説明

有機EL駆動装置

【課題】直流電圧駆動に対して有機EL素子の長寿命化を図る有機EL駆動装置。
【解決手段】有機EL素子1に直流電力を供給する有機EL駆動装置であって、有機EL素子の点灯時に所定の順方向電圧を印加し、有機EL素子の消灯時に所定の逆方向電圧を印加する駆動部23と、有機EL素子の消灯時に有機EL素子に流れる逆方向電流を検出する逆方向電流検出部21と、逆方向電流に基づき逆方向電圧のピーク値を経時的に変化させる制御部22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescence)素子を駆動する有機EL駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有機EL駆動装置は、DC(直流)駆動又はPWM(パルス幅変調)駆動により有機EL素子を駆動していた。しかしながら、DC駆動であると、有機EL素子の有機膜中に電荷が蓄積し、有機EL素子が劣化したり、有機EL素子の発光により輝度が低下してしまう。
【0003】
そこで、有機EL素子に逆電圧を印加する有機EL装置が用いられている。特許文献1に記載された有機EL装置は、有機EL素子の消灯時に、有機EL素子に逆方向電圧(負の直流電圧)を印加することで、有機EL素子に蓄積される電荷を引き抜き、電荷蓄積・分極を緩和して長寿命化を図るものである。
【0004】
また、特許文献2に記載された有機EL表示装置は、一対の電極間に発光層を含む設定厚さdoの有機材料層を挟持してなる有機EL素子を、基板上にドットマトリックス状に配置し、画像信号に応じて印加される電圧によって有機EL素子を選択的に点灯又は非点灯とする有機EL表示装置であって、厚さdoの有機材料層における絶縁破壊の生じる電圧をVbとしたとき、非点灯時に印加される逆方向電圧Vmを、Vm<(1/2)・Vbに設定すると共にVmの連続印加時間を設定時間内に制限する。即ち、逆方向電圧Vmを微弱電流が生じる絶縁破壊電圧Vbよりも小さい電圧に設定している。
【0005】
これにより、稼働時間経過後に発生するリーク電流を防止し、歩留まりを悪化させることなく有機EL表示装置の信頼性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2663648号公報
【特許文献2】特開2005−156867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の従来技術では、有機EL素子への通電開始前に逆方向電圧値(以下、VR値と略称する。)を設定し、有機EL素子への通電中は常に一定のVR値が印加されている。このため、有機EL素子が経時的に劣化した場合には、一定のVR値の印加により、有機EL素子の逆方向電流が大きくなってしまう。
【0008】
即ち、一定のVR値が有機EL素子に対して大きなストレスとなり、有機EL素子の長寿命化が図れなくなる。
【0009】
本発明の課題は、逆方向電圧駆動に対して有機EL素子の長寿命化を図ることができる有機EL駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の有機EL駆動装置は、有機EL素子に直流電力を供給する有機EL駆動装置であって、前記有機EL素子の点灯時に所定の順方向電圧を印加し、前記有機EL素子の消灯時に所定の逆方向電圧を印加する駆動部と、前記有機EL素子の消灯時に前記有機EL素子に流れる逆方向電流を検出する逆方向電流検出部と、前記逆方向電流に基づき前記逆方向電圧のピーク値を経時的に変化させる制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、逆方向電流検出部が有機EL素子の消灯時に有機EL素子に流れる逆方向電流を検出すると、制御部は、逆方向電流に基づき逆方向電圧のピーク値を経時的に変化させるので、逆方向電流は大きくならず、有機EL素子に対してストレスがかからない。従って、逆方向電圧駆動に対して有機EL素子の長寿命化を図ることができる有機EL駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1の有機EL駆動装置の概念構成ブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の有機EL駆動装置の具体的な回路構成図である。
【図3】本発明の実施例1の有機EL素子を点灯及び消灯するための駆動信号の波形図である。
【図4】本発明の実施例1の有機EL素子の逆方向電流に対する逆方向電圧の設定を示す図である。
【図5】(a)は本発明の実施例1の有機EL素子の逆方向電流の経時変化を示し、(b)は有機EL素子の逆方向電圧の経時変化を示す図である。
【図6】本発明による逆バイアス印加駆動と従来の逆バイアス印加駆動とDC連続駆動との各々について時間と輝度との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例2の有機EL駆動装置の概念構成ブロック図である。
【図8】本発明の実施例2の有機EL駆動装置の具体的な回路構成図である。
