説明

有機EL装置および電子機器、有機EL装置の製造方法

【課題】より長い発光寿命と高い信頼性を有する有機EL装置および電子機器、有機EL装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の有機EL装置10は、複数の発光素子21を有する素子基板2と、複数種の色要素としてのカラーフィルタ7R,7G,7Bを有する封止基板1とを備え、発光素子21が反射層12と、光透過性を有する陽極14と、少なくとも1層以上の有機発光層16を含む機能層20と、光透過性を有する陰極18とを有し、封止基板1には、カラーフィルタ7R,7G,7Bを覆うガスバリア層9と、ガスバリア層9を覆う透明導電膜11とを備え、複数の発光素子21とカラーフィルタ7R,7G,7Bとが対向するように封止基板1と素子基板2とを接着層22を介して接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子を有する有機EL装置、および有機EL装置を備えた電子機器、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子とホール(正孔)が注入され、それらの再結合により発光中心が励起される有機EL素子は、水分や有機溶媒成分が吸着することによって、黒い斑点状のダークスポットが発生する。そして、ダークスポットが成長することにより発光寿命が低下する。
【0003】
このような問題を改善するために、基板上にカラーフィルタと、カラーフィルタを覆って平坦化する有機層と、透明電極(ホール注入電極)と、有機発光層を含む機能層と、陰極(電子注入電極)とが順次積層され、有機層と透明電極との間に窒化シリコンを含有するパッシベーション層を備えた有機EL素子が知られている(特許文献1)。
【0004】
このような有機EL素子は、カラーフィルタや有機層に含まれる水分や有機溶媒成分のガスが放出されることをパッシベーション層を設けることにより防止し、発光機能が低下することを低減したものである。
【0005】
また、有機EL素子を備えた有機EL装置として、駆動基板に第1電極、発光層を含む1層以上の有機層および第2電極が順次積層された駆動パネルと、封止基板にカラーフィルタを有する封止パネルとを接着層を介して接合した、いわゆるトップエミッション型の表示装置が知られている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−134268号公報
【特許文献2】特開2003−234186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記有機EL素子においては、陰極側から水分や有機溶媒成分が吸着することが考えられる。また、トップエミッション型の上記表示装置では、封止パネルに設けられたカラーフィルタから水分や有機溶剤成分のガスが放出され、接着層や第2電極を透過して発光層を含む有機層の発光機能の低下を招くおそれがあるという課題がある。
【0008】
また、上記表示装置において、駆動回路を備えていない封止パネル側は、取り扱い等により帯電し、異物等が静電吸着し易い。異物等が吸着した状態で封止パネルと駆動基板とを接着層を介して接合すると、異物等により有機EL素子が押圧されて破損し正常な発光が得られず不灯や輝度ムラなどの不具合が生ずるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題や問題を考慮してなされたものであり、より長い発光寿命と高い信頼性を有する有機EL装置および電子機器、有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機EL装置は、複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置であって、発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、光透過性を有する陰極とを有し、封止基板には、複数種の色要素を覆うガスバリア層と、ガスバリア層を覆う透明導電膜とを備え、複数の発光素子と複数種の色要素とが対向するように素子基板と封止基板とが接着層を介して接合されたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、封止基板側の接着層に面する側に複数種の色要素を覆うように気体を透過し難いガスバリア層を備えているので、色要素に含まれる水分や有機溶媒成分の気体分子が拡散して素子基板側の発光素子に吸着し、有機発光層の発光寿命が短くなることを抑制することができる。また、ガスバリア層を覆う透明導電膜を備えているので、一方の表面が透明導電膜で覆われた封止基板は、取り扱い等により帯電が生じても速やかに静電気を逃がして、異物等の静電吸着を低減することができる。よって、封止基板と素子基板とを接着層を介して接合する際に、異物等が混入することを低減することができる。すなわち、より長い発光寿命と異物等の混入による発光素子の破損等の異常が少ない高い信頼性を有するトップエミッション型の有機EL装置を提供することができる。
【0012】
本発明の他の有機EL装置は、複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置であって、発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、半透過反射性を有する陰極とを有し、反射層と陰極との間で光共振器が構成され、封止基板には複数種の色要素を覆うガスバリア層と、ガスバリア層を覆う透明導電膜とを備え、複数の発光素子と複数種の色要素とが対向するように素子基板と封止基板とが接着層を介して接合されたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、封止基板側の接着層に面する側に複数種の色要素を覆うように気体を透過し難いガスバリア層を備えているので、色要素に含まれる水分や有機溶媒成分の気体分子が拡散して素子基板側の発光素子に吸着し、有機発光層の発光寿命が短くなることを抑制することができる。また、ガスバリア層を覆う透明導電膜を備えているので、一方の表面が透明導電膜で覆われた封止基板は、取り扱い等により帯電が生じても速やかに静電気を逃がして、異物等の静電吸着を低減することができる。よって、封止基板と素子基板とを接着層を介して接合する際に、異物等が混入することを低減することができる。さらに、複数の発光素子は、反射層と陰極との間で光共振器が構成されているので高い色純度の発光が得られる。すなわち、より長い発光寿命と異物等の混入による発光素子の破損等の異常が少ない高い信頼性を有すると共に、高い色純度の発光が可能なトップエミッション型の有機EL装置を提供することができる。
【0014】
