説明

有機EL表示素子描画装置

【課題】 使用者が目的に応じて任意のパターンを有機EL表示素子に描くことができる有機EL表示素子描画装置を得る。
【解決手段】 使用者が有機EL表示素子1に所望のパターンを描くことができる有機EL表示素子描画装置であって、少なくとも1種の発光材料を含む発光層を有する有機EL表示素子1と、発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる波長の光をスポット光として照射することができ、該スポット光を有機EL表示素子1上で走査することにより、有機EL表示素子1に所望のパターンの表示領域を描くことができる光照射器具20とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が独自の文字やデザイン等を発光画像または発光文字として有機EL表示素子に付与することができ、例えばグリーティングカード等の作成に用いることができる有機EL表示素子の描画装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の有機EL表示素子においては、画素を形成し、画素を点滅させることにより文字や図形を表示している。有機EL表示素子を用いたカラーディスプレイにおいては、画素にRGBを割り当て、各画素を点滅することにより表示している。このような画素の点滅には、TFTなどのアクティブマトリックス駆動回路などが用いられている。
【0003】
特許文献1においては、このようなカラーディスプレイを製造する方法として、2種以上の発光材料を含有する発光層に、電磁波を照射し、発光材料の内の少なくとも1種を光変性させ、画素からの発光色を変化させることにより、マルチカラー有機EL表示素子を製造する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、有機EL表示素子を画用紙のように用いて、購入者が独自の文字やデザイン等を発光画像または発光文字などとして表示することについては、従来より具体的に提案されていない。
【特許文献1】特再公表1997−43874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、使用者(購入者)がその目的に応じて任意のパターンを有機EL表示素子に描くことができる有機EL表示素子描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用者が有機EL表示素子に所望のパターンを描くことができる有機EL表示素子描画装置であり、少なくとも1種の発光材料を含む発光層を有する有機EL表示素子と、発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる波長の光をスポット光として照射することができ、該スポット光を有機EL表示素子上で走査することにより、有機EL表示素子に所望のパターンの表示領域を描くことができる光照射器具とを備えることを特徴としている。
【0007】
本発明によれば、光照射器具から有機EL表示素子にスポット光を照射することにより、発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる。このため、光が照射されていない領域では、当該発光材料の発光が生じるのに対し、光が照射された領域では当該発光材料の発光が生じなくなり、照射領域と非照射領域で異なる発光を実現することができる。従って、光照射器具からのスポット光を有機EL表示素子上で走査することにより、あたかも紙の上に文字や模様を描くように所望のパターンを描くことができる。
【0008】
本発明における光照射器具は、例えば、筆記具形状を有したものとすることができる。光照射器具を筆記具形状にすることにより、筆記具で文字や模様を描く感覚で有機EL表示素子に所望のパターンを形成することができる。筆記具形状の光照射器具は、光照射のための電源を内蔵していることが好ましい。このような電源を内蔵することにより、光照射器具を筆記具と同様に自由に持ち運ぶことができ、コードなどに煩わらされることなく使用することができる。
【0009】
また、本発明における光照射器具は、パーソナルコンピュータからの出力信号により制御されるものであってもよい。例えば、光照射器具の光照射のオン・オフ及び走査をパーソナルコンピュータからの出力信号により制御することにより、電子化された画像データや文字データにより、有機EL表示素子の上にこれらの画像や文字を描くことができる。
【0010】
また、本発明においては、発光層に発光色の異なる2種以上の発光材料が含まれていることが好ましい。この場合、光照射器具からの照射光により特定の発光材料のみが選択的に発光能を失い、光が照射されたパターン領域において残りの発光材料による発光色が表示されることによって、有機EL表示素子にパターン領域が形成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、光照射器具から照射される光の波長及び/または強度を変えることにより、光が照射されたパターン領域における発光色を変えることができる。また、可撓性を有する表示素子とすることにより、グリーティングカードなど種々の用途に用いることができる。このような可撓性を有する有機EL表示素子は、可撓性を有する基板の上に素子を形成することにより、作製することができる。
【0012】
また、本発明における有機EL表示素子は、台紙または台座に取り付けられているものであってもよい。
【0013】
例えば、本発明に従い、所望の文字や画像等を描いた後、台紙や台座を取り付け、表示ディスプレイなどとして壁にかけたり、机の上に置いて用いることができる。また、予め台紙や台座を取り付けた状態で描画してもよい。
【0014】
本発明の他の局面に従う有機EL表示素子描画装置は、使用者が有機EL表示素子に所望のパターンを描くことができる有機EL表示素子描画装置であり、有機EL表示素子を載せる載置台と、有機EL表示素子の発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる波長の光をスポット光として照射することができる光照射手段とを備え、光照射手段から有機EL表示素子にスポット光を照射し、該スポット光を有機EL表示素子上で走査することにより、有機EL表示素子に所望のパターンの表示領域を描くことができることを特徴としている。
【0015】
