説明

木材用防腐剤

【課題】解決しようとする課題点は、カビ類及び木材腐朽菌に対して高い防腐能を有すると同時に、人体に対する毒性が低いものであり、かつ組成物としての安定性が高く安価で製造することが可能である木材用防腐剤を新規に提供することである。
【解決手段】(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなる組成物がカビ類及び木材腐朽菌に対して優れた防腐能を有することを見いだし、本発明である木材用防腐剤を創成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木材用防腐剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材は軽量でありながら強度が大きく、加工が容易で、人体にやさしいなど、その優れた特質により様々な分野で重用されている。しかしながら、生物系材料であるために様々な微生物や昆虫の成育場所となり得る為、生物劣化の被害を受けやすい。その被害としては、例えば木材腐朽菌による腐朽現象、不完全菌類による着色や表面汚染等が挙げられる。そこで、このような生物被害を防止する為に、木材用防腐剤、木材用防カビ剤、木材用防虫剤等の種々の防腐防かび剤が使用されている。例えば、フェノール系化合物、有機ハロゲン系化合物、有機スズ系化合物、ナフテン酸系化合物及びタール系化合物等の有機系薬剤、銅化合物とクロム化合物とヒ素化合物との混合物であるCCA薬剤、銅化合物と有機系薬剤との併用、第4級アンモニウム塩とホウ酸系化合物と水溶性アルカノールアミンと亜鉛イオン供給化合物の混合製剤等が防腐防かび剤として挙げられるが、有害な元素や重金属を含有する薬剤は、環境規制に抵触する懸念があり、またこれらの成分はすべからく人体に対する毒性が強いものであるため、それらの防腐防かび剤としての使用が困難となっている
【0003】
そこで、カビ類や木材腐朽菌に対する防腐能に優れると同時に、人体に対して毒性が低い木材用防腐剤の開発が当業者間において望まれており、現在までに様々な木材用防腐剤が提案されてきている。例えば、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、4,5−ジクロロ−2−n−オクチルイソチアゾリン−3−オン、グリコール系溶剤及び界面活性剤を含有する木材用防カビ組成物(特許文献1)、難溶性木材防腐防カビ剤と水難溶性木材防虫剤と、沸点が220℃以上で且つ引火点が100℃以上の水難溶性炭化水素系液体と界面活性剤とを含有する木材保存剤(特許文献2)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを有効成分とする木材防腐・防蟻・防かび剤(特許文献3)、第4級アンモニウム超強酸塩を含有する抗菌防カビ剤(特許文献4)、スルホン酸塩あるいはラウリル硫酸エステル塩を含有するアニオン系界面活性剤を有効成分とする木材防腐剤(特許文献5)等がこれまでに開示されている。しかしながら、それらの防腐能や、人体に対する毒性に関しては、未だ満足のいくものではない。また、一般に木材用防腐剤を取り扱うにあたっては、それを使用する及び保管する環境下において、成分の乖離や沈殿、層分離等の発生が起きない十分安定なものであって、かつ安価に入手可能なものである必要がある。
【0004】
一方、従来から知られている抗菌成分として、多価アルコール系抗菌物質としてグリセリン脂肪酸エステルが記載され、緑膿菌に対し殺菌効果を有することが示されている他(特許文献6)、グリセリン脂肪酸エステルの類似化合物であるポリグリセリン脂肪酸エステルが食品用抗菌剤として用いられることが示されている(特許文献7)。また、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸がペニシリウム属、アスペルギルス属、フザリウム属、セファロスポリウム属、サッカロミケス属、カンジダ属並びに他の不完全菌類及び半子嚢菌類(酵母)、大腸菌、サルモネラ種、シゲラ種のようなグラム陰性菌、並びに他のグラム陰性菌(バシルス属、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、シュードモナス属、ラクトバシルス属)に対して抗菌活性を有することが示されている(特許文献8)。また、動物用抗菌液剤に溶解補助剤としてジオクチルスルホコハク酸塩を使用することが示される他(特許文献9)、有機酸とスルホコハク酸アルキル類を含む抗菌組成物が開示されている(特許文献10)。しかしながら、木材用防腐剤として要求される特定のカビ類及び木材腐朽菌に対する防腐能については全く検討されておらず、木材用防腐剤への応用に関しては、記載あるいは示唆はされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、解決しようとする課題点は、カビ類及び木材腐朽菌に対して高い防腐能を有すると同時に、人体に対する毒性が低いものであり、かつ組成物としての安定性が高く安価で製造することが可能である木材用防腐剤を新規に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなる組成物がカビ類及び木材腐朽菌に対して優れた防腐能を有することを見いだし、本発明である木材用防腐剤を創成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木材用防腐剤は、カビ類及び木材腐朽菌に対して優れた防腐能を有する。また、本発明の木材用防腐剤は、全て医薬品や医薬部外品及び食品等で従来から汎用されてきた成分で構成されるものであって、成分の安定性は殊更優れるものであり、人体に対する毒性も著しく低いものである。更に、これらの成分は、非常に安価でかつ大量に入手が可能な化合物ばかりであり、日常的に使用するにあたって当業者の経済的負担が軽減されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−133205号公報
【特許文献2】特開平10−7502号公報
【特許文献3】特開2006−199687号公報
