説明

有機EL装置および印刷装置

【課題】発光輝度が高い有機EL装置を提供する。
【解決手段】有機EL装置は、基板と、第1絶縁膜と、第2絶縁膜と、第1電極と、第2電極と、発光層とを備える。第1絶縁膜は、前記基板上に形成され、前記基板より屈折率が高い半透過性である。第2絶縁膜は、前記第1絶縁膜上に形成され、前記第1絶縁膜より屈折率が低い半透過性である。第1電極は、前記第2絶縁膜上に形成され、前記第2絶縁膜より屈折率が高い。第2電極は、前記第1電極と対向する。発光層は、前記第1および第2電極間に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置をプリンタヘッドとして用いたプリンタで高速に印刷を行うには、有機EL装置の発光輝度を向上させて、感光ドラムの露光時間を短くする必要がある。高輝度化を図るために有機EL装置に大電流を流すと、素子が高温になって寿命が短くなったり、素子が破壊されたりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−80604号公報
【特許文献2】特開2000−103114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光輝度が高い有機EL装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、有機EL装置は、基板と、第1絶縁膜と、第2絶縁膜と、第1電極と、第2電極と、発光層とを備える。第1絶縁膜は、前記基板上に形成され、前記基板より屈折率が高い半透過性である。第2絶縁膜は、前記第1絶縁膜上に形成され、前記第1絶縁膜より屈折率が低い半透過性である。第1電極は、前記第2絶縁膜上に形成され、前記第2絶縁膜より屈折率が高い。第2電極は、前記第1電極と対向する。発光層は、前記第1および第2電極間に形成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】第1の実施形態に係る有機EL装置2を用いた印刷システムの概略ブロック図。
【図2】有機EL装置2の断面図。
【図3】画素7のより詳細な断面図。
【図4】第1および第2絶縁膜IL1,IL2の有無で、発光効率を比較したグラフ。
【図5】有機EL装置2の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、有機EL装置の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る有機EL装置2を用いた印刷システムの概略ブロック図である。印刷システムは、画像データ出力装置1と、有機EL装置2と、セルフォックレンズ3と、感光ドラム4と、トナー供給部5とを備えている。この印刷システムは、以下のようにして、用紙6に印刷を行う。
【0009】
まず、感光ドラム4の表面全体を一様に帯電させる。そして、有機EL装置2は画像データ出力装置1から出力される画像データ(文字等を含む)に応じたパターンの光を発する。この光はセルフォックレンズ3により集光され、感光ドラム4上に結像する。感光ドラム4は画像データに応じたパターンで露光され、露光された部分は除電される。次に、トナー供給部5からトナーが供給され、感光ドラム4の帯電している部分にのみトナーが付着する。続いて、用紙6を感光ドラム4に押し当て、感光ドラム4に付着したトナーを用紙6に転写することにより、画像データに応じた画像が用紙6に印刷される。
【0010】
第1の実施形態は、有機EL装置2から高輝度な光を感光ドラム4に照射することにより、感光ドラム4を素早く露光し、印刷の速度を向上するものである。
【0011】
図2は、有機EL装置2の断面図である。有機EL装置2は、基板SUBと、信号線SLと、第1および第2絶縁膜IL1,IL2と、陽極ANDと、有機物層ORGと、陰極CTDと、平坦化層FLとを有する。陽極ANDは画素7毎に設けられ、平坦化層FLは画素7同士を分離するリブ状に形成される。その他の各層はすべての画素7について共通している。なお、必ずしも平坦化層FLを形成しなくてもよい。
【0012】
また、図2の有機EL装置2は、有機物層ORGが発する光を下面(基板SUB)側から取り出す下面発光型の有機EL装置である。同図に示すように、平坦化層FLは有機物層ORGの下方には形成されない。
【0013】
図3は、画素7のより詳細な断面図である。有機物層ORGは、正孔注入層HILと、正孔輸送層(キャリア輸送層)HTLと、発光層EMLと、電子輸送層ETLと、電子注入層EILとを有する。陽極ANDから正孔注入層HILおよび正孔輸送層HTLを介して発光層EMLに注入される正孔と、陰極CTDから電子注入層EILおよび電子輸送層ETLを介して発光層EMLに注入される電子とが再結合して、発光層EMLに含まれる不純物に応じた色で発光する。なお、有機物層ORGは少なくとも発光層EMLを有していればよく、電子注入層EIL等は必要に応じて設ければよい。
