説明

有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器

【課題】表示品質を向上させることができる有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器を提供する。
【解決手段】素子基板31上の陽極24R上に赤色を発光する発光層63Rを塗布法によって形成する工程と、素子基板31上の陽極24G上に緑色を発光する発光層63Gを塗布法によって形成する工程と、発光層63R,63G上に電子注入性を有する中間層64R,64Gを形成する工程と、中間層64R,64G上及び素子基板31上の陽極24B上を含む領域に、青色を発光する発光層63Bを蒸着法によって形成する工程と、発光層63B上に陰極25を形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法、有機EL装置、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置は、陽極と陰極との間に発光層を含む発光機能層を挟持した構造を有している。発光機能層としては、例えば、陽極側から順に正孔輸送層、発光層、電子輸送層が積層された構成を挙げることができる。そして、陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、正孔輸送層から正孔が、電子輸送層から電子が発光層に注入され、これらが再結合したときに発光が行われる。
【0003】
有機EL装置の製造方法は、例えば、パターニング性が高く、大面積化が容易であり、材料の使用効率が高い塗布法が用いられる。しかしながら、塗布法における赤色発光層(R)、緑色発光層(G)は実用レベル(例えば、発光寿命特性など)であるものの、青色発光層(B)は実用レベルに到達したとは言い難い。一方、蒸着法における青色発光層(B)は、実用レベルに到達しつつある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1〜3に記載のように、赤色発光層(R)と緑色発光層(G)は塗布法で形成し、青色発光層(B)は赤色発光層(R)及び緑色発光層(G)上を含む全面に蒸着法で形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−73532号公報
【特許文献2】特開2003−332055号公報
【特許文献3】特開平10−153967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塗布法で用いられる高分子材料と、蒸着法で用いられる低分子材料との間で、電荷の移動がスムーズに行われないという問題がある。つまり、発光を励起させようとする発光層への電子の注入性が悪いという問題がある。これにより、発光効率が低下したり寿命が低下したりするという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。また、以下の形態または適用例において、「上」とは、基板から見て有機EL素子が配置された方向を示し、「○○上に」と記載された場合、○○の上に接するように配置される場合または○○の上に他の構成物を介して配置される場合または○○の上に一部が接するように配置され、一部が他の構成物を介して配置される場合を表すものとする。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る有機EL装置の製造方法は、基板上の第1陽極上に第1色を発光する第1発光層を塗布法によって形成する第1発光層塗布工程と、前記基板上の第2陽極上に第2色を発光する第2発光層を塗布法によって形成する第2発光層塗布工程と、前記第1発光層及び前記第2発光層上に電子注入性を有する中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層上及び前記基板上の第3陽極上を含む領域に、第3色を発光する第3発光層を蒸着法によって形成する第3発光層蒸着工程と、前記第3発光層上に陰極を形成する陰極形成工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、電子注入性を有する中間層を介して、塗布法によって形成された第1発光層及び第2発光層と、蒸着法によって形成された第3発光層とが積層されているので、第3発光層と、第1発光層及び第2発光層との間で電子注入を促進させる(確保する)ことが可能となる。よって、陰極からの電子を第3発光層から第1発光層及び第2発光層にスムーズに移動させることができる。その結果、発光素子を長時間に亘って発光させることが可能となり、寿命を向上させることができる。その結果、高い発光効率と長い寿命とを有する有機EL装置を製造することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記第1発光層は、赤色発光層であり、前記第2発光層は、緑色発光層であり、前記第3発光層は、青色発光層であることが好ましい。
【0011】
この方法によれば、赤色発光層と緑色発光層とを塗布法によって形成し、青色発光層を蒸着法によって形成するので、青色の発光特性(例えば、寿命など)を、赤色及び緑色の発光特性に近づけることが可能となる。よって、有機EL装置の表示品質を向上させることができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記第3発光層は、少なくとも正孔輸送性を有する層と、電子輸送性を有する層とを含むことが好ましい。
【0013】
この方法によれば、第3発光層が正孔輸送性を有する層と電子輸送性を有する層とを含むので、第3陽極と陰極との間に第3発光層を形成することで、正孔及び電子を移動させることが可能となり、第3色を効率よく発光させることができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記第1陽極と前記第1発光層との間、及び、前記第2陽極と前記第2発光層との間に、少なくとも正孔注入層及び正孔輸送層のどちらか一方を形成することが好ましい。
【0015】
この方法によれば、少なくとも正孔注入層及び正孔輸送層のどちらか一方を形成するので、陽極から発光層への正孔の輸送性を向上させることができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記第3陽極と前記第3発光層との間に、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくともどちらか一方を形成することが好ましい。
【0017】
この方法によれば、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくともどちらか一方を形成するので、陽極から発光層への正孔の輸送性を向上させることができる。
【0018】
[適用例6]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記中間層形成工程は、前記正孔注入層または前記正孔輸送層と前記第3発光層との間に前記中間層を形成することが好ましい。
【0019】
[適用例7]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記中間層形成工程は、前記第3陽極と前記第3発光層との間を含む領域に前記中間層を形成することが好ましい。
【0020】
この方法によれば、第3陽極と第3発光層との間に中間層を有するので、陰極からの電子注入性を向上させることができる。
【0021】
