説明

有毒ガス分解触媒用担体及びその製造方法

【課題】揮発性有機化合物(VOC)等の有毒ガスを効率よく燃焼処理することができる有毒ガス分解用触媒に好適に使用できる触媒体を提供すること。
【解決手段】アルミニウム焼結粒子から形成されるアルミニウム多孔質体と、前記アルミニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層と、を備えたことを特徴とする有毒ガス分解用触媒担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有毒ガス分解用触媒担体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、アルミニウム焼結体のアルマイトを担体とする有毒ガス分解触媒用担体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護、環境改善の観点から、大気中に放出される臭気、自動車廃棄ガス、二酸化窒素、二酸化硫黄等有毒ガスの処理が問題となっている。特に、浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントによる大気汚染の状況は、きわめて深刻であり、日本のみならず、欧米各国でも対処策を講じているところである。浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントの原因物質としては様々なものがあるが、とりわけ揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds「VOC」)は、上記大気汚染の主要な原因物質とされている。揮発性有機化合物(VOC)は、揮発性を有し、大気中で気体となる有機化合物の総称であり、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル等がある。トルエン等の揮発性有機化合物(VOC)は、工業用洗浄、印刷、接着、化学工業などの産業上利用分野で使用されている。
【0003】
日本においては、法律の規制と事業者の自主的な取り組みとの適切な組み合わせ(いわゆるベストミックス)により、2010年度までに固定発生源から排出される揮発性有機化合物(揮発性有機化合物(VOC)の排出量を2000年度に比して30%削減し、その結果、浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダントによる大気汚染の環境基準を達成することを計画している。
【0004】
揮発性有機化合物(VOC)排出量を抑制する技術は、揮発性有機化合物(VOC)使用量低減技術と揮発性有機化合物(VOC)排出処理技術に大別される。排出量を抑制するためには、前者の技術により、揮発性有機化合物(VOC)使用量を削減し、更に後者の技術により、揮発性有機化合物(VOC)を処理することが必要となる。揮発性有機化合物(VOC)排出処理技術は、燃焼処理方法と吸着処理方法に大別され、燃焼処理方法の中でも触媒酸化燃焼法が触媒効率、揮発性有機化合物(VOC)燃焼率の観点から有効である。
【0005】
触媒酸化燃焼法において使用される触媒体として、陽極酸化アルミニウム皮膜を用いた触媒担体である触媒体が開示されている。例えば、アルミニウム基板をエッチング処理によって、アルミニウム基板面に垂直にピットを形成し、さらに陽極酸化処理によって皮膜を形成し、当該皮膜に生成した微細孔に白金、パラジウム等を担持した触媒体が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。上記触媒体は、担持する触媒成分を適宜換えることによって、揮発性有機化合物の触媒としてのみならず、臭気、自動車排気ガス、燃焼焼却ガス等の有害ガスの分解用触媒として使用できることが開示されている。
【0006】
しかしながら、上記触媒体は、所定の触媒活性を得るために、特定の方位占有率を有するアルミニウム基板を採択し、エッチング処理によって、アルミニウム基板に特定の形状エッチングピットを形成させ、しかも、陽極酸化皮膜の厚みを特定しなければならないため、上記触媒体を製造する際に、非常に手間を要するという問題点がある。
【0007】