【0014】
基板SUBは、例えばガラスである。信号線SLは基板SUB上に形成される。信号線SL上に形成される第1絶縁膜IL1は、例えば膜厚320nmのSiN(窒化シリコン)である。第1絶縁膜IL1上に形成される第2絶縁膜IL2は、例えば膜厚370nmのSiO(二酸化シリコン)である。第1および第2絶縁膜IL1,IL2は、信号線SLと陽極ANDとの層間絶縁膜として役割も果たす。
【0015】
陽極ANDは、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明な材料からなり、スパッタ法により形成される。プリンタヘッドに用いる有機EL装置2の場合、発光層EMLが発する光は単色でよく、その波長は感光ドラム4の露光波長に合わせて例えば赤色とする。有機物層ORGは、例えば蒸着法により形成される。陰極CTDの材料はAl(アルミニウム)等、非透過性の材料からなり、例えばメタル蒸着法により形成される。
【0016】
ここで、第1および第2絶縁膜IL1,IL2は半透過性の絶縁膜である。また、基板SUB、第1絶縁膜IL1、第2絶縁膜IL2および陽極ANDの材料がそれぞれ、ガラス、SiN、SiO、ITOである場合、その屈折率は順に、約1.5,3,1.5,2である。すなわち、第1絶縁膜IL1の屈折率は基板SUBの屈折率より高く、第2絶縁膜IL2の屈折率は第1絶縁膜IL1の屈折率より低く、陽極ANDの屈折率は第2絶縁膜IL2の屈折率より高い。
【0017】
そのため、発光層EMLが基板SUB方向に発して第1および第2絶縁膜IL1,IL2で反射することなく透過した光(第1の光)L1と、陰極CTD方向に発して陰極CTDにより基板SUB方向に反射された光(第2の光)L2と、基板SUB方向に発して第1および第2絶縁膜IL1,IL2の界面で反射され、さらに陰極CTDにより基板SUB方向に反射された光(第3の光)L3とが共振動作を行う。結果として、これらの光L1〜L3が互いに強め合い、基板SUB側から出射される光の輝度が高くなる。
【0018】
プリンタヘッド用の有機EL装置2は、発光色は単色でよく、しかも視野角を広くする必要がない。そのため、第1および第2絶縁膜IL1,IL2を設けるだけの構造でも、十分に高い輝度の発光を得ることができる。
【0019】
なお、第1および第2絶縁膜IL1,IL2の材料はSiNおよびSiOに限られず、上記の条件を満たすものであればよい。また、必ずしも3つの光L1〜L3が互いに強め合わなくても、これらのうち2つの光が強め合うようにしても、輝度を高くすることができる。
【0020】
図4は、第1および第2絶縁膜IL1,IL2の有無で、発光効率をシミュレーションにより比較したグラフである。同図(a)のグラフg1は、第1絶縁膜IL1を膜厚320nmのSiN、第2絶縁膜IL2を膜厚370nmのSiOとし、グラフg2は、第1絶縁膜IL1を膜厚350nmのSiN、第2絶縁膜IL2を膜厚340nmのSiOとし、それぞれ正孔輸送層HTLの膜厚を変化させた場合の発光効率を示している。また、同図(b)のグラフは、第1および第2絶縁膜IL1,IL2を設けない場合の発光効率を示している。
【0021】
同図(a)に示すように、第1および第2絶縁膜IL1,IL2および正孔輸送層HTLの膜厚を適切に設定することにより、発光効率を最大21cd/Aとすることができる。これに対して、同図(b)に示すように、第1および第2絶縁膜を設けない場合、発光効率は最大でも15cd/Aである。第1および第2絶縁膜IL1,IL2を設けることで発光効率は約1.4倍に向上する。
【0022】
このように、第1の実施形態では、基板SUBと陽極ANDとの間に、所定の屈折率の関係を満たす半透過性の第1および第2絶縁膜IL1,IL2を設けるため、発光層EMLが発した光L1〜L3が強め合い、大電流を流さなくても発光輝度を高くすることができる。結果として、印刷速度を向上できる。
【0023】
第1および第2絶縁膜IL1,IL2に代えて、例えばAl膜を設けると、Alは光を透過しにくいため、発光輝度が低下してしまう。また、Ag膜を設けると、Agを成膜するための高価な装置が必要となってしまう。これに対し、第1の実施形態では、SiOおよびSiN等、半透過性の第1および第2絶縁膜IL1,IL2を用いるため、コストを抑えて、発光輝度を高くすることができる。
【0024】
(第2の実施形態)
以下に説明する第2の実施形態は、第1の実施形態により発光輝度が高くなることを利用し、画素7を小型化するものである。
【0025】
図5は、有機EL装置2の上面図である。以下では、A4サイズの用紙6を印刷することを念頭に置いた数値例を示す。また、第1の実施形態と共通する部分の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0026】
