説明

木材の腐朽対策方法

【課題】軟弱地盤上に構造物や盛土を施工するに際し、その構造物の施工前に基礎として地盤面上に木材を打設又は設置するに際して、その木材を腐朽させない方法であって、薬品処理、熱処理、木材頭部の空気遮断加工などを行わず、且つ、木材設置時には地下水位より上位にあり作業容易であり、時間の経過により前記木材上部が全部地下水位以下に沈下する方法を提供する。
【解決手段】軟弱地盤の土質の圧密試験により作成される構造物による上載荷重Pとその地盤の間隙比eとの関係を求め、この図より想定される増加上載圧に相当する間隙比efを求め、想定される沈下量ΔHを求める。一方、地下水位ELwを測定し、木材上端部ELtは地下水位ELwよりΔH以内でELwより上位になるように木材の打設又設置を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路、鉄道、河川、宅地、グランド等の盛土や構造物などが施工される軟弱地盤に対する改良材に木材や丸太を鉛直方向に打設して用いる場合の地下水面以浅付近の腐朽対策に関する。また、その木材や丸太を軟弱地盤上に水平に設置する場合の腐朽対策に関する。さらに、軟弱地盤上の構造物基礎の支持杭や摩擦杭に木材や丸太を用いる時の杭頭部の腐朽対策に関する。
【背景技術】
【0002】
木材、丸太等の腐朽対策は、ほとんどが気中に対するもので、地盤中の木材、丸太の腐朽に対する研究は、あまり行われていない。
【0003】
気中に対する腐朽対策としては、235℃以上で数時間熱処理を行う方法、銅系保存剤、有機酸金属塩系保存剤、第四アンモニュウム塩系保存剤などの加圧注入する方法、表面処理保存剤による方法、さらに、エンジニアードウッドなどではフェノール樹脂注入する方法などがある。
【0004】
地盤中では地表部付近の地下水位以浅における腐朽が特に問題になり、以上の方法が応用されている。
【0005】
上述のように、熱処理によるもの以外は基本的には薬品処理によるものであり、いずれも物理的な対策ではない。薬品処理によるものでは、腐朽対策効果があるものほど毒性が高くなる傾向を持ち、多かれ少なかれ長期的な環境リスクに不安が持たれた。
【0006】
以上の問題点として、木材などを地中で用いる場合、薬品処理した木材などは、地中への保存剤の溶出といった新たな環境問題を起こす可能性が生じた。さらに、薬剤を表面処理して用いる場合は、木材打設時や施工時、又は乾燥などの環境によりキズや割れが生じた際に、腐朽対策としての機能を失う可能性があった。
【0007】
また、熱処理による方法は、腐朽対策に新たなエネルギーの消費が必要になり、環境対策として木材による地中打設を実施しようとする場合に不利となった。
地中で木材を用いて、その腐朽対策を行う場合、人工化学材料(特に、毒性の高いものはリスクが高い)などの溶出が長期間安定的に少なく、不安がない対策をとるべきであるので、そのためには、天然材料の使用や物理的な方法を行うことが望ましかった。
【0008】
木材の腐朽には、水、空気、温度、栄養の四条件が適切なことが必要であるが、地盤中で木材や丸太などを用いる場合には、空気が不足し腐朽が殆んど進行しない場合もあり、特に地下水位以下では空気がないので何十年以上も地中にあっても全く腐朽せず極めて健全な状態で発掘される場合が多い。
これを利用し、一般に地下水の浅い地盤で実施される軟弱地盤対策の地盤改良材、杭基礎や筏基礎としての木材を用いることが考えられた。
【0009】
この場合、その木材が、地下水位変動域以上の浅い付近に位置すれば、腐朽が進行する場合があると考えられた。そこで、特許文献1に示した木材の腐朽対策方法が考えられた。
【0010】
特許文献1においては、明細書段落[0028]以下及び図1−11に記載のように、埋没する木材杭頭部の周面で、その杭頭から埋没後に地下水位変動域Wの最低部より下に位置する箇所まで空気遮断材を塗布するなどを行って、被覆部を形成させている。或は、これに代えて杭頭部にキャップを被覆嵌合させてもよい。