【特許文献4】特開2008−184451号公報
【特許文献5】特開2007−15959号公報
【特許文献6】特開2009−161518号公報
【特許文献7】特開平10−225281号公報
【特許文献8】特表2003−535894号公報
【特許文献9】特開平6−263642号公報
【特許文献10】特表2005−530857号公報
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の木材用防腐剤は、第一に、少なくとも(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、及び(E)水が0〜55重量%を含む溶液を必須とする。
【0010】
(A)の炭素数8〜22の脂肪酸は、置換基を有していてもよい炭素数8〜22の直鎖状又は分岐状の飽和あるいは不飽和脂肪酸であれば特に限定されないが、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、ベヘニン酸から選択される。脂肪酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩から選択される。特に、融点が低い脂肪酸が性状の安定性や製造の簡便性から好ましく、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸とそれらの塩から選択される。当該溶液中における脂肪酸の含有量は、15〜45重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0011】
(B)の炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルは、特に限定されないが、具体的にはモノカプリル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ジパルミチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、モノイソパルミチン酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノオキシステアリン酸グリセリル、トリオキシステアリン酸グリセリル、モノヒドロキシステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、モノリノール酸グリセリル、トリリノール酸グリセリル、トリリノレン酸グリセリルから選択される。特に、水に対する溶解性並びに固有の限界ミセル濃度の点から、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選択される。当該溶液中におけるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルの含有量は、20〜50重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0012】
(C)のスルホコハク酸エステルは、特に限定されないが、具体的にはスルホコハク酸ジエチルヘキシル、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ウンデシレノイルアミドエチルスルホコハク酸二ナトリウム、オレイン酸アミドエトキシエタノールスルホコハク酸エステル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸β−シトステリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレングリコールジメチコンスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸イソプロパノールアミドスルホコハク酸二ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム、スルホコハク酸ヤシ油アルキルグルコシド、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される。特に、水に対する溶解性並びに製造におけるコストの面から、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選択される。当該溶液中におけるスルホコハク酸エステルの含有量は、10〜30重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0013】
本発明の木材用防腐剤で用いられる少なくとも(A)〜(E)を含む溶液には、脂肪酸の酸化を防止するために、更に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤は医薬品、医薬部外品及び食品に通常添加されている成分であれば特に限定されないが、具体的には、アスコルビン酸類、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、フラボノイド類、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶液への配合量としては、0.001〜5重量%の範囲であれば十分である。
【0014】
本発明の木材用防腐剤で用いられる(A)〜(E)を含む溶液の製造方法としては、公知な処方製剤の製造方法より得られる。例えば、(A)〜(C)を必要ならば(A)の融点以上に加温しながら溶解及び混合した後、これにあらかじめ混合した(D)及び(E)の混合物を、例えば攪拌機を備えた乳化装置やホモミキサー、ディスパーミキサー、高剪断力の高圧ホモジナイザーや高圧及び/又は真空ホモミキサー、超音波乳化機、SPG膜乳化機、スタティック型ラインミキサー、コロイドミル等といった混合装置を用いて徐々に添加しながら撹拌混合することで当該溶液が製造される。
【0015】
