説明

木材表面処理剤

【課題】木材表面にホウ酸塩を有効成分とする表面処理剤を散布する際、付着量を飛躍的に増大し、木材保存機能を高める処方を提案する。
【解決手段】ホウ酸塩の高濃度水溶液に0.3%以下のキサンタンガムと2.0%以下の界面活性剤を添加する。シリコーンオイルで汚染されているプレカット材を処理する場合には、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地面に直接接触せず、液体の水のかからない環境で使用される木材を長期間劣化生物から保護する目的で木材の表面に塗布あるいは散布するための木材表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は再生可能な優れた建築材料として広く使用されているが、腐朽や虫害などの生物劣化を受けやすい欠点がある。この欠点を克服する手段として、木材の表面にホウ酸塩を含む表面処理剤を塗布、散布する、あるいは木材を表面処理剤に浸漬する方法が広く実施されている。
【0003】
具体的には、建築現場で構造材、構造合板などに表面処理剤を散布したり、プレカット工場でプレカット材や合板などを表面処理剤の入った浸漬槽に一定時間浸漬したりする。
【0004】
ホウ酸塩表面処理剤で木材を処理する場合、有効成分のホウ酸塩は、まず表層部2mm程度まで浸透し、次いでゆっくり木材内部へと移動(拡散)する性質がある。このため、木材表層部の有効成分は年月とともに減衰し、やがて木材劣化生物の毒性閾値以下まで低下し保護機能を失うこともある。
【0005】
ホウ酸塩表面処理剤の効果を半永久的に保持するためには、処理剤中のホウ酸塩濃度を高めると共に、単位表面積あたりの処理液付着量を増加することにより、表層部に長期間にわたり、劣化生物の毒性閾値以上のホウ酸塩濃度が確保されるようにする必要がある。
【0006】
表面処理剤の有効成分濃度を高めれば処理効果も高まるが、現在知られているホウ酸塩中、水に最もよく溶ける八ホウ酸二ナトリウム四水和物(DOT)でも、室温での溶解度は15%が限界であり、これ以上の濃度では保管、輸送中に沈殿が発生するようになる。
【0007】
処理効果を高める手段として、木材表面への処理剤の付着量を増大することが有効である。しかし、従来の木材表面処理剤では、木材の垂直表面1mあたり約100gの処理液が塗布されるに過ぎない。これ以上の処理液を散布しても、木材表面を流れ落ちて役に立たない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、表面処理剤の施工性などの性質を大きく変えることなく、木材表面への付着量を飛躍的に増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、該課題が表面処理剤に特殊なレオロジー的性質を付加する高分子物質を添加することで解決できることを発見した。
【0010】
第一の本発明は、ホウ酸換算濃度10%以上のホウ酸塩水溶液に0.3%以下のキサンタンガム、2.0%以下の界面活性剤を添加した木材表面処理剤である。
【0011】
第二の本発明は、第一の本発明において、界面活性剤がシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする木材表面処理剤である。
【0012】
本発明でいうホウ酸塩とは、八ホウ酸二ナトリウム四水和物(Na13・4H2O)であるが、オルトホウ酸(HBO)4モルとホウ砂(Na・nHO)1モルの混合物を水に溶解してもよい。この場合、モル比はおよそ4:1であれば必要な溶解度は確保できる。
【0013】
ホウ酸塩溶液に微量のキサンタンガムを溶解すると、溶液はシキソトロピックな性質を示すようになり、流動時は低粘度であるが静止時の粘度は非常に高くなる。この性質は表面処理にとって理想的なものである。
【0014】
すなわち、木材表面に向け処理液を散布する際は、低粘度液体として普通の散布機で処理できるが、木材表面に付着、静止した液体は高粘度のため流れにくくなり、付着量が増加する。
【0015】
キサンタンガムの濃度が0.1%の場合、垂直面に散布した場合の処理液付着量は、未添加の場合の約2倍になる。付着量はキサンタンガムの添加量を増すと増加するが、0.3%を越すと粘度が大きくなり散布し難くなる。
【0016】
本発明の界面活性剤は、分子量200〜600のポリエチレングリコールなどの一般的な界面活性剤が有効である。ただし、プレカットのラインでシリコーンオイルを使用している場合は、木材の表面に薄い撥水性の皮膜が形成され、表面処理に際し、処理剤の付着量を減少させることがある。
【0017】
このトラブルを防ぐためにはシリコーン系界面活性剤が有効である。シリコーン系界面活性剤としては、低分子量のポリエーテル変性シリコーンが特に優れている。
【発明の効果】
【0018】
一般にホウ酸塩をベースとした木材保存剤は、合成殺虫剤ベースのものに比較して毒性が低く、耐久性に優れているが、本発明の保存剤は、ホウ酸塩表面処理剤の付着量を従来の2〜3倍に増加することにより、処理効果を飛躍的に高めることが可能である。
【0019】
さらに、本発明の表面処理剤は、屋根組み材に吹き付けるような場合、処理液の滴下を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の表面処理剤を建築現場などで調合する場合は、適量のホウ酸塩、別途調合したキサンタンガム濃厚溶液(1〜2%)、界面活性剤を適量の温水に攪拌しながら加え透明な水溶液にする。
【0021】
別報として、攪拌機を備えた容器に、所定量の温水、ホウ酸塩、キサンタンガム、界面活性剤を加えて攪拌し、各成分を完全に溶解してもよい。
【0022】
本発明を構成する必須要件ではないが、処理木材の識別や装飾等のため染料、顔料などの着色剤を添加してもよい。
【実施例1】
【0023】
2リットルの三角フラスコに所定量の八ホウ酸二ナトリウム四水和物(リオティントミネラルズ製Timbor)、界面活性剤(三洋化成株式会社製PEG300)、キサンタンガム(三晶株式会社製KELZAN1.5%水溶液)及び純水を入れ、ホットスタラーを用い、液温40℃で60分攪拌し木部表面処理剤1kgを試作した。
【0024】
次にこの表面処理剤を内寸20x20x5cmのポリエチレンバットに入れ、これにプレーナー仕上した15x15x2cmの無節すぎ板(気乾状態)を10秒間浸漬したのち室内で垂直に吊るして1週間乾燥した。
【0025】
次に、板の中央部にドリルで直径30mmの孔を貫通し、削り屑を90℃で16時間乾燥したのち、300mlの三角フラスコに入れて全体を正確に秤量した。これに純水200gを加えて、ホットスタラー上80−90℃で5時間攪拌した。冷却後、三角フラスコを秤量し、フラスコ中に残った水の重量を決定した。
【0026】
フラスコの内容を定量分析用濾紙で濾過し、濾液をICP分光分析にかけ、ホウ素濃度を定量し、この値から板材の表面1m当たりのDOT付着(吸着、吸収)量を算出した。結果を表1に示す。KELZAN添加によるDOT付着量の増加は明らかである。
【表1】