しかしながら、多数の木材の加工作業が必要となり、作業時間の増加、空気遮断作用やキズの確認など余分の作業が施工コストを増やす問題点が考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−223379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の問題点に鑑みて成されたものであり、熱処理、薬品処理、或は木材の空気遮断材被覆処理などを行わず、木材設置時には、その木材上部が地盤表面又は地下水位より上位に位置するようにして、施工が容易なようにし、その後、時間経過により構造物や盛土の上載荷重により、その構造物又は盛土が圧密沈下することで木材全体が水に浸かるようにする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明の木材の腐朽防止方法は、構造物又は盛土が上載される軟弱地盤に対し、前記構造物又は盛土の上載前に木材を打設又は設置する方法において、前記軟弱地盤への木材の打設又は設置に際し、その木材上部が地下水位ELwより上位となるように配置し、前記構造物又は盛土の施工に際し、前記構造物又は盛土の載荷重により前記木材が時間経過と共に沈下することにより木材を前記地下水位ELwより下位に位置させることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明の木材の腐朽防止方法は、構造物又は盛土が上載される軟弱地盤に対し、前記構造物又は盛土の上載前に木材を打設又は設置する方法において、前記軟弱地盤の下部に、木材が到達しない余地領域の地盤厚さHrを設定する段階と、前記余地領域の土質に対する圧密試験などを行って、上載荷重Pの範囲と間隙比eとの関係を予め算出し、上載荷重Pと間隙比eとの前記関係に基いて、前記構造物又は盛土の上載荷重Pfに相当する間隙比efを算出する段階と、設計地下水位ELwを定める段階と、前記余地領域の地盤の厚さHrと、同領域の前記間隙比efに基いて前記上載荷重Pfによる軟弱地盤の沈下量ΔHを算出する段階と、前記打設される木材が軟弱地盤の地下水位ELwよりも上位に露出する露出部分の露出量Htが前記沈下量ΔHよりも小さくなるように木材を打設する(H<ΔH)段階と、を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の木材の腐朽防止方法であって、前記木材を軟弱地盤に対して鉛直方向に打設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木材に熱処理、薬品処理又は杭頭加工を行うことなく、容易にしかも環境的に極めて安全な方法であり、長期間安定的に腐朽対策を施す効果がある。
【0017】
また、施工時には、打設又は設置する木材の上部が地下水位より上位にあるのでその上での構造物施工作業が容易であると共に、その後の時間経過につれて構造物又は盛土の増加上載荷重により木材は地下水位以深に水侵し腐朽の発生が抑止される効果がある。
【0018】
また、木材の鉛直打設の場合は、木材の外周部に排水機能を付与させることで、その木材の沈下が早期に終了し、腐朽対策効果が早く得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の木材の腐朽防止方法による第一の実施例である。
【図2】本発明の木材の腐朽防止方法による第二の実施例である。
【図3】軟弱地盤土質の圧密試験の一実施例である。
【図4】本発明の木材の腐朽防止方法による第三の実施例である。
【図5】木材打設時におけるサンドマットなどにより施工が容易となる説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1,2は、いずれも軟弱地盤へ鉛直に打設された木材上に構造物を施工するときの木材腐朽防止方法の実施例を示す。
図1の第一実施例は、構造物としての建物などを、フローテング基盤上に構築するとして、木材杭の頭上に上載して施工する場合である。
図2の第二実施例は、構造物として道路盛土、鉄道盛土、河川堤防、宅地、グランドなどを施工する場合である。
【0021】
図1,2において、(a)は、上載荷重Pの構造物の施工初期(施工終了後の時間経過の初期)における構造物の位置を示す。(b)は、時間経過後の構造物、地盤面、木材の沈下量ΔHを示す。この間、元の地盤表面位置は沈下するが地下水位ELwは基本的には変化しない。
【0022】
図1及び図2において、Hは軟弱地盤全体の厚さ、Hrは、その軟弱地盤の最深部に木材が到達しない余地領域の地盤の厚さを示す。Lは木材の長さ、ELは木材の上端部杭頭の最初の位置、Hは、(EL―ELw)であり、木材の打設又は設置直後に地下水位より上位にある露出量である。Hは正の値であれば杭頭は地下水位面より上位にあり施工を容易にしている。
【0023】
施工後の時間経過により次第に沈下量ΔHに到達する。その時、ΔH>Hになるようにすることにより、杭頭又は木材上部は地下水位ELwより下位になり、木材は腐朽しない。
【0024】
