説明

木質部材の接合構造

【課題】少なくとも一方が木質部材からなる接合構造において、その木質部材に対するめり込みをより効果的に抑制することができ、しかも施工性が良好で、部材間の接合強度の向上にも有効な木質部材の接合構造を提供する。
【解決手段】梁材8,9等の木質部材の、接合用金具16〜19等の他の部材との接触面に繊維の方向と直交する埋設穴20〜23を形成し、それらの埋設穴20〜23に異形鉄筋等からなるめり込み防止部材24〜27を埋設してエポキシ樹脂等の固着材で周囲を固着し、そのめり込み防止部材24〜27の端部と前記他の部材との当接により前記木質部材の支圧強度を強化して、木質部材に対する他の部材のめり込みを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造の柱梁接合部などの少なくとも一方が木質部材からなる接合構造に関し、木質部材同士の接触面、あるいは木質部材と接合用金具等の他の媒体との接触面における支圧強度を高めて、部材間の接合強度を向上させた木質部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造の柱梁接合部などのように、少なくとも一方が木質部材からなる接合構造では、木質部材同士、あるいは木質部材と接合用金具等の媒体との接触面などの、木質部材と他の部材との接触面において、他方の部材が木質部材の接触面にめり込み、部材間の接合強度を低下させるという問題があった。特に、柱梁接合部の接合強度に依存する木造ラーメン構造においては、厄介な技術的問題であった。図10は、本出願人に係る先行技術を示したものであり(特許文献1参照)、柱材101と梁材102とを結合する媒体として接合用金具103を用いて柱梁接合部の施工性や接合強度の強化を図ったものである。図示のように、柱梁接合部には剪断力Tや曲げモーメントMが作用することになるが、とりわけ剪断力Tが大きくなるにつれて、図11に示したように接合用金具103の一部が木質からなる梁材102との接触面Aにおいてめり込み、柱梁接合部の剛性を害するという問題があった。すなわち、この種の木造ラーメン構造の場合には、その最大耐力が、木質部材の他の部材との接触面における支圧強度によって決定されるケースが多く、構造体としてのスパンや積載荷重などのディテールも制約を受け、十分な耐力を得るため、梁幅を増すなどの対応が必要とされた。以上のように、とりわけ接合用金具を使用する木質構造部では、その媒体としての接合用金具と木質部材との接触面における木質部材の支圧強度によって最大耐力が左右されるところが大きい。そして、木質部材は、繊維の方向と平行な木材の長手方向の側面の支圧強度が弱く、他の部材がめり込みやすいことから、その長手方向の側面に対するめり込み防止対策がきわめて重要である。
【特許文献1】特開2006−177088号公報
【0003】
前記めり込み防止対策に関して、木質部材同士の接触面のほぼ全面に剛性の大きい板状部材を介装するとともに、その板状部材に形成した挿通部を介して異形鉄筋や鋼管あるいは鋼板などからなる挿通部材を両側の木質部材に跨って挿通して接着剤にて固着するという技術手段が開示されている(特許文献2参照)。この従来技術の場合には、木質部材同士の接触面のほぼ全面に介装した板状部材が木質部材に対するめり込み防止手段として機能し、両側の木質部材に跨って埋設された異形鉄筋や鋼管あるいは鋼板などからなる挿通部材は、木質部材同士の結合手段として機能するだけで、めり込み防止手段としては有効に活用されていなかった。すなわち、めり込み防止手段としては、板状部材の有する剛性と、その板状部材を裏面から支える木質部材自体の支圧強度に依存する構成を採用していた。このため、板状部材の設置面積が小さい場合には、板状部材を介在させても木質部材に対しては局部的な接触となるため、めり込みを効果的に防止することは困難であった。また、板状部材の設置面積を大きくしても、板厚が薄くて剛性が弱い場合には、木質部材と相手側の他の部材との局部的な接触によって大きな押圧力が部分的に作用すると、木質部材自体の支圧強度でも支えきれず、前記板状部材と木質部材が共に局部的に変形してめり込みを防ぐことはできなかった。このため、板状部材には大きな剛性も必要とされ、あまり板厚を薄くすることはできなかった。すなわち、結局接触面積の大きい所要の剛性を備えた板状部材が必要とされ、コスト高につくだけでなく、施工性もあまりよくはなかった。
