限定されるものではないが、熱可塑性エラストマーが本発明で好ましく使用できる。熱可塑性エラストマーは化学的架橋の際発生しうる副反応に基づく有害な低分子化合物の発生が少なく好ましい。このような含フッ素エラストマーとしては、例えば線状又はくし型状のブロック共重合体が挙げられる。さらに、星形又は放射状のブロック共重合体もまた本発明で使用できる。
【0022】
ブロック共重合体は使用温度域よりガラス転移温度が高いブロック成分(以下、単に「ガラス転移温度が高い成分」と略す。)と、使用温度域よりガラス転移温度が低いブロック成分(以下、単に「ガラス転移温度が低い成分」と略す。)を有する。線状ブロック共重合体は、両ブロック成分が1以上交互に配置された構造を有する共重合体である。くし型ブロック共重合体は、一方のブロック成分を主鎖とし、他方のブロック成分を側鎖として、主鎖に側鎖が多数結合した構造を有する共重合体である。
【0023】
ガラス転移温度の高いブロック成分としては、例えば下記のようなものが挙げられる。
A−1.主鎖骨格に芳香環を有するポリマー
具体的には、例えば、芳香族ポリエステル、ポリ−2,6−ジメチルフェニレンオキサイドのような芳香族ポリエーテル、ポリフェニレンエーテルケトン、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
なかでも、構成単位である芳香環の水素の一部または全部がフッ素および/またはポリフルオロアルキル基で置換されているもの、もしくはポリフルオロアルキレン基で連結されているもの、具体的には例えば下記に示すような含フッ素芳香環を構成単位として有する含フッ素芳香族ポリマーが含フッ素溶媒への溶解性の点で好ましい。
【0024】
【化1】



【0025】
上記の化学式において、Rfは炭素数1〜12の酸素および/または水素を部分的に含んでも良いフルオロアルキル基を示し、水素原子の50%以上、特に70%以上がフッ素原子に置換されており、残りはフッ素原子以外の塩素原子または水素原子を有していてもよくかつエーテル性酸素原子を有していてもよい。特に、70%以上の水素がフッ素に置換されエーテル性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基が好ましく、エーテル性酸素原子が存在する場合は炭素原子4個に対して1個から炭素原子2個に対して1個の割合であるものが好ましい。中でも特に水素が全てフッ素に置換されたものあるいは、分子末端もしくは側鎖のみCFH基が含まれ、他はすべてフッ素原子が結合した炭素数1〜12のものが好ましい。
【0026】
好ましいRf基の具体例としては、CF(CF
HCF(CFCFO、CF(CF(OCF(CF))OCF(CF)、(ここでnは0〜11の整数)などが挙げられる。
上記の芳香族単位が全芳香族の80%以上、特に好ましくは100%であるポリマーが好ましい。また、ポリマーとしては、その安定性や、合成のしやすさから、芳香族単位が直接連結しているポリマー、又は、エーテル結合若しくはカルボニル結合を介して結合しているポリマーが特に好ましい。
【0027】
これらの好ましいポリマーは公知の方法で合成することができるが、特に含フッ素量の高いポリマーの合成方法としては以下の文献を例示できる。
1. J. Polym. Sci. PartA: Polym. Chem. Vol30 (1992) p1675
2.特開平10−158391号公報及び特開平10−158382号公報
【0028】
含フッ素芳香族環がパーフルオロアルキレン基で連結されたブロック、溶媒可溶の含フッ素ポリイミド、又は含フッ素ポリベンズイミダゾール等のブロックもガラス転移温度の高いブロックとして使用することができる。
【0029】
A−2.主鎖骨格にフッ素置換エチレン性不飽和化合物の付加重合構造を有するポリマー
テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロシクロペンテン、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)、ふっ化ビニリデン、ふっ化ビニル、1,2ジフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、等の単独および/または共重合体。
