説明

有機EL表示装置

【課題】色度視野角特性を改善し、かつ製造プロセスが簡便である有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】赤色を発する有機EL素子20Rと、緑色を発する有機EL素子20Gと、青色を発する有機EL素子20Bと、を備え、各有機EL素子が、第1電極21と、発光層を含む有機EL層22と、第1電極23と、を有し、赤色を発する有機EL素子20Rが、下記式(1−1)、緑色を発する有機EL素子20Gが、下記式(1−2)、青色を発する有機EL素子20Bが、下記式(1−3)の関係式を満たし、赤色を発する有機EL素子20Rに、視野角調整層24が設けられることを特徴とする、有機EL表示装置1。3/4≦2LR/λR+ΦR/(2π)≦5/4(1−1)7/4≦2LG/λG+ΦG/(2π)≦9/4(1−2)7/4≦2LB/λB+ΦB/(2π)≦9/4(1−3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置の発光効率を向上させる方法の1つとして、光共振構造を利用する方法が知られている。ここで光共振構造の利用を可能にする方法としては、大きく分けて2種類ある。
【0003】
光共振構造の利用を可能にする第1の方法は、有機EL素子内で光共振構造を形成する方法である。具体的には、有機EL素子の構成部材であって発光層を含む有機EL層を挟持している反射電極と光取り出し側にある半透明電極とで光共振構造を形成して、特定の波長の光取り出し効率を向上させる方法である。この方法を採用する場合、反射電極と半透明電極との光路長Lは、各有機EL素子から出力される光のスペクトルのピーク波長λによって下記式(A)により決定される。
【0004】
2L/λ+Φ/(2π)=m (A)
(式(A)において、mは、1以上の整数を表し、Φは、反射電極と半透明電極との間の位相シフトを表し、λは、各有機EL素子の発光波長を表す。尚、発光波長とは、有機EL素子が発する光のスペクトルの最大ピーク波長のことである。)
【0005】
式(A)において、m=1の場合、3原色の赤、緑、青の有機EL素子において、各素子に含まれる有機EL層の膜厚は、それぞれ赤色:90nm程度、緑色:75nm程度、青色:60nm程度となる。一般に有機EL層が80nm以下の場合、反射電極と半透明電極との間でショートリークが発生しやすくなる。そしてこのショートリークにより、有機EL表示装置の発光効率の低下や、非点灯画素の発生という問題が生じる。従って、緑色、青色の有機EL素子においては、ショートリークの防止を目的として式(A)においてm=2になるように有機EL層の膜厚を調整する必要がある。一方、赤色の有機EL素子では、式(A)においてm=2とすると、有機EL層の膜厚が厚くなるため、駆動電圧が上昇し有機EL表示装置の消費電力を増大させてしまう。そのため赤色の有機EL素子において式(A)中のmは1が好ましい。図4は、従来の有機EL表示装置を示す断面模式図である。図4の有機EL表示装置100は、基板110上に、第1電極121、有機EL層122(122R、122G、122B)及び第2電極123がこの順で積層されてなる各色の有機EL素子120R、120G、120Bが設けられている。尚、有機EL素子(120R、120G、120B)は、封止部材130で封止されている。図4の有機EL表示装置100において、赤色有機EL層122Rは、緑色有機EL層122G及び青色有機EL層122Bよりも薄い。
【0006】
光共振構造の利用を可能にする第二の方法は、有機EL素子の光取り出し側の電極上に光共振構造を設ける方法である。この方法の具体例として特許文献1に開示されている方法がある。即ち、有機EL表示装置の光取り出し側の電極上に、色ごとに膜厚が異なる光共振層を、それぞれ積層することにより光取り出し効率を向上させる方法である。
【0007】
一方、有機EL表示装置における表示品位を評価する際に色度視野角性能も重要な要素となる。ここで色度視野角性能とは、有機EL表示装置を斜め方向から見た時の正面方向からの表示画像の色ずれのことである。ここで特許文献2においては、表示装置の好ましい色度視野角性能として、色ずれの指標となるパラメータであるΔu’v’が0.02以下であることが望ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−027108号公報
