説明

有機EL素子

【課題】光取り出し側の電極にシート抵抗の低い金属膜を用いた上で、該金属膜による共振効果を抑制した白色発光の有機EL素子を提供する。
【解決手段】金属膜からなる光取り出し側電極4と封止膜6との間に、可視光における透過率を向上させる光学調整層5を配置し、該光学調整層5の光路長を特定の範囲に設定することにより、光取り出し側電極4における共振効果を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振効果を抑制した有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は発光層を含む有機化合物層を2つの電極により挟持する構造からなり、薄膜で自発光を特徴とすることから表示装置や照明を用途とした研究開発が進められている。
【0003】
有機EL素子の膜厚は光の波長以下のため、素子構造に応じた光の共振効果が強く発現する。特許文献1では、単色発光素子において、光取り出し側の電極に光透過性の金属膜を用いた共振器構造の導入により発光効率の向上を達成している。しかしながら、白色を呈する発光層を有する有機EL素子に共振器構造を用いると、特定の波長帯域のみ発光強度が高まるため、適切な白色を示すことができないという課題がある。白色有機EL素子にRGBのカラーフィルターを通して色の3原色を示す表示装置の場合、共振波長とは異なる発光色の発光効率が著しく低下するため、表示装置の消費電力増大を招く。
【0004】
前記課題の解決手法として、特許文献2に示されるように光取り出し側の電極にITO、IZOのような透明電極を採用し、光取り出し側の電極における発光光の反射を無くすことで共振効果を抑える手法がある。しかしながら透明電極はシート抵抗が高いため、電源から離れるほど素子にかかる電圧が低下することになり、表示面内において輝度が異なるという問題が発生する。このような問題は、駆動回路が形成された基板とは逆側から光を取り出すトップエミッション方式で顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−109775号公報
【特許文献2】特開2008−243932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、光取り出し側の電極にシート抵抗の低い金属膜を用いた上で、該金属膜による共振効果を抑制した白色発光の有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、一対の電極間に、発光層を少なくとも有する有機化合物層が挟持され、白色発光を呈する有機EL素子において、
光取り出し側電極が光透過性の金属膜からなり、
前記光取り出し側電極と、前記電極よりも光取り出し側に配置された封止膜との間に、可視光における透過率を向上させる光学調整層が設けられており、
前記光学調整層が、少なくとも前記光取り出し側電極に接する位相調整層を有し、前記位相調整層の光路長をL1、共振抑制効果を求める中心波長をλ、前記発光層からの光が前記光取り出し側電極において反射する際の位相シフトをφ1[rad]、前記発光層からの光が前記光取り出し側電極を透過する際の位相シフトをφ2[rad]、前記発光層からの光が前記位相調整層を透過して前記位相調整層よりも光取り出し側の層において反射する際の位相シフトをφ3[rad]、前記位相調整層からの光が前記光取り出し側電極を透過する際の位相シフトをφ4[rad]、φ=φ1−(φ2+φ3+φ4)、mを0以上の整数、とすると、前記L1は下記式(I)を満たしていることを特徴とする有機EL素子である。
【0008】
式(I)
1>0
且つ、
(λ/16)×(8m+3−4φ/π)≦L1≦(λ/16)×(8m+5−4φ/π)
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、光取り出し側電極にシート抵抗の低い金属膜を用いた上で、該金属膜による共振効果が抑制されているため、低消費電力で適切な白色発光の有機EL素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機EL素子の第1の実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の第1の実施形態における光取り出し側電極の分光反射率を示す図である。