【図9】(a)は本発明の実施例2の有機EL素子の逆方向電流を示し、(b)は有機EL素子の逆方向電圧の経時変化を示し、(c)はデューティ制御部のパルス信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の有機EL駆動装置を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の実施の形態の有機EL駆動装置は、有機EL素子の通電中に有機EL素子の経時劣化を常時監視し、有機EL素子の劣化に応じてVR値を調整して有機EL素子に印加することを特徴とする。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1の有機EL駆動装置の概念構成ブロック図である。図1に示す有機EL駆動装置は、有機EL素子にパルス状電力を供給するもので、有機EL素子1、有機EL素子1を駆動する駆動回路2を有している。駆動回路2は、制御部20、駆動部23を有し、制御部20は、逆方向電流検出部21、逆方向電圧制御部22を有している。
【0015】
駆動部23は、有機EL素子1と逆方向電流検出部21と逆方向電圧制御部22とに接続され、逆方向電圧制御部22からの一定のデューティを持つパルス信号により、有機EL素子1の点灯時に所定の順方向電圧を印加し、有機EL素子1の消灯時に所定の逆方向電圧を印加する。
【0016】
逆方向電流検出部21は、電流検出抵抗や電流トランスを有し、有機EL素子1に逆方向電圧を印加した時に流れる逆方向電流を検出し、検出された逆方向電流を逆方向電圧制御部22に出力する。
【0017】
逆方向電圧制御部22は、順方向電圧の印加と逆方向電圧の印加とを一定のデューティを持つパルス信号で繰り返すように駆動部23を制御することにより、有機EL素子1に印加される順方向電圧/逆方向電圧を切り替える。また、逆方向電圧制御部22は、逆方向電流の大きさに応じて、有機EL素子1に印加する逆方向電圧のピーク値を経時的に変化させる。
【0018】
図2は、本発明の実施例1の有機EL駆動装置の具体的な回路構成図である。有機EL素子1は、等価的に見てダイオードD1とコンデンサC1とからなる。駆動部23は、切替部24、順方向電源V1、逆方向電源V2を有している。
【0019】
順方向電源V1は、正極がダイオードD1のアノード側に負極がダイオードD1のカソードに配置される。切替部24は、3端子a,b,cを有し、端子aは有機EL素子1に接続され、端子bは順方向電源V1の正極に接続され、端子cは逆方向電流検出部21の一端に接続される。
【0020】
逆方向電流検出部21の他端には逆方向電源V2の負極が接続され、逆方向電源V2の正極はダイオードD1のカソードと順方向電源V1の負極に接続される。
【0021】
切替部24は、逆方向電圧制御部22からのパルス信号により端子bと端子cとを切り替え選択することにより、有機EL素子1の点灯時に順方向電源V1を所定時間印加し、有機EL素子1の消灯時に逆方向電源V2を所定時間印加するようになっている。パルス信号は、図3に示す周期Tを持つオン/オフ信号である。
【0022】
図3は、本発明の実施例1の有機EL素子1を点灯及び消灯するための駆動信号の波形図である。図3に示す駆動信号は、有機EL素子1の点灯時の順方向電圧VF(正電圧)と有機EL素子1の消灯時の逆方向電圧VR値(負電圧でVR時間T1)とからなるVR周期Tのパルス信号からなる。即ち、駆動部23は、有機EL素子1を周期Tでパルス駆動する。
【0023】
逆方向電流検出部21は、逆方向電圧VR値が印加された時(図3に示すVR時間T1)の逆方向電流IRを検出して監視する。
【0024】
図4は、本発明の実施例1の有機EL素子1の逆方向電流に対する逆方向電圧の設定を示す図である。図4に示すように、有機EL素子1の逆方向電流は、逆方向電圧が大きくなるに連れて急激に大きくなる。有機EL素子1の経時劣化により、逆方向電流が予め定められた例えば1μAを超える。
【0025】
このため、逆方向電圧制御部22は、逆方向電流検出部21で検出された逆方向電流が例えば1μA(所定値)以上になると、逆方向電圧VR値を小さくなるように駆動部23を制御する。
【0026】
図5(a)は、本発明の実施例1の有機EL素子1の逆方向電流IRの経時変化を示し、図5(b)は、有機EL素子1の逆方向電圧VRの経時変化を示す図である。図5(a)(b)に示すように、時刻t1で逆方向電流IRが1μAを超えた場合には逆方向電圧VRをVR1からΔVRだけ下げてVR2にすることで逆方向電流IRを1μA未満に抑制することができる。
【0027】
また、時刻t2で逆方向電流が1μAを超えた場合には逆方向電圧VRをVR2からΔVRだけ下げてVR3にすることで逆方向電流IRを1μA未満に抑制することができる。さらに、時刻t3で逆方向電流が1μAを超えた場合には逆方向電圧VRをVR3からΔVRだけ下げてVR4にすることで逆方向電流IRを1μA未満に抑制することができる。
【0028】
このように実施例1の有機EL駆動装置によれば、逆方向電流検出部21が有機EL素子1の消灯時に有機EL素子1に流れる逆方向電流を検出すると、逆方向電圧制御部22は、検出された逆方向電流に応じて逆方向電圧を制御するので、逆方向電流は大きくならず、有機EL素子1に対してストレスがかからない。従って、逆方向電圧に対して有機EL素子1の長寿命化を図ることができる有機EL駆動装置を提供することができる。
【0029】
図6は、本発明による逆バイアス印加駆動と従来の逆バイアス印加駆動とDC連続駆動との各々について時間と輝度との関係を示す図である。図6からもわかるように、本発明による逆バイアス印加駆動が、従来の逆バイアス印加駆動やDC連続駆動よりも、有機EL素子1の長寿命化を図ることができる。
【実施例2】
【0030】