これらの中では特に含フッ素溶媒への溶解性の点からアモルファス性の高分子が好ましい。特にガラス転移温度を高くすることができる点でペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)等の環状モノマーおよび/または環化重合モノマー等から選ばれる少なくとも1つのモノマーを必須成分とする単独および/または共重合体が好ましい。特に好ましいのはペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)の単独重合体および/またはテトラフルオロエチレンとの共重合体である。これら重合体の末端には官能基が存在していてもよく、この官能基の存在は重合体の密着性向上に効果がある。
【0030】
ガラス転移温度が低いブロック成分としては例えば下記の構造が例示できる。B−1.下記一般式で表される繰り返し単位を主成分として含有するペルフルオロポリエーテルの分子末端に反応性部位が導入されたもの
−(CF−CF(CF)−O)
−(CF−CF−O−)
−(CF−CF−O−)−(CFO)
−(CF−CF(CF)−O)−(CF(CF)O)
−(CF−CF−CH−O)
−(CF−CF−CF−O)
【0031】
B−2.下記(式1)〜(式3)で示される含フッ素モノマーの単独重合体又は共重合体の分子末端に反応性部位が導入されたもの
【0032】
【化2】
RfOCF=CF    (式1)
RfCHOCF=CF  (式2)
RfCF=CH     (式3)
【0033】
式中、Rfは、エーテル性酸素原子を炭素原子間に有していてもよいポリフルオロアルキル基を表す。このポリフルオロアルキル基は2以上のフッ素原子を有し、フッ素原子以外のハロゲン原子や水素原子を有していてもよい。ポリフルオロアルキル基の炭素数は1〜15が適当であり、2〜12が好ましい。ポリフルオロアルキル基はフッ素原子以外のハロゲン原子や水素原子を有していてもよい。また、エーテル性酸素原子はポリフルオロアルキレン基の炭素原子間に存在することができ、その酸素原子の数は炭素原子1ないし4個に対し1個の割合であることが好ましい。
【0034】
共重合体としては、(式1)〜(式3)で表される含フッ素モノマーを必須成分とし、これにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ふっ化ビニリデン、ふっ化ビニル、1,2−ジフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、ペルフルオロシクロペンテン、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)、等の含フッ素ビニル化合物とを必要により共重合して得られるポリマーが例示できる。
【0035】
この場合前記(式1)〜(式3)で表されている含フッ素モノマーの含量が10mol%以上、好ましくは30mol%以上、特に好ましくは50mol%以上含有されることによりガラス転移温度の低いエラストマーが得られるため好ましい。また、含フッ素溶媒への溶解性や、化学的安定性等の観点から前記Rf中の炭素に結合されている水素の全てがフッ素に置換されているものが好ましい。
【0036】
B−3.ふっ化ビニリデンの単独重合体又はその共重合体
ふっ化ビニリデンを必須成分とし、これにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、前記B―2に挙げた(式1)〜(式3)で表される含フッ素モノマー、ふっ化ビニル、1,2−ジフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、ペルフルオロシクロペンテン、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、 ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、ペルフルオロ(3,5−ジオキサ−1,6−ヘプタジエン)、等の含フッ素ビニル化合物とを必要により共重合して得られるポリマー。
この場合、ふっ化ビニリデンは10〜90mol%の含量、好ましく20〜80mol%であることがガラス転移温度の低いエラストマーを得るために好ましく、さらに共重合成分としてヘキサフルオロプロピレンを含有していることが好ましい。
【0037】
B−4. 前記B−2、B−3における単独重合体又は共重合体の重合度が1〜10の末端に反応性を有するオリゴマーを単独で、および/または前記Aの重合体と鎖延長させたブロックも挙げられる。
【0038】
これらの中でも、B−1、B―2中のテトラフルオロエチレンおよび/またはクロロトリフルオロエチレンと前記(式1)のRf中の炭素に結合されている水素の全てがフッ素に置換されている含フッ素モノマーとの共重合体、B−3中のフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンおよび/または前記(式1)〜(式3)の含フッ素モノマーに必要によりテトラフルオロエチレンを共重合したもの等が含フッ素溶媒への溶解性、ガラス転移温度を低くできるなどの点で好ましい。
