説明

有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法

【課題】有益な作用物質を拡張式医療器具に分配する方法の改善に関する。
【解決手段】充填システム200は、マンドレル230上に拡張式医療器具232を配置し、該医療器具は、複数の開口を有する円筒形の器具を形成し、該医療器具に有益な作用物質を前記複数の開口に分配ステップとを含む。更に、ステント232に複数の穴を設けるステップと、有益な作用物質を圧電マイクロジェットによって複数の穴に分配する装置210を含む。また、複数の開口の位置を特定して識別するように構成される監視システム220と、医療器具の開口への作用物質の分配を制御する中央処理装置270とを備え、医療器具の開口それぞれに分配される作用物質の滴の量および場所は、監視システムから得られる中央処理装置ベースの情報によって決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、薬剤などの有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法に関し、より詳細には、本発明は、有益な作用物質をステントなどの拡張式医療器具に分配する方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2003年5月28日に出願された米国特許出願第10/447,587号の一部継続出願であり、当該出願はその全文が参照により本明細書に援用される。本出願はまた、2002年9月20日に出願された米国仮特許出願第60/412,489号に対する優先権を主張し、当該出願はその全文が参照により本明細書に援用される。
【0003】
[関連技術の説明]
埋め込み式医療器具は、薬剤などの有益な作用物質を体内の器官または組織に、制御された送出速度で長期間にわたって送出するために用いられることが多い。これらの器具は、作用物質を体内の様々な系に送出して、様々な治療を提供してもよい。
【0004】
有益な作用物質の局所送出に用いられてきた多くの埋め込み式医療器具の1つは、冠動脈ステントである。冠動脈ステントは、通常、経皮的に導入し、所望の場所に配置するまで経腔的に移送する。これらの器具は、次に、器具の内部に配置したマンドレルまたはバルーンを拡張するなど機械的に拡張するか、体内で起動すると保存していたエネルギーを解放することにより、自分で拡張する。内腔の中で拡張すると、ステントと呼ばれるこれらの器具は、体組織内に封入され、永久的なインプラントとなる。
【0005】
公知のステントの設計には、モノフィラメント・ワイヤのコイル・ステント(米国特許第4,969,458号)、溶接金属ケージ(米国特許第4,733,665号および第4,776,337号)、および最もよく知られている円周に軸方向のスロットが形成された薄肉金属シリンダ(米国特許第4,733,665号、第4,739,762号、および第4,776,337号)がある。ステントに使用するのに知られている構造材料は、ポリマー、有機織物および生分解性金属、例えばステンレス鋼、金、銀、タンタル、チタン、およびニチノール(Nitinol)などの形状記憶合金を含む。
【0006】
ステントベースの有益な作用物質の局所送出によって対処することができる多くの問題の中でも、最も重要な問題の1つは再狭窄である。再狭窄は、血管形成術およびステントの埋め込みなどの血管介入の後に生じる可能性がある主な合併症である。簡単に定義すると、再狭窄は、細胞外マトリックスの沈着、新生内膜過形成、および血管平滑筋細胞の増殖によって血管内腔直径を縮小させ、最終的には内腔を再び狭め、さらには再閉塞させる場合がある、創傷治癒プロセスである。向上した外科技術、器具、および薬学的作用物質の導入にも関わらず、報告されている全再狭窄率は依然として、血管形術後6〜12カ月以内で25%〜50%の範囲である。この症状を治療するためには、さらなる血管再生術が必要となることが多く、それにより患者が受ける外傷および危険性が増す。
【0007】
再狭窄の問題に対処するために開発中である技法の1つは、ステント上に種々の有益な作用物質の表面コーティングを用いることである。例えば、米国特許第5,716,981号は、ポリマー担体およびパクリタキセル(癌性腫瘍の治療に一般に用いられる既知の化合物)を含む組成物で表面コーティングされたステントを開示している。当該特許は、噴霧および浸漬などのステント表面のコーティング方法と、コーティング自体の所望の特徴とを詳細に説明している。当該特許は、「ステントを滑らかかつ均一にコーティングし、」「抗血管新生因子の均一かつ予測可能な長期放出を提供する」はずである。しかしながら、表面コーティングは、有益な作用物質の放出の動力学を実際にはほとんど制御することができない。これらのコーティングは必然的に非常に薄く、通常は5〜8ミクロンの深さである。これと比較して、ステントの表面積は非常に大きいため、有益な作用物質の総容量を周囲組織に放出する拡散経路は非常に短い。
【0008】
表面コーティングの厚さを増加させることには、薬剤放出を制御する能力および薬剤充填量を増加させる能力を含む薬剤放出の動力学を改善するという有益な効果がある。しかしながら、コーティングの厚さを増加させることにより、ステント壁の厚さ全体が増加する。これは、埋め込み中の血管壁への外傷の増大、埋め込み後の内腔の流れ断面積の縮小、およびコーティングが拡張および埋め込み中の機械的故障または損傷の影響をさらに受けやすくなることを含む、複数の理由から望ましくない。コーティングの厚さは、有益な作用物質の放出の動力学に影響を及ぼす幾つかの要因のうちの1つであるため、厚さを制限することにより、達成することができる放出の速度、薬剤送出の持続時間などの範囲が制限される。
【0009】
放出プロファイルが最適ではないことに加えて、表面コーティングされたステントにはさらなる問題がある。器具のコーティングに用いられることが多い固定されたマトリックスポリマー担体は通常、コーティング中に有益な作用物質の約30%以上を永久に保持する。これらの有益な作用物質は細胞障害性が非常に高いことが多いため、慢性炎症、術後血栓症(late thrombosis)、および血管壁の治癒の遅れまたは不完全などの亜急性または慢性の問題が生じ得る。さらに、担体ポリマー自体は、血管壁の組織に対して高炎症性であることが多い。他方、ステント表面上で生分解性ポリマー担体を使用すると、ポリマー担体が分解した後にステントと血管壁の組織との間に「事実上の空間」すなわち空隙が生じる可能性があり、この空隙は、ステントと隣接組織とを差動運動させる。その結果生じる問題としては、微小磨耗および炎症、ステントのずれ、および血管壁の再内皮化の不全が挙げられる。
【0010】
別の重大な問題は、ステントを拡張すると、その上のポリマーコーティングに応力が加わることにより、コーティングが塑性変形し、さらには断裂する可能性があり、したがってこれが薬剤放出の動力学に影響を及ぼすかまたは他の望ましくない影響を及ぼす可能性があることである。さらに、アテローム硬化症の血管においてこのようなコーティングステントを拡張させると、ポリマーコーティングに円周方向の剪断力が加わり、それによりコーティングがその下のステント表面から分離され得る。このような分離も同様に、コーティング断片の塞栓形成を含む望ましくない影響を及ぼして、血管を閉塞させる可能性がある。
