説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】画素内で発生する発光ムラや色度の変化を抑制することが可能な、有機EL素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上に形成された第一電極4と、基板2上に形成され且つ第一電極4の周囲を囲む隔壁6と、隔壁6内で第一電極4上に形成された発光媒体層8と、隔壁6及び発光媒体層8上に形成された第二電極10を備える有機EL素子1であって、発光媒体層8が、隔壁6から離れた部分ほど厚さが減少している有機発光層14と、有機発光層14上に形成され且つ発光媒体層8の厚さ方向から見た面積が有機発光層14の面積よりも小さい電子注入層16を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子と、その製造方法に関するものであり、特に、有機薄膜のEL現象を利用した有機EL素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、少なくともEL現象を呈する有機発光層を挟持した構造を有しており、電極(陽極と陰極)間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
上記のような有機EL素子には、発光効率を増大させる等の目的から、陽極と有機発光層との間に、正孔注入層、正孔輸送層、または、有機発光層と陰極との間に、電子輸送層、電子注入層等が、適官選択して設けられている。
そして、有機発光層と、上述した正孔注入層、正孔輪送層、電子輪送層、電子注入層等を合わせた層が、有機発光層と呼ばれている。
【0003】
また、有機発光層を形成する有機発光材料には、低分子材料と高分子材料とがある。
一般的に、低分子材料は、真空蒸着法等により薄膜を形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では、基板が大型化すればするほど、パターニング精度が出にくいという問題がある。
また、真空蒸着法等による薄膜の形成では、真空中で成膜するために、スループットが悪いという問題がある。
【0004】
そこで、最近では、高分子材料を溶剤に溶かして塗工液とし、この塗工液をウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。
高分子材料の塗工液を用い、ウェットコーティング法で有機発光層を含む発光媒体層を形成する場合の層構成は、陽極側から、正孔輸送層及び有機発光層を積層する二層構成が一般的である。
【0005】
このとき、有機発光層は、カラーパネル化するために、赤(R)、緑(G)、青(B)の、それぞれの発光色をもつ有機発光材料を、溶剤中に溶解、または、安定して分散させてなる有機発光インキを用いて、塗り分ける必要がある。
上述したような従来の有機EL素子において、例えば、図5中に示すように、ウェットコーティング法で有機発光層14の形成を行うと、第一電極4(画素電極)を絶縁するために設けられた隔壁6の形状に沿って、ウェットコーティング法で形成した薄膜が厚膜化するため、有機発光層14の平坦性が悪化してしまう。なお、図5は、従来例の有機EL素子1の概略構成を示す断面図である。
【0006】
そのため、画素内での発光が不均一となり、一画素内のピーク輝度に対して、画素内全輝度が低滅するだけでなく、色度が変化する問題があった。さらに、有機発光層の膜厚が、ある程度まで厚くなると、有機発光層の導電性が悪くなり、発光しない部分が生じるため、実開口率が小さくなる間題もあった。
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1に示すような、有機発光層の膜厚を均一にする方法が提案されている。
【0007】
特許文献1には、インクジェット法による、有機発光層の膜厚の平坦性を高める方法として、予め、基板上に、フォトリソグラフィ法等を用いて、撥インキ性のある材料でバンクを形成し、そのバンクにインク液滴を着弾させることで、バンク形状に応じてインクが弾かれ、直線性のパターンが得られるという方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、弾いたインクが画素内に戻るときに、画素内部でインクが盛り上がり、画素内の有機発光層の膜厚に、ばらつきができてしまうという問題がある。
【0008】
また、特許文献1に開示されている方法とは別の方法として、特許文献2には、正孔輪送層を、陽極上のみに選択的に形成することで、陽極上だけを発光させて、発光画素の発光領域を均一にする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002‐305077号公報
【特許文献2】特願2008‐71872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、発光領域を均一にすることは可能であるが、有機発光層に膜厚の分布が存在するため、有機発光層が形成する発光領域に発生する、画素内での発光ムラや色度の変化を抑制することが困難である。
本発明では、有機EL素子が備える発光媒体層において、有機発光層の平坦性が低いことに起因する、画素内での発光ムラや色度の変化を抑制することが可能な、有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち、請求項1に記載した発明は、基板と、当該基板上に形成された第一電極と、前記基板上に形成され且つ前記第一電極の周囲を囲む隔壁と、前記隔壁内で前記第一電極上に形成された発光媒体層と、前記隔壁及び前記発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記発光媒体層は、前記隔壁から離れた部分ほど厚さが減少している有機発光層と、当該有機発光層上に形成され且つ前記発光媒体層の厚さ方向から見た面積が前記有機発光層の面積よりも小さい電子注入層と、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記発光媒体層は、前記有機発光層の下に形成された正孔注入層を含むことを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記電子注入層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物を用いて形成されていることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記電子注入層は、有機物を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記戟した発明であって、前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の発光強度が10%低下する領域までを覆うように形成されていることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の色度が0.01増加または減少する領域までを覆うように形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の厚さが10nm増加している領域までを覆うように形成されていることを特徴とするものである。