【0039】
以上に例示したガラス転移温度が高いポリマーとガラス転移温度が低いポリマーのブロック共重合体は公知の方法で合成することができる。以下(a)〜(c)にその具体例を例示する。
【0040】
(a)両ブロック成分が反応部位を有しており、それらの反応でブロック共重合体を合成する方法。
反応部位の導入や反応部位の反応方法は公知のものを使用することができる。反応部位の導入については、例えば前記B−1の場合、テトラフルオロエチレンやヘキサフルオロプロピレンの酸素による酸化反応で合成したものは、末端がCOF基になるものが得られる。これをアミノ基、水酸基、メルカプト基等を有する化合物で処理する方法、加水分解や還元反応を利用してCOOH基や水酸基末端にする方法などで、末端に反応性部位を導入したり、鎖延長反応で高分子量化しながら末端に反応性部位を導入することができる。
具体的な例としては、特開昭62−120335、特公昭50−7054、特開昭60−34924、米国特許第3845051号、米国特許第3317484号、特開平2−202919、特開平4−85328、特開平8−199070などに記載されている。また、具体的な化合物としては、アウシモント社製「Fomblin Zdol」(商品名)、「Fomblin Zdiac」(商品名)などのペルフルオロポリエーテル、アリル末端ペルフルオロポリエーテル、トリアジン鎖延長ペルフルオロポリエーテルなどがある。
前記A−2、B−2,B−3のビニル化合物の重合でポリマーを得る場合、反応性部位を有するモノマーを共重合する方法、ヨウ素移動重合法(詳細は下記(b)記載)や反応性部位を有する重合開始剤および/またはポリマー型重合開始剤(詳細は下記(c)記載)などの方法でポリマーを合成後、必要により分子末端を公知の方法で処理する方法などが、反応性部位の導入方法として例示できる。
前記A−1の芳香族ポリマーの縮合反応を利用する場合は、公知の方法で末端に反応部位を導入することが可能である。
【0041】
2種以上のポリマーの各反応性部位の反応によるブロック共重合体の合成反応も公知の方法で行うことができる。具体例として下記に挙げるがこれらに限られるものではない。
(i)反応性部位として芳香環の水素結合がハロゲンに置換された部位を有するポリマーと、水酸基を末端に有するポリマーを縮合することでエーテル結合を介してブロック共重合体を合成する方法。
(ii)水酸基末端を有する2種以上のポリマーを分子内に2個以上のイソシアナート、エポキシ基、ハロゲン化アルキル等を有する化合物と同時にもしくは逐次的に反応してブロック共重合体を合成する方法。もしくは、水酸基末端を有するポリマーをトシル化反応や硫酸を用いて縮合反応によりエーテル結合を介してブロック共重合体にする方法。
(iii)カルボニルハライドおよび/またはカルボキシル基を有するポリマーを分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物を利用してブロック共重合体にする方法等が挙げられる。
【0042】
(b)含フッ素モノマーを用いてヨウ素移動重合を用い、ブロック共重合体を逐次合成する方法。
この場合、例えば(B−2)または(B−3)で例示したモノマーをペルフルオロアルキルポリヨウ素化合物存在下重合した後さらに(A−2)で例示したモノマーを重合する方法、(B−1)の骨格の末端をヨウ素化し、ヨウ素移動重合開始剤とし、この化合物の存在下ガラス転移温度の高いビニル化合物を重合することによっても得ることができる。これらの具体例としては、例えば高分子論文集Vol.49、No.10(1992)P765に記載されている。
【0043】
(c)ポリマー型パーオキサイド(例えば特公昭55−33446号公報)や、重合開始活性を有するビニル化合物を用いる方法(例えば特開平5−194625、特開平8−67717、特開平8−67720)などが挙げられる。
【0044】
