説明

有機EL素子

【課題】耐久性が高く、かつ、ホール輸送層と発光層との界面の密着性も高い有機EL素子を提供する。
【解決手段】低分子ホール輸送層3の上に形成される発光層4を高分子材料と低分子材料との混合にて構成した高分子/低分子積層型有機EL素子とする。このような構成では、高分子材料に加えられた低分子材料が立体障害の隙間を埋めるバインダーの役割をして高分子材料と低分子材料の絡まりを形成する。このために、低分子ホール輸送層3と発光層4との界面は、密着性が高く、キャリア注入性も高い界面となる。また、形成条件や材料の最適化によって更なる高信頼化・長寿命化を達成することも可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ホール輸送材料上に発光層を形成した有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関し、特に、車載用表示素子として適用すると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1、2において、ホール輸送層上もしくは陽極上に発光層を直接形成した構造の有機EL素子が開示されている。この有機EL素子では、ホール輸送層を高分子薄膜で構成すると共に、発光層を高分子蛍光体と電子供与性及び/又は電子受容性の有機化合物で構成している。また、特許文献3において、蒸着法で形成された低分子ホール輸送層と塗布法で形成された高分子発光層とを積層した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−59614号公報
【特許文献2】特許第4045691号公報
【特許文献3】特開2008−16336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機EL素子を車載用表示素子として適用する場合のように、有機EL素子が厳しい環境下で用いられる場合には、ホール輸送層を低分子材料で構成することが重要であり、特許文献1、2に記載の構造のように、ホール輸送層を高分子薄膜で構成することは好ましくない。高分子ホール輸送層がホールを輸送するメカニズムとしては、高分子材料が酸化⇒還元繰り返すことによりホール輸送が行われる。しかしながら酸化された高分子材料が必ず元に戻るわけではなく、酸化したときに別の反応物になってホール輸送層として機能しなくなる部分が発生することにより劣化すると考えられる。特に高分子ホール輸送層は低分子ホール輸送材料に比べてこの劣化が著しいと考えられ、高分子材料で構成したホール輸送層は耐久性に問題がある。
【0005】
また、特許文献3では、ホール輸送層を低分子材料で構成していることから、耐久性の面では問題ないが、発光層を単なる高分子材料で構成した場合、ホール輸送層と発光層との界面が低分子材料と高分子材料の界面となるため、界面での膜密度等の物理状態の違いにより密着性が低く、キャリア注入性も低いという問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、耐久性が高く、かつ、ホール輸送層と発光層との界面の密着性も高い有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、低分子材料にて構成された低分子ホール輸送層(3)の上に、高分子材料と低分子材料の混合にて構成された発光層(4)を配置することを特徴としている。
【0008】
このように、低分子ホール輸送層(3)を用いることにより、耐久性を高くすることができる。そして、発光層(4)を高分子材料と低分子材料の混合にて構成しているため、高分子材料に加えられた低分子材料が立体障害の隙間を埋めるバインダーの役割をして高分子材料と低分子材料の絡まりを形成する。このために、低分子ホール輸送層(3)と発光層(4)との界面の密着性を高くすることができる。したがって、耐久性が高く、かつ、低分子ホール輸送層(3)と発光層(4)との界面の密着性も高い有機EL素子とすることができる。
【0009】
例えば、請求項2に記載したように、発光層(4)を塗布法で形成することができ、低分子ホール輸送層(3)を真空蒸着法で形成することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、発光層(4)に含まれる低分子材料のHOMO-LUMOギャップが、該発光層(4)より放射される光の発光エネルギーよりも大きいことを特徴としている。
【0011】
これにより、発光層(4)において放射された光が低分子材料で吸収されて効率が低下したり、低分子材料自体が発光して所望の色度からずれを起こしたりすることを防ぐことが可能となる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、発光層(4)に含まれる低分子材料が、該発光層(4)を構成する高分子材料と低分子材料の総量のうちの1重量%以上50重量%未満とされていることを特徴としている。
【0013】
このように、低分子材料の混合量を1重量%以上にすることで確実にバインダー効果を得ることができる。また、低分子材料の混合量を50重量%未満にすることで、加えられた低分子材料自体が消光サイトとして働いてしまうために効率が低下することを防止することができる。
【0014】
なお、このような発光層(4)に混合する低分子材料としては、請求項5に記載したように、ホール輸送性材料や電子輸送性材料もしくは両方とすることができる。また、請求項6に記載したように、発光層(4)にさらに発光性色素を添加しても良い。このように、発光層(4)に対して発光性色素を添加することで、より発光効率を高めたり演色性を高めたりすることも可能である。
【0015】
請求項7に記載の発明では、低分子ホール輸送層(3)の表面に、該低分子ホール輸送層(3)の表面がエーテル化合物もしくは有機酸で表面処理されて形成された難溶化層(3a)を備えていることを特徴としている。
【0016】
このように、低分子ホール輸送層(3)をエーテル化合物や有機酸にて表面処理することで難溶化層(3a)を形成することができる。この難溶化層(3a)により、低分子ホール輸送層(3)の構成材料が発光層(4)に溶け出すことを防止でき、素子特性の安定化および寿命向上が図れると共に、発光効率の低下の抑制が可能になるという効果も得ることができる。
【0017】
この場合、請求項8に記載したように、少なくとも低分子ホール輸送層(3)のうち、発光層(4)と接する部分が難溶化層(3a)になっていれば良く、それ以外の部分は低分子材料のみからなる層であれば良い。