[適用例8]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記中間層形成工程は、塗布法によって前記中間層を形成することが好ましい。
【0022】
この方法によれば、中間層を塗布法によって形成するので、各発光層毎に選択的に形成することができる。よって、基板上の全面に中間層を形成する場合と比較して、使用する材料を少なくすることができる。
【0023】
[適用例9]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記中間層形成工程は、蒸着法によって前記中間層を形成することが好ましい。
【0024】
この方法によれば、中間層を蒸着法によって形成するので、基板上の全体に一度に形成できると共に、均一な膜質に形成することができる。また、蒸着法を用いるので、使用材料の選択性を向上させることができる。
【0025】
[適用例10]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記塗布法は、インクジェット法であることが好ましい。
【0026】
この方法によれば、インクジェット法を用いるので、各発光層の領域毎に液滴を吐出することで膜を形成することができる。言い換えれば、選択的に機能性を有する機能膜を形成できる。
【0027】
[適用例11]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、前記中間層は炭酸セシウムであることが好ましい。
【0028】
[適用例12]上記適用例に係る有機EL装置の製造方法において、色変換層を形成する色変換層形成工程を有することが好ましい。
【0029】
この方法によれば、色変換層(カラーフィルター)を介して光を出力するので、例えば、光を着色したり、混色した色を除去したりすることができる。つまり、ねらいの波長分布を有する光が得られる。
【0030】
[適用例13]本適用例に係る有機EL装置は、基板上の第1陽極上に塗布法によって形成された第1色を発光する第1発光層と、前記基板上の第2陽極上に塗布法によって形成された第2色を発光する第2発光層と、前記第1発光層上、前記第2発光層上、前記基板上の第3陽極上を含む領域に蒸着法によって形成された第3色を発光する第3発光層と、前記第3発光層上に設けられた陰極と、を有し、少なくとも前記第1発光層と前記第3発光層との間、及び、前記第2発光層と前記第3発光層との間に、電子注入性を有する中間層が設けられていることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、電子注入性を有する中間層を介して、塗布法によって形成された第1発光層及び第2発光層と、蒸着法によって形成された第3発光層とが積層されているので、第3発光層と、第1発光層及び第2発光層との間で電子注入を促進させる(確保する)ことが可能となる。よって、陰極からの電子を第3発光層から第1発光層及び第2発光層にスムーズに移動させることができる。その結果、発光素子を長時間に亘って発光させることが可能となり、寿命を向上させることができる。その結果、高い発光効率と長い寿命とを有する有機EL装置を提供することができる。
【0032】
[適用例14]上記適用例に係る有機EL装置において、前記第1発光層は、赤色発光層であり、前記第2発光層は、緑色発光層であり、前記第3発光層は、青色発光層であることが好ましい。
【0033】
この構成によれば、赤色発光層と緑色発光層とを塗布法によって形成し、青色発光層を蒸着法によって形成するので、青色の発光特性(例えば、寿命など)を、赤色及び緑色の発光特性に近づけることが可能となる。よって、有機EL装置の表示品質を向上させることができる。
【0034】
[適用例15]本適用例に係る電子機器は、上記した有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置、又は上記した有機EL装置を備えたことを特徴とする。
【0035】
この構成によれば、高い表示品質の画像を表示可能な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図2】有機EL装置の構成を示す模式平面図。
【図3】有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図4】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図5】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図6】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図7】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図8】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図9】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図10】第2実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図11】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図12】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図13】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図14】第3実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図15】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図16】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図17】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図18】第4実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図19】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図20】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図21】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図22】第5実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図23】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図24】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図25】有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図。
【図26】有機EL装置を備える電子機器の一例としてテレビの構成を模式的に示す概略斜視図。
【図27】有機EL装置の変形例の構造を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0038】
(第1実施形態)
<有機EL装置の構成>
図1は、有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図である。以下、有機EL装置の構成を、図1を参照しながら説明する。なお、本実施形態の有機EL装置は、一例としてボトムエミッション構造で説明するが、トップエミッション構造にも適用可能である。
