説明

有機EL装置の製造方法

【課題】フォトリソグラフィー法を利用した有機EL層のパターニングの際に、素子と素子との間の領域に設けられる部材を損傷させないようにする有機EL装置の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程と、前記第一有機EL層上に第一保護層を形成する工程と、前記第一有機EL層及び前記第一保護層の加工工程と、少なくとも第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程と、前記第二有機EL層上に第二保護層を形成する工程と、前記第二有機EL層及び前記第二保護層の加工工程と、を有し、前記第二有機EL層及び前記第二保護層の加工工程によって加工された前記第二有機EL層及び前記第二保護層が、前記第一有機EL層及び前記第一保護層の加工工程によって加工された前記第一有機EL層の端部及び前記第一保護層の端部を被覆していることを特徴とする、有機EL装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に知られている有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を搭載した表示装置とは、有機EL素子を単数あるいは複数有する画素を所定のパターンで配列してなる装置である。またこの画素により、表示装置内の表示領域は2次元的に高精細に分割されている。ここでこの画素に含まれる有機EL素子は、例えば、赤、緑又は青のいずれかの光を出力する電子素子である。有機EL素子を搭載した表示装置は、所望の色を出力する有機EL素子を所望の発光強度で駆動させることでフルカラーの画像を得ている。
【0003】
ところで、表示装置の構成要素である有機EL素子において、素子に含まれる有機化合物層は、蒸着等により有機材料からなる薄膜を成膜することにより形成される薄膜層である。ここで蒸着により表示装置内の有機EL素子に含まれる有機化合物層を素子ごとに形成する際には、高精細なパターニング技術が必要とされる。そしてパターニングを行う際には、パターニングの精細度に応じた精細度の高いメタルマスクが必要となる。しかし、メタルマスクは、繰り返し蒸着に用いると、付着する蒸着膜によってマスクの開口部が狭くなったり、応力でマスクの開口部が歪んだりする。従って、一定回数の成膜を行った後で使用したマスクを洗浄する必要があり、これが生産コストの点で不利な要因となっていた。また、マスクの加工精度の制約もあってピクセルサイズは百μm程度が限界であり、高精細化に対しても不利であった。さらに基板サイズに関しても、高精細メタルマスクを大型化するとマスクの開口部の位置精度を確保するためにマスクのフレームの剛性を高める必要がある。しかしマスクの剛性を高めるとその分だけマスク自体の重量の増加を引き起こす。このため、加工性、ハンドリングの両面から第4世代以降の大判サイズの表示装置を製作する場合では、高精細化された有機EL素子及びこの有機EL素子を搭載した表示装置の最適な作製プロセスについては現在のところ具体化できていないという状況にある。
【0004】
このような状況の中、メタルマスクを使用しない方法で高精細化された有機EL素子を有する表示装置を作製する方法が提案されている。その具体的な方法として、例えば、特許文献1及び2に提案されている方法がある。ここで特許文献1及び2にて提案されている方法とは、基板全面に成膜した有機化合物層をフォトリソグラフィー法によりパターニングを行い所定の場所にのみ当該有機化合物層を残す工程を3色分繰り返した後に共通電極を成膜する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−164993号公報
【特許文献2】特許第3839276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1及び2にて提案されている方法(製造方法)では、下記に示されるプロセスにより有機EL層のパターニングが行われる。
(a)下部電極が形成された基板上の発光領域の全面に、有機EL層と、フォトレジスト層と、をこの順に形成する工程
(b)有機EL層のパターンに沿ってフォトレジスト層の一部を露光する工程
(c)現像処理によって露光されていないフォトレジスト層を除去する工程
(d)エッチング処理によって有機EL素子を設ける領域以外の領域に設けられている有機EL層を除去する工程
【0007】
このプロセスによれば、パターニングの際に設けたフォトレジスト層が、パターニングされた有機EL層上にのみ設けられている状態になるので、このフォトレジスト層を容易に剥離することができる。フォトレジスト層を剥離した後には、上部電極(共通電極)が形成される。
【0008】
ところで、上記(a)乃至(d)のプロセスによって製造される有機EL装置が発光色が異なる複数種類の有機EL素子を有する場合、その種類ごとに上記(a)乃至(d)のプロセスを繰り返すことになる。そうすると、有機EL素子を設けない領域、例えば、素子と素子との間に設けられる素子分離膜(バンク)においては、複数回上記工程(d)によるエッチングに晒されることになる。ここで、素子と素子との間の領域に設けられる素子分離膜(バンク)等はフォトレジスト層で保護されていない領域であるため、上記工程(d)によるエッチングによってオーバーエッチングされることが考えられる。ここでRGBの3色の有機EL素子を配置するディスプレイにおいては、上記パターニング工程(工程(a)乃至工程(d))が3回行われるので、素子分離膜(バンク)等の部材は最大で3回オーバーエッチングされることになる。
【0009】
一方で、素子と素子との間の領域に設けられる素子分離膜(バンク)等の部材は、ポリイミド系樹脂材料やアクリル系樹脂材料等といった絶縁性の樹脂材料で構成されているのが一般的である。ここで上述した樹脂材料は、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子等)含有あるいはヘテロ原子非含有の炭化水素系材料である。このため、上記工程(d)におけるエッチングにより有機EL層と同等のエッチング速度でエッチングされることがある。そうすると、素子分離膜等の部材の一部が掘り込まれ、溝が形成される。この溝が形成されると、有機EL層の形成後に表示領域全面に設ける上部電極(共通電極)を成膜・形成する際に、当該溝によって生じる段差によって当該上部電極の一部が断線する可能性がある。
【0010】