時間経過によりΔH>Hとなる腐朽防止方法の手順を以下に示す。
先ず、軟弱地盤最深層の下部(固い地盤などがある)に、木材が到達しないように余地領域の地盤厚さHrを設定する。
【0025】
次に、余地領域の地盤土質の圧密試験等を行って、その領域上における構造物又は盛土の上載荷重で予期される範囲の荷重Pに対するそれぞれの地盤間隙比eを予め算出し、その上載荷重Pと地盤間隙比eの関係曲線に基いて、現在施工している構造物の上載荷重Pfに相当する間隙比efを定める。
尚、地盤間隙比eは、既に公開されている方法で求める。
【0026】
次に、設計地下水位ELwを設定する。このELwの値を定めるに際しては、地下水位計測などを行って腐朽対策のための地下水位ELwの値を求めることが望ましい。
【0027】
次に、前記余地領域の地盤の厚さHrと、同領域の前記間隙比efに基いて、前記上載荷重Pfによる軟弱地盤の沈下量ΔHを算出する。
【0028】
次に、打設又は設置される木材上部が軟弱地盤地下水位ELwよりも上位に露出する露出部分の露出量Hが前記沈下量ΔHよりも小さくなるように木材を打設又は設置する(H<ΔH)。
【0029】
尚、前記沈下量ΔHは、下記式(1)により算出する。
ΔH=((eo―ef)/(1+eo))・Hr … 式(1)。
なお、式(1)において、eoは初期間隙比である。
【0030】
前記上載荷重Pfと地盤間隙比eの関係曲線を図3に示す。この関係曲線は軟弱地盤Hr部分の土質の圧密試験などにより得られる。
図3において、Poは増加開始前の初期の上載荷重、eoはその時の地盤間隙比、PfはPoの状態から増加上載荷重ΔPが加わった後の上載荷重、efはその時の地盤間隙比を示す(Pf=Po+ΔP)。尚、Poより左側は構造物による増加上載荷重ΔPがない自重による部分である。
【0031】
図5は、図2で述べたように、盛土やサンドマットの上に構造物を施工する場合、容易になることを示した説明図である。図のようにバックホーなどで施工できる。それは地下水位ELw上位に木材があるからである。
【0032】
図4は、木材の腐朽防止方法による第三の実施例である。構造物として石垣などを施工するに際しては、軟弱地盤表面に木材が多数本水平にならべられた筏状の基礎上に石を配置する場合である。
【0033】
符号は、図1と同じである。図1,2と同様に石垣施工の際は筏基盤は地下水位ELw、地盤面より上位にあり、作業が容易である(図4(a))。
作業が終わり時間が経過すればΔH沈下して筏基礎は地下水位ELwより下位になり腐朽しない状態となる(図4(b))。
【符号の説明】
【0034】
EL 打設木材杭頭
ELw 地下水位
H 軟弱地盤全体の厚さ
Hr 余地領域地盤厚さ
EL−ELw
L 木材長さ
P 構造物の上載荷重(これよりΔPを求める)
ΔH 木材沈下量(Hr部分の軟弱地盤沈下量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物又は盛土が上載される軟弱地盤に対し、前記構造物又は盛土の上載前に木材を打設又は設置する方法において、
前記軟弱地盤への木材の打設又は設置に際し、その木材上部が地下水位ELwより上位となるように配置し、前記構造物又は盛土の施工に際し、前記構造物又は盛土の載荷重により前記木材が時間経過と共に沈下することにより木材を前記地下水位ELwより下位に位置させることを特徴とする木材の腐朽対策防止方法。
【請求項2】
構造物又は盛土が上載される軟弱地盤に対し、前記構造物又は盛土の上載前に木材を打設又は設置する方法において、
前記軟弱地盤の下部に、木材が到達しない余地領域の地盤厚さHrを設定する段階と、
前記余地領域の土質に対する圧密試験などを行って、上載荷重Pと間隙比eとの関係を予め算出し、上載荷重Pと間隙比eとの前記関係に基いて、前記構造物又は盛土の上載荷重Pfに相当する間隙比efを算出する段階と、
設計地下水位ELwを定める段階と、
前記余地領域の地盤の厚さHrと、同領域の前記間隙比efに基いて前記上載荷重Pfによる軟弱地盤の沈下量ΔHを算出する段階と、
前記打設される木材が軟弱地盤の地下水位ELwよりも上位に露出する露出部分の露出量Htが前記沈下量ΔHよりも小さくなるように木材を打設する(H<ΔH)段階と、を備えることを特徴とする木材の腐朽対策方法。
【請求項3】
前記木材を軟弱地盤に対して鉛直方向に打設する又は水平方向に設置することを特徴とする請求項1又は2に記載の木材の腐朽防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate