説明

有機EL表示装置

【課題】正孔輸送層の膜厚が不均一な有機EL素子で十分な発光効率を実現可能とする。
【解決手段】本発明の有機EL表示装置は、絶縁基板SUBと、前記絶縁基板SUBの一主面上に配置されると共に貫通孔が設けられた隔壁絶縁層PIと、前記絶縁基板SUBの前記主面上であって前記貫通孔の位置に配置された陽極PEと、前記貫通孔内に配置され、発光層EMTと、前記陽極PEと前記発光層EMTとの間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより薄い正孔輸送層HTLと、前記正孔輸送層HTLと前記発光層EMTとの間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより厚い電子ブロッキング層EBLとを含んだ有機物層ORGと、前記有機物層ORGを被覆した陰極CEとを備えた有機EL素子OLEDとを具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置の製造プロセスでは、発光層などを形成する場合、高分子有機材料を含有した溶液を塗布してなる塗膜を乾燥するという方法を採用することがある。この方法では、例えば、まず、各画素に対応して貫通孔を有する隔壁絶縁層を基板上に形成する。次に、これら貫通孔を液溜めとして利用して、インクジェット法などにより、高分子有機材料を含有したインクでそれら貫通孔を満たす。その後、貫通孔内の液膜を乾燥することにより、それら液膜から溶媒を除去する。以上のようにして、高分子有機材料からなる高分子発光層を得る。
【0003】
ところで、発光層と陽極との間には、特許文献1に記載されるように、正孔輸送層や電子ブロッキング層を配置することがある。この構造を採用した場合、発光層や電子ブロッキング層は、ほぼ均一な厚さに形成することができる。しかしながら、正孔輸送層は、周縁部が中央部と比較してより薄くなり易い。
【0004】
正孔輸送層が先の形状を有している有機EL素子では、周縁部に電流が集中するのに加え、周縁部におけるキャリアバランスが設計値からずれる。そのため、この有機EL素子では発光効率が不十分となる。
【特許文献1】特開2000−30868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、正孔輸送層の膜厚が不均一な有機EL素子で十分な発光効率を実現可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、絶縁基板と、前記絶縁基板の一主面上に配置されると共に貫通孔が設けられた隔壁絶縁層と、前記絶縁基板の前記主面上であって前記貫通孔の位置に配置された陽極と、前記貫通孔内に配置され、発光層と、前記陽極と前記発光層との間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより薄い正孔輸送層と、前記正孔輸送層と前記発光層との間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより厚い電子ブロッキング層とを含んだ有機物層と、前記有機物層を被覆した陰極とを備えた有機EL素子とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、正孔輸送層の膜厚が不均一な有機EL素子で十分な発光効率を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一態様に係る表示装置を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示装置の部分断面図である。図3は、図2の表示装置が含むアレイ基板を拡大して示す部分断面図である。なお、図2では、表示装置を、その表示面,すなわち前面又は光出射面,が下方を向き、背面が上方を向くように描いている。
【0010】
図1及び図2の表示装置は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した下面発光型の有機EL表示装置である。この有機EL表示装置は、表示パネルDPと、映像信号線ドライバXDRと、走査信号線ドライバYDRとを含んでいる。
【0011】
表示パネルDPは、アレイ基板ASと、封止基板CSと、それらの間に介在したシール層SSとを含んでいる。アレイ基板ASと封止基板CSとは向き合っている。シール層SSは、枠形状を有しており、アレイ基板ASと封止基板CSとの間に密閉空間を形成している。この密閉空間は、不活性ガスで満たされている。
【0012】
アレイ基板ASは、例えば、ガラス基板などの絶縁基板SUBを含んでいる。
基板SUB上には、図2に示すように、アンダーコート層UCとして、例えば、SiNx層とSiOx層とが順次積層されている。
【0013】
アンダーコート層UC上には、例えばソース及びドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層SC、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成され得るゲート絶縁膜GI、及び例えばMoWなどからなるゲートGが順次積層されており、それらは電界効果トランジスタであるトップゲート型の薄膜トランジスタを構成している。この例では、これら薄膜トランジスタは、pチャネル薄膜トランジスタであり、図1の駆動制御素子DR及びスイッチSWa乃至SWcとして利用している。