また、有機EL素子を表示装置内に高密度に配置する場合には、各有機EL素子のそれぞれに駆動信号を入力するための配線を、素子分離膜等の絶縁体層の下に形成し、この配線と各有機EL素子を駆動する回路等を電気接続させることが好ましい。このように当該絶縁体層の下方に電極層や配線層等の導電層が形成されている場合において、オーバーエッチングにより当該絶縁体層が局所的に深く除去されてしまうと、当該絶縁体層の下方に配置されている電極層や導電層が露出することになる。そうすると、上部電極を形成する際に当該上部電極との間で短絡が発生する可能性がある。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされるものであり、その目的は、フォトリソグラフィー法を利用した有機EL層のパターニングの際に、素子と素子との間の領域に設けられる部材を損傷させないようにする有機EL装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機EL装置の製造方法は、少なくとも第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、を有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、上部電極と、を有し、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、上部電極と、を有し、
前記第一有機EL素子の発光色が、前記第二の有機発光素子の発光色と異なる有機EL装置の製造方法において、
前記有機EL装置の製造方法が、少なくとも前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
前記第一有機EL層上に第一保護層を形成する工程と、
前記第一有機EL層及び前記第一保護層を所定のパターンに加工する工程と、
少なくとも前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
前記第二有機EL層上に第二保護層を形成する工程と、
前記第二有機EL層及び前記第二保護層を所定のパターンに加工する工程と、を有し、
前記第二有機EL層及び前記第二保護層を加工する工程によって加工された前記第二有機EL層及び前記第二保護層が、前記第一有機EL層及び前記第一保護層を所定のパターンに加工する工程によって加工された前記第一有機EL層の端部及び前記第一保護層の端部を被覆していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フォトリソグラフィー法を利用した有機EL層のパターニングの際に、素子と素子との間の領域に設けられる部材を損傷させないようにする有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【0014】
即ち、本発明の製造方法を採用することで、有機EL層のエッチング工程の際に、素子と素子との間に設けられる素子分離膜等の絶縁性部材がオーバーエッチングされる回数を少なくすることができる。このため上記絶縁性部材の下方に電極層や導電層が形成されている場合においても、有機EL層のエッチング工程の際に、当該電極層や当該導電層の露出による上部電極との短絡や上記絶縁性部材の損傷(溝の形成)による上部電極の断線を防止することができる。
【0015】
また、素子分離膜等の絶縁性部材からなる層の下層に電極層や導電層が形成されている場合でも、フォトレジスト層のパターニング位置を選定するに当たって電極層や導電層の位置を考慮する必要はないので位置合わせ精度のマージンが少なくて済む。これにより絶縁体層の幅を広く確保する必要がないので容易に高精細化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法によって製造される有機EL装置の例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機EL装置の製造方法における実施形態の例を示す断面模式図である。
【図3】第一有機EL層及び第一保護層の加工領域の具体例を示す平面模式図である。
【図4】第二有機EL層及び第二保護層の加工領域の具体例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の有機EL装置の製造方法は、有機EL装置(の発光領域)内に少なくとも第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、を有する有機EL装置の製造方法である。ここで第一有機EL素子は、第一下部電極と、第一有機EL層と、上部電極と、を有している。また第二有機EL素子は、第二下部電極と、第二有機EL層と、上部電極と、を有している。上部電極は、第一有機EL素子と第二有機EL素子にわたって電気的に共通な電極である。尚、本発明において第一有機EL素子の発光色が、前記第二の有機発光素子の発光色と異なっている。
【0018】
ここで本発明の有機EL装置の製造方法には、少なくとも下記(A)乃至(F)の工程を有している。
(A)少なくとも第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程
(B)第一有機EL層上に第一保護層を形成する工程
(C)第一有機EL層及び第一保護層を所定のパターンに加工する工程
(D)少なくとも第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程
(E)第二有機EL層上に第二保護層を形成する工程
(F)第二有機EL層及び第二保護層を所定のパターンに加工する工程
【0019】
本発明においては、工程(F)、即ち、第二有機EL層及び第二保護層を所定のパターンに加工する工程によって加工された第二有機EL層及び第二保護層は、前記第一有機EL層及び前記第一保護層を所定のパターンに加工する工程によって加工された第一有機EL層の端部及び第一保護層の端部を被覆している。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。尚、以下の説明において特に説明がないもの又は図面において図示されていないものに関しては、当該技術分野の周知又は公知の技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の有機EL装置の製造方法における実施形態の例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の製造方法によって製造される有機EL装置の例を示す断面外略図である。
【0022】