また、本発明における含フッ素エラストマーからなる層の形成方法としては他に、前記ガラス転移温度が低い反応性部位を有する含フッ素ポリマーのみを該反応部位と反応することで架橋しうる架橋剤とともに含フッ素溶媒に溶解および/または分散し、コーティング前および/またはコーティング後に該含フッ素ポリマーを架橋することでゴム弾性を有する含フッ素エラストマーの層を形成することもできる。架橋剤は2以上の官能基を有し、含フッ素ポリマーの反応性部位に対して反応しうる官能基の種類は公知のものが使用できる。例えば、水酸基を有する含フッ素ポリマーにはイソシアナート化合物やポリエポキシ化合物が使用され、エポキシ基を有する含フッ素ポリマーにはアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基等を有する化合物や、光および/または熱で酸を発生するエポキシ硬化剤が使用される。また、加水分解性珪素基を有する含フッ素ポリマーには該加水分解性珪素基を縮合硬化させうる硬化触媒(有機錫化合物や、有機酸チタン塩等)が使用され、末端不飽和基を有する含フッ素ポリマーにはラジカル開始剤あるいは水素化珪素化合物(および必要により付加反応触媒)が使用されるが、これらに限られるものではない。
【0045】
含フッ素エラストマーを製造するための反応部位を有する含フッ素ポリマーは、前記の重合・合成過程の途中および/または最後に公知の方法(再沈洗浄、カラムクロマトグラフによる精製、熱処理等)で反応残分や重合開始剤等を除去されたものであることが好ましい。特に重合後200℃以上好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上の温度で熱処理することが、低分子の不安定成分を分解除去できるため好ましい処理方法である。
【0046】
また、前記含フッ素エラストマーをフッ素ガスによりフッ素化処理することは、例えばペルフルオロエラストマーは反応および/または重合時生成する末端基を最終的にペルフルオロ化すると同時に、エラストマーに含まれる不純物が全てフッ素化のエネルギーで分解除去できるため、好ましい前処理である。またペルフルオロでない含フッ素エラストマーはフッ素化により、フッ素含有量が向上し、安定性、含フッ素溶媒への溶解性が向上し、さらにペルフルオロエラストマーのフッ素化時に期待される効果と同様の効果も期待できるため好ましい前処理方法である。
【0047】
また、含フッ素エラストマーの溶液や分散液には、基板、有機EL構造体、上層の樹脂層などとの密着性向上のためにシランカップリング剤や、エポキシ化合物等の公知の密着性付与剤を少量添加しても良い。
【0048】
これらの含フッ素エラストマーの含フッ素溶媒に溶解または分散した溶液の有機EL構造体へのコーティング方法としては特に限定されないが、スピンコート、ダイコート、ブレードコート、スクリーン印刷、インクジェット、スプレーコート、カーテンコート等の公知の方法が使用できる。但し、例えば電極配線の取り出し・実装する場合や、含フッ素エラストマー層の上にさらに合成樹脂層を積層する場合、接着性を確保するため基板と合成樹脂層の接着部位を確保する場合等において、含フッ素エラストマー層は有機EL構造体の上部のみにコーティングすることが好ましい。この場合全面にスピンコート等を用いてコーティング後含フッ素エラストマー層を所定位置を除いて機械的および/またはレーザー等により除去する方法、インクジェット法による特定エリアの選択的コート法、ダイコート等でダイを加工し特定エリアのみをコートする方法、スプレーコートやカーテンコート等においてマスクを用いて特定エリアのみをコートする方法等が好ましい。
【0049】
含フッ素エラストマー層の厚みとしては、特に制限されるものではないが、薄すぎると表面保護効果および/または上層に合成樹脂層等が積層される場合の応力緩和効果等が低下するため好ましくない。また厚すぎると含フッ素エラストマー層自体の総応力が高くなり有機EL構造体に影響を及ぼす、あるいは、コーティング後の乾燥が不完全になりやすい等の問題が出る可能性があり好ましくない。好ましくは10nm〜2mm、より好ましく50nm〜500μm、特に好ましくは0.1μm〜100μmである。
【0050】
また、本発明における封止層として含フッ素エラストマー層の外表面にさらに防湿性や素子保護等の目的で他の有機化合物、金属、金属酸化物および/または窒化物、無機酸化物および/または窒化物、合成樹脂層などからなる外層を設けることができる。封止層の外側には、さらに、ガラス板、プラスチックフィルム等を設置しても良い。このような場合でも、含フッ素エラストマー層が挿入されることで、合成樹脂層などの封止層外層やガラス板などと、下層有機EL構造体層との線膨張差や応力が緩和され、素子が安定して発光することができる。具体的には合成樹脂からなる封止層外層を介してガラス板やプラスチック板等を接着する方法が機械的保護や防湿性の観点で好ましい。また、含フッ素エラストマー層上に合成樹脂層および無機および/または金属層を順次積層した構造も素子の薄型化および防湿性の観点で好ましい方法といえる。
【0051】