【0014】
ゲート絶縁膜GI上には、図1に示す走査信号線SL1及びSL2と、図示しない下部電極とがさらに配置されている。走査信号線SL1及びSL2並びに下部電極は、ゲートGと同一の工程で形成可能である。
【0015】
走査信号線SL1及びSL2は、図1に示すように、各々が画素PXの行方向(X方向)に延びており、画素PXの列方向(Y方向)に交互に配列している。これら走査信号線SL1及びSL2は、走査信号線ドライバYDRに接続されている。
【0016】
下部電極は、駆動制御素子DRのゲートに接続されている。下部電極は、後述するキャパシタCの一方の電極として利用する。
【0017】
ゲート絶縁膜GI、ゲートG、走査信号線SL1及びSL2、並びに下部電極は、図2に示す層間絶縁膜IIで被覆されている。層間絶縁膜IIは、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる。この層間絶縁膜IIのうち下部電極上の部分は、キャパシタCの誘電体層として利用する。
【0018】
層間絶縁膜II上には、図2に示すソース電極SE及びドレイン電極DE、図1に示す映像信号線DL、電源線PSL、並びに図示しない上部電極が配置されている。これらは、同一工程で形成可能であり、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有している。
【0019】
ソース電極SE及びドレイン電極DEは、層間絶縁膜IIに設けられたコンタクトホールを介して薄膜トランジスタのソース及びドレインに電気的に接続されている。
【0020】
映像信号線DLは、図1に示すように、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。これら映像信号線DLの各々の一端は、映像信号線ドライバXDRに接続されている。
【0021】
電源線PSLは、この例では、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。また、この例では、電源線PSLは、映像信号線ドライバXDRに接続されている。
【0022】
上部電極は、電源線PSLに接続されている。上部電極は、キャパシタCの他方の電極として利用する。
【0023】
ソース電極SE、ドレイン電極DE、映像信号線DL、電源線PSL、及び上部電極は、パッシベーション膜PSで被覆されている。パッシベーション膜PSは、例えばSiNxなどからなる。
【0024】
パッシベーション膜PS上には、前面電極として、光透過性の画素電極PEが形成されている。画素電極PEは、パッシベーション膜PSに設けた貫通孔を介して、スイッチSWaのドレイン電極DEに接続されている。
【0025】
画素電極PEは、陽極である。画素電極PEの材料としては、例えば、ITO(indium tin oxide)などの透明導電性酸化物を使用することができる。
【0026】
パッシベーション膜PS上には、さらに、図2に示す隔壁絶縁層PIが形成されている。隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられている。
【0027】
隔壁絶縁層PIは、例えば、有機絶縁層である。隔壁絶縁層PIは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。隔壁絶縁層PIには、無機絶縁層と有機絶縁層との二層構造を採用してもよい。
【0028】
画素電極PE上には、正孔輸送層HTLと電子ブロッキング層EBLと発光層EMTとを含んだ有機物層ORGが配置されている。発光層EMTは、例えば、平均分子量が1000乃至100000程度のルミネセンス性有機高分子化合物を含んだ高分子発光層である。正孔輸送層HTLは、そのイオン化エネルギーが画素電極の仕事関数と発光層EMTのイオン化エネルギーとの間にある。電子ブロッキング層EBLは、その電子親和力が発光層EMT及び正孔輸送層HTLの電子親和力と比較してより小さい。正孔輸送層HTL、電子ブロッキング層EBL及び発光層EMTの形状等については、後で詳しく説明する。
【0029】
隔壁絶縁層PI及び有機物層ORGは、図2に示すように、背面電極である対向電極CEで被覆されている。対向電極CEは、画素PX間で互いに接続された共通電極であり、この例では例えばアルミニウムからなる光反射性の陰極である。対向電極CEは、例えば、パッシベーション膜PSと隔壁絶縁層PIとに設けられたコンタクトホールを介して、映像信号線DLと同一の層上に形成された電極配線(図示せず)に電気的に接続されている。各々の有機EL素子OLEDは、画素電極PE、有機物層ORG及び対向電極CEで構成されている。
【0030】
画素PXの各々が含む画素回路は、この例では、駆動制御素子(駆動トランジスタ)DRと、出力制御スイッチSWaと、映像信号供給制御スイッチSWbと、ダイオード接続スイッチSWcと、キャパシタCとを含んでいる。上記の通り、この例では、駆動制御素子DR及びスイッチSWa乃至SWcはpチャネル薄膜トランジスタである。また、この例では、映像信号供給制御スイッチSWbとダイオード接続スイッチSWcとは、駆動制御素子DRのドレインと映像信号線DLと駆動制御素子DRのゲートとの接続状態を、それらが互いに接続された第1状態と、それらが互いから遮断された第2状態との間で切り替えるスイッチ群を構成している。