図1の有機EL装置1は、基板10上に二種類の有機EL素子、即ち、第一有機EL素子20aと、第二有機EL素子20bと、が設けられている。また基板上10には、素子分離膜30が設けられており、この素子分離膜30により、二種類の有機EL素子(20a、20b)は、離間して基板10上に設けられている。
【0023】
図1の有機EL装置1において、基板10は、基材11と、基材11上に設けられている導電層12と、基材11上に設けられ導電層12を被覆する平坦化膜13と、を有している。
【0024】
図1の有機EL装置1において、第一有機EL素子20aは、平坦化膜13上に設けられる第一下部電極21aと、第一下部電極21a上に設けられる第一有機EL層22aと、第一有機EL層22a上に設けられる上部電極23と、から構成される。
【0025】
図1の有機EL装置1において、第二有機EL素子20bは、平坦化膜13上に設けられる第二下部電極21bと、第二下部電極21b上に設けられる第二有機EL層22bと、第二有機EL層22b上に設けられる上部電極23と、から構成される。上部電極23は、第一有機EL素子20aと第二有機EL素子20bにわたって共通に形成されている。
【0026】
尚、図1の有機EL装置1は、アクティブマトリクス型の表示装置であるが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置においても適用することができる。
【0027】
次に、図1の有機EL装置1の構成部材について説明する。
【0028】
(基材)
基板10の構成部材である基材11としては、ガラス等からなる支持体が好適に用いられる。
【0029】
(導電層)
基板10を構成する導電層12は、絶縁体層(平坦化膜13、素子分離膜30)よりも下層に配置され、導電材料からなる薄膜層である。ここで導電層12には、例えば、有機EL素子を素子単位で個別に駆動させるのを可能にするTFT回路等の駆動回路、この駆動回路と下部電極(21a、21b)とを電気接続するための配線層、駆動回路あるいは配線層と下部電極(21a、21b)とを電気接続するためのコンタクトホール等が含まれる。
【0030】
また導電層12の構成材料としては、Al等の金属材料が好適に用いられる。
【0031】
(平坦化層)
平坦化層13は、導電層12を設けることによって生じた凹凸を埋めつつ基板10を平坦化するために設けられる。平坦化層13の構成材料としては、絶縁性の材料を使用することができる。具体的には、ポリイミド系やアクリル系等の樹脂系材料、窒化シリコン等の無機系材料が挙げられる。
【0032】
(下部電極)
基板10上の設けられる有機EL素子(20a、20b)がトップエミッション型の有機EL素子である場合、下部電極(21a、21b)は、光を反射する電極(反射電極)にする必要がある。下部電極(21a、21b)を反射電極とする場合、下部電極(21a、21b)は金属電極であり、その構成材料としては、例えば、Al、Ag等の金属材料あるいは当該金属材料を複数種組み合わせてなる合金が挙げられる。尚、有機EL表示装置の製造プロセスの中にウェットプロセス(例えば、レジストの現像工程、ウェットエッチング等)が含まれる場合は、上述した金属材料あるいは合金からなる薄膜層と、ITO等の導電性酸化膜と、からなる積層電極も好適に用いられる。また基板10上の設けられる有機EL素子(20a、20b)がボトムエミッション型の有機EL素子である場合、下部電極(21a、21b)は、光を透過する電極(光透過性電極)にする必要がある。下部電極(21a、21b)を光透過性電極とする場合、その構成材料として、例えばITO等の光透過性を有する導電性材料が挙げられる。
【0033】
(有機EL層)
下部電極(21a、21b)上にそれぞれ設けられる有機EL層(22a、22b)は、それぞれ所定の色を発光する発光層(不図示)を含む単一の層又は複数の層からなる積層体である。各有機EL層(22a、22b)は、発光層が含まれてさえいればその層構成は特に限定されるものではない。ここで有機EL層が複数の層からなる積層体である場合、有機EL層(22a、22b)に含まれる層として、発光層の他に、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。また、各有機EL層(22a、22b)に含まれる発光層の発光色の組み合わせは、特に限定されないが、赤色、緑色及び青色の3色の組み合わせが最も一般的である。
【0034】
(上部電極)
有機EL素子(20a、20b)を構成する上部電極23は、当該有機EL素子の性質に応じて構成材料を適宜選択することができる。有機EL素子(20a、20b)がトップエミッション型の有機EL素子である場合、上部電極23は、光透過性電極にする必要がある。係る場合、上部電極23の構成材料としては、ITO等の光透過性を有する導電性材料が挙げられる。またAl、Ag等の金属材料を光透過性を有する程度の膜厚で形成した薄膜も使用することができる。
【0035】
一方、有機EL素子(20a、20b)がボトムエミッション型の有機EL素子である場合、上部電極23は、反射電極にする必要がある。係る場合、上部電極23の構成材料としては、Al、Ag等の金属材料あるいは当該金属材料を複数種組み合わせてなる合金が挙げられる。
【0036】
(素子分離膜)
素子分離膜30は、有機EL装置に含まれる複数の有機EL素子を素子ごとに区画するために設けられる。素子分離膜30の構成材料としては、絶縁性の材料を使用することができる。具体的には、ポリイミド系やアクリル系等の樹脂系材料、窒化シリコン等の無機系材料が挙げられる。
【0037】
次に、本発明の有機EL装置の製造方法について説明する。既に説明しているが、本発明の有機EL装置の製造方法には、少なくとも下記(A)乃至(F)の工程を有している。
(A)少なくとも第一下部電極上に第一有機EL層を形成する工程
(B)第一有機EL層上に第一保護層を形成する工程
(C)第一有機EL層及び第一保護層を所定のパターンに加工する工程
(D)少なくとも第二下部電極上に第二有機EL層を形成する工程
(E)第二有機EL層上に第二保護層を形成する工程
(F)第二有機EL層及び第二保護層を所定のパターンに加工する工程
【0038】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機EL装置の製造方法について説明する。図2は、本発明の有機EL装置の製造方法における実施形態の例を示す断面模式図である。
【0039】
(1)電極付基板の作製工程