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、
前記発光媒体層が含む層のうち少なくとも一つの層は、ウェットプロセス法を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電子注入層を、有機発光層の厚さが厚い領域を避けて、選択的に形成することが可能となり、有機発光層の厚さが厚い部分における、陰極との仕事関数の差を増加させて、非発光の部分とすることが可能となる。
このため、有機EL素子が備える発光媒体層において、有機発光層の平坦性を向上させることが可能となり、画素内において発生する、発光ムラや色度の変化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態における、有機EL素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】基板の詳細な構成を示す断面図である。
【図3】凸版印刷法に用いる凸版印刷装置の概略構成を示す図である。
【図4】実施例における、色度の経時変化を示すグラフである。
【図5】従来例の有機EL素子の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ、本実施形態に係る有機EL素子の構成と、有機EL素子の製造方法について説明する。
(構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の有機EL素子1の構成を説明する。
図1は、本実施形態における有機EL素子1の概略構成を示す断面図である。
図1中に示すように、有機EL素子1は、基板2と、第一電極4と、隔壁6と、発光媒体層8と、第二電極10を備えている。
なお、本実施形態では、一例として、有機EL素子1を、第一電極4を陽極とし、第二電極10を陰極としたアクティブマトリクス駆動型の有機EL素子とした場合について説明する。この場合、第一電極4は、画素ごとに隔壁6で区画された画素電極として形成され、第二電極10は、素子全面に形成した対向電極として形成される。
また、有機EL素子1の構成は、上記の構成に限定するものではなく、例えば、各電極
【0018】
(第一電極4、第二電極10)がそれぞれ直交するストライプ状とした、パッシプマトリクス駆動型の有機EL素子であってもよい。
また、第一電極4を陰極とし、第二電極10を陽極とした逆構造としてもよい。
(基板2の詳細な構成)
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、基板2の詳細な構成について説明する。
図2は、基板2の詳細な構成を示す断面図である。
なお、本実施形態では、基板2として、第一電極4及び隔壁6が設けられたTFT基板を用いた場合を例に挙げて説明する。
図2中に示すように、本実施形態の有機EL素子1が備える基板2は、薄膜トランジスタ20(TFT)と第一電極4(画素電極)が設けられている。
【0019】
薄膜トランジスタ20と第一電極4とは、電気接続している。
また、薄膜トランジスタ20は、基板2(支持体)で支持されている。
基板2としては、機械的強度及び絶縁性を有し、寸法安定性に優れていれば、如何なる材料も使用することが可能である。
ここで、基板2の材料としては、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートを用いることが可能である。
【0020】
また、基板2の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートに、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸窒化珪素等の金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウムやステンレス等の金属箔、シート、板等を用いることが可能である。
さらに、基板2の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属膜を積層させた非透光性基材等を用いることが可能である。
ここで、基板2の透光性は、光の取出しをどちらの面から行うかに応じて選択すればよい。
【0021】
上記の材料からなる基板2は、有機EL素子1内への水分の侵入を避けるために、無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好適である。特に、発光媒体層8への水分の侵入を避けるために、基板2における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好適である。
薄膜トランジスタ20としては、公知の薄膜トランジスタを用いることが可能である。
具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層22と、ゲート絶縁膜24及びゲート電極26から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。
【0022】
ここで、薄膜トランジスタ20の構造は、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
また、活性層22の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料、または、チオフェンオリゴマー、ポリ(p‐フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することが可能である。