【0031】
駆動制御素子DRと出力制御スイッチSWaと有機EL素子OLEDとは、第1電源端子ND1と第2電源端子ND2との間で、この順に直列に接続されている。この例では、第1電源端子ND1は高電位電源端子であり、第2電源端子ND2は低電位電源端子である。
【0032】
出力制御スイッチSWaのゲートは、走査信号線SL1に接続されている。映像信号供給制御スイッチSWbは映像信号線DLと駆動制御素子DRのドレインとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。ダイオード接続スイッチSWcは駆動制御素子DRのゲートとドレインとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。
【0033】
キャパシタCは、駆動制御素子DRのゲートと定電位端子ND1’との間に接続されている。定電位端子ND1’は、例えば第1電源端子ND1に接続する。
【0034】
映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、この例では、アレイ基板AS上に配置されている。すなわち、この例では、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRをCOG(chip on glass)実装している。映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG実装する代わりに、TCP(tape carrier package)実装してもよい。
【0035】
この有機EL表示装置で画像を表示する場合、例えば、走査信号線SL1及びSL2の各々を線順次駆動する。そして、或る行の画素PXに映像信号を書き込む書込期間では、まず、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL1にスイッチSWaを開く(OFF)走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PXが接続された走査信号線SL2にスイッチSWb及びSWcを閉じる(ON)走査信号を電圧信号として出力する。この状態で、映像信号線ドライバXDRから、先の画素PXが接続された映像信号線DLに映像信号を電流信号としてそれぞれ出力し、駆動制御素子DRのゲート−ソース間電圧を、先の映像信号に対応した大きさに設定する。その後、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL2にスイッチSWb及びSWcを開く(OFF)走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PXが接続された走査信号線SL1にスイッチSWaを閉じる(ON)走査信号を電圧信号として出力する。
【0036】
スイッチSWaを閉じ(ON)ている有効表示期間では、有機EL素子OLEDには、駆動制御素子DRのゲート−ソース間電圧に対応した大きさの駆動電流が流れる。有機EL素子OLEDは、駆動電流の大きさに対応した輝度で発光する。
【0037】
この有機EL表示装置において、正孔輸送層HTLは、周縁部が中央部と比較してより薄く、例えば凸レンズ状の形状を有している。電子ブロッキング層EBLは、周縁部が中央部と比較してより厚く、例えば凹レンズ状の形状を有している。発光層EMTの厚さはほぼ一定である。このような構造によると、画素PXが滅点として視認され難くなる。これについて、図2及び図3を図4及び図5と対比しながら説明する。
【0038】
図4は、比較例に係る表示装置の部分断面図である。図5は、図4の表示装置が含むアレイ基板を拡大して示す部分断面図である。
【0039】
図4の表示装置は、アクティブマトリクス駆動方式を採用した下面発光型の有機EL表示装置である。この表示装置は、図3のアレイ基板の代わりに図5のアレイ基板ASを使用していること以外は、図1及び図2の表示装置と同様の構造を有している。また、図5のアレイ基板ASは、電子ブロッキング層EBLの厚さが略一定であること以外は、図3のアレイ基板ASとほぼ同様の構造を有している。
【0040】
図4及び図5の構造では、電極PE及びCE間に電圧を印加すると、有機物層ORGの周縁部には、中央部と比較してより高い密度で電流が流れる。この構造では、電子ブロッキング層EBLの厚さは略一定であるので、例えば発光層EMTの中央部においてキャリアバランスが最適化されているとすると、発光層EMTの周縁部ではキャリアバランスは最適値からずれることとなる。そのため、この有機EL素子OLEDで十分な発光効率を実現することは難しい。
【0041】
図2及び図3の構造では、電子ブロッキング層EBLは周縁部が中央部と比較してより厚いので、有機物層ORGの周縁部及び中央部における密度電流が図4及び図5の構造ほど大きく異なることはない。加えて、この構造は、電流密度が高い周縁部において電子ブロッキング層EBLが厚いので、電子ブロッキング層EBLの平均厚さがこれと等しく且つ膜厚が均一な構造と比較して、再結合の確立がより高い。したがって、図2及び図3の構造を採用すると、十分な発光効率を実現することができる。
【0042】