また、アルミニウムの陽極酸化による微細孔化又はエッチングのいずれかの処理による表面積の増大によって、触媒効率の向上を図った触媒体が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、上記触媒体においては、陽極酸化により微細孔化を行うため、陽極酸化時の電気エネルギーその他の製造コストが大きく、またエッチング処理を施すため製造工程が複雑になるという問題点がある。
【0008】
さらに、アルミニウム基板のエキスバンド、エッチング等のいずれかの加工をした薄膜の不織布性多孔性アルミニウム含有耐熱合金のアルミナを含む酸化層に触媒を担持した触媒体及び触媒が開示されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、上記触媒体においては、エキスバンド、エッチング等の特定加工が必要であるという問題点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した状況に鑑み、本発明の課題は、揮発性有機化合物(VOC)等の有毒ガスを少ない触媒成分により、効率よく燃焼処理することができる有毒ガス分解用触媒に好適に使用できる触媒体及びこの触媒体を担体とする有毒ガス触媒を提供することにある。また、本発明の課題は、上記触媒体をアルミニウム基板にエッチングピット処理することなく、簡易且つ容易に上記触媒体を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミニウム焼結粒子から形成される特定のアルミニウム多孔質体にベーマイト層を形成し、更に好ましくは陽極酸化を施して前記多孔質体と前記ベーマイト層間に形成される酸化アルミニウムを備えた有毒ガス分解用触媒担体が、触媒活性及び耐久性にきわめて優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の技術的事項から構成される。即ち、
(1)アルミニウム焼結粒子から形成されるアルミニウム多孔質体と、前記アルミニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層と、を備えたことを特徴とする有毒ガス分解用触媒担体。
(2)陽極酸化処理することにより、前記多孔質体と前記ベーマイト層間に形成される酸化アルミニウム層を備えたことを特徴とする(1)に記載の有毒ガス分解用触媒担体。
(3)前記アルミニウム多孔質体の厚みが、30μm〜100μmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の有毒ガス分解用触媒担体。
(4)前記アルミニウム焼結粒子は、平均粒径が1.0μm〜10μmのアルミニウム粉末を焼結したものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の有毒ガス分解用触媒担体。
(5)前記ベーマイト層及び/又は酸化アルミニウム層に、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、錫からなる群より選ばれる少なくとも1以上の元素を触媒成分として担持したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有毒ガス分解用触媒。
(6)前記触媒成分が、白金であることを特徴とする(5)に記載の有毒ガス分解用触媒を要件とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温(220℃〜300℃付近)において、ほぼ100%の転化率にて揮発性有機化合物(VOC)等の有毒ガスを分解することができ、かつ、きわめて優れた耐久性を有する有毒ガス分解触媒用担体を提供することができる。また、本発明によれば、上記触媒用担体を使用しているので、触媒効率にきわめてすぐれた有毒ガス分解用触媒を提供することができる。さらに、本発明によれば、アルミニウム基板等にエッチングピット処理を行うことなく、簡易な手段により上記触媒用担体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の触媒担体のSEM拡大写真を示す。
【図2】触媒の活性結果(実施例1〜実施例8)を示す。
【図3】触媒の活性結果(実施例9〜実施例16)を示す。
【図4】製造番号3の触媒担体の表面写真を示す。
【図5】製造番号5の触媒担体の表面写真を示す。
【図6】製造番号6の触媒担体の表面写真を示す。
【図7】製造番号3の触媒活性試験(各攪拌時間)の結果を示す。
【図8】製造番号5の触媒活性試験(各攪拌時間)の結果を示す。