このような封止層外層の材料である合成樹脂層としては、一般の光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。中でも硬化性樹脂の場合はアウトガスの観点で熱もしくは光カチオン硬化系のエポキシ樹脂および/またはオキセタン系樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂も硬化反応による副生物等の問題が少なく好ましい。この場合均一に低温で被覆が可能であることから溶媒に可溶な熱可塑性樹脂をコーティングによりコートすることが好ましい。また、この際の溶媒としては炭化水素系溶媒もしくは前記フッ素含量が40wt%以上の含フッ素溶剤に可溶な熱可塑性樹脂が有機EL構造体への溶媒の影響の観点で好ましいと言える。
【0052】
2つの電極層によって挟持された有機EL層としては公知のものを使用することができる。具体的な構造を例示すると、透明電極層、背面電極層に挟まれる有機EL層からなっており、いずれか一方の電極上にTFTアレイが形成されたり、透明電極上にカラーフィルターや、青色発光の素子の場合青色変換フィルターが設置されている場合もある。これらの構造がガラス基板やプラスチック基板、プラスチックフィルム、シリコン等の金属基板や金属フィルム上に形成されている。
【0053】
2つの電極はいずれかが負極(電子注入用電極)で他方が正極(正孔注入電極)となり、少なくとも一方が透明な電極である。
通常は正極として使用される透明電極層の材料としては、通常、インジウムスズ酸化物(ITO)薄膜、アンチモンまたはフッ素をドープしたスズ酸化物、3B族元素をドープした酸化亜鉛等を使用できる。また、仕事関数の大きい金等の金属、ヨウ化銅などの無機化合物導電性物質、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の有機化合物導電性物質、これらにポリスチレンスルホン酸やパラトルエンスルホン酸、ルイス酸性金属等をドープしたもの等により構成されてもよい。
この電極は、真空蒸着法、スパッタリング法等により作成されることが一般的であるが、有機化合物導電性物質の場合には適当なバインダーとの溶液を基板上に塗布したり、電解重合したりすることにより直接基板上に薄膜を作製できる。陽極の膜厚は、必要とする透明性に依存するが、可視光の透過率が60%以上、好ましくは80%以上とされるように選定される。通常、この膜厚は5〜1000nm程度とされ、好ましくは10〜500nmである。
【0054】
正極層の上には有機EL層が積層され、有機EL層の上には第2の電極層が積層されている。第2の電極層は通常負極であり、Li、Na、Cs、Ca、Mgなどの低仕事関数金属および/またはこれらの酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物等をAl、Ag等の低抵抗金属と積層あるいは合金化したものなどの材料からなる。この負極は、正極と対向して所定の形状や、直交するストライプ状等に形成されている。以上の正極と負極とそれらに挟まれた有機EL層が基本的な有機EL構造体を形成する。
【0055】
負極を透明電極として使用する場合は前記低仕事関数金属を使用することが一般的であり、この場合は光透過性が確保できる程度に負極層を薄膜化し、必要により補助電極等を併用することが好ましい。
有機EL層と正極層の間にはホール注入層や、ホール輸送層が設けられてもよく、有機EL層と負極層の間には、電子輸送層や、電子注入層が設けられてもよい。これらの層は、要求される有機EL層の特性から、必要でないものは省かれても良いし、層構成の順序が変更されても良い。
【0056】
具体的な正孔輸送層用材料としては、電極からの正孔注入障壁が低く、さらに正孔移動度が高い材料が使用できる。このような材料としては公知の正孔輸送材料が使用できる。たとえば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンや1,1’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の芳香族ジアミン系化合物、特開平2−311591で示されているヒドラゾン化合物が使用できる。また、ポリ−N−ビニルカルバゾールやポリシランのような高分子材料も好ましく使用できる(Appl.Phys.Lett.,59,2760(1991))。また、前記正極材料で示した、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の有機化合物導電性物質、これらにポリスチレンスルホン酸やパラトルエンスルホン酸、ルイス酸性金属等をドープしたもの等を使用することもできる。さらに、後述正孔注入層に使用される材料を使用することもできる。