【0011】
さらに、水、他の化合物、または薬剤を分解する身体の状態に対する薬剤の感受性により、表面コーティングを用いて送出することが現時点では不可能な薬剤がある。例えば、一部の薬剤は、一定の期間水に曝されると活性が実質的に全て失われる。所望の治療時間が水中での薬剤の半減期よりも実質的に長い場合、その薬剤は既知のコーティングによって送出されることができない。タンパク質またはペプチド系の治療薬などの薬剤には、酵素、pHの変化、または他の環境条件に曝されると活性を失うものがある。体内の化合物または状態に敏感なこれらの薬剤は、表面コーティングを用いて送達されることができない場合が多い。
【0012】
したがって、薬剤などの作用物質を患者に送出するために、有益な作用物質をステントなどの拡張式医療器具に充填する装置および方法を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,969,458号
【特許文献2】米国特許第4,733,665号
【特許文献3】米国特許第4,776,337号
【特許文献4】米国特許第4,739,762号
【特許文献5】米国特許第5,716,981号
【0014】
[発明の概要]
本発明は、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法に関する。
【0015】
本発明の一態様によれば、有益な作用物質を拡張式医療器具に分配する方法は、拡張式医療器具をマンドレル上に配置するステップであって、医療器具は、複数の開口を有する円筒形の器具を形成する、配置するステップと、有益な作用物質を複数の開口の少なくとも一部に分配するステップとを含む。
【0016】
本発明の別の態様によれば、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法は、有益な作用物質をディスペンサを通して拡張式医療器具の第1の開口に分配するステップと、ディスペンサと拡張式医療器具とを相対移動させるステップであって、それにより、ディスペンサは、拡張式医療器具の第1の開口との整列状態から移動して、拡張式医療器具の第2の開口と整列する、相対移動させるステップと、有益な作用物質を拡張式医療器具の第2の開口に分配するステップとを含む。
【0017】
本発明のさらなる態様によれば、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する装置は、マンドレルと、複数の開口を有し、マンドレル上に取り付けられる拡張式医療器具と、有益な作用物質を拡張式医療器具の複数の開口に分配するように構成されるディスペンサとを含む。
【0018】
本発明のさらなる態様によれば、有益な作用物質をステントに充填する方法は、ステントに複数の穴を設けるステップと、有益な作用物質を圧電マイクロジェットによって複数の穴に分配するステップとを含む。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、有益な作用物質を医療器具に充填する装置は、有益な作用物質を医療器具の複数の開口に分配するように構成されるディスペンサと、複数の開口の位置を特定して識別するように構成される監視システムと、医療器具の開口への有益な作用物質の分配を制御する中央処理装置とを備え、医療器具の開口それぞれに分配される有益な作用物質の滴の量および場所は、監視システムから得られる中央処理装置ベースの情報によって決定される。
【0020】
本発明の別の態様によれば、医療器具の複数の開口への有益な作用物質の送出を制御するシステムは、医療器具をマッピングして、医療器具の複数の開口の実際の位置を得る監視システムと、医療器具の複数の開口の実際の位置を製造仕様書から予測される位置と比較する中央処理装置と、流体の有益な作用物質を複数の開口に分配するディスペンサとを含む。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、開口への有益な作用物質の送出を制御するシステムは、複数の拡張式医療器具を有するマンドレルと、有益な作用物質の第1の層および第2の層を拡張式医療器具の複数の開口に分配するように構成されるディスペンサと、拡張式医療器具の開口への有益な作用物質の分配を制御する中央処理装置とを含む。
【0022】
本発明の別の態様によれば、マンドレルからステントを取り外す方法は、マンドレルの少なくとも一部に空気を注入して、マンドレルを膨張させ、ステントを拡張させることによって、ステントを半径方向に拡張させるステップと、マンドレルを収縮させるステップと、拡張したステントをマンドレルから摺動させて外すステップとを含む。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、有益な作用物質を医療器具に充填する方法は、医療器具に複数の穴を設けるステップと、ディスペンサの一部を振動させて複数の小滴を形成することによって、有益な作用物質をディスペンサを通して複数の穴に分配するステップと、振動のパラメータを制御することによって、小滴のサイズを制御するステップとを含む。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、有益な作用物質を医療器具に充填する方法は、治療薬を供給すべき医療器具を設けるステップと、治療薬および揮発性溶剤を含む有益な作用物質を収容したディスペンサを設けるステップと、有益な作用物質の小滴をディスペンサを用いて医療器具に送出するステップと、ディスペンサの出口オリフィスの周りに揮発した溶剤のクラウド(雲状物)を形成することによって、小滴の送出中に揮発性溶剤の蒸発を阻止するステップとを含む。
【0025】
本発明のさらに別の態様によれば、有益な作用物質を医療器具に充填するシステムは、医療器具を支持するマンドレルと、ディスペンサの一部を振動させることによって、有益な作用物質を医療器具の複数の穴に分配するディスペンサと、振動のパラメータを制御することによって、ディスペンサからの有益な作用物質の小滴のサイズを制御する中央処理装置とを含む。
【0026】
次に、添付図面に示す好ましい実施形態に関して、本発明をさらに詳細に説明する。同様の要素は同様の参照番号を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】拡張式ステントの形態の治療薬送出器具の斜視図である。
【図2】開口に層状に収容される有益な作用物質を有する治療薬送出器具の一部の断面図である。
【図3】有益な作用物質の送出用の圧電マイクロジェットディスペンサの側面図である。
【図4】マンドレル上の拡張式医療器具および圧電マイクロジェットディスペンサの断面図である。
【図5】有益な作用物質を拡張式医療器具に充填するシステムの斜視図である。
【図6】図5のシステムとともに用いる軸受の斜視図である。
【図7】拡張式医療器具への有益な作用物質の送出用の音響ディスペンサの側部断面図である。
【図8】代替の音響ディスペンサの槽の側部断面図である。
【図9】代替の圧電ディスペンサシステムの側部断面図である。
【0028】
[発明の詳細な説明]