【実施例2】
【0027】
プレカット工場から入手したプレカットしたスギ柱材(10x10x400cm)を、節の少ない面(処理実験面)が手前に来るようにして水平に固定し、処理実験面を約30cmずつ油性マジックマーカーで分割した。
【0028】
実施例1と同様の方法で表面処理剤を試作した。界面活性剤として、PEG−300及びシリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製KF643)を使用した。表面処理剤を電池式噴霧器(松下電器産業株式会社製:BH593)に入れ、処理実験面の区画ごとに散布した。散布は、側面に付着した液が流れ落ちる時点で止めた。
【0029】
散布した柱材はそのまま1週間放置して自然乾燥した後、表面処理剤を散布した各区画面中央近くの節のない部分を選び、ドリルで直径30mm、深さ10mmの孔を穿孔し、切り屑全部を実施例1と同じ手順で乾燥、熱水抽出し、抽出液をICP分析して柱側面1m当たりのDOT付着量を算出した。結果を[表2]に示す。
【表2】

【0030】
表2から明らかなように、プレカット剤の表面が微量のシリコーンオイルで汚染されていても、シリコーン界面活性剤を添加すれば、満足なDOT付着量を確保できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸換算で10%以上のホウ酸塩、0.3%以下のキサンタンガム、2.0%以下の界面活性剤及び水とからなる木材表面処理剤。
【請求項2】
請求項1において、界面活性剤がシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする木材表面処理剤。