【0018】
例えば、請求項9に記載したように、エーテル化合物として、該エーテル化合物に含まれる炭素原子数が5以上15以下のものを用いることができる。具体的には、請求項10に記載の発明のように、エーテル化合物が化学式1もしくは化学式2
(化1) R1−O−R2
(化2) R1−O−R2−O−R3
で示される化合物で、R1、R2、R3が炭素原子数2以上6以下のアルキル基であるものを用いることができる。
【0019】
この場合、請求項11に記載したように、エーテル化合物の沸点が50℃以上かつ250℃以下であると好ましい。沸点が50℃未満ではエーテル化合物がすぐ揮発してしまうため、十分な難溶化層(3a)を形成できない可能性があり、沸点が250℃より高いと表面処理を行った後余分なエーテル化合物を除去するのに長時間高温での処理が必要となり生産性が低下するためである。
【0020】
このようなエーテル化合物としては、請求項12に記載したように、例えば、エーテル化合物がジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルのいずれかを挙げることができる。
【0021】
また、例えば、請求項13に記載したように、有機酸には、スルホン酸化合物、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、チオール化合物、エノール化合物、もしくは有機リン酸化合物を用いることができる。
【0022】
また、請求項14に記載したように、難溶化層(3a)の膜厚が10nm以下であるのが好ましい。難溶化層(3a)は低分子ホール輸送層(3)と比べてホール移動度が低くなる。このため、難溶化層(3a)の膜厚が10nmよりも厚いと駆動電圧を増加させなければならない。したがって、難溶化層(3a)の膜厚を10nm以下にすると良い。
【0023】
また、請求項15に記載したように、低分子ホール輸送層(3)を構成する低分子材料のガラス転移点、ガラス転移点がない場合は融点が120℃以上であるのが好ましい。すなわち、発光層(4)を形成するための高分子材料塗布後に溶媒乾燥工程を行うとき、通常は120℃程度の加熱が行われるが、この加熱工程が低分子材料のガラス転移点を超えると低分子材料の凝集による界面荒さの増大や両者の混合などが起こって特性が悪化してしまう。このため、低分子ホール輸送層(3)の構成材料として、ガラス転移点が高分子材料塗布後の溶媒乾燥温度以上、すなわち120℃以上の材料を用いるのが好ましい。
【0024】
また、請求項16に記載したように、低分子ホール輸送層(3)を構成する低分子材料の真空度1Pa時の昇華温度が300℃以上であると好ましい。昇華温度が300℃より低いと、10-5Pa以下の高真空下で蒸着膜を形成する場合に蒸着温度が200℃以下になり、蒸着速度を制御することが困難になって、均一な膜密度の蒸着膜を形成することができない。したがって、低分子ホール輸送層(3)の構成材料として、真空度1Pa時の昇華温度が300℃以上のものを用いると良い。
【0025】
このような低分子ホール輸送層(3)の構成材料としては、請求項17に記載したように、低分子材料の中でもホール輸送性の高いトリフェニルアミン誘導体材料を用いると好ましい。
【0026】
また、請求項18に記載したように、トリフェニルアミン誘導体材料の中でも対称中心を有する材料、さらに、請求項19に記載したように、その中でも特にスターバーストアミンは、薄膜にした場合に分子が配列しやすく耐溶剤性が向上するのでより難溶化が可能であり好ましい。
【0027】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態で説明する有機EL素子の断面図である。
【図2】各実施例で製造した試料および比較例1の試料に対して調べた初期駆動電圧V0、輝度半減寿命LT50、およびダークスポット発生数Nをまとめた図表である。
【図3】実施例1と比較例1について最大発光効率をI0(cd/A)とした場合のI/I0の変化を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る有機EL素子100の構成を示す概略断面図である。この図に示されるように、基板1の上に、ホール注入電極2、難溶化層3aを含む低分子ホール輸送層3、発光層4および電子注入電極5が順に積層され、さらにこれら各部が金属缶6によって覆われた構造により、本実施形態にかかる有機EL素子100が構成されている。
【0031】
このような構造の有機EL素子100は、例えば次のようにして製造される。まず、基板1の上にホール注入電極2を形成したのち、低分子ホール輸送層3を真空蒸着法により形成する。続いて、低分子ホール輸送層3の表面にエーテル化合物もしくは有機酸による表面処理を行うことにより、低分子ホール輸送層3のうち発光層4との界面となる表面に、低分子ホール輸送層3の構成材料とエーテル化合物もしくは有機酸が混合して構成された難溶化層3aを形成する。そして、発光層4を塗布法にて形成したのち、電子注入電極5を真空蒸着法にて形成する。最後に、乾燥窒素雰囲気中にて金属缶6の貼り合わせによる封止を行うことにより、図1に示す有機EL素子100が製造される。各工程間の搬送方法は特に限定されるものではないが、乾燥雰囲気中での搬送であることが望ましい。
【0032】
なお、エーテル化合物もしくは有機酸による表面処理、発光層4の形成及び封止工程は限定されるものではないがグローブボックス等の乾燥不活性ガス雰囲気中で行われることが望ましい。また、封止方法は金属缶6による封止以外にも、ガラスもしくはバリア付きフィルムの貼り合わせによる封止やシリコン窒化膜などの薄膜を直接形成する薄膜封止手法など様々な封止手法が適用可能である。
【0033】
基板1は、例えば、透明なガラス、石英ガラス、バリア膜付きの樹脂基板や金属基板等よりなる電極基板で構成されている。
【0034】
ホール注入電極2は、透明または半透明の電極を形成することのできる任意の導電性物質にて形成されている。具体的には、酸化物として酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウム、酸化チタンニオブ等を使用することができる。ただし、それらのうちでも特にITOは、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性に優れていることなどの利点を有する好適な材料である。更に、アルミニウム、金、銀等の金属材料を蒸着して半透明の層を成膜する方法や、ポリアニリン等の有機半導体を用いる方法もあり、更にその他の方法を用いることも可能である。ホール注入電極2に対しては、必要に応じてエッチングによりパターニングを行っても良いし、UV処理やプラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0035】
