説明

有機LEDディスプレイ

【課題】 水分を効率良く捕捉することのできる有機LEDディスプレイを提供する。また、捕水材が対向基板から剥がれることによる表示品位の低下を防ぐことのできる有機LEDディスプレイを提供する。
【解決手段】 有機LEDディスプレイ1は、支持基板2の上に形成された複数の有機LED素子と、この複数の有機LED素子が配列した表示部5の周囲に形成されたシール材6と、シール材6を介して支持基板2と重ね合わされた対向基板7とを有する。対向基板7の有機LED素子に対向する面には、凹部13が形成されている。そして、凹部13のシール材6の近傍には、捕水材14が枠状に形成されており、枠状捕水材の内側に表示部5の少なくとも一部が位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機LED(Light−Emitting Diode)ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機LED素子は、有機EL(Electro Luminescence)素子とも呼ばれ、有機物中に注入された電子と正孔が再結合することにより生じた励起子によって発光が起こる現象を利用した素子である。
【0003】
近年では、この有機LED素子を用いたディスプレイの開発が盛んに行われている。これは、有機LEDディスプレイが、たとえば液晶ディスプレイに比較して、広い視野角、速い応答速度および高いコントラスト比などを有し、優れた表示性能をすることによるものである。
【0004】
一般に、有機LEDディスプレイは、陰極と陽極の間に有機層が挟持された構造を有している。そして、電圧を印加すると、陰極からは電子が、陽極からは正孔がそれぞれキャリアとして注入される。これらのキャリアが有機層の内部で再結合すると、励起子が発生する。そして、この励起子の失活の一過程として発光が起こる。
【0005】
しかし、陰極にピンホールなどの欠陥があると、ここから水分が入り込むことによって、有機層との界面で剥離が生じたり、有機層の結晶化が促進されたりする。これにより、電圧を印加しても発光しない、ダークスポットと呼ばれる領域が発生する。ダークスポットは、通電中だけでなく保存の間にも成長し、やがて発光面の全体に拡がって、著しい表示品位の低下や輝度の減少を招く。
【0006】
これに対して、従来より、有機LED素子が設けられた基板に対向する基板に捕水材を設けることによって、外部から浸入した水分を吸収する方法が採られている。
【0007】
図5は、従来の有機LEDディスプレイの断面図である。図に示すように、有機LEDディスプレイ31は、支持基板32と、支持基板32の上に形成されたカラーフィルタ33と、カラーフィルタ33を被覆するようにして支持基板32の上に形成された保護膜34と、保護膜34の上に形成された複数の有機LED素子と、複数の有機LED素子が配列した表示部35の周囲に、表示部35と間隔を空けて形成されたシール材36と、シール材36を介して支持基板32に重ね合わされた対向基板37とを有する。
【0008】
有機LED素子は、支持基板32の上に順に設けられた陽極38、有機層39および陰極40を有する。ここで、陽極38は、絶縁膜41によって分離されている。また、有機LED素子は、絶縁膜41の上に設けられた隔壁42によって分離されている。
【0009】
有機LEDディスプレイ31では、対向基板37に設けられた凹部43に捕水材44が固定されている。これにより、有機LEDディスプレイ31の内部にある水分を捕捉することができるとされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の有機LEDディスプレイ31では、捕水材44が対向基板37の略中央部にのみ設けられていた。このため、シール材36を介して外部から浸入した水分が、捕水材44によって捕捉される前に有機LED素子に吸収されると、有機LED素子の周辺部から中央部に向かってダークスポットが進行する現象が発生するという問題があった。
【0011】
また、捕水材44がその重みによって下方に垂れ下がり、表示部35に接触するなどして表示に悪影響を与えるという問題もあった。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、有機LEDディスプレイ内部に浸入した水分を効率良く捕捉し、有機層への水分の浸入を低減することのできる有機LEDディスプレイを提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、対向基板に設けられた捕水材が垂れ下がることによって表示品位が低下するのを防ぐことのできる有機LEDディスプレイを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、第1の基板と、この第1の基板の上に形成された複数の有機LED素子と、この複数の有機LED素子が配列した表示部の周囲に形成されたシール材と、このシール材を介して第1の基板と重ね合わされた第2の基板とを有する有機LEDディスプレイにおいて、第2の基板の有機LED素子に対向する面には凹部が形成されており、この凹部のシール材の近傍には捕水材が枠状に形成されていて、枠状捕水材の内側に表示部の少なくとも一部が位置することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の第2の態様は、第1の基板と、この第1の基板の上に形成された複数の有機LED素子と、この複数の有機LED素子が配列した表示部の周囲に形成されたシール材と、このシール材を介して第1の基板と重ね合わされた第2の基板とを有する有機LEDディスプレイにおいて、第2の基板の有機LED素子に対向する面には、凹部がシール材の近傍に枠状に形成されており、この凹部には捕水材が設けられていて、枠状捕水材の内側に表示部の少なくとも一部が位置することを特徴とするものである。