【図3】本発明の有機EL素子の第2の実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の第2の実施形態における光取り出し側電極の分光反射率を示す図である。
【図5】本発明の実施例1における発光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の実施例2における発光スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の実施例1及び2で使用するカラーフィルターの透過率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る有機EL素子の実施の形態について図面を参照して説明する。尚、本明細書で特に図示又は記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。また以下に説明する実施形態は、発明の1つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明の有機EL素子は白色発光を呈する有機EL素子であり、一対の電極間に、発光層を少なくとも有する有機化合物を挟持してなり、光取り出し側電極が光透過性の金属膜からなる。そして、該金属膜による共振効果を抑制するため、本発明においては、光取り出し側電極と封止膜との間に光学調整層が設けられている。光学調整層は、金属膜で形成された光取り出し側電極の可視光における透過率を向上させる作用を有する。本発明に係る光学調整層は、少なくとも光取り出し側電極に接して位相調整層を有し、該位相調整層の光路長L1が特定の範囲内になるように構成することで、上記した共振効果の抑制を図っている。
【0013】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の有機EL素子の第1の実施形態の構成を模式的に示す断面図である。本有機EL素子は、該素子が形成された基板とは逆側から光を取り出すトップエミッション方式の有機EL素子である。また、本実施形態は、光学調整層が位相調整層のみからなる構成である。
【0014】
本発明の有機EL素子は、駆動回路(図示省略)が形成された絶縁性の基板1上に反射率の高い電極2と、該電極2上に設けられた有機化合物層3と、該有機化合物層3の上に設けられた光透過性の金属膜からなる電極4とを有している。電極4が光取り出し側電極である。通常、電極2がアノード、電極4がカソードとなるが、逆の構成も可能である。
【0015】
基板1にはガラス基板もしくはSi基板が一般的に用いられる。電極2としては、発光効率向上の観点から反射性が高いことが好ましく、Mg,Al,Ag又はその合金などの反射性金属材料が挙げられる。また、電極2がアノードの場合には、正孔注入性の観点からITO,IZOといった仕事関数の高い材料と前記反射性金属材料との積層膜が用いられることも多い。
【0016】
有機化合物層3は有機EL層とも呼ばれ、発光層以外に、適宜、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層を含むことができる。各層には公知の材料を使用することができ、成膜手法も蒸着、転写、塗布等公知の成膜手法を用いることができる。尚、本発明の有機EL素子は白色発光を呈するが、単一で白色光を発光する発光層を用いても、単一光を発光する発光層を複数用いたものでもよい。また、白色とは青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の波長帯域である460nm,525nm,620nm近傍に発光強度を有する発光スペクトルを指す。
【0017】
電極4は光透過性の金属膜からなるが、材料としてはMg,Al,Ag又はその合金が挙げられる。電極4よりも光取り出し側には、空気中の酸素又は水分から有機EL素子を保護する封止膜6が設けられている。封止膜6は光の透過率が高く、防湿性に優れた部材が好ましく、例として窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜が挙げられる。封止膜6の形成方法としては、スパッタ法、CVD法等により形成することができる。尚、封止膜6の屈折率は材料にもよるが、概ね1.8から2.0である。
【0018】
電極4と封止膜6が直接積層され、電極4が金属膜で形成されている従来の有機EL素子では、電極2と電極4の間で共振構造が形成されるため、共振波長に応じた光が空気中に強く取り出される。例えば共振波長が赤色である長波長側に設定されている有機EL素子においては、発光層では白色を呈しているにも関わらず、実際に外部に取り出される光は赤色に近くなってしまう。このような有機EL素子をRGBのカラーフィルターを通して色の3原色を示す表示装置に適用すると、共振波長とは異なる緑色、青色の発光効率が著しく低下するため、表示装置の消費電力は増大する。