低分子ホール輸送層3は、低分子材料の中でもホール輸送性の高いトリフェニルアミン誘導体材料であることが望ましい。発光層4を形成するための高分子材料塗布後に行われる溶媒乾燥工程において通常は120℃程度の加熱が行われるが、この加熱工程が低分子材料のガラス転移点を超えると低分子材料の凝集による界面荒さの増大や両者の混合などが起こって特性が悪化してしまうので、低分子材料のガラス転移点が高分子材料塗布後の溶媒乾燥温度以上、すなわち120℃以上の材料を低分子ホール輸送層3として用いるのが好ましい。また、低分子ホール輸送層3の構成材料は、真空度1Pa時において300℃以上であることが望ましい。昇華温度が300℃より低いと、10-5Pa以下の高真空下で蒸着膜を形成する場合に蒸着温度は200℃以下になり、蒸着速度を制御することが困難になるため、均一な膜密度の蒸着膜を形成することができないためである。これら条件を満たすものとして、例えば化学式3〜7に示す材料があげられる。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

化学式3は、N, N, N', N', N'', N''-Hexakis-(4'-methyl-biphenyl-4-yl)-benzene-1,3,5-triamine (分子量1119、ガラス転移点 観測されず、融点402℃)、化学式4は、N, N, N', N',-Tetrakis- (4'-methyl-biphenyl-4-yl)-N'',N'',-biskis-(4'-methyl-phenyl)benzene-1,3,5-triamine(分子量967、ガラス転移点180℃)、化学式5は、t-Bu-TBATA(N,N,N', N',N'',N''-Hexakis(4'-tert-butylbiphenyl -4-yl)-tris(4-aminophenyl)amine)(分子量1540、ガラス転移点203℃)、化学式6は、Spiro-1-TAD(2,2',7,7'-tetrakis(diphenylamino)spiro-9,9'-bifluorene)(分子量973、ガラス転移点133℃)、化学式7は、TBPB (N, N, N', N'-tetrakis(4-biphenyl)-4,4'-diaminobiphenyl) (分子量793、ガラス転移点131.8℃)を表している。なお、ここでは化学式3〜7に示されたトリフェニルアミン誘導体材料の具体例に挙げたが、これら具体例に限定されるものではない。このような低分子ホール輸送層3に関しては、例えば、真空中にて低分子材料を加熱蒸発させて薄膜を形成する真空蒸着法により形成することができる。
【0041】
低分子ホール輸送層3の形成手法として真空蒸着法を例に挙げたが、真空蒸着法以外にも、インクジェットや印刷やスピンコート等の塗布法、レーザー転写(LITI)法、気相成長法などを用いても構わない。ただし、有機EL素子の車載化のためには低分子ホール輸送層3の品質が重要であり、形成された膜の純度・密度・平坦性などを考えると最も高品質な膜が得られる真空蒸着法での形成が最も望ましい。さらに、形成された低分子ホール輸送層をさらに高品質化するために熱処理を行っても良い。
【0042】
なお、ここでは、低分子ホール輸送層3を単層ホール注入電極2の上に形成した場合について説明したが、必ずしも単層構造にする必要はない。例えば、最も発光層4側にエーテル化合物もしくは有機酸による処理効果の高い低分子ホール輸送層を配置すると共に、この下に、より低コストもしくはホール移動度のより高い低分子ホール輸送層を配置したり、ホール注入効率のより高いホール注入層を積層した構造としても良い。このような構造にすることで有機EL素子のさらなる低コスト化や駆動電圧低減が可能となる。また、トリフェニルアミン誘導体材料の中でも対称中心を有する材料、その中でも特にスターバーストアミンは、薄膜にした場合に分子が配列しやすく耐溶剤性が向上するのでより難溶化が可能であり好ましい。
【0043】
難溶化層3aは、上述したように、低分子ホール輸送層3の表面にエーテル化合物もしくは有機酸による表面処理を行うことにより形成される。この難溶化層3aは、エーテル化合物による表面処理の場合にはエーテルとアミンとの分子間相互作用による比較的強固な結合を持ったもの、有機酸による表面処理の場合には酸−塩基反応による強固な結合を持ったものとして構成される。
【0044】
難溶化層3aを形成するための表面処理にエーテル化合物を用いる場合、そのエーテル化合物としては、含まれる炭素原子数が5以上15以下であることが望ましい。さらに、化学式1もしくは化学式2で示される化合物であって、R1、R2、R3が炭素原子数2以上6以下のアルキル基であることが望ましい。
【0045】
(化1) R1−O−R2
(化2) R1−O−R2−O−R3
この条件を満たすエーテル化合物は、低分子ホール輸送層3の構成材料に対して高い分子間相互作用を示し、そのためこれにより処理された低分子ホール輸送層3の表面は高い溶媒難溶性を示す。また、エーテル化合物の沸点は50℃以上250℃以下であることが望ましい。沸点が50℃未満ではエーテル化合物がすぐ揮発してしまうため、十分な難溶化層3aを形成できない可能性があり、沸点が250℃より高いと表面処理を行った後余分なエーテル化合物を除去するのに長時間高温での処理が必要となり生産性が低下するためである。
【0046】
これらの条件を満たす具体例としてはジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。さらに具体的にはジプロピルエーテルとして1,1'-ジプロピルエーテル、ジ-iso-プロピルエーテル等、ジブチルエーテルとして1,1'-ジブチルエーテル、2,2'-ジブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル等、ジペンチルエーテルとして1,1'-ジペンチルエーテル、2,2'-ジペンチルエーテル、3,3'-ジペンチルエーテル等、ジヘキシルエーテルとして1,1'-ジヘキシルエーテル、2,2'-ジヘキシルエーテル、3,3'-ジヘキシルエーテル等、エチレングリコールジプロピルエーテルとしてエチレングリコール-1,1'-ジプロピルエーテル、エチレングリコールジ-iso-プロピルエーテル等、エチレングリコールジブチルエーテルとしてエチレングリコール-1,1'-ジブチルエーテル、エチレングリコール-2,2'-ジブチルエーテル、エチレングリコールジ-tert-ブチルエーテル等が挙げられる。