【図9】製造番号6の触媒活性試験(各攪拌時間)の結果を示す。
【図10】製造番号3の触媒活性試験(各攪拌速度)の結果を示す。
【図11】製造番号5の触媒活性試験(各攪拌速度)の結果を示す。
【図12】製造番号6の触媒活性試験(各攪拌速度)の結果を示す。
【図13】製造番号3の触媒活性試験(各白金溶液濃度)の結果を示す。
【図14】製造番号5の触媒活性試験(各白金溶液濃度)の結果を示す。
【図15】製造番号6の触媒活性試験(各白金溶液濃度)の結果を示す。
【図16】実施例3等と比較例1の触媒活性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
<有毒ガス分解用触媒担体>
本発明の有毒ガス分解用触媒担体は、アルミニウム焼結粒子から形成されるアルミニウム多孔質体と、前記アルミニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層とを備えたことを特徴とするものである。アルミニウム焼結粒子から形成されるアルミニウム多孔質体には、ベーマイト処理及び/又は陽極酸化処理により、それぞれベーマイト層及び/又は酸化アルミニウム層が形成されている。上記アルミニウム多孔質体は、所定のアルミニウム焼結体粒子から構成される。
【0015】
まず、アルミニウム多孔質体は、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種類のアルミニウム焼結粒子から構成される。このアルミニウム焼結粒子は、アルミニウム及びアルミニウム合金から成り、その組成としては、例えば、アルミニウム純度が99.8重量%以上の純アルミニウム粉末の焼結粒子を使用することができる。
【0016】
アルミニウム多孔質体を構成するアルミニウム焼結粒子に使用するアルミニウム粉末の形態は、アルミニウム多孔質体を形成することができ、表面積が大きくなる形態であれば、特に限定されるものではないが、例えば球状、不定形状、鱗片状、繊維状等の形態を例示することができる。触媒効率の観点から、特に球状からなるアルミニウム粉末を用いた焼結体粒子が好ましい。球状の場合、その粒径は、好ましくは1.0μm〜80μm、特に好ましくは1.0μm〜30μmが好ましい。
【0017】
アルミニウム焼結粒子に使用するアルミニウム粉末は、公知の方法によって製造することができる。例えば、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、急冷凝固法等によって製造することができる。上記製造方法の中でも、生産効率の観点からアトマイズ法、特にガスアトマイズ法を好適に使用することができる。
【0018】
焼結に際し、アルミニウム粉末には、必要に応じて樹脂バインダー、溶剤、焼結助剤、界面活性剤等を添加してもよい。本発明においては、上記アルミニウム多孔質体を形成するために、樹脂バインダー及び溶剤の少なくとも1種類を含有させてペースト状のアルミニウム粉末を焼結体粒子の組成物として使用することが好ましい。これにより、効率よく、所望の形態のアルミニウム多孔質体を形成することができる。樹脂バインダーとしては、特に限定されるものではないが、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリロニトリル樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂又はワックス、タール、ニカワ、ウルシ、松脂等の天然樹脂を好適に使用することができる。溶媒も公知のものを使用することでき、特に限定されるものではないが、例えば、水、エタノール、トルエン、ケトン類、エステルなどの有機溶媒を使用することができる。
【0019】
アルミニウム多孔質体の形成は、その形態に応じて公知の方法を適宜採択することにより行うことができる。例えば、アルミニウム粉末を圧粒粉末体とし、必要に応じて基材上に形成(又は熱圧着)することができる。この場合は、圧粒粉末体を焼結することによって固化すると同時に、基材上にアルミニウム焼結粒子を固着し、アルミニウム多孔質体とすることができる。
また、アルミニウム粉末と溶媒のペースト状の場合には、必要に応じて基材上にローラー、印毛、スプレー、ディピング等の塗布方法や公知の印刷方法によって、塗工粉末体を形成した後、焼結することによって固化する。
また、焼結に先立って、必要に応じて、20℃〜300℃の範囲内で乾燥させて、溶媒を蒸発させた後、アルミニウム多孔質体を形成してもよい。