また、これらの発明の有機EL装置において、陰極と透明導電膜とを電気的に導通させる上下導通部を備えていることが好ましい。これによれば、発光素子を構成する陰極と封止基板側に設けられた透明導電膜とが上下導通部によって電気的に導通するので、透明導電膜が陰極の補助配線として機能する。よって、複数の発光素子ごとに流れる駆動電流の供給ムラによる発光ムラ、輝度ムラを低減することができる。すなわち、より均一な発光を得ることができる。
【0015】
また、上記色要素と上記ガスバリア層との間に有機膜からなる平坦化層を有していることが好ましい。これによれば、色要素とガスバリア層との間に有機膜からなる平坦化層を有しているので、発光素子からの発光が色要素の表面の凹凸によって散乱して輝度が低下することを抑制することができる。
【0016】
また、上記ガスバリア層が、酸化窒化シリコンからなることが好ましい。これによれば、酸化窒化シリコンは、高い光透過性を有する一方で低い気体透過性を有しているので、ガスバリア層を透過する発光素子の発光の色相や輝度の変化が起こり難く、少なくとも色要素に含まれる水分や溶媒成分の気体分子が発光素子に吸着して有機発光層の発光寿命が短くなることを抑制することができる。
【0017】
また、酸化窒化シリコンからなる上記ガスバリア層において、含有する酸素と窒素の総量に対する酸素の割合が、40%以上80%未満であることが好ましい。酸化窒化シリコンは、酸素の割合が増加するとガスバリア層としての光透過率は上昇する傾向となる。一方、気体透過率も上昇してガスバリア層としての機能が低下する。これによれば、酸素の割合が40%以上80%未満のため、気体透過率が低い状態を維持して、比較的に高い光透過率を得ることができる。すなわち、発光素子からの発光に比較的に影響を与えずにガスバリア層としての機能を維持することができる。
【0018】
また、上記透明導電膜が、波長550nmの可視光の透過率が極大となる膜厚を有していることが好ましい。導電材料を薄膜として形成することで透明導電膜を得ることができるが、透明導電膜の可視光透過率は、その屈折率と膜厚とに依存することが知られている。透過率と膜厚との関係はsinカーブとなり、特定の膜厚で透過率が極大となる。これによれば、波長550nmの可視光は所謂緑色でありもっとも視感度が高く、この波長において透明導電膜は、可視光の透過率が極大となる膜厚を有している。よって、発光素子からの発光が透明導電膜によって吸収され、輝度が低下することを抑制することができる。
【0019】
本発明の電子機器は、上記発明の有機EL装置を備えたことを特徴とする。これによれば、より長い発光寿命と高い信頼性を有する有機EL装置を備えているので、長期に渡って使用することが可能な高い信頼性を有する電子機器を提供することができる。
【0020】
本発明の有機EL装置の製造方法は、複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置の製造方法であって、発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、光透過性を有する陰極とを有し、封止基板の複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する工程と、ガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する工程と、複数の発光素子と複数種の色要素とが対向するように素子基板と封止基板とを接着層を介して接合する接合工程とを備えたことを特徴とする。
【0021】
この方法によれば、封止基板の複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する。また、形成されたガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する。その後、接合工程において、素子基板と封止基板とを接着層を介して接合する。したがって、気体を透過し難いガスバリア層を形成することにより、少なくとも封止基板側の色要素に含まれる水分や溶剤成分の気体分子が発光素子に吸着して有機発光層の発光寿命が短くなることを抑制することができる。また、透明導電膜を形成することにより、封止基板の一方の表面に導電性を付与して取り扱い等によって生じる静電気を逃がし、異物等の静電吸着を低減することができる。ゆえに、接合工程において、素子基板と封止基板との間に異物等が混入することが低減され、異物等の混入による発光素子の破損等の不良を低減することができる。すなわち、より長い発光寿命と高い信頼性を有するトップエミッション型の有機EL装置を歩留まりよく製造することができる。
【0022】
本発明の他の有機EL装置の製造方法は、複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置の製造方法であって、発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、半透過反射性を有する陰極とを有し、反射層と陰極との間で光共振器が構成され、封止基板の複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する工程と、ガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する工程と、複数の発光素子と複数種の色要素とが対向するように素子基板と封止基板とを接着層を介して接合する接合工程とを備えたことを特徴とする。
【0023】
この方法によれば、封止基板の複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する。また、形成されたガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する。その後、接合工程において、素子基板と封止基板とを接着層を介して接合する。したがって、気体を透過し難いガスバリア層を形成することにより、少なくとも封止基板側の色要素に含まれる水分や溶剤成分の気体分子が発光素子に吸着して有機発光層の発光寿命が短くなることを抑制することができる。また、透明導電膜を形成することにより、封止基板の一方の表面に導電性を付与して取り扱い等によって生じる静電気を逃がし、異物等の静電吸着を低減することができる。ゆえに、接合工程において、素子基板と封止基板との間に異物等が混入することが低減され、異物等の混入による発光素子の破損等の不良を低減することができる。さらには、複数の発光素子は、反射層と陰極との間で光共振器が構成されているので、高い色純度の発光が得られる。すなわち、より長い発光寿命と高い信頼性を有すると共に、高い色純度の発光が可能なトップエミッション型の有機EL装置を歩留まりよく製造することができる。
【0024】
これらの発明の有機EL装置の製造方法において、上記接合工程の前に、陰極と透明導電膜とを電気的に導通させる上下導通部材を素子基板または封止基板のいずれか一方に配置する工程をさらに備えることが好ましい。これによれば、接合工程において、発光素子を構成する陰極と封止基板側に形成された透明導電膜とが素子基板または封止基板のいずれか一方に配置された上下導通部材により電気的に導通する。したがって、透明導電膜が陰極の補助配線として機能する。よって、複数の発光素子ごとに流れる駆動電流の供給ムラによる発光ムラや輝度ムラを低減することができる。すなわち、より均一な発光を得ることができる有機EL装置を製造することができる。