まず基材11と、導電層12と、平坦化層13と、がこの順で積層されている基板10上に、下部電極21a及び21bをそれぞれパターニング形成する。パターニングの方法としては、公知の方法を採用することができる。次に、発光領域全体に絶縁性材料からなる薄膜を形成して、基板10、下部電極21a及び21bを当該薄膜で被覆する。この後、所定のパターニングを行うことで各有機EL素子(20a、20b)を区画する素子分離膜30を形成する。素子分離膜30をパターニング形成する際にその具体的な方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0040】
以上の工程を経て下部電極21a、21bが形成されている電極付基板が得られる。
【0041】
(2)第一有機EL層の形成工程(工程(A))
次に、少なくとも第一下部電極21a上に、第一発光層(不図示)を含む第一有機EL層22aを形成する。ここで第一有機EL層22aは、有機EL装置内の発光領域の全面に渡って形成してもよい。第一有機EL層22aの形成方法として、真空蒸着法、スピンコート法等が好適に用いられる。
【0042】
(3)第一保護層の形成工程(工程(B))
次に、第一有機EL層22a上に、第一保護層41を形成する(図2(a))。第一保護層41は、フォトリソグラフィーを利用した第一有機EL層22aのパターニング工程(第一有機EL層22aの加工工程)において、第一有機EL層22aを保護する層である。具体的には、フォトレジスト層の形成工程、現像工程、エッチング工程の各工程において第一有機EL層22aが溶解、膨潤、エッチング等の影響を受けないように第一有機EL層22aを保護する層である。
【0043】
ところで有機EL層上に接して形成される保護層は、後の工程で有機EL層が溶解、膨潤等の影響を与えることなく、かつ保護層単独で容易に剥離できるようにする必要がある。剥離性を考慮すると、保護層の構成材料は、有機EL層の構成材料を溶解しない溶媒に溶解可能な材料が好適に用いられる。ここで、有機EL層の構成材料が、一部を除いて水に不要な材料であることを考慮すると、保護層の構成材料としては、例えば、水に溶解する水溶性高分子や水溶性の無機塩等が挙げられる。しかし、保護層が水溶性材料からなる薄膜のみの場合では、フォトレジスト層の形成工程や現像工程において保護層自体が溶解、膨潤等を起こすことが懸念される。そのため保護層を、少なくとも水溶性材料からなる第一層(下層)と、この第一層上に形成される非水溶性材料からなる第二層(上層)と、からなる積層体にするのが好ましい。つまり、水溶性材料からなる層(第一層)を設けることにより、保護層自体を水あるいは水系溶媒によって容易に除去することができる。一方で、非水溶性材料からなる層(第二層)を上記第一層上に設けることで、フォトレジスト層の形成・現像を行う際に、上記第一層の溶解、膨潤等が起こらなくなる。また保護層を、上記第一層と、上記第二層と、からなる積層体とすることによって、後述するレジストの除去工程及び保護層の除去工程において有機EL層がエッチングされるのを防止することができる。
【0044】
第一保護層41の成膜方法としては、第一保護層41の構成材料として使用する材料に応じて適宜適した方法を公知・周知の方法から選択することができる。ここで第一保護層41を上述した積層体とする場合、第一層として水溶性高分子からなる層を形成する際にはスピンコート法やディップコート法等を採用することができる。水溶性無機塩からなる層を形成する際には真空蒸着法等を用いることもできる。また、第二層として非水溶性材料からなる層を形成する際にはスピンコート法、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等から適宜選択することができる。
【0045】
(4)第一有機EL層及び第一保護層の加工工程(工程(C))
第一保護層41を形成した後、第一有機EL層22aと第一保護層41とをそれぞれ所定のパターンになるように加工する。第一有機EL層22aと第一保護層41との加工方法としては、フォトリソグラフィー法等が挙げられる。
【0046】
以下、フォトリソグラフィー法を利用した第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工の具体例について説明する。
【0047】
まず、第一保護層41上にポジ型のレジスト材料の薄膜を成膜しフォトレジスト層43を形成する。ここでフォトレジスト層43の形成の際に使用されるレジスト材料としては、公知のものを使用することができる。またフォトレジスト層43の成膜方法としては、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等、既存の方法を用いることができる。
【0048】
次に、第一有機EL層22aの加工領域(除去領域)に開口を有するフォトマスクを使用して紫外線51を照射する。即ち、紫外線51の照射領域は、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域に相当する。
【0049】
紫外線51の照射は、既存の装置を用いて行うことができる。また使用されるフォトマスク50は紫外線を遮光できればよく、例えば、一般的なフォトマスクに用いられる、Cr薄膜からなるフォトマスクを使用することができる。
【0050】
ここで、素子分離膜30で被覆されていない第一下部電極21a(第一有機EL素子20aを設ける領域)上には第一有機EL層22aが設けられるようにする必要がある。このため、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域は、最大で表示領域全体から第一有機EL素子20aを設ける領域を除いた領域となる。またエッチング時における素子分離膜の保護を考慮すると、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域をなるべく小さくするのが望ましい。ただし素子分離膜30で被覆されていない第二下部電極21b(第二有機EL素子20bを設ける領域)上に第二有機EL層22bが設けられるようにする必要がある。このため、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域は、最小で第二有機EL素子20bを設ける領域となる。ただし第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域を第二有機EL素子20bを設ける領域のみとすると、フォトリソグラフィーの加工精度におけるマージンの確保が困難となることがある。このため、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域は、第二有機EL素子20bを設ける領域にその周縁を含めるのが好ましい。
【0051】