【0017】
上記いずれの態様においても、枠状捕水材の内側には表示部の全体が位置することが好ましい。また、有機LEDディスプレイは、第1の基板の上に、複数の有機LED素子を分割する複数の隔壁を有し、捕水材は、隔壁の長手方向に対して垂直方向にある部位の方が、長手方向に対して平行方向にある部位より幅広く形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様によれば、凹部のシール材の近傍に捕水材が形成されているので、シール材を介して外部から浸入した水分を速やかに捕水材によって捕捉することができる。また、捕水材は枠状に形成されており、この枠状捕水材の内側に表示部の少なくとも一部が位置するようにしているので、捕水材が垂れ下がることによって表示部に接触するのを低減することができる。
【0019】
また、本発明の第2の態様によれば、凹部がシール材の近傍に枠状に形成されていて、この凹部に捕水材が設けられているので、シール材を介して外部から浸入した水分を速やかに捕水材によって捕捉することができる。また、枠状捕水材の内側に表示部の少なくとも一部が位置するようにしているので、捕水材が垂れ下がることによって表示部に接触するのを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本実施の形態による有機LEDディスプレイの断面図である。図に示すように、有機LEDディスプレイ1は、第1の基板としての支持基板2と、支持基板2の上に形成されたカラーフィルタ3と、カラーフィルタ3を被覆するようにして支持基板2の上に形成された保護膜4と、保護膜4の上に形成された複数の有機LED素子と、複数の有機LED素子が配列した表示部5の周囲に形成されたシール材6と、シール材6を介して支持基板2と重ね合わされた第2の基板としての対向基板7とを有する。
【0021】
有機LED素子は、支持基板2の上に順に設けられた陽極8、有機層9および陰極10からなる。ここで、陽極8は、絶縁膜11によって分離されている。また、図1で紙面に垂直な方向には、複数の隔壁12が短冊状に形成されており、複数の有機LED素子をそれぞれ分割している。
【0022】
本実施の形態は、対向基板7の有機LED素子に対向する面に凹部13が形成されていて、凹部13のシール材6の近傍には捕水材14が枠状に形成されており、捕水材14からなる枠の内側に表示部5の少なくとも一部が位置することを特徴としている。
【0023】
本実施の形態によれば、凹部13のシール材6の近傍に捕水材14が形成されているので、対向基板7の略中央部にのみ捕水材が設けられている場合と比較して、シール材6を介して外部から浸入した水分を速やかに捕水材14で捕捉することが可能となる。すなわち、水分が有機LED素子に吸収される前に、捕水材14によって水分を捕捉できるので、有機LED素子の周辺部から中央部に向かってダークスポットが進行する現象を抑制することができる。
【0024】
本明細書においては、有機LED素子の周囲に発生した後、中央部に向かって進行するダークスポットをダークフレームと称す。
【0025】
図2に、本実施の形態における有機LEDディスプレイについて、ダークフレームの発生量を評価した結果を示す。尚、比較のために、図5で説明した従来の有機LEDディスプレイについて評価した結果も示している。
【0026】
図2において、本実施の形態における有機LEDディスプレイと、従来の有機LEDディスプレイとは、捕水材の面積が同一となるようにして作製されている。そして、これらの有機LEDディスプレイを、高温高湿(温度80℃、湿度90%)の条件下で500時間放置した。その後、各有機LEDディスプレイの表示部について、その対角線上の画素に発生したダークフレームの長さを測定し評価した。
【0027】
図3を用いて、ダークフレームの評価方法について説明する。尚、図3は、有機LEDディスプレイにおける画素部分の模式的な平面図である。
【0028】
ダークフレーム15は、隔壁16で挟まれた有機LED素子の画素17に発生し、画素17の隔壁16側の端部から中心に向かって進行して行く。図3においては、斜線で示された領域がダークフレーム15である。そして、ダークフレーム15の発生量は、(図3の矢印18で示すように)画素17の端部から中心に向かう長さで評価する。この長さが大きいほど、ダークフレームの発生量は大きくなって不良の度合いは深刻なものとなる。
【0029】