【0019】
前記課題を解決するために、本発明では、電極4と封止膜6との間に電極4における反射率を低下させることで共振効果を抑制する光学調整層5を設ける。光学調整層5は非金属からなる1層以上の層からなり、後述するように2層以上の複数層からなる場合、電極4側に高屈折率層を、封止膜7側に低屈折率層を配置した積層体からなるのが好適である。光学調整層5と封止膜6との間の屈折率差が大きいほど、光学調整層5に要する層数は少なくてよい。尚、高屈折率材料としては可視帯域波長において屈折率が2.0程度以上の材料を指し、TiO2,MoO3,WO3等が挙げられる。また、低屈折率材料としては可視波長帯域において屈折率が1.6程度以下の材料を指し、SiO2,MgF,LiF等が一般的に知られている。
【0020】
本実施形態においては光学調整層5が1層からなる場合を考える。共振効果を抑制する、即ち共振抑制効果を得るには電極4における反射光と光学調整層5より上部における反射光について、強度が等しく、位相が反転していることが望ましい。本実施形態においては、光学調整層5より上部における反射光とは光学調整層5と封止膜6との界面での反射光となる。ここで、強度に関しては光学調整層5と封止膜6との間における屈折率差を調整することで、電極4における反射光と光学調整層5より上部における反射光の強度を揃えることができる。また、波長λにおいて位相が反転する条件は下記式(1)と書ける。φ1は発光層からの発光が電極4において反射する際の位相シフト[rad]である。φ2は発光層からの発光が電極4を透過する際の位相シフト[rad]、φ3は光学調整層5と封止膜6との界面で反射する際の位相シフト[rad]、φ4は光学調整層5からの光が電極4を透過する時の位相シフト[rad]である。L1は光学調整層5の光路長であり、光学調整層5の膜厚に屈折率を乗じることで算出される。mは0以上の整数である。λは後述するように、共振効果の抑制を求める中心波長である。
【0021】
式(1)
φ1/2π−((φ2+φ3+φ4)/2π−2L1/λ)=(1/2)×(2m+1)
ここで、φ=φ1−(φ2+φ3+φ4)として簡便な形にしたものが下記式(2)である。
式(2)
φ/2π+2L1/λ=(1/2)×(2m+1)
上記式(2)を光路長L1の定義として表すと、L1は下記式(3)で示される。
式(3)
1=(2m+1−φ/π)×(λ/4)
【0022】
また、実際の有機EL素子では、正面の取り出し効率とトレードオフの関係にある視野角特性等も考慮すると、必ずしも上記膜厚と厳密に一致させる必要はない。具体的には、Lが式(3)を満たす値から±λ/16の値の範囲内の誤差があってもよい。よって、本発明において、光学調整層5が1層構成の場合、係る光学調整層3は、下記式(I)を満たしている。
【0023】
式(I)
1>0
且つ、
(λ/16)×(8m+3−4φ/π)≦L1≦(λ/16)×(8m+5−4φ/π)
【0024】
共振抑制効果を広帯域に作用させる上では、上記式(I)を満たす中で、Lが最小、即ちm=0であると好適である。よって、好適な有機EL素子は、下記式(I’)を満たすように、光学調整層5を設ければよい。
式(I’)
1>0
且つ、
(λ/16)×(3−4φ/π)≦L1≦(λ/16)×(5−4φ/π)
【0025】
共振効果は有機化合物層3から見た電極4側の反射率により決定されるため、本実施形態の電極4での反射率の計算結果を図2に示す。電極4としてAgを厚さ12nm、封止膜6としてSiNを用いた場合の結果を示す。従来例として光学調整層5が無い場合(Ag(12)/SiN)は、可視波長帯域において10乃至30%程度の反射率が存在し、長波長側に行くほど反射率は上がることが分かる。λを600nmとして、該波長を中心に共振効果を抑制することを目的とし、式(I)を満たすよう光学調整層5としてTiO2を厚さ35nm,170nmで用いた場合の反射率も図2に示す。変数の具体的な数値は下記表1に示すが、m=0でL1が式(I)を満たすのがTiO2の厚さが35nmの場合であり、m=1でL1が式(I)を満たすのがTiO2の厚さが170nmの場合である。図2より光学調整層5として厚さ35nmのTiO2を用いた場合(Ag(12)/TiO2(35)/SiN)、全波長において従来例よりも反射率が低下していることが分かる。