【0039】
図1に示すように、有機EL装置11は、複数の走査線12と、走査線12に対して交差する方向に延びる複数の信号線13と、信号線13に並行に延びる複数の電源線14とが、それぞれ格子状に配線されている。そして、走査線12と信号線13とにより区画された領域が画素領域として構成されている。信号線13は、信号線駆動回路15に接続されている。また、走査線12は、走査線駆動回路16に接続されている。
【0040】
各画素領域には、走査線12を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(Thin Film Transistor)21と、このスイッチング用TFT21を介して信号線13から供給される画素信号を保持する保持容量22と、保持容量22によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT23(以下、「TFT素子23」と称する。)と、が設けられている。更に、各画素領域には、TFT素子23を介して電源線14に電気的に接続したときに、電源線14から駆動電流が流れ込む陽極24と、陰極25と、この陽極24と陰極25との間に挟持された機能層としての発光機能層26とが設けられている。
【0041】
有機EL装置11は、陽極24と陰極25と発光機能層26とにより構成される発光素子27を複数備えている。また、有機EL装置11は、複数の発光素子27で構成される表示領域を備えている。
【0042】
この構成によれば、走査線12が駆動されてスイッチング用TFT21がオン状態になると、そのときの信号線13の電位が保持容量22に保持され、保持容量22の状態に応じて、TFT素子23のオン・オフ状態が決まる。そして、TFT素子23のチャネルを介して、電源線14から陽極24に電流が流れ、更に、発光機能層26を介して陰極25に電流が流れる。発光機能層26は、ここを流れる電流量に応じた輝度で発光する。
【0043】
図2は、有機EL装置の構成を示す模式平面図である。以下、有機EL装置の構成を、図2を参照しながら説明する。
【0044】
図2に示すように、有機EL装置11は、ガラス等からなる基板としての素子基板31に表示領域32(図中一点鎖線の内側の領域)と非表示領域33(一点鎖線の外側の領域)とを有する構成になっている。表示領域32には、実表示領域32a(二点鎖線の内側の領域)とダミー領域32b(図中二点鎖線の外側の領域)とが設けられている。
【0045】
実表示領域32a内には、光が射出されるサブ画素34(発光領域)がマトリックス状に配列されている。この、サブ画素34の各々は、スイッチング用TFT21及びTFT素子23(図1参照)の動作に伴って、第1色としてのR(赤)、第2色としてのG(緑)、第3色としてのB(青)各色を発光する構成となっている。
【0046】
ダミー領域32bには、主として各サブ画素34を発光させるための回路が設けられている。例えば、実表示領域32aの図中左辺及び右辺に沿うように走査線駆動回路16が配置されており、実表示領域32aの図中上辺に沿うように検査回路35が配置されている。
【0047】
素子基板31の下辺には、フレキシブル基板36が設けられている。フレキシブル基板36には、各配線と接続された駆動用IC37が備えられている。
【0048】
図3は、有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造について、図3を参照しながら説明する。なお、図3は、各構成要素の断面的な位置関係を示すものであり、明示可能な尺度で表されている。
【0049】
図3に示すように、有機EL装置11は、発光領域42において発光が行われるものであり、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層43と、回路素子層43上に形成された発光素子層44と、発光素子層44上に形成された陰極(共通電極)25とを有する。素子基板31としては、例えば、透光性を有するガラス基板が挙げられる。
【0050】
回路素子層43には、素子基板31上にシリコン酸化膜(SiO2)からなる下地保護膜45が形成され、下地保護膜45上にTFT素子23が形成されている。詳しくは、下地保護膜45上に、ポリシリコン膜からなる島状の半導体膜46が形成されている。半導体膜46には、ソース領域47及びドレイン領域48が不純物の導入によって形成されている。そして、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域51となっている。
【0051】
更に、回路素子層43には、下地保護膜45及び半導体膜46を覆うシリコン酸化膜等からなる透明なゲート絶縁膜52が形成されている。ゲート絶縁膜52上には、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などからなるゲート電極53(走査線)が形成されている。
【0052】
ゲート絶縁膜52及びゲート電極53上には、透明な第1層間絶縁膜54、第2層間絶縁膜55が形成されている。第1層間絶縁膜54及び第2層間絶縁膜55は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)、チタン酸化膜(TiO2)などから構成されている。ゲート電極53は、半導体膜46のチャネル領域51に対応する位置に設けられている。
【0053】
半導体膜46のソース領域47は、ゲート絶縁膜52及び第1層間絶縁膜54を貫通して設けられたコンタクトホール56を介して、第1層間絶縁膜54上に形成された信号線13と電気的に接続されている。一方、ドレイン領域48は、ゲート絶縁膜52、第1層間絶縁膜54、第2層間絶縁膜55を貫通して設けられたコンタクトホール57を介して、第2層間絶縁膜55上に形成された陽極24(24R,24G,24B)と電気的に接続されている。
【0054】
陽極24は、例えば、発光領域42ごとに形成されている。また、陽極24は、透明のITO(Indium Tin Oxide)膜からなり、例えば、平面的に略矩形状の形状となっている。なお、回路素子層43には、図示しない保持容量及びスイッチング用のトランジスターが形成されている。また、上記したように、回路素子層43には、各陽極24に接続された駆動用のトランジスター(TFT素子23)が形成されている。
【0055】
陽極24の周囲には、絶縁層58及び隔壁(バンク)59が、平面視で略格子状に設けられている。絶縁層58としては、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)等の無機材料が挙げられる。絶縁層58は、隣り合う陽極24間の絶縁性を確保すると共に、発光領域42の形状を所望の形状(例えば、トラック形状)にするために、陽極24の周縁部上に乗り上げるように形成されている。つまり、陽極24と絶縁層58とは、平面的に一部が重なるように配置された構造となっている。言い換えれば、絶縁層58は、発光領域42を除いた領域に形成されていることになる。
【0056】
隔壁59は、例えば、断面が傾斜面を有する台形状であり、発光領域42(発光素子27R,27G,27B)を囲むように形成されている。つまり、囲まれた領域が隔壁59の開口部(発光領域42)となる。隔壁59の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性を有する有機材料が挙げられる。
【0057】