正孔輸送層HTLの周縁部における厚さDp1は、通常、0乃至200nmの範囲内にある。正孔輸送層HTLの中央部における厚さDc1は、通常、5nm乃至100nmの範囲内にある。厚さDp1と厚さDc1との比Dp1/Dc1は、通常、0乃至40の範囲内にある。
【0043】
電子ブロッキング層EBLの周縁部における厚さDp2は、例えば、10nm乃至100nmの範囲内とする。電子ブロッキング層EBLの中央部における厚さDc2は、例えば、0乃至50nmの範囲内とするか、又は、5nm乃至100nmの範囲内とする。厚さDc2と厚さDp2との比Dc2/Dp2は、例えば、0乃至5の範囲内とするか、又は、0より大きく且つ10以下とする。
【0044】
図6は、図1及び図2に示す表示装置の製造に利用可能な方法の一例を概略的に示す平面図である。図1及び図2の有機EL表示装置は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0045】
まず、図1及び図2のアレイ基板ASから有機物層ORG及び対向電極CEを省略した構造を作製する。
【0046】
次に、隔壁絶縁層PIの表面に、例えばCF4・O2などのプラズマガスを用いた撥液処理を施す。これにより、隔壁絶縁層PIの表面を、正孔輸送層HTLの材料を有機溶剤に溶解又は分散させてなる第1溶液に対して撥液性とする。
【0047】
次いで、隔壁絶縁層PIの各貫通孔(液溜め)に、第1溶液をインクジェット法によって供給する。続いて、塗膜を加熱して、塗膜から有機溶剤を除去する。このようにして、正孔輸送層HTLを形成する。
【0048】
次に、液溜めに、電子ブロッキング層EBLの材料を有機溶剤に溶解又は分散させてなる第2溶液をインクジェット法によって供給する。第2溶液の供給は、図6に示すように、第2溶液の液滴DRPが正孔輸送層HTLの周縁部上のみに形成されるように行う。続いて、液滴DRPからなる塗膜を加熱して、これら塗膜同士を繋げると共に、塗膜から有機溶剤を除去する。このようにして、電子ブロッキング層EBLを形成する。
【0049】
その後、液溜めに、発光層EMTの材料を有機溶剤に溶解又は分散させてなる第3溶液をインクジェット法によって供給する。その後、塗膜を仮焼成に供し、続いて、塗膜をより高い温度に加熱する本焼成に供する。このようにして、発光層EMTを形成する。
【0050】
さらに、発光層EMT上に、例えば真空蒸着法により対向電極CEを形成する。以上のようにして、アレイ基板ASを完成する。
【0051】
その後、不活性雰囲気中で、アレイ基板ASと封止基板CSとをシール層SSを介して貼り合せることにより表示パネルDPを形成する。さらに、表示パネルDPに映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRを実装することにより、有機EL表示装置を完成する。
【0052】
この方法では、図6に示すように、液滴DRPを正孔輸送層HTLの周縁部上のみに形成する。そのため、図2及び図3に示すように、周縁部が中央部と比較してより厚い電子ブロッキング層EBLを得ることができる。なお、正孔輸送層HTLの形状は、液滴DRPの寸法、配置、加熱条件などに応じて変更可能である。
【0053】
本態様では、下面発光型の有機EL表示装置を説明したが、本発明は上面発光型の有機EL表示装置にも適用することができる。また、アレイ基板と封止基板CSとシール層SSとに囲まれた空間には、乾燥剤を配置してもよい。或いは、この空間には、樹脂を充填してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例)
本例では、図1及び図2に示す有機EL表示装置を以下の方法により作製した。
【0055】
まず、図2のアレイ基板ASから有機物層ORG及び対向電極CEを省略した構造を作製した。ここでは、基板SUBとしてガラス基板を使用し、画素電極PEの材料としてITOを使用し、隔壁絶縁層PIの材料として硬質樹脂(HRC)を使用した。隔壁絶縁層PIに設けた各貫通孔のX方向に垂直な断面の形状及びY方向に垂直な断面の形状は順テーパ状とし、Z方向から見た形状は図6に示すように矩形状とした。また、隔壁絶縁層PIの厚さは3μmとし、隔壁絶縁層PIに設けた各貫通孔の基板SUB側の開口は、X方向の寸法を80μmとし、Y方向の寸法を250μmとした。
【0056】
次に、隔壁絶縁層PIの表面に撥液処理を施し、隔壁絶縁層PIの各貫通孔に第1溶液をインクジェット法によって供給した。ここでは、第1溶液は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を純水とエチレングリコールとの混合溶媒に溶解させることにより調製した。続いて、塗膜を湿度75%の加湿雰囲気下で常温乾燥させた後、200℃で15分間加熱して、塗膜から有機溶剤を除去した。このようにして、中央部の厚さが50nmであり、周縁部の厚さが10nmの正孔輸送層HTLを形成した。
【0057】
続いて、隔壁絶縁層PIの各貫通孔に第2溶液をインクジェット法によって供給し、正孔輸送層HTL上に図6に示す液滴DRPを形成した。ここでは、第2溶液は、HT−12をテトラリンに溶解させることにより調製した。また、1回の吐出量,すなわち、各液滴DRPの体積,は30×10-12Lとし、1つの液溜めへの第2溶液の供給量は480×10-12Lとし、貫通孔の側壁から液滴DRPの中心までの距離は20μmとした。続いて、液滴DRPからなる塗膜を180℃で60分間加熱して、塗膜から有機溶剤を除去した。このようにして、中央部の厚さが10nmであり、周縁部の厚さが50nmの正孔輸送層HTLを形成した。