【0020】
アルミニウム多孔質体の形態は、特に限定されるものではないが、板状、棒状、筒状、リボン状、線状、糸状、中空細管上、網状、布状、メッシュ状、ハニカム状等とすることができる。プレート型、エキスパンドメタル、チューブ型、セレートフィン等種々の形態を採り得る。アルミニウム多孔質体の厚みは、触媒成分を担持することができるベーマイト層及び/又は酸化アルミニウム層を形成することができれば特に制限されるものではないが、触媒活性と触媒成分の利用効率の観点から10μm〜150μm、好ましくは、30μm〜100μm、特に好ましくは、35μm〜80μmである。さらに、アルミニウム多孔質体のミクロ構造は、それぞれのアルミニウム焼結粒子同士が、所定の空隙を有しかつ維持しながら繋がり、三次元網目構造を有しているものである。
【0021】
なお、アルミニウム多孔質体は、アルミニウム焼結粒子単独で存在してもよいし、当該アルミニウム焼結粒子を支持する基材をさらに含んでいてもよい。上記基材としては、特に限定されるものではないが、アルミニウム箔を好適に使用することができる。基材としてのアルミニウム箔は、特に限定されず、純アルミニウム又はアルミニウム合金を使用することができる。本発明で使用することができるアルミニウム箔はその組成として、珪素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、バナジウム、ガリウムニッケル及びホウ素の少なくとも1種類の合金元素を必要範囲内において添加した合金等を含む。上記アルミニウム箔の厚みは、当該アルミニウム多孔質体を支持することができれば特に限定されるものではないが、5.0μm〜100μm、特に10μm〜50μmの範囲内とすることが好ましい。
【0022】
次に、本発明の有毒ガス分解用触媒担体は、前記アルミニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層を備えたことを特徴とする。ベーマイト処理は、公知の方法によって行うことができ、例えば、高温の純水中で処理することができる他、飽和水蒸気中で処理することもできる。例えば、100℃程度の純水中で1〜20分間ボイルすることによりベーマイト層を形成させることができる。上記ベーマイト層は、アルミニウム多孔質体を構成しているアルミニウム焼結粒子の粒径及びその形態に対応して形成される。ベーマイト層は、三次元網目構造を有しているアルミニウム焼結粒子間の空隙壁上にひげ状のベーマイト皮膜から形成されている。その結果アルミニウム多孔質体は、揮発性有機化合物(VOC)等の被処理気体である有毒ガスが、三次元網目構造を有しているアルミニウム焼結粒子間の空隙壁上に存在するひげ状のベーマイト間を自由に動き回ることができ、被処理気体の有効接触面積を増加させることができる。
【0023】
ベーマイト層の厚みは、アルミニウム多孔質体の厚み及びベーマイト処理の条件により適宜調整することができ、特に限定されるものではないが、触媒活性と触媒成分の利用効率の観点から10μm〜150μm、好ましくは、30μm〜100μm、特に好ましくは、35μm〜80μmである。なお、後述するように本発明の有毒ガス分解触媒においては、ベーマイト層に所定の触媒成分を担持する。
【0024】
さらに、本発明の有毒ガス分解用触媒担体は、陽極酸化処理することにより、アルミニウム多孔質体とベーマイト層間に形成される酸化アルミニウム層を備えていてもよい。すなわち、アルミニウム多孔質体にベーマイト層を備えたこと触媒担体の場合、アルミニウム多孔質体を構成するアルミニウム焼結粒子とベーマイトとの密着性がやや弱いため、有毒ガスの分解処理に不具合を生ずる場合がある。このため、アルミニウム多孔質体を構成するアルミニウム焼結粒子とベーマイトとの物理的結合を強固とするために、さらにアルミニウム多孔質体を陽極酸化処理し、強度と耐食性にきわめて優れた酸化アルミニウム層(アルマイト層)を形成させるものである。
【0025】
陽極酸化は、公知の方法に従い行うことができる。陽極酸化の条件は特に制限されるものではないが、上記アルミニウム多孔質体をホウ酸、シュウ酸、硫酸等の酸性溶液に浸漬し、公知の方法に従って行えばよい。
【0026】