一方、光学調整層5として厚さ170nmのTiO2を用いた場合(Ag(12)/TiO2(170)/SiN)、600nm近傍においては反射率が低下しているものの、短波長側においては従来例よりも反射率が上がっている。どちらも600nmにおける反射率を低下させる効果はあるものの、広帯域に反射率を低下させるにはm=0が好適であることが分かる。尚、本実施形態において反射率が10%以上存在しているのは、電極4における反射強度が光学調整層5と封止膜6との間における反射強度よりも高いため、電極4における反射光を完全には抑制できていないからである。尚、可視波長帯域とはおよそ400nm乃至700nmの波長帯域を示す。また、位相シフトや反射率計算は一般的な光学多層薄膜の計算により求めることができる(例えばPrinciples of Optics, Max Born and Emil Wolf, 1974参照)。
【0026】
【表1】

【0027】
〔第2の実施形態〕
図3は、本発明の有機EL素子の第2の実施形態の構成を模式的に示す断面図である。本実施形態も第1の実施形態と同様にトップエミッション方式の有機EL素子であるが、本実施形態では、光学調整層を2層構成としている点で第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と異なる構成について説明し、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略する。
【0028】
本実施形態においては光学調整層5が位相調整層7と反射調整層8とからなる。ここで、第1の実施形態における光学調整層5は、本実施形態における位相調整層7に相当する。即ち、本実施形態は、第1の実施形態の光学調整層5と封止膜6との間に、更に反射調整層8を設けた構成と言うことができる。よって、本実施形態に係る位相調整層7は、第1の実施形態の光学調整層5と同様に、式(I)を満たし、好ましくは式(I’)を満たす構成とする。また、本実施形態において、位相調整層7は屈折率が2.0程度以上の高屈折率材料で形成し、反射調整層8は屈折率が1.6程度以下の低屈折率材料で形成する。
【0029】
本実施形態における位相調整層7として高屈折率材料であるTiO2を、反射調整層8には低屈折率材料であるSiO2を用いた場合の共振抑制効果を示す。反射調整層8の光路長L2はλ=300nm乃至800nmに対して1/4λとする。反射調整層8の光路長L2を1/4λとすると、位相調整層7より上部における反射強度を広帯域に高められるため、目的とする波長λは可視波長帯域よりも広くとることができる。より具体的には反射調整層8の光路長L2は下記式(II)を満たすことが好ましい。反射調整層8の光路長L2は屈折率をn、膜厚をdとした時、n×dで示されるのであるから、下記L2を満たすように、反射調整層8の材料と膜厚を調整すればよい。但し、φ=0とする。
【0030】
式(II)
75≦L2≦200
【0031】
電極4として厚さ12nmのAgを、位相調整層7に厚さ30nmのTiO2を、反射調整層8に厚さ80nmのSiO2を、封止膜6としてSiNを用いた場合の、電極4での反射率の計算結果を図4に示す。共振効果は有機化合物層3から見た電極4側の反射率により決定される。本構成における光学調整層5各層の膜厚決定の流れを述べる。先ず、反射調整層8のSiO2(n=1.45)膜厚について前記式(II)を満たすよう80nmとした。反射調整層8の膜厚が決まると位相シフトφ[rad]が計算により求まるためλ=540nmにおいて式(I)を満たすよう位相調整層7のTiO2の膜厚を30nmと決定した。位相調整層7の各変数の具体的な数値は下記表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
図4より、本例の構成(Ag(12)/TiO2(30)/SiO2(80)/SiN)は、従来例として光学調整層5が無い場合(Ag(12)/SiN)よりも可視波長帯域において全体的に反射率が低下していることが分かる。
【0034】
本発明の有機EL素子は、表示装置に用いることができる。本実施形態に係る表示装置は、有機EL素子の発光を制御する制御回路をさらに有し、有機EL素子を例えば、パッシブ駆動或いはアクティブマトリクス駆動で発光させる。アクティブマトリクス駆動の場合、トランジスタやMIMなどのスイッチング素子を備えている。
【0035】