上記本発明の他の局面に従う有機EL表示素子描画装置は、さらに好ましくは、光照射手段を載置台上の有機EL表示素子に対して相対的に移動させて光照射手段からのスポット光を有機EL表示素子上で走査するための移動制御手段と、該移動制御手段に移動制御信号を与えるための入力装置とをさらに備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用者がその目的に応じて任意のパターンを有機EL表示素子に描くことができる。従って、従来有機EL表示素子が用いられていなかった、グリーティングカードや、POPなどのような店頭表示ディスプレイなどの用途にも、幅広く用いることができる有機EL表示素子を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明に従う一実施例において用いられる有機EL表示素子を示す模式的断面図である。有機EL表示素子1は、陰極2の上に電子輸送層3を設け、その上に発光層4を設け、その上にホール輸送層5を設け、その上に陽極6を設けることにより構成されている。陰極1は、Al膜から形成されている。電子輸送層3は、Alq3(トリス−(8−キノリラト)アルミニウム(III))から形成されている。発光層4は、ホスト材料としてNPB(N,N’−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン)を用い、ホスト材料中に青色発光ドーパント7、緑色発光ドーパント8、及び赤色発光ドーパント9を含有させることにより形成されている。青色発光ドーパント7としては、TPP(トリアリルピラゾリン誘導体)が用いられており、緑色発光ドーパント8としては、クマリンが用いられており、赤色発光ドーパント9としては、ルブレンが用いられている。発光層4には、このように青色発光ドーパント7、緑色発光ドーパント8、及び赤色発光ドーパント9が含有されているので、この状態で発光させると青色、緑色、及び赤色の発光が混じり、白色に発光する。
【0019】
ホール輸送層5は、NPBから形成されている。陽極6はITO(インジウム錫酸化物)からなる透明導電膜から形成されている。
【0020】
図2は、有機EL表示素子に、波長409nmのGaNレーザの光を照射した状態を示す模式的断面図である。図2(a)に示すように、有機EL表示素子1に、スポット光10として、上記の波長409nmの光を照射すると、図2(b)に示すように、照射領域1において、青色ドーパント7及び緑色発光ドーパント8が光変性して発光能を失い、赤色発光ドーパント9のみが残る。従って、照射領域11においては、赤色に発光する。これに対して、非照射領域11においては、青色発光ドーパント7、緑色発光ドーパント8、及び赤色発光ドーパント9がいずれも発光能を有しているので、白色に発光する。従って、照射領域11においては赤色に発光し、非照射領域においては白色に発光する有機EL表示素子が得られる。従って、スポット光10を有機EL表示素子上で所望のパターンとなるように走査することにより、白地に赤色の発光パターンが描かれた有機EL表示素子とすることができる。
【0021】
図3は、波長430nmのスポット光13を有機EL表示素子に照射した状態を示す模式的断面図である。430nmの照射光13としては、GaAsレーザの第2高調波を用いている。図3(a)に示すように、波長430nmのスポット光13を照射することにより、図3(b)に示すように、照射領域11においては、緑色発光ドーパント8が光変性して発光能を失う。従って、照射領域11においては、青色発光ドーパント7及び赤色発光ドーパント9のみが発光するため、紫色に発光する。このため、照射領域11においては紫色に発光し、非照射領域12においては、白色に発光する。従って、有機EL表示素子1上をスポット光13で所望のパターンとなるように照射することにより、白地の上に紫色で所望のパターンを描いた有機EL表示素子を得ることができる。
【0022】
図4は、有機EL表示素子1に、波長532nmのスポット光14を照射した状態を示す模式的断面図である。波長532nmの光としては、YAGレーザの照射光を用いている。図4(a)に示すように、有機EL表示素子1に、波長532nmのスポット光14を照射することにより、図4(b)に示すように、照射領域11においては、赤色発光ドーパント9が光変性し、発光能を失う。従って、青色発光ドーパント7及び緑色発光ドーパント8のみが発光するので、照射領域11においては、青緑色に発光する。また、非照射領域12においては白色に発光する。従って、有機EL表示素子1上を、スポット光14で所望のパターンとなるように走査することにより、白地に青緑色の所望の発光パターンが形成された有機EL表示素子を得ることができる。
【0023】
図5は、本発明において用いることができる光照射器具の一例を示す断面図である。光照射器具20の内部には、半導体レーザ21が設けられており、半導体レーザ21には、電池24が接続されている。半導体レーザ21と電池24の間には制御回路(スイッチ)23が設けられており、制御回路23により半導体レーザ21のオン・オフが制御される。半導体レーザ21の光照射側には、レンズ群22が設けられており、これらにより集光される。照射光25は、レンズ群22によりレンズ群22の近傍に集光されているので、レンズ群22から離れると照射光が拡散し、照射強度が弱まるように設定されている。従って、使用者にとって使い易いように設計されている。
【0024】
図6は、本発明において用いることができる光照射器具の他の例を示す断面図である。光照射器具30には、光ファイバー31が挿入されている。光ファイバー31の一方端はレーザ光源33に接続されており、レーザ光源33の光は、光ファイバー31を通り、他方端である先端部31aから出射される。光照射器具30には、光ファイバー31中を伝送される光を遮断するための遮断スイッチ32が設けられている。従って、光ファイバー31の先端部31aからの光の出射は、遮断スイッチ32によりオン・オフを制御することができる。
【0025】
光ファイバー31の先端部31aから離れると、照射光は拡散し、照射強度が弱まるので、使用者にとって使い易い設計となっている。
【0026】
図7は、本発明に従い有機EL表示素子に、光照射器具20を用いて光を照射し、所望のパターンを形成する状態を示す斜視図である。図7に示すように、有機EL表示素子1に光照射器具20からスポット光を照射し、このスポット光を有機EL表示素子1上で走査することにより、所望のパターン領域を描くことができる。
【0027】