以下、図面を参照しながら、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域についてより具体的に説明する。
【0052】
図3は、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域の具体例を示す平面模式図である。尚、説明の簡略化のために、図3では第一有機EL層22a及び第一保護層41の図示を省略している。
【0053】
ところで図3に示される態様では、素子分離膜30で被覆されていない第一下部電極21a及び第二下部電極21bがそれぞれストライプ状に配列している。つまり、二種類の有機EL素子の配列態様がそれぞれストライプ配列である場合を示している。この場合、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工工程で使用されるフォトマスク50は、第二下部電極21b及びその周縁が紫外線の照射領域になるように開口50aが設定されている。ここで、開口50aの幅の寸法を図3に示すようにDaとする。そして素子分離膜30で被覆されていない第二下部電極21bの幅をd2とし、素子分離膜30の幅をd3とすると、Daの範囲は、以下に示す通りである。
2≦Da≦d2+2d3
【0054】
ただし、第一有機EL層22a及び第一保護層41が第二有機EL層22b及び第二保護層42に被覆されるようにすることと、上述したフォトリソグラフィーの加工精度におけるマージンの確保と、を考慮すると、Daの好適な範囲は、以下に示す通りである。
2<Da<d2+d3
【0055】
尚、以上の説明は、二種類の有機EL素子の配列態様がストライプ配列の場合を示すものであるが、本発明の製造方法は、二種類の有機EL素子の配列態様がストライプ配列以外の配列(デルタ配列等)の場合であっても適用することができる。係る場合は、第二の有機EL素子20bが設けられる領域を考慮しながら第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域を定める。上述したように、第二の有機EL素子20bが設けられる領域及びその周縁を第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域とするのが好ましい。
【0056】
次に、フォトレジスト層43の現像を行い、前工程において紫外光に曝された領域のフォトレジスト層43を除去する。フォトレジスト層43の現像の際に使用される現像液は、公知のものを用いることができる。例えば、フォトレジスト材料がポリイミド系の材料である場合には、アルカリ水溶液系の現像液を用いることができる。
【0057】
次に、エッチングを行い、フォトレジスト層43が除去された領域に設けられている第一保護層41と第一有機EL層22aとをそれぞれ除去する。エッチングを行う際には、ウェットエッチング、ドライエッチング等の既存の方法を用いることができる。尚、第一保護層41が、上述した積層構造である場合は、各層に対応した除去方法をそれぞれの層に適用して順次除去する方法を採用することができるが、積層構造を一括除去する方法を採用してもよい。
【0058】
また、フォトレジスト層で被覆されていない領域の第一保護層41を除去する際には、フォトレジスト層43とその下層にある第一保護層41の一部を同時に除去してもよい。そうすることによって第一保護層41の剥離をより容易に行うことができる。
【0059】
一方、第一有機EL層22aの除去方法は特に限定されるものではなく、ウェットエッチング、ドライエッチング等の既存の方法を用いることができるが、溶媒によるサイドエッチングの懸念がないドライエッチングが好ましい。
【0060】
このエッチングにより、第二下部電極21b及び第二下部電極21bの周縁にある素子分離膜30を被覆する第一有機EL層22aと第一保護層41とが除去される(図2(c))。
【0061】
(5)第二有機EL層及び第二保護層の形成工程(工程(D)〜(E))
次に、基板上の発光領域の全面に渡って第二発光層(不図示)を含む第二有機EL層22bを形成する。第二有機EL層21bの形成方法として、第一有機EL層と同様の方法(真空蒸着法、スピンコート法等)が好適に用いられる。
【0062】
次に、第二有機EL層22b上に、第二保護層42を形成する(図2(d))。第二保護層42を形成する際には、第一保護層41の形成方法と同様の方法で形成することができる。
【0063】
(6)第二有機EL層及び第二保護層の加工工程(工程(F))
第二保護層42を形成した後、第二有機EL層22bと第二保護層42とをそれぞれ所定のパターンになるように加工する。第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工方法としては、第一有機EL層22a及び第一保護層41と同様に、フォトリソグラフィー法等が挙げられる。
【0064】
以下、フォトリソグラフィー法を利用した第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工の具体例について説明する。
【0065】
まず、第二保護層42上にポジ型のレジスト材料の薄膜を成膜しフォトレジスト層44を形成する。次に、第二有機EL層22bの加工領域(除去領域)に開口を有するフォトマスク50を使用して紫外線52を照射する。即ち、紫外線52の照射領域は、第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工領域に相当する。
【0066】
ここで第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工領域は、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工領域から相対的に定めることができる領域である。また第二有機EL層22b及び第二保護層42が第一有機EL層22a及び第一保護層41の端部を被覆してさえいれば、第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工領域は、特に限定されるものではない。
【0067】
以下、図面を参照しながら、第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工領域についてより具体的に説明する。
【0068】
図4は、第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工領域の具体例を示す平面模式図である。尚、説明の簡略化のために、図4では第二有機EL層22b及び第二保護層42の図示を省略している。
【0069】