陽極24上に設けられる各種膜は、各色の発光素子27R,27G,27B毎に異なっている。具体的には、赤色発光素子27Rは、隔壁59によって囲まれた第1陽極としての陽極24R上に、正孔注入層61R、正孔輸送層62R、第1発光層(赤色発光層)としての発光層63Rが、塗布法(インクジェット法)によって順に形成されている。更に、発光層63R上には、電子注入性を促進させるため(言い換えれば、電荷をスムーズに移動させるため)の中間層64Rが塗布法によって設けられている。
【0058】
緑色発光素子27Gは、隔壁59によって囲まれた第2陽極としての陽極24G上に、正孔注入層61G、正孔輸送層62G、第2発光層(緑色発光層)としての発光層63Gが、インクジェット法によって順に形成されている。更に、発光層63G上には、赤色発光素子27Rと同様に、電子注入性を促進させるための中間層64Gが塗布法によって設けられている。
【0059】
正孔注入層61(61R,61G)は、導電性高分子材料中にドーパントを含有する導電性高分子層からなる。このような正孔注入層61は、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含有する3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT−PSS)などから構成することができる。
【0060】
正孔輸送層62(62R,62G)の構成材料としては、例えば、下記化1に示すTFBなどのトリフェニルアミン系ポリマーを含んだ材料を用いることができる。
【0061】
【化1】

【0062】
発光層63は、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質の層である。発光層63の構成材料としては、赤色の発光層63Rであれば、例えば、下記化2に示す材料を用いることができる。緑色の発光層63Gであれば、例えば、下記化3に示す材料を用いることができる。
【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
中間層64(64R,64G)は、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属の酸化物・フッ化物・塩と金属酸化物との積層構造である。本実施形態では、例えば、アルカリ金属塩を用いる。アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸セシウム(Cs2CO3)が挙げられる。ここでは、中間層64(64R,64G)となる前の炭酸セシウムの水溶液を、例えば、インクジェット法を用いて塗布する。中間層64の厚みは、例えば、5nmである。
【0066】
青色発光素子27Bは、隔壁59によって囲まれた第3陽極としての陽極24B上、及び、中間層64R,64G上を含む素子基板31上の全体に、蒸着法によって第3発光層(青色発光層)としての発光層63Bが形成されている。発光層63Bの構成としては、陽極24B側から順に、正孔輸送性のα−NPD(下記化4)、青色の発光層であるDPVBi(下記化5)、及び電子輸送性のAlq3(下記化6)の積層構造となっている。
【0067】
【化4】

【0068】
【化5】

【0069】
【化6】

【0070】
発光層63B上には、陰極25が素子基板31上の全面に成膜されている。陰極25は、例えば、フッ化リチウム(LiF)及びアルミニウム(Al)の積層体である。陰極25上は、例えば、缶封止方式を用いて封止が施されている(図示せず)。具体的には、凹型のガラスや金属製の対向基板の中に乾燥剤が入れられ、エポキシ等の接着剤を介して陰極25側に貼り付けられている。
【0071】
上述した発光層63は、陽極24と陰極25との間に電圧を印加することによって、発光層63には、陽極24から正孔が、また、陰極25から電子が注入される。発光層63において、これらが結合したときに光を発する。
【0072】
なお、上記したように、中間層64(64R,64G)を介し、塗布法によって形成された発光層63(63R,63G)と、蒸着法によって形成された発光層63(63B)とが積層されているので、電子注入性を促進させることが可能となり、陰極25からの電子を発光層63R,63G側にスムーズに移動させることができる。
【0073】
<有機EL装置の製造方法>
図4〜図9は、有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図4〜図9を参照しながら説明する。なお、各種配線や電極、駆動用TFT等を形成する製造工程については、周知の工程と同様なので、ここではそれらの説明を省略又は簡略化し、これ以降の工程について詳しく説明する。また、図面についても同様に、省略又は簡略化する。
【0074】
まず、図4に示すように、素子基板31上に、公知の成膜技術を用いて回路素子層43(詳細は、図3参照)を形成し、回路素子層43上にITOからなる陽極24(24R,24G,24B)を形成する。
【0075】
続いて、図5に示すように、回路素子層43及び陽極24上に、絶縁層58及び隔壁59を形成する。詳しくは、まず、絶縁層58の材料となる、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)を含んだ絶縁層を、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により、回路素子層43及び陽極24上を覆うように形成する。次に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、絶縁層58のうち発光領域42に開口部を形成し、絶縁層58を完成させる。
【0076】
その後、絶縁層58上に隔壁59を形成する。まず、隔壁59の材料の塗工液を絶縁層58上及び陽極24上に塗布する。塗工液は、例えばアクリル樹脂である。次に、塗工液を乾燥させて隔壁層を形成する。その後、この隔壁層における発光領域42に開口部を形成する。これにより、隔壁59の形状が完成する。
【0077】
続いて、図6に示すように、赤色発光領域66及び緑色発光領域67において、隔壁59によって囲まれた陽極24(24R,24G)上に、正孔注入層61(61R,61G)、正孔輸送層62(62R,62G)、発光層63(63R,63G)を形成する(第1発光層塗布工程、第2発光層塗布工程)。
【0078】
詳しくは、正孔注入層61の材料を含んだ機能液を液滴吐出法(例えば、インクジェット法)により吐出し、そのあと機能液を乾燥させる。正孔注入層61の機能液としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)等を用いることができる。
【0079】
次に、正孔注入層61上に、正孔輸送層62の材料を含んだ機能液をインクジェット法により吐出し、そのあと機能液を乾燥させる。正孔輸送層62の機能液としては、例えば、TFBが溶媒に溶解されている。溶媒としては、シクロヘキシルベンゼンなどが挙げられる。
【0080】
次に、正孔輸送層62上に、発光層63(63R,63G)の材料を含んだ機能液をインクジェット法により吐出し、そのあと機能液を乾燥させる。発光層63の機能液としては、例えば、発光層63Rであれば、赤色蛍光材料の固形分が含まれている。発光層63Gであれば、緑色蛍光材料の固形分が含まれている。
【0081】
続いて、図7に示すように、発光層63(63R,63G)上に中間層64(64R,64G)を形成する(中間層形成工程)。詳しくは、発光層63上に、アルカリ金属塩(例えば、炭酸セシウム)の水溶液をインクジェット法により吐出し、そのあと水溶液を乾燥させる。中間層64の厚みとしては、例えば、5nmである。
【0082】