陽極酸化の条件は、触媒成分の白金のベーマイト層への担持を効率よく行ない、かつアルマイト層とベーマイト層との接着性を向上させるため、ベーマイト層及び酸化アルミニウム層のBET吸着表面積が最大になるように設定することが好ましい。このため、陽極酸化の処理温度を0℃〜50℃、好ましくは10℃〜40℃に設定するのが好ましい。0℃未満である場合には、陽極酸化が困難であり、50℃を超えると酸化アルミニウム層が溶解してしまい、酸化反応によるアルミナ層の形成が困難となる。
【0027】
<有毒ガス分解用触媒>
本発明の有毒ガス分解用触媒は、上記の製造された触媒担体に触媒成分を担持することにより構成される。触媒成分は、分解処理をする有毒ガス種類に応じて適宜採択することができる。例えば、パラジウム、白金、レテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、錫等の金属を例示することができる。また、これらの金属を混合して触媒担体に担持することもできるし、これらの金属の合金を担持してもよい。特に、揮発性有機化合物(VOC)を分解処理する場合には、上記金属の中でも白金が好ましい。
【0028】
触媒成分を触媒担体へ担持するには、上記触媒成分を溶液とし、触媒担体と所定時間、所定の攪拌速度にて常温、常圧にて含浸法により行う。また、溶液のPHは、アルカリ性であることが好ましい。
【0029】
例えば、揮発性有機化合物(VOC)の分解用触媒とする場合においては、触媒成分である白金及び/又は白金化合物の他に目的及び用途に応じて本発明の趣旨を損なわない範囲で、少量の触媒成分を適宜組み合わせて多成分系触媒とすることもできる。例えば、他の触媒成分として銀と銅、セリウム等の希土類、亜鉛、ガリウム、マンガン、鉄、金、白金を例示することができ、本発明の二成分系の触媒成分の組み合わせとして、銀−銅、銀−亜鉛、銀−ガリウム、銀−マンガン、銀−鉄、銀−金、銀−白金等を例示することができる。
【0030】
上記触媒成分は、アルミニウム多孔質体に存在するアルマイト層及び/又はベーマイト層に担持される。触媒成分の担持方法としては、特に制限されるものではないが、公知の含浸法や電解担持等を採用することができる。
【0031】
含浸法は、上記の製法によりアルミニウム多孔質体に存在するアルマイト層及び/又はベーマイト層に触媒成分を含有する溶液を加え、所定時間攪拌し、含浸操作を行うことにより、触媒成分を容易に担持することができるものである。また、触媒成分を含有する溶液にシアン化イオン、アンモニア、EDTA等の配位剤を添加することにより、溶液のPHを調製し、触媒成分を担持することもできる。
【0032】
触媒成分を溶液として、アルミニウム多孔質体に存在するアルマイト層及び/又はベーマイト層に担持させる場合、その溶液の濃度は、0.5mol/L(リットル)〜1.5mol/Lであることが好ましい。溶液の濃度が、0.5mol/L未満であると、十分な触媒成分をアルマイト層及び/又はベーマイト層に担持することができないため好ましくなく、1.5mol/Lを超えると、触媒成分が多くなり、担体から剥がれ易くなり好ましくない。
また、揮発性有機化合物(VOC)の分解用触媒とする場合においては、触媒成分である白金を担持するので、経済的観点から好ましくない。
【0033】
上記濃度の白金化合物溶液をアルマイト層及び/又はベーマイト層に、所定量の触媒成分が担持されるように必要に応じて、1〜10回行うことができる。
【0034】
上記触媒成分をアルミニウム多孔質体に担持させた後、さらに焼成することが好ましい。
焼成によって、白金等の触媒成分は、上記酸化アルミニウムに強固に担持されることとなり、安定化する。担持後の焼成温度は、350℃〜650℃であり、好ましくは450℃〜550℃である。350℃未満であると、触媒成分を担持することができず、650℃を超えると担体等の変形を生じてしまうので好ましくない。なお、上記担体の焼成時間は、好ましくは1時間〜3時間である。
【0035】
本発明の有毒ガス分解用触媒は、用途応じてその触媒成分を変化させることにより、揮発性有機化合物(VOC)の分解用触媒として使用できる他、有機塩素化合物の分解除去、自動車排気ガス、悪臭物質の分解無害化、オゾン発生器への応用、放電プラズマ触媒反応器による改質器への応用、燃料電池用改質システムへの応用、水蒸気改質器、COシフト反応器、CO選択酸化反応器に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を用いて説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
<触媒担体の製造>