ところで図4に示される態様では、素子分離膜30で被覆されていない第一下部電極21a及び第二下部電極21bがそれぞれストライプ状に配列している。この場合、第二有機EL層及び第二保護層の加工工程で使用されるフォトマスクは、少なくとも第一下部電極21aの一部の領域が紫外線52の照射領域になるように開口50bが設定されている。ここで、開口50bの幅の寸法を図4に示すようにDbとすると、Dbは、第二有機EL層22b及び第二保護層42が第一有機EL層22a及び第一有機EL層41の端部を被覆することができる範囲で適宜設定される。例えば、図4に示されるように開口50bを素子分離膜30で被覆されていない第一下部電極21aとその周縁を含めた領域に設定することができるが、本発明ではこれに限定されるものではない。
【0070】
ところで、開口50bの幅の寸法(Db)は、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工工程の際に現れる第一保護層41のパターンを観察した上で設定することができる。ただし、この第一保護層41のパターンの観察に代えて、第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工工程の際に使用したフォトマスクの開口(図3中の50a)の寸法及びフォトリソグラフィーの加工精度を考慮した設計によって予めDbを設定してもよい。本発明の製造方法を有機EL装置の製造ラインに適用する際は、上記設計によって予めDbを設定するのが好ましい。
【0071】
次に、フォトレジスト層44の現像を行い、前工程において紫外光に曝された領域のフォトレジスト層44を除去する。次に、エッチングを行い、フォトレジスト層44が除去された領域に設けられている第二保護層42と第二有機EL層22bとをそれぞれ除去する。尚、エッチングを行う際に、フォトマスク50で遮蔽された領域に設けられているフォトレジスト層44と第二保護層42の一部を同時に除去してもよい。このエッチングにより、第二保護層42、第二有機EL層22b及び第一保護層41の一部が除去される(図2(f))。
【0072】
(7)保護層の剥離工程
次に、保護層(第一保護層41、第二保護層42)を有機EL層から剥離する工程を行う。第二保護層42及び第二有機EL層22bの加工工程を終了すると、図2(f)のように有機EL層(第一有機EL層22a、第二有機EL層22b)上に、保護層(第一保護層41、第二保護層42)が全面で残った状態となる。この状態から保護層(第一保護層41、第二保護層42)を除去する(図2(g))。保護層の具体的な除去方法としては、ウェットエッチング、ドライエッチング等の既存の方法を用いることができる。尚、保護層上にフォトレジスト層が残っている場合は、この剥離工程で同時に除去してもよいし、予めフォトレジスト層をエッチング等で除去してからこの剥離工程を行ってもよい。ただし第二保護層42が第一保護層41を被覆している領域において保護層の剥離がより容易にできるように、保護層の加工工程においてフォトレジスト層を予め除去しておくのが好ましい。
【0073】
(8)上部電極の形成工程
最後に有機EL層(22a、22b)上に上部電極23を形成することにより、有機EL装置が完成する(図2(h))。ここで上部電極23は、各有機EL素子に同時に形成される電極であってもよいし、互いに電気的に接続されていれば各有機EL素子に個別に形成される電極であってもよい。
【0074】
以上に説明した製造方法は、発光色が異なる二種類の有機EL素子を有する有機EL装置を製造する方法であるが、本発明は、これに限定されるものではない。発光色が3色以上の場合では、図2(d)乃至(f)にて示される有機EL層及び保護層の形成工程及び有機EL層及び保護層の加工工程を繰り返し行うことによって作製することができる。ここで本発明の製造方法を採用すると、有機EL層及び保護層の加工の際に、素子分離膜30が少なくとも1回保護層によって保護されるので、素子分離膜30の損傷を軽減することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明の有機EL装置の製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
図1に示される有機EL装置を、図2に示される製造方法により作製した。ここで本実施例において使用した材料の一部を以下に例示する。
【0077】
【化1】

【0078】
(1)基板の形成工程
まず基材11と、基材11上に設けられるTFT回路(不図示)と、TFT回路上に形成される層間絶縁膜(平坦化膜13)と、TFT回路や配線層(導電層12)と下部電極とを電気的に接続するコンタクトホール(不図示)と、を有する基板を作製した。具体的には、まず表面にTFT回路(不図示)が形成されている基材11上に、Alを成膜してAl層を形成した。次に、既知のフォトリソグラフィー工程によりAl層のパターニングを行い、配線層(導電層12)を形成した。次に、ポリイミドを成膜してポリイミド膜を成膜した。次に、既知のフォトリソグラフィー工程によりポリイミド膜のパターニングを行った。これにより絶縁材料からなる平坦化膜13を形成した。
【0079】
(2)下部電極の形成工程
次に、AlとITOとを順次成膜して、Al膜及びITO膜をそれぞれ形成した。ここでAl膜及びITO膜の膜厚をそれぞれ100nmと30nmとした。次に、Al膜とITO膜とからなる積層膜について既知のフォトリソグラフィー工程によりパターニングを行った。これにより第一有機EL素子20aの構成部材である下部電極21aと、第二有機EL素子20bの構成部材である下部電極21bと、をそれぞれ形成した。
【0080】
(3)素子分離膜の形成工程
次に、ポリイミド系樹脂を基板10や下部電極(21a、21b)上に成膜して絶縁体層を形成した。次に、既知のフォトリソグラフィー工程によりこの絶縁体層を加工して素子分離膜30を形成した。
【0081】
(4)第一有機EL層の形成工程
次に、真空蒸着法により、下部電極(21a、21b)上に、第一ホール輸送層と、第一発光層と、第一電子輸送層と、からなる第一有機EL層22aを発光領域の全面にわたって形成した。具体的には、まず下部電極(21a、21b)上に、化合物1を成膜して第一ホール輸送層を形成した。このとき第一ホール輸送層の膜厚を100nmとし、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとした。
【0082】