【0025】
また、上記ガスバリア層を形成する工程の前に、色要素を覆うように有機膜からなる平坦化層を形成する工程を備えることが好ましい。これによれば、ガスバリア層は、色要素を覆うように平坦化層が形成された後に、形成される。したがって、発光素子からの発光が色要素の表面の凹凸によって散乱して輝度が低下することを平坦化層で抑制することができる。また、ガスバリア層は、少なくとも平坦化層と発光素子との間に形成するので、有機膜からなる平坦化層に含まれる水分や溶媒成分の気体分子が素子基板に複数形成された発光素子に吸着して発光素子の発光寿命が短くなることも抑制することができる。ゆえに、発光輝度が高く、より長い発光寿命を有する有機EL発光装置を製造することができる。
【0026】
また、上記ガスバリア層を酸化窒化シリコンで形成することが好ましい。これによれば、酸化窒化シリコンは、高い光透過性を有する一方で低い気体透過性を有している。よって、形成されたガスバリア層を透過する発光素子の発光の色相や輝度の変化が起こり難く、少なくとも色要素に含まれる水分や溶媒成分の気体分子が発光素子に吸着して発光寿命が短くなることを抑制することが可能である。ゆえに、優れた機能を有するガスバリア層を形成することができる。
【0027】
また、酸化窒化シリコンからなるガスバリア層において、含有する酸素と窒素の総量に対する酸素の割合が、40%以上80%未満となるように形成することが好ましい。酸化窒化シリコンは、酸素の割合が増加するとガスバリア層の光透過率は上昇する傾向となる。一方で気体透過率も上昇してガスバリア層としての機能が低下する。これによれば、酸素の割合が40%以上80%未満のため、気体透過率が低い状態を維持して、比較的に高い光透過率を得ることができる。すなわち、発光素子からの発光に比較的に影響を与えずに本来の機能を維持したガスバリア層を形成することができる。
【0028】
また、透明導電膜を形成する工程では、波長550nmの可視光の透過率が極大となる膜厚に透明導電膜を形成することが好ましい。この方法によれば、波長550nmの視感度がもっとも高い可視光において透過率が極大となる膜厚で透明導電膜を形成する。したがって、発光素子からの発光が透明導電膜で吸収されることを低減して、より長い発光寿命と高い輝度を有する有機EL装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態は、発光素子としての有機EL素子を備えた有機EL装置とその製造方法を例に説明する。尚、説明に用いる各図面は、構成を明確にするために適宜拡大または縮尺している。
【0030】
(実施形態1)
<有機EL装置>
図1は、実施形態1の有機EL装置を示す概略正面図である。図1に示すように、本実施形態の有機EL装置10は、複数の発光素子を有する素子基板2と、複数種の色要素7を有する封止基板1とを備えている。色要素7は所謂カラーフィルタであり、R(赤色系)、G(緑色系)、B(青色系)の3色からなり、同色系のカラーフィルタが図面において上下方向に配列したストライプ方式のカラーフィルタである。
【0031】
素子基板2の複数の発光素子は、複数種の色要素7に対応した位置で素子基板2にマトリクス状に配置されている。素子基板2は、各発光素子に対応した駆動素子としての複数のTFT(Thin Film Transistor)素子(図示省略)を備えている。また、封止基板1よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、TFT素子を駆動する2つの走査線駆動回路部3,3と1つのデータ線駆動回路部4が設けられている。素子基板2の端子部2aには、これらの駆動回路部3,4と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板5が実装されている。これらの駆動回路3,4はあらかじめ素子基板2の表面に低温ポリシリコンの半導体層を形成して構成しているが、これに限らず、発光素子を駆動可能なドライバICを平面実装してもよい。
【0032】
図2は、実施形態1の有機EL装置の要部構造を示す概略断面図である。封止基板1と素子基板2とは、3色のカラーフィルタ7R,7G,7Bと各発光素子21とが対向するように接着層22を介して接合されている。封止基板1には、各カラーフィルタ7R,7G,7Bを覆うように平坦化層8とガスバリア層9と透明導電膜11とが順に積層されている。素子基板2側にも各発光素子21を覆うガスバリア層19が設けられている。すなわち、2つのガスバリア層9,19が対向する状態で接着層22を介して封止基板1と素子基板2とが接合されている。
【0033】
各カラーフィルタ7R,7G,7Bに対応する各発光素子21は、光反射性を有する反射層12と、反射層12を覆う保護膜13と、光透過性を有する陽極14と、有機発光層16を含む機能層20と、光透過性を有する陰極18とを有し、素子基板2の表面に順次積層されたものである。このような発光素子21を備えた有機EL装置10は、陽極14と陰極18との間に駆動電流が流れると有機発光層16が励起され、これによる発光が封止基板1側から射出される所謂トップエミッション型の表示装置である。なお、図1の符号6は、表示領域を示している。
【0034】
封止基板1は、透明なガラス基板あるいはプラスチック等の樹脂基板を用いることができる。3色のカラーフィルタ7R,7G,7Bは、遮光部7aによって区画されており、例えば色要素材料としての顔料を含む感光性樹脂を塗布して露光現像することにより形成される。遮光部7aは、例えばCrやブラック樹脂などからなるシャドウマスク上に各カラーフィルタ7R,7G,7Bのいずれか2つが重なったものである。これらのカラーフィルタ7R,7G,7Bと遮光部7aとを覆い、その表面の凹凸を緩和するために平坦化層8が形成されている。平坦化層8は有機膜であり、例えばアクリル等の透明な樹脂材料を用いることができる。遮光部7aによって区画された領域が、異なる発光色の光が射出される領域となっている。
【0035】
素子基板2は、透明なガラス基板あるいは不透明なセラミックやシリコン基板等を用いることができる。素子基板2には、各発光素子21を駆動するための複数のTFT素子(図示省略)と、各発光素子21に電流を流すための複数の配線(図示省略)と、各発光素子21とが、異なる発光色の光が射出される領域に対応して形成されている。複数の配線の一方は、各陽極14にそれぞれ接続され、他方は、複数のTFT素子のゲート電極またはソース電極にそれぞれ接続されている。
【0036】