本発明は、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填する方法に関する。より詳細には、本発明は、有益な作用物質をステントに充填する方法に関する。
【0029】
まず、本明細書で用いられる以下の用語は以下の意味を有するものとする。
【0030】
用語「有益な作用物質」は、本明細書で用いる場合、最大限に広義に解釈されることが意図され、任意の治療薬または薬剤、ならびにバリア層、担体層、治療層、または保護層などの不活性作用物質を含むように用いられる。
【0031】
用語「薬剤」および「治療薬」は、生物の身体管路に送出されて、所望の通例は有益な効果をもたらす任意の治療活性物質を指すように交換可能に用いられる。本発明は、特に抗腫瘍薬、血管新生因子、免疫抑制薬、抗炎症薬、抗増殖薬(抗再狭窄薬)、例えばパクリタキセルおよびラパマイシンなど、および抗トロンビン薬、例えばヘパリンなどの送出に非常に適している。
【0032】
用語「マトリックス」または「生体適合性マトリックス」は、通常、被検体に埋め込まれた際に、マトリックスの拒絶を引き起こすのに十分な有害反応を誘導しない媒体または材料を指すために交換可能に用いられる。マトリックスは通常、治療反応自体はもたらさないが、本明細書で定義される治療薬、治療薬、活性化剤、または失活剤を含有するかまたは取り囲むことができる。マトリックスは、単に支持、構造的完全性、または構造的バリアを与えることができる媒体でもある。マトリックスは、ポリマー性、非ポリマー性、疎水性、親水性、親油性、両親媒性などであり得る。
【0033】
用語「生体吸収性」は、本明細書で定義する場合、生理学的環境と相互作用すると化学的または物理的プロセスによって分解され得るマトリックスを指す。生体吸収性マトリックスは、数分から数年、好ましくは1年未満の期間にわたって代謝可能または排出可能な構成要素に分解されるが、その期間中にいかなる必要な構造的完全性も維持する。
【0034】
用語「ポリマー」は、モノマーと呼ばれる2つ以上の反復単位の化学結合から形成される分子を指す。したがって、用語「ポリマー」には、たとえば、ダイマー、トリマー、オリゴマーが含まれ得る。ポリマーは、合成、天然、または半合成であり得る。好ましい形態では、用語「ポリマー」は、通常は約3,000よりも大きく、好ましくは約10,000よりも大きく、約10,000,000よりも小さい、好ましくは約1,000,000よりも小さい、より好ましくは約200,000よりも小さいMを有する分子を指す。
【0035】
用語「開口」は、任意の形状の穴を指し、貫通開口および窪みの両方を含む。
【0036】
穴を有する埋め込み式医療装置
図1は、大きな非変形支柱12およびリンク14を有するステント構造の形態の、本発明による医療器具10を示し、これは、支柱またはリンクの、または器具全体の機械的特性を損なうことなく、開口(すなわち穴)20を含むことができる。非変形支柱12およびリンク14は、米国特許第6,241,762号において詳述されている延性蝶番を用いることにより得ることができ、当該特許はその全文が参照により本明細書に援用される。穴20は、種々の有益な作用物質を器具の埋め込み部位に送出するための、大きな保護槽としての役割を果たし得る。
【0037】
図1に示すように、開口20は、事実上円形22、矩形24、またはD形26であり、医療器具10の幅全体に伸びる円筒形、矩形、またはD形の穴を形成することができる。開口20は、本発明から逸脱することなく他の形状であってもよいことが理解され得る。
【0038】
開口20を用いて送出することができる有益な作用物質の容量は、同じステント/血管壁カバー率を有するステントを覆う5ミクロンコーティングの容量の約3〜10倍である。このはるかに大きい有益な作用物質の容量により、幾つかの利点が得られる。より大きい容量を用いて、それぞれが個別の放出プロファイルを有する複数の薬剤の組み合わせを送出し、効果を向上させることができる。また、大きい容量を用いるほど、あまり強力でない薬剤を大量に供給し、内皮層の治癒の遅れなど、より強力な薬剤による望ましくない副作用のない臨床効果を得ることができる。
【0039】
図2は、1つまたは複数の有益な作用物質が開口20に層状に充填されている、医療器具10の断面図を示す。このような層および層構成を形成する幾つかの方法の例は、2001年9月7日に出願された米国特許出願第09/948,989号に記載されており、当該出願はその全文が参照により本明細書に援用される。層は個別の層として図示されているが、送出時に混ざり合って、複数の治療薬の濃度勾配を有するが層間にはっきりとした境界のない有益な作用物質の充填物(inlay)となる。
【0040】
一例によれば、開口20の全深は約100〜約140ミクロン、通常は125ミクロンであり、通常の総厚は約2〜約50ミクロン、好ましくは約12ミクロンである。したがって、通常の各層はそれぞれ、表面コーティングステントに施される通常のコーティングの約2倍の厚さである。通常の開口1つには、このような層が少なくとも2層、好ましくは約10〜12層あり、有益な作用物質の総厚は通常の表面コーティングの約25〜28倍である。本発明の好ましい一実施形態によれば、各開口は、少なくとも5×10−6平方インチ、好ましくは約7×10−6平方インチの面積を有する。通常、開口は有益な作用物質を約50%〜75%充填されている。
【0041】
各層は個別に形成されるため、個々の化学組成物および薬動力学的特性を各層に与えることができる。このような層の多くの有用な構成を形成することができ、その幾つかは以下で説明される。各層は、1つまたは複数の作用物質を層ごとに同じかまたは異なる比率で含むことができる。層は、中実であってもよく、多孔性であってもよく、あるいは他の薬剤または賦形剤が充填されていてもよい。上述のように、層は個別に入れられるが、混ざり合って層間に境界のない充填物を形成することができる。
【0042】
図2に示すように、開口20には有益な作用物質が充填される。有益な作用物質は、バリア層40、治療層30、およびキャップ層50を含む。
【0043】
あるいは、種々の層が、種々の治療薬から成ることにより、異なる時点で異なる治療薬を放出する能力を得ることができる。有益な作用物質の層が複数あることにより、送出プロファイルを種々の用途に合わせる能力が得られる。これにより、本発明による医療器具を用いて、種々の有益な作用物質を体内の様々な場所に送出することができる。
【0044】
キャップ層50の形態の保護層が、医療器具の組織接触面に設けられる。キャップ層50は、次の層の生分解を阻止するかまたは遅滞させることができ、かつ/または、医療器具を体内の所望の場所に送達させる期間に、その方向への有益な作用物質の拡散を阻止するかまたは遅滞させる。医療器具10が内腔に埋め込まれるステントである場合、バリア層40は、内腔の内側に向いた開口20の側部に配置される。バリア層40は、治療薬30が内腔内に入り、内腔組織に送出されずに運び去られてしまうことを防止する。
【0045】
これらの医療器具に組み込まれる治療薬の通常の配合物は、当業者には既知である。
【0046】
埋め込み式医療器具の使用