【0023】
上記の活性層22は、例えば、以下の(a)から(c)に記載する方法を用いて形成する。
(a)アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方
法。具体的には、SiH4ガスを用いて、LPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法。
(b)Si26ガスを用いたLPCVD法により、また、SiH4ガスを用いたPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、さらに、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)。
(c)減圧CVD法またはLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000[℃]以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極8を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)。
【0024】
ゲート絶縁膜24としては、一般的にゲート絶縁膜として使用されているものを用いることが可能である。すなわち、ゲート絶縁膜24としては、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2や、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO2等を用いることが可能である。
ゲート電極26としては、一般的にゲート電極として使用されているものを用いることが可能である。すなわち、ゲート電極26の材料としては、例えば、アルミ、銅等の金属(チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属)や、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0025】
なお、薄膜トランジスタ20の構造は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が三つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、一つの画素中に二つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
また、本実施形態の有機EL素子1は、薄膜トランジスタ20が有機EL素子1のスイッチング素子として機能するように接続されている必要がある。このため、薄膜トランジスタ20のドレイン電極28と、第一電極4を電気的に接続している。なお、図2中では、ソース電極に符号30を付し、走査線に符号32を付し、薄膜トランジスタ20と第一電極4及び隔壁6との間に介装したトランジスタ絶縁膜に、符号34を付している。
【0026】
(第一電極4の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、第一電極4の詳細な構成について説明する。
第一電極4は、基板2上にパターン化して形成されており、隔壁6によって区画されて、各画素に対応した画素電極を形成している。
第一電極4の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や、金、白金等の金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂等に分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものを、いずれも使用することが可能である。
【0027】
ここで、第一電極4を陽極とする場合には、ITO等の仕事関数の高い材料を選択することが好適である。
特に、通常の有機EL素子1では、陽極を通して光が放出されるために、陽極が透明であることが要求され、ITO等の導電性金属酸化物が用いられる。
また、有機EL素子1が、上方から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造の場合は、透明であることは必要ではないが、ITO、IZO(インジウムと亜鉛の複合酸化物)等の導電性金属酸化物を用いて、第一電極4を形成してもよい。
【0028】
さらに、第一電極4の材料として、ITO等の導電性金属酸化物を用いる場合、その下に反射率の高い反射電極(Cr、A1、Ag、Mo、W等)を用いることが好適である。この場合、反射電極は、導電性金属酸化物よりも抵抗率が低いため、補助電極として機能するとともに、後述する有機発光層14にて発光される光を、第二電極10側に反射して、光の有効利用を図ることが可能となる。
また、有機EL素子1が、下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は、透光性のある材料を選択する必要がある。さらに、必要に応じて、第一電極4の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウム等の金属材料を補助電極として併設してもよい。
【0029】
(隔壁6の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、隔壁6の詳細な構成について説明する。
隔壁6は、基板2上に形成されており、第一電極4の周囲を囲むことにより、画素に対応した発光領域を区画するように形成されている。
ここで、一般的に、アクティブマトリクス駆動型の有機EL素子1は、各画素(サブピクセル)に対して第一電極4が形成されており、それぞれの画素が、できるだけ広い面積を占有しようとするため、第一電極4の端部(側面)を覆うように形成される隔壁6の最も好適な形状は、第一電極4を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0030】
また、隔壁6の材料は、少なくとも、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤及びアルカリ可溶性バインダーを含有する。さらに、隔壁6の材料は、界面活性剤等を含有することが好適であり、溶剤も含有している。