続いて、図8に示すように、中間層64R,64G、青色発光領域68の陽極24B、及び隔壁59上の全体に亘って、蒸着法により発光層63Bを形成する(第3発光層蒸着工程)。詳しくは、例えば、陽極24B側から順に、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の積層構造となっている。
【0083】
続いて、図9に示すように、発光層63B上に陰極25を形成し、更に陰極25上を封止する(陰極形成工程)。具体的には、例えば、フッ化リチウム膜及びアルミニウム膜をこの順に、例えば蒸着法によって積層させることにより、陰極25を形成する。その後、缶封止方式を用いて陰極25上を封止し、有機EL装置11が完成する。
【0084】
以上詳述したように、第1実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
【0085】
(1)第1実施形態によれば、アルカリ金属等からなる中間層64(64R,64G)を介して、インクジェット法によって形成された発光層63(63R,63G)と、蒸着法によって形成された発光層63(63B)とが積層されているので、発光層63Bと発光層63R,63G側との間で電子注入性を促進させることが可能となる。よって、陰極25からの電子を発光層63R,63G側にスムーズに移動させることができる。その結果、中間層64を設けない構成の場合と比較して、発光素子27を長時間に亘って発光させることができ、有機EL装置11の寿命を向上させることができる。
【0086】
(2)第1実施形態によれば、青色の発光層63Bを蒸着法によって成膜するので、塗布法で青色の発光層を形成する場合と比較して、電気的な特性を向上させることが可能となり、高品位な表示を行うことができる。
【0087】
(第2実施形態)
<有機EL装置の構成>
図10は、第2実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図10を参照しながら説明する。
【0088】
第2実施形態の有機EL装置71は、青色発光領域68において陽極24Bと発光層63Bとの間に正孔注入層61B及び正孔輸送層62Bを設ける点が、第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態と同じ構成部材には同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0089】
図10に示すように、第2実施形態の有機EL装置71は、第1実施形態と同様、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層43と、回路素子層43上に形成された陽極24(24R,24G,24B)、絶縁層58、及び隔壁59とを有する。
【0090】
隔壁59に囲まれた陽極24(24R,24G,24B)上には、インクジェット法によって正孔注入層61(61R,61G,61B)及び正孔輸送層62(62R,62G,62B)が形成されている。このように、第1実施形態と異なる点として、青色発光領域68にも、正孔注入層61B及び正孔輸送層62Bが形成されている。
【0091】
赤色発光領域66において、正孔輸送層62R上には、インクジェット法によって発光層63R及び中間層64Rが順に形成されている。これらの構成は、第1実施形態と同様である。
【0092】
緑色発光領域67において、正孔輸送層62G上には、インクジェット法によって発光層63G及び中間層64Gが順に形成されている。これらの構成は、第1実施形態と同様である。
【0093】
中間層64R,64G、青色発光領域68の正孔輸送層62B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体には、第1実施形態と同様に、蒸着法を用いて発光層63Bが設けられている。なお、第2実施形態では、陽極24B上に正孔注入層61B及び正孔輸送層62Bが設けられているので、第1実施形態で用いた3層からなる発光層63Bのうち正孔輸送性のα−NPDを除くようにしてもよい。そして、発光層63B上には、陰極25が全面成膜されている。
【0094】
<有機EL装置の製造方法>
図11〜図13は、第2実施形態の有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図11〜図13を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同じ部分については同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0095】
まず、図11に示すように、各色発光領域66,67,68において、隔壁59によって囲まれた陽極24上に、正孔注入層61と正孔輸送層62とを、インクジェット法を用いて形成する。詳しくは、赤色発光領域66における陽極24R上に、正孔注入層61R、正孔輸送層62Rの順に形成する。また、緑色発光領域67における陽極24G上に、正孔注入層61G、正孔輸送層62Gの順に形成する。また、青色発光領域68における陽極24B上に、正孔注入層61B、正孔輸送層62Bの順に形成する。正孔注入層61及び正孔輸送層62の製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0096】
続いて、図12に示すように、赤色発光領域66及び緑色発光領域67において、正孔輸送層62(62R,62G)上に、発光層63(63R,63G)と中間層64(64R,64G)とを、インクジェット法を用いて形成する。発光層63及び中間層64の製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0097】
続いて、図13に示すように、中間層64R,64G、青色発光領域68の正孔輸送層62B、及び隔壁59上の全体に亘って、蒸着法により発光層63Bを形成する。詳しくは、例えば、正孔輸送層62B側から順に、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の積層構造となっている。続いて、発光層63B上に陰極25を形成し、有機EL装置71が完成する。
【0098】
以上詳述したように、第2実施形態によれば、上記した第1実施形態の(1)、(2)の効果に加えて、以下に示す効果が得られる。
【0099】
(3)第2実施形態によれば、青色発光領域68の陽極24B上に、他の発光領域66,67と同様に正孔注入層61B及び正孔輸送層62Bを形成するので、陽極24表面の凸凹形状を緩和させることができる。よって、有機EL装置71の内部にリーク電流が流れたり、ダークスポットが発生したりする等の不具合を抑えることができる。
【0100】
(4)第2実施形態によれば、青色発光領域68の陽極24B上に、他の発光領域66,67と同様に正孔注入層61B及び正孔輸送層62Bを形成するので、陽極24からの正孔の輸送性を向上させることができる。
【0101】
(第3実施形態)
<有機EL装置の構成>
図14は、第3実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図14を参照しながら説明する。
【0102】
第3実施形態の有機EL装置81は、各色発光領域66,67,68の全体に亘って中間層84が設けられている点が、第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態と同じ構成部材には同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0103】