図8は、パーソナルコンピュータからの出力信号により光照射器具の光照射及び走査を制御してパターン領域を形成する装置を示す模式図である。図8に示すように、XYプロッターなどの移動制御装置41に、光照射部を設け、この光照射部から載置台としての台紙40の上に載せられた有機EL表示素子1の上にスポット光を照射し、このスポット光を所望のパターン領域となるように走査する。装置41は、入力装置としてのパーソナルコンピュータ42からの出力信号により、X方向及びY方向の移動が制御可能とされており、モニター43上に表示された画像を描くように、光照射部を有機EL表示素子1上で走査することができる。従って、モニター43に表示された画像を、有機EL表示素子1上に描くことができる。
【0028】
本発明において、有機EL表示素子として、可撓性を有するものを用いることにより、所望のパターンの発光画像が表示された可撓性を有する有機EL表示素子とすることができる。
【0029】
以上のように、本発明に従えば、従来にはないビジュアル効果を有する有機EL表示素子を作製することができ、案内状、挨拶状、グリーティングカードや店頭表示の発光ディスプレイなどとして有用な有機EL表示素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明における有機EL表示素子の一例を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従い有機EL表示素子に光照射器具から波長409nmのスポット光を照射した状態を示す模式的断面図。
【図3】本発明に従い有機EL表示素子に光照射器具から波長430nmのスポット光を照射した状態を示す模式的断面図。
【図4】本発明に従い有機EL表示素子に光照射器具から波長532nmのスポット光を照射した状態を示す模式的断面図。
【図5】本発明における光照射器具の一例を示す断面図。
【図6】本発明における光照射器具の他の例を示す模式的断面図。
【図7】本発明に従い有機EL表示素子に光照射器具からスポット光を照射する状態を示す模式図。
【図8】本発明に従いパーソナルコンピュータからの出力信号により光照射器具の光照射及び走査を制御して有機EL表示素子にスポット光を照射する状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0031】
1…有機EL表示素子
2…陰極
3…電子輸送層
4…発光層
5…ホール輸送層
6…陽極
7…青色発光ドーパント
8…緑色発光ドーパント
9…赤色発光ドーパント
10…波長409nmのスポット光
11…照射領域
12…非照射領域
13…波長430nmのスポット光
14…波長532nmのスポット光
20,30…光照射器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が有機EL表示素子に所望のパターンを描くことができる有機EL表示素子描画装置であって、
少なくとも1種の発光材料を含む発光層を有する有機EL表示素子と、
前記発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる波長の光をスポット光として照射することができ、該スポット光を前記有機EL表示素子上で走査することにより、前記有機EL表示素子に所望のパターンの表示領域を描くことができる光照射器具とを備えることを特徴とする有機EL表示素子描画装置。
【請求項2】
前記光照射器具が、筆記具形状を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項3】
前記筆記具形状の光照射器具が、光照射のための電源を内蔵することを特徴とする請求項2に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項4】
前記光照射器具の光照射及び走査が、パーソナルコンピュータからの出力信号により制御されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項5】
前記発光層に発光色の異なる2種以上の発光材料が含まれており、前記光照射器具からの照射光により特定の発光材料のみが選択的に発光能を失い、光が照射された所望のパターン領域において残りの発光材料による発光色が表示されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項6】
前記光照射器具から照射される光の波長及び/または強度を変えることにより、光が照射された所望のパターン領域における発光色を変えることを特徴とする請求項5に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項7】
前記有機EL表示素子が可撓性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項8】
前記有機EL表示素子が、台紙または台座に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機EL表示素子描画装置。
【請求項9】
使用者が有機EL表示素子に所望のパターンを描くことができる有機EL表示素子描画装置であって、
有機EL表示素子を載せる載置台と、
前記有機EL表示素子の発光層に含まれる少なくとも1種の発光材料を光変性させて発光能を失わせることができる波長の光をスポット光として照射することができる光照射手段とを備え、
前記光照射手段から前記有機EL表示素子にスポット光を照射し、該スポット光を前記有機EL表示素子上で走査することにより、前記有機EL表示素子に所望のパターンの表示領域を描くことができることを特徴とする有機EL表示素子描画装置。
【請求項10】
前記光照射手段を前記載置台上の前記有機EL表示素子に対して相対的に移動させて前記光照射手段からのスポット光を前記有機EL表示素子上で走査するための移動制御手段と、
前記移動制御手段に移動制御信号を与えるための入力装置とをさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の有機EL表示素子描画装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−237389(P2006−237389A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51589(P2005−51589)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】