説明

有機EL装置の製造方法及び有機EL装置

【課題】封止性能が良好で発光特性の高い有機EL装置の製造方法及び有機EL装置を提供すること。
【解決手段】素子基板10上に陽極13を形成し、陽極13を形成後、自身の上面14aが陽極13の上面13aとほぼ面一状態になるように素子基板10上の所定の領域に隔壁14を形成することとしたので、陽極13及び隔壁14の上に有機層25、陰極17を積層する際に、各層内で段差が形成されるのを回避することができる。したがって、陰極17上に設けられる陰極保護層18内で段差が形成されるのを回避することができる。段差による陰極保護層18の破損を防ぐことができるので、有機緩衝層19が下層側に染み込むのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及び有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置は、隔壁によって区切られた画素ごとに陽極と発光層と陰極とが順に積層され、陰極上が無機材料からなる陰極保護層で覆われた構成になっている場合が多い。有機材料によって隔壁を形成する場合には、隔壁の上面が陽極の上面よりも高くなるように形成されるのが一般的である。近年では、正孔注入性や電子注入性を向上させるため、陽極と発光層の間に正孔注入層を配置した構成や、発光層と陰極の間に電子注入層を配置した構成が知られている。
【0004】
有機EL装置の発光層、正孔注入層、電子注入層に用いられる材料は、大気中の水分と反応し、劣化し易いものが多い。これらの層が劣化すると、有機EL装置にいわゆる「ダークスポット」と呼ばれる非発光領域が形成されてしまい、発光素子としての寿命が短くなってしまう。
【0005】
これに対して、発光素子上に透明でガスバリア性に優れた珪素窒化物、珪素酸化物、セラミックス等の無機材料からなる薄膜をガスバリア層として成膜させる薄膜封止と呼ばれる技術が用いられている(例えば、特許文献1参照)。ガスバリア層を画素隔壁等がある素子基板上に直接形成すると、表面の凹凸形状によりクラック等が発生してしまう。このため、素子基板上(陰極保護層上)に有機緩衝層を形成し、その後、ガスバリア層を形成するようにしている。
【特許文献1】特開2003−243171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、隔壁の上面が陽極の上面よりも高くなるように形成された場合、隔壁及び陽極上に正孔注入層、発光層、陰極を形成する際に、各層において段差が形成されてしまう。段差が形成されることにより、陰極上に形成される陰極保護層にも段差が形成され、当該段差部分で陰極保護層が破損することがある。有機緩衝層を形成する際に、破損した部分から有機緩衝層を構成する有機材料が染み込むと、発光層や正孔注入層が変質し、発光特性が低下する原因になる。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、封止性能が良好で発光特性の高い有機EL装置の製造方法及び有機EL装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機EL装置の製造方法は、基板上に陽極を形成する陽極形成工程と、前記陽極形成工程後、自身の上面が前記陽極の上面とほぼ面一状態になるように前記基板上の所定の領域に隔壁を形成する隔壁形成工程と、前記隔壁形成工程後、前記陽極上に発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、前記有機層上に陰極を形成する陰極形成工程と、前記陰極上に陰極保護層を形成する陰極保護層形成工程と、前記陰極保護層上に有機材料を用いて有機緩衝層を形成する有機緩衝層形成工程とを具備することを特徴とする。
本発明によれば、基板上に陽極を形成し、陽極形成後、自身の上面が陽極の上面とほぼ面一状態になるように基板上の所定の領域に隔壁を形成することとしたので、陽極及び隔壁の上に有機層、陰極を積層する際に、各層内で段差が形成されるのを回避することができる。したがって、陰極上に設けられる陰極保護層内で段差が形成されるのを回避することができる。段差による陰極保護層の破損を防ぐことができるので、有機緩衝層が下層側に染み込むのを防ぐことができる。これにより、封止性能が良好で発光特性の高い有機EL装置を製造することができる。
【0008】
上記の有機EL装置の製造方法は、前記隔壁形成工程が、前記隔壁の上面が前記陽極の上面よりも高い位置になるように前記隔壁を形成し、前記隔壁の上面をエッチングして前記陽極の上面の高さに合わせることを特徴とする。
本発明によれば、隔壁を形成する際に、まず隔壁の上面が陽極の上面よりも高い位置になるように形成し、当該隔壁の上面をエッチングして陽極の上面の高さに合わせることとしたので、隔壁の上面と陽極の上面とを高精度で面一状態にすることができる。
【0009】
上記の有機EL装置の製造方法は、前記隔壁形成工程では、前記隔壁の上面及び前記陽極の上面をエッチングすることを特徴とする。
本発明によれば、隔壁の上面のみならず陽極の上面をエッチングすることとしたので、陽極の上面を平坦にすることができる。陽極の上面が平坦でない場合、陽極から正孔注入層内へ正孔が漏出するおそれがある。本発明では、陽極の上面を平坦にすることによって正孔の漏出を防ぐことができる。
【0010】
上記の有機EL装置の製造方法は、前記隔壁形成工程が、前記隔壁を形成し、CMP法によって前記隔壁の上面を前記陽極の上面とほぼ面一状態にすることを特徴とする。