【特許文献2】特開2008−298814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、有機EL表示装置においてショートリークの防止や消費電力の低減を目的として、式(A)に基づいて反射電極と半透明電極との光路長Lを求める際に、色ごとにmの値を設定すると、各色において輝度視野角分布が大きく異なるという問題が生じ得る。例えば、赤色の有機EL素子についてはm=1とし、緑色、青色の有機EL素子についてはm=2とした場合、赤色と緑色・青色との間で輝度視野角分布が大きく異なる。このように各色の有機EL素子において輝度視野角分布が大きく異なると、有機EL表示装置を斜めから見た際の色度が、正面方向の色度から大きく外れるため、有機EL表示装置の画質性能を著しく低下させてしまう。
【0010】
図5は、図4の有機EL表示装置における各色の有機EL素子の輝度視野角依存性(視野角特性)を示す図である。式(A)において、赤色の有機EL素子についてはm=1とし、緑色、青色の有機EL素子についてはm=2とする。そうすると、図5に示すように、赤色の有機EL素子では斜め45°における正面方向からの輝度比が80%程度であるのに対し、緑色・青色の有機EL素子では斜め45°における正面方向からの輝度比が30〜40%程度である。そうすると、表示装置を斜め45°から見たときには、正面方向から比べて表示画像が全体的に赤味がかってしまうため著しく表示品位を低下してしまう。このように式(A)において、mを色ごとに設定すると、有機EL表示装置の表示品位を著しく低下させ得るという問題がある。
【0011】
上記の輝度視野角依存性の問題を解消させる方法として、特許文献1に記載されるように、有機EL表示装置の光取り出し側の電極上に、各色ごとに膜厚が異なる光共振層をそれぞれ積層する方法がある。この方法により、各色の輝度視野角分布を調整することは可能である。しかしながら、この方法では光共振層を形成するときのパターニング工程が大変複雑になり、製造コストが増大するという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、色度視野角特性を改善し、かつ製造プロセスが簡便である有機EL表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の有機EL表示装置は、赤色を発する有機EL素子と、緑色を発する有機EL素子と、青色を発する有機EL素子と、を備え、
各有機EL素子が、第1電極と、発光層を含む有機EL層と、第2電極と、を有し、
前記赤色を発する有機EL素子が、下記式(1−1)の関係式を満たし、
前記緑色を発する有機EL素子が、下記式(1−2)の関係式を満たし、
前記青色を発する有機EL素子が、下記式(1−3)の関係式を満たし、
前記赤色を発する有機EL素子に、視野角調整層が設けられることを特徴とする。
【0014】
3/4 ≦ 2LR/λR+ΦR/(2π) ≦ 5/4 (1−1)
7/4 ≦ 2LG/λG+ΦG/(2π) ≦ 9/4 (1−2)
7/4 ≦ 2LB/λB+ΦB/(2π) ≦ 9/4 (1−3)
(式(1−1)において、LRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λRは、赤色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。式(1−2)において、LGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λGは、緑色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。式(1−3)において、LBは、青色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λBは、青色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦBは、青色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、色度視野角特性を改善し、かつ製造プロセスが簡便である有機EL表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機EL表示装置における実施形態の例を示す断面模式図である。
【図2】実施例1及び比較例1でそれぞれ作製した有機EL表示装置の色度視野角依存性の評価結果を示すグラフである。
【図3】実施例2における有機EL表示装置の色度視野角依存性の評価結果を示すグラフである。
【図4】従来の有機EL表示装置を示す断面模式図である。