同図に示すように、基板SUBは長方形である。その長辺方向を横、短辺方向を縦と定義する。基板SUB上には、例えば720個の画素7が横方向に一列に配置され、同数の画素7が、これらと縦方向に間隔dを隔てて、千鳥状にもう一列配置される。画素7の横の長さWは、用紙6の幅に応じて定まり、例えば80μmである。第2の実施形態では、画素7の縦の長さHは、横の長さWより短く、例えば40μmとする。
【0027】
縦の長さHを短くするため、基板SUBを縦方向に大型化することなく間隔dを大きくすることができ、例えば30μmにできる。これにより、縦方向に印刷パターンが重なってしまうことを抑制でき、印刷の解像度を向上できる。
【0028】
第1の実施形態で説明したように、有機EL装置2内に所定の屈折率の関係を満たす半透過性の第1および第2絶縁膜IL1,IL2を設けられるため、発光輝度が向上する。そのため、第2の実施形態で縦の長さHを短くして画素7が小型化したことによる発光輝度の低下を最小限に抑えることができる。
【0029】
なお、画素7の配置は図6に限定されない。同図6では、画素7が千鳥状に配置される例を示しているが、格子状に配置されてもよい。また、画素7は1列のみ設けられてもよいし、3列以上設けられてもよい。また、画素7は長方形でなく楕円でもよい。その場合、横方向が長軸になり、縦方向が短軸になるようにすればよい。画素7の縦の長さHが短いほど印刷の解像度が向上するが、短すぎると有機物層ORGを蒸着できない。そのため、画素が長方形である場合は縦の長さHを横の長さの1/5以上とするのが望ましく、画素7が楕円である場合は短軸の長さを長軸の長さの1/5以上とするのが望ましい。
【0030】
このように、第2の実施形態では、画素7の縦方向の長さHを横方向の長さWより短くする。そのため、縦方向の印刷の解像度を向上できる。
【0031】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、各実施形態の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、各実施形態の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される各実施形態の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0032】
2 有機EL装置
SUB 基板
IL1 第1絶縁膜
IL2 第2絶縁膜
AND 陽極
ORG 有機物層
HTL 正孔輸送層
EML 発光層
CTD 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、前記基板より屈折率が高い半透過性の第1絶縁膜と、
前記第1絶縁膜上に形成され、前記第1絶縁膜より屈折率が低い半透過性の第2絶縁膜と、
前記第2絶縁膜上に形成され、前記第2絶縁膜より屈折率が高い第1電極と、
前記第1電極と対向する第2電極と、
前記第1および第2電極間に形成される発光層と、を備えることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記第1絶縁膜は窒化シリコンであり、
前記第2絶縁膜は二酸化シリコンであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記発光層が前記基板方向に発し、前記第1および第2絶縁膜で反射することなく透過した第1の光と、
前記発光層が前記第2電極方向に発し、前記第2電極により前記基板方向に反射された第2の光と、
前記発光層が前記基板方向に発し、前記第1および第2絶縁膜の界面で前記第2電極方向に反射され、さらに前記第2電極により前記基板方向に反射された第3の光と、のうち、少なくとも2つの光が共振動作を行うこと特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記第1電極と前記発光層との間に形成され、前記第1電極から供給されるキャリアを前記発光層に輸送するキャリア輸送層を備え、
前記キャリア輸送層と前記第1および第2絶縁膜の膜厚は、前記共振動作を行うのに適した厚さに設定されることを特徴とする請求項3に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記基板は長辺および短辺を有する略長方形であり、
前記発光層の前記短辺方向の長さは、前記長辺方向の長さより短いことを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−79555(P2012−79555A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224112(P2010−224112)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】