本発明によれば、隔壁を形成する際に、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法によって隔壁の上面を陽極の上面とほぼ面一状態にすることとしたので、隔壁の上面をエッチングするのと同時に陽極の上面をもエッチングすることができる。これにより、隔壁上面のエッチングと陽極上面のエッチングとを一工程で行うことができる。
【0011】
本発明に係る有機EL装置は、基板上に設けられた陽極と、自身の上面が前記陽極の上面とほぼ面一状態になるように前記基板上の所定の領域に設けられた有機材料からなる隔壁と、前記陽極上に設けられ、発光層を含む有機層と、前記有機層上に設けられた陰極と、無機材料からなり前記陰極上に設けられた陰極保護層と、有機材料からなり前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層とを具備することを特徴とする。
本発明によれば、基板上に設けられた陽極と、自身の上面が陽極の上面とほぼ面一状態になるように基板上の所定の領域に設けられた有機材料からなる隔壁とを有しているので、陽極と隔壁との間には段差がほとんど無いことになる。このため、これら陽極及び隔壁上に設けられる有機層及び陰極を平坦にすることができる。これにより、陰極保護層が破損するのを回避することができ、有機緩衝層を構成する有機材料が下層側に染み込むのを防ぐことができる。
【0012】
上記の有機EL装置は、前記有機層が前記基板の全面に設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、有機層が基板の全面に設けられていることとしたので、当該有機層上の陰極を平坦にすることができる。これにより、陰極保護層が破損するのを回避することができ、有機緩衝層を構成する有機材料が下層側に染み込むのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。以下に示す各図においては、図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を異ならせてある。
【0014】
(有機EL装置)
図1は、本実施形態に係る有機EL装置1の構成を示す平面図である。本実施形態では、トップエミッション構造の有機EL装置を例に挙げて説明する。トップエミッション構造は、光を素子基板側ではなく封止基板側から取り出す構造であり、素子基板に配置された各種回路の大きさに影響されずに発光面積を広く確保できるという利点がある。電圧及び電流を抑えつつ輝度を確保することが可能であり、発光素子の寿命を長く維持することが可能になっている。
【0015】
同図に示すように、有機EL装置1は、素子基板10に表示領域(図中一点鎖線の内側の領域)2と非表示領域(図中一点鎖線の外側の領域)3とを有する構成になっている。
【0016】
表示領域2には、実表示領域4(図中二点鎖線の内側の領域)とダミー領域(図中二点鎖線の外側の領域)5とが設けられている。
【0017】
実表示領域4内には、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の光が射出されるサブ画素がマトリクス状に配列されている。赤色のサブ画素、緑色のサブ画素、青色のサブ画素は1列ずつストライプ状に設けられており、このストライプが行方向に繰り返し形成されている。隣接する赤色サブ画素、緑色サブ画素、青色サブ画素が1組になって画素が形成されており、1つの画素内で赤色、緑色、青色の光を混色させることでフルカラー表示が可能になっている。
【0018】
ダミー領域5には、主として各サブ画素を発光させるための回路が設けられている。例えば、実表示領域4の図中左辺及び右辺に沿うように走査線駆動回路80が配置されており、実表示領域4の図中上辺に沿うように検査回路90が配置されている。検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路である。例えば検査結果を外部ドライバなどに出力し、製造途中や出荷時における有機EL装置1の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0019】
図2は、有機EL装置1の構成を示す断面図であり、1組の画素について示したものである。
同図に示すように、有機EL装置1は、素子基板10上に駆動回路層6と、有機EL層7と、封止層8と、封止基板9とが順に積層された構成になっている。
【0020】
駆動回路層6には、TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)素子を構成する半導体層30が設けられている。半導体層30は、例えばシリコンなどの半導体からなり、素子基板10上に設けられている。絶縁層11は、少なくとも上述のサブ画素が設けられる領域と半導体層30の一部とを覆うように素子基板10上に設けられており、サブ画素の間の領域では絶縁層11が途切れている。
【0021】
有機EL層7には、光反射膜12と、陽極13と、隔壁14と、正孔注入層15と、発光層16と、陰極17とが設けられている。
光反射膜12は、発光層16で発光する光を封止層8側へ反射する反射部材である。光反射膜12は、例えばアルミニウムや銅、銀などの光反射可能な材料からなり、絶縁層11上に設けられている。光反射膜12は、上述のサブ画素に平面視で重なる領域に配置されている。
【0022】