隔壁6の好適な高さは、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内であり、より好適には、0.5[μm]以上2[μm]以下の範囲内程度である。その理由は、隔壁6の高さが高すぎる場合、第二電極10(対向電極)の形成及び封止を妨げ、隔壁6の高さが低すぎる場合、第一電極4の端部を覆い切れない、または、発光媒体層8の形成時に、隣接する画素と混色してしまうためである。
【0031】
隔壁6の断面形状としては、順テーパ形状、逆テーパ形状等の台形状や、半円形等が挙げられ、また、多段状になっていても良い。
ここで、隔壁6の断面形状が多段状である場合には、下の基板側の下段と上の基板側の上段とが異なる材料・形成方法であっても、同じ材料・形成方法であってもよい。この場合、例えば、下段はSiN等の無機材料からなり、上段は上述した材料からなる構成等が挙げられる。
【0032】
(発光媒体層8の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、発光媒体層8の詳細な構成について説明する。
発光媒体層8は、隔壁6内で第一電極4上に形成されて、第一電極4と第二電極10との間に挟持されており、正孔注入層12と、有機発光層14と、電子注入層16と、インターレイヤー層18を含んでいる。
正孔注入層12は、電子または正孔を注入するキャリア注入層を構成しており、第一電極4上及び隔壁6上、具体的には、第一電極4上と、隔壁6上の全面とを覆うように形成されている。これにより、画素領域での膜形状が平坦になるため、画素ごとの膜厚を均一にすることが可能となる。
【0033】
なお、正孔注入層12の詳細な構成については、後述する。
有機発光層14は、発光に寄与する層であり、正孔注入層12上に形成されている。すなわち、正孔注入層12は、有機発光層14の下に形成されている。
また、有機発光層14は、隔壁6から離れた部分ほど厚さが減少しており、その中心において、厚さが最小となっている。なお、有機発光層14の詳細な構成については、後述する。
電子注入層16は、電子を注入する層であり、有機発光層14上に形成されている。
また、発光媒体層8の厚さ方向から見た、電子注入層16の面積は、有機発光層14の面積よりも小さい。
【0034】
なお、電子注入層16の詳細な構成については、後述する。
インターレイヤー層18は、正孔注入層12と有機発光層14との間に形成されて、正孔注入層12及び有機灘光層14と積層している。また、インターレイヤー層18は、電子注入層や電子ブロック層を形成している。
また、発光媒体層8は、隔壁6内で第一電極4上に形成されることにより、有機EL素子1を、画素(サブピクセル)として配列することを可能とし、画像表示装置とすることが可能となる。すなわち、各画素を構成する有機発光層14を混色することなく、例えば、R(赤色)、G(緑色)及びB(青色)の三色に塗り分けることで、フルカラーのディスプレイパネルを作製することが可能となる。
【0035】
(正孔注入層12の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、正孔注入層12の詳細な構成について説明する。
正孔注入層12の膜厚は、20[nm]以上100[nm]以下の範囲内であることが好適である。これは、正孔注入層12の膜厚が20[nm]よりも薄くなると、ショート欠陥が生じやすくなり、また、正孔注入層12の膜厚が100[nm]を超えると、高抵抗化により低電流化してしまうためである。
正孔注入層12の材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。
【0036】
これらの材料は、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いることにより、正孔注入層12を形成する。
また、正孔注入層12の材料として無機材料を用いる場合、無機材料としては、例えば、Cu2O、Cr23、Mn23、FeOx(x〜0.1)、NiO、CoO、Pr23、Ag2O、MoO2、Bi23、ZnO、TiO2、SnO2、ThO2、V25、Nb25、Ta25、MoO3、WO3、MnO2等の無機材料を用いる。そして、蒸着法、または、スパッタリング法を用いて、正孔注入層12を形成する。
ただし、上記の材料は、これらに限定されるものではない。
【0037】
(有機発光層14の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、有機発光層14の詳細な構成について説明する。
有機発光層14は、正孔と電子を再結合させることで発光する層であり、有機発光層14から放出される表示光が単色の場合は、インターレイヤー層18を被覆するように形成するが、多色の表示光を得るためには、必要に応じてパターニングを行うことにより、好適に用いることが可能である。
【0038】
有機発光層14を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが、本実施形態では、これらの材料に限定するものではない。
【0039】
また、上記の有機発光材料は、溶媒に溶解または安定に分散させることにより、有機発光インキとなる。
ここで、有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独、または、これらの混合溶媒が挙げられる。特に、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が、有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、上記の有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添如されていてもよい。
【0040】
(電子注入層16の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、電子注入層16の詳細な構成について説明する。
電子注入層16の材料としては、例えば、透過性が高く、有機発光層14への電子注入効率が高い、仕事関数の高い材料を用いる。この場合、具体的な材料としては、LiF、BaF2、CsF等の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物が挙げられる。
これ以外にも、電子注入層16の材料としては、例えば、有機材料として、A1q3が挙げられる。
【0041】
また、電子注入層16は、有機発光層14の中心から隔壁6へ向かう方向へ、有機発光層14の発光強度が10[%]低下する領域までを覆うように形成されている。