図7は、本発明の実施例2の有機EL駆動装置の概念構成ブロック図である。図7に示す有機EL駆動装置は、有機EL素子1、駆動回路2aを有している。駆動回路2aは、制御部20a、駆動部23aを有し、制御部20aは、逆方向電流検出部21、デューティ制御部22aを有している。
【0031】
駆動部23aは、有機EL素子1と逆方向電流検出部21とデューティ制御部22aとに接続され、デューティ制御部22aからのデューティ可変のパルス信号により、有機EL素子1の点灯時に所定の順方向電圧を印加し、有機EL素子1の消灯時に所定の逆方向電圧を印加する。
【0032】
デューティ制御部22aは、逆方向電流検出部21からの逆方向電流に基づき、有機EL素子1に印加される順方向電圧/逆方向電圧を切り替えるとともに、逆方向電流の大きさに応じて、所定の時定数を持って立ち上がる鋸波(三角波でも良い)の逆方向電圧を出力する逆方向電源25にデューティ可変のパルス信号を同期信号として出力し、このパルス信号により逆方向電圧を制御する。
【0033】
図8は、本発明の実施例2の有機EL駆動装置の具体的な回路構成図である。駆動部23aは、切替部24、順方向電源V1、逆方向電源25を有している。逆方向電源25は、逆方向電流検出部21と順方向電源V1の負極とダイオードD1のカソードとに接続され、図9(b)に示すような所定の時定数を持って立ち上がる鋸波(三角波でも良い)の逆方向電圧を出力する電源である。
【0034】
図9(a)は本発明の実施例2の有機EL素子の逆方向電流を示し、図9(b)は有機EL素子の逆方向電圧の経時変化を示し、(c)はデューティ制御部のパルス信号を示す図である。
【0035】
図9を参照しながら実施例2の有機EL駆動装置の動作を説明する。まず、デューティ制御部22aで生成されるパルス信号がHレベルのとき、このHレベルにより切替部24の端子cが選択されて、有機EL素子1には、逆方向電源25による逆方向電圧が印加される。すると、逆方向電圧VRは徐々に立ち上がり、逆方向電流IRも徐々に大きくなる。
【0036】
その後、図9(a)に示すように、逆方向電流が所定の閾値(例えば1μA)を超えたとき、デューティ制御部22aは、Lレベルのパルス信号を切替部24に出力する。このため、切替部24の端子bが選択されて、有機EL素子1には、順方向電源V1による順方向電圧が印加される。
【0037】
有機EL素子1の経時変化により、逆方向電流が所定の閾値に達する時間は、徐々に短くなる。このため、デューティ制御部22aは、逆方向電流検出部21で検出した逆方向電流が所定の閾値に達した到達時間に合わせて、パルス信号のオンデューティを徐々に短くする(図9(c))。即ち、デューティ制御部22aは、逆方向電流の値が所定の閾値以上になると、逆方向電圧の印加時間を短くするように駆動部23aを制御する。
【0038】
従って、有機EL素子1の経時変化により、図9(b)に示すように、逆方向電圧のピーク値が小さくなるので、逆方向電流は大きくならず、有機EL素子1に対してストレスがかからない。従って、逆方向電圧に対して有機EL素子1の長寿命化を図ることができる有機EL駆動装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、有機EL表示装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 有機EL素子
2,2a 駆動回路
20,20a 制御部
21,21a 逆方向電流検出部
22 逆方向電圧制御部
22a デューティ制御部
23,23a 駆動部
24 切替部
25 逆方向電源
V1 順方向電源
D1 ダイオード
C1 コンデンサ
T VR周期
T1 VR時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子に直流電力を供給する有機EL駆動装置であって、
前記有機EL素子の点灯時に所定の順方向電圧を印加し、前記有機EL素子の消灯時に所定の逆方向電圧を印加する駆動部と、
前記有機EL素子の消灯時に前記有機EL素子に流れる逆方向電流を検出する逆方向電流検出部と、
前記逆方向電流に基づき前記逆方向電圧のピーク値を経時的に変化させる制御部と、
を有することを特徴とする有機EL駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記逆方向電流の値が所定の値以上になると前記逆方向電圧が小さくなるように前記駆動部を制御することを特徴とする請求項1記載の有機EL駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記順方向電圧の印加と前記逆方向電圧の印加とを一定のデューティで繰り返すように前記駆動部を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記逆方向電流の値が所定の値以上になると前記逆方向電圧の印加時間を短くするように前記駆動部を制御することを特徴とする請求項1記載の有機EL駆動装置。
【請求項5】
前記駆動部は、所定の時定数を持って立ち上がる前記逆方向電圧を出力する逆方向電源を有することを特徴とする請求項4記載の有機EL駆動装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−182048(P2012−182048A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44835(P2011−44835)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】