本発明は、ステントの形態の医療器具に関して説明したが、本発明の医療器具は、身体ならびに他の器官および組織への薬剤の部位特異的かつ徐放性の送出に有用な他の形態の医療器具であってもよい。薬剤は、様々な療法のために冠状血管および末梢血管を含む血管系に、および体内の他の管腔に送出することができる。薬剤は、内腔直径を拡大するか、閉塞を形成するか、または他の理由で薬剤を送出することができる。
【0047】
本明細書で説明する医療器具およびステントは、特に経皮経管冠動脈形成術および管内ステント留置術の後の、再狭窄の改善の予防に有用である。抗再狭窄薬の徐放すなわち持続放出に加えて、抗炎症薬などの他の作用物質を、器具内の複数の穴に含まれる多層に組み込むことができる。これにより、ステント留置術後の極めて特定的な時点で生じることが知られている、ステント留置術に通常関連する任意の合併症の部位特異的治療または予防が可能になる。
【0048】
有益な作用物質を医療器具に充填する方法およびシステム
図3は、有益な作用物質を医療器具の開口に分配するために用いられる圧電マイクロジェットディスペンサ100を示す。ディスペンサ100は、流体出口またはオリフィス102と、流体入口104と、電気ケーブル106とを有する毛管108を有する。圧電ディスペンサ100は、オリフィス102を通して流体の小滴を分配する圧電結晶110をハウジング112内に含むことが好ましい。結晶110は、毛管108の一部を囲み、液晶を振動させる電荷を受け取る。液晶は、内側に振動すると、管108の流体出口102から微量の流体を押し出し、医療器具の開口20に充填する。さらに、液晶は、外側に振動すると、入口104に接続された流体槽から管108にさらなる流体を引き込み、医療器具の開口に分配されている流体と入れ替える。
【0049】
図3に示す一実施形態では、マイクロジェットディスペンサ100は、ガラス毛管108に結合された環状の圧電(PZT)アクチュエータ110を含む。ガラス毛管108は、一端が流体供給源(図示せず)に接続され、他端には、通常は約0.5〜約150ミクロンの範囲の、より好ましくは約30〜約60ミクロンの範囲のオリフィス102を有する。PZTアクチュエータに電圧が印加されると、毛管ガラス108の断面積が増減して、ガラス毛管108に封入された流体の圧力を変化させる。これらの圧力変化は、オリフィス102に向かってガラス毛管108内を伝播する。オリフィス102の断面積(音響インピーダンス)の突然の変化が小滴を形成させる。この小滴生成モードは、一般にドロップオンデマンド(DOD)と呼ばれる。
【0050】
動作の際には、マイクロジェットディスペンサ100は、流体の粘度よび接触角に応じて、流体入口104において正圧または負圧を必要とし得る。通常は、流体入口104に圧力を供給する方法は2つある。第1に、流体入口104における圧力は、流体供給槽の位置決めに応じて正または負の水頭によって供給され得る。例えば、流体槽がディスペンサ100のわずか数ミリメートル上に取り付けられる場合、一定の正圧が供給される。しかしながら、流体槽がディスペンサ100の数ミリメートル下に取り付けられる場合、オリフィス102は負圧を得る。
【0051】
あるいは、入口104における流体の圧力は、既存の圧縮空気または真空源を用いて調節することができる。例えば、流体源とディスペンサ100との間に圧力真空調節器を挿入することにより、ディスペンサ100に定圧流を供給するように圧力を調整することができる。
【0052】
さらに、有益な作用物質を含む広範囲の流体をディスペンサ100を通して分配することができる。ディスペンサ100により送出される流体の粘度は、約40センチポアズを超えないことが好ましい。ディスペンサ100の小滴の体積は、流体、オリフィス102の直径、およびアクチュエータ駆動パラメータ(電圧およびタイミング)の関数であり、通常は一滴当たり約50ピコリットル〜約200ピコリットルの範囲である。連続的な小滴発生が望まれる場合、流体を加圧して正弦波信号をアクチュエータに印加し、流体の連続ジェットを行わせることができる。分配される有益な作用物質に応じて、各小滴はむしろフィラメントのように見える場合がある。
【0053】
本発明から逸脱することなく、他の流体分配デバイスを用いることができることが理解され得る。一実施形態では、ディスペンサは、MicroFab Technologies, Inc.(Plano, Texas)により製造される圧電マイクロジェットデバイスである。ディスペンサの他の例は、図7〜図9に関して以下で説明する。
【0054】
電気ケーブル106は、パルス電気信号を供給するために関連するドライブエレクトロニクス(図示せず)に接続されることが好ましい。電気ケーブル106は、結晶を振動させることによってディスペンサ100による流体の分配を制御する電気信号を供給する。
【0055】
図4は、圧電マイクロジェットディスペンサ100から有益な作用物質の小滴120を受け取るステント140の形態の、拡張式医療器具を示す。ステント140は、マンドレル160に取り付けられることが好ましい。ステント140は、支柱またはリンク要素の、または器具全体の機械的特性を損なうことなく複数の開口142を含む、大きな非変形支柱およびリンク(図1に示す)を有するように設計することができる。開口142は、種々の有益な作用物質を器具の埋め込み部位に送出するための、大きな保護槽としての役割を果たす。開口142は、事実上円形、矩形、またはD形であり、ステント140の幅全体に延びる円形、矩形、またはD形の穴を形成することができる。さらに、ステント140の厚さ未満の深さを有する開口142を用いてもよい。本発明から逸脱することなく、他の形状の穴142を用いることができることが理解され得る。
【0056】
穴142の容積は、穴142の形状およびサイズに応じて変わる。例えば、幅が0.1520mm(0.006インチ)で高さが0.1270mm(0.005インチ)の矩形開口142は、約2.22ナノリットルの容積を有する。一方、半径が0.0699mm(0.00275インチ)の円形開口は、約1.87ナノリットルの容積を有する。Dの直線部分に沿った幅が0.1520mm(0.006インチ)のD形開口は、約2.68ナノリットルの容積を有する。一例による開口は、深さが約0.1346mm(0.0053インチ)であり、レーザ切断されるためわずかに円錐形である。
【0057】
延性蝶番を含む組織支持器具の構成を図1に示したが、有益な作用物質は、既知のステントの多くを含む様々な構造を有するステントの開口に収容することができることが理解されよう。
【0058】
マンドレル160は、弾性またはゴム状材料から成る外被164に包まれたワイヤ部材162を含み得る。ワイヤ部材162は、円形の断面を有する金属糸またはワイヤから形成することができる。金属糸またはワイヤは、金属糸またはワイヤ、例えばニチノール、ステンレス鋼、タングステン、ニッケル、または同様の特徴および特性を有する他の金属の群から選択されることが好ましい。
【0059】
一例では、ワイヤ部材162は、外径が約3mm(0.118インチ)で全長が約17mm(0.669インチ)の円筒形または埋め込み式管状器具とともに用いる場合、約0.889mm(0.035インチ)〜約0.991mm(0.039インチ)の外径を有する。ワイヤ部材162の外径は、拡張式医療器具140のサイズおよび形状に応じて変わることが理解され得る。
【0060】