さらに、電子注入層16は、有機発光層14の中心から隔壁6へ向かう方向へ、有機発光層14の色度が0.01増加または減少する領域までを覆うように形成されている。
また、電子注入層16は、有機発光層14の中心から隔壁6へ向かう方向へ、有機発光層14の厚さが10[nm]増加している領域までを覆うように形成されている。
【0042】
(第二電極10の詳細な構成)
以下、図1及び図2を参照して、第二電極10の詳細な構成について説明する。
第二電極10は、基板2及び発光媒体層8上に形成されており、第一電極4と対向している。ここで、第二電極10は、例えば、電子注入層16への、水や酸素の浸入を防ぐために、隔壁6及び発光媒体層8全体を覆うように形成する。
第二電極10の材料としては、第二電極10を陰極とする場合には、例えば、Mg、A1、Yb等の金属単体を用いる。
【0043】
(封止体について)
有機EL素子1を、上述したトップエミッション方式で作成する場合、発光媒体層8から、基板2と反対側の封止体を通して放射される表示光を取り出すためには、可視光波長領域に対して、光透過性が必要となる。
また、有機EL素子1は、電極(第一電極4、第二電極10)間に発光材料(発光媒体層8)を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光層14の材料である有機発光材料は、大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまう。
このため、通常、有機EL素子1には、外部と遮断するための封止体(図示せず)を設ける。このような封止体は、例えば、封止材上に樹脂層を設けて形成することが可能である。
【0044】
上記の封止材の材料としては、水分や酸素の透過性が低い基材を用いる必要がある。
ここで、封止材の材料としては、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルム等を挙げることができる。
耐湿性フィルムとしては、例えば、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルム、または、吸水剤を塗布した重合体フィルム等がある。ここで、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10-6[g/m2/day]以下であることが好適である。
【0045】
樹脂層の材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン樹脂等からなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、二液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物等の熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。
【0046】
また、樹脂層を封止材の上に形成する方法としては、例えば、溶剤溶液法、押出ラミネーション法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法等を挙げることができる。
この場合、必要に応じて、吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることも可能である。ここで、封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL表示装置の大きさや形状により任意に決定されるが、5[μm]以上500[μm]以下の範囲内程度が好適である。
【0047】
なお、上記の説明では、封止体を、封止材上に樹脂層として形成したが、封止体を、有機EL素子1側に、直接形成することも可能である。
また、有機EL素子1と封止体との貼り合わせは、封止室で行う。
ここで、封止体を、封止材と樹脂層の二層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好適である。一方、樹脂層に熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに、硬化温度で加熱硬化を行うことが好適である。また、樹脂層に光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことが可能である。
【0048】
なお、上述したような封止材を用いて封止を行う前や、その代わりに、例えば、パッシベーション膜として、EB蒸着法やCVD法等のドライプロセスを用いて、窒化珪素膜等無機薄膜による封止体を用いることも可能である。また、これらを組み合わせた封止体を用いることも可能である。
この場合、上述したパッシベーション膜の膜厚は、100[nm]以上500[nm]以下の範囲内とすることが可能である。特に、材料の透湿性や、水蒸気光透過性等により異なるが、パッシベーション膜の膜厚を、150[nm]以上300[nm]以下の範囲内とすることが好適である。
また、有機EL素子1を、上述したトップエミッション型の構造とした場合、上記の特性に加え、光透過性を考慮する必要があるため、可視光波長領域の全平均で70[%]以上であれば好適である。
【0049】
(有機EL素子1の製造方法)
以下、図1及び2を参照しつつ、図3を用いて、有機EL素子1の製造方法を説明する。
有機EL素子1を製造する際には、まず、基板2上に第一電極4を形成する、第一電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第一電極形成工程を含む。
第一電極形成工程において、第一電極4を形成する方法としては、第一電極4の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。また、第一電極4を形成する方法としては、乾式成膜法以外にも、グラビア印刷法や、スクリーン印刷法等の湿式成膜法等を用いることが可能である。
【0050】
ここで、第一電極4のパターニング方法としては、第一電極4の材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法等の既存のパターニング法を用いることが可能である。なお、基板2としてTFTを形成した基板(図2参照)を用いる場合は、下層の画素に対応して導通を図ることができるように形成する。
【0051】