【0057】
正孔輸送層の材料としては、上記有機物質だけではなく無機物質である金属カルコゲン化物、金属ハロゲン化物、金属炭化物、ニッケル酸化物、鉛酸化物、銅のヨウ化物等のp型化合物半導体やp型水素化非晶質シリコン、p型水素化非晶質炭化シリコン等も使用できる。また、これらの正孔輸送物質を混合して層を形成することもできる。
【0058】
正孔輸送層の耐熱性や薄膜均一性を向上させるために、正孔のトラップとなりにくいバインダー樹脂を混合して使用することもできる。このようなバインダー樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂の含有量は、正孔移動度を低下させない10〜50重量%が好ましい。有機物質、無機物質いずれを使用した場合においても正孔輸送層の膜厚は、通常、10〜200nmであり、好ましくは、20〜80nmである。
【0059】
正極と正孔輸送層との間には、リーク電流の防止、正孔注入障壁の低減、密着性向上等のために、正孔注入層を設けてもよい。このような材料としては、特開平4−308688にみられるようなトリフェニルアミンの誘導体である 4,4’,4”−トリス{N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ}トリフェニルアミン(以下「MTDATA」と略称する)、4,4’,4”−トリス{N,N−ジフェニルアミノ}トリフェニルアミン(以下「TDATA」と略称する)、トリス(4−ブロモフェニル)アミン塩、 トリフェニルアミン−4,4’−ジイル単位を有するポリマーや銅フタロシアニン等が好ましく使用できる。この層を設けるときの膜厚は、5〜100nmで好ましく使用できる。
電子輸送層の材料としては、電子親和力が大きく、電子の移動度が大きい物質が好ましい。このような材料としては、例えばトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体(DPVBi)、オキサジアゾール誘導体、ビスチリルアントラセン誘導体、ベンゾオキサゾールチオフェン誘導体、チアゾール類等を用いることができる。電子輸送層は後述の有機EL層を兼ねたものであってもよく、このような場合はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を使用することが好ましい。
【0060】
有機EL層の材料としては、それ自体が発光する発光物質を含有し、該発光物質単独で形成されていてもよい。また、それ自体が発光してもしなくてもよい、電子輸送性および/または正孔輸送性のある材料をホスト材料として用い、これに該発光物質をドーパントとして使用しても良い。このような発光物質としては、テトラフェニルブタジエン、スチリル系色素、スチルベン系色素、オキサゾール系色素、シアニン系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素などのレーザー用色素やアントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ペンタセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体などの芳香族炭化水素系物質、4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−p−ジメチルアミノスチリル−4H−ピラン誘導体、ユーロピウム錯体など幅広く使用できる。このようなドープ有機材料の濃度としては、有機EL層内において0.01〜20モル%とされることが好ましい。また、ポリマー型材料としては、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体等に挙げられるπおよび/またはσ共役型高分子やこれらのブロックおよび/またはランダム共重合体が挙げられる。また、これらのポリマー型材料にさらに前記の発光物質を所定量添加しても良い。また、前記正孔輸送層および/または電子輸送層自体が発光性がある場合は、これらの層が有機EL層としての機能を果たすことより有機EL層とみなすことができる。
【0061】
また、電子輸送層と負極層が接する場合、この界面にさらに電子注入層が挿入されていても良い。電子注入層を設けることにより、駆動電圧の低減や発光効率の向上、長寿命化を達成できる。この界面層は負極からの電子注入を容易にする効果や負極との密着性を上げる効果がある。