図14に示すように、第3実施形態の有機EL装置81は、第1実施形態と同様、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層43と、回路素子層43上に形成された陽極24(24R,24G,24B)、絶縁層58、及び隔壁59とを有する。
【0104】
隔壁59に囲まれた陽極24(24R,24G)上には、インクジェット法によって正孔注入層61(61R,61G)、正孔輸送層62(62R,62G)、及び発光層63(63R,63G)が形成されている。これらの製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0105】
発光層63R,63G、青色発光領域68の陽極24B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体には、第3実施形態の特徴部分である中間層84が、蒸着法によって形成されている。この場合の中間層84は、電子注入性を有することが好ましい。
【0106】
そして、中間層84上には青色の発光層63Bが蒸着法によって形成されている。更に、発光層63B上には、陰極25が全面成膜されている。
【0107】
<有機EL装置の製造方法>
図15〜図17は、第3実施形態の有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図15〜図17を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同じ部分については同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0108】
まず、図15に示すように、赤色発光領域66及び緑色発光領域67において、隔壁59によって囲まれた陽極24上に、正孔注入層61、正孔輸送層62、及び発光層63を、インクジェット法を用いて形成する。
【0109】
詳しくは、赤色発光領域66における陽極24R上に、正孔注入層61R、正孔輸送層62R、発光層63Rの順に形成する。また、緑色発光領域67における陽極24G上に、正孔注入層61G、正孔輸送層62G、発光層63Gの順に形成する。正孔注入層61、正孔輸送層62、発光層63の製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0110】
続いて、図16に示すように、発光層63R,63G、青色発光領域68の陽極24B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体に、中間層84を蒸着法によって形成する。中間層84の材料としては、例えば、第1実施形態と同様に、炭酸セシウム(Cs2CO3)を用いることができる。また、中間層84を蒸着法を用いて形成するので、用いる材料の選択性を広げることができる。例えば、炭酸セシウムに限定されず、フッ化リチウムなどを用いるようにしてもよい。また、本実施形態のように、青色発光領域68に中間層84を設けるか否かについては、青色の発光層63Bの正孔輸送性、又は電子輸送性などの特性に応じて決定することが好ましい。
【0111】
続いて、図17に示すように、中間層84上に発光層63B及び陰極25を、蒸着法によって形成する。詳しくは、例えば、中間層84側から順に、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の積層構造となっている。続いて、発光層63B上に陰極25を形成し、有機EL装置81が完成する。
【0112】
以上詳述したように、第3実施形態によれば、上記した第1実施形態の(1)、(2)の効果に加えて、以下に示す効果が得られる。
【0113】
(5)第3実施形態によれば、蒸着法を用いて素子基板31上の全体に中間層84を形成するので、塗布法を用いて中間層を形成する場合と比較して、均一な膜質に形成できると共に、使用材料の選択性を向上させることができる。
【0114】
(第4実施形態)
<有機EL装置の構成>
図18は、第4実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図18を参照しながら説明する。
【0115】
第4実施形態の有機EL装置91は、各色発光領域66,67,68に正孔注入層61及び正孔輸送層62が設けられていると共に、各色発光領域66,67,68、及び隔壁59上の全体に亘って中間層84が設けられている点が、第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態と同じ構成部材には同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0116】
図18に示すように、第4実施形態の有機EL装置91は、第1実施形態と同様、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層43と、回路素子層43上に形成された陽極24(24R,24G,24B)、絶縁層58、及び隔壁59とを有する。
【0117】
更に、各色発光領域66,67,68において、隔壁59によって囲まれた陽極24(24R,24G,24B)上には、インクジェット法によって正孔注入層61(61R,61G,61B)及び正孔輸送層62(62R,62G,62B)が形成されている。これらの製造方法は、第1実施形態と同様である。
【0118】
また、赤色発光領域66において、正孔輸送層62R上には、発光層63Rが形成されている。一方、緑色発光領域67において、正孔輸送層62G上には、発光層63Gが形成されている。これらは、インクジェット法により形成される。
【0119】
そして、発光層63R,63G、青色発光領域68における正孔輸送層62B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体には、中間層84が蒸着法によって形成されている。中間層84上には、発光層63B、陰極25の順に蒸着法によって形成されている。
【0120】
<有機EL装置の製造方法>
図19〜図21は、第4実施形態の有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図19〜図21を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同じ部分については同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0121】
まず、図19に示すように、各色発光領域66,67,68において、隔壁59によって囲まれた陽極24上に、正孔注入層61及び正孔輸送層62を、インクジェット法を用いて形成する。
【0122】
詳しくは、赤色発光領域66における陽極24R上に、正孔注入層61R、正孔輸送層62Rの順に形成する。また、緑色発光領域67における陽極24G上に、正孔注入層61G、正孔輸送層62Gの順に形成する。また、青色発光領域68における陽極24B上に、正孔注入層61B、正孔輸送層62Bの順に形成する。
【0123】
次に、赤色発光領域66において、正孔輸送層62R上に発光層63Rをインクジェット法によって形成する。また、緑色発光領域67において、正孔輸送層62G上に発光層63Gをインクジェット法によって形成する。
【0124】
続いて、図20に示すように、発光層63R,63G、青色発光領域68の正孔輸送層62B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体に、中間層84を蒸着法によって形成する。
【0125】
続いて、図21に示すように、中間層84上に発光層63B及び陰極25を、蒸着法によって形成する。詳しくは、例えば、中間層84側から順に、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の積層構造となっている。続いて、発光層63B上に陰極25を形成し、有機EL装置91が完成する。