次に、第一ホール輸送層上に、化合物2(ホスト)と化合物3(ゲスト)とを、重量比にして80:20となるように共蒸着して第一発光層を形成した。このとき第一発光層の膜厚を35nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。尚、第一発光層は青色を発する発光層である。
【0083】
次に、第一発光層上に、化合物4を真空蒸着して第一電子輸送層を形成した。このとき第一電子輸送層の膜厚を10nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0084】
(5)第一保護層の形成工程
次に、第一有機EL層22aを保護するための第一保護層41を形成した。まず、第一有機EL層22a上に、ポリビニルピロリドンと水とを混合したポリビニルピロリドン水溶液をスピンコート法によって成膜してPVP膜(下層)を形成した。このときPVP膜の膜厚は1μmであった。次に、CVD法により、PVP膜上に窒化シリコンを成膜してSiN膜(上層)を形成した。このときSiN膜の膜厚は1μmであった。
【0085】
(6)第一有機EL層及び第一保護層の加工工程
次に、スピンコート法により、第一保護層41上に、ポジ型のフォトレジスト材料(AZ社製、AZ1500)からなる膜を成膜してフォトレジスト層43を形成した。ここでフォトレジスト層43の膜厚は1000nmであった。
【0086】
次に、以下に説明するようにフォトレジスト層43のパターニングを行った。具体的には、キヤノン製露光装置MPA600を用い、第一保護層41及び第一有機EL層22aの加工領域に開口を有するフォトマスクを用いて、フォトレジスト層43への露光を行った(図2(b))。このとき露光時間は40秒とした。ここで使用したフォトマスク50は、第一有機EL素子に隣接する第二有機EL素子との中間線より外側まで遮蔽できる開口パターンを有するメタルマスクを用いることにより、フォトレジスト層43を除去する領域が他の発光色と重複しないようにした。次に、現像液(AZ社製、312MIF溶液の50%水溶液)を使用して1分間現像を行い、紫外線照射された感光性樹脂を現像液に溶解させることでフォトレジスト層のパターニングを行った。このとき、フォトレジスト層43が残っている領域は、フォトマスクの遮蔽領域に対応して隣接する第2の画素(第二有機EL素子)との中間線より外側まで広がる領域とした。
【0087】
次に、ドライエッチングにより、前工程でフォトレジスト層43を除去した領域に設けられている第一保護層41と第一有機EL層22aとを除去した。このとき、フォトレジスト層43が残っていた領域でもエッチングが進行し、フォトレジスト層43及び第一保護層41の一部の層(SiN層)が除去されるようにした。尚、ドライエッチングは、第一保護層41を構成する窒化シリコンと反応するガス(CF4)の存在下で行った後、第一保護層41を構成する水溶性高分子膜及び第一有機EL層22aと反応するガス(酸素)の存在下で行った。またエッチングを行う際に、ガスの流量20sccmとし、圧力を8Paとし、出力を150Wとし、処理時間を5分の条件で行った。
【0088】
以上の工程により、図2(c)のように、少なくとも第一有機EL素子20aを設ける領域に第一有機EL層22aがパターニングされている一方で、第二下部電極21b(アノード)が露出している基板を作製した。
【0089】
(7)第二有機EL層の形成工程
次に、真空蒸着法により、第二ホール輸送層と、第二発光層と、第二電子輸送層と、からなる第二有機EL層22bを、発光領域の全面にわたって形成した。具体的には、まず化合物1を成膜して第二ホール輸送層を形成した。このとき第二ホール輸送層の膜厚を200nmとし、真空度を1×10-4Paとし、蒸着レートを0.2nm/secとした。
【0090】
次に、第二ホール輸送層上に、化合物2(ホスト)と赤色発光材料(ゲスト)とを、重量比にして80:20となるように共蒸着して第二発光層を形成した。このとき第二発光層の膜厚を20nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。尚、第二発光層は赤色を発する発光層である。
【0091】
次に、第二発光層上に、化合物4を真空蒸着して第二電子輸送層を形成した。このとき第二電子輸送層の膜厚を10nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0092】
(8)第二保護層の形成工程
次に、第二有機EL層22b上に、第二保護層42を形成した(図2(d))。尚、第二保護層42の形成方法は、第一保護層41と同様である。
【0093】
(9)第二有機EL層及び第二保護層の加工工程
次に、スピンコート法により、第二保護層42上に、ポジ型のフォトレジスト材料(AZ社製、AZ1500)からなる膜を成膜してフォトレジスト層44を形成した。ここでフォトレジスト層44の膜厚は1000nmであった。
【0094】
次に、以下に説明するようにフォトレジスト層44のパターニングを行った。具体的には、キヤノン製露光装置MPA600を用い、第二保護層42及び第二有機EL層22bの加工領域に開口を有するフォトマスクを用いて、フォトレジスト層44への露光を行った(図2(e))。このとき露光時間は40秒とした。ここで使用したフォトマスク50は、第二有機EL素子に隣接する第一有機EL素子との中間線より外側まで遮蔽できるパターンを用いることにより、フォトレジスト層を除去する領域が他の発光色と重複しないようにした。次に、現像液(AZ社製、312MIF溶液の50%水溶液)を使用して1分間現像を行い、紫外線照射された感光性樹脂を現像液に溶解させることでフォトレジスト層44のパターニングを行った。この時、フォトレジスト層44が残っている領域はフォトマスクの遮蔽領域に対応して隣接する第1の画素(第一有機EL素子)との中間線より外側まで広がる領域とした。
【0095】
次に、ドライエッチングにより、前工程でフォトレジスト層を除去した領域に設けられている第二保護層42と第2有機EL層22bとを除去した。このとき、フォトレジスト層44が残っていた領域でもエッチングが進行し、フォトレジスト層44及び第二保護層42の一部(SiN層)が除去されるようにした。尚、ドライエッチングは、第二保護層42を構成する窒化シリコンと反応するガス(CF4)の存在下で行った後、第二保護層42を構成する水溶性高分子膜及び第二有機EL層22bと反応するガス(酸素)の存在下で行った。またエッチングを行う際に、ガスの流量20sccmとし、圧力を8Paとし、出力を150Wとし、処理時間を5分の条件で行った。
【0096】
以上の工程により、図2(f)のように基板上の全面に有機EL層が形成され、その上に保護層が残っており、絶縁体層(素子分離膜30)上の一部で保護層が重なっている状態となった。
