説明

木材防黴組成物

【課題】銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性の木材加圧注入用防腐防蟻剤と併用する木材防黴組成物として、作業性、金属腐食性、防黴性、経済性を解決した木材防黴組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液中に、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を有効成分として含有することを特徴とする木材防黴組成物を併用することで、それぞれ単独で添加するよりもこれらを組み合わせた場合、防腐性及び防蟻性を損なう事なく飛躍的に防黴性能が向上するとともに長期間にわたり防黴性能を維持することができ、なお且つ金属腐食性の少ない木材防黴組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材に黴が発生する事を防ぐために用いられる木材用防黴組成物に関するものである。特に建築用部材や屋外用部材として用いられる木材を腐朽及び虫害から保護するための、銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤と併用する木材防黴組成物に関するものであり、防腐性及び防蟻性を損なう事なしに長期間にわたり防黴性能を維持する事が出来る木材防黴組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建材等に使用される木材、合板等の木質材料には、腐朽防止やシロアリ等の害虫による食害を防止する為に、防腐剤、防蟻剤や防虫剤を木材へ加圧注入処理が行なわれている。このような防腐防蟻剤には、CCAのような水性の銅と砒素とクロムを含有する薬剤が使用されてきたが、非常に毒性の高い重金属を含んでいる為、人畜に対して有害であり環境を汚染する危険性がある。近年、CCAに代わる安全性の高い木材を保護するための防腐防蟻剤として、銅塩又は酸化銅とトリアゾール系防腐化合物や、銅塩又は酸化銅と第4級アンモニウム化合物(特許文献1、2)を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤を10〜50倍に水希釈し、木材に加圧注入されている。その注入量は200〜500kg/mと多く、木材が乾燥するまでに黴が発生し商品価値を著しく低下させる問題が起こっている。これを防止するため上記水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液に防黴剤が添加され、加圧注入処理されている。
【0003】
木材用の防黴剤は多数商品化されているが、上記水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の物性、すなわち防腐成分に金属塩を含有している、水に不溶の銅塩又は酸化銅をアンモニア、アンモニウム塩又はアミン類で水に溶解させ液性がアルカリであるということから殆どの市販の防黴剤は溶解しない、分散しない、長期間防黴性能を発揮できないなどの弊害がある。
【0004】
そこで、初期の防黴効力の高いイソチアゾリン系化合物などが使用、提案されている。(特許文献1、3、4)しかし、ハロゲン元素を含むイソチアゾロン系化合物、例えば、4−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンや4,5−ジクロロ−2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを使用する場合、金属腐食性から加圧注入釜、ポンプ、配管、その他装置の損傷などの問題や皮膚刺激性が強いことから高濃度で使用することが困難であった。そして、最も大きな問題点は水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤がアルカリ性である場合、ハロゲン元素を含むイソチアゾロン系化合物が分解し、急速に濃度低下を起こすため日常の工程管理(濃度管理)が非常に煩雑となること、および濃度を維持するため新たにハロゲン元素を含むイソチアゾロン系化合物を追添加する必要があり経済性にも問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−249810号
【特許文献2】特開2003−252705号
【特許文献3】特開2001−47408号
【特許文献4】特開2001−150404号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の問題点である、木材に黴が発生することを防ぐために用いられる木材用防黴組成物に関するものであり、特に銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性の木材加圧注入用防腐防蟻剤と併用する木材防黴組成物として、作業性、金属腐食性、防黴性、経済性を改善した木材防黴組成物を提供するのが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、木材防黴防腐組成物に関し鋭意研究を重ねた結果、有効成分として2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下OITと略す)と炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を有効成分として含有する木材防黴組成物を、銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液と併用した時に極めて高い防黴効果及び長期にわたり防黴効果を維持する事を示し、かつ作業性が良く金属腐食性がないことを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の木材防黴組成物の有効成分であるOITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物は、防腐剤、防黴剤として広く用いられている。しかし、水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液中にそれぞれ単独で添加するよりも、OITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を有効成分として含有した場合、飛躍的に防黴性能が向上しなおかつ防腐性及び防蟻性を損なう事なしに長期にわたり防黴性能を維持することを見出した。また、従来使用、提案されていたハロゲン元素を含むイソチアゾロン系化合物に比べ、金属腐食性も少なく、最大の欠点であった分解も本発明のOITおよび炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を有効成分として含有した混合物は分解が殆ど無く作業性、および経済性において優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物は、一般式(1)


(R1とR2は同じかあるいは異なり、炭素数8〜18のアルキル基を示す。X−は対イオンを示す)で表される。対イオンは、ハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、有機酸イオン等が挙げられるが、塩素イオンが好ましい。これらのジアルキルジメチルアンモニウム化合物であればいずれの化合物でも使用することができるが、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(以下DDACと略す)が好ましく、特に銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液中での防黴性においてOITとの相乗的効果が期待できる。
【0010】
銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液に、本発明の木材防黴組成物の有効成分であるOITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を添加する場合の混合割合は、重量比で1:49〜49:1、好ましくは1:19〜19:1がより好ましい。これ以外の混合割合では防黴性において相乗的な効果が得られないため、希釈液中への添加量が多くなり経済性の面で不利となる。
【0011】
また、本発明の木材防黴組成物の有効成分であるOITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液中に添加する場合の形態としては特に制限はないが、例えば可溶化剤や乳剤等が挙げられる。
【0012】
可溶化剤として用いる場合には、OITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を溶解可能な種々の溶媒、例えば両者を親水性の溶媒であるアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、ケトン類および水などに溶解したものを用いる。更に、必要に応じノニオン系、および/またはアニオン系の界面活性剤を添加してもよい。
【0013】
また、乳剤として用いる場合にはOITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を溶解可能な種々の溶媒、例えば両者を疎水性の溶媒である脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エステル類などに溶解したものを用いる。更に、必要に応じノニオン系、および/またはアニオン系の界面活性剤を添加してもよい。
【0014】
銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤としては一般に使用されている市販品を用いて差し支えなく、例としてマイトレックACQ(株式会社コシイプレザービング社製)、タナリスCY(コパーズ・アーチケミカル社製)等が挙げられる。これらの希釈液に本発明組成物を添加する場合、OITと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物の合計として50〜1000ppmの範囲で添加される。この範囲以下の濃度では防黴効果が充分に発揮されず、またこの範囲以上の濃度では経済性の面で不利となる。
【実施例】
【0015】
次に本発明の実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例、比較例の組成物の配合を表1に示す。なお、配合の数値は重量%である。
【0016】
【表1】