そして、基板2上に第一電極4を形成した後、第一電極4の周囲を囲む隔壁6を基板2上に形成する、隔壁形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、隔壁形成工程を含む。
隔壁形成工程において、第一電極4を形成した基板2上に隔壁6を形成する方法としては、例えば、第一電極4を形成した基板2上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、第一電極4を形成した基板2上に感光性樹脂を積層し、フォトリソ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。
【0052】
また、必要に応じて、隔壁6の材料に、撥水剤を添加することや、プラズマやUVを照射して、隔壁6の形成後に、隔壁6に対して、インクに対する撥液性を付与することも可能である。
隔壁形成工程により基板2上に隔壁6を形成した後、発光媒体層8を第一電極4上に形成する、発光媒体層形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、発光媒体層形成工程を含む。
【0053】
発光媒体層形成工程は、正孔注入層12を第一電極4上を覆うように形成する正孔注入層形成工程と、有機発光層14を正孔注入層12上に形成する有機発光層形成工程と、電子注入層16を有機発光層14上に形成する電子注入層形成工程を含む。
正孔注入層形成工程では、正孔注入層12の材料に応じて、正孔注入層12の材料を溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法やスリットコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、凸版印刷法によって形成する方法や、抵抗加熱蒸着法によって形成する方法を用いる。
【0054】
また、これらの方法以外に、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライ成購法や、スピンコート法、ゾルゲル法等のウェット成膜法等、既存の成膜法を用いてもよい。
すなわち、発光媒体層8が含む層(正孔注入層12、有機発光層14、電子注入層16)のうち少なくとも一つの層は、ウェットプロセス法を用いて形成してもよい。
【0055】
有機発光層形成工程では、有機発光層14の材料に応じて、インクジェット印刷法、ノズルプリント印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のウェット成膜法等既存の成膜法を用いる。特に、有機発光材料を、溶媒に溶解、または、安定に分散させた有機発光インキを用いて、有機発光層14を各発光色に塗り分ける場合には、隔壁6間にインキを転写してパターニングできるインクジェット法、ノズルプリント法、凸版印刷法が好適である。
【0056】
すなわち、有機発光層形成工程では、第一電極4上を覆うように形成された正孔注入層12上に、有機発光層14の材料である有機発光材料を溶媒に溶解または分散させた有機発光インキを塗工して、有機発光層14をパターン化して形成する。
また、有機発光層形成工程は、印刷法、インクジェット法及びノズルプリント法のうちいずれかを用いて行う。
なお、上述した成膜法以外の方法を用いて、有機発光層14を形成してもよい。
【0057】
ここで、図3を用いて、上記の凸版印刷法により、有機発光層14を形成する手順を説明する。
図3は、凸版印刷法に用いる凸版印刷装置36の概略構成を示す図である。
図3中に示すように、凸版印刷装置36は、有機発光材料からなる有機発光インキを、第一電極4、正孔注入層12、インターレイヤー層18が形成された基板2上にパターン印刷する際に用いる装置であり、インクタンク38と、インキチャンバー40と、アニロックスロール42と、凸部が設けられた凸版44がマウントされた版胴46を有している。
【0058】
インクタンク38には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー40には、インクタンク38から、有機発光インキが送り込まれるようになっている。
アニロックスロール42は、インキチャンバー40のインキ供給部に接して、インキチャンバー40へ回転可能に支持されている。
【0059】
上記のパターン印刷を行う際には、アニロックスロール42の回転に伴い、アニロックスロール42の表面に供給された有機発光インキのインキ層48が、均一な膜厚に形成される。このインキ層48のインキは、アニロックスロール42に近接して回転駆動される版胴46にマウントされた凸版44の凸部に転移する。
そして、ステージ50に、被印刷基板(基板2)が設置されており、凸版44の凸部にあるインキが基板2に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経て、基板2上に有機発光層14が形成されることとなる。
【0060】
なお、他の発光媒体層(例えば、インターレイヤー層18)をインキ化して塗工する場合についても、上記と同様の形成方法を用いて、基板2上に層を形成することが可能である。
ここで、本実施形態の有機EL素子1は、発光媒体層8が、正孔注入層12と、有機発光層14と、電子注入層16に加え、インターレイヤー層18を含んでいる。
このため、本実施形態では、有機発光層形成工程の後工程として、インターレイヤー層18を形成するインターレイヤー層形成工程を行う。すなわち、本実施形態では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層18を形成するインターレイヤー層形成工程を含んでいる。
【0061】
インターレイヤー層形成工程において、インターレイヤー層18を形成する際には、インターレイヤー層18の材料として、ポリビニルカルバゾール、またはその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の、芳香族アミンを含むポリマー等を用い、これらの材料を、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法やインクジェット法、ノズルプリント法、凸版印刷法、スリットコート法、バーコート法を用いて形成する。
【0062】
電子注入層形成工程では、有機発光層14よりも面積が小さいマスクパターンを用いて、電子注入層16の材料に応じ、抵抗過熱法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等を用いて、電子注入層16を形成する。