陽極13は、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide:登録商標)などの光透過性を有する導電材料からなり、光反射膜12を覆うように上述のサブ画素に平面視で重なる領域に配置されている。陽極13の一端が絶縁層11内に延在しており、この延在部分が半導体層30のドレイン領域に接続されている。陽極13の上面13aは平坦になっている。
【0023】
本実施形態の有機EL装置1はトップエミッション構造であるため、陽極13の材料として光透過性を有する材料を用いる必要はない。例えばアルミ等の金属材料を用いてもよい。金属材料を用いた場合、光反射膜12は設けなくてもよい。
【0024】
隔壁14は、例えばアクリル樹脂等の有機絶縁材料からなり、上述の各サブ画素の間の領域に配置されている。隔壁14は、陽極13のうち半導体層30のドレイン領域に接続される部分の上側に積層されている。隔壁14の上面14aは平坦になっている。隔壁14の上面14aと陽極13の上面13aとの間の段差は約10nm以下になっており、上面14aと上面13aとはほぼ面一状態になっている。
【0025】
正孔注入層15は、隔壁の上面14a及び陽極13の上面13aを覆うように素子基板10のほぼ全面に設けられている。正孔注入層15は、例えばトリアリールアミン(ATP)多量体やTDP(トリフェニルジアミン)系の材料からなる。
【0026】
発光層16は、白色に発光する発光材料からなり、正孔注入層15を覆うように設けられている。発光材料としては、例えばスチリルアミン系発光材料、アントラセン系ドーパミント(青色)、或いはスチリルアミン系発光材料、ルブレン系ドーパミント(黄色)が用いられる。正孔注入層15と発光層16とで有機層25を構成している。
【0027】
陰極17は、ITOやIZOなどの光透過性を有する導電材料からなり、発光層16を覆うように設けられている。本実施形態はトップエミッション構造であることから、陰極17は光透過性を有する材料からなる必要がある。また、陰極17は、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物を透明性が得られる膜厚に調整して用いる。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が挙げられる。
【0028】
これらの材料のほかにも、電気抵抗を低減するため、上記のサブ画素の間の領域においてアルミニウムや金、銀、銅などの金属層をパターン形成したり、ITOや酸化錫などの透明な金属酸化物導電層との積層体と組み合わせて用いたりしてもよい。組み合わせとしては、例えば、フッ化リチウムとマグネシウム−銀合金、ITOの積層体などが挙げられる。
【0029】
封止層8には、陰極保護層18と、有機緩衝層19と、ガスバリア層20とが設けられている。
陰極保護層18は、陰極17を覆うように設けられている。陰極保護層18は、透明性や密着性、耐水性などの面から、珪素酸窒化物などの無機化合物で構成することが望ましい。陰極保護層18の膜厚は100nm以上200nm以下にすることが好ましい。
【0030】
有機緩衝層19は、陰極保護層18を覆うように設けられている。有機緩衝層19は、素子基板10の反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、陰極保護層18が陰極17から剥離するのを防止する機能を有している。有機緩衝層19の弾性率としては、1〜10GPaであることが好ましい。10GPa以上では、隔壁14上を平坦化した際の応力を吸収することができず、1GPa以下では耐摩耗性や耐熱性等が不足するためである。
【0031】
有機緩衝層19の最適な膜厚としては、3〜10μmが好ましい。有機緩衝層19の膜厚が厚いほうが異物混入した場合等にガスバリア層20の欠陥を防ぐが、有機緩衝層19を合わせた層厚が10μmを超えると、後述する着色層23と発光層16の距離が広がり側面に逃げる光が増えるため光を取り出す効率が低下するからである。
【0032】
有機緩衝層19の原料主成分としては、減圧雰囲気下でスクリーン印刷法により形成するために、流動性に優れ、かつ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0033】
ガスバリア層20は、有機緩衝層19覆うように設けられている。ガスバリア層20は、酸素や水分が浸入するのを防止するためのもので、これにより酸素や水分による有機層25の劣化等を抑えることができるようになっている。ガスバリア層20は、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、窒素を含む珪素化合物、すなわち珪素窒化物や無機化合物によって形成されていることが好ましい。ガスバリア層20の弾性率は、100GPa以上、具体的には200〜250GPa程度が好ましい。
【0034】
ガスバリア層20の膜厚は、200〜600nm程度が好ましい。200nm未満であると、異物に対する被覆性が不足し部分的に貫通孔が形成されてしまい、ガスバリア性が損なわれてしまうおそれがあるからであり、600nmを越えると、応力によるクラックが生じてしまうおそれがあるからである。
【0035】
ガスバリア層20は、複数の層を積層させた構造にしてもよいし、その組成を不均一にし、酸素濃度が連続的に、あるいは非連続的に変化するような構成としてもよい。ガスバリア層20を積層構造とした場合の膜厚は、第一ガスバリア層としては、200〜400nmが好ましく、200nm未満では有機緩衝層19の表面及び側面被覆が不足してしまう。異物等の被覆性を向上させる第二ガスバリア層としては、200〜800nmが好ましい。