【0047】
また、難溶化層3aを形成するための表面処理に有機酸を用いる場合、その有機酸としては、スルホン酸化合物、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、チオール化合物、エノール化合物、もしくは有機リン酸化合物が挙げられる。特に、酸性の強いスルホン酸化合物が望ましく、次にカルボン酸化合物、有機リン酸化合物が望ましい。具体的には、スルホン酸化合物としては、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、エタンスルホン酸が挙げられる。カルボン酸化合物としては、4−メチル安息香酸、酢酸、蟻酸、シュウ酸、フタル酸、マロン酸が挙げられる。ヒドロキシ化合物としては、フェノール、ピクリン酸が挙げられる。チオール化合物としては、1−プロパンチオール、エノール化合物としてはペンタンジオン、有機リン酸化合物としてはビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイトなどが挙げられる。
【0048】
難溶化層3aを形成するためのエーテル化合物もしくは有機酸による低分子ホール輸送層3の表面処理方法としては、エーテル化合物もしくは有機酸を含む溶液をスピンコート法、ディップ法、スプレー法等で塗布する手法やエーテル化合物もしくは有機酸を含む蒸気中に曝す手法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、量産性などを考慮すると前述の手法が望ましい。
【0049】
また、表面処理を行った後、表面に存在する余剰エーテル化合物もしくは余剰有機酸を除去するために、アルコールや炭化水素系溶媒で低分子ホール輸送層3の表面を洗浄するか低分子ホール輸送層3を加熱しても良い。このように、余剰エーテル化合物もしくは余剰有機酸を除去することも可能であるため、エーテル化合物もしくは有機酸を含む溶液の濃度やエーテル化合物もしくは有機酸の蒸気濃度は、低分子ホール輸送層3の材料の分子構造を変質させない限り、特に限定されない。また、エーテル化合物もしくは有機酸による表面処理を行った低分子ホール輸送層3上に発光層4を形成した後、加熱処理を行うことでエーテル化合物もしくは有機酸を揮発除去してもよい。加熱処理温度は低分子ホール輸送材料のガラス転移点以下、ガラス転移点がない場合は融点以下にすることが望ましい。これにより界面に残存する異種化合物であるエーテル化合物もしくは有機酸の量を減少させられるために、駆動電圧のさらなる低減や長寿命化が可能となる。但し、エーテル化合物もしくは有機酸を揮発させる場合に、低分子ホール輸送材料とエーテル化合物との間の反応性結合、もしくは、低分子ホール輸送材料と有機酸との酸−塩基反応による結合の一部が分解し難溶性が低下する場合があるため、効果を発現させるためには発光層塗布液溶媒への溶解度の低い低分子ホール輸送材料との組み合わせが望ましい。
【0050】
さらに、難溶化効果をさらに強固なものにするために、熱処理を行っても良い。ただし、このときの熱処理温度や上述した余剰エーテル化合物もしくは余剰有機酸を除去するための加熱温度は、低分子ホール輸送層3を構成する低分子材料のガラス転移点以下、ガラス転移点がない場合は融点以下にすることが望ましい。
【0051】
また、難溶化層3aの膜厚は、10nm以下が好ましい。これは、難溶化層3aは低分子ホール輸送層3と比べてホール移動度が低いためであり、難溶化層3aの膜厚が10nmよりも厚いと駆動電圧を増加させるためである。
【0052】
発光層4は、高分子材料(高分子有機発光材料)と低分子材料との混合により構成されている。高分子材料としては、ポリフルオレン(PFO)系高分子、ポリフェニレンビニレン(PPV)系高分子、ポリビニルカルバゾール(PVK)系高分子などを用いることができ、蛍光性色素や燐光性色素を前記高分子やポリスチレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子等に分散させたもの等も用いることができる。これら高分子材料を、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水などの単独または混合溶媒に低分子材料と共に溶解させて塗布液を調製し、その塗布液を使用した塗布法により発光層4を形成することができる。それら溶媒のうちでも特に、トルエン、キシレン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル等の芳香族系溶媒は、高分子材料の溶解性が良く扱いも容易であることから、より好ましい溶媒である。
【0053】
発光層4のうちの高分子材料を形成する際の塗布法としては、スピンコート法、インクジェット法、印刷法、ディップコート法、スプレー法等の手法を用いることができる。また、発光層4を塗布法で形成する際に溶媒を揮発させるために高温乾燥処理を行うが、この処理温度が低分子ホール輸送層材料のガラス転移点を超えると界面での両者の混合による特性の悪化などが起こってしまうため、低分子ホール輸送層3の構成材料のガラス転移点は一般的に用いられている乾燥温度である120℃以上であることが望ましい。
【0054】
また、高分子材料に加える低分子材料としては、ホール輸送性材料や電子輸送性材料もしくは両方のいずれでも良い。但し、発光層4において放射された光が低分子材料で吸収されて効率が低下したり、低分子材料自体が発光して所望の色度からずれを起こしたりすることを防ぐために、発光層4に含まれる低分子材料のHOMO-LUMOギャップが発光層4より放射される光の発光エネルギーよりも大きいことが望ましい。例えば、ホール輸送性材料としては化学式8〜13に示される材料、電子輸送性材料としては化学式14〜20に示される材料が挙げられる。
【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
【化19】

【0067】
【化20】