なお、本実施形態では、インターレイヤー層形成工程の後工程として、電子注入層形成工程を行う。
【0063】
上述した発光媒体層形成工程により発光媒体層8を形成した後、基板2及び発光媒体層8上に、第二電極10を形成する、第二電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第二電極形成工程を含む。
第二電極形成工程において、第二電極10を形成する方法としては、第二電極10の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。
第二電極10を形成した後、上述した封止体を形成して、有機EL素子1の製造を終了する。
【0064】
(第一実施形態の効果)
以下、第一実施形態の効果を記載する。
本実施形態の有機EL素子1及びその製造方法であれば、電子注入層16を、有機発光層14のうち、厚さが厚い領域を避けて、選択的に形成することが可能となり、有機発光層14の厚さが厚い部分における、陰極との仕事関数の差を増加させて、非発光の部分とすることが可能となる。
このため、有機EL素子1が備える発光媒体層8において、有機発光層14の平坦性を向上させることが可能となり、画素内において発生する、発光ムラや色度の変化を抑制することが可能となる。
その結果、画素内で発生する発光ムラや色度の変化を抑制することが可能な、有機EL素子1及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0065】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態の有機EL素子1では、発光媒体層8の構成を、正孔注入層12と、有機発光層14と、インターレイヤー層18を含んでいる構成としたが、これに限定するものではなく、発光媒体層8の構成を、インターレイヤー層18を含んでいない構成としてもよい。
(2)本実施形態の有機EL素子1の製造方法では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層18を形成するインターレイヤー層形成工程を含んでいるが、これに限定するものではなく、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層形成工程を含んでいなくともよい。
【0066】
(実施例)
以下、図1から図3を参照しつつ、図4を用いて、上述した第一実施形態の有機EL素子1と、二種類の比較例の有機EL素子を製造し、両者に対する物性の評価を行った結果について説明する。
なお、以下の説明では、第一実施形態の有機EL素子1を、「本発明例の有機EL素子」と記載する。同様に、以下の説明では、二種類の比較例の有機EL素子を、それぞれ、「第一比較例の有機EL素子」及び「第二比較例の有機EL素子」と記載する。
ここで、本発明例、第一比較例及び第二比較例の有機EL素子は、全て、有機発光層14の色を、本発明の効果が最も現れる色である青色とした。
【0067】
(本発明例)
本発明例の有機EL素子1を製造する際には、基板2として、基板2上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタ20と、その上方に形成された第一電極4(画素電極)とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。
また、アクティブマトリクス基板(基板2)のサイズは、200[mm]×200[mm]である。さらに、上記のアクティブマトリクス基板は、その中に対角が5インチであり、画素数が320×240のディスプレイが中央に配置されている。
そして、上記のアクティブマトリクス基板上に、スパッタ法を用いて、厚さ150[nm]のITO膜を形成し、これを第一電極4とした。
【0068】
さらに、第一電極4の周囲を囲んで画素を区画するような形状で、隔壁6を形成した。
ここで、隔壁6を形成する際には、まず、アクリル系のフォトレジスト材料を、アクティブマトリクス基板の全面に厚さ2[μm]で形成した後、上記のフォトレジスト材料に対して、フォトリソグラフィ法により、第一電極4上に幅30[μm]の隔壁6を形成した。
【0069】
次に、上記のように形成した第一電極4及び隔壁6上に、厚さ20[nm]の酸化モリブデン(MoOx)を、スパッタリング製膜により成膜して、正孔注入層12を形成した。
そして、インターレイヤー層18の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を、濃度が0.5[%]となるように、トルエンに溶解させたインキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極4の真上に、そのラインパターンに合わせて、凸版印刷法で印刷を行った。
このとき、300[線/インチ]のアニロックスロール及び感光性樹脂版を使用した。その結果、印刷・乾燥後のインターレイヤー層18の膜厚は、20[nm]となった。
【0070】
次に、青色の有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、その濃度が1[%]となるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極4の真上に、そのラインパターンに合わせて、有機発光層14を凸版印刷法で印刷した。
このとき、150[線/インチ]のアニロックスロール42及び水現像タイプの感光性樹脂板を使用した。その結果、印刷・乾燥後の有機発光層14の膜厚は、60[nm]となった。
【0071】
次に、電子注入層16として、メタルマスクを用いた真空蒸着法により形成した。
ここで、上記のメタルマスクは、画素の端から5[μm]狭い開口のものを使用した。
これにより、電子注入層16を、有機発光層14の厚さが最も薄い中心から隔壁6へ向かう方向へ、厚さが10[nm]厚い領域であり、さらに、有機発光層14の発光強度が、有機発光層14の中心よりも9[%]低く、有機発光層14の色度が、有機発光層14の中心よりも0.01大きい領域まで形成した。
【0072】
さらに、第二電極10として、アルミニウム膜を、メタルマスクを用いた真空蒸着法により、隔壁6及び発光媒体層8の上面を覆う広さで、厚みが150[nm]となるように成膜した。