【0097】
(10)保護層の剥離工程
次に、ドライエッチングにより保護層(41、42)を構成するSiN膜を除去した後、保護層(41、42)を構成するPVP膜を水で2分間洗浄して除去した。この時、保護層(41、42)を、SiN膜を上層とし、PVP膜を下層とする2層構成にすることで、絶縁体層(素子分離膜)上で2種類の保護層(41、42)が重なっていたにも関わらず容易に剥離を行うことができた。
【0098】
以上の工程により図2(g)のように基板上に有機EL層が露出した状態とした。
【0099】
(11)上部電極の形成工程等
最後に、図2(h)のように、有機EL層の上に上部電極23としてAgMg合金を膜厚20nmで成膜し、ガラスキャップによる封止を行うことにより、有機EL装置を完成させた。
【0100】
(12)装置の評価
完成した有機EL装置を駆動させた結果、絶縁体層が除去されることによる短絡や段切れは発生せず、良好な2色発光が得られた。
【0101】
[実施例2]
発光色が異なる二種類の有機EL素子がストライプ状に配列されている有機EL装置を作製した。尚、基本的な作製プロセスについては、実施例1と同様である。即ち、本実施例は、図2の製造プロセスに基づいて行われる。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0102】
(1)第一有機EL層及び第一保護層の加工工程
まず実施例1と同様の方法により、基板10上に、下部電極(21a、21b)と、素子分離膜30と、第一有機EL層22aと、第一保護層41と、を順次形成した。次に、スピンコート法により、第一保護層41上に、ポジ型のフォトレジスト材料(AZ社製、AZ1500)からなる膜を成膜してフォトレジスト層43を形成した。ここでフォトレジスト層43の膜厚は1000nmであった。
【0103】
次に、以下に説明するようにフォトレジスト層43のパターニングを行った。具体的には、キヤノン製露光装置MPA600を用い、第一保護層41及び第一有機EL層22aの加工領域に開口を有するフォトマスクを用いて、フォトレジスト層43への露光を行った。尚、本工程で使用したフォトマスクは、図3に示されるように、幅がDa(d2<Da<d2+d3)である開口50aがストライプ状に配列されたフォトマスクを使用した。またフォトレジスト層43への露光を行う際には、図3に示されるように、第二下部電極21bが設けられる領域の全てが開口50aに含まれるようにフォトマスクを配置した。次に、実施例1と同様の方法で第一有機EL層22a及び第一保護層41の加工を行った。
【0104】
(2)第二有機EL層及び第二保護層の加工工程
次に、実施例1と同様の方法により、第二有機EL層22bと、第二保護層42と、を順次形成した。次に、スピンコート法により、第二保護層42上に、ポジ型のフォトレジスト材料(AZ社製、AZ1500)からなる膜を成膜してフォトレジスト層44を形成した。ここでフォトレジスト層44の膜厚は1000nmであった。
【0105】
次に、以下に説明するようにフォトレジスト層44のパターニングを行った。具体的には、キヤノン製露光装置MPA600を用い、第二保護層42及び第二有機EL層22bの加工領域に開口を有するフォトマスクを用いて、フォトレジスト層44への露光を行った。尚、本工程で使用したフォトマスクは、図4に示されるように、幅がDb(d1<Db<d1+d3)である開口50bがストライプ状に配列されたフォトマスクを使用した。またフォトレジスト層44への露光を行う際には、図4に示されるように、第一下部電極21aが設けられる領域の全てが開口50bに含まれるようにフォトマスクを配置した。次に、実施例1と同様の方法で第二有機EL層22b及び第二保護層42の加工を行った。
【0106】
(3)保護層の剥離工程等
次に、実施例1と同様の方法により、保護層の剥離工程と、上部電極の形成工程と、を行い、ガラスキャップによる封止を行うことにより、有機EL装置を完成させた。
【0107】
(4)装置の評価
完成した有機EL装置を駆動させた結果、実施例1と同様に、絶縁体層が除去されることによる短絡や段切れは発生せず、良好な2色発光が得られた。
【符号の説明】
【0108】
1:有機EL装置、10:基板、11:基材、12:導電層、13:平坦化膜(絶縁体層)、20a:第一有機EL素子、20b:第二有機EL素子、21a:第一下部電極、21b:第二下部電極、22a:第一有機EL層、23:上部電極、30:絶縁体層(素子分離膜)、41:第一保護層、42:第二保護層、43(44):フォトレジスト層、50:フォトマスク、51(52):紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一有機EL素子と、第二有機EL素子と、を有し、
前記第一有機EL素子が、第一下部電極と、第一有機EL層と、上部電極と、を有し、
前記第二有機EL素子が、第二下部電極と、第二有機EL層と、上部電極と、を有し、
前記第一有機EL素子の発光色が、前記第二の有機発光素子の発光色と異なる有機EL装置の製造方法において、
前記有機EL装置の製造方法が、少なくとも前記第一下部電極上に前記第一有機EL層を形成する工程と、
前記第一有機EL層上に第一保護層を形成する工程と、
前記第一有機EL層及び前記第一保護層を所定のパターンに加工する工程と、
少なくとも前記第二下部電極上に前記第二有機EL層を形成する工程と、
前記第二有機EL層上に第二保護層を形成する工程と、
前記第二有機EL層及び前記第二保護層を所定のパターンに加工する工程と、を有し、
前記第二有機EL層及び前記第二保護層を所定のパターンに加工する工程によって加工された前記第二有機EL層及び前記第二保護層が、前記第一有機EL層及び前記第一保護層を所定のパターンに加工する工程によって加工された前記第一有機EL層の端部及び前記第一保護層の端部を被覆していることを特徴とする、有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記第一保護層及び前記第二保護層は、それぞれ少なくとも水溶性材料からなる第一層と、非水溶性材料からなる第二層と、からなる積層体であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−209166(P2012−209166A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74837(P2011−74837)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】