化学式8は、NPB(N,N'-Bis(naphthalen-1-yl)-N,N'-bis(phenyl)-benzidine)、化学式9は、TPTE(N,N' -bis(4-diphenylamino-4'-biphenyl)-N,N'-diphenyl-4,4'-diaminobiphenyl)、化学式10は、TAPC(Di- [4-(N,N-ditolyl-amino)-phenyl]cyclohexane)、化学式11は、NTNPB(N,N'-di-phenyl-N,N'-di-[4-(N, N-di-tolyl-amino)phenyl]benzidine)、化学式12は、TCTA(4,4',4"-Tris(carbazol-9-yl)triphenylamine)、化学式13は、TAPA(Di-[4-(N,N-diphenyl-amino)-phenyl]adamantane)を表している。また、化学式14は、TPBi(2,2',2"-(1,3,5-Benzinetriyl)-tris(1-phenyl-1-H-benzimidazole))、化学式15は、Bphen(4,7-Diphenyl-1,10-phenanthroline)、化学式16は、OXD-7(1,3-Bis[2-(4-tert-butylphenyl) 1,3,4-oxadiazo-5-yl]benzene)、化学式17は、PADN(2-phenyl-9,10-di(naphthalen-2-yl)-anthracene)、化学式18は、TAZ(3-(4-Biphenylyl)-4-phenyl-5-tert-butylphenyl-1,2,4-triazole)、化学式19は、TPB3(1,3,5-Tri(pyren-1-yl)benzene)、化学式20は、TPBA(2,2'-Bi(9,10-diphenyl-anthracene))を表している。
【0068】
なお、ここでは化学式8〜13に示されたホール輸送性材料、もしくは、化学式14〜20で示された電子輸送性材料を具体例に挙げたが、これら具体例に限定されるものではない。また、このような低分子材料の混合量としては、発光層4を構成する高分子材料と低分子材料の総量のうちの1重量%以上あれば、確実にバインダー効果を得ることができる。ただし、低分子材料の混合量が50重量%以上になると、加えられた低分子材料自体が消光サイトとして働いてしまうために効率が低下する。このため、低分子材料を高分子材料に混合することによる効率低下現象が起こらないようにするために、好ましくは低分子材料の混合量を50重量%未満にすると良い。
【0069】
また、発光層4に含まれる低分子材料にホール輸送性材料や電子輸送性材料もしくは両方のいずれでも良いが、少なくともホール輸送性材料が含まれていることがより望ましい。ホール輸送性材料および電子輸送性材料のいずれでもバインダー効果による界面密着性向上による信頼性向上効果が期待できるが、ホール輸送性材料であればホール輸送層から発光層4へのホール注入性を向上させる効果も期待でき、より高効率化が可能となるためである。また、発光層4にさらに発光性色素を添加することで、より発光効率を高めたり演色性を高めたりすることも可能である。
【0070】
電子注入電極5は、例えば低仕事関数電極構造で構成される。電子注入電極5としては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属とアルミニウム等の金属電極との積層、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化物とアルミニウム等の金属電極との積層などを用いることができ、具体的にはAl/Ca、Al/Ba、Al/Li、Al/LiF、Al/CsF、Al/Ca/LiF、Al/BaOなどで構成される。
【0071】
このようにして、本実施形態にかかる有機EL素子100が構成、製造される。次に、このような有機EL素子100の作用および効果について説明する。
【0072】
本実施形態にかかる有機EL素子100では、真空蒸着法で形成される低分子ホール輸送層3と高分子材料および低分子材料の混合により構成された発光層4との積層構造を採用している。すなわち、低分子ホール輸送層3の上に高分子材料からなる発光層4を配置した高分子/低分子積層型有機EL素子とし、発光層4を構成する高分子材料に低分子材料を混合した状態としている。このような構造とすることにより、以下の効果を得ることができる。
【0073】
ホール輸送層を低分子材料で構成した低分子型有機EL素子は、高温耐久性が高く長寿命な有機EL素子の形成が可能である反面、真空蒸着装置(真空蒸着チャンバー)が何台も連なった大型の装置が必要となり非常に高コストになってしまうという欠点がある。一方、ホール輸送層を高分子材料で構成した高分子型有機EL素子では、真空蒸着工程は陰極形成工程のみであり、それ以外は非真空プロセスを用いることができるので低コスト形成が可能であるが、その反面、PEDOT:PSSなどの高分子材料で構成されたホール輸送層の不安定さに起因した高温耐久性の低さ、短寿命、駆動に伴う電圧上昇といった問題が存在する。有機EL素子を車載用とする場合、特にセグメント表示素子として用いるには低コストで高温耐久性が高く長寿命な有機EL素子が必要であるため、このままでは双方共に用いることは困難である。
【0074】
これに対し、本実施形態では、高分子型有機EL素子において問題となっているように高分子材料でホール輸送層を構成するのではなく、高温耐久性が高く安定した特性を有する真空蒸着法で形成された低分子材料のホール輸送層に置き換えている。すなわち、低分子ホール輸送層3の上に高分子材料を含む発光層4が配置された高分子/低分子積層型有機EL素子としている。このため、低分子有機EL素子のように、高温耐久性、寿命、駆動に伴う電圧上昇を改善することが可能となる。なお、低分子ホール輸送層3の形成および電子注入電極5の形成工程を真空蒸着工程にて行うことになるため、高分子型有機EL素子と比較すると低分子ホール輸送層3の形成のための真空蒸着工程が増えることになって若干製造コストが高くなる。しかしながら、全工程真空蒸着が必要な低分子型有機EL素子と比較すれば、本実施形態の製造手法の方が低コスト化を可能にできる。これにより、車載用表示素子として好適に用いることができる有機EL素子を形成することができる。
【0075】
但し、このような高分子/低分子積層型有機EL素子は、低分子ホール輸送層3の上に高分子材料にて構成される発光層4が塗布法で形成されるため、低分子ホール輸送層3を構成する低分子材料が高分子材料を溶解した塗布液の溶媒に溶け出し、界面混合層が形成されるため発光効率が低下してしまうという問題が生じる。この問題を改善する手法として、低分子ホール輸送層3に難溶性材料を用いる手法、有機酸やエーテル化合物による表面処理によって難溶化層3aを形成することで表面難溶化を図る手法などが考えられる。これにより、低分子材料が塗布液の溶媒に溶け出して界面混合層が形成されることを抑制でき、素子特性の安定化および寿命向上が図れると共に、発光効率の低下の抑制が可能になるという効果が得られる。