図2において、横軸は、各有機LEDディスプレイの表示部における評価位置を示している。ここで、評価位置は、各有機LEDディスプレイのそれぞれについて合計7箇所あり、それぞれ端から順に番号1〜7を付している。例えば、番号4は、表示部の中央部分に対応する。また、番号1および番号7は、それぞれ表示部の端部に対応する。その他の番号は、中央部分と端部との間であって等間隔な位置に対応する。一方、縦軸は、発生したダークフレームの長さである。
【0030】
番号1および7は、各有機LEDディスプレイのコーナー部分の画素に対応する。この部分は、縦横の二方向からシール材を通って浸入する水分の影響を受けるので、最もダークフレームが発生しやすい領域である。
【0031】
各有機LEDディスプレイについて、同じ番号を付した個所は、表示部の対角線上で略同じ位置にあることを示している。
【0032】
図2から分かるように、従来例では、中央部に比べて周辺部に行くほどダークフレームの長さが大きくなっている。一方、本実施の形態によれば、従来に比較して、表示部の周辺部におけるダークフレームの発生を低減することができる。両者の捕水材の面積は同じであるので、本実施の形態の有機LEDディスプレイの方が、効率良く水分を捕捉できていると言える。
【0033】
また、上述したように、図1では、捕水材14は枠状に形成されていて、この枠状捕水材の内側に表示部5の少なくとも一部が位置している。このような構造とすることによって、捕水材14が対向基板7から剥がれて浮き上がった場合であっても、表示部5に捕水材14が接触するのを防ぐことができる。
【0034】
本実施の形態においては、表示部5の全体が枠状捕水材の内側に位置するようにすることが好ましい。これにより、捕水材14が対向基板7から剥がれて浮き上がった場合であっても、表示部5に捕水材14が接触することはないので、表示品位の低下を一層抑制することが可能となる。また、このような構造とすることによって、捕水材の配設位置が発光部分を遮らない構成となるので、有機LEDディスプレイ1をトップエミッションとすることができる。
【0035】
また、捕水材14は、隔壁12の長手方向に対して垂直方向にある部位の方が、長手方向に対して平行方向にある部位より幅広く形成されていることが好ましい。これは、次のような理由による。
【0036】
本発明者は鋭意研究した結果、外部からシール材6を通過して有機LEDディスプレイ1の内部に浸入する水分の進入速度は、隔壁12の長手方向に対して垂直方向の方が、長手方向に対して平行方向よりも速いことを見出した。これは、有機層9と隔壁12との間には隙間があり、この隙間から有機層9の端部が剥き出しの状態となっていることに起因すると考えられる。これについて、以下に詳述する。
【0037】
外部から浸入した水分は、隔壁12の長手方向と平行方向(図1で紙面に垂直方向)に進行する方が、垂直に進行する場合に比較して速くなる。これは、平行方向では、隔壁12による進行妨害を受けないためである。そして、平行方向から浸入した水分は、剥き出しとなった有機層9の端部から吸収されてダークフレームを発生させる。このときダークフレームが発生する方向は、隔壁12の長手方向に対して垂直方向である。その後、時間の経過とともに、隔壁12の長手方向に対して平行方向からもダークフレームが発生するようになる。
【0038】
したがって、ダークフレームの発生を抑制するには、まず、隔壁12の長手方向に対して平行方向からの水分の浸入を防ぐことが重要であり、そのためには、捕水材14を、隔壁12の長手方向に対して垂直方向にある部位の方が、長手方向に対して平行方向にある部位より幅広く形成することが好ましい。
【0039】
このように、本実施の形態による有機LEDディスプレイ1は、シール材6を通過する水分の進入速度の方向依存性を隔壁12の構造との関係で明確にし、これに基づいて捕水材14による捕水効果がより高められるように設計されたものである。すなわち、本実施の形態では、隔壁12の長手方向に対して平行方向の方が垂直方向より水分の進行速度が速いことを見出し、このことから、隔壁12の長手方向に対して垂直となる方向に位置する捕水材14の幅を広くすることによって捕水材の量を多くし、ダークフレームの発生を効果的に抑制できるようにした。捕水材14がこのような形状を有することによって、シール材を通過して有機LEDディスプレイ1の内部に浸入する水分を捕捉する能力が効果的に発揮されるので、有機LEDディスプレイ1全体として優れた水分浸入防止機能を示すことができる。
【0040】
尚、捕水材14は、上記形状に限られるものではない。例えば、枠状捕水材の上下左右の四辺の幅を状況に応じてそれぞれ設定することもできる。具体的には、隔壁12の長手方向を考慮しつつ、有機LEDディスプレイ1の設置環境や使用状況を考慮して、より捕水性能を高めたい部分の捕水材14の幅を広くするなどしてもよい。
【0041】
本実施の形態における枠形状とは、シール材6に沿った形状であって、且つ、中央部に開口部を有する形状を言う。ここで、開口部の形状は、捕水材14の外周のなす形状と相似形をなす場合に限られるものではない。開口部の形状は、有機LEDディスプレイ1の表示部5の形状を考慮して決めることができる。具体的には、捕水材14が剥がれるような事態が生じても、表示部5に影響を与え難いような形状であればよい。例えば、捕水材14の外周のなす形状が長方形である場合に、開口部の形状を、円形、楕円形または不定形とすることもできる。