【図5】図4の有機EL表示装置における各色の有機EL素子の輝度視野角依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の有機EL表示装置は、赤色を発する有機EL素子と、緑色を発する有機EL素子と、青色を発する有機EL素子と、を備えている。尚、基板上に設けられる各色の有機EL素子は、それぞれ基板上に複数有していてもよい。ここで、各有機EL素子は、第1電極と、発光層を含む有機EL層と、第2電極と、を有する。また赤色を発する有機EL素子には視野角調整層が設けられている。尚、この視野角調整層の詳細については後述する。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機EL表示装置の実施形態について説明する。尚、以下の説明において特に図示又は記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知・公知技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも実施形態の一例であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の有機EL表示装置における実施形態の例を示す断面模式図である。図1の有機EL表示装置1は、基板10上に、赤色を発する有機EL素子20Rと、緑色を発する有機EL素子20Gと、青色を発する有機EL素子20Bとがそれぞれ設けられている。
【0020】
図1の有機EL表示装置1において、赤色を発する有機EL素子20Rは、基板10上に、第1電極21と、赤色を発する有機EL層(赤色有機EL層22R)と、第2電極23と、視野角調整層24と、がこの順に設けられている有機EL素子である。ここで赤色を発する有機EL素子20Rに設けられる視野角調整層24は、具体的には、赤色と他の色(青色、緑色)との輝度視野角依存性(視野角特性)の差を小さくするために設けられる部材である。
【0021】
図1の有機EL表示装置1において、緑色を発する有機EL素子20Gは、基板10上に、第1電極21と、緑色を発する有機EL層(緑色有機EL層22G)と、第2電極23と、がこの順に設けられている有機EL素子である。
【0022】
図1の有機EL表示装置1において、青色を発する有機EL素子20Bは、基板10上に、第1電極21と、青色を発する有機EL層(青色有機EL層22B)と、第2電極23と、がこの順に設けられている有機EL素子である。
【0023】
以下、図1の有機EL表示装置1の構成部材について説明する。
【0024】
基板10は、ガラス、プラスチック、シリコン等から構成される。ここで基板10にはTFT等のスイッチング素子(図示省略)が形成されてあってもよい。
【0025】
基板10上には第1電極21が所望の形状にパターン形成されている。ここで図1の第1電極21は反射電極として機能する。
【0026】
第1電極21を構成する材料は、反射率が高い金属材料もしくはその金属材料を複数組み合わせた合金が好ましい。金属材料としては、Al、Ag、Pt、Au、Cu、Pd、Ni等が好ましい。また第1電極21は金属もしくは合金からなる層と、仕事関数の高いITOやIZO(登録商標)からなる層と、をこの順に積層した積層薄膜としてもよい。
【0027】
第1電極21上に設けられる有機EL層(22R、22G、22B)は、少なくとも特定の波長の光を発する発光層を含んでいる。有機EL層(22R、22G、22B)は、発光層のみで構成されていてもよい。また発光層と、発光層以外の有機化合物層、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等と、を適宜組み合わせた積層体も採用できる。一方、有機EL層を構成する各層には公知の有機EL材料を使用することができる。
【0028】
ところで図1の有機EL表示装置1において、各有機EL層(22R、22G、22B)の膜厚は、色ごとに異なるため、各有機EL層(22R、22G、22B)を形成する際には、色ごとに塗り分けて形成する(パターン形成する)必要がある。具体的には、赤色を発する有機EL素子20Rが下記式(1−1)の関係式を満たすように有機EL層22Rの膜厚を制御する。同様に、図1の有機EL表示装置1において、緑色を発する有機EL素子20Gが下記式(1−2)の関係式を満たすように有機EL層22Gの膜厚を制御する。また、青色を発する有機EL素子20Bが下記式(1−3)の関係式を満たすように有機EL層22Bの膜厚を制御する。
【0029】
3/4 ≦ 2LR/λR+ΦR/(2π) ≦ 5/4 (1−1)
7/4 ≦ 2LG/λG+ΦG/(2π) ≦ 9/4 (1−2)
7/4 ≦ 2LB/λB+ΦB/(2π) ≦ 9/4 (1−3)
【0030】
式(1−1)において、LRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λRは、赤色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの合計(和)、即ち、赤色を発する有機EL素子における第1電極での位相シフトと第2電極での位相シフトとの和を表す。尚、位相シフトとは、第1電極や第2電極のような反射面で発生する光の位相の変化のことである。