反射層12は、有機発光層16での発光を封止基板1側に効率よく射出させるために、Alを主成分とする材料から構成されている。尚、反射層12を構成する材料の主成分は、Al、Ag、Au、Cr、Ta、Mo、Mg、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)の中から選択することができる。反射層12は、SiNからなる保護膜13で覆われている。この場合、反射層12の厚みはおよそ100nm、保護膜13の厚みはおよそ50nmである。複数の反射層12は、本実施形態のように各陽極14に対応する形状に分割して形成することが好ましいが、互いに繋がった状態としてもよい。
【0037】
発光素子21の陽極14は、透明なITOからなり、反射層12を覆う保護膜13の上に、膜厚がおよび50nmとなるように成膜され、フォトリソグラフィ法により所望の形状に形成されている。
【0038】
機能層20は、各陽極14の上に、正孔輸送層15、有機発光層16、電子輸送層17を順次積層したものである。形成方法としては、各層を構成する材料をスピンコート法などにより塗布する方法や真空中で蒸着する方法が挙げられる。
【0039】
正孔輸送層15、有機発光層16、電子輸送層17を形成する材料としては公知の材料を用いればよい。尚、この場合、有機発光層16は、単色の白色発光が可能となるように異なる発光色(例えば青発光とオレンジ発光)を発光する複数種の有機発光材料が積層されている。
【0040】
陰極18は、Mg・Agの薄膜を蒸着法により、機能層20から発光した光の一部を透過し一部を反射するように厚みおよそ10nmとして、機能層20を覆うように形成されている。すなわち、陰極18は、光透過性と光反射性とを有するハーフミラー状態となっている。
【0041】
各ガスバリア層9,19は、酸化窒化シリコンからなり、酸化シリコンと窒化シリコンをそれぞれターゲットとして真空中で同時スパッタリングすることにより、素子基板2と封止基板1のそれぞれの表面に形成されている。酸化窒化シリコンは、酸化シリコンの高い光透過性と、窒化シリコンの低い気体透過性とを兼ね備えている。したがって、発光素子21からの発光を減衰させることなく、水分や溶剤成分などの気体分子が透過することを抑制可能である。
【0042】
酸化窒化シリコンの薄膜においては、酸素の含有量が増加すると光透過率が上昇する。一方で気体透過率も上昇してしまう。この場合、ガスバリア層9,19における酸素と窒素の総量に対する酸素の含有率は、40%以上80%未満となっている。さらには、およそ50%程度が好ましい。これによれば、高い光透過率を維持して低い気体透過率を得ることができる。
【0043】
また、ガスバリア層9,19としての機能は、当然ながらその膜厚にも依存する。ただし、膜厚が厚すぎると成膜時または成膜後にクラックが生じやすく本来の機能が果たせないので、膜厚は100nm以上〜800nm未満が好ましい。この場合、封止基板1側のガスバリア層9の膜厚はおよそ400nmであり、素子基板2側のガスバリア層19の膜厚はおよそ100nmである。すなわち、封止基板1側のガスバリア層9の膜厚を厚くすることにより、封止基板1に形成された各カラーフィルタ7R,7G,7Bおよび平坦化層8から水分や溶剤成分の気体分子が拡散することをより抑制する構造となっている。
【0044】
封止基板1側には、形成されたガスバリア層9をさらに覆うように透明導電膜11が形成されている。この場合、透明導電膜11はITOからなり、波長550nmの可視光の透過率が極大となるように膜厚がおよそ135nm〜165nmの範囲で成膜されている。透明導電膜11の材料は、ITOに限定されず、IZOでもよい。
【0045】
封止基板1と素子基板2とを接合する接着層22は、例えば熱硬化型の透明なエポキシ樹脂接着剤を用いることができる。積層形成された発光素子21が硬化時の収縮によって浮き等が発生しないように常温硬化型の接着剤を用いることが好ましい。接着層22の厚みは、およそ5〜20μm未満である。
【0046】
このような有機EL装置10は、封止基板1側と素子基板2側とに各ガスバリア層9,19が設けられ接着層22を介して接合されているので、各カラーフィルタ7R,7G,7Bおよび平坦化層8から水分や溶剤成分の気体分子が拡散して発光素子21に吸着し、時間の経過と共に発光の輝度が低下する所謂発光寿命の低下を抑制することが可能である。また、封止基板1のガスバリア層9を覆うように透明導電膜11が設けられている。これにより封止基板1の一方の表面に導電性が付与され、取り扱い等により発生した静電気を逃がすことができる。封止基板1が帯電し難いので、帯電による異物等の静電吸着を防止することができる。すなわち、封止基板1と素子基板2とを接着層22を介して接合する際に、異物等が混入することが低減され、異物等による発光素子21の破損等に起因する不灯や輝度ムラ等の不良を低減して高い信頼性を有する有機EL装置10を実現することができる。なお、素子基板2は、陽極14に接続される導体としての複数の配線を備えているので、帯電した場合の静電気をこれらの配線を通じて逃がすことができる。
【0047】
尚、本実施形態では、封止基板1側と素子基板2側の両方にガスバリア層9,19を設けたが、封止基板1側のみにガスバリア層9を設ける構造としてもよい。また、平坦化層8は必ずしも必要としない。各カラーフィルタ7R,7G,7Bの表面の凹凸が数十nm程度ならば、ガスバリア層9が平坦化層8を兼ねるように成膜することも可能である。
【0048】
<有機EL装置の製造方法>
次に本発明の有機EL装置の製造方法について図3および図4に基づいて説明する。図3は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図4(a)〜(e)は実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。尚、素子基板2に設けられた発光素子21を駆動するためのTFT素子およびその配線については図示省略した。
【0049】
図3に示すように、本実施形態の有機EL装置10の製造方法は、封止基板1に平坦化層8を形成する工程(ステップS1)と、平坦化層8を覆うようにガスバリア層9を形成する工程(ステップS2)と、ガスバリア層9を覆うように透明導電膜11を形成する工程(ステップS3)とを備えている。また、素子基板2の各発光素子21を覆うようにガスバリア層19を形成する工程(ステップS4)と、封止基板1と素子基板2とを接着層22を介して接合する接合工程(ステップS5)とを備えている。
【0050】
図3のステップS1は、平坦化層8を形成する工程である。ステップS1では、図4(a)に示すように、封止基板1に形成された3色のカラーフィルタ7R,7G,7Bと遮光部7aとを覆うようにアクリル系樹脂材料を用いて平坦化層8を形成する。形成方法としては、スピンコート法、ロールコート法などによりアクリル系樹脂をコーティングして乾燥する方法が挙げられる。また、感光性アクリル樹脂をコーティングしてから紫外光を照射して硬化する方法も採用することができる。そして、ステップS2へ進む。
【0051】