【0042】
枠形状は、完全に連続性を有するものに限られず、例えば、一部に欠けがあるもの、断裂して連続性が損なわれているもの、さらには、4隅に切り欠けがあって4辺が別体であるものなども含む。また、隔壁12の長手方向に対して垂直方向にのみ捕水材14を設けてもよい。この場合、捕水材14の形状は枠状とはならないが、隔壁12の長手方向に対して平行方向からの水分の浸入を防ぐことができるので、捕水材14を枠状に設けた場合に比較すると効果は劣るものの、ある程度ダークフレームの発生を抑止することができる。
【0043】
また、枠形状は、二重構造や三重構造であってもよい。この場合、各枠に異なる構成材料を使用することによって、異なる性能を付与することも可能である。また、隔壁12の長手方向と垂直方向のみに捕水材14を二重または三重に設けることによって、捕水性能を強化することも可能である。
【0044】
上述したように、捕水材14は、シール材6の近傍に設けられる。本実施の形態においては、対向基板7上で、支持基板2上の表示部5とシール材6との間の領域に対応する領域に設けられている。このようにすることにより、捕水材層14が対向基板から剥がれて浮き上がるような事態が生じても、表示部5に影響を与え難くすることができる。
【0045】
尚、本実施の形態においては、より幅広い領域に捕水材14を設けることも可能である。この場合、対向基板7上で、表示部5に対向する領域まで捕水材14が形成されることになるものの、捕水材14の幅が広くなるために捕水性能が高くなる。したがって、捕水材14による捕水性能、特に、隔壁12の長手方向をを考慮した必要な捕水能力と、対向する表示部5への影響とを比較考慮して適宜設計することが好ましい。
【0046】
また、本実施の形態においては、対向基板7の表面に形成された凹部13に捕水材14を設けている。このようにすることによって、捕水材14と対向する表示部5との間隔を広くとれることになる。したがって、例えば、捕水材14が対向基板7から剥がれて浮き上がるような事態が生じても表示部5に影響を与え難くすることができる。
【0047】
しかし、本実施の形態においては、凹部13を形成しないで、対向基板7の表面に直接捕水材14を設けることも可能である。凹部13を形成しないことにより、対向基板7、ひいては有機LEDディスプレイ1の製造工程を簡略化することができる。
【0048】
本実施の形態における有機LEDディスプレイ1は、ボトムエミッションとすることができるが、枠状捕水材の内側に表示部5の全体が位置する場合には、トップエミッションとすることもできる。ボトムエミッションの場合には、発光光は支持基板2の側から外部に取り出されるので、支持基板2としては、可視光に対する透過率が高い材料が用いられる。具体的には、アルカリガラス、無アルカリガラスおよび石英ガラスなどの無機ガラスの他に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール並びにポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマーなどの透明材料が挙げられる。一方、一方、トップエミッションの場合には、発光光は対向基板7の側から取り出されるので、支持基板2には、金属などの光透過性のない部材を用いることができる。
【0049】
また、陽極8としては、透明であって仕事関数の大きな金属若しくはその合金または他の導電性化合物が用いられる。例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、SnOまたはZnOなどを陽極材料として用いることができる。これらの膜は、例えば、蒸着法などにとって成膜した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることによって、陽極8とすることができる。
【0050】
本実施の形態において、絶縁膜11は、表示画素となる位置に開口部を有しており、陽極7を分離して電気的に絶縁する役割を果たす。絶縁膜11としては、例えばポリイミド系樹脂などを用いることができ、印刷法などによって形成することができる。尚、本実施の形態においては、絶縁膜11はなくてもよい。
【0051】
隔壁12は、ポリイミドなどの絶縁性樹脂からなる。尚、隔壁12は、図1では逆テーパ状の断面形状を有しているが、上層に形成する有機層9の分子量によっては、順テーパ状またはアーチ状などの断面形状を有していてもよい。すなわち、低分子量の材料を用いて有機層9を形成する場合には、蒸着法による成膜が一般的となる。そこで、隔壁12の断面形状を逆テーパ状とし、陽極8の上部から垂直に材料を堆積させることによって、寸法精度のよい有機層9を形成することができる。一方、高分子量の材料では、インクジェット法などの塗布法を用いて成膜することが必要となる。したがって、陽極8の上に塗布液を流し込むために、隔壁12の断面形状を順テーパ状またはアーチ状にすることが望ましい。隔壁12は、所望の断面形状の形成に適したレジスト組成物を用いて形成することができる。
【0052】