表示装置としては、テレビ受像機、パーソナルコンピュータの表示部に用いられる。他には、デジタルカメラやデジタルビデオカメラなどの撮像装置の表示部や電子ビューファインダに用いられてもよい。撮像装置は、撮像するための撮像光学系やCMOSセンサなどの撮像素子をさらに有している。その他に、表示装置としては、携帯電話の表示部、携帯ゲーム機の表示部等に用いられてもよいし、さらには、携帯音楽再生装置の表示部、携帯情報端末(PDA)の表示部、カーナビゲーションシステムの表示部に用いられてもよい。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
本実施例ではオレンジ色発光層と青色発光層を積層して白色発光とした有機EL素子を作製した。以下図1を参考に具体的な作製手順を示す。
【0037】
ガラスからなる駆動回路(図示省略)が形成された基板1上に電極2として、Alをスパッタリング法により形成し、フォトリソ法により電極形状にパターニングした。電極2をアノードとした。電極2上に設けられた有機化合物層3は正孔輸送層、オレンジ色発光層、青色発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。
【0038】
先ず、正孔輸送層としてNPBを蒸着法により成膜した。次いで、オレンジ色発光層としてはホストにNPBを用いて、発光ドーパントとしてDCM2、アシストドーパントとしてRubreneを共に蒸着法により成膜した。青色発光層にはホスト材料としてTBADNを用いて、発光ドーパントとしてTBP、アシストドーパントとしてNPBと共に蒸着法により成膜した。電子輸送層としてAlqを蒸着法により成膜し、さらに、電子注入層としてAlqとCsとを蒸着法により共に成膜した。
【0039】
上記有機化合物層の形成材料は以下の通りである。
NPB:N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(N,N’−di(1−naphthyl)−N,N’−diphenyl−benzidine)
DCM2:4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(9−ジュロリジル)エチニル−4H−ピラン
Rubrene:5,6,11,12−テトラフェニルテトラセン
TBADN:ターシャリー−ブチル置換ジナフチルアントラセン(tert−butyl substituted dinaphthylanthracene)
TBP:1,4,7,10−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレン(1,4,7,10−tetra−tert−butylperylene)
Alq:トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Tris(8−hydroxyquinolinato)aluminum)
【0040】
電極4(カソード)にはAgをMgと共に蒸着法により成膜した。Mgを微量にすることで、光学特性はAgを用いた時と変わらない結果となる。電極4の上には光学調整層5として、TiO2を35nmの厚さにスパッタ法により成膜し、封止膜6としてCVD法によりSiNを成膜した。
【0041】
また、比較例1として、光学調整層5を形成しない以外は上記と同様にして有機EL素子を作製した。
【0042】
図5は本実施例1及び比較例1の発光スペクトルを示したものである。比較例1が長波長側で共振効果が起きているため短波長側の発光強度が弱まっているのに対して、実施例1は可視波長帯域全体においてバランスよく発光している。実施例1と比較例1の有機EL素子について、図7で表された透過率特性を有するRGBのカラーフィルターを用いた表示装置を作製した場合の色再現範囲及び画像表示中の消費電流を表3に示す。
【0043】
色再現範囲は以下のように求められる。先ず、図7で表されるRGBのカラーフィルターの透過率特性と図5で表される白色有機EL素子の発光スペクトルによって、R,G,Bの各画素の発光スペクトルを求める。次に、R,G,Bの発光スペクトルそれぞれから、R,G,Bの各画素の色度を求める。そして、R,G,Bの各画素の色度を結んでできた三角形の面積を求める。この三角形の面積の、NTSC色度座標のR(0.67,0.33),G(0.21,0.71),B(0.14,0.08)の三角形の面積に対する比が色再現範囲である。色再現範囲は実施例1の方が5%広く、実施例1の方が総じて優れた表示装置であることが分かる。
【0044】