図3のステップS2は、ガスバリア層9を形成する工程である。ステップS2では、図4(b)に示すように、封止基板1に形成された平坦化層8の表面を覆うようにガスバリア層9を形成する。より具体的には、平坦化層8が形成された封止基板1を真空チャンバー内に配置し、酸化シリコンと窒化シリコンの2つのターゲットを用いて同時スパッタリングすることで、平坦化層8の表面に酸化窒化シリコンの薄膜からなるガスバリア層9を成膜する。膜厚が、およそ400nmとなるように成膜する。また、形成された酸化窒化シリコンの薄膜における酸素と窒素の総量に対して酸素の割合が40%以上80%未満、好ましくは50%程度となるように各ターゲットのスパッタリング速度や導入する不活性ガス等のガス分圧を調整する。そして、ステップS3へ進む。
【0052】
図3のステップS3は、透明導電膜11を形成する工程である。ステップS3では、図4(c)に示すように、封止基板1に形成されたガスバリア層9を覆うようにITOからなる透明導電膜11を形成する。透明導電膜11の形成方法としては、ITOをターゲットとして真空中でスパッタリングする方法や蒸着する方法が挙げられる。波長550nmの可視光の透過率が極大となるように膜厚がおよそ135nm〜165nmの範囲で成膜する。そして、ステップS4へ進む。
【0053】
図3のステップS4は、ガスバリア層19を形成する工程である。ステップS4では、図4(d)に示すように、素子基板2に形成された各発光素子21を覆うようにガスバリア層19を形成する。形成方法は、先のステップS2と同様である。ただし、膜厚がおよそ100nmとなるように成膜する。そして、ステップS5へ進む。
【0054】
図3のステップS5は、封止基板1と素子基板2とを接合する接合工程である。ステップS5では、図4(e)に示すように、素子基板2の複数の発光素子21に対して封止基板1の各カラーフィルタ7R,7G,7Bが所定の位置で対向するように接着層22を介して接合する。当然ながら封止基板1と素子基板2との間に接着層22以外の異物や気泡等が混入しないように接合する。その方法としては、まず、素子基板2の表面に透明なエポキシ樹脂を主成分とする接着剤を塗布して厚みおよそ5〜20μmの接着層22を形成し、その上に封止基板1を隙間が発生しないように押圧する。そして、各カラーフィルタ7R,7G,7Bと各発光素子21とが対向するように位置決めして硬化させる。好ましくは、減圧下で封止基板1と素子基板2とを接合する。熱硬化型のエポキシ樹脂は、硬化時の熱収縮が少ない常温硬化型がより好ましい。この場合、封止基板1を素子基板2に対向して保持する方法として、例えば保持台に封止基板1を静電吸着する方法を採用したとしても、封止基板1の一方の表面に透明導電膜11が形成されており、当該表面の静電気を容易に逃がすことが可能である。これにより、異物等の静電吸着を防止して異物等が混入することを低減可能である。
【0055】
このような有機EL装置10の製造方法によれば、封止基板1と素子基板2の両方にガスバリア層9,19が設けられより長い発光寿命を有すると共に、異物等の混入に起因する発光不良等が起き難い高い信頼性を有する有機EL装置10を製造することが可能である。なお、素子基板2側にガスバリア層19を形成する工程は省いても良い。これによれば、より単純な構造で長い発光寿命を得ることが可能である。
【0056】
上記実施形態1の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態1の有機EL装置10およびその製造方法において、封止基板1側に形成された平坦化層8を覆うガスバリア層9を形成する。また、素子基板2側の発光素子21を覆うガスバリア層19を形成する。よって、封止基板1と素子基板2の両方に酸化窒化シリコンからなるガスバリア層9,19を備えるので、少なくとも封止基板1側に形成された色要素としてのカラーフィルタ7R,7G,7Bと有機層からなる平坦化層8から水分や有機溶媒の気体分子が拡散して発光素子21に吸着し、有機発光層16の発光寿命が短くなることを抑制することができる。また、封止基板1のガスバリア層9を覆う透明導電膜11を備えているため、封止基板1の静電気を逃がすことができ、異物等が表面に静電吸着して接着層22に混入することを低減することができる。よって、異物等の混入に起因する発光素子21の破損等の不具合を低減することができる。すなわち、より長い発光寿命と高い信頼性を有する有機EL装置10を提供あるいは歩留まりよく製造することができる。
【0057】
(2)上記実施形態1の有機EL装置10およびその製造方法において、酸化窒化シリコンからなる各ガスバリア層9,19は、含有する酸素と窒素の総量に対して酸素の割合が40%以上80%未満、好ましくは50%程度となるように成膜される。したがって、高い光透過性を有する一方で低い気体透過性を得ることができる。すなわち、発光素子21からの発光を減衰させないガスバリア機能を有する。
【0058】
(3)上記実施形態1の有機EL装置10およびその製造方法において、ITOからなる透明導電膜11は、波長550nmの可視光の透過率が極大となるように膜厚がおよそ135〜165nmの範囲で成膜される。よって、発光素子21からの発光を減衰させない。また、スパッタリングなどの方法により緻密な状態に成膜すれば、ガスバリア機能を持たせることも可能であり、より長い発光寿命の達成に寄与する。
【0059】
(実施形態2)
<他の有機EL装置>
図5は、実施形態2の有機EL装置を示す概略正面図である。本実施形態の有機EL装置50は、複数の発光素子を有する素子基板61と、複数種の色要素57を有する封止基板51とを備えている。色要素57は所謂カラーフィルタであり、R(赤色系)、G(緑色系)、B(青色系)の3色からなり、同色系のカラーフィルタが図面において上下方向に配列したストライプ方式のカラーフィルタである。
【0060】
素子基板61の複数の発光素子は、複数種の色要素57に対応した位置で素子基板61にマトリクス状に配置されている。素子基板61は、各発光素子に対応した駆動素子としての複数のTFT(Thin Film Transistor)素子(図示省略)を備えている。また、封止基板51よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、TFT素子を駆動する2つの走査線駆動回路部52,52と1つのデータ線駆動回路部53が設けられている。素子基板61の端子部61aには、これらの駆動回路部52,53と外部駆動回路とを接続するためのフレキシブルな中継基板54が実装されている。これらの駆動回路52,53はあらかじめ素子基板61の表面に低温ポリシリコンの半導体層を形成して構成しているが、これに限らず、発光素子を駆動可能なドライバICを平面実装してもよい。
【0061】
図6は、実施形態2の有機EL装置の構造を示す概略断面図である。封止基板51と素子基板61とは、3色のカラーフィルタ57R,57G,57Bと各発光素子Lとが対向するように接着層70を介して接合されている。封止基板51には、各カラーフィルタ57R,57G,57Bを覆うように平坦化層58とガスバリア層59と透明導電膜60とが順に積層されている。素子基板61側にも各発光素子Lを覆うガスバリア層69が設けられている。すなわち、2つのガスバリア層59,69が対向する状態で接着層70を介して封止基板51と素子基板61とが接合されている。