有機層9は、電子と正孔が再結合して生じた励起子によって白色発光を起こす層である。具体的には、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる3層型の構造とすることができる。また、有機層9は、発光層が正孔輸送性または電子輸送性を併せ持つ2層型の構造とすることもできる。さらに、陽極からの正孔注入障壁を低くするために、正孔輸送層と陽極の間に、陽極とのイオン化ポテンシャルの差が小さい正孔注入層がさらに1層設けられた構造とすることもできる。これらの膜は、蒸着法によって成膜することができるが、少なくとも1つの膜を、スプレー法、インクジェット法、スピンコート法および転写法などの湿式塗布法によって形成してもよい。
【0053】
正孔輸送層としては、例えば、N,N'−ビス(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニル−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPD)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス[N−フェニル−N−(2−ナフチル)−4'−アミノビフェニル−4−イル]−1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン(NPTE)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(HTM2)およびN,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−1,1'−ジフェニル−4,4'−ジアミン(TPD)などが挙げられる。
【0054】
電子輸送層としては、例えば、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)および2−(4−t−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)などが挙げられる。
【0055】
発光層には、注入された電子と正孔が再結合できる場を提供し、且つ、発光効率の高い材料を用いる。具体的には、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウムフェノキサイド(Alq´OPh)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウム−2,5−ジメチルフェノキサイド(BAlq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体(Liq)、モノ(8−キノリノラート)ナトリウム錯体(Naq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ナトリウム錯体およびビス(8−キノリノラート)カルシウム錯体(Caq)などのキノリン誘導体の金属錯体、テトラフェニルブタジエン、フェニルキナクドリン(QD)、アントラセン、ペリレン並びにコロネンなどの蛍光性物質が挙げられる。
【0056】
上記の蛍光性物質は、それ自体で発光が可能なホスト物質と組み合わせて、ドーパントとして使用することが好ましい。これにより、ホスト物質の発光波長特性を変化させることができ、長波長に移行した発光が可能になるとともに、素子の発光効率および安定性を向上させることが可能となる。
【0057】
ホスト物質としては、キノリノラト錯体が好ましく、特に、8−キノリノールおよびその誘導体を配位子としたアルミニウム錯体が好ましい。
【0058】
陰極10には、仕事関数の小さな金属またはその合金が用いられる。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属および周期表第3族の金属などが挙げられる。この内、安価で化学的安定性のよい材料であることから、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)またはこれらの合金などが好ましく用いられる。これらの膜は、例えば、蒸着法などによって成膜し、隔壁12によってパターニングされた陰極10とすることができる。また、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングされた陰極10とすることもできる。
【0059】
捕水材14は、紫外線硬化型または熱硬化型の樹脂に乾燥剤を含んでなる。樹脂としては、紫外線硬化型のエポキシ系樹脂が好ましく用いられる。また、捕水材14は、不活性オイル中に乾燥剤を混入したものでもよい。一方、乾燥剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)および酸化バリウム(BaO)などのアルカリ土類金属の酸化物またはシリカゲルおよびモレキュラシーブなどの多孔質無機材料などを用いることができる。
【0060】
上述したように、本実施の形態における有機LEDディスプレイ1は、ボトムエミッションとすることができるが、枠状捕水材の内側に表示部の全体が位置する場合には、トップエミッションとすることもできる。ボトムエミッションの場合には、発光光は支持基板2の側から外部に取り出されるので、対向基板7には、金属などの光透過性のない部材を用いることができる。一方、トップエミッションの場合には、発光光は対向基板7の側から取り出されるので、対向基板7には支持基板2と同様の透明材料を用いる。