【特許文献2】特開2005−98036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、木質部材に対するめり込みをより効果的に抑制することができ、しかも施工性が良好で、部材間の接合強度の向上にも有効な木質部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前記課題を解決するため、少なくとも一方が木質部材からなる接合構造において、前記木質部材の他の部材との接触面に繊維の方向と直交する埋設穴を形成するとともに、該埋設穴にめり込み防止部材を埋設してエポキシ樹脂等の固着材で周囲を固着し、そのめり込み防止部材の端部と前記他の部材との当接により前記木質部材の支圧強度を強化して、木質部材に対する他の部材のめり込みを抑えるという技術手段を採用した。すなわち、本発明では、木質部材に形成した埋設穴内に埋設して周囲を固着材で固着しためり込み防止部材の外周面と前記埋設穴の内面との間の付着力を基礎にして、めり込み防止部材の端部を介して他の部材のめり込みを抑えることにより木質部材の支圧強度を高めるという技術手段を採用した。なお、めり込み防止部材の端部に平板を設け、棒状軸部と該棒状軸部の端部に設けた平板とからめり込み防止部材を構成するようにしてもよい。また、木質部材に対してめり込み防止部材を3個以上設置し、それらの3個以上のめり込み防止部材の端部により規定される平面によって木質部材の支圧面を保持するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)めり込み防止部材の外周面と木質部材に形成した埋設穴の内面との間の付着力を活用して支圧力を負担するように構成したので、木質部材の支圧強度をより効果的に高めることが可能である。したがって、接合部材間の接合強度が強化され、接合部の初期剛性の向上にもきわめて有効であり、木質部材の支圧強度の不足に基づく接合構造のディテールに対する従来の制約を大幅に緩和することができる。
(2)めり込み防止部材の固着手段として、木質部材に形成された埋設穴に埋設してエポキシ樹脂等の固着材で固着するという手法を採用したので、他の部材との当接部となる前記めり込み防止部材の端部の高さ調整が容易で、施工性がきわめて良好である。とりわけ、3個以上のめり込み防止部材を設置して支圧面としての平面を形成する場合に有効である。
(3)めり込み防止部材の埋設長さの設定を通じて、木質部材の支圧強度を簡便かつ的確に補強することができる。
(4)めり込み防止部材の端部に平板を固着すれば、更に安定した支圧状態が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、木造の柱梁接合部などの少なくとも一方が木質部材からなる接合構造であれば、広く適用することができる。すなわち、木質部材同士の接触面であっても、あるいは木質部材と接合用金具等の他の媒体との接触面であっても適用することが可能であり、それらの接触面における木質部材の支圧強度を補強して接合部材間の接合強度を向上させることが可能である。めり込み防止部材は、木質部材の繊維の方向と平行な面と他の部材との接触面に形成した繊維の方向に直交する方向の埋設穴に埋設して周囲をエポキシ樹脂等の固着材で固着することにより、木質部材に対して強固に付着される。そのめり込み防止部材自体は、必要な強度を有し固着材との付着力が期待できるものであれば、その素材や断面形状などに特に限定されるものではない。例えば、異形鉄筋や、表面にショットブラストを施して粗面にさせた丸鋼や鋼版などが好適である。また、めり込み防止部材の支圧側の端部に関しては、埋設部分のままで端部に何も付設しない形態のものでも、端部に平板などを付設して他の部材との接触面積の増加を図ったものでもよい。
【0008】