【0036】
本実施形態では有機EL装置1をトップエミッション構造としていることから、ガスバリア層20は光透過性を有する必要がある。このため材質や膜厚を適宜に調整する必要がある。本実施形態では、可視光領域における光線透過率を例えば80%以上に調節している。
【0037】
封止基板9は、透明基板24の面24a上に遮光層22と着色層23とが設けられた構成になっており、面24a側が接着層21を介して封止層8のガスバリア層20に貼り付けられた構成になっている。接着層21としては、有機緩衝層19と同様、例えばエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが好適に用いられる(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。
【0038】
透明基板24は、ガラスまたは透明プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネ―ト、ポリオレフィン等)などの光透過性を有する材料で構成されている。
【0039】
着色層23は、上述のサブ画素に平面視で重なる領域に配置されており、赤色のサブ画素には赤色着色層23Rが、緑色のサブ画素には緑色着色層23Gが、青色のサブ画素には青色着色層23Bが、それぞれ設けられている。遮光層22は、サブ画素の間の領域に形成されている。
【0040】
図3は、有機EL装置1の回路構造を示す模式図である。
有機EL装置1は、複数の走査線101…と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102…と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103…とからなる配線構成になっている。走査線101…と信号線102…との各交点付近に画素領域(サブ画素)X…を形成したものである。
【0041】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
【0042】
画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(スイッチング素子)112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT30と、この駆動用TFT30を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極13と、該陽極13と陰極17との間に挟み込まれた正孔注入層15及び発光層16とが設けられている。
【0043】
この有機EL装置1は、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて駆動用TFT30のオン・オフ状態が決まる。駆動用TFT30がオン状態のとき、チャネルを介して電源線103から陽極13に電流が流れ、正孔注入層15を介して発光層16に正孔が注入される。一方、陰極17からは電子が発光層16に注入される。発光層16において注入された正孔と電子とが結合して発光する。
【0044】
(有機EL装置の製造方法)
次に、上記のように構成された有機EL装置1の製造方法を説明する。図4から図6は、有機EL装置1の製造過程を示す工程図である。
【0045】
まず、素子基板10上にTFTを構成する半導体層30を形成し、絶縁層11を形成する。絶縁層を形成したら、図4に示すように、光反射膜12及び陽極13を形成する。陽極13は、例えばサブ画素に平面視で重なる領域以外の領域をマスクで覆ってスパッタリング法によって形成する。半導体層30のドレイン領域に接続する延在部分も併せて形成する。
【0046】
陽極13を形成したら、隔壁14を形成する。隔壁14は、図5に示すように、サブ画素の間の領域に開口部40aを有するマスク40で覆った状態で、スパッタリング法によって形成する。このとき隔壁14の上面14aが陽極13の上面13aよりも高い位置になるように形成する。
【0047】
隔壁14を上記のように形成したら、CMP法によって隔壁14の上面14aをエッチングし、当該上面14aを陽極13の上面13aとほぼ面一状態になるようにする。このとき、隔壁14の上面14a及び陽極13の上面13aについてもエッチングされ、上面14a及び上面13aが平坦化される。図6は、上面14a及び上面13aが平坦化された後の様子を示している。
【0048】
上面14a及び上面13aを平坦化したら、この上面14a及び上面13aを洗浄し、これらを覆うように正孔注入層15、発光層16及び陰極17を形成する。正孔注入層15、発光層16及び陰極17は、それぞれ蒸着法によって素子基板10のほぼ全面に形成する。図7に示すように、陰極17の上面17aが平坦に形成される。
【0049】
陰極17を形成したら、陰極保護層18を形成する。陰極保護層18は、図8に示すように、平坦に形成された陰極17の上面17a上に形成されることになる。
陰極保護層18を形成したら、図9に示すように、当該陰極保護層18上に有機緩衝層19を形成する。その後、接着層21を介して透明基板24を貼り付けて、有機EL装置1が完成する。
【0050】