【0126】
以上詳述したように、第4実施形態によれば、上記した実施形態の(1)〜(5)の効果を得ることができる。
【0127】
(第5実施形態)
<有機EL装置の構成>
図22は、第5実施形態の有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図22を参照しながら説明する。
【0128】
第5実施形態の有機EL装置111は、赤色各色発光領域66と緑色発光領域67に正孔注入層61及び正孔輸送層62が設けられており、青色発光領域68には正孔注入層61のみが設けられている点が、第4実施形態と異なっている。以下、第4実施形態と同じ構成部材には同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0129】
図22に示すように、第5実施形態の有機EL装置111は、第4実施形態と同様、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層43と、回路素子層43上に形成された陽極24(24R,24G,24B)、絶縁層58、及び隔壁59とを有する。
【0130】
更に、各色発光領域66,67,68において、隔壁59によって囲まれた陽極24(24R,24G,24B)上には、インクジェット法によって正孔注入層61(61R,61G,61B)が形成されている。これらの製造方法は、第4実施形態と同様である。
【0131】
更に、発光領域66,67において、正孔注入層61(61R,61G)上には、インクジェット法によって正孔輸送層62(62R,62G)が形成されている。これらの製造方法は、第4実施形態と同様である。
【0132】
また、赤色発光領域66において、正孔輸送層62R上には、発光層63Rが形成されている。一方、緑色発光領域67において、正孔輸送層62G上には、発光層63Gが形成されている。これらは、インクジェット法により形成される。
【0133】
そして、発光層63R,63G、青色発光領域68における正孔注入層61B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体には、中間層84が蒸着法によって形成されている。中間層84上には、発光層63B、陰極25の順に蒸着法によって形成されている。
【0134】
<有機EL装置の製造方法>
図23〜図25は、第5実施形態の有機EL装置の製造方法を工程順に示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図23〜図25を参照しながら説明する。なお、第4実施形態と同じ部分については同一符号を付し、ここではそれらの説明を省略又は簡略化する。
【0135】
まず、図23に示すように、各色発光領域66,67,68において、隔壁59によって囲まれた陽極24上に、正孔注入層61を、インクジェット法を用いて形成する。
【0136】
そして、発光領域66,67において、正孔注入層61上にインクジェット法を用いて正孔輸送層62を形成する。
【0137】
詳しくは、赤色発光領域66における陽極24R上に、正孔注入層61R、正孔輸送層62Rの順に形成する。また、緑色発光領域67における陽極24G上に、正孔注入層61G、正孔輸送層62Gの順に形成する。また、青色発光領域68における陽極24B上には、正孔注入層61Bのみを形成する。
【0138】
次に、赤色発光領域66において、正孔輸送層62R上に発光層63Rをインクジェット法によって形成する。また、緑色発光領域67において、正孔輸送層62G上に発光層63Gをインクジェット法によって形成する。
【0139】
続いて、図24に示すように、発光層63R,63G、青色発光領域68の正孔注入層61B、及び隔壁59上に亘る素子基板31上の全体に、中間層84を蒸着法によって形成する。
【0140】
続いて、図25に示すように、中間層84上に発光層63B及び陰極25を、蒸着法によって形成する。詳しくは、例えば、中間層84側から順に、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の積層構造となっている。続いて、発光層63B上に陰極25として発光層63B側から順にフッ化リチウムとアルミニウムを形成し、有機EL装置91が完成する。
【0141】
以上詳述したように、第5実施形態によれば、上記した実施形態の(1)〜(5)の効果を得ることができる。
【0142】
<電子機器の構成>
図26は、本発明に係る有機EL装置を備える電子機器の一例としてテレビの構成を模式的に示す概略斜視図である。以下、テレビの構成を、図26を参照しながら説明する。
【0143】
図26に示すように、テレビ101は、表示部102と、枠部103と、脚部104と、リモコン105とを有する。表示部102には、上述の製造方法を用いて製造された有機EL装置11,71,81,91が実装されている。枠部103は、表示部102をガイドするために用いられる。脚部104は、表示部102及び枠部103を一定の高さで固定するために用いられる。リモコン105は、例えば、テレビ101の電源をON/OFFしたり、チャンネルを変えたりするために用いられる。
【0144】
なお、電子機器は、上記した有機EL装置11,71,81,91を備えたものであり、他にも例えば、ディスプレイ、携帯電話機、モバイルコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、カーナビゲーション装置、オーディオ機器等に用いることができる。
【0145】
以上詳述したように、第5実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
【0146】
(6)第5実施形態によれば、上記した有機EL装置11,71,81,91を備えることによって、表示品質の高い画像を形成する電子機器を提供することができる。
【0147】
なお、実施形態は上記に限定されず、以下のような形態で実施することもできる。
【0148】
(変形例1)
上記した有機EL装置11,71,81,91は、カラーフィルターを設けていないが、図27に示すように、カラーフィルターを含む構成にしてもよい。図27は、有機EL装置の変形例の構造を示す模式断面図である。図27に示す有機EL装置211は、例えば、第1実施形態の有機EL装置11にカラーフィルター(色変換層)213を配置したものである。詳しくは、陽極24(24R,24G,24B)の下側に光遮光層212を形成し、更に、陰極25に透過性の材料を用いることにより、トップエミッション構造としたものである。
【0149】
上記した有機EL装置11,71,81,91は、発光層63Bを全面に形成していることから混色することが考えられる。しかしながら、カラーフィルター213を介すことによって、色を変換することが可能となり、混色した色を混色する前の色に近づけることができる。つまり、混色する色を除去することができる。なお、有機EL装置211は、トップエミッション構造としたが、カラーフィルター213の配置位置を変えることによって、ボトムエミッション構造にも適用できる。また、上記したように、カラーフィルター213を第1実施形態の有機EL装置11と組み合わせることに限定されず、第2実施形態〜第4実施形態で用いた有機EL装置71,81,91と組み合わせるようにしてもよい。また、カラーフィルターは、色を変換する機能に限定されず、着色させる機能を有していてもよい。
【0150】
(変形例2)