図1及び図2は本発明の二つの基本的な実施形態を例示した説明図である。図中1は木質部材、2は木質部材1に接合される他の部材を構成する接合用の媒体を示したものである。図示のように、木質部材1の繊維の方向と平行な面と媒体2との接触面には、木質部材1の繊維の方向に直交する方向に埋設穴3が形成される。図1に示した実施形態は、異形鉄筋からなる棒状軸部aのみによってめり込み防止部材4を構成した場合を示したものである。また、図2に示した実施形態は、異形鉄筋からなる棒状軸部aと、その端部に固着した平板bによってめり込み防止部材5を構成した場合を示したものである。図示のように、それらのめり込み防止部材4,5の棒状軸部aは、周囲がエポキシ樹脂等の固着材6によって埋め尽された状態に前記埋設穴3に埋設し、固着材6の固化により木質部材1に対して強固に固着され、その付着力によって支圧力を負担するように構成されている。以上のように、本実施形態では、それぞれの棒状軸部aを木質部材1の繊維の方向に直交する方向に埋設し、めり込み防止部材4の場合には棒状軸部a自体の端部を介して媒体2に当接させ、まためり込み防止部材5の場合には棒状軸部の端部aに固着した平板bを介して媒体2に当接させることにより、木質部材1としての支圧強度を強化して、媒体2のめり込みを抑えるように構成している。
【実施例】
【0009】
次に、木造の柱梁接合構造に適用した場合の実施例に関して説明する。図3は第1実施例を示した説明図であり、図中7は柱材、8,9は梁材で、共に木質部材から構成される。図示のように、本実施例は、柱材7に埋設したアンカー材10,11と梁材8,9に埋設したアンカー材12〜15とを接合用金具16〜19からなる媒体を介して連結することにより、柱材7と梁材8,9とを接合する柱梁接合構造に対して本発明を適用した場合を例示したものである。本実施例の場合には、図示のように接合用金具16〜19と梁材8,9との接触面が木質の繊維の方向となるため、この部分に接触面に直交する方向の埋設穴20〜23を形成してめり込み防止部材24〜27を埋設することにより、前記接触面の支圧強度を強化することになる。この場合、めり込み防止部材24〜27自体の端部を介して接合用金具16〜19に当接させるようにしてもよいが、めり込み防止部材24〜27の端部に平板を設けてその平板を介して接合用金具16〜19に当接させるようにすれば、より安定的な支圧状態が得られる。さらに、後者のめり込み防止部材24〜27の端部に固着した平板を介して接合用金具16〜19に当接させる場合には、それらの平板と接合用金具16〜19との隙間に埋設穴20〜23に充填した固着材が漏出するようにしたり、予め梁材8,9の表面に接着剤などを施すことにより、両者の密着性を向上して局部的な支圧状態を低減することも可能である。
【0010】
図4は第2実施例を示した説明図であり、図5はその側面説明図である。図示のように、本実施例は、逆T字状の接合用金具28、29を用いた場合を例示したもので、柱材30を貫通した所要本数の通しボルト31により両側の接合用金具28、29を締付け固定し、それらの接合用金具28、29の水平部32,33上に梁材34,35を載置して所要本数の通しボルト36を用いて締付け固定するというものである。本実施例の場合には、梁材34,35の底面が接合用金具28、29の水平部32,33上に載置され、その接触面が木質の繊維の方向となるため、この部分に接触面に直交する方向の埋設穴37,38を形成してめり込み防止部材39,40を埋設することにより、前記接触面の支圧強度を強化したものである。
【0011】
図6は第3実施例を示した説明図である。図示のように、本実施例は、柱材41の両側面に対して梁材42,43の木口面を当接させ、柱材41を貫通して両梁材42,43に跨って挿通された通しボルト44,45によって締付け固定するというものである。本実施例の場合には、柱材41の梁材42,43の木口面が当接した両側の接触面に対して、通しボルト44,45からの締付け力、さらに前記両接触面の下方部には曲げモーメントに基づく圧縮力が作用し、しかもその接触面は木質の繊維の方向となるため、この部分に接触面に直交する方向の埋設穴46〜49を形成してめり込み防止部材50〜53を埋設することにより、前記接触面の支圧強度を強化したものである。図7は第4実施例を示した説明図であり、本実施例は前記第3実施例の変形例を示したものである。すなわち、本実施例の場合には、柱材41を貫通した埋設穴54,55を形成し、それらの埋設穴54,55に対してめり込み防止部材56,57を貫通させた状態に埋設することにより、前記柱材41の両側の接触面の支圧強度を強化したものである。
【0012】
図8は第5実施例を示した説明図である。図示のように、本実施例は、柱材58,59の間に梁材60を通し、その柱材60を貫通して上下の柱材58,59に跨って挿通された通しボルト61,62を用いて締付け固定するというものである。本実施例の場合には、梁材60の上下面に対して柱材58,59の木口面が当接し、それらの接触面には通しボルト61,62からの締付け力と上方からの荷重が作用し、しかもそれらの接触面は木質の繊維の方向となるため、この部分に接触面に直交する方向の埋設穴63〜66を形成してめり込み防止部材67〜70を埋設することにより、前記接触面の支圧強度を強化したものである。