表1に示したアルミニウム粉末(JIS A1080、東洋アルミニウム(株)製)(製造番号1)60質量部をアクリル系バインダー40質量部と混合し、溶剤(トルエン)に分散させて固形分60重量部のペーストを、厚みが400μmのアルミニウム箔(JIS 1N30−H18)の両面に、焼結後の片面厚みが82μmになるように塗工した後、処決して、アルミニウム多孔質体を得た。
得られたアルミニウム多孔質体を、100℃の純水中で10分間ボイリング処理をしてベーマイト層を形成し、さらに、ホウ酸液中で陽極酸化処理を行い、アルミニウム多孔質体とベーマイト層の間に約0.3μmの酸化アルミニウム層を形成した。
図1に触媒担体のSEM拡大写真を示す。なお、表1には、本実施例において、使用したアルミニウム粉末の粒径(μm)及び焼結粒子の片面厚みを示した。
【0038】
【表1】

【0039】
<揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒の製造>
表1に示したように、本発明の触媒担体に触媒成分を担持して、揮発性有機化合物(VOC)用触媒を製造した。触媒成分は、揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒成分として好適な白金を採用し、上記製造例1の触媒担体と白金溶液濃度1.0(g/L)の触媒成分溶液を攪拌して調製した。溶液のPHは、11.4とし、担持時間10分、攪拌速度25.0rpmとした(以下、この担持条件を、SET「A」とする。)なお、表2には、本実施例において、触媒成分の担持条件を示した。本実施例1の触媒は、製造番号1の触媒担体を使用して、上記SET「A」の条件にて製造されたことから、A1と表示する。以下の実施例においても同様である。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2)
焼結粒子の片面厚みを41μmとした以外は、実施例1と同様にして、本発明の触媒担体(製造番号2)及び触媒を製造した。表1及び表2に、触媒担体(製造番号2)と触媒成分担持条件(SET「A」)を示す。
【0042】
(実施例3〜実施例8)
アルミニウムの粒径及び、焼結粒子の片面厚みをそれぞれ変化させた以外は、実施例1と同様にして、本発明の触媒担体(製造番号3〜8)及び触媒を製造した。同様に、表1及び表2、触媒担体(製造番号3〜8)と触媒成分担持条件(SET「A」)を示す。
【0043】
(実施例9〜実施例16)
アルミニウム粉末の粒径及び、焼結粒子の片面厚みを表1に示した製造番号1〜8の触媒担体を使用し、白金触媒成分の担持条件の担持時間を5.0分(以下、この担持条件を、SET「B」とする。)以外は、実施例1〜実施例8と同様にして本発明の揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒を製造した。
【0044】
<揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒活性試験>
実施例1〜実施例16で製造した各種揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒活性試験を行った。揮発性有機化合物としてトルエンを使用し、以下の表3に示す条件にて、触媒活性試験を行った。実施例1〜実施例8の結果を図2に、実施例9〜実施例16の結果を図3に示す。なお、表3に触媒活性試験における反応温度、SV及びトルエン濃度を示した。
【0045】
【表3】

【0046】
図2によれば、製造番号5の触媒担体を使用した実施例5の触媒(A5)、製造番号3の触媒担体を使用した実施例3の触媒(A3)及び製造番号6の触媒担体を使用した実施例6の触媒(A6)が220℃付近からの初期活性が高く、240℃付近においてはほぼ100%の触媒活性を示すことが理解される。従って、所定のアルミニウム粒子からなるアルミニウム積層を備えた触媒担体に触媒成分を担体することにより構成される触媒が、揮発性有機化合物(VOC)分解用触媒として優れた性質を有することが明らかとなった。
【0047】
また、図3によれば、製造番号5の触媒担体を使用した実施例5の触媒(B5)、製造番号3の触媒担体を使用した実施例3の触媒(B3)が220℃付近からの初期活性が80%程度であり、240℃以上の温度における触媒活性がほぼ100%であることが判明した。すなわち、図2から明瞭に理解されるように、白金触媒成分の担持条件の担持時間を5.0分(SET「B」)の場合であっても、図2と同様に触媒担体として、製造番号3、5及び6の担体を採択すると、220℃付近における初期活性及び240℃におけるほぼ100%の触媒活性を有する触媒を製造できることが明らかとなった。