上記したように、青色の発光層63Bを、正孔輸送性のα−NPD、青色の発光層であるDPVBi、及び電子輸送性のAlq3の3層で構成していることに限定されず、例えば、DPVBiとAlq3との間に、BAlqのような正孔ブロッキング層を設けるようにしてもよい。これによれば、選択する発光層63Bの材料にもよるが、発光層に正孔を留めておくことが可能となり、正孔と電子とを効率よく結合させることができる。
【0151】
(変形例3)
上記した第3実施形態及び第4実施形態の中間層84は、炭酸セシウムの単層であることに限定されず、例えば、炭酸セシウムと酸化モリブデン(MoO3)との積層構造としてもよい。膜厚は、例えば、炭酸セシウムが1nmであり、酸化モリブデンが1nmである。これによれば、特に、青色発光領域における正孔の注入性を向上させることができる。
【0152】
(変形例4)
上記したように、第2実施形態及び第4実施形態のように、陽極24上に正孔注入層61及び正孔輸送層62の2層を積層することに限定されず、例えば、発光層への正孔注入性や正孔輸送性をみて、どちらか一方を設けるようにしてもよい。
【0153】
(変形例5)
上記したように、赤色の発光層63R及び緑色の発光層63Gを高分子の材料を用いて塗布していることに限定されず、低分子の材料を塗布するようにしてもよい。
【0154】
(変形例6)
上記した第3実施形態及び第4実施形態のように、素子基板31上の全体に蒸着法を用いて中間層84を形成することに限定されず、例えば、表示領域のみに中間層を形成するようにしてもよい。また、マスク蒸着を用いて、発光領域42のみに選択的に中間層を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0155】
11,71,81,91,211…有機EL装置、12…走査線、13…信号線、14…電源線、15…信号線駆動回路、16…走査線駆動回路、21…スイッチング用TFT、22…保持容量、23…TFT素子、24,24R,24G,24B…陽極(第1陽極、第2陽極、第3陽極)、25…陰極、26…発光機能層、27…発光素子、27R…赤色発光素子、27G…緑色発光素子、27B…青色発光素子、31…基板としての素子基板、32…表示領域、32a…実表示領域、32b…ダミー領域、33…非表示領域、34…サブ画素、35…検査回路、36…フレキシブル基板、37…駆動用IC、42…発光領域、43…回路素子層、44…発光素子層、45…下地保護膜、46…半導体膜、47…ソース領域、48…ドレイン領域、51…チャネル領域、52…ゲート絶縁膜、53…ゲート電極、54…第1層間絶縁膜、55…第2層間絶縁膜、56…コンタクトホール、57…コンタクトホール、58…絶縁層、59…隔壁、61,61R,61G,61B…正孔注入層、62,62R,62G,62B…正孔輸送層、63,63R,63G,63B…発光層(第1発光層、第2発光層、第3発光層)、64,64R,64G,84…中間層、66…赤色発光領域、67…緑色発光領域、68…青色発光領域、101…電子機器としてのテレビ、102…表示部、103…枠部、104…脚部、105…リモコン、212…光遮光層、213…カラーフィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の第1陽極上に第1色を発光する第1発光層を塗布法によって形成する第1発光層塗布工程と、
前記基板上の第2陽極上に第2色を発光する第2発光層を塗布法によって形成する第2発光層塗布工程と、
前記第1発光層上及び前記第2発光層上に電子注入性を有する中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上及び前記基板上の第3陽極上に、第3色を発光する第3発光層を蒸着法によって形成する第3発光層蒸着工程と、
前記第3発光層上に陰極を形成する陰極形成工程と、
を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第1発光層は、赤色発光層であり、
前記第2発光層は、緑色発光層であり、
前記第3発光層は、青色発光層であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3発光層は、少なくとも正孔輸送性を有する層と、電子輸送性を有する層とを含むことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第1陽極と前記第1発光層との間、及び、前記第2陽極と前記第2発光層との間に、少なくとも正孔注入層及び正孔輸送層のどちらか一方を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記第3陽極と前記第3発光層との間に、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくともどちらか一方を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記中間層形成工程は、前記正孔注入層または前記正孔輸送層と前記第3発光層との間に前記中間層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記中間層形成工程は、前記第3陽極と前記第3発光層との間を含む領域に前記中間層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記中間層形成工程は、塗布法によって前記中間層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記中間層形成工程は、蒸着法によって前記中間層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記塗布法は、インクジェット法であることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
前記中間層は炭酸セシウムであることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法であって、
色変換層を形成する色変換層形成工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
基板上の第1陽極上に塗布法によって形成された第1色を発光する第1発光層と、
前記基板上の第2陽極上に塗布法によって形成された第2色を発光する第2発光層と、
前記第1発光層上、前記第2発光層上、前記基板上の第3陽極上を含む領域に蒸着法によって形成された第3色を発光する第3発光層と、
前記第3発光層上に設けられた陰極と、を有し、
少なくとも前記第1発光層と前記第3発光層との間、及び、前記第2発光層と前記第3発光層との間に、電子注入性を有する中間層が設けられていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項14】
請求項13に記載の有機EL装置であって、
前記第1発光層は、赤色発光層であり、
前記第2発光層は、緑色発光層であり、
前記第3発光層は、青色発光層であることを特徴とする有機EL装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法を用いて製造された有機EL装置、又は請求項13又は請求項14に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−119212(P2011−119212A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121325(P2010−121325)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】