一方、消費電流は、R、G,Bの各画素を用いて、白色(D65)を表示する際に必要な電流を表している。消費電流はRGBそれぞれの発光画素に必要な消費電流と、その合計とを示すが、広帯域にバランス良く発光している実施例1の方が青色画素の必要電流が少なくて済むため、消費電流の合計は比較例1よりも18%少ない。
【0045】
【表3】

【0046】
(実施例2)
光学調整層として、実施例1の光学調整層を位相調整層7とし、さらに反射調整層8を設けて図3の構成とした以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。位相調整層7として電極4上に、厚さ30nmのTiO2をスパッタ法により成膜し、さらに反射調整層8として厚さ80nmのSiO2をスパッタ法により成膜し、封止膜6としてCVD法によりSiNを成膜した。光学調整層5以外の構成については、実施例1と同様にして作製した。
【0047】
図6は本実施例2及び、先に示した比較例1の発光スペクトルを示したものである。実施例2は共振効果の抑制により短波長側から長波長側まで可視波長帯域全体においてバランスよく発光している。一方、比較例1は共振効果により500乃至600nmにおける発光強度は強いものの、500nm以下もしくは600nm以上の発光強度が弱くなっている。
【0048】
実施例2の有機EL素子について、RGBのカラーフィルターを用いた表示装置を作製し、先に作製した比較例1の有機EL素子を用いた表示装置と色再現範囲、及び画像表示中の消費電流を比較したのが表4である。消費電流はRGBそれぞれの発光画素に必要な電流及びその合計を示すが、広帯域にバランス良く発光している実施例2の方が赤色及び青色画素の必要電流が少なくて済むため、消費電流は比較例1よりも23%少ない。また、色再現範囲は実施例2の方が5%広く、実施例2の方が総じて優れた表示装置であることが分かる。尚、色再現範囲は、消費電流は実施例1と同様の方法で算出あるいは測定した。
【0049】
【表4】

【符号の説明】
【0050】
2,4:電極、3:有機化合物層、5:光学調整層、6:封止膜、7:位相調整層、8:反射調整層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、発光層を少なくとも有する有機化合物層が挟持され、白色発光を呈する有機EL素子において、
光取り出し側電極が光透過性の金属膜からなり、
前記光取り出し側電極と、前記電極よりも光取り出し側に配置された封止膜との間に、可視光における透過率を向上させる光学調整層が設けられており、
前記光学調整層が、少なくとも前記光取り出し側電極に接する位相調整層を有し、前記位相調整層の光路長をL1、共振抑制効果を求める中心波長をλ、前記発光層からの光が前記光取り出し側電極において反射する際の位相シフトをφ1[rad]、前記発光層からの光が前記光取り出し側電極を透過する際の位相シフトをφ2[rad]、前記発光層からの光が前記位相調整層を透過して前記位相調整層よりも光取り出し側の層において反射する際の位相シフトをφ3[rad]、前記位相調整層からの光が前記光取り出し側電極を透過する際の位相シフトをφ4[rad]、φ=φ1−(φ2+φ3+φ4)、mを0以上の整数、とすると、前記Lは下記式(I)を満たしていることを特徴とする有機EL素子。
式(I)
1>0
且つ、
(λ/16)×(8m+3−4φ/π)≦L1≦(λ/16)×(8m+5−4φ/π)
【請求項2】
前記光学調整層が、前記位相調整層の光取り出し側に反射調整層を有し、前記反射調整層の光路長L2が、下記式(II)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
式(II)
75≦L2≦200
【請求項3】
前記光学調整層は低屈折率層と高屈折率層の積層体からなることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記有機EL素子が基板上に形成され、前記基板とは逆側から光を取り出すトップエミッション方式であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−51155(P2013−51155A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189110(P2011−189110)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】