【0062】
各カラーフィルタ57R,57G,57Bに対向する各発光素子Lは、光反射性を有する反射層62と、反射層62を覆う保護膜63と、光透過性を有する各陽極64c,64d,64eと、有機発光層66を含む機能層Kと、半透過反射性を有する陰極68とを有し、素子基板61の表面に順次積層されたものである。
【0063】
すなわち、基本的には実施形態1の有機EL装置10と同様な構成を有するトップエミッション型の表示装置である。なお、図5の符号55は、表示領域を示している。よって、構成の異なる点について以下に説明する。
【0064】
各陽極64c,64d,64eは、ITOからなり、対向する各カラーフィルタ57R,57G,57Bに対応してそれぞれ異なる膜厚を有している。例えば、カラーフィルタ57Bに対応する陽極64cはおよそ35nm、カラーフィルタ57Gに対応する陽極64dはおよそ65nm、カラーフィルタ57Rに対応する陽極64eはおよそ95nmである。
【0065】
実際には、膜厚の異なるITO膜64a,64b,64cを順次積層することによって陽極64eを構成し、同様にITO膜64b,64cを順次積層することによって陽極64dが構成されている。
【0066】
このように各陽極64c,64d,64eが異なる膜厚を有することにより、光反射性を有する反射層62と半透過反射性を有する陰極68との間の光路長が、それぞれに異なる光共振器を備えている。このような光共振器から発光した光は、共振波長域において光強度が向上し、各カラーフィルタ57R,57G,57Bを通過してより高い色純度の光として射出される。
【0067】
もう一つの構成の異なる点は、封止基板51に形成された透明導電膜60と素子基板61の陰極68とを電気的に接続する上下導通部56を備えたことである。上下導通部材としては、例えば、Agやカーボンなどの導電粒子を含む導電ペーストを用いることができる。また、図5に示すように、上下導通部56は、封止基板51の角部の4箇所に位置して、封止基板51と素子基板61との間に配置されている。なお、素子基板61は、各発光素子Lを覆う酸化窒化シリコンからなるガスバリア層69を有している。したがって、ガスバリア層69が絶縁性を有するため、上下導通部材が配置される場所を除いてガスバリア層69を形成する。
【0068】
このような上下導通部56を備えることにより、透明導電膜60を陰極68の補助配線として機能させ、発光素子Lへの電流供給ムラによる発光ムラ、輝度ムラを低減させることが可能である。なお、電流供給ムラは陰極68の電気抵抗ムラに起因している。
【0069】
機能層Kは、各陽極64c,64d,64eの上に、正孔輸送層65、有機発光層66、電子輸送層67を順次積層したものである。よって、実施形態1の機能層20と同様な構成である。さらに、反射層62、陰極68、各ガスバリア層59,69、透明導電膜60、接着層70の構成は、実施形態1と同様であるので詳細の説明は省略する。
【0070】
このような有機EL装置50は、より長い発光寿命と高い信頼性を有すると共に、発光ムラが低減され均一で高色純度な発光が得られる。
【0071】
<他の有機EL装置の製造方法>
本発明の他の有機EL装置の製造方法について図7および図8に基づいて説明する。図7は実施形態2の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図8(a)〜(e)は実施形態2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。尚、素子基板61に設けられた発光素子Lを駆動するためのTFT素子およびその配線については図示省略した。
【0072】
図7に示すように、本実施形態の有機EL装置50の製造方法は、封止基板51に平坦化層58を形成する工程(ステップS11)と、平坦化層58を覆うようにガスバリア層59を形成する工程(ステップS12)と、ガスバリア層59を覆うように透明導電膜60を形成する工程(ステップS13)とを備えている。また、素子基板61の各発光素子Lを覆うようにガスバリア層69を形成する工程(ステップS14)と、素子基板61に上下導通部材を配置する工程(ステップS15)と、封止基板51と素子基板61とを接着層70を介して接合する接合工程(ステップS16)とを備えている。
【0073】
図7のステップS11は、平坦化層58を形成する工程である。ステップS11では、図8(a)に示すように、封止基板51に形成された3色のカラーフィルタ57R,57G,57Bと遮光部57aとを覆うようにアクリル系樹脂材料を用いて平坦化層58を形成する。形成方法は、実施形態1の場合と同様である。そして、ステップS12へ進む。
【0074】
図7のステップS12は、ガスバリア層59を形成する工程である。ステップS12では、図8(b)に示すように、封止基板51に形成された平坦化層58の表面を覆うようにガスバリア層59を形成する。形成方法は、実施形態1の場合と同様である。したがって、膜厚が、およそ400nmとなるように酸化窒化シリコンの薄膜を成膜する。また、形成された酸化窒化シリコンの薄膜における酸素と窒素の総量に対して酸素の割合が40%以上80%未満、好ましくは50%程度となるように成膜する。そして、ステップS13へ進む。
【0075】
図7のステップS13は、透明導電膜60を形成する工程である。ステップS13では、図8(c)に示すように、封止基板51に形成されたガスバリア層59を覆うようにITOからなる透明導電膜60を形成する。形成方法は、実施形態1の場合と同様である。したがって、波長550nmの可視光の透過率が極大となるようにITOの膜厚がおよそ135nm〜165nmの範囲で成膜する。そして、ステップS14へ進む。
【0076】
図7のステップS14は、ガスバリア層69を形成する工程である。ステップS14では、図8(d)に示すように、素子基板61に形成された各発光素子Lを覆うようにガスバリア層69を形成する。形成方法は、先のステップS12と同様である。ただし、膜厚がおよそ100nmとなるように成膜する。また、次のステップS15で上下導通部材が配置される場所をマスキングして成膜する。マスキングの方法としては、レジストを印刷する方法、フォトレジストをコーティングして露光・現像する方法などが挙げられる。これらのマスキング材料は、ガスバリア層69の形成後、ドライエッチングなどの方法を用いて除去する。そして、ステップS15へ進む。
【0077】
図7のステップS15は、素子基板61に上下導通部材を配置する工程である。ステップS15では、図5に示したように、表示領域55の外側で且つ封止基板51の4隅に上下導通部56が位置するように、前述した導電ペーストをディスペンサ等を用いて素子基板61の表面に塗布する。特に、塗布後の高さが次のステップS16で形成される接着層70の厚みよりも低くなると封止基板51側の透明導電膜60と素子基板61側の陰極68との電気的導通が取れなくなるおそれがあるので、塗布量の高さ管理が重要である。なお、塗布された導電ペーストは、次のステップS16で形成される接着層70と同時に硬化させて4箇所の上下導通部56とする。また、上下導通部56の形成は、4箇所に限ず1箇所でもよい。そして、ステップS16へ進む。