本発明の木材用防腐剤は、第二に前記(A)〜(E)を含む溶液を水性基剤に混合して分散させてなることを必須とする。混合する比率は、溶液1重量部に対し、水性基剤が1〜500重量部の範囲で設定される。混合するにあたって、特に混合装置等は必須ではないが、本発明の木材用防腐剤を大量に製造する場合には撹拌装置を備えた設備であることが好ましい。本発明で用いられる水性基剤は、水又はエタノールやプロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類を0〜10重量%含む水溶液である。また、当該水性基剤には、木材用防腐剤のハンドリング性を向上させることを目的に、更に増粘剤を添加することができる。増粘剤は医薬品、医薬部外品及び食品に通常添加されている成分であれば特に限定されないが、具体的には、アクリル酸重合体、アクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アミド重合体、アクリル酸アミド・スチレン共重合体、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸アルキル・スチレン共重合体、アルギン酸又はその塩、加水分解コラーゲン又はその誘導体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、加水分解コムギタンパク質又はその誘導体、加水分解シルク又はその塩又はその誘導体、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、スチレン・ビニルピロリドン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、加水分解エラスチン又はその塩、加水分解カゼイン又はその塩、アラビアゴム、カラギーナン、カラヤガム、ゼラチン、キチン又はその誘導体又はそれらの塩、キトサン又はその誘導体又はそれらの塩、セルロース又はその誘導体又はそれらの塩、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、流動パラフィン、ヒアルロン酸又はその塩、ソルビトール、トレハロース、デキストラン、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸又はその塩、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグルタミン酸又はその塩、ユーグレナ多糖体、イソブチレン・マレイン酸塩共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、β−グルカン又はその塩等が挙げられる。水性基剤への配合量としては、0.0001〜20重量%の範囲で設定することができる。
【0016】
本発明の木材用防腐剤は、建築用及び土木工事用の木材(合板を含む)、紙やパルプ等の工業製品製造用及び繊維原料用の木材、机や椅子、棚等の家具類である木材加工品やその加工品製造に用いる材料等を対象として使用される。木材の種類としては、特に限定されないが、木材腐朽菌が発生しやすいアカマツ、スギ、ブナ、ベイツガ及びベイマツ等に好適に用いることができる。これらの対象への使用方法としては、加圧注入法、浸漬法、塗布法及びスプレー法等が挙げられ、特に浸漬法及びスプレー法が、操作が簡便であることから好適である。しかしながら、本発明はこれらの使用対象及び方法のみに限定されるものではない。
【0017】
更には、本発明の木材用防腐剤で処理された木材を、浸透性・造膜性を有する硬化型合成樹脂塗料で全面塗装処理することで、処理済みの木材を屋外で使用しても防腐剤の各種成分の揮発や溶脱が抑制され、防腐能がより一層補強され、屋外での長期使用にも十分耐え得る性能を付与することができる。そのような硬化型合成樹脂塗料としては、例えばポリウレタン樹脂塗料、フェノール樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料又は尿素樹脂塗料等が挙げられる。
【0018】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
表1〜2に本発明の木材用防腐剤の製造に用いる溶液の製造例及び比較例を示した。表中の各成分の数値は重量%を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
(実施例1)製造例1〜8及び比較例1〜3の木材のかび抵抗性試験
製造例1〜8及び比較例1〜3を用いて製造した木材用防腐剤に対して、JISZ2911で規定されるかび抵抗性試験を実施した。本試験においては、製造例1〜8又は比較例1〜3の各溶液を水に1:1の比率で混合したものを木材用防腐剤として供試した。試験に用いる木片には、予めオートクレーブ滅菌後(121℃,15分)、100℃で乾燥させたスギ木片(20mm×20mm×4mm)を用い、このスギ木片を各木材用防腐剤に30秒間浸漬後、十分に水切りを行い、かび抵抗性試験の試験片とした。本試験で用いるカビ類は、Aspergillus niger NBRC105649、Penicillium citrinum NBRC6352、Rhizopus oryzae NBRC31005、Cladosporium cladosporioides NBRC6348、Chaetomium globosum NBRC6347の5種を用いた。試験方法はJISZ2911(かび抵抗性試験)に準拠した。すなわち、試験片を、ポテトデキストロース寒天培地上に乗せ、次いで上記各カビ類の胞子懸濁液1mLを木片に噴霧し、温度26℃,湿度95%で28日間培養し、試験片の表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼で調べた。結果を表3〜4に示した。なお、カビ生育の程度の表示は以下の判定基準とした。
【0023】
0:試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。
1:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を越えない。
2:試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を越える。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