外被164のゴム状材料の例としては、シリコーン、ポリマー材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチルビニルアセテート(EVA)、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ならびにそれらの混合物およびコポリマーが挙げられる。しかしながら、当業者に既知のゴム状材料を含む他の材料も、外被164に対して実施することができることが理解され得る。
【0061】
一実施形態では、ワイヤ部材162は、内径が約0.635mm(0.25インチ)の管状外被164に包まれる。外被164は、管状部材を膨張させて、ワイヤ部材162の外径よりも大きいサイズに増大させることにより、ワイヤ部材162の上に取り付けることができる。管状部材は、当業者に既知の空気圧デバイスを用いて膨張させることができる。ワイヤ部材162は、シリコン製の外被164をワイヤ部材162上に遊嵌する(floating)ことにより、外被164の内部に配置される。しかしながら、ワイヤ部材162は、当業者に既知の任意の方法によって、シリコンまたは他のゴム状材料製の外被に包まれることができることが理解され得る。
【0062】
直径が約3mm(0.118インチ)で長さが約17mm(0.669インチ)のステントを充填する一実施形態では、外径が0.939mm(0.037インチ)のワイヤ部材162が選択される。一例では、ワイヤ部材162の長さは約304.8mm(12インチ)である。外被164の内径は約0.635mm(0.025インチ)である。
【0063】
次に、拡張式医療器具すなわちステント140を、当業者に既知の任意の方法でマンドレル160上に被嵌(load)する。一実施形態では、ステント140およびマンドレル160を一定量の潤滑剤に浸漬して、ステント140およびマンドレル160を潤滑化する。次に、ステント140をマンドレル160上に被嵌する。ステント140およびマンドレル160を乾燥させると、ステント140がマンドレル160にほぼ確実に嵌まる。別法として、または乾燥に加えて、当業者に既知の方法によって、ステント140をマンドレル160上にクリンプしてもよい。クリンプすることにより、開口のマッピング中または充填中にステント140が移動または回転しないことが確実になる。
【0064】
図5は、有益な作用物質を拡張式医療器具に充填するシステム200を示す。システム200は、有益な作用物質を拡張式医療器具の開口に分配するディスペンサ210と、有益な作用物質の槽218と、少なくとも1つの監視システム220と、複数の拡張式医療器具232が取り付けられたマンドレル230とを含む。システム200はまた、回転するマンドレル230を支持する複数の軸受240と、拡張式医療器具232の円筒軸に沿ってマンドレル250を回転および並進させる手段と、モニタ260と、中央処理装置(CPU)270とを含む。
【0065】
ディスペンサ210は、有益な作用物質を医療器具232の開口に分配する圧電ディスペンサであることが好ましい。ディスペンサ210は、流体出口またはオリフィス212と、流体入口214と、電気ケーブル216とを有する。圧電ディスペンサ200はオリフィス212から流体の小滴を分配する。
【0066】
少なくとも1つの監視システム220を用いて、小滴の形成および医療器具232の複数の開口に対するディスペンサ210の位置決めが監視される。監視システム220は、電荷結合素子(CCD)カメラを含んでもよい。一実施形態では、充填プロセスのために少なくとも2つのCCDカメラが用いられる。第1のカメラは、マイクロジェットディスペンサ210の上に位置付けられ、医療器具232の充填を監視する。第1のカメラは、以下で説明するように、マンドレル230のマッピングにも用いられる。第2のカメラは、好ましくは、マイクロジェットディスペンサ210の側部に位置付けられ、側部から、すなわち直交する視点からマイクロジェットディスペンサ210を監視する。第2のカメラを用いて、有益な作用物質を医療器具232に充填する前に、ディスペンサの位置決め中にマイクロジェットディスペンサを可視化することが好ましい。しかしながら、監視システム220は、カメラ、顕微鏡、レーザ、マシンビジョンシステム、または当業者に既知の他のデバイスを含む任意の数の可視化システムを含むことができることが理解され得る。例えば、光線の屈折を用いて、ディスペンサからの小滴を計数することができる。モニタの総合倍率は、50〜100倍の範囲であるべきである。
【0067】
一実施形態では、PZTパルスを用いるLED同期ライト224がシステム200の照明を提供する。PZTパルスとLEDパルスとの間の遅延は調整可能であり、開発の種々の段階で小滴形成を取り込むことが可能である。監視システム220は、開口を充填するためのマンドレル230および医療器具232のマッピングにも用いられる。一実施形態では、LED同期ライト224を用いるのではなく、拡散蛍光照明システムを用いて照明が行われる。本発明から逸脱することなく、他の照明システムを用いることができることが理解され得る。
【0068】
上述のように、複数の拡張式医療器具232がマンドレル230に取り付けられる。例えば、長さが約12インチのマンドレルは、それぞれ長さが約17mmのステント約11個を受け入れることができる。各マンドレル230は、各マンドレルが適切に識別され、マッピングされ、続いて所望の仕様に合わせて充填されることを確実にするために、バーコード234でラベル付けされる。
【0069】
マンドレル230は複数の軸受240上に配置される。図6に示すように、軸受240の一例はV字形ノッチ242である。マンドレル230は、V字形ノッチ242内に配置され、クリップ244を用いて固定される。クリップ244はコイルばねであることが好ましいが、任意のタイプのクリップまたは固定手段を含む、V字形ノッチ内にマンドレルを固定する他の手段を用いてもよい。軸受240は、好ましくはマンドレルワイヤとは異なる、ステンレス鋼、銅、真鍮、または鉄などの金属材料から作ることができる。
【0070】
マンドレル230は、医療器具232の円筒軸に沿ってマンドレルを回転および並進させる手段250に接続される。マンドレルを回転および並進させる手段250は、当業者に既知のモータまたは他のシステムの任意のタイプのもの、またはそれらの組み合わせであることができる。
【0071】
一実施形態では、マンドレル250および医療器具232は、有益な作用物質を医療器具232の開口に充填するために、第1の位置から第2の位置に移動する。一代替実施形態では、システムはさらに、医療器具232の円筒軸に沿って第1の位置から第2の位置に分配システムを移動させる手段を含む。
【0072】
モニタ260を用いて、医療器具232への有益な作用物質の充填を監視することが好ましい。任意のタイプのモニタ、またはマッピングおよび充填プロセスを監視する他の手段を用いることができることが理解され得る。
【0073】
中央処理装置270(すなわちCPU)は、医療器具232への有益な作用物質の充填を制御する。CPU270は、有益な作用物質を分配するための医療器具232に関する情報を処理する。CPU270は、医療器具232の開口のサイズ、形状、および配置に関する製造仕様書を用いて最初にプログラムされる。キーボード272を用いて、CPU270のローディングを支援し、充填プロセスに関する情報を入力することが好ましい。