【0031】
式(1−2)において、LGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λGは、緑色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの合計(和)、即ち、緑色を発する有機EL素子における第1電極での位相シフトと第2電極での位相シフトとの和を表す。
【0032】
式(1−3)において、LBは、青色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λBは、青色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦBは、青色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの合計(和)、即ち、青色を発する有機EL素子における第1電極での位相シフトと第2電極での位相シフトとの和を表す。
【0033】
即ち、各有機EL層(22R、22G、22B)を形成する際には、特にその膜厚を、式(1−1)〜式(1−3)を満たすように、色ごとに塗り分けて形成する(パターン形成する)必要がある。尚、各有機EL層の光学距離(LR、LG、LB)はそれぞれ式(1−4)、式(1−5)、式(1−6)で表される。
R=nR×dR (1−4)
G=nG×dG (1−5)
B=nB×dB (1−6)
(式(1−4)において、nRは、赤色有機EL層の屈折率を表し、dRは、赤色有機EL層の膜厚を表す。式(1−5)において、nGは、緑色有機EL層の屈折率を表し、dGは、緑色有機EL層の膜厚を表す。式(1−6)において、nBは、青色有機EL層の屈折率を表し、dBは、青色有機EL層の膜厚を表す。)
【0034】
尚、理想的な光共振器構造をのみを考慮するのであれば、式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)は、下記式(1−1a)、式(1−2a)及び式(1−3a)とするのが理想的である。
2LR/λR+ΦR/(2π) = 1 (1−1a)
2LG/λG+ΦG/(2π) = 2 (1−2a)
2LB/λB+ΦB/(2π) = 2 (1−3a)
【0035】
ただし、膜厚制御の困難性や、素子自体の駆動電圧、寿命を併せて考慮したときに、式(1−1a)、式(1−2a)及び式(1−3a)のように等式が成り立たない場合がある。このため、式(1−1)、式(1−2)及び式(1−3)のように、一定の数値範囲(誤差範囲)がある方がむしろよいといえる。
【0036】
有機EL層(22R、22G、22B)の塗りわけ成膜手法(パターン形成方法)には、金属マスクを用いた蒸着法、転写法、印刷法、インクジェット法等の公知の塗り分け手法(パターン形成方法)を用いることが可能である。尚、有機EL層(22R、22G、22B)を構成する有機化合物層のうち、各有機EL素子(20R、20G、20B)に共通する層は一括して成膜してもよい。
【0037】
有機EL層(22R、22G、22B)上に設けられる第2電極23は、高反射率と高透過率を兼ね備えた材料からなる半透明電極である。この半透明電極は、反射率が高い金属材料あるいはこの金属材料を複数組み合わせてなる合金を、光透過性を有する程度の薄く成膜した薄膜電極である。またこの半透明電極は、当該薄膜電極を複数積層した積層電極であってもよいし、当該薄膜電極とITO、IZO等の透明導電膜とを積層した積層電極であってもよい。反透明電極の構成材料として使用される金属材料としては、Al、Mg、Ag、Au、Ca、Li等が好ましい。この中でもAgは、高反射率、低吸収率、低比抵抗を兼ね備える材料であるため、特に好ましい。半透明電極は公知の成膜手法で形成が可能であり、蒸着法やスパッタリング法等を用いることができる。
【0038】
赤色有機EL素子20Rの構成部材である第2電極23上にのみ形成される視野角調整層24は、光を透過する材質からなる層であれば特に限定されない。視野角調整層24の構成材料として、例えば、酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の無機材料、有機EL素子を構成する有機材料等を用いることができる。
【0039】
視野角調整層24の膜厚は、好ましくは、視野角調整層24の光取り出し側の面から第2電極23と視野角調整層24との界面までの光路長Lvに基づいて適宜調整される。具体的には、光路長Lvを下記式(2)の関係が満たされるように調整するのが好ましい。
0.25≦Lv/λR≦0.46 (2)
(式(2)において、λRは、式(1−1)で示されるλRと同様である。)
【0040】
光路長Lvが式(2)を満たすように視野角調整層24の膜厚を調整することにより、有機EL表示装置の色度視野角性能をより向上させることができる。また式(2)によって求められる視野角調整層24に要求される膜厚マージンは充分に広いため、表示品位の高い有機EL表示装置を簡易な生産プロセスで製造することができる。尚、視野角調整層の膜厚は、好ましくは、40nm以上100nm以下である。
【0041】
ところで、色度視野角性能は、Δu’v’というパラメータで評価される。有機EL表示装置等の表示装置においては、Δu’v’が0.02以下であることが望ましい。
【0042】
視野角調整層24は、金属マスクを用いた蒸着法やスパッタ法やCVD法、転写法、印刷法、インクジェット法等の公知の塗り分け手法(パターン形成方法)を用いて赤色有機EL素子20Rの構成部材である第2電極23上に選択的に形成することが可能である。このため簡易な成膜プロセスで視野角調整層24となる薄膜を成膜することが可能である。
【0043】
図1の有機EL表示装置は、大気中の水分や酸素から有機EL素子(20R、20G、20B)を保護するために、有機EL素子(20R、20G、20B)を覆う保護部材30が設けられている。保護部材30としては、ガラス蓋等の透明な封止部材を使用することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
図1に示される有機EL表示装置1を、以下に示す方法により作製した。
【0045】
DCスパッタリング法により、基板10上に、Agを成膜しAg膜を形成した。このときAg膜の膜厚を100nmとした。次に、DCスパッタリング法により、Ag膜上に、IZOを成膜しIZO膜を形成した。このときIZO膜の膜厚を10nmとした。次に、Ag膜とIZO膜とからなる積層膜を、ウェットエッチングによりパターニングすることで反射電極(第1電極21)を所望の形状で形成した。次に、真空蒸着法により、反射電極上に、各色の有機EL層(22R、22G、22B)を所定に位置に形成した。尚、各色の有機EL層(22R、22G、22B)を形成する際には、式(1−1)〜式(1−3)各色の有機EL層(22R、22G、22B)をパターン形成する際には、金属マスクを用いた選択的蒸着方法を採用した。
【0046】
次に、真空蒸着法により、各有機EL層(22R、22G、22B)を全て覆うようにAgを成膜してAg膜を形成した。このときAg膜の膜厚を12nmとした。次に、DCスパッタリング法により、Ag膜上にIZOを成膜してIZO膜を形成した。このときIZO膜の膜厚を50nmとした。ここでAg膜と、IZO膜とからなる積層膜は、半透明電極(第2電極23)として機能する。
【0047】
次に、真空蒸着法により、赤色有機EL素子20Rを構成する第2電極23上に、Alq3を選択的に成膜して視野角調整層24を形成した。ここで視野角調整層24の膜厚を40nmとした。尚、視野角調整層24の形成の際には、赤色有機EL素子部だけに開口部を設けた金属マスクを用いた。
【0048】
最後に、窒素置換したグローブボックス内で、各有機EL素子(20R、20G、20B)が酸素・水分に触れないようにするため封止ガラス(封止部材30)で密封した。以上により有機EL表示装置1を得た。
【0049】
得られた有機EL表示装置について、色度視野角依存性の評価を行った。具体的には、得られた有機EL表示装置を白色表示(色温度6500K)した際に、正面から角度を変えた時の色度変化Δu’v’を調べた。
【0050】
(比較例1)
実施例1において、視野角調整層24の形成を省略したこと以外は、実施例1と同様の方法により有機EL表示装置を得た。
【0051】
得られた有機EL表示装置について、実施例1と同様に色度視野角依存性の評価を行った。
【0052】
図2は、実施例1及び比較例1でそれぞれ作製した有機EL表示装置の色度視野角依存性の評価結果を示すグラフである。図2において、x軸は、有機EL表示装置の正面方向からの角度であり、y軸は、有機EL表示装置の正面方向から所定の角度で見たときの色度変化Δu’v’である。
【0053】
図2に示すように、視野角45°におけるΔu’v’は、それぞれ0.01(実施例1)、0.048(比較例1)であった。ここで、表示装置の望ましい色度視野角性能(Δu’v’≦0.02)を考慮すると、実施例1の有機EL表示装置は、十分な表示品位であることが示された。従って、本実施例にて示された作製プロセスにより、複雑なパターニングプロセスを行わず簡便な作製プロセスであっても有機EL表示装置自体の表示品位を向上させることが可能であることが示された。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、視野角調整層24の膜厚を30nm〜120nmの範囲で適宜変更した。具体的には、視野角調整層24の膜厚を30、40、50、60、70、80、90、100、110、120nmとした。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL表示装置を得た。得られた有機EL表示装置について、実施例1と同様に色度視野角依存性の評価を行った。
【0055】
図3は、本実施例における有機EL表示装置の色度視野角依存性の評価結果を示すグラフである。図3において、x軸の下部は、式(2)に示されるパラメータ値(Lv/λR)である。図3において、x軸の上部は、x軸の下部のパラメータ値に対応する視野角調整層の膜厚である。図3において、y軸は、色度視野角性能のパラメータ値であるΔu’v’である。
【0056】
図3より、表示装置の望ましい色度視野角性能(Δu’v’≦0.02)を考慮すると、Lv/λRは、式(2)に示されるように、0.25以上0.46以下が望ましいことが分かった。尚、図4より、上述したLv/λRの範囲に相当する視野角調整層24の膜厚の範囲は、40nm以上100nm以下であることが分かった。
【0057】
従って、視野角調整層24に要求される膜厚マージンは充分に広いため、本発明の有機EL表示装置は表示品位が高く、かつ簡易な生産プロセスで製造することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:有機EL表示装置、10:基板、20(20R、20G、20B):有機EL素子、21:第1電極(反射電極)、22(22R、22G、22B)有機EL層、23:第2電極、24:視野角調整層、30:封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色を発する有機EL素子と、緑色を発する有機EL素子と、青色を発する有機EL素子と、から構成され、
各有機EL素子が、第1電極と、発光層を含む有機EL層と、第2電極と、を有し、
前記赤色を発する有機EL素子が、下記式(1−1)の関係式を満たし、
前記緑色を発する有機EL素子が、下記式(1−2)の関係式を満たし、
前記青色を発する有機EL素子が、下記式(1−3)の関係式を満たし、
前記赤色を発する有機EL素子に、視野角調整層が設けられることを特徴とする、有機EL表示装置。
3/4 ≦ 2LR/λR+ΦR/(2π) ≦ 5/4 (1−1)
7/4 ≦ 2LG/λG+ΦG/(2π) ≦ 9/4 (1−2)
7/4 ≦ 2LB/λB+ΦB/(2π) ≦ 9/4 (1−3)
(式(1−1)において、LRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λRは、赤色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦRは、赤色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。式(1−2)において、LGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λGは、緑色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦGは、緑色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。式(1−3)において、LBは、青色を発する有機EL素子における第1電極から第2電極までの光学距離を表し、λBは、青色を発する有機EL素子の発光波長を表し、ΦBは、青色を発する有機EL素子における第1電極と第2電極での位相シフトの和を表す。)
【請求項2】
前記視野角調整層が、赤色と他の色との視野角特性の差を小さくするために設けられる部材であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記視野角調整層の光取り出し側の面から前記第2電極と前記視野角調整層との界面までの光路長Lvについて、下記式(2)の関係が満たされることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
0.25≦Lv/λR≦0.46 (2)
(式(2)において、λRは、式(1−1)で示されるλRと同様である。)
【請求項4】
前記視野角調整層の膜厚が40nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−38556(P2012−38556A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177364(P2010−177364)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】