【0078】
図7のステップS16は、封止基板51と素子基板61とを接合する接合工程である。ステップS16では、図8(e)に示すように、素子基板61の複数の発光素子Lに対して封止基板51の各カラーフィルタ57R,57G,57Bが所定の位置で対向するように接着層70を介して接合する。当然ながら封止基板51と素子基板61との間に接着層70以外の異物や気泡等が混入しないように接合する。接合方法は、実施形態1の場合と同様である。ただし、熱硬化型のエポキシ系樹脂からなる接着剤をディスペンサで塗布する際に、素子基板61に配置された4箇所の上下導通部材を避けて塗布する。あるいは、接着層70の表面より上下導通部材がやや突出するように、上下導通部材の高さよりも僅かに接着層70の厚みが少ない状態に塗布する。
【0079】
このような有機EL装置50の製造方法によれば、ガスバリア層59,69、透明導電膜60、上下導通部56を形成することにより、より長い発光寿命と高い信頼性を有すると共に、均一で高色純度の発光が可能な有機EL装置50を歩留まりよく製造可能である。なお、素子基板61側にガスバリア層69を形成する工程は省いても良い。
【0080】
上記実施形態2の効果は、上記実施形態1の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏すると共に、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態2の有機EL装置50において、発光素子Lは、光反射性を有する反射層62と半透過反射性を有する陰極68との間で異なる光路長を有する光共振器が構成されているため、各カラーフィルタ57R,57G,57Bに対応した高い色純度の発光が得られる。
【0081】
(2)上記実施形態2の有機EL装置50とその製造方法において、封止基板51側に形成された透明導電膜60と素子基板側61に形成された陰極68とが上下導通部56によって電気的に導通する。したがって、透明導電膜60は、封止基板51の静電気対策として機能するだけでなく、陰極68の補助電極として機能し、各陽極64c,64d,64eと陰極68との間に供給される駆動電流の供給ムラを低減することができる。ゆえに、駆動電流の供給ムラに起因する発光ムラ、輝度ムラを低減し、より均一な発光が得られる。
【0082】
(実施形態3)
次に、本発明の有機EL装置を備えた電子機器の一例について図9を基に説明する。図9は、電子機器としての携帯電話機を示す概略斜視図である。
【0083】
図9に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯電話機100は、数字や文字、記号等を入力可能な入力ボタン102を有する本体101と、本体101に対して折りたたみ可能な状態に取り付けられた表示部103とを備えている。表示部103には、より長い発光寿命と高い信頼性を有する自発光型のカラー表示が可能な上記実施形態1の有機EL装置10、または上記実施形態2の有機EL装置50が搭載されている。
【0084】
上記実施形態3の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態3の携帯電話機100は、より長い発光寿命と高い信頼性を有する有機EL装置10または有機EL装置50を備えているので、長期に渡って使用することが可能な高い信頼性を有する携帯電話機100を提供することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記各実施形態以外の変形例は、以下の通りである。
【0086】
(変形例1)上記実施形態1の有機EL装置10において、各カラーフィルタ7R,7G,7Bの配置は、これに限定されない。図10(a)〜(c)は、カラーフィルタの配置を示す平面図である。上記実施形態1の各カラーフィルタ7R,7G,7Bの配置は、図10(a)に示すように、異なる色(R,G,B)のカラーフィルタがそれぞれ同一方向に直線状に配列した所謂ストライプ方式である。例えば、同図(b)に示すように、同一色のカラーフィルタが斜め方向に配列するモザイク方式や、同図(c)に示すように、異なる色のカラーフィルタが三角形の頂点に位置するデルタ方式の配置であってもよい。また、各カラーフィルタ7R,7G,7Bは、3色に限定されず、多色の構成としてもよい。上記実施形態2の有機EL装置50における各カラーフィルタ57R,57G,57Bについても同様である。
【0087】
(変形例2)上記実施形態1の有機EL装置10において、上記実施形態2の有機EL装置50と同様に、透明導電膜11と陰極18とを電気的に導通させる上下導通部を設けても良い。また、これとは逆に、有機EL装置50において、上下導通部56を削除した構成としてもよい。
【0088】
(変形例3)上記実施形態2の有機EL装置50の製造方法において、上下導通部56の形成方法は、これに限定されない。例えば、封止基板51側に上下導通部材を配置した後に、接着層70を形成した素子基板61と接合してもよい。また、上下導通部材を表示領域55を囲むように塗布し、額縁状の上下導通部56としてもよい。これによれば、額縁状の上下導通部56の内側に接着剤を塗布して接着層70を形成し、封止基板51と素子基板61とを接合することができる。すなわち、額縁状の上下導通部56を接着剤の流れ止めとして機能させることができる。
【0089】
(変形例4)上記実施形態1の有機EL装置10およびその製造方法において、接着層22の配置は、これに限定されない。例えば、接着層22を複数の発光素子21を取り囲むように額縁状に配置し、所定の間隔(空間)をおいて封止基板1と素子基板2とが対向するように減圧下で接合してもよい。これによれば、減圧下で接合されるので、当該空間に水分などが存在しない状態で接合され、ガスバリア層9,19の機能は損なわれない。
【0090】
(変形例5)上記実施形態1の有機EL装置10または上記実施形態2の有機EL装置50を備えた電子機器は、携帯電話機100に限定されない。例えば、PDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれる携帯型情報機器や携帯端末機器、パーソナルコンピュータ、デジタルスチルカメラ、車載用モニタ、デジタルビデオカメラ、液晶テレビ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話機、POS端末機等々の画像表示手段として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施形態1の有機EL装置を示す概略正面図。
【図2】実施形態1の有機EL装置の要部構造を示す概略断面図。