【0074】
医療器具232は、充填プロセス前にマンドレル230に取り付けられてマッピングされることが好ましい。マッピングプロセスにより、監視システムおよび関連の制御システムは、器具ごとに、またマンドレルへの器具の被嵌が不正確であることによってマンドレルごとにわずかに異なる可能性がある各開口の正確な場所を決定することができる。次に、各開口のこの正確な場所が、その特定のマンドレルに特有のマップとして保存される。マンドレル230のマッピングは、監視システムを用いて、マンドレル230に位置付けられた各医療器具232の開口のサイズ、形状、および配置を確かめることによって行われる。複数の医療器具232を含むマンドレル230がマッピングされると、マッピング結果が製造仕様書と比較され、有益な作用物質を医療器具232の各穴に正確に分配するようにディスペンサが調整される。
【0075】
一代替実施形態では、マンドレル230のマッピングは、1つの開口に関する開口の比較によって行われる。動作の際には、監視システムは医療器具の第1の開口をマッピングし、マッピング結果を製造仕様書と比較する。第1の開口が製造仕様書で指定されている位置にある場合、調整は必要ない。しかしながら、第1の開口が製造仕様書で指定されている位置にない場合、調整が記録され、分配プロセス中に調整が行われて、製造仕様書で指定されている位置と異なる位置が補正される。マッピングは、各医療器具232がマッピングされるまで医療器具の各開口で繰り返される。さらに、一実施形態では、或る開口がマッピングされて、その開口が製造仕様書に応じた位置にある場合、マッピングプロセスは、本発明から逸脱せずに、他のすべての開口でマッピングを続けるように設計されてもよく、または任意の数の開口をスキップするように設計されてもよい。
【0076】
マンドレルがマッピングされた後、医療器具232には、製造業者の仕様書およびマッピング結果からの調整に基づいて有益な作用物質が充填される。CPUは、各医療器具232を充填するためにプログラムされたデータを提供する。プログラムされたデータは、医療器具の設計コード、作成されたデータ、作成中のロット番号、マンドレル上の医療器具232の数、医療器具232の各開口の容積、医療器具232の開口に充填または分配される種々の有益な作用物質、層の数、各層の乾燥/ベーキング時間、および任意の他のデータを含む。
【0077】
一実施形態では、医療器具232は、少なくとも1つのバリア層と、有益な作用物質を有する少なくとも1つの治療層と、少なくとも1つのキャップ層とを含む、充填される有益な作用物質層を少なくとも10個有する。有益な作用物質層は、薬剤または治療薬の各溶液の濃度および強度、ポリマーの量、および溶剤の量が異なる層を含むことができる。
【0078】
動作の際には、充填プロセスが開始する前に、オペレータがマンドレルのバーコード234をCPU270に入力するか、または走査してCPU270に取り込む。最初の充填物は一般に、バリア層を形成するためのポリマーおよび溶剤の混合物を含む。各開口は、通常は約80%の容量まで充填され、次に、マンドレルがシステムから取り外されて、ベーキングのためにオーブンに入れられる。ベーキングプロセスにより、液体部分すなわち溶剤が開口から蒸発して、固体層が残る。マンドレルは通常、約55℃で約60±5分間ベーキングされる。エラーの防止を支援するために、CPUソフトウェアがマンドレルのバーコードを受け取り、最後の充填から少なくとも60分が経過するまで第2の層の充填を開始しない。次に、第2の層およびそれに続く層が、開口が所望の容量まで充填されるまで、第1の層と同様に充填される。槽218にも、槽内の溶液を識別するためにバーコードを付すことができる。
【0079】
監視システム220は、モニタ270を人間が監視することにより、または監視システムから受け取られてCPUに搬送されるデータにより、ディスペンサ210が有益な作用物質を開口に分配していることを確認して、医療器具232の開口への有益な作用物質の分配を確証することもできる。あるいは、光線の屈折を用いて、高速で分配される小滴を計数することができる。
【0080】
ディスペンサ100は、一度に数時間にわたって非常に安定して稼動するが、日ごとに乱れが生じる。また、波形がわずかに変化しただけでも滴サイズが変化する。したがって、ディスペンサ100の出力は、カップに既知の量の滴を噴射させてから、カップ内の薬剤の量を測定することによって、較正することができる。あるいは、ディスペンサ100から既知の容積のカップに噴射を行って、そのカップをちょうど満たすのに必要な滴の数を計数することができる。
【0081】
医療器具232の開口を充填する際に、マイクロジェットディスペンサ100は複数の小滴を開口に分配する。好ましい一実施形態では、ディスペンサは、約40ミクロンのマイクロジェットディスペンサによって1秒当たり3,000発分配することが可能である。しかしながら、小滴は、必要な充填量に応じて、穴当たり約8〜20発で分配することが好ましい。マイクロジェットディスペンサは、医療器具232の水平軸に沿って進むことにより、各穴(または所望の穴)を充填する。CPU270は、ディスペンサ100のオン・オフを切り替えて、医療器具の開口間に液体を実質的に分配することなく開口を充填する。ディスペンサが医療器具232の端部に到達すると、マンドレルを回転させる手段がマンドレルを回転させ、水平軸に沿った医療器具232の2度目の通過が行われる。一実施形態では、医療器具232は、直径が約3mmで長さが約17mmのステントであり、約6回の通過で充填することができる。医療器具232が充填されると、ディスペンサ210は次の医療器具232まで移動し、これが同様に充填される。
【0082】
CPU270は、充填プロセスに安全係数を組み込むことにより、マンドレルが正確に充填されることを保証する。マイクロジェットディスペンサを利用して開口を充填することにより、用いられる薬剤または治療薬の量は、噴霧または浸漬を含む従来の既知の方法を用いて医療器具232をコーティングするよりも実質的に少ないことも示されている。さらに、有益な作用物質のマイクロジェット供給は、作業者が曝される薬剤が他の既知の方法よりも実質的に少量であることにより、作業環境の改善をもたらす。
【0083】
システム200は、圧電マイクロジェットディスペンサ210に電力を供給する電源290も含む。
【0084】
医療器具232は、器具を拡張して、マンドレルから摺動させて外すことにより、マンドレルから取り外すことができる。一例では、ステントは、ワイヤ部材162の外径と外被の内径との間に一定量の空気を注入することにより、マンドレルから取り外すことができる。空気圧が、医療器具232の内径がマンドレルの外径よりも大きくなるように医療器具232を拡張させる。一実施形態では、マンドレルの周りに金型を配置して、ワイヤ部材162の外径と外被164の内径との間に空気圧を加える際の医療器具232の膨張を制限する。金型は、医療器具232がマンドレルからの取り外し中に損傷を受けないように、ステンレス鋼またはプラスチックで作ることができる。さらに、好ましい一実施形態では、医療器具232は、マンドレルから一度に4つ取り外すことができる。12インチのマンドレルは、約597個の開口を有する約11.3mm×17mmの医療器具を受け入れる。