【0048】
具体的には、アルミニウム粉末の粒径が、約3μm〜5μm程度であり、このアルミニウム粒子から構成される焼結粒子の片面厚みが、約30μm〜80μmである触媒担体を使用することが好ましいことが判明した。ここで、図4(製造番号3)、図5(製造番号5)、図6(製造番号6)に本発明の触媒担体、触媒及び焼成後の触媒担体のSEM拡大写真を示す。アルミニウム多孔質体の形態を図4〜図6に示す。また、本発明の触媒担体を製造するに際して、アルカリ性及びシンデリングによるアルミニウム多孔質体への影響はないことも確認された。
【0049】
<触媒成分の担持時間の検討>
次に、触媒成分の担持時間の相違による各触媒の比較を行った。具体的には、製造番号3の触媒担体を使用した実施例3及び実施例11(A3とB3)、製造番号5の触媒担体を使用した実施例5及び実施例13(A5とB13)、製造番号6の触媒担体を使用した実施例6及び実施例14(A6とB14)について検討した。結果を表4に示す。なお、触媒成分(白金)の担持量の測定は、ICP装置を使用して行った。さらに、各触媒について、触媒活性試験を対比した結果をそれぞれ図7(実施例3及び実施例11の比較)、図8(実施例5及び実施例13の比較)、図9(実施例6及び実施例14の比較)を示す。
【0050】
【表4】

【0051】
まず、触媒成分の担持時間が短い場合(担持時間5分)の方が、担持時間が長い場合(担持時間10分)と比較して、240℃付近において高い活性を示した。触媒成分の担持量については、0.14〜0.18(g/m2)であり、担持時間の差異に基づく担持量に変化がないことが明らかとなった。
【0052】
(実施例17〜実施例25)
製造番号3、製造番号5及び製造番号6の触媒担体をそれぞれ使用し、触媒成分の攪拌速度及び触媒成分(白金)溶液濃度を変化させた以外は実施例1と同様にして本発明の触媒を製造した。なお、触媒成分と担体の攪拌条件は、それぞれ25rpm(SET「C」)、50rpm(SET「D」)及び75rpm((SET「E」)の3つの条件を設定して行った。さらに、実施例1と同様にして上記触媒活性試験を行った。触媒成分の担持条件を表5に、触媒成分の担持量を表6に、各攪拌条件(SET「C」、SET「D」及びSET「E」とする。)の3つの条件における触媒活性試験の結果を図10、図11及び図12に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

表6によれば、触媒成分の担持量は、担持時間によらずほぼ一定の値を示した。また、図10〜図12の触媒活性試験の結果より、振盪機の強度を上げることによって、触媒活性が上昇することが明らかとなったが、中でも攪拌速度を50rpm(SET「D」)とした場合に最も高い活性を得ることができた。これは、本発明の触媒体に触媒成分である白金が十分に担持されて飽和状態に至っていることによるものであることが理解される。
【0055】
(実施例26〜実施例34)
触媒体に触媒成分を担持する際の触媒成分(白金)溶液の濃度(白金溶液濃度をそれぞれ1.5g/L、1.0g/L及び0.5g/Lとし、それぞれSET「D」、SET「G」及びSET「F」とする。)を変化させた以外は実施例1と同様にして本発明の触媒を製造した。なお、表7に触媒成分を担持する際の条件を、表8に3つの条件における触媒成分(白金)の担持量を、さらに触媒活性試験の結果を図13、図14及び図15に示す。
【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
図11〜図13によれば、製造番号3の触媒担体を使用した触媒においては、触媒成分(白金)溶液濃度が1.0g/Lのとき良い活性を示したが、製造番号5、製造番号6の触媒担体を使用した触媒においては触媒成分(白金)溶液濃度が1.0g/Lの場合であっても、1.5g/Lであってもほぼ同程度の触媒活性を示すことが明らかとなった。これは、触媒成分溶液の濃度が1.0g/Lの場合に触媒成分(白金)担持量が飽和となっていることが明らかとなった。
【0059】
(比較例1)