【0061】
尚、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0062】
例えば、図1の例では、対向基板7の有機LED素子に対向する面に凹部13が形成されていて、凹部13のシール材6の近傍に捕水材14が枠状に形成されている例について述べた。しかしながら、図4に示すように、対向基板27の有機LED素子に対向する面に、凹部23がシール材6の近傍に枠状に形成されていて、凹部23に捕水材24が設けられている場合にも、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。尚、図4において、図1と同様の符号を付した部分は同様のものであることを示している。
【0063】
図4の例においても、枠状捕水材の内側には表示部5の全体が位置することが好ましい。これにより、捕水材24が対向基板から剥がれて浮き上がった場合であっても、表示部5に捕水材24が接触することはないので、表示品位の低下を一層抑制することが可能となる。
【0064】
また、捕水材24は、隔壁12の長手方向に対して垂直方向にある部位の方が、長手方向に対して平行方向にある部位より幅広く形成されていることが好ましい。これにより、シール材6を通過して有機LEDディスプレイ21の内部に浸入する水分を捕捉する能力を効果的に発揮させることができるので、有機LEDディスプレイ21全体として優れた水分浸入防止機能を示すことができる。
【0065】
さらに、本実施の形態ではカラーフィルタを用いた例について示したが、本発明はこれに限られるものではない。本発明における有機LED素子の構造に特に制限はなく、フルカラー化の方式にも特に制限はない。例えば、(1)青色発光する有機LED素子をCCM(Color Changing Media)色変換層で赤色、緑色および青色の発光に変換する方式、(2)シャドウマスクを用いて、赤色、緑色および青色の各発光素子を選択的に成膜する方式、(3)赤色、緑色および青色の各発光素子を基板に垂直な方向に積層し、それぞれ独立に発光させる方式、または、(4)高分子有機LED素子をインクジェット法によって塗り分けて、赤色、緑色および青色に発光させる方式などを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施の形態の有機LEDディスプレイの断面図の一例である。
【図2】本実施の形態における有機LEDディスプレイについて、ダークフレームの発生量を評価した結果である。
【図3】ダークフレームの評価方法の説明図である。
【図4】本実施の形態の有機LEDディスプレイの断面図の他の例である。
【図5】従来の有機LEDディスプレイの断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1,21,31 有機LEDディスプレイ
2,32 支持基板
3,33 カラーフィルタ
4,34 保護膜
5,35 表示部
6,36 シール材
7,27,37 対向基板
8,38 陽極
9,39 有機層
10,40 陰極
11,41 絶縁膜
12,16,42 隔壁
13,23,43 凹部
14,24,44 捕水材
15 ダークフレーム
17 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、
前記第1の基板の上に形成された複数の有機LED素子と、
前記複数の有機LED素子が配列した表示部の周囲に形成されたシール材と、
前記シール材を介して前記第1の基板と重ね合わされた第2の基板とを有する有機LEDディスプレイにおいて、
前記第2の基板の前記有機LED素子に対向する面には凹部が形成されており、
前記凹部の前記シール材の近傍には、捕水材が枠状に形成されていて、
前記枠状捕水材の内側に前記表示部の少なくとも一部が位置することを特徴とする有機LEDディスプレイ。
【請求項2】
第1の基板と、
前記第1の基板の上に形成された複数の有機LED素子と、
前記複数の有機LED素子が配列した表示部の周囲に形成されたシール材と、
前記シール材を介して前記第1の基板と重ね合わされた第2の基板とを有する有機LEDディスプレイにおいて、
前記第2の基板の前記有機LED素子に対向する面には、凹部が前記シール材の近傍に枠状に形成されており、
前記凹部には捕水材が設けられていて、
前記枠状捕水材の内側に前記表示部の少なくとも一部が位置することを特徴とする有機LEDディスプレイ。
【請求項3】
前記枠状捕水材の内側に前記表示部の全体が位置する請求項1または2に記載の有機LEDディスプレイ。
【請求項4】
前記第1の基板の上に、前記複数の有機LED素子を分割する複数の隔壁を有し、
前記捕水材は、前記隔壁の長手方向に対して垂直方向にある部位の方が、該長手方向に対して平行方向にある部位より幅広く形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機LEDディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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