*1:4−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オン
*2:4,5−ジクロロ−2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン
*3:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
*4:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
【0017】
木材減圧注入処理方法を試験例1及び試験例2に示す。
(試験例1)木材への減圧注入処理1
酸化銅およびトリアゾール系防腐化合物を成分とする木材加圧注入用防腐防蟻剤(商品名:タナリスCY コパーズ・アーチケミカル社製)を水で40倍に希釈し、これを所定濃度の実施例1〜3、および比較例1〜4を添加した希釈液に木材(ベイツガ:4×7×1cm)に減圧注入した。また、これらの希釈液を一ヶ月常温放置した時点においても減圧注入した。この時の希釈液注入量は木材に対して250kg/m以上であった。
【0018】
(試験例2)木材への減圧注入処理2
銅塩および第4級アンモニウム系化合物を成分とする木材加圧注入用防腐防蟻剤(商品名:マイトレックACQ 株式会社コシイプレザービング社製)を水で25倍に希釈し、これを所定濃度の実施例1〜3、および比較例1〜4を添加した希釈液に木材(ベイツガ:4×7×1cm)に減圧注入した。また、これらの希釈液を一ヶ月常温放置した時点においても減圧注入した。この時の希釈液注入量は木材に対して250kg/m以上であった。
【0019】
木材防黴試験方法を試験例3に示す。
(試験例3)木材防黴試験
試験例1及び2で減圧注入処理した試験片を1晩放置後、木材防黴試験に供試した。この試験片をポテトデキストロース寒天平板上に載せ、黴混合胞子懸濁液1mlをふりかけ、温度28℃、湿度95%で30日間培養し、14日毎に観察した。供試菌としては、Aspergillus niger、Cladosporium cladosporioides、Penicillium funiculosum、Aureobasidium pullulans、Gliocladium virens、Fusarium sp.を用いた。結果を表2及び3に示す。但し、黴発育の程度の表示は次の判定による。
【0020】
−:試験片上に黴の発育が全くみられない。
+:試験片の側面に黴の発育がみられる。
++:試験片上の黴の発育面積が全面積の1/3未満である。
+++:試験片上の黴の発育面積が全面積の1/3以上である。
【0021】
試験例1で減圧注入処理した試験片の防黴試験結果を表2に示す。
【表2】

【0022】
試験例2で減圧注入処理した試験片の防黴試験結果を表3に示す。
【表3】

【0023】
表2及び表3より、本発明の実施例1〜7の組成物は比較例1〜3に比べ極めて良好な防黴効果が認められた。また、比較例4は処理直後では良好な防黴効果であったが、希釈液30日放置後注入したものは著しく防黴効果が低下した。
【0024】
試験例3:鉄腐食性試験
酸化銅およびトリアゾール系防腐化合物を成分とする木材加圧注入用防腐防蟻剤(商品名:タナリスCY コパーズ・アーチケミカル社製)を水で40倍に希釈した溶液(加圧処理1液)及び、銅塩および第4級アンモニウム系化合物を成分とする木材加圧注入用防腐防蟻剤(商品名:マイトレックACQ 株式会社コシイプレザービング社製)を水で25倍に希釈した溶液(加圧処理2液)に、実施例2、比較例3及び比較例4の組成物を0.2%添加した。これらの希釈液に研磨した鉄片(25×25×2mm)を入れ、常温で1ヶ月間放置し鉄腐食性を観察した。結果を表4に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
表4より、本発明実施例5、6の組成物は鉄に対する腐食性もなく、また希釈液に対しても変化は認められない。比較例4の組成物は鉄腐食性が認められ、希釈液も変色する傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の木材防黴組成物は優れた防黴性能を示し、特に銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液中に本発明の木材防黴組成物を添加し、木材を処理したとき優れた防黴性が得られる。そして防腐性及び防蟻性を損なう事なしに長期間にわたり防黴性能を維持する事が出来る木材防黴組成物である為、新たに木材防黴組成物を追添する必要が無く経済性にも優れ、従来使用、提案されてきた防黴剤に比べ、加圧注入装置の腐食性が少ないという特徴を持っている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンと炭素数8〜18のアルキル基を有するジアルキルジメチルアンモニウム化合物を含有することを特徴とする木材防黴組成物
【請求項2】
ジアルキルジメチルアンモニウム化合物が、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項1の木材防黴組成物
【請求項3】
銅塩又は酸化銅を主成分とする水溶性木材加圧注入用防腐防蟻剤の希釈液に添加することによって防黴性能を付与するための請求項1または2に記載の木材防黴組成物





























【公開番号】特開2009−23258(P2009−23258A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189936(P2007−189936)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】