本実施形態によれば、素子基板10上に陽極13を形成し、陽極13を形成後、自身の上面14aが陽極13の上面13aとほぼ面一状態になるように素子基板10上の所定の領域に隔壁14を形成することとしたので、陽極13及び隔壁14の上に有機層25、陰極17を積層する際に、各層内で段差が形成されるのを回避することができる。したがって、陰極17上に設けられる陰極保護層18内で段差が形成されるのを回避することができる。段差による陰極保護層18の破損を防ぐことができるので、有機緩衝層19が下層側に染み込むのを防ぐことができる。これにより、封止性能が良好で発光特性の高い有機EL装置1を製造することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、隔壁14の上面14aのみならず陽極13の上面13aをエッチングすることとしたので、陽極13の上面13aを平坦にすることができる。陽極の上面が平坦でない場合、陽極から正孔注入層内へ正孔が漏出するおそれがある。本実施形態では、陽極13の上面13aを平坦にすることによって正孔の漏出を防ぐことができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、隔壁14を形成する際に、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法によって隔壁14の上面14aを陽極13の上面13aとほぼ面一状態にすることとしたので、隔壁14の上面14aをエッチングするのと同時に陽極13の上面13aをもエッチングすることができる。これにより、上面14aのエッチングと上面13aのエッチングとを一工程で行うことができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態では、発光層の構成が第1実施形態とは異なっているので、この点を中心に説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様の構成要素については、説明を一部省略している。
【0054】
図10は、本実施形態に係る有機EL装置201の構成を示す断面図であり、第1実施形態の図2に対応したものである。
同図に示すように、有機EL装置201は、素子基板210上に駆動回路層206と、有機EL層207と、封止層208と、封止基板209とが順に積層された構成になっている。このうち、駆動回路層206、封止層208については第1実施形態と同一の構成になっている。
【0055】
有機EL層207には、光反射膜212と、陽極213と、隔壁214と、正孔注入層215と、発光層216と、陰極217とが設けられている。このうち、光反射膜212、陽極213、隔壁214、正孔注入層215、陰極217については第1実施形態と同一の構成になっている。
【0056】
発光層216については、上述のサブ画素に平面視で重なる領域に異なる色を発光する発光層がそれぞれ配置されている。具体的には、赤色のサブ画素には赤色発光層216Rが、緑色のサブ画素には緑色発光層216Gが、青色のサブ画素には青色発光層216Bが、それぞれ設けられている。
【0057】
発光層216を構成する材料としては、例えば高分子材料としては(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0058】
低分子材料としては、Alq3、DPVBiなどのホスト材料、これにナイルレッド、DCM、ルブレン、ぺリレン、ローダミンなどをドープして、またはホスト単独で、蒸着法にて用いることができる。蒸着法で形成する場合、1色の発光層216についてそれぞれ個別に形成する。例えば、赤色発光層216Rを形成する場合には、当該赤色発光層216Rが設けられる領域に開口部を有すると共に他の色の発光層が設けられる領域を遮蔽するマスクをして蒸着する。他の色の発光層を形成する場合も同様である。
【0059】
本実施形態においても、素子基板210上に設けられた陽極213と、自身の上面が陽極213の上面213aとほぼ面一状態になるように素子基板210上の所定の領域に設けられた有機材料からなる隔壁214とを有しているので、陽極213と隔壁214との間には段差がほとんど無いことになる。このため、これら陽極213の上面213a及び隔壁の上面214aに設けられる有機層225及び陰極217を平坦にすることができる。これにより、陰極保護層218が破損するのを回避することができ、有機緩衝層219を構成する有機材料が下層側に染み込むのを防ぐことができる。
【0060】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態では、上述の有機EL装置1、201を備えた電子機器の例について説明する。
【0061】
図11(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図11(a)において、符号350は携帯電話本体を示し、符号351は有機EL装置1、201を備えた表示部を示している。
【0062】
図11(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図11(b)において、符号360は情報処理装置、符号361はキーボードなどの入力部、符号363は情報処理本体、符号362は有機EL装置1、201を備えた表示部を示している。
【0063】
図11(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図11(c)において、符号370は時計本体を示し、符号371は有機EL装置1、201を備えた表示部を示している。
【0064】
図11(a)〜(c)に示す電子機器は、先の実施形態に示した有機EL装置1、201が備えられたものであるので、表示特性が良好な電子機器となる。