【0076】
ところが、このような難溶化表面に高分子材料を積層させた構造では、高分子材料と低分子材料が互いに相分離した状態で積層されるために、高分子材料と低分子材料の絡まりが無い。さらに、高分子材料を溶媒に溶け易くするために導入されているアルキル基などが立体障害となって、密着性が低くキャリア注入性が低い界面となってしまう。このような界面では形成条件や材料を最適化してさらなる高信頼化・長寿命化を試みても、高分子/低分子界面特性律速のために特性を向上させることは困難である。このため、発光効率の低下を抑制できても、耐久性が高く、かつ、低分子ホール輸送層3と発光層4との界面の密着性も高い有機EL素子とすることはできなかった。
【0077】
これに対して、本実施形態のように発光層4に高分子材料と低分子材料との混合を用いた高分子/低分子積層型有機EL素子は、高分子材料に加えられた低分子材料が立体障害の隙間を埋めるバインダーの役割をして高分子材料と低分子材料の絡まりを形成する。このために、低分子ホール輸送層3と発光層4との界面は、密着性が高く、キャリア注入性も高い界面となる。また、形成条件や材料の最適化によって更なる高信頼化・長寿命化を達成することも可能となる。さらに、高分子材料に加えられた低分子材料が高分子材料の結晶化を抑止するように働くために、発光層4を塗布形成後に従来よりも高い温度で乾燥させることが可能となり、膜中に残存する溶媒濃度を低下させることができ、更なる長寿命化が可能となる。また、高分子材料に添加する低分子材料の濃度を、上述の界面混合による効率低下濃度以下に調整することにより、効率低下のない界面構造とすることができる。
【0078】
そして、さらに本実施形態では、有機酸やエーテル化合物による表面処理によって難溶化層3aを形成することで表面難溶化を図ることと、発光層4に高分子材料と低分子材料との混合を用いることを組み合わせている。このため、有機酸やエーテル化合物による表面処理によって難溶化層3aを形成することで表面難溶化したときの効果を得つつ、この場合に発生する問題を解決できる。すなわち、難溶化層3aにより、低分子ホール輸送層3の構成材料が発光層4に溶け出すことを防止でき、素子特性の安定化および寿命向上が図れると共に、発光効率の低下の抑制が可能になるという効果を得つつ、さらに耐久性が高く、かつ、低分子ホール輸送層3と発光層4との界面の密着性も高い有機EL素子とすることが可能になる。
【実施例】
【0079】
以下、上記実施形態に対応した各種実施例について説明する。
【0080】
(実施例1)
まず、基板1としてガラス基板を用い、このガラス基板上にホール注入電極2となるITO電極を150nm形成した。次に、低分子ホール輸送層3として、上述した化学式3で示されるN,N,N',N',N'',N''-Hexakis(4'-methyl-biphenyl-4-yl)-benzene-1,3,5-triamine(分子量1119、ガラス転移点観測されず、融点402℃)を真空蒸着法で60nm形成した。そして、このように基板1上に形成した低分子ホール輸送層3の表面を、1,1'-ジブチルエーテル溶液中に10分間浸漬させて塗布することで難溶化層3aを形成し、さらに180℃で熱処理を行った。
【0081】
続いて、この難溶化層3aの上に、アメリカンダイソース社製Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2, 7-diyl)-co-(1,4-benzo-[2,1',3]-thiadiazole)](ADS233YE)を精製して重量平均分子量約40000とした高分子材料と化学式9のTPTE(N,N'-bis(4-diphenylamino-4'-biphenyl)-N,N'-diphenyl-4,4'- diaminobiphenyl)で示されるホール輸送性低分子材料を重量混合比3:1(発光層4における低分子材料の濃度が25重量%)でキシレン溶媒に溶解させた塗布液を用いてスピンコート法で塗布したのち、120℃で乾燥させることにより発光層4を100nm形成した。
【0082】
さらに、電子注入電極5として、Al/Ca電極を真空蒸着法で形成したのち、最後にグローブボックス中で金属缶6と素子が形成されたガラス基板とを光硬化樹脂で貼り合わせて作製素子を封止した試料を用意した。
【0083】
また、比較例1として、発光層4に低分子材料を加えなかったこと以外は本実施例1と同様の構成の試料を用意した。
【0084】
そして、実施例1の試料および比較例1の試料における駆動電流密度が10mA/cm2の時の初期駆動電圧V0(V)、初期輝度2400cd/m2にて室温定電流駆動を行った場合の輝度半減寿命LT50(時間)、および輝度半減時の1cm2あたりのダークスポット発生数N(個)を調べた。その結果、実施例1では、V0=5.3、LT50=156、N=0となり、比較例1では、V0=7.3、LT50=16、N=18となった。
【0085】
実施例1は比較例1と比べて初期駆動電圧V0が低下していることから、発光層4への低分子材料添加により高分子/低分子界面において密着性が高くなってキャリア注入性が向上したと言える。また、ダークスポットは高分子/低分子界面での剥離によって形成されると考えられるが、駆動寿命が劇的に改善されており、かつダークスポットも全く発生しなかったことから、密着性が高く安定な高分子/低分子界面が得られていると言える。
【0086】
このように、高分子材料と低分子材料の混合を発光層4に用いることで、密着性が高く安定でキャリア注入性の良い高分子/低分子界面が得られ、長寿命で信頼性の高い素子の形成が可能であることが判る。
【0087】
(実施例2)
本実施例では、実施例1とは異なる低分子材料、具体的には発光層4の低分子材料として化学式13のTAPA(Di-[4-(N,N-diphenyl-amino)-phenyl]adamantane)で表されるホール輸送性低分子材料を用いて、実施例1と同様の手法により有機EL素子100の試料を製造した。
【0088】
そして、本実施例の試料について、実施例1と同様に、初期駆動電圧V0、輝度半減寿命LT50、およびダークスポット発生数Nを調べた。その結果、本実施例では、V0=6.2、LT50=73、N=0となった。
【0089】