【0085】
図7は、音響小滴噴出(acoustic droplet ejection)によって小滴を正確に送出するディスペンサ300の一実施形態を示す。ディスペンサ300は、交換可能な流体槽320と組み合わせた音響エネルギー変換器310を含む。ディスペンサ300は、槽320内の液体の表面から小滴の経路に配置された医療器具140の開口内に正確に、ナノリットルまたはピコリットルの小滴を放出する。
【0086】
ディスペンサ300は、変換器310からレンズを介して槽320内の流体の表面上に音響エネルギーを収束させることにより動作する。次に、流体は、サイズおよび飛翔経路が制御された小滴を噴出および放出する表面上に小山を形成する。音響エネルギーを収束させるシステムの一例は、米国特許第6,548,308号に記載されており、当該特許は参照により本明細書に援用される。医療器具140およびマンドレル164を移動させるか、またはディスペンサ300を移動させて、医療器具の開口への小滴の分配を正確に制御することができる。
【0087】
音響ディスペンサ300の使用の利点の中には、より粘度の高い流体を送出できること、および溶剤を含有する揮発性流体を送出できることが含まれる。例えば、ディスペンサ300によって送出される流体は、約40センチポアズを超える粘度を有することができる。より粘度の高い材料を送出できることにより、送出される流体中で用いる固形分含量をより多く、したがって用いる層をより少なくすることができる。ディスペンサ300を用いる場合の小滴の体積は、流体および変換器駆動パラメータの関数であり、小滴当たり約1ピコリットル〜約50ナノリットルの範囲であり得る。
【0088】
ディスペンサ300は、槽が自給式であり、部品の洗浄が必要ないため、分配される液体の入れ替えが簡単かつ迅速であるという利点も有する。さらに、薬剤を切り替える際に薬剤の損失が生じない。
【0089】
音響ディスペンサ300は、槽320の側壁から妨害されることなく、直線状の飛翔経路で小滴を送出する。流体小滴の飛翔経路が直線状であることにより、ディスペンサ300は医療器具から離れた場所で正確に動作し、可視化を向上させることができる。
【0090】
図8は、揮発性溶剤を含有する組成物を送出することができる音響ディスペンサの槽400の一代替実施形態を示す。槽400は、流体室420の上に蒸気室410を含む。蒸気室410は、液体表面に高濃度の溶剤蒸気を提供することにより、蒸発した溶剤蒸気を保持し、揮発性溶剤の急速な蒸発速度を低下させる。
【0091】
図9のディスペンサ500は、溶剤クラウド形成システムを用いて、図3の圧電ディスペンサなどのディスペンサ510を分配される流体で用いられるものと同じ溶剤のクラウドで囲み、溶剤の蒸発およびディスペンサ先端の詰まりを減らす。図9の例では、溶剤クラウドは、多孔性金属などの多孔性材料製のリング520を通して、補助溶剤源からの供給ライン530によって溶剤が送出されることにより形成される。多孔性材料リング520から蒸発する溶剤は、ディスペンサ先端の周りに溶剤のクラウドを直接形成する。ディスペンサ先端の周りに溶剤クラウドが形成されることにより、ディスペンサの先端付近の溶剤蒸気の濃度差が低減される。この差を縮めることにより、ディスペンサが溶剤の蒸発による詰まりを伴わずにアイドル状態でいることができる時間が長くなる。これによりプロセスのロバスト性が向上する。
【実施例】
【0092】
以下の実施例では、以下の略語は以下の意味を有する。略語が定義されていない場合は、一般に認められている意味を有するものとする。
DMSO=ジメチルスルホキシド
IV=固有粘度
PLGA=ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
複数の医療器具、好ましくはマンドレル1個につき11個の医療器具を、一連のマンドレル上に配置する。各マンドレルには、少なくとも医療器具のタイプ、医療器具の開口に充填される有益な作用物質の層、および各マンドレルに特定のアイデンティティを識別する固有の表示(indicia)でバーコードを付す。バーコード情報およびマッピング結果を、ステントの充填のためにCPUに記憶させる。
【0096】
ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)(Birmingham Polymers, Inc.)およびDMSOなどの適当な溶剤の第1の混合物を調製する。混合物を、ステントの穴に小滴により充填する。次に、ステントを好ましくは55℃の温度で約60分間ベーキングし、溶剤を蒸発させてバリア層を形成する。ポリマー溶液を開口に充填してから溶剤を蒸発させる同じ方法によって、第2の層を第1の層上に載せる。9個の個別の層を医療器具の開口に充填してバリア層を形成するまで、このプロセスを続ける。
【0097】
次に、パクリタキセル、PLGA、およびDMSOなどの適当な溶剤の、治療層を形成する第2の混合物を、バリア層の上から医療器具の開口に導入する。溶剤を蒸発させて、薬剤で充填された保護層を形成し、充填および蒸発手順を繰り返して、所望量のパクリタキセルが医療器具の開口に加えられるまで穴を充填する。
【0098】
次に、PLGAおよびDMSOの第3の混合物を治療薬の上から開口に導入して、キャップ層を形成する。溶剤を蒸発させて、キャップ層が医療器具に加えられるまで充填および蒸発手順を繰り返し、この実施形態では1個のキャップ層が加えられている。
【0099】
所望の溶液を有する複数層の有益な作用物質を供給するために、槽を交換して圧電マイクロジェットディスペンサを洗浄する。槽の交換およびディスペンサの洗浄(必要な場合)により、種々の有益な層が、正確な量の薬剤、溶剤、およびポリマーを含む所望の溶液を有することが確実になる。
【0100】
充填された医療器具を生体内に埋め込んだ後、PLGAポリマーが加水分解により分解し、パクリタキセルが放出される。
【0101】
本発明をその好ましい実施形態について詳細に述べてきたが、本発明から逸脱することなく種々の変更および改変ができ、同等品を使用できることが、当業者には明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具に該医療器具の第1の側から第2の側まで延びる複数の開口を設け、
前記医療器具の前記複数の開口の前記第1の側をシール部材でシールすることにより有益な作用物質が前記開口を通過することを防止し、
自動マイクロジェットディスペンサから送出される有益な作用物質を前記開口に少なくとも部分的に充填し、
前記有益な作用物質を実質的に凝固させ、
前記シール部材を前記複数の開口から取り外す
ことを特徴とする有益な作用物質を医療器具に充填する方法。
【請求項2】