このような材料としては、フッ化リチウム(Appl.Phys.Lett.,70,152(1997))に代表されるアルカリ金属のフッ化物、アルカリ土類金属のフッ化物、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム、酸化バリウムなどの酸化物がある。このような界面層材料は絶縁体の場合には、使用する膜厚は、5nm以下の薄膜であり、好ましくは、2nm以下とすることにより負極からの電子のトンネル注入が可能となると考えられる。非絶縁体の場合には、100nm以下で効果を損しない範囲内とされればよい。
以上にあげた各層は、有機EL素子として機能する範囲であれば、その層自体が複数の層で形成されていたり、それらの間にさらに他の層を挟んだりしてもよい。これら各層の作製方法としては、真空蒸着法、ディップ法、スピンコート法、インクジェット法、カーテンコート法、グラビア印刷法、ダイコート法、LB法、CVD法等の種々の公知の手法が適用できる。
【0062】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は下記に限られるものではない。
【0063】
合成例1
デカフルオロビフェニル5molと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4molを縮合して末端がデカフルオロビフェニルのオリゴマーを得た。
【0064】
合成例2
ポリマー1
合成例1で得られたオリゴマーとアウシモント社製「FomblinZdol−4000」(ペルフルオロポリエーテル)の末端トリメチルシリルエーテル化物とヘキサフルオロベンゼンを1:2:1のモル比でDMF溶媒中ふっ化セシウムを触媒として加熱反応させ、エラストマーを得た。
得られたエラストマーを1,3−(ビストリフルオロメチル)ベンゼン−水系で水洗し、250℃2hr空気下に加熱してエラストマーを精製した。
このエラストマーは−60℃〜140℃の範囲でゴム弾性を保持した。このエラストマーを、1,3−(ビストリフルオロメチル)ベンゼンとペルフルオロトリブチルアミンの1:9混合溶媒に溶解し溶液とした。
【0065】
ポリマー2
ペルフルオロポリエーテル(分子量約4,000)の末端を沃素化したものの存在下に、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を35:65のモル比でフィードしながら重合を行い、分子量約15,000のABA型ブロック共重合体を合成した。得られたエラストマーは−60℃〜160℃でゴム弾性を示した。得られたポリマーを320℃2hr空気下に加熱した後ペルフルオロオクタンに溶解し、水洗、乾燥して精製し、再度ペルフルオロオクタンに溶解してエラストマー溶液を得た。
【0066】
ポリマー3
1,4−ジヨードオクタフルオロブタン存在下、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(ビニルエーテル)を3:7mol比のランダム共重合体(分子量約15,000)になるように重合し、次いで ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)とCF=CFO(CFCOOCHとのモル比99:1の混合物を分子量約20,000になるように重合し、ABA型ブロック重合体を合成した。得られたエラストマーは−20℃〜110℃でゴム弾性を示した。得られたポリマーを320℃2hr空気下で加熱した後1H,1H,2H−ペルフルオロ−1−デセンに溶解し、水洗、乾燥することにより精製し、1H,1H,2H−ペルフルオロ−1−デセンに溶解した溶液を得た。
【0067】
ポリマー4
1,4−ジヨードオクタフルオロブタン存在下、ふっ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンを78:22のモル比でフィードしながら重合を行い、分子量15万のポリマーを得た。次いでこのポリマー存在下にテトラフルオロエチレンとペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を40:60のモル比で連続的にフィードし、分子量約20,000のブロック共重合体を合成した。得られたエラストマーは−20℃〜150℃でゴム弾性を示した。得られたポリマーを300℃2hr空気下に加熱した後1−メトキシペルフルオロオクタンに分散し、水洗、硫酸マグネシウムにて乾燥し、1−メトキシペルフルオロオクタンの分散液を得た。
【0068】
ポリマー5
光硬化性エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製XNR5516)
【0069】
有機EL構造体作成例1