【0013】
図9は第6実施例を示した説明図である。図示のように、本実施例は、柱材71の両側に添え柱72,73を設置し、それらの添え柱72,73の上端部に梁材74,75の端部を載置するというものである。本実施例の場合には、添え柱72,73の上端部に載置される梁材74,75の底面に荷重が作用するとともに、それらの接触面は木質の繊維の方向となるため、この部分に接触面に直交する方向の埋設穴76,77を形成してめり込み防止部材78,79を埋設することにより、前記接触面の支圧強度を強化したものである。
【0014】
なお、以上の実施例では、柱材の両側に梁材を接合する場合に関して説明したが、柱材の片側に梁材を接合する場合にも本発明を適用し得ることはいうまでもない。また、以上の接合構造に限定されるものではなく、種々の形態の木造接合構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の基本的な実施形態を例示した説明図である。
【図2】本発明の基本的な実施形態を例示した説明図である。
【図3】本発明の第1実施例を示した説明図である。
【図4】本発明の第2実施例を示した説明図である。
【図5】同第2実施例の側面説明図である。
【図6】本発明の第3実施例を示した説明図である。
【図7】本発明の第4実施例を示した説明図である。
【図8】本発明の第5実施例を示した説明図である。
【図9】本発明の第6実施例を示した説明図である。
【図10】従来の柱梁接合構造を示した説明図である。
【図11】従来の柱梁接合構造の挙動を示した説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1…木質部材、2…媒体、3…埋設穴、4,5…めり込み防止部材、6…固着材、7…柱材、8,9…梁材、10〜15…アンカー材、16〜19…接合用金具、20〜23…埋設穴、24〜27…めり込み防止部材、28,29…接合用金具、30…柱材、31…通しボルト、32,33…水平部、34,35…梁材、36…通しボルト、37,38…埋設穴、39,40…めり込み防止部材、41…柱材、42,43…梁材、44,45…通しボルト、46〜49…埋設穴、50〜53…めり込み防止部材、54,55…埋設穴、56,57…めり込み防止部材、58,59…柱材、60…梁材、61,62…通しボルト、63〜66…埋設穴、67〜70…めり込み防止部材、71…柱材、72,73…添え柱、74,75…梁材、76,77…埋設穴、78,79…めり込み防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が木質部材からなる接合構造において、前記木質部材の他の部材との接触面に繊維の方向と直交する埋設穴を形成するとともに、該埋設穴にめり込み防止部材を埋設してエポキシ樹脂等の固着材で周囲を固着し、そのめり込み防止部材の端部と前記他の部材との当接により前記木質部材の支圧強度を強化して、木質部材に対する他の部材のめり込みを抑えるように構成したことを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項2】
前記めり込み防止部材を棒状軸部と該棒状軸部の端部に設けた平板とから構成したことを特徴とする請求項1に記載の木質部材の接合構造。
【請求項3】
前記めり込み防止部材を3個以上設置し、それらの3個以上のめり込み防止部材の端部により規定される平面によって前記木質部材の支圧面を保持するように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の木質部材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−202252(P2008−202252A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37148(P2007−37148)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(505241751)
【出願人】(505242611)秋田グルーラム株式会社 (4)
【出願人】(505242932)
【Fターム(参考)】