このように、本実施例においても、比較例1と比べて初期駆動電圧V0が低下していることから、高分子/低分子界面において密着性が高くなってキャリア注入性が向上したと言える。また、駆動寿命も劇的に改善されており、かつダークスポットも全く発生しなかったことから、密着性が高く安定な高分子/低分子界面が得られていると言える。したがって、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0090】
(実施例3)
本実施例では、実施例1とは異なる低分子材料、具体的には発光層4の低分子材料として化学式16のOXD-7(1,3-Bis[2-(4-tert-butylphenyl)-1,3,4-oxadiazo-5-yl]benzene)で表される電子輸送性低分子材料を用いて、実施例1と同様の手法により有機EL素子100の試料を製造した。
【0091】
そして、本実施例の試料について、実施例1と同様に、初期駆動電圧V0、輝度半減寿命LT50、およびダークスポット発生数Nを調べた。その結果、本実施例では、V0=6.9、LT50=108、N=0となった。
【0092】
このように、本実施例においても、比較例1と比べて初期駆動電圧V0が低下していることから、高分子/低分子界面において密着性が高くなってキャリア注入性が向上したと言える。また、駆動寿命も劇的に改善されており、かつダークスポットも全く発生しなかったことから、密着性が高く安定な高分子/低分子界面が得られていると言える。したがって、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0093】
(実施例4)
本実施例では、実施例1とは異なる低分子材料、具体的には発光層4の低分子材料として化学式9のTPTE(N,N'-bis(4-diphenylamino-4'-biphenyl)-N,N'-diphenyl-4,4'-diaminobiphenyl)で表されるホール輸送性低分子材料と化学式16のOXD-7(1,3-Bis[2-(4-tert-butylphenyl)-1,3,4- oxadiazo-5-yl]benzene)で表される電子輸送性低分子材料の混合を用い、ホール輸送性低分子材料と電子輸送性低分子材料の重量混合比を1:1とし、かつ、高分子材料と低分子材料の総量の重量混合比を3:1として、実施例1と同様の手法により有機EL素子100の試料を製造した。
【0094】
そして、本実施例の試料について、実施例1と同様に、初期駆動電圧V0、輝度半減寿命LT50、およびダークスポット発生数Nを調べた。その結果、本実施例では、V0=6.0、LT50=134、N=0となった。
【0095】
このように、本実施例においても、比較例1と比べて初期駆動電圧V0が低下していることから、高分子/低分子界面において密着性が高くなってキャリア注入性が向上したと言える。また、駆動寿命も劇的に改善されており、かつダークスポットも全く発生しなかったことから、密着性が高く安定な高分子/低分子界面が得られていることと言える。したがって、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(実施例1〜4についての考察)
図2は、上記各実施例で製造した試料および比較例1の試料に対して調べた初期駆動電圧V0、輝度半減寿命LT50、およびダークスポット発生数Nをまとめた図表である。この図表からも分かるように、各実施例すべてにおいて、比較例1と比較して、初期駆動電圧V0が低下していると共に、駆動寿命も向上している。また、ダークスポットも発生していない。このため、上記実施形態において説明したように、低分子ホール輸送層3の上に高分子材料が含まれる発光層4を配置した高分子/低分子積層型有機EL素子において、発光層4を高分子材料と低分子材料とを混合したもので構成することで、密着性が高く安定でキャリア注入性のよい高分子/低分子界面が得られ、耐久性が高く信頼性の高い有機EL素子とすることが可能となる。特に、ホール輸送性低分子材料を添加した場合に顕著に低下しており、低分子ホール輸送層3から発光層4へのホールの注入性の向上には、発光層4を構成する高分子材料にホール輸送性低分子材料を添加することが特に有効となる。
【0097】
(実施例5)
本実施例は高分子材料に加えられた低分子材料による高温乾燥時の結晶化抑止効果を確認した例である。
【0098】
本実施例では、発光層4に含まれる低分子材料として実施例1とは同じ材料を用いて発光層4を塗布したのち、発光層4を塗布した後の乾燥温度を180℃にして発光層4を乾燥させた。その他に関しては、実施例1と同様の手法により有機EL素子100の試料を製造した。
【0099】
また、比較例2として、発光層4を塗布した後の乾燥温度を180℃にした以外は上記比較例1と同様の構成の試料を用意した。
【0100】
実施例5および比較例2を初期輝度2400cd/m2にて室温定電流駆動した結果、実施例5では輝度半減寿命LT50が215時間で駆動中に短絡することはなかったのに対して、比較例2では半減寿命に達する前に20時間で素子が短絡して発光が得られなくなった。比較例2では高温乾燥による発光層4の結晶化が起こったために素子が短絡しやすくなったのに対して、実施例5では添加した低分子材料が高分子の結晶化を阻害するように働くために、高温乾燥を行っても結晶化せず短絡も起こらなかった。また、実施例5は実施例1よりも長寿命化しており、高温乾燥による膜中残存溶媒濃度の低下効果による長寿命化が確認された。
【0101】
(実施例6)
本実施例では、高分子材料に加えられた低分子材料のHOMO-LUMOギャップが発光エネルギーよりも小さい場合について効率を調べた。具体的には、
本実施例では、発光層4に含まれる低分子材料として下記の化学式21で表されるフラーレンC60を用い、高分子材料と低分子材料との重量混合比を10:1として、実施例1と同様の手法により有機EL素子100の試料を製造した。
【0102】
【化21】

化学式21で示されるフラーレンC60のHOMO-LUMOギャップは1.7eVと発光エネルギーよりも小さい。実施例1の単位電流密度当りの最大発光効率をI1(cd/A)、本実施例の最大発光効率をI6(cd/A)とした時のI6/I1の値は0.45となった。すなわち、HOMO-LUMOギャップの小さな材料を添加すると発光層4において放射された光が低分子材料で吸収されてしまうため効率が低下することがわかった。
【0103】
このように、発光層4において放射された光が低分子材料で吸収されて効率が低下するため、実施例1等のように、発光層4に含まれる低分子材料のHOMO-LUMOギャップが発光層4より放射される光の発光エネルギーよりも大きいことが望ましいと言える。