【0065】
なお、電子機器としては、前記電子機器に限られることなく、種々の電子機器に適用することができる。例えば、ディスクトップ型コンピュータ、液晶プロジェクタ、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)及びエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置等の電子機器に適用することができる。
【0066】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、有機層25を構成する層として、正孔注入層15及び発光層16を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えば発光層16の上層側にアルミニウムキノリノール(Alq3)などからなる電子注入層をさらに設けた構成であっても構わない。
また、上記実施形態ではトップエミッション構造の有機EL装置を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、ボトムエミッション構造の有機EL装置においても本発明の適用は可能である。
また、上記実施形態では、隔壁を形成する際に隔壁の上面を陽極の上面よりも高い位置に一旦形成し、その後CMP法によって隔壁の上面をエッチングする手法を説明したが、これに限られることは無い。例えば、隔壁を形成する際に、スパッタリングの時間を制御することにより、隔壁の上面を陽極の上面にそろえるように形成しても構わない。これにより、隔壁形成と面一化とを一工程で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す平面図。
【図2】本実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図。
【図3】本実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す回路図。
【図4】本実施形態に係る有機EL装置の製造過程を示す工程図。
【図5】同、工程図。
【図6】同、工程図。
【図7】同、工程図。
【図8】同、工程図。
【図9】同、工程図。
【図10】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図。
【図11】本発明の第3実施形態に係る電子機器の構成を示す図。
【符号の説明】
【0068】
1、201…有機EL装置 2…表示領域 6、206…駆動回路層 7、207…有機EL層 8、208…封止層 9、209…封止基板 10、210…素子基板 13、213…陽極 13a、213a…上面 14、214…隔壁 14a、214a…上面 15、215…正孔注入層 16、216…発光層 17、217…陰極 17a、…上面 18、…陰極保護層 19、…有機緩衝層 20、…ガスバリア層 25…有機層 40a…開口部 40…マスク 216R…赤色発光層 216G…緑色発光層 216B…青色発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に陽極を形成する陽極形成工程と、
前記陽極形成工程後、自身の上面が前記陽極の上面とほぼ面一状態になるように前記基板上の所定の領域に隔壁を形成する隔壁形成工程と、
前記隔壁形成工程後、前記陽極上に発光層を含む有機層を形成する有機層形成工程と、
前記有機層上に陰極を形成する陰極形成工程と、
前記陰極上に陰極保護層を形成する陰極保護層形成工程と、
前記陰極保護層上に有機材料を用いて有機緩衝層を形成する有機緩衝層形成工程と
を具備することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁形成工程が、
前記隔壁の上面が前記陽極の上面よりも高い位置になるように前記隔壁を形成し、
前記隔壁の上面をエッチングして前記陽極の上面の高さに合わせる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁形成工程では、前記隔壁の上面及び前記陽極の上面をエッチングする
ことを特徴とする請求項2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記隔壁形成工程が、
前記隔壁を形成し、CMP法によって前記隔壁の上面を前記陽極の上面とほぼ面一状態にする
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
基板上に設けられた陽極と、
自身の上面が前記陽極の上面とほぼ面一状態になるように前記基板上の所定の領域に設けられた有機材料からなる隔壁と、
前記陽極上に設けられ、発光層を含む有機層と、
前記有機層上に設けられた陰極と、
無機材料からなり前記陰極上に設けられた陰極保護層と、
有機材料からなり前記陰極保護層上に設けられた有機緩衝層と
を具備することを特徴とする有機EL装置。
【請求項6】
前記有機層が前記基板のほぼ全面に設けられている
ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−123879(P2008−123879A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307547(P2006−307547)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】