そして、上記のように第二電極10を成膜したアクティブマトリクス基板に対し、封止材としたガラス板を、発光領域全てをカバーするように載せた後、約90[℃]で一時間程度、接着剤を熱硬化させて封止を行った。
【0073】
(第一比較例)
第一比較例の有機EL素子は、電子注入層を、有機発光層の厚さが最も薄い中心から隔壁へ向かう方向へ、15[nm]厚い領域であり、さらに、有機発光層の発光強度が、有機発光層の中心よりも20[%]低く、有機発光層の色度が、有機発光層の中心よりも0.02大きい領域まで形成した。これは、上述した本発明例と同様の方法を用いた上で、上述したメタルマスクの開口を、画素の端から4[μm]狭い開口のものに変えて行った。
その他の材料、各層の厚さ、工程は、上述した本発明例と同様とした。
【0074】
(第二比較例)
第二比較例の有機EL素子は、電子注入層を、有機発光層全体を覆うように形成した。
その他の材料、各層の厚さ、工程は、上述した本発明例と同様とした。
(本発明例及び比較例に対する物性の評価)
上記の手順によって得られた、本発明例と、第一比較例及び第二比較例の有機EL素子に対して色度を測定した。その測定結果を、以下の表に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
また、本発明例と、第一比較例及び第二比較例の有機EL素子を備えて形成した表示装置を、600[cd/m2]で点灯させた状態における、色度の経時変化の測定結果を、図4中に示した。なお、図4は、実施例における、色度の経時変化を示すグラフである。
なお、表1中に示す「CIE‐x」は色度のx値であり、「CIE‐y」は色度のy値であり、「ΔCIE‐y」は色度のy値の変化量である。
表1中に示すように、本発明例の輝度は、第二比較例の画素全体に電子注入を形成したときと比較して、6[%]程度の輝度の低下が見られている。これは、画素内の輝度ムラの原因となっていた、膜厚が厚く輝度が低い領域の発光が無くなったためであり、発光させた表示自体は、画素内で輝度ムラのない発光を示していた。
また、本発明例は、第二比較例と比較して、色度のy値が0.014ほど小さく、色度の改善が確認された。
【0077】
また、図4中に示すように、電子注入層を形成する範囲を選択的に形成した例である、本発明例及び第一比較例の色度変化が抑制されているが、表1中に示す、駆動後の色度のy値の変化量を示した「ΔCIE‐y」を比較すると、第一比較例よりも、本発明例の効果が大きいことが確認された。
以上により、電子注入層を形成する領域は、本発明例のように、有機発光層のうち、有機発光層の厚さが最も薄い中心から隔壁へ向かう方向へ、10[nm]厚い領域であり、また、有機発光層の発光強度が、有機発光層の中心よりも10[%]低く、また、有機発光層の色度が、有機発光層の中心よりも0.01増加している領域とすることが好適であるという結果を得た。
【符号の説明】
【0078】
1 有機EL素子
2 基板
4 第一電極
6 隔壁
8 発光媒体層
10 第二電極
12 正孔注入層
14 有機発光層
16 電子注入層
18 インターレイヤー層
20 薄膜トランジスタ
22 活性層
24 ゲート絶縁膜
26 ゲート電極
28 ドレイン電極
30 ソース電極
32 走査線
34 トランジスタ絶縁膜
36 凸版印刷装置
38 インクタンク
40 インキチャンバー
42 アニロックスロール
44 凸版
46 版胴
48 インキ層
50 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板上に形成された第一電極と、前記基板上に形成され且つ前記第一電極の周囲を囲む隔壁と、前記隔壁内で前記第一電極上に形成された発光媒体層と、前記隔壁及び前記発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記発光媒体層は、前記隔壁から離れた部分ほど厚さが減少している有機発光層と、当該有機発光層上に形成され且つ前記発光媒体層の厚さ方向から見た面積が前記有機発光層の面積よりも小さい電子注入層と、を含むことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光媒体層は、前記有機発光層の下に形成された正孔注入層を含むことを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子。
【請求項3】
前記電子注入層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物を用いて形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した有機EL素子。
【請求項4】
前記電子注入層は、有機物を用いて形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した有機EL素子。
【請求項5】
前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の発光強度が10%低下する領域までを覆うように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載した有機EL素子。
【請求項6】
前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の色度が0.01増加または減少する領域までを覆うように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した有機EL素子。
【請求項7】
前記電子注入層は、前記有機発光層の中心から前記隔壁へ向かう方向へ、前記有機発光層の厚さが10nm増加している領域までを覆うように形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載した有機EL素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、
前記発光媒体層が含む層のうち少なくとも一つの層は、ウェットプロセス法を用いて形成されていることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−69876(P2012−69876A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215483(P2010−215483)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】