【0104】
(実施例7)
本実施例では、高分子材料に加えられた低分子材料の濃度を変化させた場合の影響について調べた。
【0105】
具体的には、実施例1において発光層4における低分子材料の濃度を変化させた様々な試料を製造した。そして、それぞれの試料の最大発光効率をI(cd/A)、低分子材料濃度が0重量%である比較例1の最大発光効率をI0(cd/A)とした場合のI/I0の変化を調べた。その結果、図3に示すグラフが得られた。
【0106】
この図に示されるように、1重量%以上で0重量%の時より効率が大きくなるが、50重量%以上では逆に0重量%の時より効率が小さくなったことから、1重量%以上50重量%未満の濃度が望ましいと言える。
【0107】
(他の実施形態)
上記実施形態では、有機酸やエーテル化合物による表面処理によって難溶化層3aを形成することで表面難溶化を図りつつ、低分子ホール輸送層3の上に高分子材料と低分子材料の混合によって構成された発光層4を配置した構造としたが、これはより良い組み合わせを示したものである。このため、難溶化層3aを形成せずに、単に低分子ホール輸送層3の上に高分子材料と低分子材料の混合によって構成された発光層4を配置した構造としても良い。
【符号の説明】
【0108】
1 基板
2 ホール注入電極
3 低分子ホール輸送層
3a 難溶化層
4 発光層
5 電子注入層
6 金属缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板(1)と、
前記電極基板(1)の上に形成されたホール注入電極(2)と、
前記ホール注入電極(2)の上に形成され、低分子材料にて構成された低分子ホール輸送層(3)と、
前記低分子ホール輸送層(3)の上に形成され、高分子材料と低分子材料の混合にて構成された発光層(4)と、
前記発光層(4)の上に形成された電子注入電極(5)と、を有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記発光層(4)が塗布法で形成され、前記低分子ホール輸送層(3)が真空蒸着法で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記発光層(4)に含まれる低分子材料のHOMO-LUMOギャップが、該発光層(4)より放射される光の発光エネルギーよりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記発光層(4)に含まれる前記低分子材料が、該発光層(4)を構成する前記高分子材料と前記低分子材料の総量のうちの1重量%以上50重量%未満とされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記発光層(4)に含まれる前記低分子材料がホール輸送性材料や電子輸送性材料もしくは両方であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記発光層(4)にさらに発光性色素が添加されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記低分子ホール輸送層(3)の表面に、該低分子ホール輸送層(3)の表面がエーテル化合物もしくは有機酸で表面処理されて形成された難溶化層(3a)が備えられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記低分子ホール輸送層(3)のうち、前記発光層(4)と接する部分は難溶化層(3a)になっており、それ以外の部分は前記低分子材料のみからなる層であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記エーテル化合物が該エーテル化合物に含まれる炭素原子数が5以上15以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記エーテル化合物が化学式1もしくは化学式2
(化1) R1−O−R2
(化2) R1−O−R2−O−R3
で示される化合物で、R1、R2、R3が炭素原子数2以上6以下のアルキル基であることを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記エーテル化合物の沸点が50℃以上かつ250℃以下であることを特徴とする請求項10に記載の有機EL素子。
【請求項12】
前記エーテル化合物がジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の有機EL素子。
【請求項13】
前記有機酸がスルホン酸化合物、カルボン酸化合物、ヒドロキシ化合物、チオール化合物、エノール化合物、もしくは有機リン酸化合物であることを特徴とする請求項7または8に記載の有機EL素子。
【請求項14】
前記難溶化層(3a)の膜厚が10nm以下であることを特徴とする請求項7ないし13のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項15】
前記低分子ホール輸送層(3)を構成する前記低分子材料のガラス転移点、ガラス転移点がない場合は融点が120℃以上であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項16】
前記低分子ホール輸送層(3)を構成する前記低分子材料の真空度1Pa時の昇華温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項17】
前記低分子ホール輸送層(3)を構成する前記低分子材料がトリフェニルアミン誘導体材料であることを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1つに記載の有機EL素子。
【請求項18】
前記トリフェニルアミン誘導体材料の構造が対称中心を有することを特徴とする請求項17に記載の有機EL素子。
【請求項19】
前記トリフェニルアミン誘導体材料がスターバーストアミンであることを特徴とする請求項18に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−192587(P2010−192587A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33935(P2009−33935)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】