【図3】実施形態1の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(e)は、実施形態1の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図5】実施形態2の有機EL装置を示す概略正面図。
【図6】実施形態2の有機EL装置の要部構造を示す概略断面図。
【図7】実施形態2の有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図8】(a)〜(e)は、実施形態2の有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図9】電子機器としての携帯電話機を示す概略斜視図。
【図10】(a)〜(c)は、カラーフィルタの配置を示す平面図。
【符号の説明】
【0092】
1,51…封止基板、2,61…素子基板、7,7R,7G,7B,57,57R,57G,57B…色要素としてのカラーフィルタ、8,58…平坦化層、9,59…ガスバリア層、10,50…有機EL装置、11,60…透明導電膜、12,62…反射層、14,64…陽極、16,66…有機発光層、18,68…陰極、20…機能層、21…発光素子、22,70…接着層、100…電子機器としての携帯電話機、K…機能層、L…発光素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置であって、
前記発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、光透過性を有する陰極とを有し、
前記封止基板には前記複数種の色要素を覆うガスバリア層と、前記ガスバリア層を覆う透明導電膜とを備え、
前記複数の発光素子と前記複数種の色要素とが対向するように前記素子基板と前記封止基板とが接着層を介して接合されたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置であって、
前記発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、半透過反射性を有する陰極とを有し、前記反射層と前記陰極との間で光共振器が構成され、
前記封止基板には前記複数種の色要素を覆うガスバリア層と、前記ガスバリア層を覆う透明導電膜とを備え、
前記複数の発光素子と前記複数種の色要素とが対向するように前記素子基板と前記封止基板とが接着層を介して接合されたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項3】
前記陰極と前記透明導電膜とを電気的に導通させる上下導通部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記色要素と前記ガスバリア層との間に有機膜からなる平坦化層を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記ガスバリア層が、酸化窒化シリコンからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
酸化窒化シリコンからなる前記ガスバリア層において、含有する酸素と窒素の総量に対する酸素の割合が、40%以上80%未満であることを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記透明導電膜が、波長550nmの可視光の透過率が極大となる膜厚を有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項9】
複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置の製造方法であって、
前記発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、光透過性を有する陰極とを有し、
前記封止基板の前記複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する工程と、
前記ガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する工程と、
前記複数の発光素子と前記複数種の色要素とが対向するように前記素子基板と前記封止基板とを接着層を介して接合する接合工程とを備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
複数の発光素子を有する素子基板と複数種の色要素を有する封止基板とを備えた有機EL装置の製造方法であって、
前記発光素子が反射層と、光透過性を有する陽極と、少なくとも1層以上の有機発光層を含む機能層と、半透過反射性を有する陰極とを有し、前記反射層と前記陰極との間で光共振器が構成され、
前記封止基板の前記複数種の色要素を覆うようにガスバリア層を形成する工程と、
前記ガスバリア層を覆うように透明導電膜を形成する工程と、
前記複数の発光素子と前記複数種の色要素とが対向するように前記素子基板と前記封止基板とを接着層を介して接合する接合工程とを備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記接合工程の前に、前記陰極と前記透明導電膜とを電気的に導通させる上下導通部材を前記素子基板または前記封止基板のいずれか一方に配置する工程とをさらに備えたことを特徴とする請求項9または10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
前記ガスバリア層を形成する工程の前に、前記色要素を覆うように有機膜からなる平坦化層を形成する工程を備えたことを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
前記ガスバリア層を形成する工程では、前記ガスバリア層を酸化窒化シリコンで形成することを特徴とする請求項9ないし12のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項14】
前記ガスバリア層を形成する工程では、酸化窒化シリコンからなる前記ガスバリア層に含有する酸素と窒素の総量に対する酸素の割合が、40%以上80%未満となるように成膜して形成することを特徴とする請求項13に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項15】
前記透明導電膜を形成する工程では、波長550nmの可視光の透過率が極大となる膜厚に前記透明導電膜を形成することを特徴とする請求項9ないし14のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−207460(P2007−207460A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21989(P2006−21989)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】