前記シール部材はゴム状材料から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シール部材は、前記ゴム状材料から形成される外面を有するマンドレルであり、前記医療器具はステントである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の開口はレーザ切断によって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記医療器具は金属製の医療器具である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の開口はそれぞれ、少なくとも5×10−6平方インチの面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有益な作用物質は、薬剤およびポリマーマトリックスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記実質的に凝固させるステップは、前記有益な作用物質を乾燥させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記マイクロジェットディスペンサは圧電マイクロジェットディスペンサである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第1の位置から第2の位置に前記ディスペンサを移動させることにより、前記有益な作用物質を前記医療器具の前記複数の開口に充填する前記ディスペンサを移動させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
第1の位置から第2の位置に前記マンドレルを移動させることにより、前記有益な作用物質を前記医療器具の前記複数の開口に充填する前記マンドレルを移動させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記マンドレルを回転させることにより、前記有益な作用物質を前記複数の開口に充填することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の開口は種々の容積を有し、分配される前記有益な作用物質の量は、前記開口の前記サイズに基づいて調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
開口に以前に分配された有益な作用物質の量に基づいて、前記開口に分配される前記有益な作用物質の量を調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記医療器具は拡張式管腔内人工器官である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記医療器具はステントである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
分配前に溶剤中に前記有益な作用物質を溶解することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記有益な作用物質は薬剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
マトリックス材料を含むバリア層を前記複数の開口に充填することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
生分解性マトリックスを含むキャップ層を前記複数の開口に充填することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記医療器具および前記マンドレルを潤滑化すること、および前記円筒形の器具を前記マンドレル上で摺動させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記マンドレル上の前記医療器具をマッピングすることにより、前記開口の場所を含む前記医療器具の実際の仕様を得ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記マッピングはカメラにより行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記マッピングはマシンビジョンシステムにより行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記医療器具の前記マッピングからの複数の座標を中央処理装置に記憶させることをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記中央処理装置に、前記医療器具の製造仕様書からの複数の座標を供給することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記実際の仕様の前記複数の座標を、前記医療器具の前記製造仕様書からの前記複数の座標と比較することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
一連の調整に基づいて前記有益な作用物質の分配を調整することをさらに含み、前記一連の調整は、前記実際の仕様の前記複数の座標を前記製造仕様書からの前記複数の座標と比較することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記マンドレルを乾燥させることにより前記溶剤を蒸発させ、さらに別の有益な作用物質を前記複数の開口に分配することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
前記マンドレルをベーキングすることにより前記溶剤を蒸発させ、さらに別の有益な作用物質を前記複数の開口に分配することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
前記医療器具の前記複数の開口への前記有益な作用物質の分配を確認することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記確認するステップは屈折光線を用いて行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記確認するステップはカメラを用いて行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記マンドレルの前記ゴム状外面を膨張させることにより、前記円筒状の器具を前記マンドレルから取り外すことをさらに含む、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−88924(P2010−88924A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283145(P2009−283145)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【分割の表示】特願2004−538367(P2004−538367)の分割
【原出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(308021741)イノヴェイショナル・ホールディングズ・エルエルシー (6)
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIONAL HOLDINGS, LLC
【住所又は居所原語表記】One Johnson & Johnson Plaza, New Brunswick, New Jersey 08933, United States of America
【Fターム(参考)】