触媒体として、ニチコン株式会社のアルミ箔触媒を使用した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、触媒活性試験を行った。結果を図16に示す。なお、上記触媒の触媒成分(白金)担持量は、0.20g/m2である。
【0060】
図14から明らかなように、本発明の触媒担体を使用した触媒は、220℃付近では、95%以上、240℃付近では、99%に近いトルエン転化率を示した。これは、本発明の触媒体を使用することによって、触媒成分とトルエン等の揮発性有機化合物との接触性が良くなり、220℃以下の低温においても反応律速が起こっているものと解される。
【0061】
従来のアルミニウム平面のエッチング処理は、アルミニウム表面内部に凹凸を形成し、その凹凸表面を陽極酸化処理と多孔質化処理をすることで見かけ表面積を増大させる方式である。この場合は、反応速度が遅く、反応律速になる反応系では反応速度の増大につながるが、燃焼反応のように反応速度が速い場合には、陽極酸化皮膜上部の流れにおける反応物質の拡散が律速になるため、反応物質濃度が低くなる高い転化率域では反応が頭打ちになる。本発明では、アルミニウム粉末を焼結させることで、表面での流体の乱流状態を形成させ、拡散を促進する効果を狙っている。さらに、アルニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層に触媒を担持しているため、反応流体と触媒との接触がエッチング処理による触媒より良好に行われている。これは上記図14の実施例おける高温での高転化率における活性の比較からも示されている。
【0062】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、揮発性有機化合物(VOC)、脱臭、自動車排気ガス、焼却燃焼ガス等の有毒ガス
毒ガスを分解する環境浄化装置の実用化及び普及に貢献することができるものがあり、環境技術分野の発展に大きく寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
なお、本件特許出願人は、本件発明に関連する文献公知発明が記載された刊行物として、以下の技術文献を開示する。
【特許文献1】特開2007−237090号公報
【特許文献2】特開2008−126151号公報
【特許文献3】特開2002−301381号公報
【特許文献4】特開2005−325756号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム焼結粒子から形成されるアルミニウム多孔質体と、前記アルミニウム多孔質体をベーマイト処理することにより形成されるベーマイト層と、を備えたことを特徴とする有毒ガス分解用触媒担体。
【請求項2】
陽極酸化処理することにより、前記多孔質体と前記ベーマイト層間に形成される酸化アルミニウム層を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有毒ガス分解用触媒担体。
【請求項3】
前記アルミニウム多孔質体の厚みが、30μm〜100μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有毒ガス分解用触媒担体。
【請求項4】
前記アルミニウム焼結粒子は、平均粒径が1.0μm〜10μmのアルミニウム粉末を焼結したものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有毒ガス分解用触媒担体。
【請求項5】
前記ベーマイト層及び/又は酸化アルミニウム層に、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、錫からなる群より選ばれる少なくとも1以上の元素を触媒成分として担持したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有毒ガス分解用触媒。
【請求項6】
前記触媒成分が、白金であることを特徴とする請求項5に記載の有毒ガス分解用触媒

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−214366(P2010−214366A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51064(P2010−51064)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】