(実施例1の結果)
製造例1〜8及び比較例1〜3のかび抵抗性試験の結果、表3〜4で示されたとおり、製造例1〜8から製造された木材用防腐剤全てにおいて、比較例より優れたかび抵抗性を有していた。特に製造例1〜3及び5、8の組成物は、全てのカビ類の発育を阻害していることが確認され、本発明の中でも特に優れた木材用防腐剤であることが判明した。
【0027】
(実施例2)木材用防腐剤の製造における(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比の検討
本発明の木材用防腐剤を製造するにあたり、(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比率について、以下に記載の混合比率で製造した組成物のかび抵抗性を調べた。供試する溶液として、製造例1を選択した。試験方法は実施例1を準拠した。結果を表5に示した。
製造例9:製造例1の溶液1重量部に対し、水100重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
製造例10:製造例1の溶液1重量部に対し、水200重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
製造例11:製造例1の溶液1重量部に対し、水500重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
製造例12:製造例1の溶液1重量部に対し、水1000重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
製造例13:製造例1の溶液1重量部に対し、5%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
製造例14:製造例1の溶液1重量部に対し、10%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られた木材用防腐剤。
【0028】
【表5】

【0029】
(実施例2の結果)
製造例9〜14のかび抵抗性試験の結果、溶液1重量部に対し、水性基剤500重量部の混合比率までが実施例1で得られたかび抵抗性が維持されるものであった。しかしながら、水性基剤が1000重量部となると3種類のカビの発育が確認され、かび抵抗性が低下していた。また製造例9〜11及び13〜14の結果から、水性基剤として水のみでもエタノールを含む水溶液でも同等のかび抵抗性を示すことが判明した。更には、製造例9〜14の全ての組成物において、本発明の木材用防腐剤中に含まれる成分の乖離や沈殿、層分離等の発生もなく、安定な組成物であることが確認された。
【0030】
(実施例3)木材腐朽菌に対する防腐剤の性能試験
製造例1〜3、5及び8を用いて製造した木材用防腐剤に対して、JISK1571で規定される木材保存剤の性能試験を実施した。本試験においては、製造例1〜3、5及び8の各溶液と水を1:100の比率で混合したものを木材用防腐剤として供試した。試験に用いる木片には、予めオートクレーブ滅菌後(121℃,15分)、100℃で乾燥させたスギ木片(20mm×20mm×10mm)を用い、このスギ木片を各木材用防腐剤に30秒間浸漬後、十分に水切りを行い、本試験の試験片とした。なお、ブランクとして木材用防腐剤に浸漬しないスギ木片を用いた。試験方法はJISK1571(木材保存剤の性能試験方法及び性能基準)に準拠し、木材腐朽菌として、オオウズラタケ Fomitopsis palustris FFPRI0507、及びカワラタケ Trametes versicolor FFPRI1030を用いた。結果を表6に示した。表6中の重量減少率が小さいほど木材腐朽菌に対する防腐性に優れる。
【0031】
【表6】

【0032】
(実施例3の結果)
製造例1〜3、5及び8を用いて製造した木材用防腐剤の木材腐朽菌に対する防腐剤の性能を試験した結果、製造例1〜3、5及び8全てにおいて、ブランクと比較して顕著に低い重量減少率を示しており、木材腐朽菌に対して優れた防腐能を有することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の(A)〜(E)を含む溶液の1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなることを特徴とする木材用防腐剤。
(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が15〜45重量%、
(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが20〜50重量%、
(C)スルホコハク酸エステルが10〜30重量%、
(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールが0〜10重量%、
(E)水が0〜55重量%
【請求項2】
炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸又はそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の木材用防腐剤。
【請求項3】
炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜2記載の木材用防腐剤。
【請求項4】
スルホコハク酸エステルが、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3記載の木材用防腐剤。

【公開番号】特開2011−219415(P2011−219415A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90116(P2010−90116)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(509306203)テクノマイニング株式会社 (10)
【Fターム(参考)】