ガラス基板上にITOを膜厚200nmとなるように蒸着して正極層(シート抵抗7Ω/□)を形成した。この陽極上に、真空蒸着法により正孔注入層として銅フタロシアニンを膜厚20nmとなるように蒸着し、ついで下図のα−NPDを膜厚40nmに蒸着して正孔輸送層を形成した。Alqを、異なるボートを用いて膜厚60nmに共着して有機EL層を形成した。最後に、MgとAgを共蒸着して膜厚200nmのMgAg(10:1)負極合金層を形成して有機EL構造体を作製した。
【0070】
【化3】



【0071】
有機EL構造体作成例2
ガラス基板上にITOを膜厚200nmで蒸着して正極層(シート抵抗7Ω/□)を形成した。この正極層上に、真空蒸着法により前記の銅フタロシアニンを膜厚20nm、ついで9PPDを膜厚40nmに蒸着して正孔輸送層5を形成した。次いで、前記のAlqとルブレンを、異なるボートを用いて膜厚60nmに共蒸着して有機EL層4を形成した。ついでLiFを0.5nm、最後に、Alを膜厚200nmの厚さで蒸着して負極を形成して有機EL構造体を作製した。
【0072】
実施例1
有機EL構造体作成例1で得られた有機EL構造体の負極層の上に、ポリマー1の溶液をスピンコートした後100℃で1hr減圧乾燥することにより厚さ5μmに製膜した。ついでポリマー5を厚さ50μmにコートしたガラス板をポリマー5コート面に貼り合わせUVを照射することでポリマー5を硬化して封止した。得られた素子を60℃窒素下500hr保管後有機EL素子の発光面を観察したところ非発光部の面積は5%程度だった。
【0073】
比較例1
実施例1においてポリマー1を使用することなく有機EL構造体にポリマー5を厚さ50μmにコートしたガラス基板を貼り合わせUVを照射することでポリマー5を硬化して封止を行った。得られた素子を60℃窒素下500hr保管後素子の発光面を観察したところ非発光部の面積は30%に増加した。
【0074】
実施例2、3、4
有機EL構造体作成例2で得られた有機EL構造体の負極層の上にポリマー2、3、4の溶液を各々スピンコートした後120℃で1hr減圧乾燥することにより厚さ10μmに製膜した。ついでポリマー5を厚さ50μmにコートしたガラス板を各ポリマーコート面に貼り合わせUVを照射することでポリマー5を硬化して封止した。得られた素子を100℃窒素下1日保管後素子の発光面を観察したところ非発光部の面積はいずれも1%程度だった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機EL素子の断面を示す概念図である。
【図2】本発明の有機EL素子の別の例の断面を示す概念図である。
【符号の説明】
1 負極層(背面電極層)
2 正極層(透明電極層)
3 電子注入層
4 有機EL層
5 正孔輸送層
6 正孔注入層
7 ガラス保護板
8 ガラス基板
9 UV硬化性樹脂層(封止層外層)
10 含フッ素エラストマー層(封止層内層)
11 透明プラスチック基板
12プラスチック保護板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明な2つの電極層とそれらの電極層で狭持された有機EL層とを有する薄膜状の有機EL構造体、および有機EL構造体の外表面の片面または両面を覆う封止層とを有する有機EL素子において、封止層の材料が含フッ素エラストマーからなることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
有機EL素子が、基板と、基板上に設けられた有機EL構造体と、有機EL構造体の基板に接していない表面を覆う封止層とを有する有機EL素子である、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
封止層が、有機EL構造体側の内層と外層からなり、内層の材料が含フッ素エラストマーからなり、外層の材料が含フッ素エラストマー以外の合成樹脂からなる、請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の有機EL素子を製造する方法において、含フッ素エラストマーの溶液または分散液を有機EL構造体表面にコーティングし乾燥して有機EL構造体表面に含フッ素エラストマーからなる封止層を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
含フッ素エラストマーの溶液または分散液における溶媒がフッ素含有量40質量%以上の含フッ素化合物からなる、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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