【0058】
さらに、隔壁絶縁層PIの各貫通孔に、第3溶液をインクジェット法によって供給した。ここでは、第3溶液は、SGK002をテトラリンに溶解させることにより調製した。その後、塗膜を80℃で20分間加熱する仮焼成に供し、続いて、塗膜を150℃で60分間加熱する本焼成に供した。このようにして、発光層EMTを形成した。
【0059】
その後、発光層EMT上に、真空蒸着法により対向電極CEを形成した。対向電極CEの材料としては、バリウムと銀とを使用した。以上のようにして、アレイ基板ASを完成した。
【0060】
次に、不活性雰囲気中で、アレイ基板ASと封止基板CSとをシール層SSを介して貼り合せることにより表示パネルDPを形成した。シール層SSの材料としては、紫外線硬化樹脂を使用した。さらに、表示パネルDPに映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRを実装することにより、有機EL表示装置を完成した。
【0061】
この有機EL表示装置で画像を表示したところ、電流密度を100A/m2としたときの初期輝度は100cd/m2であった。また、この有機EL表示装置の駆動条件を初期輝度が100cd/m2となるように設定し、この条件のもとで寿命試験を行った。その結果、輝度半減寿命は約10000時間であった。
【0062】
(比較例)
図7は、比較例に係る表示装置の製造に利用した方法を概略的に示す平面図である。本例では、図7に示すように液滴DRPを形成したこと以外は、上記実施例で説明したのと同様の方法により有機EL表示装置を製造した。
【0063】
具体的には、1回の吐出量,すなわち、各液滴DRPの体積,は上記実施例と同様とし、1つの液溜めへの第2溶液の供給量は30×10-12Lとした。また、液滴DRPは図7に示すようにX方向とY方向とに規則的に配列させ、それらの中心間距離は100μmとした。
【0064】
この有機EL表示装置で画像を表示したところ、電流密度を100A/m2としたときの初期輝度は70cd/m2であった。また、この有機EL表示装置の駆動条件を初期輝度が100cd/m2となるように設定し、この条件のもとで寿命試験を行った。その結果、輝度半減寿命は約5000時間であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一態様に係る表示装置を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示装置の部分断面図。
【図3】図2の表示装置が含むアレイ基板を拡大して示す部分断面図。
【図4】比較例に係る表示装置の部分断面図。
【図5】図4の表示装置が含むアレイ基板を拡大して示す部分断面図。
【図6】図1及び図2に示す表示装置の製造に利用可能な方法の一例を概略的に示す平面図。
【図7】比較例に係る表示装置の製造に利用した方法を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0066】
AS…アレイ基板、C…キャパシタ、CE…対向電極、CS…封止基板、DE…ドレイン電極、DL…映像信号線、DP…表示パネル、DR…駆動制御素子、DRP…液滴、EBL…電子ブロッキング層、EMT…高分子発光層、G…ゲート、GI…ゲート絶縁膜、HTL…正孔輸送層、II…層間絶縁膜、ND1…電源端子、ND1’…定電位端子、ND2…電源端子、OLED…有機EL素子、ORG…有機物層、PE…画素電極、PI…隔壁絶縁層、PS…パッシベーション膜、PSL…電源線、PX…画素、SC…半導体層、SE…ソース電極、SL1…走査信号線、SL2…走査信号線、SS…シール層、SUB…絶縁基板、SWa…スイッチ、SWb…スイッチ、SWc…スイッチ、UC…アンダーコート層、XDR…映像信号線ドライバ、YDR…走査信号線ドライバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の一主面上に配置されると共に貫通孔が設けられた隔壁絶縁層と、
前記絶縁基板の前記主面上であって前記貫通孔の位置に配置された陽極と、前記貫通孔内に配置され、発光層と、前記陽極と前記発光層との間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより薄い正孔輸送層と、前記正孔輸送層と前記発光層との間に介在すると共に周縁部が中央部と比較してより厚い電子ブロッキング層とを含んだ有機物層と、前記有機物層を被覆した陰極とを備えた有機EL素子とを具備したことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記発光層は高分子発光層であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−235468(P2008−235468A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71129(P2007−71129)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率有機デバイスの開発事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】